説明

セルロースアシレートフィルムとその製造方法、偏光板および液晶表示装置

【課題】低いアシル基置換度のセルロースアシレートを含有し、かつ鹸化処理後に面状が良好で、偏光膜等との密着性に優れるセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(A−1)〜(A−3)で表される条件で鹸化処理されており、下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有することを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
式(A−1):25≦T≦45
式(A−2):0.5≦S≦5
式(A−3):0.5≦D≦4.5
式(B):2.0≦DS≦2.7
(式中、Tは鹸化処理温度(単位:℃)を表し、Sは鹸化処理時間(単位:分)を表し、Dは鹸化溶液のアルカリ規定度(単位:N)を表し、DSはセルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートフィルムとその製造方法、偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)は、液晶セルおよび偏光板からなる。偏光板は保護フィルム(保護膜)および偏光膜を有し、例えば、ポリビニルアルコールからなる偏光膜をヨウ素にて染色して延伸を行い、その両面に保護フィルムを貼り付けて形成される。透過型液晶表示装置では、この偏光板が液晶セルの両側に配置されており、さらには1枚以上の光学補償フィルムを配置することもある。反射型液晶表示装置では、反射板、液晶セル、1枚以上の光学補償フィルム、偏光板の順に配置する。
液晶セルは、液晶性分子、それを封入するための2枚の基板、及び液晶性分子に電圧を加えるための電極層からなる。液晶セルは、液晶性分子の配向状態の違いで、ON、OFF表示を行い、透過型および反射型のいずれの液晶表示装置にも適用できる、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、OCB(Optically Compensatory Bend)、VA(Vertically Aligned)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)のような表示モードが提案されている。
【0003】
偏光板は、一般に、偏光膜とその両側に設けられた2枚の透明保護膜とからなる。偏光膜は、一般に、ポリビニルアルコールにヨウ素または2色性染料の水溶液を含浸させ、さらにこのフィルムを一軸延伸することより得られる。保護膜にセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板は、優れた光学特性を有し、広い波長範囲で高い透過率、偏光度を示し、明るさ、コントラストに優れていることから各種画像表示用の偏光板としても多用されている。
【0004】
このような偏光板、光学補償シート等の光学的機能性を有するシート状材料は光学フィルムと呼ばれているが、光学フィルムの透明支持体として、優れた光透過性、光学的な無配向性で、優れた物理的、機械的性質を有し、且つ温湿度変化に対する寸法変化が少ない等の特性を有するセルロースアセテートフィルムに代表されるセルロースアシレートフィルムが用いられる。
【0005】
偏光板、光学補償シートは、透明支持体のセルロースアシレートフィルムに、偏光膜や光学補償層が、接着層や配向膜(通常はポリビニルアルコール)を介して設けられるが、これら接着層や配向膜との密着性を持たせるための1つの手段として、セルロースアシレートフィルムをアルカリ水溶液に浸漬処理してその表面を鹸化し親水化する方法(例えば、特許文献1および2)が知られている。
【0006】
従来、これらのような光学フィルム用のセルロースアシレートフィルムに用いられるセルロースアシレートとしては、セルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度(以下、アシル基置換度と言う)が高く、アシル基置換度が2.70を超えて3程度のトリアセチルセルロース(TAC)が用いられていた。しかしながら、近年、さらなる光学特性を改良したフィルムの開発が求められているようになってきている。このような要望に対し、アシル基置換度が2.7以下程度のジアセチルセルロース(DAC)を光学フィルム用のセルロースアシレートフィルムとして用いて新たな機能を有するフィルムを開発することが、光学特性調整方法の開発の進展により可能となってきている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されているTAC系セルロースアシレートフィルムの鹸化処理条件は、高いアシル基置換度を有するTAC系セルロースアシレートフィルムに適することが示唆されるものの、低いアシル基置換度を有するDAC系セルロースアシレートフィルムや、TAC系とDAC系の積層フィルムに対する鹸化処理への応用およびその応用時の課題については開示されていない。
また、特許文献2にはアシル基置換度が2.66〜2.7程度のある程度の低いアシル基置換度のセルロースアセテートプロピオネート(CAP)系フィルムやセルロースアセテートブチレート(CAB)系フィルムを鹸化処理した例がいくつか開示されているが、アシル基置換度が高い場合との詳細な比較はなされていない。すなわち、低いアシル基置換度を有するセルロースアシレートを含有するフィルムを鹸化処理する際の課題については、特許文献2においても特に検討されていない。
【0008】
そのため、低いアシル基置換度のセルロースアシレートを含有するフィルムに対する鹸化処理条件については十分な検討がなされていないのが実情であり、効率的かつ有効な鹸化処理条件の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−151914公報
【特許文献2】特開2006−215535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者が特許文献1および2に記載の鹸化処理方法を低いアシル基置換度のセルロースアシレートを含有するフィルムに対して適用したところ、フィルム表面の面状について改善が求められ、さらに偏光膜等との密着性についても改善が求められることがわかった。特に、フィルム表面の面状について具体的には、白化(ヘイズアップ)、収縮、ツレ、シワの問題があることがわかった。また、このようにして得られたフィルムを偏光板や液晶表示装置に組み込んだところ、湿熱環境化での位相差変動が大きいという問題もあった。
【0011】
すなわち、本発明の目的は、低いアシル基置換度のセルロースアシレートを含有し、かつ鹸化処理後に面状が良好で、偏光膜等との密着性に優れるセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、以下の構成によって上記課題が達成されることを見出した。
【0013】
[1] 下記式(A−1)〜(A−3)で表される条件で鹸化処理されており、下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有することを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
式(A−1):25≦T≦45
(式(A−1)中、Tは鹸化処理温度(単位:℃)を表す。)
式(A−2):0.5≦S≦5
(式(A−2)中、Sは鹸化処理時間(単位:分)を表す。)
式(A−3):0.5≦D≦4.5
(式(A−3)中、Dは鹸化溶液のアルカリ規定度(単位:N)を表す。)
式(B):2.0≦DS≦2.7
(式(B)中、DSはセルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度を表す。)
[2] 2以上の積層構造を有することを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[3] 少なくとも1つの層が下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有し、
該下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有する層とは別の少なくとも1つの層が下記式(C)を満たすセルロースアシレートを含有することを特徴とする[2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(B):2.0≦DS≦2.7
式(C):2.7≦DS≦3.0
(式(B)および式(C)中、DSはセルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度を表す。)
[4] 3以上の積層構造を有しており、少なくとも1つの内部層が下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有し、両面の表面層が下記式(C)を満たすセルロースアシレートを含有することを特徴とする[2]または[3]に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(B):2.0≦DS≦2.7
式(C):2.7≦DS≦3.0
(式(B)および式(C)中、DSはセルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度を表す。)
[5] 少なくとも1つの表面層の膜厚が0.5〜5μmであることを特徴とする[2]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[6] 共流延によって製膜されたことを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[7] 前記鹸化処理が、鹸化反応を進行させるアルカリ鹸化溶液による鹸化工程と、鹸化反応を減速または停止させる工程とを含むことを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[8] 前記鹸化反応を減速または停止させる工程が、希釈工程または中和工程であることを特徴とする[7]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[9] 少なくとも片側の表面をX線光電子分光法で測定したときの炭素(C1s)スペクトルにおいて、288eV近傍の極大ピークに対する290eVのピークの比が0.50以下であることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[10] 少なくとも片側の表面の水の接触角が50°未満であることを特徴とする[1]〜[9]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[11] ヘイズが1.0%以下であることを特徴とする[1]〜[10]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[12] 波長590nmにおける正面レターデーション値Re(590)および波長590nmにおける膜厚方向のレターデーション値Rth(590)が、下記式(I)および(II)を満たすことを特徴とする[1]〜[11]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(I):30nm≦Re(590)≦70nm
式(II):80nm≦Rth(590)≦250nm
[13] 下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有することを特徴とするセルロースアシレートフィルムを、下記式(A−1)〜(A−3)を満たす条件で鹸化処理することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(A−1):25≦T≦45
(式(A−1)中、Tは鹸化処理温度(単位:℃)を表す。)
式(A−2):0.5≦S≦5
(式(A−2)中、Sは鹸化処理時間(単位:分)を表す。)
式(A−3):0.5≦D≦4.5
(式(A−3)中、Dは鹸化溶液のアルカリ規定度(単位:N)を表す。)
式(B):2.0≦DS≦2.7
(式(B)中、DSはセルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度を表す。)
[14] 前記鹸化処理前のセルロースアシレートフィルムが2以上の積層構造を有することを特徴とする[13]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[15] 前記鹸化処理前のセルロースアシレートフィルムの少なくとも1つの層が下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有し、該下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有する層とは別の少なくとも1つの層が下記式(C)を満たすセルロースアシレートを含有することを特徴とする[14]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(B):2.0≦DS≦2.7
式(C):2.7≦DS≦3.0
(式(B)および式(C)中、DSはセルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度を表す。)
[16] 前記鹸化処理前のセルロースアシレートフィルムが3以上の積層構造を有しており、少なくとも1つの内部層が下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有し、両面の表面層が下記式(C)を満たすセルロースアシレートを含有することを特徴とする[14]または[15]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(B):2.0≦DS≦2.7
式(C):2.7≦DS≦3.0
(式(B)および式(C)中、DSはセルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度を表す。)
[17] 前記鹸化処理前のセルロースアシレートフィルムの少なくとも1つの表面層の膜厚が0.5〜5μmであることを特徴とする[14]〜[16]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[18] 前記鹸化処理前のセルロースアシレートフィルムが共流延によって製膜されたことを特徴とする[13]〜[17]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[19] 前記鹸化処理が、鹸化反応を進行させるアルカリ鹸化溶液による鹸化工程と、鹸化反応を減速または停止させる工程とを含むことを特徴とする[13]〜[18]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[20] 前記鹸化反応を減速または停止させる工程が、希釈工程または中和工程であることを特徴とする[19]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[21] [13]〜[20]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法で製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
[22] 偏光子の両側に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板において、該保護フィルムの少なくとも1枚が[1]〜[12]および[21]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムであることを特徴とする偏光板。
[23] [22]に記載の偏光板を有する液晶表示装置。
[24] VAモードである、[23]に記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、低いアシル基置換度のセルロースアシレートを含有するものの、鹸化処理後に白化、収縮、ツレ、シワが生じておらず、良好な面状である。また、偏光膜等との密着性にも優れる。さらに、本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法によれば、そのようなセルロースアシレートフィルムを提供することができる。また、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた本発明の偏光板は、熱および湿度に対する偏光度の変化が小さく、耐久性に優れ、そのため本発明の液晶表示装置は優れた表示性能を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、本発明のセルロースアシレートフィルムやその製造方法などについて詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
[セルロースアシレートフィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は下記式(A−1)〜(A−3)で表される条件で鹸化処理されており、下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有することを特徴とする。
式(A−1):25≦T≦45
(式(A−1)中、Tは鹸化処理温度(単位:℃)を表す。)
式(A−2):0.5≦S≦5
(式(A−2)中、Sは鹸化処理時間(単位:分)を表す。)
式(A−3):0.5≦D≦4.5
(式(A−3)中、Dは鹸化溶液のアルカリ規定度(単位:N)を表す。)
式(B):2.0≦DS≦2.7
(式(B)中、DSはセルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度を表す。)
以下、本発明の好ましい態様を参照しつつ、本発明を具体的に説明する。
【0017】
(セルロースアシレート)
本発明に用いられるセルロースアシレートは、全アシル基の置換度が前記式(B)を満たすセルロースアシレートを少なくとも含有すること以外は特に定めるものではない。アシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができる。
【0018】
まず、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートについて詳細に記載する。セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位に位置するセルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)を意味する。
DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.08〜0.66が好ましく、より好ましくは0.15〜0.60、さらに好ましくは0.20〜0.45である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度である(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は全アシル置換度に対する6位のアシル置換度の割合であり、以下「6位のアシル置換率」とも言う。
【0019】
本発明のフィルムの内部層に用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。本発明のフィルムは、炭素数2〜4のアシル基を置換基として有することが好ましい。2種類以上のアシル基を用いるときは、そのひとつがアセチル基であることが好ましく、炭素数2〜4のアシル基としてはプロピオニル基またはブチリル基が好ましい。2種類以上のアシル基を用いるときは、2位、3位および6位の水酸基のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位および6位の水酸基のプロピオニル基またはブチリル基による置換度の総和をDSBとすると、本発明のフィルムに用いられる少なくとも1種のセルロースアシレートのDSA+DSBの値は2.0〜2.7であることが好ましい。DSA+DSBの値は2.1〜2.65、かつDSBの値は0.10〜1.70であることがより好ましく、さらに好ましくはDSA+DSBの値は2.2〜2.60、かつDSBの値は0.6〜1.7である。DSAとDSBの値を上記の範囲にすることで環境湿度によるRe値、Rth値の変化の小さいフィルムが得ることができ好ましい。
さらにDSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましいが、より好ましくは30%以上が6位水酸基の置換基であり、31%以上が6位水酸基の置換基であることがさらに好ましく、特には32%以上が6位水酸基の置換基であることも好ましい。これらのフィルムにより溶解性の好ましい溶液が作製でき、特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低くろ過性のよい溶液の作成が可能となる。
【0020】
本発明におけるセルロースエステルの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、tert−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、tert−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル基、ブタノイル基である。
【0021】
セルロ−スのアシル化において、アシル化剤としては、酸無水物や酸クロライドを用いた場合、反応溶媒である有機溶媒としては、有機酸、例えば、酢酸、メチレンクロライド等が使用される。
【0022】
触媒としては、アシル化剤が酸無水物である場合には、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられ、アシル化剤が酸クロライド(例えば、CH3CH2COCl)である場合には、塩基性化合物が用いられる。
【0023】
最も一般的なセルロ−スの混合脂肪酸エステルの工業的合成方法は、セルロ−スをアセチル基および他のアシル基に対応する脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、吉草酸等)またはそれらの酸無水物を含む混合有機酸成分でアシル化する方法である。
【0024】
本発明に用いるセルロースエステルは、例えば、特開平10−45804号公報に記載されている方法により合成できる。
【0025】
(セルロースアシレートフィルムの層構造)
本発明のフィルムは、少なくとも1つの層が前記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有していれば単層構造であっても、2以上の積層構造であってもよい。また、積層構造である場合は、各層中におけるセルロースアシレートのアシル基置換度は均一であっても、複数のセルロースアシレートを一つの層に混在させてもよいが、各層中におけるセルロースアシレートのアシル基置換度は全て一定であることが光学特性の調整の観点から好ましい。本発明のフィルムは、このような前記式(B)を満たすセルロースアシレートを用いた場合において、単層構造であっても、2以上の積層構造であっても鹸化処理後のフィルムの物性、特にフィルム表面の面状に優れることを特徴の1つとする。従来、このように低いアシル基置換度のセルロースアシレート(いわゆるDAC)を含有するフィルムを鹸化処理する条件が特開2006−215535号公報の実施例の表1などに開示されているが、この文献に記載の条件では、白化、シワ等の問題があった。さらに、本発明では、DACのアシル基置換度を特開2006−215535号公報の実施例に記載の2.66〜2.7よりもさらに低下させた場合、すなわちフィルムの含水率がさらに高まる場合であっても、鹸化処理が好適になされたフィルムを提供することができる。
【0026】
本発明のフィルムは、2以上の積層構造を有することが、フィルム面状と生産性の向上およびマット剤低減に伴うフィルム透明性の向上の観点から好ましい。
【0027】
本発明のフィルムは、少なくとも1つの層が前記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有し、該前記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有する層とは別の少なくとも1つの層が下記式(C)を満たすセルロースアシレートを含有することが、生産性の向上の観点から好ましい。
式(C):2.7≦DS≦3.0
(式(C)中、DSはセルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度を表す。)
【0028】
本発明のフィルムは、3以上の積層構造を有していることが、環境湿熱変化に伴うカール量低減の観点から好ましい。
また、本発明のフィルムは、3以上の積層構造を有しており、少なくとも1つの内部層が前記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有し、両面の表面層が前記式(C)を満たすセルロースアシレートを含有することが、光学補償フィルムとして所望の光学特性を実現させる工程自由度向上の観点から好ましい。さらに、本発明のフィルムは、3以上の積層構造を有しており、少なくとも1つの内部層に含まれるセルロースアシレートは全て前記式(B)を満たすセルロースアシレートであり、両面の表面層に含まれるセルロースアシレートは全て前記式(C)を満たすセルロースアシレートであることがより好ましい。なお、本明細書中、1つの層に含まれるセルロースアシレートが全て前記式(B)を満たすセルロースアシレートである層のことをDAC層と言うことがあり、1つの層に含まれるセルロースアシレートが全て前記式(C)を満たすセルロースアシレートである層のことをTAC層と言うことがある。
特に本発明のフィルムが、このように低いアシル基置換度のセルロースアシレートの層の両面が高いアシル基置換度のセルロースアシレートの表面層で覆われている積層構造の場合、従来のTACに最適化された厳しい(ストリンジェントな)鹸化処理条件を用いることが最適と想定される。しかしながら、従来のTAC用の厳しい鹸化処理条件では鹸化進行が速く、面状が悪化してしまう問題があることが判明した。そこで、より弱い鹸化条件、特により温和な温度条件を設定することで、このような積層構造のフィルムをも好適に鹸化処理できることがわかった。
【0029】
また、本発明のフィルムは3層構造であることがより好ましい。本発明のフィルムが3層構造の場合、TAC層/DAC層/TAC層という構成であっても、DAC層/TAC層/DAC層という構成であってもよいが、その中でもTAC層/DAC層/TAC層の構成であることが、環境湿熱変化に伴うカール量低減および光学補償フィルムとして所望の光学特性を実現させる工程自由度向上の観点から好ましい。
【0030】
本発明のフィルムは、少なくとも1つの表面層の膜厚が0.5〜5μmであることが好ましい。表面層の膜厚が0.5μm以上であると表面層の幅方向の膜厚分布にばらつきが生じにくく光学特性のバラツキが小さくなり好ましい。また、表面層の膜厚が5μm以下であると積層構造全体の膜厚に対する表面層の膜厚の割合が十分小さく、十分に内部層の光学特性発現ができ、好ましい。少なくとも1つの表面層の膜厚は、より好ましくは0.8〜4μmであり、さらに好ましくは1.0〜3μmである。
本発明のフィルムが3以上の積層構造を有する場合、フィルム両面の表面層の膜厚がともに0.5〜5μmであることがさらに好ましく、0.8〜4μmであることがよりさらに好ましく、1.0〜3μmであることがそれよりも好ましい。
このように表面層の膜厚が薄い場合、鹸化処理をすることによって鹸化液(例えばアルカリ溶液)が内部層まで浸透しやすい。本発明のフィルムは、後述する本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法において好ましい鹸化処理を実施しているため、鹸化液が内部層まで浸透してもヘイズアップ(白化)が生じることが少ない。
【0031】
また、本発明のフィルムは、積層構造であるか単層構造であるかによらず、フィルム全体としての膜厚が30〜80μmであることが好ましく、35〜70μmであることがより好ましく、40〜60μmであることが特に好ましい。
また、本発明のフィルムが3以上の積層構造を有する場合、内部層(好ましくはDAC層)の膜厚は28〜78μmであることが好ましく、33〜68μmであることがより好ましく、38〜58μmであることが特に好ましい。
【0032】
本発明の好ましい態様の1つとして、3以上の積層構造を有し、DAC層を内部層として有し、膜厚が内部層よりも薄い(好ましくはともに0.5〜5μmであり、さらに好ましい条件は上記のとおりである)TAC層を外部層として有している積層構造を挙げることができる。本発明のフィルムは、このような薄いTAC層を外部層として有する態様であっても、適切に外部層のTAC層が鹸化処理されており、表面面状が優れていることが特徴である。上記の本発明の好ましい態様では、本発明のフィルムがDAC層のみの単層構造である場合に比べて、鹸化後の面状に優れ、低ヘイズという特徴を有する。しかしながら、後述する本発明のフィルムの製造方法によれば、上記の本発明の好ましい態様の積層構造のフィルムであっても鹸化処理が好適に実施でき、本発明のフィルムを得ることができる。具体的には、従来のDAC用の鹸化処理条件や従来のTAC用の厳しい鹸化処理条件では鹸化進行が速く面状が悪化してしまう問題があるのに対し、本発明のフィルムの製造方法ではより弱い鹸化条件、特により温和な温度条件を設定している。その結果、上記の本発明の好ましい態様の積層構造のフィルムをも鹸化できることがわかった。
なお、本発明のフィルムが3以上の積層構造を有し、DAC層を内部層として有し、膜厚が内部層よりも薄い(好ましくはともに0.5〜5μmであり、さらに好ましい条件は上記のとおりである)TAC層を外部層として有している積層構造である場合、後述するレターデーション調整剤をDAC層とTAC層においてそれぞれ独立して種類および添加量を制御することでき、以下に記載する好ましいレターデーション値の範囲を達成しやすくすることができる。
【0033】
(XPS比)
また、鹸化処理後の本発明のフィルムは、その表面特性が以下の通りであることを特徴とする。
光学フィルムの鹸化処理後の少なくとも片側の表面をX線光電分光法(ESCA)で測定したときの炭素(C1s)スペクトルにおいて、288eV近傍の極大ピークと290eVのピーク比(以下、XPS比とも言う)が、0.50以下であることが、密着性向上の観点から好ましい。前記ピーク比はさらに好ましくは0.15〜0.45である。親水化表面の炭素(C1s)スペクトルは、例えば、光電子分光スペクトロメーター{(株)島津製作所製、“ESCA3400”型}を用いることで知ることができる。
【0034】
前記XPS比が、0.50以下の場合は表面の親水化が十分なものであり、本発明の光学フィルムを用いる偏光板や光学補償フィルムにおいて密着性等が改善される。また、0.15より大きい場合は鹸化反応が進みすぎておらず、本発明に基づいて作製したセルロースアシレートフィルムの本来の光学性能および/または物理性能を十分発揮できる。
前記XPS比に付いては、X線光電分光法(ESCA)の炭素スペクトルのケミカルシフトとしての知見に基づいており、288eV近傍の極大ピークはC=Oのシグナル(セルロースエステルのアシル基に由来する)、及び290eVのピークはC−Oのシグナル(セルロースの水酸基に由来する)として計算することができる。
【0035】
(水の接触角)
鹸化処理後の本発明のフィルムは、非常に親水的な偏光子との貼合性の観点から、少なくとも片側の表面の水の接触角が50°未満であることが好ましい。水の接触角は40°未満であることがさらに好ましく、30°未満であることが特に好ましい。水の接触角は、フィルムを25℃、相対湿度60%で2時間以上調湿した後、表面に直径3mmの純水の液滴を落とし、フィルム表面と水滴のなす角から求める。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、少なくとも一方の表面の水の接触角が50°未満であることが好ましく、両面の水の接触角がともに50°未満であるセルロースアシレートフィルムがより好ましい。
【0036】
(ヘイズ)
鹸化処理後の本発明のフィルムは、ヘイズが1.0%以下であることが、光学フィルムとして偏光板に用いる観点から好ましい。ヘイズは、0.8%以下であることがより好ましく、0.6%以下であることが特に好ましい。
【0037】
(レターデーション)
鹸化処理後の本発明のフィルムは、波長590nmにおける正面レターデーション値Re(590)および波長590nmにおける膜厚方向のレターデーション値Rth(590)が、下記式(I)および(II)を満たすことが好ましい。
式(I):30nm≦Re(590)≦70nm
式(II):80nm≦Rth(590)≦250nm
【0038】
Re(590)は、35nm≦Re(590)≦65nmであることよりが好ましく、40nm≦Re(590)≦60nmであることが特に好ましい。
また、Rth(590)は、60nm≦Rth(590)≦250nmを満たすことがより好ましく、80nm≦Rth(590)≦150nmを満たすことが特に好ましい。このようなRth(590)とすることにより、よりカラーシフトの少ないVA用位相差膜を作製できる。
【0039】
ここで、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、590nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(a)及び式(b)よりRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0040】
【数1】

