説明

セリアナノ粒子の製造方法

【課題】本発明は、強アルカリ性化合物を使用せずに、従来よりも低温・低圧でセリアナノ粒子を製造することを目的とする。
【解決手段】本発明のセリアナノ粒子の製造方法は、セリウム源、尿素及びカチオン系界面活性剤を含む水溶液を、70℃以上100℃未満で加熱処理することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリアナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セリア(CeO)は高い酸素吸蔵放出能(Oxygen Storage Capacity:OSC)を有するため、炭化水素、一酸化炭素及び窒素酸化物を主成分とする自動車排ガスを浄化する助触媒材料として広く使用されている。OSCは、セリアの形状によって異なり、多面体状、立方体状、棒状の順に高くなることが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
非特許文献1に記載される棒状のセリアの製造方法では、硝酸セリウムに対して過剰(120モル当量)の水酸化ナトリウムを加えた混合物を、オートクレーブにて100℃超で24時間以上水熱反応を行っている。
【0004】
特許文献1には、強アルカリ性の水酸化ナトリウムを用いずに棒状のセリアを製造する方法として、弱アルカリ性の有機アミン(エチレンジアミン)を使用した例が報告されている。この場合得られるのは棒状のチタニアであり、160℃で12時間水熱反応を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−70136号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Mai HX, et al., The Journal of Physical Chemisty B (2005) 109, 24380-24385
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように上記方法では、強アルカリ性の水酸化ナトリウム等を使用して高温・高圧下で水熱反応を行わなければならないため、耐アルカリ・耐熱・耐圧性の反応器が必要となり、安全性・経済性・量産性の面で問題となる。
【0008】
そこで、本発明は、強アルカリ性化合物を使用せずに、従来よりも低温・低圧でセリアナノ粒子を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、尿素及びカチオン系界面活性剤を用いて、従来よりも低温である100℃未満でセリアナノ粒子を製造できることを見い出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]セリウム源、尿素及びカチオン系界面活性剤を含む水溶液を、70℃以上100℃未満で加熱処理することを含む、セリアナノ粒子の製造方法。
[2]カチオン系界面活性剤が、第4級アンモニウム塩系界面活性剤である、[1]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によると、従来技術と比較して、より安全に、また、耐アルカリ・耐熱・耐圧性の反応器を使用しなくともセリアナノ粒子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1で得られたセリアナノ粒子のTEM画像を示す。
【図2】実施例1で得られた、別のセリアナノ粒子のTEM画像を示す。
【図3】実施例1で得られた、別のセリアナノ粒子のTEM画像を示す。
【図4】比較例1で得られたセリアナノ粒子のTEM画像を示す。
【図5】比較例2で得られたセリアナノ粒子のTEM画像を示す。
【図6】OSC評価試験で使用した反応条件を示す。
【図7】実施例1及び比較例1で得られたセリアナノ粒子のOSCを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明のセリアナノ粒子の製造方法では、セリウム源、尿素及びカチオン系界面活性剤を含む水溶液を、70℃以上100℃未満、好ましくは80〜90℃で、通常12〜72時間、好ましくは20〜48時間加熱して、静置下で結晶化することにより、セリアナノ粒子を製造することができる。本発明の方法は、好ましくは常圧下で行い、また、オートクレーブ等の耐熱・耐圧性の反応器は使用しなくてもよい。棒状のセリアナノ粒子は、上記反応温度範囲内で収率よく得られるが、70℃未満では、反応が十分に進行せず、得られる棒状のセリアナノ粒子の収率は低くなる。また、耐熱・耐圧性の反応器を使用して100℃以上で反応を行う場合でも、得られる棒状のセリアナノ粒子の収率は低くなる。上記のセリウム源、尿素及びカチオン系界面活性剤を混合する順序は特に限定されない。混合水溶液中のセリウム源の濃度は、通常0.01〜0.8M(mol/L)、好ましくは0.03〜0.3Mであり、尿素の濃度は、通常0.05〜5M、好ましくは0.5〜3Mであり、カチオン系界面活性剤の濃度は、通常0.05〜0.3M、好ましくは0.1〜0.2Mである。加熱処理して得られるセリウムの固体物を焼成する工程では、通常400〜600℃、好ましくは450〜550℃で、通常0.5〜5時間、好ましくは1〜2時間焼成する。
【0014】
