説明

セルロースアシレートフィルムとその製造方法、偏光板、液晶表示装置

【課題】製造コストが低く、得られるフィルムの膜厚当たりのRthが大きく、内部ヘイズが小さく、偏光板として液晶パネルに組み込んだ時に湿度変化による表示ムラが発生しにくいセルロースアシレートフィルムの製造方法の提供。
【解決手段】総アシル置換度2.1〜2.8のセルロースアシレートと重縮合エステル及び糖エステル化合物の少なくとも一方を含むドープを支持体上に溶液流延してフィルムを得る工程と、前記フィルムを下記式(i)を満たす残留揮発分H1の状態でフィルム搬送方向に1〜30%延伸する工程と、前記フィルムを下記式(ii)を満たす残留揮発分H2の状態でフィルム搬送方向に直交する方向に1〜100%延伸する工程とを含み、前記フィルム搬送方向又は前記フィルム搬送方向に直交する方向への延伸を下記式(iii)を満たす温度Tで行うセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(i)H1≦10%;式(ii)H2≦10%;式(iii)Tg−15℃≦延伸温度T<Tg+25℃。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートフィルムおよびその製造方法に関する。より詳しくは、セルロースアシレートを含み、VAモードの液晶セルの光学補償に適したセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法に関する。また、該セルロースアシレートフィルムを用いた偏光板および液晶表示装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置のTV用途が進行し、高画質化と低価格化が益々求められている。特に、VA(Vertically Aligned)モードの液晶表示装置は、コントラストが高く、比較的製造の歩留まりが高いことからテレビ用の液晶表示装置として着目されている。VAモードの液晶表示装置の視野角を広げるために、偏光板保護機能をもたせた光学補償フィルムや位相差フィルム等のVAモード用の光学フィルムとして従来からセルロースアシレートフィルムが用いられている。
【0003】
VAモード用の光学フィルムとして用いられるセルロースアシレートフィルムは、液晶パネルの薄膜化トレンドや製造コスト低減のために、膜厚当たりの厚み方向のレターデーションRth値(Rth/d)を高めて薄型化することが求められている。また、液晶表示装置のさらなる表示性能の改善も依然として求められており、正面コントラストをさらに上昇させることが求められている。
【0004】
膜厚当たりの厚み方向のレターデーションRth値を高めること、すなわち高Rth/d化を達成する手段の一つとして、二軸延伸を行う方法が知られている(特許文献1および2参照)。例えば、特許文献1には、全アシル置換度2.6〜3.0であり、プロピオニル基、ブチリル基またはベンゾイル基を置換基として必ず有するセルロースアシレートを用いて互いに直交する二軸方向にガラス転移温度(以下、Tgとも言う)+25℃〜結晶化温度の延伸温度で二軸延伸することによって、膜厚20〜70μmでVAモード用の光学補償シートに適したレターデーション値を有し、ヘイズが1%以下のセルロースアシレートフィルムを製造する方法が記載されている。また、特許文献1では、可塑剤としてトリフェニルホスフェートおよびエチルフタリルエチルグリコレートを用いている。
一方、特許文献2には、全アシル置換度2.0〜3.0のセルロースアシレートを用いて、少なくとも一方向の延伸温度130〜180℃で、二軸延伸終了時の残留溶剤量が15〜30質量%となるように二軸延伸を行うことで、膜厚20〜70μmでVAモード用の光学補償シートに適したレターデーション値を有し、ヘイズが1%以下のセルロースアシレートフィルムを製造する方法が記載されている。また、特許文献2では可塑剤としてトリフェニルホスフェートおよびビフェニルジフェニルホスフェートを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−268956号公報
【特許文献2】特開2008−3126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況において本発明者が特許文献1や2に記載の方法で二軸延伸を実施したところ、得られたフィルムは確かにヘイズ上昇が小さく、さらにRth/dが向上していたものの、内部ヘイズの上昇が顕著であることが明らかとなった。この内部ヘイズは液晶表示装置に組み込んだ時に正面コントラストに関係する性能であり、近年では0.1%以下であることが液晶表示装置の正面コントラストを向上させて高画質化する観点から求められているものである。
これまで高Rth/d化と低内部ヘイズ化はトレードオフの関係にあると考えられ、両立する方法としては、高価なレターデーション発現剤を使用する方法が挙げられるが、この方法を採用することで生産性を落としたり、製造コストが増加したりしていたのが現実であった。
【0007】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、製造コストが低く、得られるフィルムの膜厚当たりのRthが大きく、内部ヘイズが小さく、偏光板として液晶パネルに組み込んだ時に湿度変化による表示ムラが発生しにくいセルロースアシレートフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者は、種々の添加剤を添加したセルロースアシレート溶液を用いて溶液製膜を行い、二軸延伸の条件を特許文献1および2に記載の条件と大幅に変更して鋭意検討した。その結果、特定のアシル置換度のセルロースアシレートに重縮合エステルまたは糖エステル化合物を添加した溶液を用いて、低残留揮発分の状態で特定の温度範囲で二軸延伸することで、膜厚当たりのRthが大きく、内部ヘイズが小さく、偏光板として液晶パネルに組み込んだ時に湿度変化による表示ムラが発生しにくいセルロースアシレートフィルムを低コストで製造できる方法を見出すに至った。
具体的には、以下の手段により、上記課題を解決した。
【0009】
[1] 総アシル置換度2.1〜2.8のセルロースアシレートと、重縮合エステルおよび糖エステル化合物のうち少なくとも一方を含むドープを支持体上に溶液流延してフィルムを得る工程と、前記フィルムを、下記式(i)を満たす残留揮発分H1の状態でフィルム搬送方向に1〜30%延伸する工程と、前記フィルムを、下記式(ii)を満たす残留揮発分H2の状態でフィルム搬送方向に直交する方向に1〜100%延伸する工程とを含み、前記フィルム搬送方向または前記フィルム搬送方向に直交する方向への延伸を下記式(iii)を満たす温度Tで行うことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(i) H1≦10%
式(ii) H2≦10%
式(iii) Tg−15℃≦延伸温度T<Tg+25℃
[2] 前記ドープが円盤状レターデーション発現剤を含むことを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[3] 前記ドープが下記一般式(1)で表される有機酸を含有することを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
一般式(1)
X−L−(R1n
(一般式(1)中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸性基を含む置換基を表し、Lは単結合または2価以上の連結基を表し、R1は炭素数6〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアルキニル基、炭素数6〜30のアリール基または炭素数6〜30の複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。nはLが単結合の場合は1であり、Lが2価以上の連結基の場合は(Lの価数−1)である。)
[4] 前記一般式(1)におけるR1が、炭素数6〜24のアルキル基、炭素数6〜24のアルケニル基または炭素数6〜24のアルキニル基を表す(但し、さらに置換基を有していてもよい)ことを特徴とする[3]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[5] 前記一般式(1)におけるXが、少なくとも一つのカルボキシル基、スルフォン酸基、スルフィン酸基、リン酸基、スルフォンイミド基およびアスコルビン酸基からなる群より選択される少なくとも一つの基を有することを特徴とする[3]または[4]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。[6] 前記一般式(1)におけるLが単結合、あるいは、下記ユニット群から選択される2価以上の連結基または下記ユニット群から選択される2以上のユニットを組み合わせて得られる連結基であることを特徴とする[3]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
ユニット:−O−、−CO−、−N(R2)−(前記R2は炭素数1〜5のアルキル基を表す)、−OH、−CH=CH−、−CH(OH)−、−CH2−、−SO2−、
【化1】

