説明

セルロースアシレートフィルム及びその製造方法

【課題】擦り傷や異物を低減し、厚み均一性の向上したセルロースアシレートフィルムを提供する。
【解決手段】一次粒子径D1が1〜100nmのSiO2 微粒子11を分散媒に混合し第1分散液21を得て、これを第1ろ過工程22によりろ過してからセルロースアシレート溶液12にインライン混合させる。第1ろ過工程22で用いたフィルタ孔径を1〜40μmとする。インライン工程により得られた第2分散液25を、第2ろ過工程27によりろ過した後にこれを流延する。第2ろ過工程で用いるフィルタ孔径は1〜10μmである。得られるフィルム32は、含まれるSiO2 微粒子11の二次粒子径D2が、3×D1<D2<300×D1であって、2×Ra<D2<TD(TD;フィルム厚みの変動幅、Ra;フィルム表面粗さ)である。このフィルム32を高精細、大画面の液晶表示装置の偏光板保護フィルムとして用いると、光学ムラがなく良好な表示性能を発現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートフィルム及びその製造方法に関するものであり、特に、偏光板や液晶表示装置等に用いられるセルロースアシレートフィルム、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートフィルムは、その力学特性と透明性及び現像による巻き癖解消性の特長からハロゲン化銀写真感光材料用の支持体として長年使われ、また、近年では、液晶表示装置への需要が大きい。液晶表示装置におけるセルロースアシレートフィルムの具体的用途としては、偏光板の保護フィルムとカラーフィルタとが代表的であり、近年では、光学的異方性が小さいという特性を利用した電子材料用途が急増している。急増している用途としては、単なる偏光板保護膜だけでなく、例えば視野角拡大フィルム(富士写真フイルム(株)から発売されているWV(ワイドビュー)フイルム等)や、反射防止膜(富士写真フイルム(株)製CVフイルム)等がある。さらに、光学補償膜と偏光板保護膜との両機能を兼ね備えたVA型及びIPS型液晶表示装置の位相差フィルムや光学補償フィルムとしても需要が伸びている。
【0003】
ところで、セルロースアシレートフィルムは溶液製膜方法または溶融製膜方法のいずれかにより製造され、上記のような光学用途向けには、平滑性に優位性がある溶液製膜方法で製造されることが一般的である。溶液製膜方法では、セルロースアシレートを溶媒に溶解したドープを、流延ダイから支持体に流延して流延膜とし、その流延膜をフィルムとして剥がして乾燥させる方法であり、通常は支持体を連続走行させて、長尺状のフィルムを製造して巻き取る。そして、製造効率の向上を図るために、例えば特許文献1では、流延膜が形成されてからこれを支持体から剥ぎ取るまでの時間を短縮する方法が提案されている。
【0004】
ところが、液晶表示装置については高精細化及び大画面化の潮流があり、これに応じてセルロースアシレートフィルムへの要求品質も厳しくなってきている。この要求品質とは、表示画面の輝点欠陥となる異物の低減、製造中における搬送による擦り傷の低減、フィルムの厚み均一性等である。特に、長手方向における厚み変動は、流延ダイの構造や配置、ダイリップから吐出したドープ(以降、ビードと称する。)の減圧吸引、粘度等のドープ性状、流延膜の乾燥方法、支持体からの流延膜の剥ぎ取り方法、乾燥中のフィルムを延伸する場合にはその延伸条件等、様々な条件に依存する。
【特許文献1】特公平5−17844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1をはじめとする従来方法によると、これまでの液晶表示装置のような精細度及び大きさには性能を満足する場合もあるが、上記のような高精細、大画面の用途には満足されない。具体的には、前述のような表示画面の輝点欠陥となるフィルム中の異物数や、擦り傷の数及び程度、厚み均一性等が、従来の液晶表示装置向けよりも厳しく評価され問題とされる。
【0006】
ここで、前記擦り傷について、より具体的に説明する。図7は、従来の製造方法によって製造されたフィルム201の平面図と、その一部であって二点破線(a)で囲まれた範囲の拡大図である。図7において、X方向は長尺方向であって右向きがフィルムの搬送方向を示し、Y方向は幅方向を示している。フィルム201の二点破線(a)で囲まれた部分の擦り傷に対してマーキングをして拡大してみると、図7の拡大図に示すように、多数の擦り傷202があることが確認される。この擦り傷202は、長尺方向Xと幅方向Yとの両方向に交差する角度で略直線状のものとして認められる。そして、走行方向に対して斜めとなっている擦り傷は、幅方向における中心線CLに関して対称状、つまり、フィルム搬送方向側に広がったハの字状となっている。
【0007】
そこで、本発明は、高精細及び大画面の液晶表示装置に使用することができるような、擦り傷や異物数が低減され、厚み均一性に優れたセルロースアシレートフィルムを提供するとともに、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、上記問題点に鑑み、本発明のポリマーフィルムは、有機溶剤とセルロースアシレートとを含む溶液に平均一次粒子径D1が1〜100nmの微粒子を混合した後、連続走行する支持体上に前記溶液を流延して流延膜を形成し、この流延膜を前記支持体から剥がして乾燥することにより製造され、前記微粒子が前記溶液中及び前記流延膜中で凝集することにより形成されて5以上のモース硬度を示す凝集粒子を含み、この凝集粒子の平均粒子径D2が、3×D1<D2<300×D1、かつ、2×Ra<D2<TD(ただし、TDは前記フィルムの厚みの変動幅、Raは前記フィルムの表面算術平均粗さ)を満たすことを特徴として構成されている。
