セルアレイソータ、その製造方法及びそれを用いた細胞ソート方法
【課題】個々の細胞を規則正しく基板上に接着し且つ接着された細胞を損傷することなく遊離させ回収することが可能なセルアレイソータの提供。
【解決手段】外部からの刺激に応じて、各金属膜スポット12への細胞の接着と、各金属膜スポット12からの細胞の遊離とを行うセルアレイソータは、基板11の上にマトリックス状に形成された複数の金属膜スポット12と、各金属膜スポット12の表面に固定され、外部からの刺激に応答して疎水性の強さが変化する刺激応答性ポリマー13とを備える。
【解決手段】外部からの刺激に応じて、各金属膜スポット12への細胞の接着と、各金属膜スポット12からの細胞の遊離とを行うセルアレイソータは、基板11の上にマトリックス状に形成された複数の金属膜スポット12と、各金属膜スポット12の表面に固定され、外部からの刺激に応答して疎水性の強さが変化する刺激応答性ポリマー13とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部からの刺激に応じて細胞の接着及び遊離を行うセルアレイソータ、その製造方法及びそれを用いた細胞ソート方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞を培養したり、細胞に対して薬剤の影響等を評価したりする細胞工学の分野が著しい発展を遂げている。細胞に対して種々のアッセイを行うためには、まず組織又は病巣等の細胞同士をばらばらにして浮遊させ、種々の細胞が含まれる浮遊液から目的とする細胞を単離し、単離した細胞を必要に応じて培養した後、薬剤の影響等を評価する必要がある。
【0003】
このような、細胞を用いて種々のアッセイを行うために、適当な間隔でスポット上に細胞を接着した基板である細胞アレイが用いられている。細胞アレイを用いて、特定の遺伝子を用いて基板に接着された細胞を形質転換することによる発現解析を行ったり、基板上において薬物の毒性や安全性評価等を行うことが研究されている。
【0004】
細胞アレイを形成するためには、基板上に細胞の接着領域及び非接着領域を規則正しく形成する必要がある。そのために、細胞の接着領域と非接着領域とをスイッチングすることについても検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。また、インクジェットプリンタを用いて細胞接着領域を規則的に配置する方法についても検討されている(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開2006−006214号公報
【特許文献2】特開2003−33177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、細胞アレイは細胞を接着して利用することを目的とするものである。細胞を接着して、種々のアッセイ等を行った後、再び細胞を遊離させて回収するということについてはほとんど考慮されていない。
【0006】
しかし、接着した細胞の形質転換を行ったり、標識を行ったりした後に、細胞を傷つけることなく遊離させて回収したいという要求がある。このため、細胞接着領域を温度応答性のポリマー等を用いて形成する手法もあるが、適切に親水性と疎水性とが変化し、細胞に影響を与えないポリマーを用いた細胞アレイは実用化されていない。
【0007】
一方、種々の細胞の中から目的とする細胞を選択的に取り出すセルソートという技術が必要とされている。細胞レベルでソーティングを行う技術としては、光ピンセット等の技術があるが、操作が煩雑であり、大量の細胞を取り扱うには不向きであるという問題がある。
【0008】
また、セルソートによって選択的に回収された細胞は、細胞アレイを用いて種々のアッセイを行うことが多く、セルソートの技術と細胞アレイの技術との融合により細胞のアッセイ技術をさらに進歩させることができると考えられる。
【0009】
本発明は、前記従来の問題を解決し、個々の細胞を規則正しく基板上に接着し且つ接着された細胞を損傷することなく遊離させ回収するセルアレイソータを実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明はセルアレイソータを、刺激応答性ポリマーが固定された金属膜スポットが規則的に配置された構成とする。
【0011】
具体的に本発明に係るセルアレイソータは、基板の上に互いに間隔をおいて行列状に形成された複数の金属膜スポットと、各金属膜スポットの表面に固定され、外部からの刺激に応答して疎水性の強さが変化する刺激応答性ポリマーとを備え、外部から刺激に応じて、各金属膜スポットへの細胞の接着と、各金属膜スポットからの細胞の遊離とを行うことを特徴とする。
【0012】
本発明のセルアレイソータによれば、基板の上にマトリックス状に形成された複数の金属膜スポットと、各金属膜スポットの表面に固定され、外部からの刺激に応答して疎水性の強さが変化する刺激応答性ポリマーとを備えているため、マトリックス状に形成された金属スポットの表面に細胞を接着させることができ且つセルアレイソータが置かれた環境を変化させることにより、接着した細胞にダメージを与えることなく回収することができる。
【0013】
本発明のセルアレイソータにおいて、刺激応答性ポリマーの表面は、細胞を特異的に認識する機能を有する機能性分子により修飾されており、各金属膜スポットには、機能性分子により認識された細胞が接着されることが好ましい。このような構成とすることにより、セルアレイソータに選択的に細胞を接着することが可能となる。従って、特定の細胞を選択的に回収するセルソートを行うことが可能となる。
【0014】
本発明のセルアレイソータにおいて、刺激応答性ポリマーは、少なくともN−2−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド及びメタクリル酸メチルをコモノマーとして含む共重合体であることが好ましい。このような構成とすることにより、培養に適した温度において細胞の接着と遊離とを行うことができ且つ細胞に対する親和性が高く、細胞にダメージを与えることがないセルアレイソータが実現できる。
【0015】
本発明のセルアレイソータにおいて、各金属膜スポットの径は、0.1μm以上且つ300μm以下であることが好ましい。このような構成とすることにより、各金属スポットに1つの細胞が接着されるようになり、細胞の観察等が容易となる。
【0016】
本発明のセルアレイソータにおいて、各金属膜スポットは、金からなり、刺激応答性ポリマーは、末端にチオール基を有するポリマーであり、刺激応答性ポリマーは、金属膜スポットの表面と共有結合していることが好ましい。このような構成とすることにより、刺激応答性ポリマーを金属膜スポットの表面に確実に固定できる。
【0017】
本発明のセルアレイソータにおいて、各金属膜スポット表面にそれぞれ形成されたチオール基を有する有機薄膜をさらに備え、刺激応答性ポリマーは、有機薄膜の表面からグラフト重合により成長させたグラフトポリマーであることが好ましい。このような構成とすることにより、金属膜スポットの表面に刺激応答性ポリマーを直接固定することができる。
【0018】
本発明のセルアレイソータにおいて、刺激応答性ポリマーは、温度に応答するポリマーであっても、光に応答するポリマーであってもよい。
【0019】
本発明に係るセルアレイソータの製造方法は、細胞を接着した後、接着した細胞を遊離して回収するセルアレイソータの製造方法を対象とし、基板の上に金属膜を形成した後、形成した金属膜をフォトリソエッチングすることにより基板の上に、金属膜から複数の金属膜スポットを行列状に形成する工程(a)と、各金属膜スポットの表面に外部からの刺激に応答して疎水性の強さが変化する刺激応答性ポリマーを固定する工程(b)とを備えていることを特徴とする。
【0020】
本発明のセルアレイソータの製造方法によれば、基板の上に金属膜を形成した後、形成した金属膜をフォトリソエッチングすることにより基板の上に複数の金属膜スポットをマトリックス状に形成する工程を備えているため、金属膜スポットを容易に規則正しく形成することができる。従って、個々の細胞を規則正しく基板上に接着し且つ接着された細胞を損傷することなく遊離させ回収するセルアレイソータを容易に実現できる。
【0021】
本発明のセルアレイソータの製造方法は、刺激応答性ポリマーの表面を、細胞を特異的に認識する機能を有する機能性分子により修飾する工程(c)をさらに備えていることが好ましい。このような構成とすることにより、金属膜スポットの表面に特定の細胞を選択的に接着することが可能となる。
【0022】
本発明のセルアレイソータの製造方法において工程(a)において、金属膜は、真空蒸着法、スパッタリング法又はメッキ法により形成することが好ましい。
【0023】
本発明のセルアレイソータの製造方法において、各金属膜スポットは金からなり、工程(a)よりも前に、基板の表面にニッケル及びクロムの少なくとも一方からなる中間層を形成する工程(d)をさらに備えていることが好ましい。
【0024】
本発明のセルアレイソータの製造方法において、各金属膜スポットは金からなり、工程(a)よりも前に、基板の表面を不活性ガス、酸素、一酸化炭素及び二酸化炭素のうちの1つ又は少なくとも2つからなる混合ガスを用いてプラズマ処理する工程(e)をさらに備えていることが好ましい。
【0025】
本発明のセルアレイソータの製造方法において工程(b)は、刺激応答性ポリマーの末端にチオール基を導入する工程と、チオール基を導入した刺激応答性ポリマーを各金属膜スポットの表面と反応させる工程とを含むことが好ましい。
【0026】
本発明のセルアレイソータの製造方法において工程(b)は、各金属膜スポットの表面にチオール基を有する化合物からなる有機薄膜をそれぞれ形成した後、形成した有機薄膜をプラズマ処理して活性化する工程と、活性化した有機薄膜の表面にグラフト重合により刺激応答性ポリマーを形成する工程とを含むことが好ましい。
【0027】
本発明に係る細胞ソート法は、基板の上に互いに間隔をおいて行列状に形成された複数の金属膜スポットと、各金属膜スポットの表面に固定され、外部からの刺激に応答して疎水性の強さが変化し且つ表面が細胞を特異的に認識する機能性分子表面により修飾された刺激応答性ポリマーとを備えたセルアレイソータを用い、複数種類の細胞が含まれる細胞浮遊液とセルアレイソータとを接触させることにより、機能性分子が認識する細胞を、各金属膜スポットの表面に選択的に接着する工程と、細胞が接着されたセルアレイソータに対して外部から刺激を与えることにより、セルアレイソータから細胞を遊離させて回収する工程とを備えていることを特徴とする。
【0028】
本発明に係る細胞ソート法によれば、表面が細胞を特異的に認識する機能性分子表面により修飾された刺激応答性ポリマーとを備えたセルアレイソータを用い、機能性分子が認識する細胞を、各金属膜スポットの表面に選択的に接着する工程と、細胞が接着されたセルアレイソータに対して外部から刺激を与えることにより、セルアレイソータから細胞を遊離させて回収する工程とを備えているため、特定の細胞を選択的に分別してセルアレイソータに接着させ、再び遊離させて回収することができる。また、必要に応じて、接着された細胞のアッセイを行ったり、形質転換等の処理を行ったりした後、回収することが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るセルアレイソータによれば、個々の細胞を規則正しく基板上に接着し且つ接着された細胞を損傷することなく遊離させ回収するセルアレイソータを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の一実施形態に係るセルアレイソータ及びその製造方法について図面を参照して説明する。図1は本実施形態に係るセルアレイソータの外観の一例を示しており、図2(a)及び(b)は基板上に形成された金属膜スポット部分の一例である。
