説明

セルロースの低級脂肪酸エステルフイルム

【課題】偏光膜の保護機能が優れている光学的異方性ポリマーフイルムを提供する。
【解決手段】偏光膜の保護機能を有するセルロースの低級脂肪酸エステルフイルムにおいて、波長550nmにおけるセルロースの低級脂肪酸エステルフイルムの厚み方向のレターデーション値を75乃至150nmに調整し、そして、セルロースの低級脂肪酸エステルフイルムの偏光膜側となる面を、コロナ放電処理、グロー放電処理、火焔処理、酸処理、アルカリ処理または紫外線照射処理により表面処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースの低級脂肪酸エステルフイルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、液晶セル、偏光素子および光学補償シート(位相差板)からなる。透過型液晶表示装置では、二枚の偏光素子を液晶セルの両側に取り付け、一枚または二枚の光学補償シートを液晶セルと偏光素子との間に配置する。反射型液晶表示装置では、反射板、液晶セル、一枚の光学補償シート、そして一枚の偏光素子の順に配置する。
液晶セルは、棒状液晶性分子、それを封入するための二枚の基板および棒状液晶性分子に電圧を加えるための電極層からなる。液晶セルは、棒状液晶性分子の配向状態の違いで、透過型については、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、反射型については、TN、GH(Guest Host)、HAN(Hybrid Aligned Nematic)のような、様々な表示モードが提案されている。
【0003】
偏光素子は、一般に、偏光膜の両側に二枚の透明保護膜を取り付けた構成を有する。
光学補償シートは、画像着色を解消するため、あるいは視野角を拡大するために、様々な液晶表示装置で用いられている。光学補償シートとしては、延伸複屈折フイルムが従来から使用されていた。
【0004】
延伸複屈折フイルムからなる光学補償シートに代えて、透明支持体上に液晶性分子(特にディスコティック液晶性分子)から形成された光学的異方性層を有する光学補償シートを使用することが提案されている。光学的異方性層は、液晶性分子を配向させ、その配向状態を固定することにより形成する。一般に、重合性基を有する液晶性分子を用いて、重合反応によって配向状態を固定する。液晶性分子は、大きな複屈折率を有する。そして、液晶性分子には、多様な配向形態がある。液晶性分子を用いることで、従来の延伸複屈折フイルムでは得ることができない光学的性質を実現することが可能になった。
光学補償シートの光学的性質は、液晶セルの光学的性質、具体的には上記のような表示モードの違いに応じて決定する。液晶性分子、特にディスコティック液晶性分子を用いると、液晶セルの様々な表示モードに対応する様々な光学的性質を有する光学補償シートを製造することができる。
【0005】
ディスコティック液晶性分子を用いた光学補償シートでは、様々な表示モードに対応するものが既に提案されている。例えば、TNモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献1〜4に記載がある。また、IPSモードまたはFLCモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献5に記載がある。さらに、OCBモードまたはHANモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献6、7に記載がある。さらにまた、STNモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献8に記載がある。そして、VAモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献9に記載がある。
液晶性分子を用いた光学補償シートと偏光素子とを積層して楕円偏光板とすれば、光学補償シートの透明支持体を、偏光素子の一方の透明保護膜として機能させることができる。そのような楕円偏光板は、透明保護膜、偏光膜、透明支持体、そして液晶性分子から形成された光学的異方性層の順序の層構成を有する。液晶表示装置は薄型で軽量との特徴があり、構成要素の一つを兼用によって削減すれば、装置をさらに薄く軽量にすることができる。また、液晶表示装置の構成要素を一つ削減すれば、構成要素を貼り合わせる工程も一つ削減され、装置を製造する際に故障が生じる可能性が低くなる。液晶性分子を用いた光学補償シートの透明支持体と偏光素子の一方の保護膜を共通化した一体型楕円偏光板については、特許文献10〜12に記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−214116号公報
【特許文献2】米国特許第5583679号明細書
【特許文献3】米国特許第5646703号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第3911620号明細書
【特許文献5】特開平10−054982号公報
【特許文献6】米国特許第5805253号明細書
【特許文献7】国際公開第96/037804号パンフレット
【特許文献8】特開平09−026572号公報
【特許文献9】特許第2866372号公報
【特許文献10】特開平07−191217号公報
【特許文献11】特開平08−021996号公報
【特許文献12】特開平08−094838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光学補償シートの透明支持体を光学的異方性にして、光学的異方性層の光学的異方性と共に液晶セルを光学的に補償する方法が提案されている(米国特許5646703号明細書記載)。光学的異方性透明支持体としては、具体的には合成ポリマーの延伸フイルムが用いられている。
これに対して、偏光素子の透明保護膜としては、従来からセルロースエステルフイルムが用いられている。
【0008】
光学的異方性支持体として従来から用いられている合成ポリマー延伸フイルムには、偏光膜の保護機能がセルロースエステルフイルムよりも劣る。また、透明保護膜にはセルロースエステルフイルムが用いられるため、光学的異方性透明支持体として合成ポリマーフイルムを用いると、偏光膜の両側に設けるフイルムの種類が異なり、問題(例えば、温度収縮率の違いによる変形)が生じやすい。さらに、合成ポリマー延伸フイルムは、偏光膜との接着性にも問題がある。
本発明の目的は、偏光膜の保護機能が優れている光学的異方性ポリマーフイルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、偏光膜の保護機能を有するセルロースの低級脂肪酸エステルフイルムであって、波長550nmにおけるセルロースの低級脂肪酸エステルフイルムの厚み方向のレターデーション値が75乃至150nmであり、そして、セルロースの低級脂肪酸エステルフイルムの偏光膜側となる面が、コロナ放電処理、グロー放電処理、火焔処理、酸処理、アルカリ処理または紫外線照射処理により表面処理されていることを特徴とするセルロースの低級脂肪酸エステルフイルムを提供する。
フイルム(または層)のRthレターデーション値は、厚み方向の複屈折率にフイルムの厚みを乗じた値を意味する。具体的には、測定光の入射方向をフイルム膜面に対して鉛直方向として、遅相軸を基準とするReレターデーション値(面内レターデーション値)の測定結果と、入射方向をフイルム膜面に対する鉛直方向に対して傾斜させた測定結果から外挿して求める。測定は、エリプソメーター(例えば、M−150:日本分光(株)製)を用いて実施できる。
【0010】
Rthレターデーション値(厚み方向のレターデーション値)とReレターデーション値(面内レターデーション値)とは、それぞれ下記式(1)および(2)に従って算出する。
式(1)
Rthレターデーション値={(nx+ny)/2−nz}×d
式(2)
Reレターデーション値=(nx−ny)×d
式中、nxは、波長550nmで測定したフイルム(または層)平面内のx方向(=遅相軸=屈折率が最大となる方向)の屈折率であり、nyは、波長550nmで測定したフイルム(または層)平面内のy方向の屈折率であり、nzは、波長550nmで測定したフイルム(または層)面に垂直な方向の屈折率であり、そして、dは、単位をnmとするフイルム(または層)の厚みである。
【0011】
セルロースの低級脂肪酸エステルフイルムの偏光膜側となる面は、酸処理またはアルカリ処理によりケン化処理されていてもよい。
