説明

セリシンハイドロゲル及びセリシン多孔質体の製造方法

【課題】 成形性に優れたセリシンハイドロゲルの製造方法及びセリシン多孔質体の製造方法を提供する。
【解決手段】 蚕由来の絹糸腺、繭層又は繭から50kDa以上の分子量を有するセリシン抽出物を抽出し、抽出したセリシン抽出物にアルコールを添加し、さらに得られたセリシン抽出物及びアルコールを含む混合物を放置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、成形性に優れたセリシンハイドロゲルの製造方法及びセリシン多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絹は、2種のタンパク質、フィブロイン及びセリシンから構成されている。フィブロインは繊維を形成しているタンパク質である。一方、セリシンは、絹糸を構成しているタンパク質であって、絹においてフィブロインが形成する繊維の外側を層状に覆っているゼラチン様の物性を有するタンパク質である。
【0003】
上記2つのタンパク質のうち、フィブロインは、衣料分野及びその他の多岐にわたる分野で利用開発が進められている。一方、従来、セリシンは製糸過程で捨てられていたため、セリシンの利用開発はこれまで遅れていた。
【0004】
しかしながら、近年、セリシンは、(1)高い保湿性(Voegeli, R.ら, Cosmetics & Toiletries, 1993, 108, 101-108)、(2)抗酸化性(Kato N.ら, Biosci. Biotechnol. Biochem.,1998, 62, 145-147)、(3)細胞増殖活性(Minoura N.ら, J. Biomed. Mater. Res., 1995, 29, 1215-1221)、及び(4)アパタイト形成能(Takeuchi A.ら, J. Biomed. Mater. Res., 2003, 65A, 283-289)等の機能性を有することが次第に明らかにされた。このようなセリシンの機能性を考慮し、保健衛生用資材や医療素材等へのセリシンの利用が期待されている。
【0005】
例えば、高分子量タンパク質であるセリシンの利用形態の一つとして、セリシンをハイドロゲル(「ヒドロゲル」とも呼ばれる)として用いることがまず考えられる。ハイドロゲルとは、水を分散液体として有するゲルを意味する。ハイドロゲルは、親水性高分子鎖の三次元網目構造により多量の水を保持している。例えば、医療分野ではコンタクトレンズ、創傷被覆材及び薬剤徐放担体等の材料として、生活日用品分野では紙おむつ及び生理用品等の材料として、農林水産分野では土壌保水剤等の材料として、あるいは食品加工分野では食品加工用シート等の材料として、ハイドロゲルは利用されている。このようにハイドロゲルは、産業上広い分野において利用されている。これらの用途に利用されるハイドロゲルを構成する原料としては、各種の合成高分子に加え、アガロース、アルギン酸及びゼラチン等の天然高分子が知られている。
【0006】
また、ハイドロゲルより調製できる多孔質体は、例えば、組織再生のための支持体として利用することが活発に研究されている。多孔質体とは、内部に大小様々な孔を有する固体を意味する。多孔質体を構成するハイドロゲルの原料としては、例えばコラーゲン又はその複合体が知られている。
【0007】
一方、現在までに、セリシンのゲル化に関して数多くの研究が行われている(非特許文献1及び2)。しかしながら、従来ではゲル化の過程において、例えば、熱やアルカリ処理等によって変性した、本来有する特性を損なったセリシンを使用していため、セリシンのみから成るゲルは、もろく、成形性に劣るという欠点があった。このような欠点を補うため、合成高分子とのブレンド(非特許文献3)や化学薬品による架橋(非特許文献4)等により、セリシンを含むゲルの物性を向上させる試みがなされている。しかしながら、他成分とのブレンドや架橋試薬を用いる方法では、セリシンが本来持つ機能性を十分に発揮できないという懸念があった。
【0008】
上述した機能性を有するセリシンを原料として、成形性に優れたハイドロゲル又は多孔質体を容易に調製できれば、新規材料としての活用が大いに期待できる。
【非特許文献1】Zhu, L.J.ら, 「The Journal of Sericultural Science of Japan」, 1995年, 第64巻, p.415-419
【非特許文献2】Zhu, L.J.ら, 「The Journal of Sericultural Science of Japan」, 1996年, 第65巻, p.270-274
【非特許文献3】Wang, S.ら, 「The Journal of Sericultural Science of Japan」, 1998年, 第67巻, p.295-302
【非特許文献4】Nagura, M.ら, 「Journal of Insect Biotechnology and Sericology」, 2001年, 第70巻, p.149-153