【0031】
セルアレイソータとは、細胞浮遊液中から特定の細胞を分別して回収するセルソーティング法に用いるチップであり、所定のパターンに従って複数の細胞脱着スポットが配置された基板である。細胞脱着スポットは、細胞が接着される疎水性の状態と、接着された細胞が遊離する親水性の状態とを、周囲の温度若しくはイオン強度又は光の照射等によって相互に交換できる部位である。また、細胞脱着スポットの表面は必要に応じて抗体、抗原及びレクチン等の特定の細胞を認識する機能性分子により修飾されている。
【0032】
細胞脱着スポットが疎水性の状態となる条件下で、セルアレイソータを細胞浮遊液中に浸漬し、細胞を細胞脱着スポットに接着させる。細胞脱着スポットの表面が機能性分子により修飾されている場合には、機能性分子を認識する特定の細胞のみが細胞脱着スポットに接着する。次に、セルアレイソータを、細胞脱着スポットが親水性の状態となる条件に置くことにより、細胞脱着スポットに接着した細胞を遊離させて回収する。また、細胞が接着した状態において種々のアッセイを行うこともできる。さらに、細胞が所定のパターンに配置されるため、2次元的な組織類似の配置とすることにより機能発現をさせたりすることも可能である。
【0033】
このように、セルアレイソータを用いることにより大量の細胞を簡便に取り扱うことができる。また、機能性分子を用いることにより、容易にセルソーティングを行い、必要とする細胞を簡単に回収することができる。
【0034】
図1及び2に示すように本実施形態のセルアレイソータは、ガラスからなる基板11の上に金属膜スポット12がマトリックス状に形成されている。各金属膜スポットの上には、温度等の外部からの刺激により疎水性の強さを制御することができる刺激応答性ポリマー13が固定されている。刺激応答性ポリマーの表面には必要に応じて、抗原、抗体、DNA及びレクチン等の細胞を特異的に認識する機能性分子により修飾されている。
【0035】
刺激応答性ポリマーが疎水性を示す条件において、セルアレイソータを種々の細胞が混在する細胞浮遊液中に浸漬することにより、金属膜スポットの表面のみに細胞が接着される。各金属膜スポット12の大きさ及び間隔は、接着する細胞のサイズに合わせて設定されており、各金属膜スポット12の表面には、通常それぞれ1個の細胞が接着される。従って、各金属膜スポット12の表面に接着された細胞を個々に識別しながら観察したり、スクリーニングをしたりすることができる。
【0036】
セルアレイソータに接着された細胞は、必要に応じて種々の操作を行った後、例えば温度を変化させて刺激応答性ポリマー13を親水性に変化させることにより、金属膜スポット12の表面から遊離させて回収することができる。
【0037】
また、刺激応答性ポリマーの表面が機能性分子により修飾されている場合には、機能性分子を認識して反応する細胞のみが金属膜スポットの表面に選択的に接着される。この後、接着された細胞を遊離させて回収すれば、種々の細胞が混在する細胞浮遊液の中から選択的に細胞を取り出すソーティングが可能となる。選択的に接着した細胞に対して、金属膜スポットの表面に接着された状態のままスクリーニング等を行ってもよい。
【0038】
以下に、本実施形態のセルアレイソータの製造方法について説明する。セルアレイソータの製造工程は、まず基板11の上に金属膜スポット12をマトリックス状に形成する。本実施形態のセルアレイソータでは、基板11には、75mm×25mmのガラス基板(松浪ガラス製BK7材)を用い、金属膜スポット12には金を用いている。
【0039】
金属膜スポット12の製造工程は、まず、基板11の上に金からなる金属薄膜をRFマグネトロンスパッタ法にて形成する。金属薄膜の膜厚に特に制限はないが、後に述べるエッチング工程において、側面がエッチングされてダメージを受けることを抑えるために、500nm以下とすることが好ましい。
【0040】
本実施形態においては、極力薄い膜厚且つ安定した測定が可能な膜厚として50nmの膜厚を選択した。膜厚は、触針式表面形状測定器(アルバック製 DEKTAK)により求めた値である。
【0041】
なお、金属薄膜の基板11に対する密着性を向上させるために、基板11の表面にプラズマを照射し、イオンボンバードクリーニングを行った後、金属薄膜を形成することが好ましい。基板11の表面をプラズマ処理して活性化させることにより、金属薄膜と基板11との密着性が改善する。また、クロム(Cr)又はニッケル(Ni)等の基板11との密着性が高い薄膜からなる中間層を形成した後に、スパッタリングを行ってもよい。図3は、基板11の上に形成された金からなる金属薄膜を粘着テープにより引き剥がした結果を示している。プラズマ処理を行った場合及びCrからなる中間層を形成した場合には、金からなる金属薄膜はガラスから剥離せず、金属薄膜と基板11との密着性が改善できることが明らかである。
【0042】
成膜にあたりRFマグネトロンスパッタ法以外にもDCマグネトロンスパッタ法、化学気相堆積法(CVD法)、プラズマCVD法、プラズマイオン注入法、重畳型RFプラズマイオン注入法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法又はレーザーアブレーション法を用いてもよい。
【0043】
次に、図4に示すように金属薄膜をフォトリソエッチング法により加工して金属膜スポット12を形成する。
【0044】
金からなる金属薄膜は、水溶液系、有機溶剤系及び有機溶剤含有水溶液系のいずれのエッチング液を用いてエッチングしてもよい。本実施形態においては、エッチング液に水溶液系のヨウ素とヨウ化カリウムとをエタノール溶媒で希釈したものを用いた。
【0045】
なお、水溶液系エッチング液の例には、シアン系と、王水系と、ヨウ素系があり、有機溶剤系エッチング液の例としては、ハロゲン、陽イオン界面活性剤及び有機溶剤からなる液と、ハロゲン、ハロゲン化塩及び有機溶剤からなる液とを挙げることができる。金属膜スポット12のサイズ及びピッチは、細胞のサイズに応じて設定すればよく、0.1μm以上且つ300μm以下であればよい。本実施形態においては、直径が30μmの円形状の金属膜スポット12を50μmのピッチで形成した。このレイアウトにより75mm×25mmの一般的なスライドガラスへ約30万個の金属膜スポット12を形成することが可能であり、細胞のソートにおいて高い生産性を実現することが可能となる。また従来の細胞アレイ用途としてもハイスループットの観測、測定が可能となる。
【0046】
なお、基板11のサイズ及び材質は目的に応じて自由に選択が可能である。また、金属膜スポット12のレイアウトは目的の細胞サイズ等に応じて自由に調整することが可能である。本実施形態において金属膜スポット12を平面円形状に形成したが、方形状等の他の形状であってもよい。また、基板をエッチングして凹部を形成し、形成した凹部に金属を埋め込むことにより金属膜スポット12を形成してもよい。このようにすれば、金属膜スポットのエッジ部分に細胞が接着されることを防ぐことができる。
【0047】
次に、金属膜スポット12への刺激応答性ポリマー13の固定化を行う。金属膜スポット12への刺激応答性ポリマー13の固定化は、図5に示す2つの方法のどちらを用いて行ってもよい。
【0048】
第1の方法は、図5(a)に示すように刺激応答性のポリマーを重合した後、重合したポリマーの末端にチオール基を導入し、導入したチオール基と金属膜スポット12の表面とを反応させて固定化する方法である。この方法は、ポリマーを重合した後に固定化を行うため、ポリマーの分子量、組成等の制御が容易である。
【0049】
第2の方法は、図5(b)に示すように金属膜スポット12の表面にチオール化合物を用いて有機薄膜を形成した後、低温プラズマ処理とポストグラフト重合を行うことにより、有機薄膜の表面において刺激応答性ポリマー13を重合して固定化する方法である。この方法は、ポリマーにチオール基を導入する工程が不要であり、簡便に刺激応答性ポリマーを固定化することが可能である。
【0050】
金属膜スポット12への刺激応答性ポリマー13の固定化については、後で詳細に説明する。
【0051】
刺激応答性ポリマー13が固定化された各金属膜スポット12は、外部からの温度、光及びpH等の刺激により表面を疎水性にしたり親水性にしたりすることができる。従って、疎水性の状態において細胞を接着し、親水性の状態において細胞を遊離させることが可能である。
【0052】
さらに、刺激応答性ポリマー13の表面を、抗原、抗体、DNA及びレクチン等の認識機能を有する機能性分子により修飾しておくことにより、種々の細胞の中から選択的に細胞を接着し且つ自由に遊離させて回収することが可能となる。刺激応答性ポリマー13の表面を機能性分子により修飾する方法は、既知のポリマー表面への機能性分子の修飾方法を用いることができる。
【0053】
例えば、刺激応答性ポリマー中の官能基の一部を置換して、スクシンイミド等の反応性の官能基とし、抗原、抗体又はレクチン等の機能性分子を直接反応させればよい。また、刺激応答性ポリマーを重合する際に、反応性の部位を有するモノマーを共重合してもよい。さらに、2官能性試薬を用いて機能性分子を固定してもよい。
【0054】
以下に、金属膜スポット12の表面に刺激応答性ポリマー13を固定化する方法についてさらに詳細に説明する。
【0055】
−第1の方法−
第1の方法により、金属膜スポット12の表面に刺激応答性ポリマーを固定化する方法について説明する。
【0056】
例えば、2−N−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド(HPMA)及びメタクリル酸メチル(MMA)を、連鎖移動剤の存在下において、過酸化物系又はアゾ系開始剤を用いてラジカル重合して、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド−メタクリル酸メチル共重合体(P(HPMA−co−MMA))を得る。連鎖移動剤にカルボキシル基又はアミノ基等の反応性末端を分子中に含むチオール化合物を用いることにより、末端にカルボキシル基あるいはアミノ基等の反応性を有するポリマーを得る。得られたポリマーは、相転移温度を境に親水性と疎水性とが入れ替わる温度応答性のポリマーとなる。
【0057】
なお、相転移温度は重合度により変化し、重合度は、重合温度、開始剤及び連鎖移動剤の添加量等を調整することにより制御できる。また、相転移温度を制御するために、MMAの変わりにブチルメタクリレート等のアルキルメタクリート、アルキルアクリルアミド等の疎水性アルキルを有するビニルモノマーを使用することもできる。ここでアルキル基は直鎖あるいは環状脂肪族であるが、適度な疎水性を与えるものであればこれらのアルキル基の少なくとも一部が官能基により置換されていてもよい。
【0058】
また、温度以外の外部刺激に応答するポリマーを得ることもできる。例えば、銅クロロフィリン錯体を三元共重合することにより、光刺激に応答するポリマーを得ることが可能である。P(HPMA−co−MMA)鎖に銅クロロフィリン錯体を三元共重合したポリマーは青、緑及び赤光等の可視光の照射によって疎水性となる性質を有している。
