説明

セルロースを溶解する方法、及びセルロース粒子を生産する方法

本発明は、例えばフィルム、繊維、粒子等のような再生セルロース製品の生産のためにセルロースを溶解する方法に関する。上記方法では、セルロース材料が、酵素処理、続く塩基処理を使用して溶解される。本発明はまた、セルロース粒子を生産する方法に関し、上述するように溶解されたセルロースが、セルロース粒子を沈降させるための再生溶液に噴霧又は混合される。さらに、本発明は、紙及びボール紙におけるフィラー及び/又はコーティング顔料としての、上記の方法で製造されるセルロース粒子の使用に関する。本発明はまた、紙及びボール紙を生産する方法並びに紙及びボール紙をコーティングする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば再生セルロース製品の生産のために、セルロースを溶解する方法に関する。本発明はまた、セルロース粒子を生産する方法に関する。さらに、本発明は、紙及びボール紙におけるフィラー並びに/又はコーティング顔料としての本発明の方法で生産される当該セルロース粒子の使用に関する。本発明はまた、紙及びボール紙を生産する方法並びに紙及びボール紙をコーティングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶解されたセルロースから固体セルロース製品を生産する種々な方法が知られている。最も有名な方法の1つは、ビスコース法であり、この方法においては、溶解されるべきセルロース材料をNaOHと接触させて、アルカリセルロースを生じる。その後、当該アルカリセルロースは、そこに二硫化炭素を添加することにより硫黄含有化合物で処理されて、NaOH中で可溶性のセルロースキサントゲン酸塩、即ちビスコースを与える。空気及び固形不純物は通常、濾過によりビスコースから除去される。再生は、当該ビスコースを、例えば適切なノズルを通して、酸性紡糸浴へ通してセルロースを沈降させることにより実施される。このようにして得られるセルロース製品は、最終的に洗浄、乾燥及び切断される。
【0003】
セルロース製品を生産する別の既知のプロセスでは、銅アンモニアが、例えばレーヨンを生産するのに利用される。このプロセスでは、セルロース出発材料は、銅アンモニアの水溶液中に溶解されて、セルロースを再生させる浴に溶液を通すことにより所望の製品へ変換される。
【0004】
セルロースはまた、塩化リチウムを含有する溶媒、例えば塩化リチウム/N,N−ジメチルアセトアミド溶液中に溶解され得る。この場合、セルロースの再生は、例えばアルコール又は水性アルコール中で実施される。
【0005】
さらに別の既知のプロセスでは、セルロースは、有機溶媒中、通常第3N−オキシド中に溶解されて、続いてこの溶液からセルロース製品の形成を行い、溶媒を洗い流す。特に、リオセル繊維はこの方法により生産される。
【0006】
幾つかの工程を伴う複雑なプロセスが、上述の方法では必要であり、上記プロセスは、制御するのが困難であり、高価であり、且つ/又はヒト及び環境にとって非常に有害な化学物質を必要としている。これらの問題を取り除くための努力において、酵素処理を使用する方法が開発されている。
【0007】
FI 107335号は、アルカリ金属水酸化物水溶液中で可溶性のセルロースを生産する方法、さらにセルロースから繊維、フィルム又は他の製品を生産する方法について記載している。セルロースパルプを、セルラーゼ酵素の混合物で処理した後、アルカリ金属水酸化物水溶液、特に5〜15重量%の範囲の濃度を有する水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液中に、−10〜+10℃に及ぶ温度で溶解させる。空気をセルロース溶液から除去して、続いて当該溶液の任意的な濾過後に、再生浴中でセルロース製品を形成させる。
【0008】
