説明

セラミド産生促進剤、保湿剤及び皮膚外用剤

【課題】セラミド産生促進剤、保湿剤及び皮膚外用剤の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有するセラミド産生促進剤、保湿剤及び皮膚外用剤。


(式中、R〜Rは、それぞれ独立に水素、ヒドロキシル基又はアシルオキシ基を表す。Rはヒドロキシル基又はアシルオキシ基を表す。Rがヒドロキシル基の場合、Rは水素を表し、XはC=Oを表す。Rがアシルオキシ基の場合、Rは水素、ヒドロキシル基又はアルコキシ基を表し、XはC=O、又はCRを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミド産生促進剤、保湿剤及び皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴ脂質の一つであるセラミドは、生体全体の中では微量な脂質であるが、皮膚の最も外側の層である角層中では、脂質の半分以上を占め、皮膚の保湿機構、バリア機構に重要な役割を果たしている。このセラミドは表皮細胞中において産生、分泌された後に角層中の細胞間においてラメラ構造を構築することにより機能する。しかし、乾燥肌、荒れ肌、アトピー性皮膚炎、老人性乾皮症、乾癬等の皮膚疾患においては、セラミドの健全な代謝が妨げられ、角層中のセラミド量が減少し、皮膚の保湿能やバリア能の低下等を引き起こしていることが数多く報告されている。
【0003】
また、セラミドには、骨吸収抑制作用、骨強化作用、歯槽骨減少抑制作用があり、骨粗鬆症、骨折、腰痛、リウマチなどの骨関節疾患の予防及び改善に有用であること、歯周病の予防に効果があることが報告されている(特許文献1参照)。さらに、セラミドには、毛髪のハリ、コシの付与及び感触改善作用があることも報告されている(特許文献2参照)。そのため、セラミド産生促進物質には斯かる疾患に対する治療効果も期待できる。
このような皮膚疾患、骨形成の促進、及び毛髪のハリ、コシの向上に関して、減少したセラミドを外部から補給する方法が試みられているが、現在のところ必ずしもその効果は十分なものではない。
【0004】
【特許文献1】特開2001−158735号公報
【特許文献2】特開平10−152421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高いセラミド産生促進効果を有するセラミド産生促進剤を提供することを課題とする。また、本発明は、セラミド産生を促進する作用に優れた保湿剤及び皮膚外用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記課題に鑑み、セラミド産生促進作用を有する新規素材を探求すべく鋭意検討を行った。その結果、下記一般式(1)で表される化合物が高いセラミド産生促進作用を有することを見い出し、該化合物が新規の保湿成分として有用であるとの知見を得た。本発明はこの知見に基づいて成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有するセラミド産生促進剤に関する。
【0008】
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜12のアシルオキシ基を表す。Rはヒドロキシル基又は炭素数1〜12のアシルオキシ基を表す。
がヒドロキシル基の場合、Rは水素原子を表し、XはC=Oを表す。
が炭素数1〜12のアシルオキシ基の場合、Rは水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を表し、XはC=O、又はCRを表す。R及びRは、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜5のアルコキシ基を表す。R及びRは互いに結合して、R及びRが結合している炭素原子とともに−O−を含有する環状エーテル構造を形成してもよい。)
【0009】
また、本発明は、前記一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有する保湿剤に関する。
