説明

セルロースアシレートフィルムの製造方法

【課題】Nzが0から1.5であり、かつ添加剤の低揮散性および低泣き出し性を両立したフィルムの製造方法の提供。
【解決手段】数平均分子量が200〜10000である可塑剤とセルロースアシレートとを含有するポリマー溶液を流延してウェブを形成する流延工程と、前記流延工程において形成された前記ウェブを残留溶媒量が100〜300質量%の状態で−30℃〜30℃で一方向に延伸する第一延伸工程と、前記第一延伸工程後に、ウェブの膜面温度が200℃以上にならないように制御しながら残留溶媒量を6〜120質量%の状態から12質量%未満の状態に減少させる乾燥工程と、前記乾燥工程後に60℃〜200℃で前記第一延伸工程での延伸方向と異なる方向に延伸する第二延伸工程とを含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートフィルムの製造方法に関する。Nzが0から1.5であるセルロースアシレートフィルムの製造方法であり、製造時のフィルムからの可塑剤の揮散および泣き出しを抑制した製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
位相差フィルム、偏光板および画像表示装置には、セルロースエステル、ポリエステル、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマービニルポリマー、および、ポリイミド等に代表されるポリマーフィルムが用いられている。これらのポリマーからは、平面性や均一性の点でより優れたフィルムを製造することができるため、光学用途のフィルムとして広く採用されている。例えば、適切な透湿度を有するセルロースエステルフィルムは、最も一般的なポリビニルアルコール(PVA)/ヨウ素からなる偏光膜とオンラインで直接貼り合わせることが可能である。そのため、セルロースアシレート、特にセルロースアセテートは偏光板の保護フィルムとして広く採用されている。
【0003】
セルロースアシレートフィルムを、光学補償フィルムの支持体、偏光板の保護フィルム、および液晶表示装置のような光学用途に使用する場合、その光学異方性の制御は、表示装置の性能(例えば、視認性)を決定する上で非常に重要な要素となる。近年の液晶表示装置の広視野角化要求に伴ってレターデーションの補償性向上が求められるようになっており、偏光膜と液晶セルとの間に配置される位相差フィルムの面内方向のレターデーション値(Re;以下、単に「Re」と称することがある)と膜厚方向のレターデーション値(Rth;以下、単に「Rth」と称することがある)とを適切に制御することが要求されている。
従来、IPS、TNモード液晶表示装置用の光学補償フィルムとして、Nz(Nz=Rth/Re+0.5)が0〜1.5の特性が求められ、その製造方法の提案がされている。
例えば、特許文献1には、フィルムを一軸延伸後、TgまたはTc以上の高温で加熱することにより該光学特性を持つ光学補償フィルムが提案されている。
また、特許文献2には、フィルムを積層し搬送方向に延伸加熱することで該光学特性が得られている。
【0004】
しかし、特許文献1では、延伸および高温結晶化処理の工程があり、製造方法が複雑でコストがかかる上に、高温での結晶化処理が必要であるため、フィルム中の可塑剤の揮散および泣き出し劣化の問題がある。
また、特許文献2では、遅相軸方向が延伸方向と一致するため搬送方向に遅相軸を持ち、偏光板との貼り合わせがロールツーロールできない。また、最終的には使用しないフィルムが工程中に必要となり、廃棄物の増加、コストアップが問題となる。
【0005】
したがって、フィルム中の可塑剤の揮散や泣き出し劣化、廃棄物増加、コストアップ等の問題のない、Nzが0〜1.5であるフィルムの製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2008/114332号(国際出願PCT/JP2007−053158号)
【特許文献2】特開平5−157911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような実状および検討に鑑みて、本発明者らは、従来の光学補償フィルムでは達成できなかった、Nzが0から1.5であり、かつ添加剤の低揮散性および低泣き出し性を両立したセルロースアシレートフィルムの製造方法の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、下記手段で本発明の上記目的が達成できることを見出した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 数平均分子量が200〜10000である可塑剤とセルロースアシレートとを含有するポリマー溶液を流延してウェブを形成する流延工程と、前記流延工程において形成された前記ウェブを残留溶媒量が100〜300質量%の状態で−30℃〜30℃で一方向に延伸する第一延伸工程と、前記第一延伸工程後に、ウェブの膜面温度が200℃以上にならないように制御しながら残留溶媒量を6〜120質量%の状態から12質量%未満の状態に減少させる乾燥工程と、前記乾燥工程後に60℃〜200℃で前記第一延伸工程での延伸方向と異なる方向に延伸する第二延伸工程とを含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[2] 前記乾燥工程において残留溶媒量を8〜100質量%の状態から2〜10質量%の状態に減少させることを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[3] 前記第一延伸工程がフィルム搬送方向への延伸であることを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[4] 前記乾燥工程において、前記ウェブの膜面温度を50〜120℃に制御することを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[5] 前記セルロースアシレートのアシル置換度が2.7〜3.0であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[6] 前記セルロースアシレートのアシル基がアセチル基であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[7] 前記ポリマー溶液が負の固有複屈折を有する可塑剤を含むことを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[8] 前記負の固有複屈折を有する可塑剤の重量平均分子量が1000〜10000であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[9] 前記ポリマー溶液が、数平均分子量が500〜10000であって繰り返し単位を有する可塑剤を含むことを特徴とする[8]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[10] 前記ポリマー溶液がポリエステル系可塑剤を含むことを特徴とする[1]〜[9]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[11] 前記ポリマー溶液中に、前記可塑剤が前記セルロースアシレートに対して2〜30質量%含まれていることを特徴とする[1]〜[10]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【0009】
本発明は、以下の好ましい態様に応用できる。
[12] [1]〜[11]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
[12−2] 結晶化熱ΔHcが0〜1.0J/gであることを特徴とする[12]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[13] 面内方向のレターデーション値(Re)が60nm〜300nmであることを特徴とする[12]または[12−2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[14] 遅相軸の方向と前記延伸工程における搬送方向とが直交することを特徴とする[11]〜[13]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[15] 厚み方向のレターデーション値(Rth)が−10nm〜80nmであることを特徴とする[11]〜[14]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[16] [11]〜[15]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムに、液晶組成物よりなる光学異方性層が積層された事を特徴とする位相差フィルム。
[17] [11]〜[15]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは[16]に記載の位相差フィルムを有することを特徴とする偏光板。
[18] [17]に記載の偏光板を用いたことを特徴とする画像表示装置。
[19] 液晶セルを有し、かつ該液晶セルの表示モードがIPS(In−Plane Switching)、または、TN(Twisted−Nematic)であることを特徴とする[18]に記載の画像表示装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法を用いることにより、Nzが0〜1.5の光学特性を得る場合にも高温での熱処理が不要となるため、添加剤の揮散性が低減し、かつ添加剤の泣き出しも抑制したセルロースアシレートフィルムが得られる。さらに、該セルロースアシレートフィルムを用いた光学特性が良好な位相差フィルム、偏光板、液晶表示装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法で得られたセルロースアシレートフィルムを応用した偏光板の一態様の断面模式図である。
【図2】本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法で得られたセルロースアシレートフィルムを応用した液晶表示装置の一態様の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法および該方法により製造されるセルロースアシレートフィルムについて詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書中において、Re(λ)およびRth(λ)は、それぞれ波長λnmにおけるReおよびRthの値を表す。なお、特に限定することなくReおよびRthと言う場合、それぞれRe(550)およびRth(550)を表す。
【0013】
《セルロースアシレートフィルムの製造方法》
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」と称する場合がある。)は、数平均分子量が200〜10000である可塑剤とセルロースアシレートとを含有するポリマー溶液を流延してウェブを形成する流延工程と、前記流延工程において形成された前記ウェブを残留溶媒量が100〜300質量%の状態で−30℃〜30℃で一方向に延伸する第一延伸工程と、前記第一延伸工程後に、ウェブの膜面温度が200℃以上にならないように制御しながら残留溶媒量を6〜120質量%の状態から12質量%未満の状態に減少させる乾燥工程と、前記乾燥工程後に60℃〜200℃で前記第一延伸工程での延伸方向と異なる方向に延伸する第二延伸工程を含むことを特徴とする。
ここで、前記乾燥工程を結晶化処理(工程)とも言う。ここで、「ウェブ」とは、乾燥工程前のセルロースアシレートフィルムを意味する。
また、残留溶媒量が6〜120質量%の状態から12質量%未満の状態に減少させるとは、乾燥工程開始時の残留溶媒量S(単位:質量%)が6〜12質量%であるときには、乾燥工程終了時の残留溶媒量をS質量%未満に減少させることを意味する。
【0014】
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法によれば、前記第一延伸工程において、残留溶媒量が100〜300%のウェブを延伸するため、ドライ延伸に比べて延伸温度が低くてもウェブの破断が少ない。また、結晶化処理前に延伸倍率を上げておくことができるため、延伸後の結晶化処理工程においても結晶化度を高める事ができる。
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法においては、前記第一延伸工程において残留溶媒量が100〜300%のウェブを延伸するため高倍率な延伸も可能である。このため、本発明の製造方法は、セルロースアシレートフィルムのReの制御範囲が広い。
さらに、200℃以上にならないような平均膜面温度で乾燥する工程を含み、その乾燥工程ことを特徴とする。この特定の範囲にすることにより下記で説明する光学特性を有するフィルムが得られる。
上記条件によれば、乾燥温度が低温であるため下記で説明する添加剤の泣き出し、揮散等の問題なく、また、劣化の問題も回避できる。
【0015】
〈流延工程〉
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法は、流延工程においてセルロースアシレートを含有するポリマー溶液(以下、ドープとも言う)を流延してウェブを形成する。
【0016】
[セルロースアシレート]
本発明の製造方法で製造されるセルロースアシレートフィルムは、フィルムを構成する主成分としてのポリマーがセルロースアシレートであるフィルムである。ここで、「主成分としてのポリマー」とは、フィルムが単一のポリマーからなる場合には、そのポリマーのことを示し、複数のポリマーからなる場合には、構成するポリマーのうち最も質量分率の高いポリマーのことを示す。
【0017】
前記セルロースアシレートフィルムはセルロースアシレートを含むことを特徴とする。
前記セルロースアシレートフィルムの材料として用いられるセルロースアシレートのアシル置換基は、例えばアセチル基単独からなるセルロースアシレートであっても、複数のアシル置換基を有するセルロースアシレートを含む組成物を用いてもよい。セルロースアシレートは、負の固有複屈折性を付与するために全置換度が2.7〜3.0であるものが好ましい。ここでいう負の固有複屈折とは、ポリマーフィルムを延伸した際に、延伸方向と直交方向に屈折率の最大値を持つ方向を持つ性質をいう。本発明では上記アシル置換度および下記で説明する延伸または結晶化処理工程を経ることにより必要な負の固有複屈折性を達成することが好ましい。
【0018】
セルロースエステルは、セルロースと酸とのエステルである。前記エステルを構成する酸としては、有機酸が好ましく、カルボン酸がより好ましく、炭素原子数が2〜22の脂肪酸がさらに好ましく、炭素原子数が2〜4の低級脂肪酸が最も好ましい。
前記セルロースアシレートは、セルロースとカルボン酸とのエステルである。前記セルロースアシレートは、セルロースを構成するグルコース単位の2位、3位および6位に存在するヒドロキシル基の水素原子の全部または一部が、アシル基で置換されている。前記アシル基の例としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、および、シンナモイル基が挙げられる。前記アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、ピバロイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基が好ましく、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基が最も好ましい。
セルロースエステルは、セルロースと複数の酸とのエステルであってもよい。また、セルロースアシレートは、複数のアシル基で置換されていてもよい。
【0019】
セルロースアシレートのセルロースの水酸基に置換されているアセチル基(炭素数2)の置換度をSAとし、セルロースの水酸基に置換されている炭素数3以上のアシル基の置換度をSBとしたとき、SAおよびSBを調整することにより、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのReの発現性、レターデーションの湿度依存性の調整を行うことができる。また、Tcも調整することができ、これにより、高揮発結晶化処理温度を調整することができる。なお、レターデーションの湿度依存性とは、湿度による可逆的なレターデーションの変化である。
セルロースアシレートフィルムに求める光学特性により、適宜、SA+SBを調整することとなるが、好ましくは2.70≦SA+SB≦3.00、より好ましくは2.88≦SA+SB≦3.00であり、さらに好ましくは2.89≦SA+SB≦2.99であり、さらにより好ましくは2.90≦SA+SB≦2.98であり、特に好ましくは2.92≦SA+SB≦2.97である。SA+SBを大きくすることにより、高揮発結晶化処理後に得られるReを大きく、Tcをより低くすることができ、レターデーションの湿度依存性も改善することができる。Tcを低く設定することにより、高揮発結晶化処理温度を比較的低く設定することが可能となる。
また、SBを調整することにより、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのレターデーションの湿度依存性を調整することができる。SBを大きくすることにより、レターデーションの湿度依存性を低減させることができ、融点が下がる。レターデーションの湿度依存性および融点の低下のバランスを考慮すると、SBの範囲は、好ましくは0<SB≦3.0、より好ましくは0<SB≦1.0であり、特に好ましくは、SB=0である。なお、セルロースの水酸基がすべて置換されているとき、上記の置換度は3となる。
【0020】
セルロースアシレートは公知の方法により合成することができる。
例えば、セルロースアシレートの合成方法について、基本的な原理は、右田伸彦他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。セルロースアシレートの代表的な合成方法としては、カルボン酸無水物−カルボン酸−硫酸触媒による液相アシル化法が挙げられる。具体的には、まず、綿花リンタや木材パルプ等のセルロース原料を適当量の酢酸などのカルボン酸で前処理した後、予め冷却したアシル化混液に投入してエステル化し、完全セルロースアシレート(2位、3位および6位のアシル置換度の合計が、ほぼ3.00)を合成する。前記アシル化混液は、一般に溶媒としてのカルボン酸、エステル化剤としてのカルボン酸無水物および触媒としての硫酸を含む。また、前記カルボン酸無水物は、これと反応するセルロースおよび系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。
【0021】
次いで、アシル化反応終了後に、系内に残存している過剰カルボン酸無水物の加水分解を行うために、水または含水酢酸を添加する。さらに、エステル化触媒を一部中和するために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物)を含む水溶液を添加してもよい。さらに、得られた完全セルロースアシレートを少量のアシル化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、20〜90℃に保つことにより鹸化熟成し、所望のアシル置換度および重合度を有するセルロースアシレートまで変化させる。所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を、前記中和剤などを用いて完全に中和するか、或いは、前記触媒を中和することなく水若しくは希酢酸中にポリマー溶液を投入(或いは、ポリマー溶液中に、水または希酢酸を投入)してセルロースアシレートを分離し、洗浄および安定化処理により目的物であるセルロースアシレートを得ることができる。
【0022】
前記セルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で150〜500が好ましく、200〜400がより好ましく、220〜350がさらに好ましい。前記粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)の記載に従って測定することができる。前記粘度平均重合度の測定方法については、特開平9−95538号公報にも記載がある。
【0023】
また、低分子成分が少ないセルロースアシレートは、平均分子量(重合度)が高いが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低い値になる。このような低分子成分の少ないセルロースアシレートは、通常の方法で合成したセルロースアシレートから低分子成分を除去することにより得ることができる。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより行うことができる。また、低分子成分の少ないセルロースアシレートを合成により得ることもできる。低分子成分の少ないセルロースアシレートを合成する場合、アシル化反応における硫酸触媒量を、セルロース100質量に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。前記硫酸触媒の量を前記範囲にすると、分子量分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。セルロースアシレートの重合度や分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等により測定することができる。
セルロースエステルの原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁にも記載がある。
【0024】
セルロースアシレートフィルムを製造する際に原料として用いるセルロースアシレートとしては、粉末や粒子状のものを使用することができ、また、ペレット化したものも用いることができる。原料として用いる際のセルロースアシレートの含水率は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることが最も好ましい。また、前記含水率は場合により0.2質量%以下であることが好ましい。セルロースアシレートの含水率が好ましい範囲内にない場合には、セルロースアシレートを乾燥風や加熱などにより乾燥してから使用することが好ましい。
セルロースアシレートフィルムを製造する際には、単一種のポリマーを用いてもよいし、複数種のポリマーを用いてもよい。
【0025】
[本発明におけるポリマー溶液]
本発明における流延工程においては、前記セルロースアシレートや必要に応じて各種添加剤を含有するポリマー溶液を用いて溶液流延製膜方法によってウェブを形成する。以下において、溶液流延製膜方法に用いることができる本発明におけるポリマー溶液について説明する。
【0026】
(溶媒)
本発明におけるポリマー溶液の主溶媒としては、セルロースアシレートの良溶媒である有機溶媒を好ましく用いることができる。このような有機溶媒としては、沸点が80℃以下の有機溶媒が乾燥負荷低減の観点からより好ましい。前記有機溶媒の沸点は、10〜80℃であることがさらに好ましく、20〜60℃であることが特に好ましい。また、場合により沸点が30〜45℃である有機溶媒も前記主溶媒として好適に用いることができる。本発明においては、乾燥過程初期においてハロゲン化炭化水素とともに揮発する割合が小さく、次第に濃縮される沸点が95℃以上の溶媒を全溶媒に対し1〜15質量%含有する溶媒を用いることができ、1〜10質量%含有する溶媒を用いることが好ましく、1.5〜8質量%含有する溶媒を用いることがより好ましい。そして、沸点が95℃以上の溶媒は、セルロースアシレートの貧溶媒であることが好ましい。沸点が95℃以上の溶媒の具体例としては、後述する「主溶媒と併用される有機溶媒」の具体例のうち沸点が95℃以上の溶媒を挙げることができるが、中でもブタノール、ペンタノール、1,4−ジオキサンを用いることが好ましい。さらに、本発明に用いられる本発明におけるポリマー溶液の溶媒はアルコールを含有することがさらに好ましい。なお、前記の「沸点が95℃以上の溶媒」がブタノールなどのアルコールである場合は、その含有量もここでいうアルコール含有量にカウントする。このような溶媒を用いることにより、作製したセルロースアシレートフィルムの高揮発結晶化処理温度における力学強度を上昇させることができるため、高揮発結晶化処理中に必要以上に延伸されて、得られたフィルムが割れやすくなることを防ぐことができる。
【0027】
このような主溶媒としては、ハロゲン化炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、アルコールおよび炭化水素などが挙げることができ、これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。また、前記主溶媒は、エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの官能基(即ち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれかを二つ以上有していてもよい。さらに、前記エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。なお、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルム」の作製に用いられる本発明におけるポリマー溶液の主溶媒とは、単一の溶媒からなる場合には、その溶媒のことを示し、複数の溶媒からなる場合には、構成する溶媒のうち、最も質量分率の高い溶媒のことを示す。主溶媒としては、ハロゲン化炭化水素を好適に挙げることができる。
【0028】
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩素化炭化水素がより好ましく、例えば、ジクロロメタンおよびクロロホルムなどが挙げられ、ジクロロメタンがさらに好ましい。
前記エステルとしては、例えば、メチルホルメート、エチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートなどが挙げられる。
前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
前記エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどが挙げられる。
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどが挙げられる。
前記炭化水素としては、例えば、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。
【0029】
これら主溶媒と併用される有機溶媒としては、ハロゲン化炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、アルコールおよび炭化水素などが挙げられ、これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。また、前記有機溶媒としては、エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの官能基(即ち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれか二つ以上を有していてもよい。さらに、前記エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。
【0030】
前記主溶媒と併用される有機溶媒の好ましい例は、前記主溶媒で用いられる有機溶媒として挙げた例に加え、さらに以下の例を挙げられる。
前記エステルとしては、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、ペンチルアセテートなどが挙げられる。
前記ケトンとしては、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが挙げられる。
前記エーテルとしては、ジメトキシエタン、アニソール、フェネトールなどが挙げられる。
前記アルコールとしては、1−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなどが挙げられる。好ましくは炭素数1〜4のアルコールであり、より好ましくはメタノール、エタノールまたはブタノールであり、最も好ましくはメタノール、ブタノールである。
前記炭化水素としては、キシレンなどが挙げられる。
前記2種類以上の官能基を有する有機溶媒としては、例えば、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、メチルアセトアセテートなどが挙げられる。
【0031】
本発明においてセルロースアシレートフィルムを構成するポリマーは、水酸基やエステル、ケトン等の水素結合性の官能基を含むため、全溶媒中に5〜30質量%、より好ましくは7〜25質量%、さらに好ましくは10〜20質量%のアルコールを含有することが流延支持体からの剥離荷重低減の観点から好ましい。
アルコール含有量を調整することによって、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのReやRthの発現性を調整しやすくすることができる。具体的には、アルコール含有量を上げることによって、高揮発結晶化処理温度を比較的低く設定したり、ReやRthの到達範囲をより大きくしたりすることが可能となる。
また、本発明においては、水を少量含有させることも溶液粘度や乾燥時のウェットフィルム状態の膜強度を高めたり、ドラム法流延時のドープ強度を高めたりするのに有効であり、例えば溶液全体に対して0.1〜5質量%含有させても良く、より好ましくは0.1〜3質量%含有させてもよく、特には0.2〜2質量%含有させてもよい。
【0032】
本発明におけるポリマー溶液の溶媒として好ましく用いられる有機溶媒の組み合せの例は、特開2009−262551号公報の(1)〜(31)と同様であるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、比率の数値は、質量部を意味する。
【0033】
また、必要に応じて、非ハロゲン系有機溶媒を主溶媒とすることもでき、詳細な記載は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載がある。
【0034】
(溶液濃度)
本発明におけるポリマー溶液中のセルロースアシレート濃度は、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましく、15〜30質量%が最も好ましい。
前記セルロースアシレート濃度は、セルロースアシレートを溶媒に溶解する段階で所定の濃度になるように調整することができる。また予め低濃度(例えば4〜14質量%)の溶液を調製した後に、溶媒を蒸発させる等によって濃縮してもよい。さらに、予め高濃度の溶液を調製後に、希釈してもよい。また、添加剤を添加することで、セルロースアシレートの濃度を低下させることもできる。
【0035】
(添加剤)
本発明におけるポリマー溶液は、各調製工程において用途に応じた各種の液体または固体の添加剤を含むことができる。前記添加剤の例としては、可塑剤(好ましい添加量はセルロースアシレートに対して2〜30質量%、以下同様)、レターデーション調整剤(0.01〜10質量%)、波長分散調整剤(0.1〜20質量%)、紫外線吸収剤(0.001〜20質量%)、平均粒子サイズが5〜3000nmである微粒子粉体(0.001〜1質量%)、フッ素系界面活性剤(0.001〜1質量%)、剥離剤(0.0001〜1質量%)、劣化防止剤(0.0001〜1質量%)、赤外線吸収剤(0.001〜1質量%)が含まれる。
【0036】
また添加剤は、該セルロースアシレートフィルムに残留溶媒量が1%以下の時のフィルムのTcが添加前後で20℃〜100℃変化(低下)することが、高前記乾燥工程での結晶化がより低温で進行し好ましい。
【0037】
(1)可塑剤
前記セルロースアシレートフィルムは、数平均分子量が200〜10000の可塑剤を含有することを特徴とする。以下、本発明に用いられる可塑剤について説明する。なお、数平均分子量は公知の方法で測定することができる。
【0038】
(1−1)負の複屈折を有する可塑剤
本発明において、前記ポリマー溶液は負の固有複屈折を有する可塑剤を含むことが好ましい。まず、本発明における負の固有複屈折を有する可塑剤について、以下説明する。
【0039】
前記負の固有複屈折を有する可塑剤とは、セルロースエステルフィルムの中で、フィルムの特定の方向に対して負の固有複屈折性を示す材料を意味する。本明細書中において負の固有複屈折性とは、固有複屈折率が負の性質をいう。また、負の固有複屈折性を有しているか否かは、例えば、その化合物を添加した系としていない系でのフィルムの固有複屈折を複屈折計により測定し、その差を比較することにより知ることができる。
【0040】
前記負の固有複屈折を有する可塑剤は、セルロースアシレートフィルムの可塑剤として用いることができる以外は特に制限がなく、負の固有複屈折を示す公知の化合物などを用いることができる。
負の固有複屈折を有する可塑剤としては、負の固有複屈折を有する重合体や、負の固有複屈折性を示す針状微粒子(負の固有複屈折を有する重合体の針状微粒子を含む)などを挙げることができる。以下、本発明に用いることができる負の固有複屈折を有する重合体、負の固有複屈折性を示す針状微粒子について説明する。
【0041】
前記負の固有複屈折を有する重合体とは、分子が一軸性の配向をとって形成された層に光が入射したとき、前記配向方向の光の屈折率が前記配向方向に直交する方向の光の屈折率より小さくなるポリマーをいう。
【0042】
このような負の固有複屈折を有する重合体としては、負のポリマーとしては、特定の環状構造を有する重合体、ポリスチレンやスチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)等のスチレン系ポリマー、ポリビニルピロリドン系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、セルロースエステル系ポリマー(固有複屈折が正であるものを除く)、ポリエステル系ポリマー(固有複屈折が正であるものを除く)、フラノース構造もしくはピラノース構造を有するポリマー、アクリロニトリル系ポリマー、アルコキシシリル系ポリマーあるいはこれらの多元(二元系、三元系等)共重合ポリマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、共重合体であるときはブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよい。
この中でも、特定の環状構造を有する重合体、スチレン系ポリマー、アクリル系ポリマー、アルコキシシリル系ポリマーがより好ましく、ポリビニルピロリドン、ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリヒドロキシスチレン、ポリアクリレート、ポリアクリルエステル、スチレン−マレイン酸共重合体が特に好ましい。
【0043】
特定環状構造を側鎖に有する重合体:
前記負の固有複屈折を有する重合体としては、一般式(1)で表される環状構造を側鎖に有する重合体も好ましい。
一般式(1)で表される環状構造を1つのみ有していても複数有していてもよく、それ以外に側鎖を有していてもよい。
【0044】
(一般式(1)で表される環状構造)
一般式(1)で表される環状構造について説明する。
【0045】
【化1】