【0041】
ここで、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(b)
なおこの際、パラメータとして平均屈折率nが必要になるが、これはアッベ屈折計((株)アタゴ社製の「アッベ屈折計2−T」)により測定した値を用いた。
【0042】
本発明の偏光板用保護フィルムでは、Reの光学発現に寄与するものの4割以上をセルロース系樹脂が担う。ここで、Reの発現に寄与するとは、Reの発現の要因となることをいう。すなわち、Reを発現させる方法としては、フィルムの延伸やRe発現剤の添加等が一般的であるが、本発明では、Reの発現がこれらのみに依存するのではなく、Reの発現の4割がセルロース系樹脂によって起こることを特徴とする。好ましくは、本発明の偏光板用保護フィルムは、下記式を満たすものである。
(式) Re2/d2≧Re1/d1×0.4
(上記式中、Re1およびd1は、それぞれ、偏光板用保護フィルムを80μmの膜厚で製造したものを180℃で20%延伸したときのReおよび膜厚を示し、Re2およびd2は、それぞれ、該偏光板用保護フィルムにおいて、光学発現に寄与する添加剤を添加せずに80μmの膜厚で製造したものを180℃で20%延伸したときのRe値および膜厚を示す。また、20μm≦d1≦120μmであり、20μm≦d2≦120μmである。)
【0043】
ここでいう、光学発現に寄与する添加剤とは、Re発現剤、Rth制御剤、可塑剤、剥離促進剤等が該当する。
すなわち、本発明の偏光板用保護フィルムは、Re発現剤やRth制御剤等の光学発現に寄与する各種添加剤を含んでいてもよいが、これらを含んでいるときのRe値(Re1)と、これらを含んでいないと仮定したときのRe値(Re2)とが上記式を満たすことが好ましい。
Reの光学発現に寄与する率は、4割5分以上がより好ましい。
【0044】
<添加剤>
本発明では添加剤として、セルロースアシレートフィルムの添加剤として公知の高分子量添加剤および低分子量添加剤を広く採用することができる。添加剤の含量は、セルロース系樹脂に対して、1〜35質量%であり、4〜30質量%であることが好ましく10〜25質量%であることがさらに好ましい。添加量を1質量%以下では、温度湿度変化に対応できず、添加量を30質量%以上ではフィルムが白化してしまう。さらに、物理的特性も劣るものとなってしまう。
ここで、本発明における添加剤とは、本発明の光学フィルムの諸機能の向上等を目的として添加される成分であり、セルロース樹脂に対し、1質量%以上の範囲で含まれている成分をいう。すなわち、不純物や残留溶媒等は、本発明における添加剤ではない。
本発明では、特に、高分子量添加剤の含量が、セルロース系樹脂に対して、4〜30質量%であることが好ましく10〜25質量%であることがより好ましい。
本発明では、ΔSPの値を所定の範囲とする限り、2種類以上の添加剤を用いることができる。2種類以上用いることにより、それぞれの添加剤により、光学特性、フィルム弾性率、フィルム脆性や、ウェブハンドリング適性を両立できるというメリットがある。
【0045】
(高分子量添加剤)
本発明のフィルムに用いられる高分子量添加剤は、その化合物中に繰り返し単位を有するものであり、数平均分子量が700以上10000以下のものが好ましい。高分子量添加剤は、溶液流延法において、溶媒の揮発速度を速めたり、残留溶媒量を低減したりするために用いられる。また、溶融製膜法によるフィルムにおいても、高分子量添加剤は着色や膜強度劣化を防止するために有用な素材である。さらに、本発明のフィルムに該高分子量添加剤を添加することは、機械的性質向上、柔軟性付与、耐吸水性付与、水分透過率低減等のフィルム改質の観点で、有用な効果を示す。
【0046】
ここで、本発明における高分子量添加剤の数平均分子量は、より好ましくは数平均分子量700以上10000未満であり、さらに好ましくは数平均分子量800〜8000であり、よりさらに好ましくは数平均分子量800〜5000であり、特に好ましくは数平均分子量1000〜5000である。このような範囲とすることにより、より相溶性に優れる。
以下、本発明に用いられる高分子量添加剤について、その具体例を挙げながら詳細に説明するが、本発明で用いられる高分子量添加剤がこれらのものに限定されるわけでないことは言うまでもない。
【0047】
高分子系添加剤としては、ポリエステル系ポリマー、スチレン系ポリマーおよびアクリル系ポリマーおよびこれら等の共重合体から選択され、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、アクリル系ポリマーおよびスチレン系ポリマーが好ましい。また、スチレン系ポリマー、アクリル系ポリマーといった、負の固有複屈折を有するポリマーを少なくとも一種含まれることが好ましい。
【0048】
ポリエステル系ポリマー
本発明で用いられるポリエステル系ポリマーは、炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸と炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸の混合物と、炭素数2〜12の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールおよび炭素数6〜20の芳香族ジオールから選ばれる少なくとも1種類以上のジオールとの反応によって得られるものであり、かつ反応物の両末端は反応物のままでもよいが、さらにモノカルボン酸類やモノアルコール類またはフェノール類を反応させて、所謂末端の封止を実施してもよい。この末端封止は、特にフリーなカルボン酸類を含有させないために実施されることが、保存性などの点で有効である。本発明のポリエステル系ポリマーに使用されるジカルボン酸は、炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸残基または炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸残基であることが好ましい。
【0049】
本発明で好ましく用いられる炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。
また炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0050】
これらの中でも好ましい脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸であり、芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸である。特に好ましくは、脂肪族ジカルボン酸成分としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸であり、芳香族ジカルボン酸としてはフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、である。
【0051】
本発明では、前述の脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸のそれぞれの少なくとも一種類を組み合わせて用いられるが、その組み合せは特に限定されるものではなく、それぞれの成分を数種類組み合わせても問題ない。
【0052】
高分子量添加剤に利用されるジオールまたは芳香族環含有ジオールは、例えば、炭素数2〜20の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールおよび炭素数6〜20の芳香族環含有ジオールから選ばれるものである。
【0053】
炭素原子2〜20の脂肪族ジオールとしては、アルキルジオールおよび脂環式ジオール類を挙げることができ、例えば、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
【0054】
好ましい脂肪族ジオールとしては、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールであり、特に好ましくはエタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールである。
【0055】
炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールとしては、好ましくは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエチレンエーテルグリコールおよびポリプロピレンエーテルグリコールならびにこれらの組み合わせが挙げられる。その平均重合度は、特に限定されないが好ましくは2〜20であり、より好ましくは2〜10であり、さらには2〜5であり、特に好ましくは2〜4である。これらの例としては、典型的に有用な市販のポリエーテルグリコール類としては、カーボワックス(Carbowax)レジン、プルロニックス(Pluronics) レジンおよびニアックス(Niax)レジンが挙げられる。
【0056】
炭素数6〜20の芳香族ジオールとしては、特に限定されないがビスフェノールA、1,2−ヒドロキシベンゼン、1,3−ヒドロキシベンゼン、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノールが挙げられ、好ましくはビスフェノールA、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノールである。
【0057】
本発明においては、特に末端がアルキル基あるいは芳香族基で封止された高分子量添加剤であることが好ましい。これは、末端を疎水性官能基で保護することにより、高温高湿での経時劣化に対して有効であり、エステル基の加水分解を遅延させる役割を示すことが要因となっている。
本発明のポリエステル添加剤の両末端がカルボン酸やOH基とならないように、モノアルコール残基やモノカルボン酸残基で保護することが好ましい。
この場合、モノアルコールとしては炭素数1〜30の置換、無置換のモノアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert−ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコール、ベンジルアルコール、3−フェニルプロパノールなどの置換アルコールなどが挙げられる。
【0058】
好ましく使用され得る末端封止用アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、オレイルアルコール、ベンジルアルコールであり、特にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソブタノール、シクロヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、ベンジルアルコールである。
【0059】
また、モノカルボン酸残基で封止する場合は、モノカルボン酸残基として使用されるモノカルボン酸は、炭素数1〜30の置換、無置換のモノカルボン酸が好ましい。これらは、脂肪族モノカルボン酸でも芳香族環含有カルボン酸でもよい。好ましい脂肪族モノカルボン酸について記述すると、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸が挙げられ、芳香族環含有モノカルボン酸としては、例えば安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−tert−アミル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上を使用することができる。
【0060】
かかる本発明の高分子量添加剤の合成は、常法により上記ジカルボン酸とジオールおよび/または末端封止用のモノカルボン酸またはモノアルコール、とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。これらのポリエステル系添加剤については、村井孝一編者「添加剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
以下に、本発明で用いることができるポリエステル系ポリマーの具体例を記すが、本発明で用いることができるポリエステル系ポリマーはこれらに限定されるものではない。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
表1および表2中、PAはフタル酸を、TPAはテレフタル酸を、IPAはイソフタル酸を、AAはアジピン酸を、SAはコハク酸を、2,6−NPAは2,6−ナフタレンジカルボン酸を、2,8−NPAは2,8−ナフタレンジカルボン酸を、1,5−NPAは1,5−ナフタレンジカルボン酸を、1,4−NPAは1,4−ナフタレンジカルボン酸を、1,8−NPAは1,8−ナフタレンジカルボン酸をそれぞれ示している。
【0064】
(低分子量添加剤)
低分子量添加剤としては、Rth制御剤・調整剤、劣化防止剤、紫外線防止剤、剥離促進剤、他の可塑剤、赤外線吸収剤等を挙げることができる。これらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に劣化防止剤の混合などである。さらにまた、赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報に記載されている。またその添加する時期はセルロースアシレート溶液(ドープ)作製工程において何れで添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。さらにまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。
【0065】
(Rth制御剤)
本発明の光学フィルムは、Rth制御剤を含んでいてもよい。
Rth制御剤としては、特に限定されないが、詳細は特開2007−272177号公報の[0066]〜[0074]に記載されている。
【0066】
特開2007−272177号公報の一般式(1)または一般式(2)で表される化合物は、以下の方法にて作成することができる。
該公報の一般式(1)の化合物は、スルホニルクロリド誘導体とアミン誘導体との縮合反応により得ることができる。また、一般式(2)の化合物は、スルフィドの酸化反応もしくは芳香族化合物とスルホン酸クロリドのFriedel−Crafts反応により得ることができる。詳細は特開2007-272177号公報の[0075]〜[0085]に記載されている。
【0067】
(脂肪族多価アルコールエステル)
本発明のフィルムにおいては、可塑剤として脂肪族多価アルコールと1種以上のモノカルボン酸とから形成された脂肪族多価アルコールエステルを含有することが、光学特性、寸法などの安定性の高いフィルムを得られる点で好ましい。
以下脂肪族多価アルコールエステルについて詳細に説明する。
【0068】
本発明に係る脂肪族多価アルコールエステルは、2価以上の脂肪族多価アルコールと1種以上のモノカルボン酸とのエステルとから形成される。
【0069】
本発明に係る脂肪族多価アルコールは、2価以上のアルコールであるが、下記一般式(3)で表されるものが好ましい。
【0070】
一般式(3)
91−(OH)m
式中、R91は、n価の脂肪族有機基、nは2以上の正の整数を表し、OH基はアルコール性またはフェノール性水酸基を表し、mは、2〜20が好ましい。
【0071】
一般式(3)において、n価の脂肪族有機基の中で、2価の基としては、アルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、プロピレン基、エチルエチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等)、アルケニレン基(例えば、ビニレン基、プロペニレン基、エテニレン基等)、アルキニレン基(例えば、エチニレン基、3−ペンチニレン基等)、シクロアルキレン基(例えば、1,4−シクロヘキサンジイル基等)等が挙げられる。
【0072】
一般式(3)において、n価の脂肪族有機基の中で、3価の基としては、例えば、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ウンデカントリイル基、ドデカントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロペンタントリイル基、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基、1,2,3−プロパントリイル基等が挙げられる。
【0073】
一般式(3)において、n価の脂肪族有機基の中で、4価の基としては、例えば、プロパンジイリデン基、1,3−プロパンジイル−2−イリデン基、ブタンジイリデン基、ペンタンジイリデン基、ヘキサンジイリデン基、ヘプタンジイリデン基、オクタンジイリデン基、ノナンジイリデン基、デカンジイリデン基、ウンデカンジイリデン基、ドデカンジイリデン基、シクロヘキサンジイリデン基、シクロペンタンジイリデン基、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基等が挙げられる。
【0074】
また、上記のn価の脂肪族有機基は、さらに置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、ペンチル基、2−メトキシエチル基、トリフルオロメチル基、2−エチルヘキシル基など)、アリール基、(例えば、フェニル基、ナフチル基など)、アルコキシル基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基など)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、i−プロポキシカルボニル基など)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基など)、カルバモイル基(例えば、メチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基、ブチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基など)、スルファモイル基(例えば、スルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、オクチルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、p−トリルチオ基等)、アミノ基(例えば、アミノ基、メチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メトキシエチルアミノ基等)、アシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ基、クロロアセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、トリフルオロアセチルアミノ基等)、アルキルウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、メトキシエチルウレイド基、ジメチルウレイド基等)、アリールウレイド基(例えば、フェニルウレイド基等)、アルキルスルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド基、エタンスルホンアミド基、ブタンスルホンアミド基、トリフルオロメチルスルホンアミド基、2,2,2−トリフルオロエチルスルホンアミド基等)、アリールスルホンアミド基(例えば、フェニルスルホンアミド基、トリルスルホンアミド基等)、アルキルアミノスルホニルアミノ基(例えば、メチルアミノスルホニルアミノ基、エチルアミノスルホニルアミノ基等)、アリールアミノスルホニルアミノ基(例えば、フェニルアミノスルホニルアミノ基等)、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、複素環基(例えば、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、ピロリル基、インドリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、フリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、キノリル基、チエニル基等)が挙げられる。
【0075】
好ましい脂肪族多価アルコールの例としては、例えば、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等が挙げられる。
【0076】
中でも、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが特に好ましく用いられる。
【0077】
本発明に係る脂肪族多価アルコールエステル形成に用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができるが、セルロースエステルフィルムの透湿性向上、保留性向上の観点から、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いることが好ましい。
【0078】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることがさらに好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有するとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0079】
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0080】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。これらはさらに置換基を有しても良い。
【0081】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0082】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。このほか、芳香族モノカルボン酸の芳香環には置換基を有していてもよい。
【0083】
脂肪族多価アルコールエステルの分子量
本発明に係る多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることがさらに好ましい。保留性の点では大きい方が好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0084】
ここで、上記の脂肪族多価アルコールエステルの分子量は、市販のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)装置を用いて測定できる。
【0085】
本発明に係る脂肪族多価アルコールエステルにおけるカルボン酸は一種類でも、二種以上の混合でもよい。また、脂肪族多価アルコール中のOH基は全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。好ましくは、分子内に芳香環もしくはシクロアルキル環を3つ以上有することが好ましい。
【0086】
本発明に用いられる、芳香環としては、芳香族炭素環(例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、p−テルフェニル環、ジフェニルメタン環、トリフェニルメタン環、ビベンジル環、スチルベン環、インデン環、テトラリン環、アントラセン環、フェナントレン環等)や芳香族複素環、例えば、フラン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、1,2,3−オキサジアゾール環、1,2,3−トリアゾール環、1,2,4−トリアゾール環、1,3,4−チアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、s−トリアジン環、ベンゾフラン環、インドール環、ベンゾチオフェン環、ベンズイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、プリン環、キノリン環およびイソキノリン環等が挙げられる。
【0087】
本発明に用いられるシクロアルキル環としては、例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロオクタン環等が挙げられる。
【0088】
以下、本発明に係る脂肪族多価アルコールエステルの具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0089】
【化1】

