説明

セルロースアシレートフィルム、位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置

【課題】環境湿度に依存したレターデーション変化を抑えることができるセルロースアシレートフィルムの提供。
【解決手段】非晶状態における含水率差(25℃、相対湿度10%における含水率と25℃、相対湿度80%における含水率の差)が2%以上である高吸湿性化合物を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートフィルム、位相差フィルム、該セルロースアシレートフィルムを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、消費電力の小さい省スペースの画像表示装置として年々その用途が広がっている。従来、液晶表示装置は表示画像の視野角依存性が大きいことが大きな欠点であったが、VAモード等の広視野角液晶モードが実用化されており、これによってテレビ等の高品位の画像が要求される市場でも液晶表示装置の需要が急速に拡大しつつある。
【0003】
液晶表示装置の基本的な構成は液晶セルの両側に偏光板を設けたものである。前記偏光板は一定方向の偏波面の光だけを通す役割を担っており、偏光板の性能によって液晶表示装置の性能が大きく左右される。偏光板は、一般にヨウ素や染料を吸着配向させたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光子の表裏両側に透明な保護フィルムを貼り合わせた構成となっている。セルロースアセテートに代表されるセルロースアシレートフィルムは透明性が高く、偏光子に使用されるポリビニルアルコールとの密着性を容易に確保できることから偏光板保護フィルムとして広く使用されてきた。
【0004】
また、液晶表示装置の偏光板と液晶セルとの間に、特定のレターデーションを有する位相差フィルムを配置することでより広い視野角が実現できること、すなわち表示特性を向上できることが知られている。このような位相差フィルムとしても、優れた光学性能、具体的には位相差フィルムの面内レターデーションRe(nm)及び厚み方向のレターデーションRth(nm)を発現させることができるセルロースアシレートフィルムが注目されており、セルロースアシレートフィルムは位相差フィルムとしても液晶表示装置に用いられている。
【0005】
セルロースアシレートフィルムに用いることでその性能を改善することができる添加剤がいくつか知られている。セルロースアシレートフィルム用の添加剤として用いることができる従来公知の化合物としては、いわゆるレターデーション上昇剤が挙げられる。特許文献1には、レターデーション上昇剤として、ケト−エノール互変異可能な化合物をその構成要素として含む分子錯合体を形成しうる化合物が開示されており、その一例としてグアナミン骨格等の1,3,5−トリアジン環を含む構造を有する化合物が開示されている。また、同様に、特許文献2には、セルロースアセテートフィルムに添加することでRthを上昇させることができる化合物として、円盤状化合物からなるレターデーション上昇剤が開示されている。この文献に開示されているレターデーション上昇剤は円盤状化合物であり、その一例として1,3,5−トリアジン環またはポルフィリン骨格を含む構造を有する化合物が開示されている。
【0006】
近年、液晶表示装置の用途拡大につれ、テレビ等の大サイズかつ高品位用途が拡大してきており、偏光板、位相差フィルムおよび偏光板保護フィルムに対しても一段と高い品質が要求されるようになっている。なかでも、大サイズかつ高品位用途の液晶表示装置は、従来に比べて過酷な環境下での使用が求められるため、該液晶表示装置に用いるセルロースアシレートフィルムには、環境湿度に依存した光学性能変化の低減と、高温高湿下で経時させた場合の偏光子の保護、とを両立することが望まれてきている。
【0007】
しかしながら、従来のセルロースアシレートフィルムは、上記特許文献1または2に記載の特定の構造を有するレターデーション上昇剤が添加されているセルロースアシレートフィルムを含め、環境湿度に依存した光学性能変化の低減を十分に達成できていなかった。
【0008】
このような要望に対して、例えば、特許文献3には、特定のアシル置換度を有するセルロースアシレートフィルムを用いて、環境湿度に依存した光学性能変化を改善する方法が開示されている。
【0009】
また、セルロースアシレートフィルムに添加剤を添加することによって環境湿度による性能変化を改善する方法としては、ポリエステルと多価アルコールエステルまたは芳香族末端エステルを含有するセルロースアシレートフィルムを用いる方法が特許文献4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−109410号公報
【特許文献2】特開2001−166144号公報
【特許文献3】特開2006−089529号公報
【特許文献4】特開2006−342227号公報
【特許文献5】特開2010−134439号公報
【特許文献6】特開2010−134440号公報
【特許文献7】特開2010−250298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らが上記特許文献3および4に記載の方法を検討したところ、特許文献3に記載の方法では、環境湿度に依存した光学性能変化の低減が不十分であることがわかった。また、セルロースアシレートフィルムのセルロースアシレートのアシル置換度を限定すると、レターデーションの制御範囲が狭く、特定の液晶セルモードの液晶表示に対応したレターデーションにしか調節できなくなる問題があった。また、特許文献4に記載の方法では、一定の効果は認められるものの、近年の高品位用途の液晶表示装置に用いるには依然として改良不足であり、さらなる改善が求められることがわかった。
【0012】
また、特許文献5および6では湿熱処理を行い、湿熱耐久試験前後の面内レターデーションの変動が小さいフィルムの製造方法が開示されている。これは、フィルムの含水率の増大に起因するガラス転移温度Tgの低下を利用し、あらかじめフィルム内の歪みを除去することで、湿熱耐久による面内レターデーションの変動を抑制している。しかし、特許文献5および6では、湿熱処理による環境湿度に依存した光学性能変化の低減効果への影響は記載されていない。
【0013】
また、特許文献7では湿熱処理を行い、湿熱耐久試験前後の寸法変化の小さいフィルムの製造方法が開示されている。特許文献5および6と同様に、フィルムの含水率の増大に起因するガラス転移温度Tgの低下を利用し、フィルム内の歪みの除去を利用したものだが、特許文献7においても湿熱処理による環境湿度に依存した光学性能変化の低減効果への影響は記載されておらず、不明である。
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、環境湿度に依存したレターデーション変化を抑えることができる、セルロースアシレートフィルムを提供することにある。また、該セルロースアシレートフィルムを用いた位相差フィルム、および偏光板、およびこれを使用した液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らが上記課題を解決することを目的として鋭意研究したところ、特許文献1または2に記載の化合物のうち、一部の特定構造の化合物が、上記課題の解決に有用な化合物の一つであることを見出した。そこで、さらなる改善を求めて研究をすすめた結果、セルロースアシレートフィルムに、非晶状態における含水率差(25℃、相対湿度10%における含水率と25℃、相対湿度80%における含水率の差)が2%以上である化合物を添加することによってすることによって上記課題を解決できることを見出すに至った。すなわち、上記課題は、以下の構成の本発明によって解決される。
【0016】
[1] 非晶状態における含水率差(25℃、相対湿度10%における含水率と25℃、相対湿度80%における含水率の差)が2%以上である高吸湿性化合物を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
[2] 前記高吸湿性化合物が、下記(A)の要件を満たす水素結合性化合物であることを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
(A)1分子内に水素結合ドナー部または水素結合アクセプター部の少なくとも1つ有する。
[3] 前記高吸湿性化合物が、1分子内に水素結合ドナー部と水素結合アクセプター部の総数が3以上の水素結合性化合物であることを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[4] 前記高吸湿性化合物が、1分子内に水素結合ドナー部と水素結合アクセプター部の総数が5以上の水素結合性化合物であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[5] 前記高吸湿性化合物が、下記(B)の要件を満たすことを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
(B)少なくとも1つ以上の複素環を有し、該複素環を含めた芳香環構造の総数が1以上3以下。
[6] 前記高吸湿性化合物が下記一般式(A−1)で表される化合物である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化1】

(一般式(A−1)中、Raはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基またはアリール基を表す。X1、X2、X3およびX4はそれぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。)
[7] 前記高吸湿性化合物が下記一般式(B−1)で表される化合物である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化2】

(一般式(B−1)中、RbおよびRcはそれぞれ独立にアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基またはアリール基を表す。X5およびX6はそれぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。)
[8] 前記一般式(A−1)および(B−1)において、前記X1、X2、X3、X4、X5およびX6が、それぞれ独立に、単結合および下記一般式(P)で表される2価の連結基からなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする[6]または[7]に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化3】

(一般式(P)中、*側が前記一般式(A−1)および(B−1)で表される化合物中の1,3,5−トリアジン環に置換しているN原子との連結部位である。)
[9] 前記高吸湿性化合物が下記一般式(C−1)で表される化合物である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化4】

(一般式(C−1)中、Ra11はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rb11、Rc11、Rd11およびRe11はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q1
−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Raと連結して環を形成してもよい。X11、X12、およびX13は、それぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。X14は、下記一般式(P)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
【化5】

(一般式(P)中、*側が前記一般式(C−1)で表される化合物中の1,3,5−トリアジン環に置換しているN原子との連結部位である。)
[10] 前記高吸湿性化合物が下記一般式(D−1)で表される化合物である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化6】

(一般式(D−1)中、Ra21、Rg21はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rd21、およびRe21はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q11は−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra21と連結して環を形成してもよい。Q12は−O−、−S−、あるいは−NRh−を示し、Rhは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Rg21と連結して環を形成してもよい。X23は単結合または2価の連結基を表す。X24は、下記一般式(P)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
【化7】

(一般式(P)中、*側が前記一般式(D−1)で表される化合物中の1,3,5−トリアジン環に置換しているN原子との連結部位である。)
[11] 前記高吸湿性化合物が下記一般式(E−1)で表される化合物である[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化8】

(一般式(E−1)中、Y1はメチン基、あるいは−N−を表す。Ra31はアルキル基、
アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rb31、Rc31、Rd31およびRe31はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q21は単結合、−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra31と連結して環を形成してもよい。X31、X32、およびX33は、それぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。X34は、下記一般式(Q)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
一般式(Q)
【化9】

(一般式(Q)中、*側が前記一般式(E−1)で表される化合物中の複素環に置換しているN原子との連結部位である。)
[12] 前記高吸湿性化合物が下記一般式(F−1)で表される化合物である[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化10】

(一般式(F−1)中、Y11はメチン基、あるいは−N−を表す。Ra41、Rg41はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rd41、およびRe41はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q31は−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra41と連結して環を形成してもよい。Q32は−O−、−S−、あるいは−NRh−を示し、Rhは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Rg41と連結して環を形成してもよい。X43は単結合または2価の連結基を表す。X44は、下記一般式(P)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
【化11】

(一般式(P)中、*側が前記一般式(F−1)で表される化合物中の複素環に置換しているN原子との連結部位である。)
[13] 前記高吸湿性化合物が下記一般式(G−1)で表される化合物である[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化12】

(一般式(G−1)中、L1は単結合またはヘテロ原子を含む2価の連結基を表し、R81は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアリールアルキル基を表す。)
[14] 前記高吸湿性化合物が下記一般式(H−1)で表される化合物である[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化13】

(一般式(H−1)中、L3は単結合またはヘテロ原子を含む2価の連結基を表し、R85は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアリールアルキル基を表す。)R83、R84はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。X53、X54はそれぞれ独立に、下記一般式(P)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
【化14】

(一般式(P)中、*側が前記一般式(H−1)で表される化合物中の複素環に置換しているN原子との連結部位である。)
[15] 前記高吸湿性化合物の分子量が100〜1000であることを特徴とする[1]〜[14]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[16] 前記セルロースアシレートフィルムが、多価アルコールエステル系疎水化剤、重縮合エステル系疎水化剤および炭水化物誘導体系疎水化剤の中から選ばれる少なくとも一つの疎水化剤を含むことを特徴とする、[1]〜[15]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[17] 下記式(1)および式(2)を満たす条件で、水蒸気接触工程を行って製造されたことを特徴とする、[1]〜[16]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
60℃≦湿熱処理温度≦130℃ (1)
200g/m3≦湿熱処理絶対湿度量≦500g/m3 (2)
[18] 前記水蒸気接触工程を5秒以上60分以下行うことを特徴とする、[1]〜[17]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[19] [1]〜[18]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを含むことを特徴とする位相差フィルム。
[20] [1]〜[18]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは[19]に記載の位相差フィルムを含んでなる偏光板。
[21] [1]〜[18]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム、[19]に記載の位相差フィルムまたは[20]に記載の偏光板を含んでなる液晶表示装置。
【発明の効果】
【0017】
環境湿度に依存したレターデーション変化が小さくすることができ、セルロースアシレートフィルム、位相差フィルム、および偏光板、ならびにこれらを使用した液晶表示装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の液晶表示装置の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[セルロースアシレートフィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、非晶状態における含水率差(25℃、相対湿度10%における含水率と25℃、相対湿度80%における含水率の差)が2%以上である高吸湿性化合物(以下本発明に用いられる高吸湿性化合物と称する)を特徴とする。
本発明に用いられる高吸湿性化合物をセルロースアシレートフィルムに添加することにより、環境湿度変化に伴うセルロースアシレートフィルムのレターデーション変化を大幅に低減できる。
以下に、前記本発明に用いられる高吸湿性化合物、前記疎水化剤、セルロースアシレート、セルロースアシレートフィルムの製造方法の順に詳しく説明する。
【0020】
<本発明に用いられる高吸湿性化合物>
本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記高吸湿性化合物を含むことを特徴とする。以下、本発明に用いられる高吸湿性化合物の構造の詳細について、説明する。
【0021】
いかなる理論に拘泥するものでもないが、セルロースアシレートフィルムの位相差値の湿度依存性はセルロースアシレート樹脂のアシル置換基に存在するカルボニル基に水分子が配位することにより、セルロースアシレート樹脂の複屈折性が変化することで生じていると推測される。本発明に用いられる高吸湿性化合物は、フィルム内での添加剤の状態をより模擬していると考えられる非晶状態での吸湿性が高いため、セルロースアシレート内においても水と配位しやすいと推測される。また、本発明の高吸湿性化合物は水と配位することで複屈折変化が生じるため、高湿時のセルロースの複屈折変化を相殺し、環境湿度変化によるレターデーション変化を抑制すると考えられる。
そのため、このような高吸湿性化合物をセルロースアシレートフィルムに添加することで、高湿時において優先的に水と付加し、セルロースアシレートへの水の付加を抑制することができ、環境湿度の変化によるレターデーション変化を抑制できると考えられる。さらに、後述する本発明の好ましい態様では、前記高吸湿性化合物が特定の条件を満たす水素結合性化合物であり、その場合は同様にいかなる理論に拘泥するものでもないが、本発明に用いられる水素結合性化合物は、水素結合性基を適当な位置に有するため、水分子と環構造を形成するため、より安定な水分子配位構造をとることが出来る。そのため、該水素結合性化合物でもある高吸湿性化合物を添加することで、セルロースアシレート樹脂のカルボニル基への水分子が配位することをより抑制し、セルロースアシレート樹脂の複屈折性変化をより抑制することが可能である。すなわち、本発明は高吸湿性化合物の構造、特に高吸湿性化合物の分子内における配置に着目したものである。なお、従来1,3,5−トリアジン環を有する化合物をセルロースアシレート樹脂に添加する場合は、1,3,5−トリアジン環を有する化合物全体の形状の平面性に注目していたため、本発明の前記構造の化合物はほとんど注目されていなかった。
【0022】
さらに、本発明の高吸湿性化合物は環境湿度変化で脱着可能な水分子と1度付着すると環境湿度では脱離しない水分子が存在すると考えられ、後者の水分子は付着するのに長時間高湿条件に調湿しておくとより好ましい効果が得られることが分かった。そのため、吸湿することで環境湿度変化によるレターデーション変化を抑制する本発明の吸湿性化合物はより十分に効果を発揮するためには、長時間の高湿条件調湿を行うことが好ましいことがわかった。本発明のより好ましい態様では、特定の条件で湿熱処理を行うことで、本発明の高吸湿性化合物への水分子付着を短時間で行い、さらなる環境湿度変化によるレターデーション変化抑制を実現している。
【0023】
本発明に用いられる高吸湿性化合物は、下記(A)の要件を満たすことが好ましい。
(A)1分子内に水素結合ドナー部または水素結合アクセプター部を少なくとも1つ有する。
また、本発明に用いられる高吸湿性化合物は、下記(B)の要件を満たすことが好ましい。
(B)少なくとも1つ以上の複素環を有し、該芳香環を含めた芳香環構造の総数が1以上3以下。
さらに、本発明に用いられる高吸湿性化合物は、前記(A)および(B)の要件を満たすことがより好ましい。
【0024】
まず(A)の要件について説明する。
本発明に用いられる前記高吸湿性化合物が特定の条件を満たす水素結合性化合物である場合において水素結合性ドナー部および水素結合性アクセプター部として働く官能基の例は例えば、Jeffrey, George A.著、Oxford UP刊のIntroduction to Hydrogen Bondingの15ページのTable 2に記載されている。
本発明に用いられる前記水素結合性化合物は1分子内に水素結合ドナー部または水素結合アクセプター部を少なくとも1つ有することにより、水と強い水素結合を形成し、水がセルロースアシレート中のカルボニル基に配位することを抑制することができる。すなわち、前記水素結合性化合物は1分子内に水素結合ドナー部または水素結合アクセプター部の少なくとも1つ有することが好ましく、より好ましくは1分子内に水素結合ドナー部と水素結合アクセプター部の総数が3以上、さらに好ましくは5以上が好ましい。水素結合性ドナー部と水素結合性アクセプター部を結ぶ結合の数は0個以上3個以下が、前記水との水素結合形成の点で好ましく、1個および2個がさらに好ましい。
【0025】
次に(B)の要件について説明する。
本発明に用いられる高吸湿性化合物中の芳香環構造の数は1以上3以下である。ここで、芳香環構造とは、芳香族炭化水素環の他、複素芳香環も含む。また、芳香環構造の数は、芳香環が縮合している縮合環の場合は1つと数え、芳香環どうしが連結基を介して連結しているときに複数個と数える。例えば、ナフタレン由来の炭素数10の芳香環は、芳香環構造1つと数える。芳香環構造の数が4以上になると高吸湿性化合物の分子サイズが大きくなりすぎて、セルロースアシレート中のカルボニル基に接近しにくくなり、環境湿度による光学特性変化に対する抑制効果が小さくなってしまう。
また、本発明に用いられる高吸湿性化合物は少なくとも一つの複素芳香環を含むことが好ましい。複素芳香環を含むことにより複素芳香環中のヘテロ原子と高吸湿性化合物中の他の水素結合性アクセプターあるいは水素結合性ドナーが水と環状水素結合を形成しやすくなり好ましい。
【0026】
(高吸湿性化合物の親疎水性)
本発明に用いられる高吸湿性化合物の親疎水性は特定範囲に制御されていることが好ましい。すなわち、添加剤が疎水的過ぎるとセルロースアシレートとの相溶性が不足し、セルロースアシレートに近傍に存在しうる添加剤の割合が少なくなってしまう。一方、添加剤が親水的過ぎると、ドープ溶剤への溶解性が不足してしまう。
【0027】
−ClogP値−
オクタノール−水分配係数(logP値)の測定は、一般にJIS日本工業規格Z7260−107(2000)に記載のフラスコ浸とう法により実施することができる。また、オクタノール−水分配係数(logP値)は実測に代わって、計算化学的手法あるいは経験的方法により見積もることも可能である。計算方法としては、Crippen's fragmentation法(J.Chem.Inf.Comput.Sci.,27,21(1987))、Viswanadhan's fragmentation法(J.Chem.Inf.Comput.Sci.,29,163(1989))、Broto's fragmentation法(Eur.J.Med.Chem.−Chim.Theor.,19,71(1984))などを用いることが知られている。本発明では、Crippen's fragmentation法(J.Chem.Inf.Comput.Sci.,27,21(1987))を用いる。
ClogP値とは、1−オクタノールと水への分配係数Pの常用対数logPを計算によって求めた値である。ClogP値の計算に用いる方法やソフトウェアについては公知の物を用いることができるが、本発明ではDaylight Chemical Information Systems社のシステム:PCModelsに組み込まれたCLOGPプログラムを用いた。
また、ある化合物のlogPの値が、測定方法あるいは計算方法により異なる場合に、該化合物が本発明の範囲内であるかどうかは、Crippen's fragmentation法により判断することとなる。
【0028】
高吸湿性化合物の親疎水性は、オクタノール−水分配係数(以下logPと称することがある)により表すことができる。本発明に用いられる高吸湿性化合物の親疎水性が、オクタノール−水分配係数の中でも前記ClogP値として0〜5.5の範囲になるように制御されていることを特徴とする。本発明に用いられる高吸湿性化合物のClogP値は、さらに好ましくは1.0〜5.0であり、最も好ましくは2.0〜4.5である。
【0029】
以下に本発明に用いられる高吸湿性化合物の具体的な構造について説明する。
本発明に用いられる高吸湿性化合物は以下に示す一般式(A−1)〜(H−1)であらわされる化合物が好ましい。以下に各々の構造について詳しく説明する。
【0030】
(A)一般式(A−1)で表される化合物
まず、一般式(A−1)で表される化合物について説明する。なお、本明細書中において、アルキル基などの炭化水素基は、本発明の趣旨に反さない場合、直鎖であっても、分枝であってもよい。
【0031】
【化15】

