説明

セルロースアシレートフィルム、これを用いた偏光板および液晶表示装置

【課題】光弾性係数が十分に低く、セルロースアシレートフィルムに用いる添加剤として芳香族系のポリマーを適用することができ、しかも含水率を低く抑え、かつ高い弾性率を示すセルロースアシレートフィルムを提供する。
【解決手段】セルロースアシレートと、下記一般式で表される繰り返し単位を有するトリプチセンポリマーとを含有するセルロースアシレートフィルム。


(上記一般式において、AおよびBは二価の連結基である。R〜Rはそれぞれ独立に特定の置換基等を表す。nは1あるいは2である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートフィルム、これを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な液晶表示装置は液晶層を介在させて配置した2枚の偏光板を具備する。この2枚の偏光板は、その光の偏光方向が直交するように並べられており、電圧の印加による液晶配向の変化に応じて、バックライトから発せられる光のON/OFF(透過・遮断)を制御する機構となっている。かかる偏光板として、ポリビニルアルコール(PVA)とヨウ素を用いた偏光子をセルロースアシレートフィルム等の偏光板保護フィルムで挟みこんだ構成のものが広く使用されている。特にセルロースアシレートフィルムは、透明性に優れており、ヘイズも小さいために偏光板保護フィルムとして好ましく用いられている。
【0003】
一方、近年、TV用途を中心に液晶表示装置の大型化・高画質化・低価格化が進み、これに対応する技術開発が益々求められている。そして今後は電子看板用途等を中心に室外での使用頻度が増加することが予想される。従来よりもさらに過酷な環境下での使用にも耐え、しかも高画質を実現しうる液晶表示装置の開発が求められている。上記のニーズに鑑みるとき、偏光板は高温高湿環境下で使用した際に表示ムラが発生しやすく、この部材に改良を施すことが特に効果的である。この表示ムラは高温高湿下で偏光子が収縮することに起因する応力が偏光板保護フィルムに伝わり、偏光板を固定する額縁付近で偏光板保護フィルムの位相差が変化することが原因であると考えられている。
【0004】
これに対して、幅手方向の位相差ムラ及び額縁ムラを抑えるために、N−ビニル−2−ピロリドンをメチルメタクリレートと共重合した高分子化合物をセルロースエステルフィルムに添加することが提案された(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−126899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、昨今液晶表示装置の製品開発が一層加速し、さらなる大型化及びアプリケーションの多様化が図られていく現状を勘案すると、上記特許文献1で開示されたものだけではいまだ十分に満足できるとは言いがたい。また本発明者の研究を通じ、素材の多様化を図るとき、セルロースアシレートに添加するポリマーとして芳香族系のものを用いると良好な光弾性係数を確保できず、バリエーションの豊富化が難しいことが分かってきた。そこで、本発明は光弾性係数が十分に低く、セルロースアシレートフィルムに用いる添加剤として芳香族系のポリマーを適用することができ、しかも含水率を低く抑え、かつ高い弾性率を示すセルロースアシレートフィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は以下の手段により解決された。
(1)セルロースアシレートと、下記一般式で表される繰り返し単位を有するトリプチセンポリマーとを含有するセルロースアシレートフィルム。
【化1】

(上記一般式において、AおよびBは二価の連結基である。R〜Rはそれぞれ独立にアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、または水素原子を表す。R〜Rは互いに結合してトリプチセン部位のベンゼン環の炭素原子を共有して脂環構造をとる、あるいはトリプチセン部位のベンゼン環と縮環して多環芳香族構造をとっていてもよい。Rはアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、または水素原子を表す。nは1あるいは2である。Rが2つあるときそれらは互いに異なっていてもよく、2つのRが結合してトリプチセン部位のベンゼン環の炭素原子を共有して脂環構造をとる、あるいはトリプチセン部位のベンゼン環と縮環して多環芳香族構造をとっていてもよい。)
(2)前記一般式(1)において、Aが−O−であり、Bが−O−又は−OC(O)−であることを特徴とする(1)に記載のセルロースアシレートフィルム。
(3)前記置換基R〜Rが水素原子か、炭素数1〜6のアルキル基、又はトリプチセン部位のベンゼン環と縮環してナフタレン構造をとっていることを特徴とする(1)又は(2)に記載のセルロースアシレートフィルム。
(4)前記置換基Rが水素原子であり、R〜Rが水素原子か、炭素数1〜6のアルキル基、又はトリプチセン部位のベンゼン環と縮環してナフタレン構造をとっていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
(5)前記R〜R9が水素原子である(1)〜(4)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
(6)前記トリプチセンポリマーがさらに下記一般式(2)で表される繰り返し単位をさらに有する共重合体である(1)〜(5)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化2】

(上記一般式において、QおよびQはそれぞれ独立して、−O−、−C(O)−、−COO−、あるいは−OC(O)−であり、Qは炭素数2〜15の連結基である。)
(7)前記トリプチセンポリマーが、前記一般式(1)で表される繰り返し単位からなるホモポリマーである(1)〜(6)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
(8)前記トリプチセンポリマーの質量平均分子量が1,000〜60,000である(1)〜(7)のいずれか1項に記載のセルロースフィルム。
(9)前記トリプチセンポリマーの添加量が、前記セルロースアシレート100質量部に対して10〜100質量部であることを特徴とする(1)〜(8)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
(10)前記セルロースアシレートが下記式のアシル置換度を満足することを特徴とするセルロースアセテートであることを特徴とする(1)〜(9)に記載のセルロースアシレートフィルム。
2.0≦B≦3.0(B:アシル基置換度)
(11)前記セルロースアシレートと前記トリプチセンポリマーとを含有するベースフィルムを延伸して得た、前記セルロースアシレートと前記トリプチセンポリマーとが延伸方向に延びる配向性を有することを特徴とする(1)〜(10)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
(12)偏光子の両側に二枚の保護フィルムを有し、該保護フィルムのうち少なくとも一枚が(1)〜(11)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムであることを特徴とする偏光板。
(13)液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなり、そのうち少なくとも一枚が(12)に記載の偏光板であることを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、光弾性係数と含水率が低減されているため、高温・多湿な環境にあってもそれによる光学特性への影響を受けにくい。その結果、当該フィルムを用いた偏光板を液晶表示装置に組み込むことで、表示ムラが発生しにくい液晶表示装置とすることができ、安定かつ良好な画質の画像表示を可能とする。また、本発明のセルロースアシレートフィルムは、フィルムの弾性率が高められているため、応力に対するひずみや光弾性変化水の透過を抑制することができ、その上で上記良好な画像表示を実現することができる。さらに、セルロースアシレートフィルムへの添加剤として芳香族系のポリマーを適用して良好な性能を引き出すことができ、上記弾性率の向上を始め、ニーズに応じた物性調節を可能とする材料の豊富化に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】液晶表示装置の内部構造を模式的に示した分解斜視図である。
【図2】共流延用ダイを用いて同時共流延により3層構造のセルロースアシレートフィルムを流涎するときの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、(a)セルロースアシレートと、(b)下記特定のトリプチセンポリマーとを含有する。特に本発明では、特定のトリプチセン繰り返し単位を主鎖に有するトリプチセンポリマーが重要な役割を担う。つまり、本発明のフィルムを偏光板用保護フィルムとして採用するときに利点となる、光弾性係数の低減並びに含水率及び弾性率の特性向上を同時に高いレベルで達成することができる。この理由は未解明の点を含むが推定を含めて言えば、下記のとおりである。
すなわち、この特定重合体がセルロースアシレートとともにフィルム化され、これが延伸されるとフィルム内部で延伸方向に配向することになる。このポリマー分子の配向は光学的な影響を及ぼす原因となることがあり、それが顕著になると例えば額縁ムラや円形状あるいは楕円状の光ムラなどの偏光板における光学的な不均一性を呈することとなる。「円形状あるいは楕円状の光ムラ」は、以下の場合に起こると考えられている。液晶表示装置の薄型化に伴い、バックライト部材と液晶パネル部材のバックライト側偏光板との接触が起こり易くなっている。バックライト部材とバックライト側偏光板の接触が起こった状態で、液晶表示装置が長期間、または、高温多湿の環境下で使用されると、接触部分で水分が溜まり易い。その水分が偏光子に浸透することにより偏光板の性能が悪化し、この光ムラが発生すると考えられている。また、「額縁ムラ」は、以下のような現象を指す。液晶表示装置の薄型化に伴い、液晶パネルユニットと、バックライトユニットとの距離がより近くなった。バックライトからの熱により光学フィルム等が歪み、液晶表示装置の端部に位相差が発生し、黒表示時に額縁状の光漏れが発生する。
これに対し、本発明のセルロースアシレートフィルムによれば、トリプチセン構造が、ポリマー主鎖と垂直方向に配列することになり、配向方向の光学的な等方性を打ち消す役割を果たすと考えられる。これにより、上述したような光学的なムラの影響を低減することができたと推定される。また、特定重合体はその分子内に水と特に親和性の高い官能基等を有さず、含水率の上昇を抑える効果があったと考えられる。さらに、透過光を遮蔽するような構造部を持たず、透明性も十分に確保されたと考えられる。
以下、本発明についてその好ましい実施形態に基づき、詳細に説明する。
【0011】
[トリプチセンポリマー]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含むトリプチセンポリマーを含有する。
【0012】
【化3】