【0090】
【化2】

【0091】
【化3】

【0092】
【化4】

【0093】
本発明に係る脂肪族多価アルコールエステルの使用量(含有量でもよい)は、フィルムに対して3質量%〜30質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは、5質量%〜25質量%の範囲であり、特に好ましくは、5質量%〜20質量%の範囲である。
【0094】
(Re発現剤)
本発明では、レターデーション発現剤を含んでいてもよい。レターデーション発現剤は、例えば、 0.5〜10重量%の割合で含めることができ、さらには、2〜6重量%の割合で含めることができる。レターデーション発現剤を採用することにより、低延伸倍率で高いRe発現性を得られる。レターデーション発現剤の種類としては、特に定めるものではないが、棒状または円盤状化合物からなるものを挙げることができる。上記棒状または円盤状化合物としては、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション発現剤として好ましく用いることができる。棒状化合物からなるレターデーション発現剤の添加量は、セルロースアシレートを含むポリマー成分100質量部に対して0.5〜10質量部であることが好ましく、2〜6質量部であることがさらに好ましい。
円盤状のレターデーション発現剤は、前記セルロースアシレートを含むポリマー成分100質量部に対して、0.5〜10質量部の範囲で使用することが好ましく、1〜8質量部の範囲で使用することがより好ましく、2〜6質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。
二種類以上のレターデーション発現剤を併用してもよい。
レターデーション発現剤は、250〜400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0095】
円盤状化合物について説明する。円盤状化合物としては少なくとも二つの芳香族環を有する化合物を用いることができる。
本明細書において、「芳香族環」は、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。
芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。
芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。
芳香族環としては、ベンゼン環、縮合ベンゼン環、ビフェニール類が好ましい。特に1,3,5−トリアジン環が好ましく用いられる。具体的には例えば特開2001−166144号公報に開示の化合物が好ましく用いられる。
【0096】
レターデーション発現剤が有する芳香族環の炭素数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがより好ましく、2〜8であることがさらに好ましく、2〜6であることが最も好ましい。
二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合および(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。結合関係は、(a)〜(c)のいずれでもよい。
【0097】
(a)の縮合環(二つ以上の芳香族環の縮合環)の例には、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ビフェニレン環、ナフタセン環、ピレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドリジン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、プリン環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環およびチアントレン環が含まれる。ナフタレン環、アズレン環、インドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環およびキノリン環が好ましい。
【0098】
(b)の単結合は、二つの芳香族環の炭素原子間の結合であることが好ましい。二以上の単結合で二つの芳香族環を結合して、二つの芳香族環の間に脂肪族環または非芳香族性複素環を形成してもよい。
【0099】
(c)の連結基も、二つの芳香族環の炭素原子と結合することが好ましい。連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−CO−、−O−、−NH−、−S−またはそれらの組み合わせであることが好ましい。組み合わせからなる連結基の例を以下に示す。なお、以下の連結基の例の左右の関係は、逆になってもよい。
c1:−CO−O−
c2:−CO−NH−
c3:−アルキレン−O−
c4:−NH−CO−NH−
c5:−NH−CO−O−
c6:−O−CO−O−
c7:−O−アルキレン−O−
c8:−CO−アルケニレン−
c9:−CO−アルケニレン−NH−
c10:−CO−アルケニレン−O−
c11:−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−
c12:−O−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−O−
c13:−O−CO−アルキレン−CO−O−
c14:−NH−CO−アルケニレン−
c15:−O−CO−アルケニレン−
【0100】
芳香族環および連結基は、置換基を有していてもよい。
置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基、ウレイド基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基および非芳香族性複素環基が含まれる。
【0101】
アルキル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基)を有していてもよい。アルキル基の(置換アルキル基を含む)例には、メチル基、エチル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、2−ヒドロキシエチル基、4−カルボキシブチル基、2−メトキシエチル基および2−ジエチルアミノエチル基の各基が含まれる。
アルケニル基の炭素原子数は、2〜8であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルケニル基の例には、ビニル基、アリル基および1−ヘキセニル基が含まれる。
アルキニル基の炭素原子数は、2〜8であることが好ましい。環状アルキニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキニル基の例には、エチニル基、1−ブチニル基および1−ヘキシニル基が含まれる。
【0102】
脂肪族アシル基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル基、プロパノイル基およびブタノイル基が含まれる。
脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシ基が含まれる。
アルコキシ基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。アルコキシ基は、さらに置換基(例えば、アルコキシ基)を有していてもよい。アルコキシ基の(置換アルコキシ基を含む)例には、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基およびメトキシエトキシ基が含まれる。
アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニル基およびエトキシカルボニル基が含まれる。
アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、メトキシカルボニルアミノ基およびエトキシカルボニルアミノ基が含まれる。
【0103】
アルキルチオ基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ基、エチルチオ基およびオクチルチオ基が含まれる。
アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例には、メタンスルホニル基およびエタンスルホニル基が含まれる。
脂肪族アミド基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アミド基の例には、アセトアミドが含まれる。
脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド基、ブタンスルホンアミド基およびn−オクタンスルホンアミド基が含まれる。
脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基および2−カルボキシエチルアミノ基が含まれる。
脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例には、メチルカルバモイル基およびジエチルカルバモイル基が含まれる。
脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例には、メチルスルファモイル基およびジエチルスルファモイル基が含まれる。
脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例には、メチルウレイド基が含まれる。
非芳香族性複素環基の例には、ピペリジノ基およびモルホリノ基が含まれる。
レターデーション発現剤の分子量は、300〜800であることが好ましい。
【0104】
円盤状化合物として下記一般式(I)で表されるトリアジン化合物を用いることが好ましい。
【0105】
【化5】