(一般式(A−1)中、Raは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基またはアリール基を表す。X1、X2、X3およびX4はそれぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。)
【0032】
前記Raはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基またはアリール基を表し、アルキル基またはアリール基であることが好ましい。
【0033】
前記Raがアルキル基である場合、炭素数1〜20であることが好ましく、炭素数3〜15であることがより好ましく、炭素数6〜12であることが特に好ましい。
前記Raがアルケニル基である場合、炭素数2〜20であることが好ましく、炭素数3〜15であることがより好ましく、炭素数6〜12であることが特に好ましい。
前記Raがアルキニル基である場合、炭素数2〜20であることが好ましく、炭素数3〜15であることがより好ましく、炭素数6〜12であることが特に好ましい。
前記Raがアリール基である場合、炭素数6〜24であることが好ましく、炭素数6〜18であることがより好ましい。
前記Raが複素環基である場合、炭素数5〜23であることが好ましく、炭素数5〜17であることがより好ましい。
【0034】
前記Raはさらに置換基を有していても、有していなくともよいが、さらに置換基を有していないことが、湿度依存性改良の観点から好ましい。
前記Raが有していてもよい置換基としては、以下の置換基Tを挙げることができる。前記置換基Tとしては、例えばアルキル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜12、特に好ましくは1〜8のものであり、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル、シクロヘキシル基などが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜12、特に好ましくは2〜8であり、例えばビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基などが挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜12、特に好ましくは2〜8であり、例えばプロパルギル基、3−ペンチニル基などが挙げられる。)、アリール基(好ましくは炭素原子数6〜30、より好ましくは6〜20、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。)、アミノ基(好ましくは炭素原子数0〜20、より好ましくは0〜10、特に好ましくは0〜6であり、例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基などが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜12、特に好ましくは1〜8であり、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素原子数6〜20、より好ましくは6〜16、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニルオキシ基、2−ナフチルオキシ基などが挙げられる。)、アシル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばアセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基などが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜12であり、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素原子数7〜20、より好ましくは7〜16、特に好ましくは7〜10であり、例えばフェニルオキシカルボニル基などが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜10であり、例えばアセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる。)、アシルアミノ基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜10であり、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜12であり、例えばメトキシカルボニルアミノ基などが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素原子数7〜20、より好ましくは7〜16、特に好ましくは7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノ基などが挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基などが挙げられる。)、スルファモイル基(好ましくは炭素原子数0〜20、より好ましくは0〜16、特に好ましくは0〜12であり、例えばスルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基などが挙げられる。)、カルバモイル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばカルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基などが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメチルチオ基、エチルチオ基などが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素原子数6〜20、より好ましくは6〜16、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニルチオ基などが挙げられる。)、スルホニル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメシル基、トシル基などが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基などが挙げられる。)、ウレイド基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基などが挙げられる。)、リン酸アミド基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなどが挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素原子数1〜30、より好ましくは1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には例えばイミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基などが挙げられる。)、シリル基(好ましくは、炭素原子数3〜40、より好ましくは3〜30、特に好ましくは3〜24であり、例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる)などが挙げられる。これらの置換基は更に置換されてもよい。また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。
【0035】
前記X1、X2、X3およびX4はそれぞれ独立に単結合または2価の連結基を表し、それぞれ独立に単結合であることがより好ましく、全て単結合であることが特に好ましい。
前記X1、X2、X3およびX4がそれぞれ独立に表していてもよい前記2価の連結基としては、例えば、下記一般式(P)で表される2価の連結基、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜3、特に好ましくは炭素数2)、アリーレン基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは、炭素数6〜10)などを挙げることができる。その中でも下記一般式(P)で表される2価の連結基であることが好ましく、カルボニル基であることがより好ましい。
【0036】
【化16】

(一般式(P)中、*側が前記一般式(A−1)で表される化合物中の1,3,5−トリアジン環に置換しているN原子との連結部位である。)
【0037】
前記R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表し、水素原子、アルキル基、アリール基または複素環基であることが好ましく、水素原子、アルキル基またはアシル基であることが特に好ましく、水素原子またはアルキル基であることがより特に好ましい。また、前記R1またはR2の少なくとも一方が水素原子であることが好ましく、前記R3またはR4の少なくとも一方が水素原子であることが好ましい。
前記R1、R2、R3およびR4がアルキル基である場合、炭素数1〜12であることが好ましく、炭素数1〜6であることがより好ましく、炭素数1〜4であることが特に好ましい。前記R1がアルキル基かつX1が−C(=O)−、前記R2がアルキル基かつX2が−C(=O)−、前記R3がアルキル基かつX3が−C(=O)−、前記R4がアルキル基かつX4が−C(=O)−である場合、湿度依存性改良の観点から好ましいR1、R2、R3およびR4の範囲は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アシル基または複素環基であり、より好ましくは置換または無置換のアリール基である。該アリール基が有する好ましい置換基は、後述する一般式(A−4)におけるR31〜R34の範囲と同様であり、すなわちハロゲン原子、水酸基、カルバモイル基、スルファモイル基、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のアルキルアミノ基、炭素数1から8のジアルキルアミノ基である。
前記R1、R2、R3およびR4がアルケニル基である場合、炭素数2〜12であることが好ましく、炭素数2〜6であることがより好ましく、炭素数2〜4であることが特に好ましい。
前記R1、R2、R3およびR4がアルキニル基である場合、炭素数2〜12であることが好ましく、炭素数2〜6であることがより好ましく、炭素数2〜4であることが特に好ましい。
前記R1、R2、R3およびR4がアリール基である場合、炭素数6〜18であることが好ましく、炭素数6〜12であることがより好ましく、炭素数6であることが湿度依存性改良の観点から特に好ましい。
前記R1、R2、R3およびR4はさらに置換基を有していても、有していなくともよく、該置換基としては前記置換基Tを挙げることができる。
【0038】
前記一般式(A−1)で表される化合物は、下記一般式(A−2)で表されることが特に好ましい。
【0039】
【化17】

【0040】
前記Ra2は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアリール基を表し、好ましい範囲は、前記Raの好ましい範囲と同様である。
【0041】
前記R21およびR24はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表し、好ましい範囲は前記R1、R2、R3およびR4の好ましい範囲と同様である。
【0042】
前記一般式(A−1)で表される化合物は、下記一般式(A−3)で表されることがより特に好ましい。
【化18】

(一般式(A−3)中、Ra3はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアリール基を表す。)
【0043】
前記Ra3は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアリール基を表し、好ましい範囲は、前記Raの好ましい範囲と同様である。
さらに、本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記Ra3がアルキル基であることが、Rthを下降させつつ、レターデーションの湿度依存性を改良する場合に好ましく、その場合はさらに前記Ra3が無置換のアルキル基であるときがより好ましい。
【0044】
前記一般式(A−1)で表される化合物は、下記一般式(A−4)で表されることが特に好ましい。
【化19】

(一般式(A−4)中、R31、R32、R33およびR34は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルバモイル基、スルファモイル基、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のアルキルアミノ基、炭素数1から8のジアルキルアミノ基を表す。)前記Ra4はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアリール基を表し、好ましい範囲は、前記Raの好ましい範囲と同様である。
【0045】
(B)一般式(B−1)で表される化合物
次に、一般式(B−1)で表される化合物について説明する。
【0046】
【化20】

(一般式(B−1)中、RbおよびRcはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基またはアリール基を表す。X5およびX6はそれぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。)
【0047】
前記RbおよびRcはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基またはアリール基を表し、好ましい範囲は前記Raの好ましい範囲と同様である。
【0048】
5およびX6はそれぞれ独立に単結合または2価の連結基を表し、好ましい範囲は前記X1、X2、X3およびX4の好ましい範囲と同様である。
【0049】
前記R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表し、好ましい範囲は前記R1、R2、R3およびR4の好ましい範囲と同様である。
【0050】
前記一般式(B−1)で表される化合物は、下記一般式(B−2)で表されることが特に好ましい。
【化21】

【0051】
前記Rb2およびRc2はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアリール基を表し、好ましい範囲は前記Raの好ましい範囲と同様である。
【0052】
前記R25はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表し、好ましい範囲は前記R21およびR24の好ましい範囲と同様である。
【0053】
前記一般式(B−3)で表される化合物は、下記一般式(B−3)で表されることがより特に好ましい。
【化22】

【0054】
前記Rb3およびRc3はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアリール基を表し、好ましい範囲は前記Raの好ましい範囲と同様である。
【0055】
前記一般式(B−1)で表される化合物は、下記一般式(B−4)で表されることが特に好ましい。
【化23】

【0056】
前記Rb4およびRc4はそれぞれ独立にアルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアリール基を表す。
さらに、本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記Rb3およびRc3が共にアルキル基であることが、Rthを下降させつつ、レターデーションの湿度依存性を改良する場合に好ましく、その場合はさらに前記Rb3およびRc3が共に無置換のアルキル基であるときがより好ましい。同様に前記Rb4およびRc4が共にアルキル基であることが好ましい。
【0057】
以下に前記一般式(A−1)〜(B−1)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明は以下の具体例によって限定されるものではない。
【0058】
【化24】

【0059】
【化25】

【0060】
【化26】

【0061】
(一般式(A−1)または一般式(B−1)で表される化合物の製造方法)
前記一般式(A−1)または一般式(B−1)で表される化合物の製造方法は、特に限定はなく、公知の方法により製造することができる。本発明において好ましく用いられる製造方法としては、例えば米国特許第3,478,026公報やChem. Eur. J. 2005, 11, 6616−6628に記載されているようにジシアノジアミドとニトリル化合物とを水酸化カリウム等の無機塩基存在下にてアルコール中で加熱することでトリアジン環を形成する方法や、Tetrahedron 2000,56,9705−9711に記載されているように塩化シアヌルを原料としてグリニャール化合物とアミン化合物を段階的に置換反応させていく方法や、有機合成化学協会誌 1967,第25巻第11号,1048−1051に記載されているようにイミドイルグアニジンとカルボン酸クロリドまたはエステルの反応によりモノアミノ−ジ置換−s−トリアジン類を合成する方法を用いることができる。
また、一般式(A−1)または一般式(B−1)で表される化合物は商業的に入手してもよい。
【0062】
(C)一般式(C−1)で表される化合物
次に一般式(C−1)で表される化合物について詳しく説明する。
【化27】

(一般式(C−1)中、Ra11はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rb11、Rc11、Rd11およびRe11はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q1は−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Raと連結して環を形成してもよい。X11、X12、およびX13は、それぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。X14は、前記一般式(P)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
【0063】
前記一般式(C−1)で表される化合物は、下記一般式(C−2)で表されることが特に好ましい。
【化28】

(一般式(C−2)中、Ra12はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rb12およびRd12はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q2は−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra12と連結して環を形成してもよい。X11、X12、およびX13は、それぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。X14は、前記一般式(P)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
【0064】
前記一般式(C−1)で表される化合物は、下記一般式(C−3)で表されることが特に好ましい。
【化29】

(一般式(C−3)中、Ra13はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q3は−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra13と連結して環を形成してもよい。)
【0065】
前記一般式(C−1)で表される化合物は、下記一般式(C−4)で表されることが特に好ましい。
【化30】

(一般式(C−4)中、R41、R42、R43およびR44は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルバモイル基、スルファモイル基、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のアルキルアミノ基、炭素数1から8のジアルキルアミノ基を表す。Ra14はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q4は−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra14と連結して環を形成してもよい。)
【0066】
(D)一般式(D−1)で表される化合物
次に一般式(D−1)で表される化合物について詳しく説明する。
【化31】

(一般式(D−1)中、Ra21、Rg21はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rd21、およびRe21はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q11は−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra21と連結して環を形成してもよい。Q12は−O−、−S−、あるいは−NRh−を示し、Rhは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Rg21と連結して環を形成してもよい。X23は単結合または2価の連結基を表す。X24は、前記一般式(P)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
【0067】
前記一般式(D−1)で表される化合物は、下記一般式(D−2)で表されることが特に好ましい。
【化32】

(一般式(D−2)中、Ra22、Rg22はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rd22は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q13は−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra22と連結して環を形成してもよい。Q14は−O−、−S−、あるいは−NRh−を示し、Rhは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Rg22と連結して環を形成してもよい。X25は、前記一般式(P)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
【0068】
前記一般式(D−1)で表される化合物は、下記一般式(D−3)で表されることが特に好ましい。
【化33】

(一般式(D−3)中、Ra23、Rg23はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q15は−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra23と連結して環を形成してもよい。Q16は−O−、−S−、あるいは−NRh−を示し、Rhは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Rg23と連結して環を形成してもよい。)
【0069】
前記一般式(D−1)で表される化合物は、下記一般式(D−4)で表されることが特に好ましい。
【化34】

(一般式(D−4)中、R51およびR52は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルバモイル基、スルファモイル基、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のアルキルアミノ基、炭素数1から8のジアルキルアミノ基を表す。Ra24、Rg24はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q17は−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra24と連結して環を形成してもよい。Q18は−O−、−S−、あるいは−NRh−を示し、Rhは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Rg24と連結して環を形成してもよい。)
【0070】
一般式(C−1)または一般式(D−1)で表される化合物の好ましい化合物例を以下に示す。
【化35】

【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
【化36】

【表3】

【0074】
【化37】

【表4】

【0075】
(E)一般式(E−1)で表される化合物
次に一般式(E−1)で表される化合物について詳しく説明する。
【化38】

(一般式(E−1)中、Y1はメチン基、あるいは−N−を表す。Ra31はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rb31、Rc31、Rd31およびRe31はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q21は単結合、−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra31と連結して環を形成してもよい。X31、X32、およびX33は、それぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。X34は、下記一般式(Q)
一般式(Q)
【化39】

(一般式(Q)中、*側が前記一般式(E−1)で表される化合物中の複素環に置換しているN原子との連結部位である。)
で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
【0076】
前記一般式(E−1)で表される化合物は、下記一般式(E−2)で表されることが特に好ましい。
【化40】

(一般式(E−2)中、Y2はメチン基、あるいは−N−を表す。Ra32はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rb32、Rc32、Rd32はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q22は単結合、−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra32と連結して環を形成してもよい。X35は、それぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。X36は、前記一般式(Q)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
【0077】
前記一般式(E−1)で表される化合物は、下記一般式(E−3)で表されることが特に好ましい。
【化41】

(一般式(E−3)中、Y3はメチン基、あるいは−N−を表す。Ra33はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q23は単結合、−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra33と連結して環を形成してもよい。)
【0078】
前記一般式(E−1)で表される化合物は、下記一般式(E−4)で表されることが特に好ましい。
【化42】

(一般式(E−4)中、Y4はメチン基、あるいは−N−を表す。Ra34はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q24は単結合、−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra34と連結して環を形成してもよい。R61、R62、R63およびR64は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルバモイル基、スルファモイル基、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のアルキルアミノ基、炭素数1から8のジアルキルアミノ基を表す。)
【0079】
前記一般式(E−1)で表される化合物は、下記一般式(E−5)で表されることが特に好ましい。
【化43】

(一般式(E−5)中、R65、R66、R67およびR68は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルバモイル基、スルファモイル基、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のアルキルアミノ基、炭素数1から8のジアルキルアミノ基を表す。Ra35はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q25は単結合、−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra35と連結して環を形成してもよい。)
【0080】
(F)一般式(F−1)で表される化合物
【化44】