【0059】
さらに、アクリル酸、メタクリル酸、アリルアミン、両性イオン構造のNα−メタクリルアミド−L−リジン、Nε−メタクリルアミド−L−リジン及びO−メタクリロイル−L−セリン等と三元共重合することにより、pHに応答するポリマーを得ることができる。また、アクリルアミド系モノマー、2−(メタクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリン(MPC)等の親水性モノマーを共重合することにより、親水性及び生体親和性を向上させ、細胞の接着性又は遊離性能を制御してもよい。
【0060】
また、生体適合性を例えばMPC等で強化したものであればP(HPMA−co−MMA)以外の刺激応答性ポリマーを用いることも可能である。
【0061】
得られた刺激応答性ポリマーの末端の官能基と反応する官能基を有するチオール基と反応させP(HPMA−co−MMA)の末端をSH化する。例えばポリマー鎖末端が−COOH基であれば、メルカプトアミンと反応させる。このとき、カルボキシル基やアミノ基を活性化するカルボジイミド系縮合剤を使用して末端の反応性を高めてもよい。末端基の反応性を高めポリマー鎖中に含まれる水酸基、アミド基及びエステル基等と反応しない試薬であれば、活性化剤はカルボジイミド系に限るものではない。
【0062】
反応後のポリマーは水溶性の低分子成分を除くためセルロースアセテート系チューブ等を用いて透析して生成する。ポリマー中から未反応の低分子成分が除くことができ、末端SH基が失活しなければ、再沈殿法等による精製でもよい。
【0063】
末端にSH基を導入した刺激応答性ポリマーは、金属膜スポット12の表面を酸化処理剤等により洗浄して活性化した後、直ちに反応させる。反応の際に超音波を印加することにより、金属膜スポット12と刺激応答性ポリマーとの接触が促進され、反応性を高めることができる。また、基板11から金属膜スポット12が剥離しなければ加温して反応させてもよい。反応後は刺激応答性高分子が十分に溶解する溶剤にて洗浄して未反応の刺激応答性高分子を除去する。
【0064】
−第2の方法−
金属膜スポット12の表面を酸化処理剤等で洗浄したのち、金属膜スポット12の表面とアルキルチオール又はチオコレステロール等のチオール化合物と反応させて金属膜スポット12の表面のみに有機薄膜を形成する。有機薄膜と金属膜スポット12とを反応させる際には、エタノール等の溶剤に溶解させたチオール化合物を溶解させた溶液として反応させればよい。反応終了後、未反応のチオール化合物を溶剤により除去し、真空乾燥する。
【0065】
次に、形成した有機薄膜に酸素又はアルゴン等のプラズマを照射して、有機薄膜の表面にフリーラジカルを発生させる。発生させたフリーラジカルは酸素を含むガス中に暴露することにより過酸化物に転化する。続いて、刺激応答性を発現するモノマーをポストグラフト重合する。フリーラジカルは、紫外光、γ線等の高エネルギー粒子線又は酸化処理剤等を利用して発生させてもよい。また、フリーラジカルを酸素含むガス中において発生させることにより、フリーラジカルから過酸化物への転化を同時に行ってもよい。ポスト重合の際のモノマー濃度、重合温度、重合時間及び連鎖移動剤等の添加剤の量によりグラフト鎖長を制御することにより、種々の特性の刺激応答性ポリマーを金属膜スポットの表面に固定できる。
【0066】
有機薄膜を形成するチオール化合物は、低温プラズマの照射によってフリーラジカルを生成しやすいチオール化合物を用いることが好ましい。
【0067】
(第1の実施例)
以下に、第1の方法により金属膜スポット12に刺激応答性ポリマーを固定化する具体的な実施例を示す。
【0068】
まず、3.0g(21.0mmol)のN−2−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド(HPMA)及び所定量のメタクリル酸メチル(MMA)を、連鎖移動剤である0.019g(0.21mmol)のメルカプト酢酸と、開始剤である0.024g(0.105mmol)の2、2’−アゾビスイソ酪酸メチル(MIBE)と共に、10mLのエタノールに溶解させて、ガラス製重合管に入れた。冷却−脱気−窒素置換を繰り返し行い、エタノール中の溶存酸素を除去した後、60℃で20h振り混ぜて重合を行った。重合終了後、封管内容物を多量のジエチルエーテル中に注入して末端にカルボキシル基を有するポリマー(P(HPMA−co−MMA))を析出させた。なお、MMA配合量を変化させることにより、相転移温度が異なる3種類の刺激応答性ポリマーI〜IIIを得た。反応式を図6に、I〜IIIのキャラクタリゼーションを表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
次に、培養温度付近に相転移温度を示すポリマーIIIを用いて末端チオール化を試みた。ポリマー鎖末端のカルボキシル基の活性化を行うため、400mLの四つ口フラスコに、0.5gのP(HPMA−co−MMA)を20mLのN、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した。
【0071】
次に、5mLのDMFに縮合活性化剤である1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を0.1917g(1mmol)溶解させた溶液を加え、常温で24時間撹拌した。その後、反応液をクロロホルム中入れ、ポリマーを沈殿させ、1G−4のグラスフィルターで吸引ろ過した。
【0072】
次に、100mLの四つ口フラスコにEDCでカルボキシル基を活性化したP(HPMA−co−MMA)を入れ、5mLのDMFに溶解させてチオール基を保護した0.23g(1.0mmol)のS−フルオレニルメチルL−システイン塩酸塩(H−Cys(Fm)−OH)を加え、常温で24時間反応させた後、蒸留水400mLを加えて50℃で6時間かき混ぜ反応させた。
【0073】
その後、内容物を分画分子量3500の透析チューブに入れて一週間透析を行った後に、凍結乾燥して末端にシステインを有するP(HPMA−co−MMA)を得た。収率は60〜70%であった。
【0074】
得られたポリマーの励起波長280nmによる蛍光スペクトルを図7に示す。図7において実線で示すように、チオールの保護基である9−フルオレニルメチルカルボニル(Fmoc)基に由来する蛍光が認められた。H−Cys(Fm)−OHを用いて濃度と蛍光強度との関係から得た検量線を用い、P(HPMA−co−MMA)の末端全てがH−Cys(Fm)−OHと反応したとして見積もった数平均分子量は約40、000であった。溶離液にDMFを用いたゲル浸透クロマトグラフィーにより求めたポリスチレン換算の数平均分子量は約27000であり、表1の値とほぼ同値を示したことから、末端にFmoc基が導入されたP(HPMA−co−MMA)の生成を認めた。
【0075】
次に、0.28gの末端にFmoc基を有するP(HPMA−co−MMA)を50mLの三つ口フラスコに入れ、濃度20%のピペリジンのDMF溶液を10mL加え、Fmoc基の脱保護を行った。常温で24時間かき混ぜた後、分画分子量3500の透析チューブに入れて一週間透析を行い、凍結乾燥してポリマーを単離した。図7において破線で示した脱保護後のP(HPMA−co−MMA)の蛍光スペクトルには、Fmocに由来する蛍光ピークが認められなかったことから、末端にSH基を有するP(HPMA−co−MMA)が得られたことが確認された。
【0076】
ガラス製のシャーレ上にあらかじめ金属膜スポットを形成したガラス基板を置き、基板表面に硫酸と過酸化水素水との混合溶液(30%過酸化水素と18mol/L硫酸とを1:3の体積比率で混合)を滴下して15min洗浄した。その後、超純水で表面を数回洗浄し、窒素ガスで乾燥させた後、濃度が5質量%となるようにSH基を導入したP(HPMA−co−MMA)を溶解させた、触媒量の酢酸を含むエタノール溶液に基板を直ちに浸漬し、超音波を印加しながら、室温で6時間反応させた。反応後、ガラス基板を多量のエタノール、超純水で超音波洗浄し、凍結乾燥させP(HPMA−co−MMA)により修飾されたセルアレイソータを得た。
【0077】
このようにして得たセルアレイソータの金属膜スポットの表面を走査型プローブ顕微鏡(SPM)により観察した結果を図8(a)及び図9(a)に示す。なお、図8は30μm角の範囲を示し、図9は5μm角の範囲を示している。図8(c)及び図9(c)に示した未処理の金属膜スポットの表面と異なりP(HPMA−co−MMA)と考えられる凸部位がアレイスポット上に観測されており、金属膜スポット表面へのP(HPMA−co−MMA)の固定化を確認した。得られたセルアレイソータの金属膜スポット表面における水に対する接触角を測定したところ、37℃においては接触角が65.5°であったのに対して、室温(26℃)にいては接触角が58.9°に低下する温度応答性が認められた。
【0078】
(第2の実施例)
以下に、第2の方法により刺激応答性ポリマーを金属膜スポット12の表面に固定化する方法について具体的な実施例を説明する。
【0079】
あらかじめ金からなる金属膜スポットを形成したガラス基板を硫酸と過酸化水素水との混合溶液により洗浄した後、10mLのエタノールに0.05gのチオコレステロールを溶解させた溶液中に浸漬し、超音波を印加して6時間反応させた。その後、エタノール及び超純水中において超音波洗浄し、凍結乾燥することにより有機薄膜を形成した
次に、低温プラズマ装置のチャンバ内に有機薄膜を形成した基板(10mm×10mm)を置き、酸素の流量を調節してチャンバ内の圧力を1.3Paとした。高周波の負荷には容量負荷型を用い、高周波電源(日本電子製JRF−300型、周波数13.56MHz)を使用して20Wの照射パワーで120秒間プラズマを照射した。
【0080】
次に、プラズマ処理した基板を1分間、空気にさらした後、所定濃度に調製したHPMA及びMMAのエタノール溶液中に浸漬し、60℃で20時間ポストグラフト重合を行った。ポストグラフト重合を行った基板を多量のエタノール及び超純水を用いて超音波洗浄した後、凍結乾燥させ、P(HPMA−co−MMA)により修飾されたセルアレイソータを得た。
【0081】
図8(b)及び図9(b)に得られたセルアレイソータの金属膜スポット表面のSPM像を示す。図8(c)及び図9(c)に示す未処理の場合と異なり、金属膜スポット表面に上に凸部が存在しており、P(HPMA−co−MMA)により修飾されていることが明らかである。
【0082】
得られたセルアレイソータの金属膜スポット表面における接触角は、37℃においては52.3°であったのに対し、室温(26℃)においては44.1°に低下しており、温度応答性が認められた。
【0083】
(細胞の接着及び遊離例)
以下に、セルアレイソータへの細胞の接着及びセルアレイソータからの細胞の遊離について実験を行った結果を説明する。以下の実験においては、第1の実施例及び第2の実施例において形成したセルアレイソータを用い、比較のために、基板の上に金属膜スポットの形成を行っただけの未処理のセルアレイソータについても実験を行った。
【0084】
−個々の細胞の接着−
