説明

セリア−ジルコニア系複合酸化物及びその製造方法、並びにそのセリア−ジルコニア系複合酸化物を用いた排ガス浄化用触媒

【課題】 耐熱性がより十分に高く、長時間高温に晒された後においてもより十分に優れた酸素貯蔵能を発揮することが可能なセリア−ジルコニア系複合酸化物を提供すること。
【解決手段】 セリア及びジルコニアの複合酸化物を含むセリア−ジルコニア系複合酸化物であって、前記複合酸化物におけるセリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で43:57〜48:52の範囲にあり、且つ、
大気中、1100℃の温度条件で5時間加熱後のX線回折測定により得られるCuKαを用いたX線回折パターンから求められる2θ=14.5°の回折線と2θ=29°の回折線との強度比{I(14/29)値}及び2θ=28.5°の回折線と2θ=29°の回折線との強度比{I(28/29)値}がそれぞれ以下の条件:
I(14/29)値≧0.015
I(28/29)値≦0.08
を満たすものであることを特徴とするセリア−ジルコニア系複合酸化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリア−ジルコニア系複合酸化物及びその製造方法、並びにそのセリア−ジルコニア系複合酸化物を用いた排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な金属酸化物を含有する複合酸化物が排ガス浄化用触媒用の担体や助触媒等として利用されてきた。このような複合酸化物中の金属酸化物としては、雰囲気中の酸素分圧に応じて酸素を吸放出可能である(酸素貯蔵能を持つ)ためセリアが好適に用いられてきた。そして、近年では、セリアを含有する様々な種類の複合酸化物が研究されており、種々のセリア−ジルコニア系複合酸化物及びその製造方法が開示されている。
【0003】
例えば、特開平8−109020号公報(特許文献1)においては、酸化セリウム、酸化ジルコニウム及び酸化ハフニウムを含有する複合酸化物であって、酸化セリウムを4.99〜98.99質量%、酸化ジルコニウムを1〜95質量%及び酸化ハフニウムを0.01〜20質量%含有し、結晶相としてφ’相を含有する複合酸化物が開示されている。そして、特許文献1に記載の複合酸化物の製造方法としては、酸化セリウム、酸化ジルコニウム及び酸化ハフニウムを含む第1次複合酸化物を600〜1000℃で0.5〜10時間還元処理を施し、次いで加熱酸化処理する方法が開示されている。
【0004】
また、特開平8−109021号公報(特許文献2)には、酸化セリウム、酸化ジルコニウム及び酸化ハフニウムを含有する複合酸化物であって、酸化セリウムを4.99〜98.89質量%、酸化ジルコニウムを1〜95質量%及び酸化ハフニウムを0.01〜20質量%含有し、更に酸化チタン、酸化タングステン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、セリウム以外の希土類金属酸化物又はこれらの混合物を0.1〜10質量%含み、結晶相としてφ相を含有する複合酸化物が開示されている。そして、特許文献2に記載の複合酸化物の製造方法としては、酸化セリウム、酸化ジルコニウム及び酸化ハフニウムに、酸化チタン、酸化タングステン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、セリウム以外の希土類金属の酸化物又はこれらの混合物を混合し、加圧成形した後、700〜1500℃(好ましくは900〜1300℃)で焼成してφ相を生成させる方法が開示されている。
【0005】
さらに、特開平8−103650号公報(特許文献3)においては、酸化セリウム、酸化ジルコニウム及び酸化ハフニウムを必須成分として含有する複合酸化物を加熱還元処理し、次いで加熱酸化処理することを特徴とする複合酸化物の製造方法が開示されており、前記加熱還元処理としては、還元気体雰囲気中で、600〜1000℃、0.5〜10時間加熱する方法が好適な方法として開示されている。
【0006】
また、国際公開第2006/030763号公報(特許文献4)においては、酸化セリウムを含むセリウム原料と、酸化ジルコニウムを含むジルコニウム原料とを所定の割合で混合して得られる原料混合物を、融点以上の温度下で熔融させた後に、得られた熔融物を冷却してインゴットを形成し、次いで、該インゴットを粉砕して粉体とし、所望に応じて加熱下で粉体結晶内の歪みを除去した後、さらに微細に粉砕することを特徴とするセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造方法が開示されている。
【0007】
さらに、佐々木巌氏の2004年の学位論文「Ce/Zr比を変化させたセリアジルコニア系化合物の酸素吸放出特性と結晶構造に関する研究」(非特許文献1)の150〜170頁の記載、並びに、日本金属学会2006年春期大会講演予稿集(非特許文献2)の140頁に記載された「セリア−ジルコニア固溶体の規則配列性に着目した材料設計と結晶構造解析」においては、共沈法により得られたセリア−ジルコニア複合酸化物を1673K(1400℃)で還元処理して得られたセリア−ジルコニア複合酸化物が開示されている。
【0008】
しかしながら、前記特許文献1〜4及び非特許文献1〜2に記載のような製造方法を採用して得られたセリア−ジルコニア系複合酸化物は、高温の酸化雰囲気における耐久性を高めることを目的として製造されておらず、耐熱性が必ずしも十分なものではなかった。そのため、このような従来のセリア−ジルコニア系複合酸化物は、高温に長時間晒された際の酸素貯蔵能が必ずしも十分なものとはならなかった。
【0009】
さらに、特開2009−84061号公報(特許文献5)には、大気中、1000℃の温度条件で5時間加熱後にパイロクロア相型の規則配列相が50%以上残存しているセリア−ジルコニア系複合酸化物が開示されており、係るセリア−ジルコニア系複合酸化物は、セリアとジルコニアの含有比率がモル比([セリア]:[ジルコニア])で55:45〜49:51の範囲にあるセリア及びジルコニアの複合酸化物粉末を、1500℃以上1900℃以下の温度条件で還元処理した後に酸化処理することにより得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−109020号公報
【特許文献2】特開平8−109021号公報
【特許文献3】特開平8−103650号公報
【特許文献4】国際公開第2006/030763号公報
【特許文献5】特開2009−84061号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】佐々木巌著、学位論文「Ce/Zr比を変化させたセリアジルコニア系化合物の酸素吸放出特性と結晶構造に関する研究」、2004年発行、150〜170頁