セルロースの低級脂肪酸エステルは、セルロースと炭素原子数が2、3または4の混合脂肪酸とからなる混合脂肪酸エステルであってもよい。セルロースの混合脂肪酸エステルは、セルロースアセテートプロピオネートであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明者の研究により、波長550nmにおけるRthレターデーション値(厚み方向のレターデーション値)が75乃至150nmであるセルロースエステルフイルムを製造することに成功した。このように高い光学的異方性を有するセルロースエステルフイルムは、一体型楕円偏光板における光学的異方性透明支持体として有利に用いることができる。
すなわち、光学的異方性透明支持体として従来から用いられていた合成ポリマー延伸フイルムよりも、セルロースエステルフイルムは、偏光膜の保護機能が優れている。また、透明保護膜として普通に使用されているセルロースエステルフイルムと同様の材料から光学的異方性透明支持体を製造できるため、両者の物性の違いによる問題(例えば、温度収縮率の違いによる変形)も解消される。さらに、偏光膜との接着性も、合成ポリマー延伸フイルムより、セルロースエステルフイルムの方が優れている。
なお、セルロースエステルフイルムの偏光膜側の面を、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理または紫外線照射処理により表面処理すれば、楕円偏光板の光学的機能に悪影響を与えることなく、楕円偏光板の接着強度をさらに強化することができる。本発明では楕円偏光板の強度が向上しているため、楕円偏光板の取り扱いが容易であるとの利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】透過型液晶表示装置の基本的な構成を示す模式図である。
【図2】反射型液晶表示装置の基本的な構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(液晶表示装置の構成)
図1は、透過型液晶表示装置の基本的な構成を示す模式図である。
図1の(a)に示す透過型液晶表示装置は、バックライト(BL)側から順に、透明保護膜(1a)、偏光膜(2a)、透明支持体(3a)、光学的異方性層(4a)、液晶セルの下基板(5a)、棒状液晶性分子からなる液晶層(6)、液晶セルの上基板(5b)、光学的異方性層(4b)、透明支持体(3b)、偏光膜(2b)、そして透明保護膜(1b)からなる。透明保護膜(1a)〜光学的異方性層(4a)および光学的異方性層(4b)〜透明保護膜(1b)が、二枚の楕円偏光板を構成している。
図1の(b)に示す透過型液晶表示装置は、バックライト(BL)側から順に、透明保護膜(1a)、偏光膜(2a)、透明支持体(3a)、光学的異方性層(4a)、液晶セルの下基板(5a)、棒状液晶性分子からなる液晶層(6)、液晶セルの上基板(5b)、透明保護膜(1b)、偏光膜(2b)、そして透明保護膜(1c)からなる。透明保護膜(1a)〜光学的異方性層(4a)が、楕円偏光板を構成している。
図1の(c)に示す透過型液晶表示装置は、バックライト(BL)側から順に、透明保護膜(1a)、偏光膜(2a)、透明保護膜(1b)、液晶セルの下基板(5a)、棒状液晶性分子からなる液晶層(6)、液晶セルの上基板(5b)、光学的異方性層(4b)、透明支持体(3b)、偏光膜(2b)、そして透明保護膜(1c)からなる。光学的異方性層(4b)〜透明保護膜(1c)が、楕円偏光板を構成している。
【0015】
図2は、反射型液晶表示装置の基本的な構成を示す模式図である。
図2に示す反射型液晶表示装置は、反射板(RP)側から順に、液晶セルの下基板(5a)、棒状液晶性分子からなる液晶層(6)、液晶セルの上基板(5b)、光学的異方性層(4b)、透明支持体(3b)、偏光膜(2b)、そして透明保護膜(1b)からなる。光学的異方性層(4b)〜透明保護膜(1b)が、楕円偏光板を構成している。
【0016】
(透明保護膜)
透明保護膜としては、透明なポリマーフイルムが用いられる。保護膜が透明であるとは、光透過率が80%以上であることを意味する。
透明保護膜としては、一般にセルロースエステルフイルム、好ましくはセルローストリアセテートフイルムが用いられる。セルロースエステルフイルムは、ソルベントキャスト法により形成することが好ましい。
透明保護膜の厚さは、20乃至500μmであることが好ましく、50乃至200μmであることがさらに好ましい。
【0017】
(偏光膜)
偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。ヨウ素系偏光膜および染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フイルムを用いて製造する。偏光膜の透過軸は、フイルムの延伸方向に垂直な方向に相当する。
【0018】
(透明支持体)
透明支持体の厚さは、20乃至500μmであることが好ましく、50乃至200μmであることがさらに好ましい。
本発明では、波長550nmにおけるRthレターデーション値(厚み方向のレターデーション値)が75乃至150nmであるセルロースエステルフイルムを透明支持体として使用する。
本発明では、波長550nmで測定したフイルムのRthレターデーション値(Rth550 )を、75乃至150nmの範囲に調整する。Rthレターデーション値は、75乃至100nmであることが好ましい。
【0019】
なお、厚み方向の複屈折率{(nx+ny)/2−nz}は、7×10−4乃至4×10−3であることが好ましく、7×10−4乃至3.5×10−3であることがより好ましく、7.5×10−4乃至3×10−3であることがさらに好ましく、7.5×10−4乃至2×10−3であることがさらにまた好ましく、7.5×10−4乃至1.5×10−3であることが最も好ましく、7.5×10−4乃至1×10−3であることが特に好ましい。
セルロースエステルフイルムのReレターデーション値(面内レターデーション値)は、セルロースエステルフイルムの延伸により高い値とすることができる。セルロースエステルフイルムのRthレターデーション値(厚み方向のレターデーション値)は、(1)レターデーション上昇剤の使用、(2)酢化度(アセチル化度)の調整または(3)冷却溶解法によるフイルムの製造により前述した高い値とすることができる。従って、従来は光学的等方性と考えられていたセルロースエステルフイルムを、光学補償機能を有する光学的異方性フイルムとして使用できるようになった。
【0020】
以下、レターデーションが高いセルロースエステルフイルムの製造方法について説明する。
セルロースエステルとしては、セルロースの低級脂肪酸エステルを用いることが好ましい。低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。炭素原子数は、2(セルロースアセテート)、3(セルロースプロピオネート)または4(セルロースブチレート)であることが好ましい。セルロースアセテートが特に好ましい。セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートのような混合脂肪酸エステルを用いてもよい。
セルロースアセテートの酢化度は、55.0乃至62.5%であることが好ましい。酢化度が55.0乃至58.0%(好ましくは57.0乃至58.0%)であるセルロースアセテートを用いると、Rthレターデーション値が高いフイルムを容易に製造することができる。しかし、フイルムの物性の観点では、酢化度が58.0乃至62.5%であるセルロースアセテートを用いることが好ましい。酢化度が58.0乃至62.5%であっても、レターデーション上昇剤(下記)を用いることで、Rthレターデーションを高い値とすることができる。
【0021】
レターデーション上昇剤としては、芳香族環を少なくとも二つ有する芳香族化合物を使用できる。レターデーション上昇剤は、セルロースエステル100重量部に対して、0.3乃至20重量部の範囲で使用することが好ましい。二種類以上のレターデーション上昇剤を併用してもよい。レターデーション上昇剤は、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有することが好ましい。
少なくとも二つの芳香族環を有する化合物は、炭素原子7個分以上のπ結合性の平面を有する。二つの芳香族環の立体配座を立体障害しなければ、二つの芳香族環は、同一平面を形成する。本発明者の研究によれば、セルロースエステルフイルムのレターデーションを上昇させるためには、複数の芳香族環により同一平面を形成することが重要である。
本明細書において、「芳香族環」は、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。
【0022】
芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好まし
い。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。
芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が好ましい。
【0023】
レターデーション上昇剤が有する芳香族環の数は、2乃至20であることが好ましく、2乃至12であることがより好ましく、2乃至8であることがさらに好ましく、2乃至6であることが最も好ましい。3以上の芳香族環を有する場合、少なくとも二つの芳香族環の立体配座を立体障害しなければよい。
二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合および(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。レターデーション上昇機能の観点では、(a)〜(c)のいずれでもよい。ただし、(b)または(c)の場合は、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しないことが必要である。
【0024】
(a)の縮合環(二つ以上の芳香族環の縮合環)の例には、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ビフェニレン環、ナフタセン環、ピレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドリジン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、プリン環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環およびチアントレン環が含まれる。ナフタレン環、アズレン環、インドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環およびキノリン環が好ましい。
【0025】
(b)の単結合は、二つの芳香族環の炭素原子間の結合であることが好ましい。二以上の単結合で二つの芳香族環を結合して、二つの芳香族環の間に脂肪族環または非芳香族性複素環を形成してもよい。
【0026】
(c)の連結基も、二つの芳香族環の炭素原子と結合することが好ましい。連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−CO−、−O−、−NH−、−S−またはそれらの組み合わせであることが好ましい。組み合わせからなる連結基の例を以下に示す。なお、以下の連結基の例の左右の関係は、逆になってもよい。
【0027】
c1:−CO−O−
c2:−CO−NH−
c3:−アルキレン−O−
c4:−NH−CO−NH−
c5:−NH−CO−O−
c6:−O−CO−O−
c7:−O−アルキレン−O−
c8:−CO−アルケニレン−
c9:−CO−アルケニレン−NH−
c10:−CO−アルケニレン−O−
c11:−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−
c12:−O−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−O−
c13:−O−CO−アルキレン−CO−O−
c14:−NH−CO−アルケニレン−
c15:−O−CO−アルケニレン−
【0028】
芳香族環および連結基は、置換基を有していてもよい。ただし、置換基は、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しないことが必要である。立体障害では、置換基の種類および位置が問題になる。置換基の種類としては、立体的に嵩高い置換基(例えば、3級アルキル基)が立体障害を起こしやすい。置換基の位置としては、芳香族環の結合に隣接する位置(ベンゼン環の場合はオルト位)が置換された場合に、立体障害が生じやすい。
置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル、カルボキシル、シアノ、アミノ、ニトロ、スルホ、カルバモイル、スルファモイル、ウレイド、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基および非芳香族性複素環基が含まれる。
【0029】
アルキル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基(例、ヒドロキシ、カルボキシ、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基)を有していてもよい。アルキル基の(置換アルキル基を含む)例には、メチル、エチル、n−ブチル、n−ヘキシル、2−ヒドロキシエチル、4−カルボキシブチル、2−メトキシエチルおよび2−ジエチルアミノエチルが含まれる。
アルケニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルケニル基の例には、ビニル、アリルおよび1−ヘキセニルが含まれる。
【0030】
アルキニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルキケニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキニル基の例には、エチニル、1−ブチニルおよび1−ヘキシニルが含まれる。
脂肪族アシル基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル、プロパノイルおよびブタノイルが含まれる。
【0031】
脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシが含まれる。
アルコキシ基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。アルコキシ基は、さらに置換基(例、アルコキシ基)を有していてもよい。アルコキシ基の(置換アルコキシ基を含む)例には、メトキシ、エトキシ、ブトキシおよびメトキシエトキシが含まれる。
【0032】
アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニルおよびエトキシカルボニルが含まれる。
アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、メトキシカルボニルアミノおよびエトキシカルボニルアミノが含まれる。
【0033】
アルキルチオ基の炭素原子数は、1乃至12であることが好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ、エチルチオおよびオクチルチオが含まれる。
アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例には、メタンスルホニルおよびエタンスルホニルが含まれる。
【0034】
脂肪族アミド基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アミド基の例には、アセトアミドが含まれる。
脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド、ブタンスルホンアミドおよびn−オクタンスルホンアミドが含まれる。
【0035】
脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例には、ジメチルアミノ、ジエチルアミノおよび2−カルボキシエチルアミノが含まれる。
脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例には、メチルカルバモイルおよびジエチルカルバモイルが含まれる。
【0036】
脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例には、メチルスルファモイルおよびジエチルスルファモイルが含まれる。
脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例には、メチルウレイドが含まれる。
非芳香族性複素環基の例には、ピペリジノおよびモルホリノが含まれる。
【0037】
レターデーション上昇剤の分子量は、300乃至800であることが好ましい。レターデーション上昇剤の沸点は、260℃以上であることが好ましい。沸点は、市販の測定装置(例えば、TG/DTA100、セイコー電子工業(株)製)を用いて測定できる。
以下に、レターデーション上昇剤の具体例を示す。なお、各具体例において、芳香族環の芳香族性は、○印で示す。
【0038】
【化1】