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来、ゲル化の過程において、本来有する特性を損なったセリシンを使用していため、セリシンのみから成るゲルは、もろく、成形性に劣るという欠点があった。
【0010】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、成形性に優れたセリシンハイドロゲルの製造方法及びセリシン多孔質体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、本発明者らは、未変性で天然状態の高分子量のセリシンを出発原料として用いることでセリシンハイドロゲルを製造することを着想したところ、低分子化を起こさないような穏和な条件下で生繭層から抽出した高分子量のセリシンを用いることで、成形性に優れたセリシンハイドロゲルを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は以下を包含する。
(1)蚕由来の絹糸腺、繭層又は繭から50kDa以上の分子量を有するセリシン抽出物を抽出する第1工程と、上記第1工程で抽出したセリシン抽出物にアルコールを添加する第2工程と、上記第2工程で得られたセリシン抽出物及びアルコールを含む混合物を放置する第3工程と、を含むことを特徴とする、セリシンハイドロゲルの製造方法。
(2)上記蚕由来の絹糸腺、繭層又は繭が、蚕品種セリシンホープに由来するものであることを特徴とする、(1)記載のセリシンハイドロゲルの製造方法。
(3)上記蚕由来の絹糸腺、繭層又は繭が、未処理のものであることを特徴とする、(1)記載のセリシンハイドロゲルの製造方法。
(4)上記セリシン抽出物中のセリシン濃度が、0.5〜3重量%であることを特徴とする、(1)記載のセリシンハイドロゲルの製造方法。
(5)上記アルコールが、エタノールであることを特徴とする、(1)記載のセリシンハイドロゲルの製造方法。
【0013】
(6)上記第2工程において、添加するアルコール量が、セリシン抽出物に対して5〜30容量%であることを特徴とする、(1)記載のセリシンハイドロゲルの製造方法。
(7)上記第3工程の後に、セリシンハイドロゲルを水に浸漬する工程を含むことを特徴とする、(1)記載のセリシンハイドロゲルの製造方法。
(8)50kDa以上の分子量を有するセリシンを主成分とするセリシンハイドロゲル。
(9)蚕由来の絹糸腺、繭層又は繭から50kDa以上の分子量を有するセリシン抽出物を抽出する第1工程と、上記第1工程で抽出したセリシン抽出物にアルコールを添加する第2工程と、上記第2工程で得られたセリシン抽出物及びアルコールを含む混合物を放置する第3工程と、上記第3工程で得られたセリシンハイドロゲルを凍結乾燥する第4工程と、を含むことを特徴とする、セリシン多孔質体の製造方法。
(10)上記蚕由来の絹糸腺、繭層又は繭が、蚕品種セリシンホープに由来するものであることを特徴とする、(9)記載のセリシン多孔質体の製造方法。
【0014】
(11)上記蚕由来の絹糸腺、繭層又は繭が、未処理のものであることを特徴とする、(9)記載のセリシン多孔質体の製造方法。
(12)上記セリシン抽出物中のセリシン濃度が、0.5〜3重量%であることを特徴とする、(9)記載のセリシン多孔質体の製造方法。
(13)上記アルコールが、エタノールであることを特徴とする、(9)記載のセリシン多孔質体の製造方法。
(14)上記第2工程において、添加するアルコール量が、セリシン抽出物に対して5〜30容量%であることを特徴とする、(9)記載のセリシン多孔質体の製造方法。
(15)上記第3工程の後に、セリシンハイドロゲルを水に浸漬する工程を含むことを特徴とする、(9)記載のセリシン多孔質体の製造方法。
【0015】
(16)上記第4工程において、セリシンハイドロゲルを水の共存下で凍結乾燥することを特徴とする、(9)記載のセリシン多孔質体の製造方法。
(17)50kDa以上の分子量を有するセリシンを主成分とするセリシン多孔質体。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るセリシンハイドロゲルの製造方法によれば、各種分野で有用な成形性に優れたセリシンハイドロゲルを効率よく生産することができる。さらに、本発明に係るセリシン多孔質体の製造方法によれば、親水性及び湿潤状態における柔軟性を有するセリシン多孔質体を効率よく生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るセリシンハイドロゲルの製造方法により、蚕由来の絹糸腺、繭層又は繭から成形性に優れたセリシンハイドロゲルを製造することができる。また、本発明に係るセリシン多孔質体の製造方法により、蚕由来の絹糸腺、繭層又は繭からセリシン多孔質体を製造することができる。以下では、本発明に係るセリシンハイドロゲルの製造方法と本発明に係るセリシン多孔質体の製造方法とを合わせて、「本発明に係る製造方法」と呼ぶ。
【0018】