【0046】
一般式(1)において、X0はCR0または窒素原子を表し、窒素原子であることが好ましい。
また、R0は水素原子または1価の置換基を表し、1価の置換基としては特に制限はない。前記1価の置換基としては、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基、ウレイド基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基および非芳香族性複素環基が含まれる。
アルキル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基)を有していてもよい。アルキル基の(置換アルキル基を含む)例には、メチル基、エチル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、2−ヒドロキシエチル基、4−カルボキシブチル基、2−メトキシエチル基および2−ジエチルアミノエチル基の各基が含まれる。
アルケニル基の炭素原子数は、2〜8であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルケニル基の例には、ビニル基、アリル基および1−ヘキセニル基が含まれる。
アルキニル基の炭素原子数は、2〜8であることが好ましい。環状アルキニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキニル基の例には、エチニル基、1−ブチニル基および1−ヘキシニル基が含まれる。
脂肪族アシル基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル基、プロパノイル基およびブタノイル基が含まれる。
脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシ基が含まれる。
アルコキシ基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。アルコキシ基は、さらに置換基(例えば、アルコキシ基)を有していてもよい。アルコキシ基の(置換アルコキシ基を含む)例には、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基およびメトキシエトキシ基が含まれる。
アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニル基およびエトキシカルボニル基が含まれる。
アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、メトキシカルボニルアミノ基およびエトキシカルボニルアミノ基が含まれる。
アルキルチオ基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ基、エチルチオ基およびオクチルチオ基が含まれる。
アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例には、メタンスルホニル基およびエタンスルホニル基が含まれる。
脂肪族アミド基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アミド基の例には、アセトアミドが含まれる。
脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド基、ブタンスルホンアミド基およびn−オクタンスルホンアミド基が含まれる。
脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基および2−カルボキシエチルアミノ基が含まれる。
脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例には、メチルカルバモイル基およびジエチルカルバモイル基が含まれる。
脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例には、メチルスルファモイル基およびジエチルスルファモイル基が含まれる。
脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例には、メチルウレイド基が含まれる。
非芳香族性複素環基の例には、ピペリジノ基およびモルホリノ基が含まれる。
【0047】
0は炭素原子、窒素原子または硫黄原子を表し、炭素原子または硫黄原子であることが好ましく、炭素原子であることがより好ましい。
【0048】
11は単結合または連結鎖長が1原子の連結基を表し、L11は単結合であることが好ましい。前記原子連結基としては特に制限はないが、2価の炭素原子含有連結基や、2価の窒素原子含有連結基、硫黄原子、酸素原子などがあげられる。
【0049】
12は連結鎖長が2〜6原子の連結基を表す。L12の連結鎖長は2〜5原子であることが好ましく、2〜4原子であることがより好ましい。連結基としては、2価のものであれば特に制限はなく、例えば2価の炭素原子含有連結基や、2価の窒素原子含有連結基などが挙げられる。また、前記連結基はさらに置換基を有していてもよい。このような置換基としては、例えば、前記1価の置換基を挙げることができる。
12は炭素数2〜4の置換または無置換のアルキレン基が特に好ましい。
【0050】
前記一般式(1)で表される環状構造は、全体として芳香環やヘテロ環、芳香族ヘテロ環を形成していてもよい。また、複数の環状構造を含んでいてもよいが、単独の環状構造であることが好ましい。
【0051】
0、Y0、L11、L12の好ましい組み合わせとしては、X0が窒素原子であり、Y0が炭素原子であり、L11が単結合であり、L12が炭素数2〜4の置換または無置換のアルキレン基である場合が好ましく、一般式(2)または(3)で表される構造であることがより好ましい。
【0052】
(一般式(2)または(3)で表される環状構造)
まず、一般式(2)で表される環状構造について説明する。
【化2】

【0053】
一般式(2)において、R119は炭素数2〜4の置換または無置換のアルキレン基を表し、炭素数3の置換または無置換のアルキレン基がより好ましい。
前記置換基としては、例えば、前記1価の置換基を挙げることができる。
【0054】
(一般式(3)で表される環状構造)
次に、一般式(3)で表される環状構造について説明する。
【化3】

【0055】
一般式(3)において、R120は炭素数1〜3の置換または無置換のアルキレン基を表す。R120としては炭素数2の置換または無置換のアルキレン基がより好ましい。
前記置換基としては、一般式(2)で説明したものと同様のものを用いることができ、好ましい範囲も同様である。
【0056】
前記一般式(1)で表される環状構造は、ピロリドン構造であることが最も好ましい。
【0057】
前記一般式(1)、(2)または(3)で表される環状構造の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【化4】

【0058】
前記一般式(1)、(2)または(3)で表される以外の、好ましく用いられる特定の環状構造を側鎖に有する重合体の環状構造の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【化5】

【0059】
スチレン系ポリマー:
前記負の固有複屈折を有する重合体としては、スチレン系ポリマーも好ましい。
スチレン系ポリマーは、好ましくは、一般式(A)で表される、芳香族ビニル系単量体から得られる構造単位である。
【化6】

【0060】
式中、R121〜R124は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子またはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基、または極性基を表し、R124は全て同一の原子または基であっても、個々異なる原子または基であっても、互いに結合して、炭素環または複素環(これらの炭素環、複素環は単環構造でもよいし、他の環が縮合して多環構造を形成してもよい)を形成してもよい。
【0061】
芳香族ビニル系単量体の具体例としては、スチレン;α−メチルスチレン;β−メチルスチレン;o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどのアルキル置換スチレン類;4−クロロスチレン、4−ブロモスチレンなどのハロゲン置換スチレン類;o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、α−メチル−p−ヒドロキシスチレン、2−メチル−4−ヒドロキシスチレン、3,4−ジヒドロキシスチレンなどのヒドロキシスチレン類;ビニルベンジルアルコール類;p−メトキシスチレン、p−tert−ブトキシスチレン、m−tert−ブトキシスチレンなどのアルコキシ置換スチレン類;3−ビニル安息香酸、4−ビニル安息香酸などのビニル安息香酸類;メチル−4−ビニルベンゾエート、エチル−4−ビニルベンゾエートなどのビニル安息香酸エステル類;4−ビニルベンジルアセテート;4−アセトキシスチレン;2−ブチルアミドスチレン、4−メチルアミドスチレン、p−スルホンアミドスチレンなどのアミドスチレン類;3−アミノスチレン、4−アミノスチレン、2−イソプロペニルアニリン、ビニルベンジルジメチルアミンなどのアミノスチレン類;3−ニトロスチレン、4−ニトロスチレンなどのニトロスチレン類;3−シアノスチレン、4−シアノスチレンなどのシアノスチレン類;ビニルフェニルアセトニトリル;フェニルスチレンなどのアリールスチレン類、インデン類などが挙げられるが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。これらの単量体は、二種以上を共重合成分として用いてもよい。これらのうち、工業的に入手が容易で、かつ安価な点で、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0062】
アクリル系ポリマー:
前記負の固有複屈折を有する重合体としては、アクリル系ポリマーも好ましい。
アクリル系ポリマーは、好ましくは、一般式(B)で表される、アクリル酸エステル系単量体から得られる構造単位である。
【化7】