本発明で使用されるセリウム源としては、特に限定されないが、例えば、セリウムの硝酸塩、塩化物、硫酸塩、炭酸塩等の無機酸塩;セリウムの酢酸塩、クエン酸等の有機酸塩;セリウムメトキシド、セリウムエトキシド、セリウムプロポキシド、セリウムブトキシド等のセリウムアルコキシド等が挙げられる。通常、水溶性のセリウム源が使用される。上記セリウム塩におけるセリウムの価数は3価であっても、4価であってもよいが、中性付近で沈殿が生じやすい3価のセリウム塩を使用するのがより好ましい。また、セリウム源は、上記のうち一種のみを使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
本発明で使用される尿素は、化学式(HN)C=Oで表される化合物である。尿素は皮膚の保湿剤として使用されることもあり、強アルカリ性の水酸化ナトリウム等と比較して、人体に対してより安全である。
【0016】
本発明で使用されるカチオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、炭素数10〜20の直鎖アルキル基と3個の炭素数1〜2のアルキル基とを有する第4級アンモニウム塩系の界面活性剤、例えば、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0017】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
[実施例1]尿素を使用するセリアナノ粒子の製造
2.38gのCe(NO・6HOを15mlの純水に溶解させ、室温で攪拌しながら、これを7.0gの尿素を溶解させた6mlの純水に添加した。この溶液を5分間攪拌した後、100g/LのCTAB水溶液を少しずつ加え、計50ml添加した。この溶液を室温で1時間攪拌した後、ガラス製フラスコに移し、ゴム栓で密閉した。このゴム栓は、プロペラ式攪拌棒が貫通できるように穿孔されており、この穴を通じて攪拌棒を挿入し、攪拌することができる。このフラスコをオイルバスに設置して、約150rpmで攪拌しながら、80℃で24時間加熱処理を行った。加熱処理終了後、10分間遠心分離(15,000rpm)を行った。得られた固体物に純水を加えて攪拌し、再度遠心分離を行った。この洗浄操作を3回繰り返した。こうして得られた固体物を、減圧下にて80℃で5時間乾燥し、その後、電気炉内にて250℃で0.5時間、続いて500℃で2時間焼成したところ、図1に示される棒状のセリアナノ粒子が得られた。また、上記条件に従うと、同様に棒状のセリアナノ粒子が再現よく得られた(図2〜3)。
【0019】
[比較例1]水酸化ナトリウムを使用するセリアナノ粒子の製造
1.9546gのCe(NO・6HOを10mlの純水に溶解させ、室温で攪拌しながら、90mlの6M NaOH水溶液を加えた。この溶液を室温で10分間攪拌し、このうち30mlを分取して、オートクレーブに移し替えた。オートクレーブを密閉した後、100℃で24時間水熱反応を行った。反応終了後、実施例1と同様に遠心分離して、純水による洗浄を3回繰り返した。得られた固体物を減圧下にて80℃で5時間乾燥し、その後、電気炉内にて500℃で2時間焼成したところ、図4に示される棒状のセリアナノ粒子が得られた。
【0020】
[比較例2]加熱処理を120℃で行うセリアナノ粒子の製造
2.755gのCe(NO・6HOを15mlの純水に溶解させ、室温で攪拌しながら、これを8.08gの尿素を溶解させた6mlの純水に添加した。この溶液を5分間攪拌した後、100g/LのCTAB水溶液を少しずつ加え、計50ml添加した。この溶液を、室温で1時間攪拌した後テフロン容器に移し、ステンレス製加圧分解容器に収納した。これを電気炉内に入れ、120℃で24時間加熱処理を行った。加熱処理終了後、実施例1と同様に、遠心分離して得られた固体物について、純水による洗浄を3回繰り返し、続いて、減圧下で乾燥して、焼成した。この場合、図5に示す通り、棒状のセリアナノ粒子は得られなかった。
【0021】
[実施例2]OSC測定
実施例1及び比較例1により作製したセリアナノ粒子について、以下のようにOSC評価試験を行った。試験は、所定量のナノ粒子を各々熱重量分析計(TG)に設置し、TG内を300℃に維持したまま、図6に示す反応条件のガスを交互に流入させ、試験前後におけるサンプルの質量変化を測定することによりOSCを評価した。反応条件は、1%の水素ガスを含む窒素ガスを7分間、窒素ガスのみを3分間、10%の酸素ガスを含む窒素ガスを5分間流入させるガス流入を1セットとし、合計4セット行った。得られた測定値は、1セット目の結果は除外し、2〜4セット目の酸素ガス流入時の質量増加分の平均値を、試料質量で除した値をOSCとした(図7)。
【0022】
図7の結果によると、本発明により得られたセリアナノ粒子は、水酸化ナトリウムを用いた従来方法により作製されたセリアナノ粒子と同程度のOSCを示した。これらの結果から、従来方法よりも安全性の高い弱アルカリ性化合物を使用し、高温・高圧を必要としない本発明のセリアナノ粒子の作製方法においても、従来方法と同性能のセリアナノ粒子を製造できることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウム源、尿素及びカチオン系界面活性剤を含む水溶液を、70℃以上100℃未満で加熱処理することを含む、セリアナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
カチオン系界面活性剤が、第4級アンモニウム塩系界面活性剤である、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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