説明

セルロース−ポリアクリル酸系高保水性繊維、及びその製造法

【目的】本発明は、サニタリ−ナプキン、紙おむつ、失禁用パッドなどの衛生材料の保水材として使用されるセルロース−ポリアクリル酸系高保水性繊維、並びにその製造法に関するものである。
【構成】ビスコース法レーヨン繊維中にポリアクリル酸塩を含む、単一成分からなる繊維若しくはセルロース成分中にポリアクリル酸塩を均一に含む成分とセルロース単独成分とが接合された複合繊維であり、吸水時の保水性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】本発明は、サニタリ−ナプキン、紙おむつ、失禁用パッドなどの衛生材料の保水材として使用されるセルロース−ポリアクリル酸系高保水性繊維、並びにその製造法に関するものである。
【0002】
【従来技術】紙おむつ、サニタリ−ナプキン等の衛生用品は、不織布等の透水性シートとポリオレフィン等の非透水性シートにパルプや高吸水性樹脂(以下保水材と記す)を挟持させた構造を有している。近年これらの衛生材料は、小型化、薄型化への要求が強まり、使用される保水材の高性能化、形態安定性の向上が必要になってきている。
【0003】従来より保水材としては粉体状の高分子吸水剤及び繊維状の高分子吸水剤が公知であり、一般的には(工業材料誌 Vol 42 No.4 p18 )にあるように粉体状高分子吸水剤がよく使用されている。
【0004】粉体状保水材としては、合成高分子系として、例えばポリアクリル酸系化合物、ポリビニル系化合物等が知られ、天然高分子系としてはシアノメチルセルロ−ス、カルボキシメチルセルロ−ス等が知られている。
【0005】また、繊維状保水材として、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩をビスコースに混合し紡糸する方法(特開昭56−9418号)や、再生セルロース繊維をカルボキシメチル化する方法(特公昭60−2707号)アクリロニトリル繊維を加水分解し、外表面にポリアクリル酸系吸水層を形成させた2重構造の保水材(特開昭55−132754号)が知られている。
【0006】
【従来法における問題点】紙おむつ、サニタリーナプキン等の衛生用品保水材の必要機能としては、吸水性もさることながら、一旦吸収した水分を、圧力が作用した場合にも放出しない、いわゆる保水性が重要である。
【0007】また、その取扱い性も重要な要素であり、繊維状保水材の乾燥時の繊維強度は、加工工程での取扱い上0.8g/d程度の強度が必要になる。
【0008】粉体状の保水材はその形態により吸収体からの脱落が生じ易く、また、吸水時も流動性の高いゲル化状態となり、形態安定性が乏しいという問題点がある。
【0009】例えば紙おむつの保水材に使用する場合は、尿を吸水した際に紙おむつの中で保水材がゲル化、動きによりゲルが流動化し吸収体のかたより、べとつきを生じるため使用感が悪くなるという問題がある。
【0010】繊維状保水材として、ビスコースにカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を混合する方法では、共にセルロース系であるため、相溶性は高く繊維としてはその特性を備えているが、保水性が不十分である。
【0011】レーヨンをカルボキシメチル化する方法では、繊維全体が吸水性となるため、繊維自身がゲル化してしまい、形態安定性が悪く、乾燥時の繊維強度が低いという問題点がある。
【0012】アクリロニトリル系繊維の外表面にポリアクリル酸系吸水層を形成させた2重構造の繊維状保水材では、製造工程が複雑であるという問題点を有する。
【0013】
【発明の目的】本発明は、衛生用品材料として使用したときに安全で、しかも高い保水率を有し、吸水状態でも繊維形態を有し、しかも乾燥時には、取り扱いに十分な繊維強度を有する、高保水性繊維を提供することにある。
