説明

セルロースの糖化方法

【課題】セルロース含有物に含まれるセルロースを酵素によって加水分解する際の反応速度を向上させることができる、セルロースの糖化方法の提供。
【解決手段】セルロースを加水分解して糖化する方法であって、セルロース含有物とアルカリ水溶液とを接触させるアルカリ処理を行い、該セルロース含有物を水及び/又は酸性水溶液で洗浄した後、該セルロース含有物とセルロース分解酵素を含む水溶液とを接触させる酵素処理を、pH3.6〜5.0の範囲で行うことにより、水溶性オリゴ糖又はグルコースを含む水溶液を得ることを特徴とするセルロースの糖化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースの糖化方法に関する。より詳しくは、セルロース含有繊維製品やそれらの製品屑等のセルロース含有物に前処理を施すことにより、セルロース分解酵素によるセルロースの加水分解反応速度を向上させたセルロースの糖化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の枯渇問題や地球温暖化をはじめとした環境問題を背景に、石油代替原料を用いた燃料開発、化学品・樹脂群への転換が進められている。たとえば、米国、ブラジル等ではトウモロコシやサトウキビを原料にしたバイオエタノール製造が大規模に進められている。しかしこれらは食糧資源と競合関係にあるため、近年、その供給に関して国際的な議論の対象となった。このような背景を受け、食糧資源と競合しないセルロース系バイオマス原料(木質系・草本系等)からのバイオエタノール合成が注目を集めており、各国がその商用化を競っている。しかし、製造技術面とコスト面が障害となり未だ大規模には実用化出来ていない。一方、セルロース系バイオマス原料としては、上記の木質系・草本系以外にも、不要品として廃棄・回収された紙資源や衣料品等のセルロース含有繊維廃棄物もその対象として検討が始められている。
【0003】
セルロース含有物のセルロースは、1000個以上のグルコースがβ−グリコシド結合でつながった多糖類である。セルロースを加水分解することにより、単糖であるグルコースのほか、グルコースが2〜6個つながった水溶性のオリゴ糖類(セロオリゴ糖)を得ることができる。これらの水溶性糖類の中でもグルコースは、微生物を用いた発酵法によるエタノール生産等に有用であることから、セルロースを含有する物からグルコース等の糖類を効率よく製造できる糖化技術が望まれている。
【0004】
セルロースを糖化する従来の方法としては、熱分解法、硫酸等を触媒とする酸触媒法(例えばアルケノール法)、超臨界または亜臨界状態の水溶液で加水分解する加圧熱水法(特許文献1参照)、酵素反応によって加水分解する酵素反応法(特許文献2参照)等が知られている。
【0005】
熱分解法は、熱エネルギーによりセルロース分子鎖を切断する方法であり、セルロースを低分子化することが出来る。しかし、熱反応であるために反応の選択性が乏しく、グルコースの収率は低い。
【0006】
酸触媒法は高濃度の硫酸でセルロースを加水分解処理した後に希硫酸で後処理をしてグルコースを得るものであるが、酸による設備腐食の問題と共に硫酸含有残渣処理・硫酸回収等の工程が必要となる問題がある。
【0007】
水は超臨界または亜臨界状態においてイオン積が増大し、あたかも酸性水溶液として挙動することが知られている。これを利用すれば酸触媒を添加しなくても効率よくしかも速やかにセルロースを加水分解する事ができるはずである。例えば、超臨界水または亜臨界水を用いることでセルロースからグルコースが20%以上の収率で得られるという報告がなされている(特許文献1参照)。温度・圧力条件を制御することによりグルコースの収率をある程度向上しうる。しかし、加水分解の効率を優先し過ぎると、生成したグルコースが熱分解反応して収率が低下してしまう。また、この際にエタノール発酵工程の阻害物質であるフルフラール類が生成される問題がある。
【0008】
酵素反応法はセルロースを加水分解する酵素(セルラーゼ)により処理する方法であり、穏和な反応条件(室温〜70℃)で処理できることが特徴である。近年、国内外の多くのメーカーが遺伝子操作技術を駆使して新規なセルラーゼ開発に力を入れている。しかし、一般にセルラーゼ自身が高価であることに加え、原料である高分子量のセルロースをグルコースに加水分解する効率が低く、生産性に劣る。例えば、数日から1週間程度の長時間の加水分解処理を行っても、グルコースへの転換率は30%未満である。このように反応速度が小さいのは、セルロースが固体状態でありかつ結晶性であるためにセルラーゼとの反応が固液反応となっているからだと考えられる。
【0009】
前記セルラーゼの低い加水分解効率の問題を解決するために、原料であるセルロースの前処理を工夫して加水分解効率を向上させる方法が提案されている(特許文献2参照)。
すなわち、セルロースを超臨界水または亜臨界水で一時的に可溶化し、反応物が溶液中に溶解している間にセルラーゼで加水分解処理を行なう方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−31000号公報