【0106】
上記一般式(I)中:
51は、各々独立に、オルト位、メタ位およびパラ位の少なくともいずれかに置換基を有する芳香族環または複素環を表す。
11は、各々独立に、単結合または−NR52−を表す。ここで、R52は、各々独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基または複素環基を表す。
【0107】
51が表す芳香族環は、フェニルまたはナフチルであることが好ましく、フェニルであることが特に好ましい。R51が表す芳香族環はいずれかの置換位置に少なくとも一つの置換基を有してもよい。前記置換基の例には、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アルキル置換スルファモイル基、アルケニル置換スルファモイル基、アリール置換スルファモイル基、スルオンアミド基、カルバモイル、アルキル置換カルバモイル基、アルケニル置換カルバモイル基、アリール置換カルバモイル基、アミド基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基およびアシル基が含まれる。
【0108】
51が表す複素環基は、芳香族性を有することが好ましい。芳香族性を有する複素環は、一般に不飽和複素環であり、好ましくは最多の二重結合を有する複素環である。複素環は5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましく、6員環であることが最も好ましい。複素環のヘテロ原子は、窒素原子、硫黄原子または酸素原子であることが好ましく、窒素原子であることが特に好ましい。芳香族性を有する複素環としては、ピリジン環(複素環基としては、2−ピリジルまたは4−ピリジル)が特に好ましい。複素環基は、置換基を有していてもよい。複素環基の置換基の例は、上記アリール部分の置換基の例と同様である。
11が単結合である場合の複素環基は、窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基であることが好ましい。窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましく、5員環であることが最も好ましい。複素環基は、複数の窒素原子を有していてもよい。また、複素環基は、窒素原子以外のヘテロ原子(例えば、O、S)を有していてもよい。以下に、窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基の例を示す。
【0109】
【化6】

【0110】
52が表すアルキル基は、環状アルキル基であっても鎖状アルキル基であってもよいが、鎖状アルキル基が好ましく、分岐を有する鎖状アルキル基よりも、直鎖状アルキル基がより好ましい。アルキル基の炭素原子数は、1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましく、1〜10であることがさらに好ましく、1〜8がさらにまた好ましく、1〜6であることが最も好ましい。アルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基)およびアシルオキシ基(例えば、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基)が含まれる。
【0111】
52が表すアルケニル基は、環状アルケニル基であっても鎖状アルケニル基であってもよいが、鎖状アルケニル基を表すのが好ましく、分岐を有する鎖状アルケニル基よりも、直鎖状アルケニル基を表すのがより好ましい。アルケニル基の炭素原子数は、2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましく、2〜10であることがさらに好ましく、2〜8であることがさらにまた好ましく、2〜6であることが最も好ましい。アルケニル基は置換基を有していてもよい。置換基の例には、前述のアルキル基の置換基と同様である。
52が表す芳香族環基および複素環基は、R51が表す芳香族環および複素環と同様であり、好ましい範囲も同様である。芳香族環基および複素環基はさらに置換基を有していてもよく、置換基の例にはR51の芳香族環および複素環の置換基と同様である。
【0112】
円盤状化合物としては下記一般式(II)で表されるトリフェニレン化合物を好ましく用いることもできる。
【0113】
【化7】

