説明

セルロースアシレートフィルム、その製造方法、偏光板および液晶表示装置

【課題】液晶表示装置に位相差フィルムとして組み込んだときに良好なコントラストを有し、かつ、製造コストが低いセルロースアシレートフィルムの提供。
【解決手段】セルロースアシレートと、糖エステル化合物を含有し、Tg−5℃以上に一度も加熱されていない状態においてTg−5℃〜Tg+10℃で延伸されてなり、全ヘイズが1.0%以下であり、内部ヘイズが0.1%以下であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム(但し、Tgは前記セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度(単位:℃)を表す)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロースアシレートフィルム、その製造方法、および該セルロースアシレートフィルムを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。特に、位相差フィルムなどの光学フィルムとして好ましく用いることができるセルロースアシレートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置のTV用途が進行し、画面サイズの大型化に伴う高画質化と低価格化が益々求められている。特にVAモードの液晶表示装置は比較的コントラストが高く、比較的製造の歩留まりが高いことからTV用の液晶表示装置として最も一般的なものとなっている。
【0003】
しかしながら、VAモードの液晶表示装置を黒表示した場合には、液晶表示画面の法線方向においてはある程度良好な黒色表示ができるものの、液晶表示画面の斜め方向から黒表示した画面を観察すると光漏れが発生して背景の黒表示ができないために視野角が狭くなるという問題があった。そのため、近年では、偏光板保護フィルムにさらにレターデーションを発現させて光学補償能を付与し、液晶表示装置に組み込んだときに単独で視野角補償ができる光学フィルムが求められている。また、液晶表示装置のさらなる表示性能の改善も依然として求められており、コントラストをさらに上昇させることができる光学フィルムが求められている。
【0004】
このような光学補償能を付与した光学フィルムとして、従来から、様々なセルロースアシレートフィルムが用いられており、様々な添加剤を添加したセルロースアシレートフィルムが知られている。また、セルロースアシレートフィルムは様々な製膜方法で製造されているが、光学補償能を付与した光学フィルムとして位相差を大きく発現させる場合には、フィルムを延伸する工程を含むことが一般的である。
【0005】
特許文献1には、セルロースアシレートと可塑剤を含むフィルムを溶液製膜し、Tg+10℃〜Tg+40℃で熱処理した後で延伸することで、全ヘイズおよび内部ヘイズが共に小さく、正面コントラストが改善されたフィルムが開示されている。詳しくは、特許文献1の実施例では、ポリエステル系の可塑剤と多価アルコール系の可塑剤を併用し、延伸前に一度延伸温度よりも高い温度にフィルムを加熱した後、延伸を行っている。そのため、液晶表示装置に組み込んだときに正面コントラストが良好となるフィルムを得ることができているとはいえ、延伸温度を超えるようなかなりの高温での熱処理工程が必要であり、設備やランニングコストを考えると製造コストの低減の観点から不満が残るものであった。また、高温で熱処理を行うとセルロースアシレートフィルムの位相差発現性が低下してしまうため、所望の位相差を発現させるためには膜厚を増やしたりレターデーション上昇剤を増やしたりする必要が生じてしまい、結果材料コストの観点からの不満が残るものであった。
【0006】
また、特許文献1では、糖エステル化合物を実施した例は開示されておらず、糖エステル化合物を用いたフィルムの性能についても特に記載はされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2008−126535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らが特許文献1に記載のフィルムおよびその製造方法を検討したところ、確かに同文献実施例で採用されている化合物を用いた場合、高温での熱処理を行わなければ延伸して製膜したフィルムはヘイズが高くなってしまうことがわかった。
このように、液晶表示装置に組み込んだときに正面コントラストが良好となり、かつ、製造コストが低いフィルムは従来知られていなかったのが実情であった。
【0009】
本発明は、上記の問題を解決することを目的としたものである。すなわち、本発明の課題は、液晶表示装置に位相差フィルムとして組み込んだときに良好なコントラストを有し、かつ、製造コストが低いセルロースアシレートフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題のもと、本発明者らが鋭意検討を行った結果、可塑剤として糖エステル系の化合物を用い、特定の非常に狭い温度範囲において延伸を行うことにより、驚くべきことに延伸前の高温での熱処理を行わない場合であっても正面コントラストを改善できることがわかった。すなわち、特定の可塑剤を用い、特定の温度範囲で延伸することにより、液晶表示装置に位相差フィルムとして組み込んだときに良好なコントラストを有し、かつ、製造コストが低いセルロースアシレートフィルムを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、以下の手段により上記課題を解決した。
【0011】
[1] セルロースアシレートと、糖エステル化合物を含有し、Tg−5℃以上に一度も加熱されていない状態においてTg−5℃〜Tg+10℃で延伸されてなり、全ヘイズが1.0%以下であり、内部ヘイズが0.1%以下であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム(但し、Tgは前記セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度(単位:℃)を表す)。
[2] 前記糖エステル化合物が、ヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を1個〜12個含むことを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[3] 前記全ヘイズが0.4%以下であることを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[4] 前記セルロースアシレートが下記式(1)および式(2)を満たすことを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(1) 2.00≦A+B≦2.80
式(2) 0.50≦B
(式(1)および式(2)中、Aはアセチル置換度を表し、Bはプロピオニル置換度またはブチル置換度を表す。)
[5] 波長590nmにおける正面レターデーション値Re(590)および波長590nmにおける膜厚方向のレターデーション値Rth(590)が下記式(3)および式(4)を満たすことを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(3) 30nm≦Re(590)≦90nm
式(4) 90nm≦Rth(590)≦150nm
[6] ポリエステル系可塑剤を含むことを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[7] セルロースアシレートと糖エステル化合物を含有するフィルムを、Tg−5℃以上に一度も加熱されていない状態においてTg−5℃〜Tg+10℃で延伸することを特徴とする光学フィルムの製造方法(但し、Tgは前記セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度を表す。)。
[8] 前記糖エステル化合物が、ヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を1個〜12個含むことを特徴とする[7]に記載の光学フィルムの製造方法。
[9] 前記延伸温度がTg−5℃〜Tg+5℃であることを特徴とする[7]または[8]に記載の光学フィルムの製造方法(但し、Tgは前記セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度を表す。)。
[10] [7]〜[9]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法で製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
[11] 偏光子と、少なくとも1枚の[1]〜[6]および[10]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを有することを特徴とする偏光板。
[12] [1]〜[6]および[10]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム、または、[11]に記載の偏光板を、少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。
[13] 前記液晶表示装置が、VA型液晶セルと、フロント側基板およびリア側基板を有し、前記リア側基板の部材コントラスト(CRr)に対する前記フロント側基板の部材コントラスト(CRf)の比(CRf/CRr)が、0.3〜2.8であることを特徴とする[12]に記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液晶表示装置に位相差フィルムとして組み込んだときに良好なコントラストを有し、かつ、製造コストが低いセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のVA型液晶表示装置の一例の断面模式図である。
【図2】本発明の作用を説明するために用いた模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。また、本明細書では、「フロント側」とは表示面側を意味し、「リア側」とはバックライト側を意味する。また、本明細書で「正面」とは、表示面に対する法線方向を意味し、「正面コントラスト(以下、CRとも言う)」は、表示面の法線方向において測定される白輝度及び黒輝度から算出されるコントラストをいうものとする。
【0015】
[セルロースアシレートフィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は、セルロースアシレートと、糖エステル化合物を含有し、Tg−5℃以上に一度も加熱されていない状態においてTg−5℃〜Tg+10℃で延伸されてなり、全ヘイズが1.0%以下であり、内部ヘイズが0.1%以下であることを特徴とする(但し、Tgは前記セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度(単位:℃)を表す)。
以下、本発明のフィルムについて説明する。
【0016】
(セルロースアシレート)
本発明においては、セルロースアシレートを用いることが好ましい。
前記セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース(DAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートフタレート等が挙げられる。好ましくはセルロースアセテートプロピオネートである。
【0017】
前記セルロースアシレートの分子量は数平均分子量(Mn)で40000〜200000のものが好ましく、100000〜200000のものが更に好ましい。本発明で用いられるセルロースアシレートはMw/Mn比が4.0以下であることが好ましく、更に好ましくは1.4〜2.3である。
本発明において、セルロースアシレート等の平均分子量及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を算出し、国際公開WO2008−126535号公報に記載の方法により、その比を計算することができる。
【0018】
本発明で用いられるセルロースアシレートのうち好ましいセルロースアシレートは、下記式(1)および式(2)を満たすことが、さらにフィルムの全ヘイズまたは内部ヘイズを低下でき、また、液晶表示装置に組み込んだときの正面コントラストを上昇させることができる観点から、好ましい。
式(1) 2.00≦A+B≦2.80
式(2) 0.50≦B
(式(1)および式(2)中、Aはアセチル置換度を表し、Bはプロピオニル置換度またはブチル置換度を表す。)
中でも2.0≦A+B≦2.6のセルロースアセテートプロピオネート(総アシル基置換度=A+B)がより好ましく、2.1≦A+B≦2.6が特に好ましい。また、0.5≦B≦2.0がより好ましく、0.8≦B≦1.8が特に好ましい。
なお、アシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法に準じて測定することができる。アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。これらのセルロースエステルは公知の方法で合成することができる。
【0019】
(ヘイズ)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、フィルム1枚での全ヘイズが1.0%以下であり、内部ヘイズが0.1%以下である。
全ヘイズはJIS K7136に準じて測定されたヘイズ値(%)を表し、内部ヘイズは得られたセルロースアシレートフィルムの両面にグリセリン数滴を滴下し、厚さ1.3mmのガラス板(MICRO SLIDE GLASS品番S9213、MATSUNAMI製)2枚で両側から挟んだ状態で測定したヘイズ値(%)から、ガラス2枚の間にグリセリンを数滴滴下した状態で測定したヘイズを引いた値(%)を表す。
本発明のセルロースアシレートフィルムのヘイズは、濁度計(NDH2000、日本電色工業(株))を用いて、23℃、相対湿度55%の環境下24時間放置したフィルムにおいて、同環境下で測定した。
【0020】
本発明のセルロースアシレートフィルムの全ヘイズは、0.4%以下であることが好ましく、0〜0.30%であることがより好ましい。
本発明のセルロースアシレートフィルムの内部ヘイズは、0.05%以下であることが好ましく、0.04%以下であることがより好ましく、0.03%以下であることが特に好ましい。
ヘイズは、低い方が一般的には好ましいとされている。また単に、全へイズが低いだけでは、正面コントラスト改善には不十分であり、本発明者らは全へイズに加え、内部へイズも調整し、液晶表示装置の正面コントラストの改善に至った。
【0021】
(セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度Tg)
本発明のセルロースアシレートフィルムのガラス転移温度Tgとは、フィルムを構成するセルロースアシレート、可塑剤、その他の添加剤を含むフィルム全体としてのガラス転移温度(以下Tgと略す)をいう。
この測定は、フィルム10mgを、毎分300cm3の窒素気流中、300℃で溶融し、直ちに液体窒素中で急冷する。この急冷サンプルを示差走査型熱量計(理学電器社製、DSC8230型)にセットし、毎分100mlの窒素気流中、毎分10℃の昇温速度で昇温し、Tgを検出する。Tgはベースラインが偏奇し始める温度と、新たにベースラインに戻る温度との平均値とした。なお、測定開始温度は、測定されるTgより50℃以上低い温度(昇温開始温度は室温である)とした。
【0022】
(Re、Rth)
本発明のフィルムは、波長590nmにおける正面レターデーション値Re(590)および波長590nmにおける膜厚方向のレターデーション値Rth(590)が下記式(3)および式(4)を満たすことが好ましい。
式(3) 30nm≦Re(590)≦90nm
式(4) 90nm≦Rth(590)≦150nm
前記Re(590)は、30〜80nmであることがより好ましく、35〜70nmであることが特に好ましく、40〜60nmであることがより特に好ましい。
前記Rth(590)は、95〜145nmであることがより好ましい。
【0023】
また本発明のフィルムは2軸性の光学補償フィルムであることが好ましい。
ここで光学補償フィルムが2軸性であるとは光学補償フィルムのnx、nyおよびnz(nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。)がそれぞれ全て異なる場合であり、本発明の場合にはnx>ny>nzであることがさらに好ましい。
本発明のフィルムが2軸性の光学特性を示すということは液晶表示装置、特にVAモード液晶表示装置における斜め方向から観察した場合のカラーシフトの問題を低減する上で好ましい特性である。
【0024】
本明細書におけるRe(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、590nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A)及び式(B)よりRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0025】
【数1】