さらに、本発明は、前記一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有する皮膚外用剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セラミド産生促進剤を提供することができる。また、本発明によれば、セラミド産生促進作用に優れた保湿剤及び皮膚外用剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のセラミド産生促進剤、保湿剤及び皮膚外用剤は、下記一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有する。後述の実施例で実証されているように、この化合物は高いセラミド産生促進作用を有する。
【0012】
【化2】

【0013】
一般式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜12のアシルオキシ基を表す。Rはヒドロキシル基又は炭素数1〜12のアシルオキシ基を表す。
がヒドロキシル基の場合、Rは水素原子を表し、XはC=Oを表す。
が炭素数1〜12のアシルオキシ基の場合、Rは水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を表し、XはC=O、又はCRを表す。R及びRは、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜5のアルコキシ基を表す。R及びRは互いに結合して、R及びRが結合している炭素原子とともに−O−を含有する環状エーテル構造を形成してもよい。
【0014】
〜Rにおいて、炭素数1〜12のアシルオキシ基としては、ホルミルオキシ基、炭素数2〜12の置換又は無置換の脂肪族アシルオキシ基、炭素数6〜12の置換又は無置換の芳香族アシルオキシ基が挙げられる。脂肪族アシルオキシ基としては、直鎖、分岐又は環状のアルキルカルボニルオキシ基、直鎖、分岐又は環状のアルケニルカルボニルオキシ基、直鎖、分岐又は環状のアルキニルカルボニルオキシ基が挙げられる。アルキルカルボニルオキシ基の例として、メチルカルボニルオキシ基(アセトキシ基)、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基、イソブチルカルボニルオキシ基、sec-ブチルカルボニルオキシ基、tert-ブチルカルボニルオキシ基、n−ペンチルカルボニルオキシ基、イソペンチルカルボニルオキシ基などが挙げられる。芳香族アシルオキシ基の例として、ベンゾイルオキシ基、ナフトイルオキシ基などが挙げられる。
【0015】
〜Rにおいて、炭素数1〜5のアルコキシ基としては、直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基が挙げられ、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロプロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基などが挙げられる。
【0016】
として、好ましくはヒドロキシル基、炭素数1〜12のアシルオキシ基であり、より好ましくはヒドロキシル基、炭素数2〜5のアシルオキシ基であり、特に好ましくはヒドロキシル基、アセトキシ基である。
として、好ましくは水素原子、炭素数1〜12のアシルオキシ基であり、より好ましくは水素原子、炭素数2〜5のアシルオキシ基であり、特に好ましくは水素原子、アセトキシ基である。
として、好ましくは炭素数1〜12のアシルオキシ基であり、より好ましくは炭素数2〜5のアシルオキシ基であり、特に好ましくはアセトキシ基である。
として、好ましくはヒドロキシル基、炭素数1〜12のアシルオキシ基であり、より好ましくはヒドロキシル基、炭素数1〜12のアルキルカルボニルオキシ基であり、さらに好ましくはヒドロキシル基、炭素数2〜5のアルキルカルボニルオキシ基であり、特に好ましくはヒドロキシル基、アセトキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、sec-ブチルカルボニルオキシ基である。
が炭素数1〜12のアシルオキシ基の場合、R及びRが互いに結合して、R及びRが結合している炭素原子とともに−O−を含有する環状エーテル構造を形成することが好ましい。
〜Rの好ましい組合せとしては、R及びRがアセトキシ基、Rが水素原子又はアセトキシ基、Rが炭素数2〜5のアルキルカルボニルオキシ基、R及びRが互いに結合して、R及びRが結合している炭素原子とともに−O−を含有する環状エーテル構造を形成し、Rが水素原子である組合せ、R及びRがヒドロキシル基であり、R及びRが水素原子又はアセトキシ基である組合せが挙げられる。