【0114】
上記一般式(II)中、R53、R54、R55、R56、R57およびR58は各々独立して、水素原子または置換基を表す。
53、R54、R55、R56、R57およびR58が各々表す置換基としては、アルキル基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる)、アルケニル基(好ましくは、炭素数2〜40、より好ましくは炭素数2〜30、特に好ましくは炭素数2〜20のアルケニル基であり、例えば、ビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基などが挙げられる)、アルキニル基(好ましくは、炭素数2〜40、より好ましくは炭素数2〜30、特に好ましくは炭素数2〜20のアルキニル基であり、例えば、プロパルギル基、3−ペンチニル基などが挙げられる)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリール基であり、例えば、フェニル基、p−メチルフェニル基、ナフチル基などが挙げられる)、置換もしくは無置換のアミノ基(好ましくは炭素数0〜40、より好ましくは炭素数0〜30、特に好ましくは炭素数0〜20のアミノ基であり、例えば、無置換アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、アニリノ基などが挙げられる)、
【0115】
アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜40、より好ましくは炭素数6〜30、特に好ましくは炭素数6〜20のアリールオキシ基であり、例えば、フェニルオキシ基、2−ナフチルオキシ基などが挙げられる)、アシル基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のアシル基であり、例えば、アセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基などが挙げられる)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜40、より好ましくは炭素数2〜30、特に好ましくは炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基であり、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜40、より好ましくは炭素数7〜30、特に好ましくは炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基であり、例えば、フェニルオキシカルボニル基などが挙げられる)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜40、より好ましくは炭素数2〜30、特に好ましくは炭素数2〜20のアシルオキシ基であり、例えば、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる)、
【0116】
アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜40、より好ましくは炭素数2〜30、特に好ましくは炭素数2〜20のアシルアミノ基であり、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜40、より好ましくは炭素数2〜30、特に好ましくは炭素数2〜20のアルコキシカルボニルアミノ基であり、例えば、メトキシカルボニルアミノ基などが挙げられる)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜40、より好ましくは炭素数7〜30、特に好ましくは炭素数7〜20のアリールオキシカルボニルアミノ基であり、例えば、フェニルオキシカルボニルアミノ基などが挙げられる)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のスルホニルアミノ基であり、例えば、メタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基などが挙げられる)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜40、より好ましくは炭素数0〜30、特に好ましくは炭素数0〜20のスルファモイル基であり、例えば、スルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基などが挙げられる)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のカルバモイル基であり、例えば、無置換のカルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基などが挙げられる)、
【0117】
アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20であり、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基などが挙げられる)、アリールチオ基(好ましくは、炭素数6〜40、より好ましくは炭素数6〜30、特に好ましくは炭素数1〜20、例えば、フェニルチオ基などが挙げられる)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のスルホニル基であり、例えば、メシル基、トシル基などが挙げられる)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のスルフィニル基であり、例えば、メタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基などが挙げられる)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のウレイド基であり、例えば、無置換のウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基などが挙げられる)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数1〜30、特に好ましくは炭素数1〜20のリン酸アミド基であり、例えば、ジエチルリン酸アミド基、フェニルリン酸アミド基などが挙げられる)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜12のヘテロ環基であり、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を有するヘテロ環基であり、例えば、イミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基、1,3,5−トリアジル基などが挙げられる)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは、炭素数3〜24のシリル基であり、例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる)が含まれる。これらの置換基はさらにこれらの置換基によって置換されていてもよい。また、置換基を二つ以上有する場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに結合して環を形成していてもよい。
【0118】
53、R54、R55、R56、R57およびR58が各々表す置換基としては、好ましくはアルキル基、アリール基、置換もしくは無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基またはハロゲン原子である。
詳細は公開技報2001−1745の49頁に記載されている。
【0119】
一般式(I)で表される化合物は、例えば特開2003−344655号公報に記載の方法、一般式(II)で表される化合物は、例えば特開2005−134884号公報に記載の方法等、公知の方法により合成することができる。
【0120】
本発明では前述の円盤状化合物の他に直線的な分子構造を有する棒状化合物も好ましく用いることができる。直線的な分子構造とは、熱力学的に最も安定な構造において棒状化合物の分子構造が直線的であることを意味する。熱力学的に最も安定な構造は、結晶構造解析または分子軌道計算によって求めることができる。例えば、分子軌道計算ソフト(例えば、WinMOPAC2000、富士通(株)製)を用いて分子軌道計算を行い、化合物の生成熱が最も小さくなるような分子の構造を求めることができる。分子構造が直線的であるとは、上記のように計算して求められる熱力学的に最も安定な構造において、分子構造で主鎖の構成する角度が140度以上であることを意味する。
【0121】
少なくとも二つの芳香族環を有する棒状化合物としては、下記一般式(III)で表される化合物が好ましい。
【0122】
一般式(III):Ar1−L1−Ar2
【0123】
上記一般式(III)において、Ar1およびAr2は、それぞれ独立に、芳香族基である。
本明細書において、芳香族基は、アリール基(芳香族性炭化水素基)、置換アリール基、芳香族性ヘテロ環基および置換芳香族性ヘテロ環基を含む。
アリール基および置換アリール基の方が、芳香族性ヘテロ環基および置換芳香族性ヘテロ環基よりも好ましい。芳香族性へテロ環基のヘテロ環は、一般には不飽和である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性へテロ環は一般に最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子または硫黄原子が好ましく、窒素原子または硫黄原子がさらに好ましい。
芳香族基の芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環およびピラジン環が好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。
【0124】
置換アリール基および置換芳香族性ヘテロ環基の置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、アルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ブチルアミノ基、ジメチルアミノ基の各基)、ニトロ基、スルホ基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基(例えば、N−メチルカルバモイル基、N−エチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基の各基)、スルファモイル基、アルキルスルファモイル基(例えば、N−メチルスルファモイル基、N−エチルスルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基の各基)、ウレイド基、アルキルウレイド基(例えば、N−メチルウレイド基、N,N−ジメチルウレイド基、N,N,N'−トリメチルウレイド基の各基)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、s−ブチル基、tert−アミル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基の各基)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基の各基)、アルキニル基(例えば、エチニル基、ブチニル基)、アシル基(例えば、ホルミル基、アセチル基、ブチリル基、ヘキサノイル基、ラウリル基の各基)、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ基、ブチリルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、ラウリルオキシ基の各基)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基の各基)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基の各基)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル基)、アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、ブトキシカルボニルアミノ基、ヘキシルオキシカルボニルアミノ基)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基の各基)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、ペンチルスルホニル基、ヘプチルスルホニル基、オクチルスルホニル基の各基)、アミド基(例えば、アセトアミド基、ブチルアミド基、ヘキシルアミド基、ラウリルアミド基の各基)および非芳香族性複素環基(例えば、モルホリル基、ピラジニル基)が含まれる。
【0125】
なかでも、好ましい置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基およびアルキル基が挙げられる。
アルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基およびアルキルチオ基のアルキル部分とアルキル基とは、さらに置換基を有していてもよい。アルキル部分およびアルキル基の置換基の例には、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ニトロ基、スルホ基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、スルファモイル基、アルキルスルファモイル基、ウレイド基、アルキルウレイド基、アルケニル基、アルキニル基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アミド基および非芳香族性複素環基が含まれる。アルキル部分およびアルキル基の置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニル基およびアルコキシ基が好ましい。
【0126】
一般式(III)において、L1は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−O−、−CO−およびそれらの組み合わせからなる基から選ばれる二価の連結基である。
アルキレン基は、環状構造を有していてもよい。環状アルキレン基としては、シクロヘキシレンが好ましく、1,4−シクロへキシレンが特に好ましい。鎖状アルキレン基としては、直鎖状アルキレン基の方が分岐を有するアルキレン基よりも好ましい。
アルキレン基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、より好ましくは1〜15であり、さらに好ましくは1〜10であり、さらに好ましくは1〜8であり、最も好ましくは1〜6である。
【0127】
アルケニレン基およびアルキニレン基は、環状構造よりも鎖状構造を有することが好ましく、分岐を有する鎖状構造よりも直鎖状構造を有することがさらに好ましい。
アルケニレン基およびアルキニレン基の炭素原子数は、好ましくは2〜10であり、より好ましくは2〜8であり、さらに好ましくは2〜6であり、さらに好ましくは2〜4であり、最も好ましくは2(ビニレン基またはエチニレン基)である。
アリーレン基は、炭素原子数は6〜20であることが好ましく、より好ましくは6〜16であり、さらに好ましくは6〜12である。
【0128】
一般式(III)の分子構造において、L1を挟んで、Ar1とAr2とが形成する角度は、140度以上であることが好ましい。
【0129】
棒状化合物としては、下記式一般式(IV)で表される化合物がさらに好ましい。
一般式(IV):Ar1−L2−X−L3−Ar2
【0130】
上記一般式(IV)において、Ar1およびAr2は、それぞれ独立に、芳香族基である。芳香族基の定義および例は、一般式(III)のAr1およびAr2と同様である。
【0131】
一般式(IV)において、L2およびL3は、それぞれ独立に、アルキレン基、−O−、−CO−およびそれらの組み合わせからなる基より選ばれる二価の連結基である。
アルキレン基は、環状構造よりも鎖状構造を有することが好ましく、分岐を有する鎖状構造よりも直鎖状構造を有することがさらに好ましい。
アルキレン基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましく、より好ましくは1〜8であり、さらに好ましくは1〜6であり、さらに好ましくは1〜4であり、1または2(メチレン基またはエチレン基)であることが最も好ましい。
2およびL3は、−O−CO−または−CO−O−であることが特に好ましい。
【0132】
一般式(IV)において、Xは、1,4−シクロへキシレン基、ビニレン基またはエチニレン基である。
【0133】
一般式(III)または(IV)で表される化合物の具体例としては、特開2004−109657号公報の〔化1〕〜〔化11〕に記載の化合物が挙げられる。
【0134】
溶液の紫外線吸収スペクトルにおいて最大吸収波長(λmax)が250nmより長波長である棒状化合物を、二種類以上併用してもよい。
棒状化合物は、文献記載の方法を参照して合成できる。文献としては、Mol. Cryst. Liq. Cryst., 53巻、229ページ(1979年)、同89巻、93ページ(1982年)、同145巻、111ページ(1987年)、同170巻、43ページ(1989年)、J. Am. Chem. Soc., 113巻、1349ページ(1991年)、同118巻、5346ページ(1996年)、同92巻、1582ページ(1970年)、J. Org. Chem., 40巻、420ページ(1975年)、Tetrahedron、48巻16号、3437ページ(1992年)を挙げることができる。
【0135】
また、特開2004−50516号公報の11〜14頁に記載の棒状芳香族化合物を、前記Re発現剤として用いてもよい。
また、Re発現剤として、一種の化合物を単独で、又は二種類以上の化合物を混合して用いることができる。Re発現剤として互いに異なる二種類以上の化合物を用いると、レターデーションの調整範囲が広がり、容易に所望の範囲に調整できるので好ましい。
前記Re発現剤の添加量はセルロースアシレート100質量部に対して、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%がさらに好ましい。前記セルロースアシレートフィルムをソルベントキャスト法で作製する場合は、前記Re発現剤を、ドープ中に添加してもよい。添加はいずれのタイミングで行ってもよく、例えば、アルコール、メチレンクロライド、ジオキソラン等の有機溶媒にRe発現剤を溶解してから、セルロースアシレート溶液(ドープ)に添加してもよいし、又は直接ドープ組成中に添加してもよい。
【0136】
特に、前記円盤状化合物の割合が、円盤状化合物と棒状化合物の総質量に対して10%〜90%であることが好ましく、20%〜80%であることがさらに好ましい。
【0137】
(剥離促進剤)
本発明のフィルムには、剥離促進剤を加えることが好ましい。剥離促進剤は、例えば、0.001〜1重量%の割合で含めることができる。剥離促進剤としては、特開2006−45497号公報の段落番号0048〜0069に記載の化合物を好ましく用いることができる。
【0138】
(マット剤)
本発明のフィルムには、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが、濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0139】
これらの微粒子は、通常平均粒子径が0.1〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子径は0.2μm〜1.5μmが好ましく、0.4μm〜1.2μmがさらに好ましく、0.6μm〜1.1μmが最も好ましい。1次、2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒子サイズとした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とした。
【0140】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976およびR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972Vが1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0141】
本発明において2次平均粒子径の小さな粒子を有するフィルムを得るために、微粒子の分散液を調製する際にいくつかの手法が考えられる。例えば、溶剤と微粒子を撹拌混合した微粒子分散液をあらかじめ作成し、この微粒子分散液を別途用意した少量のセルロースアシレート溶液に加えて撹拌溶解し、さらにメインのセルロースアシレートドープ液と混合する方法がある。この方法は二酸化珪素微粒子の分散性がよく、二酸化珪素微粒子がさらに再凝集しにくい点で好ましい調製方法である。ほかにも、溶剤に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行いこれを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。本発明はこれらの方法に限定されないが、二酸化珪素微粒子を溶剤などと混合して分散するときの二酸化珪素の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がさらに好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度は低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。最終的なセルロースアシレートのドープ溶液中でのマット剤の添加量は1m2あたり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gがさらに好ましく、0.08〜0.16gが最も好ましい。
【0142】
使用される溶剤は低級アルコール類としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
【0143】
(紫外線吸収剤)
本発明のフィルムには、紫外線吸収剤を含有させることが好ましく、紫外線吸収剤としては、液晶の劣化防止の点より波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の点より波長400nm以上の可視光の吸収が可及的に少ないものが好ましく用いられる。特に、波長370nmでの透過率が、10質量%以下であることが望ましく、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。用いられるものとしては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ−ル系化合物、サリチル酸エステル系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレ−ト系化合物、ニッケル錯塩系化合物などがあげられるが、これらに限定されない。紫外線吸収剤は2種以上用いてもよい。紫外線吸収剤のド−プ(本発明では溶液流延に用いられるセルロースエステル溶液をドープということもある。)への添加方法は、アルコ−ルやメチレンクロライド、ジオキソランなどの有機溶媒に溶解してから添加するか、または直接ド−プ組成中に添加してもよい。無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロ−スエステル中にデゾルバやサンドミルを使用し、分散してからド−プに添加する。本発明において、紫外線吸収剤の使用量はセルロ−スエステルに対し、0.1〜5.0質量%、好ましくは、0.5〜2.0質量%、より好ましくは0.8〜2.0質量%である。
【0144】
[本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、以下に詳述する本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法(以下、本発明のフィルムの製造方法とも言う)を用いることにより効率良く製造することができる。
本発明のフィルムの製造方法は、下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有することを特徴とするセルロースアシレートフィルムを、下記式(A−1)〜(A−3)を満たす条件で鹸化処理することを特徴とする。
式(A−1):25≦T≦45
(式(A−1)中、Tは鹸化処理温度(単位:℃)を表す。)
式(A−2):0.5≦S≦5
(式(A−2)中、Sは鹸化処理時間(単位:分)を表す。)
式(A−3):0.5≦D≦4.5
(式(A−3)中、Dは鹸化溶液のアルカリ規定度(単位:N)を表す。)
式(B):2.0≦DS≦2.7
(式(B)中、DSはセルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度を表す。)
さらに本発明のフィルムの製造方法は、ドープを支持体上に流延し溶媒を蒸発させてセルロースエステルフィルムを形成する製膜工程、およびその後当該フィルムを延伸する延伸工程、さらにその後得られたフィルムを乾燥する乾燥工程、さらに、該乾燥工程終了後、150〜200℃の温度で1分以上熱処理する工程を有することが好ましい。
【0145】
(製膜工程)
本発明のフィルムの製造方法は、公知のセルロースエステルフィルムを作製する方法等を広く採用でき、ソルベントキャスト法により製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造することができる。
有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルおよび炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0146】
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
2種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0147】
一般的な方法でセルロースアシレート溶液を調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温または高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特に、メチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースアシレートの量は、得られる溶液中に10〜40質量%含まれるように調整する。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0〜40℃)でセルロースアシレートと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアシレートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0148】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶媒中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0149】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレテートフィルムを製造することができる。
ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35質量%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
【0150】
ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフィルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100℃から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶媒を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
セルロースエステルフィルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。可塑剤の添加量は、セルロースアシレートの量の0.1〜25質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがさらに好ましく、3〜15質量%であることが最も好ましい。
【0151】
セルロースエステルフィルムには、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−197073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。劣化防止剤の添加量は、劣化防止剤添加による効果が発現し、フィルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)を抑制する観点から、調製する溶液(ドープ)の0.01〜1質量%であることが好ましく、0.01〜0.2質量%であることがさらに好ましい。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
【0152】
(共流延)
本発明では得られたセルロースエステル溶液を、金属支持体としての平滑なバンド上或いはドラム上に単層液として流延してもよいし、2層以上の複数のセルロースエステル液を流延してもよい。複数のセルロースエステル溶液を流延する場合、金属支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口からセルロースエステルを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよく、例えば特開昭61−158414号、特開平1−122419号、特開平11−198285号の各公報などに記載の方法が適応できる。また、2つの流延口からセルロースエステル溶液を流延することによってもフィルム化することでもよく、例えば特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、特開平6−134933号の各公報に記載の方法で実施できる。また、特開昭56−162617号公報に記載の高粘度セルロースエステル溶液の流れを低粘度のセルロースエステル溶液で包み込み、その高,低粘度のセルロースエステル溶液を同時に押出すセルロースエステルフィルム流延方法でもよい。更に又、特開昭61−94724号、特開昭61−94725号の各公報に記載の外側の溶液が内側の溶液よりも貧溶媒であるアルコール成分を多く含有させることも好ましい態様である。
【0153】
あるいは、また、2個の流延口を用いて、第一の流延口により金属支持体に成型したフィルムを剥離し、金属支持体面に接していた側に第二の流延を行なうことでより、フィルムを作製することでもよく、例えば特公昭44−20235号公報に記載されている方法である。流延するセルロースエステル溶液は同一の溶液でもよいし、異なるセルロースエステル溶液でもよく特に限定されない。複数のセルロースエステル層に機能を持たせるために、その機能に応じたセルロースエステル溶液を、それぞれの流延口から押出せばよい。さらの本発明のセルロースエステル溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、UV吸収層、偏光層など)を同時に流延することも実施しうる。
【0154】
従来の単層液では、必要なフィルム厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースエステル溶液を押出すことが必要であり、その場合セルロースエステル溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良であったりして問題となることが多かった。この解決として、複数のセルロースエステル溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に金属支持体上に押出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースエステル溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができた。
【0155】
共流延の場合、内側と外側の厚さは特に限定されないが、好ましくは外側が全膜厚の1〜50%であることが好ましく、より好ましくは2〜30%の厚さである。ここで、3層以上の共流延の場合は金属支持体に接した層と空気側に接した層のトータル膜厚を外側の厚さと定義する。
【0156】
共流延の場合、置換度の異なるセルロースアシレート溶液を共流延して、積層構造のセルロースエステルフィルムを作製することもできる。例えば、TAC層/DAC層/TAC層といった構成のセルロースエステルフィルムを作ることも、DAC層/TAC層/DAC層といった構成のセルロースエステルフィルムを作ることも出来る。また、前述の可塑剤、紫外線吸収剤、マット剤等の添加物濃度が異なるセルロースエステルアシレート溶液を共流延して、積層構造のセルロースエステルフィルムを作製することもできる。例えば、マット剤は、表面層に多く、又は表面層のみに入れることが出来る。可塑剤、紫外線吸収剤は表面層よりも内部層に多くいれることができ、内部層のみにいれてもよい。又、内部層と表面層で可塑剤、紫外線吸収剤の種類を変更することもでき、例えば表面層に低揮発性の可塑剤及び/又は紫外線吸収剤を含ませ、内部層に可塑性に優れた可塑剤、或いは紫外線吸収性に優れた紫外線吸収剤を添加することもできる。また、剥離剤を金属支持体側の表面層のみ含有させることも好ましい態様である。また、冷却ドラム法で金属支持体を冷却して溶液をゲル化させるために、表面層に貧溶媒であるアルコールを内部層より多く添加することも好ましい。表面層と内部層のTgが異なっていても良く、表面層のTgより内部層のTgが低いことが好ましい。又、流延時のセルロースエステルを含む溶液の粘度も表面層と内部層で異なっていても良く、表面層の粘度が内部層の粘度よりも小さいことが好ましいが、内部層の粘度が表面層の粘度より小さくてもよい。
【0157】
(乾燥工程、延伸工程)
ドラムやベルト上で乾燥され、剥離されたウェブの乾燥方法について述べる。ドラムやベルトが1周する直前の剥離位置で剥離されたウェブは、千鳥状に配置されたロール群に交互に通して搬送する方法や剥離されたウェブの両端をクリップ等で把持させて非接触的に搬送する方法などにより搬送される。乾燥は、搬送中のウェブ(フィルム)両面に所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエーブなどの加熱手段などを用いる方法によって行われる。急速な乾燥は、形成されるフィルムの平面性を損なう恐れがあるので、乾燥の初期段階では、溶媒が発泡しない程度の温度で乾燥し、乾燥が進んでから高温で乾燥を行うのが好ましい。支持体から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってフィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。収縮は、高温度で乾燥するほど大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているように、乾燥の全工程あるいは一部の工程を幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンタ−方式)が好ましい。上記乾燥工程における乾燥温度は、100〜145℃であることが好ましい。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量および乾燥時間が異なるが、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。本発明のフィルムの製造では、支持体から剥離したウェブ(フィルム)を、ウェブ中の残留溶媒量が120質量%未満の時に延伸することが好ましい。
【0158】
なお、残留溶媒量は下記の式で表せる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを測定したウェブを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。ウェブ中の残留溶媒量が多すぎると延伸の効果が得られず、また、少なすぎると延伸が著しく困難となり、ウェブの破断が発生してしまう場合がある。ウェブ中の残留溶媒量のさらに好ましい範囲は70質量%以下であり、より好ましくは10質量%〜50質量%、特に好ましくは12質量%〜35質量%である。また、延伸倍率が小さすぎると十分な位相差が得られず、大きすぎると延伸が困難となり破断が発生してしまう場合がある。
延伸倍率は、1.1〜1.5であることが好ましく、1.15〜1.4であることがより好ましい。また、延伸は縦方向に行っても横方向に行っても両方向に行ってもよく、好ましくは少なくとも縦方向に行う。延伸倍率を10%以上とすることにより、より適切にReを発現させることができ、ボーイングを良好なものとすることができる。また、延伸倍率を50%以下とすることにより、ヘイズを低下させることができる。