本発明に係る製造方法において、蚕由来の絹糸腺、繭層又は繭は、各種の蚕品種から得ることができる。ここで、蚕由来の絹糸腺とは、蚕において絹糸を分泌する1対の外分泌腺を意味する。蚕の絹糸腺は、前部、中部及び後部から構成されている。中部絹糸腺からは、セリシンが分泌される。そこで、蚕由来の絹糸腺として、中部絹糸腺を用いることができる。また、繭とは、蚕幼虫が蛹化の際に絹糸腺内の絹タンパク質を分泌して作る構造体であり、繭層とは、繭のうち、蛹以外の絹タンパク質より成る層のことを意味する。本発明に係る製造方法において使用する蚕の絹糸腺、繭層又は繭が由来する蚕品種としては、特に限定されるものではないが、例えば、セリシンホープ(セリシンC)、セリシンN、Nd蚕、及びNd-s蚕等が挙げられる。特にセリシンホープが好ましい。
【0019】
蚕品種セリシンホープ(セリシンC)は、中国品種「CS83」系統に品種「Nd系統」(裸蛹、フィブロインを合成せず、セリシンだけを合成する突然変異種)を交配し、さらに戻し交雑等を行い、作製された品種である(特開2001-245550号公報参照)。蚕品種セリシンホープ(セリシンC)は、フィブロイン合成能が退化しており、セリシンを大量に生産する。
【0020】
蚕から絹糸腺又は中部絹糸腺は、5齢幼虫を切開し、体内より取り出すことによって単離することができる。また、蚕から繭層は、5齢幼虫が蛹化の際に作る繭から蛹を分離することによって単離することができる。さらに蚕が生成した繭は、そのまま使用することができる。
【0021】
上述のように単離した蚕由来の絹糸腺、繭層又は繭(以下、「繭層等」という)は、未処理のものであることが好ましい。ここで、「未処理」とは、単離した後に、乾燥処理等の処理に供していないことを意味する。本発明に係る製造方法では、高分子量のセリシン抽出物を抽出することを考慮すると、繭層等中のセリシン分子が崩壊や変性等によって分解されていないことが好ましい。従って、本発明に係る製造方法では、できる限り新鮮な、すなわち、未処理の繭層等を用いることが好ましい。
【0022】
本発明に係る製造方法によれば、繭層等を用いてセリシンハイドロゲル又はセリシン多孔質体を得ることができる。図1は、本発明に係る製造方法の工程を模式的に示している。
【0023】
まず、図1に示す第1工程において、繭層等から50kDa以上の分子量を有するセリシン抽出物を抽出する。セリシンは、複数のタンパク質の混合物である。2種のセリシン遺伝子から少なくとも6種のタンパク質が合成されることが報告されている(Fedic, R.ら, Journal of Insect Biotechnology and Sericology, 2002, 71, 1-15)。本発明に係る製造方法では、50kDa以上の分子量を有するセリシン(例えば、約60kDa、約100kDa、約180kDa及び>250kDaの分子量を有するセリシン)抽出物を抽出する。下記の実施例で示すように、分子量が大きい約100kDa、約180kDa及び>250kDaの3つのセリシンが主要成分と考えられる(図2)。そこで、主として、100kDa以上の分子量を有するセリシン抽出物を抽出することがより好ましい。
【0024】
セリシンの一次構造には、セリシンを特徴づける38個のアミノ酸より成る繰り返し配列が多く含まれることが知られている(Garel, A.ら, Insect Biochemistry and Molecular Biology, 1997, 27, 469-477)。さらに、当該繰り返し配列は、水素結合によってβシート構造をとりやすいことが報告されている(Garel, A.ら, Insect Biochemistry and Molecular Biology, 1997, 27, 469-477及びHuang, J.ら, The Journal of Biological Chemistry, 2003, 278, 46117-46123)。本発明で用いる天然状態に近い50kDa以上の分子量を有するセリシンには、分解・変性したセリシンよりもこの繰り返し配列が多く含まれていると考えられる。従って、本発明に係る製造方法では、上述した50kDa以上の分子量を有するセリシン抽出物を用いることで、水素結合によるセリシン分子間の相互作用が強く、力学的性質に優れたセリシンハイドロゲル又はセリシン多孔質体を作出できると期待される。
【0025】
本発明に係る製造方法では、繭層等から抽出溶媒を用いて、50kDa以上の分子量を有するセリシン(以下、「高分子量セリシン」という)抽出物を抽出することができる。例えば、繭層等と抽出溶媒とを撹拌し、溶媒抽出を行うことで、高分子量セリシン抽出物を得ることができる。本発明において、高分子量セリシン抽出物とは、上記抽出方法で得られた高分子量セリシン水溶液等の各種溶媒抽出液、その希釈液又はその濃縮液等を意味する。
【0026】
本発明に係る製造方法では、高分子量セリシンの低分子化を起こさないように、穏和な条件下で高分子量セリシン抽出物を抽出する。穏和な条件としては、以下の条件が挙げられる。
【0027】