上記一般式において、AおよびBは二価の連結基である。R〜Rはそれぞれ独立にアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、または水素原子を表す。R〜Rは互いに結合してトリプチセン部位のベンゼン環の炭素原子を共有して脂環構造をとる、あるいはトリプチセン部位のベンゼン環と縮環して多環芳香族構造をとっていてもよい。Rはアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、または水素原子を表す。nは1あるいは2である。Rが2つあるときそれらは互いに異なっていてもよく、2つのRが結合してトリプチセン部位のベンゼン環の炭素原子を共有して脂環構造をとる、あるいはトリプチセン部位のベンゼン環と縮環して多環芳香族構造をとっていてもよい。
【0013】
式中、二価の連結基AおよびBは、エステル基(−OC(O)−)、エーテル基(−O−)が好ましい。Aはエーテル基(−O−)であることがより好ましく、Bはエステル基(−OC(O)−)がより好ましい。
〜Rとして好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、ハロゲン原子、または水素原子である。あるいは、トリプチセン部位のベンゼン環と縮環してナフタレン構造をとっていてもよい。なかでも、炭素数1〜6のアルキル基、又はトリプチセン部位のベンゼン環と縮環してナフタレン構造をとっていることが好ましい。
としては、ハロゲン原子、水素原子であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
上述のとおり、R〜Rの複数あるいはRの複数がトリプチセン部位のベンゼン環とともに多環芳香族構造(好ましくは2または3の環を有する)を構成していてもよい。換言すると、例えば、ポリマー主鎖に組み込まれたベンゼン環(Rが置換しうるベンゼン環)とともにナフタレン構造ないしアントラセン構造を構成していてもよい。このとき、さらにその置換位置に上記R〜Rの任意の置換基を有していてもよい。あるいは、ポリマー主鎖に組み込まれていないベンゼン環(R〜Rが置換しうるベンゼン環)が同様にナフタレン構造ないしアントラセン構造を構成していてもよい。このとき、さらにその置換位置に上記R〜Rの任意の置換基を有していてもよい。
また、R〜Rの複数あるいはRの複数が互いに結合してトリプチセン部位のベンゼン環の炭素原子を共有して脂環構造を構成していてもよい。このときの脂環構造としては、シクロヘキサン構造やシクロペンタン構造、シクロヘキセン構造等が挙げられる。
【0014】
(共重合成分)
下記一般式(2)で表される繰り返し単位をさらに有する共重合体であることが好ましい。
【0015】
【化4】

上記一般式において、QおよびQはそれぞれ独立して単結合、−O−、−C(O)−、−COO−、あるいは−OC(O)−であり、Qは炭素数2〜15の連結基である。Qは炭素数6〜12の連結基であることがより好ましい。また、Qの連結基は、アルキレン基及び/又はアリーレン基であることが好ましい。
上記共重合成分として下記の繰り返し単位を挙げることができる。共重合体であるときに一般式(1)で表される繰り返し単位と共重合成分との重合比は特に限定されないが、質量比で言うと、一般式(1)で表される繰り返し単位が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。上限値は特にないが共重合体であれば100%未満となる。このとき、共重合成分は残りの比率を占める割合で存在すればよく、共重合成分が複数ある場合にはそれらにおいて任意の比で配分されていればよい。
【0016】
【化5】