本発明では、溶液流延製膜したものは、特定の範囲の残留溶媒量であれば高温に加熱しなくても延伸可能であるが、乾燥と延伸を兼ねると、工程が短くてすむので好ましい。しかし、ウェブの温度が高すぎると、可塑剤が揮散するので、室温(15℃)〜145℃以下の範囲が好ましい。また、互いに直交する2軸方向に延伸することは、フィルムの屈折率Nx、Ny、Nzを本発明の範囲に入れるために有効な方法である。例えば流延方向に延伸した場合、幅方向の収縮が大きすぎると、Nzの値が大きくなりすぎてしまう。この場合、フィルムの幅収縮を抑制あるいは、幅方向にも延伸することで改善できる。幅方向に延伸する場合、幅手で屈折率に分布が生じる場合がある。これは、例えばテンター法を用いた場合にみられることがあるが、幅方向に延伸したことで、フィルム中央部に収縮力が発生し、端部は固定されていることにより生じる現象で、いわゆるボーイング現象と呼ばれるものと考えられる。この場合でも、流延方向に延伸することで、ボーイング現象を抑制でき、幅手の位相差の分布を少なく改善できるのである。さらに、互いに直交する2軸方向に延伸することにより得られるフィルムの膜厚変動が減少できる。光学フィルムの膜厚変動が大き過ぎると位相差のムラとなる。光学フィルムの膜厚変動は、±3%、さらに±1%の範囲とすることが好ましい。以上の様な目的において、互いに直交する2軸方向に延伸する方法は有効であり、互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ1.2〜2.0倍、0.7〜1.0倍の範囲とすることが好ましい。ここで、一方の方向に対して1.2〜2.0倍に延伸し、直交するもう一方を0.7〜1.0倍にするとは、フィルムを支持しているクリップやピンの間隔を延伸前の間隔に対して0.7〜1.0倍の範囲にすることを意味している。
【0159】
一般に、2軸延伸テンターを用いて幅手方向に1.2〜2.0倍の間隔となるように延伸する場合、その直角方向である長手方向には縮まる力が働く。
したがって、一方向のみに力を与えて続けて延伸すると直角方向の幅は縮まってしまうが、これを幅規制せずに縮まる量に対して、縮まり量を抑制していることを意味しており、その幅規制するクリップやピンの間隔を延伸前に対して0.7〜1.0倍の範囲に規制していることを意味している。このとき、長手方向には、幅手方向への延伸によってフィルムが縮まろうとする力が働いている。長手方向のクリップあるいはピンの間隔をとることによって、長手方向に必要以上の張力がかからないようにしているのである。ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。また、いわゆるテンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸が行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
【0160】
(熱処理工程)
本発明のフィルムの製造方法は乾燥工程終了後に熱処理工程を設けることが好ましい。当該熱処理工程における熱処理は乾燥工程終了後に行われればよく、延伸/乾燥工程後直ちに行って良いし、あるいは乾燥工程終了後に後述する方法で一旦巻き取った後に、熱処理工程だけを別途設けても良い。本発明においては乾燥工程終了後に一旦、室温〜100℃以下まで冷却した後において改めて前記熱処理工程を設けることが好ましい。これは熱寸法安定性のより優れたフィルムを得られる点で有利であるからである。同様の理由で熱処理工程直前において残留溶媒量が2質量%未満、好ましくは0.4質量%未満まで乾燥されていることが好ましい。
このような処理によりフィルムの収縮率を小さくできる理由は明確ではないが、延伸工程にて延伸される処理を経たフィルムにおいては、延伸方向の残留応力が大きいため、熱処理によって前記残留応力が解消されることにより、熱処理温度以下の領域での収縮力が低減されるものと推定される。
【0161】
熱処理は、搬送中のフィルムに所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエーブなどの加熱手段などを用いる方法により行われる。
熱処理は150〜200℃の温度で行うことが好ましく、160〜180℃の温度で行うことがさらに好ましい。また、熱処理は1〜20分間行うことが好ましく、5〜10分間行うことがさらに好ましい。
熱処理温度が200℃を超えて長時間加熱すると、フィルム中に含まれる可塑剤の飛散量が増大するため問題となる場合がある。
【0162】
なお前記熱処理工程において、フィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。この収縮を可能な限り抑制しながら熱処理することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましく、幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンター方式)が好ましい。さらに、フィルムの幅方向および搬送方向に、それぞれ0.9倍〜1.5倍に延伸することが好ましい。
【0163】
得られたフィルムを巻き取る巻き取り機には、一般的に使用されている巻き取り機が使用でき、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。以上の様にして得られた光学フィルムロールは、フィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲であることが好ましい。または、巻き取り方向に対して直角方向(フィルムの幅方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲にあることが好ましい。特にフィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±0.1度以内であることが好ましい。あるいはフィルムの幅手方向に対して±0.1度以内であることが好ましい。
【0164】
(アルカリ鹸化処理)
本発明のフィルムの製造方法は、下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有するセルロースアシレートフィルムを、下記式(A−1)〜(A−3)を満たす条件で鹸化処理することを特徴とする。
式(A−1):25≦T≦45
(式(A−1)中、Tは鹸化処理温度(単位:℃)を表す。)
式(A−2):0.5≦S≦5
(式(A−2)中、Sは鹸化処理時間(単位:分)を表す。)
式(A−3):0.5≦D≦4.5
(式(A−3)中、Dは鹸化溶液のアルカリ規定度(単位:N)を表す。)
式(B):2.0≦DS≦2.7
(式(B)中、DSはセルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度を表す。)
また、前記鹸化処理前のセルロースアシレートフィルムが2以上の積層構造を有することが好ましい。さらに、前記鹸化処理前のセルロースアシレートフィルムの少なくとも1つの層が前記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有し、該前記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有する層とは別の少なくとも1つの層が前記式(C)を満たすセルロースアシレートを含有することが好ましい。さらに、前記鹸化処理前のセルロースアシレートフィルムが3以上の積層構造を有しており、少なくとも1つの内部層が前記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有し、両面の表面層が前記式(C)を満たすセルロースアシレートを含有することが好ましい。さらに、前記鹸化処理前のセルロースアシレートフィルムの少なくとも1つの表面層の膜厚が0.5〜5μmであることが好ましい。このような積層構造のセルロースアシレートフィルムに対しても、本発明の製造方法における鹸化処理は好ましく用いることができる。
【0165】
前記鹸化処理温度を従来のTAC用の鹸化条件よりも温和にすることが本発明の特徴の1つであり、鹸化処理温度を45℃以下とすることで、顕著にフィルム表面面状を改良することができる。また、鹸化処理温度を25℃以上とすることで、水の接触角を本発明の好ましい範囲とすることができる。
前記鹸化処理温度は、25〜45℃であることが好ましく、30〜45℃であることが特に好ましい。
【0166】
前記鹸化処理時間を0.5分以上とすることで水の接触角を本発明の好ましい範囲とすることができる。前記鹸化処理時間を5分以下とすることでフィルム表面面状を顕著に改良し、さらにヘイズを小さくすることができる上、偏光板に本発明のフィルムを組み込んだ際に後述の偏光板耐久性も改善される。
前記鹸化処理時間は1〜5分であることが好ましく、1.5〜5分であることがより好ましく、2〜5分であることが特に好ましく、2〜4分であることがさらに好ましい。
【0167】
セルロースアシレートフィルムに対する鹸化開始時の鹸化液の温度と鹸化終了時の鹸化液の温度との差は0.1℃以上であることが好ましく、0.5〜20℃であることがより好ましく、3〜10℃であることがさらに好ましい。このような温度差を実現するためには、鹸化溶液槽中、フィルムが浸漬される入り口付近の鹸化液温度と、フィルムが鹸化液から取り出される出口付近の鹸化液温度との差を好ましくは0.1℃以上、より好ましくは0.5〜20℃、さらに好ましくは3〜10℃に設定すればよい。具体的には、アルカリ溶液槽中に仕切り板を設けて溶液の流れを妨げ、昇温用のヒーターを追加するなどの方法を用いて設定することができる。このとき、鹸化終了時の温度(出口付近の温度)のほうが高いほうが好ましい。このことにより、フィルム中の添加剤の析出を抑え、効率的にフィルムの接触角を低下させることができる。
液中に溶け出したセルロースアシレートフィルムの添加剤は、セルロースアシレートフィルム上に付着して輝点故障(異物欠陥)の発生原因となることがある。このため、活性炭を用いて、溶出成分を吸着、除去する方法を好ましく利用することができる。活性炭は、鹸化溶液中の着色成分を除去する機能を有すれば良く、その形態、材質等に制限はない。具体的には、活性炭を直接アルカリ鹸化溶液槽に入れる方法を採用してもよいし、鹸化溶液槽と活性炭を充填した浄化装置間に鹸化溶液を循環させる方法を採用してもよい。
【0168】
本発明のフィルムの製造方法は、前記鹸化処理が、鹸化反応を進行させるアルカリ鹸化溶液による鹸化工程と、鹸化反応を減速または停止させる工程とを含むことが好ましい。また、前記鹸化反応を減速または停止させる工程が、希釈工程または中和工程であることが好ましい。すなわち、アルカリ溶液をフィルムから洗い落とす工程を含むことが好ましい。本発明のフィルムの製造方法は、アルカリ溶液をアルカリ希釈液で洗い落とす工程、アルカリ溶液をアルカリ中和液で中和する工程、アルカリ中和液をフィルムから洗い落とす工程を実施してもよく、これらを組み合わせて実施することも、これらすべてを同時に実施することもできる。なお、これらを実施する順番については本発明の趣旨に反しない限りにおいて特に制限はない。
本発明のフィルムの製造方法では、鹸化処理工程、アルカリ希釈液(好ましくは水)による希釈工程、アルカリ中和液(好ましくは酸性溶液)による中和工程をこの順に実施することが鹸化後フィルムの性能安定性の観点から、より好ましい。さらに、その後に水による水洗工程を実施することがより好ましい。また、その後乾燥工程を実施することがよりさらに好ましい。
【0169】
また、これらの工程は、フィルムを搬送しながら実施することが好ましい。セルロースアシレートフィルムの搬送速度は、上記アルカリ鹸化溶液の組成と鹸化処理方式の組み合わせによって決定する。
【0170】
アルカリ鹸化溶液を用いてセルロースアシレートフィルムを処理する工程は、従来公知のいずれの方法のものを用いてよく、浸漬方法、吹き付け方法、塗布方法等が挙げられる。例えば、特開2001−188130号公報に記載されるようなアルカリ溶液に浸漬する方法を用いてもよく、特開2004−203965号公報に記載されるようなアルカリ溶液を塗布する方法を用いてもよい。特に、フィルムの片面のみをムラ無く均一に鹸化処理する場合は、塗布方式が好ましい。塗布の方法としては、後に述べるように従来公知の塗布方法を用いることができる。
アルカリ溶液に浸漬する鹸化工程の場合、鹸化液は、鹸化溶液槽の中で対流させることが好ましい。対流速度は、溶液に紐をつけた溶液と同等の比重を有するフロートを入れ、単位時間あたりに紐が繰り出された量から測定することができ、線速度が1m/分以上であることが好ましく、10〜1000m/分であることがより好ましく、30〜500m/分であることがさらに好ましく、50〜300m/分であることが最も好ましい。鹸化液の対流は、溶液槽中に撹拌羽により実施することができる。
【0171】
本発明のフィルムの製造方法では、鹸化処理は、アルカリ溶液を鹸化液として用いて鹸化処理する。鹸化液はアルカリ剤と水からなり、場合により界面活性剤および相溶化剤が含有されていてもよい。
アルカリ溶液の濃度(アルカリ溶液中のアルカリ剤の含有量)は、セルロースアシレートのアシル置換度に応じて決定する必要がある。すなわち、セルロースアシレートにおいては、アシル基の炭素数増大に伴って、鹸化効率が著しく低下するため、アシル基の炭素数が大きくなるほどアルカリ濃度は高くする必要があるが、アルカリ濃度が高すぎるとアルカリ溶液の安定性が損なわれ、長時間塗布において析出する場合もあるため、セルロースアシレートの一次構造に応じて適切にアルカリ溶液を選定することがポイントとなる。そのため、本発明で用いられるアルカリ溶液は規定度が0.5〜4.5Nであり、1〜4.5Nであることがより好ましく、1.5〜4Nであることが特に好ましい。また、アルカリ溶液の濃度は、この範囲内で、使用するアルカリ剤の種類、反応温度および反応時間に応じて調整することもできる。
【0172】
アルカリ剤としては、第3リン酸ナトリウム、第3リン酸カリウム、第3リン酸アンモニウム、第二リン酸ナトリウム、第二リン酸カリウム、第二リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、ほう酸ナトリウム、ほう酸カリウム、ほう酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウムなどの無機アルカリ剤が挙げられる。また、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、エチレンイミン、エチレンジアミン、ピリジン、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルブチルアンモニウムヒドロキシドなどの有機アルカリ剤も用いられる。これらのアルカリ剤は単独または2種以上を組み合わせて併用することもでき、一部を例えばハロゲン化したような塩の形で添加してもよい。
これらのアルカリ剤の中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。その理由は、これらの量を調整することにより広いpH領域でのpH調整が可能となるためである。
【0173】
アルカリ溶液の溶媒は、水の単独溶媒、または水と有機溶媒との混合溶媒である。好ましい有機溶媒は、アルコール類、アルカノール類、グリコール化合物のモノエーテル類、ケトン類、アミド類、スルホキシド類、エーテル類が挙げられ、より好ましくは、分子量61以上のアルコール類であり、さらに好ましくは分子量61以上のグリコール類であり、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリンモノメチルエーテル、グリセリンモノエチルエーテル、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。水と併用される有機溶媒は、単独または2種類以上を混合して用いてもよい。
【0174】
有機溶媒を単独或いは2種以上を混合する場合の少なくとも1種の有機溶媒は、水への溶解性が大きなものが好ましい。有機溶媒の水の溶解度は、50質量%以上が好ましく、水と自由に混合するものがより好ましい。アルカリ剤、鹸化処理で副生する脂肪酸の塩、空気中の二酸化炭素を吸収して生じた炭酸の塩等への溶解性が充分なアルカリ溶液を調製できる。
有機溶媒の溶媒中の使用割合は、溶媒の種類、水との混和性(溶解性)、反応温度および反応時間に応じて決定する。短い時間で鹸化反応を完了するためには、高い濃度に溶液を調製することが好ましい。ただし、溶媒濃度が高すぎるとアシレートフィルム中の成分(可塑剤など)が抽出されたり、フィルムの過度の膨潤が起きたりする場合があり、適切に選択する必要がある。
水と有機溶媒の混合比は、3/97〜85/15質量比が好ましい。より好ましくは5/95〜60/40質量比であり、さらに好ましくは15/85〜40/60質量比である。この範囲において、アシレートフィルムの光学特性を損なうことなく容易にフィルム全面が均一に鹸化処理される。
【0175】
本発明で好ましく用いられるアルカリ溶液の如く、高濃度のアルカリ溶液は環境雰囲気のCO2を吸収して溶液中で炭酸となりpHを下げるとともに、炭酸塩の沈殿物を発生させやすくなるため、環境雰囲気のCO2濃度は5000ppm以下が好ましい。環境雰囲気のCO2の吸収を抑制するために、アルカリ溶液の塗布コーターを半密閉構造としたり、乾燥空気、不活性ガスやアルカリ溶液の有機溶剤飽和蒸気で覆うようにしたりすることがより好ましい。
【0176】
本発明で用いられるアルカリ溶液には、界面活性剤を含有させることもできる。界面活性剤を添加することによって、たとえ有機溶媒がフィルム含有物質を抽出したとしてもアルカリ溶液中に安定に存在させ、後の水洗工程においても抽出物質が析出、固体化しない。好ましく用いられる界面活性剤については、例えば、特開2003−313326号公報などに記載されている。
【0177】
本発明で用いられるアルカリ溶液には、消泡剤を含有させることもでき、好ましく用いられる消泡剤については、例えば、特開2003−313326号公報などに記載されている。
【0178】
本発明で用いられるアルカリ溶液には、防黴剤および/または防菌剤を含有させることもでき、好ましく用いられる防黴剤/防菌剤については、例えば、特開2003−313326号公報などに記載されている。
【0179】
また、アルカリ溶液に用いる水としては、日本国水道法(昭和32年法律第177号)およびそれに基づく水質基準に関する省令(昭和53年8月31日厚生省令第56号)、同国温泉法(昭和23年7月10日法律第125号およびその別表)、および、WHO規定水道水基準によって規定される水中の混入の状態における各元素やミネラル等への影響、等に基づくものが好ましい。
本発明の効果の達成をより確実にするために、上述した水を用いることが好ましく、アルカリ溶液のカルシウム濃度は、0.001〜400mg/Lであるのが好ましく、0.001〜150mg/Lであるのがさらに好ましく、0.001〜10mg/Lであるのが特に好ましい。マグネシウム濃度は、0.001〜400mg/Lであるのが好ましく、0.001〜150mg/Lであるのがさらに好ましく、0.001〜10mg/Lであるのが特に好ましい。カルシウムやマグネシウム以外の他の多価の金属イオンも含まれないことが好ましい。多価金属イオンの濃度は0.002〜1000mg/Lであることが好ましい。一方、アルカリ溶液に塩化物イオンや炭酸イオンなどのアニオンも含まないことが好ましい。塩化物イオン濃度は0.001〜500mg/Lであることが好ましく、0.001〜300mg/Lであるのがさらに好ましく、0.001〜100mg/Lであるのが特に好ましい。また、炭酸イオンも含まれないことが好ましい。炭酸イオン濃度は0.001〜3500mg/Lであることが好ましく、0.001〜1000mg/Lであるのがさらに好ましく、0.001〜200mg/Lであるのが特に好ましい。これらの濃度範囲において、溶液中の不溶解物の生成が抑えられる。
【0180】
セルロースアシレートフィルムの鹸化処理方法は、セルロースアシレートフィルムを予め室温以上に加熱する工程を含むことが好ましく、セルロースアシレートフィルムをその表面が室温以上の温度でアルカリ鹸化溶液により鹸化する処理には、アルカリ鹸化溶液に浸漬する前に予め室温以上に加熱する工程、アルカリ液を予め加温しておく工程、或いはこれらを組み合わせた工程等が挙げられる。アルカリ鹸化溶液に浸漬する前に予め室温以上に加熱する工程と組み合わせることが好ましい。
【0181】
セルロースアシレートフィルムを予め室温以上に加熱する工程では、熱風の衝突(吹き付け)による直接加熱、加熱ロールによる接触伝熱、マイクロ波による誘導加熱、あるいは赤外線ヒーターによる輻射熱加熱等が好ましく利用できる。特に加熱ロールによる接触伝熱は、熱伝達効率が高く小さな設置面積で行える点、搬送開始時のフィルム温度の立ち上りが速い点で好ましい。一般の2重ジャケットロールや電磁誘導ロール(トクデン社製)が利用できる。
【0182】
また、セルロースアシレートフィルムを予め室温以上に加熱する工程、あるいは、セルロースアシレートフィルムにアルカリ鹸化溶液を塗布する工程の前に、粉塵を除去するため、並びに膜表面の濡れ性をより均一にするために除電処理、除塵処理あるいは、ウエット処理を実施することもできるこれらの方法は一般に知られている方法を用いることができ、除電方法としては、特開昭62−131500号公報に記載の方法、や除塵方法としては特開平2−43157号公報に記載の方法を挙げることができる。
【0183】
鹸化工程において、添加剤を含有する高分子フィルムを鹸化処理した場合、添加剤が鹸化液に溶出してしまい、鹸化後のフィルムのヘイズが上昇してしまうなどの問題がある。したがって、鹸化液への溶出性が大きい添加剤を含有する高分子フィルムを鹸化処理する際には、処理温度、処理時間、鹸化液アルカリ規定度などの各種鹸化条件を適宜調節し、添加剤の鹸化液への溶出をできるだけ抑制する必要がある。
【0184】
本発明の鹸化処理方法は、鹸化液溶出量の大きい添加剤を含有する高分子フィルムを鹸化する際にも有効である。
【0185】
前記アルカリ希釈液およびアルカリ中和液の炭酸イオン濃度を3500mg/L以下とすることにより効果的にフィルム表面に沈殿物を付着させないことができる。より好ましくは1000mg/L以下であり、特に好ましくは100mg/L以下である。炭酸イオン濃度を3500mg/L以下とすることによって、鹸化処理したセルロースアシレートフィルムに配向膜を塗設し、ラビング処理を行った後、液晶性分子による光学異方層を設置する際に異物欠陥や配向欠陥を低減することができる。
【0186】
鹸化反応を進行させた後、アルカリ鹸化溶液とセルロースアシレートフィルムとの鹸化反応を減速あるいは停止するには、大きく2つの方法がある。第一の方法は、塗布されたアルカリ鹸化溶液を希釈してアルカリ濃度を下げ、反応速度を低下させる方法であり、第ニの方法は、アルカリ鹸化溶液が塗布されたセルロースアシレートフィルムの温度を下げ、反応速度を低下させる方法である。
アルカリ希釈液を用いる方法とアルカリ中和液を用いる方法は既に記載したようにアルカリ鹸化溶液をフィルムから洗い落とす工程の一部でもある。
【0187】
(1)希釈液を用いる方法
塗布されたアルカリ鹸化溶液を希釈するためには、希釈液(アルカリ希釈液ともいう)を塗布する方法、希釈液を吹き付ける方法、希釈液の入った容器にセルロースアシレートフィルムごと浸漬する方法が採用できる。本発明の製造方法では、希釈液の入った容器にセルロースアシレートフィルムごと浸漬する方法が好ましい。
【0188】
アルカリ希釈液は、アルカリ濃度を低下させること、フィルム添加物質などの抽出素材をフィルムに付着させないことが目的であるため、アルカリ鹸化溶液中のアルカリ剤を溶解する溶媒でなければならない。よって、水または水と有機溶剤との混合液を用いることが好ましく、二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。後述するアルカリ鹸化溶液に用いた有機溶剤が優位に用いることができる。本発明の製造方法では、好ましい溶剤は水であり、水洗時の温度は室温程度であることが好ましい。
また、アルカリ希釈液には、フィルム添加物質などの抽出素材をフィルムに付着させないために界面活性剤を含ませることも好ましい。界面活性剤としては特に限定はないが、後述するアルカリ鹸化溶液に用いる界面活性剤を有利に利用できる。さらに、アルカリ希釈液には、消泡剤を含ませることもフィルム表面への微小な気泡の付着を無くし、アルカリ鹸化溶液およびアルカリ希釈液の洗浄がムラ無く均一に行うことができるため、好ましい。
【0189】
(2)中和液を用いる方法
アルカリによる鹸化反応を迅速に停止するため、酸を用いることもできる。少ない量で中和するため、強酸を用いることが好ましい。さらに、水洗の容易さを考慮すると、アルカリと中和反応後に生成する塩が水に対する溶解度が高い酸を選定することが好ましい。本発明の製造方法では、塩酸、硝酸、リン酸、クロム酸、スルホン酸、メタンスルホン酸、硫酸がより好ましく、硫酸が特に好ましい。
また、アルカリ鹸化液中の炭酸イオン濃度や塩化物イオン濃度が高い場合には、急激な中和反応により沈殿が生じることあり、その場合にはアルカリ中和液中に緩衝性の弱酸を添加することが好ましい。このような弱酸としてはPergamonPress社発行のIONISATION CONSTANTS OF ORGANIC ASIDS IN AQUEOUS SOLUTIONに記載のソルビットやサッカロース、グルコース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、フラクトース、リボース、マンノース及びL−アスコルビン酸などの糖類の他、アルコール類、アルデヒド類、フェノール性水酸基を有する化合物やオキシム類、核酸関連物質などが挙げられる。本発明の製造方法では、0.1N程度の硫酸を用いることが好ましい。
また、本発明の製造方法では、用いる中和液の温度は30℃程度であることが好ましい。
【0190】
塗布されたアルカリ鹸化溶液を酸で中和するためには、酸溶液(アルカリ中和液)を塗布する方法、酸溶液を吹き付ける方法、あるいは酸溶液の入った容器にセルロースアシレートフィルムごと浸漬する方法が採用できる。酸溶液を塗布する方法と吹き付ける方法がセルロースアシレートフィルムを連続搬送しながら実施する上で好ましい。酸溶液を塗布する方法は、必要最小限の酸溶液を用いて実施できるために最も好ましい。この中でも本発明の製造方法では、中和工程では酸溶液の入った容器にセルロースアシレートフィルムごと浸漬する方法が好ましい。
【0191】
アルカリ中和液の塗布は、既にアルカリ鹸化溶液が塗布されたセルロースアシレートフィルム上に酸溶液を再度適用できる連続塗布可能な方式であることが望ましい。塗布は、ダイコーター(エクストルージョンコーター、スライドコーター)、ロールコーター(順転ロールコーター、逆転ロールコーター、グラビアコーター)、ロッドコーター(細い金属線を巻いたロッド)が好ましく利用できる。塗布方式に関しては、各種文献(例えば、Modern Coating and Drying Technology, Edward Cohen and Edgar B. Gutoff, Edits., VCH Publishers, Inc, 1992)に記載されている。アルカリ鹸化溶液と中和液とを速やかに混合してアルカリ性を低下させるためには、中和液が塗布される微小領域(塗布ビードと呼ぶこともある)において、流れが層流であるダイコーターよりも、流れが一様とならないロールコーターやロッドコーターが好ましい。
【0192】
アルカリ中和液の塗布量は、アルカリの種類とアルカリ鹸化溶液の濃度に応じて決定する。塗布ビードにおける流れが層流であるダイコーターの場合、中和液の塗布量は、元のアルカリ塗布量の0.1〜5倍であることが好ましく、0.5〜2倍であることがさらに好ましい。ロールコーターやロッドコーターの場合は、塗布ビード内の流動が一様でないため、アルカリ鹸化溶液と中和液との混合が発生し、混合した液が再塗布される。したがって、この場合は中和液の塗布量によって中和率を特定することができないため、中和液塗布後のアルカリ濃度を測定する必要がある。ロールコーターやロッドコーターにおいては、酸溶液塗布後のpHが4〜9になる様に酸溶液の塗布量を決定することが好ましく、6〜8になるように決定することがさらに好ましい。
【0193】
アルカリ中和液は、アルカリ性を低下させること、フィルム添加物質などの抽出素材をフィルムに付着させないことが目的であるため、中和反応で生じる塩アルカリ鹸化溶液中のアルカリ剤を溶解する溶媒でなければならない。よって、水または水と有機溶剤との混合液を用いることが好ましく、二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。後述するアルカリ鹸化溶液に用いた有機溶剤が有意に用いることができる。好ましい溶剤は水である。
また、アルカリ中和液には、フィルム添加物質などの抽出素材をフィルムに付着させないために界面活性剤を含ませることが好ましい。界面活性剤としては特に限定はないが、後述するアルカリ鹸化溶液に用いる界面活性剤を有利に利用できる。さらに、アルカリ中和液には、後述する緩衝剤を含ませることが洗浄効率を高めるために好ましい。
【0194】
また、アルカリ希釈液およびアルカリ中和液の塩化物イオン及びカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの多価金属イオンを各々300mg/L以下及び500mg/L以下とすることにより、濃縮したアルカリ剤やフィルム添加物質などの抽出素材をフィルム表面に析出させず、鹸化処理したセルロースアシレートフィルムに配向膜を塗設し、ラビング処理を行った後、液晶性分子による光学異方層を設置した際の光学異方層の密着不良を低減することができる。
アルカリ希釈液あるいはアルカリ中和液には、後述するように水あるいは水及び有機溶剤からなる液を用いることが好ましいが、用いる水は純水が好ましく、純水として、液中のカルシウム濃度は、0.001〜100mg/Lであることが好ましく、0.001〜50mg/Lであるのが更に好ましく、0.001〜10mg/Lであるのが特に好ましい。マグネシウム濃度は、0.001〜50mg/Lであることが好ましく、0.001〜30mg/Lであるのが更に好ましく、0.001〜10mg/Lであるのが特に好ましい。カルシウムやマグネシウム以外の多価の金属イオン、例えばBe,Sr,Ba,Al,Sn,Pb,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu(II),Co,Zn,も含まれないことが好ましい。多価金属イオンの濃度は0.002〜150mg/Lであることが好ましい。
【0195】
洗浄工程は、アルカリ鹸化溶液と、アルカリ希釈液もしくはアルカリ中和液とを除去するために実施する。これらの中のアルカリ剤、酸、塩、フィルム添加物質などの抽出素材が残っていると、鹸化反応が進行したり、後に塗布する配向膜ならびに液晶性分子層の塗膜形成や液晶分子の配向に影響を及ぼしたりする。
洗浄は、洗浄水を塗布する方法、洗浄水を吹き付ける方法、あるいは、洗浄水の入った容器にセルロースアシレートフィルムごと浸漬する方法で実施できる。本発明の製造方法では、洗浄水の入った容器にセルロースアシレートフィルムごと浸漬する方法が好ましい。
【0196】
洗浄水には、純水を用いることが好ましい。本発明に用いられる純水とは、比電気抵抗が少なくとも0.1MΩ・cm以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンは1mg/L未満、クロルイオン、硝酸イオンなどのアニオンは0.1mg/L未満であることが好ましい。純水は、逆浸透膜、イオン交換樹脂、蒸留などの単体、あるいはそれらの組み合わせによって得ることができる。
【0197】
洗浄水の温度は、高い方が、洗浄能力が上がる。しかし、搬送されるセルロースアシレートフィルム上に水を吹き付ける方法においては、空気と接触する水の面積が大きく、高温ほど蒸発が著しくなるため、周囲の湿度が増し、結露する危険性が高くなる。このため、本発明の製造方法では、洗浄水の温度は室温程度に設定することが好ましい。
【0198】
アルカリ鹸化溶液の成分、または鹸化反応の生成物が水に容易に溶けない場合、水洗工程の前または後に水に不溶な成分を除去するための溶剤洗浄工程を付加しても良い。溶剤洗浄工程は、上に述べた水洗方法、水切り手段を利用することができる。用いる有機溶剤については、後述のアルカリ鹸化溶液に使用できる溶剤のほか、新版溶剤ポケットブック(オーム社、1994年刊)に記載の溶剤を使用することができる。
【0199】
洗浄工程の次に乾燥工程を実施することもできる。通常は、エアナイフなどの水切り手段で充分に水膜を除去できることが多く、乾燥工程は必要でないことあるが、セルロースアシレートフィルムをロール状に巻き取る前に、好ましい含水率に調整するために加熱乾燥してもよい。逆に、設定された湿度を有する風で調湿することもできる。乾燥風の温度は30〜200℃が好ましく、40〜150℃がより好ましく、50〜120℃が特に好ましい。
【0200】
[偏光板]
本発明の偏光板は、偏光子の両側に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板において、該保護フィルムの少なくとも1枚が本発明のフィルムであることを特徴とする。すなわち、本発明のフィルムは、偏光板用保護フィルムに用いられる。偏光板は前述の如く、偏光子の少なくとも一方の面に保護フィルムを貼り合わせ積層することによって形成される。偏光子は従来から公知のものを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコールフィルムのような親水性ポリマーフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して延伸したものである。セルロ−スエステルフィルムと偏光子との貼り合わせは、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行うことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコ−ル水溶液が好ましく用いられる。
特に本発明のフィルムを用いた偏光板は高温高湿条件下での劣化が少なく、長期間安定した性能を維持することができる。
【0201】
[液晶表示装置]
本発明の偏光板は、本発明の偏光板を有することを特徴とする。本発明のフィルムを偏光板用保護フィルムとして用いる場合、偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルム/液晶セル/本発明の偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルムの構成、もしくは偏光板用保護フィルム/偏光子/本発明の偏光板用保護フィルム/液晶セル/本発明の偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルムの構成で好ましく用いることができる。特に、TN型、VA型、OCB型などの液晶セルに貼り合わせて用いることによって、さらに視野角に優れ、着色が少ない視認性に優れた表示装置を提供することができる。
本発明の液晶表示装置は、VAモードであることが、本発明のフィルムが前記好ましい範囲のReおよびRthを発現する観点から特に好ましい。
本発明のセルロースエステルフィルム、該フィルムを用いた偏光板は、様々な表示モードの液晶セル、液晶表示装置に用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。
【0202】
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向している。
VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(シャープ技報第80号11頁)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(月刊ディスプレイ5月号14頁(1999年))が含まれる。
【0203】
VAモードの液晶表示装置は、液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなる。液晶セルは、二枚の電極基板の間に液晶を担持している。本発明における透過型液晶表示装置の一つの態様では、本発明のフィルムは、液晶セルと一方の偏光板との間に、一枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に二枚配置する。
【0204】
本発明の透過型液晶表示装置の別の態様では、液晶セルと偏光子との間に配置される偏光板の透明保護フィルムとして、本発明のフィルムからなる光学補償シートが用いられる。一方の偏光板の(液晶セルと偏光子との間の)保護フィルムのみに上記の光学補償シートを用いてもよいし、あるいは双方の偏光板の(液晶セルと偏光子との間の)二枚の保護フィルムに、上記の光学補償シートを用いてもよい。一方の偏光板のみに上記光学補償シートを使用する場合は、液晶セルのバックライト側偏光板の液晶セル側保護フィルムとして使用するのが特に好ましい。液晶セルへの張り合わせは、本発明のフィルムはVAセル側にすることが好ましい。保護フィルムは通常のセルロースエステルフィルムでも良く、本発明のフィルムより薄いことが好ましい。例えば、40〜80μmが好ましく、市販のKC4UX2M(コニカオプト株式会社製40μm)、KC5UX(コニカオプト株式会社製60μm)、TD80(富士フイルム製80μm)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0205】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0206】
(セルロースアシレートの調製)
表3に記載のアシル基の種類、置換度の異なるセルロースアシレートを調製した。これは、触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、アシル置換基の原料となるカルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。この時、カルボン酸の種類、量を調整することでアシル基の種類、置換度を調整した。またアシル化後に40℃で熟成を行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。なお、表中のセルロースアシレートの種類における、CABとは、セルロースアセテートブチレート(アシル基がアセチル基とブチリル基からなるセルロースエステル誘導体)の略称であり、CAPとは、セルロースアセテートプロピオネート(アシル基がアセチル基とプロピオニル基からなるセルロースエステル誘導体)の略称であり、CAとは、セルロースアセテート(アシル基がアセチル基のみからなるセルロースエステル誘導体)を意味する。また、表中の置換度DSAはアセチル基由来の置換度を示しており、置換度DSBは、表中の「置換基の種類」の欄に記載の置換基の置換度を示している。ここで、Prはプロピオニル基を、Buはブチリル基をそれぞれ示している。また、表3中、添加剤の種類の欄に記載の添加剤は下記表4に記載の添加剤を表し、BDPはビフェニルジフェニルフォスフェートを表し、TPPはトリフェニルホスフェートを表す。レターデーション調整剤については後述する。
【0207】
【表3】