【特許文献2】特開2001−95594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記の超臨界水処理における反応条件は320〜500℃で圧力が20〜50MPaと極めて厳しい条件であり、特殊な装置・設備を要するとともにエネルギーコストが高くなる問題がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、セルロース含有物に含まれるセルロースを酵素によって加水分解する際の反応速度を向上させることができるセルロースの糖化方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1に記載のセルロースの糖化方法は、セルロースを加水分解して糖化する方法であって、セルロース含有物とアルカリ水溶液とを接触させるアルカリ処理を行い、該セルロース含有物を水及び/又は酸性水溶液で洗浄した後、該セルロース含有物とセルロース分解酵素を含む水溶液とを接触させる酵素処理を、pH3.6〜5.0の範囲で行うことにより、水溶性オリゴ糖又はグルコースを含む水溶液を得ることを特徴とする。
本発明の請求項2に記載のセルロースの糖化方法は、請求項1において、前記酵素処理をpH4.0〜5.0の範囲で行うことを特徴とする。
本発明の請求項3に記載のセルロースの糖化方法は、請求項1又は2において、前記アルカリ処理において、−10℃〜50℃の温度範囲で、0.1〜10Nの前記アルカリ水溶液に、前記セルロース含有物を、0.1〜60分の時間範囲で接触させることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載のセルロースの糖化方法は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記セルロース含有物が、綿を含有する繊維であることを特徴とする。
本発明の請求項5に記載のセルロースの糖化方法は、請求項1〜4のいずれか一項において、前記アルカリ処理の前に、前記セルロース含有物と過酸化水素水溶液とを接触させる過酸化水素処理を行うことを特徴とする。
本発明の請求項6に記載のセルロースの糖化方法は、請求項4において、前記綿を含有する繊維の長さが1mm以上1m以下であることを特徴とする。
本発明の請求項7に記載のセルロースの糖化方法は、請求項1〜6のいずれか一項において、前記アルカリ処理におけるアルカリ水溶液中のイオン濃度の変化を測定し、該イオン濃度が一定になるまで、該アルカリ処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のセルロースの糖化方法によれば、高温高圧の前処理を必要とせず、アルカリによる前処理によって、後段の酵素処理によるセルロースの加水分解速度を向上させることができる。また、該酵素処理では、穏和な条件下でセルロースの加水分解を行うことにより、糖類の過分解物を発生させず、目的の生成物である水溶性オリゴ糖又はグルコースを高純度で得ることができる。得られた高純度の水溶性オリゴ糖又はグルコースは、エタノール発酵や乳酸発酵等の原料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】セルロースの糖化のpH依存性を示すグラフである。
【図2】セルロースの糖化のpH依存性を示すグラフである。
【図3】pH変化と糖化の関係を示すグラフである。
【図4】過酸化水素処理を行った場合の転換率の向上及び酵素反応速度の向上を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明のセルロースの糖化方法は、セルロース含有物を加水分解して糖化する方法であって、セルロース含有物とアルカリ水溶液とを接触させるアルカリ処理を行い(工程A)、該セルロース含有物を水及び/又は酸性水溶液で洗浄した後(工程B)、該セルロース含有物にセルロース分解酵素を、pH3.6〜5.0の範囲で接触させる酵素処理を行って、水溶性オリゴ糖又はグルコースを含む水溶液を得る(工程C)、という工程A〜Cを有することを特徴とする。本発明のセルロースの糖化方法は上記工程A〜Cを含むものであればよく、他の操作を行う工程を含むものであってもよい。
他の操作を行う工程としては、例えば、工程Aのアルカリ処理の前に、前記セルロース含有物と過酸化水素水溶液とを接触させる過酸化水素処理を行う工程Dが挙げられる。
【0016】
前記工程Aにおいて、前記セルロース含有物と前記アルカリ水溶液とを接触させる方法は特に制限されない。例えば、前記セルロース含有物を前記アルカリ水溶液に浸漬して接触させる方法を採用しても良いし、前記セルロース含有物を静置したところに、前記アルカリ水溶液を通液させて接触させても良い。より具体的な例として、アルカリ耐性のカゴに前記セルロース含有物を入れて、そのカゴを前記アルカリ水溶液中に浸漬して揺り動かすことにより前記アルカリ処理を行うこと方法が挙げられる。
【0017】
本発明におけるセルロース含有物としては、本発明の効果が十分に得られることから、セルロース含有繊維が好ましく、綿を含有する繊維がより好ましい。