(一般式(F−1)中、Y11はメチン基、あるいは−N−を表す。Ra41、Rg41はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rd41、およびRe41はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q31は−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra41と連結して環を形成してもよい。Q32は−O−、−S−、あるいは−NRh−を示し、Rhは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Rg41と連結して環を形成してもよい。X43は単結合または2価の連結基を表す。X44は、前記一般式(P)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。但し、前記一般式(P)中、*側が前記一般式(F−1)で表される化合物中の複素環に置換しているN原子との連結部位である。)
【0081】
前記一般式(F−1)で表される化合物は、下記一般式(F−2)で表されることが特に好ましい。
【化45】

(一般式(F−2)中、Y12はメチン基、あるいは−N−を表す。Ra42、Rg42はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rd42は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q33は−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra42と連結して環を形成してもよい。Q34は−O−、−S−、あるいは−NRh−を示し、Rhは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Rg42と連結して環を形成してもよい。X43は単結合または2価の連結基を表す。X45は、前記一般式(P)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。但し、前記一般式(P)中、*側が前記一般式(F−1)で表される化合物中の複素環に置換しているN原子との連結部位である。)
【0082】
前記一般式(F−1)で表される化合物は、下記一般式(F−3)で表されることが特に好ましい。
【化46】

(一般式(F−3)中、Y13はメチン基、あるいは−N−を表す。Ra43、Rg43はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q35は−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra43と連結して環を形成してもよい。Q36は−O−、−S−、あるいは−NRh−を示し、Rhは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Rg43と連結して環を形成してもよい。)
【0083】
前記一般式(F−1)で表される化合物は、下記一般式(F−4)で表されることが特に好ましい。
【化47】

(一般式(F−4)中、Y14はメチン基、あるいは−N−を表す。Ra44およびRg44はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q37は単結合、−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra44と連結して環を形成してもよい。Q38は単結合、−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Rg44と連結して環を形成してもよい。R71およびR72は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルバモイル基、スルファモイル基、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のアルキルアミノ基、炭素数1から8のジアルキルアミノ基を表す。)
【0084】
前記一般式(F−1)で表される化合物は、下記一般式(F−5)で表されることが特に好ましい。
【化48】

(一般式(F−5)中、Ra45およびRg45はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q39は単結合、−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra45と連結して環を形成してもよい。Q40は単結合、−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Rg45と連結して環を形成してもよい。R73およびR74は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルバモイル基、スルファモイル基、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のアルキルアミノ基、炭素数1から8のジアルキルアミノ基を表す。)
【0085】
一般式(E−1)または一般式(F−1)で表される化合物の好ましい例を以下に示す。
【0086】
【化49】

【0087】
【化50】

【0088】
【化51】

【0089】
【化52】

【0090】
【化53】

【0091】
【化54】

【0092】
【化55】

(E−801中、Rはそれぞれ独立にm−メチル基または水素原子を表し、E−801は4種化合物の混合物である)
【0093】
【化56】

【0094】
【化57】

【0095】
前記一般式(E−1)の化合物は、例えば、下記スキーム1の方法で合成することができる。すなわち、一般式(E−1a)の化合物と一般式(E−1b)の化合物を有機溶剤中にて塩基存在下で反応させることにより合成することができる。一般式(E−1a)、および一般式(E−1b)の化合物は市販品、あるいは既知の合成法により製造した合成品を用いることができる。有機溶媒としては、アルコール(例、メタノール、エタノール)、エステル(例、酢酸エチル)、炭化水素(例、トルエン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン)、アミド(例、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン)、ハロゲン化炭化水素(例、ジクロロメタン)、ニトリル(例、アセトニトリル)あるいはこれらの混合溶媒を用いることができる。アルコールおよびアミドが好ましく、メタノール、エタノール、N−メチルピロリドンおよびN−エチルピロリドンが特に好ましい。また、メタノール、エタノール、N−メチルピロリドンおよびN−エチルピロリドンの混合溶媒も特に好適な例である。
塩基としては、無機塩基(例、炭酸カリウム)と有機塩基(例、トリエチルアミン、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド)のいずれも使用できる。有機塩基が好ましく、ナトリウムメトキシドが特に好ましい。用いる塩基の使用量は、一般式(E−1b)で表される化合物に対して0.5乃至10当量の範囲であることが好ましく、1乃至3当量の範囲であることが特に好ましい。
反応温度は、通常−20℃から用いる溶媒の沸点までであり、室温から溶媒の沸点が好ましい。反応時間は、通常10分〜3日間であり、好ましくは1時間から1日間である。反応を窒素雰囲気下、あるいは減圧下で行ってもよい。特に脱離基Zがアルコキシ基、アリール基の場合は減圧下で行うことも好ましい。
【0096】
スキーム1
【化58】

スキーム1中、Zは脱離基を表し、好ましくはハロゲン基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表す。
【0097】
本発明に用いられる前記一般式(E−2)の化合物は、例えば、下記スキーム2の方法で合成することができる。すなわち、一般式(E−2a)の化合物と一般式(E−2b)、一般式(E−2c)の化合物を有機溶剤中にて塩基存在下で反応させることにより合成することができる。一般式(E−2a)、一般式(E−2b)および一般式(E−2c)の化合物は市販品、あるいは既知の合成法により製造した合成品を用いることができる。用いる有機溶媒の好適な例は前記と同様である。用いる塩基の好適な例は前記と同様であるが、用いる塩基の使用量は、一般式(E−2b)で表される化合物と一般式(E−2c)で表される化合物の総量に対して0.5乃至10当量の範囲であることが好ましく、1乃至3当量の範囲であることが特に好ましい。用いる反応温度、反応時間の好適な例は前記に同じである。
【0098】
スキーム2
【化59】

【0099】
(G)一般式(G−1)で表される化合物
次に一般式(G−1)で表される化合物について詳しく説明する。
【化60】

前記一般式(G−1)中、L1は単結合またはヘテロ原子を含む2価の連結基を表し、ヘテロ原子を含む2価の連結基であることが好ましい。前記L1が表す前記ヘテロ原子を含む2価の連結基としては、連結に関与する2本の結合手を同一原子が有する連結基であることが好ましい。このような連結基としては、−O−、−N(R82)−、−C(=O)−、−S−、−S(=O)2−、およびそれらの組合せからなる連結基などを挙げることができる。なお、前記R82の範囲は前記R3の範囲と同様であり、前記R82の好ましい範囲は、水素原子または炭素数1〜15のアルキル基(より好ましくは炭素数1〜10、特に好ましくは炭素数1〜5、より特に好ましくはメチル基)である。
これらの中でも、−O−、−NH−および−N(CH3)−、−C(=O)−、およびそれらの組合せからなる連結基が好ましく、−O−、−NH−C(=O)−および−N(CH3)−がより好ましい。
【0100】
前記一般式(G−1)中、前記R81は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数5〜20のヘテロアリール基または炭素数6〜20のアリール基を表す。
前記R81がアルキル基である場合、炭素数1〜15であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜5であることが特に好ましい。
前記R1およびR2がそれぞれ独立にアルケニル基である場合、炭素数12〜15であることが好ましく、12〜10であることがより好ましく、12〜5であることが特に好ましい。
前記R81がアルキニル基である場合、炭素数2〜15であることが好ましく、2〜10であることがより好ましく、2〜5であることが特に好ましい。
前記R81がアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基である場合、環状、直鎖または分岐のいずれであってもよいが、直鎖または分岐であることが好ましく、直鎖であることがより好ましい。
前記R81がヘテロアリール基である場合、炭素数5〜18であることが好ましく、5〜12であることがより好ましい。
前記R81がアリール基である場合、炭素数6〜18であることが好ましく、6〜12であることがより好ましい。
前記R81がアリールアルキル基である場合、炭素数7〜18であることが好ましく、7〜12であることがより好ましい。
【0101】
また、前記R81はさらに置換基を有していても、無置換であってもよい。該置換基としては、本発明の趣旨に反しない限りにおいて特に制限はないが、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数5〜20のヘテロアリール基または炭素数6〜20のアリール基などが好ましい。その中でも炭素数6〜20のアリール基であることがより好ましく、特に前記R81が置換基を有するアルキル基である場合は、該置換基はフェニル基であることが好ましい。
【0102】
前記L1と前記R81の好ましい組み合わせは以下のとおりである。
前記L1が−O−である場合、前記R81は炭素数1〜15のアルキル基またはアリールアルキル基であることが好ましく、アリールアルキル基であることがより好ましい。
前記L1が−NH−である場合、前記R81は 炭素数1〜15のアルキル基、アリールアルキル基であることが好ましく、アリールアルキル基であることがより好ましい。
前記L1が−NH−C(=O)−である場合、前記R81は炭素数1〜15のアルキル基、アリール基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましい。
前記L1が−N(CH3)−である場合、前記R81は炭素数1〜15のアルキル基またはアルキル基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましい。
【0103】
前記R81は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基であることが、環境湿度に対するレターデーション変化抑制の観点からより好ましい。
【0104】
本発明に用いられる高吸湿性化合物は、前記一般式(G−1)で表される化合物の中でも、置換基を除くプリン塩基骨格中のアミノ基の数が0または1である化合物が好ましい。
【0105】
本発明に用いられる高吸湿性化合物は、前記一般式(G−1)で表される化合物において、前記R1が水素原子ではないことが好ましい。すなわち、本発明に用いられる高吸湿性化合物は、前記核酸塩基骨格を含有する化合物が、下記一般式(G−2)で表されることがより好ましい。
【化61】

【0106】
一般式(G−2)中、L2は単結合またはヘテロ原子を含む2価の連結基を表し、R82は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアリールアルキル基を表す。
【0107】
前記一般式(G−2)中、L2の好ましい範囲は、前記一般式(G−1)におけるL1の好ましい範囲と同様である。
【0108】
前記R82は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアリールアルキル基を表し、各基の好ましい炭素数の範囲は一般式(G−1)におけるR81における各基の好ましい炭素数の範囲と同様である。
前記R82はメチル基、フェニル基またはベンジル基であることがより好ましく、メチル基、フェニル基またはベンジル基であることが特に好ましい。
【0109】
前記一般式(G−2)中、L2とR82の好ましい組み合わせは、一般式(G−1)におけるL1とR81の好ましい組み合わせと同様の傾向である。
【0110】
前記高吸湿性化合物は、セルロースアシレートフィルムにヘイズを発生させたり、フィルムからブリードアウトあるいは揮散したりしないように、前記核酸塩基骨格を含有する化合物とセルロースアシレートの相互作用を制御することが好ましい。
前記核酸塩基骨格を含有する化合物が有していることが好ましい水素結合等によってセルロースアシレートと相互作用可能である部分構造としては、プリン塩基骨格、エーテル結合構造、エステル結合構造、アミド結合構造、−NH−連結基構造などを挙げることができる。
【0111】
(核酸塩基骨格を含有する一般式(G−1)で表される化合物の具体例)
前記核酸塩基骨格を含有する一般式(G−1)で表される化合物の具体例としては、以下のものを挙げることができる。ただし、前記高吸湿性化合物として用いることができる前記核酸塩基骨格を含有する一般式(G−1)で表される化合物は、これらに限定されるものではない。
【0112】
【化62】

【0113】
【化63】

【0114】
【化64】

【0115】
(H) 一般式(H−1)で表される化合物
つぎに一般式(H−1)で表される化合物について詳しく説明する。
【化65】

(一般式(H−1)中、L3は単結合またはヘテロ原子を含む2価の連結基を表し、R85は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアリールアルキル基を表す。)R83、R84はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。X53、X54はそれぞれ独立に、前記一般式(P)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。但し、前記一般式(P)中、*側が前記一般式(H−1)で表される化合物中の複素環に置換しているN原子との連結部位である。)
【0116】
以下に一般式(H−1)で表される化合物の好ましい例を示す。
【化66】

【0117】
(物性)
前記一般式(A−1)〜(H−1)で表される化合物は、分子量が100〜1000であることが好ましく、150〜700であることがより好ましく、150以上450以下であることが最も好ましい。
【0118】
(添加量)
前記一般式(A−1)〜(H−1)で表される化合物の添加量は、セルロースアシレート樹脂に対して、30質量%以下とすることが好ましく、1〜30質量%とすることがより好ましく、2〜20質量%とすることが特に好ましく、3〜15質量%とすることがさらに好ましい。
また、本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記セルロースアシレート樹脂に対する、前記高吸湿性化合物の合計含有量が35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。なお、前記高吸湿性化合物は前記一般式(A−1)〜(H−1)で表される化合物に限定されない。
【0119】
<疎水化剤>
本発明のセルロースアシレートフィルムは、多価アルコールエステル系疎水化剤、重縮合エステル系疎水化剤および炭水化物誘導体系疎水化剤の中から選ばれる少なくとも一つの疎水化剤を含むことが好ましい。前記疎水化剤としては、フィルムのガラス転移温度をできるだけ下げずに含水率を低減できるものが好ましい。このような疎水化剤を使用することにより高温高湿下においてセルロースアシレートフィルム中の添加剤が偏光子層へ拡散する現象を抑制でき、偏光子性能の劣化を改良することができる。以下に本発明に用いられる前記疎水化剤について詳しく説明する。
【0120】
(多価アルコールエステル系疎水化剤)
本発明に用いられる多価アルコールエステル系疎水化剤は、その構造は特に限定されるものではないが、次の一般式(4)で表されることが好ましい。
【0121】
一般式(4) R1−(OH)n
(但し、R1はn価の有機基、nは2以上の正の整数を表す)
好ましい前記多価アルコール系疎水化剤の例としては、例えば以下のようなものを挙げることが出来るが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることが出来る。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0122】
中でも前記多価アルコール系疎水化剤としては、炭素数5以上の多価アルコールを用いた多価アルコールエステルが好ましい。特に好ましくは炭素数5〜20である。
【0123】
前記多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることが出来る。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0124】
好ましい前記多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることが出来るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0125】
前記脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることが出来る。炭素数は1〜20であることが更に好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロース誘導体との相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0126】
好ましい前記脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることが出来る。
【0127】
好ましい前記脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来る。
【0128】
好ましい前記芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来るが、特に安息香酸が好ましい。
【0129】
前記多価アルコール系疎水化剤の分子量は特に制限はないが、300〜3000であることが好ましく、350〜1500であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロース誘導体との相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0130】
前記多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、前記多価アルコール中のヒドロキシル基は、全てエステル化してもよいし、一部をヒドロキシル基のままで残してもよい。
【0131】
以下に、前記多価アルコールエステルの具体的化合物を示す。
【0132】
【化67】