【0039】
【化2】

【0040】
【化3】

【0041】
【化4】

【0042】
【化5】

【0043】
【化6】

【0044】
【化7】

【0045】
【化8】

【0046】
【化9】

【0047】
【化10】

【0048】
【化11】

【0049】
【化12】

【0050】
【化13】

【0051】
【化14】

【0052】
【化15】

【0053】
【化16】

【0054】
【化17】

【0055】
ソルベントキャスト法によりセルロースエステルフイルムを製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、セルロースエステルを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフイルムを製造する。
有機溶媒は、炭素原子数が3乃至12のエーテル、炭素原子数が3乃至12のケトン、炭素原子数が3乃至12のエステルおよび炭素原子数が1乃至6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。
【0056】
エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
炭素原子数が3乃至12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
【0057】
炭素原子数が3乃至12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
【0058】
二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25乃至75モル%であることが好ましく、30乃至70モル%であることがより好ましく、35乃至65モル%であることがさらに好ましく、40乃至60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
【0059】
二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
冷却溶解法を採用せずに、一般的な方法で溶液を調製してもよい。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温または高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。
【0060】
セルロースエステルの量は、得られる溶液中に10乃至40重量%含まれるように調整する。セルロースエステルの量は、10乃至30重量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0乃至40℃)でセルロースエステルと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースエステルと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60乃至200℃であり、さらに好ましくは80乃至110℃である。
【0061】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
【0062】
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶剤中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0063】
冷却溶解法により、溶液を調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な有機溶媒(ハロゲン化炭化水素以外の有機溶媒)中にも、セル
ロースエステルを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でセルロースエステルを溶解できる溶媒(例えば、ハロゲン化炭化水素)であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるとの効果がある。また、冷却溶解法を用いると、製造するセルロースエステルフイルムのレターデーションが高い値になる。
冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にセルロースエステルを撹拌しながら徐々に添加する。
【0064】
セルロースエステルの量は、この混合物中に10乃至40重量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースエステルの量は、10乃至30重量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
次に、混合物を−100乃至−10℃(好ましくは−80乃至−10℃、さらに好ましくは−50乃至−20℃、最も好ましくは−50乃至−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30乃至−20℃)中で実施できる。このように冷却すると、セルロースエステルと有機溶媒の混合物は固化する。
【0065】
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を、冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
さらに、これを0乃至200℃(好ましくは0乃至150℃、さらに好ましくは0乃至120℃、最も好ましくは0乃至50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースエステルが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよし、温浴中で加温してもよい。
【0066】
加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を、加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
【0067】
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
なお、セルロースアセテート(酢化度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20重量%の溶液は、示差走査熱量測定(DSC)によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保存する必要がある。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアセテートの平均酢化度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
【0068】
調製したセルロースエステル溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースエステルフイルムを製造する。
ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフイルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18乃至35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
【0069】
ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。流延した2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフイルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。本発明に従い調製した溶液(ドープ)は、この条件を満足する。
製造するフイルムの厚さは、40乃至120μmであることが好ましく、70乃至110μmであることがさらに好ましい。
【0070】
セルロースエステルフイルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。
【0071】
可塑剤の添加量は、セルロースエステルの量の0.1乃至25重量%であることが好ましく、1乃至20重量%であることがさらに好ましく、3乃至15重量%であることが最も好ましい。
セルロースエステルフイルムには、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)や紫外線防止剤を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。劣化防止剤の添加量は、調製する溶液(ドープ)の0.01乃至1重量%であることが好ましく、0.01乃至0.2重量%であることがさらに好ましい。添加量が0.01重量%未満であると、劣化防止剤の効果がほとんど認められない。添加量が1重量%を越えると、フイルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)が認められる場合がある。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を挙げることができる。紫外線防止剤については、特開平7−11056号公報に記載がある。
なお、平均酢化度が55.0乃至58.0%であるセルロースアセテートは、平均酢化度が58.0%以上であるセルローストリアセテートと比較して、調製した溶液の安定性
や製造したフイルムの物性が劣るとの欠点がある。しかし、上記のような劣化防止剤、特にブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)のような酸化防止剤を用いることで、この欠点を実質的に解消することが可能である。
【0072】
(透明支持体の表面処理)
透明支持体の偏光膜側の面を表面処理することにより、透明支持体と偏光膜との接着を改善できる。表面処理としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理または紫外線照射処理を実施する。
コロナ放電処理とグロー放電処理は、市販の放電処理機を用いて実施できる。
【0073】
放電処理は、水蒸気の存在下で実施することが好ましい。水蒸気分圧は、10乃至100%であることが好ましく、40乃至90%であることがさらに好ましい。透明支持体を予熱してから、放電処理を行うことが好ましい。予熱温度は、50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがさらに好ましく、80℃以上であることが最も好ましい。予熱温度の上限は、透明支持体のガラス転移温度である。
グロー放電処理における真空度は、0.005乃至20Torrであることが好ましく、0.02乃至2Torrであることがさらに好ましい。グロー放電処理の電圧は、500乃至5000Vであることが好ましく、500乃至3000Vであることがさらに好ましい。グロー放電周波数は、50Hz乃至20MHzであることが好ましく、1KHz乃至1MHzであることがさらに好ましい。グロー放電強度は、0.01乃至5KV・A・分/mであることが好ましく、0.15乃至1KV・A・分/mであることがさらに好ましい。
放電処理が終了した透明支持体は、直ちに冷却することが好ましい。
【0074】
火炎処理では、ガス(天然ガス、プロパンガス)と空気との混合比が重要である。ガス/空気の容積比は、1/13乃至1/21であることが好ましく、1/14乃至1/20であることがさらに好ましい。透明支持体の面積当たりの火炎処理の熱量は、1乃至50kcal/mであることが好ましい。火炎の内炎先端と透明支持体との距離は、4cm以下であることが好ましい。
酸処理に使用する酸は、塩酸、硫酸または硝酸のような無機酸であることが好ましい。アルカリ処理に使用するアルカリは、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムのようなアルカリ金属の水酸化物であることが好ましい。酸処理またはアルカリ処理は、酸またはアルカリの水溶液に透明支持体の偏光膜側の面を浸漬して実施する。浸漬時間は、30秒乃至10分であることが好ましい。浸漬終了後、透明支持体を水で洗浄することが好ましい。
【0075】
紫外線照射処理の紫外線波長は、220乃至380nmであることが好ましい。照射光量は、20乃至10000mJ/cmであることが好ましく、50乃至2000mJ/cmであることがさらに好ましく、100乃至1500mJ/cmであることが最も好ましい。
酸処理またはアルカリ処理を実施することが特に好ましい。本発明では、透明支持体がセルロースエステルフイルムであるため、酸処理またはアルカリ処理は、ケン化処理として機能する。
【0076】
透明支持体の反対側の面、すなわち、配向膜あるいは光学的異方性層を設ける側の面は、表面処理を実施しないことが好ましい。ケン化処理の場合、透明支持体と光学的異方性層との積層体を、酸またはアルカリの水溶液に浸漬すれば、透明支持体の偏光膜側の面のみを表面処理することができる。
透明支持体と配向膜あるいは光学的異方性層との接着を改善するためには、ゼラチン下塗り層を設けることが好ましい。ゼラチンの下塗り層の厚さは、0.01乃至1μmであ
ることが好ましく、0.02乃至0.5μmであることがさらに好ましく、0.05乃至0.2μmであることが最も好ましい。
【0077】
(配向膜)
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で、設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。ポリマーのラビング処理により形成する配向膜が特に好ましい。ラビング処理は、ポリマー層の表面を、紙や布で一定方向に、数回こすることにより実施する。
配向膜に使用するポリマーの種類は、液晶セルの表示モードの種類に応じて決定する。液晶セル内の棒状液晶性分子の多くが実質的に垂直に配向している表示モード(例、VA、OCB、HAN)では、光学的異方性層の液晶性分子を実質的に水平に配向させる機能を有する配向膜を用いる。液晶セル内の棒状液晶性分子の多くが実質的に水平に配向している表示モード(例、STN)では、光学的異方性層の液晶性分子を実質的に垂直に配向させる機能を有する配向膜を用いる。液晶セル内の棒状液晶性分子の多くが実質的に斜めに配向している表示モード(例、TN)では、光学的異方性層の液晶性分子を実質的に斜めに配向させる機能を有する配向膜を用いる。
【0078】
具体的なポリマーの種類については、前述した様々な表示モードに対応するディスコティック液晶性分子を用いた光学補償シートについての文献に記載がある。
配向膜に使用するポリマーを架橋して、配向膜の強度を強化してもよい。配向膜に使用するポリマーに架橋性基を導入して、架橋性基を反応させることにより、ポリマーを架橋させることができる。なお、配向膜に使用するポリマーの架橋については、特開平8−338913号公報に記載がある。
配向膜の厚さは、0.01乃至5μmであることが好ましく、0.05乃至1μmであることがさらに好ましい。
なお、配向膜を用いて液晶性分子を配向させてから、その配向状態のまま液晶性分子を固定して光学的異方性層を形成し、光学的異方性層のみを支持体上に転写してもよい。配向状態で固定されたディスコティック液晶性分子は、配向膜がなくても配向状態を維持することができる。そのため、光学補償シートでは、配向膜は(ディスコティック液晶性分子を含む光学補償シートの製造において必須ではあるが)必須の要素ではない。
【0079】
(光学的異方性層)
光学的異方性層は、液晶性分子から形成する。
液晶性分子としては、棒状液晶性分子またはディスコティック液晶性分子が好ましく、ディスコティック液晶性分子が特に好ましい。
棒状液晶性分子としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。以上のような低分子液晶性分子だけではなく、高分子液晶性分子も用いることができる。高分子液晶性分子は、以上のような低分子液晶性分子に相当する側鎖を有するポリマーである。高分子液晶性分子を用いた光学補償シートについては、特開平5−53016号公報に記載がある。
【0080】
ディスコティック液晶性分子は、様々な文献(C. Destrade et al., Mol. Crysr. Liq.
Cryst., vol. 71, page 111 (1981) ;日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節 (1994); B. Kohne et al., Angew. Chem. Soc. Chem.
Comm., page 1794 (1985);J. Zhang et al., J. Am. Chem. Soc., vol. 116, page 2655 (1994))に記載されている。ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。
ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。従って、ディスコティック液晶性分子は、下記式(I)で表わされる化合物であることが好ましい。
【0081】
(I)
D(−L−P)n
式中、Dは円盤状コアであり;Lは二価の連結基であり;Pは重合性基であり;そして、nは4乃至12の整数である。
式(I)の円盤状コア(D)の例を以下に示す。以下の各例において、LP(またはPL)は、二価の連結基(L)と重合性基(P)との組み合わせを意味する。
【0082】
【化18】