本発明においては、上記トリプチセンポリマーは一般式(1)で表されるモノマーに由来する繰り返し単位のみからなるホモポリマーであることが特に好ましい。
なお、トリプチセンポリマーの末端基はどのようなものであってもよく、典型的には、ヒドロキシル基、アセチル基、ベンゾイル基、メチル基などである。
【0017】
(質量平均分子量)
上記トリプチセンポリマーの質量平均分子量は1,000〜60,000であることが好ましく、2,000〜40,000であることがより好ましく、3,000〜20,000であることが特に好ましい。上記分子量が前記下限値以上であると光弾性低減という作用が期待でき、上限値以下であると相溶性低減の抑制が期待でき好ましい。
【0018】
分子量及び分散度は特に断らない限りGPC(ゲルろ過クロマトグラフィー)法を用いて測定した値とし、分子量はポリスチレン換算の質量平均分子量とする。GPC法に用いるカラムに充填されているゲルは芳香族化合物を繰り返し単位に持つゲルが好ましく、例えばスチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなるゲルが挙げられる。カラムは2〜6本連結させて用いることが好ましい。用いる溶媒は、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、N−メチルピロリジノン等のアミド系溶媒が挙げられる。測定は、溶媒の流速が0.1〜2mL/minの範囲で行うことが好ましく、0.5〜1.5mL/minの範囲で行うことが最も好ましい。この範囲内で測定を行うことで、装置に負荷がかからず、さらに効率的に測定ができる。測定温度は10〜50℃で行うことが好ましく、20〜40℃で行うことが最も好ましい。なお、使用するカラム及びキャリアは測定対称となる高分子化合物の物性に応じて適宜選定することができる。
【0019】
(添加量)
前記トリプチセンポリマーの添加量は特に限定されないが、セルロースアシレート100質量部に対して、10〜100質量部であることが好ましく、20〜80質量部であることがより好ましく、30〜60質量部であることが特に好ましい。上記分子量が前記下限値以上であると光弾性低減と吸湿抑制という作用が高いレベルで期待でき、上限値以下であると効果的な弾性率の向上が期待でき好ましい。
【0020】
本明細書中、ポリマーとは、モノマーが多数重合した一般的な高分子化合物であるポリマーに加えて、モノマーが例えば数個重合した分子量1000程度の化合物であるオリゴマーも含まれることを意味する。また、ポリマーというときには、特に断らない限り、ホモポリマーに限らず、コポリマーを含む意味である。
本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。さらに、本明細書において***化合物とは、当該化合物そのものに加え、その塩、そのイオン等を含む意味に用いる。典型的には、当該化合物及び/又はその塩を意味する。なお、なお、本明細書において「から」は「〜」と同じ意味で用い、その前後で規定される数値ないし番号を含む意味である。
【0021】
<セルロースアシレート>
次に前記セルロースアシレートについて詳しく説明する。
前記セルロースアシレートフィルムに用いられるセルロースアシレートの原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができる。
【0022】
前記セルロースアシレートフィルムに用いられるセルロースアシレートのアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。前記セルロースアシレートフィルムに用いられるセルロースアシレートは、炭素数2〜4のアシル基を置換基として有することが好ましい。2種類以上のアシル基を用いるときは、そのひとつがアセチル基であることが好ましく、炭素数2〜4のアシル基としてはプロピオニル基またはブチリル基が好ましい。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液が作製でき、特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低くろ過性のよい溶液の作成が可能となる。
【0023】
まず、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートについて詳細に記載する。セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をアシル基によりアシル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位に位置するセルロースの水酸基がアシル化している割合(各位における100%のアシル化は置換度1)の合計を意味する。
【0024】
前記セルロースアシレートの総アシル置換度(B)は、2以上3以下(2.0≦B≦3.0)であることが好ましく、2.0〜2.97であることがより好ましく、2.5以上2.97未満であることがさらに好ましく、2.70〜2.95であることが特に好ましい。
なお上記アシル化がアセチル化であるとき、アセチル置換度として上記値の範囲を評価すればよく、その好ましい範囲は上記と同様である。
【0025】
前記セルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でも芳香族基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、tert−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、tert−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはアセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基(アシル基が炭素原子数2〜4である場合)であり、より特に好ましくはアセチル基(セルロースアシレートが、セルロースアセテートである場合)である。
【0026】
セルロ−スのアシル化において、アシル化剤としては、酸無水物や酸クロライドを用いた場合、反応溶媒である有機溶媒としては、有機酸、例えば、酢酸、メチレンクロライド等が使用される。
【0027】
触媒としては、アシル化剤が酸無水物である場合には、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられ、アシル化剤が酸クロライド(例えば、CH3CH2COCl)である場合には、塩基性化合物が用いられる。
【0028】
最も一般的なセルロ−スの混合脂肪酸エステルの工業的合成方法は、セルロ−スをアセチル基および他のアシル基に対応する脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、吉草酸等)またはそれらの酸無水物を含む混合有機酸成分でアシル化する方法である。
【0029】
前記セルロースアシレートは、例えば、特開平10−45804号公報に記載されている方法により合成できる。
【0030】
前記セルロースアシレートフィルムは、前記樹脂としてセルロースアシレートを5〜99質量%含むことが透湿度の観点から好ましく、20〜99質量%含むことがより好ましく、50〜95質量%含むことが特に好ましい。
【0031】
<その他の添加剤>
前記セルロースアシレートフィルム中には、添加剤として、重縮合ポリマー、レターデーション調整剤(レターデーション発現剤およびレターデーション低減剤);フタル酸エステル、リン酸エステルなどの可塑剤;紫外線吸収剤;酸化防止剤;マット剤などの添加剤を加えることもできる。
【0032】
(重縮合ポリマー)
前記セルロースアシレートフィルムは、重縮合ポリマーを含むことが、ヘイズ低減の観点から好ましい。
【0033】
前記重縮合ポリマーとしては、セルロースアシレートフィルムの添加剤として公知の高分子量添加剤を広く採用することができる。添加剤の含量は、セルロース系樹脂に対して、1〜35質量%であることが好ましく、4〜30質量%であることがより好ましく10〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0034】
前記セルロースアシレートフィルムに重縮合ポリマーとして用いられる高分子量添加剤は、その化合物中に繰り返し単位を有するものであり、数平均分子量が700〜10000のものが好ましい。高分子量添加剤は、溶液流延法において、溶媒の揮発速度を速める機能や、残留溶媒量を低減する機能も有する。さらに、機械的性質向上、柔軟性付与、耐吸水性付与、水分透過率低減等のフィルム改質の観点で、有用な効果を示す。
【0035】
ここで、本発明に用いられる重縮合ポリマーである高分子量添加剤の数平均分子量は、より好ましくは数平均分子量700〜8000であり、さらに好ましくは数平均分子量700〜5000であり、特に好ましくは数平均分子量1000〜5000である。
以下、本発明に用いられる重縮合ポリマーである高分子量添加剤について、その具体例を挙げながら詳細に説明するが、重縮合ポリマーである高分子量添加剤がこれらのものに限定されるわけでないことは言うまでもない。
また、前記重縮合ポリマーは、非リン酸エステル系のエステル系化合物であることが好ましい。但し、前記「非リン酸エステル系のエステル系化合物」は、リン酸エステルを含まず、エステル系である、化合物を意味する。
【0036】
重縮合ポリマーである高分子系添加剤としては、ポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)、ポリエステル系成分と他の成分の共重合体などが挙げられ、脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)とアクリル系ポリマーの共重合体およびポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)とスチレン系ポリマーの共重合体が好ましく、少なくとも共重合成分の1つとして芳香族環を含有するポリエステル化合物であることがより好ましい。
【0037】
前記脂肪族ポリエステル系ポリマーとしては、炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸と、炭素数2〜12の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールから選ばれる少なくとも1種類以上のジオールとの反応によって得られるものであり、かつ反応物の両末端は反応物のままでもよいが、さらにモノカルボン酸類やモノアルコール類またはフェノール類を反応させて、所謂末端の封止を実施してもよい。この末端封止は、特にフリーなカルボン酸類を含有させないために実施されることが、保存性などの点で有効である。本発明のポリエステル系ポリマーに使用されるジカルボン酸は、炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸残基または炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸残基であることが好ましい。
【0038】
(レターデーション低減剤)
本発明ではレターデーション低減剤として、リン酸系であるエステル系の化合物や、セルロースアシレートフィルムの添加剤として公知の非リン酸エステル系の化合物以外の化合物を広く採用することができる。
【0039】
高分子系レターデーション低減剤としては、リン酸系であるポリエステル系ポリマー、スチレン系ポリマーおよびアクリル系ポリマーおよびこれら等の共重合体から選択され、アクリル系ポリマーおよびスチレン系ポリマーが好ましい。また、スチレン系ポリマー、アクリル系ポリマーといった、負の固有複屈折を有するポリマーを少なくとも一種含まれることが好ましい。
【0040】
非リン酸エステル系の化合物以外の化合物である低分子量レターデーション低減剤としては、以下を挙げることができる。これらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば融点が20℃未満と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に劣化防止剤の混合などである。さらにまた、赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報に記載されている。またその添加する時期はセルロースアシレート溶液(ドープ)作製工程において何れで添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。さらにまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。
【0041】
非リン酸エステル系の化合物以外の化合物である低分子量レターデーション低減剤としては、特に限定されないが、詳細は特開2007−272177号公報の[0066]〜[0085]に記載されている。
【0042】
特開2007−272177号公報の[0066]〜[0085]に一般式(1)として記載される化合物は、以下の方法にて作成することができる。
該公報一般式(1)の化合物は、スルホニルクロリド誘導体とアミン誘導体との縮合反応により得ることができる。
【0043】
特開2007−272177号公報一般式(2)に記載の化合物は、縮合剤(例えばジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)など)を用いた、カルボン酸類とアミン類との脱水縮合反応、またはカルボン酸クロリド誘導体とアミン誘導体との置換反応などにより得ることができる。
【0044】
前記レターデーション低減剤は、Rth低減剤であることが好適なNzファクターを実現する観点からより好ましい。前記レターデーション低減剤のうち、Rth低減剤としては、アクリル系ポリマーおよびスチレン系ポリマー、特開2007−272177号公報の一般式(3)〜(7)の低分子化合物などを挙げることができ、その中でもアクリル系ポリマーおよびスチレン系ポリマーが好ましく、アクリル系ポリマーがより好ましい。
【0045】
レターデーション低減剤は、セルロース系樹脂に対し、0.01〜30質量%の割合で添加することが好ましく、0.1〜20質量%の割合で添加することがより好ましく、0.1〜10質量%の割合で添加することが特に好ましい。
上記添加量を30質量%以下とすることにより、セルロース系樹脂との相溶性を向上させることができ、白化を抑制させることができる。2種類以上のレターデーション低減剤を用いる場合、その合計量が、上記範囲内であることが好ましい。
【0046】
(レターデーション発現剤)