【0063】
式中、R125〜R128は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基、または極性基を表す。
【0064】
当該アクリル酸エステル系単量体の例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、tert−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−メトキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)アクリル酸フェニル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸(2または4−クロロフェニル)、メタクリル酸(2または4−クロロフェニル)、アクリル酸(2または3または4−エトキシカルボニルフェニル)、メタクリル酸(2または3または4−エトキシカルボニルフェニル)、アクリル酸(oまたはmまたはp−トリル)、メタクリル酸(oまたはmまたはp−トリル)、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸フェネチル、メタクリル酸フェネチル、アクリル酸(2−ナフチル)、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(4−メチルシクロヘキシル)、メタクリル酸(4−メチルシクロヘキシル)、アクリル酸(4−エチルシクロヘキシル)、メタクリル酸(4−エチルシクロヘキシル)等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることができるが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。これらの単量体は、2種以上を共重合成分として用いてもよい。これらのうち、工業的に入手が容易で、かつ安価な点で、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、tert−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものが好ましい。
【0065】
前記負の固有複屈折を有する重合体は、本発明の趣旨に反しない限り、共重合体であってもよい。また、共重合体である場合はブロック共重合体であっても、ランダム重合体であってもよい。また、グラフト共重合体でもよい。
【0066】
前記一般式(1)等で表される環状構造を側鎖に有する重合体は、前記の一般式(1)等で表される環状構造を側鎖に有するモノマーの単独重合体であっても、2種以上の前記の一般式(1)等で表される環状構造を側鎖に有するモノマーの共重合体であっても、前記の一般式(1)等で表される環状構造を側鎖に有するモノマーとその他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0067】
前記その他のモノマーとしては特に制限はないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸のアルキルエステル(メチルアクリレート、エチルアクリレート等)、メタクリル酸のアルキルエステル(メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等)、アクリル酸のアミノアルキルエステル(ジエチルアミノエチルアクリレート等)、メタクリル酸のアミノアルキルエステル、アクリル酸とグリコールとのモノエステル、メタクリル酸とグリコールとのモノエステル(ヒドロキシエチルメタクリレート等)、アクリル酸のアルカリ金属塩、メタクリル酸のアルカリ金属塩、アクリル酸のアンモニウム塩、メタクリル酸のアンモニウム塩、アクリル酸のアミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、メタクリル酸のアミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、ジエチルアミノエチルアクリレートとメチルサルフェートとの第4級アンモニウム化合物、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルスルホン酸のアルカリ金属塩、ビニルスルホン酸のアンモニウム塩、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸塩、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸塩、酢酸ビニル、ビニルステアレート、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルカルバゾール、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−メチレンビスアクリルアミド、グリコールジアクリレート、グリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、グリコールジアリルエーテル等などをあげることができる。この中でも、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチルが好ましく、酢酸ビニル、メタクリル酸メチルがより好ましく、酢酸ビニルが特に好ましい。
【0068】
セルロースアシレート樹脂の置換度が高い場合はセルロースアシレート樹脂の疎水性が高まるため、前記の一般式(1)等で表される環状構造を側鎖に有するモノマーをその他のモノマーとの共重合体として疎水性を高め、相溶性を向上させることが好ましい。逆に、セルロースアシレート樹脂の置換度が低い場合はセルロースアシレート樹脂の疎水性が低下するため、前記の一般式(1)等で表される環状構造を側鎖に有するモノマーをその他のモノマーとの共重合体として疎水性を低下させ、相溶性を向上させることが好ましい。例えば、ビニルピロリドン単独重合体を前記の一般式(1)等で表される環状構造を側鎖に有する重合体として用いた場合、ビニルピロリドン単独重合体は親水的であるため高置換度のセルロースアシレート樹脂との相溶性が良くない。したがって、例えばポリビニルピロリドンとポリ酢酸ビニルとの共重合体とし、共重合比を調節することで、セルロースアシレート樹脂の置換度に応じて親疎水性を調整することができる。このように相溶性を調整することで、得られるセルロースアシレートフィルムの泣き出しや白化を抑えることができ、好ましい。
【0069】
前記の一般式(1)等で表される環状構造を側鎖に有するモノマーが他のモノマーとの共重合体である場合は、前記の一般式(1)等で表される環状構造を側鎖に有するモノマーと他の重合体モノマーの共重合比は、3:7〜9:1であることが好ましく、3:7〜7:3であることがより好ましく、5:5〜7:3であることが特に好ましい。
【0070】
また、前記負の固有複屈折を有する重合体が共重合体である場合、一般式(A)で表される芳香族ビニル系単量体および一般式(B)で表されるアクリル酸エステル系単量体から得られる構造単位を少なくとも1種含むものも好ましい。
【0071】
針状微粒子:
前記負の固有複屈折を有する針状微粒子としては、延伸方向に対して負の固有複屈折性を示す少なくとも1種の針状微粒子を挙げることができる。前記延伸方向に対して負の固有複屈折性を示す針状微粒子としては、特に制限はないが、重合体針状微粒子を挙げることができる。針状微粒子は配向方向に対して負の固有複屈折効果を持つ。
【0072】
前記重合体針状微粒子としては、ポリスチレンあるいはアクリル樹脂の棒状粒子などを好ましく用いられる。例えばポリスチレン樹脂あるいはアクリル樹脂を有し、極細繊維を細かく切断して製造した短繊維状の針状微粒子であってもよい。これらの繊維は製造過程で延伸されていることが固有複屈折性を発現しやすくなるため好ましい。また、これらの樹脂は架橋されていることが好ましい。
【0073】
前記固有複屈折性針状微粒子の固有複屈折性については、次のように定義する。固有複屈折性微粒子の長径方向に偏光した光に対する屈折率をnpr、長径方向に直交する方向に偏光した光に対する平均屈折率をnvtとする。固有複屈折性微粒子の複屈折Δnは、Δn=npr−nvtで定義される。
すなわち、固有複屈折性微粒子の長径方向の屈折率が、それに直交する方向の平均屈折率よりも大きければ正の複屈折、その逆であれば負の複屈折となる。
【0074】
前記負の固有複屈折を有する可塑剤の添加量は、セルロースアシレート樹脂100質量部に対して、0.5〜40質量部とすることが好ましく、0.5〜30質量部とすることがより好ましく、1〜20質量部とすることがさらに好ましい。
【0075】
前記負の固有複屈折を有する可塑剤は、重量平均分子量が500〜10000であることが好ましく、500〜6000であることがより好ましく、500〜2000であることが特に好ましい。
重量平均分子量が500以上であれば揮散性が良好であり、分子量が10000以下であればセルロースアシレート樹脂との相溶性が良好であるためセルロースアシレートフィルムの製膜性も良好となり、いずれも好ましい。なお、重量平均分子量は公知の方法で測定することができる。
【0076】
(1−2)高分子量可塑剤
前記セルロースアシレートフィルムは、数平均分子量が500〜10000であって繰り返し単位を有する可塑剤(以下、高分子量可塑剤ともいう)を含むことが好ましい。溶液流延において、可塑剤は溶媒の揮発速度を速めかつ残留溶媒量を低減するために必須な素材である。本発明では結晶化処理を低温で行う事ができるようになったため、分子量が高い場合に問題となっていたフィルムからの泣き出しの問題も解決できている。
また、溶融製膜法によるポリマーフィルムにおいても、可塑剤は着色や膜強度劣化を防止するために有用な素材である。さらに、前記セルロースアシレートフィルムに該高分子量可塑剤を添加することは、機械的性質向上、柔軟性付与、耐吸水性付与、水分透過率低減等のフィルム改質の観点で、有用な効果を示すものである。
また、前記セルロースアシレートフィルム上に液晶層の塗工を行う場合に輝点等欠陥の低減にも有効である。
【0077】
ここで、本発明における高分子量可塑剤は、その化合物中に繰り返し単位部分を有することを特徴とする。前記高分子量可塑剤は、その数平均分子量が好ましくは数平均分子量500〜10000であり、さらに好ましくは数平均分子量500〜6000であり、特に好ましくは数平均分子量500〜2000である。ただし、本発明における高分子量可塑剤は、このような繰り返し単位部分を有する化合物のみからなるものに限定されることはなく、繰り返し単位を有さない化合物との混合物であってもよい。
【0078】
また、前記高分子量可塑剤は使用する環境温度あるいは湿度下で(一般には室温状況、所謂25℃、相対湿度60%)、液体であっても固体であってもよい。また、その色味は少ないほど良好であり特に無色であることが好ましい。熱的にはより高温において安定であることが好ましく、分解開始温度が150℃以上、さらに200℃以上が好ましく、より好ましくは250℃以上である。添加量は光学物性・機械物性に悪影響がなければ良く、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択され、本発明に係る重合体100質量部に対して好ましくは1〜50質量部、より好ましくは2〜40質量部である。特に5〜30質量%が好ましい。
以下、本発明に用いられる高分子量可塑剤について、その具体例を挙げながら詳細に説明するが、本発明で用いることができる高分子量可塑剤はこれらに限定されるものではない。
【0079】
前記セルロースアシレートフィルムに用いることのできる高分子量可塑剤としては、特に限定されないが、ポリエステル系可塑剤、ポリエーテル系可塑剤、ポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリエーテル系可塑剤、ポリエーテルポリウレタン系可塑剤、ポリアミド系可塑剤、ポリスルフォン系可塑剤、ポリスルフォンアミド系可塑剤、後述するその他の高分子量可塑剤から選択される少なくとも1種の数平均分子量が500以上の可塑剤を好ましく挙げることができる。
【0080】
そのうち少なくとも1種は、ポリエステル系可塑剤、ポリエーテル系可塑剤、ポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリエーテル系可塑剤、ポリエーテルポリウレタン系可塑剤、ポリアミド系可塑剤、ポリスルフォン系可塑剤、ポリスルフォンアミド系可塑剤、ポリアクリル酸エステル系可塑剤、およびポリメタクリル酸エステル系可塑剤であることがより好ましく、ポリエステル系可塑剤、ポリエステルポリエーテル系可塑剤、ポリエステルポリウレタン系可塑剤、ポリアクリル酸エステル系可塑剤、およびポリメタクリル酸エステル系可塑剤であることが特に好ましく、ポリエステル系可塑剤、ポリエステルポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリエーテル系可塑剤であることがより特に好ましく、ポリエステル系可塑剤であることが、より特に相溶性および光学特性の観点から好ましい。以下に、本発明で好ましく用いられる高分子量可塑剤について種類別に記述する。
【0081】
ポリエステル系可塑剤:
まず、本発明で用いられるポリエステル系可塑剤について説明する。好ましいポリエステル系可塑剤としては、特に限定されないが、ジカルボン酸とグリコールの反応によって得られるものであり、反応物の両末端は反応物のままでもよいが、さらにモノカルボン酸やモノアルコールを反応させて、所謂末端の封止を実施してもよい。この末端封止は、特にフリーなカルボン酸を含有させないために実施されることが、保存性などの点で有効である。前記ポリエステル系可塑剤に使用されるジカルボン酸は、炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸残基または炭素数8〜12の芳香族ジカルボン酸残基であることが好ましい。
【0082】
本発明で好ましく用いられるポリエステル系可塑剤の炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等がある。また炭素数8〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸等がある。このなかでもオルト位で主鎖と結合した芳香族環であるフタル酸がフィルムのRe発現性が高く好ましい。これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。次にポリエステル系可塑剤に利用されるグリコールについて記すと、炭素数が2〜12の脂肪族または脂環式グリコール残基、炭素数6〜12の芳香族グリコール残基を表わす。
【0083】
炭素原子2〜12個の脂肪族グリコールまたは脂環式グリコール類としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
【0084】
また、前記ポリエステル可塑剤の両末端がカルボン酸とならないように、モノアルコール残基やモノカルボン酸残基で保護することが好ましい。その場合、モノアルコール残基として好ましい態様としては、例えば特開2009−262551号公報に記載の態様を挙げることができる。
【0085】
また、モノカルボン酸残基で封止する場合は、モノカルボン酸残基として使用されるモノカルボン酸は、炭素数1〜30の置換、無置換のモノカルボン酸が好ましい。これらは、脂肪族モノカルボン酸でも芳香族カルボン酸でもよい。まず好ましい脂肪族モノカルボン酸について記述すると、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸が挙げられ、芳香族モノカルボン酸としては、好ましい態様としては、例えば特開2009−262551号公報に記載の態様を挙げることができ、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0086】
以上、具体的な好ましいポリエステル系可塑剤や、ポリエステル類の合成方法や商品としては、例えば特開2009−262551号公報に記載の態様を挙げることができる。
【0087】
ポリエステルポリエーテル系可塑剤:
次に、本発明で用いられるポリエステルポリエーテル系可塑剤について説明する。前記ポリエステルポリエーテル系可塑剤とは、ジカルボン酸とポリエーテルジオールとの縮合ポリマーを示すものである。ジカルボン酸としては、ポリエステル系可塑剤で記述した炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸残基または炭素数8〜12の芳香族ジカルボン酸残基をそのまま使用するものである。
【0088】
次に炭素原子2〜12個の脂肪族グリコールを有するポリエーテル類としては、ポリエチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールならびにこれらの組み合わせが挙げられる。典型的に有用な市販のポリエーテルグリコール類としては、カーボワックス(Carbowax)レジン、プルロニックス(Pluronics)レジンおよびニアックス(Niax)レジンが挙げられる。本発明に使用されるポリエステルポリエーテル系可塑剤の製造に際しては、当業者に周知の常用されている重合法が使用できる。
【0089】
これらのポリエステルエーテル系可塑剤としては、米国特許第4,349,469号明細書に記載されているポリエステルポリエーテル系可塑剤などが挙げられる。基本的に、例えばジカルボン酸として1,4−シクロヘキサンジカルボン酸と、ポリエーテルとして1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールなどから合成されるポリエステルポリエーテル系可塑剤である。その他の有用なポリエステルポリエーテル系可塑剤としては、DuPont製のハイテレル(Hytrel)コポリエステル類やGAF製のガルフレック(Galflex)ポリマーのようなコポリマーのごとき市販のレジンが挙げられる。これらは、特開平5−197073号公報に記載の素材を利用できる。株式会社ADEKAからアデカサイザーRSシリーズとして市販されており利用できる。また、アルキル官能化ポリアルキレンオキシドであるポリエステルエーテル系可塑剤は、デラウェア州ウィルミントンのアイシーアイ(ICI Chemicals)から商品名PYCALで商業的に販売されている(例えば、PYCAL94、ポリエチレンオキシドのフェニルエステル)。
【0090】
ポリエステルポリウレタン系可塑剤:
さらに、本発明で用いられるポリエステルポリウレタン系可塑剤について説明する。該可塑剤は、ポリエステルとイソシアナート化合物の縮合で得ることができる。まず、ポリエステルとしては、両末端を封止する前のポリエステル系可塑剤をそのまま使用でき、ポリエステル系可塑剤で前述した素材を好ましく利用できる。ポリウレタン構造を形成するジイソシアナート成分としては、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート等で代表されるOCN(CH2p NCO(p=2〜8)ポリメチレンイソシアナート並びに、p−フェニレンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、p,p′−ジフェニルメタンジイソシアナート、1,5−ナフチレンジイソシアナート等の芳香族ジイソシアナート、さらには、m−キシリレンジイソシアナート等が用いられるが、これらに制限されるものではない。これらの中でも、特にトリレンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナートが好ましいものである。
【0091】
本発明においてポリエステルポリウレタン系可塑剤の合成は、原料のポリエステルジオール類とジイソシアナートとを混じ攪拌下加熱させる常法の合成法により、容易に得る事ができる。これらは、特開平5−197073号、特開2001−122979号、特開2004−175971号、特開2004−175972号各公報などに記載してある素材を利用できる。
【0092】
糖類:
その他に、本発明では、フラノース構造もしくはピラノース構造を有する化合物も使用可能である。すなわち、フラノース構造もしくはピラノース構造を少なくとも1個有し、該フラノース構造もしくはピラノース構造が1〜12個結合した化合物中のOH基のすべてもしくは一部をエステル化した糖エステル化合物である。
好ましい例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、アラビノース、ラクトース、スクロース、セロビオース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノースなどが挙げられるが、特にフラノース構造とピラノース構造を両方有するものが好ましい。例としてはスクロースが挙げられる。
前記「フラノース構造もしくはピラノース構造を少なくとも1 個有し、該フラノース構造もしくはピラノース構造が1〜12個結合した化合物中のOH基のすべてもしくは一部をエステル化した糖エステル化合物」に用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。用いられるカルボン酸は1種類でもよいし2種以上の混合であっ
てもよい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環に1〜5個のアルキル基もしくはアルコキシ基を導入した芳香族モノカルボン酸、ケイ皮酸、ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
【0093】
その他の高分子量可塑剤:
本発明においては、前述したポリエステル系可塑剤、ポリエステルポリエーテル系可塑剤やポリエステルポリウレタン系可塑剤、糖類だけでなく、その他の高分子量可塑剤も使用し得るものである。該高分子量可塑剤としては、脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル系ポリマー(エステル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、tert−ノニル基、ドデシル基、トリデシル基、ステアリル基、オレイル基、ベンジル基、フェニル基など)、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN−ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ4−ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、フェノール−ホルムアルデヒド縮合物、尿素−ホルムアルデヒド縮合物、酢酸ビニル、等が挙げられる。
【0094】
これらポリマー可塑剤は1種の繰り返し単位からなる単独重合体でも、複数の繰り返し構造体を有する共重合体でもよい。また、上記ポリマーを2種以上併用して用いてもよい。これらの高分子量可塑剤は、各々単独で用いても良く、またこれらを混合して用いても同様の効果が得られる。これらの中でも、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステルあるいは他のビニルモノマーとの共重合度体が好ましく、特にはポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル系ポリマー(エステル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、イソノニル基、オレイル基)を基本とする高分子量可塑剤が好ましい。
【0095】
以下に、好ましい高分子量可塑剤の具体例を記すが、本発明で用いることができる高分子量可塑剤はこれらに限定されるものではない。
PP−1: エタンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量2500)
PP−2: 1,3−プロパンジオール/グルタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
PP−3: 1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1300)
PP−4: 1,3−プロパンジオール/エチレングリコール/アジピン酸(1/1/2モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
PP−5: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1200)
PP−6: 1,4−ブタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
PP−7: 1,4−シクロヘキサンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量800)
【0096】
PP−8: 1,3−プロパンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のブチルエステル化体(数平均分子量1300)
PP−9: 1,3−プロパンジオール/グルタル酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のシクロヘキシルエステル化体(数平均分子量1500)
PP−10: エタンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物の両末端の2−エチルヘキシルエステル化体(数平均分子量3000)
PP−11: 1,3−プロパンジオール/エチレングリコール/アジピン酸(1/1/2モル比)との縮合物の両末端のイソノニルエステル化体(数平均分子量1500)
PP−12: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のプロピルエステル化体(数平均分子量1300)
PP−13: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端の2−エチルヘキシルエステル化体(数平均分子量1300)
PP−14: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のイソノニルエステル化体(数平均分子量1300)
PP−15: 1,4−ブタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のブチルエステル化体(数平均分子量1800)
【0097】
PP−16: エタンジオール/テレフタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量2000)
PP−17: 1,3−プロパンジオール/1,5−ナフタレンジカルボン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
PP−18: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/イソフタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1200)
PP−19: 1,3−プロパンジオール/テレフタル酸(1/1モル比)との縮合物両末端のベンジルエステル化体(数平均分子量1500)
PP−20: 1,3−プロパンジオール/1,5−ナフタレンジカルボン酸両末端のプロピルエステル化体(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
PP−21: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/イソフタル酸(1/1モル比)との縮合物両末端のブチルエステル化体(数平均分子量1200)
【0098】
PP−22: ポリ(平均重合度5)プロピレンエーテルグリコール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1800)
PP−23: ポリ(平均重合度3)エチレンエーテルグリコール/グルタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1600)
PP−24: ポリ(平均重合度4)プロピレンエーテルグリコール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量2200)
PP−25: ポリ(平均重合度4)プロピレンエーテルグリコール/フタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
【0099】
PP−26: ポリ(平均重合度5)プロピレンエーテルグリコール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物両末端のブチルエステル化体(数平均分子量1900)
PP−27: ポリ(平均重合度3)エチレンエーテルグリコール/グルタル酸(1/1モル比)との縮合物両末端の2−エチルヘキシルエステル化体(数平均分子量1700)
PP−28: ポリ(平均重合度4)プロピレンエーテルグリコール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物両末端のtert−ノニルエステル化体(数平均分子量1300)
PP−29: ポリ(平均重合度4)プロピレンエーテルグリコール/フタル酸(1/1モル比)との縮合物両末端のプロピルエステル化体(数平均分子量1600)
【0100】
PP−30: 1,3−プロパンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)をトリメチレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステルウレタン化合物、
PP−31: 1,3−プロパンジオール/グルタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1200)をテトラメチレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステル−ウレタン化合物
PP−32: 1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1000)をp−フェニレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステル−ウレタン化合物
PP−33: 1,3−プロパンジオール/エチレングリコール/アジピン酸(1/1/2モル比)との縮合物(数平均分子量1500)をトリレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステル−ウレタン化合物
PP−34: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1200)をm−キシリレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステル−ウレタン化合物
PP−35: 1,4−ブタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)をテトラメチレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステル−ウレタン化合物
【0101】
PP−36: ポリイソプロピルアクリレート(数平均分子量1300)
PP−37: ポリブチルアクリレート(数平均分子量1300)
PP−38: ポリイソプロピルメタクリレート(数平均分子量1200)
PP−39: ポリ(メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート(モル比8/2、数平均分子量1600)
PP−40: ポリ(メチルメタクリレート/2−エチルヘキシルメタクリレート(モル比9/1、数平均分子量1600)
PP−41: ポリ(ビニルアセテート(数平均分子量2400)
【0102】
前記セルロースアシレートフィルムには、光学特性の観点および脆性の改善の観点から、前記可塑剤が前記ポリマーに対して2〜30質量%含まれていることが好ましく、5〜25質量%含まれていることがより好ましく、5〜20質量%含まれていることが特に好ましい。
【0103】
(2)レターデーション調整剤
前記レターデーション調整剤は、分子量50000以下の有機化合物であり、好ましくは疎水部と親水部とを併せ持つ化合物である。これらの化合物は、ポリマー鎖間で配向することにより、レターデーション値を変化させる。さらに、これらの化合物は、本発明で特に好ましく用いられるセルロースアシレートと併用することで、フィルムの疎水性を向上させ、レターデーションの湿度変化を低減させることができる。また、前記紫外線吸収剤や前記赤外線吸収剤を併用することで、効果的にレターデーションの波長依存性を制御することもできる。前記セルロースアシレートフィルムに用いられる添加剤は、いずれも乾燥過程での揮散が実質的にないものが好ましい。
【0104】
目的とするRe、Rth値によっては、結晶化処理前のフィルムのRthをあまり変化させなかったり、下降させたりするような効果のあるレターデーション調整剤も好ましく用いることができる。このような添加剤を添加することにより、結晶化処理時のポリマー分子の運動性を向上させることができるため、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのReやRthの発現性をさらに調整することができるため、結晶化処理温度を比較的低く設定したり、ReやRthの到達範囲をより大きくしたりすることが可能となる。
【0105】
レターデーションの湿度変化低減を図る観点からは、これらの添加剤の添加量は多いほうが好ましいが、添加量の増大に伴い、ポリマーフィルムのガラス転移温度(Tg)低下や、フィルムの製造工程における添加剤の揮散問題を引き起こしやすくなる。従って、本発明においてより好ましく用いられるセルロースアセテートをポリマーとして用いる場合、前記分子量50000以下の添加剤の添加量は、前記ポリマーに対し0.01〜30質量%が好ましく、2〜30質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましい。
【0106】
本発明において好適に用いることのできるレターデーション調整剤については、特開2005−104148号公報に記載がある。また、赤外吸収剤については、特開2001−194522号公報に記載がある。添加剤を添加する時期は、添加剤の種類に応じて適宜決定することができる。
【0107】
(3)波長分散調整剤
前記セルロースアシレートフィルムは、ReとRthの波長分散が特定の範囲、具体的にはRe(450nm)−Re(550nm)が−3nm未満であるか、Rth(450nm)−Rth(550nm)が3nmより大きいと、コントラスト視野角が良化するため好ましい。なお、Re(λnm)およびRth(λnm)は、それぞれ波長λnmにおけるReおよびRthの値を表す。
前記波長分散の好ましい範囲を満たすセルロースアシレートフィルムを製造するためには、前記波長分散調整剤を用いることが好ましい。本発明において波長分散調整剤とは、250〜400nmの波長域に吸収極大を持つ化合物のことを言う。その中でも、波長分散調整剤の吸収極大波長が300〜380nmであるものが好ましく、より好ましくは340〜380nmである。このような波長分散調整剤を特に負の複屈折性を示すポリマーに添加して製膜したフィルムを延伸することにより、前記セルロースアシレートフィルムの波長分散を調整することができる。すなわち、前記波長分散調整剤は、製膜したフィルムのRe(450nm)−Re(550nm)の値、またはRth(450nm)−Rth(550nm)の値を制御することができる。なお、前記波長分散調整剤は、250〜400nmの波長域に吸収極大を持つ化合物であれば250〜400nm以外の波長域の光を吸収するものであってもよい。
【0108】
本発明で用いる波長分散調整剤は、セルロースアシレートフィルムの製膜時の他、偏光板や液晶表示装置を製造するための全プロセスにおいて揮散が実質的に無い化合物であることが好ましい。波長分散調整剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。前記波長分散調整剤の合計添加量は、フィルムに持たせる光学的性質等によって異なるが、Re(450nm)−Re(550nm)を−3nm未満に制御したり、Rth(450nm)−Rth(550nm)を3nmより大きく制御したりする観点からは好ましくは0.1〜20質量%であり、より好ましくは0.1〜15質量%であり、さらに好ましくは1〜10質量%である。波長分散調整剤は、フィルムの製膜前にあらかじめ製膜用メルトや溶液に添加・混合しておくことが好ましい。前記波長分散調整剤の分子量は、好ましくは100〜5000であり、より好ましくは150〜3000であり、さらに好ましくは200〜2000である。
【0109】
本発明で用いる波長分散調整剤は、下記一般式(I)〜(VII)のいずれかで表される化合物であることが好ましい。一般式(I)〜(VII)の中では、一般式(I)、(II)、(V)、(VI)で表される化合物がより好ましく、一般式(I)で表される化合物がRe(450nm)−Re(550nm)の値、またはRth(450nm)−Rth(550nm)の値を制御しやすいためさらに好ましい。一般式(I)で表される化合物としては、例えば後述の実施例にて構造を示す化合物AA−1が挙げられる。また、下記一般式(VIIで表される化合物も好ましく、例えば市販品として後述の実施例にて構造を示す化合物AB−1(具体的にはTINOPAL OB(商品名、チバ・ジャパン株式会社製))が挙げられる。
【0110】
【化10】