【非特許文献2】佐々木巌、野崎洋らによる共著、「セリア−ジルコニア固溶体の規則配列性に着目した材料設計と結晶構造解析」、日本金属学会2006年春期大会講演予稿集、2006年発行、140頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記特許文献5に記載の発明によれば、耐熱性が高く、長時間高温に晒された後においても優れた酸素貯蔵能を発揮することが可能なセリア−ジルコニア系複合酸化物が得られていた。しかしながら、近年は、排ガス浄化用触媒に対する要求特性が益々高まっており、耐熱性がより十分に高く、長時間高温に晒された後においてもより十分に優れた酸素貯蔵能を発揮することが可能なセリア−ジルコニア系複合酸化物が求められるようになってきた。
【0013】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、前記特許文献5に記載のような製造方法を採用して得られた従来のセリア−ジルコニア系複合酸化物と比較して、耐熱性がより十分に高く、長時間高温に晒された後においてもより十分に優れた酸素貯蔵能を発揮することが可能なセリア−ジルコニア系複合酸化物及びその製造方法、並びにそのセリア−ジルコニア系複合酸化物を用いた排ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、当業者の通常の認識に反して用いるセリア−ジルコニア固溶体粉末におけるセリウムとジルコニウムとの含有比率をモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で43:57〜48:52の範囲とし、そのセリア−ジルコニア固溶体粉末を所定の圧力で加圧成型した後に所定の温度条件で還元処理することにより、驚くべきことに得られるセリア−ジルコニア系複合酸化物の耐熱性が顕著に向上し、長時間高温に晒された後においても極めて高水準の優れた酸素貯蔵能を発揮させることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、前記非特許文献1や特許文献5にも記載されているように、セリアとジルコニアとの複合酸化物においては、セリアの含有率が49モル%未満になると、セリア(CeO)と化合してCeZrになるジルコニア(ZrO)以外の過剰のジルコニアが遊離のZrOとなり、このような遊離のZrOは酸素貯蔵能の発現に全く関与しない相であることから、酸素貯蔵能が低下する傾向にあるということが当業者の通常の認識であった。それに対して、本発明においては、セリウムとジルコニウムとの含有比率をモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で43:57〜48:52の範囲としたセリア−ジルコニア固溶体粉末を400〜3500kgf/cmの圧力で加圧成型した後に1450〜2000℃の温度条件で還元処理することにより、驚くべきことに得られるセリア−ジルコニア系複合酸化物の耐熱性が顕著に向上し、長時間高温に晒された後においても極めて高水準の優れた酸素貯蔵能が発揮されるようになった。
【0016】
本発明のセリア及びジルコニアの複合酸化物を含むセリア−ジルコニア系複合酸化物の製造方法は、
セリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で43:57〜48:52の範囲にあるセリア−ジルコニア固溶体粉末を、400〜3500kgf/cmの圧力で加圧成型した後、1450〜2000℃の温度条件で還元処理して前記セリア−ジルコニア系複合酸化物を得る工程を含むことを特徴とする方法である。
【0017】
また、このような本発明の製造方法により得ることが可能となった本発明のセリア及びジルコニアの複合酸化物を含むセリア−ジルコニア系複合酸化物は、前記複合酸化物におけるセリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で43:57〜48:52の範囲にあり、且つ、
大気中、1100℃の温度条件で5時間加熱後のX線回折測定により得られるCuKαを用いたX線回折パターンから求められる2θ=14.5°の回折線と2θ=29°の回折線との強度比{I(14/29)値}及び2θ=28.5°の回折線と2θ=29°の回折線との強度比{I(28/29)値}がそれぞれ以下の条件:
I(14/29)値≧0.015
I(28/29)値≦0.08
を満たすものであることを特徴とするものである。
【0018】
さらに、本発明の排ガス浄化用触媒は、前記本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物を含有することを特徴とするものである。
【0019】
前記本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物においては、前記複合酸化物中にセリウムイオンとジルコニウムイオンとにより規則配列構造を有する結晶相が形成されている。
【0020】
また、前記本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物においては、
(i)走査型電子顕微鏡による観察視野内(倍率500倍)における粒子占有面積率の平均値が50%以上であること、及び/又は
(ii)走査型電子顕微鏡による観察視野内(倍率500倍)における結晶粒径の平均値(数基準の平均値)が2.2〜4.5μmであること、
が好ましい。
【0021】
前記本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物の製造方法においては、前記還元処理の後に、前記セリア−ジルコニア系複合酸化物に酸化処理を施す工程を更に含むことが好ましい。
【0022】
なお、本発明におけるI(14/29)値及びI(28/29)値とは、それぞれ、測定対象のセリア−ジルコニア系複合酸化物を大気中、1100℃の温度条件で5時間加熱した後、X線回折測定により得られるCuKαを用いたX線回折パターンから求められる2θ=14.5°の回折線と2θ=29°の回折線との強度比{I(14/29)値}及び2θ=28.5°の回折線と2θ=29°の回折線との強度比{I(28/29)値}である。前記X線回折測定の方法としては、測定装置として理学電機社製の商品名「RINT2100」を用いて、CuKα線を用い、40KV、30mA、2θ=2°/minの条件で測定する方法を採用する。
【0023】
ここで、2θ=14.5°の回折線は規則相(κ相)の(111)面に帰属する回折線であり、2θ=29°の回折線は規則相の(222)面に帰属する回折線とセリア−ジルコニア固溶体(CZ固溶体)の(111)面に帰属する回折線とが重なるため、両者の回折線の強度比であるI(14/29)値を算出することにより規則相の維持率(存在率)を示す指標として規定される。なお、回折線強度を求める際、各回折線強度の値から、バックグラウンド値として2θ=10°〜12°の平均回折線強度を差し引いて計算する。また、完全な規則相には、酸素が完全充填されたκ相(CeZr)と、酸素が完全に抜けたパイロクロア相(CeZr)とがあり、それぞれのPDFカード(κ相はPDF2:01−070−4048、パイロクロア相はPDF2:01−075−2694)から計算したκ相のI(14/29)値は0.04、パイロクロア相のI(14/29)値は0.05である。また、規則相、すなわちセリウムイオンとジルコニウムイオンとにより形成される規則配列構造を有する結晶相は、前記X線回折測定により得られるCuKαを用いたX線回折パターンの2θ角が14.5°、28°、37°、44.5°及び51°の位置にそれぞれピークを有する結晶の配列構造(φ’相(κ相と同一の相)型の規則配列相:蛍石構造の中に生ずる超格子構造)である。なお、ここにいう「ピーク」とは、ベースラインからピークトップまでの高さが30cps以上のものをいう。