【0083】
【化19】

【0084】
【化20】

【0085】
【化21】

【0086】
【化22】

【0087】
【化23】

【0088】
式(I)において、二価の連結基(L)は、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−、−S−およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。二価の連結基(L)は、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−および−S−からなる群より選ばれる二価の基を少なくとも二つ組み合わせた基であることがさらに好ましい。二価の連結基(L)は、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−CO−および−O−からなる群より選ばれる二価の基を少なくとも二つ組み合わせた基であることが最も好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1乃至12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2乃至12であることが好ましい。アリーレン基の炭素原子数は、6乃至
10であることが好ましい。アルキレン基、アルケニレン基およびアリーレン基は、置換基(例、アルキル基、ハロゲン原子、シアノ、アルコキシ基、アシルオキシ基)を有していてもよい。
二価の連結基(L)の例を以下に示す。左側が円盤状コア(D)に結合し、右側が重合性基(P)に結合する。ALはアルキレン基またはアルケニレン基を意味し、ARはアリーレン基を意味する。
【0089】
L1:−AL−CO−O−AL−
L2:−AL−CO−O−AL−O−
L3:−AL−CO−O−AL−O−AL−
L4:−AL−CO−O−AL−O−CO−
L5:−CO−AR−O−AL−
L6:−CO−AR−O−AL−O−
L7:−CO−AR−O−AL−O−CO−
L8:−CO−NH−AL−
L9:−NH−AL−O−
L10:−NH−AL−O−CO−
L11:−O−AL−
L12:−O−AL−O−
L13:−O−AL−O−CO−
L14:−O−AL−O−CO−NH−AL−
L15:−O−AL−S−AL−
L16:−O−CO−AL−AR−O−AL−O−CO−
L17:−O−CO−AR−O−AL−CO−
L18:−O−CO−AR−O−AL−O−CO−
L19:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−CO−
L20:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−AL−O−CO−
L21:−S−AL−
L22:−S−AL−O−
L23:−S−AL−O−CO−
L24:−S−AL−S−AL−
L25:−S−AR−AL−
【0090】
なお、STNモードのような棒状液晶性分子がねじれ配向している液晶セルを、光学的に補償するためには、ディスコティック液晶性分子もねじれ配向させることが好ましい。上記AL(アルキレン基またはアルケニレン基)に、不斉炭素原子を導入すると、ディスコティック液晶性分子を螺旋状にねじれ配向させることができる。また、不斉炭素原子を含む光学活性を示す化合物(カイラル剤)を光学的異方性層に添加しても、ディスコティック液晶性分子を螺旋状にねじれ配向させることができる。
式(I)の重合性基(P)は、重合反応の種類に応じて決定する。重合性基(P)の例を以下に示す。
【0091】
【化24】

【0092】
【化25】

【0093】
【化26】

【0094】
重合性基(P)は、不飽和重合性基(P1、P2、P3、P7、P8、P15、P16、P17)またはエポキシ基(P6、P18)であることが好ましく、不飽和重合性基であることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基(P1、P7、P8、P15、P16、P17)であることが最も好ましい。
式(I)において、nは4乃至12の整数である。具体的な数字は、ディスコティックコア(D)の種類に応じて決定される。なお、複数のLとPの組み合わせは、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0095】
二種類以上のディスコティック液晶性分子を併用してもよい。例えば、以上述べたような重合性ディスコティック液晶性分子と非重合性ディスコティック液晶性分子とを併用することができる。
非重合性ディスコティック液晶性分子は、前述した重合性ディスコティック液晶性分子の重合性基(P)を、水素原子またはアルキル基に変更した化合物であることが好ましい。すなわち、非重合性ディスコティック液晶性分子は、下記式(II)で表わされる化合物であることが好ましい。
【0096】
(II)
D(−L−R)n
【0097】
式中、Dは円盤状コアであり;Lは二価の連結基であり;Rは水素原子またはアルキル基であり;そして、nは4乃至12の整数である。
式(II)の円盤状コア(D)の例は、LP(またはPL)をLR(またはRL)に変更する以外は、前記の重合性ディスコティック液晶分子の例と同様である。
また、二価の連結基(L)の例も、前記の重合性ディスコティック液晶分子の例と同様である。
【0098】
Rのアルキル基は、炭素原子数が1乃至40であることが好ましく、1乃至30であることがさらに好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、分岐を有する鎖状アルキル基よりも直鎖状アルキル基の方が好ましい。Rは、水素原子または炭素原子数が1乃至30の直鎖状アルキル基であることが特に好ましい。
【0099】
光学的異方性層は、液晶性分子、あるいは下記の重合性開始剤や任意の添加剤(例、可塑剤、モノマー、界面活性剤、セルロースエステル、1,3,5−トリアジン化合物、カイラル剤)を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成する。
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが
好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0100】
塗布液の塗布は、公知の方法(例、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
液晶性分子は、実質的に均一に配向していることが好ましく、実質的に均一に配向している状態で固定されていることがさらに好ましく、重合反応により液晶性分子が固定されていることが最も好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
【0101】
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01乃至20重量%であることが好ましく、0.5乃至5重量%であることがさらに好ましい。
【0102】
ディスコティック液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。
照射エネルギーは、20mJ/cm乃至50J/cmであることが好ましく、100乃至800mJ/cmであることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
光学的異方性層の厚さは、0.1乃至10μmであることが好ましく、0.5乃至5μmであることがさらに好ましく、1乃至5μmであることが最も好ましい。ただし、液晶セルのモードによっては、高い光学的異方性を得るために、光学的異方性層を厚く(3乃至10μm)する場合がある。
光学的異方性層内での液晶性分子の配向状態は、前述したように、液晶セルの表示モードの種類に応じて決定される。液晶性分子の配向状態は、具体的には、液晶性分子の種類、配向膜の種類および光学異方性層内の添加剤(例、可塑剤、バインダー、界面活性剤)の使用によって制御される。
【0103】
(液晶表示装置)
楕円偏光板は、様々な表示モードの液晶セルに適用できる。前述したように、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、GH(Guest Host)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。楕円偏光板は、いずれの表示モードの液晶表示装置においても有効である。
【実施例】
【0104】
[実施例1]
(透明支持体の作製)
室温において、平均酢化度60.9%のセルロースアセテート45重量部、レターデーション上昇剤(4)1.35重量部、メチレンクロリド232.72重量部、メタノール42.57重量部およびn−ブタノール8.50重量部を混合して、溶液(ドープ)を調製した。
得られたドープを、有効長6mのバンド流延機を用いて、乾燥膜厚が100μmになるように流延して乾燥した。
得られたセルロースアセテートフイルム(透明支持体)について、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長550nmにおける厚み方向のレターデーション(Rth)を測定したところ、80nmであった。
【0105】
(配向膜の形成)
透明支持体の上に、0.1μmの厚さのゼラチン下塗り層を設けた。
下塗り層の上に、下記の変性ポリビニルアルコールの水溶液を塗布し、80℃の温風で乾燥した後、ラビング処理を行い、配向膜を形成した。
【0106】
【化27】

【0107】
(光学的異方性層の形成)
下記のディスコティック液晶性化合物1.8g、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)製)0.2g、セルロースアセテートブチレート(CAB531−1.0、イーストマンケミカル社製)0.04g、光重合開始剤(イルガキュア907、日本チバガイギー(株)製)0.06gおよび増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)0.02gを、メチルエチルケトン3.43gに溶解して塗布液を調製した。塗布液を#3のワイヤーバーで配向膜の上に塗布した。これを金属枠に貼り付けて固定した状態で、120℃の恒温槽中で3分間加熱し、ディスコティック液晶性化合物を配向させた。120℃の温度を維持して、120W/cmの高圧水銀灯を用いて1分間紫外線を照射し、ディスコティック液晶性化合物のビニル基を重合させ、配向状態を固定した。その後、室温まで放冷した。
【0108】
【化28】