【0111】
【化11】

【0112】
上記一般式(I)におけるR11、R12、R13、R14、R15、R16、およびR17;上記一般式(II)におけるR21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、およびR29;上記一般式(III)におけるR41、R42、R43、R44、R45、R46、およびR47;上記一般式(IV)におけるR51、R52、R53、R54、R55、R56、およびR57;上記一般式(V)におけるR61、R62、R63、R64、R65、R66、R67、およびR68;上記一般式(VI)におけるR71、R72、R73、R74、R75およびR76;上記一般式(VII)におけるR81、R82、R83、R84およびR85はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
上記一般式(I)〜(VII)において、紙面の水平方向(左右方向)が分子長軸方向となるように置換基を組み合わせることが好ましい。
【0113】
前記置換基として好ましくは、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(好ましくは炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基)、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基(好ましくは炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリール基、例えばフェニル基、p−トリル基、ナフチル基)、ヘテロ環基、
【0114】
シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基)、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、
【0115】
アミノ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、
【0116】
ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、アルキルおよびアリールスルホニル基(好ましくは、炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアルキルスルホニル基、炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、p−メチルフェニルスルホニル基)、アシル基、アリールオキシカルボニル基、
【0117】
アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリールおよびヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基を表わす。
【0118】
上記の置換基の中で、水素原子を有するものは、これを取り去りさらに上記の置換基で置換されていてもよい。そのような官能基の例としては、アルキルカルボニルアミノスルホニル基、アリールカルボニルアミノスルホニル基、アルキルスルホニルアミノカルボニル基、アリールスルホニルアミノカルボニル基が挙げられる。その例としては、メチルスルホニルアミノカルボニル基、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル基、アセチルアミノスルホニル基、ベンゾイルアミノスルホニル基が挙げられる。
【0119】
上記の置換基の中でより好ましいものは、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、シアノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アリールスルホニル基であり、さらに好ましいものは、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、フェニルスルホニル基である。また、1分子の中に置換基が二つ以上ある場合は、それらの置換基は同じであっても異なっていてもよい。また、可能な場合には互いに連結して環(一般式中に記載されている環との縮合環を含む)を形成してもよい。
上記した以外の各置換基の好ましい態様については、特開2009−262551号公報に記載がある。
【0120】
本発明で用いる波長分散調整剤の分子量は、好ましくは100〜5000であり、より好ましくは150〜3000であり、さらに好ましくは200〜2000である。
【0121】
(ポリマー溶液の調製)
本発明におけるポリマー溶液の調製は、例えば、特開昭58−127737号公報、同61−106628号公報、特開平2−276830号公報、同4−259511号公報、同5−163301号公報、同9−95544号公報、同10−45950号公報、同10−95854号公報、同11−71463号公報、同11−302388号公報、同11−322946号公報、同11−322947号公報、同11−323017号公報、特開2000−53784号公報、同2000−273184号公報、同2000−273239号公報に記載されている調製方法に準じて行うことができる。具体的には、ポリマーと溶媒とを混合攪拌し膨潤させ、場合により冷却や加熱等を実施して溶解させた後、これをろ過して本発明におけるポリマー溶液を得る。
【0122】
本発明においては、ポリマーの溶媒への溶解性を向上させるため、ポリマーと溶媒との混合物を冷却および/または加熱する工程を含むことが好ましい。
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒との混合物を冷却する場合、混合物を−100〜10℃に冷却する工程を含むことが好ましい。また、冷却工程より前の工程に−10〜39℃で膨潤させる工程を含み、冷却より後の工程に0〜39℃に加温する工程を含むことが好ましい。
【0123】
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒との混合物を加熱する場合、下記(a)または(b)より選択される1以上の方法で溶媒中にセルロースアシレートを溶解する工程を含むことが好ましい。
(a)−10〜39℃で膨潤させ、得られた混合物を0〜39℃に加温する。
(b)−10〜39℃で膨潤させ、得られた混合物を0.2〜30MPaで40〜240℃に加熱し、加熱した混合物を0〜39℃に冷却する。
さらに、溶媒として非ハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒との混合物を冷却する場合、混合物を−100〜−10℃に冷却する工程を含むことが好ましい。また、冷却工程よりも前の工程に−10〜55℃で膨潤させる工程を含み、冷却よりも後の工程に0〜57℃に加温する工程を含むことが好ましい。
【0124】
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒との混合物を加熱する場合、下記(c)または(d)より選択される1以上の方法で溶媒中にセルロースアシレートを溶解する工程を含むことが好ましい。
(c)−10〜55℃で膨潤させ、得られた混合物を0〜57℃に加温する。
(d)−10〜55℃で膨潤させ、得られた混合物を0.2〜30MPaで40〜240℃に加熱し、加熱した混合物を0〜57℃に冷却する。
【0125】
[ウェブの製膜]
本発明におけるウェブは、本発明におけるポリマー溶液を用いて溶液流延製膜方法により形成することができる。溶液流延製膜方法の実施に際しては、従来の方法に従って、公知の装置を用いることができる。具体的には、溶解機(釜)で調製されたドープ(本発明におけるポリマー溶液)を、ろ過後、貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製する。ドープは30℃に保温し、ドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延する(ドープ流延工程)。次いで、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブ)を金属支持体から剥離し、続いて乾燥ゾーンへ搬送し、ロール群で搬送しながら乾燥を終了する。溶液流延製膜方法の流延工程、乾燥工程の詳細については、特開2005−104148号公報の120〜146頁にも記載があり、適宜本発明にも適用することができる。
【0126】
本発明においては、ウェブの製膜の際に用いる金属支持体として金属バンドまたは金属ドラムを使用することができる。
【0127】
本発明においては、前記ポリマー溶液を、金属支持体としての平滑なバンド上或いはドラム上に単層液として流延してもよいし、2層以上の複数のセルロースアシレート液を流延してもよい。複数のポリマー溶液を流延する場合、金属支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよく、例えば特開昭61−158414号、特開平1−122419号、および特開平11−198285号の各公報などに記載の方法が適応できる。
また、2つの流延口からポリマー溶液を流延することによってもフィルム化することでもよく、例えば特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、および特開平6−134933号の各公報に記載の方法で実施できる。また、特開昭56−162617号公報に記載の高粘度ポリマー溶液の流れを低粘度のポリマー溶液で包み込み、その高,低粘度のポリマー溶液を同時に押出すセルロースアシレートフィルム流延方法でもよい。さらにまた、特開昭61−94724号および特開昭61−94725号の各公報に記載の外側の溶液が内側の溶液よりも貧溶媒であるアルコール成分を多く含有させること
も好ましい態様である。或いはまた2個の流延口を用いて、第一の流延口により金属支持体に成型したフィルムを剥離し、金属支持体面に接していた側に第二の流延を行なうことにより、フィルムを作製することでもよく、例えば特公昭44−20235号公報に記載されている方法である。流延するポリマー溶液は同一の溶液でもよいし、異なるポリマー溶液でもよく特に限定されない。複数のセルロースアシレート層に機能を持たせるために、その機能に応じたポリマー溶液を、それぞれの流延口から押出せばよい。さらにポリマー溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、UV吸収層、偏光層など)を同時に流延することも実施しうる。
従来の単層液では、必要なフィルム厚さにするためには高濃度で高粘度のポリマー溶液を押出すことが必要であり、その場合ポリマー溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良であったりして問題となることが多かった。この解決として、複数のポリマー溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に金属支持体上に押出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なポリマー溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができた。
共流延の場合、内側と外側の厚さは特に限定されないが、好ましくは外側が全膜厚の1〜50%であることが好ましく、より好ましくは2〜30%の厚さである。ここで、3層以上の共流延の場合は金属支持体に接した層と空気側に接した層のトータル膜厚を外側の厚さと定義する。共流延の場合、前述の可塑剤、紫外線吸収剤、マット剤等の添加物濃度が異なるポリマー溶液を共流延して、積層構造のセルロースアシレートフィルムを作製することもできる。例えば、スキン層/コア層/スキン層といった構成のセルロースアシレートフィルムを作ることができる。例えば、マット剤は、スキン層に多く、またはスキン層のみに入れることができる。可塑剤、紫外線吸収剤はスキン層よりもコア層に多くいれることができ、コア層のみにいれてもよい。また、コア層とスキン層で可塑剤、紫外線吸収剤の種類を変更することもでき、例えばスキン層に低揮発性の可塑剤および/または紫外線吸収剤を含ませ、コア層に可塑性に優れた可塑剤、或いは紫外線吸収性に優れた紫外線吸収剤を添加することもできる。また、剥離促進剤を金属支持体側のスキン層のみ含有させることも好ましい態様である。また、冷却ドラム法で金属支持体を冷却して溶液をゲル化させるために、スキン層に貧溶媒であるアルコールをコア層より多く添加することも好ましい。スキン層とコア層のTgが異なっていても良く、スキン層のTgよりコア層のTgが低いことが好ましい。また、流延時のセルロースアシレートを含む溶液の粘度もスキン層とコア層で異なっていても良く、スキン層の粘度がコア層の粘度よりも小さいことが好ましいが、コア層の粘度がスキン層の粘度より小さくてもよい。
【0128】
〈第一延伸工程〉
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法においては、前記流延工程において形成された前記ウェブを搬送しながら残留溶媒量が100〜300質量%の状態で−30℃〜30℃で一方向に延伸する。前記第一延伸工程がフィルム搬送方向への延伸であることが、Re発現性の観点から好ましい。この際、ウェブの前記第一延伸開始時の残留溶媒量は100〜300質量%である。第一延伸工程での温度の好ましい範囲は、−30℃〜30℃、より好ましくは−10℃〜0℃の温度で乾燥を行う。
【0129】
[残留溶媒量]
この第一延伸開始時におけるセルロースアシレートウェブの残留溶媒量は、下記式に基づいて算出することができる。また、後述する乾燥工程や第二延伸工程開始時における残留溶媒量についても同様に算出することができる。
【0130】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
[式中、Mは、延伸ゾーンに挿入される直前のセルロースアシレートフィルムの質量、Nは、延伸ゾーンに挿入される直前のセルロースアシレートフィルムを120℃で2時間乾燥させたときの質量を表す]
【0131】
本発明における前記第一延伸工程において、ウェブの第一延伸開始時における残留溶媒量は、100〜300質量%であり、剥ぎ取り、ウェブの判断、延伸温度、延伸倍率等のバランスを考慮すると、200〜300質量%がさらに好ましい。前記ウェブの第一延伸開始時における残留溶媒量が100質量%未満であると、延伸温度を低くすると延伸の際にウェブの破断が生じやすい。このため、延伸温度を高く設定する必要があり、エネルギー効率が低下してしまう。また、延伸温度を高くしても、高倍率で延伸しようとするとやはりウェブに破断が生じてしまう。さらに、前記残留溶媒量が100質量%未満であるとフィルムが硬くなり延伸が難しくなるため、目的の光学特性が得られない。また、残留溶媒量が300質量%を越えると、ウェブの剥ぎ取り性や延伸適性(シワ、ハンドリングなど)、回収性が著しく低下してしまう。特に前記残留溶媒量が、200〜300質量%の範囲内にあると、延伸倍率を上げやすく、さらに、ウェブの破断をより効果的に抑制することができる。
【0132】
前記第一延伸工程開始時におけるセルロースアシレートウェブの残留溶媒量は、本発明におけるポリマー溶液の濃度、金属支持体の温度や速度等を変更することにより、適宜調整することができる。また、第一延伸工程開始前に乾燥を行うことも可能であるが、この前記第一延伸工程開始前の乾燥ではフィルムの結晶化が進まない程度の温度である必要があり、具体的には30℃以上にならない範囲であれば乾燥を行ってもよい。
【0133】
また、前記第一延伸工程中においてセルロースアシレートウェブ中の残留溶媒量は徐々に減少していくこととなるが、前記第一延伸工程が終了するときには、後述の乾燥工程における好ましい乾燥開始時の残留溶媒量まで低下していることが好ましい。例えばこのような前記第一延伸工程中における残留溶媒量の制御は延伸中における自然乾燥の他、乾燥風の導入によって延伸と同時に行うことができる。
【0134】
本発明における前記第一延伸工程において、ウェブは搬送されながら、搬送方向に延伸される。この際、ウェブの延伸倍率としては、高い延伸倍率を達成しつつウェブの破断を防止する観点から、5〜100%が好ましく、15〜50%がさらに好ましい。前記延伸の際のセルロースアシレートウェブの延伸倍率(伸び)は、金属支持体速度と剥ぎ取り速度(剥ぎ取りロールドロー)との周速差により達成することができる。例えば、2つのニップロールを有する装置を用いた場合、入口側のニップロールの回転速度よりも、出口側のニップロールの回転速度を速くすることにより、搬送方向(縦方向)にセルロースアシレートフィルムを好ましく延伸することができる。このような延伸を行うことによって、レターデーションの発現性を調整することができる。
なお、ここでいう「延伸倍率(%)」とは、以下の式により求められるものを意味するが、直接長さを測定する方法に制限されるものではなく、下記式で求められる延伸倍率と同等の結果が得られるその他の方法を採用することもできる。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
【0135】
本発明における前記第一延伸工程において、延伸時におけるウェブの膜面温度(延伸温度)は延伸効率および残留溶媒量変化を小さくする観点から、−30℃〜30℃に制御する。このような制御は、金属支持体およゾーン温度の温度を調節することで達成できる。以下であることが好ましい。
【0136】
また、延伸工程におけるウェブの延伸速度は、特に限定されるものではないが、延伸適性(シワ、ハンドリングなど)の観点から、1〜1000%/minが好ましく、1〜100%/minがさらに好ましい。延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。
【0137】
前記第一延伸工程を経たウェブは、続いて乾燥(結晶化)処理工程へ搬送する。
【0138】
〈乾燥(結晶化処理〉工程〉
延伸処理が完了したウェブはウェブの膜面温度が200℃以上にならないように制御しながら残留溶媒量を6〜120質量%の状態から12質量%未満の状態に減少させる乾燥工程で処理する(結晶化処理)。
この上記特定の条件を満たす事により、流延したウェブ内の分子動きが低温でありながら十分であり、かつ、結晶化を阻害するような分子も結晶化する条件としては十分少ないため、結晶化が効率的に低温で進行する。膜面温度をこれより低くした場合には、分子運動が十分得られず、高くした場合には分子運動が激しくなりすぎるため結晶化が進行しない。