前記セルロースアシレートフィルムは、レターデーション値を発現するために、少なくとも1種のレターデーション発現剤を含有することが好ましい。前記レターデーション発現剤としては、特に制限はないが、棒状または円盤状化合物からなるものや、前記非リン酸エステル系の化合物のうちレターデーション発現性を示す化合物を挙げることができる。上記棒状または円盤状化合物としては、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション発現剤として好ましく用いることができる。
棒状化合物からなるレターデーション発現剤の添加量は、セルロースアシレートを含むポリマー成分100質量部に対して0.1〜30質量部であることが好ましく、0.5〜20質量部であることがさらに好ましい。前記レターデーション発現剤中に含まれる円盤状化合物が、前記セルロースアシレート100質量部に対して3質量部未満であることが好ましく、2質量部未満であることがより好ましく、1質量部未満であることが特に好ましい。
円盤状化合物はRthレターデーション発現性において棒状化合物よりも優れているため、特に大きなRthレターデーションを必要とする場合には好ましく使用される。2種類以上のレターデーション発現剤を併用してもよい。
レターデーション発現剤は、250〜400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0047】
レターデーション発現剤の詳細は公開技報2001−1745の49頁に記載されている。
【0048】
(可塑剤)
本発明に用いられる可塑剤としては、セルロースアシレートの可塑剤として知られる多くの化合物も有用に使用することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルフォスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。
【0049】
(酸化防止剤)
本発明においてはセルロースアシレート溶液に公知の酸化防止剤、例えば、2、6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、4、4'−チオビス−(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1、1'−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2、2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2、5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などのフェノール系あるいはヒドロキノン系酸化防止剤を添加することができる。さらに、トリス(4−メトキシ−3、5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2、4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2、6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、ビス(2、4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどのリン系酸化防止剤をすることが好ましい。酸化防止剤の添加量は、セルロース系樹脂100質量部に対して、0.05〜5.0質量部を添加することが好ましい。
【0050】
(紫外線吸収剤)
本発明においてはセルロースアシレート溶液に、偏光板または液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤を加えてもよい。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。ヒンダードフェノール系化合物の例としては、2、6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N、N'−ヘキサメチレンビス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1、3、5−トリメチル−2、4、6−トリス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。ベンゾトリアゾール系化合物の例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2、2−メチレンビス(4−(1、1、3、3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、(2、4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3、5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1、3、5−トリアジン、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N、N'−ヘキサメチレンビス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1、3、5−トリメチル−2、4、6−トリス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2(2'−ヒドロキシ−3'、5'−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、(2(2'−ヒドロキシ−3'、5'−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2、6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕などが挙げられる。これらの紫外線防止剤の添加量は、光学フィルム全体中に質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0051】
(マット剤)
前記セルロースアシレートフィルムは、フィルムすべり性、および安定製造の観点からマット剤を加えてもよい。前記マット剤は、無機化合物のマット剤であっても、有機化合物のマット剤であってもよい。
前記無機化合物のマット剤の好ましい具体例としては、ケイ素を含む無機化合物(例えば、二酸化ケイ素、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなど)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ストロングチウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化スズ・アンチモン、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン及びリン酸カルシウム等が好ましく、更に好ましくはケイ素を含む無機化合物や酸化ジルコニウムであるが、セルロースアシレートフィルムの濁度を低減できるので、二酸化ケイ素が特に好ましく用いられる。前記二酸化ケイ素の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R974、R812、200、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。前記酸化ジルコニウムの微粒子としては、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名で市販されているものが使用できる。
前記有機化合物のマット剤の好ましい具体例としては、例えば、シリコーン樹脂、弗素樹脂及びアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、中でも、シリコーン樹脂が好ましく用いられる。シリコーン樹脂の中でも、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、トスパール105、トスパール108、トスパール120、トスパール145、トスパール3120及びトスパール240(以上東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。
【0052】
これらのマット剤をセルロースアシレート溶液へ添加する場合は、特にその方法に限定されずいずれの方法でも所望のセルロースアシレート溶液を得ることができれば問題ない。例えば、セルロースアシレートと溶媒を混合する段階で添加物を含有させてもよいし、セルロースアシレートと溶媒で混合溶液を作製した後に、添加物を添加してもよい。更にはドープを流延する直前に添加混合してもよく、所謂直前添加方法でありその混合はスクリュー式混練をオンラインで設置して用いられる。具体的には、インラインミキサーのような静的混合機が好ましく、また、インラインミキサーとしては、例えば、スタチックミキサーSWJ(東レ静止型管内混合器Hi−Mixer)(東レエンジニアリング製)のようなものが好ましい。なお、インライン添加に関しては、濃度ムラ、粒子の凝集等をなくすために、特開2003-053752号公報には、セルロースアシレートフィルムの製造方法において、主原料ドープに異なる組成の添加液を混合する添加ノズル先端とインラインミキサーの始端部の距離Lが、主原料配管内径dの5倍以下とする事で、濃度ムラ、マット粒子等の凝集をなくす発明が記載されている。さらに好ましい態様として、主原料ドープと異なる組成の添加液供給ノズルの先端開口部とインラインミキサーの始端部との間の距離(L)が、供給ノズル先端開口部の内径(d)の10倍以下とし、インラインミキサーが、静的無攪拌型管内混合器または動的攪拌型管内混合器であることが記載されている。さらに具体的には、セルロースアシレートフィルム主原料ドープ/インライン添加液の流量比は、10/1〜500/1、好ましくは50/1〜200/1であることが開示されている。さらに、添加剤ブリードアウトが少なく、かつ層間の剥離現象もなく、しかも滑り性が良好で透明性に優れた位相差フィルムを目的とした発明の特開2003-014933号にも、添加剤を添加する方法として、溶解釜中に添加してもよいし、溶解釜〜共流延ダイまでの間で添加剤や添加剤を溶解または分散した溶液を、送液中のドープに添加してもよいが、後者の場合は混合性を高めるため、スタチックミキサー等の混合手段を設けることが好ましいことが記載されている。
【0053】
前記セルロースアシレートフィルムにおいて、前記マット剤は、多量に添加しなければフィルムのヘイズが大きくならず、実際にLCDに使用した場合、コントラストの低下、輝点の発生等の不都合が生じにくい。また、少なすぎなければ上記のキシミ、耐擦傷性を実現することができる。これらの観点から0.05〜1.0質量%の割合で含めることが特に好ましい。
【0054】
<セルロースアシレートフィルムの構成と物性>
(フィルムの層構造)
前記セルロースアシレートフィルムは、単層であっても、2層以上の積層体であってもよい。
前記セルロースアシレートフィルムが2層以上の積層体である場合は、2層構造または3層構造であることがより好ましく、3層構造であることが好ましい。3層構造の場合は、本発明のフィルムが溶液製膜で製造する際に前記金属支持体と接する層(以下、支持体面や、スキンB層とも言う)と、前記金属支持体とは逆側の空気界面の層(以下、空気面や、スキンA層とも言う)と、その間に挟まれた1層のコア層(以下、基層とも言う)を有することが好ましい。すなわち、本発明のフィルムはスキンB層/コア層/スキンA層の3層構造であることが好ましい。
なお、前記スキンA層とスキンB層を総称して、スキン層(または表層)とも言う。
【0055】
前記セルロースアシレートフィルムは、各層中におけるセルロースアシレートのアシル基置換度は均一であっても、複数のセルロースアシレートを一つの層に混在させてもよいが、各層中におけるセルロースアシレートのアシル基置換度は全て一定であることが光学特性の調整の観点から好ましい。また、前記セルロースアシレートフィルムが3層構造であるとき、両面の表面層に含まれるセルロースアシレートは同じアシル置換度のセルロースアシレートを用いることが、製造コストの観点から好ましい。
【0056】
(光弾性係数)
本発明の樹脂フィルムの光弾性係数の絶対値は8.0×10−12/N以下が好ましい。より好ましくは6×10−12/N以下であり、さらに好ましくは5×10−12/N以下である。樹脂フィルムの光弾性係数を小さくすることにより、該樹脂フィルムを偏光板保護フィルムとして液晶表示装置に組み込んだ際に、高温高湿下におけるムラ発生を抑制できる。下限値は特にないが、0.5m/N以上であることが実際的である。光弾性係数は、特に断らない限り、後記実施例で示した方法により測定し算出するものとする。
【0057】
(弾性率)
本発明の樹脂フィルムの弾性率は4.5MPa以下が好ましい。より好ましくは4.2MPa以下であり、さらに好ましくは4.0MPa以下である。樹脂フィルムの弾性率を小さくすることにより、樹脂が脆くなることを抑制することができる。下限値は特にないが、2MPa以上であることが実際的である。弾性率は、特に断らない限り、後記実施例で示した方法により測定し算出するものとする。
【0058】
(含水率)
樹脂フィルムの含水率は一定温湿度における平衡含水率を測定することにより評価することができる。平衡含水率は前記温湿度に24時間放置した後に、平衡に達した試料の水分量をカールフィッシャー法で測定し、水分量(g)を試料質量(g)で除して算出したものである。
本発明の樹脂フィルムの25℃相対湿度80%における含水率は5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下がさらに好ましく、3質量%未満がさらに好ましい。フィルムの含水率を小さくすることにより、樹脂フィルムを偏光板保護フィルムとして液晶表示装置に組み込んだ際に、高温高湿下における液晶表示装置の表示ムラを発生しにくくすることができる。下限値は特にないが、0.5質量%以上であることが実際的である。この値は、特に断らない限り、下記の方法で測定し算出するものとする。
25℃相対湿度80%の環境下24時間調湿後、平沼産業(株)社製、AQ−2000[商品名]、カールフィッシャー水分測定装置で平衡含水率を測定する。
【0059】
(ヘイズ)
前記セルロースアシレートフィルムは、ヘイズが1%以下であることが好ましく、0.7%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることが特に好ましい。ヘイズを1%以下とすることにより、フィルムの透明性がより高くなり、光学フィルムとしてより用いやすくなるという利点がある。下限値は特にないが、0.1%以上であることが実際的である。この値は、特に断らない限り、下記の方法で測定し算出するものとする。