[7] 前記一般式(1)で表される有機酸が、多価アルコール1分子に脂肪酸1分子と多価カルボン酸1分子が結合してなり、かつ多価カルボン酸由来の無置換のカルボキシル基を少なくとも1つ有することを特徴とする[3]〜[6]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[8] 前記ドープとして、セルロースアシレートの総アシル置換度が互いに異なる2種以上のドープを用い、前記支持体上に各ドープを同時または逐次に共流延することを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[9] [1]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法で製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
[10] 総アシル置換度2.1〜2.8のセルロースアシレートと、重縮合エステルおよび糖エステル化合物のうち少なくとも一方を含み、内部ヘイズが0.1%以下であり、フィルム搬送方向の弾性率およびフィルム搬送方向に直交方向の弾性率のうち値の小さい方向の弾性率が4000MPa以上であり、フィルム搬送方向の湿度寸法変化率およびフィルム搬送方向に直交方向の湿度寸法変化率のうち値の大きい方向の湿度寸法変化率y(単位:%)と25℃、相対湿度80%における含水率x(単位:%)とNzが下記式(1)を満たし、波長550nmにおける面内方向のレターデーションReの値が20nm≦Re≦100nmであり、波長550nmにおける膜厚方向のレターデーションRthの値が100nm≦Rth<140nm且つ下記式(2)を満たすか、あるいは、波長550nmにおける膜厚方向のレターデーションRthの値が140nm≦Rth且つ下記式(3)を満たすことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
式(1) y≦0.07x−0.03Nz+0.48
式(1') Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
(式(1)中、xは25℃、相対湿度80%における含水率(単位:%)を表し、yはフィルム搬送方向の湿度寸法変化率およびフィルム搬送方向に直交方向の湿度寸法変化率のうち値の大きい方向の湿度寸法変化率(単位:%)を表し、nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。)
式(2) 2.0×10-3≦Rth/d
式(3) 2.5×10-3<Rth/d
(式(2)および(3)中、Rthは波長550nmにおける膜厚方向のレターデーションの値(単位:nm)を表し、dはフィルム厚み(単位:nm)を表す。)
[11] 端部軸バラツキの標準偏差が0.10以下である[9]または[10]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[12] 前記セルロースアシレートが総アシル置換度2.1〜2.6のセルロースアシレートであることを特徴とする[9]〜[11]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[13] 前記セルロースアシレートがセルロースアセテートであることを特徴とする[9]〜[12]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[14] 2層以上の積層構造を有し、各層に含まれるセルロースアシレートの平均の総アシル置換度が互いに異なることを特徴とする[9]〜[13]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[15] 偏光子と、[9]〜[14]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを含むことを特徴とする偏光板。
[16] [9]〜[14]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは[15]に記載の偏光板を少なくとも1枚含むことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、膜厚当たりのRthが大きく、内部ヘイズが小さく、偏光板として液晶パネルに組み込んだ時に湿度変化による表示ムラが発生しにくいセルロースアシレートフィルムを低コストで製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。本明細書中、フィルム搬送方向のことを縦方向、フィルム長手方向またはMD方向と言うことがあり、フィルム搬送方向に直交する方向のことを横方向、フィルム幅方向またはTD方向と言うことがある。
【0012】
[セルロースアシレートフィルムの製造方法]
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法とも言う)は、総アシル置換度2.1〜2.8のセルロースアシレートと、重縮合エステルおよび糖エステル化合物のうち少なくとも一方を含むドープを支持体上に溶液流延してフィルムを得る工程と、前記フィルムを、下記式(i)を満たす残留揮発分H1の状態でフィルム搬送方向に1〜30%延伸する工程と、前記フィルムを、下記式(ii)を満たす残留揮発分H2の状態でフィルム搬送方向に直交する方向に1〜100%延伸する工程とを含み、前記フィルム搬送方向または前記フィルム搬送方向に直交する方向への延伸を下記式(iii)を満たす温度Tで行うことを特徴とする。
式(i) H1≦10%
式(ii) H2≦10%
式(iii) Tg−15℃≦延伸温度T<Tg+25℃
以下、本発明の製造方法を説明する。
【0013】
<セルロースアシレートをフィルム状に形成する工程>
本発明の製造方法では、セルロースアシレートをフィルム状に形成する工程において、溶液流延製膜法を用い、セルロースアシレートおよび溶媒を含むドープを支持体上に流涎する方法を用いる。また、本発明の製造方法では、ドープを支持体上に流延し、溶媒を蒸発させてセルロースアシレートフィルムを形成することが特に好ましい。
【0014】
本発明の製造方法において、ドープ中に含まれていることが好ましい各成分について説明する。なお、各成分のドープへの添加時期については特に制限はない。
【0015】
(1)セルロースアシレート
本発明に用いられるセルロースアシレートは、少なくとも1種の総アシル置換度2.1〜2.8のセルロースアシレートを含む以外は、特に定めるものではない。セルロースアシレートは、セルロースアシレートが好ましく、アシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができる。
【0016】
まず、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートについて詳細に記載する。セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位に位置するセルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)を意味する。
本発明のフィルムは、前記セルロースアシレートの総アシル置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.1〜2.8であり、2.2〜2.7であることが好ましく、より好ましくは2.3〜2.7であり、特に好ましくは2.4〜2.6であり、最も好ましくは2.4〜2.5である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.08〜0.66が好ましく、より好ましくは0.15〜0.60、さらに好ましくは0.20〜0.45である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度である(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は総アシル置換度に対する6位のアシル置換度の割合であり、以下「6位のアシル置換率」とも言う。
【0017】
本発明のフィルムに用いられるセルロースアシレートのアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときは、そのひとつがアセチル基であることが好ましく、炭素数2〜4のアシル基としてはプロピオニル基またはブチリル基が好ましい。2位、3位および6位の水酸基のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位および6位の水酸基のプロピオニル基またはブチリル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は1.5〜2.7であることが好ましい。DSBの値は0〜1.70であることが好ましく、0〜1.2であることがより好ましく、0〜0.5であることが特に好ましく、本発明では0であること、すなわち前記セルロースアシレートがセルロースアセテートであることがより特に好ましい。DSAとDSBの値を上記の範囲にすることで環境湿度によるRe値、Rth値の変化の小さいフィルムが得ることができ好ましい。
さらにDSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは30%以上が6位水酸基の置換基であり、31%以上が6位水酸基の置換基であることがさらに好ましく、特には32%以上が6位水酸基の置換基であることも好ましい。これらのフィルムにより溶解性の好ましい溶液が作製でき、特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低くろ過性のよい溶液の作成が可能となる。
【0018】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、tert−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、tert−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル基、ブタノイル基である。
【0019】
セルロースのアシル化において、アシル化剤としては、酸無水物や酸クロライドを用いた場合、反応溶媒である有機溶媒としては、有機酸、例えば、酢酸、メチレンクロライド等が使用される。
【0020】
触媒としては、アシル化剤が酸無水物である場合には、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられ、アシル化剤が酸クロライド(例えば、CH3CH2COCl)である場合には、塩基性化合物が用いられる。
【0021】
最も一般的なセルロ−スの混合脂肪酸エステルの工業的合成方法は、セルロースをアセチル基および他のアシル基に対応する脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、吉草酸等)またはそれらの酸無水物を含む混合有機酸成分でアシル化する方法である。
【0022】
本発明に用いるセルロースアシレートは、例えば、特開平10−45804号公報に記載されている方法により合成できる。
【0023】
本発明に用いられるドープにおいて、セルロースアシレートの量は、得られるドープ中に10〜40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0024】
(2)添加剤
本発明の製造方法では、前記ドープが、重縮合エステルおよび糖エステル化合物のうち少なくとも一方を含む。また、本発明の製造方法で製造される本発明のセルロースアシレートフィルムは、重縮合エステルおよび糖エステル化合物のうち少なくとも一方を含む。これらの添加剤を含むことで、本発明のフィルムはRth/dが高く、かつ、内部ヘイズも小さい。以下、重縮合エステル、糖エステル化合物の順に好ましい態様をそれぞれ説明する。
【0025】
(重縮合エステル)
本発明に用いられる重縮合エステルは、少なくとも一種の芳香環を有するジカルボン酸(芳香族ジカルボン酸とも呼ぶ)と少なくとも一種の脂肪族ジカルボン酸との混合物とから得られることが好ましい。このような重縮合エステルとしては、例えば、炭素数の平均が5.5以上10.0以下のジカルボン酸と、少なくとも一種の平均炭素数が2.5以上7.0以下の脂肪族ジオールとから得られることが好ましい。
【0026】
脂肪族ジカルボン酸残基の平均炭素数の計算は、ジカルボン酸残基とジオール残基で個別に行う。
ジカルボン酸残基の組成比(モル分率)を構成炭素数に乗じて算出した値を平均炭素数とする。例えば、アジピン酸残基とフタル酸残基が50モル%ずつから構成される場合は、平均炭素数7.0となる。
また、ジオール残基の場合も同様で、脂肪族ジオール残基の平均炭素数は、脂肪族ジオール残基の組成比(モル分率)を構成炭素数に乗じて算出した値とする。例えばエチレングリコール残基50モル%と1,2−プロパンジオール残基50モル%から構成される場合は平均炭素数2.5となる。
【0027】
前記重縮合エステルの数平均分子量は500〜2000であることが好ましく、600〜1500がより好ましく、700〜1200がさらに好ましい。重縮合エステルの数平均分子量は600以上であれば揮発性が低くなり、セルロースアシレートフィルムの延伸時の高温条件下における揮散によるフィルム故障や工程汚染を生じにくくなる。また、2000以下であればセルロースアシレートとの相溶性が高くなり、製膜時及び加熱延伸時のブリードアウトが生じにくくなる。
本発明に用いられる重縮合エステルの数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定、評価することができる。また、末端が封止のないポリエステルポリオールの場合、重量あたりの水酸基の量(以下、水酸基価)により算出することもできる。水酸基価は、ポリエステルポリオールをアセチル化した後、過剰の酢酸の中和に必要な水酸化カリウムの量(mg)を測定する。
【0028】
本発明において、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との混合物としてのジカルボン酸は、炭素数の平均が5.5以上10.0以下のジカルボン酸であることが好ましい。より好ましくは5.6以上8以下である。
炭素数の平均が5.5以上であれば耐久性に優れた偏光板を得ることができる。炭素数の平均が10以下であればセルロースアシレートへの相溶性が優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜過程でブリードアウトの発生を抑制することができる。
本発明に用いられる重縮合エステルは、可塑剤として用いることができる。
【0029】
芳香族ジカルボン酸残基は、ジオールと芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合エステルに含まれる。
本明細書中では、残基とは、重縮合エステルの部分構造で、重縮合エステルを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジカルボン酸HOOC−R−COOHより形成されるジカルボン酸残基は−OC−R−CO−である。
本発明に用いられる重縮合エステルの芳香族ジカルボン酸残基比率は40mol%以上であることが好ましい。45mol%〜70mol%であることがより好ましく、50mol%〜70mol%であることが更に好ましい。
芳香族ジカルボン酸残基比率を40mol%以上とすることで、十分な光学異方性を示すセルロースアシレートフィルムが得られ、耐久性に優れた偏光板を得ることができる。
【0030】
本発明に用いられる芳香族ジカルボン酸は、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸等を挙げることができる。フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、フタル酸、テレフタル酸がより好ましく、テレフタル酸がさらに好ましい。
重縮合エステルには混合に用いた芳香族ジカルボン酸により芳香族ジカルボン酸残基が形成される。
具体的には、芳香族ジカルボン酸残基は、フタル酸残基、テレフタル酸残基、イソフタル酸残基の少なくとも1種を含むことが好ましく、より好ましくはフタル酸残基、テレフタル酸残基の少なくとも1種を含み、さらに好ましくはテレフタル酸残基を含む。
すなわち、重縮合エステルの形成における混合に、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸を用いることで、よりセルロースアシレートとの相溶性に優れ、セルロースアシレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくいセルロースアシレートフィルムとすることができる。また、芳香族ジカルボン酸は1種でも、2種以上を用いてもよい。2種用いる場合は、フタル酸とテレフタル酸を用いることが好ましい。
フタル酸とテレフタル酸の2種の芳香族ジカルボン酸を併用することにより、常温での重縮合エステルを軟化することができ、ハンドリングが容易になる点で好ましい。
本発明では、重縮合エステルのジカルボン酸残基中のテレフタル酸残基の含有量は40mol%以上であることが好ましく、45mol%〜70mol%であることが好ましく、50mol%〜70mol%であることが好ましい。
テレフタル酸残基比率を40mol%以上とすることで、十分な光学異方性を示すセルロースアシレートフィルムが得られる。
【0031】
脂肪族ジカルボン酸残基は、ジオールと脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合エステルに含まれる。
本明細書中では、残基とは、重縮合エステルの部分構造で、重縮合エステルを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジカルボン酸HOOC−R−COOHより形成されるジカルボン酸残基は−OC−R−CO−である。
本発明で好ましく用いられる脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸又は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
重縮合エステルには混合に用いた脂肪族ジカルボン酸より脂肪族ジカルボン酸残基が形成される。
ジカルボン酸残基は、平均炭素数が5.5以上10.0以下であることが好ましく、5.5〜8.0であることがより好ましく、5.5〜7.0であることがさらに好ましい。脂肪族ジオールの平均炭素数が7.0以下であれば化合物の加熱減量が低減でき、セルロースアシレートウェブ乾燥時のブリードアウトによる工程汚染が原因と考えられる面状故障の発生を防ぐことができる。また、脂肪族ジオールの平均炭素数が2.5以上であれば相溶性に優れ、重縮合エステルの析出が起き難く好ましい。
具体的には、コハク酸残基を含むことが好ましく、2種用いる場合は、コハク酸残基とアジピン酸残基を含むことが好ましい。
すなわち、重縮合エステルの形成における混合に、脂肪族ジカルボン酸は1種でも、2種以上を用いてもよく、2種用いる場合は、コハク酸とアジピン酸を用いることが好ましい。1種用いる場合は、コハク酸を用いることが好ましい。ジオール残基の平均炭素数を所望の値に調整することができ、セルロースアシレートとの相溶性の点で好ましい。
【0032】
本発明において、ジカルボン酸は2種又は3種を用いることが好ましい。2種を用いる場合は脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸とを1種ずつ用いることが必要であり、3種を用いる場合は脂肪族ジカルボン酸を1種と芳香族ジカルボン酸を2種又は脂肪族ジカルボン酸を2種と芳香族ジカルボン酸を1種用いることができる。ジカルボン酸残基の平均炭素数の値を調整しやすく、かつ芳香族ジカルボン酸残基の含有量を好ましい範囲とすることができ、ハンドリングしやすくなる為である。
【0033】
脂肪族ジオール残基は、脂肪族ジオールとジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合エステルに含まれる。
本明細書中では、残基とは、重縮合エステルの部分構造で、重縮合エステルを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジオールHO−R−OHより形成されるジオール残基は−O−R−O−である。
重縮合エステルを形成するジオールとしては芳香族ジオール及び脂肪族ジオールが挙げられ、少なくとも脂肪族ジオールを含む。
重縮合エステルには平均炭素数が2.5以上7.0以下の脂肪族ジオール残基を含むことが好ましい。好ましくは平均炭素数が2.5以上4.0以下の脂肪族ジオール残基である。脂肪族ジオール残基の平均炭素数が3.0以下であれば、セルロースアシレートとの相溶性が低くならず、ブリードアウトが生じ難くなり、また、化合物の加熱減量が増大し過ぎず、セルロースアシレートウェブ乾燥時の工程汚染が原因と考えられる面状故障が発生し難い。また、脂肪族ジオール残基の平均炭素数が2.0未満では合成が困難となる。
本発明に用いられる脂肪族ジオールとしては、アルキルジオール又は脂環式ジオール類を挙げることができ、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等があり、これらはエチレングリコールとともに1種又は2種以上の混合物として使用されることが好ましい。
【0034】
好ましい脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、及び1,3−プロパンジオールの少なくとも1種であり、特に好ましくはエチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールの少なくとも1種である。2種用いる場合は、エチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールを用いることが好ましい。1,2−プロパンジオール、又は1,3−プロパンジオールを用いることにより重縮合エステルの結晶化を防止することができる。
重縮合エステルには混合に用いたジオールによりジオール残基が形成される。
ジオール残基はエチレングリコール残基、1,2−プロパンジオール残基、及び1,3−プロパンジオール残基の少なくとも1種を含むことが好ましく、エチレングリコール残基又は1,2−プロパンジオール残基であることがより好ましい。
脂肪族ジオール残基のうち、エチレングリコール残基が20mol%〜100mol%であることが好ましく、50mol%〜100mol%であることがより好ましい。
【0035】
本発明に用いられる重縮合エステルの末端は封止がなくジオールあるいはカルボン酸のままであるか、さらにモノカルボン酸類又はモノアルコール類を反応させて、所謂末端の封止を実施してもよい。
封止に用いるモノカルボン酸類としては酢酸、プロピオン酸、ブタン酸等が好ましく、酢酸又はプロピオン酸がより好ましく、酢酸が最も好ましい。封止に用いるモノアルコール類としてはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等が好ましく、メタノールが最も好ましい。重縮合エステルの末端に使用するモノカルボン酸類の炭素数が3以下であると、化合物の加熱減量が大きくならず、面状故障が発生しない。
本発明に用いられる重縮合エステルの末端はより好ましくは封止がなくジオール残基のままか、酢酸又はプロピオン酸による封止がさらに好ましい。
本発明に用いられる重縮合エステルの両末端は封止、未封止を問わない。
縮合体の両末端が未封止の場合、重縮合エステルはポリエステルポリオールであることが好ましい。
本発明に用いられる重縮合エステルの態様の一つとして脂肪族ジオール残基の炭素数が2.5以上7.0以下であり、縮合体の両末端は未封止である重縮合エステルを挙げることができる。
重縮合エステルの両末端が封止されている場合、モノカルボン酸と反応させて封止することが好ましい。このとき、該重縮合エステルの両末端はモノカルボン酸残基となっている。本明細書中では、残基とは、重縮合エステルの部分構造で、重縮合エステルを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばモノカルボン酸R−COOHより形成されるモノカルボン酸残基はR−CO−である。好ましくは脂肪族モノカルボン酸残基であり、モノカルボン酸残基が炭素数22以下の脂肪族モノカルボン酸残基であることがより好ましく、炭素数3以下の脂肪族モノカルボン酸残基であることがさらに好ましい。また、炭素数2以上の脂肪族モノカルボン酸残基であることが好ましく、炭素数2の脂肪族モノカルボン酸残基であることが特に好ましい。
本発明に用いられる重縮合エステルの態様の一つとして脂肪族ジオール残基の炭素数が2.5より大きく7.0以下であり、縮合体の両末端はモノカルボン酸残基である重縮合エステルを挙げることができる。
重縮合エステルの両末端のモノカルボン酸残基の炭素数が3以下であると、揮発性が低下し、重縮合エステルの加熱による減量が大きくならず、工程汚染の発生や面状故障の発生を低減することが可能である。
即ち封止に用いるモノカルボン酸類としては脂肪族モノカルボン酸が好ましい。モノカルボン酸が炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸であることがより好ましく、炭素数2〜3の脂肪族モノカルボン酸であることがさらに好ましく、炭素数2の脂肪族モノカルボン酸残基であることが特に好ましい。
例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、安息香酸及びその誘導体等が好ましく、酢酸又はプロピオン酸がより好ましく、酢酸が最も好ましい。
封止に用いるモノカルボン酸は2種以上を混合してもよい。
本発明に用いられる重縮合エステルの両末端は酢酸又はプロピオン酸による封止が好ましく、酢酸封止により両末端がアセチルエステル残基(アセチル残基と称する場合がある)となることが最も好ましい。
両末端を封止した場合は常温での状態が固体形状となりにくく、ハンドリングが良好となり、また湿度安定性、偏光板耐久性に優れたセルロースアシレートフィルムを得ることができる。
【0036】
以下の表1に本発明に用いられる重縮合エステルの具体例を記すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
【表1】