【0014】
【発明の構成】本発明は下記の構成からなる。ビスコース法レーヨン繊維中にポリアクリル酸塩を含む、セルロース−ポリアクリル酸系高保水性繊維であり、此の繊維は、セルロース成分中にポリアクリル酸塩を均一に含む単一性成分繊維及びこのセルロース成分中にポリアクリル酸塩を均一に含む成分と、セルロース単独成分との2成分からなる複合繊維である。これらの繊維は、200%以上の保水率と乾繊維強度が0.8g/d以上の性能を有する。
【0015】この様な繊維の製造は、レーヨン用ビスコースにポリアクリル酸塩を混合した混合紡糸原液成分を紡糸する事及び、レーヨン用ビスコースにポリアクリル酸塩を混合した混合紡糸原液成分とポリアクリル酸塩を含まない原液成分とを複合紡糸することからなる。
【0016】本発明の高保水性繊維は、衛生用品用の保水材に好適であり、従来にない高い保水率と高い乾燥時の強度を有する、しかもレーヨン繊維の中に吸水成分が点在する構造のため、吸水時も繊維形態を維持しており、このため、吸水時の形態安定性にも優れている。
【0017】本発明の保水性繊維は単独のみならず、他の繊維のウェブ、不織布などに担持、若しくは挟持して、衛生材料として使用することが出来る。
【0018】本発明の高保水性繊維は、開繊工程のような機械的加工工程、及び吸水時でもポリアクリル酸塩の脱落がない。
【0019】本発明において繊維の構造は、セルロースにポリアクリル酸塩が均一に分散された単一成分構造の繊維、セルロースにポリアクリル酸塩が均一に分散した成分とセルロース単独繊維成分とがサイドバイサイド若しくは鞘芯構造に接合された複合構造の繊維とを含む。
【0020】鞘芯構造の複合繊維の場合、芯成分としてセルロースにポリアクリル酸塩が均一に分散した成分、鞘成分としてセルロース単独成分になるように配置された構造の複合繊維が特によい。
【0021】本発明において、ポリアクリル酸塩とは、一般的にポリアクリル酸系吸水剤若しくはポリアクリル酸系高吸水性樹脂として市販され、容易に入手することができる(工業材料誌 Vol 42 No.4 p26 )ものであり、ポリアクリル酸塩を軽度に架橋したもの、澱粉にポリアクリル酸塩をグラフトしたものなど、ポリアクリル酸骨格を主体とする吸水性ポリマーであり、これらは単独または2種以上を併用することもできる。さらに、イソブチレンー無水マレイン酸共重合体も利用できる。
【0022】本発明において、「ビスコース法レーヨン繊維」は通常のビスコース法レーヨン繊維用ビスコ−スから紡糸された繊維であり、主としてセルロ−ス濃度7〜10%、アルカリ濃度5〜6%、ホッテンロ−ト価8〜12の普通ビスコ−スレ−ヨン用のビスコ−ス及び、強力レ−ヨン用ビスコース、ポリノジック用ビスコース、HWM用ビスコース、或いは組成を変更したビスコースを用いて得られた繊維である。
【0023】ポリアクリル酸塩の混合量は、少なくとも10重量%(全セルロースに対する重量比)とするのがよい。混合量が10%未満であると、十分な保水率が得られない。
【0024】一方ビスコース中のセルロース成分に対し添加量が200%を超えると、ビスコース原液中のポリアクリル酸塩が過多となり、紡糸時に再生浴での曳糸性が悪く、紡糸を円滑に行うのが困難となる。
【0025】セルロース繊維中にポリアクリル酸塩が均一に分散された単一構造の繊維のでは、セルロースとポリアクリル酸塩が十分に混合されており、両成分の確認は出来難い。
【0026】このような繊維は、セルロース成分中にポリアクリル酸塩が粒状で分散されており、ポリアクリル酸塩粒子は繊維の外表面に露出している部分を含んでいる。
【0027】このため,吸水時ポリアクリル酸塩が脱落する可能性が否定できない反面露出したポリアクリル酸塩は、吸水しやすいという利点を有する。