【0017】
本発明において、一般式(1)で表される化合物には、その塩が包含される。塩としては特に限定されないが、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、トリメチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン塩及び4級アンモニウム塩、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアルカノールアミン塩、又はリジン、ヒスチジン、アルギニン等のアミノ酸塩などが挙げられる。また、本発明においては、一般式(1)で表される化合物が互変異性をとりうる場合、その互変異性体も包含される。
【0018】
以下に一般式(1)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、下記の例示化合物(a)〜(e)においてAcはアセチル基を表す。
【0019】
【化3】

【0020】
本発明に用いる前記一般式(1)で表される化合物の製造方法としては、特に限定されず、化学合成したものを用いてもよく、天然物由来の材料から抽出や精製等したものであってもよい。また、試薬として市販されているものを用いることもできる。
化学合成による製造方法としては、例えば、化合物トウセンダニンを出発物質として用い、当該トウセンダニンの水酸基を一般的なアシル化方法によりアシル化することで得ることができる(参考文献:第5版実験化学講座16 p42等)。なお、化合物トウセンダニンは、AvaChem社等から試薬として入手することができる。
【0021】
天然物由来の材料から前記一般式(1)で表される化合物を得る方法としては、例えば、トウセンダン(学名:Melia toosendan Sieb. et Zucc.)、センダン(学名:Melia azedarach)等の植物から単離することができる。
これらの植物は、その全ての任意の部分(上記植物の全木、全草、根、根茎、幹、枝、茎、葉、樹皮、樹液、樹脂、花、果実、種子等)が使用可能である。特に、トウセンダンから単離する場合は、果実、樹皮を用いることが好ましい。また、トウセンダンの果実を基原植物として得られた生薬、川楝子(センレンシ)や、樹皮を基原植物として得られた生薬、苦楝皮(クレンピ)を用いることもできる。センダンから単離する場合は、その樹皮を用いることが好ましい。また、センダンの樹皮を基原植物として得られた生薬、苦楝皮(クレンピ)を用いることもできる。
また、これらの各植物又は各部位を適宜組み合わせて用い、前記一般式(1)で表される化合物を単離することもできる。
【0022】
これらの植物から、前記一般式(1)で表される化合物を単離する方法としては、特に限定されないが、例えば、上述した植物を適当な溶媒を用いて抽出し、得られた植物抽出物からクロマトグラフィー等の手法により一般式(1)で表される化合物を単離する方法が挙げられる。
植物抽出物の調製には、上記植物をそのまま用いてもよく、乾燥粉砕して用いることもできる。抽出に用いる溶媒としては、通常植物成分の抽出に用いられるもの、例えば水、石油エーテル、n−ヘキサン、トルエン、クロロホルム、エーテル、酢酸エチル、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール及びこれらの混合溶液等を用いることができる。また抽出条件も通常の条件を適用でき、例えば上記植物を5〜80℃で2時間〜60日間浸漬又は加熱還流すればよい。
具体的な抽出、単離法としては、後述の実施例で示す方法を用いることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
前記一般式(1)で表される化合物は、優れたセラミド産生促進作用を有する。セラミドは皮膚の保湿機構やバリア機構の維持・調整に重要な物質であり、セラミド産生の促進は、生体の有するセラミド産生機構を健常化し、減少した角層中のセラミドを増加させ、高いバリア機能及び保湿機能を有する皮膚を取り戻すことにつながる。また、毛髪のはり・こしの向上や骨形成の促進等にも有用である。
したがって、前記一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有させることで、セラミド産生促進剤及び保湿剤を得ることができる。前記一般式(1)で表される化合物がセラミド産生促進作用を有することは従来全く知られておらず、本発明者等により得られた新しい知見である。