フィルム試料40mm×80mmを、25℃相対湿度60%の環境下で、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)で、JIS K−6714に従って測定する。
【0060】
(膜厚)
前記セルロースアシレートフィルムの平均膜厚が30〜100μmであることが好ましく、30〜80μmであることがより好ましく、30〜70μmであることがさらに好ましい。30μm以上とすることにより、ウェブ状のフィルムを作製する際のハンドリング性が向上し好ましい。また、70μm以下とすることにより、湿度変化に対応しやすく、光学特性を維持しやすい。
また、前記セルロースアシレートフィルムが3層以上の積層構造を有する場合、前記コア層の膜厚は30〜70μmであることが好ましく、30〜60μmであることがより好ましい。本発明のフィルムが3層以上の積層構造を有する場合、フィルム両面の表層(スキンA層およびスキンB層)の膜厚がともに0.5〜20μmであることがより好ましく、0.5〜10μmであることが特に好ましく、0.5〜3μmであることがより特に好ましい。
【0061】
(フィルム幅)
前記セルロースアシレートフィルムは、フィルム幅が700〜3000mmであることが好ましく、1000〜2800mmであることがより好ましく、1300〜2500mmであることが特に好ましい。
【0062】
<セルロースアシレートフィルムの製造方法>
以下、本発明に用いられるセルロースアシレートフィルムの製造方法について詳細に説明する。
【0063】
前記セルロースアシレートフィルムは、ソルベントキャスト法により製造されることが好ましい。ソルベントキャスト法を利用したセルロースアシレートフィルムの製造例については、米国特許第2,336,310号、同2,367,603号、同2,492,078号、同2,492,977号、同2,492,978号、同2,607,704号、同2,739,069号及び同2,739,070号の各明細書、英国特許第640731号及び同736892号の各明細書、並びに特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号及び同62−115035号等の公報を参考にすることができる。また、前記セルロースアシレートフィルムは、延伸処理を施されていてもよい。延伸処理の方法及び条件については、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号等の各公報を参考にすることができる。
【0064】
(流延方法)
溶液の流延方法としては、調製されたドープを加圧ダイから金属支持体上に均一に押し出す方法、一旦金属支持体上に流延されたドープをブレードで膜厚を調節するドクターブレードによる方法、逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、加圧ダイによる方法が好ましい。加圧ダイにはコートハンガータイプやTダイタイプ等があるが、いずれも好ましく用いることができる。またここで挙げた方法以外にも、従来知られているセルローストリアセテート溶液を流延製膜する種々の方法で実施することができ、用いる溶媒の沸点等の違いを考慮して各条件を設定することにより、それぞれの公報に記載の内容と同様の効果が得られる。
【0065】
・共流延
前記セルロースアシレートフィルムの形成においては共流延法、逐次流延法、塗布法などの積層流延法を用いることが好ましく、特に同時共流延法を用いることが、安定製造および生産コスト低減の観点から特に好ましい。
共流延法および逐次流延法により製造する場合には、先ず、各層用のセルロースアシレート溶液(ドープ)を調製する。共流延法(重層同時流延)は、流延用支持体(バンドまたはドラム)の上に、各層(3層あるいはそれ以上でも良い)各々の流延用ドープを別のスリットなどから同時に押出す流延用ギーサからドープを押出して、各層同時に流延し、適当な時期に支持体から剥ぎ取って、乾燥しフィルムを成形する流延法である。図2に、共流延ギーサ3を用い、流延用支持体4の上に表層用ドープ1とコア層用ドープ2を3層同時に押出して流延する状態を断面図で示した。
【0066】
逐次流延法は、流延用支持体の上に先ず第1層用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して、流延し、乾燥あるいは乾燥することなく、その上に第2層用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して流延する要領で、必要なら第3層以上まで逐次ドープを流延・積層して、適当な時期に支持体から剥ぎ取って、乾燥しフィルムを成形する流延法である。塗布法は、一般的には、コア層のフィルムを溶液製膜法によりフィルムに成形し、表層に塗布する塗布液を調製し、適当な塗布機を用いて、片面ずつまたは両面同時にフィルムに塗布液を塗布・乾燥して積層構造のフィルムを成形する方法である。
【0067】
前記セルロースアシレートフィルムを製造するのに使用される、エンドレスに走行する金属支持体としては、表面がクロムメッキによって鏡面仕上げされたドラムや表面研磨によって鏡面仕上げされたステンレスベルト(バンドといってもよい)が用いられる。使用される加圧ダイは、金属支持体の上方に1基又は2基以上の設置でもよい。好ましくは1基又は2基である。2基以上設置する場合には、流延するドープ量をそれぞれのダイに種々な割合にわけてもよく、複数の精密定量ギアポンプからそれぞれの割合でダイにドープを送液してもよい。流延に用いられるドープ(樹脂溶液)の温度は−10〜55℃が好ましく、より好ましくは25〜50℃である。その場合、工程のすべての溶液温度が同一でもよく、又は工程の各所で異なっていてもよい。異なる場合は、流延直前で所望の温度であればよい。
また、前記金属支持体の材質については特に制限はないが、SUS製(例えば、SUS 316)であることがより好ましい。
【0068】
(剥離)
前記セルロースアシレートフィルムの製造方法は、前記ドープ膜を前記金属支持体から剥ぎ取る工程を含むことが好ましい。前記セルロースアシレートフィルムの製造方法における剥離の方法については特に制限はなく、公知の方法を用いた場合に剥離性を改善することができる。
【0069】
(延伸処理)
前記セルロースアシレートフィルムの製造方法では、製膜されたセルロースアシレートフィルムを延伸する工程を含むことが好ましい。前記セルロースアシレートフィルムの延伸方向はフィルム搬送方向と搬送方向に直交する方向(横方向)のいずれでも好ましいが、フィルム搬送方向に直交する方向(横方向)であることが、後に続く該フィルムを用いた偏光板加工プロセスの観点から特に好ましい。
【0070】
横方向に延伸する方法は、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号などの各公報に記載されている。長手方向の延伸の場合、例えば、フィルムの搬送ローラーの速度を調節して、フィルムの剥ぎ取り速度よりもフィルムの巻き取り速度の方を速くするとフィルムは延伸される。横方向の延伸の場合、フィルムの巾をテンターで保持しながら搬送して、テンターの巾を徐々に広げることによってもフィルムを延伸できる。フィルムの乾燥後に、延伸機を用いて延伸すること(好ましくはロング延伸機を用いる一軸延伸)もできる。
【0071】
前記セルロースアシレートフィルムを偏光子の保護膜として使用する場合には、偏光板を斜めから見たときの光漏れを抑制するため、偏光子の透過軸と本発明の樹脂フィルムの面内の遅相軸を平行に配置する必要がある。連続的に製造されるロールフィルム状の偏光子の透過軸は、一般的に、ロールフィルムの幅方向に平行であるので、前記ロールフィルム状の偏光子とロールフィルム状の前記セルロースアシレートフィルムからなる保護膜を連続的に貼り合せるためには、ロールフィルム状の保護膜の面内遅相軸は、フィルムの幅方向に平行であることが必要となる。従って幅方向により多く延伸することが好ましい。また延伸処理は、製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理してもよい。
【0072】
横方向の延伸は5〜100%の延伸が好ましく、より好ましくは5〜80%、特に好ましくは5〜40%延伸を行う。また、延伸処理は製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理してもよい。前者の場合には残留溶剤量を含んだ状態で延伸を行ってもよく、残留溶剤量=(残存揮発分質量/加熱処理後フィルム質量)×100%が0.05〜50%で好ましく延伸することができる。残留溶剤量が0.05〜5%の状態で5〜80%延伸を行うことが特に好ましい。
【0073】
(乾燥)
前記セルロースアシレートフィルムの製造方法では、前記セルロースアシレートフィルムを乾燥する工程と、乾燥後の本発明の樹脂フィルムをTg−10℃以上の温度で延伸する工程とを含むことが、レターデーション発現性の観点から好ましい。
【0074】
前記セルロースアシレートフィルムの製造に係わる、金属支持体上におけるドープの乾燥は、一般的には、金属支持体(ドラム又はベルト)の表面側、つまり金属支持体上にあるウェブの表面から熱風を当てる方法、ドラム又はベルトの裏面から熱風を当てる方法、温度コントロールした液体をベルトやドラムのドープ流延面の反対側である裏面から接触させて、伝熱によりドラム又はベルトを加熱し表面温度をコントロールする裏面液体伝熱方法などがあるが、裏面液体伝熱方式が好ましい。流延される前の金属支持体の表面温度は、ドープに用いられている溶媒の沸点以下であれば何度でもよい。しかし乾燥を促進するためには、また金属支持体上での流動性を失わせるためには、使用される溶媒の内の最も沸点の低い溶媒の沸点より1〜10℃低い温度に設定することが好ましい。なお流延ドープを冷却して乾燥することなく剥ぎ取る場合はこの限りではない。
【0075】
フィルム厚さの調整は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節すればよい。
【0076】
以上のようにして得られた、前記セルロースアシレートフィルムの長さは、1ロール当たり100〜10000mで巻き取るのが好ましく、より好ましくは500〜7000mであり、さらに好ましくは1000〜6000mである。巻き取る際、少なくとも片端にナーリングを付与するのが好ましく、ナーリングの幅は3mm〜50mmが好ましく、より好ましくは5mm〜30mm、高さは0.5〜500μmが好ましく、より好ましくは1〜200μmである。これは片押しであっても両押しであってもよい。
【0077】
一般的に、大画面表示装置において、斜め方向のコントラストの低下及び色味付きが顕著となるので、前記セルロースアシレートフィルムは、特に大画面液晶表示装置に用いるのに適している。大画面用液晶表示装置用の光学補償フィルムとして用いる場合は、例えば、フィルム幅を1470mm以上として成形するのが好ましい。また、本発明の偏光板保護フィルムには、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様のフィルムのみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様のフィルムも含まれる。後者の態様の偏光板保護フィルムは、その状態で保管・搬送等され、実際に液晶表示装置に組み込む際や偏光子等と貼り合わされる際に、所望の大きさに切断されて用いられる。また、同様に長尺状に作製されたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光子等と、長尺状のまま貼り合わされた後に、実際に液晶表示装置に組み込む際に、所望の大きさに切断されて用いられる。ロール状に巻き上げられた光学補償フィルムの一態様としては、ロール長が2500m以上のロール状に巻き上げられた態様が挙げられる。
【0078】
[偏光板]
また、本発明は、本発明の偏光板保護フィルムを少なくとも一枚用いることを特徴とする偏光板にも関する。
本発明の偏光板は、偏光子と、該偏光子の片面に本発明のフィルムを有することが好ましい。本発明の光学補償フィルムと同様、本発明の偏光板の態様は、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様の偏光板のみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様(例えば、ロール長2500m以上や3900m以上の態様)の偏光板も含まれる。大画面液晶表示装置用とするためには、上記した通り、偏光板の幅は1470mm以上とすることが好ましい。本発明の偏光板の具体的な構成については、特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば、特開2008−262161号公報の図6に記載の構成を採用することができる。
【0079】
[液晶表示装置]
本発明は、本発明の偏光板保護フィルムまたは本発明の偏光板を有する液晶表示装置にも関する。
本発明の液晶表示装置は液晶セルと該液晶セルの両側に配置された一対の偏光板を有する液晶表示装置であって、前記偏光板の少なくとも一方が本発明の偏光板であることを特徴とするIPS、OCBまたはVAモードの液晶表示装置であることが好ましい。典型的な液晶表示装置の内部構成を図1に示した。本発明の液晶表示装置の具体的な構成としては特に制限はなく公知の構成を採用できる。また、特開2008−262161号公報の図2に記載の構成も好ましく採用することができる。
ここで本発明のアプリケーション上の利点について補足する。液晶表示方式は大別して、3種TN、VA、IPS方式があり、中でもVA、IPS方式は高視野角、高コントラストなどからディスプレイに利用される方式として重要である。これらは複屈折変化を利用して明暗を分けるタイプであることから、偏光フィルムだけではなく保護フィルムを含めたパネル全体の複屈折変化が光学性能に大きく影響を及ぼすことになる。そのため、保護フィルムとしても複屈折の低減が特に重要になってくることから、IPS方式のものはもとより、その他の方式でもハイパフォーマンスのものでは特に、本願発明により光弾性を低減しつつその他の性能を維持できることは非常にメリットが大きい。
【実施例】
【0080】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これにより本発明が限定して解釈されるものではない。
【0081】
(合成例1) TPPC
【0082】
【化6】