【0028】サイドバイサイド型複合繊維では、セルロース繊維中にポリアクリル酸塩が均一に分散された成分と、セルロース単独成分とが接合されており、ポリアクリル酸塩を含む成分が吸水性、保水性を、セルロース単独成分が繊維の機械的性質をそれぞれ負担している。このため吸水性、保水性と繊維強度、形態安定性等の性質を保有する繊維となっている。
【0029】セルロース中にポリアクリル酸塩が均一に分散された成分を芯成分とし、セルロース単一成分を鞘として接合された、鞘芯型複合繊維では、ポリアクリル酸塩を含む成分をセルロース単一成分で被覆した断面構造となるためポリアクリル酸塩の脱落は吸水時、繊維製造時の何れの段階においてもなく、鞘成分を薄い被膜とすることによって吸水時の障害を防止する事が出来る。
【0030】特に、繊維構造が複合繊維の場合、繊維全体に占めるセルロース成分に対するポリアクリル酸塩の比率が同じであっても、均一分散の単一構造の繊維よりも高い保水率と高い乾強度を得ることが出来る。
【0031】このような本発明の高保水性繊維は、200%以上の保水率を有し,50gの繊維で100g以上の保水率を有することになるため、サニタリー用として好適である。
【0032】しかも吸水時も繊維形態を維持するため、定形性があり吸水状態での移動がない。
【0033】また、乾燥状態では繊維強度が約1g/d前後と高いため、加工性にも優れている。
【0034】特に、繊維形成高分子が、ポリアクリロニトリルのような合成高分子物質でなく、セルロースであるため、易生分解であり、土中における分解も速いという特性を有する。
【0035】以下に本発明の繊維の製造方法を示す。図1R>1に本発明の製造工程のフローシートを示す。図1において、11はA成分ビスコース原液、12はポリアクリル酸塩、13はビスコースへのポリアクリル酸塩の混合工程、14はB成分ビスコース原液、15は再生工程、16は延伸工程、17は精練工程である。単独成分の紡糸では、14の工程はない。
【0036】図1における11に示した、本発明の高保水性繊維の製造に用いられる紡糸原液は、ビスコースレーヨン用の紡糸原液が使用される。
【0037】すなわち、通常のビスコース法レーヨン繊維用ビスコ−スであり、主としてセルロ−ス濃度7〜10%、アルカリ濃度5〜6%、ホッテンロ−ト価8〜12の普通ビスコ−スレ−ヨン用のビスコ−ス及び、強力レ−ヨン用ビスコース、ポリノジック用ビスコース、HWM用ビスコース、或いは組成を変更したビスコースである。
【0038】ビスコースに対するポリアクリル酸塩の配合(図1における13)は、固形のポリアクリル酸塩を添加し、均一混合する事によって行われる。
【0039】ポリアクリル酸塩は、30ミクロン以下のものを用いることが好ましい。30ミクロンを超えると、紡糸時の曳糸性が低下すると共に、繊維表面にポリアクリル酸塩が露出し脱落しやすくなる。特に好ましくは10ミクロン以下更に好ましくは、5ミクロン以下である。
【0040】ビスコースにポリアクリル酸塩を混合するに際しては、ポリアクリル酸塩を予め水酸化ナトリウム水溶液に分散させて後、添加し攪拌混合するのがよい。
【0041】ここで使用される水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、10〜30%とし、この水酸化ナトリウム水溶液にポリアクリル酸塩を20〜40%とし、最終的に水酸化ナトリウム濃度がビスコースのアルカリ濃度とほぼ一致するように調製するのがよい。
【0042】その理由は直接ビスコースに混合すると、分散性が悪いためであり、水酸化ナトリウムを使用する理由は、ビスコース中のアルカリ分が水酸化ナトリウムであること、及びポリアクリル酸塩の膨潤を抑制するのに最も適しているからである。