【0038】
本発明に用いられる重縮合エステルの合成は、常法によりジオールとジカルボン酸とのポリエステル化反応又はエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。また、本発明に係る重縮合エステルについては、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0039】
本発明のフィルムにおける前記重縮合エステルの含有量は、セルロースアシレート量に対し5〜40質量%であることが好ましく、8〜30質量%であることがさらに好ましく、10〜25質量%であることが最も好ましい。
また、重縮合エステルを糖エステルと併用して使用してもよい。この場合、セルロースアシレート量に対し、あわせて5〜40質量%であることが好ましく、あわせて8〜30質量%であることがさらに好ましく、あわせて10〜25質量%であることが最も好ましい。
また、本発明のフィルムが3層構造からなる積層体の場合は、コア層に含まれる重縮合エステルの含有量が上記範囲であることが好ましい。一方、バンド層および/またはエア層に含まれる重縮合エステルの含有量は、セルロースアシレート量に対し2.5〜20質量%であることが好ましく、4〜15質量%であることがより好ましく、5〜12.5質量%であることが特に好ましい。
【0040】
本発明に用いられる重縮合体が含有する原料の脂肪族ジオール、ジカルボン酸エステル、又はジオールエステルの本発明のフィルム中の含有量は、1質量%未満が好ましく、0.5質量%未満がより好ましい。ジカルボン酸エステルとしては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、アジピン酸ジ(ヒドロキシエチル)、コハク酸ジ(ヒドロキシエチル)等が挙げられる。ジオールエステルとしては、エチレンジアセテート、プロピレンジアセテート等が挙げられる。
本発明で使用される重縮合エステルに含まれるジカルボン酸残基、ジオール残基、モノカルボン酸残基の各残基の種類及び比率はH−NMRを用いて通常の方法で測定することができる。通常、重クロロホルムを溶媒として用いることができる。
重縮合エステルの数平均分子量はGPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて通常の方法で測定することができ、通常、ポリスチレンを標準資料として用いることができる。
重縮合エステルの水酸基価の測定は、日本工業規格 JIS K3342(廃止)に記載の無水酢酸法当を適用できる。重縮合体がポリエステルポリオールである場合は、水酸基価が50以上190以下であることが好ましく、50以上130以下であることがさらに好ましい。
【0041】
(糖エステル化合物)
−糖残基−
前記糖エステル化合物とは、該化合物を構成する多糖中の置換可能な基(例えば、水酸基、カルボキシル基)の少なくとも1つと、少なくとも1種の置換基とがエステル結合されている化合物のことを言う。すなわち、ここで言う糖エステル化合物には広義の糖誘導体類も含まれ、例えばグルコン酸のような糖残基を構造として含む化合物も含まれる。すなわち、前記糖エステル化合物には、グルコースとカルボン酸のエステル体も、グルコン酸とアルコールのエステル体も含まれる。
前記糖エステル化合物を構成する多糖中の置換可能な基は、ヒドロキシル基であることが好ましい。
【0042】
前記糖エステル化合物中には、糖エステル化合物を構成する多糖由来の構造(以下、糖残基とも言う)が含まれる。前記糖残基の単糖当たりの構造を、糖エステル化合物の構造単位と言う。前記糖エステル化合物の構造単位は、ピラノース構造単位またはフラノース構造単位を含むことが好ましく、全ての糖残基がピラノース構造単位またはフラノース構造単位であることがより好ましい。また、前記糖エステルが多糖から構成される場合は、ピラノース構造単位またはフラノース構造単位をともに含むことが好ましい。
【0043】
前記糖エステル化合物の糖残基は、5単糖由来であっても6単糖由来であってもよいが、6単糖由来であることが好ましい。
【0044】
前記糖エステル化合物中に含まれる構造単位の数は、2〜4であることが好ましく、2〜3であることがより好ましく、2であることが特に好ましい。すなわち、前記糖エステル化合物を構成する糖が2糖類〜4糖類であることが好ましく、2糖類〜3糖類であることがより好ましく、2糖類であることが特に好ましい。
【0045】
本発明では、前記糖エステル化合物はヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を2〜4個含む糖エステル化合物であることがより好ましく、ヒドロキシル基の少なくとも1つがエステル化されたピラノース構造単位またはフラノース構造単位を2個含む糖エステル化合物であることがより好ましい。
【0046】
前記単糖または2〜4個の単糖単位を含む糖類の例としては、例えば、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、フルクトース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、トレハロース、イソトレハロース、ネオトレハロース、トレハロサミン、コウジビオース、ニゲロース、マルトース、マルチトール、イソマルトース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、ラクトサミン、ラクチトール、ラクツロース、メリビオース、プリメベロース、ルチノース、シラビオース、スクロース、スクラロース、ツラノース、ビシアノース、セロトリオース、カコトリオース、ゲンチアノース、イソマルトトリオース、イソパノース、マルトトリオース、マンニノトリオース、メレジトース、パノース、プランテオース、ラフィノース、ソラトリオース、ウンベリフェロース、リコテトラオース、マルトテトラオース、スタキオース、バルトペンタオース、ベルバルコース、マルトヘキサオース、キシリトール、ソルビトールなどを挙げることができる。
【0047】
好ましくは、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、トレハロース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、スクラロース、キシリトール、ソルビトールであり、さらに好ましくは、アラビノース、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロースであり、特に好ましくは、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、キシリトール、ソルビトールである。
【0048】
前記糖エステル化合物の置換基の好ましい例としては、アルキル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、2−シアノエチル基、ベンジル基など)、アリール基(好ましくは炭素数6〜24、より好ましくは6〜18、特に好ましくは6〜12のアリール基、例えば、フェニル基、ナフチル基)、アシル基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアシル基、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、トルイル基、フタリル基など)、アミド基(好ましくは炭素数1〜22、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアミド、例えばホルムアミド基、アセトアミド基など)、イミド基(好ましくは炭素数4〜22、より好ましくは炭素数4〜12、特に好ましくは炭素数4〜8のアミド基、例えば、スクシイミド基、フタルイミド基など)を挙げることができる。その中でも、アルキル基またはアシル基がより好ましく、メチル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基(その中でもi−ブチリル基が好ましい)、ベンゾイル基がより好ましく、アセチル基およびブチリル基のうち少なくとも一方を含むことが特に好ましく、アセチル基のみを含むことまたはアセチル基とブチリル基をともに含むことがより特に好ましい。
【0049】
以下に、本発明に用いることができる糖エステル化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。また、下記の具体例には各糖エステル化合物のエステル置換度を記載していないが、本発明の趣旨に反しない限りにおいて任意のエステル置換度の糖エステル化合物を用いて、糖エステル化合物混合体として用いてもよい。
【0050】
【化2】

【0051】
【化3】

【0052】
【化4】

【0053】
【化5】

【0054】
【化6】

【0055】
以下の構造式中、Rはそれぞれ独立に任意の置換基を表し、複数のRは同一であっても、異なっていてもよい。
【0056】
【化7】

【0057】
【表2】

【0058】
【化8】

【0059】
【表3】

【0060】
【化9】

【0061】
【表4】

【0062】
その他、前記糖エステル化合物としては、特開2001−247717号公報、特表2005−515285号公報、国際公開WO2007/125764号公報、国際公開WO2009/011228号公報、国際公開WO2009/031464号公報などに記載の糖エステル化合物を用いることもできる。
【0063】
前記糖エステル化合物の入手方法としては、市販品として(株)東京化成製、アルドリッチ製等から商業的に入手可能であり、もしくは市販の炭水化物に対して既知のエステル誘導体化法(例えば、特開平8−245678号公報に記載の方法)を行うことにより合成可能である。
【0064】
前記糖エステル化合物は、数平均分子量が、好ましくは200〜3500、より好ましくは420〜3000、特に好ましくは450〜2000の範囲が好適である。
【0065】
前記糖エステル化合物は、セルロースアシレートに対し2〜30質量%含有することが好ましく、5〜20質量%含有することがより好ましく、7〜15質量%含有することが特に好ましい。
また、重縮合エステルを糖エステルと併用して使用してもよい。この場合、セルロースアシレート量に対し、あわせて5〜40質量%であることが好ましく、あわせて8〜30質量%であることがさらに好ましく、あわせて10〜25質量%であることが最も好ましい。
【0066】
(3)その他の添加剤
本発明のフィルムは、前記重縮合エステルおよび糖エステル化合物以外のその他の添加剤を含んでいてもよい。
本発明では前記重縮合エステルおよび糖エステル化合物以外のその他の添加剤として、セルロースアシレートフィルムの添加剤として公知の高分子量添加剤および低分子量添加剤を広く採用することができる。
本発明のフィルムでは、前記重縮合エステルおよび糖エステル化合物以外のその他の添加剤の添加量は、セルロースアシレートに対して1〜35質量%であることが好ましく、4〜30質量%であることがより好ましく10〜25質量%であることがさらに好ましい。前記重縮合エステルおよび糖エステル化合物以外のその他の添加剤の添加量が35質量%以下であればフィルムが白化しにくい。さらに、物理的特性も優れるものとなる。
ここで、本発明における添加剤とは、本発明のセルロースアシレートフィルムの諸機能の向上等を目的として添加される成分をいう。すなわち、不純物や残留溶媒等は、本発明における添加剤ではない。
また、本発明では、2種類以上の添加剤を用いることができる。2種類以上用いることにより、それぞれの添加剤により、光学特性、フィルム弾性率、フィルム脆性や、ウェブハンドリング適性を両立できるというメリットがある。
【0067】
前記重縮合エステルおよび糖エステル化合物以外のその他の添加剤としては、例えば、有機酸(剥離促進剤であることが好ましい);レターデーション調整剤(レターデーション発現剤およびレターデーション低減剤);フタル酸エステル、リン酸エステル系の化合物などの前記重縮合エステルおよび糖エステル化合物以外のその他の可塑剤;劣化(酸化)防止剤;紫外線吸収剤;マット剤などの添加剤を加えることができる。
以下、本発明のフィルムに用いることができる添加剤について詳細に説明する。
【0068】
(有機酸)
本発明のフィルムは、下記一般式(1)で表される有機酸を剥離剤(剥離促進剤)として含むことが好ましい。
一般式(1)
X−L−(R1n
(式中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸性基を表し、Lは単結合または2価以上の連結基を表し、R1は炭素数6〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアルキニル基、炭素数6〜30のアリール基または炭素数6〜30の複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。nはLが単結合の場合は1であり、Lが2価以上の連結基の場合は(Lの価数−1)である。)
【0069】
前記一般式(1)で表される有機酸において、酸性基である前記X部分により溶液製膜設備(ドープを流涎するときの金属支持体)からの剥離性を改善することができる。
さらに、酸性基である前記X部分が支持体の金属表面に付着し、特定の構造の疎水性基である前記R1部分が支持体の金属表面を酸素等の酸化剤からブロックすることにより、前記R1の範囲から外れる疎水性基を有する有機酸に比べて、金属の腐食を防止することができる。本発明の製造方法において、共流延によって2以上のドープを用いて流延する場合は、バンド層用ドープが前記一般式(1)で表される有機酸を剥離剤として含むことが好ましい。また、本発明のフィルムでは、バンド層が前記一般式(1)で表される有機酸を剥離剤として含むことが好ましい。
以下、本発明のフィルムに用いることができる剥離促進剤について説明する。
【0070】
一般式(1)中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸を表し、カルボキシル基、スルフォン酸基、スルフィン酸基、リン酸基、スルフォンイミド基、アスコルビン酸基が好ましく、カルボキシル基、スルフォン酸基がさらに好ましく、カルボキシル基が最も好ましい。
なお、Xがアスコルビン酸基を表す場合は、アスコルビン酸の水素原子のうち、5位、6位の位置の水素原子が外れてLと連結していることが好ましい。
本明細書中、酸解離定数としては、化学便覧、丸善株式会社刊に記載の値を採用する。
【0071】
一般式(1)中、R1は水素原子、炭素数6〜30のアルキル基(置換基を有してもよい)、アルケニル基(置換基を有してもよい)、アルキニル基(置換基を有してもよい)、アリール基(置換基を有してもよい)、複素環基(置換基を有してもよい)を表す。置換基として、ハロゲン原子、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシル基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、水酸基、アシルオキシ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、アシルアミノ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホニル基、スルファモイル基、スルフォンアミド基、スルホリル基、カルボキシル基等が挙げられる。
1はさらに好ましくは、炭素数8〜24のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基であり、最も好ましくは炭素数10〜24の直鎖のアルキル基、アルケニル基である。
【0072】
一般式(1)におけるLは、単結合、あるいは、下記ユニット群から得られる2価以上の連結基または下記ユニット群から選択される2以上のユニットを組み合わせて得られる2価以上の連結基であることが好ましい。
ユニット:−O−、−CO−、−N(−R2)−(前記R2は炭素数1〜5のアルキル基)、−CH=CH−、−CH(OH)−、−CH2−、−SO2−、
【化10】