【0024】
本発明のセラミド産生促進剤及び保湿剤は、前記一般式(1)で表される化合物をそのまま用いてもよい。また、前記一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有させ、その効果に影響を与えない範囲で添加剤や他の薬効成分等を加えてもよい。例えば、酸化チタン、炭酸カルシウム、蒸留水、乳糖、デンプン等の適当な液体または固体の賦形剤または増量剤を加えてセラミド産生促進剤とすることができる。また、前記一般式(1)で表される化合物に、既知のセラミド産生促進剤、擬似セラミド、天然セラミド、糖セラミド等を併せて添加して保湿剤とすることができる。保湿剤以外の薬効成分として、皮膚老化防止剤、美白剤等を併せて添加してもよい。
【0025】
前記一般式(1)で表される化合物と併用しうるセラミド産生促進剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、アセチルヒドロキシプロリン、グリチルリチン酸カリウム、L-カルニチン、アスコルビン酸、アスコルビルグルコシド、アスコルビルリン酸マグネシウム、dl-α-トコフェリル-dl-アスコルビルリン酸、dl-α-トコフェリルリン酸、ニコチン酸アミド、ニコチン酸トコフェロール、L-乳酸、ビタミンC、アスパラガス抽出物、ブッチャーブルーム、ゲンクワニン、ローズマリー、ラベンダー、セージ、ナツメ、黒(赤)霊芝、トウキ、クジン、ヨクイニン、ベニセアンヌ抽出物、ライスパワーエキスなどが挙げられる。
また、擬似セラミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、市販のセラミドR(ユニリーバ製)、セラミドPC-104(太平洋化学製)、セラミドHO3(sederma製)、エルデュウPS-203(味の素製)などが挙げられる。
また、糖セラミドとしては、特に限定されるものではないが、グルコシルセラミド、ガラクトシルセラミド等が挙げられ、市販のものとしては、ニップンセラミド(日本製粉製)、オリザセラミド(オリザ油化製)、ニッサンセラミド、ネオリキッドセラミドN(日本油脂製)、セラミド(ユニチカ製)等が挙げられる。
【0026】
前記一般式(1)で表される化合物は低濃度でセラミド産生促進効果を発現することができる。本発明のセラミド産生促進剤又は保湿剤中に含まれる前記一般式(1)で表される化合物の量は特に制限されないが、前記一般式(1)で表される化合物が0.00000001〜10質量%含まれるのが好ましく、0.0000001〜0.1質量%程度含まれるのが特に好ましい。
【0027】
本発明の剤は、液状、固形状、乳液状、ペースト状、ゲル状、パウダー状(粉末状)、顆粒状、ペレット状、スティック状等の各種剤型をとることができ、人や動物の皮膚、爪、粘膜、毛髪等に適用されうるすべての形態を含む。
【0028】
本発明のセラミド産生促進剤及び保湿剤は、化粧料、医薬品、医薬部外品、食品等の用途に適用することができる。
化粧料、医薬品、医薬部外品等に用いる場合、本発明の剤を、例えば皮膚外用剤の形態で用いることができる。皮膚外用剤には、前記一般式(1)で表される化合物に加えて、上述した各種添加剤やその他の薬効成分を適宜加えることができ、さらには取りうる剤型に応じて皮膚外用剤に通常用いられる各種成分を配合することができる。皮膚外用剤の剤型として、具体的には、クリーム、美容液、化粧水、乳液、ローション、マッサージ剤、ファンデーション、口紅、入浴剤、シャンプー、ヘアコンディショナー、ヘアトニック、錠剤、カプセル、ゲル、軟膏、ペースト、パック、マッサージ剤、ファンデーション、口紅、入浴剤、シャンプー、ヘアコンディショナー、シート状製品等、外用適用可能な種々の剤型が挙げられ、これらの剤型とするにあたって、例えば、各種油剤、界面活性剤、ゲル化剤、防腐剤、酸化防止剤、溶剤、アルコール、水、キレート剤、増粘剤、紫外線吸収剤、乳化安定剤、pH調整剤、色素、香料等を配合することができる。
皮膚外用剤中に含まれる前記一般式(1)で表される化合物の量は、前述したセラミド産生促進剤及び保湿剤中における前記一般式(1)で表される化合物の量と同様である。
【0029】
食品用途に用いる場合、一般飲食品の他、皮膚の保湿能又はバリア機能の改善・維持効果をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した健康飲食品、美容飲食品、特定保健用飲食品、病者用飲食品等に添加、配合することができる。