低分子化を起こさず、高分子量セリシン抽出物を得るために用いられる抽出溶媒としては、例えば、臭化リチウム水溶液、臭化カリウム水溶液、塩化リチウム水溶液、塩化カリウム水溶液、尿素水溶液、チオシアン酸リチウム水溶液、チオシアン酸カリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、塩化カルシウム/エタノール水溶液、強電解水、硝酸カルシウム/メタノール溶液、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、及びN-メチルモルホリン-N-オキシド等が挙げられるが、臭化リチウム水溶液が好ましい。
【0028】
低分子化を起こさず、高分子量セリシン抽出物を得るための抽出条件として、抽出時間は、1〜48時間、特に12〜36時間であることが好ましい。また、抽出の際の温度は、20〜50℃、特に30〜40℃であることが好ましい。さらに、抽出の際のpHは、pH7〜9、特にpH7.5〜8.5であることが好ましい。抽出に使用する抽出溶媒量は、繭層等に対して質量比で20〜60倍量、特に30〜50倍量とすることが好ましい。
【0029】
また、上述した高分子量セリシン抽出物を、濃縮処理することもできる。さらに、高分子量セリシン抽出物を、ろ過、遠心分離、透析又は精製処理等に供することで、当該抽出物から不溶物及び抽出溶媒等を除去したものを用いることができる。精製処理方法としては、例えば、順相又は逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー及びゲル濾過が挙げられる。例えば、高分子量セリシン抽出物を遠心分離及びろ過に供することで、不溶物を除去する。次いで、酸性でセリシンは凝集を起こしやすいため、ろ液に1M Tris-HCl buffer(pH9)を加えて、溶液のpHを弱アルカリ性とする。さらに、得られた溶液を、純水に対して透析を行い、抽出溶媒等の低分子物質を除去する。透析後、得られた溶液中の凝集物を除去するため、再度ろ過を行うことで、不溶物及び抽出溶媒等を除去した高分子量セリシン抽出物を得ることができる。
【0030】
高分子量セリシン抽出物(例えば水溶液)中の高分子量セリシン濃度は、0.5〜3重量%、特に1〜2重量%とすることが好ましい。高分子量セリシン抽出物中の高分子量セリシン濃度が、0.5重量%未満の薄い濃度ではセリシンハイドロゲルが形成されにくく、一方、3重量%を超える高濃度では、溶液の粘性が高く扱いにくい。
【0031】
なお、抽出した高分子量セリシン抽出物中の高分子量セリシン濃度を調整すべく、例えば、水を用いて高分子量セリシン抽出物を希釈するか、あるいは高分子量セリシン抽出物を濃縮してもよい。
【0032】
次いで、図1に示す第2工程において、第1工程で抽出した高分子量セリシン抽出物にアルコールを添加する。アルコールを添加することで、高分子量セリシン抽出物中の高分子量セリシン分子間での水素結合の形成を促進し、三次元網目構造を生じさせることができる。
【0033】
添加するアルコールとしては、高分子量セリシン分子間での水素結合の形成を促進し、三次元網目構造を生じさせるものではあれば、特に限定されるものではないが、例えば、エタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-メチル-2-ブタノール、エチレングリコール、及びグリセロール等が挙げられる。特にエタノールが好ましい。高分子量セリシン抽出物に例えば、メタノール又は1-ブタノールを添加して得られたセリシンハイドロゲルと比較して、エタノールを添加して得られたセリシンハイドロゲルは強固である。また、エタノールを添加して得られたセリシンハイドロゲルは、沈殿が生じることなく透明である。このように、エタノールを添加し、高分子量セリシン分子間での水素結合の形成を促進し、三次元網目構造を生じさせることで、強固で、かつ透明なセリシンハイドロゲルを得ることができる。
【0034】
また、添加するアルコール量は、高分子量セリシン抽出物に対して5〜30容量%、特に10〜20容量%であることが好ましい。添加するアルコール量が、高分子量セリシン抽出物に対して10容量%未満では、ハイドロゲルの形成に時間がかかるか、あるいは、良好なセリシンハイドロゲルが形成されない。逆に、添加するアルコール量が、高分子量セリシン抽出物に対して30容量%を超えても、良好なセリシンハイドロゲルが形成されない。
【0035】
高分子量セリシン抽出物に対してアルコールを添加する場合には、例えば、高分子量セリシン抽出物を撹拌しながら、アルコールをゆっくりと添加する。
【0036】
図1に示す第3工程においては、第2工程で得られた高分子量セリシン抽出物及びアルコールを含む混合物を放置又は静置する。室温又は冷却下(例えば、冷蔵庫中)で、数時間〜数日間放置又は静置することで、セリシンハイドロゲルを得ることができる。なお、室温で当該混合物を数時間静置するか、あるいは数秒間、当該混合物を超音波処理に供することで、混合物中の気泡を除去した後に、当該混合物を放置又は静置することができる。さらに、得られたセリシンハイドロゲルを、過剰量のエタノール等のアルコールに浸漬して、12〜48時間放置又は静置しておくと、強度及び弾性の増したセリシンハイドロゲルを得ることができる。
【0037】