一般式(1)におけるLは、単結合、エステル基由来の連結基(−COO−、−OCO−)、またはアミド基由来の連結基(−CONR2−、−NR2CO−)を部分構造として有することが特に好ましい。
また、前記Lは、さらに置換基を有していてもよく、該置換基としては特に制限はなく前記R1が有していてもよい置換基を挙げることができるが、その中でも−OH基が好ましい。
これらの中でも、前記Lはグリセリン由来の基を含む連結基であることがより好ましい。
前記Lとしては、具体的に以下の構造であることが好ましい。但し、以下においてp、q、rはそれぞれ1〜40の整数を表し、1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜6であることが特に好ましい。また、qは2〜4であることがより特に好ましい。
−(CH2p−CO−O−(CH2q−O−;
−(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OH))−(CH2r−O−;
−(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OCO−R3))−(CH2r−O−;
−(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OH))−(CH2r−O−CO−;
−(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OCO−R3))−(CH2r−O−CO−。
なお、上記のLの具体例に含まれるR3は、前記一般式(1)における前記R1と同義である。すなわち、−(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OCO−R3))−(CH2r−O−という連結基におけるR3は便宜上Lの内部に記載しているだけであり、連結基LはR3を除いた部分を意味する。つまり、この場合Lは3価である。一般式(1)で表すと、X−L−(R12、[但しLは−(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OCO−))−(CH2r−O−を表す]と記載でき、すなわちこのときの連結基Lは3価の連結基となっている。
前記Lと前記Xはエステル結合またはアミド結合で結合していることが好ましく、エステル結合で結合していることがより好ましい。また、前記Xにはエステル結合やアミド結合が存在しない方が好ましい。
前記Lと前記R1はエステル結合、エーテル結合またはアミド結合で結合していることが好ましく、エステル結合またはアミド結合で結合していることがより好ましく、エステル結合で結合していることが特に好ましい。また、前記R1にはエステル結合やエーテル結合やアミド結合が存在しない方が好ましい。
【0073】
以下に前記一般式(1)で表される有機酸の好ましい具体例を以下に挙げる。
《脂肪酸》
ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレン酸、ウンデカン酸。
《アルキル硫酸》
ミリスチル硫酸、セチル硫酸、オレイル硫酸。
《アルキルベンゼンスルフォン酸》
ドデシルベンゼンスルフォン酸、ペンタデシルベンゼンスルフォン酸。
《アルキルナフタレンスルフォン酸》
セスキブチルナフタレンスルフォン酸、ジイソブチルナフタレンスルフォン酸。
《ジアルキルスルフォコハク酸》
ジオクチルスルフォコハク酸、ジヘキシルスルフォコハク酸、ジシクロヘキシルコハク酸、ジアミルスルフォコハク酸、ジトリデシルシクロコハク酸。
【0074】
《多価有機酸の一部誘導体》
前記一般式(1)で表される有機酸は、多価有機酸の一部誘導体であることが好ましい。本明細書中、多価有機酸の一部誘導体とは、多価アルコール1分子に脂肪酸1分子と多価有機酸がエステル結合した構造を有しており、多価カルボン酸由来の無置換の酸性基を少なくとも1つ有する化合物のことを言う。なお、本明細書中、脂肪酸とは、脂肪族モノカルボン酸を意味する。すなわち、本明細書中における脂肪酸は、いわゆる高級脂肪族に限定されるものではなく、酢酸やプロピオン酸などの炭素数12以下の低級脂肪酸も含まれる。
前記多価有機酸の一部誘導体は、多価カルボン酸の一部誘導体であることが好ましい。すなわち、前記一般式(1)で表される有機酸は、多価アルコール1分子に脂肪酸1分子と多価カルボン酸1分子がエステル結合した構造を有しており、多価カルボン酸由来の無置換のカルボキシル基を少なくとも1つ有することが好ましい。前記多価カルボン酸の一部誘導体に用いられる多価カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、クエン酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸が好ましい。
【0075】
前記多価有機酸の一部誘導体に用いられる前記多価アルコールとしては、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール、グリセリン等を挙げることができる。その中でも、グリセリンが好ましく、前記一般式(1)で表される有機酸はいわゆる有機酸グリセリドであることが好ましい。
【0076】
前記一般式(1)で表される有機酸としては、有機酸の酸性基Xが、グリセリン由来の基を含む連結基Lを介して、疎水性部R1と結合している有機酸グリセリド(グリセリン脂肪酸有機酸エステル)が好ましい。ここで、本明細書中における有機酸グリセリドとは、グリセリンの3個の水酸基のうち1個または2個が脂肪酸とエステル結合を作っており、残りの水酸基のうち1個または2個が多価有機酸とエステル結合を作っており、該多価有機酸由来の酸性基を有する構造の化合物のことを言う。
その中でも、有機酸モノグリセリドまたは有機酸ジグリセリドがより好ましく、有機酸モノグリセリドがより特に好ましい。本明細書中における有機酸モノグリセリドとは、グリセリンの3個の水酸基のうち1個が脂肪酸とエステル結合を作っており、残りの水酸基のうち1個または2個が多価有機酸とエステル結合を作っており、該多価有機酸由来の酸性基を有する構造の化合物のことを言う。本明細書中における有機酸ジグリセリドとは、グリセリンの3個の水酸基のうち2個が脂肪酸とエステル結合を作っており、残りの水酸基1個が多価有機酸とエステル結合を作っており、該多価有機酸由来の酸性基を有する構造の化合物のことを言う。
前記有機酸モノグリセリドの中でも、グリセリンの3個の水酸基のうち1個が脂肪酸とエステル結合を作っており、残りの水酸基のうち1個が無置換の水酸基であり、残りの水酸基1個が多価有機酸とエステル結合を作っており、該多価有機酸由来の酸性基を有する構造の化合物であることがより特に好ましい。前記有機酸モノグリセリドの脂肪酸とエステル結合している水酸基は非対称の位置(いわゆるαモノグリセリドの位置)であることが好ましく、前記有機酸モノグリセリドの多価有機酸とエステル結合している水酸基は同様に非対称の位置(いわゆるαモノグリセリドの位置)であることが好ましい。すなわち、前記有機酸モノグリセリドの中でも、無置換の水酸基を有し、かつ脂肪酸とエステル結合している水酸基の直結する炭素原子と、多価有機酸とエステル結合している水酸基の直結する炭素原子とが隣り合わない構造の化合物であることが好ましい。
【0077】
前記有機酸モノグリセリドの中でも、多価カルボン酸のモノグリセリドがより特に好ましい。前記多価カルボン酸のモノグリセリドとは、多価カルボン酸のうち、少なくとも1つが無置換のカルボキシル基を有し、その他のカルボキシル基がモノグリセリドで置換されている有機酸のことを言う。すなわち、グリセリン1分子に脂肪酸1分子と多価カルボン酸1分子が結合したカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドが特に好ましい。
【0078】
前記多価カルボン酸のモノグリセリドに用いられる前記多価カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、クエン酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸が好ましい。
前記多価カルボン酸のモノグリセリドに用いられる前記脂肪酸は限定されないが、炭素数8〜22の飽和または不飽和の脂肪酸が好ましく、具体的には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸等があげられる。
【0079】
以下に、本発明に使用することができるカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドについて詳しく説明する。
【0080】
本発明で使用することができるカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドは、一般的には、特開平4−218597号公報、特許第3823524号公報等に記載されている方法に従って、多価有機酸の無水物と脂肪酸モノグリセリドを反応させることにより得られる。
反応は、通常、無溶媒条件下で行われ、例えば無水コハク酸と炭素数18の脂肪酸モノグリセリドの反応では、温度120℃前後においえて90分程度で反応が完了する。かくして得られた有機酸モノグリセリドは、通常、有機酸、未反応モノグリセリド、ジグリセリド、及びその他オリゴマーを含む混合物となっている。本発明においては、このような混合物のまま使用してもよい。
前記カルボキシル基含有有機酸モノグリセリドの純度を高めたい場合は、上記のような混合物中のカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドを蒸留等により精製すればよく、また、純度の高いカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドとしては、蒸留モノグリセリドとして市販されているものを使用できる。前記カルボキシル基含有有機酸モノグリセリドの市販品としては、例えば、理研ビタミン株式会社製ポエムK−37V(グリセリンクエン酸オレイン酸エステル)、花王社製ステップSS(グリセリンステアリン酸/パルミチン酸コハク酸エステル)等が挙げられ、その中でもポエムK−37Vが好ましい。
【0081】
また本発明のフィルムには、下記(1)〜(3)の要件を満たす有機酸も使用することが出来る。
(1)多価アルコールと多価カルボン酸がエステル結合を形成して結合した構造を含む。
(2)該化合物を形成する多価アルコールと多価カルボン酸の分子数の合計が3以上である。
(3)多価カルボン酸由来の無置換のカルボキシル基を少なくとも1つ有する。
【0082】
前記(1)〜(3)の要件を満たす有機酸において、無置換のカルボキシル基により溶液製膜設備(ドープを流涎するときの金属支持体)からの剥離性を改善することができ、本発明では前記(1)〜(3)の要件を満たす有機酸を剥離促進剤として用いることができる。
さらに、無置換のカルボキシル基が支持体の金属表面に付着し、多価アルコール部分あるいはこれに置換した疎水性基部分が支持体の金属表面を酸素等の酸化剤からブロックすることにより、前記多価アルコール部分あるいはこれに置換した疎水性基部分を含まない有機酸に比べて、金属の腐食を防止することができる。
以下、本発明のフィルムに剥離促進剤として用いることができる前記(1)〜(3)の要件を満たす有機酸について説明する。
【0083】
前記(1)〜(3)の要件を満たす有機酸に用いられる多価カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、クエン酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸が好ましい。
前記(1)〜(3)の要件を満たす有機酸中、多価カルボン酸の分子数は1〜20であることが好ましく、1〜15であることがより好ましく、1〜10であることが特に好ましい。
【0084】
また、前記(1)〜(3)の要件を満たす有機酸に用いられる多価アルコールとしては、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール、グリセリン等を挙げることができる。その中でも、グリセリンが好ましい。
前記(1)〜(3)の要件を満たす有機酸中、多価アルコールの分子数は1〜20であることが好ましく、1〜15であることがより好ましく、1〜10であることが特に好ましい。
【0085】
前記(1)〜(3)の要件を満たす有機酸は、該有機酸を構成する多価アルコールと多価カルボン酸に加えて、さらに炭素数が4以上の置換基を有する一価の酸が該多価アルコールの一部のヒドロキシル基とエステル結合を形成した構造を有してもよい。前記炭素数が4以上の置換基を有する一価の酸の具体例を以下に挙げる。なお、前記炭素数が4以上の置換基を有する一価の酸における置換基とは、前記炭素数が4以上の置換基を有する一価の酸をRCOOHと表したときにおけるRを意味する。
《脂肪酸》
カプロン酸、ヘプチル酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレン酸、ウンデカン酸。
《アルキル硫酸》
ミリスチル硫酸、セチル硫酸、オレイル硫酸。
《アルキルベンゼンスルフォン酸》
ドデシルベンゼンスルフォン酸、ペンタデシルベンゼンスルフォン酸。
《アルキルナフタレンスルフォン酸》
セスキブチルナフタレンスルフォン酸、ジイソブチルナフタレンスルフォン酸。
これらの中でも、脂肪酸である炭素数が4以上の置換基を有する一価の酸が好ましく、カプリル酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸がより好ましく、オレイン酸が特に好ましい。
前記(1)〜(3)の要件を満たす有機酸中、炭素数が4以上の置換基を有する一価の酸の分子数は0〜4であることが好ましく、0〜3であることがより好ましく、0〜2であることが特に好ましい。
【0086】
前記(1)〜(3)の要件を満たす有機酸は、該化合物を形成する多価アルコールと多価カルボン酸の分子数の合計が3以上であり、3〜30であることが好ましく、3〜20であることがより好ましい。
【0087】
前記(1)〜(3)の要件を満たす有機酸中、多価カルボン酸、多価アルコールおよび炭素数が4以上の置換基を有する一価の酸の割合は特に制限はなく、有機酸中に2以上の無置換のヒドロキシル基が残っていてもよく、無置換のヒドロキシル基が残っていてもよい。
前記(1)〜(3)の要件を満たす有機酸は、多価カルボン酸由来の無置換のカルボキシル基を少なくとも1つ有し、多価カルボン酸由来の無置換のカルボキシル基を1〜40有することが好ましく、1〜30有することがより好ましい。
【0088】
前記(1)〜(3)の要件を満たす有機酸は、単独で用いてもよく、複数の混合物として用いてもよい。なお、前記(1)〜(3)の要件を満たす有機酸は場合により電離していてもよく、場合により任意の金属イオンなどと塩を形成していてもよい。
【0089】
以下に本発明に用いられる前記(1)〜(3)の要件を満たす有機酸の好ましい化合物例を示す。
以下のような組成からなる有機酸(有機酸の部分縮合体)が好ましい。
【0090】
【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【0091】
本発明のフィルムに含まれる前記一般式(1)で表される有機酸の添加量は、前記セルロースアシレートに対して0.1質量%〜20質量%の割合であり、0.5質量%〜10質量%であることが特に好ましく、0.6質量%〜5質量%であることがより特に好ましく、1.5質量%〜5質量%であることがより特に好ましい。
添加量が0.1%以上であれば偏光子耐久性改良効果および剥離性改良効果が十分となる。また、20質量%以下の添加量であれば、高温高湿経時において有機酸がブリードアウトし難く、偏光板の直交透過率が上昇しにくく、好ましい。
前記一般式(1)で表される有機酸の分子量は、200〜1000であることが好ましい。
【0092】
(レターデーション発現剤)
本発明のフィルムは、レターデーション値を発現するために、レターデーション発現剤を含有してもよい。前記レターデーション発現剤としては、特に制限はないが、棒状または円盤状化合物、あるいは、後述する一般式(II−1)で表される構造に特徴を有する化合物からなるものを挙げることができる。上記棒状または円盤状化合物としては、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション発現剤として好ましく用いることができる。
棒状化合物からなるレターデーション発現剤の添加量は、セルロースアシレート成分100質量部に対して0.1質量部以上3質量部未満であることが好ましく、0.5質量部以上2質量部未満であることがさらに好ましい。一方、前記円盤状化合物は、前記セルロースアシレートに対して0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜4質量%であることがより好ましく、1〜3質量%であることが特に好ましい。後述する一般式(II−1)で表される構造に特徴を有する化合物の前記セルロースアシレートに対する好ましい添加量は、前記円盤状化合物の好ましい添加量の範囲と同様である。
円盤状化合と後述する一般式(II−1)で表される構造に特徴を有する化合物はRthレターデーション発現性において棒状化合物よりも優れているため、特に大きなRthレターデーションを必要とする場合には好ましく使用される。2種類以上のレターデーション発現剤を併用してもよい。
レターデーション発現剤は、250〜400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0093】
円盤状化合物について説明する。円盤状化合物としては少なくとも二つの芳香族環を有する化合物を用いることができる。
本明細書において、「芳香族環」は、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。
芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。
芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。
芳香族環としては、ベンゼン環、縮合ベンゼン環、ビフェニール類が好ましい。特に1,3,5−トリアジン環が好ましく用いられる。具体的には例えば特開2001−166144号公報に開示の化合物が好ましく用いられる。
【0094】
レターデーション発現剤が有する芳香族環の炭素数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがより好ましく、2〜8であることがさらに好ましく、2〜6であることが最も好ましい。
二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合および(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。結合関係は、(a)〜(c)のいずれでもよい。
【0095】
(a)の縮合環(二つ以上の芳香族環の縮合環)の例には、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ビフェニレン環、ナフタセン環、ピレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドリジン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、プリン環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環およびチアントレン環が含まれる。ナフタレン環、アズレン環、インドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環およびキノリン環が好ましい。
【0096】
(b)の単結合は、二つの芳香族環の炭素原子間の結合であることが好ましい。二以上の単結合で二つの芳香族環を結合して、二つの芳香族環の間に脂肪族環または非芳香族性複素環を形成してもよい。
【0097】
(c)の連結基も、二つの芳香族環の炭素原子と結合することが好ましい。連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−CO−、−O−、−NH−、−S−またはそれらの組み合わせであることが好ましい。組み合わせからなる連結基の例を以下に示す。なお、以下の連結基の例の左右の関係は、逆になってもよい。
c1:−CO−O−
c2:−CO−NH−
c3:−アルキレン−O−
c4:−NH−CO−NH−
c5:−NH−CO−O−
c6:−O−CO−O−
c7:−O−アルキレン−O−
c8:−CO−アルケニレン−
c9:−CO−アルケニレン−NH−
c10:−CO−アルケニレン−O−
c11:−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−
c12:−O−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−O−
c13:−O−CO−アルキレン−CO−O−
c14:−NH−CO−アルケニレン−
c15:−O−CO−アルケニレン−
【0098】
芳香族環および連結基は、置換基を有していてもよい。
置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基、ウレイド基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基および非芳香族性複素環基が含まれる。
【0099】
アルキル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基)を有していてもよい。アルキル基の(置換アルキル基を含む)例には、メチル基、エチル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、2−ヒドロキシエチル基、4−カルボキシブチル基、2−メトキシエチル基および2−ジエチルアミノエチル基の各基が含まれる。
アルケニル基の炭素原子数は、2〜8であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルケニル基の例には、ビニル基、アリル基および1−ヘキセニル基が含まれる。
アルキニル基の炭素原子数は、2〜8であることが好ましい。環状アルキニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキニル基の例には、エチニル基、1−ブチニル基および1−ヘキシニル基が含まれる。
【0100】
脂肪族アシル基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル基、プロパノイル基およびブタノイル基が含まれる。
脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシ基が含まれる。
アルコキシ基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。アルコキシ基は、さらに置換基(例えば、アルコキシ基)を有していてもよい。アルコキシ基の(置換アルコキシ基を含む)例には、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基およびメトキシエトキシ基が含まれる。
アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニル基およびエトキシカルボニル基が含まれる。
アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、メトキシカルボニルアミノ基およびエトキシカルボニルアミノ基が含まれる。
【0101】
アルキルチオ基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ基、エチルチオ基およびオクチルチオ基が含まれる。
アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例には、メタンスルホニル基およびエタンスルホニル基が含まれる。
脂肪族アミド基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アミド基の例には、アセトアミドが含まれる。
脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド基、ブタンスルホンアミド基およびn−オクタンスルホンアミド基が含まれる。
脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基および2−カルボキシエチルアミノ基が含まれる。
脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例には、メチルカルバモイル基およびジエチルカルバモイル基が含まれる。
脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例には、メチルスルファモイル基およびジエチルスルファモイル基が含まれる。
脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例には、メチルウレイド基が含まれる。
非芳香族性複素環基の例には、ピペリジノ基およびモルホリノ基が含まれる。
レターデーション発現剤の分子量は、300〜800であることが好ましい。
【0102】
本発明では、前記円盤状化合物として下記一般式(I)で表されるトリアジン化合物を用いることが好ましい。
【0103】
【化11】

【0104】
上記一般式(I)中:
201は、各々独立に、オルト位、メタ位およびパラ位の少なくともいずれかに置換基を有する芳香族環または複素環を表す。
201は、各々独立に、単結合または−NR202−を表す。ここで、R202は、各々独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基または複素環基を表す。
【0105】
201が表す芳香族環は、フェニルまたはナフチルであることが好ましく、フェニルであることが特に好ましい。R201が表す芳香族環はいずれかの置換位置に少なくとも一つの置換基を有してもよい。前記置換基の例には、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アルキル置換スルファモイル基、アルケニル置換スルファモイル基、アリール置換スルファモイル基、スルオンアミド基、カルバモイル、アルキル置換カルバモイル基、アルケニル置換カルバモイル基、アリール置換カルバモイル基、アミド基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基およびアシル基が含まれる。
【0106】
201が表す複素環基は、芳香族性を有することが好ましい。芳香族性を有する複素環は、一般に不飽和複素環であり、好ましくは最多の二重結合を有する複素環である。複素環は5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましく、6員環であることが最も好ましい。複素環のヘテロ原子は、窒素原子、硫黄原子または酸素原子であることが好ましく、窒素原子であることが特に好ましい。芳香族性を有する複素環としては、ピリジン環(複素環基としては、2−ピリジルまたは4−ピリジル)が特に好ましい。複素環基は、置換基を有していてもよい。複素環基の置換基の例は、上記アリール部分の置換基の例と同様である。
201が単結合である場合の複素環基は、窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基であることが好ましい。窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましく、5員環であることが最も好ましい。複素環基は、複数の窒素原子を有していてもよい。また、複素環基は、窒素原子以外のヘテロ原子(例えば、O、S)を有していてもよい。以下に、窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基の例を示す。ここで、−C49nは、n−C49を示す。
【0107】
【化12】