【0083】
100mLナスフラスコに、化合物a:16g(0.056mol)、炭酸ジフェニル:12.9g(0.06mol)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド10%水溶液12μL、水酸化ナトリウム0.1%水溶液を加えて190℃に加熱して1時間、そこから2.5時間かけて減圧、高温にし、最後に280℃、1Torr以下で0.5時間加熱攪拌した。放冷後、ジクロロメタン30mLに溶解し、メタノール500mLに再沈し、吸引ろ過を行った。その後、乾燥し、白色固体10gを得た。
【0084】
(合成例2) TP−BisA
【0085】
【化7】

モル比 n=90%、 m=10%
【0086】
合成例1と同様の手順で、化合物a:25.8g(0.09mol)、ビスフェノールA:22.8g(0.01mol)、炭酸ジフェニル:23.1g(0.108mol)を用いて合成を行った。
【0087】
(合成例3) TP−TPA
【0088】
【化8】

モル比 n=90%、 m=10%
【0089】
Macromolecules,39, 2006, P3350-3358、Adv. Funct. Mater., 17, 2007, P1595-1602記載の方法に従って合成した。
【0090】
その他の化合物に関しても、Polymer,43, 2008, P4703-4712、Macromolecules,39, 2006, P3350-3358、Adv. Funct. Mater., 17, 2007, P1595-1602を参考にして合成した。
【0091】
(合成例4) TP−SA
【0092】
【化9】