【0026】
ここで、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表し、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(B)
なおこの際、パラメータとして平均屈折率nが必要になるが、これはアッベ屈折計((株)アタゴ社製の「アッベ屈折計2−T」)により測定した値を用いた。
【0027】
(セルロースアシレートフィルムの層構造)
本発明のフィルムは単層フィルムであっても、2層以上の積層構造を有していてもよいが、単層フィルムであることが好ましい。
【0028】
(膜厚)
本発明のフィルムは膜厚が20〜90μmであることが、製造コストを低減する観点から好ましく、25〜80μmであることがより好ましく、25〜60μmであることが特に好ましい。本発明のフィルムが積層フィルムである場合、フィルムの合計膜厚の範囲が上記好ましい範囲であることが好ましい。
【0029】
(フィルム幅)
本発明のフィルムは、フィルム幅が1000mm以上であることが好ましく、1500mm以上であることがより好ましく、1800mm以上であることが特に好ましい。
【0030】
<添加剤>
(1) 糖エステル化合物
本発明のフィルムは、糖エステル化合物を含有する。
前記糖エステル化合物をセルロースアシレートフィルムに添加することにより、光学特性の発現性を損なわず、かつ延伸工程前に熱処理を行わない場合でも全へイズおよび内部ヘイズを小さくすることができる。さらに、本発明のセルロースアシレートフィルムを液晶表示装置に用いることにより、正面コントラストを大幅に改良できる。
【0031】
−糖残基−
前記糖エステル化合物とは、該化合物を構成する単糖または多糖中の置換可能な基(例えば、水酸基、カルボキシル基)の少なくとも1つと、少なくとも1種の置換基とがエステル結合されている化合物のことを言う。すなわち、ここで言う糖エステル化合物には広義の糖誘導体類も含まれ、例えばグルコン酸のような糖残基を構造として含む化合物も含まれる。すなわち、前記糖エステル化合物には、グルコースとカルボン酸のエステル体も、グルコン酸とアルコールのエステル体も含まれる。
前記糖エステル化合物を構成する単糖または多糖中の置換可能な基は、ヒドロキシル基であることが好ましい。
【0032】
前記糖エステル化合物中には、糖エステル化合物を構成する単糖または多糖由来の構造(以下、糖残基とも言う)が含まれる。前記糖残基の単糖当たりの構造を、糖エステル化合物の構造単位と言う。前記糖エステル化合物の構造単位は、ピラノース構造単位またはフラノース構造単位を含むことが好ましく、全ての糖残基がピラノース構造単位またはフラノース構造単位であることがより好ましい。また、前記糖エステルが多糖から構成される場合は、ピラノース構造単位またはフラノース構造単位をともに含むことが好ましい。
【0033】
前記糖エステル化合物の糖残基は、5単糖由来であっても6単糖由来であってもよいが、6単糖由来であることが好ましい。
【0034】
前記糖エステル化合物中に含まれる構造単位の数は、1〜12であることが好ましく、1〜6であることがより好ましく、1または2であることが特に好ましい。
【0035】
本発明では、前記糖エステル化合物はヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を1個〜12個含む糖エステル化合物であることがより好ましく、ヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を1または2個含む糖エステル化合物であることがより好ましい。
【0036】
前記単糖または2〜12個の単糖単位を含む糖類の例としては、例えば、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、フルクトース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、トレハロース、イソトレハロース、ネオトレハロース、トレハロサミン、コウジビオース、ニゲロース、マルトース、マルチトール、イソマルトース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、ラクトサミン、ラクチトール、ラクツロース、メリビオース、プリメベロース、ルチノース、シラビオース、スクロース、スクラロース、ツラノース、ビシアノース、セロトリオース、カコトリオース、ゲンチアノース、イソマルトトリオース、イソパノース、マルトトリオース、マンニノトリオース、メレジトース、パノース、プランテオース、ラフィノース、ソラトリオース、ウンベリフェロース、リコテトラオース、マルトテトラオース、スタキオース、バルトペンタオース、ベルバルコース、マルトヘキサオース、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、δ−シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトールなどを挙げることができる。
【0037】
好ましくは、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、トレハロース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、スクラロース、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、δ−シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトールであり、さらに好ましくは、アラビノース、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンであり、特に好ましくは、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、キシリトール、ソルビトールである。
【0038】
−置換基の構造−
本発明に用いられる前記糖エステル化合物は、用いられる置換基を含め、下記一般式(1)で表される構造を有することがより好ましい。
一般式(1) (OH)p−G−(L1−R11q(O−R12r
一般式(1)中、Gは糖残基を表し、L1は−O−、−CO−、−NR13−のいずれか一つを表し、R11は水素原子または一価の置換基を表し、R12はエステル結合で結合した一価の置換基を表す。p、qおよびrはそれぞれ独立に0以上の整数を表し、p+q+rは前記Gが環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しい。
【0039】
前記Gの好ましい範囲は、前記糖残基の好ましい範囲と同様である。
【0040】
前記L1は、−O−または−CO−であることが好ましく、−O−であることがより好ましい。前記L1が−O−である場合は、エーテル結合またはエステル結合由来の連結基であることが特に好ましく、エステル結合由来の連結基であることがより特に好ましい。
また、前記L1が複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0041】
11およびR12の少なくとも一方は芳香環を有することが好ましい。
【0042】
特に、前記L1が−O−である場合(すなわち前記糖エステル化合物中のヒドロキシル基にR11、R12が置換している場合)、前記R11、R12およびR13は置換または無置換のアシル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアミノ基の中から選択されることが好ましく、置換または無置換のアシル基、置換または無置換のアルキル基、あるいは置換または無置換のアリール基であることがより好ましく、無置換のアシル基、置換または無置換のアルキル基、あるいは、無置換のアリール基であることが特に好ましい。
また、前記R11、R12およびR13がそれぞれ複数ある場合は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0043】
前記pは0以上の整数を表し、好ましい範囲は後述する単糖ユニット当たりのヒドロキシル基の数の好ましい範囲と同様である。
前記rは前記Gに含まれるピラノース構造単位またはフラノース構造単位の数よりも大きい数を表すことが好ましい。
前記qは0であることが好ましい。
また、p+q+rは前記Gが環状アセタール構造の無置換の糖類であると仮定した場合のヒドロキシル基の数と等しいため、前記p、qおよびrの上限値は前記Gの構造に応じて一意に決定される。
【0044】
前記糖エステル化合物の置換基の好ましい例としては、アルキル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、2−シアノエチル基、ベンジル基など)、アリール基(好ましくは炭素数6〜24、より好ましくは6〜18、特に好ましくは6〜12のアリール基、例えば、フェニル基、ナフチル基)、アシル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアシル基、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、トルイル基、フタリル基など)、アミド基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアミド、例えばホルムアミド基、アセトアミド基など)、イミド基(好ましくは炭素数4〜22、より好ましくは炭素数4〜12、特に好ましくは炭素数4〜8のアミド基、例えば、スクシイミド基、フタルイミド基など)を挙げることができる。その中でも、アルキル基またはアシル基がより好ましく、メチル基、アセチル基、ベンゾイル基がより好ましく、さらにその中でもベンゾイル基が特に好ましい。
【0045】
また、前記糖エステル化合物中の構造単位当たりのヒドロキシル基の数(以下、ヒドロキシル基含率とも言う)は、3以下であることが好ましく、1以下であることがより好ましい。ヒドロキシル基含率を前記範囲に制御することにより、高温高湿経時における糖エステル化合物の偏光子層への移動およびPVA−ヨウ素錯体の破壊を抑制でき、高温高湿経時における偏光子性能の劣化を抑制する点から好ましい。
【0046】
前記糖エステル化合物の入手方法としては、市販品として(株)東京化成製、アルドリッチ製等から商業的に入手可能であり、もしくは市販の炭水化物に対して既知のエステル誘導体化法(例えば、特開平8−245678号公報に記載の方法)を行うことにより合成可能である。
【0047】
前記糖エステル化合物は、数平均分子量が、好ましくは200〜3500、より好ましくは200〜3000、特に好ましくは250〜2000の範囲が好適である。
【0048】
以下に、本発明で好ましく用いることができる前記糖エステル化合物の具体例を挙げるが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。
【0049】
糖エステル(1):
【化1】