食品の形態としては特に制限はなく、例えば、果汁飲料、乳飲料、茶系飲料等の飲料類、キャンディ、ドロップ、ゼリー、クッキー、チョコレート、ケーキ、ヨーグルト、ガム等の菓子類、調味料、調理油、乳製品、パン類、麺類、加工米等が挙げられる。また、錠剤(タブレット)、カプセル、顆粒、シロップ等の美容食品、健康食品等としてもよい。
これらの飲料又は食品は、例えば、甘味剤、着色剤、抗酸化剤、ビタミン類、香料、ミネラル等の添加剤、タンパク質、脂質、糖質、炭水化物、食物繊維等の食品原料を適宜組み合わせて用い、これに前記一般式(1)で表される化合物を含有させ、常法に従って各種の食品形態とすることにより調製することができる。
【0030】
本発明のセラミド産生促進剤又は保湿剤を、化粧料、医薬品、医薬部外品、食品等として使用する場合の使用又は摂取量は、その形態、摂取者の年齢、性別等の条件により適宜選択されうる。通常、前記一般式(1)で表される化合物を、成人1人当たり1日に0.1ng〜1g使用又は摂取することが好ましく、1ng〜1mg摂取又は使用することが特に好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
製造例1:例示化合物(a)
トウセンダニン(Toosendanin、AvaChem社製)10mgを、無水酢酸/ピリジン(1/3)の混合溶媒200mLに溶かし、19時間撹拌した。その後濃縮し、酢酸エチル‐0.1N HCl水溶液で分液した後、さらに酢酸エチル層を水で洗浄、濃縮した。得られた濃縮残渣をHPLCを用いて精製し、例示化合物(a)(センダニン(sendanin))を3.9mg(収率36%)得た。
得られた化合物の同定はNMRにより行った。NMRによる構造解析の結果を表1に示す。なお、表1中、Acはアセチル基を表す。
【0033】
【表1】

【0034】
製造例2〜4:例示化合物(b)〜(d)
クレンピ(新和物産株式会社より購入)80gをメタノール800mLで抽出し、溶媒を濃縮したところ、抽出固形分3.2gを得た。得られた抽出固形分を、酢酸エチル−水で液々分配を行ったところ、酢酸エチル層1g(収率31%)を得た。酢酸エチル層についてシリカゲルカラムにより分画を行い、画分(1)41mg(収率1.28%)、画分(2)45mg(収率1.4%)を得た。さらにこれらの画分をHPLCで分画したところ、画分(1)からは画分(3)0.3mg(収率0.01%)及び画分(4)0.31mg(収率0.01%)が得られ、画分(2)からは画分(5)0.17mg(収率0.005%)がそれぞれ得られた。
これらの画分(3)、(4)及び(5)についてNMRによる構造解析を行い、画分(3)は例示化合物(b)(12-O-acetyl azedarachin B)、画分(4)は例示化合物(c)(12-O-acetyl trichilin B)、画分(5)は例示化合物(d)(Trichilin H)であると同定した。NMRによる構造解析の結果を表2〜4に示す。なお、表2〜4中、Acはアセチル基、Meはメチル基を表す。
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
製造例5:例示化合物(e)
トウセンダンの果実(センレンシ、新和物産株式会社より購入)870gを、8.7Lの50%エタノールで20〜35℃、7日間抽出し、溶媒を濃縮したところ、抽出固形分129gが得られた。得られた抽出固形分を、後述する試験例の手法によるセラミド産生促進活性を指標に分画を行なった。水と酢酸エチルを用いて液々分配を行なったところ、酢酸エチル層15.1g(収率11.7%)に活性が集約した。酢酸エチル層をさらにシリカゲルカラムにより分画を行なったところ、画分(1)7.30g(収率5.65%)得た。さらにこの画分を、シリカゲルカラムを用いて分画を行い、画分(2)838mg(収率0.64%)が得られた。この内500mgをHPLCにて分画し、画分(3)55mg(収率0.072%)を得た。このうち50mgをさらにHPLCにて分画し、画分(4)10.2mg(収率0.014%)を得た。このうち7mgをさらにHPLCにて精製し、画分(5)2.1mg(収率0.004%)を得た。この画分(5)を、NMRを用いて構造解析を行った。