モル比 n=90%、 m=10%
【0093】
(比較合成例1) BisA
市販のポリカーボネートとして、帝人化成(株)社製、「パンライト L−1225Y」(商品名)を用いた。
【0094】
【化10】

【0095】
(比較合成例2)
特開2009−126899号公報の段落番号[0181]に記載の合成方法に従って、下記例示化合物(AH−01)を得た。
【0096】
【化11】

()の右下の数値はモル比
【0097】
(比較合成例3)
特開2003−12859号公報の段落番号[0187]に記載の合成方法に従って、下記例示化合物(AH−02)を得た。
【0098】
【化12】

()の右下の数値はモル比
【0099】
[実施例1・比較例1]
(1)セルロースアシレートフィルムの製膜
<セルロースアシレートの調製>
アセチル置換度2.87のセルロースアシレートを調製した。これは、触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、アシル置換基の原料となるカルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。またアシル化後に40℃で熟成を行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
【0100】
<表層用ドープ101液の調製>
(セルロースアシレート溶液の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液1を調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアシレート溶液1の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
アセチル置換度2.87、重合度370のセルロースアセテート
100.0質量部
トリフェニルフォスフェート 8.0質量部
フェニルビフェニルフォスフェート 4.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 353.9質量部
メタノール(第2溶媒) 89.6質量部
n−ブタノール(第3溶媒) 4.5質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0101】
(マット剤溶液2の調製)
下記の組成物を分散機に投入し、攪拌して各成分を分散し、マット剤溶液2を調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
マット剤溶液2の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
平均粒子サイズ20nmのシリカ粒子(AEROSIL R972、
日本アエロジル(株)製) 2.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 69.3質量部
メタノール(第2溶媒) 17.5質量部
n−ブタノール(第3溶媒)
前記セルロースアシレート溶液1 0.9質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0102】
(紫外線吸収剤溶液3の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、紫外線吸収剤溶液3を調製した。
【0103】
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
紫外線吸収剤溶液3の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
下記紫外線吸収剤C 20.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 61.0質量部
メタノール(第2溶媒) 15.4質量部
n−ブタノール(第3溶媒) 0.8質量部
前記セルロースアシレート溶液1 12.8質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0104】
【化13】

【0105】
上記マット剤溶液2の1.3質量部と、紫外線吸収剤溶液3の3.4質量部をそれぞれ濾過後にインラインミキサーを用いて混合し、さらにセルロースアシレート溶液1を95.3質量部加えて、インラインミキサーを用いて混合し、表層用溶液101を調製した。
【0106】
<基層用ドープ101の調製>
(セルロースアシレート溶液の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、基層用ドープを調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアシレート溶液2の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアセテート(表1に記載のもの) 100.0質量部
ポリマー(TPPC) 表1に記載の量
前記紫外線吸収剤C 2.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 297.7質量部
メタノール(第2溶媒) 75.4質量部
n−ブタノール(第3溶媒) 3.8質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0107】
<流延>
ドラム流延装置を用い、前記調製したドープ(基層用ドープ)と、その両側に表層用ドープとを3層同時にステンレス製の流延支持体(支持体温度−9℃)に流延口から均一に流延した。各層のドープ中の残留溶媒量が略70質量%の状態で剥ぎ取り、フィルムの幅方向の両端をピンテンターで固定し、残留溶媒量が3〜5質量%の状態で、横方向に1.28倍延伸しつつ乾燥した。その後、熱処理装置のロール間を搬送することにより、さらに乾燥し、実施例のセルロースアシレートフィルム101を得た。得られたセルロースアシレートフィルム101の厚みは60μm、幅は1480mmであった。
【0108】
上記フィルム101において、ポリマーの代わりに、化合物の種類および添加量を表1に記載したとおりに変更した以外は同様にして、実施例102〜117および比較例c11〜c14の偏光板保護フィルムを製造した。各フィルムに対する下記項目に関する評価結果を表1に示す。
【0109】
[評価]
(光弾性係数の測定)
フィルムを3.5cm×12cmに切り出し、荷重無し、250g、500g、1000g、1500gのそれぞれの荷重におけるReをエリプソメーター(M150[商品名]、日本分光(株))で測定し、応力に対するRe変化の直線の傾きから算出することにより光弾性係数を測定した。
【0110】
(弾性率の測定)
フィルムの弾性率は、JIS K 7162に従って測定した。
(含水率の測定)
25℃相対湿度80%の環境下24時間調湿後、平沼産業(株)社製AQ−2000カールフィッシャー水分測定装置で平衡含水率を測定した。
A:含水率が3%未満である。
B:含水率が3%〜5%である。
C:含水率が5%を超える。
【0111】
【表1−1】