【0109】
光学的異方性層の厚さは、1.0μmであった。光学的異方性層と透明支持体との積層体のレターデーションを、配向膜のラビング方向に沿って測定したところ、光学軸の平均
傾斜角は14°、厚み方向のレターデーション(Rth)は154nmであった。
【0110】
(透明支持体の表面処理)
光学的異方性層と透明支持体との積層体を、1.5Nの水酸化ナトリウム水溶液(50℃)に3分間浸漬してから、室温の水洗浴槽中で洗浄し、1.5Nの硫酸で中和し、再度、室温の水洗浴槽中で洗浄した。積層体を100℃の温風で乾燥した。このようにして、透明支持体との光学的異方性層が設けられていない側の面をケン化処理した。
【0111】
(透明保護膜の作製)
厚さ100μmのトリアセチルセルロースフイルム(フジタック、富士写真フイルム(株)製)に、透明支持体と同様にケン化処理を行い、透明保護膜を作製した。透明保護膜の厚み方向のレターでション(Rth)を測定したところ、40nmであった。光軸はフイルムの法線方向と、ほぼ一致しており、実質的に負の一軸性を示した。
【0112】
(楕円偏光板の作製)
延伸したポリビニルアルコールフイルムにヨウ素を吸着させて、偏光膜を作製した。偏光膜の片側に、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、楕円偏光板を、光学的異方性層が外側となるように貼り付けた。反対側には、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、透明保護膜を貼り付けた。偏光膜の吸収軸と、光学的異方性層のラビング方向は、平行になるように配置した。その結果、ディスコティック液晶性化合物の分子の対称軸(トリフェニレン環の円盤面の法線方向)の平均方向をフイルム平面に投影した方向と、偏光膜の吸収軸方向とは平行であった。このようにして、楕円偏光板を作製した。
楕円偏光板を、アクリル系接着剤を用いてガラス板に貼り付け、高温、加圧下でエイジングした後、90℃の恒温槽に入れ、500時間放置した。楕円偏光板を調べたところ、剥離、泡の発生あるいは皺の発生のような問題は全く認められなかった。さらに500時間(合計1000時間)90℃の恒温槽に入れてから調べても、剥離、泡の発生あるいは皺の発生のような問題は全く認められなかった。
【0113】
(液晶表示装置の作製)
ITO透明電極が設けられたガラス基板の上に、ポリイミド配向膜を設け、ラビング処理を行った。5μmのスペーサーを介して、二枚の基板を配向膜が向かい合うように重ねた。配向膜のラビング方向が直交するように、基板の向きを調節した。基板の間隙に、棒状液晶性分子(ZL4792、メルク社製)を注入し、液晶層を形成した。液晶性分子のΔnは0.0969であった。
以上のように作製したTN液晶セルの両側に、楕円偏光板を、光学的異方性層が基板と対面するように貼り付けて液晶表示装置を作製した。光学的異方性層のラビング方向と、液晶セルのラビング方向は、反平行になるように配置した。
液晶表示装置の液晶セルに、電圧を印加し、白表示2V、黒表示5Vにおける白表示と黒表示との透過率の比をコントラスト比として、上下左右でコントラスト比10が得られる角度を測定した。また、2Vと5Vの間の電圧を印加することで、8階調の中間調表示をさせ、階調が反転する角度を測定した。コントラスト比が10以上でかつ階調反転のない角度を視野角として求めた。その結果、上下の視野角は110°、左右の視野角は120°であった。
【0114】
[実施例2]
(透明支持体の表面処理)
実施例1で作製した光学的異方性層と透明支持体との積層体の透明支持体側の面に、1.5Nの水酸化ナトリウム水溶液(60℃)を吹き付けた。バーコーターで余分な水酸化ナトリウム水溶液を掻き落とした。3分後に室温の水洗浴槽中で洗浄し、1.5Nの硫酸で中和し、再度、室温の水洗浴槽中で洗浄した。積層体を100℃の温風で乾燥した。こ
のようにして、透明支持体との光学的異方性層が設けられていない側の面をケン化処理した。
【0115】
(楕円偏光板の作製)
上記のように透明支持体を表面処理した積層体を用いた以外は、実施例1と同様に楕円偏光板を作製した。
楕円偏光板を、アクリル系接着剤を用いてガラス板に貼り付け、高温、加圧下でエイジングした後、90℃の恒温槽に入れ、500時間放置した。楕円偏光板を調べたところ、剥離、泡の発生あるいは皺の発生のような問題は全く認められなかった。さらに500時間(合計1000時間)90℃の恒温槽に入れてから調べても、剥離、泡の発生あるいは皺の発生のような問題は全く認められなかった。
【0116】
(液晶表示装置の作製)
上記の楕円偏光板を用いた以外は、実施例1と同様にして、液晶表示装置を作製した。
液晶表示装置の液晶セルに、電圧を印加し、白表示2V、黒表示5Vにおける白表示と黒表示との透過率の比をコントラスト比として、上下左右でコントラスト比10が得られる角度を測定した。また、2Vと5Vの間の電圧を印加することで、8階調の中間調表示をさせ、階調が反転する角度を測定した。コントラスト比が10以上でかつ階調反転のない角度を視野角として求めた。その結果、上下の視野角は110°、左右の視野角は120°であった。
【0117】
[実施例3]
(透明支持体の表面処理)
実施例1で作製した光学的異方性層と透明支持体との積層体の透明支持体側の面に、ソリッドステートコロナ処理機(6KVAモデル、Pillar社製)を用いて、コロナ放電処理を実施した。処理速度は20m/分、処理量は0.375KV・A・分/m、放電周波数は9.6KHz、電極と誘電体ロールとのギャップクリアランスは1.6mmであった。このようにして、透明支持体との光学的異方性層が設けられていない側の面を表面処理した。
【0118】
(楕円偏光板の作製)
上記のように透明支持体を表面処理した積層体を用いた以外は、実施例1と同様に楕円偏光板を作製した。
楕円偏光板を、アクリル系接着剤を用いてガラス板に貼り付け、高温、加圧下でエイジングした後、90℃の恒温槽に入れ、500時間放置した。楕円偏光板を調べたところ、剥離、泡の発生あるいは皺の発生のような問題は全く認められなかった。さらに500時間(合計1000時間)90℃の恒温槽に入れてから調べても、剥離、泡の発生あるいは皺の発生のような問題は全く認められなかった。
【0119】
(液晶表示装置の作製)
上記の楕円偏光板を用いた以外は、実施例1と同様にして、液晶表示装置を作製した。
液晶表示装置の液晶セルに、電圧を印加し、白表示2V、黒表示5Vにおける白表示と黒表示との透過率の比をコントラスト比として、上下左右でコントラスト比10が得られる角度を測定した。また、2Vと5Vの間の電圧を印加することで、8階調の中間調表示をさせ、階調が反転する角度を測定した。コントラスト比が10以上でかつ階調反転のない角度を視野角として求めた。その結果、上下の視野角は110°、左右の視野角は120°であった。
【0120】
[実施例4]
(透明支持体の表面処理)
実施例1で作製した光学的異方性層と透明支持体との積層体の透明支持体側の面に、円筒状1KW石英高圧水銀ランプを用いて、115℃で2分間、紫外線照射処理を実施した。透明支持体とランプとの距離は10cm、ランプの幅は50cm、ランプのアーク長は30cm、紫外線の主波長は365nm、照射光量は500mJ/cmであった。このようにして、透明支持体との光学的異方性層が設けられていない側の面を表面処理した。
【0121】
(楕円偏光板の作製)
上記のように透明支持体を表面処理した積層体を用いた以外は、実施例1と同様に楕円偏光板を作製した。
楕円偏光板を、アクリル系接着剤を用いてガラス板に貼り付け、高温、加圧下でエイジングした後、90℃の恒温槽に入れ、500時間放置した。楕円偏光板を調べたところ、剥離、泡の発生あるいは皺の発生のような問題は全く認められなかった。さらに500時間(合計1000時間)90℃の恒温槽に入れてから調べても、剥離、泡の発生あるいは皺の発生のような問題は全く認められなかった。
【0122】
(液晶表示装置の作製)
上記の楕円偏光板を用いた以外は、実施例1と同様にして、液晶表示装置を作製した。
液晶表示装置の液晶セルに、電圧を印加し、白表示2V、黒表示5Vにおける白表示と黒表示との透過率の比をコントラスト比として、上下左右でコントラスト比10が得られる角度を測定した。また、2Vと5Vの間の電圧を印加することで、8階調の中間調表示をさせ、階調が反転する角度を測定した。コントラスト比が10以上でかつ階調反転のない角度を視野角として求めた。その結果、上下の視野角は110°、左右の視野角は120°であった。