特許出願第WO01/96402号は、セルロース繊維、フィルム及び他のセルロース系製品を生産する方法について記載している。この方法では、セルロースを、水中、少なくとも2.5のpHを有する緩衝液中、及び/又は酵素水溶液中に懸濁させて、続いて該セルロースの機械的及び/又は酵素的前処理を行う。任意の過剰な溶液の除去後、セルラーゼ型の酵素の水溶液を使用した酵素処理を実施して、過剰な酵素溶液を除去した後、60℃を上回る温度を有する水による洗浄により酵素の不活性化を行う。このようにして得られたセルロースを、強く攪拌しながらアルカリ金属水酸化物水溶液中に、少なくとも0℃の温度で溶解させて、溶解の最後には5〜12℃の値に温度を上昇させる。セルロース溶液を濾過して、空気を排除した後、再生浴中でセルロース製品を形成させる。
【0009】
酵素処理を使用した既知の方法の欠点としては、例えば、酵素処理したセルロースの低溶解度、及び溶解中に非常に低い温度を要するセルロース溶液の不安定性が挙げられる。さらに、これらの複雑な前処理手順、酵素溶液の別個の排除及び失活を実施するのにさらなるプロセス工程が必要であり、該さらなるプロセス工程によりさらに、プロセスの複雑性及びコストが増して、プロセスを制御する能力を低減させる。
【0010】
上記教示に基づいて、例えばフィルム、繊維、粒子等のような再生セルロース製品を生産するためにセルロースを溶解させる簡素で且つ効率的で環境にやさしい方法が必要とされることが理解される。
【0011】
軽くて且つ有機系のセルロース粒子が、本発明のセルロースを溶解する方法により生産される。かかるセルロース粒子は、紙及びボール紙の生産におけるフィラー並びにコーティング顔料として使用され得る。
【0012】
しばしばスコットボンド値と言われる光学特性及び結合強度は、印刷紙の最も重要な特性の一部である。一般に紙及びボール紙に関して、特にグラフィック紙に関して、光学特性に全く悪影響を及ぼすこと無しに強度特性を改善する必要がある。
【0013】
るエネルギー生産のための無機鉱物顔料を含む古紙の燃焼が、大量の灰を生じ、その処分が問題を引き起こす。欧州連合内では、2010年までに達成すべき総エネルギー生産に占めるバイオエネルギーの割合についての目標が設定されている。これらの目標のために、可能な限り多くの再生可能な有機材料を紙及びボール紙に使用することが望ましい。
【0014】
無機鉱物顔料は研磨剤であり、装置の磨耗を促進する。これらはまた、紙及びボール紙の重量を増大させる。高品質の印刷特性を有する雑誌及びカタログ等用のより軽い紙に対する必要性がより一層増している。
【0015】
上記の教示から分かるように、光学特性に対して全く悪影響なくそれらの強度特性の改善を可能にし、さらに、再生可能で可燃性の有機材料の割合の増大及び装置の磨耗の低減を可能にする紙及びボール紙用のより軽いフィラー及びコーティング顔料に対する要求がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、例えば、セルロースを溶解し、再生され得るフィルム、繊維、粒子等のようなセルロース製品を生産する方法を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、セルロース粒子を生産する方法を提供することである。
【0018】
さらに、本発明の目的は、紙及びボール紙におけるフィラーとしての、及びさらに紙及びボール紙を生産するためのコーティング顔料としてのセルロース粒子の使用である。
【0019】
さらに、本発明の別の目的は、紙及びボール紙を生産する方法を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、紙及びボール紙をコーティングする方法を提供することである。
【0021】
本発明のセルロースを溶解する方法及びセルロース粒子を生産する方法、該セルロース粒子の使用、並びに紙及びボール紙のコーティング方法及び生産方法の特徴は、特許請求の範囲で提示される。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、セルロースを溶解し、簡素で、効率的で且つ環境にやさしい様式で、例えばフィルム、繊維、粒子等のような再生セルロース製品を生産する方法に関する。本発明の方法では、所望により粉砕されたセルロースを、酵素処理、続く塩基処理により溶解する。
【0023】
本発明はまた、紙及びボール紙の生産及びコーティングに有用なセルロー粒子を生産する方法に関する。セルロース粒子を生産するための本発明の方法では、セルロースは、上記の酵素処理及び塩基処理を含む上述の方法により溶解された後、セルロース粒子の沈降用の再生溶液に、得られたセルロース溶液を噴霧又は混合させる。