【0133】
【化68】

【0134】
【化69】

【0135】
【化70】

【0136】
(重縮合エステル系疎水化剤)
前記重縮合エステル系疎水化剤は、少なくとも一種の芳香環を有するジカルボン酸(芳香族ジカルボン酸とも呼ぶ)と少なくとも一種の平均炭素数が2.5〜8.0の脂肪族ジオールとから得られることが好ましい。また、芳香族ジカルボン酸と少なくとも一種の脂肪族ジカルボン酸との混合物、と少なくとも一種の平均炭素数が2.5〜8.0の脂肪族ジオールとから得られることも好ましい。
【0137】
前記ジカルボン酸残基の平均炭素数の計算は、ジカルボン酸残基とジオール残基で個別に行う。
前記ジカルボン酸残基の組成比(モル分率)を構成炭素数に乗じて算出した値を平均炭素数とする。例えば、アジピン酸残基とフタル酸残基が50モル%ずつから構成される場合は、平均炭素数7.0となる。
また、前記ジオール残基の場合も同様で、ジオール残基の平均炭素数は、ジオール残基の組成比(モル分率)を構成炭素数に乗じて算出した値とする。例えばエチレングリコール残基50モル%と1,2−プロパンジオール残基50モル%から構成される場合は平均炭素数2.5となる。
【0138】
前記重縮合エステルの数平均分子量は500〜2000であることが好ましく、600〜1500がより好ましく、700〜1200がさらに好ましい。重縮合エステルの数平均分子量は600以上であれば揮発性が低くなり、セルロースエステルフィルムの延伸時の高温条件下における揮散によるフィルム故障や工程汚染を生じにくくなる。また、2000以下であればセルロースエステルとの相溶性が高くなり、製膜時及び加熱延伸時のブリードアウトが生じにくくなる。
前記重縮合エステルの数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定、評価することができる。また、末端が封止のないポリエステルポリオールの場合、重量あたりのヒドロキシル基の量(以下、水酸基価とも言う)により算出することもできる。本発明において、水酸基価は、ポリエステルポリオールをアセチル化した後、過剰の酢酸の中和に必要な水酸化カリウムの量(mg)を測定する。
【0139】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との混合物をジカルボン酸成分として用いる場合は、ジカルボン酸成分の炭素数の平均が5.5〜10.0のジカルボン酸であることが好ましく、より好ましくは5.6〜8である。
炭素数の平均が5.5以上であれば耐久性に優れた偏光板を得ることができる。炭素数の平均が10以下であればセルロースエステルへの相溶性が優れ、セルロースエステルフィルムの製膜過程でブリードアウトの発生を抑制することができる。
【0140】
ジオールと、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合エステルには、芳香族ジカルボン酸残基が含まれる。
本明細書中では、残基とは、重縮合エステルの部分構造で、重縮合エステルを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジカルボン酸HOOC−R−COOHより形成されるジカルボン酸残基は−OC−R−CO−である。
本発明に用いる重縮合エステルの芳香族ジカルボン酸残基比率は40mol%以上であることが好ましく、40mol%〜95mol%であることがより好ましい。
芳香族ジカルボン酸残基比率を40mol%以上とすることで、十分な光学異方性を示すセルロースエステルフィルムが得られ、耐久性に優れた偏光板を得ることができる。また、95mol%以下であればセルロースエステルとの相溶性に優れ、セルロースエステルフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくくすることができる。
【0141】
本発明に用いることができる重縮合エステル系疎水化剤の形成に用いることができる芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸等を挙げることができる。その中でもフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、フタル酸、テレフタル酸がより好ましく、テレフタル酸がさらに好ましい。
前記重縮合エステルには、混合に用いた芳香族ジカルボン酸に由来する芳香族ジカルボン酸残基が形成される。
すなわち、前記芳香族ジカルボン酸残基は、フタル酸残基、テレフタル酸残基、イソフタル酸残基の少なくとも1種を含むことが好ましく、より好ましくはフタル酸残基、テレフタル酸残基の少なくとも1種を含み、さらに好ましくはテレフタル酸残基を含む。
前記重縮合エステルの形成における混合に、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸を用いることで、よりセルロースエステルとの相溶性に優れ、セルロースエステルフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくいセルロースエステルフィルムとすることができる。また、前記芳香族ジカルボン酸は1種でも、2種以上を用いてもよい。2種用いる場合は、フタル酸とテレフタル酸を用いることが好ましい。
フタル酸とテレフタル酸の2種の芳香族ジカルボン酸を併用することにより、常温での重縮合エステルを軟化することができ、ハンドリングが容易になる点で好ましい。
前記重縮合エステルのジカルボン酸残基中における、テレフタル酸残基の含有量は40mol%〜100mol%であることが好ましい。
テレフタル酸残基比率を40mol%以上とすることで、十分な光学異方性を示すセルロースエステルフィルムが得られる。
【0142】
ジオールと、脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合エステルには、脂肪族ジカルボン酸残基が含まれる。
本発明で好ましく用いることができる重縮合エステル系疎水化剤を形成することができる脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸又は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
重縮合エステルには、混合に用いた脂肪族ジカルボン酸に由来する脂肪族ジカルボン酸残基が形成される。
脂肪族ジカルボン酸残基は、平均炭素数が5.5〜10.0であることが好ましく、5.5〜8.0であることがより好ましく、5.5〜7.0であることがさらに好ましい。脂肪族ジカルボン酸残基の平均炭素数が10.0以下であれば化合物の加熱減量が低減でき、セルロースアシレートウェブ乾燥時のブリードアウトによる工程汚染が原因と考えられる面状故障の発生を防ぐことができる。また、脂肪族ジカルボン酸残基の平均炭素数が5.5以上であれば相溶性に優れ、重縮合エステルの析出が起き難く好ましい。
前記脂肪族ジカルボン酸残基は、具体的には、コハク酸残基を含むことが好ましく、2種用いる場合は、コハク酸残基とアジピン酸残基を含むことが好ましい。
すなわち、重縮合エステルの形成における混合に、脂肪族ジカルボン酸を1種用いても、2種以上を用いてもよく、2種用いる場合は、コハク酸とアジピン酸を用いることが好ましい。重縮合エステルの形成における混合に、脂肪族ジカルボン酸を1種用いる場合は、コハク酸を用いることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸残基の平均炭素数を所望の値に調整することができ、セルロースエステルとの相溶性の点で好ましい。
【0143】
本発明において、重縮合エステルの形成における混合には、ジカルボン酸を2種又は3種を用いることが好ましい。2種を用いる場合は脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸とを1種ずつ用いることが好ましく、3種を用いる場合は脂肪族ジカルボン酸を1種と芳香族ジカルボン酸を2種又は脂肪族ジカルボン酸を2種と芳香族ジカルボン酸を1種用いることができる。ジカルボン酸残基の平均炭素数の値を調整しやすく、かつ芳香族ジカルボン酸残基の含有量を好ましい範囲とすることができ、偏光子の耐久性を向上し得るためである。
【0144】
ジオールとジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合エステルには、ジオール残基が含まれる。
本明細書中では、ジオールHO−R−OHより形成されるジオール残基は−O−R−O−である。
重縮合エステルを形成するジオールとしては、芳香族ジオール及び脂肪族ジオールが挙げられ、本発明に用いられる前記疎水化剤に用いられる重縮合エステルは少なくとも脂肪族ジオールから形成されることが好ましい。
前記重縮合エステルは、平均炭素数が2.5〜7.0の脂肪族ジオール残基を含むことが好ましく、より好ましくは平均炭素数が2.5〜4.0の脂肪族ジオール残基を含む。前記脂肪族ジオール残基の平均炭素数が7.0より小さいとセルロースエステルとの相溶性が改善され、ブリードアウトが生じにくくなり、また、化合物の加熱減量が増大しにくくなり、セルロースアシレートウェブ乾燥時の工程汚染が原因と考えられる面状故障が発生し難くなる。また、脂肪族ジオール残基の平均炭素数が2.5以上であれば合成が容易である。
本発明に用いることができる重縮合エステル系疎水化剤を形成することができる脂肪族ジオールとしては、アルキルジオール又は脂環式ジオール類を好ましい例として挙げることができ、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等が好ましい。これらはエチレングリコールとともに1種又は2種以上の混合物として使用されることが好ましい。
【0145】
より好ましい前記脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、及び1,3−プロパンジオールの少なくとも1種であり、特に好ましくはエチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールの少なくとも1種である。前記脂肪族ジオールを2種用いて前記重縮合エステルを形成する場合は、エチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールを用いることが好ましい。1,2−プロパンジオール、又は1,3−プロパンジオールを用いることにより重縮合エステルの結晶化を防止することができる。
前記重縮合エステルには、混合に用いたジオールによりジオール残基が形成される。
すなわち、前記重縮合エステルは、ジオール残基としてエチレングリコール残基、1,2−プロパンジオール残基、及び1,3−プロパンジオール残基の少なくとも1種を含むことが好ましく、エチレングリコール残基又は1,2−プロパンジオール残基であることがより好ましい。
前記重縮合エステルに含まれる脂肪族ジオール残基には、エチレングリコール残基が10mol%〜100mol%含まれることが好ましく、20mol%〜100mol%含まれることがより好ましい。
【0146】
前記重縮合エステルの末端は、封止せずにジオールあるいはカルボン酸のままとしてもよく、さらにモノカルボン酸類又はモノアルコール類を反応させていわゆる末端の封止を実施してもよい。
封止に用いるモノカルボン酸類としては酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、安息香酸等が好ましい。封止に用いるモノアルコール類としてはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等が好ましく、メタノールが最も好ましい。重縮合エステルの末端に使用するモノカルボン酸類の炭素数が7以下であると、化合物の加熱減量が大きくならず、面状故障が発生しない。
前記重縮合エステルの末端は、封止せずにジオール残基のままであることか、酢酸またはプロピオン酸又は安息香酸によって封止されていることがさらに好ましい。
前記重縮合エステルの両末端は、それぞれ、封止の実施の有無が同一であることを問わない。
縮合体の両末端が未封止の場合、重縮合エステルはポリエステルポリオールであることが好ましい。
前記重縮合エステルの態様の一つとして脂肪族ジオール残基の炭素数が2.5〜8.0であり、重縮合エステルの両末端は未封止である重縮合エステルを挙げることができる。
重縮合エステルの両末端が封止されている場合、モノカルボン酸と反応させて封止することが好ましい。このとき、該重縮合エステルの両末端はモノカルボン酸残基となっている。本明細書中では、モノカルボン酸R−COOHより形成されるモノカルボン酸残基はR−CO−である。重縮合エステルの両末端がモノカルボン酸で封止されている場合、前記モノカルボン酸は脂肪族モノカルボン酸残基であることが好ましく、モノカルボン酸残基が炭素数22以下の脂肪族モノカルボン酸残基であることがより好ましく、炭素数3以下の脂肪族モノカルボン酸残基であることがさらに好ましい。また、炭素数2以上の脂肪族モノカルボン酸残基であることが好ましく、炭素数2の脂肪族モノカルボン酸残基であることが特に好ましい。
前記重縮合エステルの態様の一つとして脂肪族ジオール残基の炭素数が2.5より大きく7.0以下であり、重縮合エステルの両末端がモノカルボン酸残基で封止されている重縮合エステルを挙げることができる。
重縮合エステルの両末端を封止しているモノカルボン酸残基の炭素数が3以下であると、揮発性が低下し、重縮合エステルの加熱による減量が大きくならず、工程汚染の発生や面状故障の発生を低減することが可能である。
すなわち、封止に用いるモノカルボン酸類としては脂肪族モノカルボン酸が好ましく、モノカルボン酸が炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸であることがより好ましく、炭素数2〜3の脂肪族モノカルボン酸であることがさらに好ましく、炭素数2の脂肪族モノカルボン酸残基であることが特に好ましい。
例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、安息香酸及びその誘導体等が好ましく、酢酸又はプロピオン酸がより好ましく、酢酸が最も好ましい。
封止に用いるモノカルボン酸は2種以上を混合してもよい。
前記重縮合エステルの両末端は酢酸又はプロピオン酸による封止が好ましく、酢酸封止により両末端がアセチルエステル残基(アセチル残基と称する場合がある)となることが最も好ましい。
前記重縮合エステルの両末端を封止した場合は、常温での状態が固体形状となりにくく、ハンドリングが良好となり、また湿度安定性、偏光板耐久性に優れたセルロースエステルフィルムを得ることができる。
【0147】
下記表5に前記重縮合エステルの具体例J−1〜J−38を記すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0148】
【表5】

【0149】
上記表5中の略称は、それぞれ以下の化合物を表す。PA:フタル酸、TPA:テレフタル酸、AA:アジピン酸、SA:コハク酸、2,6−NPA:2,6−ナフタレンジカルボン酸。
【0150】
前記重縮合エステルの合成は、常法によりジオールとジカルボン酸とのポリエステル化反応又はエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。また、前記重縮合エステルについては、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0151】
(炭水化物誘導体系疎水化剤)
前記疎水化剤としては、単糖あるいは2〜10個の単糖単位を含む炭水化物の誘導体(以下、炭水化物誘導体系疎水化剤という)が好ましい。
【0152】
前記炭水化物誘導体系疎水化剤を好ましく構成する単糖または多糖は、分子中の置換可能な基(例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基など)が置換されていることを特徴とする。置換されて形成される構造の例としては、アルキル基、アリール基、アシル基などを挙げることができる。また、によって置換されて形成されるエーテル構造、水酸基をアシル基によって置換されて形成されるエステル構造、アミノ基によって置換されて形成されるアミド構造やイミド構造などを挙げることができる。
前記単糖または2〜10個の単糖単位を含む炭水化物の例としては、例えば、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、フルクトース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、トレハロース、イソトレハロース、ネオトレハロース、トレハロサミン、コウジビオース、ニゲロース、マルトース、マルチトール、イソマルトース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、ラクトサミン、ラクチトール、ラクツロース、メリビオース、プリメベロース、ルチノース、シラビオース、スクロース、スクラロース、ツラノース、ビシアノース、セロトリオース、カコトリオース、ゲンチアノース、イソマルトトリオース、イソパノース、マルトトリオース、マンニノトリオース、メレジトース、パノース、プランテオース、ラフィノース、ソラトリオース、ウンベリフェロース、リコテトラオース、マルトテトラオース、スタキオース、バルトペンタオース、ベルバルコース、マルトヘキサオース、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、δ−シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトールなどを挙げることができる。
【0153】
好ましくは、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、トレハロース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、スクラロース、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、δ−シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトールであり、さらに好ましくは、アラビノース、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンであり、特に好ましくは、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、キシリトール、ソルビトールである。
【0154】
また、前記炭水化物誘導体系疎水化剤の置換基の例としては、アルキル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、2−シアノエチル基、ベンジル基など)、アリール基(好ましくは炭素数6〜24、より好ましくは6〜18、特に好ましくは6〜12のアリール基、例えば、フェニル基、ナフチル基)、アシル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアシル基、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、トルイル基、フタリル基、ナフタル基など)を挙げることができる。また、アミノ基によって置換されて形成される好ましい構造として、アミド構造(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアミド、例えばホルムアミド、アセトアミドなど)、イミド構造(好ましくは炭素数4〜22、より好ましくは炭素数4〜12、特に好ましくは炭素数4〜8のイミド、例えば、スクシイミド、フタルイミドなど)を挙げることができる。これらの中で、さらに好ましいものはアルキル基、アリール基またはアシル基であり、特に好ましくはアシル基である。
【0155】
前記炭水化物誘導体系疎水化剤の好ましい例としては、以下のものを挙げることができる。ただし、本発明で用いることができる炭水化物誘導体系疎水化剤は、これらに限定されるものではない。
キシローステトラアセテート、グルコースペンタアセテート、フルクトースペンタアセテート、マンノースペンタアセテート、ガラクトースペンタアセテート、マルトースオクタアセテート、セロビオースオクタアセテート、スクロースオクタアセテート、キシリトールペンタアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、キシローステトラプロピオネート、グルコースペンタプロピオネート、フルクトースペンタプロピオネート、マンノースペンタプロピオネート、ガラクトースペンタプロピオネート、マルトースオクタプロピオネート、セロビオースオクタプロピオネート、スクロースオクタプロピオネート、キシリトールペンタプロピオネート、ソルビトールヘキサプロピオネート、キシローステトラブチレート、グルコースペンタブチレート、フルクトースペンタブチレート、マンノースペンタブチレート、ガラクトースペンタブチレート、マルトースオクタブチレート、セロビオースオクタブチレート、スクロースオクタブチレート、キシリトールペンタブチレート、ソルビトールヘキサブチレート、キシローステトラベンゾエート、グルコースペンタベンゾエート、フルクトースペンタベンゾエート、マンノースペンタベンゾエート、ガラクトースペンタベンゾエート、マルトースオクタベンゾエート、セロビオースオクタベンゾエート、スクロースオクタベンゾエート、キシリトールペンタベンゾエート、ソルビトールヘキサベンゾエートなどが好ましい。キシローステトラアセテート、グルコースペンタアセテート、フルクトースペンタアセテート、マンノースペンタアセテート、ガラクトースペンタアセテート、マルトースオクタアセテート、セロビオースオクタアセテート、スクロースオクタアセテート、キシリトールペンタアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、キシローステトラプロピオネート、グルコースペンタプロピオネート、フルクトースペンタプロピオネート、マンノースペンタプロピオネート、ガラクトースペンタプロピオネート、マルトースオクタプロピオネート、セロビオースオクタプロピオネート、スクロースオクタプロピオネート、キシリトールペンタプロピオネート、ソルビトールヘキサプロピオネート、キシローステトラベンゾエート、グルコースペンタベンゾエート、フルクトースペンタベンゾエート、マンノースペンタベンゾエート、ガラクトースペンタベンゾエート、マルトースオクタベンゾエート、セロビオースオクタベンゾエート、スクロースオクタベンゾエート、キシリトールペンタベンゾエート、ソルビトールヘキサベンゾエートなどがさらに好ましい。マルトースオクタアセテート、セロビオースオクタアセテート、スクロースオクタアセテート、キシローステトラプロピオネート、グルコースペンタプロピオネート、フルクトースペンタプロピオネート、マンノースペンタプロピオネート、ガラクトースペンタプロピオネート、マルトースオクタプロピオネート、セロビオースオクタプロピオネート、スクロースオクタプロピオネート、キシローステトラベンゾエート、グルコースペンタベンゾエート、フルクトースペンタベンゾエート、マンノースペンタベンゾエート、ガラクトースペンタベンゾエート、マルトースオクタベンゾエート、セロビオースオクタベンゾエート、スクロースオクタベンゾエート、キシリトールペンタベンゾエート、ソルビトールヘキサベンゾエートなどが特に好ましい。
前記炭水化物誘導体系疎水化剤はピラノース構造あるいはフラノース構造を有することが好ましく、中でもピラノース構造を有することが特に好ましい。
【0156】
本発明に用いられる炭水化物誘導体としては以下に示す化合物が特に好ましい。ただし、本発明で用いることができる炭水化物誘導体は、これらに限定されるものではない。なお、以下の構造式中、Rはそれぞれ独立に任意の置換基を表し、複数のRは同一であっても、異なっていてもよい。
【0157】
【化71】