さらに、上述のように得られたセリシンハイドロゲルを過剰量の水に浸漬することで、含有するアルコールを除去したセリシンハイドロゲルを得ることができる。例えば、過剰量のエタノール等のアルコールに浸漬し、放置又は静置した後に得られたセリシンハイドロゲルを、室温又は冷却下(例えば、冷蔵庫中)で、1〜2日間平衡化させる。平衡化の際に、水を頻繁に交換することで、アルコールを除去できる。含有するアルコールを除去したセリシンハイドロゲルは、実質的に高分子量セリシン及び水のみからなるセリシンハイドロゲルとなる。ここで、「実質的」とは、セリシンハイドロゲル中に含まれる高分子量セリシン及び水以外の他の成分量(アルコール等)が1%未満、好ましくは0%であることを意味する。例えば、細胞培養等にセリシンハイドロゲルを使用する場合において、アルコールの存在が問題となる場合には、高分子量セリシン及び水のみからなるセリシンハイドロゲルを有効に使用できる。
【0038】
一方、図1に示す第4工程において、第3工程において得られたセリシンハイドロゲルを凍結乾燥することでセリシン多孔質体を製造することができる。ここで、凍結乾燥とは、凍結状態にある水を、減圧下昇華させることにより物質を乾燥させる手法を意味する。例えば、セリシンハイドロゲルを-10℃以下、好ましくは-20℃以下の温度(例えば、冷凍庫中)で十分に凍結させる。次いで、凍結したセリシンハイドロゲルを、凍結乾燥機で凍結乾燥し、水分を除去することでセリシン多孔質体を得ることができる。その他の凍結乾燥方法としては、凍結乾燥に準ずる方法ではあればいずれの方法であってよい。
【0039】
また、セリシンハイドロゲルのみを凍結乾燥すると、収縮等を引き起こし良好なセリシン多孔質体が得られない場合がある。そこで、セリシンハイドロゲルを過剰量の水共存下で凍結乾燥させることが好ましい。
【0040】
本発明に係る製造方法で得られたセリシンハイドロゲルは、水中ではしばらくの間は冷蔵保存が可能である。また、当該セリシンハイドロゲルをエタノール等のアルコールに浸漬して保存する場合には、長期保存が可能である。アルコールに浸漬したセリシンハイドロゲルは大きく収縮し、ゴム状となり白濁する。アルコールに浸漬したセリシンハイドロゲルを水に浸漬すると、再膨潤し、本来のセリシンハイドロゲルに戻すことができる。一方、本発明に係る製造方法で得られたセリシン多孔質体は、セリシンハイドロゲルと同様に、エタノール等のアルコールに浸漬して保存する場合には、安定して保存できる。
【0041】
以上に説明した本発明に係る製造方法によれば、成形性に優れたセリシンハイドロゲルを得ることができる。本発明に係る製造方法では、高分子量セリシン抽出物を使用することから、高分子量セリシンを主成分とするセリシンハイドロゲル(以下、「本発明に係るセリシンハイドロゲル」という)を得ることができる。
【0042】
得られた本発明に係るセリシンハイドロゲルの成形性は、弾性率等の測定により評価することができる(Koob, T. J.ら, Biomaterials, 2003, 24, 1285-1292)。あるいは、例えば、セリシンハイドロゲルがカッター等により任意の形状に加工可能である場合に、成形性が良好であると判断することができる。
【0043】
一方、本発明に係る製造方法によれば、親水性及び湿潤状態における柔軟性を有するセリシン多孔質体を得ることができる。本発明に係る製造方法では、高分子量セリシン抽出物を使用することから、高分子量セリシンを主成分とするセリシン多孔質体(以下、「本発明に係るセリシン多孔質体」という)を得ることができる。
【0044】
得られた本発明に係るセリシン多孔質体の親水性は、含水率・保水時間の測定等により評価することができる(Katoh, K.ら, Biomaterials, 2004, 25, 4255-4262)。あるいは、例えば、水中に浸漬した時、セリシン多孔質体の内部にまで水が取り込まれる場合に、親水性が良好であると判断することができる。
【0045】
得られた本発明に係るセリシン多孔質体の湿潤状態における柔軟性は、弾性率等の測定により評価することができる(Li, H.ら, Biomaterials, 2004, 25, 5473-5480)。あるいは、例えば、セリシン多孔質体が容易に変形し、ある程度の物理的な変形が自然に解消される特性を有する場合に、湿潤状態における柔軟性が良好であると判断することができる。
【0046】
本発明に係る製造方法によれば、エタノール等のアルコールを高分子量セリシンに添加することで、高分子量セリシンでの分子間水素結合の形成を促進することで、従来にはない成形性に優れたセリシンハイドロゲルを得ることができる。本発明に係る製造方法により得られたセリシンハイドロゲルは、保湿性等の上述したセリシンの機能性を有することから、それ自体又材料として、例えば、薬物徐放担体、組織再生材料及び土壌保水剤等に利用することができる。また、本発明に係る製造方法では、ハイドロゲルを構成する他成分とのブレンド、薬剤(例えば、架橋試薬)又は放射線照射等の装置等を用いることなく、セリシンハイドロゲルを簡便に製造できる。さらに、本発明に係る製造方法では、ハイドロゲルを構成する他成分とのブレンド又は薬剤(例えば、架橋試薬)を用いないので、セリシンハイドロゲルにおける残留物の危険性はない。