前記セルロース含有繊維としては、セルロースを含有する繊維状の物であれば特に限定されず、例えば、衣料品等の繊維として用いられている綿、麻(苧麻、亜麻、マニラ麻、ザイザル麻、ケナフ麻等)、テンセル、レーヨン、キュブラ等や、コピー紙や包装紙、段ボール等の紙製品等が好適なものとして挙げられる。また、前記衣料品等の繊維として、ポリエステル等の合成繊維やシルク等のセルロースを含有していない繊維と混紡された繊維であってもよい。
前記セルロース含有繊維の形態は特に制限されず、綿状、糸状、綱状、布状、平面・立体状等に加工されたものを用いることができる。
【0018】
また、前記セルロース含有繊維の長さは、1mm以上1m以下が好ましく、5mm以上50cm以下がより好ましく、1cm以上30cm以下がさらに好ましい。
この範囲の長さであると、セルロース含有繊維の取り扱いが容易となる。特に、本発明の各工程においてセルロース含有繊維を脱水する場合に、セルロース含有繊維が通過し難い篩(ふるい)を用いて行う際の取り扱い性に優れる。
【0019】
セルロースから糖類への転換率(転化率)を高める観点から、該セルロース含有物には糖化反応を阻害するような不純物はなるべく含まれていない方が好ましい。すなわち、本発明において用いられるセルロース含有物のセルロース含有率は高いほど好ましい。
【0020】
前記工程Aにおいて、本発明のアルカリ処理におけるアルカリ水溶液としては、前記セルロース含有物の吸水量を高めて膨潤させることができるものであれば特に制限されず、水酸化ナトリウム、アンモニア水等が挙げられる。
これらのなかでも、水酸化ナトリウムが好ましい。水酸化ナトリウムを用いることにより、当該セルロース含有物中のセルロース(セルロース結晶)の吸水量を高めて膨潤することができ、さらに、後段の工程Bの水及び/又は酸性水溶液による洗浄後に該セルロースをNaイオンが吸着したセルロースNa塩とすることができる。その結果、後段の工程Cの酵素処理における反応系に酢酸を所定の量で添加すると、セルロースに吸着したNaイオン及び酢酸がpH緩衝剤として機能して、該反応系を酵素反応に好ましいpHで安定化することができる。
【0021】
また、綿繊維等のセルロース含有繊維を、水酸化ナトリウム等でアルカリ処理することによって、該セルロース含有繊維が膨潤してセルロースの非晶領域が3倍以上増加しうる。さらに、X線回折によって測定される該セルロースの結晶格子の大きさも変化することから、セルロースの分子間相互作用が当該アルカリ処理によって変化させられると考えられる。その要因として、例えば、Naイオンの吸着によってセルロースの水酸基間の水素結合が切れて分子間の結合力が低下することが考えられる。
【0022】
このように、アルカリ処理によって膨潤して吸水量が増加した綿繊維等のセルロース含有物は、後段の工程Cの酵素処理において、セルロース分解酵素が前記セルロース含有物のセルロースにアタックし易くなっているため、酵素反応の効率を著しく向上させることができる。
【0023】
前記工程Aにおいて、アルカリ水溶液が水酸化ナトリウム水溶液である場合には、その濃度(規定度)は、0.1〜10Nが好ましく、1〜5Nがより好ましい。
上記範囲の下限値以上及び上限値以下であると、前記セルロース含有物におけるセルロース(セルロース結晶)の膨潤及び吸水量を高めて、後段の酵素反応をより効率良く行うことができる。
一方、上記範囲の下限値未満及び上限値超であると、前記セルロース含有物におけるセルロースの膨潤及び吸水量が低下してしまう傾向がある。
【0024】
前記工程Aにおいて、前記セルロース含有物と前記アルカリ水溶液とを接触させる際の温度は、−10〜50℃が好ましく、−5〜30℃がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上及び上限値以下であると、前記セルロース含有物におけるセルロースの膨潤及び吸水量を高めて、後段の酵素反応をより効率良く行うことができる。
一方、上記範囲の下限値未満及び上限値超であると、前記セルロース含有物におけるセルロースの膨潤及び吸水量が低下してしまう傾向がある。
なお、前記膨潤及び吸水量をさらに向上させる温度としては、4〜20℃が良く、4〜15℃がさらに良く、4〜10℃が最も良い。しかし、アルカリ処理における温度を室温付近に設定することにより、冷却のためのエネルギーコストを不要とすることができる。
【0025】
前記工程Aにおいて、前記セルロース含有物と前記アルカリ水溶液とを接触させる際の処理時間の範囲は、通常48時間以下で行うことができ、0.1分〜60分が好ましく、1分〜30分がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上及び上限値以下であると、前記セルロース含有物におけるセルロースの膨潤及び吸水量を高めて、後段の酵素反応をより効率良く行うことができる。
一方、上記範囲の下限値未満であると、前記セルロース含有物におけるセルロースの膨潤及び吸水量が低下してしまう傾向がある。また、48時間を超えてアルカリ処理を行った場合には、アルカリ濃度にもよるが、概して変化の程度が少なくなり、膨潤及び吸水量は頭打ちとなる傾向がある。
