説明

セルフレベリング性組成物

【課題】安価で、かつ、大抵の土木・建設現場にある既製の材料で容易に現場混練でき、かつ、流動性があり、材料不分離性を有し、所望の強度があり、ひび割れを生じないセルフレベリング性組成物を提供することにある。
【解決手段】水とセメントと砂と減水剤とからなるセルフレベリング性組成物であって、減水剤を所定割合加えた水/セメント比(W/C)が30〜50重量%のセメントペーストに、JASS15M-103に規定するフロー値が16〜21cmとなるように砂の添加割合を調合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の建築過程においてコンクリート打ちした床にフローリング等を設ける前に、床面に流し込むセルフレベリング性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート用骨材や左官砂を使用し、フライアッシュ、高炉スラグ、石灰微粉末などの混和材を必要とせず、施工現場での練り混ぜによって調整が可能なセルフレベリング性組成物として、特開2003−313069号公報に開示の技術が知られている。
【0003】
しかしながら、この組成物の生成には、セルロースエーテルや微生物発酵増粘多糖類といった特殊材料を所定量添加することが必須であり、施工現場での練り混ぜは可能であっても、その作業に熟練を要するものであり、上記特殊材料の納入タイミングも含め、施工が非常に煩雑となる。
【0004】
このため、建築現場に常備されており、その取り扱いも周知な材料(普通セメントや左官砂など)のみから生成されるセルフレベリング性組成物が出来れば、現場での混練を容易にすることができるのであるが、流動性、材料不分離性、ひび割れ防止等を考慮した配合が定量的に定まっていないのが現状である。
【0005】
なお、本発明にかかる参考文献として下記の文献を例示しておく。
【特許文献1】特開2003−313069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、安価で、かつ、大抵の土木・建設現場にある既製の材料で容易に現場混練でき、かつ、流動性があり、材料不分離性を有し、所望の強度があり、ひび割れを生じないセルフレベリング性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のような目的を有効に達成するために請求項1記載の本発明のセルフレベリング性組成物は、水とセメントと砂と減水剤とからなるセルフレベリング性組成物であって、減水剤を所定割合加えた水/セメント比(W/C)が30〜50重量%のセメントペーストに、JASS15M-103に規定するフロー値が16〜21cmとなるように砂の添加割合を調合している。
【0008】
また、請求項2記載の本発明のセルフレベリング性組成物は、請求項1記載のセルフレベリング性組成物の構成において、砂は、粒径0.1mm未満の粒子の含有率が10重量%以下のものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上記のような配合からなるセメントペーストに、フロー値が16〜21cmとなるように砂の添加割合を調合したセルフレベリング性組成物であるが故に、建築物の床面に流し込んだ場合に、流動性があり、材料不分離性を有し、硬化した後には所望の強度があり、ひび割れも生じない。また、本発明のセルフレベリング性組成物は、特殊材料を使用することなく大抵の土木・建設現場にある既製の材料で構成されているので、現場で容易に混練して作ることができ、安価に仕上げることができる。
【0010】
また、本発明のセルフレベリング性組成物における砂は粒径0.1mm未満の粒子の含有率が10重量%以下のものであることによって、このセルフレベリング性組成を床面に流し込んでトンボや鏝で均した場合、砂の粒子が表面に突出して平滑性が損なわれるといったことを極力防止することができる。なお、砂は最大粒径が塗厚の8割以下となるよう予めフルイにかけておくことが望ましい。最大粒径が塗厚の8割より大きいと、上記したように粒子が表面に突出して平滑性が損なわれてしまう確率が高くなるからである。また、硅砂(粒度を調整した砂)を混ぜてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図1〜図4及び表1を参照して説明する。
先ずセルフレベリング材(以下、SL材という。)に要求される性質と、それに影響を与える材料組成上の因子との関係を下記の表1に示す。
【0012】
【表1】