【0139】
さらに、前記第一延伸工程の後に、前記ウェブの膜面温度を、より好ましくは50〜150℃、さらに好ましくは50〜120℃に制御しながら、前記乾燥工程を行うことが、光学発現性の観点からより好ましい。
【0140】
前記乾燥工程の開始時における残留溶媒量は、6〜120質量%であり、8〜100質量%であることが好ましく、10〜100質量%であることがより好ましく、より特に好ましくは20〜100質量%の範囲である。残留溶媒量が120質量%以下の場合、好ましくは100質量%以下の場合には、分子運動が十分起こり、結晶化する条件としては阻害分子の存在する数が減少するため結晶化が進行しやすくなる。また、残留溶媒量が6質量%の場合、好ましくは8質量%以上の場合、特に好ましくは10質量%以上の場合には、低温で十分な分子運動が得られる。
前記乾燥工程の終了時における残留溶媒量は12質量%未満であり、2〜10質量%であることが好ましく、2〜7質量%であることが特に好ましい。
本発明の製造方法では、前記乾燥工程において残留溶媒量を8〜100質量%の状態から2〜10質量%の状態に減少させることが好ましい。
前記乾燥工程における残留溶媒量の減少量は3〜98質量%であることが好ましく、10〜60質量%であることがより好ましく、20〜50質量%であることが特に好ましい。
【0141】
前記第一延伸工程開始後から乾燥工程開始前までの間に残留溶媒量を100質量%以下に減少させる工程を、前記第一延伸工程中に延伸と同時に行ってもよい。
前記第一延伸工程終了時おいて前記乾燥工程の開始時における好ましい残留溶媒量の範囲に制御できていなかった場合は、第一延伸工程終了から乾燥工程開始までの間に残留溶媒量を減少させるその他の工程を実施する。このような残留溶媒量を減少させる工程としては前記第一延伸工程開始前の乾燥のように本発明の趣旨に反しない乾燥工程を挙げることができ、具体的には、乾燥温度が50℃以上にならない範囲で乾燥を行うことができる。
【0142】
前記残留溶媒量を減少させるその他の工程としては、具体的には例えば以下の態様を挙げることができるが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。テンター内においてウェブ自体の発泡やウェブが保持手段に付着するのを防止するために、テンター乾燥装置において、ウェブの両側縁部保持ピンを吹出型冷却器でウェブの発泡温度未満に冷却すると共に、ウェブを喰い込ます直前のピンをダクト型冷却器でのドープを0℃以下に冷却する事が好ましい。
【0143】
前記乾燥(結晶化処理)工程は、セルロースアシレートフィルム(ウェブ)を搬送しながら行うことが好ましい。セルロースアシレートフィルムの搬送手段は特に制限されないが、乾燥工程においてウェブは、例えばテンターで両端をクリップやピンで固定されたりしながら乾燥される。典型的な例としてニップロールやサクションドラムにより搬送する手段、テンタークリップで把持しながら搬送する手段(空気圧で浮上搬送する手段)などを挙げることができる。好ましいのは、ピン状テンターで固定しながら搬送する手段、隙間が狭い複数の搬送ローラにより搬送する手段であり、より好ましいのは、ピン状テンターで固定しながら搬送する手段である。
【0144】
ピン状テンターで固定しながら搬送する手段は、具体的には、搬送方向に直交する線上にあるセルロースアシレートフィルム両端部をそれぞれピン状テンターで固定し、一方の端部を固定したテンターと他方の端部を固定したテンターとの間の距離を制御しながら搬送することにより行うことができる。テンター間の距離は、テンターレールパターンを適宜設定することにより制御することが可能である。このようにして、テンター間の距離を制御することにより、幅方向の寸法変化率を所望の値に抑制しながらセルロースアシレートフィルムを乾燥処理することができる。
ウェブの破断、シワ、搬送不良を防止するために、ピンテンターのピンにおいて、内側のピン密度を大きく、外側のピン密度を小さくすると好ましい。
【0145】
隙間が狭い複数の搬送ローラにより搬送する手段は、具体的には、隣り合う搬送ロール間の隙間が0.1cm〜50cmとなるように結晶化処理ゾーン内に設置された複数の搬送ロールにセルロースアシレートフィルムを通して搬送することにより行うことができる。隣り合う搬送ロール間の隙間とは、搬送されるフィルムが1つの搬送ロールから離れてから次の搬送ロールにラップされるまでの間の距離を指す。このような搬送ロール間の隙間の狭い一群の搬送ロール(いわゆる密ロール)の間を通すことにより、フィルム幅方向に搬送ロールによる保持力が作用し、フィルムの幅方向への寸法変化率を抑制することができる。この方法では、テンタークリップ法のような幅方向の拡幅は不可能だが、収縮を最小限に抑制することができる。
【0146】
前記乾燥(結晶化処理)工程におけるフィルム搬送の速度は、通常は1〜500m/分であり、5〜300m/分が好ましく、10〜200m/分がより好ましく、20〜100m/分がさらに好ましい。搬送速度が、前記の下限値である1m/分以上であれば産業上、十分な生産性を確保することができるという点で好ましくなる傾向があり、前記の上限値である500m/分以下であれば実用的な結晶化処理ゾーン長で十分に結晶成長を進行させることができるという点で好ましくなる傾向がある。搬送速度を速くすればフィルムの着色を抑制することができる傾向があり、搬送速度を遅くすれば結晶化処理ゾーン長を短くすることができる傾向がある。結晶化処理中の搬送速度(搬送速度を決定するニップロールやサクションドラム等の装置の速度)は一定にしておくことが好ましい。
【0147】
前記乾燥(結晶化処理)方法として、例えば、セルロースアシレートフィルムを搬送しながら温度Tのゾーン内を通過させる方法、搬送されているセルロースアシレートフィルムに熱風をあてる方法、搬送されているセルロースアシレートフィルムに熱線を照射する方法、セルロースアシレートフィルムを昇温されたロールに接触させる方法などを挙げることができる。
【0148】
好ましくは、セルロースアシレートフィルムを搬送しながら温度Tのゾーン内を、熱風をあてながら通過させる方法である。この方法によれば、セルロースアシレートフィルムを均一に加熱することができるという利点がある。ゾーン内の温度は、例えば温度センサでモニターしつつヒーターで一定温度に制御することにより温度Tに維持することができる。温度Tのゾーン内のセルロースアシレートフィルムの搬送長は、製造しようとするセルロースアシレートフィルムの性質や搬送速度によって異なるが、通常は(搬送長)/(搬送するセルロースアシレートフィルムの幅)の比が0.1〜100となるように設定することが好ましく、より好ましくは0.5〜50であり、さらに好ましくは1〜20である。この比は、本明細書において縦横比と略すこともある。温度Tのゾーンの通過時間(結晶化処理の時間)は、通常0.01〜60分であり、好ましくは0.03〜10分であり、さらに好ましくは0.05〜5分である。前記範囲とすることにより、レターデーションの発現に優れ、フィルムの着色を抑制することができる。
【0149】
また、溶液流延法により速度を上げたり、テンターにてウェブの幅を広げたりする時の平面性等の品質低下を防止するために、前記流延工程において、テンター内でウェブを乾燥する際には、風速を0.5〜20(40)m/s、横手方向温度分布を10%以下、ウェブ上下風量比を0.2〜1とすることが好ましい。
また、乾燥ガスの吹き出し延長方向に位置するフィルム表面上での風速分布を風速の上限値を基準にした時、上限値と下限値との差を上限値の20%以内にして、乾燥ガスを吹き出し、ウェブを乾燥させることが好ましい。
【0150】
本発明における乾燥(結晶化処理)工程は、本発明の製造方法において1回のみ行ってもよいし、複数回行ってもよい。複数回行うとは、前の乾燥(結晶化処理)が終了した後に再び温度を200℃未満の初回の乾燥工程終了時以上の温度に設定して、搬送しながら結晶化処理を行うことを意味する。複数回結晶化処理を行う場合は、すべての結晶化処理が完了した段階で前記の延伸倍率の範囲を満たすことが好ましい。本発明の製造方法における結晶化処理は、3回以下が好ましく、2回以下がより好ましく、1回が最も好ましい。
【0151】
[第二延伸工程]
本発明の製造方法では、前記乾燥工程後に、60℃〜200℃で前記第一延伸工程での延伸方向と異なる方向に延伸する第二延伸工程を含む。
【0152】
前記第二延伸時の延伸温度は、60〜200℃であり、90〜140℃であることがさらに好ましい。60℃以上であると延伸が十分となり、また、200℃以下であると泣き出しや揮散の問題の発生が顕著に少なくなる。
【0153】
このような条件下での第二延伸の実施により、結晶部分を大きく動かすことなく、配向した非晶部分を減少させることができると考えられる。したがって、Reを大きく動かすことなく、Reの湿度依存性を低減させることが可能となる、また、波長分散をコントロールできる。このような第二延伸工程は、配向した非晶部分を効率的に減少させる観点から、搬送方向に対し異なる方向で延伸を行い、直交方向への延伸を行うことが好ましい。
【0154】
また、TD方向(フィルム搬送方向に直行する方向)に延伸することが、最終的に得られる透明フィルムのレタデーション(特にRe)の湿度依存性を効果的に低減する観点からも好ましい。この湿度依存性の改良により、表示の湿度変化による変動が低減し、さらに表示安定性が向上する。
【0155】
ここで、前記乾燥工程理後に上記条件を満たす第二延伸工程を行うことにより、得られるフィルムの湿度依存性の改良および波長分散をも調整することができる。フィルムの湿度依存性および波長分散は、主に、非晶部と添加剤(波長分散調整剤)の配向によって決定する。一方、フィルムの遅相軸の向き、およびReとRthの絶対値は、主に、結晶部の配向によって決定する。ここで、前記フィルムの延伸前の配向方向を検討すると、結晶化処理のみを行ったフィルムでは、結晶部、非晶部および添加剤が結晶化処理工程時のフィルム搬送方向に配向している。これらの乾燥(結晶化処理)工程後のフィルムに対し、前記特定の範囲で第二延伸工程を行うことに本発明の特徴があり、本発明は乾燥工程後の延伸では結晶部の配向よりも非晶部と添加剤の配向の変化速度が速いことを新たに見出したことにも特徴の1つを有する。すなわち、結晶部分を大きく動かすことなく、非晶部分等の配向を支配的に変化させることができる。本発明の製造方法によれば乾燥(結晶化処理)工程後の延伸により、非晶部と添加剤の配向が結晶部の配向と直交した状態にすることができ、遅相軸の向きを変えずに湿度依存性および波長分散を自由に制御することも可能となる。
【0156】
前記第二延伸工程がTD延伸である場合、TD延伸の方法としては、例えば、セルロースアシレートフィルムの両端をピン状テンターで固定し、これを搬送方向と直交する方向(横方向)に延伸または収縮しながら加熱ゾーンを通過させる方法等を採用することができる。TD延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。好ましいのは、ポリマーフィルムの両端をピン状テンターで把持してこれを搬送方向と直交する方向に広げることより延伸する方法である。
【0157】
前記第二延伸工程における延伸倍率はセルロースアシレートフィルムに要求するレターデーションに応じて適宜設定することができ、35%未満であることが好ましく、1%以上35%未満であることがより好ましく、1〜30%が特に好ましく、1〜5%がさらに好ましい。
【0158】
また、前記TD延伸における延伸速度は1〜1000%/分が好ましく、より好ましくは10〜500%/分であり、さらに好ましくは10〜200%/分である。
【0159】
なお、前記乾燥(結晶化処理)工程が終わった後、前記第二延伸工程を行う前の状態のセルロースアシレートフィルムのReやRthは特に制限されない。
【0160】
(後乾燥・ハンドリング)
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法において、前記第二延伸工程終了時から後の乾燥工程における乾燥温度は40〜180℃、特に70〜150℃が好ましい。さらに残留溶媒を除去するために、50〜150℃で乾燥され、その場合逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることが好ましく用いられている。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量および乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。最終仕上がりフィルムの残留溶媒量は2質量%以下、さらに0.4質量%以下であることが、寸度安定性が良好なフィルムを得る上で好ましい。
【0161】
また、乾燥後のフィルムの残留溶媒量に関しては、特開2002−241511号公報に、20〜60μmの薄手フィルムであっても経時的の変形をなくし、光学的に等方性で、且つ擦り傷が起こらず、気泡や未溶解物をなくすことを目的として、巻き取り時の残留溶媒量を0.05質量%以下とすることが好ましい。さらに、幅手方向で残留溶媒量の最大値と最小値との差が0.02質量%以下あること、残留溶媒量は好ましくは0.04質量%以下、特に好ましくは0.02質量%以下であること、そのために乾燥温度としては、100〜150℃、乾燥時間としては5〜30分とすること、等が好ましい。
【0162】
また、添加剤の泣き出しや揮散が問題ない範囲であれば、200℃程度の温度で前記第二延伸工程終了後に処理し、さらに結晶化度を向上させてもよい。
【0163】
また、安定搬送、面状良化、必要な光学特性、熱収縮を下げるために、特開2003−053751号公報には、乾燥時におけるベース中の残留溶媒量(乾量基準)を3〜7質量%の時、残留溶媒量における貧溶媒比率が0.01〜95質量%とする発明が記載されている。
【0164】
また、曇りの発生しないフィルムを得るための発明である特開2003−071863号公報には、フィルムの乾燥工程においては、ベルトより剥離したフィルムをさらに乾燥し、残留溶媒量を0.5質量%以下にすることが好ましく、さらに好ましくは0.1質量%以下であり、最も好ましいのは0〜0.01質量%以下であることが記載されている。
【0165】
また、特開平5−278051号公報に、生産性に優れた、溶質の表裏差の少ない物性を目的として、溶質とポリマーとの相互作用パラメータχが0.9以下になるように溶質を選択し、かつ流延した膜中の溶媒のポリマーに対する重量比23%以下になるまでの乾燥を、溶媒のポリマーに対する膜の表面の重量比を12%以上に維持しつつ行う溶液製膜法の発明が記載されている。
【0166】
以上記載したこれらの発明は、本発明においても適用できるものである。
【0167】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。乾燥のために遠赤外線や特開平8−134336号、特開平8−259706号、特開平8−325388号の各公報に記載されているように、マイクロ波を用いて乾燥することもできる。
【0168】
また、特開2002−283370号公報には、乾燥装置、或いは熱矯正装置への導入前および/または搬出後にフィルムクリーン化装置を配置して、ウェブに付着している粉塵などを除去することが記載されている。クリーン化手段としては、振動・高圧風供給・吸引方法以外の方法として、火炎処理(コロナ処理、プラズマ処理)を行なう方式、粘着ロールを設置する方式など用いることが開示されている。また、さらなる異物の混入を阻止するための、好ましい態様として、・巻取元巻接線内に巻き込む位置に除電器を設置すること、・除電器は、元巻を再繰り出しした際の帯電電位が<±2KVとなるように巻取時に除電装置或いは強制帯電装置により逆電位を与える構成で行なうこと・強制帯電電位が、1〜150Hzで正負交互に変換される除電器により除電する構成とすることもこと、・イオン風を発生させるイオナイザーや除電バーを利用することが開示されている。
【0169】
《セルロースアシレートフィルム》
本発明の製造方法で得られるセルロースアシレートフィルムは、Nz(Nz=Rth/Re+0.5)が0〜1.5の光学特性を有し、添加剤の低揮散性および低泣き出し性を有することが好ましい。また、前記セルロースアシレートフィルムは、本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法によって製造されることを特徴とする。なお、Nzが0〜1.5であると、偏光板の斜め方向のコントラスト視野角が良化する傾向にある。
以下において、前記セルロースアシレートフィルムについて説明する。
【0170】
[セルロースアシレートフィルムの特性]
(レターデーション)
本明細書において、Re、Rth(単位;nm)は次の方法に従って求めたものである。まず、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、プリズムカップラー(MODEL2010 Prism Coupler:Metricon製)を用い、25℃、相対湿度60%において、532nmの固体レーザーを用いて下記式(1)で表される平均屈折率(n)を求める。
【0171】
式(1): n=(nTE×2+nTM)/3
[式中、nTEはフィルム平面方向の偏光で測定した屈折率であり、nTMはフィルム面法線方向の偏光で測定した屈折率である。]
【0172】
本明細書において、Re(λnm)、Rth(λnm)は各々、波長λ(単位;nm)における面内レターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λnm)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが一軸または二軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λnm)は算出される。
Rth(λnm)は前記Re(λnm)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50°まで10°ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
前記において、λに関する記載が特になく、Re、Rthとのみ記載されている場合は、波長590nmの光を用いて測定した値のことを表す。また、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率および入力された膜厚値を基に、以下の式(2)および式(3)よりRthを算出することもできる。
【0173】
【数1】