【0108】
202が表すアルキル基は、環状アルキル基であっても鎖状アルキル基であってもよいが、鎖状アルキル基が好ましく、分岐を有する鎖状アルキル基よりも、直鎖状アルキル基がより好ましい。アルキル基の炭素原子数は、1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましく、1〜10であることがさらに好ましく、1〜8がさらにまた好ましく、1〜6であることが最も好ましい。アルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基)およびアシルオキシ基(例えば、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基)が含まれる。
【0109】
202が表すアルケニル基は、環状アルケニル基であっても鎖状アルケニル基であってもよいが、鎖状アルケニル基を表すのが好ましく、分岐を有する鎖状アルケニル基よりも、直鎖状アルケニル基を表すのがより好ましい。アルケニル基の炭素原子数は、2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましく、2〜10であることがさらに好ましく、2〜8であることがさらにまた好ましく、2〜6であることが最も好ましい。アルケニル基は置換基を有していてもよい。置換基の例には、前述のアルキル基の置換基と同様である。
202が表す芳香族環基および複素環基は、R201が表す芳香族環および複素環と同様であり、好ましい範囲も同様である。芳香族環基および複素環基はさらに置換基を有していてもよく、置換基の例にはR201の芳香族環および複素環の置換基と同様である。
【0110】
一般式(I)で表される化合物は、例えば特開2003−344655号公報に記載の方法等、公知の方法により合成することができる。レターデーション発現剤の詳細は公開技報2001−1745の49頁に記載されている。
【0111】
本発明では、前記円盤状化合物として、下記一般式(II−1)で表される構造に特徴を有する化合物を用いることも好ましい。なお、下記一般式(II−1)で表される構造に特徴を有する化合物は、円盤状であることを必要としない。
【化13】

(一般式(II−1)中、Y1はメチン基、あるいは−N−を表す。Ra31はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rb31、Rc31、Rd31およびRe31はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q21は単結合、−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra31と連結して環を形成してもよい。X31、X32、およびX33は、それぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。X34は、下記一般式(Q)
【化14】

(一般式(Q)中、*側が前記一般式(II−1)で表される化合物中の複素環に置換しているN原子との連結部位である。)
で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
【0112】
前記一般式(II−1)で表される化合物は、下記一般式(II−2)で表されることが特に好ましい。
【化15】

(一般式(II−2)中、Y2はメチン基、あるいは−N−を表す。Ra32はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Rb32、Rc32、Rd32はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q22は単結合、−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra32と連結して環を形成してもよい。X35は、それぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。X36は、前記一般式(Q)で表される2価の連結基からなる群から選択される連結基を表す。)
【0113】
前記一般式(II−1)で表される化合物は、下記一般式(II−4)で表されることが特に好ましい。
【化16】

(一般式(II−4)中、Y4はメチン基、あるいは−N−を表す。Ra34はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q24は単結合、−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra34と連結して環を形成してもよい。R61、R62、R63およびR64は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルバモイル基、スルファモイル基、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のアルキルアミノ基、炭素数1から8のジアルキルアミノ基を表す。)
【0114】
前記一般式(II−1)で表される化合物は、下記一般式(II−5)で表されることが特に好ましい。
【化17】