セルアレイソータは、光学フィルム固定用透明両面テープCS−9611(日東電工)を全面に貼り付け、24ウェルマイクロプレート(FALCON社)のウェル底面に固定した。滅菌灯を用いてUV光を30min照射して滅菌した後、リン酸緩衝液(pH7.4、PBS)にて3回洗浄した。続いて、MEM培地に入れた細胞浮遊液1mL(HeLa細胞理研セルバンク:細胞濃度3.0×104個/mL)を播種し、37℃で6時間、5%CO2雰囲気のインキュベータ中で培養した。
【0085】
0.25g/Lの濃度の核染色試薬(ヘキスト社33342)を2μL培地に添加し、30分間静置して細胞核を染色した。ウェルをPBSで繰り返し洗浄した後、位相差蛍光顕微鏡(×100)を用いて異なる5箇所の視野中で、蛍光色素により染色された細胞核数を接着細胞数とし、平均値を顕微鏡視野あたりの接着細胞数として計測した。図10(a)〜(c)に37℃で6時間インキュベーションした後のセルアレイソータの蛍光顕微鏡写真を示す(位相差顕微鏡像はセルアレイの背面からの投影光にて観察)。(a)及び(b)に示すように、第1の実施例及び第2の実施例において得たP(HPMA−co−MMA)が固定されたセルアレイソータの表面には、(c)に示す未処理のセルアレイソータの表面よりも多くの細胞数が接着している。また、ほとんどの接着細胞は金属膜スポット部分に接触し、多くの細胞が固まらず分離して接着している。
【0086】
−細胞の遊離−
次に、MEM培地を取り除き、溶液温度を26℃としたMEM培地ウェルに注入し、26℃で濃度が5%のCO2雰囲気において2h静置した。続いて、上澄みを回収し、ウェルをPBSで2回洗浄した後、セルアレイソータ上に残った接着細胞数を蛍光顕微鏡で計測し遊離細胞数を見積もった。図11(a)〜(c)は細胞を遊離させた後の傾向顕微鏡写真を示している。(a)及び(b)に示すように、第1の実施例及び第2の実施例において得たP(HPMA−co−MMA)が固定されたセルアレイソータの表面からは細胞が遊離し、ほとんど残存していない。一方、(c)に示す未処理のセルアレイソータの表面には多数の細胞が残存している。図12は顕微鏡視野内の平均接着細胞数及び温度刺激による遊離細胞数を示している。P(HPMA−co−MMA)が固定されたセルアレイソータからは、未処理の場合と比べて、多くの細胞が遊離していることが明らかである。
【0087】
なお、温度に応答して疎水性の強さが変化する刺激応答性ポリマーを用いた例について主に説明したが、例えば、P(HPMA−co−MMA)鎖に銅クロロフィリン錯体を三元共重合したポリマーを用いれば、金属膜スポット表面に青色等の可視レーザー光を照射し疎水性を高めた状態において細胞を接着し、レーザー光の照射を停止することにより細胞を遊離させ回収することができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係るセルアレイソーター、その製造方法及びそれを用いた細胞ソート方法によれば、個々の細胞を規則正しく基板上に接着し且つ接着された細胞を損傷することなく遊離させ回収するセルアレイソータを実現でき、外部からの刺激に応じて細胞の接着及び遊離を行うセルアレイソータ、その製造方法及びこれを用いた製造方法等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の一実施形態に係るセルアレイソータの外観の一例を示す写真である。
【図2】(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係るセルアレイソータの金属膜スポット部分であり、(a)は金属膜スポット部分の顕微鏡写真であり、(b)は(a)のIIb−IIb線における断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るセルアレイソータの製造方法において形成された金属膜の特性を比較して示す写真である。
【図4】本発明の一実施形態に係るセルアレイソータの製造方法におけるフォトリソエッチング工程を示すフロー図である。
【図5】(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係るセルアレイソータの製造方法における刺激応答性ポリマーの固定化方法を示すフロー図である。
【図6】本発明の第1の実施例に係る刺激応答性ポリマーの調製スキームを示す反応式である。
【図7】本発明の第1の実施例に係る刺激応答性ポリマーへのチオール基の導入例を示す測定結果の一例である。
【図8】(a)〜(c)は本発明の各実施例に係る金属膜スポットの走査型プローブ顕微鏡による測定像を示し、(a)は第1の実施例に係る金属膜スポットの表面であり、(b)は第2の実施例に係る金属膜スポットの表面であり、(c)は未処理の金属膜スポットの表面である。
【図9】(a)〜(c)は本発明の各実施例に係る金属膜スポットの走査型プローブ顕微鏡による測定像を示し、(a)は第1の実施例に係る金属膜スポットの表面表面であり、(b)は第2の実施例に係る金属膜スポットの表面であり、(c)は未処理の金属膜スポットの表面である。
【図10】(a)〜(c)は本発明の各実施例に係るセルアレイソータの表面に細胞が接着された状態を示す位相顕微鏡写真であり、(a)は第1の実施例のセルアレイソータであり、(b)は第2の実施例のセルアレイソータであり、(c)は未処理のセルアレイソータである。
【図11】(a)〜(c)は本発明の各実施例に係るセルアレイソータの表面から細胞を遊離させた状態を示す位相顕微鏡写真であり、(a)は第1の実施例のセルアレイソータであり、(b)は第2の実施例のセルアレイソータであり、(c)は未処理のセルアレイソータである。
【図12】本発明の各実施例に係るセルアレイソータへの細胞接着数及びセルアレイソータからの細胞遊離数を示すグラフである。
【符号の説明】
【0090】
11 基板
12 金属膜スポット
13 刺激応答性ポリマー
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部からの刺激に応じて細胞の接着及び遊離を行うセルアレイソータ、その製造方法及びそれを用いた細胞ソート方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞を培養したり、細胞に対して薬剤の影響等を評価したりする細胞工学の分野が著しい発展を遂げている。細胞に対して種々のアッセイを行うためには、まず組織又は病巣等の細胞同士をばらばらにして浮遊させ、種々の細胞が含まれる浮遊液から目的とする細胞を単離し、単離した細胞を必要に応じて培養した後、薬剤の影響等を評価する必要がある。
【0003】
このような、細胞を用いて種々のアッセイを行うために、適当な間隔でスポット上に細胞を接着した基板である細胞アレイが用いられている。細胞アレイを用いて、特定の遺伝子を用いて基板に接着された細胞を形質転換することによる発現解析を行ったり、基板上において薬物の毒性や安全性評価等を行うことが研究されている。
【0004】
細胞アレイを形成するためには、基板上に細胞の接着領域及び非接着領域を規則正しく形成する必要がある。そのために、細胞の接着領域と非接着領域とをスイッチングすることについても検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。また、インクジェットプリンタを用いて細胞接着領域を規則的に配置する方法についても検討されている(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開2006−006214号公報
【特許文献2】特開2003−33177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、細胞アレイは細胞を接着して利用することを目的とするものである。細胞を接着して、種々のアッセイ等を行った後、再び細胞を遊離させて回収するということについてはほとんど考慮されていない。
【0006】
しかし、接着した細胞の形質転換を行ったり、標識を行ったりした後に、細胞を傷つけることなく遊離させて回収したいという要求がある。このため、細胞接着領域を温度応答性のポリマー等を用いて形成する手法もあるが、適切に親水性と疎水性とが変化し、細胞に影響を与えないポリマーを用いた細胞アレイは実用化されていない。
【0007】
一方、種々の細胞の中から目的とする細胞を選択的に取り出すセルソートという技術が必要とされている。細胞レベルでソーティングを行う技術としては、光ピンセット等の技術があるが、操作が煩雑であり、大量の細胞を取り扱うには不向きであるという問題がある。
【0008】
また、セルソートによって選択的に回収された細胞は、細胞アレイを用いて種々のアッセイを行うことが多く、セルソートの技術と細胞アレイの技術との融合により細胞のアッセイ技術をさらに進歩させることができると考えられる。
【0009】
本発明は、前記従来の問題を解決し、個々の細胞を規則正しく基板上に接着し且つ接着された細胞を損傷することなく遊離させ回収するセルアレイソータを実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明はセルアレイソータを、刺激応答性ポリマーが固定された金属膜スポットが規則的に配置された構成とする。
【0011】
具体的に本発明に係るセルアレイソータは、基板の上に互いに間隔をおいて行列状に形成された複数の金属膜スポットと、各金属膜スポットの表面に固定され、外部からの刺激に応答して疎水性の強さが変化する刺激応答性ポリマーとを備え、外部から刺激に応じて、各金属膜スポットへの細胞の接着と、各金属膜スポットからの細胞の遊離とを行うことを特徴とする。
【0012】
本発明のセルアレイソータによれば、基板の上にマトリックス状に形成された複数の金属膜スポットと、各金属膜スポットの表面に固定され、外部からの刺激に応答して疎水性の強さが変化する刺激応答性ポリマーとを備えているため、マトリックス状に形成された金属スポットの表面に細胞を接着させることができ且つセルアレイソータが置かれた環境を変化させることにより、接着した細胞にダメージを与えることなく回収することができる。
【0013】
本発明のセルアレイソータにおいて、刺激応答性ポリマーの表面は、細胞を特異的に認識する機能を有する機能性分子により修飾されており、各金属膜スポットには、機能性分子により認識された細胞が接着されることが好ましい。このような構成とすることにより、セルアレイソータに選択的に細胞を接着することが可能となる。従って、特定の細胞を選択的に回収するセルソートを行うことが可能となる。
【0014】
本発明のセルアレイソータにおいて、刺激応答性ポリマーは、少なくともN−2−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド及びメタクリル酸メチルをコモノマーとして含む共重合体であることが好ましい。このような構成とすることにより、培養に適した温度において細胞の接着と遊離とを行うことができ且つ細胞に対する親和性が高く、細胞にダメージを与えることがないセルアレイソータが実現できる。
【0015】
本発明のセルアレイソータにおいて、各金属膜スポットの径は、0.1μm以上且つ300μm以下であることが好ましい。このような構成とすることにより、各金属スポットに1つの細胞が接着されるようになり、細胞の観察等が容易となる。
【0016】
本発明のセルアレイソータにおいて、各金属膜スポットは、金からなり、刺激応答性ポリマーは、末端にチオール基を有するポリマーであり、刺激応答性ポリマーは、金属膜スポットの表面と共有結合していることが好ましい。このような構成とすることにより、刺激応答性ポリマーを金属膜スポットの表面に確実に固定できる。