【0158】
【表6】

【0159】
【化72】

【0160】
【表7】

【0161】
【化73】

【0162】
【表8】

【0163】
【化74】

【0164】
【表9】

【0165】
(入手方法)
前記炭水化物誘導体の入手方法としては、市販品として(株)東京化成製、アルドリッチ製等から入手可能であり、もしくは市販の炭水化物に対して既知のエステル誘導体化法(例えば、特開平8−245678号公報に記載の方法)を行うことにより合成可能である。
【0166】
前記炭水化物誘導体系疎水化剤の入手方法としては、市販品として(株)東京化成製、アルドリッチ製等から入手可能であり、もしくは市販の炭水化物に対して既知のエステル誘導体化法(例えば、特開平8−245678号公報に記載の方法)を行うことにより合成可能である。
【0167】
これらの疎水化剤の添加量は、セルロースアシレートに対して1〜20質量%であることが好ましい。1質量%以上であれば、偏光子耐久性改良効果が得られやすく、また20質量%以下であれば、ブリードアウトも発生しにくい。さらに好ましい添加量は2〜15質量%であり、特に好ましくは5〜15質量%である。
【0168】
これらの疎水化剤をセルロースアシレートフィルムに添加するタイミングは、製膜される時点で添加されていれば特に限定されない。例えば、セルロースアシレートの合成時点で添加してもよいし、ドープ調製時セルロースアシレートと混合してもよい。
【0169】
<セルロースアシレート>
次に本発明で使用するセルロースアシレートについて詳しく説明する。
セルロースアシレートの置換度は、セルロースの構成単位((β)1,4−グリコシド結合しているグルコース)に存在している、3つの水酸基がアシル化されている割合を意味する。置換度(アシル化度)は、セルロースの構成単位質量当りの結合脂肪酸量を測定して算出することができる。本発明において、セルロース体の置換度はセルロース体を重水素置換されたジメチルスルフォキシド等の溶剤に溶解して13C−NMRスペクトルを測定し、アシル基中のカルボニル炭素のピーク強度比から求めることにより算出することができる。セルロースアシレートの残存水酸基をセルロースアシレート自身が有するアシル基とは異なる他のアシル基に置換したのち、13C−NMR測定により求めることができる。測定方法の詳細については、手塚他(Carbohydrate.Res., 273(1995)83−91)に記載がある。
【0170】
本発明におけるセルロースアシレートは、アシル化置換度が1.50〜2.98であるセルロースアセテートが好ましい。前記セルロースアセテートのアセチル置換度は2.00〜2.97がさらに好ましく、2.40〜2.97がより好ましい。
前記セルロースアシレートのアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基が特に好ましい。
【0171】
2種類以上のアシル基からなる混合脂肪酸エステルも前記セルロースアシレートとして好ましく用いることができる。この場合も、アシル基としてはアセチル基と炭素数が3〜4のアシル基が好ましい。また、この場合のセルロースアシレートの総アシル置換度の好ましい範囲は上述のセルロースアセテートの好ましいアシル化置換度の範囲と同様であり、アセチル基の置換度は2.0〜2.97が好ましく、2.4〜2.97がさらに好ましく、炭素数が3〜4のアシル基のアシル置換度は0〜1.5が好ましく、0〜1.0がより好ましく、0〜0.5がさらに好ましい。
本発明においては、置換基および/または置換度の異なる2種のセルロースアシレートを併用、混合して用いてもよいし、後述の共流延法などにより、異なるセルロースアシレートからなる複数層からなるフィルムを形成してもよい。
【0172】
さらに特開2008−20896号公報の〔0023〕〜〔0038〕に記載の脂肪酸アシル基と置換もしくは無置換の芳香族アシル基とを有する混合酸エステルも本発明に好ましく用いることができる。
【0173】
本発明で用いられるセルロースアシレートは、250〜800の質量平均重合度を有することが好ましく、300〜600の質量平均重合度を有することがさらに好ましい。また本発明で用いられるセルロースアシレートは、70000〜230000の数平均分子量を有することが好ましく、75000〜230000の数平均分子量を有することがさらに好ましく、78000〜120000の数平均分子量を有することが最も好ましい。
【0174】
本発明で用いられるセルロースアシレートは、アシル化剤として酸無水物や酸塩化物を用いて合成できる。前記アシル化剤が酸無水物である場合は、反応溶媒として有機酸(例えば、酢酸)や塩化メチレンが使用される。また、触媒として、硫酸のようなプロトン性触媒を用いることができる。アシル化剤が酸塩化物である場合は、触媒として塩基性化合物を用いることができる。工業的に最も一般的な合成方法では、セルロースをアセチル基および他のアシル基に対応する有機酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)またはそれらの酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)を含む混合有機酸成分でエステル化してセルロースエステルを合成する。
【0175】
前記方法においては、綿花リンターや木材パルプのようなセルロースは、酢酸のような有機酸で活性化処理した後、硫酸触媒の存在下で、上記のような有機酸成分の混合液を用いてエステル化する場合が多い。有機酸無水物成分は、一般にセルロース中に存在する水酸基の量に対して過剰量で使用する。このエステル化処理では、エステル化反応に加えてセルロース主鎖(β)1,4−グリコシド結合)の加水分解反応(解重合反応)が進行する。主鎖の加水分解反応が進むとセルロースエステルの重合度が低下し、製造するセルロースエステルフィルムの物性が低下する。そのため、反応温度のような反応条件は、得られるセルロースエステルの重合度や分子量を考慮して決定することが好ましい。
【0176】
<セルロースアシレートフィルムの製造方法>
本発明におけるセルロースアシレートフィルムは、ソルベントキャスト法により製造することができる。ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造する。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、絶対湿量が200g/m3以上500g/m3以下、60℃以上130℃以下の範囲内で維持する水蒸気接触工程を行って製造されたことが好ましい。さらに、本発明のセルロースアシレートフィルムは、5秒以上60分以下行って製造されたことがより好ましい。
【0177】
前記有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルおよび炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。
前記エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。また、前記エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、前記有機溶媒として用いることができる。前記有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する溶媒の上述の好ましい炭素原子数範囲内であることが好ましい。
【0178】
前記炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
前記炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
前記炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
また、2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
【0179】
炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
また、2種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0180】
セルロースアシレート溶液(ドープ)は、0℃以上の温度(常温または高温)で処理することからなる一般的な方法で調製することができる。セルロースアシレート溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。
【0181】
セルロースアシレート溶液中におけるセルロースアシレートの量は、得られる溶液中に10〜40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
【0182】
セルロースアシレート溶液は、常温(0〜40℃)でセルロースアシレートと有機溶媒とを撹拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で撹拌してもよい。具体的には、セルロースアシレートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、且つ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら撹拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0183】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は撹拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
【0184】
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
【0185】
撹拌は、容器内部に撹拌翼を設けて、これを用いて行うことが好ましい。撹拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。撹拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
【0186】
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶媒中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0187】
冷却溶解法により、セルロースアシレート溶液を調製することもできる。冷却溶解法の詳細については、特開2007−86748号公報の〔0115〕〜〔0122〕に記載されている技術を用いることができる。
では、通常の溶解方法ではセルロースアシレートを溶解させることが困難な有機溶媒中にも、セルロースアシレートを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でセルロースアシレートを溶解できる溶媒であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるとの効果がある。
【0188】
冷却溶解法では、最初に室温で有機溶媒中にセルロースアシレートを撹拌しながら徐々に添加する。セルロースアシレートの量は、この混合物中に10〜40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
【0189】
次に、混合物を−100〜−10℃(好ましくは−80〜−10℃、さらに好ましくは−50〜−20℃、最も好ましくは−50〜−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30〜−20℃)中で実施できる。冷却によりセルロースアシレートと有機溶媒の混合物は固化する。
【0190】
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を、冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
【0191】
さらに、冷却した混合物を0〜200℃(好ましくは0〜150℃、さらに好ましくは0〜120℃、最も好ましくは0〜50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースアシレートが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよく、温浴中で加温してもよい。加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を、加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
【0192】
以上のようにして、均一なセルロースアシレート溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
【0193】
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
【0194】
なお、セルロースアセテート(酢化度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20質量%の溶液は、示差走査熱量計(DSC)による測定によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保することが好ましい。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアセテートの酢化度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
【0195】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを製造する。ドープにはレターデーション発現剤を添加することが好ましい。ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。
【0196】
ソルベントキャスト法における乾燥方法については、米国特許第2,336,310号、同2,367,603号、同2,492,078号、同2,492,977号、同2,492,978号、同2,607,704号、同2,739,069号および同2,739,070号の各明細書、英国特許第640731号および同736892号の各明細書、並びに特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号および同62−115035号の各公報に記載がある。バンドまたはドラム上での乾燥は空気、窒素などの不活性ガスを送風することにより行なうことができる。
【0197】
また、得られたフィルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100℃〜160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して、残留溶媒を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0198】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)を用いて2層以上の流延を行いフィルム化することもできる。この場合、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを作製することが好ましい。ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が10〜40質量%の範囲となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。
【0199】
2層以上の複数のセルロースアシレート液を流延する場合、複数のセルロースアシレート溶液を流延することが可能であり、支持体の進行方向に間隔をおいて設けられた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよい。これらは、例えば、特開昭61−158414号、特開平1−122419号、および特開平11−198285号の各公報に記載の方法を用いることができる。また、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延することによっても、フィルム化することもできる。これは、例えば、特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、および、特開平6−134933号の各公報に記載の方法を用いることができる。さらに特開昭56−162617号公報に記載の高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高・低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押し出すセルロースアシレートフィルムの流延方法を用いることもできる。
【0200】
また、2個の流延口を用いて、第一の流延口により支持体に成形したフィルムを剥ぎ取り、支持体面に接していた側に第二の流延を行うことにより、フィルムを作製することもできる。例えば、特公昭44−20235号公報に記載の方法を挙げることができる。
【0201】
流延するセルロースアシレート溶液は同一の溶液を用いてもよいし、異なるセルロースアシレート溶液を2種以上用いてもよい。複数のセルロースアシレート層に機能をもたせるために、その機能に応じたセルロースアシレート溶液を、それぞれの流延口から押し出せばよい。さらに本発明におけるセルロースアシレート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、紫外線吸収層、偏光層など)と同時に流延することもできる。
【0202】
従来の単層液では、必要なフィルムの厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースアシレート溶液を押し出すことが必要である。その場合セルロースアシレート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良となったりして問題となることが多かった。この問題の解決方法として、複数のセルロースアシレート溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に支持体上に押し出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースアシレート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができる。
【0203】
セルロースアシレートフィルムには、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン等)を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。また、前記劣化防止剤の添加量は、調製する溶液(ドープ)の0.01〜1質量%であることが好ましく、0.01〜0.2質量%であることがさらに好ましい。添加量が0.01質量%以上であれば、劣化防止剤の効果が十分に発揮されるので好ましく、添加量が1質量%以下であれば、フィルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)などが生じにくいので好ましい。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
【0204】
また、セルロースアシレートフィルムには、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが、濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0205】
これらの微粒子は、通常平均粒子径が0.1〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子径は0.2μm〜1.5μmが好ましく、0.4μm〜1.2μmがさらに好ましく、0.6μm〜1.1μmが最も好ましい。1次、2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とした。
【0206】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0207】
これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972Vが、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0208】
本発明において2次平均粒子径の小さな粒子を有するセルロースアシレートフィルムを得るために、微粒子の分散液を調製する際にいくつかの手法が考えられる。例えば、溶剤と微粒子を撹拌混合した微粒子分散液をあらかじめ作成し、この微粒子分散液を別途用意した少量のセルロースアシレート溶液に加えて撹拌溶解し、さらにメインのセルロースアシレート溶液(ドープ液)と混合する方法がある。この方法は二酸化珪素微粒子の分散性がよく、二酸化珪素微粒子が更に再凝集しにくい点で好ましい調製方法である。ほかにも、溶剤に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行い、これを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。本発明はこれらの方法に限定されないが、二酸化珪素微粒子を溶剤などと混合して分散するときの二酸化珪素の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%が更に好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度は低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。最終的なセルロースアシレートのドープ溶液中でのマット剤微粒子の添加量は1m3あたり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gが更に好ましく、0.08〜0.16gが最も好ましい。
使用される溶剤は低級アルコール類としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
【0209】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。本発明におけるセルロースアシレートフィルムの製造に用いる巻き取り機は、一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。
【0210】
(延伸処理)
本発明のセルロースアシレートフィルムには、延伸処理をおこなうこともできる。延伸処理によりセルロースアシレートフィルムに所望のレターデーションを付与することが可能である。セルロースアシレートフィルムの延伸方向は幅方向、長手方向のいずれでも好ましい。
幅方向に延伸する方法は、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号などの各公報に記載されている。
【0211】
フィルムの延伸は、加熱条件下で実施する。フィルムは、乾燥中の処理で延伸することができ、特に溶媒が残存する場合は有効である。長手方向の延伸の場合、例えば、フィルムの搬送ローラーの速度を調節して、フィルムの剥ぎ取り速度よりもフィルムの巻き取り速度の方を速くするとフィルムは延伸される。幅方向の延伸の場合、フィルムの巾をテンターで保持しながら搬送して、テンターの巾を徐々に広げることによってもフィルムを延伸できる。フィルムの乾燥後に、延伸機を用いて延伸すること(好ましくはロング延伸機を用いる一軸延伸)もできる。
【0212】
本発明のセルロースアシレートフィルムの延伸は、セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度Tgを用いて、(Tg−5℃)〜(Tg+40℃)の温度で行うことが好ましく、(Tg)〜(Tg+35℃)であることがより好ましく、(Tg+5℃)〜(Tg+30℃)であることが特に好ましい。乾膜の場合、130℃〜200℃が好ましい。
また、流延後にドープ溶剤が残存した状態で延伸を行う場合、乾膜よりも低い温度で延伸が可能となり、この場合、100℃〜170℃が好ましい。
【0213】
本発明のセルロースアシレートフィルムの延伸倍率(延伸前のフィルムに対する伸び率)は、1%〜200%が好ましく、5%〜150%がさらに好ましい。特に、幅方向に1%〜200%で延伸するのが好ましく、さらに好ましくは5%〜150%、特に好ましくは30〜45%である。
延伸速度は1%/分〜300%/分が好ましく、10%/分〜300%/分がさらに好ましく、30%/分〜300%/分が最も好ましい。
【0214】
また、本発明における延伸セルロースアシレートフィルムは、最大延伸倍率まで延伸したのちに、最大延伸倍率より低い延伸倍率で一定時間保持する工程(以下、「緩和工程」と称することがある。)を経て製造されることが好ましい。緩和工程における延伸倍率は最大延伸倍率の50%〜99%が好ましく、70%〜97%がさらに好ましく、90%〜95%が最も好ましい。また、緩和工程の時間は1秒〜120秒が好ましく、5秒〜100秒がさらに好ましい。
【0215】
さらに、本発明のセルロースアシレートフィルムは幅方向にフィルムを把持しながら収縮させる収縮工程を含むことにより好ましく製造することができる。
フィルムの幅方向に延伸する延伸工程と、フィルムの搬送方向(長手方向)に収縮させる収縮工程を含むことを特徴とする製造方法においてはパンタグラフ式あるいはリニアモーター式のテンターによって保持し、フィルムの幅方向に延伸しながら搬送方向にはクリップの間隔を徐々に狭めることでフィルムを収縮させることが出来る。
【0216】
前記で説明した方法は、延伸工程と収縮工程の少なくとも一部が、同時に行われているということができる。
【0217】
なお、上記のようなフィルムの長手方向または幅方向のいずれか一方を延伸し、同時にもう一方を収縮させ、同時にフィルムの膜厚を増加させる延伸工程を具体的に行う延伸装置として、市金工業社製FITZ機などを望ましく用いることができる。この装置に関しては(特開2001−38802号公報)に記載されている。
【0218】
延伸工程における延伸倍率および収縮工程における収縮率としては目的とする面内のレターデーションReおよび厚さ方向のレターデーションRthの値により、任意に適切な値を選択することができるが、延伸工程における延伸倍率が10%以上であり、かつ収縮工程における収縮率を5%以上とすることが好ましい。
特に、フィルムの幅方向に10%以上延伸する延伸工程と、フィルムの幅方向にフィルムを把持しながらフィルムの搬送方向を5%以上収縮させる収縮工程とを含むことが好ましい。
なお、本発明でいう収縮率とは、収縮方向における収縮前のフィルムの長さに対する収縮後のフィルムの収縮した長さの割合を意味する。
収縮率としては5〜40%が好ましく、10〜30%が特に好ましい。
【0219】
(湿熱処理)
本発明の製造方法は、上記の好ましい範囲を満たす温度で延伸した後のフィルムを下記式(1)および式(2)を満たす条件で湿熱処理する工程(水蒸気接触工程)を含むことが好ましい。
60℃≦湿熱処理温度≦130℃ (1)
200g/m3≦湿熱処理絶対湿度量≦500g/m3 (2)
【0220】
前記湿熱処理温度は、70〜125℃であることが好ましく、80〜120℃であることがより好ましい。なお、ここで言う湿熱処理温度とは、接触気体との接触させた後のセルロースアシレートフィルムの温度のことを言う。
【0221】
前記湿熱処理絶対湿度量は、250〜400g/m3であることが好ましく、280〜390g/m3であることがより好ましい。
【0222】
接触気体の相対湿度は、10%〜100%であることが好ましく、15〜100%であることがより好ましく、20〜100%であることが特に好ましい。
【0223】
(接触気体)
湿熱処理工程におけるセルロースアシレートフィルムに接触される気体(接触気体)は水蒸気を含む気体であり、水蒸気を主たる成分として含む気体であることがより好ましく、水蒸気であることがさらに好ましい。ここで、主たる成分として含む気体とは、単一の気体からなる場合には、その気体のことを示し、複数の気体からなる場合には、構成する気体のうち、最も質量分率の高い気体のことを示す。
【0224】
前記接触気体は、湿潤気体供給装置によって生成される気体であることが好ましい。具体的には、液体状態の溶媒をボイラで加熱して気体状態とした後、ブロアによって送られるものであり、接触気体には、適宜空気を混合させてもよく、ブロアによって送られた後に加熱装置を経由させてさらに加熱してもよい。ここで、該空気は加熱されたものであることが好ましい。このようにして生成された接触気体の温度は、70〜125℃であることが好ましく、80〜120℃であることが最も好ましい。上限温度よりも高いとフィルムのカールが強くなり、好ましくなく、下限温度よりも低いと十分な効果が得られないことがある。
【0225】
(接触工程)
湿熱処理工程におけるセルロースアシレートフィルムと前述の接触気体との接触方法としては、前記接触気体をセルロースアシレートフィルムに当てる方法、接触気体で満たされた空間にセルロースアシレートフィルムを配置する方法、または接触気体で満たされた空間を通過させる方法を用いることができ、接触気体をセルロースアシレートフィルムに当てる方法、または接触気体で満たされた空間を通過させる方法が好ましい。また、セルロースアシレートフィルムと接触気体との接触は、セルロースアシレートフィルムを千鳥状に配置された複数のローラで案内しながら実施されることが好ましい。
【0226】
接触気体との接触時間は、特に限定されないが、本発明の効果が発揮される範囲内であれば、生産効率の点から出来るだけ短いほうが好ましい。本発明のセルロースアシレートフィルムは、湿熱処理工程を5秒以上60分以下行って製造されたことがより好ましい。
処理時間の上限値として、例えば、60分以下であることが好ましく、10分以下であることがより好ましい。一方、処理時間の下限値として、例えば、10秒以上であることが好ましく、30秒以上であることがより好ましい。
接触気体との接触する前のセルロースアシレートフィルムの温度は特に限定されないが、80〜130℃であることが好ましい。
【0227】
また、前記湿熱処理前のセルロースアシレートフィルムの残留溶媒量は特に限定されないが、セルロースアシレート分子の流動性がほとんど消失していることが好ましく、0〜5質量%であることが好ましく、0〜0.3質量%であることがより好ましい。
セルロースアシレートフィルムと接触した接触気体は、冷却装置が接続された凝縮装置に送られ、加熱気体と凝縮液とに分けられてもよい。
【0228】
本発明の製造方法では、アシル化置換度が1.50〜2.98を満たすセルロースアシレートを含むフィルムを、セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度Tgを用いて、(Tg−5℃)〜(Tg+40℃)を満たす温度で延伸した後、下記式(3)および式(4)を満たす条件で湿熱処理することが、低置換度のセルロースアシレートの寸度変化率を改善する観点から、より好ましい。
70℃≦湿熱処理温度≦120℃ (3)
250g/m3≦湿熱処理絶対湿度量≦400g/m3 (4)
本発明の製造方法のより好ましい態様は、低置換度のセルロースアシレートフィルムに対して湿熱処理を行う際は絶対湿度量を厳密に制御する必要があることを見いだしたことに基づくものである。例えば、アシル置換度が2.9前後のセルロースアシレートフィルムで最適とされていた絶対湿度量を低置換度セルロースアシレートフィルムに照射すると、湿熱処理工程において大きく搬送方向に延伸されてしまう。このように低置換度のセルロースアシレートを用いた場合における湿熱処理温度、絶対湿度量および相対湿度量の好ましい範囲は、上記の特に置換度の制限がない場合の湿熱処理時におけるより好ましい範囲と同様の範囲である。
【0229】
(乾燥工程)
このようにして接触気体と接触したセルロースアシレートフィルムは、そのまま略室温まで冷却してもよいし、フィルム中に残存した接触気体分子の量を調整するために、続いて乾燥ゾーンへ搬送してもよい。乾燥ゾーンへ搬送する場合、ロール群で搬送されているセルロースアシレートフィルムやテンターで両端をクリップされながら搬送されているセルロースアシレートフィルムに対し、熱風もしくは温風や、ガス濃度の低い風をあてる方法、熱線を照射する方法、昇温されたロールに接触させる方法等があるが、熱風もしくは温風や、ガス濃度の低い風をあてる方法が好ましい。なお、水蒸気接触工程が熱処理工程の前に実施される場合には、熱処理工程を乾燥工程とすることもできる。
【0230】
<セルロースアシレートフィルムの特性>
(レターデーション)
次に本発明セルロースアシレートフィルムの特性について詳しく説明する。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、下記式(5)〜(6)の関係を満たすことが好ましい。すなわち、本発明のセルロースアシレートフィルムは、位相差フィルムとして好ましく用いることができる。
0nm≦Re<300nm ・・・式(5)
−50nm<Rth<400nm ・・・式(6)
ΔRe(%)≧40%・・・式(7)
ΔRe(%)=(サンプルフィルムのRe湿度依存性)-(基準とする比較例フィルムのRe湿度依存性)/(基準とするフィルムのRe湿度依存性)・・・式(7')
Re湿度依存性=(25℃、相対湿度10%におけるRe)−(25℃、相対湿度80%におけるRe)・・・式(7'')
(式(7)中、ΔRe(%)は基準とするフィルムに対するRe湿度依存性の変動抑制割合(単位:%)を表す。)
ΔRth(%)≧40%・・・式(8)
ΔRth(%)=(サンプルフィルムのRth湿度依存性)-(基準とする比較例フィルムのRth湿度依存性)/(基準とするフィルムのRth湿度依存性)・・・式(8')
Rth湿度依存性=(25℃、相対湿度10%におけるRth)−(25℃、相対湿度80%におけるRth)・・・式(8'')
(式(8)中、ΔRth(%)は基準とするフィルムに対するRth湿度依存性の変動抑制割合(単位:%)を表す。)
【0231】
式(5)においてReは0nm〜200nmが好ましく、0nm〜150nmがより好ましい。
また、式(6)においてRthは−30nm〜350nmが好ましく、−10nm〜300nmがより好ましい。
また、式(7)においてΔRe(%)は40%以上であることがより好ましく、60%以上であることが特に好ましい。
また、式(8)においてΔRe(%)は40%以上であることがより好ましく、60%以上であることが特に好ましい。
Re湿度依存性およびRth湿度依存性が小さいセルロースフィルムを使用することにより、高湿下で長時間点灯しても光漏れの発生しにくい液晶表示装置が得られる。
【0232】
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。また、本明細書中、特にことわりがなくRe、Rthと言う場合、波長548nmにおけるReおよびRthを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基に、以下の式(21)および式(22)よりRthを算出することもできる。
【0233】
【数1】