【0208】
[セルロースアシレートフィルムの製膜]
(溶解)
表3に記載のセルロースアシレート、添加剤として、表3および表4に記載の添加剤、レターデーション調整剤1(RP1)、レターデーション調整剤2(RP2)をジクロロメタン/メタノール(87/13質量部)に攪拌しながら投入して攪拌し溶解させ、ドープD−1〜D−7を作製した。前記ドープは粘度が50〜70Pa・sの範囲となる様にそれぞれ調製した。このとき、ドープD−7にはセルロースアシレート100質量部に対して微粒子であるマット剤(AEROSIL R972、日本エアロジル(株)製、2次平均粒子サイズ1.0μm以下)0.13質量部となる様にマット剤分散液を混合、攪拌した。表3の添加剤の添加量はセルロースアシレート100質量部に対する添加剤の質量部である。また、表4に記載のP−1、P−3およびP−6はそれぞれ表1に記載の化合物を表す。
【0209】
【化8】

【0210】
【化9】

【0211】
【表4】

【0212】
(流延および延伸)
上述のドープを表5に記載の組み合わせでバンド流延機を用いて共流延した。残留溶剤量が25〜40質量%の範囲でバンドから剥ぎ取ったフィルムを、延伸温度150℃で、表5に記載の延伸倍率で、テンターを用いて幅方向に延伸した後、緩和して、セルロースアシレートフィルムF−1〜F−7を製膜した。ここでの延伸倍率は、テンターでの最大延伸倍率を示している。最大延伸倍率は流延幅を基準とした。得られたフィルムの幅および膜厚を表5に示した。
【0213】
作製したセルロースアシレートフィルムを、25℃・相対湿度60%で2時間以上調湿し、複屈折測定装置(KOBRA 21ADH、王子計測器(株)製)を用いて、25℃、相対湿度60%で波長590nmにおけるRe値およびRth値を測定し、結果を表5に示した。
【0214】
作製したセルロースアシレートフィルムを、25℃・相対湿度60%で2時間以上調湿し、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)を用いて、JIS K−6714に従ってヘイズを測定し、結果を表5に示した。
【0215】
【表5】