【0123】
[実施例5]
(透明支持体の作製)
室温において、平均酢化度60.9%のセルロースアセテート45重量部、レターデーション上昇剤(4)1.35重量部、リン酸トリフェニル(可塑剤)2.75重量部、リン酸ビフェニルジフェニル2.20重量部、メチレンクロリド232.72重量部、メタノール42.57重量部およびn−ブタノール8.50重量部を混合して溶液(ドープ)を調製した。
得られた溶液(ドープ)を、有効長6mのバンド流延機を用いて、乾燥膜厚が100μmになるように流延して、乾燥した。
製造したセルロースアセテートフイルムについて、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長550nmにおける厚み方向のレターデーション値(Rth550)を測定したところ、240nmであった。また、波長550nmにおける面内レターデーション値(Re550)を測定したところ、5nmであった。
【0124】
(配向膜および光学的異方性層の形成)
透明支持体の一方の面に、実施例1と同様にして、配向膜および光学的異方性層を形成した。
【0125】
(楕円偏光板の作製)
上記の積層体を用いた以外は、実施例1と同様に楕円偏光板を作製した。
【0126】
(液晶表示装置の作製)
上記の楕円偏光板を用いた以外は、実施例1と同様にして、液晶表示装置を作製した。
液晶表示装置の液晶セルに、電圧を印加し、白表示2V、黒表示5Vにおける白表示と黒表示との透過率の比をコントラスト比として、上下左右でコントラスト比10が得られる角度を測定した。また、2Vと5Vの間の電圧を印加することで、8階調の中間調表示
をさせ、階調が反転する角度を測定した。コントラスト比が10以上でかつ階調反転のない角度を視野角として求めた。その結果、上下の視野角は110°、左右の視野角は120°であった。
【0127】
[実施例6]
(透明支持体の作製)
室温において、平均酢化度60.9%のセルロースアセテート45重量部、レターデーション上昇剤(4)1.01重量部、レターデーション上昇剤(95)0.34重量部、リン酸トリフェニル(可塑剤)2.75重量部、リン酸ビフェニルジフェニル2.20重量部、メチレンクロリド232.72重量部、メタノール42.57重量部およびn−ブタノール8.50重量部を混合して溶液(ドープ)を調製した。
得られた溶液(ドープ)を、有効長6mのバンド流延機を用いて、乾燥膜厚が100μmになるように流延して、乾燥した。
製造したセルロースアセテートフイルムについて、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長550nmにおける厚み方向のレターデーション値(Rth550)を測定したところ、240nmであった。また、波長550nmにおける面内レターデーション値(Re550)を測定したところ、5nmであった。
【0128】
(配向膜および光学的異方性層の形成)
透明支持体の一方の面に、実施例1と同様にして、配向膜および光学的異方性層を形成した。
【0129】
(楕円偏光板の作製)
上記の積層体を用いた以外は、実施例1と同様に楕円偏光板を作製した。
【0130】
(液晶表示装置の作製)
上記の楕円偏光板を用いた以外は、実施例1と同様にして、液晶表示装置を作製した。
液晶表示装置の液晶セルに、電圧を印加し、白表示2V、黒表示5Vにおける白表示と黒表示との透過率の比をコントラスト比として、上下左右でコントラスト比10が得られる角度を測定した。また、2Vと5Vの間の電圧を印加することで、8階調の中間調表示をさせ、階調が反転する角度を測定した。コントラスト比が10以上でかつ階調反転のない角度を視野角として求めた。その結果、上下の視野角は110°、左右の視野角は120°であった。
【0131】
[実施例7]
(透明支持体の作製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら撹拌して各成分を溶解し、セルロースエステル溶液を調製した。
【0132】
────────────────────────────────────
セルロースエステル溶液組成
────────────────────────────────────
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100重量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8重量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9重量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 300重量部
メタノール(第2溶媒) 54重量部
1−ブタノール 11重量部
────────────────────────────────────
【0133】
別のミキシングタンクに、下記の組成物を投入し、加熱しながら撹拌して各成分を溶解し、レターデーション上昇剤溶液を調製した。
【0134】
────────────────────────────────────
レターデーション上昇剤溶液組成
────────────────────────────────────
レターデーション上昇剤(4) 12重量部
レターデーション上昇剤(95) 4重量部
メチレンクロライド 80重量部
メタノール 20重量部
────────────────────────────────────
【0135】
セルロースエステル溶液474重量部に、レターデーション上昇剤溶液22重量部を添加し、充分に撹拌してドープを調製した。二種類のレターデーション上昇剤の合計添加量は、セルロースアセテート100重量部に対して、3重量部である。
ドープを流延口から0℃に冷却したドラム上に流延した。溶媒含有率70重量%の状態で剥ぎ取り、フイルムの幅方向両側をピンテンター(特開平4−1009号公報の図3に記載)で固定し、溶媒含有率が3乃至5重量%の状態で、横方向(機械方向に垂直な方向)の延伸率が3%となる間隔を保ちつつ乾燥した。その後、熱処理装置のロール間を搬送することにより、さらに乾燥し、ガラス転移温度が120℃を越える領域で機械方向の延伸率が実質(剥ぎ取り時に機械方向に4%延伸することを考慮して)0%、横方向の延伸率と機械方向の延伸率との比が0.75になるように調整して、厚さ107μmのセルロースアセテートフイルムを作製した。
得られたセルロースアセテートフイルム(透明支持体)について、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長550nmにおける厚み方向のレターデーション値(Rth550)を測定したところ、79nmであった。また、波長550nmにおける面内レターデーション値(Re550)を測定したところ、10nmであった。
【0136】
(第1下塗り層の形成)
透明支持体の上に、下記の組成の塗布液を28ml/m塗布し、乾燥して第1下塗り層を形成した。
【0137】
────────────────────────────────────
第1下塗り層塗布液組成
────────────────────────────────────
ゼラチン 5.42重量部
ホルムアルデヒド 1.36重量部
サリチル酸 1.60重量部
アセトン 391重量部
メタノール 158重量部
メチレンクロライド 406重量部
水 12重量部
────────────────────────────────────
【0138】
(第2下塗り層の形成)
第1下塗り層の上に、下記の組成の塗布液を7ml/m塗布し、乾燥して第2下塗り層を形成した。
【0139】
────────────────────────────────────
第2下塗り層塗布液組成
────────────────────────────────────
下記のアニオン性ポリマー 0.79重量部
クエン酸ハーフエチルエステル 10.1重量部
アセトン 200重量部
メタノール 877重量部
水 40.5重量部
────────────────────────────────────
【0140】
【化29】