その結果、トウセンダンから単離された活性成分は下記表5に示す構造を有する化合物であり、この化合物は例示化合物(e)(12−ヒドロキシアムーラスタトン(12-hydroxyamoorastatone))であると同定した。なお、比較文献値にPhytochemstry(1994), 36(6), 1493-1496.を用いた。NMRによる構造解析の結果を表5に示す。なお、表5中のAcはアセチル基を表す。
【0039】
【表5】

【0040】
比較用化合物1の製造
トウセンダニン(Toosendanin、AvaChem社製)10mgを、無水酢酸/ピリジン(1/3)の混合溶媒200mLに溶かし、19時間撹拌した。その後濃縮し、酢酸エチル‐0.1N HCl水溶液で分液した後、さらに酢酸エチル層を水で洗浄、濃縮した。得られた濃縮残渣をHPLCを用いて精製し、比較用化合物1(7-acetyl sendanin)を1mg(収率9%)得た。
得られた化合物の同定はNMRにより行った。NMRによる構造解析の結果を表6に示す。なお、表6中、Acはアセチル基を表す。
【0041】
【表6】

【0042】
比較用化合物2の製造
トウセンダニン(Toosendanin、AvaChem社製)20mgをメタノール400mLに溶解し、10%水酸化カリウム水溶液を40mL加えて2時間撹拌した。その後少量の酢酸を加えてクエンチ(quench)後エバポレーションによってメタノールを飛ばし、酢酸エチルで分液を行った。得られた酢酸エチル層を濃縮し、濃縮残渣を15.5mg得た。この残渣をUltraPackカラム(山善製)を用いて精製を行い、比較用化合物2(deacylated toosendanin)を9.9mg(収率58%)得た。
得られた化合物の同定はNMRにより行った。NMRによる構造解析の結果を表7に示す。
【0043】
【表7】

【0044】
(試験例)セラミド産生促進効果の検証
培養プレートを用い、培養液(商品名:EpiLife-KG2、KURABO社製)中にて、正常ヒト表皮角化細胞(商品名:NHEK(F)、KURABO社製)を37℃、5%CO2で培養した。
その後、培養液を上皮成長因子などの増殖因子を除いたEpiLife-KG2に換え、評価サンプルとして、
製造例1〜5で製造した例示化合物(a)〜(e)
比較用化合物1、2
50%エタノール(コントロール溶液)
のいずれかを0.01%量添加し、表8に示す各濃度となるようにした。
3日間培養した後、各々の細胞を1wellごと回収した。
【0045】
回収した細胞からBligh and Dyer法により脂質を抽出した有機相をガラス管に移し、窒素乾固した後、クロロホルム、メタノールで再溶解し、脂質サンプルとした。
また、脂質を抽出した後の細胞に0.1N NaOH、1%SDS水溶液を加え、60℃で2時間加熱することにより、タンパク質を可溶化し、室温まで冷却した後2N HClを加えて中和し、タンパク量をBCA法により定量した。
【0046】
調製した脂質サンプルを薄膜クロマトグラフィー(TLC)でクロロホルム:メタノール:酢酸=190:9:1で2回水平展開した。硫酸銅液をスプレーで噴霧し、ホットプレートで焼き付けセラミドを検出し、セラミド量とした。
結果を表8に示す。なお、表8に示すセラミド量は、コントロール溶液添加群を1とした場合の相対値を示している。
【0047】
(参考例)
1.ユーカリ抽出物の調製
ユーカリノキ(Eucalyptus globulus Labillardiere:新和物産株式会社より購入)の葉40gを細切し、50%エタノール400mLを加え、室温・静置条件下で7日間抽出を行った。その後、濾過して、ユーカリ抽出物291mLを得た。得られた抽出物について、下記の方法で蒸発残分を算出したところ、蒸発残分は3.16%(w/v)であった。
【0048】
2.セラミド産生促進効果の検証
得られたユーカリ抽出物を用いて、上記試験例と同様の手法によってセラミド産生促進効果を検証した。なお、細胞への添加は、濃度が固形分換算で1%(w/v)となるように調整した抽出物を、0.001%添加した。
結果を表8に示す。なお、ユーカリ抽出物はセラミド産生促進作用を有する保湿成分として公知のものである。
【0049】
【表8】

【0050】
表8から明らかなように、例示化合物(a)〜(e)を添加した系ではコントロールの系に比べてセラミド産出量の上昇が認められた。一方、前記一般式(1)で表される化合物に含まれない比較用化合物1及び2では、セラミド産出量の上昇は認められなかった。これらの結果から、本発明の前記一般式(1)で表される化合物は、優れたセラミド産生促進作用を有し、セラミド産生促進剤として有用であることがわかった。さらに、前記一般式(1)で表される化合物は、公知の保湿成分であるユーカリ抽出物(参考例)と同等或いはそれ以上のセラミド産生促進作用を有することから、保湿剤として有用であることがわかった。