【0050】
糖エステル(2):Acはアセチル基を表す。
【化2】

【0051】
糖エステル(3):
【化3】

【0052】
糖エステル(4):Bzは、ベンゾイル基を表す。
【化4】

【0053】
以下の構造式中、Rはそれぞれ独立に任意の置換基を表し、複数のRは同一であっても、異なっていてもよい。ClogP値とは、1−オクタノールと水への分配係数Pの常用対数logPを計算によって求めた値である。ClogP値の計算には、Daylight Chemical Information Systems社のシステム:PCModelsに組み込まれたCLOGPプログラムを用いた。
【0054】
【化5】

【0055】
【表1】

【0056】
【化6】

【0057】
【表2】

【0058】
【化7】

【0059】
【表3】

【0060】
【化8】

【0061】
【表4】

【0062】
前記糖エステル化合物は、セルロースアシレートに対し2〜30質量%含有することが好ましく、5〜20質量%含有することがより好ましく、5〜15質量%含有することが特に好ましい。
また、後述するポリエステル系可塑剤を前記糖エステル化合物と併用する場合は、ポリエステル系可塑剤の添加量(質量部)に対する前記糖エステル化合物の添加量(質量部)は、2〜10倍(質量比)加えることが好ましく、3〜8倍(質量比)加えることがより好ましい。
【0063】
(2) 前記糖エステル化合物以外の他の可塑剤
前記糖エステル化合物の他、他の可塑剤も同時に使用することができる。
【0064】
例えば、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、多価アルコール系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤(脂肪酸末端ポリエステル系可塑剤、芳香環含有ポリエステル系可塑剤など)、カルボン酸エステル系可塑剤、アクリル系ポリマーなどを好ましく用いることができる。
【0065】
その中でも、特に本発明のフィルムを液晶表示装置に組み込んだときのコントラストを上昇させる観点からは、本発明のフィルムは、前記糖エステル化合物と前記ポリエステル系可塑剤をともに含有することが好ましい。
【0066】
本発明に、用いられる可塑剤としては、フィルムにヘイズを発生させたり、フィルムからブリードアウトあるいは揮発しないように、数平均分子量が300以上2000未満のポリエステル系可塑剤を使用することが好ましい。
【0067】
(2−1) ポリエステル系可塑剤
前記ポリエステル系可塑剤は特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するポリエステル系可塑剤を好ましく用いることができる。
例えば、下記一般式(2)で表せる芳香族末端ポリエステル系可塑剤が好ましい。
【0068】
一般式(2) B1−(G1−A1)n−G1−B1
(式中、B1はベンゼンモノカルボン酸残基、G1は炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、A1は炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。)
【0069】
一般式(2)中、B1で示されるベンゼンモノカルボン酸残基とG1で示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基、A1で示されるアルキレンジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものである。
本発明で使用されるポリエステル系可塑剤のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0070】
本発明で好ましく用いられるポリエステル系可塑剤の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
特に炭素数2〜12のアルキレングリコールがセルロースアシレートとの相溶性に優れているため好ましい。
【0071】
また、本発明で用いられるポリエステル系可塑剤の炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
本発明で用いられるポリエステル系可塑剤の炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。
炭素数6〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0072】
本発明で使用されるポリエステル系可塑剤は、数平均分子量が、好ましくは300〜1500、より好ましくは400〜1000の範囲が好適である。
また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、水酸基価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、水酸基価は15mgKOH/g以下のものが好適である。
【0073】
前記ポリエステル系可塑剤の重縮合は常法によって行われる。例えば、(i)上記2塩基酸とグリコールの直接反応、上記の2塩基酸またはこれらのアルキルエステル類、例えば2塩基酸のメチルエステルとグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応により熱溶融縮合法か、或いは(ii)これら酸の酸クロライドとグリコールとの脱ハロゲン化水素反応の何れかの方法により容易に合成し得るが、本発明で用いられるポリエステル系可塑剤は直接反応によるのが好ましい。
低分子量側に分布が高くあるポリエステル系可塑剤はセルロースアシレートとの相溶性が非常によく、フィルム形成後、透湿度も小さく、しかも透明性に富んだセルロースアシレートフィルムを得ることができる。
【0074】
分子量の調節方法は、特に制限なく従来の方法を使用できる。例えば、重合条件にもよるが、1価の酸または1価のアルコールで分子末端を封鎖する方法により、これらの1価の化合物を添加する量によりコントロールできる。
この場合、1価の酸がポリマーの安定性から好ましい。例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等を挙げることができるが、重縮合反応中には系外に溜去せず、停止して反応系外にこのような1価の酸を系外に除去するときに溜去し易いものが選ばれるが、これらを混合使用してもよい。
また、直接反応の場合には、反応中に溜去してくる水の量により反応を停止するタイミングを計ることによっても数平均分子量を調節できる。その他、仕込むグリコールまたは2塩基酸のモル数を偏らせることによってもできるし、反応温度をコントロールしても調節できる。
本発明で用いられるポリエステル系可塑剤の分子量は、前述のGPCによる測定方法、末端基定量法(水酸基価)を使用して測定することができる。
【0075】
本発明で用いられるポリエステル系可塑剤は、セルロースアシレートに対し1〜40質量%含有することが好ましい。特に5〜15質量%含有することが好ましい。
【0076】
以下、本発明に好ましく使用することができるポリエステル系可塑剤の具体例を挙げる。
【0077】
【化9】

【0078】
【化10】

【0079】
【化11】

【0080】
【化12】

【0081】
(2−2) 多価アルコールエステル系可塑剤
前記多価アルコールエステルは2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。
本発明に用いられる多価アルコールは次の一般式(3)で表される。
【0082】
一般式(3) R21−(OH)n
(ただし、R21はn価の有機基、nは2以上の正の整数を表す)
好ましい前記多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものをあげることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどを挙げることができる。中でも、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが好ましい。
【0083】
本発明で好ましく用いられる前記多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸などを用いることができる。
脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると、透湿性を低下させ、保留性を向上させる点で好ましい。好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。
酢酸を用いるとセルロースアシレートとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0084】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸などを挙げることができる。
【0085】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などのベンゼン環を2個以上持つ芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に、安息香酸が好ましい。
【0086】
前記多価アルコールエステルは、分子量300〜1500の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースアシレートとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0087】
前記多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は一種類でもよいし、二種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。以下に、多価アルコールエステルの具体的化合物を示す。
【0088】
【化13】