【0234】
注記:
上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値をあらわす。式(21)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する方向の屈折率を表す。dはフィルムの厚さを表す。
【0235】
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(22)
【0236】
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出される。
【0237】
(セルロースアシレートフィルムの厚み)
本発明におけるセルロースアシレートフィルムの厚みは30μm〜100μmが好ましく、30μm〜80μmがさらに好ましく、30μm〜60μmが最も好ましい。
【0238】
(セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度)
ガラス転移温度の測定は、以下の方法により測定する。本発明のセルロースアシレートフィルム試料24mm×36mmを、25℃、相対湿度60%で2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(バイブロン:DVA−225(アイティー計測制御株式会社製))で、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃〜200℃、周波数1Hzで測定した。縦軸に対数軸で貯蔵弾性率、横軸に線形軸で温度をとり、貯蔵弾性率が固体領域からガラス転移領域へ移行する際に観察される貯蔵弾性率の急激な減少に対して、JIS K7121−1987の図3に記載の方法によりガラス転移温度Tgを求めた。
【0239】
<偏光板保護フィルム>
(鹸化処理)
本発明のセルロースアシレートフィルムはアルカリ鹸化処理することによりポリビニルアルコールのような偏光子の材料との密着性を付与し、偏光板保護フィルムとして用いることができる。鹸化の方法については、特開2007−86748号公報の〔0211〕と〔0212〕に記載され、偏光板の偏光子の作り方、偏光板の光学特性等については同公報の〔0213〕〜〔0255〕に記載されており、これらの記載を基に本発明のフィルムを保護フィルムに用いた偏光板を作製することができる。
【0240】
例えば本発明のセルロースアシレートフィルムに対するアルカリ鹸化処理は、フィルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。前記アルカリ溶液としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオンの濃度は0.1〜5.0mol/Lの範囲にあることが好ましく、0.5〜4.0mol/Lの範囲にあることがさらに好ましい。アルカリ溶液温度は、室温〜90℃の範囲にあることが好ましく、40〜70℃の範囲にあることがさらに好ましい。
【0241】
[偏光板]
偏光板は、一般に、偏光子およびその両側に配置された二枚の透明保護膜からなる。一方の保護膜として、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いることができる。他方の保護膜は、通常のセルロースアセテートフィルムを用いてもよい。偏光子には、ヨウ素系偏光子、二色性染料を用いる染料系偏光子やポリエン系偏光子がある。ヨウ素系偏光子および染料系偏光子は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。本発明のセルロースアシレートフィルムを偏光板保護膜として用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られたセルロースアシレートフィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号公報、特開平6−118232号公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。保護膜処理面と偏光子を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。偏光板は偏光子及びその両面を保護する保護膜で構成されており、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。
【0242】
本発明のセルロースアシレートフィルムの偏光子への貼り合せ方は、偏光子の透過軸と本発明のセルロースアシレートフィルムの遅相軸が実質的に平行となるように貼り合せることが好ましい。
本発明の液晶表示装置において、偏光板の透過軸と本発明のセルロースアシレートフィルムの遅相軸が、実質的に平行であることが好ましい。ここで、実質的に平行であるとは、本発明のセルロースアシレートフィルムの主屈折率nxの方向と偏光板の透過軸の方向とは、そのずれが5°以内であることをいい、1°以内、好ましくは0.5°以内であることが好ましい。ずれが1°より大きいと、偏光板クロスニコル下での偏光度性能が低下して光抜けが生じて好ましくない。
【0243】
<偏光板の機能化>
本発明における偏光板は、ディスプレイの視認性向上のための反射防止フィルム、輝度向上フィルムや、ハードコート層、前方散乱層、アンチグレア(防眩)層等の機能層を有する光学フィルムと複合した機能化偏光板としても好ましく使用される。機能化のための反射防止フィルム、輝度向上フィルム、他の機能性光学フィルム、ハードコート層、前方散乱層、アンチグレア層については、特開2007−86748号公報の〔0257〕〜〔0276〕に記載され、これらの記載を基に機能化した偏光板を作成することができる。
【0244】
(反射防止フィルム)
本発明における偏光板は反射防止フィルムと組み合わせて使用することができる。反射防止フィルムは、フッ素系ポリマー等の低屈折率素材を単層付与しただけの反射率1.5%程度のフィルム、または薄膜の多層干渉を利用した反射率1%以下のフィルムのいずれも使用できる。本発明では、透明支持体上に低屈折率層、および低屈折率層より高い屈折率を有する少なくとも一層の層(即ち、高屈折率層、中屈折率層)を積層した構成が好ましく使用される。また、日東技報,vol.38,No.1,May,2000,26頁〜28頁や特開2002−301783号公報などに記載された反射防止フィルムも好ましく使用できる。
【0245】
各層の屈折率は以下の関係を満足する。
高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率
【0246】
反射防止フィルムに用いる透明支持体は、前述の偏光子の保護フィルムに使用する透明ポリマーフィルムを好ましく使用することができる。
【0247】
低屈折率層の屈折率は1.20〜1.55であることが好ましく、さらに好ましくは1.30〜1.50である。低屈折率層は、耐擦傷性、防汚性を有する最外層として使用することが好ましい。耐擦傷性向上のため、シリコーン基を含有する含シリコーン化合物や、フッ素を含有する含フッ素化合物等の素材を用い表面への滑り性を付与することも好ましく行われる。
【0248】
前記含フッ素化合物としては、例えば、特開平9−222503号公報[0018]〜[0026]、同11−38202号公報[0019]〜[0030]、特開2001−40284号公報[0027]〜[0028]、特開2000−284102号公報等に記載の化合物を好ましく使用することができる。
前記含シリコーン化合物はポリシロキサン構造を有する化合物が好ましいが、反応性シリコーン(例えば、サイラプレーン(チッソ(株)製)や両末端にシラノール基含有のポリシロキサン(特開平11−258403号公報)等を使用することもできる。シランカップリング剤等の有機金属化合物と特定のフッ素含有炭化水素基含有のシランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応で硬化させてもよい(特開昭58−142958号公報、同58−147483号公報、同58−147484号公報、特開平9−157582号公報、同11−106704号公報、特開2000−117902号公報、同2001−48590号公報、同2002−53804号公報記載の化合物等)。
低屈折率層には、上記以外の添加剤として充填剤(例えば、二酸化珪素(シリカ)、含フッ素粒子(フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム)等の一次粒子平均径が1〜150nmの低屈折率無機化合物、特開平11−3820号公報の[0020]〜[0038]に記載の有機微粒子等)、シランカップリング剤、滑り剤、界面活性剤等を含有させることも好ましく行うことができる。
【0249】
前記低屈折率層は、気相法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成されてもよいが、安価に製造できる点で、塗布法で形成することが好ましい。塗布法としては、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、マイクログラビア法を好ましく使用することができる。
低屈折率層の膜厚は、30〜200nmであることが好ましく、50〜150nmであることがさらに好ましく、60〜120nmであることが最も好ましい。
【0250】
中屈折率層および高屈折率層は、平均粒子サイズ100nm以下の高屈折率の無機化合物超微粒子をマトリックス用材料に分散した構成とすることが好ましい。高屈折率の無機化合物微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物、例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Zr、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等を好ましく使用できる。
このような超微粒子は、粒子表面を表面処理剤で処理したり(シランカップリング剤等:特開平11−295503号公報、同11−153703号公報、特開2000−9908号公報、アニオン性化合物或は有機金属カップリング剤:特開2001−310432号公報等)、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造としたり(特開2001−166104号公報等)、特定の分散剤を併用する(例えば、特開平11−153703号公報、米国特許第6,210,858B1明細書、特開2002−2776069号公報等)等の態様で使用することができる。
【0251】
前記マトリックス用材料としては、従来公知の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂皮膜等を使用できるが、特開2000−47004号公報、同2001−315242号公報、同2001−31871号公報、同2001−296401号公報等に記載の多官能性材料や、特開2001−293818号公報等に記載の金属アルコキシド組成物から得られる硬化性膜を使用することもできる。
前記高屈折率層の屈折率は、1.70〜2.20であることが好ましい。高屈折率層の厚さは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがさらに好ましい。
前記中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。
【0252】
前記反射防止フィルムのヘイズは、5%以下あることが好ましく、3%以下がさらに好ましい。また、膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0253】
(輝度向上フィルム)
本発明における偏光板は、輝度向上フィルムと組み合わせて使用することができる。輝度向上フィルムは、円偏光もしくは直線偏光の分離機能を有しており、偏光板とバックライトとの間に配置され、一方の円偏光もしくは直線偏光をバックライト側に後方反射もしくは後方散乱する。バックライト部からの再反射光は、部分的に偏光状態を変化させ、輝度向上フィルムおよび偏光板に再入射する際、部分的に透過するため、この過程を繰り返すことにより光利用率が向上し、正面輝度が1.4倍程度に向上する。輝度向上フィルムとしては異方性反射方式および異方性散乱方式が知られており、いずれも本発明における偏光板と組み合わせることができる。
【0254】
異方性反射方式では、一軸延伸フィルムと未延伸フィルムとを多重に積層して、延伸方向の屈折率差を大きくすることにより反射率ならびに透過率の異方性を有する輝度向上フィルムが知られており、誘電体ミラーの原理を用いた多層膜方式(国際公開第95/17691号パンフレット、国際公開第95/17692号パンフレット、国際公開第95/17699号パンフレットの各明細書記載)やコレステリック液晶方式(欧州特許606940A2号明細書、特開平8−271731号公報記載)が知られている。誘電体ミラーの原理を用いた多層方式の輝度向上フィルムとしてはDBEF―E、DBEF−D、DBEF−M(いずれも3M社製)、コレステリック液晶方式の輝度向上フィルムとしてはNIPOCS(日東電工(株)製)が本発明で好ましく使用される。NIPOCSについては、日東技報,vol.38,No.1,May,2000,19頁〜21頁などを参考にすることができる。
【0255】
また、本発明では国際公開第97/32223号パンフレット、国際公開第97/32224号パンフレット、国際公開第97/32225号パンフレット、国際公開第97/32226号パンフレットの各明細書および特開平9−274108号、同11−174231号の各公報に記載された正の固有複屈折性ポリマーと負の固有複屈折性ポリマーとをブレンドして一軸延伸した異方性散乱方式の輝度向上フィルムと組み合わせて使用することも好ましい。異方性散乱方式輝度向上フィルムとしては、DRPF−H(3M社製)が好ましい。
【0256】
(他の機能性光学フィルム)
本発明における偏光板は、さらに、ハードコート層、前方散乱層、アンチグレア(防眩)層、ガスバリア層、滑り層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けた機能性光学フィルムと組み合わせて使用することも好ましい。また、これらの機能層は、前述の反射防止フィルムにおける反射防止層、あるいは光学異方性層等と同一層内で相互に複合して使用することも好ましい。これらの機能層は、偏光子側および偏光子と反対面(より空気側の面)のどちらか片面、または両面に設けて使用できる。
【0257】
(ハードコート層)
本発明における偏光板は耐擦傷性等の力学的強度を付与するため、ハードコート層を透明支持体の表面に設けた機能性光学フィルムと組み合わせることが好ましく行われる。ハードコート層を、前述の反射防止フィルムに適用して用いる場合は、特に、透明支持体と高屈折率層の間に設けることが好ましい。
前記ハードコート層は、光および/または熱による硬化性化合物の架橋反応、または、重合反応により形成されることが好ましい。硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、または、加水分解性官能基含有の有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物が好ましい。ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002−144913号公報、同2000−9908号公報、国際公開第00/46617号パンフレット等記載のものを好ましく使用することができる。
ハードコート層の膜厚は、0.2μm〜100μmであることが好ましい。
ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。また、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0258】
ハードコート層を形成する材料は、エチレン性不飽和基を含む化合物、開環重合性基を含む化合物を用いることができ、これらの化合物は単独あるいは組み合わせて用いることができる。エチレン性不飽和基を含む化合物の好ましい例としては、エチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のポリオールのポリアクリレート類;ビスフェノールAジグリシジルエーテルのジアクリレート、ヘキサンジオールジグリシジルエーテルのジアクリレート等のエポキシアクリレート類;ポリイソシナネートとヒドロキシエチルアクリレート等の水酸基含有アクリレートの反応によって得られるウレタンアクリレート等を好ましい化合物として挙げることができる。また、市販化合物としては、EB−600、EB−40、EB−140、EB−1150、EB−1290K、IRR214、EB−2220、TMPTA、TMPTMA(以上、ダイセル・ユーシービー(株)製)、UV−6300、UV−1700B(以上、日本合成化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0259】
また、開環重合性基を含む化合物の好ましい例としては、グリシジルエーテル類としてエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリスヒドロキシエチルイソシアヌレート、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシルエーテル、クレゾールノボラック樹脂のポリグリシジルエーテル、フェノールノボラック樹脂のポリグリシジルエーテルなど、脂環式エポキシ類としてセロキサイド2021P、セロキサイド2081、エポリードGT−301、エポリードGT−401、EHPE3150CE(以上、ダイセル化学工業(株)製)、フェノールノボラック樹脂のポリシクロヘキシルエポキシメチルエーテルなど、オキセタン類としてOXT−121、OXT−221、OX−SQ、PNOX−1009(以上、東亞合成(株)製)などが挙げられる。その他にグリシジル(メタ)アクリレートの重合体、或いはグリシジル(メタ)アクリレートと共重合できるモノマーとの共重合体をハードコート層に使用することもできる。
【0260】
ハードコート層には、ハードコート層の硬化収縮の低減、基材との密着性の向上、本発明においてハードコート処理物品のカールを低減するため、ケイ素、チタン、ジルコニウム、アルミニウム等の酸化物微粒子やポリエチレン、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリジメチルシロキサン等の架橋粒子、SBR、NBRなどの架橋ゴム微粒子等の有機微粒子等の架橋微粒子を添加することも好ましく行われる。これらの架橋微粒子の平均粒子サイズは、1nm〜20000nmであることが好ましい。また、架橋微粒子の形状は、球状、棒状、針状、板状など特に制限無く使用できる。微粒子の添加量は硬化後のハードコート層の60体積%以下であることが好ましく、40体積%以下がより好ましい。
【0261】
上記で記載した無機微粒子を添加する場合、一般にバインダーポリマーとの親和性が悪いため、ケイ素、アルミニウム、チタニウム等の金属を含有し、かつアルコキシド基、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の官能基を有する表面処理剤を用いて表面処理を行うことも好ましく行われる。
【0262】
ハードコート層は、熱または活性エネルギー線を用いて硬化することが好ましく、その中でも放射線、ガンマー線、アルファー線、電子線、紫外線等の活性エネルギー線を用いることがより好ましく、安全性、生産性を考えると電子線、紫外線を用いることが特に好ましい。熱で硬化させる場合は、プラスチック自身の耐熱性を考えて、加熱温度は140℃以下が好ましく、より好ましくは100℃以下である。
【0263】
(前方散乱層)
前方散乱層は、本発明における偏光板を液晶表示装置に適用した際の、上下左右方向の視野角特性(色相と輝度分布)改良するために使用される。本発明では、前方散乱層は屈折率の異なる微粒子をバインダー分散した構成が好ましく、例えば、前方散乱係数を特定化した特開11−38208号公報、透明樹脂と微粒子との相対屈折率を特定範囲とした特開2000−199809号公報、ヘイズ値を40%以上と規定した特開2002−107512号公報等の構成を使用することができる。また、本発明における偏光板をヘイズの視野角特性を制御するため、住友化学(株)の技術レポート「光機能性フィルム」31頁〜39頁に記載された「ルミスティ」と組み合わせて使用することも好ましく行うことができる。
【0264】
(アンチグレア層)
アンチグレア(防眩)層は、反射光を散乱させ映り込みを防止するために使用される。アンチグレア機能は、液晶表示装置の最表面(表示側)に凹凸を形成することにより得られる。アンチグレア機能を有する光学フィルムのヘイズは、3〜30%であることが好ましく、5〜20%であることがさらに好ましく、7〜20%であることが最も好ましい。
フィルム表面に凹凸を形成する方法は、例えば、微粒子を添加して膜表面に凹凸を形成する方法(例えば、特開2000−271878号公報等)、比較的大きな粒子(粒子サイズ0.05〜2μm)を少量(0.1〜50質量%)添加して表面凹凸膜を形成する方法(例えば、特開2000−281410号公報、同2000−95893号公報、同2001−100004号公報、同2001−281407号公報等)、フィルム表面に物理的に凹凸形状を転写する方法(例えば、エンボス加工方法として、特開昭63−278839号公報、特開平11−183710号公報、特開2000−275401号公報等記載)等を好ましく使用することができる。
【0265】
[液晶表示装置]
次に本発明の液晶表示装置について説明する。
【0266】
図1は、本発明の液晶表示装置の例を示す概略図である。図1において、液晶表示装置10は、液晶層5とこの上下に配置された液晶セル上電極基板3および液晶セル下電極基板6とを有する液晶セル、液晶セルの両側に配置された上側偏光板1および下側偏光板8からなる。液晶セルと各偏光板との間にカラーフィルターを配置してもよい。前記液晶表示装置10を透過型として使用する場合は、冷陰極あるいは熱陰極蛍光管、あるいは発光ダイオード、フィールドエミッション素子、エレクトロルミネッセント素子を光源とするバックライトを背面に配置する。
【0267】
上側偏光板1および下側偏光板8は、それぞれ2枚の保護フィルムで偏光子を挟むように積層した構成を有しており、本発明の液晶表示装置10は、一方の偏光板の液晶セル側の保護フィルムが上記の特性を有するのが好ましい。本発明の液晶表示装置10は、装置の外側(液晶セルから遠い側)から、透明保護フィルム、偏光子、本発明のセルロースアシレートフィルムの順序で積層することが好ましい。
液晶表示装置10には、画像直視型、画像投影型や光変調型が含まれる。TFTやMIMのような3端子または2端子半導体素子を用いたアクティブマトリックス液晶表示装置が本発明は有効である。もちろん時分割駆動と呼ばれるSTNモードに代表されるパッシブマトリックス液晶表示装置でも有効である。
【0268】
(VAモード)
本発明の液晶表示装置の液晶セルはVAモードであることが好ましい。
VAモードでは上下基板間に誘電異方性が負で、Δn=0.0813、Δε=−4.6程度の液晶をラビング配向により、液晶分子の配向方向を示すダイレクタ、いわゆるチルト角を、約89°で作製する。図1における液晶層5の厚さdは3.5μm程度に設定してあることが好ましい。ここで厚さdと屈折率異方性Δnとの積Δndの大きさにより白表示時の明るさが変化する。このため最大の明るさを得るためには液晶層の厚みを0.2μm〜0.5μmの範囲になるように設定する。
【0269】
液晶セルの上側偏光板1の吸収軸2と下側偏光板8の吸収軸9は略直交に積層する。液晶セル上電極基板3および液晶セル下電極基板6のそれぞれの配向膜の内側には透明電極(図示せず)が形成されるが、電極に駆動電圧を印加しない非駆動状態では、液晶層5中の液晶分子は、基板面に対して概略垂直に配向し、その結果液晶パネルを通過する光の偏光状態はほとんど変化しない。すなわち、液晶表示装置では、非駆動状態において理想的な黒表示を実現する。これに対し、駆動状態では、液晶分子は基板面に平行な方向に傾斜し、液晶パネルを通過する光はかかる傾斜した液晶分子により偏光状態を変化させる。換言すると、液晶表示装置では、駆動状態において白表示が得られる。なお図1において、符号4および7は、配向制御方向である。
【0270】
ここでは上下基板間に電界が印加されるため、電界方向に垂直に液晶分子が応答するような、誘電率異方性が負の液晶材料を使用することが好ましい。また電極を一方の基板に配置し、電界が基板面に平行の横方向に印加される場合は、液晶材料は正の誘電率異方性を有するものを使用する。
またVAモードの液晶表示装置では、TNモードの液晶表示装置で一般的に使われているカイラル剤の添加は、動的応答特性の劣化させるため用いることは少ないが、配向不良を低減するために添加されることもある。
【0271】
VAモードの特徴は、高速応答であることと、コントラストが高いことである。しかし、コントラストは正面では高いが、斜め方向では劣化する課題がある。黒表示時に液晶分子は基板面に垂直に配向している。正面から観察すると、液晶分子の複屈折はほとんどないため透過率は低く、高コントラストが得られる。しかし、斜めから観察した場合は液晶分子に複屈折が生じる。さらに上下の偏光板吸収軸の交差角が、正面では90°の直交であるが、斜めから見た場合は90°より大きくなる。この2つの要因のために斜め方向では漏れ光が生じ、コントラストが低下する。これを解決するために光学補償シート(位相差フィルム)として、本発明のセルロースアシレートフィルムを配置する。
【0272】
また白表示時には液晶分子が傾斜しているが、傾斜方向とその逆方向では、斜めから観察した時の液晶分子の複屈折の大きさが異なり、輝度や色調に差が生じる。これを解決するためには、液晶表示装置の一画素を複数の領域に分割するマルチドメインと呼ばれる構造にすることも好ましい。
【0273】
(マルチドメイン)
例えば、VA方式では液晶分子が電界印加により、一つの画素内で異なる複数の領域に傾斜することで視角特性が平均化される。一画素内で配向を分割するには、電極にスリットを設けたり、突起を設け、電界方向を変えたり電界密度に偏りを持たせる。全方向で均等な視野角を得るにはこの分割数を多くすればよいが、4分割、あるいは8分割以上することでほぼ均等な視野角が得られる。特に8分割時は偏光板吸収軸を任意の角度に設定できるので好ましい。
【0274】
また配向分割の領域境界では、液晶分子が応答しづらい。そのためノーマリーブラック表示では黒表示が維持されるため、輝度低下が問題となる。そこで液晶材料にカイラル剤を添加して境界領域を小さくすることが可能である。
【実施例】
【0275】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0276】
[実施例1]
〔セルロースアシレートフィルムの作製〕
(セルロースアシレート溶液の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液1を調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアシレート溶液1の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
アセチル置換度2.44、重合度350のセルロースアセテート
100.0質量部
重縮合エステルJ−39 10.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 402.0質量部
メタノール(第2溶媒) 60.0質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
実施例1、その他の実施例および比較例で用いた各疎水化剤の構造を下記に示した。
【0277】
【化75】