【0024】
本発明の方法で生産されるセルロース粒子は、光学特性に何の有害な影響も伴わずに製品の強度特性を改善させるために紙及びボール紙のフィラーとして使用することができる。本発明の方法により生産されるセルロース粒子はさらに、紙及びボール紙のコーティング顔料として使用することができる。
【0025】
ここで、本発明を、添付の図面、詳細な説明及び実施例により説明するが、本発明をそれらに限定することを意図するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
驚くべきことに、従来技術の溶液が直面する問題は、本発明の方法により回避されるか、又は少なくとも実質的に低減されることを見出した。本発明は、セルロースが、酵素処理及び続く塩基処理により簡素で且つ効率的な方法で溶解されるという知見に基づく。セルロースを溶解するための本発明の方法は、例えばフィルム、繊維、粒子等のような再生セルロース製品の生産のために使用される。
【0027】
本発明の方法では、水性懸濁液は、溶解されるべきセルロース材料から調製され、上記懸濁液中のセルロース含有量は、少なくとも0.1重量%である。水性懸濁液の調製前に、溶解されるべきセルロース材料は、溶解の効率を増大させるために機械的に粉砕されてもよい。溶解されるべきセルロース材料は、例えば漂白軟木パルプ、農業又は林業からのセルロース廃棄物等であってもよい。懸濁液のpH値は、続く酵素処理における酵素の活性に最適な範囲に調節され、上記pHは、3〜7、好ましくは4〜6の範囲に及ぶ。pH値は、希NaOH溶液及び希HCl溶液で調節され得る。その後、酵素は、所望により混合しながら懸濁液に添加されるが、この場合、該上記酵素とは、適切な酵素活性を有する酵素混合物を意味する。適切な酵素は主に、エンドグルカナーゼ活性、即ちセルラーゼを含む。酵素混合物が過剰量のエキソグルカナーゼ活性を有する場合、セルロースは、あまりに小さすぎる分子量に起因して、もはや再生され得ない単位を付与するように溶解される。本発明の方法で有用な例示的な酵素として、製品Pergalase A40を挙げることができ、その活性のための最適pHは5である。エンドグルカナーゼ活性を有する酵素は、20〜2000×10IU/kg(乾燥パルプ)、好ましくは100〜600×10IU/kg(乾燥パルプ)の範囲のエンドグルカナーゼ活性をもたらす量で添加される。このようにして得られる酵素を含有する懸濁液は、酵素が活性である温度(上記温度は、約40〜65℃、好ましくは45〜60℃に及ぶ)で1〜10時間、或いはセルロースの重合度が100の値以下に低減されるまで加熱される。ここで、重合度とは、ポリマー中のモノマー単位の数をいう。セルロースの重合度を測定するためには、セルロースは通常溶液状である。セルロースの平均重合度は、例えば浸透圧法により或いは還元末端基の確定によりアッセイされ得る。酵素処理の後、塩基処理を用いてセルロースを溶解し続ける。このために、アルカリ又はアルカリ土類金属水酸化物を、所望により混合しながら、15重量%よりも多い量で、好ましくは15.5〜30重量%、より好ましくは15.5〜20重量%の量で酵素的に処理した懸濁液に添加した後、1〜10時間、15〜50℃、好ましくは20〜45℃の範囲の温度で、または上記セルロースの少なくとも50%が溶解されるまで加熱する。溶解は、溶液の濾過、並びに沈降物の洗浄、乾燥及び秤量を含む方法により確定することができる。アルカリ又はアルカリ土類金属水酸化物は、好ましくはNaOHである。空気は、セルロースを溶解した後に排除され得る。また、固形分は、例えば濾過により排除され得る。
【0028】
したがって、セルロースを溶解するための本発明の方法では、水性懸濁液は、溶解されるべきセルロース材料から調製され、懸濁液のセルロース含有量は、少なくとも0.1重量%のセルロース含有量であり、懸濁液のpH値は、3〜7、好ましくは4〜6の範囲に調節され、エンドグルカナーゼ活性を有する酵素は、20〜2000×10IU/kg(乾燥パルプ)、好ましくは100〜600×10IU/kg(乾燥パルプ)のエンドグルカナーゼ活性をもたらす量で懸濁液に添加され、その後酵素を含有する懸濁液は、セルロースの重合度が100の値以下に低減されるまで、40〜65℃、好ましくは45〜60℃に及ぶ温度に加熱され、続いて15重量%よりも多い量でアルカリ又はアルカリ土類金属水酸化物を添加した後、上記セルロースの少なくとも50%が溶解されるまで、15〜50℃、好ましくは20〜45℃に及ぶ温度に加熱する。