【0089】
【化14】

【0090】
【化15】

【0091】
【化16】

【0092】
【化17】

【0093】
【化18】

【0094】
前記多価アルコールエステルの含有量は、セルロースアシレートフィルム中に1〜15質量%含有することが好ましく、特に3〜10質量%含有することが好ましい。
【0095】
(3)レターデーション発現剤)
本発明のフィルムは、レターデーション発現剤を含んでいてもよい。レターデーション発現剤を採用することにより、低延伸倍率で高いRe発現性を得られる。レターデーション発現剤の種類としては、特に定めるものではないが、棒状または円盤状化合物からなるものや、前記非リン酸エステル系の化合物のうちレターデーション発現性を示す化合物を挙げることができる。上記棒状または円盤状化合物としては、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション発現剤として好ましく用いることができる。
二種類以上のレターデーション発現剤を併用してもよい。
レターデーション発現剤は、250〜400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0096】
レターデーション発現剤としては、例えば特開2004−50516号公報、特開2007−86748号公報に記載されている化合物を用いることができるが、本発明はこれらに限定されない。
円盤状化合物としては、例えば欧州特許出願公開第0911656A2号明細書に記載の化合物、特開2003−344655号公報に記載のトリアジン化合物、特開2008−150592号公報[0097]〜[0108]に記載されるトリフェニレン化合物も好ましく用いることもできる。
【0097】
円盤状化合物は、例えば特開2003−344655号公報に記載の方法、特開2005−134884号公報に記載の方法等、公知の方法により合成することができる。
【0098】
前述の円盤状化合物の他に直線的な分子構造を有する棒状化合物も好ましく用いることができ、例えば特開2008−150592号公報[0110]〜[0127]に記載される棒状化合物を好ましく用いることができる。
【0099】
(4) アクリル系ポリマー
本発明のセルロースアシレートフィルムには、重量平均分子量500〜10,000のアクリル系ポリマーをさらに添加してもよい。好ましくは、重量平均分子量500〜5000である。
前記アクリル系ポリマーを添加すると、製膜後のセルロースアシレートフィルムの透明性が優れ、透湿度も極めて低く、偏光板用保護フィルムとして優れた性能を示す。前記アクリル系ポリマーについては、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物を好ましく用いることができる。
【0100】
(5) 酸化防止剤、熱劣化防止剤
本発明では、酸化防止剤、熱劣化防止剤としては、通常知られているものを使用することができる。特に、ラクトン系、イオウ系、フェノール系、二重結合系、ヒンダードアミン系、リン系化合物のものを好ましく用いることができる。前記酸化防止剤、熱劣化防止剤については、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物を好ましく用いることができる。
【0101】
(6) 着色剤
本発明においては、着色剤を使用してもよい。着色剤と言うのは染料や顔料を意味するが、本発明では、液晶画面の色調を青色調にする効果またはイエローインデックスの調整、ヘイズの低減を有するものを指す。前記着色剤については、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物を好ましく用いることができる。
【0102】
(7) その他の添加剤
本発明で用いられるセルロースアシレートフィルムには、前記化合物以外に、通常のセルロースアシレートフィルムに添加することのできる添加剤を含有させることができる。
これらの添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、微粒子等を挙げることができる。
前記その他の添加剤については、国際公開WO2008−126535号公報に記載されている化合物を好ましく用いることができる。
【0103】
本発明に使用される微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。
微粒子は珪素を含むものが、ヘイズが低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmが好ましく、更に好ましいのは7〜20nmである。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの2次凝集体として含有されることが好ましい。
セルロース誘導体フィルム中のこれらの微粒子の含有量は0.05〜1質量%であることが好ましく、特に0.1〜0.5質量%が好ましい。共流延法による多層構成のセルロース誘導体フィルムの場合は、表面にこの添加量の微粒子を含有することが好ましい。
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600,NAX50(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
ポリマーの例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972Vがセルロース誘導体フィルムのヘイズを低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。
【0104】
[本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法]
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法とも言う)は、セルロースアシレートと、ヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造またはフラノース構造を1個〜12個含む糖エステル化合物を含有するフィルムを、Tg−5℃以上に一度も加熱されていない状態においてTg−5℃〜Tg+10℃で延伸することを特徴とする。
以下、本発明の製造方法について、説明する。
【0105】
本発明の光学フィルムの製造方法は、前記セルロースアシレートを含むフィルムを溶液流延製膜法または溶融製膜法を利用して製膜することができる。フィルムの面状を改善する観点から、本発明の光学フィルムの製造方法は、前記セルロースアシレートを含むフィルムを溶液流涎製膜により製膜する工程を含むことが好ましい。
以下、本発明の光学フィルムの製造方法を、溶液流延製膜法を用いる場合を例に説明するが、本発明は溶液流延製膜法に限定されるものではない。なお、本発明の光学フィルムの製造方法として前記溶融製膜法を用いる場合については、公知の方法を用いることができる。
【0106】
(ポリマー溶液)
溶液流延製膜方法では、前記セルロースアシレートや必要に応じて各種添加剤を含有するポリマー溶液(セルロースアシレート溶液)を用いてウェブを形成する。以下において、溶液流延製膜方法に用いることができるポリマー溶液(以下、適宜セルロースアシレート溶液と称する場合もある)について説明する。
【0107】
(溶媒)
本発明で用いられるセルロースアシレートは溶媒に溶解させてドープを形成し、これを基材上に流延しフィルムを形成させる。この際に押し出しあるいは流延後に溶媒を蒸発させる必要性があるため、揮発性の溶媒を用いることが好ましい。
更に、反応性金属化合物や触媒等と反応せず、かつ流延用基材を溶解しないものである。又、2種以上の溶媒を混合して用いてもよい。
また、セルロースアシレートと加水分解重縮合可能な反応性金属化合物を各々別の溶媒に溶解し後に混合してもよい。
ここで、上記セルロースアシレートに対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主(有機)溶媒または主たる(有機)溶媒という。
【0108】
前記良溶媒の例としてはアセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、ぎ酸メチル、ぎ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、γ-ブチロラクトン等のエステル類の他、メチルセロソルブ、ジメチルイミダゾリノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ニトロエタン、塩化メチレン、アセト酢酸メチルなどが挙げられるが、1,3−ジオキソラン、THF、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチルおよび塩化メチレンが好ましい。
【0109】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。
これらは、ドープを金属支持体に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることでウェブ(支持体上にセルロースアシレートのドープを流延した以降のドープ膜の呼び方をウェブとする)をゲル化させ、金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロースアシレートの溶解を促進したりする役割もあり、反応性金属化合物のゲル化、析出、粘度上昇を抑える役割もある。
【0110】
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。
これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、且つ毒性がないこと等からエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロースアシレートに対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
【0111】
本発明においてセルロースアシレートフィルムを構成するセルロースアシレートは、水酸基やエステル、ケトン等の水素結合性の官能基を含むため、全溶媒中に5〜30質量%、より好ましくは7〜25質量%、さらに好ましくは10〜20質量%のアルコールを含有することが流延支持体からの剥離荷重低減の観点から好ましい。
アルコール含有量を調整することによって、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのReやRthの発現性を調整しやすくすることができる。具体的には、アルコール含有量を上げることや、後述の本発明の製造方法における延伸前の乾燥温度(熱処理温度)を比較的低く設定することで、ReやRthの到達範囲をより大きくしたりすることが可能となる。
また、本発明においては、水を少量含有させることも溶液粘度や乾燥時のウェットフィルム状態の膜強度を高めたり、ドラム法流延時のドープ強度を高めるのに有効であり、例えば溶液全体に対して0.1〜5質量%含有させてもよく、より好ましくは0.1〜3質量%含有させてもよく、特には0.2〜2質量%含有させてもよい。
【0112】
本発明におけるポリマー溶液の溶媒として好ましく用いられる有機溶媒の組み合せの例については、特開2009−262551号公報に挙げられている。
【0113】
また、必要に応じて、非ハロゲン系有機溶媒を主溶媒とすることもでき、詳細な記載は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載がある。
【0114】
本発明におけるポリマー溶液中のセルロースアシレート濃度は、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましく、15〜30質量%が最も好ましい。
前記セルロースアシレート濃度は、セルロースアシレートを溶媒に溶解する段階で所定の濃度になるように調整することができる。また予め低濃度(例えば4〜14質量%)の溶液を調製した後に、溶媒を蒸発させる等によって濃縮してもよい。さらに、予め高濃度の溶液を調製後に、希釈してもよい。また、添加剤を添加することで、セルロースアシレートの濃度を低下させることもできる。