【0024】
また、2θ=28.5°の回折線はCeO単体の(111)面に帰属する回折線であり、2θ=28.5°の回折線と2θ=29°の回折線との両者の回折線の強度比であるI(28/29)値を算出することにより複合酸化物からCeOが分相している程度を示す指標として規定される。
【0025】
さらに、本発明における粒子占有面積率の平均値とは、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定対象のセリア−ジルコニア系複合酸化物の粒子の断面を任意に5箇所観察し、得られた各観察視野内(倍率500倍、240μm×240μmの領域)における粒子占有面積率の平均値である。なお、観察視野内において、粒子占有部は反射電子像において白あるいは灰色の領域として観察される。なお、観察視野内において、結晶粒は、粒界によって区別される粒子、あるいは明確に他の粒子と分離して存在する粒子として観察される。但し、結晶粒には二つの可能性があり、一つ目は方位が揃った単結晶として成長した一次粒子である場合、二つ目は方位の異なるナノスケールのサブドメインを有する結晶がSEMの観察角度等の問題で単結晶に見えている場合である。いずれかを判断することは非常に困難であるため、本発明においては、観察可能な粒界で区別される粒子と、他の粒子から独立して存在する粒子とを、いずれも結晶粒として取り扱う。
【0026】
また、本発明における結晶粒径の平均値(数基準の平均値)とは、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定対象のセリア−ジルコニア系複合酸化物の粒子の断面を任意に5箇所観察し、得られた各観察視野内(倍率500倍、240μm×240μmの領域)における結晶粒径について数基準で求めた平均値である。なお、観察視野内において、結晶粒は、前述のとおり、粒界によって区別される粒子、あるいは明確に他の粒子と分離して存在する粒子として観察される。また、ここにいう結晶粒径とは、断面が円形でない場合には最小外接円の直径をいう。
【0027】
なお、本発明の製造方法によって得られるようになった本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物によって上記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、セリア−ジルコニア系複合酸化物におけるセリウムとジルコニウムとの含有比率がジルコニウムリッチの組成となるにしたがって、セリア(CeO)と化合してCeZrになるジルコニア(ZrO)以外の過剰のジルコニアが酸素貯蔵能の発現に関与しない遊離のジルコニアとなり、また規則相の維持率が低下することから、一般的に酸素貯蔵能が低下する傾向にあるということが従来の当業者の認識であった。しかしながら、前記複合酸化物におけるセリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で43:57〜48:52の範囲にあっては、セリアの分相が抑制されることによる複合酸化物の安定性向上効果が、前記のジルコニウムリッチ組成となったことによる酸素貯蔵能の低下を上回るため、複合酸化物の耐熱性が向上し、長時間高温に晒された後においてもより十分に優れた酸素貯蔵能が発揮されるようになると本発明者らは推察する。
【0028】
また、本発明においては、セリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で43:57〜48:52の範囲にあるセリア−ジルコニア固溶体粉末を、400〜3500kgf/cmの圧力で加圧成型した後、1450〜2000℃の温度条件で還元処理している。このように還元前の複合酸化物を所定の圧力で成型することで、粉体内の粒界が制御され、粒子同士の接触性が増すため、還元処理時に結晶成長が進行しやすくなり、同時にイオンの再配列も容易となるため、規則相が生成しやすくなる。また、粒子が緻密に充填されることになるため、粒子同士の接触確率が比較的均一となり、粒成長の進行程度が揃うため、結晶としての安定性も向上する。そのため、このように所定の圧力で成型された複合酸化物を所定の温度で還元処理することにより、その後の高温耐久試験時において粒子の過剰な粒成長及び結晶相の転移が十分に抑制され、前述のセリアの分相が抑制されることによる複合酸化物の安定性向上効果と相俟って、結果として長時間高温に晒された後においても高い酸素貯蔵能が保持されるようになると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、耐熱性がより十分に高く、長時間高温に晒された後においてもより十分に優れた酸素貯蔵能を発揮することが可能なセリア−ジルコニア系複合酸化物及びその製造方法、並びにそのセリア−ジルコニア系複合酸化物を用いた排ガス浄化用触媒を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1で得られたセリア−ジルコニア複合酸化物における一つの観察視野の粒界イメージを示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例3で得られたセリア−ジルコニア複合酸化物における一つの観察視野の粒界イメージを示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0032】
先ず、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物について説明する。すなわち、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物は、セリア及びジルコニアの複合酸化物を含むセリア−ジルコニア系複合酸化物であって、前記複合酸化物におけるセリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で43:57〜48:52の範囲にあり、且つ、
大気中、1100℃の温度条件で5時間加熱後のX線回折測定により得られるCuKαを用いたX線回折パターンから求められる2θ=14.5°の回折線と2θ=29°の回折線との強度比{I(14/29)値}及び2θ=28.5°の回折線と2θ=29°の回折線との強度比{I(28/29)値}がそれぞれ以下の条件:
I(14/29)値≧0.015
I(28/29)値≦0.08
を満たすものである。
【0033】