【0043】最終的には、繊維中に10〜200(全セルロース重量に対する比)になるように配合する。配合量が200%を超えると繊維の製造が困難となり、10%に満たないと十分な保水性が得られないからである。
【0044】その後さらに、アルカリ溶液を添加し、セルロース濃度、アルカリ濃度、ポリアクリル酸塩のセルロースに対する比を調整し紡糸原液とする(図1には記載されていない)。
【0045】ポリアクリル酸塩が配合されたビスコース紡糸原液は、通常のビスコースレーヨンの紡糸と同様にして行われる。
【0046】複合繊維の紡糸は、ポリアクリル酸塩が配合されたビスコース紡糸原液(A成分)と、ポリアクリル酸塩が配合されていないビスコース紡糸原液(B成分)とをノズル孔で複合し、紡糸される。
【0047】複合繊維の紡糸には、通常アクリロニトリル系複合繊維の紡糸などに一般的に使用されている形式のノズルが使用できる。
【0048】図2に典型的な複合繊維用紡糸ノズル例をモデル的に示す。図2は、複合繊維紡糸のノズル複合部断面構造を示したものである。図2において、21は仕切壁、22はノズル板、23はノズル孔、24は複合された繊維を、それぞれ示す。
【0049】此のノズル内側部において、仕切壁を介して、複合されるA成分紡糸原液とB成分紡糸原液とが配され、別々に供給される。此のA、B両紡糸原液は、ノズルの孔部で互いに接合される。
【0050】A,B両成分の供給量の差によって両成分の複合比率は変わる。両成分(A成分、B成分)の量的比率は自由に設定することが出来、その場合、A:Bの固形分(セルロース)比率で例えば1:1、1:2などのようにして表される。
【0051】特に本発明において、鞘芯型複合繊維の紡糸に際しては、鞘成分となる一方成分のビスコース濃度を30から60%にまで希釈した紡糸原液を使用し、且つ供給量を1.5倍以上にして複合紡糸をすると、低濃度成分が鞘成分を構成し、芯成分を鞘成分が包み込んだ形の鞘芯型複合繊維とする事が出来る。
【0052】再生浴15は、普通ビスコ−スレ−ヨン用の再生浴組成がそのまま再生浴として使用できる。具体的には温度40〜50℃、硫酸濃度90〜120g/l、硫酸ソ−ダ300〜400g/l、硫酸亜鉛濃度10〜20g/lを含む水溶液で、紡浴浸漬長20〜60cmで使用される。
【0053】再生浴では、吐出線速度5〜20m/分、吐出後、50〜300%(1.5〜4.0倍)のドラフトを与えて再生浴から引き取られる。
【0054】図1でノズル13から出たビスコース原液は15の再生工程にて硫酸と反応しゲル状繊維となる。
【0055】次いで、16の延伸工程によって分子配向を行う。
【0056】再生浴を出たゲル状繊維は、空中、水浴、或いはそれらの組合せにて、延伸されるが、その延伸率は普通ビスコースレーヨンと同様に30〜50%(1.3〜1.5倍)で行われる。
【0057】延伸工程は空中延伸、水浴延伸、又はそれらの組合せで行うが水浴延伸の場合は再生浴から糸条によって持ち込まれた再生浴成分を含む場合があり、特に差し支えない。又、この延伸処理浴は単浴でも多段浴でもよい。
【0058】延伸工程において、ポリアクリル酸塩が外表面に露出しているか、それに近い状態であると、延伸の際、絞り出し効果によって、ポリアクリル酸塩が脱落する可能性が高い。そこで、此の場合、ゲル状繊維の延伸は、空間走行中に行うのが好ましい。
【0059】特にサイドバイサイド型の複合繊維では、ポリアクリル酸塩の粒子が一方成分中に偏在して高密度で配合されているため、空間走行中に延伸することが好ましい。
【0060】延伸の際の温度は、高い方が延伸が容易であるので、空間走行中に延伸する場合は、加熱空気若しくは過熱蒸気が使用されることもある。延伸工程を出た糸条は次いで17の精練工程に導入される。