【0115】
添加剤を添加する時期は、添加剤の種類に応じて適宜決定することができる。
【0116】
このような条件を満たし好ましい高分子化合物であるセルロースアシレートを高濃度に溶解する溶剤として最も好ましい溶剤は塩化メチレン:エチルアルコールの比が95:5〜80:20の混合溶剤である。あるいは、酢酸メチル:エチルアルコール60:40〜95:5の混合溶媒も好ましく用いられる。
【0117】
(1)溶解工程
セルロースアシレートに対する良溶媒を主とする有機溶媒に、溶解釜中で該セルロースアシレート、添加剤を攪拌しながら溶解しドープを形成する工程、あるいはセルロースアシレート溶液に添加剤溶液を混合してドープを形成する工程である。
セルロースアシレートの溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号公報、特開平9−95557号公報、または特開平9−95538号公報に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号公報に記載の如き高圧で行う方法等種々の溶解方法を用いることができるが、特に主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法が好ましい。
ドープ中のセルロースアシレートの濃度は10〜35質量%が好ましい。溶解中または後のドープに添加剤を加えて溶解及び分散した後、濾材で濾過し、脱泡して送液ポンプで次工程に送る。
く用いられる。
【0118】
(2)流延工程
ドープを送液ポンプ(例えば、加圧型定量ギヤポンプ)を通して加圧ダイに送液し、無限に移送する無端の金属ベルト、例えばステンレスベルト、あるいは回転する金属ドラム等の金属支持体上の流延位置に、加圧ダイスリットからドープを流延する工程である。
ダイの口金部分のスリット形状を調整出来、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があり、何れも好ましく用いられる。金属支持体の表面は鏡面となっている。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。あるいは複数のドープを同時に流延する共流延法によって積層構造のフィルムを得ることも好ましい。
【0119】
(3)溶媒蒸発工程
ウェブ(セルロースアシレートフィルムの完成品となる前の状態であって、まだ溶媒を多く含むものをこう呼ぶ)を金属支持体上で加熱し、金属支持体からウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる工程である。
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/または金属支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱の方法が、乾燥効率がよく好ましい。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。裏面液体伝熱の場合は、ドープ使用有機溶媒の主溶媒または最も低い沸点を有する有機溶媒の沸点以下で加熱するのが好ましい。
【0120】
(4)剥離工程
金属支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。剥離されたウェブは次工程に送られる。なお、剥離する時点でのウェブの残留溶媒量(下記式)があまり大き過ぎると剥離し難かったり、逆に金属支持体上で充分に乾燥させ過ぎてから剥離すると、途中でウェブの一部が剥がれたりする。
ここで、製膜速度を上げる方法(残留溶媒量ができるだけ多いうちに剥離することで製膜速度を上げることができる)としてゲル流延法(ゲルキャスティング)がある。例えば、ドープ中にセルロースアシレートに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、金属支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。金属支持体上でゲル化させ剥離時の膜の強度を上げておくことによって、剥離を早め製膜速度を上げることができる。
金属支持体上でのウェブの剥離時残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、金属支持体の長さ等により5〜150質量%の範囲で剥離することが好ましいが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。本発明においては、該金属支持体上の剥離位置における温度を−50〜40℃とするのが好ましく、10〜40℃がより好ましく、15〜30℃とするのが最も好ましい。
【0121】
また、該剥離位置におけるウェブの残留溶媒量を10〜150質量%とすることが好ましく、更に10〜120質量%とすることが好ましい。
残留溶媒量は下記の式で表すことができる。
残留溶媒量(質量%)=[(M−N)/N]×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、Nは質量Mのものを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0122】
(5)乾燥または熱処理工程、延伸工程
本発明の製造方法では、セルロースアシレートフィルムをTg−5℃以上に一度も加熱されていない状態においてTg−5℃〜Tg+10℃で延伸する。
前記剥離工程後、ウェブを乾燥装置内に複数配置したロールに交互に通して搬送する乾燥装置、および/またはクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター装置を用いて、ウェブを乾燥する。
【0123】
本発明の製造方法では、延伸する前にウェブを熱処理しても、熱処理しなくてもよいが、熱処理する場合は、セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度をTgとしたとき、Tg−5℃以上に一度も加熱しないことが特徴である。
ここで、従来、WO2008−126535号公報によれば、液晶表示装置に組み込んだときにコントラストを上昇させることができるフィルムは、延伸前にセルロースアシレートフィルムを延伸温度よりも高い条件で加熱して製造しており、特に従来好ましくは延伸温度よりも20℃以上高くしていた。このような本来、レターデーションを発現させるための延伸に必要がない加熱工程が含まれると、燃料コストが顕著に増加し、さらに加熱手段や装置が延伸装置以外に別途必要になることもある。そのため、このようなコントラストを上昇させることができる従来のフィルムは製造コストの観点からは不満が残るものとなってしまっており、熱処理温度を下げて製造コストを大幅に削減することが求められていた。しかしながら、従来WO2008−126535号公報の実施例に記載されているフィルムの熱処理温度を低下させた場合には、正面コントラストが大幅に低下してしまうことが、本発明者らの検討により判明した。そのため、従来のコントラストを上昇させることができるフィルムは、プロセス上、製造コストをそれ以上下げることができないものであった。
本発明では、このように延伸前にTg−5℃以上に一度も加熱しない場合であっても、本発明のフィルムは前記糖エステル化合物をセルロースアシレートに添加し、かつ、後述の温度で延伸することで、フィルムの全ヘイズおよび内部ヘイズを本発明の範囲とすることができる。また、このような本発明のフィルムは、製造コストが従来よりも低いにもかかわらず、液晶表示装置に組み込んだときにコントラストを高めることができる。
【0124】
本発明において熱処理をする場合、該熱処理温度はTg−5℃未満であり、Tg−20℃以上Tg−5℃未満であることが好ましく、Tg−15℃以上Tg−5℃未満であることがより好ましい。
また、熱処理温度は、30分以下であることが好ましく、20分以下であることがより好ましく、10分程度であることが特に好ましい。
【0125】
乾燥および熱処理の手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウエーブを当てて加熱する手段もある。使用する溶媒によって、温度、風量及び時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて条件を適宜選べばよい。
【0126】
本発明の製造方法では、フィルム搬送方向(以下、縦方向とも言う)とフィルム搬送方向に直交する方向(以下、横方向とも言う)のいずれの方向に延伸してもよいが、少なくとも直交方向に延伸することが、所望のレターデーションを発現させる観点から好ましい。さらに好ましくは縦及び横方向に2軸延伸されたものである。延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。
【0127】
フィルム搬送方向への延伸における延伸倍率は、0〜20%であることが好ましく、0〜15%であることがより好ましく、0〜10%であることが特に好ましい。前記延伸の際のセルロースアシレートウェブの延伸倍率(伸び)は、金属支持体速度と剥ぎ取り速度(剥ぎ取りロールドロー)との周速差により達成することができる。例えば、2つのニップロールを有する装置を用いた場合、入口側のニップロールの回転速度よりも、出口側のニップロールの回転速度を速くすることにより、搬送方向(縦方向)にセルロースアシレートフィルムを好ましく延伸することができる。このような延伸を行うことによって、レターデーションの発現性を調整することができる。
なお、ここでいう「延伸倍率(%)」とは、以下の式により求められるものを意味する。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
【0128】
フィルム搬送方向に直交する方向への延伸における延伸倍率は、0〜50%であることが好ましく、10〜50%であることがより好ましく、20〜40%であることが特に好ましい。
なお、本発明においては、フィルム搬送方向に直交する方向に延伸する方法として、テンター装置を用いて延伸することが好ましい。
【0129】
2軸延伸の際に縦方向に、例えば0.8〜1.0倍に緩和させて所望のリターデーション値を得ることもできる。延伸倍率は目的の光学特性に応じて設定される。また、本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する場合、長尺方向に一軸延伸することもできる。
【0130】
本発明の製造方法では、延伸の際の温度はTg−5℃〜Tg+10℃であり、Tg−5℃〜Tg+5℃であることが好ましく、Tg−5℃〜Tg+3℃であることが特に好ましい。このような温度範囲でフィルムを延伸することにより、本発明のフィルムの全ヘイズおよび内部ヘイズを低下させることができ、好ましい。
【0131】
なお、延伸工程後に乾燥してもよい。延伸工程後に乾燥する場合、使用する溶媒によって、乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて乾燥条件を適宜選べばよい。本発明では、延伸工程後の乾燥温度は、延伸工程の延伸温度よりも低い方が、本発明のフィルムを液晶表示装置に組み込んだときの正面コントラストを上昇させる観点から好ましい。
【0132】
(6)巻き取り
以上のようにして得られた、光学フィルムの長さは、1ロール当たり100〜10000mで巻き取るのが好ましく、より好ましくは500〜7000mであり、さらに好ましくは1000〜6000mである。光学フィルムの幅は、0.5〜5.0mが好ましく、より好ましくは1.0〜3.0mであり、さらに好ましくは1.0〜2.5mである。巻き取る際、少なくとも片端にナーリングを付与するのが好ましく、ナーリングの幅は3mm〜50mmが好ましく、より好ましくは5mm〜30mm、高さは0.5〜500μmが好ましく、より好ましくは1〜200μmである。これは片押しであっても両押しであってもよい。
【0133】