[式中、Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレタ−デーション値を表す。また、nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する厚み方向の屈折率を表し、dはフィルムの膜厚を表す。]
【0174】
式(3): Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
【0175】
測定されるフィルムが一軸や二軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λnm)は算出される。
Rth(λnm)は前記Re(λnm)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。これら平均屈折率と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出される。
【0176】
前記セルロースアシレートフィルムのRe(550)は60〜300nmであることが好ましい。
また、前記セルロースアシレートフィルムのRth(550)は−10〜80nmであることが好ましい。
【0177】
前記セルロースアシレートフィルムの光学特性は、より好ましくは、
60nm ≦ Re(550) ≦ 200nm
−10nm ≦ Rth(550) ≦ 80nm
0.5<Nz<1.5
であり、さらに好ましくは、
60nm ≦ Re(550) ≦ 150nm
40nm ≦ Rth(550) ≦ 80nm
1.0<Nz<1.5
である。
【0178】
また、面内方向のレターデーションRe、膜厚方向のレターデーションRthの波長分散はコントラスト視野角、色味の最適化を行う際に重要であり、
Re(450)−Re(550) < −3nm
Rth(450)−Rth(550) > 3nm
を満たすことが好ましく、
−40nm < Re(450)−Re(550) < −5nm
5nm < Rth(450)−Rth(550) < 30nm
を満たすことがより好ましい。
【0179】
(湿度依存性)
本発明において、相対湿度がH(単位;%)であるときの面内方向および膜厚方向のレターデーション値:Re(H%)およびRth(H%)は、フィルムを25℃、相対湿度H%にて24時間調湿後、25℃、相対湿度H%において、前記方法と同様にして、相対湿度H%における測定波長が590nmであるときのレターデーション値を測定、算出したものである。なお、相対湿度を明記せずに単にReと表記されている場合は、相対湿度60%で測定した値である。
前記セルロースアシレートフィルムの湿度を変化させた場合のレターデーション値は、以下の関係式を満たすことが好ましい。
|Re(10%)−Re(80%)|<50、且つ、
|Rth(10%)−Rth(80%)|<50
また以下の関係式を満たすことがより好ましい。
|Re(10%)−Re(80%)|<30、且つ、
|Rth(10%)−Rth(80%)|<40
また以下の関係式を満たすことがさらに好ましい。
|Re(10%)−Re(80%)|<20、且つ、
|Rth(10%)−Rth(80%)|<30
【0180】
また、前記セルロースアシレートフィルムの湿度を変化させた場合のレターデーション値は、以下の関係式も満たすことが好ましい。
|Re(10%)−Re(80%)|/Re<1
また以下の関係式を満たすことがより好ましい。
|Re(10%)−Re(80%)|/Re<0.5
また以下の関係式を満たすことがさらに好ましい。
|Re(10%)−Re(80%)|/Re<0.3
また以下の関係式を満たすことが最も好ましい。
|Re(10%)−Re(80%)|/Re<0.2
前記湿度を変化させた場合のレターデーション値を制御することにより、外部環境が変化した場合のレターデーション変化を低下させることができ、信頼性の高い液晶表示装置を提供することができる。
【0181】
(遅相軸)
本発明におけるセルロースアシレートフィルムは、製造時の搬送方向とフィルムのReの遅相軸とのなす角度が直交することが、偏光板加工の観点から好ましい。遅相軸とのなす角度は0±10°もしくは90±10°であることが好ましく、0±5°もしくは90±5°であることがより好ましく、0±3°もしくは90±3°であることがさらに好ましく、場合により、0±1°もしくは90±1°であることが好ましく、90±1°であることが最も好ましい。
【0182】
(膜厚)
前記セルロースアシレートフィルムの膜厚は20μm〜180μmが好ましく、30μm〜160μmがより好ましく、40μm〜120μmがさらに好ましい。膜厚が20μm以上であれば偏光板等に加工する際のハンドリング性や偏光板のカール抑制の点で好ましい。また、前記セルロースアシレートフィルムの膜厚むらは、搬送方向および幅方向のいずれも0〜2%であることが好ましく、0〜1.5%がさらに好ましく、0〜1%であることが特に好ましい。
【0183】
(透湿度)
前記セルロースアシレートフィルムの透湿度は、80μm換算で100g/(m2・day)以上であることが好ましい。前記80μm換算の透湿度を100g/(m2・day)以上としたフィルムを使用することで、偏光膜と直接貼合しやすくなる。前記80μm換算の透湿度としては、100〜1500g/(m2・day)がより好ましく、200〜1000g/(m2・day)がより好ましく、300〜800g/(m2・day)がさらに好ましい。
また、前記セルロースアシレートフィルムを後述のように偏光膜と液晶セルとの間に配置されない外側の保護フィルムとして用いる場合、前記セルロースアシレートフィルムの透湿度は、80μm換算で500g/(m2・day)未満であることが好ましく、100〜450g/(m2・day)がより好ましく、100〜400g/(m2・day)がさらに好ましく、150〜300g/(m2・day)が最も好ましい。このようにすることで、湿度もしくは湿熱に対する偏光板の耐久性が向上し、信頼性の高い液晶表示装置を提供することができる。
【0184】
(ΔHc)
前記セルロースアシレートフィルムは 結晶化熱ΔHcが0〜1.0J/gであることが好ましく、0〜0.5J/gであることがより好ましい。この範囲にすることにより、Reの発現性の拡大および湿度依存性の低減が可能となる。
【0185】
(着色)
前記セルロースアシレートフィルムは、着色が少なく、無色透明性に優れることが好ましい。具体的には、400nmにおける吸収が0.2以下であることが好ましく、0.1以下がさらに好ましい。
【0186】
《位相差フィルム》
前記セルロースアシレートフィルムを位相差フィルムの支持体として用い、その上に液晶組成物からなる光学異方性層を設けて位相差フィルムとして使用することもできる。前記位相差フィルムに適用される光学異方性層は、液晶性化合物を含有する組成物から形成される。
前記液晶性化合物としては、ディスコティック液晶性化合物または棒状液晶性化合物が好ましい。
【0187】
[位相差フィルムの支持体]
前記位相差フィルムでは、支持体として、前記セルロースアシレートフィルムを用いる。前記セルロースアシレートフィルムはそのまま用いてもよいし、適宜後述する表面処理等をおこなってから支持体として用いてもよい。
【0188】
[液晶組成物]
前記液晶組成物より成る光学異方性層の形成に用いる液晶組成物は、ネマチック相およびスメクチック相を形成し得る液晶組成物であるのが好ましい。液晶化合物は、一般的に、その分子の形状に基づいて、棒状および円盤状液晶化合物に分類されるが、本発明ではいずれの形状の液晶化合物を用いてもよい。
【0189】
前記液晶組成物より成る光学異方性層の厚さについては特に制限されないが、0.1〜10μmであるのが好ましく、0.5〜5μmであるのがより好ましい。
【0190】
(液晶組成物より成る光学異方性層に用いられる材料)
(1)円盤状液晶化合物(ディスコティック液晶性化合物)
本発明において前記液晶性化合物として使用可能なディスコティック液晶性化合物の例には、様々な文献(例えば、C.Destrade et al.,Mol.Crysr.Liq.Cryst.,vol.71,page 111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al.,Angew.Chem.Soc.Chem.Comm.,page 1794(1985);J.Zhang et al.,J.Am.Chem.Soc.,vol.116,page 2655(1994))に記載の化合物が含まれる。
【0191】
前記光学異方性層において、ディスコティック液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。また、ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。重合性基を有するディスコティック液晶性分子については、特開2001−4387号公報に開示されている。
【0192】
円盤状液晶化合物としては、特開2006−76992号公報明細書中の段落番号[0052]、特開2007−2220号公報明細書中の段落番号[0040]〜[0063]に記載の化合物、特開2005−301206号公報に記載の化合物が適しており、その中でも、ディスコティック液晶性を示す化合物が好ましく、特に、ディスコティックネマチック相を示す化合物が好ましい。
【0193】
(2)棒状液晶化合物
本発明において前記液晶性化合物として使用可能な棒状液晶性化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が含まれる。また、前記棒状液晶性化合物としては、以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。
【0194】
前記光学異方性層において、棒状液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。本発明に使用可能な重合性棒状液晶性化合物の例は、例えば、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4,683,327号明細書、同5,622,648号明細書、同5,770,107号明細書、国際公開第95/22586号パンフレット、同95/24455号パンフレット、同97/00600号パンフレット、同98/23580号パンフレット、同98/52905号パンフレット、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、および特開2001−328973号公報
【0195】
液晶組成物より成る光学異方性層には、棒状液晶化合物を用いることもできる。
棒状液晶化合物を用いる場合は、前記液晶組成物より成る光学異方性層に要求される特性を満足するために、2種以上の棒状液晶化合物を用いるのが好ましい。好ましい組み合わせとしては、下記一般式(4)で表される棒状液晶の少なくとも一種と、下記一般式(5)で表される棒状液晶の少なくとも一種との組み合わせが挙げられる。
【0196】
【化13】

【0197】
前記一般式(4)および(5)中、AおよびBはそれぞれ、芳香族もしくは脂肪族炭化水素環、またはヘテロ環の基を表し;R101〜R104はそれぞれ、置換もしくは無置換の、C1〜12(好ましくはC3〜7)のアルキレン基、またはC1〜12(好ましくはC3〜7)のアルキレン鎖を含むアルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基もしくはアルコキシカルボニルオキシ基を表し;Ra、RbおよびRcはそれぞれ置換基を表し;x、yおよびzはそれぞれ、1〜4の整数を表す。
【0198】
前記一般式(4)中、R101〜R104に含まれるアルキル鎖は、直鎖状および分岐状のいずれであってもよい。直鎖状であるのがより好ましい。また、組成物を硬化させるために、R101〜R104は末端に重合性基を有しているのが好ましく、該重合性基の例には、アクリロイル基、メタクリロイル基、およびエポキシ基等が含まれる。
【0199】
前記一般式(4)中、xおよびzは0で、且つyが1であるのが好ましく、1個のRbは、オキシカルボニル基またはアシルオキシ基に対してメタ位もしくはオルト位の置換基であるのが好ましい。RbはC1〜12のアルキル基(例えばメチル基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子)等が好ましい。
【0200】
前記一般式(5)中、AおよびBはそれぞれ、フェニレン基またはシクロへキシレン基であるのが好ましく、AおよびBの双方がフェニレン基であるか、または一方がシクロへキシレン基で且つ他方がフェニレン基であるのが好ましい。
【0201】
《位相差フィルムの製造方法》
前記位相差フィルムの製造方法は、前記第二延伸工程後の前記前記セルロースアシレートフィルムの表面上に配向膜用のフィルムを製膜し、ラビング処理により配向膜を形成してフィルムを形成する工程を含むことが好ましい。前記配向膜は本発明で用いる液晶性化合物を一定の方向に配向させる働きをする。従って、配向膜は前記位相差フィルムに好ましく用いられる。
【0202】
[支持体の製造]
(前記セルロースアシレートフィルムの表面処理)
前記セルロースアシレートフィルムは、表面処理を施すことが好ましい。
前記セルロースアシレートフィルムには、適宜、表面処理を行うことにより、各機能層(例えば、下塗層、バック層、光学異方性層)との接着を改善することが可能となる。前記表面処理には、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、鹸化処理(酸鹸化処理、アルカリ鹸化処理)が含まれ、特にグロー放電処理およびアルカリ鹸化処理が好ましい。ここでいう「グロー放電処理」とは、プラズマ励起性気体存在下でフィルム表面にプラズマ処理を施す処理である。これらの表面処理方法の詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載があり、適宜、使用することができる。
【0203】
フィルム表面と機能層との接着性を改善するため、表面処理に加えて、或いは表面処理に代えて、前記セルロースアシレートフィルム上に、特開平7−333433号明細書に記載のように、下塗層(接着層)を設けることもできる。前記下塗層については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載があり、これらを適宜、使用することができる。また、セルロースアシレートフィルム上に設けられる機能性層について、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に記載があり、これに記載のものを適宜、前記セルロースアシレートフィルム上に使用することができる。
【0204】
フィルムの平面性を保持する観点から、これら処理において前記セルロースアシレートフィルムの温度をTg(ガラス転移温度)以下、具体的には150℃以下とすることが好ましい。
偏光板の透明保護膜として使用する場合、偏光膜との接着性の観点から、酸処理またはアルカリ処理、すなわちセルロースアシレートに対する鹸化処理を実施することが特に好ましい。以下、アルカリ鹸化処理を例に、具体的に説明する。
【0205】
アルカリ鹸化処理は、前記セルロースアシレートフィルムの表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。
アルカリ溶液の例としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられる。アルカリ溶液の水酸化イオンの規定濃度は、0.1〜3.0Nの範囲にあることが好ましく、0.5〜2.0Nの範囲にあることがさらに好ましい。アルカリ溶液の温度は、室温乃至90℃の範囲にあることが好ましく、40〜70℃の範囲にあることがさらに好ましい。
【0206】
表面処理後の前記セルロースアシレートフィルムの表面エネルギーは、55mN/m以上であることが好ましく、60m〜75mN/mであることがさらに好ましい。
固体の表面エネルギーは、「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社 1989.12.10発行)に記載のように接触角法、湿潤熱法、および吸着法により求めることができる。前記セルロースアシレートフィルムの場合、接触角法を用いることが好ましい。
具体的には、表面エネルギーが既知である2種の溶液を前記セルロースアシレートフィルムに滴下し、液滴の表面とフィルム表面との交点において、液滴に引いた接線とフィルム表面のなす角で、液滴を含む方の角を接触角と定義し、計算によりフィルムの表面エネルギーを算出できる。
【0207】
(配向膜の形成)
配向膜は、液晶性化合物の配向方向を規定する機能を有する。配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で、設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法において、配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成する。
【0208】
前記配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成する。ポリビニルアルコールが、好ましいポリマーである。疎水性基が結合している変性ポリビニルアルコールが特に好ましい。
前記配向膜は、一種類のポリマーから形成することもできるが、架橋された二種類のポリマーからなる層をラビング処理することにより形成することがさらに好ましい。少なくとも一種類のポリマーとして、それ自体架橋可能なポリマーか、架橋剤により架橋されるポリマーのいずれかを用いることが好ましい。配向膜は、官能基を有するポリマーあるいはポリマーに官能基を導入したものを、光、熱、PH変化等により、ポリマー間で反応させて形成するか;あるいは、反応活性の高い化合物である架橋剤を用いてポリマー間に架橋剤に由来する結合基を導入して、ポリマー間を架橋することにより形成することができる。
【0209】
このような架橋は、上記ポリマーまたはポリマーと架橋剤の混合物を含む配向膜塗布液を、高揮発結晶化処理後の前記セルロースアシレートフィルム上に塗布したのち、加熱等を行なうことにより実施される。最終商品で耐久性が確保できればよいので、配向膜を高揮発結晶化処理後の前記セルロースアシレートフィルム上に塗設した後から、セルロースアシレートフィルムを得るまでのいずれの段階で架橋させる処理を行なってもよい。
配向膜上に形成される液晶性化合物からなる層(光学異方性層)の配向性を考えると、液晶性化合物を配向させたのちに、充分架橋を行なうことも好ましい。
配向膜の架橋は、高揮発結晶化処理後の前記セルロースアシレートフィルム上に配向膜塗布液を塗布し、加熱乾燥することで行われることが一般的である。この塗布液の加熱温度を低く設定して、後述の光学異方性層を形成する際の加高揮発結晶化処理の段階で配向膜の充分な架橋を行うことが好ましい。
【0210】
前記配向膜の形成に用いるポリマーとしては、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができる。勿論両方可能なポリマーもある。ポリマーの例としては、ポリメチルメタクリレート、アクリル酸/メタクリル酸共重合体、スチレン/マレインイミド共重合体、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、スチレン/ビニルトルエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリカーボネート等のポリマーおよびシランカップリング剤等の化合物を挙げることができる。
好ましいポリマーの例としては、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーが挙げられる。ゼラチン、ポリビルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールを用いることが好ましく、ポリビルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールを用いることがさらに好ましい。
また、重合度の異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを二種類併用することが最も好ましい。
【0211】
前記ポリビニルアルコールの例としては、鹸化度が70〜100%の範囲にあるポリビニルアルコールが挙げられる。一般に鹸化度は80〜100%の範囲にあり、85〜95%の範囲にあることがさらに好ましい。また、ポリビニルアルコールの重合度は、100〜3000の範囲にあることが好ましい。
前記変性ポリビニルアルコールの例としては、共重合変性、連鎖移動による変性、またはブロック重合による変性をしたポリビニルアルコールなどを挙げることができる。共重合変性する場合の変性基の例としては、COONa、Si(OX)3、N(CH33・Cl、C919COO、SO3 、Na、C1225などが挙げられる。連鎖移動による変性をする場合の変性基の例としては、COONa、SH、C1225などが挙げられる。また、ブロック重合による変性をする場合の変性基の例としては、COOH、CONH2、COOR、C65などが挙げられる。
これらの中でも、鹸化度が80〜100%の範囲にある未変性もしくは変性ポリビニルアルコールが好ましい。また、鹸化度が85〜95%の範囲にある未変性ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましい。
【0212】
前記変性ポリビニルアルコールとしては、特に、下記一般式(6)で表される化合物によるポリビニルアルコールの変性物を用いることが好ましい。この変性ポリビニルアルコールを、以下、特定の変性ポリビニルアルコールと記載する。
【0213】
【化14】

【0214】
前記一般式(6)中、R111は、アルキル基、アクリロイルアルキル基、メタクリロイルアルキル基、またはエポキシアルキル基を表し;Wは、ハロゲン原子、アルキル基、またはアルコキシ基を表し;Xは、活性エステル、酸無水物、または酸ハロゲン化物を形成するために必要な原子群を表し;pは、0または1を表し;そしてnは、0〜4の整数を表す。
前記特定の変性ポリビニルアルコールは、さらに下記一般式(7)で表される化合物によるポリビニルアルコールの変性物であることが好ましい。
【0215】
【化15】