【0278】
(マット剤溶液2の調製)
下記の組成物を分散機に投入し、攪拌して各成分を溶解し、マット剤溶液2を調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
マット剤溶液2の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
平均粒子サイズ20nmのシリカ粒子(AEROSIL R972、
日本アエロジル(株)製) 2.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 75.0質量部
メタノール(第2溶媒) 12.7質量部
前記セルロースアシレート溶液1 10.3質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0279】
(高吸湿性化合物溶液3の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、高吸湿性化合物溶液3を調製した。
【0280】
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
高吸湿性化合物溶液3の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
高吸湿性化合物(A−11) 20.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 67.2質量部
メタノール(第2溶媒) 10.0質量部
前記セルロースアシレート溶液1 12.8質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
実施例1、その他の実施例および比較例で用いた各高吸湿性化合物の構造を下記に示した。各高吸湿性化合物の分子量は、A−11は187であり、E−104は348であり、A−43は333であり、E−702は345であり、A−35は361であり、E−203は360である。なお、E−801は4種の化合物の混合物のため分子量は特定されない。
【0281】
【化76】

【0282】
(高吸湿性化合物の非晶状態における含水率差の測定)
また、各高吸湿性化合物の非晶状態における含水率差を、以下の方法で求めた。
まず、各高吸湿性化合物を融点以上に熱し融解させ、氷冷させることで再結晶させることなく非晶状態の高吸湿性化合物を得た。作成した高吸湿性化合物の水の揮発を確認するため、試料乾燥装置(CA−03、VA−05、共に三菱化学(株))にてカールフィッシャー法で測定し、示差走査熱量計(DSC)により非晶状態であることを確認した。
つぎに、得られた非晶状態の高吸湿性化合物0.03gを25℃、相対湿度10%および80%で、試料乾燥装置(CA−03、VA−05、共に三菱化学(株))を用いたカールフィッシャー法で高吸湿性化合物の含水率変化を調べ、含水率が安定するまで調湿を行った。含水率変化が見られなくなった状態の高吸湿性の含水率をそれぞれ相対湿度10%および80%での平衡含水率と定義し、それらの差を非晶状態含水率差(80%RH−10%RH)とした。
得られた結果を下記10〜表14に記載した。
【0283】
上記マット剤溶液2の1.3質量部と、高吸湿性化合物溶液3の3.1質量部をそれぞれ濾過後にインラインミキサーを用いて混合し、さらにセルロースアシレート溶液1を95.6質量部加えて、インラインミキサーを用いて混合した。混合した溶液を、バンド流延機を用いて流延し、100℃で残留溶媒含量40%まで乾燥した後、フィルムを剥ぎ取った。剥ぎ取ったフィルムは、140℃の雰囲気温度で残留溶媒含量20%になった時点でテンターを用いて延伸倍率35%で横延伸したのち、さらに130℃で3分間保持した。その後、フィルムを保持していたクリップを外して該フィルムを130℃で30分間乾燥させ、実施例1のセルロースアシレートフィルムを製造した。製造されたセルロースアシレートフィルムの残留溶媒量は0.1%であり、膜厚は60μmであった。
【0284】
[実施例2〜1727、比較例1〜1014]
〔実施例2〜1727および比較例1〜14]10のセルロースアシレートフィルムの作製〕
実施例1においてセルロースアシテートの置換度、各添加剤の種類および量、延伸温度および延伸倍率、フィルム厚みを下記表10〜表14に記載したとおりに変更した以外は同様にして、実施例2〜1727および比較例1〜1014のセルロースアシレートフィルムを製造した。
【0285】
なお、下記表10〜表14中、添加剤の添加量は、セルロースアシレート樹脂100質量部に対する質量部を表す。
【0286】
以上のようにして製造した実施例1〜1727および比較例1〜1014のセルロースアシレートフィルムについて、自動複屈折率計(KOBRA−WR、王子計測機器(株)製)により25℃で、相対湿度10%、60%、80%の各場合における波長548nmにおけるReおよびRthをそれぞれ測定した。得られたReおよびRthの値は、以下の式に従い膜厚50μm当たりに換算し、その値を各フィルムのReおよびRthとした。
Re=(測定Re値)/(測定フィルムの実膜厚(μm))×50(μm)
Rth=(測定Rth値)/(測定フィルムの実膜厚(μm))×50(μm)
【0287】
また、膜厚50μm当たりに換算したReおよびRthの値から、Re湿度依存性改良およびRth湿度依存性を以下の計算によって求めた。
・Re湿度依存性=(25℃、相対湿度10%におけるRe)−(25℃、相対湿度80%におけるRe)
・Rth湿度依存性=(25℃、相対湿度10%におけるRth)−(25℃、相対湿度80%におけるRth)
さらに上記にて求めた各サンプルフィルムのRe湿度依存性から、各表中で基準とする比較例フィルム(延伸倍率と膜厚が同じであり、添加剤無しまたは高吸湿性化合物無しである各比較例フィルム)に対するRe湿度依存性の変動抑制割合ΔRe(%)を以下の計算で求めた。
ΔRe(%)=(各サンプルフィルムのRe湿度依存性)-(基準とする比較例フィルムのRe湿度依存性)/(基準とする比較例フィルムのRe湿度依存性)
同様に、添加剤なしの基準に対するRth湿度依存性の変動抑制割合ΔRth(%)を以下の計算で求めた。
ΔRth(%)=(各サンプルフィルムのRth湿度依存性)-(基準とする比較例フィルムのRth湿度依存性)/(基準とする比較例フィルムのRth湿度依存性)
得られた結果を下記表10〜表14に示した。なお、ΔRe(%)とΔRth(%)は少なくとも一方が40%以上であることが必要であり、延伸フィルムの場合はこれらの両方が40%以上であることが好ましく、未延伸フィルムの場合はこれらの中でもΔRthが40%以上であることが好ましい。
【0288】
なお、表14では、添加剤無しに対する変動抑制割合ΔRth(%)が40%以上であるものを○評価とし、40%未満であるものを×評価として、表中に評価結果を記載した。
【0289】
〔セルロースアシレートフィルムの鹸化処理〕
作製した実施例1のセルロースアシレートフィルムを、2.3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に、55℃で3分間浸漬した。室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.05mol/Lの硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。このようにして、実施例1のセルロースアシレートフィルムについて表面の鹸化処理を行った。
【0290】
〔偏光板の作製〕
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光子を作製した。
鹸化処理した実施例1のセルロースアシレートフィルムを、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の片側に貼り付けた。市販のセルローストリアセテートフィルム(フジタックTD80UF、富士フイルム(株)製)に同様の鹸化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、作成した実施例1のセルロースアシレートフィルムを貼り付けてある側とは反対側の偏光子の面に鹸化処理後のセルローストリアセテートフィルムを貼り付けた。
この際、偏光子の透過軸と作成した実施例1のセルロースアシレートフィルムの遅相軸とは平行になるように配置した。また、偏光子の透過軸と市販のセルローストリアセテートフィルムの遅相軸とは、直交するように配置した。
このようにして実施例1の偏光板を作製した。
【0291】
実施例2〜1727のセルロースアシレートフィルムおよび比較例1〜1014のセルロースアシレートフィルムについても、それぞれ実施例1と同様にしてけん化処理および偏光板作製を行い、実施例2〜1727の偏光板および比較例1〜1014の偏光板を作製した。
但し、実施例18〜27および比較例11〜14のセルロースアシレートフィルムについては、以下の条件で湿熱処理を行った。
延伸処理を経た各フィルムに、結露防止処理、湿熱処理(水蒸気接触処理)及び熱処理を順次行った。
結露防止処理では、各フィルムに乾燥空気をあてて、フィルム温度(100℃)Tf0を調節した。
湿熱処理(水蒸気接触処理)では、湿潤気体接触室内の湿潤気体の絶対湿度(湿熱処理絶対湿度)が表14に示す値となるように、そして、湿潤気体の露点は、各フィルムの温度Tf0よりも10℃以上高い温度となるように調節し、各フィルムの温度(湿熱処理温度)が表14に示す値となる状態を、処理時間(60秒)だけ維持しながら、各フィルムを搬送した。
乾燥処理では、25℃相対湿度60%の乾燥処理室にて十分に乾燥させ、その後各フィルムを巻き取り、各実施例および比較例のフィルムを得た。
【0292】
【表10】