【0029】
セルロースを溶解するための本発明の方法では、上記セルロースを、酵素及び塩基による処理を使用して上述するように溶解した後、このようにして得られたセルロース溶液を再生溶液に通してセルロース粒子を沈降させる。溶解されたセルロースの再生がセルロース粒子を与える最も簡素な方法は、再生溶液にセルロース溶液を噴霧又は混合することによるものである。再生が混合によって、例えばビュレットを使用してセルロース溶液を徐々に添加することによって実施される場合、再生溶液は、例えば600〜1000rpmにて磁気攪拌機で効率的に混合されなくてはならない。再生が噴霧により実施される場合、無段様式で調節され得る扇状ノズルを備えた噴霧器等を使用することができる。ノズルの拡散角度は、例えば10°〜150°の範囲から選択される。ファクターの中でもとりわけ、適切な拡散角度は、ノズルと再生溶液との間の距離に依存する。噴霧距離が大きいほど、より小さな拡散角度を使用することができる。再生溶液への噴霧が、20〜30cmの範囲の距離で実施される場合、適切な拡散角度は、20°と60°との間で変化する。再生溶液は、好ましくは酸、より好ましくは希硫酸溶液(例えば、1M硫酸溶液)である。さらなる代替物には、HClのような他の強酸があり、さらにHClO、HI、HBr及びHNOが考えられる。形成される粒子は、コーティングのような所望の後処理のために再生溶液中に残されてもよいが、粒子はまた、洗浄及び/又は乾燥のために回収されてもよい。
【0030】
したがって、セルロース粒子を生産するための本発明の方法では、セルロースを、上述するように溶解し、続いてこのようにして得られたセルロース溶液を再生溶液へ噴霧又は混合して上記セルロース粒子を沈降させる。
【0031】
紙及びボール紙の生産並びにコーティングにおいて、有用なセルロース粒子の粒子サイズは通常、0.05μmと10μmとの間で変化することができる。フィラーとして使用されるセルロース粒子の粒子サイズは好ましくは、1〜2μmの範囲である。コーティング顔料として使用されるセルロース粒子の粒子サイズは好ましくは、0.2〜1μmの範囲である。沈降されるセルロース粒子の粒子サイズは、適切な様式で生産プロセスにおけるパラメータを選択することにより所望の範囲に調節され、該上記パラメータには、セルロース含有量、及びセルロース溶液が再生溶液に噴霧される場合にはセルロース溶液の液滴サイズ又はセルロース溶液が再生溶液に混合される場合には混合速度がある。次に、セルロース溶液のセルロース含有量は、例えば0.05〜1.5重量%であるように選択される。したがって、本発明のセルロース粒子の生産方法の実施形態によれば、セルロース溶液のセルロース含有量、及び噴霧が使用される場合には液滴サイズ又は混合が使用される場合には混合速度が、0.05〜10μmの粒子サイズを有する沈降粒子を生産するように選択される。
【0032】
本発明の方法を使用して生産されるセルロース粒子の用途によれば、セルロース粒子がある特殊な特性を有することが好ましい場合がある。例えば、セルロース粒子の構造の剛性は、例えば紙及びボール紙の生産における使用に好適である。該剛性は、例えばセルロース粒子を乾燥させることにより改善され得る。したがって、セルロース粒子の本発明の生産方法の実施形態によれば、再生されたセルロース粒子は、洗浄及び/又は乾燥される。剛性はまた、上記セルロースが溶解されると同時に行う塩基処理に続いて又はセルロース粒子を生産する再生後に限り、任意の既知の方法を使用して、セルロースをその変換により変性して誘導体を与えることにより改善され得る。セルロースは、例えば酸無水物を使用してアセチル化されてもよい。したがって、セルロース粒子の本発明の生産方法の実施形態によれば、セルロースは、その沈降前又は沈降後に誘導体に変換される。
【0033】