【0061】精練工程17は、ビスコース法レーヨン製造用の精練工程と同様に行われる。すなわち、温度60〜70℃の硫化ナトリウムと水酸化ナトリウムを含む混合水溶液で処理して微細残留硫黄を除去し、次いで次亜塩素酸ナトリウム水溶液による漂白、及び硫酸による漂白剤の中和が行われる。精練工程を経た生成物は乾燥工程を経て完成される。
【0062】必要により、乾燥前にアルカリ処理をすることができ、このアルカリ処理により、吸水性、保水性を一層高めることが出来る。すなわち、ビスコース法レーヨンの再生浴が酸性溶液であるため、混合したポリアクリル酸塩の吸水性能が低下し、ひいては保水率が低下するが、アルカリ処理により、ポリアクリル酸塩の保水能力をより高めることができる。このアルカリ処理に用いるアルカリは、一般的なアルカリ性物質を用いることが出来る。
【0063】即ちアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩などの無機系、エタノールアミン、アルカノールアミンなどの塩基性有機化合物であるり、アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等の他アンモニウムが使用される。特に炭酸ナトリウムが好ましい。その理由は、必要処理時間が最も短く、必要処理濃度が最も希薄ですみ、繊維間膠着の心配も全く無いからである。
【0064】濃度は0.5〜10%(重量)で、アルカリ処理液のpHは10〜12が特に好ましく、常温下で1〜10分間行われる。その理由は0.5%未満では吸水能力を高めるのに不十分であり、10%を超えると繊維間の膠着が発生し、200%以上の保水率が得られないためである。また、同様に処理時間が1分未満であると処理が不充分であり、10分を超えると繊維間に膠着が発生する。
【0065】
【発明の効果】本発明の保水材は形態的には繊維状であるため、従来の保水材であるフラッフパルプと粉体状吸水性ポリマーとを併用したものに比較して、乾燥時、湿潤時、いずれの状態でも優れた形態保持能力を有する。特に、吸水時においてポリアクリル酸塩の動きが膨潤状態でも規制され、このため着用時に違和感がない。
【0066】本発明の高吸水性繊維は、単独でも使用でき、又、既存の吸水性ポリマーと併用が可能であり、薄い保水材が製造可能なため、紙おむつ、サニタリ−ナプキン、パッドなどに好適に使用できる。
【0067】本発明の高保水性繊維は、200%以上の保水率を有し,50gの繊維で100g以上の保水率を有することになるため、サニタリー用として好適である。しかも吸水時も繊維形態を維持するため、定形性があり吸水状態での移動がない。
【0068】また、乾燥状態では繊維強度が約1g/d前後と高いため、加工性にも優れている。
【0069】特に、繊維形成高分子が、ポリアクリロニトリルのような合成高分子物質でなく、セルロースであるため、易生分解であり、土中における分解も速いという特性を有する。
【0070】本発明繊維の製造設備としては、ほとんどが、通常のビスコース法レーヨンの製造設備を用いることが出来るため、製造時の設備が必要ない点、低コストで繊維を得ることが出来る。
【0071】本発明の高保水性繊維は、カルボキシメチルセルロースを混合した吸水性繊維、セルロースをカルボキシメチル化した吸水性繊維に比較し、吸水性はほぼ同等であるが、保水性において勝れている。また、カルボキシメチルセルロースを混合した吸水性繊維は、繊維間膠着が生じやすく、このため乾燥時堅く、着用感が悪い、セルロースをカルボキシメチル化した吸水性繊維は、吸水時ゲル化し、使用感が悪いが、本発明の高保水性繊維は、このような問題点はない。