【0293】
【表11】

【0294】
【表12】

【0295】
【表13】

【0296】
【表14】

【0297】
表10〜表13の結果から、本発明のセルロースアシレートフィルムは、アシル置換度の同じセルロースアシレート樹脂を用いた場合であって、本発明の範囲から外れる比較化合物の高吸湿性化合物を含む比較例(すなわち、比較例3、4、8および10)のセルロースアシレートフィルムと比較して、環境湿度に依存したReおよびRthの変化が小さいことがわかった。また、本発明のセルロースアシレートフィルムは、アシル置換度の同じセルロースアシレート樹脂を用いた場合であって、疎水化剤を含み、本発明の範囲の高吸湿性化合物を含まない比較例(すなわち、比較例5および9)のセルロースアシレートフィルムと比較して、環境湿度に依存したReおよびRthの変化が顕著に改善されることがわかった。さらに、本発明のセルロースアシレートフィルムは、疎水化剤も高吸湿性化合物も添加していない比較例1、2、6および7のセルロースアシレートフィルムと比較して環境湿度に依存したReおよびRthの変化が顕著に改善されることがわかった。
【0298】
表14の結果から、本発明のセルロースアシレートフィルムは、アシル置換度の同じセルロースアシレート樹脂を用いた場合であって、疎水化剤を含み、本発明の範囲から外れる比較化合物の高吸湿化合物含む比較例および本発明の範囲の高吸湿性化合物を含まない比較例(すなわち、比較例11および12)のセルロースアシレートフィルムと比較して、本発明の範囲である水蒸気接触工程を行うことで、環境湿度に依存したReおよびRth変化を処理前に比べて更に小さくなることがわかった。
すなわち、本発明のセルロースアシレートフィルムは、環境湿度に依存したレターデーション変化を抑えることができることがわかった。
【0299】
[実施例101]
〔液晶表示装置の作製〕
市販の液晶テレビ(SONY(株)のブラビアJ5000)の2枚の偏光板をはがし、視認者側およびバックライト側に実施例8のセルロースアシレートフィルムを用いた本発明の偏光板を、実施例8のセルロースアシレートフィルムがそれぞれ液晶セル側となるように、粘着剤を介して、観察者側およびバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸が上下方向に、そして、バックライト側の偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロスニコル配置とした。このようにして作製した本発明の液晶表示装置は市販の液晶テレビに対して、環境湿度を変えても斜めから観察した場合のコントラスト変化および色味変化が小さく好ましかった。
【0300】
[実施例401]
(セルロースアシレートの調製)
特開平10−45804号公報、同08−231761号公報に記載の方法で、セルロースアシレートを合成し、その置換度を測定した。具体的には、触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、アシル置換基の原料となるカルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。この時、カルボン酸の種類、量を調整することでアシル基の種類、置換度を調整した。またアシル化後に40℃で熟成を行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
【0301】
(低置換度層用セルロースアシレート溶液C01の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を溶解し、固形分濃度が22質量%のセルロースアシレート溶液を調製した。なお、セルロースアシレート溶液の粘度は60Pa・sであった。
・セルロースアセテート(置換度2.45) 100.0質量部
・重縮合ポリエステルJ−39 10.0質量部
・高吸湿性化合物A−11 4.0質量部
・メチレンクロライド 365.5質量部
・メタノール 54.6質量部
【0302】
なお、重縮合ポリエステルJ−39はアジピン酸/エチレングリコール共重合体(共重合比[モル%]=50/50)である。
【0303】
(高置換度層用セルロースアシレート溶液S01の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液を調製した。各セルロースアシレート溶液の固形分濃度が下記表2に記載の値となるように溶剤(メチレンクロライドおよびメタノール)の量は適宜調整した。
・セルロースアセテート(置換度2.75) 100.0質量部
・重縮合ポリエステルJ−39 10.0質量部
・シリカ微粒子 R972(日本エアロジル製) 0.15質量部
・メチレンクロライド 395.0質量部
・メタノール 59.0質量部
得られた高置換度層用セルロースアシレート溶液S01の固形分濃度は20.0質量%、粘度を30Pa・sであった。
【0304】
(実施例401のセルロースアシレートフィルムの作成)
前記低置換度層用セルロースアシレート溶液C01を膜厚56μmになるように、また前記高置換度層用セルロースアシレート溶液S01を膜厚が各2μmのスキンA層およびスキンB層になるように、それぞれ共流延した。得られたウェブ(フィルム)をバンドから剥離し、クリップに挟み、フィルム全体の質量に対する残留溶媒量が20〜5%の状態のときにテンターを用いて140℃で1.08倍横延伸した。その後にフィルムからクリップを外して130℃で20分間乾燥させた後、更にテンターを用いて180℃で1.2倍再度横延伸し、実施例401のセルロースアシレートフィルムを作製した。
なお、残留溶媒量は下記の式にしたがって求めた。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを測定したウェブを120℃で2時間乾燥させた時の質量である。
得られた高吸湿性化合物A−11をコア層に有する実施例401のセルロースアシレートフィルムについても実施例1と同様にしてフィルム光学特性を検討したところ、同様の傾向の結果が得られた。
【0305】
[合成例:一般式(A−2)で表される化合物の合成]
以下の一般式(A−2)で表される本発明に用いられる前記高吸湿性化合物(3−1)〜(3−18)と、上述の高吸湿性化合物(C−103)、(C−153)および(C−113)の合成を行った。
【化77】

【化78】

【0306】
化合物(3−1)の合成
アセトグアナミン10g(32mmol)のピリジン50mL溶液に、ベンゾイルクロライド9.9g(70mmol)を加え、8時間加熱還流させた。反応系の温度を室温に戻し、酢酸エチル及び水を加えて分液し、有機層を1N塩酸水、水の順に水洗した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去しカラムクロマトグラフィーにより精製し化合物(3−1)を得た。
得られた化合物(3−1)のNMRスペクトルは以下の通りである。
1H−NMR(溶媒:重DMSO、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):
2.50(3H、s)
7.45−7.55(4H、m)
7.60−7.65(2H、m)
7.90−8.00(4H、m)
11.20(2H、s)
【0307】
化合物(3−2)の合成
出発原料をベンゾイルクロライドからo−メチル安息香酸クロライドに変更した他は化合物(3−1)と同様に合成を行った。
得られた化合物(3−2)のNMRスペクトルは以下の通りである。
1H−NMR(溶媒:CDCl3、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):
2.50(6H、s)
2.60(3H、s)
7.20−7.30(4H、m)
7.35−7.45(2H、m)
7.50−7.60(2H、m)
8.55(2H、s)
【0308】
化合物(3−3)の合成
出発原料をベンゾイルクロライドからp−メチル安息香酸クロライドに変更した他は化合物(3−1)と同様に合成を行った。
得られた化合物(3−3)のNMRスペクトルは以下の通りである。
1H−NMR(溶媒:重DMSO、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):
2.35(6H、s)
2.50(3H、s)
7.30(4H、d)
7.85(4H、d)11.10(2H、s)
【0309】
化合物(3−4)の合成
出発原料をベンゾイルクロライドからp−メトキシ安息香酸クロライドに変更した他は化合物(3−1)と同様に合成を行った。
得られた化合物(3−4)のNMRスペクトルは以下の通りである。
1H−NMR(溶媒:重DMSO、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):
2.50(3H、s)
3.80(6H、s)
7.00(4H、d)
7.95(4H、d)
11.00(2H、s)
【0310】
化合物(3−5)の合成
出発原料をベンゾイルクロライドからm−メトキシ安息香酸クロライドに変更した他は化合物(3−1)と同様に合成を行った。
得られた化合物(3−5)のNMRスペクトルは以下の通りである。
1H−NMR(溶媒:重DMSO、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):
2.50(3H、s)
3.80(6H、s)
7.10−7.20(2H、m)
7.35−7.45(2H、m)
7.50−7.60(4H、m)
11.20(2H、s)
【0311】
化合物(3−6)の合成
出発原料をベンゾイルクロライドからp−tert−ブチル安息香酸クロライドに変更した他は化合物(3−1)と同様に合成を行った。
得られた化合物(3−6)のNMRスペクトルは以下の通りである。
1H−NMR(溶媒:重DMSO、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):
1.30(18H、s)
2.50(3H、s)
7.55(4H、d)
7.95(4H、d)
11.10(2H、s)
【0312】
化合物(3−7)の合成
出発原料をベンゾイルクロライドからm−メチル安息香酸クロライドに変更した他は化合物(3−1)と同様に合成を行った。
得られた化合物(3−7)のNMRスペクトルは以下の通りである。
1H−NMR(溶媒:CDCl3、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):
2.40(6H、s)
2.65(3H、s)
7.35−7.45(4H、m)
7.70−7.80(4H、m)
8.80(2H、s)
【0313】
化合物(3−8)の合成
出発原料をベンゾイルクロライドからp−クロロ安息香酸クロライドに変更した他は化合物(3−1)と同様に合成を行った。 得られた化合物(3−8)のNMRスペクトルは以下の通りである。
1H−NMR(溶媒:CDCl3、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):
2.60(3H、s)
7.40−7.50(4H、m)
7.90−8.00(4H、m)
9.10(2H、s)
【0314】
化合物(3−9)の合成
出発原料をベンゾイルクロライドからo−クロロ安息香酸クロライドに変更した他は化合物(3−1)と同様に合成を行った。
得られた化合物(3−9)のNMRスペクトルは以下の通りである。
1H−NMR(溶媒:CDCl3、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):
2.50(3H、s)
7.30−7.50(6H、m)
7.60−7.70(2H、m)
8.95(2H、s)
【0315】
化合物(3−10)の合成
出発原料をベンゾイルクロライドからm−クロロ安息香酸クロライドに変更した他は化合物(3−1)と同様に合成を行った。
得られた化合物(3−10)のNMRスペクトルは以下の通りである。
1H−NMR(溶媒:重DMSO、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):
2.50(3H、s)
7.55(2H、m)
7.70(2H、m)
7.90(2H、m)
8.00(2H、s)
11.35(2H、s)
【0316】
化合物(3−11)の合成
出発原料をベンゾイルクロライドからo−メトキシ安息香酸クロライドに変更した他は化合物(3−1)と同様に合成を行った。
得られた化合物(3−11)のNMRスペクトルは以下の通りである。
1H−NMR(溶媒:重DMSO、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):
2.40(3H、s)
3.80(6H、s)
7.00−7.20(4H、m)
7.55(2H、m)
7.65(2H、m)
10.70(2H、s)
【0317】
化合物(3−12)の合成
原料の酸クロライドを変更した他は化合物(3−1)と同様に合成を行った。目的物はMSスペクトルで確認した。
【0318】
化合物(3−13)の合成
原料の酸クロライドを変更した他は化合物(3−1)と同様に合成を行った。目的物はMSスペクトルで確認した。
【0319】
化合物(3−14)の合成 原料の酸クロライドを変更した他は化合物(3−1)と同様に合成を行った。
得られた化合物(3−14)のNMRスペクトルは以下の通りである。
1H−NMR(溶媒:重DMSO、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):
2.40(3H、s)
4.00(4H、s)
7.20−7.30(10H、m)
10.90(2H、s)
【0320】
化合物(3−15)の合成
原料の酸クロライドを変更した他は化合物(3−1)と同様に合成を行った。
得られた化合物(3−15)のNMRスペクトルは以下の通りである。
1H−NMR(溶媒:重DMSO、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):
2.40(3H、s)
3.80(3H、s)
7.15(1H、m)
7.35−7.55(5H、m)
7.75(2H、m)
11.10(1H、s)
11.20(1H、s)
【0321】
化合物(3−16)の合成
原料にベンゾグアナミンとp−tert−ブチル安息香酸クロライドを用いた他は化合物(3−1)と同様に合成を行った。
得られた化合物(3−16)のNMRスペクトルは以下の通りである。
1H−NMR(溶媒:重DMSO、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):
1.35(18H、s)
7.50−7.60(7H、m)
7.90−8.00(4H、m)
7.30(2H、m)
11.20(2H、s)
【0322】
化合物(3−17)の合成
【化79】

Chemistry−A European Journal, 2005, vol.11, #22 p.6616〜6628の方法に従い中間体3−17−1を合成し、化合物(3−7)と同様に合成を行った。目的物はMSスペクトルで確認した。
【0323】
化合物(3−18)の合成
化合物(3−17)と同様に合成を行い、目的物はMSスペクトルで確認した。
【0324】
化合物(C−103)の合成
【化80】

ジメチルアセトアミド300mlに2−クロロ−4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン50g、モルホリン60g、炭酸カリウム95gを加え100℃で3時間攪拌した。室温に冷却後、反応液に食塩水1Lを加え10℃に冷却し、析出した結晶を濾取した。この結晶を水、アセトニトリルで洗浄し、乾燥することで中間体(3−1)を55g得た。N−エチルピロリドン400mlに中間体(3−1)40g、2−メチル安息香酸メチル64g、ナトリウムメトキシド55gを加え40℃で30分攪拌した。室温に冷却後、反応液に1N塩酸水を加え、析出した結晶を濾取した。この結晶を水で洗浄し乾燥した。この結晶を酢酸エチル、メタノール、炭酸水素ナトリウム水溶液の混合溶媒中で攪拌し、結晶を濾取した。この結晶を水、アセトニトリルで洗浄し、乾燥することで目的物を60g得た。
1H−NMR(溶媒:CDCl3、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):
【0325】
化合物(C−153)の合成
【化81】

2−クロロ−4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン20gに40%メチルアミン水溶液を60ml加え70℃で2時間攪拌した。室温に冷却後、反応液に水を加え結晶を濾取した。この結晶をイソプロパノール、ヘキサンで洗浄し、乾燥することで中間体(43−1)を16g得た。その後の操作は化合物(C−103)の合成と同様に行い目的物を得た。
1H−NMR(溶媒:CDCl3、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):
【0326】
化合物(C−113)の合成
2−クロロ−4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン27gにメタノール300ml、水酸化ナトリウム16gを加え5時間加熱還流を行った。室温に冷却後、反応液に水を加え結晶を濾取した。この結晶を水で洗浄し、乾燥することで中間体(13−1)を17g得た。N−エチルピロリドン200mlに中間体(13−1)17g、2−メチル安息香酸メチル38g、ナトリウムメトキシド33gを加え40℃で8時間攪拌した。室温に冷却後、反応液に1N塩酸水、酢酸エチル、ヘキサンを加え、析出した結晶を濾取した。この結晶をイソプロパノールで再結晶し、乾燥することで目的物を20g得た。
【0327】
1 上側偏光板
2 上側偏光板吸収軸の方向
3 液晶セル上電極基板
4 上基板の配向制御方向
5 液晶層
6 液晶セル下電極基板
7 下基板の配向制御方向
8 下側偏光板
9 下側偏光板吸収軸の方向
10 液晶表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶状態における含水率差(25℃、相対湿度10%における含水率と25℃、相対湿度80%における含水率の差)が2%以上である高吸湿性化合物を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項2】
前記高吸湿性化合物が、下記(A)の要件を満たす水素結合性化合物であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
(A)1分子内に水素結合ドナー部または水素結合アクセプター部の少なくとも1つ有する。
【請求項3】
前記高吸湿性化合物が、1分子内に水素結合ドナー部と水素結合アクセプター部の総数が3以上の水素結合性化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項4】
前記高吸湿性化合物が、1分子内に水素結合ドナー部と水素結合アクセプター部の総数が5以上の水素結合性化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項5】
前記高吸湿性化合物が、下記(B)の要件を満たすことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
(B)少なくとも1つ以上の複素環を有し、該複素環を含めた芳香環構造の総数が1以上3以下。
【請求項6】
前記高吸湿性化合物が下記一般式(A−1)で表される化合物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化1】

(一般式(A−1)中、Raはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基またはアリール基を表す。X1、X2、X3およびX4はそれぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。)
【請求項7】
前記高吸湿性化合物が下記一般式(B−1)で表される化合物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化2】

(一般式(B−1)中、RbおよびRcはそれぞれ独立にアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基またはアリール基を表す。X5およびX6はそれぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。)
【請求項8】
前記一般式(A−1)および(B−1)において、前記X1、X2、X3、X4、X5およびX6が、それぞれ独立に、単結合および下記一般式(P)で表される2価の連結基からなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする請求項6または7に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化3】

(一般式(P)中、*側が前記一般式(A−1)および(B−1)で表される化合物中の1,3,5−トリアジン環に置換しているN原子との連結部位である。)
【請求項9】
前記高吸湿性化合物が下記一般式(C−1)で表される化合物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化4】

(一般式(C−1)中、Ra11はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rb11、Rc11、Rd11およびRe11はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q1は−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Raと連結して環を形成してもよい。X11、X12、およびX13は、それぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。X14は、下記一般式(P)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
【化5】

(一般式(P)中、*側が前記一般式(C−1)で表される化合物中の1,3,5−トリアジン環に置換しているN原子との連結部位である。)
【請求項10】
前記高吸湿性化合物が下記一般式(D−1)で表される化合物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化6】

(一般式(D−1)中、Ra21、Rg21はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rd21、およびRe21はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q11は−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra21と連結して環を形成してもよい。Q12は−O−、−S−、あるいは−NRh−を示し、Rhは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Rg21と連結して環を形成してもよい。X23は単結合または2価の連結基を表す。X24は、下記一般式(P)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
【化7】

(一般式(P)中、*側が前記一般式(D−1)で表される化合物中の1,3,5−トリアジン環に置換しているN原子との連結部位である。)
【請求項11】
前記高吸湿性化合物が下記一般式(E−1)で表される化合物である請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化8】

(一般式(E−1)中、Y1はメチン基、あるいは−N−を表す。Ra31はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rb31、Rc31、Rd31およびRe31はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q21は単結合、−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra31と連結して環を形成してもよい。X31、X32、およびX33は、それぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。X34は、下記一般式(Q)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
一般式(Q)
【化9】

(一般式(Q)中、*側が前記一般式(E−1)で表される化合物中の複素環に置換しているN原子との連結部位である。)
【請求項12】
前記高吸湿性化合物が下記一般式(F−1)で表される化合物である請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化10】

(一般式(F−1)中、Y11はメチン基、あるいは−N−を表す。Ra41、Rg41はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rd41、およびRe41はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q31は−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra41と連結して環を形成してもよい。Q32は−O−、−S−、あるいは−NRh−を示し、Rhは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Rg41と連結して環を形成してもよい。X43は単結合または2価の連結基を表す。X44は、下記一般式(P)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
【化11】

(一般式(P)中、*側が前記一般式(F−1)で表される化合物中の複素環に置換しているN原子との連結部位である。)
【請求項13】
前記高吸湿性化合物が下記一般式(G−1)で表される化合物である請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化12】

(一般式(G−1)中、L1は単結合またはヘテロ原子を含む2価の連結基を表し、R81は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアリールアルキル基を表す。)
【請求項14】
前記高吸湿性化合物が下記一般式(H−1)で表される化合物である請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化13】

(一般式(H−1)中、L3は単結合またはヘテロ原子を含む2価の連結基を表し、R85は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアリールアルキル基を表す。)R83、R84はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。X53、X54はそれぞれ独立に、下記一般式(P)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
【化14】

(一般式(P)中、*側が前記一般式(H−1)で表される化合物中の複素環に置換しているN原子との連結部位である。)
【請求項15】
前記高吸湿性化合物の分子量が100〜1000であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項16】
前記セルロースアシレートフィルムが、多価アルコールエステル系疎水化剤、重縮合エステル系疎水化剤および炭水化物誘導体系疎水化剤の中から選ばれる少なくとも一つの疎水化剤を含むことを特徴とする、請求項1〜請求項15のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項17】
下記式(1)および式(2)を満たす条件で、水蒸気接触工程を行って製造されたことを特徴とする、請求項1〜請求項16のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
60℃≦湿熱処理温度≦130℃ (1)
200g/m3≦湿熱処理絶対湿度量≦500g/m3 (2)
【請求項18】
前記水蒸気接触工程を5秒以上60分以下行うことを特徴とする、請求項1〜請求項17のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを含むことを特徴とする位相差フィルム。
【請求項20】
請求項1〜18のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは請求項19に記載の位相差フィルムを含んでなる偏光板。
【請求項21】
請求項1〜18のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム、請求項19に記載の位相差フィルムまたは請求項20に記載の偏光板を含んでなる液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−215817(P2012−215817A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209868(P2011−209868)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】