【0009】
そして、前記微粒子が、マット剤としてのSiO2 であることが好ましい。
【0010】
また、本発明では、平均一次粒子径が1〜100nmである微粒子を分散媒に分散して第1分散液とし、有機溶剤とセルロースアシレートとを含む溶液に前記第1分散液をインライン混合して第2の分散液とした後、連続走行する支持体上に前記第2分散液を流延して前記支持体からフィルムとして剥がし、このフィルムを乾燥させるセルロースアシレートフィルムの製造方法において、前記第1分散液をろ過する第1ろ過工程と、前記第2分散液をろ過する第2ろ過工程との少なくともいずれか一の工程を有するとともに、第1ろ過工程は、平均孔径が1μm以上40μm以下のろ過手段により前記第1分散液をろ過する工程であり、第2工程は、平均孔径が1μm以上10μm以下のろ過手段により前記第1分散液をろ過する工程であることを特徴として構成されている。
【0011】
そして、上記製造方法においては、前記フィルムを、サクションローラにより吸引しながら搬送し、前記サクションローラの上流側と下流側との前記フィルムの温度差(単位;℃)または張力差(単位;N)が、前記上流側における値の30%以内となることが好ましい。また、前記微粒子は、前記第2分散液中に0.001%以上5%以下の質量パーセント濃度で含まれることが好ましい。さらにまた、上記製造方法においては、前記支持体から剥離された直後の前記フィルムを長手方向に延伸倍率が101〜120%以下となるように延伸する第1延伸工程と、幅方向に延伸倍率が101〜135%となるように前記第1延伸工程の後の前記フィルムを延伸しながら乾燥する第2延伸工程とを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、擦り傷や異物数が低減され、厚み均一性に優れたセルロースアシレートフィルムが得られ、このセルロースアシレートフィルムは高精細及び大画面の液晶表示装置に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施様態について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施様態に限定されるものではない。まず、本発明のフィルムについて説明し、その後、フィルムの製造方法について述べるものとする。
【0014】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、後述のように、セルロースアシレートと微粒子とを含む。この微粒子は、本実施形態においてはマット剤として機能するものであって、マット剤としては二酸化ケイ素SiO2 が好ましい。マット剤は、製造したフィルムを後述のように巻き取った場合や、シート状にカット等したフィルムを重ねておく場合に、フィルム同士が接着してしまうことを防止するために添加されるものである。そして、このようなマット剤としての機能あるいは他の機能をフィルムに付与するために、一般的なセルロースアシレートフィルムには微粒子が含まれている。
【0015】
発明者らは、この微粒子が、斜めの擦り傷の発生や異物発生ならびに、フィルムの厚み均一性に関与していることを見いだした。なお、本実施形態における微粒子であるSiO2 は、有機溶剤中で凝集する性質をもっており、この凝集現象について図1を参照しながら説明する。図1の(a)は、セルロースアシレート溶液にSiO2 粒子を添加してまもないときの様子を示す模式図であり、(b)はSiO2 粒子がセルロースアシレート溶液に添加された状態で時間が経過したときの様子を示す模式図である。(a)のSiO2 粒子11はセルロースアシレート溶液12中に一次粒子として均一に分散されている。そして、SiO2 粒子11は、セルロースアシレート溶液12にされてから経時的に凝集し、(b)に示すように二次粒子となる。SiO2 のような微粒子は、一般に、一次粒子径が小さいほど表面エネルギーが高いため、このように凝集しやすい傾向があり、マット剤とし利用する微粒子は1〜100nm程度の非常に小さいものとされている。このような粒径範囲の微粒子とするのは、フィルムの透明性を損なわなようにするためである。また、流延してから完全に乾燥するまでの間の流延膜及びフィルムでも凝集が進行することがある。
【0016】
そして、二次粒子がフィルム表面にある場合には、その二次粒子の一部がフィルム面よりも外界に突き出た形態となる。そして、この外界に突き出た高さの分がフィルム厚みを変動させる要因となることがわかったとともに、また、この突き出た二次粒子が後述する搬送用のローラに接触した際に、フィルム表面で位置ずれを起こしてフィルムにキズ(以降、引きずりキズと称する)をつけたり、微粒子が非常に硬い場合にはローラを傷つけてフィルムにキズを発生することがわかった。そして、このような現象は、製造効率を向上させるために製膜速度を上げた際に、特に顕著に見られることもわかった。微粒子が非常に硬いということは、本発明においては、モース硬度での値が5以上のものである。
【0017】