【0017】
本発明のセルアレイソータにおいて、各金属膜スポット表面にそれぞれ形成されたチオール基を有する有機薄膜をさらに備え、刺激応答性ポリマーは、有機薄膜の表面からグラフト重合により成長させたグラフトポリマーであることが好ましい。このような構成とすることにより、金属膜スポットの表面に刺激応答性ポリマーを直接固定することができる。
【0018】
本発明のセルアレイソータにおいて、刺激応答性ポリマーは、温度に応答するポリマーであっても、光に応答するポリマーであってもよい。
【0019】
本発明に係るセルアレイソータの製造方法は、細胞を接着した後、接着した細胞を遊離して回収するセルアレイソータの製造方法を対象とし、基板の上に金属膜を形成した後、形成した金属膜をフォトリソエッチングすることにより基板の上に、金属膜から複数の金属膜スポットを行列状に形成する工程(a)と、各金属膜スポットの表面に外部からの刺激に応答して疎水性の強さが変化する刺激応答性ポリマーを固定する工程(b)とを備えていることを特徴とする。
【0020】
本発明のセルアレイソータの製造方法によれば、基板の上に金属膜を形成した後、形成した金属膜をフォトリソエッチングすることにより基板の上に複数の金属膜スポットをマトリックス状に形成する工程を備えているため、金属膜スポットを容易に規則正しく形成することができる。従って、個々の細胞を規則正しく基板上に接着し且つ接着された細胞を損傷することなく遊離させ回収するセルアレイソータを容易に実現できる。
【0021】
本発明のセルアレイソータの製造方法は、刺激応答性ポリマーの表面を、細胞を特異的に認識する機能を有する機能性分子により修飾する工程(c)をさらに備えていることが好ましい。このような構成とすることにより、金属膜スポットの表面に特定の細胞を選択的に接着することが可能となる。
【0022】
本発明のセルアレイソータの製造方法において工程(a)において、金属膜は、真空蒸着法、スパッタリング法又はメッキ法により形成することが好ましい。
【0023】
本発明のセルアレイソータの製造方法において、各金属膜スポットは金からなり、工程(a)よりも前に、基板の表面にニッケル及びクロムの少なくとも一方からなる中間層を形成する工程(d)をさらに備えていることが好ましい。
【0024】
本発明のセルアレイソータの製造方法において、各金属膜スポットは金からなり、工程(a)よりも前に、基板の表面を不活性ガス、酸素、一酸化炭素及び二酸化炭素のうちの1つ又は少なくとも2つからなる混合ガスを用いてプラズマ処理する工程(e)をさらに備えていることが好ましい。
【0025】
本発明のセルアレイソータの製造方法において工程(b)は、刺激応答性ポリマーの末端にチオール基を導入する工程と、チオール基を導入した刺激応答性ポリマーを各金属膜スポットの表面と反応させる工程とを含むことが好ましい。
【0026】
本発明のセルアレイソータの製造方法において工程(b)は、各金属膜スポットの表面にチオール基を有する化合物からなる有機薄膜をそれぞれ形成した後、形成した有機薄膜をプラズマ処理して活性化する工程と、活性化した有機薄膜の表面にグラフト重合により刺激応答性ポリマーを形成する工程とを含むことが好ましい。
【0027】
本発明に係る細胞ソート法は、基板の上に互いに間隔をおいて行列状に形成された複数の金属膜スポットと、各金属膜スポットの表面に固定され、外部からの刺激に応答して疎水性の強さが変化し且つ表面が細胞を特異的に認識する機能性分子表面により修飾された刺激応答性ポリマーとを備えたセルアレイソータを用い、複数種類の細胞が含まれる細胞浮遊液とセルアレイソータとを接触させることにより、機能性分子が認識する細胞を、各金属膜スポットの表面に選択的に接着する工程と、細胞が接着されたセルアレイソータに対して外部から刺激を与えることにより、セルアレイソータから細胞を遊離させて回収する工程とを備えていることを特徴とする。
【0028】
本発明に係る細胞ソート法によれば、表面が細胞を特異的に認識する機能性分子表面により修飾された刺激応答性ポリマーとを備えたセルアレイソータを用い、機能性分子が認識する細胞を、各金属膜スポットの表面に選択的に接着する工程と、細胞が接着されたセルアレイソータに対して外部から刺激を与えることにより、セルアレイソータから細胞を遊離させて回収する工程とを備えているため、特定の細胞を選択的に分別してセルアレイソータに接着させ、再び遊離させて回収することができる。また、必要に応じて、接着された細胞のアッセイを行ったり、形質転換等の処理を行ったりした後、回収することが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るセルアレイソータによれば、個々の細胞を規則正しく基板上に接着し且つ接着された細胞を損傷することなく遊離させ回収するセルアレイソータを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の一実施形態に係るセルアレイソータ及びその製造方法について図面を参照して説明する。図1は本実施形態に係るセルアレイソータの外観の一例を示しており、図2(a)及び(b)は基板上に形成された金属膜スポット部分の一例である。
【0031】
セルアレイソータとは、細胞浮遊液中から特定の細胞を分別して回収するセルソーティング法に用いるチップであり、所定のパターンに従って複数の細胞脱着スポットが配置された基板である。細胞脱着スポットは、細胞が接着される疎水性の状態と、接着された細胞が遊離する親水性の状態とを、周囲の温度若しくはイオン強度又は光の照射等によって相互に交換できる部位である。また、細胞脱着スポットの表面は必要に応じて抗体、抗原及びレクチン等の特定の細胞を認識する機能性分子により修飾されている。
【0032】
細胞脱着スポットが疎水性の状態となる条件下で、セルアレイソータを細胞浮遊液中に浸漬し、細胞を細胞脱着スポットに接着させる。細胞脱着スポットの表面が機能性分子により修飾されている場合には、機能性分子を認識する特定の細胞のみが細胞脱着スポットに接着する。次に、セルアレイソータを、細胞脱着スポットが親水性の状態となる条件に置くことにより、細胞脱着スポットに接着した細胞を遊離させて回収する。また、細胞が接着した状態において種々のアッセイを行うこともできる。さらに、細胞が所定のパターンに配置されるため、2次元的な組織類似の配置とすることにより機能発現をさせたりすることも可能である。
【0033】
このように、セルアレイソータを用いることにより大量の細胞を簡便に取り扱うことができる。また、機能性分子を用いることにより、容易にセルソーティングを行い、必要とする細胞を簡単に回収することができる。
【0034】
図1及び2に示すように本実施形態のセルアレイソータは、ガラスからなる基板11の上に金属膜スポット12がマトリックス状に形成されている。各金属膜スポットの上には、温度等の外部からの刺激により疎水性の強さを制御することができる刺激応答性ポリマー13が固定されている。刺激応答性ポリマーの表面には必要に応じて、抗原、抗体、DNA及びレクチン等の細胞を特異的に認識する機能性分子により修飾されている。
【0035】
刺激応答性ポリマーが疎水性を示す条件において、セルアレイソータを種々の細胞が混在する細胞浮遊液中に浸漬することにより、金属膜スポットの表面のみに細胞が接着される。各金属膜スポット12の大きさ及び間隔は、接着する細胞のサイズに合わせて設定されており、各金属膜スポット12の表面には、通常それぞれ1個の細胞が接着される。従って、各金属膜スポット12の表面に接着された細胞を個々に識別しながら観察したり、スクリーニングをしたりすることができる。
【0036】
セルアレイソータに接着された細胞は、必要に応じて種々の操作を行った後、例えば温度を変化させて刺激応答性ポリマー13を親水性に変化させることにより、金属膜スポット12の表面から遊離させて回収することができる。
【0037】
また、刺激応答性ポリマーの表面が機能性分子により修飾されている場合には、機能性分子を認識して反応する細胞のみが金属膜スポットの表面に選択的に接着される。この後、接着された細胞を遊離させて回収すれば、種々の細胞が混在する細胞浮遊液の中から選択的に細胞を取り出すソーティングが可能となる。選択的に接着した細胞に対して、金属膜スポットの表面に接着された状態のままスクリーニング等を行ってもよい。
【0038】
以下に、本実施形態のセルアレイソータの製造方法について説明する。セルアレイソータの製造工程は、まず基板11の上に金属膜スポット12をマトリックス状に形成する。本実施形態のセルアレイソータでは、基板11には、75mm×25mmのガラス基板(松浪ガラス製BK7材)を用い、金属膜スポット12には金を用いている。
【0039】
金属膜スポット12の製造工程は、まず、基板11の上に金からなる金属薄膜をRFマグネトロンスパッタ法にて形成する。金属薄膜の膜厚に特に制限はないが、後に述べるエッチング工程において、側面がエッチングされてダメージを受けることを抑えるために、500nm以下とすることが好ましい。
【0040】
本実施形態においては、極力薄い膜厚且つ安定した測定が可能な膜厚として50nmの膜厚を選択した。膜厚は、触針式表面形状測定器(アルバック製 DEKTAK)により求めた値である。
【0041】
なお、金属薄膜の基板11に対する密着性を向上させるために、基板11の表面にプラズマを照射し、イオンボンバードクリーニングを行った後、金属薄膜を形成することが好ましい。基板11の表面をプラズマ処理して活性化させることにより、金属薄膜と基板11との密着性が改善する。また、クロム(Cr)又はニッケル(Ni)等の基板11との密着性が高い薄膜からなる中間層を形成した後に、スパッタリングを行ってもよい。図3は、基板11の上に形成された金からなる金属薄膜を粘着テープにより引き剥がした結果を示している。プラズマ処理を行った場合及びCrからなる中間層を形成した場合には、金からなる金属薄膜はガラスから剥離せず、金属薄膜と基板11との密着性が改善できることが明らかである。
【0042】
成膜にあたりRFマグネトロンスパッタ法以外にもDCマグネトロンスパッタ法、化学気相堆積法(CVD法)、プラズマCVD法、プラズマイオン注入法、重畳型RFプラズマイオン注入法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法又はレーザーアブレーション法を用いてもよい。
【0043】
次に、図4に示すように金属薄膜をフォトリソエッチング法により加工して金属膜スポット12を形成する。
【0044】
金からなる金属薄膜は、水溶液系、有機溶剤系及び有機溶剤含有水溶液系のいずれのエッチング液を用いてエッチングしてもよい。本実施形態においては、エッチング液に水溶液系のヨウ素とヨウ化カリウムとをエタノール溶媒で希釈したものを用いた。
【0045】
なお、水溶液系エッチング液の例には、シアン系と、王水系と、ヨウ素系があり、有機溶剤系エッチング液の例としては、ハロゲン、陽イオン界面活性剤及び有機溶剤からなる液と、ハロゲン、ハロゲン化塩及び有機溶剤からなる液とを挙げることができる。金属膜スポット12のサイズ及びピッチは、細胞のサイズに応じて設定すればよく、0.1μm以上且つ300μm以下であればよい。本実施形態においては、直径が30μmの円形状の金属膜スポット12を50μmのピッチで形成した。このレイアウトにより75mm×25mmの一般的なスライドガラスへ約30万個の金属膜スポット12を形成することが可能であり、細胞のソートにおいて高い生産性を実現することが可能となる。また従来の細胞アレイ用途としてもハイスループットの観測、測定が可能となる。