【0072】既存の市販品である、ポリアクリロニトリル繊維の外表面に高吸水材層を設けた構造の繊維に比較し、本発明の高保水性繊維は、製造工程が、従来のビスコースレーヨンの工程とポリアクリル酸塩を添加する工程がある以外は殆ど同一であり、簡単な製造工程で得ることができる。
【0073】以下、実施例によって本発明を説明する。
【0074】
【実施例】ここで保水率W%は以下によって定義される。
a.試料をよくときほぐし、RH65%の雰囲気で24時間維持し調湿する。 b.上記試料(Ag)を秤量し、生理食塩水に3分間浸積し、その後、5分 間金網上で水切りする。
c.水切りされた湿潤試料を重力加速度150Gにて90秒間遠心脱水して秤量する(Bg)。
d.以上の結果より次式によって求める
【0075】
【数1】


【0076】延伸率は、再生浴出の走行線速度と最終走行線速度との速度比であり、次式で示される。
【0077】
【数2】


【0078】
【実施例1】粒径3〜5μm の粉末状ポリアクリル酸塩(三井サイテック 社製、商品名アコジェルA)を30重量%(固形分濃度)を分散させた水酸化ナトリウム6%水溶液を、セルロ−ス9%(重量)、アルカリ5.7%(重量)、ホッテンロ−ト価10の普通ビスコ−スレ−ヨン用ビスコ−スに混合し、更に水酸化ナトリウム水溶液で溶液全体の成分濃度調整をし、セルロース8%(重量)、ポリアクリル酸塩0.8%(重量)、アルカリ濃度6%(重量)の紡糸原液を得た。この原液中のポリアクリル酸塩は10%(対セルロース重量)である。
【0079】再生浴として、硫酸110g/l、、硫酸亜鉛17g/l、硫酸ソーダ340g/lをそれぞれ含む、温度47℃の水溶液を用意した。ノズルは、孔径0.1mm、孔数1000の通常ノズルを使用し、吐出線速度7.9m/秒で吐出した。
【0080】再生浴を出たゲル状繊維を、空中延伸にて延伸率40%で延伸し、次いで精練工程を経た後、乾燥工程を経て、繊維を得た。この繊維の性能は、吸水率708%、保水率が203%、繊度が4.78デニ−ル、乾燥強度が0.85g/dであった。
【0081】この様にして得られた繊維を顕微鏡観察すると、ポリアクリル酸塩の粒子が繊維中に均一分散されていることが観察される。この繊維が水を含んだ状態は、繊維の形態を維持しており、流動性はなく、この状態で単繊維として引き抜く程度の強力を有していた。
【0082】
【実施例2〜3】実施例1の条件のうち、紡糸原液組成のみを変更しポリアクリル酸塩含有繊維を製造した。その結果を表1に示す。
【0083】
【表1】


【表2】


【表3】


【0084】表1において、PAはポリアクリル酸塩、形態の欄:Mは単一性成分成分繊維、S/Sはサイドバイサイド型複合繊維、S/Cは鞘芯型複合繊維を、アルカリ処理欄:SCは炭酸ソーダを示す。
【0085】
【実施例4】実施例1で使用した粉末状ポリアクリル酸塩を30重量%を分散させた水酸化ナトリウム6%水溶液を、セルロ−ス9%(重量)、アルカリ5.7%(重量)、ホッテンロ−ト価10の普通ビスコ−スレ−ヨン用ビスコ−スに混合し、セルロース7%(重量)、ポリアクリル酸塩1.6%(重量)、アルカリ濃度6%(重量)の紡糸原液を得た。この原液中のポリアクリル酸塩は18%(対セルロース重量)である。この紡糸原液をA成分紡糸原液とした。
【0086】セルロ−ス9%(重量)、アルカリ5.7%(重量)、ホッテンロ−ト価10の普通ビスコ−スレ−ヨン用ビスコ−スをB成分紡糸原液とした。再生浴として、硫酸110g/l、硫酸亜鉛17g/l、硫酸ソーダ340g/lをそれぞれ含む、温度47℃の水溶液を用意した。
【0087】ノズルは、孔径0.1mm、孔数7660のサイドバイサイド複合繊維用ノズルを使用し、A成分、B成分同一供給比にて供給し、吐出線速度6.1m/秒で吐出した。
【0088】延伸工程は空中延伸にて行われ、その延伸率は40%とし、次いで精練工程を経た後乾燥工程し、複合繊維を得た。この複合繊維の性能は、保水率が401%、繊度が4.97デニ−ル、乾燥強度が0.99g/dであった。