本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物においては、複合酸化物におけるセリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で43:57〜48:52の範囲にあることが必要であり、44:56〜48:52の範囲にあることがより好ましい。セリウムの含有比率が前記下限未満では、ジルコニウムリッチ組成となったことによる酸素貯蔵能の低下がセリアの分相が抑制されることによる複合酸化物の安定性向上効果を上回るため、高温耐久試験後の酸素貯蔵能が不十分となり、他方、セリウムの含有比率が前記上限を超えると、セリアの分相が抑制されることによる複合酸化物の安定性向上効果が得られないため、高温耐久試験後の酸素貯蔵能が不十分となる。
【0034】
また、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物においては、前述のI(14/29)値が0.015以上であることが必要であり、0.017以上であることがより好ましい。前記I(14/29)値が前記下限未満では、規則相の維持率が低く、高温耐久試験後の酸素貯蔵能が不十分となる。前述のI(14/29)値の上限は、特に限定されるものではないが、PDFカード(01−075−2694)から計算したパイロクロア相のI(14/29)値が上限という観点から0.05以下が好ましい。
【0035】
さらに、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物においては、前述のI(28/29)値が0.08以下であることが必要であり、0.06以下であることがより好ましく、0.04以下であることが特に好ましい。前記I(28/29)値が前記上限を超えると、セリアの分相が十分に抑制されず、高温耐久試験後の酸素貯蔵能が不十分となる。前述のI(28/29)値の下限は、特に限定されるものではなく、より小さい値となることが好ましい。
【0036】
本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物においては、前記複合酸化物中にセリウムイオンとジルコニウムイオンとにより規則配列構造を有する結晶相(規則相)が形成されている。このような規則相が形成されていることにより、高温に対する耐熱性が向上し、高温に晒された後においても十分に高い酸素吸放出能が発揮されることとなる。また、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物においては、前記X線回折パターンのピーク強度比により求まる全結晶相に対する前記規則相の含有比率が、50〜100%であることが好ましく、80〜100%であることがより好ましい。前記規則相の含有比率が前記下限未満では、複合酸化物の耐熱性が低下する傾向にある。
【0037】
また、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物においては、走査型電子顕微鏡による観察視野内(倍率500倍)における粒子占有面積率の平均値が50%以上であることが好ましく、54%以上であることがより好ましい。前記粒子占有面積率の平均値が前記下限未満では、高温耐久試験時における粒子の過剰な粒成長及び結晶相の転移が十分に抑制されず、高温耐久試験後の酸素貯蔵能が不十分となる傾向にある。前述の粒子占有面積率の平均値の上限は、特に限定されるものではないが、実際に触媒を調製する際には粉体の粒度調整が必要であるという観点から98%以下が好ましい。
【0038】
さらに、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物においては、走査型電子顕微鏡による観察視野内(倍率500倍)における結晶粒径の平均値(数基準の平均値)が2.2〜4.5μmであることが好ましく、2.5〜4.0μmであることがより好ましい。前記結晶粒径の平均値が前記下限未満では、結晶としての安定性が乏しい小さな結晶粒が高温耐久試験中に粒成長し、消失する規則相が多くなるため、高温耐久試験後の酸素貯蔵能が不十分となる傾向にある。他方、前記結晶粒径の平均値が前記上限を超えると、結晶成長が進行し過ぎ、結晶内部から表面までの酸素の拡散が遅くなり過ぎて酸素吸放出量(OSC)が低下する傾向にある。
【0039】
また、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物においては、セリウム以外の希土類元素及びアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素を更に含有していてもよい。このような元素を含有させることで、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物を排ガス浄化用触媒の担体として用いた場合に、より高い排ガス浄化能が発揮される傾向にある。このようなセリウム以外の希土類元素としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等が挙げられ、中でも、貴金属を担持させた際に、貴金属との相互作用が強くなり、親和性が大きくなる傾向にあるという観点から、La、Nd、Pr、Y、Scが好ましく、La、Y、Ndがより好ましい。また、アルカリ土類金属元素としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)が挙げられ、中でも、貴金属を担持させた際に、貴金属との相互作用が強くなり、親和性が大きくなる傾向にあるという観点から、Mg、Ca、Baが好ましい。このような電気陰性度の低いセリウム以外の希土類元素及びアルカリ土類金属元素は、貴金属との相互作用が強いため、酸化雰囲気において酸素を介して貴金属と結合し、貴金属の蒸散やシンタリングを抑制し、排ガス浄化の際の活性点である貴金属の劣化を十分に抑制することができる傾向にある。
【0040】
さらに、セリウム以外の希土類元素及びアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素を更に含有する場合においては、前記元素の含有量が、セリア−ジルコニア系複合酸化物中に1〜20質量%であることが好ましく、3〜7質量%であることがより好ましい。このような元素の含有量が前記下限未満では、得られた複合酸化物に貴金属を担持させた場合に、貴金属との相互作用を十分に向上させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、酸素貯蔵能が低下してしまう傾向にある。
【0041】
さらに、このようなセリア−ジルコニア系複合酸化物の比表面積としては特に制限されないが、0.1〜2m/gであることが好ましく、0.2〜1m/gであることがより好ましい。このような比表面積が前記下限未満では、貴金属との相互作用が小さくなるとともに、酸素貯蔵能が小さくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、粒子径が小さな粒子が増加し、耐熱性が低下する傾向にある。なお、このような比表面積は吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0042】