そこで、本発明では、一次粒子の粒径の平均値(以降、平均一次粒子径と称する。)をD1(単位;nm)とし、また、二次粒子の粒子径の平均値(以降、平均二次粒子径と称する。)をD2(単位;nm)とするとき、フィルム中に含まれる二次粒子の平均二次粒子径D2が、条件(1)としての3×D1≦D2≦300×D1を満足するとともに、条件(2)としての2×Ra≦D2≦TDを満たすセルロースアシレートフィルムを得る。なお、この式中で、Raはフィルムの表面粗さであって、算術平均粗さを示す。また、TDは、図2に示すように、フィルムの厚みの最大値Tmax.と最小値Tmin1.との差を示す。
【0018】
上記条件(1)及び(2)を満たすフィルムは、厚み変動もほとんどなく、引きずりキズもローラキズも発生させず、このため、優れた外観性を有するとともに高精細大画面の液晶表示装置に用いられた場合に優れた表示性能を発現することができる。特に、この表示性能は、高輝度光源を用いた表示装置の場合に効果をより発揮する。
【0019】
次にセルロースアシレートフィルムの製造方法について説明する。ただし、以下に述べる製造方法ならびに製造装置は、本発明の一例であり、これに限定されるものではない。
【0020】
図3には、本発明のセルロースアシレートフィルムの製造フローを示す。本発明では、まず、セルロースアシレート15と有機溶剤16とが混合されたセルロースアシレート溶液12を作るとともに、微粒子としてのSiO2 11とこのSiO2 11を予め分散させるための分散媒17とにより第1分散液21を作る。第1分散液21は、第1ろ過工程22にてろ過されてから、インライン混合工程24にてセルロースアシレート溶液12と均一混合される。次に、インライン混合工程24で得られた第2分散液25を、第2ろ過工程27でろ過してから流延工程28に送りフィルム化して乾燥工程で十分に乾燥させ、前述のセルロースアシレートフィルム32を得る。なお、流延するときの第2分散液は、必要に応じて添加剤が加えられていることもあり、SiO2 11の濃度は、第2分散液25において0.001〜5重量%と本実施形態ではされている。
【0021】
第1ろ過工程22で用いられるフィルタは、その平均孔径が1μm以上40μm以下のものである。これにより、凝集開始から間もないのにも関わらず既に凝集が進行して二次粒子となったSiO2 11を除去することができるとともに、一次粒子の中でも表面エネルギーが高いまま凝集せずに分散しているSiO2 11を、セルロースアシレート溶液12の中で凝集する前に予めフィルタで取り除くことができる。そして、この第1ろ過工程22を行うことにより、第2ろ過工程27での負担を軽減することもできる。これにより本発明のセルロースアシレートフィルムは得られる。
【0022】
また、第2ろ過工程27で用いるフィルタは、その平均孔径が1μm以上10μm以下のものである。これにより、二次粒子として粗大化したSiO2 11を取り除き、前述の本発明のセルロースアシレートフィルム32を得ることができる。
【0023】
なお、第1ろ過工程22と第2ろ過工程27とは、いずれか一方であっても効果は得られるが、本実施形態のように両方を行うことによりその効果をより高めることができる。
【0024】
次に、セルロースアシレートフィルム32の原料について説明する。
[原料]
本実施形態においては、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)を用いており、TACが特に好ましい。TACとしては、リンター綿とパルプ綿とのいずれから得られたものでもよいが、好ましくはリンター綿から得られたものである。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換度を表し、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90質量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0025】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)を意味する。
【0026】
全アシル置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、D6S/(DS2+DS3+DS6)は0.32以上が好ましく、より好ましくは0.322以上、特に好ましくは0.324〜0.340である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度である(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)。
【0027】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときは、そのひとつがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.2〜2.86であり、特に好ましくは2.40〜2.80である。また、DSBは1.50以上であることが好ましく、特に好ましくは1.7以上である。さらにDSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは30%以上が6位水酸基の置換基であり、31%がさらに好ましく、特には32%以上が6位水酸基の置換基であることも好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位のDSA+DSBの値が0.75以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.80以上であり特に好ましくは0.85以上であるセルロースアシレートを用いることである。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。更に粘度が低く濾過性の良い溶液の作成が可能となる。