【0051】
(処方例)
前記一般式(1)で表される化合物を有効成分として、下記に示す組成の化粧水、0/W(オイルインウォーター)型乳液、W/O(ウォーターインオイル)型クリーム、サンスクリーン剤、ジェル状化粧料、液体入浴剤、錠剤形態の食品、ヘアローション、及びヘアトリートメントを常法により各々調製した。
【0052】
1.化粧水の調製
(組成) (配合:質量%)
例示化合物(a) 0.000005
ポリエチレングリコール(商品名:PEG−1540、三洋化成社製) 1.00
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル 1.50
グリセリン 2.00
パラべン 0.10
精製水 残余
【0053】
2.0/W型乳液の調製
(組成) (配合:質量%)
例示化合物(b) 0.001
ポリエチレングリコール(商品名:PEG−2000、三洋化成社製) 1.00
プルラン(商品名:プルランPT−20、林原社製) 0.40
セチルアルコール 1.00
ワセリン 2.00
スクワラン 6.00
ジメチルポリシロキサン 2.00
グリセリン 2.00
擬似セラミド(N−(3−ヘキサデシロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−N−2−ヒドロキシエチルヘキサデカミナド) 1.00
ポリオキシエチレン(10)モノオレイン酸エステル 1.00
グリセロールモノステアリン酸エステル 1.00
植物のカルス由来の酸性へテロ多糖類(チュベロース多糖1重量%水溶液)2.00
パラべン 0.20
精製水 残余
【0054】
3.W/O型クリームの調製
(組成) (配合:質量%)
例示化合物(c) 1.00
アクリル酸アルキル共重合体(商品名:ヨドゾールGH810、カネボウNSC社製)
1.30
ポリビニルピロリドン(商品名:ルビスコールK−90、BASEジャパン社製)
0.70
ジメチルポリシロキサン 10.00
メチルフェニルポリシロキサン 3.00
オクタメチルシクロテトラシロキサン 12.00
ポリオキシアルキレン変性シリコーン 5.00
1,3-ブチレングリコール 6.00
擬似セラミド(N−(3−ヘキサデシロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−N−2−ヒドロキシエチルヘキサデカミナド) 1.20
パラべン 0.20
香料 微量
精製水 残余
【0055】
4.サンスクリーン剤の調製
(組成) (配合:質量%)
例示化合物(d) 0.002
アクリル酸アルキル共重合体(商品名:ヨドゾールGH810、カネボウNSC社製)
1.00
ポリエチレングリコール(商品名:PEG−4000S、三洋化成社製) 1.00
パラメトキシ桂皮酸オクチル 5.00
シリコン被覆酸化亜鉛 6.00
シリコン被覆酸化チタン 0.50
ジメチルポリシロキサン 5.00
オクタメチルシクロテトラシロキサン 20.00
ポリオキシアルキレン変性シリコーン 3.00
エタノール 3.00
グリセリン 3.00
硫酸マグネシウム 1.00
パラべン 0.20
香料 微量
精製水 残余
【0056】
5.ジェル状化粧料の調製
(組成) (配合:質量%)
例示化合物(e) 0.50
ポリエチレングリコール(商品名:PEG−2000、三洋化成社製) 0.50
キサンタンガム(商品名:ネオソフトXKK、興人社製) 0.20
グリセリン 3.00
エタノール 3.00
カルボキシビニルポリマー 0.50
水酸化カリウム 0.15
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 1.00
クエン酸 0.80
クエン酸三ナトリウム 0.80
ナイロンパウダー 1.00
パラべン 0.10
香料 微量
精製水 残余
【0057】
6.液体入浴剤の調製
(組成) (配合:質量%)
例示化合物(a) 0.000001
擬似セラミド(N−(3−ヘキサデシロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−N−2−ヒドロキシエチルヘキサデカミナド) 0.10