【0026】
前記工程Aにおいて、前記セルロース含有物が乾燥物である場合、該セルロース含有物を予め水に浸漬しておくことが好ましい。前記アルカリ水溶液が粘ちょう(粘調)である場合、該セルロース含有物に浸透しにくいが、このように予め水に浸漬することによって、前記アルカリ水溶液が浸透し易くなり、前記アルカリ処理の要する時間を短縮することができ、前記アルカリ処理の管理が容易にできる。
【0027】
ここで、「アルカリ処理の管理」とは、アルカリ処理が充分に行われたか否かを判断することをいう。アルカリ水溶液のイオン濃度が一定に落ち着いた段階で、アルカリ水溶液が当該セルロース含有物に充分浸透したと判断できる。一方、アルカリ水溶液のイオン濃度が低下している段階では、アルカリ水溶液が当該セルロース含有物に予め含まれていた水によって希釈されつつあり、未だアルカリ水溶液が当該セルロース含有物に充分には浸透していないと判断できる。
【0028】
前記セルロース含有物を予め水に浸漬した場合は、前記セルロース含有物と前記アルカリ水溶液とを接触させる際に、前記セルロース含有物の吸水量を測定し、該吸水量に応じて前記アルカリ水溶液の濃度を高めることが好ましい。この方法によって、アルカリ処理におけるアルカリ水溶液の濃度を正確に調整して、該アルカリ処理の精度及び確度を高めることができる。
【0029】
また、前記アルカリ処理の際、前記アルカリ水溶液のイオン濃度の変化を測定し、該イオン濃度が一定になるまでアルカリ処理を継続することが好ましい。
ここで、「イオン濃度の変化が一定になる」とは、前記アルカリ水溶液中のイオン濃度の変化が、好ましくは0〜40g/L・10分(0〜4g/L・分)、より好ましくは0〜30g/L・10分(0〜3g/L・分)、さらに好ましくは0〜20g/L・10分(0〜2g/L・分)、の範囲になることをいう。
【0030】
前記イオン濃度の変化が一定になれば、アルカリ水溶液がセルロース含有物の内部に充分に浸透して、前記アルカリ処理が充分に行われたことを把握することができる。この結果、余分にアルカリ処理を継続する必要がなくなり、アルカリ処理に要する時間を短縮することができ、更に、前記アルカリ処理の管理が容易にできる。
前記イオン濃度としては、アルカリ水溶液中のカチオン濃度が好適であり、ナトリウムイオン濃度やカリウムイオン濃度が挙げられる。これらのイオン濃度は、イオン濃度計によって測定することができる。
【0031】
前記工程Bにおいて、前記アルカリ処理を行った前記セルロース含有物を水及び/又は酸性水溶液で洗浄する方法としては、該セルロース含有物からアルカリを水及び/又は酸性水溶液で洗い流すことができるものであれば特に制限されない。例えば、該セルロース含有物を脱イオン水及び/又は酸性水溶液に浸漬して洗浄する方法を採用しても良いし、該セルロース含有物を静置したところに、脱イオン水及び/又は酸性水溶液を通液させて洗浄しても良い。より具体的な例として、アルカリ耐性のカゴに前記セルロース含有物を入れて、そのカゴを脱イオン水及び/又は酸性水溶液中に浸漬して揺り動かし、適宜、該脱イオン水及び/又は酸性水溶液を交換することにより前記アルカリを該セルロース含有物から除去する方法が挙げられる。
【0032】
前記酸性水溶液は、後段の工程Cにおける酵素反応を阻害しないものであれば特に制限されず、例えば酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液等が好適に用いられる。
前記酸性水溶液のpHの範囲は、後段の工程Cにおける酵素反応を阻害しない範囲であればよく、pH2.0〜6.9が好ましく、pH3.6〜pH5.0がより好ましく、pH4.0〜pH5.0がさらに好ましい。
この範囲のpHであると、洗浄したセルロース含有物に含まれる水溶液のpHを、後段の工程Cにおける酵素反応のpH範囲に合わせることができるので好ましい。
なお、前記酸性水溶液の濃度は、前記アルカリ処理におけるアルカリの濃度によって適宜調整される。
【0033】
前記水及び/又は酸性水溶液で洗浄した後の前記セルロース含有物に残存するアルカリは、該セルロース含有物に含まれる水又は酸性水溶液のpHが酸性〜中性付近となるように、できる限り少ない量であることが望ましい。しかし、後段の工程Cにおける酵素反応を阻害しない程度であれば、該アルカリが残存していてもよい。また、塩酸等の酸を用いて残存したアルカリを中和してもよい。
【0034】
より具体的な前記工程A、並びに前記工程Bにおける酢酸による洗浄及びアルカリ中和の方法として、次の操作が例示できる。
まず、アルカリ耐性の容器(チーズ染色機)内において、木綿1kgに水を含ませてから脱水し、4N(15.8質量%)の水酸化ナトリウム水溶液9Lを投入して、前記アルカリ処理を所定時間行った後、該水酸化ナトリウム水溶液を排水する。該容器中に残ったアルカリを含む木綿に対して、4質量%の酢酸6Lを投入し、これを排水した後、再度4質量%の酢酸6Lを投入して排水する。このとき、1回目の排水はpH13以上であるが、2回目の排水はpH4〜5となっていることから、2度の酢酸投入後の木綿に含まれる水溶液は、酢酸と酢酸ナトリウムで構成されるpH4〜5の酢酸緩衝液に調製されていることがわかる。なお、このアルカリの中和反応は、CHCOOH+NaOH→CHCOONa+HOの反応式で表される。このようにpH調整された木綿は脱水しなくても、後段の工程Cに使用することができる。