【0046】
なお、基板11のサイズ及び材質は目的に応じて自由に選択が可能である。また、金属膜スポット12のレイアウトは目的の細胞サイズ等に応じて自由に調整することが可能である。本実施形態において金属膜スポット12を平面円形状に形成したが、方形状等の他の形状であってもよい。また、基板をエッチングして凹部を形成し、形成した凹部に金属を埋め込むことにより金属膜スポット12を形成してもよい。このようにすれば、金属膜スポットのエッジ部分に細胞が接着されることを防ぐことができる。
【0047】
次に、金属膜スポット12への刺激応答性ポリマー13の固定化を行う。金属膜スポット12への刺激応答性ポリマー13の固定化は、図5に示す2つの方法のどちらを用いて行ってもよい。
【0048】
第1の方法は、図5(a)に示すように刺激応答性のポリマーを重合した後、重合したポリマーの末端にチオール基を導入し、導入したチオール基と金属膜スポット12の表面とを反応させて固定化する方法である。この方法は、ポリマーを重合した後に固定化を行うため、ポリマーの分子量、組成等の制御が容易である。
【0049】
第2の方法は、図5(b)に示すように金属膜スポット12の表面にチオール化合物を用いて有機薄膜を形成した後、低温プラズマ処理とポストグラフト重合を行うことにより、有機薄膜の表面において刺激応答性ポリマー13を重合して固定化する方法である。この方法は、ポリマーにチオール基を導入する工程が不要であり、簡便に刺激応答性ポリマーを固定化することが可能である。
【0050】
金属膜スポット12への刺激応答性ポリマー13の固定化については、後で詳細に説明する。
【0051】
刺激応答性ポリマー13が固定化された各金属膜スポット12は、外部からの温度、光及びpH等の刺激により表面を疎水性にしたり親水性にしたりすることができる。従って、疎水性の状態において細胞を接着し、親水性の状態において細胞を遊離させることが可能である。
【0052】
さらに、刺激応答性ポリマー13の表面を、抗原、抗体、DNA及びレクチン等の認識機能を有する機能性分子により修飾しておくことにより、種々の細胞の中から選択的に細胞を接着し且つ自由に遊離させて回収することが可能となる。刺激応答性ポリマー13の表面を機能性分子により修飾する方法は、既知のポリマー表面への機能性分子の修飾方法を用いることができる。
【0053】
例えば、刺激応答性ポリマー中の官能基の一部を置換して、スクシンイミド等の反応性の官能基とし、抗原、抗体又はレクチン等の機能性分子を直接反応させればよい。また、刺激応答性ポリマーを重合する際に、反応性の部位を有するモノマーを共重合してもよい。さらに、2官能性試薬を用いて機能性分子を固定してもよい。
【0054】
以下に、金属膜スポット12の表面に刺激応答性ポリマー13を固定化する方法についてさらに詳細に説明する。
【0055】
−第1の方法−
第1の方法により、金属膜スポット12の表面に刺激応答性ポリマーを固定化する方法について説明する。
【0056】
例えば、2−N−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド(HPMA)及びメタクリル酸メチル(MMA)を、連鎖移動剤の存在下において、過酸化物系又はアゾ系開始剤を用いてラジカル重合して、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド−メタクリル酸メチル共重合体(P(HPMA−co−MMA))を得る。連鎖移動剤にカルボキシル基又はアミノ基等の反応性末端を分子中に含むチオール化合物を用いることにより、末端にカルボキシル基あるいはアミノ基等の反応性を有するポリマーを得る。得られたポリマーは、相転移温度を境に親水性と疎水性とが入れ替わる温度応答性のポリマーとなる。
【0057】
なお、相転移温度は重合度により変化し、重合度は、重合温度、開始剤及び連鎖移動剤の添加量等を調整することにより制御できる。また、相転移温度を制御するために、MMAの変わりにブチルメタクリレート等のアルキルメタクリート、アルキルアクリルアミド等の疎水性アルキルを有するビニルモノマーを使用することもできる。ここでアルキル基は直鎖あるいは環状脂肪族であるが、適度な疎水性を与えるものであればこれらのアルキル基の少なくとも一部が官能基により置換されていてもよい。
【0058】
また、温度以外の外部刺激に応答するポリマーを得ることもできる。例えば、銅クロロフィリン錯体を三元共重合することにより、光刺激に応答するポリマーを得ることが可能である。P(HPMA−co−MMA)鎖に銅クロロフィリン錯体を三元共重合したポリマーは青、緑及び赤光等の可視光の照射によって疎水性となる性質を有している。
【0059】
さらに、アクリル酸、メタクリル酸、アリルアミン、両性イオン構造のNα−メタクリルアミド−L−リジン、Nε−メタクリルアミド−L−リジン及びO−メタクリロイル−L−セリン等と三元共重合することにより、pHに応答するポリマーを得ることができる。また、アクリルアミド系モノマー、2−(メタクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリン(MPC)等の親水性モノマーを共重合することにより、親水性及び生体親和性を向上させ、細胞の接着性又は遊離性能を制御してもよい。
【0060】
また、生体適合性を例えばMPC等で強化したものであればP(HPMA−co−MMA)以外の刺激応答性ポリマーを用いることも可能である。
【0061】
得られた刺激応答性ポリマーの末端の官能基と反応する官能基を有するチオール基と反応させP(HPMA−co−MMA)の末端をSH化する。例えばポリマー鎖末端が−COOH基であれば、メルカプトアミンと反応させる。このとき、カルボキシル基やアミノ基を活性化するカルボジイミド系縮合剤を使用して末端の反応性を高めてもよい。末端基の反応性を高めポリマー鎖中に含まれる水酸基、アミド基及びエステル基等と反応しない試薬であれば、活性化剤はカルボジイミド系に限るものではない。
【0062】
反応後のポリマーは水溶性の低分子成分を除くためセルロースアセテート系チューブ等を用いて透析して生成する。ポリマー中から未反応の低分子成分が除くことができ、末端SH基が失活しなければ、再沈殿法等による精製でもよい。
【0063】
末端にSH基を導入した刺激応答性ポリマーは、金属膜スポット12の表面を酸化処理剤等により洗浄して活性化した後、直ちに反応させる。反応の際に超音波を印加することにより、金属膜スポット12と刺激応答性ポリマーとの接触が促進され、反応性を高めることができる。また、基板11から金属膜スポット12が剥離しなければ加温して反応させてもよい。反応後は刺激応答性高分子が十分に溶解する溶剤にて洗浄して未反応の刺激応答性高分子を除去する。
【0064】
−第2の方法−
金属膜スポット12の表面を酸化処理剤等で洗浄したのち、金属膜スポット12の表面とアルキルチオール又はチオコレステロール等のチオール化合物と反応させて金属膜スポット12の表面のみに有機薄膜を形成する。有機薄膜と金属膜スポット12とを反応させる際には、エタノール等の溶剤に溶解させたチオール化合物を溶解させた溶液として反応させればよい。反応終了後、未反応のチオール化合物を溶剤により除去し、真空乾燥する。
【0065】
次に、形成した有機薄膜に酸素又はアルゴン等のプラズマを照射して、有機薄膜の表面にフリーラジカルを発生させる。発生させたフリーラジカルは酸素を含むガス中に暴露することにより過酸化物に転化する。続いて、刺激応答性を発現するモノマーをポストグラフト重合する。フリーラジカルは、紫外光、γ線等の高エネルギー粒子線又は酸化処理剤等を利用して発生させてもよい。また、フリーラジカルを酸素含むガス中において発生させることにより、フリーラジカルから過酸化物への転化を同時に行ってもよい。ポスト重合の際のモノマー濃度、重合温度、重合時間及び連鎖移動剤等の添加剤の量によりグラフト鎖長を制御することにより、種々の特性の刺激応答性ポリマーを金属膜スポットの表面に固定できる。
【0066】
有機薄膜を形成するチオール化合物は、低温プラズマの照射によってフリーラジカルを生成しやすいチオール化合物を用いることが好ましい。
【0067】
(第1の実施例)
以下に、第1の方法により金属膜スポット12に刺激応答性ポリマーを固定化する具体的な実施例を示す。
【0068】
まず、3.0g(21.0mmol)のN−2−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド(HPMA)及び所定量のメタクリル酸メチル(MMA)を、連鎖移動剤である0.019g(0.21mmol)のメルカプト酢酸と、開始剤である0.024g(0.105mmol)の2、2’−アゾビスイソ酪酸メチル(MIBE)と共に、10mLのエタノールに溶解させて、ガラス製重合管に入れた。冷却−脱気−窒素置換を繰り返し行い、エタノール中の溶存酸素を除去した後、60℃で20h振り混ぜて重合を行った。重合終了後、封管内容物を多量のジエチルエーテル中に注入して末端にカルボキシル基を有するポリマー(P(HPMA−co−MMA))を析出させた。なお、MMA配合量を変化させることにより、相転移温度が異なる3種類の刺激応答性ポリマーI〜IIIを得た。反応式を図6に、I〜IIIのキャラクタリゼーションを表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
次に、培養温度付近に相転移温度を示すポリマーIIIを用いて末端チオール化を試みた。ポリマー鎖末端のカルボキシル基の活性化を行うため、400mLの四つ口フラスコに、0.5gのP(HPMA−co−MMA)を20mLのN、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した。
【0071】
次に、5mLのDMFに縮合活性化剤である1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を0.1917g(1mmol)溶解させた溶液を加え、常温で24時間撹拌した。その後、反応液をクロロホルム中入れ、ポリマーを沈殿させ、1G−4のグラスフィルターで吸引ろ過した。
【0072】
次に、100mLの四つ口フラスコにEDCでカルボキシル基を活性化したP(HPMA−co−MMA)を入れ、5mLのDMFに溶解させてチオール基を保護した0.23g(1.0mmol)のS−フルオレニルメチルL−システイン塩酸塩(H−Cys(Fm)−OH)を加え、常温で24時間反応させた後、蒸留水400mLを加えて50℃で6時間かき混ぜ反応させた。
【0073】
その後、内容物を分画分子量3500の透析チューブに入れて一週間透析を行った後に、凍結乾燥して末端にシステインを有するP(HPMA−co−MMA)を得た。収率は60〜70%であった。
【0074】
得られたポリマーの励起波長280nmによる蛍光スペクトルを図7に示す。図7において実線で示すように、チオールの保護基である9−フルオレニルメチルカルボニル(Fmoc)基に由来する蛍光が認められた。H−Cys(Fm)−OHを用いて濃度と蛍光強度との関係から得た検量線を用い、P(HPMA−co−MMA)の末端全てがH−Cys(Fm)−OHと反応したとして見積もった数平均分子量は約40、000であった。溶離液にDMFを用いたゲル浸透クロマトグラフィーにより求めたポリスチレン換算の数平均分子量は約27000であり、表1の値とほぼ同値を示したことから、末端にFmoc基が導入されたP(HPMA−co−MMA)の生成を認めた。