【0028】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ケプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル基、ブタノイル基である。
【0029】
また、ドープを調製するための溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが例示される。なお、ここで、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液または分散液である。
【0030】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。そして、TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度、フィルムの光学特性等の特性の観点から、炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類を、ジクロロメタンに混合して用いることが好ましい。このとき、アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2質量%〜25質量%であることが好ましく、5質量%〜20質量%であることがより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール等が挙げられるが、中でも、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物がより好ましく用いられる。
【0031】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いることがある。これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−,−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。また、溶媒は、例えばアルコール性水酸基のような他の官能基を化学構造中に有するものであってもよい。
【0032】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特願2004−264464号の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載は本発明にも適用することができる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,染料,マット剤,剥離剤等の添加剤についても、同じく特願2004−264464号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【0033】
本発明のセルロースアシレートフィルムには、紫外線吸収剤が添加されることが好ましい。紫外線吸収剤は、流延されるドープ中に、ドープの重量に対して0.001〜5重量%の濃度で含まれることが好ましい。好ましく使用される紫外線吸収剤について説明する。本発明のセルロースアシレートフィルムは、その高い寸法安定性から、偏光板または液晶表示用部材等に使用されるが、偏光板または液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。
【0034】
また、特開平6−148430号公報、特開平7−11056号公報に記載の紫外線吸収剤も好ましく用いることができる。本発明で好ましく用いられる上記記載の紫外線吸収剤は、透明性が高く、偏光板や液晶素子の劣化を防ぐ効果に優れており、特に不要な着色がより少ないベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。紫外線吸収剤の使用量は化合物の種類、使用条件などにより一様ではないが、通常はセルロースアシレートフィルム1m2 あたり、0.2g〜5.0gが好ましく、0.4g〜1.5gがさらに好ましく、0.6g〜1.0gが特に好ましい。
【0035】
また、その他にも旭電化 プラスチック用添加剤概要「アデカスタブ」のカタログにある光安定剤も使用できる。チバ・スペシャル・ケミカルズのチヌビン製品案内にある光安定剤、紫外線吸収剤も使用できる。SHIPRO KASEI KAISHAのカタログに記載されているSEESORB、SEENOX、SEETECなども使用できる。城北化学工業のUV吸収剤、酸化防止剤も使用できる。共同薬品のVIOSORB、吉富製薬の紫外線吸収剤も使用できる。
【0036】
なお、紫外領域の分光透過率に関しては、特開2003−043259号公報に、色再現性に優れ紫外線照射の耐久性にも優れた光学フィルム及び偏光板及び表示装置を得るために必要な、390nmにおける分光透過率が50%〜95%であり、かつ350nmにおける分光透過率が5%以下である光学フィルムについて記載されている。
【0037】
また、更に、本発明のセルロースアシレートフィルム及びその製造方法では、光学異方性コントロール剤(レターデーション制御剤)をフィルム中に添加してもよい。光学異方性コントロール剤として使用される化合物に関して、詳細に説明する。
【0038】
【化1】