剛性はまた、セルロース粒子を架橋させることにより改善される。さらなる別の実施形態によれば、セルロース粒子は、グルコース単位1モル当たり約5モルのホルムアルデヒドを、セルロース粒子を含有する酸性懸濁液に室温で添加することにより架橋が付与され、上記懸濁液は、40〜60℃に加熱されて、該セルロース粒子は回収される。使用されるホルムアルデヒドは、例えば10〜15%のメタノールを含有する濃度が37%のホルムアルデヒドである。加熱時間は、30分と90分との間で変化することができる。次に、セルロース粒子を含有する懸濁液の酸性度は、約0.1M強酸、例えば硫酸である。
【0034】
また、セルロース粒子の多孔性は、幾つかの用途に好適でありる。多孔性は、例えば空気及び固形分の除去後に、溶解されたセルロースに、再生条件下で可溶性の物質を添加することにより提供され得る。酸が再生に使用されるため、再生条件下で可溶性の物質としては、例えばデンプン並びにアルカリ及びアルカリ土類金属塩(例えば、水酸化物)が挙げられる。最も好ましくは、水酸化マグネシウムが、溶解されたセルロースに添加される。セルロース粒子が再生される場合、これらの物質は、溶解して、粒子の構造中に穴及び空隙を残し、したがって比表面積を増大させる。したがって、セルロース粒子を生産するための方法のさらなる別の実施形態では、再生条件下で可溶性の物質、好ましくはデンプン又はアルカリ若しくはアルカリ土類金属塩、より好ましくは水酸化マグネシウムが、溶解されたセルロースに添加される。
【0035】
セルロースを溶解するための本発明の方法は、例えば製紙産業、食品産業、繊維産業及び医薬品産業用のセルロース製品を生産するのに使用される。したがって、本発明の方法は、紙及びボール紙用のフィラーとして適切なセルロース粒子を生産するのに、さらに紙及びボール紙用のコーティング顔料として適切なセルロース粒子を生産するのに使用される。また、食品包装用途の再生セルロースの種々な管状フィルム及び平坦状フィルムの生産のために本発明の方法を使用することが可能である。本発明の方法のさらなる別の用途は、例えば繊維産業用の繊維の生産である。本発明の方法の他の考え得る用途の例としては、各種セルロース粉末のような食品添加物の生産、及び医薬品産業用の粒子及びフィルムの生産が挙げられる。
【0036】
本発明の方法は、従来技術の方法と比較して幾つかの利点を有する。この方法は簡素であり、低い処理温度が回避することができ、ヒト又は環境にとって有害な化学物質が必要でない。この方法により溶解される重合度は、再生セルロース製品の生産におけるこの方法の使用に適している。
【0037】
本発明の方法で生産されたセルロース粒子は、紙及びボール紙用のフィラーとして使用され得る。フィラーとして使用されるセルロース粒子の粒子サイズは好ましくは、1〜2μmの範囲である。本発明の方法で生産されたセルロース粒子は、良質紙及び機械パルプ含有紙(例としては、LWC、ULWC、MWC及びSCが挙げられる)の両方に適切なフィラーである。
【0038】
本発明の方法で生産されたセルロース粒子はまた、機械パルプ含有紙、例えばLWC印刷紙用のコーティング顔料として、並びにさらにボール紙、例えばFBBボール紙用のコーティング顔料として使用され得る。コーティング顔料として使用されるべきセルロース粒子の粒子サイズは好ましくは、0.2〜1μmである。
【0039】
紙又はボール紙を作製するための本発明のプロセスでは、セルロース粒子は、プレスセクションに先立ってシステムの適切な点で、好ましくは短い循環で、及び特に好ましくはヘッドボックスに近接して、例えば混合ポンプの吸い込み側で、又はヘッドボックスの供給ポンプに近接して、紙又はボール紙におけるフィラー含有量をもたらす量、即ち1〜50重量%に及ぶセルロース粒子の量で、紙又はボール紙生産中にパルプに添加され、続いて従来の様式で紙又はボール紙を生産する。
【0040】
紙をコーティングするための本発明のプロセスでは、セルロース粒子は、上記懸濁液を、そのままで又はコーティング顔料で使用される既知のバインダー、例えばデンプン若しくはラテックス、増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロース)又は他の添加剤との混合物として、通常80〜95重量%に及ぶコーティングペーストにおけるセルロース粒子の含有量をもたらす量で、使用して施与される。紙又はボール紙ウェブ上の塗布は、任意の公知のコーティングプロセスにより達成され得る。