本発明のフィルムは、特に大画面液晶表示装置に用いるのに適している。大画面用液晶表示装置用の光学補償フィルムとして用いる場合は、例えば、フィルム幅を1470mm以上として成形するのが好ましい。また、本発明の光学補償フィルムには、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様のフィルムのみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様のフィルムも含まれる。後者の態様の光学補償フィルムは、その状態で保管・搬送等され、実際に液晶表示装置に組み込む際や偏光子等と貼り合わされる際に、所望の大きさに切断されて用いられる。また、同様に長尺状に作製されたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光子等と、長尺状のまま貼り合わされた後に、実際に液晶表示装置に組み込む際に、所望の大きさに切断されて用いられる。ロール状に巻き上げられた光学補償フィルムの一態様としては、ロール長が2500m以上のロール状に巻き上げられた態様が挙げられる。
【0134】
このようにして得られたウェブを巻き取り、最終完成物であるセルロースアシレートフィルムを得ることができる。
【0135】
本発明のセルロースアシレートフィルムの膜厚は20〜200μmであることが好ましく、20〜60μmであることがより好ましく、20〜50μmであることが更に好ましい。20μm未満であると機械的強度が不足し生産時の破断等の故障が起こり易く、フィルム面状が悪くなりやすい。また、熱処理の効果は20〜200μmの範囲において顕著である。
【0136】
フィルム厚さの調整は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節すればよい。
【0137】
[偏光板]
本発明の偏光板は、本発明のフィルムを少なくとも1枚含む。以下、本発明の偏光板について説明する。
【0138】
本発明の偏光板は、一般的な方法で作製することができる。例えば、本発明の位相差を発現させたフィルムであるセルロースアシレートフィルムをアルカリ鹸化処理した後に、偏光子の両面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。
アルカリ鹸化処理とは、水系接着剤の濡れを良くし、接着性を向上させるために、セルロース誘導体フィルムを高温の強アルカリ液中に浸ける処理のことをいう。
【0139】
本発明の偏光板に用いる偏光子としては、従来公知のものを用いることができる。例えば、ポリビニルアルコールあるいはエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、けん化度99.0〜99.99モル%であるエチレン変性ポリビニルアルコールの如き親水性ポリマーからなるフィルムを、ヨウ素の如き二色性染料で処理して延伸したものや、塩化ビニルの如きプラスチックフィルムを処理して配向させたものを用いる。
偏光子の膜厚としては、5〜30μmのものが好ましく用いられる。こうして得られた偏光子を、セルロース誘導体フィルムと貼合する。
このとき、セルロールアシレートフィルムのうちの少なくとも一枚は、本発明の位相差フィルムが用いられる。もう一方の面には、別のセルロース誘導体フィルムを用いることができる。
もう一方の面に本発明のフィルム用に製造したセルロースアシレートフィルムを用いてもよいし、市販のセルロースエステルフィルムを表面側のもう一方の面の偏光板保護フィルムとして用いることができる。
表示装置の表面側に用いられる偏光板保護フィルムには防眩層あるいはクリアハードコート層のほか、反射防止層、帯電防止層、防汚層を有することが好ましい。
また、偏光板の作製時には、本発明の位相差フィルムの面内遅相軸と偏光子の透過軸が平行或いは直交するように貼合することが好ましい。
【0140】
[液晶表示装置]
本発明の液晶表示装置は、本発明のフィルムまたは本発明の偏光板を少なくとも1枚含む。
本発明の液晶表示装置は、上記のようにして得られる、本発明の偏光板を、液晶セルの両面に配置して貼合し、本発明の液晶表示装置を作製することができる。また本発明の位相差フィルムはTN,VA,OCB,HAN等の各種駆動方式の液晶表示装置で好ましく用いられる。
【0141】
本発明の液晶表示装置は前記液晶表示装置が、VA型液晶セルと、フロント側基板およびリア側基板を有し、前記リア側基板の部材コントラスト(CRr)に対する前記フロント側基板の部材コントラスト(CRf)の比(CRf/CRr)が、0.3〜2.8であることが好ましい。
【0142】
図1に本発明のVA型液晶表示装置の一例の断面模式図を示す。なお、図中、各層の厚みの相対的関係は、実際の液晶表示装置の各層の厚みの相対的関係と必ずしも一致しているものではない。
図1に示すVA型液晶表示装置は、VA型液晶セルLC、ならびにそれを挟んで、リア側偏光板PL1及びフロント側偏光板PL2を有する。リア側偏光板PL1のさらに外側には、バックライト10が配置され、バックライト10からの光は、リア側偏光板PL1、液晶セルLC、及びフロント側偏光板PL2の順に入射するように構成されている。液晶セルLCはVAモードの液晶セルであり、黒表示時には、ホメオトロピック配向になる。液晶セルLCは、ガラス等からなる上側基板26と下側基板24を対向させることで構成されており、前記基板上には配向膜(図示せず)と電極層(図示せず)を有し、さらにフロント側の基板上には、カラーフィルタ層(図示せず)を有する。
【0143】
リア側偏光板PL1は、偏光子12と、その表面に、第1の位相差フィルム16及び外側保護フィルム20をそれぞれ有し、並びにフロント側偏光板PL2は、偏光子14と、その表面に第2の位相差フィルム18及び外側保護フィルム22とをそれぞれ有する。偏光子12及び14は、その吸収軸を互いに直交方向にして配置されている。リア側偏光板PL1の偏光子12と液晶セルLCとの間に配置される第1の位相差フィルムは、30nm≦Re(590)≦90nm、かつ90≦|Rth(590)|≦150nmを満足する位相差フィルムであることが好ましい。位相差フィルムは複数存在していてもよい。即ち、偏光子12と液晶セルLCとの間には複数の位相差フィルムが存在していてもよいが、複数枚の合計の位相差が上記特性を満足することが好ましい。偏光子12と液晶セルLCとの間に配置する位相差フィルムが、上記特性を満足することにより、図1に示すVA型液晶表示装置では、バックライト10からの斜め入射光が、液晶セルLCに入射する前に楕円偏光化するのが抑制される。その結果、高い正面CRを達成できる。
【0144】
本発明者が鋭意検討した結果、本発明の効果は、VA型液晶セルのリア側基板(図1中基板24と基板上に形成されたすべての部材を含む)の部材コントラスト(CRr)に対するフロント側基板(図1中基板26と基板上に形成されたすべての部材を含む)の部材コントラストCRfの比(CRf/CRr)が0.3〜2.8、即ち、CRf/CRrが0.3〜2.8の態様で、本発明の効果が顕著になることがわかった。ここで、VA型液晶セル(図1中のLC)を2枚の基板(図1中の基板24および26)に分解したときに、フロント側の基板(図1中基板26)とその基板上に形成されていた部材の総称をフロント側基板といい、リア側の基板(図1中基板24)とその基板上に形成されていた部材の総称をリア側基板というものとする。当該部材の例には、カラーフィルタ、ブラックマトリックス、アレイ部材(TFTアレイ等)、基板上の突起部、共通電極、スリット等、種々の部材が含まれる。即ち、液晶セルのリア側基板及びフロント側基板の部材コントラストとは、各基板と各基板上に形成されている種々の部材のトータルのコントラストをいうものとする。測定方法の詳細については、後述する実施例に記載がある。
【0145】
本発明者が鋭意検討した結果、液晶表示装置の正面CRには、リア側偏光子と液晶セルとの間の第1の位相差領域のレターデーションが大きく影響することが分かった。この理由は、液晶セルの各部材(例えば、液晶層、カラーフィルタ、ブラックマトリックス、アレイ部材、基板に形成された突起部、共通電極部材、スリット部材など)において散乱や回折といった光学現象が生じるが、それら光学現象に偏光依存性があるためである。以下、詳細に説明する。
一般的には、VA型液晶表示装置では、黒表示時には液晶層は垂直配向状態になるので、リア側偏光子を通過し、法線方向に進む直線偏光は、その後、液晶層を通過してもその偏光状態は変化せず、原則として全てフロント側偏光子の吸収軸で吸収される。即ち、原則として、黒表示時には法線方向には光漏れはないといえる。しかし、VA型液晶表示装置の黒表示時の正面透過率はゼロではない。この理由の1つは、液晶層中の液晶分子が揺らいでいるためであり、液晶層に入射した光がある程度その揺らぎによって散乱されるためであることが知られている。液晶層に入射した光が、完全に、フロント側偏光子の吸収軸で吸収される直線偏光成分しか含んでいないほど、その影響が大きくなり、正面の光漏れが多くなる傾向がある。即ち、リア側に配置される位相差領域の位相差が大きく、高い楕円偏光率の楕円偏光に変換されているほど、この揺らぎによる正面の光漏れを軽減できる。
【0146】
しかし、本発明者が検討した結果、液晶層中の液晶分子の揺らぎ以外に、リア側偏光子と液晶層との間の位相差領域の位相差にもその一因があることがわかった。バックライトからの指向性のある光がリア側偏光子を通過して、斜め方向から当該位相差領域に入射すると、その位相差によって直線偏光は楕円偏光に変換される。この楕円偏光は、液晶セル中のアレイ部材、及びカラーフィルタ層によって回折及び散乱され、少なくとも一部は正面方向に進む光となる。当該楕円偏光には、フロント側偏光子の吸収軸でブロックできない直線偏光成分が含まれるため、黒表示時においても正面方向に光が漏れ、正面CR低下の原因になる。このアレイ部材やカラーフィルタ層を通過することによって生じる光学現象は、例えば、アレイ部材やカラーフィルタ層の表面が完全に平滑ではなく、ある程度の凹凸があることや、当該部材中に散乱因子等が含有されることによる。このアレイ部材やカラーフィルタ層を通過することによって生じる光学現象が、正面方向の光漏れに与える影響は、前記した液晶層中の液晶分子が揺らいでいることによる影響よりも大きい。
【0147】
さらに本発明者が鋭意検討した結果、位相差領域を通過することで楕円偏光となった光が液晶セル中の所定の部材を通過する際に受ける光学現象(回折及び散乱等)は、光が液晶層に入射する前に当該部材を通過するか、又は液晶層を通過した後に当該部材を通過するかで、正面方向の光漏れに影響する態様が異なることがわかった。図1中、例えば、図2に示す通り、リア側基板24の内面にアレイ部材が配置されていて、且つフロント側基板26の内面にカラーフィルタが配置されているとすると、光は、液晶層に入射する前にアレイ部材を通過し、液晶層を通過した後にカラーフィルタを通過することになる。
光が液晶層に入射する前に通過する部材(例えばアレイ部材)では、入射光の楕円偏光率は、その前に通過するリア側位相差領域(第1の位相差領域)の位相差によって決まる。一方で、液晶層に入射した後に通過する部材(例えばカラーフィルタ)では、リア側位相差領域の位相差に加えて、液晶層の位相差によって決まる。ここで、VA用液晶表示装置の場合、通常、液晶層のΔnd(590) (dは液晶層の厚さ(nm)、Δn(λ)は液晶層の波長λにおける屈折率異方性であり、Δnd(λ)はΔn(λ)とdの積のことである。)は280〜350nm程度に設定される。アレイ部材の光漏れが少なくなるようにリア側位相差領域の位相差を設定しても、液晶を通過すると楕円率は逆に大きくなる。リア側位相差領域の位相差が大きいほど入射偏光の楕円率が小さくなるので、液晶層を通過する前に光が入射する部材であるか、液晶層を通過した後に光が入射する部材であるかによって、当該部材が正面方向の光漏れに影響する作用が逆転する。
【0148】
なお、リア側の第1の位相差領域のレターデーションが、正面CRに与える影響は、低い正面CRの液晶表示装置ではほとんど無視できる程度である。しかし、近年提供されている、高い正面CR(例えば、正面CRが1500以上)の液晶表示装置について、さらなる正面CRの改善を図るためには、この影響を無視することはできない。本発明は、正面CRが1500以上の液晶表示装置について、正面CRをさらに改善するのに特に有用である。