【0089】この様にして得られた繊維を顕微鏡観察すると、ポリアクリル酸塩の粒子が繊維中に均一分散されている成分と、ポリアクリル酸塩を含まない成分とが、サイドバイサイド型に接合された複合繊維であることが観察される。この複合繊維が水を含んだ状態は、繊維の形態を維持しており、流動性はなく、この状態で単繊維として引き抜く程度の強力を有していた。
【0090】
【実施例5】実施例4の方法において、紡糸原液A成分の組成を変更し、繊維全体のセルロースに対するポリアクリル酸塩の比を50%となるように、複合し他は同一条件にて実施しその結果を表1に示す。この複合繊維の性能は、保水率が425%、繊度が4.87デニ−ル、乾燥強度が0.92g/dであった。この複合繊維が水を含んだ状態は、繊維の形態を維持しており、流動性はなく、この状態で単繊維として引き抜く程度の強力を有していた。
【0091】
【実施例6】A成分として実施例4で使用したA成分紡糸原液と同一の組成のものを使用した。B成分として、セルロ−ス9%(重量)、アルカリ5.7%(重量)、ホッテンロ−ト価10の普通ビスコ−スレ−ヨン用ビスコ−スを純水と水酸化ナトリウムを用いてセルロース4.5%(重量)、アルカリ5.7%となるよう調整したものを準備した。
【0092】A,B両成分を、A/B=1/2となるよう、孔数7660のサイドバイサイド型複合繊維用ノズルに供給し複合繊維を紡糸した。再生浴として、硫酸110g/l、硫酸亜鉛17g/l、硫酸ソーダ340g/lをそれぞれ含む、温度47℃の水溶液を用意した。
【0093】この再生浴における浸漬長は60cmである。延伸工程は空中延伸にて行われ、その延伸率は40%で行った。 延伸工程を経た糸条は次いで精練工程を経た後、次いで乾燥工程を経て、鞘芯型複合繊維を得た。
【0094】この繊維は鞘芯型複合繊維であり、繊維全体のセルロースに対するポリアクリル酸塩の比は10%である。この複合繊維の性能は、保水率が472%、繊度が4.85デニ−ル、乾燥強度が1.06g/dであった。
【0095】又、この複合繊維の構造は、顕微鏡観察の結果A成分を芯に持つ鞘芯型であった。この複合繊維が水を含んだ状態は、繊維の形態を維持しており、流動性はなく、この状態で単繊維として引き抜く程度の強力を有していた。
【0096】
【実施例7】A成分として実施例5で使用したA成分紡糸原液と同一の組成のものを使用した。他の条件は実施例5と同一条件にて、実施した。この繊維は鞘芯型複合繊維であり、繊維全体のセルロースに対するポリアクリル酸塩の比は50%で
【0097】
【実施例8〜15】実施例2で得られた繊維(単一成分繊維)と実施例5で得られた繊維(サイドバイサイド型複合繊維)を濃度を変えた炭酸ソーダ水溶液にて25℃、5分間の処理を行い、次いで乾燥工程を経て、複合繊維を得た。この繊維の性質を表1に示す。
【0098】この繊維は、炭酸ソーダ水溶液で処理しないものに比較して、吸水性、保水性共に優れていた。この複合繊維が水を含んだ状態は、繊維の形態を維持しており、流動性はなく、この状態で単繊維として引き抜く程度の強力を有していた。
【0099】
【実施例16〜19】実施例7で得られた繊維(鞘芯型複合繊維)を濃度を変えた炭酸ソーダ水溶液にて25℃、5分間の処理を行い、次いで乾燥工程を経て、複合繊維を得た。この繊維の性質を表1に示す。この繊維は、炭酸ソーダ水溶液で処理しないものに比較して、吸水性、保水性共に優れていた。この複合繊維が水を含んだ状態は、繊維の形態を維持しており、流動性はなく、この状態で単繊維として引き抜く程度の強力を有していた。
【0100】