【0041】
本発明の方法で生産されたセルロース粒子は、従来技術のフィラー及びコーティング顔料と比較して幾つかの利点を有する。紙及びボール紙の重要な特性、特に強度特性(例えば、結合強度及び引っ張り強度指数)は、光学特性に対する悪影響をあまり伴わずにセルロース粒子により有利な影響を受ける。さらに、本発明の方法で生産された上記セルロース粒子を使用することにより、紙及びボール紙の坪量は低減され、また機械の磨耗は減少される。
【0042】
セルロース粒子を利用して、紙及びボール紙を生産するため及びコーティングするための本発明の方法を用いて、紙及びボール紙中の再生可能な有機材料の比率を増大することができ、したがって、燃焼による再利用システムから除去される紙及びボール紙の利用を改善することができる。欧州連合内で、埋め立て地への堆肥とされる可能性がある材料の廃棄は将来禁止され、したがって燃焼は、廃棄物処理にとって重要な代替手段の1つである。
【実施例1】
【0043】
溶解されたセルロースからのセルロース粒子の調製
漂白軟木パルプをバレービーター(Valley beater)中で1時間粉砕した。400gのサンプルを取り出して(稠度13.08g/l)、pHは、希NaOH溶液及び希HCl溶液を使用して値5に調節した。活性2316IU/g及び比重1.11g/mlを有するPergalase A40酵素1mlを、このようにして得たサンプルに添加した。サンプルを水浴中で50℃にて6時間加熱した。その後、塩基処理を行い(上記塩基処理は、サンプルへの水70g中に溶解させたNaOH 100gの添加を含む)、続いてサンプルを45℃で6時間加熱した。約0.8重量%のセルロースを含有する溶液を、大きなビーカー中で1M硫酸1リットルに噴霧器で噴霧した。噴霧器は、無段様式で調節され得る拡散角度を有する扇状ノズルを備えていた。ここではノズルの拡散角度は約60℃であり、ノズルと硫酸溶液との間の距離は、20〜30cmであった。沈降セルロース粒子は、濾過により硫酸溶液から回収して、洗浄した。酵素及び塩基処理により溶解されたセルロースからこのようにして調製され、且つ紙及びボール紙の生産におけるフィラー並びにコーティング顔料として有用な粒子を図1に示す。
【実施例2】
【0044】
ホルムアルデヒド処理によるセルロース粒子の構造の剛化
セルロース粒子は、先述の実施例に記載するように調製した。しかしながら、粒子は、濾過及び洗浄せず、再生溶液中に残して、続いて懸濁液のHSO含有量を0.1Mの値に調節した。10〜15%のメタノールを含有する37%ホルムアルデヒド(グルコース単位1モル当たり5モルのホルムアルデヒド)をセルロース粒子の懸濁液に室温で滴下して、スラリーを50℃で60分間加熱して、セルロース粒子を濾過により回収した。
【実施例3】
【0045】
ホルムアルデヒドで処理したセルロースの紙中のフィラーとしての使用
漂白樺材パルプ70%及び漂白軟木パルプ30%からn構成さあるパルプからシートを作製した。該シートは、先述の実施例で記載するように生産され、且つホルムアルデヒドで処理され、1.5〜8μmのサイズを有するセルロース粒子をフィラーとして含有していた。フィラーを含まないシート及びフィラーとして微結晶性セルロース又は沈降炭酸カルシウムを含有するシートを、それぞれ対照とした。60g/mの秤量を有するシートを、規格SCAN−C26:76に従って作製した。フィラー含有量は、約6重量%及び14重量%であった。シートに関する光散乱係数、スコットボンド値としての結合強度及び引っ張り指数は、SCAN−P8:93、TAPPI T569及びSCAN−P67:93に従う方法を用いて測定した。
【0046】