【0075】
次に、0.28gの末端にFmoc基を有するP(HPMA−co−MMA)を50mLの三つ口フラスコに入れ、濃度20%のピペリジンのDMF溶液を10mL加え、Fmoc基の脱保護を行った。常温で24時間かき混ぜた後、分画分子量3500の透析チューブに入れて一週間透析を行い、凍結乾燥してポリマーを単離した。図7において破線で示した脱保護後のP(HPMA−co−MMA)の蛍光スペクトルには、Fmocに由来する蛍光ピークが認められなかったことから、末端にSH基を有するP(HPMA−co−MMA)が得られたことが確認された。
【0076】
ガラス製のシャーレ上にあらかじめ金属膜スポットを形成したガラス基板を置き、基板表面に硫酸と過酸化水素水との混合溶液(30%過酸化水素と18mol/L硫酸とを1:3の体積比率で混合)を滴下して15min洗浄した。その後、超純水で表面を数回洗浄し、窒素ガスで乾燥させた後、濃度が5質量%となるようにSH基を導入したP(HPMA−co−MMA)を溶解させた、触媒量の酢酸を含むエタノール溶液に基板を直ちに浸漬し、超音波を印加しながら、室温で6時間反応させた。反応後、ガラス基板を多量のエタノール、超純水で超音波洗浄し、凍結乾燥させP(HPMA−co−MMA)により修飾されたセルアレイソータを得た。
【0077】
このようにして得たセルアレイソータの金属膜スポットの表面を走査型プローブ顕微鏡(SPM)により観察した結果を図8(a)及び図9(a)に示す。なお、図8は30μm角の範囲を示し、図9は5μm角の範囲を示している。図8(c)及び図9(c)に示した未処理の金属膜スポットの表面と異なりP(HPMA−co−MMA)と考えられる凸部位がアレイスポット上に観測されており、金属膜スポット表面へのP(HPMA−co−MMA)の固定化を確認した。得られたセルアレイソータの金属膜スポット表面における水に対する接触角を測定したところ、37℃においては接触角が65.5°であったのに対して、室温(26℃)にいては接触角が58.9°に低下する温度応答性が認められた。
【0078】
(第2の実施例)
以下に、第2の方法により刺激応答性ポリマーを金属膜スポット12の表面に固定化する方法について具体的な実施例を説明する。
【0079】
あらかじめ金からなる金属膜スポットを形成したガラス基板を硫酸と過酸化水素水との混合溶液により洗浄した後、10mLのエタノールに0.05gのチオコレステロールを溶解させた溶液中に浸漬し、超音波を印加して6時間反応させた。その後、エタノール及び超純水中において超音波洗浄し、凍結乾燥することにより有機薄膜を形成した
次に、低温プラズマ装置のチャンバ内に有機薄膜を形成した基板(10mm×10mm)を置き、酸素の流量を調節してチャンバ内の圧力を1.3Paとした。高周波の負荷には容量負荷型を用い、高周波電源(日本電子製JRF−300型、周波数13.56MHz)を使用して20Wの照射パワーで120秒間プラズマを照射した。
【0080】
次に、プラズマ処理した基板を1分間、空気にさらした後、所定濃度に調製したHPMA及びMMAのエタノール溶液中に浸漬し、60℃で20時間ポストグラフト重合を行った。ポストグラフト重合を行った基板を多量のエタノール及び超純水を用いて超音波洗浄した後、凍結乾燥させ、P(HPMA−co−MMA)により修飾されたセルアレイソータを得た。
【0081】
図8(b)及び図9(b)に得られたセルアレイソータの金属膜スポット表面のSPM像を示す。図8(c)及び図9(c)に示す未処理の場合と異なり、金属膜スポット表面に上に凸部が存在しており、P(HPMA−co−MMA)により修飾されていることが明らかである。
【0082】
得られたセルアレイソータの金属膜スポット表面における接触角は、37℃においては52.3°であったのに対し、室温(26℃)においては44.1°に低下しており、温度応答性が認められた。
【0083】
(細胞の接着及び遊離例)
以下に、セルアレイソータへの細胞の接着及びセルアレイソータからの細胞の遊離について実験を行った結果を説明する。以下の実験においては、第1の実施例及び第2の実施例において形成したセルアレイソータを用い、比較のために、基板の上に金属膜スポットの形成を行っただけの未処理のセルアレイソータについても実験を行った。
【0084】
−個々の細胞の接着−
セルアレイソータは、光学フィルム固定用透明両面テープCS−9611(日東電工)を全面に貼り付け、24ウェルマイクロプレート(FALCON社)のウェル底面に固定した。滅菌灯を用いてUV光を30min照射して滅菌した後、リン酸緩衝液(pH7.4、PBS)にて3回洗浄した。続いて、MEM培地に入れた細胞浮遊液1mL(HeLa細胞理研セルバンク:細胞濃度3.0×104個/mL)を播種し、37℃で6時間、5%CO2雰囲気のインキュベータ中で培養した。
【0085】
0.25g/Lの濃度の核染色試薬(ヘキスト社33342)を2μL培地に添加し、30分間静置して細胞核を染色した。ウェルをPBSで繰り返し洗浄した後、位相差蛍光顕微鏡(×100)を用いて異なる5箇所の視野中で、蛍光色素により染色された細胞核数を接着細胞数とし、平均値を顕微鏡視野あたりの接着細胞数として計測した。図10(a)〜(c)に37℃で6時間インキュベーションした後のセルアレイソータの蛍光顕微鏡写真を示す(位相差顕微鏡像はセルアレイの背面からの投影光にて観察)。(a)及び(b)に示すように、第1の実施例及び第2の実施例において得たP(HPMA−co−MMA)が固定されたセルアレイソータの表面には、(c)に示す未処理のセルアレイソータの表面よりも多くの細胞数が接着している。また、ほとんどの接着細胞は金属膜スポット部分に接触し、多くの細胞が固まらず分離して接着している。
【0086】
−細胞の遊離−
次に、MEM培地を取り除き、溶液温度を26℃としたMEM培地ウェルに注入し、26℃で濃度が5%のCO2雰囲気において2h静置した。続いて、上澄みを回収し、ウェルをPBSで2回洗浄した後、セルアレイソータ上に残った接着細胞数を蛍光顕微鏡で計測し遊離細胞数を見積もった。図11(a)〜(c)は細胞を遊離させた後の傾向顕微鏡写真を示している。(a)及び(b)に示すように、第1の実施例及び第2の実施例において得たP(HPMA−co−MMA)が固定されたセルアレイソータの表面からは細胞が遊離し、ほとんど残存していない。一方、(c)に示す未処理のセルアレイソータの表面には多数の細胞が残存している。図12は顕微鏡視野内の平均接着細胞数及び温度刺激による遊離細胞数を示している。P(HPMA−co−MMA)が固定されたセルアレイソータからは、未処理の場合と比べて、多くの細胞が遊離していることが明らかである。
【0087】
なお、温度に応答して疎水性の強さが変化する刺激応答性ポリマーを用いた例について主に説明したが、例えば、P(HPMA−co−MMA)鎖に銅クロロフィリン錯体を三元共重合したポリマーを用いれば、金属膜スポット表面に青色等の可視レーザー光を照射し疎水性を高めた状態において細胞を接着し、レーザー光の照射を停止することにより細胞を遊離させ回収することができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係るセルアレイソーター、その製造方法及びそれを用いた細胞ソート方法によれば、個々の細胞を規則正しく基板上に接着し且つ接着された細胞を損傷することなく遊離させ回収するセルアレイソータを実現でき、外部からの刺激に応じて細胞の接着及び遊離を行うセルアレイソータ、その製造方法及びこれを用いた製造方法等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の一実施形態に係るセルアレイソータの外観の一例を示す写真である。
【図2】(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係るセルアレイソータの金属膜スポット部分であり、(a)は金属膜スポット部分の顕微鏡写真であり、(b)は(a)のIIb−IIb線における断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るセルアレイソータの製造方法において形成された金属膜の特性を比較して示す写真である。
【図4】本発明の一実施形態に係るセルアレイソータの製造方法におけるフォトリソエッチング工程を示すフロー図である。
【図5】(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係るセルアレイソータの製造方法における刺激応答性ポリマーの固定化方法を示すフロー図である。
【図6】本発明の第1の実施例に係る刺激応答性ポリマーの調製スキームを示す反応式である。
【図7】本発明の第1の実施例に係る刺激応答性ポリマーへのチオール基の導入例を示す測定結果の一例である。
【図8】(a)〜(c)は本発明の各実施例に係る金属膜スポットの走査型プローブ顕微鏡による測定像を示し、(a)は第1の実施例に係る金属膜スポットの表面であり、(b)は第2の実施例に係る金属膜スポットの表面であり、(c)は未処理の金属膜スポットの表面である。
【図9】(a)〜(c)は本発明の各実施例に係る金属膜スポットの走査型プローブ顕微鏡による測定像を示し、(a)は第1の実施例に係る金属膜スポットの表面表面であり、(b)は第2の実施例に係る金属膜スポットの表面であり、(c)は未処理の金属膜スポットの表面である。
【図10】(a)〜(c)は本発明の各実施例に係るセルアレイソータの表面に細胞が接着された状態を示す位相顕微鏡写真であり、(a)は第1の実施例のセルアレイソータであり、(b)は第2の実施例のセルアレイソータであり、(c)は未処理のセルアレイソータである。
【図11】(a)〜(c)は本発明の各実施例に係るセルアレイソータの表面から細胞を遊離させた状態を示す位相顕微鏡写真であり、(a)は第1の実施例のセルアレイソータであり、(b)は第2の実施例のセルアレイソータであり、(c)は未処理のセルアレイソータである。
【図12】本発明の各実施例に係るセルアレイソータへの細胞接着数及びセルアレイソータからの細胞遊離数を示すグラフである。
【符号の説明】
【0090】
11 基板
12 金属膜スポット
13 刺激応答性ポリマー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に互いに間隔をおいて行列状に形成された複数の金属膜スポットと、
前記各金属膜スポットの表面に固定され、外部からの刺激に応答して疎水性の強さが変化する刺激応答性ポリマーとを備え、
外部から刺激に応じて、前記各金属膜スポットへの細胞の接着と、前記各金属膜スポットからの細胞の遊離とを行うことを特徴とするセルアレイソータ。
【請求項2】
前記刺激応答性ポリマーの表面は、細胞を特異的に認識する機能を有する機能性分子により修飾されており、
前記各金属膜スポットには、前記機能性分子により認識された細胞が接着されることを特徴とする請求項1に記載のセルアレイソータ。
【請求項3】
前記刺激応答性ポリマーは、N−2−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド及びメタクリル酸メチルをコモノマーとして含む共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルアレイソータ。