(一般式(E−5)中、R65、R66、R67およびR68は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、カルバモイル基、スルファモイル基、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシ基、炭素数1から8のアルキルアミノ基、炭素数1から8のジアルキルアミノ基を表す。Ra35はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。Q25は単結合、−O−、−S−、あるいは−NRf−を示し、Rfは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、または複素環基を表し、Ra35と連結して環を形成してもよい。)
【0115】
前記一般式(II−5)中、前記R65、R66、R67およびR68は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、又は炭素原子数1〜8のアルコキシ基であることが好ましく、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、又は炭素原子数1〜4のアルコキシ基であることが特に好ましい。
前記Ra35はアルキル基、水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数2〜8のアルケニル基、炭素原子数2〜8のアルキニル基、炭素原子数6〜18のアリール基(例えば、ベンゼン環及びナフタレン環の基)、炭素原子数4〜10の複素環の基(例えば、ピロリル基、ピロリジノ基、ピラゾリル基、ピラゾリジノ基、イミダゾリル基、ピペラジノ基、モルホリノ基)であることが好ましく、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基であることがより好ましく、炭素原子数1〜4のアルキル基であることが特に好ましい。
前記Q25は単結合、又は−O−、−S−、−N(Xa−Rh)−、もしくは−N(Xa−Rh)−Xb−(但し、XaおよびXbはそれぞれ独立に単結合または2価の連結基を表し、Xa及びXbでそれぞれ表される2価の連結基の例には、−CO−、−COO−、−CONH−が含まれる。Rhは水素原子炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数2〜8のアルケニル基、炭素原子数2〜8のアルキニル基、炭素原子数6〜10のアリール基、又は炭素原子数2〜10の複素環基を表す。−NH−Xb−の好ましい例には、−NH−CO−、−NH−COO−、−NH−CONH−、−NH−SO2−などが含まれ、−NH−CO−、−NH−COO−であることがさらに好ましい。)で表される2価の連結基であることが好ましく、中でも、単結合、又は−O−、−S−、−NH−又は−N(R)−(但しRは炭素原子数1〜8、好ましくは炭素原子数1〜4のアルキル基)であるのがより好ましく、単結合又は−O−であることがより好ましい。
【0116】
本発明のレターデーション発現剤としては、前記低分子化合物と同様に、高分子系添加剤を使用することもできる。ここで、本発明において前記重縮合エステルとして用いられているポリマーがレターデーション発現剤としての機能を兼ねていてもよい。前記重縮合エステルでもある高分子系のレターデーション発現剤としては、前記芳香族ポリエステル系ポリマーおよび前記芳香族ポリエステル系ポリマーとその他の樹脂の共重合体が好ましい。
【0117】
本発明のレターデーション発現剤は、Re発現剤であることが効率的にReを発現させる観点からより好ましい。前記レターデーション発現剤のうち、Re発現剤としては、例えば、円盤状化合物および棒状化合物などを挙げることができる。
【0118】
(レターデーション低減剤)
本発明ではレターデーション低減剤として、リン酸系であるエステル系の化合物や、セルロースアシレートフィルムの添加剤として公知の化合物を広く採用することができる。
【0119】
高分子系レターデーション低減剤としては、リン酸系であるポリエステル系ポリマー、スチレン系ポリマーおよびアクリル系ポリマーおよびこれら等の共重合体から選択され、アクリル系ポリマーおよびスチレン系ポリマーが好ましい。また、スチレン系ポリマー、アクリル系ポリマーといった、負の固有複屈折を有するポリマーを少なくとも一種含まれることが好ましい。
【0120】
低分子量レターデーション低減剤としては、以下を挙げることができる。これらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に劣化防止剤の混合などである。さらにまた、赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報に記載されている。またその添加する時期はセルロースアシレート溶液(ドープ)作製工程において何れで添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。さらにまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。
【0121】
低分子量レターデーション低減剤としては、特に限定されないが、詳細は特開2007−272177号公報の[0066]〜[0085]に記載されている。
【0122】
特開2007−272177号公報の[0066]〜[0085]に一般式(1)として記載される化合物は、以下の方法にて作成することができる。
該公報一般式(1)の化合物は、スルホニルクロリド誘導体とアミン誘導体との縮合反応により得ることができる。
【0123】
特開2007−272177号公報一般式(2)に記載の化合物は、縮合剤(例えばジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)など)を用いた、カルボン酸類とアミン類との脱水縮合反応、またはカルボン酸クロリド誘導体とアミン誘導体との置換反応などにより得ることができる。
【0124】
(前記重縮合エステルおよび糖エステル化合物以外のその他の可塑剤)
本発明に用いられる前記重縮合エステルおよび糖エステル化合物以外のその他の可塑剤としては、セルロースアシレートの可塑剤として知られる多くの化合物も有用に使用することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。
【0125】
(劣化防止剤)
本発明においてはセルロースアシレート溶液に公知の劣化(酸化)防止剤、例えば、2、6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、4、4'−チオビス−(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1、1'−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2、2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2、5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などのフェノール系あるいはヒドロキノン系酸化防止剤を添加することができる。さらに、トリス(4−メトキシ−3、5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2、4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2、6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、ビス(2、4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどのリン系酸化防止剤をすることが好ましい。
【0126】
(紫外線吸収剤)
本発明においてはセルロースアシレート溶液に、偏光板または液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。ヒンダードフェノール系化合物の例としては、2、6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N、N'−ヘキサメチレンビス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1、3、5−トリメチル−2、4、6−トリス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。ベンゾトリアゾール系化合物の例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2、2−メチレンビス(4−(1、1、3、3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、(2、4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3、5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1、3、5−トリアジン、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N、N'−ヘキサメチレンビス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1、3、5−トリメチル−2、4、6−トリス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2(2'−ヒドロキシ−3'、5'−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、(2(2'−ヒドロキシ−3'、5'−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2、6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕などが挙げられる。
【0127】
(マット剤)
本発明のフィルムは、マット剤を含有することが、フィルムすべり性、および安定製造の観点から好ましい。前記マット剤は、無機化合物のマット剤であっても、有機化合物のマット剤であってもよい。
前記無機化合物のマット剤の好ましい具体例としては、ケイ素を含む無機化合物(例えば、二酸化ケイ素、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなど)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ストロングチウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化スズ・アンチモン、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン及びリン酸カルシウム等が好ましく、更に好ましくはケイ素を含む無機化合物や酸化ジルコニウムであるが、セルロースアシレートフィルムの濁度を低減できるので、二酸化ケイ素が特に好ましく用いられる。前記二酸化ケイ素の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R974、R812、200、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。前記酸化ジルコニウムの微粒子としては、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名で市販されているものが使用できる。
前記有機化合物のマット剤の好ましい具体例としては、例えば、シリコーン樹脂、弗素樹脂及びアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、中でも、シリコーン樹脂が好ましく用いられる。シリコーン樹脂の中でも、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、トスパール105、トスパール108、トスパール120、トスパール145、トスパール3120及びトスパール240(以上東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。
【0128】
これらのマット剤をセルロースアシレート溶液へ添加する場合は、特にその方法に限定されずいずれの方法でも所望のセルロースアシレート溶液を得ることができれば問題ない。例えば、セルロースアシレートと溶媒を混合する段階で添加物を含有させてもよいし、セルロースアシレートと溶媒で混合溶液を作製した後に、添加物を添加してもよい。更にはドープを流延する直前に添加混合してもよく、所謂直前添加方法でありその混合はスクリュー式混練をオンラインで設置して用いられる。具体的には、インラインミキサーのような静的混合機が好ましく、また、インラインミキサーとしては、例えば、スタチックミキサーSWJ(東レ静止型管内混合器Hi−Mixer)(東レエンジニアリング製)のようなものが好ましい。なお、インライン添加に関しては、濃度ムラ、粒子の凝集等をなくすために、特開2003−053752号公報には、セルロースアシレートフィルムの製造方法において、主原料ドープに異なる組成の添加液を混合する添加ノズル先端とインラインミキサーの始端部の距離Lが、主原料配管内径dの5倍以下とする事で、濃度ムラ、マット粒子等の凝集をなくす発明が記載されている。さらに好ましい態様として、主原料ドープと異なる組成の添加液供給ノズルの先端開口部とインラインミキサーの始端部との間の距離(L)が、供給ノズル先端開口部の内径(d)の10倍以下とし、インラインミキサーが、静的無攪拌型管内混合器または動的攪拌型管内混合器であることが記載されている。さらに具体的には、セルロースアシレートフィルム主原料ドープ/インライン添加液の流量比は、10/1〜500/1、好ましくは50/1〜200/1であることが開示されている。さらに、添加剤ブリードアウトが少なく、かつ層間の剥離現象もなく、しかも滑り性が良好で透明性に優れた位相差フィルムを目的とした発明の特開2003−014933号にも、添加剤を添加する方法として、溶解釜中に添加してもよいし、溶解釜〜共流延ダイまでの間で添加剤や添加剤を溶解または分散した溶液を、送液中のドープに添加してもよいが、後者の場合は混合性を高めるため、スタチックミキサー等の混合手段を設けることが好ましいことが記載されている。
【0129】
(4)溶媒
本発明の製造方法においてドープ中に用いられる溶媒は、溶液流延に用いられる溶媒であれば公知のものを採用することができるが、よりヘイズを低下させる観点から、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルおよび炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0130】
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素の例として、ジクロロメタン、クロロホルム、塩化メチル、四塩化炭素、トリクロル酢酸、臭化メチル、ウ化メチル、トリ(テトラ)クロロエチレン等が挙げられ、少なくともジクロロメタンを含むことが好ましい。
【0131】
本発明ではさらに、貧溶媒を3〜30重量%の割合で含むことが好ましく、5〜20重量%の割合で含むことがより好ましい。貧溶媒を上記範囲内で含むことにより、セルロースアシレートとの相溶性が向上し、ヘイズがより低下する傾向にあり好ましい。
さらに、貧溶媒の沸点は、120℃以下であることが好ましく、40〜100℃であることがより好ましい。沸点を120℃以下とすることにより、溶媒の乾燥速度をより早くすることができ好ましい。
このような貧溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールおよび水が好ましい例として挙げられ、メタノールがより好ましい。
【0132】
一般的な方法で前記ドープを調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温または高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。ドープは、常温(0〜40℃)でセルロースアシレートと溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアシレートと溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0133】
各成分は予め粗混合してから容器(タンク等)に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶媒中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0134】
冷却溶解法により、前記ドープを調製することもできる。
【0135】
(製膜工程)
本発明では、調製したドープから、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレテートフィルムを製造する。
【0136】
本発明のフィルムを製造する方法及び設備は、従来セルローストリアセテートフィルム製造に供するのと同様の溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置が用いられる。溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ダイの口金部分のスリット形状を調整出来、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があり、何れも好ましく用いられる。金属支持体の表面は鏡面となっている。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。あるいは複数のドープを同時に流延する共流延法によって積層構造のフィルムを得ることも好ましい。
【0137】
ドープをドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延され、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離することが好ましい。得られるウェブの両端をクリップで挟み、テンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。電子ディスプレイ用機能性保護膜に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等のフィルムへの表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。以下に各製造工程について簡単に述べるが、これらに限定されるものではない。
【0138】
調製したドープは、無端金属支持体上、例えば金属ドラムまたは金属支持体(バンドあるいはベルト)上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成することが好ましい。流延前のドープは、セルロース量が10〜35質量%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
さらに特開2000−301555号、特開2000−301558号、特開平7−032391号、特開平3−193316号、特開平5−086212号、特開昭62−037113号、特開平2−276607号、特開昭55−014201号、特開平2−111511号、および特開平2−208650号の各公報に記載のセルロースアシレート製膜技術を本発明では応用できる。
【0139】
ドープは、表面温度が30℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましく、特には−50〜20℃の金属支持体温度であることが好ましい。本発明の製造方法は、前記金属支持体上に流延された前記ドープに対して、該金属支持体の裏面および表面の双方から乾燥風を吹き当てることが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフィルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100℃から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶媒を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0140】
本発明の製造方法は、前記ドープとして、セルロースアシレートの総アシル置換度が互いに異なる2種以上のドープを用い、支持体上に各ドープを共流延してもよい。
本発明のフィルムの形成においては共流延法、逐次流延法、塗布法などの積層流延法を用いることが好ましく、特に同時共流延法を用いることが、安定製造および生産コスト低減の観点から特に好ましい。
共流延法および逐次流延法により製造する場合には、先ず、各層用のセルロースアシレート溶液(ドープ)を調製する。共流延法(重層同時流延)は、流延用支持体(バンドまたはドラム)の上に、各層(3層あるいはそれ以上でも良い)各々の流延用ドープを別のスリットなどから同時に押出す流延用ダイからドープを押出して、各層同時に流延し、適当な時期に支持体から剥ぎ取って、乾燥しフィルムを成形する流延法である。
【0141】
逐次流延法は、流延用支持体の上に先ず第1層用の流延用ドープを流延用ダイから押出して、流延し、乾燥あるいは乾燥することなく、その上に第2層用の流延用ドープを流延用ダイから押出して流延する要領で、必要なら第3層以上まで逐次ドープを流延・積層して、適当な時期に支持体から剥ぎ取って、乾燥しフィルムを成形する流延法である。塗布法は、一般的には、コア層のフィルムを溶液製膜法によりフィルムに成形し、表層に塗布する塗布液を調製し、適当な塗布機を用いて、片面ずつまたは両面同時にフィルムに塗布液を塗布・乾燥して積層構造のフィルムを成形する方法である。
【0142】
(剥ぎ取り)
本発明の製造方法は、金属支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程の後で、後述する延伸工程を行うことが好ましい。剥離されたウェブは任意の方法で次工程に送られる。なお、剥離する時点でのウェブの残留揮発分(下記式)があまり大き過ぎると剥離し難かったり、逆に金属支持体上で充分に乾燥させ過ぎてから剥離すると、途中でウェブの一部が剥がれたりする。
ここで、製膜速度を上げる方法(残留溶媒量ができるだけ多いうちに剥離することで製膜速度を上げることができる)としてゲル流延法(ゲルキャスティング)がある。例えば、ドープ中にセルロースアシレートに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、金属支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。金属支持体上でゲル化させ剥離時の膜の強度を上げておくことによって、剥離を早め製膜速度を上げることができる。
金属支持体上でのウェブの剥離時残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、金属支持体の長さ等により5〜150質量%の範囲で剥離することが好ましいが、残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。本発明においては、該金属支持体上の剥離位置における温度を−50〜40℃とするのが好ましく、10〜40℃がより好ましく、15〜30℃とするのが最も好ましい。
【0143】
ドラムやベルト上で乾燥され、剥離されたウェブの乾燥方法について述べる。ドラムやベルトが1周する直前の剥離位置で剥離されたウェブは、千鳥状に配置されたロ−ル群に交互に通して搬送する方法や剥離されたウェブの両端をクリップ等で把持させて非接触的に搬送する方法などにより搬送されることが好ましい。
【0144】
乾燥は、搬送中のウェブ(フィルム)両面に所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエ−ブなどの加熱手段などを用いる方法によって行われる。急速な乾燥は、形成されるフィルムの平面性を損なう恐れがあるので、乾燥の初期段階では、溶媒が発泡しない程度の温度で乾燥し、乾燥が進んでから高温で乾燥を行うのが好ましい。支持体から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってフィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。収縮は、高温度で乾燥するほど大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているように、乾燥の全工程あるいは一部の工程を幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンタ−方式)が好ましい。上記乾燥工程における乾燥温度は、100〜145℃であることが好ましい。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量および乾燥時間が異なるが、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。
【0145】
(延伸工程)
本発明のフィルムの製造方法は、前記ウェブ(フィルム)を、下記式(i)を満たす残留揮発分H1の状態でフィルム搬送方向に1〜30%延伸する工程と、前記フィルムを、下記式(ii)を満たす残留揮発分H2の状態でフィルム搬送方向に直交する方向に1〜100%延伸する工程とを含み、前記フィルム搬送方向または前記フィルム搬送方向に直交する方向への延伸を下記式(iii)を満たす温度Tで行うことを特徴とする。
式(i) H1≦10%
式(ii) H2≦10%
式(iii) Tg−15℃≦延伸温度T<Tg+25℃
(式(iii)中、Tgは残留溶剤0%の時のフィルムの動的粘弾性tanδを測定した際にtanδがピークを示す温度。)
【0146】
(1)MD延伸
本発明の製造方法では、フィルム搬送方向への延伸における延伸倍率は、3〜25%であることが好ましく、5〜20%であることがより好ましい。
なお、ここでいう「延伸倍率(%)」とは、以下の式により求められるものを意味する。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
【0147】
ウェブをフィルム搬送方向に延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。また、いわゆるテンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸が行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。前記縦方向への延伸は、2つのニップロールを有する装置を用い、入口側のニップロールの回転速度よりも、出口側のニップロールの回転速度を速くすることにより、搬送方向(縦方向)にセルロースアシレートフィルムを好ましく延伸することが好ましい。このような延伸を行うことによって、レターデーションの発現性も調整することができる。
【0148】
本発明の製造方法では、前記H1は5%以下であることが好ましく、1%未満であることがより好ましい。本発明の製造方法ではこのように残留揮発分が少ない状態でフィルムを延伸すること(以下、dry延伸とも言う)にもある。前記dry延伸のメリットは、昨今多様化するパネルに対応できるような様々な光学特性(Re、Rth)のフィルムを作成できることにある。残留揮発分が多い状態での延伸では、延伸中の発泡による面状故障懸念から延伸温度をあまり上げることができず、また、破断の懸念から延伸倍率もあまり上げることができないものであった。一方、前記dry延伸を採用することにより、従来よりも高温の範囲に自在に延伸温度を変更できる。いかなる理論に拘泥するものでもないが、一般に延伸温度を上げると破断倍率も上がるため、前記dry延伸を採用することにより延伸倍率を上げることができ、ReとRthの発現性、特に膜厚当たりのRth発現性をさらに高めることができる。
一方、ウェブ中の残留揮発分が多すぎると延伸の効果が得られない。
【0149】
本発明の製造方法では、前記フィルム搬送方向または前記フィルム搬送方向に直交する方向への延伸が下記式(iii)を満たす温度Tである。前記フィルム搬送方向への延伸と、前記フィルム搬送方向に直交する方向への延伸のいずれの延伸温度が下記式(iii)を満たしていてもよいが、本発明の製造方法では、前記フィルム搬送方向への延伸および前記フィルム搬送方向に直交する方向への延伸がいずれも下記式(iii)を満たす温度Tであることが好ましい。
式(iii) Tg−15℃≦延伸温度T<Tg+25℃
(式(iii)中、Tgは残留溶剤0%の時のフィルムの動的粘弾性tanδを測定した際にtanδがピークを示す温度。)
前記フィルム搬送方向への延伸において、前記延伸温度Tは、Tg−5℃〜Tg+15℃であることが好ましい。
【0150】
(2)TD延伸
前記フィルム搬送方向に直交する方向への延伸における延伸倍率は、15〜60%であることが好ましく、20〜50%であることがより好ましい。
【0151】
ウェブをフィルム搬送方向に直交する方向に延伸する方法には特に限定はない。例えば、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を横方向に広げて横方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。また、いわゆるテンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸が行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。本発明においては、フィルム搬送方向に直交する方向に延伸する方法として、テンター装置を用いて延伸することが好ましい。
【0152】
また、このとき前記H2は5%以下であることが好ましく、1%未満であることがより好ましい。
ウェブ中の残留揮発分が多すぎると延伸の効果が得られない。
【0153】
本発明の製造方法では、前記フィルム搬送方向に直交する方向への延伸において、前記延伸温度Tの好ましい範囲は、前記フィルム搬送方向への延伸における延伸温度の好ましい範囲と同様である。
【0154】
(3)二軸延伸の態様
本発明の製造方法は、前記フィルム搬送方向への延伸と、前記フィルム搬送方向に直交する方向への延伸を逐次行っても、同時に行ってもよい。その中でも、本発明の製造方法では、前記フィルム搬送方向への延伸と、前記フィルム搬送方向に直交する方向への延伸を逐次行うことが、Rth/dを向上させる観点から好ましい。
また、前記フィルム搬送方向への延伸と、前記フィルム搬送方向に直交する方向への延伸を逐次で行う場合の順番については特に制限はないが、本発明の製造方法では、前記フィルム搬送方向への延伸を先に行った後で、前記フィルム搬送方向に直交する方向への延伸を行うことが、所望のReに到達させるときによりTD延伸倍率を高めることができ、結果としてRth/dを向上できる観点から好ましい。
また、一般的に光学フィルムの軸バラツキはTD方向に延伸倍率を高めることで改良されることが特開2006−030962号公報などに記載されているが、二軸延伸のその他のメリットとして、所望のReに到達させる時に一軸延伸に比べTD延伸倍率を高めることができる二軸延伸は、得られるフィルムの軸バラツキを改善できる観点からも有利である。
また、フィルム幅方向に延伸する場合、幅手で屈折率に分布が生じる場合がある。これは、例えばテンター法を用いた場合にみられることがあるが、幅方向に延伸したことで、フィルム中央部に収縮力が発生し、端部は固定されていることにより生じる現象で、いわゆるボ−イング現象と呼ばれるものと考えられる。この場合でも、流延方向に延伸することで、ボ−イング現象を抑制でき、幅手の位相差の分布を少なく改善できるのである。さらに、互いに直交する2軸方向に延伸することにより得られるフィルムの膜厚変動が減少できる。
【0155】
(巻き取り)
得られたフィルムを巻き取る巻き取り機には、一般的に使用されている巻き取り機が使用でき、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロ−ル法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。以上の様にして得られたセルロースアシレートフィルムロールは、フィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲であることが好ましい。または、巻き取り方向に対して直角方向(フィルムの幅方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲にあることが好ましい。特にフィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±0.1度以内であることが好ましい。あるいはフィルムの幅手方向に対して±0.1度以内であることが好ましい。
【0156】
(製膜後の残留揮発分)
以上の本発明のフィルムの製造方法によって得られたセルロースアシレートフィルムは、最終仕上がりフィルムの残留揮発分で1質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましい。
【0157】
[セルロースアシレートフィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は、総アシル置換度2.1〜2.8のセルロースアシレートと、重縮合エステルおよび糖エステル化合物のうち少なくとも一方を含み、内部ヘイズが0.1%以下であり、搬送方向の弾性率および搬送方向に直交方向の弾性率のうち値の小さい方向の弾性率が4000MPa以上であり、搬送方向の湿度寸法変化率および搬送方向に直交方向の湿度寸法変化率のうち値の大きい方向の湿度寸法変化率y(単位:%)と25℃、相対湿度80%における含水率x(単位:%)とNzが下記式(1)を満たし、波長550nmにおける面内方向のレターデーションReの値が20nm≦Re≦100nmであり、波長550nmにおける膜厚方向のレターデーションRthの値が100nm≦Rth<140nm且つ下記式(2)を満たすか、あるいは、波長550nmにおける膜厚方向のレターデーションRthの値が140nm≦Rth且つ下記式(3)を満たすことを特徴とする。
式(1) y≦0.07x−0.03Nz+0.48
式(1') Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
(式(1)中、xは25℃、相対湿度80%における含水率(単位:%)を表し、yはフィルム搬送方向の湿度寸法変化率およびフィルム搬送方向に直交方向の湿度寸法変化率のうち値の大きい方向の湿度寸法変化率(単位:%)を表し、nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。)
式(2) 2.0×10-3≦Rth/d
式(3) 2.5×10-3<Rth/d
(式(2)および(3)中、Rthは波長550nmにおける膜厚方向のレターデーションの値(単位:nm)を表し、dはフィルム厚み(単位:nm)を表す。)
また、本発明のフィルムは、本発明のフィルムの製造方法によって、製造することができる。以下、本発明のフィルムについて、説明する。
【0158】
<フィルム特性>
(内部ヘイズ)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、内部ヘイズが0.1%以下である。
ヘイズはJIS K7136に準じて測定されたヘイズ値(%)を表す。本発明のフィルムの内部ヘイズは、得られたセルロースアシレートフィルムの両面にグリセリン数滴を滴下し、厚さ1.3mmのガラス板(MICRO SLIDE GLASS品番S9213、MATSUNAMI製)2枚で両側から挟んだ状態で測定したヘイズ値(%)から、ガラス2枚の間にグリセリンを数滴滴下した状態で測定したヘイズを引いた値(%)を表す。
本発明のセルロースアシレートフィルムの内部ヘイズは、0.05%以下であることが好ましく、0.04%以下であることがより好ましい。
ヘイズは、低い方が一般的には好ましいとされているが、単に全へイズが低いだけでは、正面コントラスト改善には不十分であった。本発明のセルロースアシレートフィルムは内部へイズが上記範囲に調整されていることで、液晶表示装置の正面コントラストの改善をすることができる。
【0159】
(レターデーション)
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、550nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。測定波長λnmの選択にあたっては、波長選択フィルターをマニュアルで交換するか、または測定値をプログラム等で変換して測定することができる。
測定されるフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A)及び式(A')よりRthを算出することもできる。
【0160】
式(A)
【数1】