図2a、図2b、図2c及び図2bはそれぞれ、フィラー含有量の関数としての引っ張り指数、フィラー含有量の関数としての結合強度、結合強度の関数としての光散乱係数、及び引っ張り指数の関数としての光散乱係数をグラフで提示する。図2a及び図2bから理解され得るように、シートの強度特性は、沈降炭酸カルシウム及び微結晶性セルロースと比較して、本発明の方法により生産され且つホルムアルデヒド処理により剛化されたセルロース粒子を使用して改善され得る。図2c及び図2dは、シートの強度特性が、光学特性に対してほとんど悪影響なく、本発明の方法により生産され且つホルムアルデヒド処理により剛化されたセルロース粒子を使用することにより改善されることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1に従って本発明の方法を用いて生産されるセルロース粒子の電子顕微鏡写真(倍率5000倍)を示す図である。
【図2a】本発明の方法を用いて生産され、且つ実施例2のホルムアルデヒド処理により剛化されるセルロース粒子約6重量%〜14重量%を含有する実施例3のシート(架橋されたAlkBead6)の特性を示すグラフである。図2aは、フィラー含有量の関数としての引っ張り指数を提示する。参照セルロース粒子(ViscBead4)、微結晶性セルロース(MCC1及びMCC2)及び沈降炭酸カルシウム(PCC)の約6重量%〜14重量%を含有するシート、並びに対照としてのフィラーを含まないシート。対照セルロース粒子は、実施例1におけるセルロース粒子として、しかし、ビスコースプロセスにより溶解されたセルロースを使用して製造される。
【図2b】本発明の方法を用いて生産され、且つ実施例2のホルムアルデヒド処理により剛化されるセルロース粒子約6重量%〜14重量%を含有する実施例3のシート(架橋されたAlkBead6)の特性を示すグラフである。図2bは、フィラー含有量の関数としての結合強度を提示する。参照セルロース粒子(ViscBead4)、微結晶性セルロース(MCC1及びMCC2)及び沈降炭酸カルシウム(PCC)の約6重量%〜14重量%を含有するシート、並びに対照としてのフィラーを含まないシート。対照セルロース粒子は、実施例1におけるセルロース粒子として、しかし、ビスコースプロセスにより溶解されたセルロースを使用して製造される。
【図2c】本発明の方法を用いて生産され、且つ実施例2のホルムアルデヒド処理により剛化されるセルロース粒子約6重量%〜14重量%を含有する実施例3のシート(架橋されたAlkBead6)の特性を示すグラフである。図2cは、結合強度の関数としての光散乱係数を提示する。参照セルロース粒子(ViscBead4)、微結晶性セルロース(MCC1及びMCC2)及び沈降炭酸カルシウム(PCC)の約6重量%〜14重量%を含有するシート、並びに対照としてのフィラーを含まないシート。対照セルロース粒子は、実施例1におけるセルロース粒子として、しかし、ビスコースプロセスにより溶解されたセルロースを使用して製造される。
【図2d】本発明の方法を用いて生産され、且つ実施例2のホルムアルデヒド処理により剛化されるセルロース粒子約6重量%〜14重量%を含有する実施例3のシート(架橋されたAlkBead6)の特性を示すグラフである。図2dは、引っ張り指数の関数としての光散乱係数を提示する。参照セルロース粒子(ViscBead4)、微結晶性セルロース(MCC1及びMCC2)及び沈降炭酸カルシウム(PCC)の約6重量%〜14重量%を含有するシート、並びに対照としてのフィラーを含まないシート。対照セルロース粒子は、実施例1におけるセルロース粒子として、しかし、ビスコースプロセスにより溶解されたセルロースを使用して製造される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを溶解する方法であって、水性懸濁液が、溶解されるべきセルロース材料から調製され、該懸濁液は、少なくとも0.1重量%のセルロース含有量を有し、該懸濁液のpH値は、3〜7、好ましくは4〜6の範囲に調節され、エンドグルカナーゼ活性を有する酵素が、20〜2000×10IU/kg(乾燥パルプ)、好ましくは100〜600×10IU/kg(乾燥パルプ)のエンドグルカナーゼ活性をもたらす量で該懸濁液に添加され、該酵素を含有する該懸濁液は、該セルロースの重合度が100以下の値へ低減されるまで、40と65℃との間の、好ましくは45と60℃との間の温度に加熱され、続いて15重量%よりも多い量でアルカリ又はアルカリ土類金属水酸化物を添加した後、該セルロースの少なくとも50%が溶解されるまで、15と50℃との間の、好ましくは20と45℃との間の温度に加熱することを特徴とする、セルロースを溶解する方法。