【0216】
前記一般式(7)中、X1 は、活性エステル、酸無水物、または酸ハロゲン化物を形成するために必要な原子群を表し、そしてmは2〜24の整数を表す。
【0217】
これらの一般式により表される化合物と反応させるために用いるポリビニルアルコールとしては、前述の、未変性のポリビニルアルコール、および、共重合変性したもの、即ち連鎖移動により変性したもの、ブロック重合による変性をしたものなどのポリビニルアルコールの変性物を挙げることができる。特定の変性ポリビニルアルコールの好ましい例は、特開平9−152509号公報に詳しく記載されている。
これらポリマーの合成方法、可視吸収スペクトル測定、および変性基導入率の決定方法等は、特開平8−338913号公報に詳しく記載がある。
【0218】
前記架橋剤の例としては、アルデヒド類、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾール類、およびジアルデヒド澱粉などを挙げることができる。アルデヒド類の例としては、ホルムアルデヒド、グリオキザール、およびグルタルアルデヒドが挙げられる。N−メチロール化合物の例としては、ジメチロール尿素およびメチロールジメチルヒダントインが挙げられる。ジオキサン誘導体の例としては、2,3−ジヒドロキシジオキサンが挙げられる。カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物の例としては、カルベニウム、2−ナフタレンスルホナート、1,1−ビスピロリジノ−1−クロロピリジニウム、および1−モルホリノカルボニル−3−(スルホナトアミノメチル)が挙げられる。活性ビニル化合物の例としては、1,3,5−トリアクリロイル−ヘキサヒドロ−s−トリアジン、ビス(ビニルスルホン)メタン、およびN,N'−メチレンビス−[β−(ビニルスルホニル)プロピオンアミド]が挙げられる。そして、活性ハロゲン化合物の例としては、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−S−トリアジンが挙げられる。これらは、単独または組合せて用いることができる。
これらは上記水溶性ポリマー、特にポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール(上記特定の変性物も含む)と併用する場合に好ましい。生産性を考慮した場合、反応活性の高いアルデヒド類、とりわけグルタルアルデヒドの使用が好ましい。
【0219】
前記配向膜の耐湿性(高湿耐久性)は、架橋剤を多く添加した方が良化傾向にある。しかし、架橋剤をポリマーに対して50質量%以上添加した場合には、配向膜としての配向能が低下する。従って、ポリマーに対する架橋剤の添加量は、0.1〜20質量%の範囲にあることが好ましく、0.5〜15質量%の範囲にあることがさらに好ましい。配向膜は、架橋反応が終了した後でも、反応しなかった架橋剤をある程度含んでいるが、その架橋剤の量は、配向膜中に1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。配向膜中に1.0質量%を超える量で未反応の架橋剤が含まれていると、充分な耐久性が得られない。即ち、液晶表示装置に使用した場合、長期使用、あるいは高温高湿の雰囲気下に長期間放置した場合に、レチキュレーションが発生することがある。
【0220】
そして、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合、その塗布液を作製するための溶媒は、消泡作用のあるメタノール等の有機溶媒とするか、あるいは有機溶媒と水の混合溶媒とすることが好ましい。有機溶媒としてメタノールを用いる場合、その比率は質量比で水:メタノールが、0:100〜99:1が一般的であり、0:100〜91:9であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、さらには光学異方性層の表面の欠陥が著しく減少する。
配向膜形成材料を含む配向膜塗布液の塗布方法としては、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を挙げることができる。この中でも、特にE型塗布法が好ましい。
【0221】
形成された配向膜の膜厚は、0.1〜10μmの範囲にあることが好ましい。
さらに、塗布後に乾燥させる際に加熱乾燥を行うことが好ましく、前記加熱乾燥は、例えば加熱温度20〜110℃の範囲で行なうことができる。充分な架橋を形成させるためには、加熱温度は60〜100℃の範囲にあることが好ましく、80〜100℃の範囲にあることが好ましい。
乾燥時間は、1分〜36時間の範囲にあることが好ましく、5〜30分間の範囲にあることがさらに好ましい。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5の範囲にあることが好ましく、特にpH5であることが好ましい。
【0222】
(ラビング処理)
前記ラビング処理の方法としては、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されているラビング処理方法を応用することができる。すなわち、膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維を用いて一定方向に擦ることにより配向を得る。一般には、長さおよび太さが均一な繊維を平均的に植毛した布を用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。ロール自身の真円度、円筒度、振れ(偏芯)がいずれも30μm以下であるラビングロールを用いて実施することが好ましい。ラビングロールへのフィルムのラップ角度は、0.1〜90度が好ましい。ただし、特開平8−160430号公報に記載されているように、360度以上巻き付けることで、安定なラビング処理を得ることもできる。従来、高揮発結晶化処理によってレターデーションを大きく発現させていた際、前記セルロースアシレートフィルムの脆性が悪化してしまっており、ラビング処理時における切り屑が生じやすかった。一方、本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法では、高分子量化素材を本発明のセルロースアシレートフィルムに添加することで、前記セルロースアシレートフィルムの高揮発結晶化処理後の脆性が悪化を抑えつつレターデーションを発現することができ、ラビング処理時における切り屑の発生を顕著に抑制することができる。
前記ラビング処理はラビングローラにより行うことが好ましい。用いるラビングローラの直径は、ハンドリング適性、および布寿命の観点から、100mm〜500mmであることが好ましく、200mm〜400mmであることがさらに好ましい。ラビングローラの幅は、支持体の幅よりも広いことが必要であり、フィルム幅×√2以上であることが好ましい。ラビングローラの回転数は、発塵の観点から低く設定することが好ましく、液晶化合物の配向性にもよるが、100rpm〜1000rpmであることが好ましく、250rpm〜850rpmであることがさらに好ましい。
【0223】
ラビングロールの回転数を低くしても液晶化合物の配向性を維持するには、ラビング時の支持体(前記セルロースアシレートフィルム用のフィルム)または配向膜を加熱することが好ましい。前記ラビング処理における加熱温度は、前記セルロースアシレートフィルム用のフィルムまたは配向膜表面の膜面温度で、(素材のTg−50℃)〜(素材のTg+50℃)であることが好ましい。ポリビニルアルコールからなる配向膜を使用する場合は、ラビングの環境湿度を制御することが好ましく、25℃の相対湿度として相対湿度25%〜70%であることが好ましく、相対湿度30%〜60%であることがさらに好ましく、相対湿度35%〜55%であることが最も好ましい。
【0224】
セルロースアシレートフィルムを構成する液晶組成物より成る光学異方性層は、Re(550)が20〜100nmであり、液晶を含むという特性を有する。かかる特性の光学異方性層の一例として、液晶組成物をハイブリッド配向状態に固定して形成される光学異方性層が挙げられる。液晶を含むという特性を有する中でも、液晶組成物より成る光学異方性層にRe(550)が0nmになる方向が存在せず、且つRe(550)の絶対値が最小となる方向が、層の法線方向にも面内にもないことが好ましい。さらに、セルロースアシレートフィルムの配向処理後の配向膜上に、円盤状の液晶組成物をハイブリッド配向状態に固定して形成される光学異方性層であることが好ましい。
すなわち、前記液晶組成物より成る光学異方性層が円盤状液晶化合物を含むことが、液晶セルの補償の観点から好ましい。
【0225】
液晶組成物より成る光学異方性層のRe(550)が20nm以上であると、従来同様の構成のセルロースアシレートフィルムで達成していた光学補償能が十分得られる。また、100nm以下の場合、Re(550)が0nmになる方向が存在しない場合、Re(550)の絶対値が最小となる方向が層の法線方向か面内に存在しない場合には、ハイブリッド配向しているセルの液晶を十分補償する事ができるようになるためコントラスト視野角および色味が良化し、好ましい。
液晶組成物より成る光学異方性層のRe(550)は、20〜40nmであることがより好ましく、25〜40nmであることが特に好ましい。
【0226】
[液晶組成物より成る光学異方性層の形成工程]
位相差フィルムの製造方法は、前記セルロースアシレートフィルムの配向膜が形成されている側の表面に液晶組成物より成る光学異方性層を形成する工程を含む。前記液晶組成物より成る光学異方性層は、前記セルロースアシレートフィルムの配向膜が形成されている側の表面に形成される。詳しくは、前記液晶組成物より成る光学異方性層は、液晶化合物を少なくとも一種含有する液晶組成物より成る光学異方性層用の組成物を、前記セルロースアシレートフィルムの配向膜が形成されている側の表面に配置し、液晶化合物の分子を所望の配向状態とし、重合により硬化させ、その配向状態を固定して形成するのが好ましい。さらにRe(550)が0nmになる方向が存在せず、且つRe(550)の絶対値が最小となる方向が、層の法線方向にも面内にもないという、液晶組成物より成る光学異方性層に要求される特性を満足するためには、液晶化合物の分子(棒状および円盤状分子の双方を含む)をハイブリッド配向状態に固定することがより好ましい。ハイブリッド配向とは、層の厚み方向で液晶分子のダイレクタの方向が連続的に変化する配向状態をいう。棒状分子の場合は、ダイレクタは長軸方向、円盤状分子の場合は、ダイレクタは円盤面の法線方向となる。
【0227】
液晶化合物の分子を所望の配向状態とするため、および組成物の塗布性もしくは硬化性の良化のために、前記組成物は一種以上の添加剤を含んでいてもよい。
液晶化合物(特に棒状液晶化合物)の分子をハイブリッド配向させるために、層の空気界面側の配向を制御し得る添加剤(以下、「空気界面配向制御剤」という)を添加してもよい。該添加剤として、フッ化アルキル基およびスルホニル基等の親水性基を有する低分子量もしくは高分子量の化合物が挙げられる。使用可能な空気界面配向制御剤の具体例には、特開2006−267171号公報等に記載の化合物が含まれる。
【0228】
また、前記組成物を塗布液として調製し、塗布により前記液晶組成物より成る光学異方性層を形成する場合は、塗布性の良化のために界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、フッ素系化合物が好ましく、具体的には、例えば特開2001−330725号公報明細書中の段落番号[0028]〜[0056]記載の化合物が挙げられる。また市販の「メガファックF780」(大日本インキ製)などを用いてもよい。
【0229】
また、前記組成物は、重合開始剤を含有しているのが好ましい。前記重合開始剤は、熱重合開始剤であっても光重合開始剤であってもよいが、制御が容易である等の観点から、光重合開始剤が好ましい。光の作用によりラジカルを発生させる光重合開始剤の例としては、α−カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)、アセトフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ベンジル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物等が好ましい。アセトフェノン系化合物としては、例えば、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシメチル−1−フェニルプロパン−1−オン、4'−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン、p−ジメチルアミノアセトン、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、p−アジドベンザルアセトフェノン等が挙げられる。ベンジル系化合物としては、例えば、ベンジル、ベンジルジメチルケタール、ベンジル−β−メトキシエチルアセタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。ベンゾインエーテル系化合物としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイン−n−プロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、ミヒラーズケトン、4,4'−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4,4'−ジクロロベンゾフェノン等が挙げられる。チオキサントン系化合物としては、例えば、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等が挙げられる。このような芳香族ケトン類からなる感光性ラジカル重合開始剤の中でも、アセトフェノン系化合物およびベンジル系化合物が、硬化特性、保存安定性、臭気等の面で特に好ましい。これらの芳香族ケトン類からなる感光性ラジカル重合開始剤は、1種または2種以上のものを所望の性能に応じて配合して使用することができる。
また、感度を高める目的で重合開始剤に加えて、増感剤を用いてもよい。増感剤の例には、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、およびチオキサントン等が含まれる。
【0230】
光重合開始剤は複数種を組み合わせてもよく、使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。液晶化合物の重合のための光照射は紫外線を用いることが好ましい。
【0231】
前記組成物は、重合性液晶化合物とは別に、非液晶性の重合性モノマーを含有していてもよい。重合性モノマーとしては、ビニル基、ビニルオキシ基、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する化合物が好ましい。なお、重合性の反応性官能基数が2以上の多官能モノマー、例えば、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパンアクリレートを用いると、耐久性が改善されるので好ましい。
前記非液晶性の重合性モノマーは、非液晶性成分であるので、その添加量が、液晶化合物に対して15質量%を超えることはなく、0〜10質量%程度であるのが好ましい。
【0232】
前記液晶組成物より成なる光学異方性層は、前記組成物を塗布液として調製し、該塗布液を、例えば、支持体となる前記セルロースアシレートフィルムの配向膜側の表面上に塗布し、乾燥して溶媒を除去するとともに、液晶化合物の分子を配向させ、その後、重合により硬化させて、形成することができる。利用可能な配向膜の例としては、前記配向膜の形成で例示したポリマーを用いることができ、例えばポリビニルアルコール膜やポリイミド膜等が挙げられる。
塗布方法としてはカーテンコーティング法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、印刷コーティング法、スプレーコーティング法、スロットコーティング法、ロールコーティング法、スライドコーテティング法、ブレードコーティング法、グラビアコーティング法、ワイヤーバー法等の公知の塗布方法が挙げられる。
塗膜を乾燥する際には、加熱してもよい。塗膜を乾燥して溶媒を除去すると同時に、塗膜中の液晶化合物の分子を配向させて、所望の配向状態を得る。
【0233】
次に、紫外線照射等によって重合を進行させて、配向状態を固定化し、液晶組成物より成なる光学異方性層を形成する。重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm2〜50J/cm2であることが好ましく、100mJ/cm2〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
【0234】
《偏光板》
前記セルロースアシレートフィルムは、該セルロースアシレートフィルムと偏光膜とを少なくとも有する偏光板にも応用できる。前記偏光板を液晶表示装置に組み込む際は、前記セルロースアシレートフィルムを液晶セル側にして配置するのが好ましい。また、前記セルロースアシレートフィルムの表面と偏光膜の表面とを貼り合わせるのが好ましく、前記セルロースアシレートフィルムの面内遅相軸と、偏光膜の透過軸との交差角は、略0度として貼り合せるのが好ましい。厳密に0度である必要はなく、製造上許容される±5度程度の誤差は、本発明の効果に影響するものではなく、許容される。また、偏光膜の他方の面にも、セルロースアシレートフィルム等の保護フィルムが貼り合せられているのが好ましい。
【0235】
[偏光板の構成]
図1に前記偏光板の一態様の断面模式図を示す。図1に示す偏光板15は、偏光膜13と、その表面に、偏光膜13を保護する、前記位相差フィルム10と保護フィルム14とを有する。位相差フィルム10は、前記セルロースアシレートフィルム12とその裏面、即ち、液晶組成物よりなる光学異方性層11とからなる。また、位相差フィルムの光学異方性層11が形成されていない側の表面と、偏光膜13の表面とが貼り合わされている。偏光板15を液晶表示装置に組み込む際は、セルロースアシレートフィルム10を液晶セル側にして配置する。なお、図中示さないが、図1の偏光板15は、他の機能層を有していてもよく、例えば、保護フィルム14の外側に、拡散層、防眩層等を配置してもよい。
【0236】
以下、前記偏光板を構成する前記セルロースアシレートフィルム以外の部材について、それらの作製に使用可能な種々の材料とともに説明する。
【0237】
(偏光膜)
偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜があり、本発明にはいずれを使用してもよい。ヨウ素系偏光膜および染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。
【0238】
(保護フィルム)
偏光膜の他方の表面に貼合される保護フィルムには、透明なポリマーフィルムを用いることが好ましい。透明であるとは、光透過率が80%以上であることを意味する。保護フィルムとしては、セルロースアシレートフィルム、およびポリオレフィンを含むポリオレフィンフィルムが好ましい。セルロースアシレートフィルムの中でも、セルローストリアセテートフィルムが好ましい。また、ポリオレフィンフィルムの中でも、環状ポリオレフィンを含むポリノルボルネンフィルムが好ましい。
前記保護フィルムの厚さは、20〜500μmであることが好ましく、50〜200μmであることがさらに好ましい。
【0239】
(光拡散フィルム)
前記偏光板は、偏光膜の片側表面上に光拡散フィルムを有していてもよい。光拡散不フィルムは一層のフィルムであっても、また積層フィルムであってもよい。積層フィルムの態様の例としては、光透過性ポリマーフィルムの上に、光散乱層を有する光拡散フィルムが挙げられる。光拡散フィルムは、上下左右方向に視角を傾斜させたときの視野角改良に寄与するものであり、表示面側の偏光膜の外側に反射防止層を配置した態様において、特に高い効果を奏する。光拡散フィルム(またはその光散乱層)は微粒子をバインダー中に分散させた組成物から形成することができる。微粒子は無機微粒子であっても有機微粒子であってもよい。バインダーと微粒子とは、屈折率差が0.02〜0.20程度あるのが好ましい。また、前記光拡散フィルム(またはその光散乱層)は、ハードコート機能を兼ね備えていてもよい。本発明に利用可能な光拡散フィルムについては、例えば、光散乱係数を特定化した特開11−38208号公報、透明樹脂と微粒子の相対屈折率を特定範囲とした特開2000−199809号公報、ヘイズ値を40%以上と規定した特開2002−107512号公報等が挙げられる。
(ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム)
前記セルロースアシレートフィルムは、場合により、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムへ適用してもよい。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、前記セルロースアシレートフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れか或いは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)54頁〜57頁に詳細に記載されており、前記セルロースアシレートフィルムにおいても好ましく用いることができる。
【0240】
[偏光板の作製方法]
前記偏光板は、長尺状の偏光板として製造することができる。例えば、前記セルロースアシレートフィルムを用い、その表面に、所望により配向膜形成用塗布液を塗布して配向膜を形成し、引き続き、液晶組成物よりなる光学異方性層形成用塗布液を前記セルロースアシレートフィルムの配向膜側の表面上に連続的に塗布して、乾燥により所望の配向状態とした後、光照射して配向状態を固定して液晶組成物よりなる光学異方性層を形成して、長尺状の前記位相差フィルムを作製し、ロール状に巻き上げることができる。別途、長尺状の偏光膜、および保護フィルム用の長尺状のポリマーフィルムをロール状に巻き上げたものと、ロールツーロールで貼り合せ、長尺状の偏光板として作製することができる。長尺状の偏光板は、例えば、ロール状に巻き上げられた状態で搬送および保管等され、液晶表示装置に組み込まれる際に、所定の大きさに裁断される。なお、前記偏光板は長尺状でなくてもよく、ここに記載した作製方法は一例に過ぎない。
前記セルロースアシレートフィルムを作製する際に、フィルムの搬送方向へ延伸すれば、偏光板作成時にロールツーロールの加工が可能となり、工程の簡略化、偏光膜の軸との貼り合わせ精度の向上等が達成できるため好ましい。
【0241】
《液晶表示装置》
前記セルロースアシレートフィルム、位相差フィルムおよび偏光板は、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができ、TN型液晶表示装置、IPS型液晶表示装置、ECB型液晶表示装置、STN型液晶表示装置、VA型液晶表示装置、OCB型液晶表示装置、HAN型液晶表示装置、反射型液晶表示装置およびその他の液晶表示装置(ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置)を挙げることができる。以下にこれらのフィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。これらのモードのうち、前記セルロースアシレートフィルム、位相差フィルムおよび偏光板は特にTNモードおよびIPSモードの液晶表示装置に好ましく用いられる。これらの液晶表示装置は、透過型、反射型および半透過型のいずれでもよい。
【0242】
図2に、TNモード液晶表示装置の断面模式図を示す。図2に示す液晶表示装置は、TNモード液晶セル16と、それを挟んで上下に、互いに対称的に配置された2枚の偏光板15とを有する。液晶セル16はネマチック液晶材料からなる液晶層を有し、液晶層は駆動電圧無印加時にはねじれ配向状態に、および駆動電圧印加時には基板面に対して垂直配向状態になるように構成されている。
上下の偏光板15はその偏光膜13の透過軸を互いに直交にして配置されているので、駆動電圧無印加時に、下偏光板15の背後に配置されたバックライト(不図示)から液晶セル16に入射した直線偏光は、液晶層のねじれ配向に沿って90°回転し、上偏光板15の透過軸を通過して、白表示となる。一方、駆動電圧印加時には、液晶セル16に入射した直線偏光は、偏光状態を維持したまま通過するので、上偏光板15によって遮光され、黒表示となる。液晶セル16の上下に配置された、光学補償フィルム10は、黒表示時に斜め方向に生じる複屈折性を補償する。
【実施例】
【0243】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0244】
《測定法》
まず、実施例および比較例において用いた特性の測定法および評価法を以下に示す。
【0245】
(1)置換度
セルロースアシレートのアシル置換度は、Carbohydr.Res.273(1995)83-91(手塚他)に記載の方法で13C−NMRにより求めた。
【0246】
(2)結晶化熱(ΔHc)
DSC測定装置(DSC8230:(株)リガク製)を用い、DSCのアルミニウム製測定パン(Cat.No.8578:(株)リガク製)にセルロースアシレートフィルムを5〜6mg入れ、これを50mL/分の窒素気流中で25℃から120℃まで20℃/分の昇温速度で昇温して15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、さらにこの後、再度30℃から320℃まで20℃/分の昇温速度で昇温した際に現れた発熱ピークと試料のベースラインとで囲まれる面積をセルロースアシレートフィルムの結晶化熱と
した。
【0247】
[実施例1]
(1)セルロースアシレートフィルムの作製
(1−1)ドープの作製と流涎
負の固有複屈折を有さない可塑剤AA−1(エタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1000))およびレターデーション調整剤BB−1(下記構造の化合物BB−1)を含む下記の組成のポリマー溶液Aを30℃に加温し、流延ギーサーを通して直径3mのドラムである鏡面ステンレス支持体上に流延した。支持体の表面温度は−5℃に設定し、塗布幅は200cmとした。流延部全体の空間温度は、15℃に設定した。
【0248】
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ポリマー溶液Aの組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・平均置換度2.94のセルロースアセテート 100.0質量部
・メチレンクロライド(第1溶媒) 475.9質量部
・メタノール(第2溶媒) 113.0質量部
・ブタノール (第3溶媒) 5.9質量部
・平均粒子サイズ16nmのシリカ粒子 0.13質量部
(AEROSIL R972、日本アエロジル(株)製)
・負の固有複屈折を有さない可塑剤(前記AA−1) 15.0質量部
・波長分散調整剤(下記化合物BB−1) 1.0質量部
・クエン酸エステル 0.01質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0249】
【化16】