次に、上記本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物を製造するための本発明の方法について説明する。
【0043】
本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物の製造方法は、セリア及びジルコニアの複合酸化物を含むセリア−ジルコニア系複合酸化物の製造方法であって、
セリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で43:57〜48:52の範囲にあるセリア−ジルコニア固溶体粉末を、400〜3500kgf/cmの圧力で加圧成型(加圧成型工程)した後、1450〜2000℃の温度条件で還元処理(還元処理工程)して前記セリア−ジルコニア系複合酸化物を得る工程を含むことを特徴とする方法である。
【0044】
本発明にかかるセリア及びジルコニアの固溶体粉末(セリア−ジルコニア固溶体粉末)は、セリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で43:57〜48:52の範囲にある。用いるセリア−ジルコニア固溶体粉末におけるセリウムの含有比率が前記下限未満では、得られるセリア−ジルコニア系複合酸化物においてジルコニウムリッチ組成となったことによる酸素貯蔵能の低下がセリアの分相が抑制されることによる複合酸化物の安定性向上効果を上回るため、高温耐久試験後の酸素貯蔵能が不十分となり、他方、セリウムの含有比率が前記上限を超えると、得られるセリア−ジルコニア系複合酸化物においてセリアの分相が抑制されることによる複合酸化物の安定性向上効果が得られないため、高温耐久試験後の酸素貯蔵能が不十分となる。
【0045】
このようなセリア−ジルコニア固溶体粉末としては、規則相をより十分に形成させるという観点から、セリアとジルコニアとが原子レベルで混合された固溶体を用いることが好ましい。また、このようなセリアとジルコニアの固溶体の粉体としては、平均一次粒子径が2〜100nm程度であることが好ましい。
【0046】
また、このようなセリア−ジルコニア固溶体粉末を製造する方法は特に制限されず、例えば、いわゆる共沈法を採用して、セリウムとジルコニウムとの含有比率が上記範囲内となるようにして前記固溶体粉末を製造する方法等が挙げられる。前記共沈法としては、例えば、セリウムの塩(例えば、硝酸塩)とジルコニウムの塩(例えば、硝酸塩)とを含有する水溶液を用い、アンモニアの存在下で共沈殿物を生成せしめ、得られた共沈殿物を濾過、洗浄した後に乾燥し、更に焼成後、ボールミル等の粉砕機を用いて粉砕して、セリア及びジルコニアの固溶体粉末を得る方法が挙げられる。なお、前記セリウムの塩とジルコニウムの塩とを含有する水溶液は、得られる固溶体粉末中のセリウムとジルコニウムとの含有比率が所定の範囲内となるようにして調製する。また、このような水溶液には、必要に応じて、セリウム以外の希土類元素及びアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素の塩や、界面活性剤(例えば、ノニオン系界面活性剤)等を添加してもよい。
【0047】
次に、各工程について説明する。本発明においては、先ず、前記セリア−ジルコニア固溶体粉末を400〜3500kgf/cmの圧力(より好ましくは500〜3000kgf/cmの圧力)で加圧成型する(加圧成型工程)。かかる加圧成型工程における圧力が前記下限未満では、粉体の充填密度が十分に向上しないため、還元処理時における結晶成長が十分に促進されず、結果として得られるセリア−ジルコニア系複合酸化物における高温耐久試験後の酸素貯蔵能が不十分となる。他方、かかる加圧成型工程における圧力が前記上限を超えると、セリアの分相が進行しやすくなり、結果として得られるセリア−ジルコニア系複合酸化物における高温耐久試験後の酸素貯蔵能が不十分となる。なお、このような加圧成型の方法としては特に制限されず、静水圧プレス等の公知の加圧成型方法を適宜採用できる。
【0048】
次に、本発明においては、前記加圧成型されたセリア−ジルコニア固溶体粉末に対して、1450〜2000℃(より好ましくは1600〜1900℃)の温度条件で還元処理を施すことにより(還元処理工程)、前記本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物が得られる。かかる還元処理の温度条件が前記下限未満では、規則相の安定性が低く、結果として得られるセリア−ジルコニア系複合酸化物における高温耐久試験後の酸素貯蔵能が不十分となる。他方、かかる還元処理の温度条件が前記上限を超えると、還元処理に要するエネルギー(例えば電力)と性能の向上とのバランスが悪くなる。
【0049】
また、前記還元処理の方法は、還元性雰囲気下で前記固溶体粉末を所定の温度条件で加熱処理することが可能な方法であればよく、特に制限されず、例えば、(i)真空加熱炉内に前記固溶体粉末を設置し、真空引きした後に、炉内に還元性ガスを流入させて炉内の雰囲気を還元性雰囲気として所定の温度条件で加熱して還元処理を施す方法や、(ii)黒鉛製の炉を用いて炉内に前記固溶体粉末を設置し、真空引きした後、所定の温度条件で加熱して炉体や加熱燃料等から発生するCOやHC等の還元性ガスにより炉内の雰囲気を還元性雰囲気として還元処理を施す方法や、(iii)活性炭を充填した坩堝内に前記固溶体粉末を設置し、所定の温度条件で加熱して活性炭等から発生するCOやHC等の還元性ガスにより坩堝内の雰囲気を還元性雰囲気として還元処理を施す方法が挙げられる。
【0050】
このような還元性雰囲気を達成させるために用いる還元性ガスとしては、特に制限されず、CO、HC、H、その他の炭化水素ガス等の還元性ガスを適宜用いることができる。また、このような還元性ガスの中でも、より高温で還元性処理をした場合に炭化ジルコニウム(ZrC)等の複生成物が生成されることを防止するという観点からは、炭素(C)を含まないものを用いることがより好ましい。このような炭素(C)を含まない還元性ガスを用いた場合には、ジルコニウム等の融点に近いより高い温度条件での還元処理が可能となるため、結晶相の構造安定性をより十分に向上させることが可能となる。
【0051】
また、このような還元処理の際の加熱時間としては、特に制限されないが、0.5〜5時間程度であることが好ましい。このような加熱時間が前記下限未満では、前記固溶体粉末の結晶粒径を十分に大きくすることができなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、十分に粒成長が進み、それ以上の操作が不要となるため経済性が低下する傾向にある。
【0052】
本発明においては、前記還元処理工程の後に、前記セリア−ジルコニア系複合酸化物に酸化処理を更に施すことが好ましい(酸化処理工程)。このような酸化処理を施すことにより、得られるセリア−ジルコニア系複合酸化物においては、還元中に失われた酸素が補填され、酸化物粉末としての安定性が向上する傾向にある。
【0053】