【請求項2】
溶解されるべき前記セルロースが、前記水性懸濁液の調製前に粉砕されることを特徴とする、請求項1に記載のセルロースを溶解する方法。
【請求項3】
NaOHが、15.5〜30重量%の範囲の量で、前記酵素で処理された前記懸濁液に添加されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のセルロースを溶解する方法。
【請求項4】
空気及び固形物が、前記溶解されたセルロースから除去されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロースを溶解する方法。
【請求項5】
セルロース粒子を生産する方法であって、セルロースを、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により溶解した後、得られたセルロース溶液を前記セルロース粒子の沈降用の再生溶液に噴霧又は混合することを特徴とする、セルロース粒子を生産する方法。
【請求項6】
前記セルロース溶液のセルロース含有量及び噴霧の場合には液滴サイズ又は混合の場合には混合速度が、0.05〜10μmの範囲の粒子サイズを有する沈降粒子を生産するように選択されることを特徴とする、請求項5に記載のセルロース粒子を生産する方法。
【請求項7】
前記沈降セルロース粒子が、洗浄及び/又は乾燥されることを特徴とする、請求項5又は6に記載のセルロース粒子を生産する方法。
【請求項8】
前記セルロースが、前記セルロース粒子の沈降前又は後に誘導体化されることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載のセルロース粒子を生産する方法。
【請求項9】
グルコース単位1モル当たり5モルのホルムアルデヒドが、前記セルロース粒子を含有する酸性懸濁液に添加され、該懸濁液が40〜60℃に加熱されて、該セルロース粒子が回収されることを特徴とする、請求項5〜8のいずれか1項に記載のセルロース粒子を生産する方法。
【請求項10】
再生条件下で可溶性の物質、好ましくはデンプン若しくはアルカリ又はアルカリ土類金属塩、より好ましくは水酸化マグネシウムが、溶解されたセルロースに添加されることを特徴とする、請求項5〜9のいずれか1項に記載のセルロース粒子を生産する方法。
【請求項11】
紙又はボール紙のフィラーとしての請求項5〜10のいずれか1項に記載の方法により生産されたセルロース粒子の使用。
【請求項12】
紙又はボール紙のコーティング顔料としての請求項5〜10のいずれか1項に記載の方法により生産されたセルロース粒子の使用。
【請求項13】
紙又はボール紙を生産する方法であって、請求項5〜10のいずれか1項に記載の方法により生産されたセルロース粒子をパルプに添加し、続いて従来の様式で紙を生産することを特徴とする、紙又はボール紙を生産する方法。
【請求項14】
紙又はボール紙をコーティングする方法であって、請求項5〜10のいずれか1項に記載の方法により生産されたセルロース粒子が、懸濁液として又はコーティング補助剤との混合物として、既知の方法を使用して紙又はボール紙ウェブ上に塗布されることを特徴とする、紙又はボール紙をコーティングする方法。

【図1】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate

【図2c】
image rotate

【図2d】
image rotate


【公表番号】特表2009−500463(P2009−500463A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518885(P2008−518885)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【国際出願番号】PCT/FI2006/050286
【国際公開番号】WO2007/003699
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(504161906)
【Fターム(参考)】