【0216】
表5より、鹸化処理前の3層構造のフィルムF−1〜F−7において、ReおよびRthが好適に発現していることがわかった。
【0217】
[実施例1]:セルロースアシレートフィルムの鹸化
(アルカリ鹸化溶液の調製)
表6に示す種類及び量のアルカリを水に徐々に溶解させアルカリ鹸化溶液を調製した。調整したアルカリ鹸化溶液のアルカリ規定度を表6に示した。
【0218】
【表6】

【0219】
先に作製したセルロースアシレートフィルムF−1〜F−7を表7に示す条件でアルカリ鹸化溶液に浸漬した後、室温の水洗浴槽で洗浄した。その後、30℃で0.1Nの硫酸を用いて、洗浄後のセルロースアシレートフィルムを浸漬することによって、中和した。再度、室温の水洗浴槽で洗浄した後、100℃の温風で乾燥し、鹸化フィルムS−1〜S−32を得た。
【0220】
得られた鹸化処理セルロースアシレートフィルムの面状を以下の基準に従って判断した。
◎ シワやツレもなく平面性と透明性に優れる。
○ 鹸化後フィルムの端部にわずかなたわみが残るが、フィルムは透明性に優れる。
△ 鹸化後フィルムの端部から生じたたわみがあるが、偏光板加工プロセスには問題なく、フィルムは透明性に優れる。
× フィルムは透明性に優れるものの、フィルムにはツレシワが残留し、偏光板加工プロセスでの貼り合わせに不適である。
×× フィルムにはツレシワの残留だけでなく凹凸が生じ、更にフィルムには白化がみられる。
得られた結果を表7に記載した。
【0221】
得られた鹸化処理セルロースアシレートフィルムの製膜時に流延支持体に接していた面の水に対する接触角を測定した。接触角の測定は、自動接触角計(DM500、協和界面化学(株))を用いて測定し、得られた結果を表7に記載した。
【0222】
得られた鹸化処理セルロースアシレートフィルムを、25℃・相対湿度60%で2時間以上調湿し、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)を用いて、JIS K−6714に従ってヘイズを測定し、結果を表7に示した。
【0223】
得られた鹸化処理セルロースアシレートフィルムの製膜時に流延支持体に接していた面のXPSを測定した。XPSの測定は、表面を光電子分光スペクトロメーター((株)島津製作所製、ESCA3400)を用い、X線光電分光法(ESCA)で測定した。そのときの炭素(C1s)スペクトルにおいて、288eV近傍の極大ピークと290eVのピーク比をXPS比とした。得られた結果を表7に記載した。
【0224】
【表7】

【0225】
[実施例2]:偏光板の作製
(偏光板の作製)
厚み75μm、重合度2400のポリビニルアルコール(PVA)フィルムを30℃の温水で40秒間膨潤させた後、ヨウ素濃度0.06質量%、ヨウ化カリウム6質量%の水溶液中に30℃で60秒浸漬して染色し、次いでホウ酸濃度4質量%、ヨウ化カリウム3質量%の水溶液中に40℃で60秒浸漬している間に、縦方向が元の長さの5.0倍になるように延伸した。その後、50℃で4分間乾燥させて、偏光子を得た。
【0226】
富士フイルム(株)製TD80Uを1.5モル/リットルで55℃の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した後、水で十分に水酸化ナトリウムを洗い流した。その後、0.05モル/リットルで35℃の希硫酸水溶液に15秒間浸漬した後、水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流した。最後に試料を120℃で十分に乾燥させた。
実施例1で鹸化処理した鹸化セルロースアシレートフィルムS−2と富士フイルム(株)製TD80Uを前記の偏光子を挟むようにポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り合せ、さらに70℃で30分間加熱した。この後、幅方向から3cm、カッターにて耳きりをし、有効幅1200mm、長さ50mのロール形態の偏光板P−1を作製した。このとき、偏光子および偏光子両側の保護フィルムはロール形態で作製されているため各ロールフィルムの長手方向が平行となっており連続的に貼り合わされる。また、セル側に配置される保護フィルムにおいては偏光子の透過軸と各セルロースアシレートフィルムの遅相軸とは平行になっている。
【0227】
鹸化セルロースアシレートフィルムS−2のかわりに、S−10、S−11、S−23およびS−27を用いた以外は同様にして偏光板P−2〜P−5を作製した。
【0228】
[粘着剤層の塗工]
(アクリル系ポリマー溶液の作製)
n−ブチルアクリレート(n−BA)75質量部、メチルアクリレート(MA)20質量部、2−ヒドロキシアクリレート(2−HEA)5質量部、酢酸エチル100質量部およびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2質量部を反応容器に入れ、この反応容器内の空気を窒素ガスで置換した後、撹拌下に窒素雰囲気中で、この反応容器を60℃に昇温させ、4時間反応させた。4時間後、トルエン100質量部、α−メチルスチレンダイマー5質量部およびAIBN2質量部を加え、90℃に昇温し、さらに4時間反応させた。反応後、酢酸エチルで希釈し、固形分20質量%のアクリルポリマー溶液を得た。ポリマー溶液の固形分100質量部にイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン(株)製)1.0質量部を添加し、よく撹拌して粘着剤組成物を得た。
【0229】
(粘着剤付偏光板1〜5の作製)
上記で作製した偏光板P−1〜P−5に粘着剤を塗工した。
上記アクリルポリマー溶液を含有する粘着剤組成物を剥離処理したフィルム上に25μmの粘着剤層を形成し、それを偏光板(セル側保護フィルム上)に転写し、温度23℃、湿度65%の条件で7日間熟成させて粘着剤付偏光板1〜5を作製した。さらにその粘着剤層の上にセパレートフィルムを貼り付けた。セルと反対側の保護フィルム上にはプロテクトフィルムを貼り付けた。
【0230】
[偏光板耐久性]
上記で作製した粘着剤付偏光板1〜5をガラス板に貼り付けたものを2組用意し、60℃90%RHで1000時間経時させた前後において、島津UV3100分光光度計で平行透過率および直交透過率を測定し、偏光度を算出した。耐久性は以下の基準に従い評価を行った。
【0231】
◎ 偏光度変化量 0%以下、−0.3%より大。
○ 偏光度変化量 −0.3%以下、−0.5%より大。
△ 偏光度変化量 −0.5%以下、−1.0%より大。
× 偏光度変化量 −1.0%以下。
得られた結果を表8に示した。
【0232】
【表8】

【0233】
表8より、本発明のフィルムを用いた偏光板においては熱および湿度に対する偏光度の変化が小さく、耐久性に優れることが明らかである。また、偏光板1〜5は、60℃・相対湿度90%で2時間経時後においても、手作業で鹸化フィルムを剥がすことは不可能であり、また、収縮等も生じていないことがわかった。
【0234】
[実施例3]:液晶表示装置への実装
(VAパネルへの実装)
VAモードの液晶TV(LC−20C5、シャープ(株)製)の表裏の偏光板および位相差板を剥し、表と裏側に、実施例2で作製および調湿した偏光板1〜5と視野角補償板のない市販の偏光板(HLC2−5618、サンリッツ(株)製)とを、ラミネーターロールを用いて、表9の組み合わせで貼り付けた。
この際、視認側の偏光板の吸収軸をパネル水平方向に、バックライト側の偏光板の吸収軸をパネル鉛直方向となり、粘着剤面が液晶セル側となるように配置した。
【0235】
(視野角耐久性)
測定機(EZ−Contrast 160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角(コントラスト比が10以上で黒側の階調反転のない範囲)を測定した。本発明の偏光板を使用した液晶表示装置は25℃・相対湿度60%で左右共に80度以上の良好な視野角を示した。その後、上記液晶表示装置を60℃・相対湿度90%の条件下で24時間静置し、その後25℃・相対湿度60%で2時間以上調湿し、25℃・相対湿度60%で再度視野角を測定した際、左右共に80度以上の良好な視野角の場合を「○」とし、それ以外の場合を「×」とした。
【0236】
【表9】

【0237】
表8および表9の結果から、本発明のフィルムを用いた偏光板においては、熱および湿度に対する偏光度の変化が小さく、耐久性に優れ、優れた表示性能を示す偏光板であることわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A−1)〜(A−3)で表される条件で鹸化処理されており、
下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有することを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
式(A−1):25≦T≦45
(式(A−1)中、Tは鹸化処理温度(単位:℃)を表す。)
式(A−2):0.5≦S≦5
(式(A−2)中、Sは鹸化処理時間(単位:分)を表す。)
式(A−3):0.5≦D≦4.5
(式(A−3)中、Dは鹸化溶液のアルカリ規定度(単位:N)を表す。)
式(B):2.0≦DS≦2.7
(式(B)中、DSはセルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度を表す。)
【請求項2】
2以上の積層構造を有することを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項3】
少なくとも1つの層が下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有し、
該下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有する層とは別の少なくとも1つの層が下記式(C)を満たすセルロースアシレートを含有することを特徴とする請求項2に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(B):2.0≦DS≦2.7
式(C):2.7≦DS≦3.0
(式(B)および式(C)中、DSはセルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度を表す。)
【請求項4】
3以上の積層構造を有しており、
少なくとも1つの内部層が下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有し、
両面の表面層が下記式(C)を満たすセルロースアシレートを含有することを特徴とする請求項2または3に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(B):2.0≦DS≦2.7
式(C):2.7≦DS≦3.0
(式(B)および式(C)中、DSはセルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度を表す。)
【請求項5】
少なくとも1つの表面層の膜厚が0.5〜5μmであることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
共流延によって製膜されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項7】
前記鹸化処理が、鹸化反応を進行させるアルカリ鹸化溶液による鹸化工程と、鹸化反応を減速または停止させる工程とを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項8】
前記鹸化反応を減速または停止させる工程が、希釈工程または中和工程であることを特徴とする請求項7に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項9】
少なくとも片側の表面をX線光電子分光法で測定したときの炭素(C1s)スペクトルにおいて、288eV近傍の極大ピークに対する290eVのピークの比が0.50以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の光学セルロースアシレートフィルム。
【請求項10】
少なくとも片側の表面の水の接触角が50°未満であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項11】
ヘイズが1.0%以下であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項12】
波長590nmにおける正面レターデーション値Re(590)および波長590nmにおける膜厚方向のレターデーション値Rth(590)が、下記式(I)および(II)を満たすことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(I):30nm≦Re(590)≦70nm
式(II):80nm≦Rth(590)≦250nm
【請求項13】
下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有することを特徴とするセルロースアシレートフィルムを、下記式(A−1)〜(A−3)を満たす条件で鹸化処理することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(A−1):25≦T≦45
(式(A−1)中、Tは鹸化処理温度(単位:℃)を表す。)
式(A−2):0.5≦S≦5
(式(A−2)中、Sは鹸化処理時間(単位:分)を表す。)
式(A−3):0.5≦D≦4.5
(式(A−3)中、Dは鹸化溶液のアルカリ規定度(単位:N)を表す。)
式(B):2.0≦DS≦2.7
(式(B)中、DSはセルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度を表す。)
【請求項14】
前記鹸化処理前のセルロースアシレートフィルムが2以上の積層構造を有することを特徴とする請求項13に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項15】
前記鹸化処理前のセルロースアシレートフィルムの少なくとも1つの層が下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有し、
該下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有する層とは別の少なくとも1つの層が下記式(C)を満たすセルロースアシレートを含有することを特徴とする請求項14に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(B):2.0≦DS≦2.7
式(C):2.7≦DS≦3.0
(式(B)および式(C)中、DSはセルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度を表す。)
【請求項16】
前記鹸化処理前のセルロースアシレートフィルムが3以上の積層構造を有しており、
少なくとも1つの内部層が下記式(B)を満たすセルロースアシレートを含有し、
両面の表面層が下記式(C)を満たすセルロースアシレートを含有することを特徴とする請求項14または15に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(B):2.0≦DS≦2.7
式(C):2.7≦DS≦3.0
(式(B)および式(C)中、DSはセルロース中のグルコース単位の水酸基のアシル基置換度を表す。)
【請求項17】
前記鹸化処理前のセルロースアシレートフィルムの少なくとも1つの表面層の膜厚が0.5〜5μmであることを特徴とする請求項14〜16のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項18】
前記鹸化処理前のセルロースアシレートフィルムが共流延によって製膜されたことを特徴とする請求項13〜17のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項19】
前記鹸化処理が、鹸化反応を進行させるアルカリ鹸化溶液による鹸化工程と、鹸化反応を減速または停止させる工程とを含むことを特徴とする請求項13〜18のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項20】
前記鹸化反応を減速または停止させる工程が、希釈工程または中和工程であることを特徴とする請求項19に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項21】
請求項13〜20のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法で製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項22】
偏光子の両側に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板において、該保護フィルムの少なくとも1枚が請求項1〜12および21のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムであることを特徴とする偏光板。
【請求項23】
請求項22に記載の偏光板を有する液晶表示装置。
【請求項24】
VAモードである、請求項23に記載の液晶表示装置。

【公開番号】特開2010−215733(P2010−215733A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61927(P2009−61927)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】