【0149】
なお、図2では、一例として、フロント側基板26の内面にカラーフィルタ(CF)が、リア側基板24の内面にアレイ部材がある、通常の液晶セル構成を図示したが、本発明の液晶表示装置では、CF及びアレイ部材の位置は任意である。例えば、カラーフィルタオンアレイ(COA)の様に、CFがアレイ部材を有するリア側基板側に配置されている態様も、本発明に含まれることは勿論である。
【0150】
上記した通り、リア側基板(図1中基板24)の部材コントラスト(CRr)に対するフロント側基板(図1中基板26)の部材コントラストCRfの比(CRf/CRr)が0.3〜2.8、即ち、CRf/CRrが0.3〜2.8、を満足する態様で、本発明の効果が顕著になることがわかった。この関係を満足する液晶セルの例としては、例えば、リア側基板がCOA基板である液晶セルがある。COAに関しては、特開2005−99499号公報及び特開2005−258004号公報に詳細な記載がある。
【0151】
なお、前述のように、CF、ブラックマトリックス、アレイ部材での光学現象による、黒表示時の光漏れの入射偏光状態依存性は、すべて同じ傾向を示すが、ブラックマトリックスの寄与は相対的に小さいため、CFがアレイ部材を有するリア側基板側に配置されたCOAの液晶表示装置におけるブラックマトリックスの位置は、液晶セル内のいずれでもよく、リア側偏光子と液晶層の間に位置することが好ましい。
【0152】
また、CRf/CRrが0.3〜2.8、を満足する液晶セルの例には、カラーフィルタを有さない液晶セル、及びカラーフィルタを有さず、フィールドシーケンシャル駆動の液晶セルが挙げられる。フィールドシーケンシャル駆動の液晶セルについては、特開2009−42446号公報、特開2007−322988号公報、及び特許第3996178号公報等に詳細な記載があり、参照することができる。フィールドシーケンシャル駆動では、独立した3原色光が順次発光するバックライトユニットが利用される。光源としてLEDを備えたバックライトユニットが好ましく、例えば、赤、緑、青の3色を発光するLED素子を光源として備えるバックライトユニットが好ましく利用される。
【0153】
また、リア側基板にアレイ部材が配置され、フロント側基板にカラーフィルタが配置されている通常の態様の液晶セルであっても、カラーフィルタのコントラストが高い態様であれば、勿論、上記条件、CRf/CRrが0.3〜2.8を満足し、本発明の好ましい態様となる。高コントラストのカラーフィルタの例としては、従来のCFに使用される顔料と比較して、より微小な粒径の顔料を使用したカラーフィルタが挙げられる。顔料を使用した高コントラストのカラーフィルタの作製方法の例としては、以下の2つの方法が挙げられる。
(i)顔料粒子をサンドミルやロールミル、ボールミルといった分散機を用いて機械的により細かく粉砕する方法であって、例えば、特開2009−144126号公報等に称さない記載があり、参照することができる。
(ii)顔料を溶剤に溶解させた後に再析出させることで微細な顔料粒子を調整する方法であって、例えば、特開2009−134178号公報に詳細な記載がある。
また、顔料以外に、染料を利用して高コントラストのカラーフィルタを作製する方法も提案されている。特開2005−173532号公報に詳細な記載があり、参照することができる。
【0154】
再び、図1において、フロント側偏光板PL2が有する第2の位相差フィルム18の光学特性は、斜め方向のコントラストの改善、及び黒表示時のカラーシフトの軽減に寄与するものであるのが好ましい。なお、VA型液晶セルLCの液晶層のΔnd(λ)は、上記した通り、一般的には、280〜350nm程度である。第2の位相差フィルム18のレターデーション、特にRth、の好ましい範囲は、液晶層のΔnd(λ)の値に応じて変動する。斜めコントラスト改善のため、Δnd(λ)に対する、好ましい位相差フィルムの組み合わせについては、種々の公報に記載があり、例えば、特許3282986号、第3666666号及び第3556159号等に記載があり、参照することができる。
第2の位相差領域の光学特性の好ましい範囲については、前記第1の位相差領域の光学特性の好ましい範囲と同様であり、前記第1の位相差領域および前記第2の位相差領域として本発明のフィルムを2枚用いることが好ましい。
【0155】
なお、VA型液晶セルのΔnd(590)は一般的に280〜350nm程度であるが、これは白表示時の透過率をなるべく高くするためである。一方で、Δnd(590)が280nm以下の場合、Δnd(590)の低下に伴い白輝度がわずかに低下するものの、セルの厚みdが小さくなるため、高速応答性に優れる液晶表示装置となる。高い正面CRが得られるという本発明の特徴は、いずれのΔnd(590)の液晶表示装置においても効果がある。
【0156】
図1のVA型液晶表示装置では、第1の位相差フィルム16及び第2の位相差フィルム18が、それぞれ偏光子12及び14の保護フィルムとしても機能している実施形態を示したが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、第1の位相差フィルム及び第2位相差フィルムのそれぞれと、偏光子12及び14との間には、別途、偏光子の保護フィルムが配置されていてもよい。
また、リア側偏光子12は、そのバックライト10側の表面に、保護フィルム20を有してもよく、さらにその表面に、防汚性フィルム、アンチリフレクションフィルム、アンチグレアフィルム、アンチスタチックフィルム等の機能性フィルムを有していてもよく、また、同様に、フロント側偏光子14は、その表示面側表面に、保護フィルム22を有するが、さらにその表面に、防汚性フィルム、アンチリフレクションフィルム、アンチグレアフィルム、アンチスタチックフィルム等の機能性フィルムを有していてもよい。
【0157】
本発明のVA型液晶表示装置のモードについてはいずれであってもよく、具体的にはMVA(Multi-domain Vertical Alignment)型、PVA(Patterned Vertical Alignment)型、光配向型(Optical Alignment)、及びPSA(Polymer-Sustained Alignment)のいずれであってもよい。これらのモードの詳細については、特開2006−215326号公報、及び特表2008−538819号公報に詳細な記載がある。
【0158】
上記した通り、本発明では、高コントラストのカラーフィルタを用いてもよいが、勿論、通常の液晶表示装置が有するカラーフィルタを利用してもよい。カラーフィルタは、一般的には、基板の画素部位に複数の異なる色(例えば赤、緑、青の光の3原色、透明、黄色、シアンなど)を配列したカラーフィルタである。その作製方法は様々であり、例えば、着色のための材料(有機顔料、染料、カーボンブラックなど)を用い、カラーレジストと呼ばれる着色感光性組成物(無色の場合もある)を調製し、これを基板の上に塗布して層を形成し、フォトリソグラフィ法によりパターン形成するのが一般的である。前記着色感光性組成物を基板の上に塗布する方法も様々であり、例えば初期には、スピン・コーター法が採用され、省液の観点で、スリット&スピン型コーター法が採用され、現在では、スリット・コーター法が一般的に採用されている。その他にロールコーティング法、バーコーティング法、ダイコーティング法などがある。また近年では、フォトリソグラフィにより離画壁とよばれるパターンを形成した後に、インクジェット方式により画素の色を形成することも行なわれている。この他に、着色非感光性組成物と感光性ポジ型レジストを組み合わせた方法、印刷法、電着法、フィルム転写法によるものなどが知られている。本発明に利用するカラーフィルタは、いずれの方法で作製されたものであってもよい。
【実施例】
【0159】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0160】
本発明では、下記の測定方法により測定を行った。
【0161】
(光学発現性)
KOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)で上記の方法によりReおよびRthを波長590nmで計測した。その結果を下記表5に記載した。
【0162】
(全ヘイズ)
全ヘイズの測定は、本発明のフィルム試料40mm×80mmを、25℃、相対湿度60%で、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)でJIS K−6714に従って測定した。その結果を下記表5に示す。
【0163】
(内部ヘイズ)
得られたセルロースアシレートフィルムの両面にグリセリン数滴を滴下し、厚さ1.3mmのガラス板(MICRO SLIDE GLASS品番S9213、MATSUNAMI製)2枚で両側から挟んだ状態で測定したヘイズ値から、ガラス2枚の間にグリセリンを数滴滴下した状態で測定したヘイズを引いた値(%)を測定した。その結果を下記表5に示す。
【0164】
[実施例1〜11および比較例1〜16]
(1)合成によるセルロースアシレート樹脂の調製
表5に記載のアシル置換度のセルロースアシレートを調製した。触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、各カルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。その後、硫酸触媒量、水分量および熟成時間を調整することで全置換度と6位置換度を調整した。熟成温度は40℃で行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
【0165】
(2)ドープ調製
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、さらに90℃に約10分間加熱した後、平均孔径34μmのろ紙および平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
実施例1のセルロースアシレート溶液
――――――――――――――――――――――――――――――――――
下記表5に記載のセルロースアシレート 100.0質量部
下記表5に記載の糖エステル(1) 8.0質量部
下記表5に記載のポリエステル(1) 1.5質量部
メチレンクロライド 403.0質量部
メタノール 60.2質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
なお、下記表5中、Acはアセチル基を表し、Prはプロピオニル基を表す。
<1−2> マット剤分散液
次に上記方法で作成したセルロースアシレート溶液を含む下記組成物を分散機に投入し、マット剤分散液を調製した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
実施例1のマット剤分散液
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・マット剤(アエロジルR972) 0.2質量部
・メチレンクロライド 72.4質量部
・メタノール 10.8質量部
・セルロースアシレート溶液 10.3質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
上記実施例1のセルロースアシレート溶液を100質量部、実施例1のマット剤分散液をセルロースアシレート樹脂に対して無機微粒子が0.02質量部となる量を混合し、製膜用ドープを調製した。
【0166】
下記表5に示したように熱可塑性樹脂の種類、添加剤添加量を変更した以外は実施例1のドープと同様にして、その他の各実施例および比較例のドープを調製した。なお、比較例3〜9はそれぞれ国際公開WO2008/1236535号公報の実施例フィルムNO.1〜No.7を追試したものである。また、比較例10〜16は、それぞれ国際公開WO2008/1236535号公報の実施例フィルムNO.1〜No.7の熱処理温度を、下記表5に記載の温度に変更したものである。
【0167】
ポリエステル(1):
【化19】