上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値をあらわす。
式(A)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。dは膜厚である。
式(A')
Rth={(nx+ny)/2−nz}xd
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzより下記式(1')で表されるNzが更に算出される。
式(1') Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
【0161】
本発明のフィルムは、20nm≦Re≦100nmであり、35nm≦Re≦70nmであることが好ましく、40nm≦Re≦60nmであることがより好ましい。
【0162】
本発明のフィルムは、VAモードの液晶表示装置において1枚のみでVAモードの液晶セルの光学補償ができるように光学特性を制御されていてもよく、VAモードの液晶セルのフロント側とリア側にそれぞれ1枚ずつ配置して合計2枚用いることでVAモードの液晶セルの光学補償ができるように光学特性を制御されていてもよい。ここで、本明細書中、1枚のみでVAモードの液晶セルの光学補償ができるように光学特性を制御されているセルロースアシレートフィルムのことを1枚型用の光学フィルムと言う。また、合計2枚用いることでVAモードの液晶セルの光学補償ができるように光学特性を制御されているセルロースアシレートフィルムのことを2枚型用の光学フィルムと言う。
本発明のフィルムを2枚型用の光学フィルムとして用いる場合、本発明のフィルムは100nm≦Rth<140nm且つ下記式(2)を満たすことを特徴とする。2枚型用の光学フィルムとして用いる場合、好ましいRthの範囲は105nm〜135nmであり、より好ましくは110nm〜130nmである。
本発明のフィルムを1枚型用の光学フィルムとして用いる場合、本発明のフィルムは140nm≦Rth且つ下記式(3)を満たすことを特徴とする。1枚型用の光学フィルムとして用いる場合、好ましいRthの範囲は140nm〜300nmであり、より好ましくは160nm〜280nmである。
このようなRthとすることにより、本発明のフィルムを2枚型用の光学フィルムとして用いる場合も、1枚型用の光学フィルムとして用いる場合も、よりカラーシフトの少ないVA用位相差フィルムを作製できる。
【0163】
(Rth/d)
本発明のフィルムは、膜厚当たりのRth、すなわちRth/dが高いことを特徴とする。本発明のフィルムはRth/dが高いことで、フィルムの薄膜化および十分なRth発現の両立ができ、かつフィルムの原料コストを下げることができる。
本発明のフィルムにおける前記Rth/dの範囲は、VAセルに対し光学補償フィルムとして本発明のフィルムを1枚使用する場合と2枚使用する場合で異なる。具体的には、本発明のフィルムをVAセルの両側に1枚ずつ使用する2枚型の光学フィルムとして用いる場合は(この場合は100nm≦Rth<140nmにRth自体を発現させることが好ましい)、Rth/d≧2.0×10-3であり、2.1×10-3<Rth/d<3.0×10-3であることが好ましく、2.3×10-3<Rth/d<3.0×10-3であることがより好ましい。
一方、本発明のフィルムをVAセルの一方の側のみに1枚使用する1枚型の光学フィルムとして用いる場合は(この場合は一般的には140≦RthにRth自体を発現させることが好ましい)ではRth/d>2.5×10-3であり、2.7×10-3<Rth/dであることが好ましく、2.9×10-3<Rth/dであることがより好ましい。
【0164】
(膜厚)
本発明のフィルムの厚さは、用いる偏光板の種類等によって適宜定めることができる。好ましくは30〜80μmであり、より好ましくは35〜75μmであり、特に好ましくは40〜70μmである。フィルムの厚さを80μm以下とすることにより、フィルムの製造コストを下げることができ好ましい。
【0165】
(セルロースアシレートフィルムの層構造)
本発明のフィルムは単層フィルムであっても、2層以上の積層構造を有していてもよい。この場合、フィルムを製造するときに支持体に接していた側の外層のことをバンド層とも言い、反対側の外層のことをエア層とも言う。
2層以上の積層構造を有している場合、前記コア層に含まれるセルロースアシレートの全アシル置換度が2.1〜2.6であることが好ましく、2.3〜2.6であることがより好ましく、2.4〜2.6であることが特に好ましい。一方、前記外層に含まれるセルロースアシレートの全アシル置換度が2.4〜3.0であることが好ましく、2.4〜2.6または2.7〜3.0であることがより好ましく、2.4〜2.6または2.8〜3.0であることが特に好ましい。
【0166】
(フィルム幅)
本発明のフィルムは、フィルム幅が1000mm以上であることが好ましく、1500mm以上であることがより好ましく、1800mm以上であることが特に好ましい。
【0167】
(フィルム長手方向の遅相軸方位の標準偏差σ600およびσ−600)
本発明のフィルムは、フィルム幅方向端部における遅相軸方位のバラツキ標準偏差(σ)が0.10以下であることが好ましい。フィルム幅方向端部とは、フィルム幅方向中央部から、フィルム幅方向端部方向に600mm〜1000mm離れた場所であり、かつ、フィルム幅方向端部から100mm以上離れた任意の場所のことを言い、フィルム幅に応じて異なる。
【0168】
本発明のフィルムは、フィルム幅が1340mm以上であり、下記式(4)および(5)を満たすことが、広幅の液晶表示装置に用いたときに十分に本発明の効果を奏する観点から好ましく、下記式(4')および(5')を満たすことがより好ましい。
式(4) σ600≦0.10°
式(5) σ−600≦0.10°
(式(4)および式(5)中、σ600はフィルム幅方向の中央線から一方のフィルム端部方向に600mm離れた線上においてフィルム長手方向の遅相軸方位を検出した際の遅相軸方位の標準偏差を表し、σ−600はフィルム幅方向の中央線からもう一方のフィルム端部方向に600mm離れた線上においてフィルム長手方向の遅相軸方位を検出した際の遅相軸方位の標準偏差を表す。)
式(4') σ600≦0.08°
式(5') σ−600≦0.08°
【0169】
ここで、前記σ600およびσ−600はフィルム長手方向に2000mにわたって測定したときに式(4)および(5)を満たすことが好ましく、フィルム長手方向に4000mにわたって測定したときに式(4)および(5)を満たすことがより好ましい。
【0170】
フィルム長手方向の遅相軸方位の標準偏差σ600およびσ−600は、オフラインで測定しても、インラインで測定してもよいが、インラインで測定することが裁断時のフィルム長手方向との平衡ズレが解消される観点から好ましい。
また、フィルムが上下にばたつく条件で長手方向のインライン測定を実施すると実際以上に各遅相軸バラツキが大きく検出されてしまうため、フィルムの上下のばたつきを2mm以下に抑えられた条件で測定することが好ましい。このようなフィルムの上下のばたつきを抑える方法としては、例えば、平行に渡されたパスロール上で本発明のフィルムを搬送しながら測定する方法を挙げることができ、0.5mm以内に平行出しされたパスロールを用いることが好ましい。
フィルム長手方向の遅相軸方位の標準偏差σ600およびσ−600をインラインで測定する場合、その搬送速度や検出時間間隔については特に制限はなく、任意の方法で測定することができる。本発明では、20m/分で搬送したときに、0.1秒間隔で、0.033m毎に、2000m測定を続けたデータを用いて、各標準偏差を計算した。
また、フィルム長手方向の遅相軸方位の標準偏差σ600およびσ−600のその他の測定条件については以下のように設定し、以下の方法で検出および計算を行った。
装置:高速リタデーション測定装置 Re100 大塚電子(株)製
測定長さ:2000m
測定ピッチ:20m/min搬送時に、0.1秒毎の連続測定
ほぼ60000点データに対して、
【数2】

により算出(ここで、xiは、各遅相軸角度バラツキであり、nは60000である)。
分散σを次式
【0171】
【数3】

で計算した。
【0172】
(フィルム弾性率)
本発明のフィルムは、フィルム搬送方向の弾性率およびフィルム搬送方向に直交方向の弾性率のうち値の小さい方向の弾性率が4000MPa以上であり、4000〜6000MPaであることが好ましく、4200〜5500MPaであることがより好ましく、4500〜5200MPaであることが特に好ましい。
前記フィルム搬送方向の弾性率E'(MD)が、4000〜6000MPaであることが好ましく、4200〜5500MPaであることがより好ましく、4500〜5200MPaであることが特に好ましい。
一方、前記フィルム搬送方向に直交方向の弾性率E'(TD)は、4000〜6000MPaであることが好ましく、4500〜6000MPaであることがより好ましく、5000〜6000MPaであることが特に好ましく、最も好ましくは5500〜6000MPaである。フィルムの弾性率を上げることで、フィルムが薄くなってもハンドリングしやすくなる。
【0173】
(湿度寸法変化率)
本発明のフィルムは、フィルム搬送方向の湿度寸法変化率およびフィルム搬送方向に直交方向の湿度寸法変化率のうち値の大きい方向の湿度寸法変化率y(単位:%)と25℃、相対湿度80%における含水率x(単位:%)とNzが前記式(1)を満たす。
式(1) y≦0.07x−0.03Nz+0.48
式(1') Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
(式(1)中、xは25℃、相対湿度80%における含水率(単位:%)を表し、yはフィルム搬送方向の湿度寸法変化率およびフィルム搬送方向に直交方向の湿度寸法変化率のうち値の大きい方向の湿度寸法変化率(単位:%)を表し、nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。)
本発明においては湿度変化による表示ムラを左右する要因として、フィルムの含水率と延伸倍率が関係する可能性があるとの仮説に基づきデータの相関関係を検討すると、一定の関係を見出すに至った。延伸倍率は、フィルムの光学特性としてのNzファクターに置き換えて考えることが可能であり、その結果、式(1)の関係を導くことができた。
【0174】
本発明のフィルムは、フィルム搬送方向とフィルム搬送方向に直交する湿度寸法変化率のうち大きい方向の値が0.65以下の値となることが好ましく、より好ましくは0.60以下であり、更に好ましくは0.55以下である。フィルムの弾性率を上げ、湿度寸法変化を小さくすることで、偏光板加工して液晶パネルに組み込んだ時に湿度変化による表示ムラが発生しにくい。
【0175】
本発明における湿度寸法変化率を測定する際には、フィルムロールの巻き方向を長手方向として切り出した長さ12cm(測定方向)、幅3cmの試料を用意し、該試料に10cmの間隔でピン孔を空け、25℃、相対湿度10%にて6時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長する(測定値をL0とする)。次いで、試料を25℃、相対湿度80%にて6時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長する(測定値をL1とする)。これらの測定値を用いて下記式により湿度寸法変化率(MD)を算出する。
湿度寸法変化率(MD)=(L1−L0)*100/L0
切り出し方向を長手方向と直交する方向とした以外は上記と同様に測定した値を、湿度寸法変化率(TD)とした。
【0176】
<偏光板>
本発明の偏光板は、偏光子と、本発明のセルロースアシレートフィルムを含むことを特徴とする。
本発明のフィルムは、フィルム光学特性が良好であり、フィルム弾性率も良好であるため、偏光板用保護フィルムに好ましく用いられる。また、本発明のフィルムは面状が良好であり、フィルム面状を偏光板クロスニコル下にて観察した際にむらが少ないため、偏光板用保護フィルムに好適である。偏光板は、偏光子の少なくとも一方の面に保護フィルムを貼り合わせ積層することによって形成される。偏光子は従来から公知のものを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコールフィルムの如き親水性ポリマーフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して延伸したものである。セルロースアシレートフィルムと偏光子との貼り合わせは、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行うことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコ−ル水溶液が好ましく用いられる。
また、本発明のフィルムを用いた偏光板は遅相軸分布にバラツキが少なく、良好な表示性能の液晶表示装置を提供することができる。さらに、本発明のフィルムが広幅の好ましい態様である場合、本発明のフィルムを用いて偏光子と貼り合わせて偏光板を製造するときに、フィルム幅方向においていわゆる偏光板の2丁取り、3丁取りを行なうことが可能となり、偏光板の製造コストを低減することができる。また、フィルム幅方向のσ600、σ−600も良好である態様である場合、さらに2丁取り、3丁取りを行なった偏光板の性能も改善することができる。
【0177】
<液晶表示装置>
本発明の液晶表示装置は、本発明のセルロースアシレートフィルムまたは本発明の偏光板を含むことを特徴とする。
本発明のフィルムは、偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルム/液晶セル/本発明のフィルム/偏光子/偏光板用保護フィルムの構成、もしくは偏光板用保護フィルム/偏光子/本発明のフィルム/液晶セル/本発明の偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルムの構成で好ましく用いることができる。特に、TN型、VA型、OCB型などの液晶セルに貼り合わせて用いることによって、視野角に優れ、着色が少ない視認性に優れ、かつ、面内均一性にも優れた液晶表示装置を提供することができる。その中でも、本発明のフィルムはVA型の液晶セルに貼り合わせて用いることがより好ましい。
【実施例】
【0178】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0179】
[実施例1:セルロースアシレートフィルムの製膜]
【0180】
A:未延伸フィルム1〜8の製膜
(1)ドープ調製
<1−1> セルロースアシレート溶液
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、さらに90℃で約10分間加熱した後、平均孔径34μmのろ紙および平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアシレート溶液
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
表10に記載のセルロースアシレート 100.0質量部
ジクロロメタン 403.0質量部
メタノール 60.2質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0181】
<1−2> マット剤分散液
次に上記方法で作成したセルロースアシレート溶液を含む下記組成物を分散機に投入し、マット剤分散液を調製した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
マット剤分散液
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
平均粒子径16nmのシリカ粒子
(aerosil R972 日本アエロジル(株)製) 2.0質量部
ジクロロメタン 72.4質量部
メタノール 10.8質量部
セルロースアシレート溶液 10.3質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0182】
<1−3> 添加剤溶液
上記方法で作成したセルロースアシレート溶液をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して溶解し、下記表10に記載の各添加剤を添加して、添加剤溶液を調製した。また、各添加剤について以下説明する。添加剤A〜Dは下記表9に示した組成である。なお、表9中、EGはエチレングリコールを、PGはプロピレングリコールを、TPAはテレフタル酸を、PAはフタル酸を、AAはアジピン酸を、SAはコハク酸をそれぞれ示している。
【0183】
【表9】

【0184】
添加剤Eは下記の構造の糖エステル化合物を表す。
添加剤E
【化18】

式中、Acはアセチル基を表す。
【0185】
添加剤Fは下記の構造の糖エステル化合物を表す。
添加剤F
【化19】

式中、Rは2つのアセチル基と6つのイソブチリル基を表す。
【0186】
添加剤Gは下記の構造のレターデーション発現剤を表す。
【0187】
添加剤G
【化20】

【0188】
添加剤Hは下記の構造のレターデーション発現剤を表す。
【0189】
添加剤H
【化21】

【0190】
添加剤Iは下記の一般式において、(R11=m−Me、R12=m−Me):(R11=m−Me、R12=H):(R11=H、R12=m−Me):(R11=H、R12=H)=1:1:1:1(モル比。但し、m−Meは、メタ位メチル基を表す。)の四種類の化合物の混合物であるレターデーション発現剤を表す。
【0191】
添加剤I
【化22】

【0192】
添加剤Jは、剥離剤である理研ビタミン株式会社製ポエムK−37Vを表す。
添加剤Tは、TPP/BDP(2/1、質量比)を表す。
【0193】
上記セルロースアシレート溶液を100質量部、マット剤分散液を1.35質量部および前記添加剤溶液を混合し、製膜用ドープを調製した。
なお、ドープの原料として用いたセルロースアシレートおよび各種添加剤は、あらかじめ(株)奈良機械製作所製のサイロを用いて120℃にて2時間乾燥を行ったものを用いた。
ここで、下記表10中、アルファベットは各添加剤の種類を表し、数値は添加量を表す。また、前記添加剤溶液の添加割合は、セルロースアシレート量に対する各添加剤の添加量(質量%)が下記表10に記載の値となる割合である。
【0194】
(2)流延
上述のドープを金属製のバンド流延機で支持体側から外層(バンド層)用ドープ/コア層用ドープ/外層(エア層)用ドープの順に3層共流延を行い、乾燥させた後、剥ぎ取りドラムによりフィルムをバンドから剥ぎ取った。得られたフィルムを未延伸フィルム1とした。
また、セルロースアシレート樹脂および添加剤を下記表10に記載のように変更した以外は未延伸フィルム1と同様にして、未延伸フィルム2〜8を製膜した。
得られた未延伸フィルム1〜8の構成を下記表10に記載した。
【0195】
【表10】