このような酸化処理の方法は特に制限されず、例えば、酸化雰囲気(例えば、大気)中において前記セリア−ジルコニア系複合酸化物を加熱処理する方法を好適に採用することができる。また、このような酸化処理の際の加熱温度の条件としては、特に制限されないが、300〜800℃程度であることが好ましい。さらに、前記酸化処理の際の加熱時間も特に制限されないが、0.5〜5時間程度であることが好ましい。
【0054】
以上、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物及びその製造方法について説明したが、以下にそのセリア−ジルコニア系複合酸化物を用いた本発明の排ガス浄化用触媒について説明する。
【0055】
本発明の排ガス浄化用触媒は、上記本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物を含有するものである。このような本発明の排ガス浄化用触媒は、高温条件下で使用した場合においても含有するセリア−ジルコニア系複合酸化物の酸素の吸放出能が十分に維持されることから、高い触媒活性が発揮される。
【0056】
このような本発明の排ガス浄化用触媒の好適な例としては、上記本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物を含む担体と、前記担体に担持された貴金属とからなる排ガス浄化用触媒が挙げられる。このような貴金属としては、白金、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、金、銀等が挙げられる。また、このような担体に貴金属を担持させる方法としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、貴金属の塩(硝酸塩、塩化物、酢酸塩等)又は貴金属の錯体を水、アルコール等の溶媒に溶解した溶液に前記セリア−ジルコニア系複合酸化物の粉末(担体)を浸漬し、溶媒を除去した後に焼成する方法を採用してもよい。また、前記担体に担持させる貴金属の量は特に制限されず、目的とする設計等に応じて適宜必要量担持させればよく、0.01質量%以上とすることが好ましい。
【0057】
さらに、上記本発明の排ガス浄化用触媒の好適な他の例としては、触媒担体微粒子と、前記触媒担体微粒子に担持された貴金属とからなる第一触媒の周囲に、上記本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物を配置してなる排ガス浄化用触媒が挙げられる。このような触媒担体微粒子としては特に制限されず、排ガス浄化用触媒の担体に用いることが可能な金属酸化物や金属酸化物複合体からなる担体(例えば、アルミナ粒子、アルミナ/セリアからなる粒子、アルミナ/セリア/ジルコニアからなる粒子等)を適宜用いることができる。また、このような触媒担体微粒子の平均粒子径としては特に制限されないが、5〜100nmであることが好ましい。また、このような触媒担体微粒子に貴金属を担持させる方法としては、前述の方法を採用することができる。また、前記触媒担体微粒子に担持させる貴金属の量は特に制限されず、目的とする設計等に応じて適宜必要量担持させればよく、0.01質量%以上とすることが好ましい。また、このような第一触媒の周囲に上記本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物を配置する方法は特に制限されず、例えば、第一触媒と上記本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物とを混合する方法を採用することができる。さらに、より高い触媒活性を得るという観点からは、上記本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物が高度に分散された状態で前記第一触媒の周囲に配置されていることが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
セリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で43:57であるセリア−ジルコニア固溶体粉末を以下のようにして調製した。すなわち、先ず、CeO換算で28質量%の硝酸セリウム水溶液423gと、ZrO換算で18質量%のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液624gと、含有されるセリウムの1.1倍モル量の過酸化水素を含む水溶液86gとを、中和当量に対して1.2倍当量のアンモニアを含有する水溶液856gに添加し、共沈物を生成し、得られた共沈物を遠心分離、洗浄(イオン交換水)した。次に、得られた共沈物を110℃で10時間以上乾燥した後、400℃で5時間大気中にて焼成してセリウムとジルコニウムとの固溶体を得た。その後、前記固溶体を粉砕機(アズワン社製の商品名「ワンダーブレンダー」)を用いて篩で粒径が75μm以下となるように粉砕して、前記セリア−ジルコニア固溶体粉末を得た。
【0060】
次に、得られたセリア−ジルコニア固溶体粉末20gを、ポリエチレン製のバッグ(容量0.05L)に詰め、内部を脱気した後、前記バッグの口を加熱してシールした。続いて、静水圧プレス装置(日機装社製の商品名「CK4−22−60」)を用いて、前記バッグに対して静水圧プレス(CIP)を1000kgf/cmの圧力(成型圧力)で1分間行って成型し、セリア−ジルコニア固溶体粉末の成型体を得た。成型体のサイズは、縦4cm、横4cm、平均厚み7mm、重量約20gとした。
【0061】
次いで、得られた成型体(5枚)を、活性炭70gを充填した紺蝸(内容積:直径8cm、高さ7cm)内に配置し、蓋をした後、高速昇温電気炉に入れ、昇温時間1時間で1000℃まで加熱した後、昇温時間4時間で1700℃(還元処理温度)まで加熱して5時間保持し、その後冷却時間4時間で1000℃まで冷却した後、自然放冷で室温まで冷却して還元処理品を得た。
【0062】
次に、得られた還元処理品を大気中、500℃の温度条件で5時間加熱して酸化し、複合酸化物におけるセリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で43:57であるセリア−ジルコニア複合酸化物を得た。得られたセリア−ジルコニア複合酸化物は篩で75μm以下に粉砕し、平均粒子径が20μmの粉末とした。
【0063】
<X線回折(XRD)測定>
得られたセリア−ジルコニア複合酸化物を大気中1100℃で5時間加熱処理し(高温耐久試験)、処理後のセリア−ジルコニア複合酸化物の結晶相をX線回折法により測定した。なお、X線回折装置として理学電機社製の商品名「RINT−2100」を用いてX線回折パターンを測定し、I(14/29)値及びI(28/29)値を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0064】
<走査型電子顕微鏡(SEM)による観察>