【0035】
前記工程Cにおいて、前記水及び/又は酸性水溶液で洗浄したセルロース含有物とセルロース分解酵素を含む水溶液とを、pH3.6〜5.0の範囲で接触させる方法は特に制限されない。例えば、前記セルロース含有物を、pH3.6〜5.0に調整したセルロース分解酵素を含む水溶液に浸漬して接触させる方法を採用しても良いし、前記セルロース含有物を静置したところに、前記セルロース分解酵素を含む水溶液を通液させて接触させても良い。より具体的な例として、カゴに前記セルロース含有物を入れて、そのカゴを前記セルロース分解酵素を含む水溶液中に浸漬して揺り動かすことにより、pH3.6〜5.0の範囲において、前記酵素処理を行う方法が挙げられる。
【0036】
前記工程Cにおけるセルロース分解酵素としては、セルロースを加水分解して水溶性オリゴ糖又はグルコースを生成できるものであれば特に制限されず、公知のセルロース分解酵素(セルラーゼ)を所定の量で用いればよい。ここで、該水溶性オリゴ糖は、2〜6分子程度のグルコースが縮合してつながった分子構造を有する水溶性のセロオリゴ糖をいう。
【0037】
前記工程Cにおけるセルロース分解酵素を含む水溶液には、pHを安定させるためのpH緩衝剤を含ませることが好ましい。該水溶液のpHは、pH3.6〜5.0の範囲とする。このpH範囲で酵素処理を行うことによって、工程A及びBを経たセルロースの加水分解効率を向上させることができる。上記pH範囲に調整するためのpH緩衝剤(pH緩衝液)としては、例えば酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液等が好適に用いられる。これらの緩衝液はナトリウムイオン又はカリウムイオンを含むものが好適である。
前述したように、水酸化ナトリウム水溶液を用いてアルカリ処理を行ったセルロース含有物の水酸基のプロトンの一部はNaカチオンに変換されている可能性があるので、該セルロース含有物に酢酸、クエン酸、リン酸等の酸を含む水溶液を接触させることによって、前記水酸基を元に戻すと共に、前記水溶液をセルロース分解酵素によるセルロースの加水分解効率が向上するpH3.6〜5.0に調整できる。
【0038】
前記工程Cにおける酵素処理に用いる反応液に含まれるpH緩衝剤又は塩類の濃度は、酵素範囲を阻害しない限り、低いほど好ましい。これは酵素処理後に得られた反応液を、続けて別の用途に使用する際に、pH緩衝剤や塩類が邪魔になる場合があるためである。特にナトリウムイオン濃度が低いほど好ましい。
したがって、前記反応液に含まれるpH緩衝剤又は塩類の濃度は0〜300mMが好ましく、0.1〜200mMがより好ましく、1〜100mMがさらに好ましい。また、前記反応液に含まれるナトリウムイオン濃度又はカリウムイオン濃度は、0〜490mg/Lであることが好ましく、0.1〜440mg/Lがより好ましく、1〜400mg/Lがさらに好ましい。
例えば、水酸化ナトリウム水溶液で前記アルカリ処理を行い、水又は酸性水溶液で洗浄した後、当該セルロース含有物にはナトリウムイオンを残存させられる。このセルロース含有物を所定の酢酸水溶液に投入することによって、上記ナトリウムイオン濃度の水溶液(酢酸−Na緩衝液)とすることができる。この水溶液中で前記工程Cの酵素処理を行うことが好ましい。
【0039】
前記工程Cは、酵素を含むpH3.6〜5.0の水溶液において行うものである。この変形例として、酵素処理の開始時のpHを5.5以下とし、酵素反応中又は酵素反応終了時にpH3.6〜5.0の範囲になるようにすることも可能である。例えば、当該酵素処理の水溶液に含まれる緩衝剤濃度又はナトリウムイオン濃度を上記濃度範囲内で低く設定することによって可能となる。これは、セルロースの加水分解によって酵素溶液中のグルコース濃度が上昇すると共に、酵素溶液のpHが低下することを利用したものである。
【0040】
前記工程Cにおける酵素処理において、前記セルロース含有物と前記セルロース分解酵素を含む水溶液とを接触させる際の温度は、該セルロース分解酵素の至適温度(酵素活性が高くなる温度)付近であることが望ましい。一般には、該至適温度は10〜80℃の範囲であり、40〜70℃がより好ましく、50〜65℃がさらに好ましい。
【0041】
前記工程Cにおける酵素処理において、前記セルロース含有物と前記セルロース分解酵素を含む水溶液とを接触させる際の処理時間の範囲は、適切な酵素濃度、pH、温度であれば、14日以下で行うことができる。多くの場合、反応開始後1日間が最も反応速度が高く、その後2〜6日間で反応速度が徐々に低下し、反応開始10日後以降では反応がほぼ停止してセルロース含有物に含まれるセルロースのグルコースへの転換率が頭打ちになる傾向がある。
【0042】