【0013】
SL材に要求される性能は、以下のとおりである。
(1)平滑であること
→トンボ仕上げ1回で平滑になる程の流動性を有していること。(流動性)
(2)SL材の上に貼るクロス、フローリング等の仕上材との接着性がよいこと
→ブリージングが少なく、硬化後表面にレイタンスが極力発生しないこと(材料分離抵抗性)
→ひび割れを生じないこと(乾燥収縮)
(3)壊れないこと(強度)
【0014】
そして、これらの性能に影響を与える因子が、以下の3つである。
A、セメントペーストの濃さ(水/セメント比(W/C))
B、砂の配合割合(砂/ペースト比(W/P))
C、砂の粒度分布
【0015】
セメントペーストが濃い程、流動性は悪くなる。一方、セメントペーストが薄い程、流動性は向上するが、砂を含めた材料全体で考えると、材料分離が発生しやすくなり、強度も低下する。
【0016】
砂の配合割合が多いと流動性が低下する。分離抵抗性についてもセメントペーストが薄い場合においてその多寡が影響を与える。砂に最も期待する性能は、乾燥収縮に対する抵抗性である。
【0017】
砂の粒度分布が異なると、砂全体の表面積が異なってくる。このため、砂への付着水の差から、流動性、分離抵抗性に影響を与える。特に微粒子分の多寡が影響を与える。また全体の粒度分布の割合によっても流動性が異なってくる。
【0018】
そして、これらの因子は、有機的に関係しあっており、各々の状態(ペースト濃度の高低、砂の配合割合の多寡など)によって影響の度合いが異なる。このため、3者の定量的な関係のみからは、配合を定めることはできない。
【0019】
本発明では、流動性の仕様として用いられている(社)日本建築学会規格JASS15M−103「セルレベリング材の品質基準」に規定するフロー値に着目した。
【0020】
具体的には、上記3因子とフロー値との関係は、図1に示すとおりであった。
使用した砂は、左官砂4〜6号硅砂および左官砂と4〜7号硅砂の混合砂である。
ひび割れを発生しない砂の配合割合は、砂/ペースト(ペースト=水+セメント)比で100重量%であった。7号硅砂単独で用いるのは好ましくなく、粒径0.1mm以下の微粒分の含有割合が10重量%未満の砂を用いるのが好ましい。その理由は後述する。
【0021】
セメントペーストだけでは、流動性は確保できるがひび割れが発生する。そこで、発生防止のために砂を加える。しかし、砂を加えると今度は流動性が低下する。また、強度の確保及び強度発現を早くするためにはセメントの配合割合を多くすればよいが、多くなると砂の添加と相まって流動するか低下する。
【0022】
水/セメント比(W/C)は30%以上が好ましい。30%より少ないと、ペーストの濃度が濃くなるため、セルフレベリング材としての所望の流動性を得るためには、配合する砂の割合が制限される。その結果、ペーストの割合が多くなり、乾燥収縮によるひび割れが発生する。
安定的に、当該効果を得るためには35%以上とするのがより好ましい。
【0023】
水/セメント比(W/C)は50%以下が好ましい。
50%を超えると、ひび割れの発生しない状態での所定の流動性を確保できても、セルフレベリング材としての必要な圧縮強度(20N/mm2)を確保できなくなる。安定的に、強度を確保するには、45%以下がより好ましい。強度発現が早く、翌日のクロス、フローリング等の仕上材の施工が可能となる。
【0024】
砂の配合割合は、砂を配合したときの組成物のフロー値が、16cm以上となるよう調整することが好ましい。
建築学会基準によれば、19cm以上であるが、本発明の場合は微生物発酵増粘多糖類等の特殊材料を含まないため、16cm以上であれば所定の流動性が得られることが実験でも確認できた。より好ましくは17cm以上である。
【0025】
砂の配合割合は、砂を配合したときの組成物のフロー値が、21cm以下となるよう調整することが好ましい。
建築学会基準によれば、上限値はない。しかし、上記のようなシンプルな材料構成の本発明にあっては、21cmより大きいと、砂の添加割合が少なくなり、ひび割れ、材料分離(グリーシング)が発生し、フローリング等の仕上材への接着を良好に行うことができない。より好ましくは、20cm以下である。したがって、JASS15M-103に規定するフロー値が16〜21cmとなるよう砂の配合割合を調整する。
【0026】
砂は粒径0.1mm未満の粒子の含有率が10重量%以下が好ましい。その理由を以下に示す。
図2に示す種々の粒度の砂を添加した場合におけるモルタル組成物のφ50フロ−値(流動性)と単位水量(砂の添加割合の多寡)との関係を図3に示す。
【0027】
これによると、全ての種類の砂において、単位水量が多い程、すなわち砂の添加割合が少ない程、流動性が向上することがわかる。
【0028】
しかしながら、7号硅砂単独のものは、同じフロー値を得るのに必要な砂の配合割合が極端に少ない。各種砂の粒度分布(図4参照)をみると、7号硅砂単独における粒径0.1mm以下の粒子の割合が極端に多いことが分かる。
【0029】
すなわち、粒径0.1mm以下の微粒子が多いと砂全体の表面積が大きくなり、砂に付着する水の量も多くなり、見掛けの水/セメント比(W/C)が小さく(=セメントペースト分が濃く)なるために、7号硅砂単独のものは、同じフロ−値を得るために必要な砂の量が極端に少なくなったと考えられる。
【0030】
このため、7号硅砂を単独で用いる場合も含めると、図1で示すところの(2)のバンド幅が下方に広がることになり、使用可能な水/セメント比(W/C)の下限値が高くなり、使用可能な水/セメント比(W/C)の範囲が狭くなり、効率的でない。図4から砂は粒径0.1mm以下の粒子の含有割合が10%未満であることが望ましい。
【0031】
減水剤はポリカル系が好ましい。
図1に示すように、流動性付与の効果を発揮しやすい配合割合は、セメント剤に対して概ね0.5〜1.0%である。図1においては、0.8%添加した。なお、この減水剤を所定割合加えた水セメント比は、30〜50重量%、好ましくは35〜45重量%である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】φ50フロー値と水/セメント比(重量%)との関係を示す図である。
【図2】各種の硅砂並びに左官砂の各線記号を示す説明図である。
【図3】硅砂種類毎の単位水量とφ50フロー値の関係を示す図である。
【図4】硅砂と左官砂の単体および混合使用時の骨材粒度分布図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水とセメントと砂と減水剤とからなるセルフレベリング性組成物であって、減水剤を所定割合加えた水/セメント比(W/C)が30〜50重量%のセメントペーストに、JASS15M-103に規定するフロー値が16〜21cmとなるように砂の添加割合を調合していることを特徴とするセルフレベリング性組成物。
【請求項2】
砂は、粒径0.1mm未満の粒子の含有率が10重量%以下のものであることを特徴とする請求項1記載のセルフレベリング性組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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