【0047】
一方、本発明に係る製造方法によりセリシンハイドロゲルから製造したセリシン多孔質体は、それ自体又材料として、例えば、組織再生のための支持体及び土壌保水剤等として利用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕 未処理の繭層からのセリシンの抽出
蚕品種「セリシンホープ(セリシンC)」から単離した未処理の繭層(以下、「生繭層」という)600mg、8M臭化リチウム水溶液24ml及び撹拌子を50ml遠沈管に入れ、ウォーターバス中で35℃に保ちながら、24時間撹拌した。24時間の撹拌後、上記50ml遠沈管から撹拌子を取り出し、遠心分離及びろ過により不溶物を除去した。次いで、得られたろ液に1M Tris-HCl buffer(pH 9)6mlを加え、溶液のpHを弱アルカリ性とした。
【0049】
上記溶液を透析チューブ(MWCO 6-8000, Spectrum Laboratories Inc., Rancho Dominguez, CA)に入れ、純水(外液3L)に対して透析を4回繰り返し、臭化リチウム等の低分子物質を除去した。透析後、得られた溶液中に生じる凝集物を除去するため、さらにろ過を行った。ろ過後に得られた溶液を以下で使用するセリシン水溶液とした。セリシン水溶液中のセリシン濃度は約1重量%であり、当該水溶液のpHは概ね7.5前後であった。
【0050】
得られたセリシン水溶液を等量のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)用のサンプルバッファーと混合し、得られた混合液を、3-10%グラジエントゲル(アトー株式会社)を用いる電気泳動に供した。電気泳動後の写真を図2に示す。図2において、左レーンは分子量マーカーであり、右レーンは、セリシン水溶液である。右レーン中、矢印で示すバンドがセリシンのバンド(>250kDa、約180kDa、約100kDa及び約60kDa)である。特に、分子量が大きい約100kDa、約180kDa及び>250kDaの3つのバンドがセリシンの主要成分と考えられる。
【0051】
図2に示すように、上記で得られたセリシン水溶液は、高分子量のセリシンを含んでいた。このように、蚕品種「セリシンホープ(セリシンC)」の生繭層には、不必要なフィブロインがほとんど含まれないため、高分子量のセリシンを含む水溶液を容易に調製できた。
【0052】
〔実施例2〕 生繭層から抽出したセリシンを用いたセリシンハイドロゲルの製造
実施例1で得られたセリシン水溶液5mlを、ポリスチレン製のサンプル管に入れ、さらにエタノール0.5mlを撹拌しながらゆっくりと添加した。エタノールの添加後、上記サンプル管を数秒間の超音波処理に供することで、溶液中の気泡を除去した。
【0053】
次いで、上記サンプル管中の溶液を冷蔵庫内で一晩静置した。一晩の静置後、得られたセリシンハイドロゲルを過剰量の純水に浸漬し、冷蔵庫内で1昼夜平衡化させた。なお、平衡化の際に、純水を数回交換することで、エタノールを除去した。得られたセリシンハイドロゲルの写真を図3に示す。
【0054】
図3に示すように、上述した方法によりゴム状の弾性を有する成形性に優れたセリシンハイドロゲルが得られた。
【0055】
さらに、得られたセリシンハイドロゲルの含水率を、熱天秤で測定した。結果を以下の表1に示す。
【0056】
【表1】

表1の結果より、セリシンハイドロゲルは非常に高い含水率を示すことが分かった。
【0057】
〔実施例3〕 生繭層から抽出したセリシン水溶液に各種アルコールを添加して得られるセリシンハイドロゲルの性状比較
本実施例では、生繭層から抽出したセリシン水溶液に各種アルコールを添加し、得られるセリシンハイドロゲルの性状を比較した。
【0058】
実施例1で得られたセリシン水溶液2mlを、ポリスチレン製のサンプル管に入れ、各種アルコール(メタノール、エタノール、2-プロパノール及び1-ブタノール)0.2mlを撹拌しながらゆっくりと添加したこと以外は、実施例2と同様にしてセリシンハイドロゲルを製造した。
【0059】
セリシン水溶液に各種アルコールを添加することで得られたセリシンハイドロゲルの写真を図4に示す。図4において、左からメタノール、エタノール、2-プロパノール及び1-ブタノールを、それぞれセリシン水溶液に添加して得られたセリシンハイドロゲルである。
【0060】
図4に示すように、セリシン水溶液にメタノール又は1-ブタノールを添加して得られたセリシンハイドロゲルはもろいことが判った。また、セリシン水溶液に2-プロパノールを添加して得られたセリシンハイドロゲルでは、沈殿が生じ、白濁した。一方、セリシン水溶液にメタノール又は1-ブタノールを添加して得られたセリシンハイドロゲルと比較して、セリシン水溶液にエタノールを添加して得られたセリシンハイドロゲルは強固であった。また、セリシン水溶液にエタノールを添加して得られたゲルは、沈殿が生じることなく透明であった。以上から、セリシン水溶液をゲル化させる場合には、エタノールが最も適していることが判った。