ここで、前記転換率とは、セルロース含有物に含まれるセルロースの質量に対する、糖化反応により得られた糖類の質量の割合をいう。該糖類とは、前記水溶性オリゴ糖又はグルコースをいう。
【0043】
前記工程Cでは、セルロースの加水分解を酵素を用いて比較的穏やかな条件で行うため、生成した前記糖類の過分解がほとんど起こらず、純度の高い糖類を得ることができる。
生成した前記糖類は前記セルロース分解酵素を含む水溶液中に溶解している。該糖類を該水溶液から回収して得る方法は特に制限されず、クロマトグラフィー等の公知の方法で行えばよい。
【0044】
本発明において、前述の工程A〜Cに加えて、工程Dを行うことが好ましい。工程Dは、前記工程Aにおけるアルカリ処理の前に、前記セルロース含有物と過酸化水素水溶液とを接触させる過酸化水素処理を行う工程である。
前記過酸化水素水溶液中のHの濃度は特に制限されないが、例えば3g/L〜60g/Lが好ましく、6g/L〜30g/Lがより好ましい。これらの濃度の過酸化水素水溶液を調製する方法として、例えば市販の過酸化水素水溶液(30wt%)を10g/L〜200g/Lの割合で蒸留水に混合して、前記好ましい濃度にする方法が挙げられる。
【0045】
前記過酸化水素水溶液と前記セルロース含有物とを接触させることにより、後段で行う工程Cにおける糖化反応(酵素反応)の反応速度が向上し、転換率(糖化率)を高めることができる。
このメカニズムの詳細は未解明であるが、後段のアルカリ処理におけるセルロースの構造変化を促進するものと考えられる。後段のアルカリ処理は、セルロースの構造を変化させ、酵素がセルロースに接触しやすくする。このアルカリ処理の前に、過酸化水素により強い処理をおこなうことで、セルロースの化学結合を切り、アルカリ処理におけるセルロース構造の変化が促進されると考えられる。
【0046】
前記過酸化水素水溶液には、アルカリが含まれることが好ましい。つまり、前記工程Dの過酸化水素処理において、過酸化水素及びアルカリを含む過酸化水素水溶液(過酸化水素及びアルカリを含む処理液)と前記セルロース含有物とを接触させる処理を行うことが好ましい。
アルカリを含むことにより、後段で行う工程Cにおける糖化反応の反応速度がより向上し、転換率(糖化率)をより高めることができる。
このメカニズムの詳細は不明であるが、過酸化水素水溶液にアルカリを加えることにより、過酸化水素の分解が促進され、ヒドロキシラジカルの発生が促進されるため、処理効果が向上すると考えられる。
【0047】
前記過酸化水素水溶液中のアルカリとしては、例えばアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の燐酸塩、又はアンモニアやアミン等が挙げられる。これらの中でも、前記水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムがより好ましい。
【0048】
前記過酸化水素水溶液中の水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの濃度は、0〜1.25N(mol/L)が好ましく、0.025〜0.25Nがより好ましい。
上記範囲であると、セルロース含有物に含まれるセルロース又はセルロース結晶の吸水を高めて、工程Cにおける糖化反応を促進させることができる。
【0049】
前記過酸化水素水溶液と前記セルロース含有物とを接触させる方法は特に制限されず、工程Aにおけるアルカリ処理と同様の方法が適用できる。
前記接触における過酸化水素水溶液の温度は特に制限されないが、90〜150℃が好ましく、100〜120℃がより好ましい。この温度範囲であると、セルロース含有物の吸水を一層促進させることができる。この結果、後段の酵素反応を一層促進させることができる。上記好適な温度範囲にするために、加圧して処理することが好ましい。この場合の圧力は、0.1〜0.5MPaが好ましく、0.1〜0.3MPaがより好ましく、0.1〜0.2MPaが更に好ましい。加圧及び加熱するために、例えば繊維を染料で染める際に一般的に使用される染色装置等の高温高圧処理装置を用いることができる。また、熱源としては例えばボイラー蒸気を使用できる。
前記過酸化水素処理の時間は特に制限されず、例えば1〜24時間で行うことができ、1〜2時間で行っても構わない。
前記過酸化水素処理水溶液のpHは特に制限されないが、前記アルカリを含有させた場合、例えばpH10程度とすることができる。
【0050】
工程Dで使用する、原料のセルロース含有物は、前述の工程Aにおいて説明した原料であるセルロース含有物と同様のものを使用できる。工程Dで過酸化水素処理して得られたセルロース含有物は、そのまま工程Aのアルカリ処理に供しても良いし、イオン交換水等で水洗してから工程Aのアルカリ処理に供しても良い。
【実施例】
【0051】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]
セルロース含有物である綿糸5gと、4Nの水酸化ナトリウム水溶液200gとをガラス製ビーカー(300mL)で混合して、20℃で30分間、接触させた(工程A)。