【請求項4】
前記各金属膜スポットの径は、0.1μm以上且つ300μm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のセルアレイソータ。
【請求項5】
前記各金属膜スポットは、金からなり、
前記刺激応答性ポリマーは、末端にチオール基を有するポリマーであり、
前記刺激応答性ポリマーは、前記金属膜スポットの表面と共有結合していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のセルアレイソータ。
【請求項6】
前記各金属膜スポット表面にそれぞれ形成されたチオール基を有する有機薄膜をさらに備え、
前記刺激応答性ポリマーは、前記有機薄膜の表面からグラフト重合により成長させたグラフトポリマーであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項7】
前記刺激応答性ポリマーは、温度に応答するポリマーであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のセルアレイソータ。
【請求項8】
前記刺激応答性ポリマーは、光に応答するポリマーであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のセルアレイソータ。
【請求項9】
細胞を接着した後、接着した細胞を遊離して回収するセルアレイソータの製造方法であって、
基板の上に金属膜を形成した後、形成した金属膜をフォトリソエッチングすることにより前記基板の上に、前記金属膜から複数の金属膜スポットを行列状に形成する工程(a)と、
前記各金属膜スポットの表面に外部からの刺激に応答して疎水性の強さが変化する刺激応答性ポリマーを固定する工程(b)とを備えていることを特徴とするセルアレイソータの製造方法。
【請求項10】
前記刺激応答性ポリマーの表面を、細胞を特異的に認識する機能を有する機能性分子により修飾する工程(c)をさらに備えていることを特徴とする請求項9に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項11】
前記工程(a)において、前記金属膜は、真空蒸着法、スパッタリング法又はメッキ法により形成することを特徴とする請求項9又は10に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項12】
前記各金属膜スポットは金からなり、
前記前記工程(a)よりも前に、前記基板の表面にニッケル及びクロムの少なくとも一方からなる中間層を形成する工程(d)をさらに備えていることを特徴とする請求項9から11のいずれか1項に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項13】
前記各金属膜スポットは金からなり、
前記工程(a)よりも前に、前記基板の表面を不活性ガス、酸素、一酸化炭素及び二酸化炭素のうちの1つ又は少なくとも2つからなる混合ガスを用いてプラズマ処理する工程(e)をさらに備えていることを特徴とする請求項9から11のいずれか1項に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項14】
前記工程(b)は、前記刺激応答性ポリマーの末端にチオール基を導入する工程と、チオール基を導入した前記刺激応答性ポリマーを前記各金属膜スポットの表面と反応させる工程とを含むことを特徴とする請求項9から13のいずれか1項に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項15】
前記工程(b)は、前記各金属膜スポットの表面にチオール基を有する化合物からなる有機薄膜をそれぞれ形成した後、形成した有機薄膜をプラズマ処理して活性化する工程と、活性化した前記有機薄膜の表面にグラフト重合により前記刺激応答性ポリマーを形成する工程とを含むことを特徴とする請求項9から13のいずれか1項に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項16】
基板の上に互いに間隔をおいて行列状に形成された複数の金属膜スポットと、前記各金属膜スポットの表面に固定され、外部からの刺激に応答して疎水性の強さが変化し且つ表面が細胞を特異的に認識する機能性分子表面により修飾された刺激応答性ポリマーとを備えたセルアレイソータを用い、
複数種類の細胞が含まれる細胞浮遊液と前記セルアレイソータとを接触させることにより、前記機能性分子が認識する細胞を、前記各金属膜スポットの表面に選択的に接着する工程と、
細胞が接着された前記セルアレイソータに対して外部から刺激を与えることにより、前記セルアレイソータから細胞を遊離させて回収する工程とを備えていることを特徴とする細胞ソート法。
【請求項1】
基板の上に互いに間隔をおいて行列状に形成された複数の金属膜スポットと、
前記各金属膜スポットの表面に固定され、外部からの刺激に応答して疎水性の強さが変化する刺激応答性ポリマーとを備え、
外部から刺激に応じて、前記各金属膜スポットへの細胞の接着と、前記各金属膜スポットからの細胞の遊離とを行うことを特徴とするセルアレイソータ。
【請求項2】
前記刺激応答性ポリマーの表面は、細胞を特異的に認識する機能を有する機能性分子により修飾されており、
前記各金属膜スポットには、前記機能性分子により認識された細胞が接着されることを特徴とする請求項1に記載のセルアレイソータ。
【請求項3】
前記刺激応答性ポリマーは、N−2−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド及びメタクリル酸メチルをコモノマーとして含む共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルアレイソータ。
【請求項4】
前記各金属膜スポットの径は、0.1μm以上且つ300μm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のセルアレイソータ。
【請求項5】
前記各金属膜スポットは、金からなり、
前記刺激応答性ポリマーは、末端にチオール基を有するポリマーであり、
前記刺激応答性ポリマーは、前記金属膜スポットの表面と共有結合していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のセルアレイソータ。
【請求項6】
前記各金属膜スポット表面にそれぞれ形成されたチオール基を有する有機薄膜をさらに備え、
前記刺激応答性ポリマーは、前記有機薄膜の表面からグラフト重合により成長させたグラフトポリマーであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項7】
前記刺激応答性ポリマーは、温度に応答するポリマーであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のセルアレイソータ。
【請求項8】
前記刺激応答性ポリマーは、光に応答するポリマーであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のセルアレイソータ。
【請求項9】
細胞を接着した後、接着した細胞を遊離して回収するセルアレイソータの製造方法であって、
基板の上に金属膜を形成した後、形成した金属膜をフォトリソエッチングすることにより前記基板の上に、前記金属膜から複数の金属膜スポットを行列状に形成する工程(a)と、
前記各金属膜スポットの表面に外部からの刺激に応答して疎水性の強さが変化する刺激応答性ポリマーを固定する工程(b)とを備えていることを特徴とするセルアレイソータの製造方法。
【請求項10】
前記刺激応答性ポリマーの表面を、細胞を特異的に認識する機能を有する機能性分子により修飾する工程(c)をさらに備えていることを特徴とする請求項9に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項11】
前記工程(a)において、前記金属膜は、真空蒸着法、スパッタリング法又はメッキ法により形成することを特徴とする請求項9又は10に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項12】
前記各金属膜スポットは金からなり、
前記前記工程(a)よりも前に、前記基板の表面にニッケル及びクロムの少なくとも一方からなる中間層を形成する工程(d)をさらに備えていることを特徴とする請求項9から11のいずれか1項に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項13】
前記各金属膜スポットは金からなり、
前記工程(a)よりも前に、前記基板の表面を不活性ガス、酸素、一酸化炭素及び二酸化炭素のうちの1つ又は少なくとも2つからなる混合ガスを用いてプラズマ処理する工程(e)をさらに備えていることを特徴とする請求項9から11のいずれか1項に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項14】
前記工程(b)は、前記刺激応答性ポリマーの末端にチオール基を導入する工程と、チオール基を導入した前記刺激応答性ポリマーを前記各金属膜スポットの表面と反応させる工程とを含むことを特徴とする請求項9から13のいずれか1項に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項15】
前記工程(b)は、前記各金属膜スポットの表面にチオール基を有する化合物からなる有機薄膜をそれぞれ形成した後、形成した有機薄膜をプラズマ処理して活性化する工程と、活性化した前記有機薄膜の表面にグラフト重合により前記刺激応答性ポリマーを形成する工程とを含むことを特徴とする請求項9から13のいずれか1項に記載のセルアレイソータの製造方法。
【請求項16】
基板の上に互いに間隔をおいて行列状に形成された複数の金属膜スポットと、前記各金属膜スポットの表面に固定され、外部からの刺激に応答して疎水性の強さが変化し且つ表面が細胞を特異的に認識する機能性分子表面により修飾された刺激応答性ポリマーとを備えたセルアレイソータを用い、
複数種類の細胞が含まれる細胞浮遊液と前記セルアレイソータとを接触させることにより、前記機能性分子が認識する細胞を、前記各金属膜スポットの表面に選択的に接着する工程と、
細胞が接着された前記セルアレイソータに対して外部から刺激を与えることにより、前記セルアレイソータから細胞を遊離させて回収する工程とを備えていることを特徴とする細胞ソート法。
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【図7】
【図12】
【図1】
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【図3】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−202489(P2007−202489A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26183(P2006−26183)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】
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