【0061】
〔実施例4〕 生繭層から抽出したセリシンを用いて製造したセリシンハイドロゲルの構造評価
実施例1で得られた透析後のセリシン水溶液と、実施例2に記載のセリシンハイドロゲルをエタノールに浸漬することで得られたセリシンハイドロゲルとの赤外吸収スペクトルの比較により、エタノール添加による構造変化を確認した。
【0062】
赤外吸収スペクトルの測定は、全反射(ATR)法により行い、分解能4cm-1で64回の積算によりスペクトルを得た。使用した機器は、分光計FT/IR-350(日本分光製)、ATRユニットDuraSamplIR II(SensIR Technologies 社製)であった。
【0063】
測定により得られたセリシン水溶液及びセリシンハイドロゲルの赤外吸収スペクトルから、それぞれ溶媒による吸収を差し引いたスペクトルを図5に示す。なお、図5では、アミドI・II吸収帯のみを示す。
【0064】
図5に示すように、セリシン水溶液中のセリシンは、アミドI吸収帯においてランダム構造に帰属される1641cm-1に吸収を示す。一方、セリシンハイドロゲルは、アミドI吸収帯においてβシート構造に帰属される1620cm-1に吸収を示す。以上の結果は、エタノールの添加がセリシン分子間での水素結合の形成を促し、その結果、三次元網目構造が生じてセリシンハイドロゲルとなることを示唆している。
【0065】
〔実施例5〕 生繭層から抽出したセリシン水溶液からセリシンハイドロゲルへのゲル化能評価
実施例1で得られたセリシン水溶液2mlを5分間又は20分間煮沸した後、エタノール0.2mlを添加し、実施例2と同様にしてセリシンハイドロゲルを製造した。
【0066】
得られたセリシンハイドロゲルの写真を図6に示す。
図6において、左の写真が5分間煮沸後のセリシン水溶液から製造したセリシンハイドロゲルであり、また右の写真が20分間煮沸後のセリシン水溶液から製造したセリシンハイドロゲルである。
【0067】
図6に示すように、5分間煮沸後のセリシン水溶液からは、煮沸していないセリシン水溶液からと同様のセリシンハイドロゲルが得られた。一方、20分間煮沸後のセリシン水溶液からは、もろく形状が安定しないセリシンハイドロゲルが得られた。
【0068】
また、未処理(煮沸なし)のセリシン水溶液並びに5分間及び20分間煮沸した後のセリシン水溶液を、それぞれ等量のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)用のサンプルバッファーと混合し、得られた混合液を、3-10%グラジエントゲル(アトー株式会社)を用いる電気泳動に供した。電気泳動後の写真を図7に示す。図7において、各レーンは、以下の通りである。1レーン:分子量マーカー、2レーン:未処理のセリシン水溶液、3レーン:5分間煮沸した後のセリシン水溶液及び4レーン:20分間煮沸した後のセリシン水溶液。なお、矢印で示すバンドがセリシンのバンド(>250kDa、約180kDa、約100kDa及び約60kDa)である。特に、分子量が大きい>250kDa、約180kDa及び約100kDaの3つのバンドがセリシンの主要成分と考えられる。
【0069】
図7に示すように、20分間煮沸した後においても、セリシン水溶液中のセリシンのバンドは、明瞭であるが、スメアの発生により分子の分解が幾らか進行していると考えられた。
【0070】
以上の結果は、わずかなセリシン分子の崩壊や変性が、セリシンハイドロゲルの強度に大きな影響を与えることを示している。
【0071】
〔実施例6〕 生繭層から抽出したセリシンを用いたセリシン多孔質体の製造
実施例2で得られたセリシンハイドロゲルを、純水に浸漬し、-25℃の冷凍庫内に溶液が完全に凍結するまで放置した。凍結後、凍結乾燥機において、凍結させたセリシンハイドロゲルから水分を除去することで、セリシン多孔質体を得た。なお、使用した凍結乾燥機はFDU-830(東京理化器械株式会社製)で、冷却トラップの最高到達温度は-80℃であった。得られたセリシン多孔質体の写真を図8に示す。
【0072】
図8に示すように、上述した方法により、親水性及び湿潤状態における柔軟性を有するセリシン多孔質体が得られた。
【0073】
〔実施例7〕 中部絹糸腺から抽出したセリシンを用いたセリシンハイドロゲルの製造
生繭層の代わりに、蚕品種「セリシンホープ(セリシンC)」より摘出し、凍結乾燥した中部絹糸腺内容物200mgを使用し、また8M臭化リチウム水溶液及び1M Tris-HCl buffer(pH9)等の溶媒・試薬を全て3分の1の容量で使用したこと以外は、実施例1と同様にしてセリシン水溶液を得た。
【0074】
得られたセリシン水溶液5mlを、50mlのガラス製遠沈管に入れ、さらにエタノール0.5mlを撹拌しながら、ゆっくりと添加したこと以外は、実施例2と同様にしてセリシンハイドロゲルを製造した。得られたセリシンハイドロゲルの写真を図9に示す。
【0075】