【0141】
(バック層の形成)
透明支持体の反対側の面に、下記の組成の塗布液を25ml/m塗布し、乾燥してバック層を形成した。
【0142】
────────────────────────────────────
バック層塗布液組成
────────────────────────────────────
酢化度55%のセルロースジアセテート 6.56重量部
シリカ系マット剤(平均粒径:1μm) 0.65重量部
アセトン 679重量部
メタノール 104重量部
────────────────────────────────────
【0143】
(配向膜の形成)
第2下塗り層の上に、実施例1で用いた変性ポリビニルアルコールの水溶液を塗布し、80℃の温風で乾燥した後、ラビング処理を行い、配向膜を形成した。
【0144】
(光学的異方性層の形成)
実施例1で用いたディスコティック液晶性化合物1.8g、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)製)0.2g、セルロースアセテートブチレート(CAB531−1.0、イーストマンケミカル社製)0.04g、光重合開始剤(イルガキュア907、日本チバガイギー(株)製)0.06gおよび増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)0.02gを、メチルエチルケトン3.43gに溶解して塗布液を調製した。塗布液を#3のワイヤーバーで配向膜の上に塗布した。これを金属枠に貼り付けて固定した状態で、130℃の恒温槽中で2分間加熱し、ディスコティック液晶性化合物を配向させた。130℃の温度を維持して、120W/cmの高圧水銀灯を用いて1分間紫外線を照射し、ディスコティック液晶性化合物のビニル基を重合させ、配向状態を固定した。その後、室温まで放冷した。
光学的異方性層の厚さは、1.0μmであった。光学的異方性層と透明支持体との積層体のレターデーションを、配向膜のラビング方向に沿って測定したところ、光学軸の平均傾斜角は15.5°、厚み方向のレターデーション(Rth)は139nm、面内のレターデーション(Re)は17nmであった。
【0145】
(透明支持体の表面処理)
光学的異方性層と透明支持体との積層体を、1.5Nの水酸化ナトリウム水溶液(55℃)に2分間浸漬してから、室温の水洗浴槽中で洗浄し、0.1Nの硫酸(30℃)で中和し、再度、室温の水洗浴槽中で洗浄した。積層体を100℃の温風で乾燥した。このようにして、透明支持体との光学的異方性層が設けられていない側の面をケン化処理した。
【0146】
(楕円偏光板の作製)
延伸したポリビニルアルコールフイルムにヨウ素を吸着させて、偏光膜を作製した。偏光膜の片側に、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、楕円偏光板を、光学的異方性層が外側となるように貼り付けた。反対側には、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、透明保護膜(フジタックTD80U、富士写真フイルム(株)製)を貼り付けた。偏光膜の吸収軸と、光学的異方性層のラビング方向は、平行になるように配置した。その結果、ディスコティック液晶性化合物の分子の対称軸(トリフェニレン環の円盤面の法線方向)の平均方向をフイルム平面に投影した方向と、偏光膜の吸収軸方向とは平行であった。このようにして、楕円偏光板を作製した。
楕円偏光板を、アクリル系接着剤を用いてガラス板に貼り付け、高温、加圧下でエイジングした後、90℃の恒温槽に入れ、500時間放置した。楕円偏光板を調べたところ、剥離、泡の発生あるいは皺の発生のような問題は全く認められなかった。さらに500時間(合計1000時間)90℃の恒温槽に入れてから調べても、剥離、泡の発生あるいは皺の発生のような問題は全く認められなかった。
【0147】
(液晶表示装置の作製)
上記の楕円偏光板を用いた以外は、実施例1と同様にして、液晶表示装置を作製した。
液晶表示装置の液晶セルに、電圧を印加し、白表示2V、黒表示5Vにおける白表示と黒表示との透過率の比をコントラスト比として、上下左右でコントラスト比10が得られる角度を測定した。また、2Vと5Vの間の電圧を印加することで、8階調の中間調表示をさせ、階調が反転する角度を測定した。コントラスト比が10以上でかつ階調反転のない角度を視野角として求めた。その結果、上下の視野角は110°、左右の視野角は120°であった。
【0148】
[実施例8]
(透明支持体の作製〜配向膜の形成)
実施例7と同様に、透明支持体を作製し、第1下塗り層、第2下塗り層、バック層、そして配向膜を形成した。
【0149】
(光学的異方性層の形成)
実施例1で用いたディスコティック液晶性化合物1.8g、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)製)0.2g、セルロースアセテートブチレート(CAB531−1.0、イーストマンケミカル社製)0.04g、光重合開始剤(イルガキュア907、日本チバガイギー(株)製)0.06gおよび増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)0.02gを、メチルエチルケトン3.43gに溶解して塗布液を調製した。塗布液を#3.6のワイヤーバーで配向膜の上に塗布した。これを金属枠に貼り付けて固定した状態で、130℃の恒温槽中で2分間加熱し、ディスコティック液晶性化合物を配向させた。100℃まで冷却して、120W/cmの高圧水銀灯を用いて1分間紫外線を照射し、ディスコティック液晶性化合物のビニル基を重合させ、配向状態を固定した。その後、室温まで放冷した。
光学的異方性層の厚さは、1.2μmであった。光学的異方性層と透明支持体との積層体のレターデーションを、配向膜のラビング方向に沿って測定したところ、光学軸の平均傾斜角は18°、厚み方向のレターデーション(Rth)は160nm、面内のレターデ
ーション(Re)は35nmであった。
【0150】
(透明支持体の表面処理)
光学的異方性層と透明支持体との積層体を、1.5Nの水酸化ナトリウム水溶液(55℃)に2分間浸漬してから、室温の水洗浴槽中で洗浄し、0.1Nの硫酸(30℃)で中和し、再度、室温の水洗浴槽中で洗浄した。積層体を100℃の温風で乾燥した。このようにして、透明支持体との光学的異方性層が設けられていない側の面をケン化処理した。
【0151】
(楕円偏光板の作製)
延伸したポリビニルアルコールフイルムにヨウ素を吸着させて、偏光膜を作製した。偏光膜の片側に、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、楕円偏光板を、光学的異方性層が外側となるように貼り付けた。反対側には、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、透明保護膜(フジタックTD80U、富士写真フイルム(株)製)を貼り付けた。偏光膜の吸収軸と、光学的異方性層のラビング方向は、平行になるように配置した。その結果、ディスコティック液晶性化合物の分子の対称軸(トリフェニレン環の円盤面の法線方向)の平均方向をフイルム平面に投影した方向と、偏光膜の吸収軸方向とは平行であった。このようにして、楕円偏光板を作製した。
楕円偏光板を、アクリル系接着剤を用いてガラス板に貼り付け、高温、加圧下でエイジングした後、90℃の恒温槽に入れ、500時間放置した。楕円偏光板を調べたところ、剥離、泡の発生あるいは皺の発生のような問題は全く認められなかった。さらに500時間(合計1000時間)90℃の恒温槽に入れてから調べても、剥離、泡の発生あるいは皺の発生のような問題は全く認められなかった。
【0152】
(液晶表示装置の作製)
上記の楕円偏光板を用いた以外は、実施例1と同様にして、液晶表示装置を作製した。
液晶表示装置の液晶セルに、電圧を印加し、白表示2V、黒表示5Vにおける白表示と黒表示との透過率の比をコントラスト比として、上下左右でコントラスト比10が得られる角度を測定した。また、2Vと5Vの間の電圧を印加することで、8階調の中間調表示をさせ、階調が反転する角度を測定した。コントラスト比が10以上でかつ階調反転のない角度を視野角として求めた。その結果、上下の視野角は125°、左右の視野角は160°であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光膜の保護機能を有するセルロースの低級脂肪酸エステルフイルムであって、波長550nmにおけるセルロースの低級脂肪酸エステルフイルムの厚み方向のレターデーション値が75乃至150nmであり、そして、セルロースの低級脂肪酸エステルフイルムの偏光膜側となる面が、コロナ放電処理、グロー放電処理、火焔処理、酸処理、アルカリ処理または紫外線照射処理により表面処理されていることを特徴とするセルロースの低級脂肪酸エステルフイルム。
【請求項2】
セルロースの低級脂肪酸エステルフイルムの偏光膜側となる面が、酸処理またはアルカリ処理によりケン化処理されている請求項1に記載のセルロースの低級脂肪酸エステルフイルム。
【請求項3】
セルロースの低級脂肪酸エステルが、セルロースと炭素原子数が2、3または4の混合脂肪酸とからなる混合脂肪酸エステルである請求項1に記載のセルロースの低級脂肪酸エステルフイルム。
【請求項4】
セルロースの混合脂肪酸エステルが、セルロースアセテートプロピオネートである請求項3に記載のセルロースの低級脂肪酸エステルフイルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−33066(P2010−33066A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252842(P2009−252842)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【分割の表示】特願2000−605234(P2000−605234)の分割
【原出願日】平成12年3月2日(2000.3.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】