得られたセリア−ジルコニア複合酸化物の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、粒子占有面積率の平均値及び結晶粒径の平均値を求めた。なお、走査型電子顕微鏡として日本電子株式会社製の商品名「JSM−7000F」を用いた。得られた結果を表1に示す。また、実施例1で得られたセリア−ジルコニア複合酸化物における一つの観察視野の粒界イメージを示す走査型電子顕微鏡写真(倍率500倍、反射電子像)を図1に示す。
【0065】
<酸素吸放出量の測定試験>
前記高温耐久試験後のセリア−ジルコニア複合酸化物15gに対して、Pt(NO(NH水溶液(Pt濃度:0.15g/L)を200mL用い、Pt(0.2質量%)を担持せしめ、直径0.5mmのペレット状の排ガス浄化用触媒を得た。
【0066】
得られた触媒1gを石英反応管(内容積:直径1.7cm、長さ9.5cm)に充填し、固定床流通反応装置にてリッチガス(CO(2容量%)+N(残量))とリーンガス(O(1容量%)+N(残量))とを3分毎に交互に切り替えて流し、リッチガス雰囲気で生成するCOの量から酸素吸放出量(OSC)を求めた。なお、ガス流量は10L/min、評価温度は500℃とし、分析計としてはベスト測器社製の商品名「Bex5900Csp」を用いた。得られた結果を表1に示す。
【0067】
(実施例2)
CeO換算で28質量%の硝酸セリウム水溶液の量を443g、ZrO換算で18質量%のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液の量を602gとした以外は実施例1と同様にして、セリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で45:55であるセリア−ジルコニア固溶体粉末を得、次いで実施例1と同様にして複合酸化物におけるセリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で45:55であるセリア−ジルコニア複合酸化物を得た。得られたセリア−ジルコニア複合酸化物に対して、実施例1と同様にしてX線回折測定、走査型電子顕微鏡による観察、及び酸素吸放出量の測定試験を実施し、得られた結果を表1に示す。
【0068】
(実施例3)
CeO換算で28質量%の硝酸セリウム水溶液の量を472g、ZrO換算で18質量%のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液の量を570gとした以外は実施例1と同様にして、セリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で48:52であるセリア−ジルコニア固溶体粉末を得、次いで実施例1と同様にして複合酸化物におけるセリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で48:52であるセリア−ジルコニア複合酸化物を得た。得られたセリア−ジルコニア複合酸化物に対して、実施例1と同様にしてX線回折測定、走査型電子顕微鏡による観察、及び酸素吸放出量の測定試験を実施し、得られた結果を表1に示す。
【0069】
(実施例4〜6)
成型圧力をそれぞれ、500kgf/cm(実施例4)、2000kgf/cm(実施例5)、3000kgf/cm(実施例6)とした以外は実施例2と同様にしてセリア−ジルコニア複合酸化物を得た。得られたセリア−ジルコニア複合酸化物に対して、実施例1と同様にしてX線回折測定、走査型電子顕微鏡による観察、及び酸素吸放出量の測定試験を実施し、得られた結果を表1に示す。
【0070】
(実施例7〜8)
還元処理温度をそれぞれ、1600℃(実施例7)、1500℃(実施例8)とした以外は実施例2と同様にしてセリア−ジルコニア複合酸化物を得た。得られたセリア−ジルコニア複合酸化物に対して、実施例1と同様にしてX線回折測定、走査型電子顕微鏡による観察、及び酸素吸放出量の測定試験を実施し、得られた結果を表1に示す。
【0071】
(比較例1)
CeO換算で28質量%の硝酸セリウム水溶液の量を413g、ZrO換算で18質量%のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液の量を635gとした以外は実施例1と同様にして、セリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で42:58であるセリア−ジルコニア固溶体粉末を得、次いで実施例1と同様にして複合酸化物におけるセリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で42:58であるセリア−ジルコニア複合酸化物を得た。得られたセリア−ジルコニア複合酸化物に対して、実施例1と同様にしてX線回折測定、走査型電子顕微鏡による観察、及び酸素吸放出量の測定試験を実施し、得られた結果を表1に示す。
【0072】
(比較例2)
CeO換算で28質量%の硝酸セリウム水溶液の量を492g、ZrO換算で18質量%のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液の量を548gとした以外は実施例1と同様にして、セリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で50:50であるセリア−ジルコニア固溶体粉末を得、次いで実施例1と同様にして複合酸化物におけるセリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で50:50であるセリア−ジルコニア複合酸化物を得た。得られたセリア−ジルコニア複合酸化物に対して、実施例1と同様にしてX線回折測定、走査型電子顕微鏡による観察、及び酸素吸放出量の測定試験を実施し、得られた結果を表1に示す。
【0073】
(比較例3〜4)
成型圧力をそれぞれ、250kgf/cm(比較例3)、4000kgf/cm(比較例4)とした以外は実施例2と同様にしてセリア−ジルコニア複合酸化物を得た。得られたセリア−ジルコニア複合酸化物に対して、実施例1と同様にしてX線回折測定、走査型電子顕微鏡による観察、及び酸素吸放出量の測定試験を実施し、得られた結果を表1に示す。また、比較例3で得られたセリア−ジルコニア複合酸化物における一つの観察視野の粒界イメージを示す走査型電子顕微鏡写真(倍率500倍、反射電子像)を図2に示す。
【0074】
(比較例5)
還元処理温度を1400℃とした以外は実施例2と同様にしてセリア−ジルコニア複合酸化物を得た。得られたセリア−ジルコニア複合酸化物に対して、実施例1と同様にしてX線回折測定、走査型電子顕微鏡による観察、及び酸素吸放出量の測定試験を実施し、得られた結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示した実施例1〜3の結果と比較例1、2の結果との比較から明らかなように、セリア−ジルコニア複合酸化物におけるセリウムとジルコニウムとの含有比率がジルコニウムリッチの組成となるにしたがってI(28/29)値は小さくなる傾向にあり、セリアの分相が抑制されていることが確認された。また、ジルコニウムリッチの組成となるにしたがってI(14/29)値は若干低下するものの、複合酸化物におけるセリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で43:57〜48:52の範囲にある場合(実施例1〜3)は、酸素吸放出量(OSC)が顕著に向上しており、セリアの分相が抑制されることによるセリア−ジルコニア複合酸化物の安定性向上効果が、規則相が減少したことによる影響を上回っていることが確認された。