【0168】
多価アルコールエステル(1):
【化20】

【0169】
(3)流延
上述のドープを、バンド流延機を用いて流延した。なお、バンドはSUS製であった。
【0170】
(4)乾燥
流延されて得られたウェブ(フィルム)を、下記表5に記載の温度で剥離前のバンド上で乾燥装置を用いて20分間乾燥した。また、別の態様として、バンドから剥離後、クリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター装置を用いて該テンター装置内で20分間乾燥した。これら2つの態様で得られる結果は同様であった。なお、ここでいう乾燥温度とは、フィルムの膜面温度のことを意味する。
【0171】
(5)延伸
得られたウェブ(フィルム)をバンドから剥離し、クリップに挟み、フィルム全体の質量に対する残留溶媒量が30〜5%の状態のときに固定端一軸延伸の条件で、下記表5に記載の延伸温度および延伸倍率でテンターを用いてフィルム搬送方向に直交する方向(横方向)に延伸した。
その後にフィルムからクリップを外して110℃で30分間乾燥させた。このとき、延伸後の膜厚が表1に記載の膜厚(単位:μm)になるように、流延膜厚を調整した。表5に示した組成のフィルムを作製し、その製造適性を判断する目的で、ロール幅1280mm、ロール長2600mmのロールを上記条件で最低24ロール作製した。連続で製造した24ロールの中の1ロールについて100m間隔で長手1mのサンプル(幅1280mm)を切り出して各測定を行った。
【0172】
(偏光板の作成)
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光子を作製した。作製した各実施例および比較例のフィルムを、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の片側に貼り付けた。なお、ケン化処理は以下のような条件で行った。
1.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を調製し、55℃に保温した。0.005mol/Lの希硫酸水溶液を調製し、35℃に保温した。各実施例および比較例で作製したフィルムを上記の水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬した後、水に浸漬し水酸化ナトリウム水溶液を十分に洗い流した。次いで、上記の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流した。最後に試料を120℃で十分に乾燥させた。
市販のセルローストリアシレートフィルム(フジタックTD80UF、富士フイルム(株)製)にケン化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の反対側に貼り付け、70℃で10分以上乾燥した。
偏光子の透過軸と各実施例および比較例のフィルムの遅相軸とは平行になるように配置した。偏光子の透過軸と市販のフィルムの遅相軸とは直交するように配置した。
【0173】
(液晶表示装置の作成)
ガラス基板上に、特開2009−141341号公報中に記載の実施例20に従い、TFT素子を作製し、さらにTFT素子上に保護膜を形成した。続いて、保護膜にコンタクトホールを形成した後、上記保護膜上に、TFT素子と電気的に接続したITOの透明電極を形成し、アレイ基板を作製した。
着色感光性組成物に特開2009−144126号公報中に記載の実施例17、18及び19に記載の通り調製した組成物をそれぞれ用い、並びに特表2008−516262号公報の[0099]〜[0103]中に記載の実施例9aに記載のプロセスに従い、カラーフィルタ基板を作製した。
上記作製したカラーフィルタ基板上に、ITOの透明電極をスパッタリングにより形成し、次いで、特開2006−64921号公報の実施例1に従い、このITO膜上の隔壁(ブラックマトリックス)上部に相当する部分にスペーサを形成した。
前記作製したアレイ基板及びカラーフィルタ基板の透明電極にそれぞれPVAモード用にパターニングを施し、その上に更に垂直ポリイミドよりなる配向膜を設けた。
その後、カラーフィルタのRGB画素群を取り囲むように周囲に設けられたブラックマトリクス外枠に相当する位置に紫外線硬化樹脂のシール剤をディスペンサ方式により塗布し、PVAモード用液晶を滴下し、アレイ基板と貼り合わせ、貼り合わされた基板をUV照射した後、熱処理してシール剤を硬化させた。このようにして液晶セルを作製した。
作製した液晶セルのΔnd(550)をAXOMETRICS社製のAXOSCANと付属のソフトを使用して測定し、Δnd(550)が300nmであるものを選別し、液晶セル1として使用した。
液晶セル1の光源には、LC−32GH5に使用されていたバックライトを使用し、アレイ基板側に光源を配置した。
【0174】
(作製した液晶セルのフロント側基板およびリア側基板の部材コントラストの算出)
液晶セル1を分解して、視認側に配置されていた基板をフロント側基板、光源側に配置されていたアレイ基板をリア側基板とし、エタノールで表面を洗浄した後、フロント側基板およびリア側基板の部材CRの算出に使用した。
SHARP社製の液晶パネル「LC−32DE5」のバックライト上に、偏光板(HLC2−2518、サンリッツ社製)を配置し、その上に、前述の液晶セル1のフロント側基板、又はリア側基板を、回転ステージ(SGSP−120YAW、シグマ光機製)に取り付けて光源上の偏光板と2mm間隔で平行に配置した。このとき、リア側基板にあるアレイの配線およびフロント基板のブラックマトリックスが偏光板の偏光軸と一致するように配置した。さらにその上に、回転ステージに取り付けた偏光板(HLC2−2518、サンリッツ社製)を、偏光板間の距離が52mmになるように配置し、測定器(BM5A、TOPCON社製)を用いて、暗室において、法線方向の黒表示および白表示の輝度値を測定し、正面コントラストA(白輝度/黒輝度)を算出した。ここで、偏光板を回転させたときに、最も輝度値が低くなるときを黒表示の輝度値とし、さらに偏光板を90度回転させた場合の輝度値を白表示の輝度値とした。
次に、前述の形態において、カラーフィルタ基板またはアレイ基板を取り外した形態で、偏光板のみの黒表示および白表示の輝度値を測定し、正面コントラストBを算出した。
正面コントラストAにおける、偏光板の正面コントラストBの影響を排除するため、次の式で部材コントラストを算出した。
部材コントラスト=1/{(1/正面コントラストA)−(1/正面コントラストB)}
液晶セル1の算出した部材コントラストは2.0であった。
【0175】
(偏光板加工後の実装時のコントラスト)
VA型液晶セルとして、上記液晶セル1を使用したときの正面コントラストを測定した。
測定器(BM5A、TOPCON社製)を用いて、暗室において、パネル法線方向の黒表示および白表示の輝度値を測定し、正面コントラスト(白輝度/黒輝度)を算出した。
この液晶表示装置に対して、コントラストを測定した。その結果を下記表5に記載した。
【0176】
【表5】


【0177】
表5より、本発明のセルロースアシレートフィルムはいずれも延伸前にフィルム温度を一度もTg−5℃以上に加熱していないにも関わらず、液晶表示装置に組み込んだときの正面コントラストを比較例1〜9と同等以上になることがわかった。また、比較例10〜16より、比較例3〜9に記載の国際公開WO2008/126535号公報の実施例のフィルムを熱処理しなかった場合には、液晶表示装置に組み込んだときの正面コントラストが著しく低下してしまうことがわかった。
【0178】
[実施例201、202、301、302、比較例212および312:他のVA型液晶表示装置の作製]
実施例1、2および比較例12で得られたフィルムを以下の構成の他のVA型液晶表示装置に組み込んだ。なお、各実施例および比較例のフィルムは、それぞれ下記VA型液晶表示装置の中に2枚ずつ用いられている。
【0179】
VA型液晶セル2の準備
TFT素子構造を変更したアレイ基板と、着色感光性組成物に特開2009−144126号公報中に記載の実施例2、10及び比較例6に記載の通り調製した組成物を使用したカラーフィルタ基板を使用した以外は、液晶セル1と同様の方法で液晶セル2を作製した。
作製した液晶セルのΔnd(550)をAXOMETRICS社製のAXOSCANと付属のソフトを使用して測定し、Δnd(550)が300nmであるものを選別し、液晶セル2として使用した。
液晶セル2の光源には、LC−32GH5に使用されていたバックライトを使用し、アレイ基板側に光源を配置した。
【0180】
VA型液晶セル3の準備
TFT素子構造を変更したアレイ基板と、着色感光性組成物に特開2009−203462号公報中に記載の実施例14、22及び27に記載の通り調製した組成物を使用したカラーフィルタ基板を使用した以外は、液晶セル1と同様の方法で液晶セル3を作製した。
作製した液晶セルのΔnd(550)をAXOMETRICS社製のAXOSCANと付属のソフトを使用して測定し、Δnd(550)が300nmであるものを選別し、液晶セル3として使用した。
液晶セル3の光源には、LC−32GH5に使用されていたバックライトを使用し、アレイ基板側に光源を配置した
【0181】
【表6】

【0182】
液晶セル2および3を用いたときの結果を、液晶セル1を用いた実施例1、2および比較例12の結果とあわせて下記表7に示す。
【0183】
【表7】

【0184】
表7より、本発明のフィルムを用いた場合、リア側基板の部材コントラスト(CRr)に対する前記フロント側基板の部材コントラスト(CRf)の比(CRf/CRr)が、0.3〜2.8であるVA液晶セルを用いた場合、特に良好なコントラストが得られることが分かった。
【符号の説明】
【0185】
10 バックライト
12、14 偏光子
16 第1の位相差フィルム(第1の位相差領域)
18 第2の位相差フィルム(第2の位相差領域)
20、22 外側保護フィルム
24 リア側基板
26 フロント側基板
28 カラーフィルター部材
29 液晶層
30 アレイ部材
LC VA型液晶セル
PL1 リア側偏光板
PL2 フロント側偏光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートと、
糖エステル化合物を含有し、
Tg−5℃以上に一度も加熱されていない状態においてTg−5℃〜Tg+10℃で延伸されてなり、
全ヘイズが1.0%以下であり、
内部ヘイズが0.1%以下であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム(但し、Tgは前記セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度(単位:℃)を表す)。
【請求項2】
前記糖エステル化合物が、ヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を1個〜12個含むことを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項3】
前記全ヘイズが0.4%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項4】
前記セルロースアシレートが下記式(1)および式(2)を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(1) 2.00≦A+B≦2.80
式(2) 0.50≦B
(式(1)および式(2)中、Aはアセチル置換度を表し、Bはプロピオニル置換度またはブチル置換度を表す。)
【請求項5】
波長590nmにおける正面レターデーション値Re(590)および波長590nmにおける膜厚方向のレターデーション値Rth(590)が下記式(3)および式(4)を満たすことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(3) 30nm≦Re(590)≦90nm
式(4) 90nm≦Rth(590)≦150nm
【請求項6】
ポリエステル系可塑剤を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項7】
セルロースアシレートと糖エステル化合物を含有するフィルムを、
Tg−5℃以上に一度も加熱されていない状態においてTg−5℃〜Tg+10℃で延伸することを特徴とする光学フィルムの製造方法(但し、Tgは前記セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度を表す。)。
【請求項8】
前記糖エステル化合物が、ヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を1個〜12個含むことを特徴とする請求項7に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記延伸温度がTg−5℃〜Tg+5℃であることを特徴とする請求項7または8に記載の光学フィルムの製造方法(但し、Tgは前記セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度を表す。)。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法で製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項11】
偏光子と、少なくとも1枚の請求項1〜6および10のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを有することを特徴とする偏光板。
【請求項12】
請求項1〜6および10のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム、または、請求項11に記載の偏光板を、少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。
【請求項13】
前記液晶表示装置が、
VA型液晶セルと、フロント側基板およびリア側基板を有し、
前記リア側基板の部材コントラスト(CRr)に対する前記フロント側基板の部材コントラスト(CRf)の比(CRf/CRr)が、0.3〜2.8であることを特徴とする請求項12に記載の液晶表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−121327(P2011−121327A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282653(P2009−282653)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】