【0039】
化1に示されている一般式(2)中でR1 、R2 、R3 、R4 、R5 、R6 、R7 、R8 、R9 及びR10はそれぞれ独立に水素原子、または置換基を表し、置換基は後述の置換基Tが適用できる。R1 、R2 、R3 、R4 及びR5 のうち少なくとも1つは電子供与性基を表す。好ましくはR1 、R2 、R3 又はR5 のうちの1つが電子供与性基であり、R3 が電子供与性基であることがより好ましい。
【0040】
電子供与性基とはHammetのσp値が0以下のものを表し、Chem.Rev.,91,165(1991)に記載のHammetのσp値が0以下のものが好ましく適用することができ、より好ましくは−0.85〜0のものが用いられる。例えば、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基などが挙げられる。
【0041】
電子供与性基として好ましくはアルキル基、アルコキシ基であり、より好ましくはアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、更に好ましくは炭素数1〜6特に好ましくは炭素数1〜4である。)である。
【0042】
1 として好ましくは、水素原子または電子供与性基であり、より好ましくはアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基であり、更に好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基であり、特に好ましくはアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、更に好ましくは炭素数1〜6、特に好ましくは炭素数1〜4)であり、最も好ましくはメトキシ基である。
【0043】
2 として好ましくは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基であり、より好ましくは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基であり、更に好ましくは水素原子、アルキル基(好ましくは炭素数1〜4、より好ましくはメチル基である。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、更に好ましくは炭素数1〜6、特に好ましくは炭素数1〜4)である。特に好ましくは水素原子、メチル基、メトキシ基である。
【0044】
3 として好ましくは、水素原子または電子供与性基であり、より好ましくは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基であり、更に好ましくは、アルキル基、アルコキシ基であり、特に好ましくはアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、更に好ましくは炭素数1〜6、特に好ましくは炭素数1〜4)である。最も好ましくはn−プロポキシ基、エトキシ基、メトキシ基である。
【0045】
4 として好ましくは、水素原子または電子供与性基であり、より好ましくは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基であり、更に好ましくは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、更に好ましくは炭素数1〜6、特に好ましくは炭素数1〜4)であり、特に好ましくは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基であり、最も好ましくは水素原子、メチル基、メトキシ基である。
【0046】
5 として好ましくは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基であり、より好ましくは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基であり、更に好ましくは水素原子、アルキル基(好ましくは炭素数1〜4より好ましくはメチル基である。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、更に好ましくは炭素数1〜6特に好ましくは炭素数1〜4)である。特に好ましくは水素原子、メチル基、メトキシ基である。
【0047】
6 、R7 、R9 及びR10として好ましくは水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは、水素原子、ハロゲン原子であり、更に好ましくは水素原子である。
【0048】
8 は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜6のアルキニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリールオキシ基、炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基、炭素数2〜12のアシルアミノ基、シアノ基またはハロゲン原子を表し、可能な場合には置換基を有してもよく、置換基としては後述の置換基Tが適用できる。
【0049】
8 として好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜6のアルキニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜12のアリールオキシ基であり、より好ましくは、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリールオキシ基であり、更に好ましくは炭素数1〜12のアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、更に好ましくは炭素数1〜6、特に好ましくは炭素数1〜4である。)であり、特に好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基である。
【0050】
一般式(2)のうちより好ましくは下記一般式(2−A)である。
【0051】
【化2】