【0077】
また、表1に示した実施例4〜6の結果と比較例3、4の結果との比較から明らかなように、成型圧力が400〜3500kgf/cmの範囲にある場合(実施例4〜6)は、粉体の充填密度が適度に上昇して還元処理時における結晶成長が促進され、結晶としての安定性が向上し、結果として得られるセリア−ジルコニア複合酸化物の酸素吸放出量が向上することが確認された。一方、成型圧力が高過ぎる場合(比較例4)は、セリアの分相が進行して酸素吸放出量が低下することが確認された。
【0078】
さらに、表1に示した実施例2、7、8の結果と比較例5の結果との比較から明らかなように、還元処理温度が1450〜2000℃の範囲にある場合(実施例2、7、8)は、得られるセリア−ジルコニア複合酸化物における規則相の安定性が低く、結果として得られるセリア−ジルコニア複合酸化物の酸素吸放出量が向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明したように、本発明によれば、前記特許文献5に記載のような製造方法を採用して得られた従来のセリア−ジルコニア系複合酸化物と比較して、耐熱性がより十分に高く、長時間高温に晒された後においてもより十分に優れた酸素貯蔵能を発揮することが可能なセリア−ジルコニア系複合酸化物及びその製造方法、並びにそのセリア−ジルコニア系複合酸化物を用いた排ガス浄化用触媒を提供することが可能となる。
【0080】
このように本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物は耐熱性に優れるため、300℃以上の比較的高温の条件下において用いる排ガス浄化用触媒の担体や助触媒等として好適に利用することが可能である。また、本発明のセリア−ジルコニア系複合酸化物を用いた触媒は、低温活性も向上する傾向にあり、また、エミッション(特にNOxエミッション)を低減することも可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリア及びジルコニアの複合酸化物を含むセリア−ジルコニア系複合酸化物であって、前記複合酸化物におけるセリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で43:57〜48:52の範囲にあり、且つ、
大気中、1100℃の温度条件で5時間加熱後のX線回折測定により得られるCuKαを用いたX線回折パターンから求められる2θ=14.5°の回折線と2θ=29°の回折線との強度比{I(14/29)値}及び2θ=28.5°の回折線と2θ=29°の回折線との強度比{I(28/29)値}がそれぞれ以下の条件:
I(14/29)値≧0.015
I(28/29)値≦0.08
を満たすものであることを特徴とするセリア−ジルコニア系複合酸化物。
【請求項2】
前記複合酸化物中にセリウムイオンとジルコニウムイオンとにより規則配列構造を有する結晶相が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のセリア−ジルコニア系複合酸化物。
【請求項3】
走査型電子顕微鏡による観察視野内(倍率500倍)における粒子占有面積率の平均値が50%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセリア−ジルコニア系複合酸化物。
【請求項4】
走査型電子顕微鏡による観察視野内(倍率500倍)における結晶粒径の平均値(数基準の平均値)が2.2〜4.5μmであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のセリア−ジルコニア系複合酸化物。
【請求項5】
セリア及びジルコニアの複合酸化物を含むセリア−ジルコニア系複合酸化物の製造方法であって、
セリウムとジルコニウムとの含有比率がモル比([セリウム]:[ジルコニウム])で43:57〜48:52の範囲にあるセリア−ジルコニア固溶体粉末を、400〜3500kgf/cmの圧力で加圧成型した後、1450〜2000℃の温度条件で還元処理して前記セリア−ジルコニア系複合酸化物を得る工程を含むことを特徴とするセリア−ジルコニア系複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記還元処理の後に、前記セリア−ジルコニア系複合酸化物に酸化処理を施す工程を更に含むことを特徴とする請求項5に記載のセリア−ジルコニア系複合酸化物の製造方法。
【請求項7】
前記セリア−ジルコニア系複合酸化物は、大気中、1100℃の温度条件で5時間加熱後のX線回折測定により得られるCuKαを用いたX線回折パターンから求められる2θ=14.5°の回折線と2θ=29°の回折線との強度比{I(14/29)値}及び2θ=28.5°の回折線と2θ=29°の回折線との強度比{I(28/29)値}がそれぞれ以下の条件:
I(14/29)値≧0.015
I(28/29)値≦0.08
を満たすものであることを特徴とする請求項5又は6に記載のセリア−ジルコニア系複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
前記複合酸化物中にセリウムイオンとジルコニウムイオンとにより規則配列構造を有する結晶相が形成されていることを特徴とする請求項5〜7のうちのいずれか一項に記載のセリア−ジルコニア系複合酸化物の製造方法。
【請求項9】
前記セリア−ジルコニア系複合酸化物は、走査型電子顕微鏡による観察視野内(倍率500倍)における粒子占有面積率の平均値が50%以上のものであることを特徴とする請求項5〜8のうちのいずれか一項に記載のセリア−ジルコニア系複合酸化物の製造方法。
【請求項10】
前記セリア−ジルコニア系複合酸化物は、走査型電子顕微鏡による観察視野内(倍率500倍)における結晶粒径の平均値(数基準の平均値)が2.2〜4.5μmのものであることを特徴とする請求項5〜9のうちのいずれか一項に記載のセリア−ジルコニア系複合酸化物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のセリア−ジルコニア系複合酸化物を含有することを特徴とする排ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−219329(P2011−219329A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92551(P2010−92551)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000104607)株式会社キャタラー (161)
【Fターム(参考)】