【0112】
【表1−2】

・配合はいずれも質量%
・括弧内は質量平均分子量と組成比(モル比)
・分子量は適宜重合時間等を変化させて調節した。
CA: セルロースアシレート
DAC: ジアセチルセルロース(全置換度B=2.41、重合度180)
TAC: トリアセチルセルロース(全置換度B=2.87、重合度370)
【0113】
上記表1の結果から、一般式(1)で表される構成単位を含む重合体を含有する本発明の樹脂フィルム(実施例)は、光弾性係数および弾性率がともに小さく、好ましいことがわかった。
比較例のフィルムc11は、添加ポリマーを用いない態様であり、本発明のフィルムと比較して、弾性率とが劣るものであった。
比較例のフィルムc12は、トリプチセン構造を有さない芳香族系ポリマーを用いた態様であるが、光弾性係数及び弾性率において、いずれも本発明のフィルムに対し劣るものであった。
比較例のフィルムc13、c14は、特開2009−126899号公報または特開2003−12859号公報の実施例で用いられているポリマーを用いた態様であるが、いずれも本発明のフィルムよりも上記性能に劣るものであった。
【0114】
[実施例2・比較例2]
(2)偏光板の作製
〔偏光板保護フィルムの鹸化処理〕
作製した実施例1の偏光板保護フィルムを、2.3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に、55℃で3分間浸漬した。室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.05mol/Lの硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。このようにして、実施例1の偏光板保護フィルムについて表面の鹸化処理を行った。
【0115】
〔偏光板の作製〕
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光子を作製した。
鹸化処理した実施例1の偏光板保護フィルム101を、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の片側に貼り付けた。市販のセルローストリアセテートフィルム(フジタックTD80UF、富士フイルム(株)製)に同様の鹸化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、作成した実施例1の偏光板保護フィルムを貼り付けてある側とは反対側の偏光子の面に鹸化処理後のセルローストリアセテートフィルムを貼り付けた。
この際、偏光子の透過軸と作成した実施例1の偏光板保護フィルムの遅相軸とは直交するように配置した。また、偏光子の透過軸と市販のセルローストリアセテートフィルムの遅相軸についても、直交するように配置した。
このようにして実施例の偏光板201を作製した。
【0116】
フィルム102〜117の偏光板保護フィルムおよび比較例のフィルムc11〜c14の偏光板保護フィルムについても、それぞれ上記と同様にして鹸化処理と偏光板の作製を行い、各実施例および比較例の偏光板202〜217、c21〜c24を作製した。
【0117】
[実施例3・比較例3]
〔液晶表示装置の作製〕
市販の液晶テレビ(SONY(株)のブラビアJ5000)の視認者側の偏光板をはがし、実施例1の偏光板保護フィルム101を用いた本発明の偏光板201を、実施例の偏光板保護フィルムが液晶セル側となるように(図1のフィルム31b)、粘着剤を介して貼り付けた。視認者側の偏光板の透過軸が上下方向に配置とした。このときの状態は図1に示した模式図のとおりであり、ここで作製した液晶表示装置301は、図面下側から、光源26、導光板25、第1偏光板21A(偏光子32、偏光フィルム31a,31b)、配向膜と透明電極とを有するアレイ基板24、液晶層23、配向膜と透明電極とを有するカラーフィルタ基板22、偏光板21Bを具備する。そして、上記のとおり第2偏光板21Bの保護フィルム31bが本実施例・比較例のものに交換されている。このとき、保護フィルムの延伸方向と偏光板の偏光方向Rとが一致するように配置された。
また、その他の実施例の保護フィルム及び偏光板、比較例の偏光板保護フィルム及び偏光板を用いた以外は同様にして、実施例及び比較例の液晶表示装置302〜317,c31〜c34を作製した。
このようにして作製した液晶表示装置を60℃相対湿度90%の環境下に24時間放置した後に表示ムラを確認したところ、本発明の液晶表示装置は、各比較例の偏光板保護フィルムを使用した液晶表示装置に対して、ムラが生じない、もしくはムラの発生面積が小さく良好なものであった。
【0118】
(実施例4)
前記実施例1で合成したトリプチセンポリカーボネート(TPPC)に対して、一般式(1)の置換基をそれぞれ下記のように代えた以外同様して、各項目の性能評価を行った。評価方法は上記と同様であり、その判定を下記に区分して行った。なお、含水率については上記と同じであるが、念のため再度判定区分を示しておく。
【0119】
(光弾性係数)
A: 1以上20未満
B: 20以上30未満
C: 30以上40未満
【0120】
(弾性率)
A: 3以上4未満
B: 4以上
【0121】
(含水率)
A:含水率が3%未満である。
B:含水率が3%〜5%である。
C:含水率が5%を超える。
【0122】
【表2】

【0123】
【化14】

【符号の説明】
【0124】
1 表層用ドープ
2 コア層用ドープ
3 共流延ギーサ
4 流延用支持体
21A、21B 偏光板
22 カラーフィルタ基板
23 液晶層
24 アレイ基板
25 導光板
26 光源
31a、31b セルロースアシレートフィルム(保護フィルム)
32 偏光子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートと、下記一般式で表される繰り返し単位を有するトリプチセンポリマーとを含有するセルロースアシレートフィルム。
【化1】

(上記一般式において、AおよびBは二価の連結基である。R〜Rはそれぞれ独立にアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、または水素原子を表す。R〜Rは互いに結合してトリプチセン部位のベンゼン環の炭素原子を共有して脂環構造をとる、あるいはトリプチセン部位のベンゼン環と縮環して多環芳香族構造をとっていてもよい。Rはアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、または水素原子を表す。nは1あるいは2である。Rが2つあるときそれらは互いに異なっていてもよく、2つのRが結合してトリプチセン部位のベンゼン環の炭素原子を共有して脂環構造をとる、あるいはトリプチセン部位のベンゼン環と縮環して多環芳香族構造をとっていてもよい。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、Aが−O−であり、Bが−O−又は−OC(O)−であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項3】
前記置換基R〜Rが水素原子か、炭素数1〜6のアルキル基、又はトリプチセン部位のベンゼン環と縮環してナフタレン構造をとっていることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項4】
前記置換基Rが水素原子であり、R〜Rが水素原子か、炭素数1〜6のアルキル基、又はトリプチセン部位のベンゼン環と縮環してナフタレン構造をとっていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項5】
前記R〜R9が水素原子である請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
前記トリプチセンポリマーがさらに下記一般式(2)で表される繰り返し単位をさらに有する共重合体である請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化2】

(上記一般式において、QおよびQはそれぞれ独立して、−O−、−C(O)−、−COO−、あるいは−OC(O)−であり、Qは炭素数2〜15の連結基である。)
【請求項7】
前記トリプチセンポリマーが、前記一般式(1)で表される繰り返し単位からなるホモポリマーである請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項8】
前記トリプチセンポリマーの質量平均分子量が1,000〜60,000である請求項1〜7のいずれか1項に記載のセルロースフィルム。
【請求項9】
前記トリプチセンポリマーの添加量が、前記セルロースアシレート100質量部に対して10〜100質量部であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項10】
前記セルロースアシレートが下記式のアシル置換度を満足することを特徴とするセルロースアセテートであることを特徴とする請求項1〜9に記載のセルロースアシレートフィルム。
2.0≦B≦3.0(B:アシル基置換度)
【請求項11】
前記セルロースアシレートと前記トリプチセンポリマーとを含有するベースフィルムを延伸して得た、前記セルロースアシレートと前記トリプチセンポリマーとが延伸方向に延びる配向性を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項12】
偏光子の両側に二枚の保護フィルムを有し、該保護フィルムのうち少なくとも一枚が請求項1〜11のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムであることを特徴とする偏光板。
【請求項13】
液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなり、そのうち少なくとも一枚が請求項12に記載の偏光板であることを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−224850(P2012−224850A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−85926(P2012−85926)
【出願日】平成24年4月4日(2012.4.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】