【0052】
一般式(2−A)中のR11はアルキル基を表す。R1 、R2 、R4 、R5 、R6 、R7 、R9 及びR10はそれぞれ独立に水素原子、または置換基を表す。R8 は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜6のアルキニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリールオキシ基、炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基、炭素数2〜12のアシルアミノ基、シアノ基またはハロゲン原子を表す。一般式(2−A)中でR1 、R2 、R4 、R5 、R6 、R7 、R8 、R9 及びR10はそれぞれ一般式(2)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様である。
【0053】
一般式(2−A)中でR11は炭素数1〜12のアルキル基を表し、R11で表されるアルキル基は直鎖でも分岐があってもよく、また更に置換基を有してもよいが、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、更に好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、特に好ましくは炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる)を表す。
【0054】
一般式(2)のうちより好ましくは下記一般式(2−B)である。
【0055】
【化3】

【0056】
一般式(2−B)中でR1 、R2 、R4 、R5 、R6 、R7 、R9 及びR10はそれぞれ独立に水素原子、または置換基を表す。R11は炭素数1〜12のアルキル基を表す。Xは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜6のアルキニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1 〜12のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリールオキシ基、炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基、炭素数2〜12のアシルアミノ基、シアノ基またはハロゲン原子を表す。
【0057】
一般式(2−B)中でR1 、R2 、R4 、R5 、R6 、R7 、R9 及びR10は、一般式(2)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様である。一般式(2−B)中でR11は、一般式(2−A)におけるR11と同義であり、また好ましい範囲も同様である。
【0058】
一般式(2−B)中で、Xは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜6のアルキニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリールオキシ基、炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基、炭素数2〜12のアシルアミノ基、シアノ基またはハロゲン原子を表す。
【0059】
1 、R2 、R4 及びR5 がすべて水素原子の場合には、Xとして好ましくはアルキル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基であり、より好ましくは、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基であり、更に好ましくはアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、更に好ましくは炭素数1〜6、特に好ましくは炭素数1〜4である。)であり、特に好ましくは、メトキシ基、メトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基である。
【0060】
1 、R2 、R4 又はR5 のうち少なくとも1つが、置換基の場合には、Xとして好ましくはアルキニル基、アリール基、アルコキシカルボニル基、シアノ基であり、より好ましくはアリール基(好ましくは炭素数6〜12)、シアノ基、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜12)であり、更に好ましくはアリール基(好ましくは炭素数6〜12のアリール基であり、より好ましくはフェニル基、p−シアノフェニル基、p−メトキシフェニル基である。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素2〜12、より好ましくは炭素数2〜6、更に好ましくは炭素数2〜4、特に好ましくはメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、n−プロポキシカルボニルである。)、シアノ基であり、特に好ましくは、フェニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、シアノ基である。
【0061】
一般式(2)のうち更に好ましくは下記一般式(2−C)である。
【0062】
【化4】

【0063】
一般式(2−C)中でR1 、R2 、R4 、R5 、R11及びXは、一般式(2−B)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様である。
【0064】
一般式(2)で表わされる化合物の中で好ましいのは下記一般式(2−D)で表わされ
る化合物である。
【0065】
【化5】

【0066】
一般式(2−D)中で、R2 、R4 及びR6 は、一般式(2−C)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様である。R21、R22はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基である。X1 は、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基、又はシアノ基である。
【0067】
21は、炭素数1〜4のアルキル基を表し、好ましくは炭素数1 〜3のアルキル基であり、より好ましくはエチル基、メチル基である。R22は、炭素数1〜4のアルキル基を表し、好ましくは炭素数1 〜3のアルキル基であり、より好ましくはエチル基、メチル基であり、更に好ましくはメチル基である。
【0068】
1 は、炭素数6〜12のアリール基、炭素2〜12のアルコキシカルボニル基又はシアノ基であり、好ましくは炭素数6〜10のアリール基、炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基、シアノ基であり、より好ましくはフェニル基、p−シアノフェニル基、p−メトキシフェニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、シアノ基であり、更に好ましくは、フェニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、シアノ基である。
【0069】
一般式(2)のうち最も好ましくは下記一般式(2−E)である。
【0070】
【化6】