【実施例20〜22】実施例5で得られた繊維(サイドバイサイド型複合繊維)を苛性ソーダ4%水溶液(実施例20)、重炭酸ソーダ4%水溶液(実施例21)、エタノールアミン4%水溶液(実施例22)にて25℃、5分間の処理を行い、次いで乾燥工程を経て、複合繊維を得た。この繊維の性質を表1に示す。この繊維は、苛性ソーダ水溶液使用の繊維では繊維間膠着が見られ、エタノールアミン水溶液使用の繊維では残存臭気が認められた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造工程のフローシートを示す。
【図2】複合繊維紡糸ノズルの典型的な例をモデル的に複合部断面構造を示したものである。
【符号の説明】
11 A成分ビスコース原液
12 ポリアクリル酸塩
13 ビスコースへのポリアクリル酸塩の混合工程
14 B成分ビスコース原液
15 再生工程
16 延伸工程
17 精練工程
21 仕切壁
22 ノズル板
23 ノズル孔
23 複合された繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】ビスコース法レーヨン繊維中にポリアクリル酸塩を含む、セルロース−ポリアクリル酸系高保水性繊維。
【請求項2】セルロース成分中にポリアクリル酸塩を均一に含む単一成分からなる請求項1記載のセルロース−ポリアクリル酸系高保水性繊維。
【請求項3】セルロース成分中にポリアクリル酸塩を均一に含む成分と、セルロース単独成分との2成分からなる複合繊維である、請求項1記載のセルロース−ポリアクリル酸系高保水性繊維。
【請求項4】セルロース成分中にポリアクリル酸塩を均一に含む成分と、セルロースのみの成分とがサイドバイサイドに接合された複合繊維である請求項1記載のセルロース−ポリアクリル酸系高保水性繊維。
【請求項5】セルロース成分中にポリアクリル酸塩を均一に含む成分とセルロース単独成分とが鞘芯型に接合された複合繊維である、請求項1記載のセルロース−ポリアクリル酸系高保水性繊維。
【請求項6】セルロース成分中にポリアクリル酸塩を含み且つ保水率が200%以上である請求項1記載のセルロース−ポリアクリル酸系高保水性繊維。
【請求項7】セルロース成分中にポリアクリル酸塩を含み且つ乾繊維強度が0.8g/d以上である請求項1記載のセルロース−ポリアクリル酸系高保水性繊維。
【請求項8】レーヨン用ビスコースにポリアクリル酸塩を10〜200%(対セルロース重量)混合した混合紡糸原液を原液成分として使用し、紡糸、延伸、精練することを特徴とする、請求項1記載のセルロース−ポリアクリル酸系高保水性繊維の製造方法。
【請求項9】レーヨン用ビスコースにポリアクリル酸塩を10〜200%(対セルロース重量)混合した混合紡糸原液成分と、ポリアクリル酸塩を含まない原液成分とを複合紡糸することを特徴とする、請求項8記載のセルロース−ポリアクリル酸系高保水性繊維の製造方法。
【請求項10】レーヨン用ビスコースにポリアクリル酸塩を混合した混合紡糸原液成分と、ポリアクリル酸塩を含まない原液成分とを、サイドバイサイド形ノズルを用い複合紡糸することを特徴とする、請求項8記載のセルロース−ポリアクリル酸系高保水性繊維の製造方法。
【請求項11】精練後にアルカリ性水溶液にて処理をすることを特徴とする請求項8記載のセルロース−ポリアクリル酸系高保水性繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平9−132814
【公開日】平成9年(1997)5月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−305124
【出願日】平成7年(1995)10月30日
【出願人】(000003090)東邦レーヨン株式会社 (246)
【出願人】(000115108)ユニ・チャーム株式会社 (1,219)