図9に示すように、得られたセリシンハイドロゲルは、実施例2において生繭層から抽出したセリシンを用いて製造したセリシンハイドロゲルと同様に、ゴム状の弾性を有し、成形性に優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、本発明に係るセリシンハイドロゲル及びセリシン多孔質体の製造方法の工程を示す模式図である。
【図2】図2は、生繭層から抽出したセリシン水溶液の電気泳動後の写真を示す。
【図3】図3は、本発明に係るセリシンハイドロゲルの製造方法によって生繭層から抽出したセリシンを用いて製造したセリシンハイドロゲルの写真を示す。
【図4】図4は、生繭層から抽出したセリシン水溶液に各種アルコールを添加することで得られたセリシンハイドロゲルの写真を示す。
【図5】図5は、生繭層から抽出したセリシン水溶液及びセリシンハイドロゲルの赤外吸収スペクトルから、それぞれ溶媒による吸収を差し引いたスペクトルを示す。
【図6】図6は、生繭層から抽出し、5分間又は20分間煮沸した後のセリシン水溶液から製造したセリシンハイドロゲルの写真を示す。
【図7】図7は、未処理(煮沸なし)の生繭層から抽出したセリシン水溶液並びに生繭層から抽出し、5分間及び20分間煮沸した後の各セリシン水溶液の電気泳動後の写真を示す。
【図8】図8は、本発明に係るセリシン多孔質体の製造方法によって生繭層から抽出したセリシンを用いて製造したセリシン多孔質体の写真を示す。
【図9】図9は、本発明に係るセリシンハイドロゲルの製造方法によって中部絹糸腺から抽出したセリシンを用いて製造したセリシンハイドロゲルの写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蚕由来の絹糸腺、繭層又は繭から50kDa以上の分子量を有するセリシン抽出物を抽出する第1工程と、
上記第1工程で抽出したセリシン抽出物にアルコールを添加する第2工程と、
上記第2工程で得られたセリシン抽出物及びアルコールを含む混合物を放置する第3工程と、
を含むことを特徴とする、セリシンハイドロゲルの製造方法。
【請求項2】
上記蚕由来の絹糸腺、繭層又は繭が、蚕品種セリシンホープに由来するものであることを特徴とする、請求項1記載のセリシンハイドロゲルの製造方法。
【請求項3】
上記蚕由来の絹糸腺、繭層又は繭が、未処理のものであることを特徴とする、請求項1記載のセリシンハイドロゲルの製造方法。
【請求項4】
上記セリシン抽出物中のセリシン濃度が、0.5〜3重量%であることを特徴とする、請求項1記載のセリシンハイドロゲルの製造方法。
【請求項5】
上記アルコールが、エタノールであることを特徴とする、請求項1記載のセリシンハイドロゲルの製造方法。
【請求項6】
上記第2工程において、添加するアルコール量が、セリシン抽出物に対して5〜30容量%であることを特徴とする、請求項1記載のセリシンハイドロゲルの製造方法。
【請求項7】
上記第3工程の後に、セリシンハイドロゲルを水に浸漬する工程を含むことを特徴とする、請求項1記載のセリシンハイドロゲルの製造方法。
【請求項8】
50kDa以上の分子量を有するセリシンを主成分とするセリシンハイドロゲル。
【請求項9】
蚕由来の絹糸腺、繭層又は繭から50kDa以上の分子量を有するセリシン抽出物を抽出する第1工程と、
上記第1工程で抽出したセリシン抽出物にアルコールを添加する第2工程と、
上記第2工程で得られたセリシン抽出物及びアルコールを含む混合物を放置する第3工程と、
上記第3工程で得られたセリシンハイドロゲルを凍結乾燥する第4工程と、
を含むことを特徴とする、セリシン多孔質体の製造方法。
【請求項10】
上記蚕由来の絹糸腺、繭層又は繭が、蚕品種セリシンホープに由来するものであることを特徴とする、請求項9記載のセリシン多孔質体の製造方法。
【請求項11】
上記蚕由来の絹糸腺、繭層又は繭が、未処理のものであることを特徴とする、請求項9記載のセリシン多孔質体の製造方法。
【請求項12】
上記セリシン抽出物中のセリシン濃度が、0.5〜3重量%であることを特徴とする、請求項9記載のセリシン多孔質体の製造方法。
【請求項13】
上記アルコールが、エタノールであることを特徴とする、請求項9記載のセリシン多孔質体の製造方法。
【請求項14】
上記第2工程において、添加するアルコール量が、セリシン抽出物に対して5〜30容量%であることを特徴とする、請求項9記載のセリシン多孔質体の製造方法。
【請求項15】
上記第3工程の後に、セリシンハイドロゲルを水に浸漬する工程を含むことを特徴とする、請求項9記載のセリシン多孔質体の製造方法。
【請求項16】
上記第4工程において、セリシンハイドロゲルを水の共存下で凍結乾燥することを特徴とする、請求項9記載のセリシン多孔質体の製造方法。
【請求項17】
50kDa以上の分子量を有するセリシンを主成分とするセリシン多孔質体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−111667(P2006−111667A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298096(P2004−298096)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】