ミリスチン酸イソプロピル 15.00
ポリオキシエチレン(12)オレイルエーテル 10.00
ポリオキシエチレン(6)オレイルエーテル 6.00
植物のカルス由来の酸性へテロ多糖類(チュベロース多糖1重量%水溶液)2.00
パラべン 0.30
香料 微量
流動パラフィン 残余
【0058】
7.食品の調製
各材料を下記の組成に従い混合し、錠剤に成型した。
(組成) (配合:質量%)
例示化合物(b) 0.5
結晶セルロース 89.0
乳清カルシウム 残余
【0059】
8.ヘアローションの調製
各材料を下記の組成に従い混合し、常法により製造した。
(組成) (配合:質量%)
例示化合物(c) 0.00001
エタノール 60.0
プロピレングリコール 2.0
メチルパラベン 0.1
香料 2.0
精製水 残余
【0060】
9.ヘアトリートメントの調製
各材料を下記の組成に従い混合し、常法により製造した。
(組成) (配合:質量%)
例示化合物(d) 0.01
セチルステアリルアルコール 5.0
グリシン 1.0
メチルパラベン 0.1
香料 0.5
精製水 残余

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有するセラミド産生促進剤。
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜12のアシルオキシ基を表す。Rはヒドロキシル基又は炭素数1〜12のアシルオキシ基を表す。
がヒドロキシル基の場合、Rは水素原子を表し、XはC=Oを表す。
が炭素数1〜12のアシルオキシ基の場合、Rは水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を表し、XはC=O、又はCRを表す。R及びRは、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜5のアルコキシ基を表す。R及びRは互いに結合して、R及びRが結合している炭素原子とともに−O−を含有する環状エーテル構造を形成してもよい。)
【請求項2】
下記一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有する保湿剤。
【化2】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜12のアシルオキシ基を表す。Rはヒドロキシル基又は炭素数1〜12のアシルオキシ基を表す。
がヒドロキシル基の場合、Rは水素原子を表し、XはC=Oを表す。
が炭素数1〜12のアシルオキシ基の場合、Rは水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を表し、XはC=O、又はCRを表す。R及びRは、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜5のアルコキシ基を表す。R及びRは互いに結合して、R及びRが結合している炭素原子とともに−O−を含有する環状エーテル構造を形成してもよい。)
【請求項3】
下記一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有する皮膚外用剤。
【化3】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜12のアシルオキシ基を表す。Rはヒドロキシル基又は炭素数1〜12のアシルオキシ基を表す。
がヒドロキシル基の場合、Rは水素原子を表し、XはC=Oを表す。
が炭素数1〜12のアシルオキシ基の場合、Rは水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を表し、XはC=O、又はCRを表す。R及びRは、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜5のアルコキシ基を表す。R及びRは互いに結合して、R及びRが結合している炭素原子とともに−O−を含有する環状エーテル構造を形成してもよい。)

【公開番号】特開2012−167023(P2012−167023A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26572(P2011−26572)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】