【0250】
(1−2)第一延伸工程
そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたセルロースアシレートフィルム(ウェブ)を残留溶媒量270%でフィルム(ウェブ)をドラムから剥離し、ピンテンターによって搬送し、フィルム搬送方向に40%延伸した。ウェブをドラムから剥離したときの残留溶媒量を第一延伸工程開始時の残留溶媒量とし、下記表2に記載した。なお、このときの残留溶媒量は、ドラムから剥離したウェブの一部をサンプリングして、上述の方法によって120℃で2時間乾燥させる前後の質量変化から求めた。
なお、第一延伸工程におけるフィルムの延伸倍率(%)は、ドラム速度とテンター搬送速度の比より求めた。また、延伸温度(ウェブの膜面温度)が−5℃となるようにドラムの温度を冷媒によって制御することで調節した。延伸速度は1000%/分で行った。
【0251】
(1−3)乾燥工程、第二延伸工程
第一延伸工程終了後、乾燥前におけるウェブの一部をサンプリングして、上述の方法によって120℃で2時間乾燥させる前後の質量変化から残留溶媒量を求めた。このときの残留溶媒量を乾燥工程開始時の残留溶媒量とし、下記表2に記載した。なお、実施例1では、第一延伸工程終了時にすでに残留溶媒量がほぼ上記の値であったため、第一延伸工程終了後から乾燥工程開始時までの間において、特に残留溶媒量を制御するような工程は行わなかった。なお、その他の実施例および比較例では、適宜、膜面温度が50℃にならないように乾燥を行い、残留溶媒量を調節した。
その後、乾燥(結晶化処理)工程として乾燥温度(フィルム膜面温度)が80℃となるように乾燥を行い、残留溶媒量が7%となった時に、第二延伸工程を行うためにピンテンターによって搬送した。なお、前記乾燥温度は延伸ゾーンの温度を乾燥風によって制御することで調節した。
その後、第二延伸工程開始前の残留溶媒量を乾燥ゾーンにおけるウェブの一部をサンプリングして、上述の方法によって120℃で2時間乾燥させる前後の質量変化から求め、下記表2に測定した結果を記載した。その後、ピンテンターを用いてフィルム搬送方向と直交する方向に135℃で4%延伸した。延伸温度(フィルムの膜面温度)は乾燥風によって制御することで調節した。延伸速度は60%/分で行った。
なお、第二延伸工程におけるフィルムの延伸倍率(%)は、第二延伸工程開始前のピンテンター間の距離と延伸後のピンテンター間の距離の差により求めた。
【0252】
(1−4)後乾燥工程、巻き取り
さらに第二延伸工程後のフィルムを140℃で20分乾燥した。
こうして、幅1400mm、および膜厚73.8μmのセルロースアシレートフィルムを得て、巻取り機により巻き取った。
【0253】
得られたセルロースアシレートフィルムは、Re=80nm、Rth=60nm、Nz=1.25であった。また、Re(450)−Re(550)の値、Rth(450)−Rth(550)の値をそれぞれ測定および計算した。また、フィルムの融解熱ΔHcを上述の方法にしたがって測定した。これらの結果を下記表3に示す(なお、表3中Nzの値は適宜四捨五入してある)。
【0254】
(2)液晶組成物よりなる光学異方性層の形成
(2−1)セルロースアシレートフィルムの鹸化処理
上記で得られたセルロースアシレートフィルムを温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させ、フィルム表面温度を40℃に昇温した後に、下記に示す組成のアルカリ溶液を、バーコーターを用いて14ml/m2で塗布し、110℃に加熱したスチーム式遠赤外線ヒーター((株)ノリタケカンパニー製)の下に10秒滞留させた後に、同じくバーコーターを用いて純水を3ml/m2塗布した。この時のフィルム温度は40℃であった。次いで、ファウンテンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを3回繰り返した後に70℃の乾燥ゾーンに2秒滞留させて乾燥した。
【0255】
────────────────────────────────────
鹸化処理用のアルカリ溶液の組成
────────────────────────────────────
・水酸化カリウム 4.7質量部
・水 15.7質量部
・イソプロパノール 64.8質量部
・プロピレングリコール 14.9質量部
・界面活性剤(C1633O(CH2CH20)10H) 1.0質量部
────────────────────────────────────
【0256】
(2−2)配向膜の形成
鹸化したセルロースアシレートフィルムの鹸化処理面に、下記の組成の配向膜形成用塗布液を#14のワイヤーバーコーターで24ml/m2塗布し、100℃の温風で120秒乾燥した。配向膜の厚さは1.2μmであった。次に、フィルムの長手方向(搬送方向)を0°とし、形成した配向膜に幅2000mmのラビングローラを用いて、ラビングローラの回転数400rpmで0°方向に、ラビング処理を実施した。この際、搬送速度は40m/分であった。続いてラビング処理面を超音波除塵した。
【0257】
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
配向膜形成用塗布液の組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・下記の変性ポリビニルアルコール 40質量部
・水 728質量部
・メタノール 228質量部
・グルタルアルデヒド(架橋剤) 2質量部
・クエン酸エステル(AS3、三共化学(株)) 0.69質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0258】
【化17】

【0259】
(2−3)光学異方性層の形成
除塵後の配向膜のラビング処理面に、下記表に示した組成の光学異方性層用塗布液をワイヤーバーで塗布した。その後、130℃の恒温槽中で120秒間加熱し、ディスコティック液晶化合物を配向させた。次に、80℃で160W/cm高圧水銀灯を用いて、40秒紫外線照射し架橋反応を進行させて、ディスコティック液晶化合物を重合させた。その後、室温まで放冷した。
得られた光学異方性層単独の波長550nmで測定したReは28nmであった。光学異方性層単独の膜厚を下記表に記載した。また、第1の光学異方性層中、円盤状液晶化合物の分子は、ハイブリッド配向状態に固定されていて、Re(550)が0nmになる方向が存在せず、且つRe(550)の絶対値が最小となる方向が、層の法線方向にも面内にもないことを、フィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長550nmの光を入射させて全部で11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRから確認した。
得られたフィルムを実施例1のフィルムとした。
【0260】
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
光学異方性層形成用塗布液の組成
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・メチルエチルケトン 270質量部
・表1(液晶組成)に示す第一液晶性化合物 90質量部
・表1(液晶組成)に示す第二液晶性化合物 10質量部
・下記構造の空気界面配向制御剤 1.0質量部
・光開始剤 イルガキュア907 チバ・ジャパン(株)製 3.0質量部
・増感剤 カヤキュア DETX 日本化薬製 1.0質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0261】
【表1】

【0262】
【化18】

【0263】
【化19】

【0264】
(3)偏光板の作製
厚さ80μmのポリビニルアルコール(PVA)フィルムを、ヨウ素濃度0.05質量%のヨウ素水溶液中に30℃で60秒浸漬して染色し、次いでホウ酸濃度4質量%濃度のホウ酸水溶液中に60秒浸漬している間に元の長さの5倍に縦延伸した後、50℃で4分間乾燥させて、厚さ20μmの偏光膜を得た。
作製したフィルムのセルロースアシレートフィルム側の露出面(液晶組成物よりなる光学異方性層が形成されていない側の表面)を1.5モル/Lで55℃の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した後、水で十分に水酸化ナトリウムを洗い流した。その後、0.005モル/Lで35℃の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬して希硫酸水溶液を十分に洗い流し、最後に120℃で十分に乾燥させた。
前記のように鹸化処理を行ったフィルムを、同じく鹸化処理を行った市販のセルロースアセテートフィルムと組合せて前記の偏光膜を挟むようにポリビニルアルコール系接着剤を用いて、鹸化処理面を貼り合せることにより偏光板を得た。ここで市販のセルロースアセテートフィルムとしてはフジタックTF80UL(富士フイルム(株)製)を用いた。このとき、偏光膜および偏光膜両側の保護膜はロール形態で作製されているため各ロールフィルムの長手方向が平行となっており連続的に貼り合わせた。従ってフィルムの長手方向(フィルムの流延方向)と偏光膜の吸収軸とは平行な方向となった。得られた偏光板を実施例1の偏光板とした。
【0265】
(6)TNモード液晶表示装置の作製
図3と同様の構成のTNモード液晶表示装置を作製した。具体的には、TNモード液晶セルを使用した液晶表示装置(AL2216W、日本エイサー(株)製)に設けられている一対の偏光板を剥がし、代わりに上記の作製した偏光板を、光学異方性層が液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側およびバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。このとき、観察者側の偏光板の透過軸と、バックライト側の偏光板の透過軸とが直交するように配置した。このようにして、実施例1のTNモード液晶表示装置を作製した。
【0266】
[実施例2〜8]
実施例1における添加剤、延伸、乾燥条件等を下記表2のとおりに変更し、表1に示す通り、光学異方性層の組成を上記表(液晶組成)の各成分の組成に代えた以外は同様にして実施例2〜8のフィルムを作製した。なお、前記表1中に記載のない成分については、上記実施例1の各成分の組成と同一である。これらの実施例2〜8のフィルムを用いて、実施例1と同様の方法により実施例2〜8の偏光板およびTNモード液晶表示装置を作成した。
【0267】
[実施例9〜18、22〜24および26〜28]
実施例1における添加剤、延伸、乾燥条件等を下記表2のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例9〜18、22〜24および26〜28のフィルム、偏光板および液晶表示装置を作成した。各実施例で用いた添加剤の詳細を下記に示した。
【0268】
・可塑剤AA−2: エタンジオール/フタル酸(1/1モル比)との縮合物を酢酸封止したもの(数平均分子量1000)
・可塑剤AA−3: エタンジオール/アジピン酸/フタル酸(1/0.5/0.5モル比)との縮合物を酢酸封止したもの(数平均分子量5000)
・可塑剤AA−4: エタンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量10000)
・可塑剤AA−5(数平均分子量247):下記構造のもの
【化20】

【0269】
・負の固有複屈折を有する可塑剤AF−1:スチレン−無水マレイン酸共重合体(重量平均分子量5500)
・負の固有複屈折を有する可塑剤AF−2:p−ヒドロキシスチレン重合体(重量平均分子量2000)
【0270】
【化21】

【0271】
【化22】

【0272】
【化23】

【0273】
【化24】

【0274】
[実施例19]
1)IPS用リア偏光板
実施例1における添加剤、延伸、乾燥条件等を下記表2のとおりに変更し、液晶組成物よりなる光学異方性層を形成せずに、実施例1と同様にして、実施例19のセルロースアシレートフィルムおよび偏光板を作成した。この実施例19の偏光板にさらに実施例19のセルロースアシレートフィルムを偏光板の吸収軸とフィルム遅相軸が直交するように粘着剤により貼り合わせを行い、セルロースアシレートフィルムが粘着剤により二枚積層された実施例19の位相差膜付き偏光板を作製した。
【0275】
2)IPS用フロント偏光板
市販のトリアセチルセルロースフィルムであるZ−TACフィルム(富士フイルム(株)製)と、市販のトリアセチルセルロースフィルムであるTD80(富士フイルム(株)製)とを、それぞれ55℃の水酸化ナトリウム水溶液(濃度1.5モル/L)中に浸漬した後、水で十分に水酸化ナトリウムを洗い流した。その後、35℃の希硫酸水溶液(濃度0.005モル/L)に1分間浸漬した後、水に浸漬して希硫酸水溶液を十分に洗い流した。最後に120℃で十分に乾燥させて鹸化処理を終了した。
鹸化処理したTD80と鹸化処理したZ−TACの間に偏光膜を挟んで、ポリビニルアルコール系粘着剤を用いて貼り合せることにより、IPS用フロント偏光板を製造した。
【0276】
3)IPSパネル作製
37H3000(東芝製)に貼られている表裏の偏光板を剥がし、光源側に上記実施例19の位相差膜付き偏光板を液晶セルの遅相軸とリア偏光板の吸収軸が直交し、セルロースアシレートフィルムが液晶セル側となるように粘着剤により貼り付け、また、液晶セルの反対側に対向のリア偏光板と吸収軸が直交するようにIPS用フロント偏光板のZ−TAC側を液晶セル側にし、粘着剤により貼り付けることにより、IPS型液晶表示装置を作製した。
【0277】
[実施例20および25]
実施例19に対し、ドープの処方および各工程を下記表のとおりに変えた以外は同様にして、実施例20および25の偏光板およびIPS型液晶表示装置を作成した。
【0278】
[実施例21]
実施例19に対し、ドープの処方および各工程を下記表のとおりに変え、IPS用リア偏光板作製において、偏光板への粘着剤による位相差膜の貼り合わせは行わず、位相差膜は一枚の状態とした以外は同様にして、実施例21の偏光板およびIPS型液晶表示装置を作成した。
【0279】
[比較例1〜5]
実施例1において、ドープの処方および各工程条件を下記表のようにして、セルロースアシレートフィルムを作製し、その後偏光板、液晶表示装置を作製した。
【0280】
[試験例]
各実施例および比較例で作製したセルロースアシレートフィルムおよび液晶表示装置について、以下の評価を行った。それぞれの評価で得られた結果を下記表3に示す。
【0281】
(1) 泣き出し評価
各実施例および比較例で作製した完成したセルロースアシレートフィルムを目視観察し、素材の析出等がないかを確認した。
【0282】
(2) 揮散性の確認
TG/DTA測定器を用い、添加剤を室温から140℃に昇温し、140℃1時間保持時の添加剤の重量変化を測定し下記の条件で判断した。
測定によって得られた変化量が0.1%以下の場合は「なし」、それ以上変化した場合は「あり」とした。
【0283】
(3) 上下左右(TNモード)の視野角または斜め45度方向(IPSモード)の視野角の確認
各実施例および比較例で作製した液晶表示装置について、測定機(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)と白表示(L8)のコントラスト視野角を測定した。極角80度における上下左右方向(TN)または斜め45度方向(IPS)で、コントラスト比(白透過率/黒透過率)の平均値を求めた。以下の基準で評価した。
◎:50以上
○:50未満、40以上
△:40未満、30以上
×:30未満
【0284】
(4)表示の湿度依存性
作成した液晶表示装置を、25℃10%の環境下でそれぞれ10日間保管した後、黒表示(L1)と白表示(L8)のコントラスト視野角を測定した。極角80度における上下左右方向(TN)または斜め45度方向(IPS)で、コントラスト比(白透過率/黒透過率)の平均値を求めた。以下の基準で評価した。
◎:30以上
○:30未満、20以上
×:20未満
【0285】

【表2】

【0286】
【表3】

【0287】
上記表2および表3から、本発明の製造方法で製造されたセルロースアシレートフィルムはNzが0〜1.5の範囲であり、添加剤の泣き出しや揮散がなかったことがわかった。さらに、本発明の製造方法で製造されたセルロースアシレートフィルムを用いた液晶表示装置は実施例24を除いていずれも視野角が良好であり、すべての実施例において表示の湿度依存性が良好であることがわかった。
【符号の説明】
【0288】
10 位相差フィルム
11 セルロースアシレートフィルム
12 液晶組成物からなる光学異方性層
13 偏光膜
14 保護フィルム
15 偏光板
16 液晶セル
17 TNモード液晶表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が200〜10000である可塑剤とセルロースアシレートとを含有するポリマー溶液を流延してウェブを形成する流延工程と、
前記流延工程において形成された前記ウェブを残留溶媒量が100〜300質量%の状態で−30℃〜30℃で一方向に延伸する第一延伸工程と、
前記第一延伸工程後に、ウェブの膜面温度が200℃以上にならないように制御しながら残留溶媒量を6〜120質量%の状態から12質量%未満の状態に減少させる乾燥工程と、
前記乾燥工程後に60℃〜200℃で前記第一延伸工程での延伸方向と異なる方向に延伸する第二延伸工程と、
を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程において残留溶媒量を8〜100質量%の状態から2〜10質量%の状態に減少させることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第一延伸工程がフィルム搬送方向への延伸であることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程において、前記ウェブの膜面温度を50〜120℃に制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記セルロースアシレートのアシル置換度が2.7〜3.0であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記セルロースアシレートのアシル基がアセチル基であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ポリマー溶液が負の固有複屈折を有する可塑剤を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記負の固有複屈折を有する可塑剤の重量平均分子量が1000〜10000であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記ポリマー溶液が、数平均分子量が500〜10000であって繰り返し単位を有する可塑剤を含むことを特徴とする請求項8に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記ポリマー溶液がポリエステル系可塑剤を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記ポリマー溶液中に、前記可塑剤が前記セルロースアシレートに対して2〜30質量%含まれていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−253929(P2010−253929A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9860(P2010−9860)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】