【0196】
B:延伸フィルムの製膜
上記にて製造した未延伸フィルム1を用いて、下記表11に記載の残留揮発分H1のときに、下記表11に記載のMD延伸倍率で、下記表10に記載の温度でフィルム搬送方向に固定端一軸延伸にてテンターゾーンで延伸した。なお、用いた未延伸フィルムのガラス転移温度Tgを下記表11に記載した。
次に、残留揮発分H2のときに、下記表10に記載のTD延伸倍率で、MD延伸と同じ温度でフィルム幅方向に固定端一軸延伸にてテンターゾーンで延伸し、セルロースアシレートフィルムを製造した。このとき、延伸および乾燥後の膜厚が下記表11に記載の膜厚になるように、流延膜厚を調整した。
下記表11に示した組成のフィルムを作製し、その製造適性を判断する目的で、ロール幅1980m、ロール長2000mのロールを上記条件で最低24ロール作製した。連続で製造した24ロールの中の1ロールについて100m間隔で長手1mのサンプル(幅1980mm)を切り出した。これを実施例1のセルロースアシレートフィルムとした。なお、実施例1のようにMD延伸とTD延伸を逐次に行う延伸パターンを「MD、TD逐次二軸延伸」として、下記表11の延伸パターン欄に記載した。
【0197】
[実施例2〜11および比較例1〜11]
下記表11に記載のように、用いた未延伸フィルムと延伸条件を変更した以外は実施例1と同様にして、各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルムを得た。なお、比較例1、6および7は、TD延伸のみを行ったものであり、下記表11の延伸パターン欄に「TD一軸延伸」として記載した。また、実施例7はMD延伸とTD延伸を同時に行ったものであり、下記表11の延伸パターン欄に「同時二軸延伸」と記載した。
【0198】
<測定方法>
(フィルム光学特性)
面内のレターデーションReを前述の方法により25℃、相対湿度60%の環境下24時間放置したフィルムにおいて、自動複屈折計KOBRA−WR(王子計測器(株)製)を用いて波長550nmで3次元複屈折測定を行って求め、膜厚方向のレターデーションRthは傾斜角を変えてReを測定することで求めた。
さらに、得られたRth(単位:nm)の値を各フィルムの膜厚d(単位:nm)で割り、フィルム膜厚当たりのRth、Rth/dを求めた。
それらの結果を下記表11に記載した。
【0199】
(内部ヘイズ)
本発明のフィルムの内部ヘイズは、得られたセルロースアシレートフィルムの両面にグリセリン数滴を滴下し、厚さ1.3mmのガラス板(MICRO SLIDE GLASS品番S9213、MATSUNAMI製)2枚で両側から挟んだ状態で測定したヘイズ値(%)から、ガラス2枚の間にグリセリンを数滴滴下した状態で測定したヘイズを引いた値(%)を表す。セルロースアシレートフィルムのヘイズは、JIS K7136に準じて測定されたヘイズ値(%)を表し、濁度計(NDH2000、日本電色工業(株))を用いて、25℃、相対湿度60%の環境下24時間放置したフィルムにおいて、同環境下で測定した。
得られた結果を下記表11に記載した。
【0200】
(フィルム長手方向端部の遅相軸バラツキ標準偏差(σ600、σ−600))
フィルム長手方向端部の遅相軸バラツキ標準偏差σ600、σ−600は、以下の方法で測定した。
0.5mm以内に平行出しされたパスロール間においてフィルムの鉛直上下方向のバタツキを2mm以下になるように制御しながら、20m/分でサンプルフィルムを搬送した。フィルム幅方向の中央線から一方、およびもう一方のフィルム端部方向に600mm離れた線上において、33mmごと(0.1秒間隔で測定)にフィルム搬送方向(長手方向)に2000mにわたって60000点でそれぞれ遅相軸方位を測定した。それらの平均値を求め、遅相軸バラツキの標準偏差σ600およびσ−600を計算により求めた。
なお、フィルム長手方向の遅相軸方位の標準偏差σ600およびσ−600のその他の測定条件については以下のように設定し、以下の方法で検出および計算を行った。
装置:高速リタデーション測定装置 Re100 大塚電子(株)製
測定長さ:2000m
測定ピッチ:20m/min搬送時に、0.1s毎の連続測定
ほぼ60000点データに対して、
【数4】

により算出(ここで、xiは、各遅相軸角度バラツキであり、nは60000である)。
分散σを次式
【数5】

で計算した。
得られた結果を以下の基準で評価した。
◎: σ600もしくはσ−600が0.08以下。
○: σ600もしくはσ−600が0.10以下。
△: σ600もしくはσ−600が0.13以下。
▲: σ600もしくはσ−600が0.15以下。
×: σ600もしくはσ−600が0.15よりも大きい。
得られた結果を下記表11に示した。
【0201】
(フィルム弾性率)
試料10mm×150mm(TD×MD)を、25℃、相対湿度60%、2時間調湿し、東洋ボールドウィン製万能引張試験機STM T50BPを用い、25℃で相対湿度60%の雰囲気中、初期試料長50mm、10%/分でのMD方向への延伸処理により応力歪み曲線を測定してMD方向のフィルム弾性率E'(MD)(単位:MPa)を求めた。
同様に、試料150mm×10mm(TD×MD)を用いて、TD方向へ同様の条件で延伸処理を行いTD方向のフィルム弾性率E'(TD)(単位:MPa)を求めた。
得られた結果を下記表12に示した。
【0202】
(フィルム含水率)
フィルム試料7mm×35mmを25℃、相対湿度80%にて2時間調湿後、水分測定器、試料乾燥装置"CA−03"及び"VA−05"{共に三菱化学(株)製}にてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料質量(g)で除して算出した。
得られた結果を下記表12に示した。
【0203】
(湿度寸法変化率)
フィルムロールの巻き方向を長手方向として切り出した長さ12cm(測定方向)、幅3cmの試料を用意し、該試料に10cmの間隔でピン孔を空け、25℃、相対湿度10%にて6時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長する(測定値をL0とする)。次いで、試料を25℃、相対湿度80%にて6時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長する(測定値をL1とする)。これらの測定値を用いて下記式により湿度寸法変化率を算出する。
湿度寸法変化率(MD)=(L1−L0)*100/L0
切り出し方向を長手方向と直交する方向とした以外は上記と同様に測定した値を、湿度寸法変化率(TD)とした。
得られた結果を下記表12に示した。
【0204】
【表11】

【0205】
【表12】

【0206】
表11および表12より、本発明のセルロースアシレートフィルムはいずれもReおよびRthの発現が良好であり、膜厚当たりのRth値が高く、内部ヘイズも0.1%以下であることがわかった。なお、実施例1〜3、7および8は2枚型用の光学フィルムに適するようにRthを100nm≦Rth<140nmに制御したものであり、2枚型で求められる膜厚当たりのRth値2.0以上(すなわち前記式(2))を満足するものであった。また、実施例4〜6および9は1枚型用の光学フィルムに適するようにRthを140nm以上に制御したものであり、1枚型で求められる膜厚当たりのRth値2.5を超えること(すなわち前記式(3))を満足するものであった。
一方、比較例1はMD延伸を行わずにTg−15℃未満の温度でTD延伸したものであり、得られたフィルムは内部ヘイズが高かった。比較例2はTg−15℃未満の温度でMD延伸およびTD延伸したものであり、所望のReおよびRthを発現させる前に破断が生じた。比較例3はTD延伸倍率を100%超としたものであり、所望のReおよびRthを発現させる前に破断が生じた。比較例4はMD延伸倍率を30%超としたものであり、所望のReおよびRthを発現させる前に破断が生じた。比較例5は延伸温度をTg+25℃超の温度で延伸したものであり、膜厚当たりのRth値が小さかった。比較例6は、用いた未延伸フィルムの種類を変更した以外は比較例1に類似する延伸条件で延伸したものであり、比較例1と同様に得られたフィルムは内部ヘイズが高かった。比較例7は、比較例6において本発明で規定する延伸温度の範囲でTD延伸を行った態様であり、MD延伸を行わない場合は1枚型で求められる膜厚当たりのRth値2.5よりも低かった。比較例8〜10は、セルロースアシレートへの添加剤として、重縮合エステルおよび糖エステル化合物以外の添加剤であるTPP/BPPを用いたものであり、いずれも得られたフィルムの内部ヘイズが高かった。比較例11は、延伸時の揮発分が10%を超える状態で延伸したものであり、得られたフィルムは膜厚あたりのRth値が小さく内部ヘイズが高いフィルムであった。
【0207】
(パネル性能)
〔偏光板の製造〕
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光子を作製した。
鹸化処理した実施例1のセルロースアシレートフィルムを、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の片側に貼り付けた。市販のセルローストリアセテートフィルム(フジタックTD80UF、富士フイルム(株)製)に同様の鹸化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、作成した実施例1のセルロースアシレートフィルムを貼り付けてある側とは反対側の偏光子の面に鹸化処理後のセルローストリアセテートフィルムを貼り付けた。
この際、偏光子の透過軸と作成した実施例1のセルロースアシレートフィルムの遅相軸とは平行になるように配置した。また、偏光子の透過軸と市販のセルローストリアセテートフィルムの遅相軸とは、直交するように配置した。
このようにして実施例1の偏光板を作製した。
また、実施例1のセルロースアシレートフィルムのかわりにその他の実施例および各比較例のセルロースアシレートフィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、その他の実施例および各比較例の偏光板を製造した。なお、セルロースアシレートフィルムが破断した比較例2〜4については、偏光板の作製を行わなかった。また、セルロースアシレートフィルムが白化した比較例8、9および11についても、後述する液晶表示装置の正面コントラスト評価ができないため、偏光板の作製を行わなかった。
【0208】
〔液晶表示装置の製造〕
得られた偏光板に対して、下記パネルへの貼り合わせを実施した。
評価はシャープ社LC−32DE5の液晶表示ディスプレイからフロント側およびリア側の偏光板を取り除いたもの(以下、パネルとも言う)に対し、上記実施例1の偏光板を液晶パネルのフロント側およびリア側に配置して、実施例1の液晶表示装置を製造した。また、上記その他の実施例および各比較例の偏光板を液晶パネルのフロント側およびリア側に配置して、その他の実施例および各比較例の液晶表示装置を製造した。
【0209】
測定器(BM5A、TOPCON社製)を用いて、暗室において、装置正面からの極角0度方向、及び方位角0度方向における黒表示および白表示の輝度値を測定し、コントラスト(白輝度/黒輝度)を算出することで、液晶表示装置の正面コントラストを測定した。
その結果をあわせて上記表11に記載した。
上記表11より、各実施例の液晶表示装置は、各比較例の液晶表示装置よりも、正面コントラストが高いことがわかった。
【0210】
(湿度変化によるムラの視認性)
50℃、相対湿度10%にて12時間調湿後、50℃、相対湿度80%にて12時間調湿するというサイクルを繰り返し、暗室において目視評価をしたときに得られた結果を以下の基準で評価した。
◎: 10サイクル繰り返してもムラが視認されない。
○: 10サイクル繰り返した後、ムラがわずかに視認できる。
△: 10サイクル繰り返した後、ムラが視認できる。
×: 5サイクル繰り返した後、ムラが視認できる。
得られた結果を上記表12に記載した。
上記表12より、各実施例の液晶表示装置は各比較例の液晶表示装置よりも、湿度変化によるムラが発生しづらくなっていたことがわかった。すなわち、本発明のセルロースアシレートフィルムは、偏光板として液晶パネルに組み込んだ時に湿度変化による表示ムラが発生しにくいことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
総アシル置換度2.1〜2.8のセルロースアシレートと、重縮合エステルおよび糖エステル化合物のうち少なくとも一方を含むドープを支持体上に溶液流延してフィルムを得る工程と、
前記フィルムを、下記式(i)を満たす残留揮発分H1の状態でフィルム搬送方向に1〜30%延伸する工程と、
前記フィルムを、下記式(ii)を満たす残留揮発分H2の状態でフィルム搬送方向に直交する方向に1〜100%延伸する工程とを含み、
前記フィルム搬送方向または前記フィルム搬送方向に直交する方向への延伸を下記式(iii)を満たす温度Tで行うことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(i) H1≦10%
式(ii) H2≦10%
式(iii) Tg−15℃≦延伸温度T<Tg+25℃
(式(iii)中、Tgは残留溶剤0%の時のフィルムの動的粘弾性tanδを測定した際にtanδがピークを示す温度。)
【請求項2】
前記ドープが円盤状レターデーション発現剤を含むことを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ドープが下記一般式(1)で表される有機酸を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
一般式(1)
X−L−(R1n
(一般式(1)中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸性基を含む置換基を表し、Lは単結合または2価以上の連結基を表し、R1は炭素数6〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアルキニル基、炭素数6〜30のアリール基または炭素数6〜30の複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。nはLが単結合の場合は1であり、Lが2価以上の連結基の場合は(Lの価数−1)である。)
【請求項4】
前記一般式(1)におけるR1が、炭素数6〜24のアルキル基、炭素数6〜24のアルケニル基または炭素数6〜24のアルキニル基を表す(但し、さらに置換基を有していてもよい)ことを特徴とする請求項3に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記一般式(1)におけるXが、少なくとも一つのカルボキシル基、スルフォン酸基、スルフィン酸基、リン酸基、スルフォンイミド基およびアスコルビン酸基からなる群より選択される少なくとも一つの基を有することを特徴とする請求項3または4に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記一般式(1)におけるLが単結合、あるいは、下記ユニット群から選択される2価以上の連結基または下記ユニット群から選択される2以上のユニットを組み合わせて得られる連結基であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
ユニット:−O−、−CO−、−N(R2)−(前記R2は炭素数1〜5のアルキル基を表す)、−OH、−CH=CH−、−CH(OH)−、−CH2−、−SO2−、
【化1】

【請求項7】
前記一般式(1)で表される有機酸が、多価アルコール1分子に脂肪酸1分子と多価カルボン酸1分子が結合してなり、かつ多価カルボン酸由来の無置換のカルボキシル基を少なくとも1つ有することを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記ドープとして、セルロースアシレートの総アシル置換度が互いに異なる2種以上のドープを用い、
前記支持体上に各ドープを同時または逐次に共流延することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法で製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項10】
総アシル置換度2.1〜2.8のセルロースアシレートと、重縮合エステルおよび糖エステル化合物のうち少なくとも一方を含み、
内部ヘイズが0.1%以下であり、
フィルム搬送方向の弾性率およびフィルム搬送方向に直交方向の弾性率のうち値の小さい方向の弾性率が4000MPa以上であり、
フィルム搬送方向の湿度寸法変化率およびフィルム搬送方向に直交方向の湿度寸法変化率のうち値の大きい方向の湿度寸法変化率y(単位:%)と25℃、相対湿度80%における含水率x(単位:%)とNzが下記式(1)を満たし、
波長550nmにおける面内方向のレターデーションReの値が20nm≦Re≦100nmであり、
波長550nmにおける膜厚方向のレターデーションRthの値が100nm≦Rth<140nm且つ下記式(2)を満たすか、あるいは、
波長550nmにおける膜厚方向のレターデーションRthの値が140nm≦Rth且つ下記式(3)を満たすことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
式(1) y≦0.07x−0.03Nz+0.48
式(1') Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
(式(1)中、xは25℃、相対湿度80%における含水率(単位:%)を表し、yはフィルム搬送方向の湿度寸法変化率およびフィルム搬送方向に直交方向の湿度寸法変化率のうち値の大きい方向の湿度寸法変化率(単位:%)を表し、nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。)
式(2) 2.0×10-3≦Rth/d
式(3) 2.5×10-3<Rth/d
(式(2)および(3)中、Rthは波長550nmにおける膜厚方向のレターデーションの値(単位:nm)を表し、dはフィルム厚み(単位:nm)を表す。)
【請求項11】
端部軸バラツキの標準偏差が0.10以下である請求項9または請求項10に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項12】
前記セルロースアシレートが総アシル置換度2.1〜2.6のセルロースアシレートであることを特徴とする請求項9〜11のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項13】
前記セルロースアシレートがセルロースアセテートであることを特徴とする請求項9〜12のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項14】
2層以上の積層構造を有し、
各層に含まれるセルロースアシレートの平均の総アシル置換度が互いに異なることを特徴とする請求項9〜13のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項15】
偏光子と、請求項9〜14のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを含むことを特徴とする偏光板。
【請求項16】
請求項9〜15のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは請求項15に記載の偏光板を少なくとも1枚含むことを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2013−64974(P2013−64974A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−24136(P2012−24136)
【出願日】平成24年2月7日(2012.2.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】