つぎに、ビーカーから前記水酸化ナトリウム水溶液を除去して、脱イオン水を加え、アルカリ処理した前記セルロース含有物を水洗し8時間放置した(工程B)。その後、水洗した綿糸のうち乾燥重量換算で0.5gに相当する量を取り分けて、これに50mMの酢酸Na緩衝液(pH5.0)を加えて、5mlの酵素処理液A(pH5.0)とした。
つづいて、前記試料A、及びセルロース分解酵素であるセルラーゼSS(ナガセケムテック株式会社製;活性1600CUN/g以上)0.125mlをポリプロピレン試験管中に添加して前記pH調整処理済み湿潤木綿と接触させ、シェーカーにより、振とうを200rpm、50℃で行った。この酵素処理の開始後、所定日数経過後における反応液に含まれるグルコース量をHPLCにより測定し、「グルコース転換率(質量%)=生成したグルコースの質量/綿繊維の質量(0.5g)」の計算を行った。また、反応液中の糖濃度を糖度計で測定した。
その結果、グルコース転換率は1日後=37%、2日後=51%、4日後=66%、5日後=71%、6日後=73%であった。また、糖濃度(mg/dL)は1日後(23時間後)=4260、2日後(44時間後)=5870、4日後(95時間後)=7600、5日後(119時間後)=8170、6日後(141時間後)=8410であった。この糖濃度の結果を図1及び図2に示す。
【0053】
[実施例2]
工程Bの後で5mMの酢酸Na緩衝液(pH4.4)を加えて、5mlの酵素処理液B(pH4.4)とした以外は、実施例1と同様に行った。
その結果、グルコース転換率は1日後=36%、2日後=52%、4日後=67%、5日後=70%、6日後=76%であった。また、糖濃度(mg/dL)は1日後(23時間後)=4170、2日後(44時間後)=6040、4日後(95時間後)=7810、5日後(119時間後)=8180、6日後(141時間後)=8890であった。この糖濃度の結果を図1及び図2に示す。
【0054】
[実施例3]
工程Bの後で5mMの酢酸Na緩衝液(pH4.0)を加えて、5mlの酵素処理液C(pH4.0)とした以外は、実施例1と同様に行った。
その結果、グルコース転換率は1日後=37%、2日後=53%、4日後=69%、5日後=72%、6日後=76%であった。また、糖濃度(mg/dL)は1日後(23時間後)=4250、2日後(44時間後)=6070、4日後(95時間後)=7930、5日後(119時間後)=8260、6日後(141時間後)=8730であった。この糖濃度の結果を図1及び図2に示す。
【0055】
[実施例4]
工程Bの後で5mMの酢酸Na緩衝液(pH3.6)を加えて、5mlの酵素処理液D(pH3.6)とした以外は、実施例1と同様に行った。
その結果、グルコース転換率は1日後=35%、2日後=49%、4日後=64%、5日後=66%、6日後=72%であった。また、糖濃度(mg/dL)は1日後(23時間後)=4070、2日後(44時間後)=5630、4日後(95時間後)=7380、5日後(119時間後)=7550、6日後(141時間後)=8310であった。この糖濃度の結果を図1及び図2に示す。
【0056】
[比較例1]
工程Bの後で5mMの酢酸Na緩衝液(pH5.6)を加えて、5mlの酵素処理液E(pH5.6)とした以外は、実施例1と同様に行った。
その結果、グルコース転換率は1日後=29%、2日後=41%、4日後=53%、5日後=58%、6日後=63%であった。また、糖濃度(mg/dL)は1日後(23時間後)=3400、2日後(44時間後)=4730、4日後(95時間後)=6210、5日後(119時間後)=6710、6日後(141時間後)=7350であった。この糖濃度の結果を図1及び図2に示す。
【0057】
[実施例5]
実施例1と同様に工程A及び工程Bを行い、得られた綿糸のうち乾燥重量換算で0.5gに相当する量を取り分けて、脱イオン水に投入し、これに水酸化ナトリウムと酢酸を適宜添加して、pH5.39の酢酸緩衝液とした。この酢酸緩衝液中のナトリウムイオン濃度は440mg/Lであった。この綿糸を含む酢酸緩衝液に、実施例1と同様に酵素を添加して酵素処理を行った。
酵素処理の開始後、所定日数経過後における反応液に含まれるグルコース量をHPLCにより測定し、反応液中の糖濃度を糖度計で測定した。
その結果、糖濃度(mg/dL)は6時間後=2610、9時間後=3510、12時間後=4020、24時間後=5090、72時間後=7830であった。この糖濃度の結果を図3に示す。
また、酵素処理溶液のpHは、酵素処理開始時にpH5.39であり、72時間後にpH3.95であった。
【0058】
[実施例6]
実施例1と同様に工程A及び工程Bを行い、得られた綿糸のうち乾燥重量換算で0.5gに相当する量を取り分けて、脱イオン水に投入し、これに水酸化ナトリウムと酢酸を適宜添加して、pH5.29の酢酸緩衝液とした。この酢酸緩衝液中のナトリウムイオン濃度は490mg/Lであった。この綿糸を含む水溶液に、実施例1と同様に酵素を添加して酵素処理を行った。
酵素処理の開始後、所定日数経過後における反応液に含まれるグルコース量をHPLCにより測定し、反応液中の糖濃度を糖度計で測定した。
その結果、糖濃度(mg/dL)は6時間後=1870、9時間後=2150、12時間後=2800、24時間後=3540、72時間後=5410であった。この糖濃度の結果を図3に示す。
また、酵素処理溶液のpHは、酵素処理開始時にpH5.29であり、72時間後にpH4.93であった。
【0059】
[実施例7]
セルロース含有物である綿糸5gと、20gの過酸化水素及び0.43gの水酸化ナトリウムを含む水溶液200gとを高温高圧装置の反応容器で混合して、120℃、0.2MPaで60分間、接触させた(工程D)。
得られたセルロース含有物を前記反応容器から取り出して、軽く搾った後、4Nの水酸化ナトリウム水溶液200gとガラス製ビーカー(300mL)において、20℃で30分間、接触させた(工程A)。
つぎに、ビーカーから前記水酸化ナトリウム水溶液を除去して、脱イオン水を加え、アルカリ処理した前記セルロース含有物を水洗し8時間放置した(工程B)。その後、水洗した綿糸のうち乾燥重量換算で0.5gに相当する量を取り分けて、これに50mMの酢酸Na緩衝液(pH5.0)を加えて、5mlの酵素処理液(pH5.0)とした。
つづいて、ポリプロピレン試験管中において、前記酵素処理液と、セルロース分解酵素であるセルラーゼSS(ナガセケムテック株式会社製;活性1600CUN/g以上)0.125mlと混合して、シェーカーにより、振とうを200rpm、50℃で行った。この酵素処理の開始後、反応液中の糖濃度を所定時間毎に糖度計で測定した。
その結果、糖濃度(g/L)は24時間後=26.4、48時間後=40.9、72時間後=48.4、96時間後=57.6、121時間後=63.7であった。この糖濃度の結果を図4に、「○(白丸)」のプロットで示す。
【0060】
[比較例2]
工程Dを行わず、原料の綿糸を工程Aに供した以外は、実施例7と同様に行った。
その結果、糖濃度(g/L)は24時間後=24.2、48時間後=36.4、72時間後=44.6、96時間後=50.8、121時間後=55.4であった。この糖濃度の結果を図4、「●(黒丸)」のプロットで示す。
【0061】
120時間後の糖濃度について実施例7と比較例2とを比較すると、実施例7の方が約15%糖濃度が高かった。また、図4のグラフにおいて、常に実施例7のプロットが比較例2のプロットの上方にあった。
以上から、工程Dの過酸化水素処理を行うことにより、転換率(糖化率)を向上させることができると共に、糖化反応(酵素反応)の速度も高められることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを加水分解して糖化する方法であって、
セルロース含有物とアルカリ水溶液とを接触させるアルカリ処理を行い、該セルロース含有物を水及び/又は酸性水溶液で洗浄した後、該セルロース含有物とセルロース分解酵素を含む水溶液とを接触させる酵素処理を、pH3.6〜5.0の範囲で行うことにより、水溶性オリゴ糖又はグルコースを含む水溶液を得ることを特徴とするセルロースの糖化方法。
【請求項2】
前記酵素処理をpH4.0〜5.0の範囲で行うことを特徴とする請求項1に記載のセルロースの糖化方法。
【請求項3】
前記アルカリ処理において、−10℃〜50℃の温度範囲で、0.1〜10Nの前記アルカリ水溶液に、前記セルロース含有物を、0.1〜60分の時間範囲で接触させることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロースの糖化方法。
【請求項4】
前記セルロース含有物が、綿を含有する繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースの糖化方法。
【請求項5】
前記アルカリ処理の前に、前記セルロース含有物と過酸化水素水溶液とを接触させる過酸化水素処理を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースの糖化方法。
【請求項6】
前記綿を含有する繊維の長さが1mm以上1m以下であることを特徴とする請求項4に記載のセルロースの糖化方法。
【請求項7】
前記アルカリ処理におけるアルカリ水溶液中のイオン濃度の変化を測定し、該イオン濃度が一定になるまで、該アルカリ処理を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースの糖化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−175968(P2012−175968A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−285984(P2011−285984)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(592134583)愛媛県 (53)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(508194892)日本環境設計株式会社 (10)
【Fターム(参考)】