【0071】
一般式(2−E)中でR2 、R4 及びR5 は、一般式(2−D)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様だが、いずれか1つは−OR13で表される基である(R13は炭素数1〜4のアルキル基である。)。R21、R22及びX1 は一般式(2−D)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様である。
【0072】
一般式(2−E)中でR2 、R4 及びR5 は、一般式(2−D)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様だが、いずれか1つは−OR13で表される基であり(R13は炭素数1〜4のアルキル基である。)、好ましくはR4 、R5 が−OR13で表される基であり、より好ましくはR4 が−OR13で表される基である。R13は、炭素数1〜4のアルキル基を表し、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくはエチル基、メチル基であり、更に好ましくはメチル基である。
【0073】
以下に前述の置換基Tについて説明する。置換基Tとしては例えばアルキル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8であり、例えばメチル、エチル、iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8であり、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニルなどが挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8であり、例えばプロパルギル、3−ペンチニルなどが挙げられる。)などが挙げられる。
【0074】
例えば、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチルなどが挙げられる。)、置換又は未置換のアミノ基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜10、特に好ましくは炭素数0〜6であり、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルオキシ、2−ナフチルオキシなどが挙げられる。)なども挙げられる。
【0075】
例えば、アシル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイルなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、特に好ましくは炭素数7〜10であり、例えばフェニルオキシカルボニルなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。)なども挙げられる。
【0076】
例えば、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、特に好ましくは炭素数7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノなどが挙げられる。)なども挙げられる。
【0077】
例えば、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜16、特に好ましくは炭素数0〜12であり、例えばスルファモイル、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、フェニルスルファモイルなどが挙げられる。)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばカルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイルなどが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)なども挙げられる。
【0078】
例えば、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメシル、トシルなどが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニルなどが挙げられる。)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイドなどが挙げられる。)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなどが挙げられる。)なども挙げられる。
【0079】
例えば、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子などが挙げられる。また具体的なヘテロ環基には例えばイミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、ピペリジル、モルホリノ、ベンゾオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリルなどが挙げられる。)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは、炭素数3〜24であり、例えば、トリメチルシリル、トリフェニルシリルなどが挙げられる)などが挙げられる。これらの置換基は更に置換されてもよい。また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。
【0080】
以下に一般式(2)で表される化合物に関して具体例をあげて詳細に説明するが、本発明は以下の具体例によって何ら限定されることはない。
【0081】
【化7】

【0082】
【化8】

【0083】
【化9】

【0084】
【化10】

【0085】
【化11】

【0086】
【化12】

【0087】
【化13】

【0088】
【化14】

【0089】
【化15】

【0090】
【化16】

【0091】
【化17】

【0092】
【化18】

【0093】
【化19】

【0094】
【化20】

【0095】
【化21】

【0096】
【化22】

【0097】
【化23】

【0098】
【化24】

【0099】
【化25】

【0100】
【化26】

【0101】
【化27】

【0102】
【化28】

【0103】
【化29】

【0104】
【化30】

【0105】
【化31】

【0106】
【化32】

【0107】
【化33】

【0108】
【化34】

【0109】
【化35】

【0110】
【化36】

【0111】
【化37】

【0112】
【化38】

【0113】
【化39】

【0114】
【化40】

【0115】
【化41】

【0116】
【化42】

【0117】
【化43】

【0118】
【化44】

【0119】
【化45】

【0120】
【化46】

【0121】
【化47】

【0122】
【化48】

【0123】
【化49】

【0124】
【化50】

【0125】
【化51】

【0126】
【化52】

【0127】
【化53】

【0128】
【化54】

【0129】
【化55】

【0130】
【化56】

【0131】
一般式(2)で表される化合物は置換安息香酸とフェノール誘導体の一般的なエステル反応によって合成でき、エステル結合形成反応であればどのような反応を用いてもよい。例えば、置換安息香酸を酸ハロゲン化物に官能基変換した後、フェノールと縮合する方法、縮合剤あるいは触媒を用いて置換安息香酸とフェノール誘導体を脱水縮合する方法などがあげられる。製造プロセス等を考慮すると置換安息香酸を酸ハロゲン化物に官能基変換した後、フェノールと縮合する方法が好ましい。
【0132】
反応溶媒として炭化水素系溶媒(好ましくはトルエン、キシレンが挙げられる。)、エーテル系溶媒(好ましくはジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどが挙げられる)、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどを用いることができる。これらの溶媒は単独でも数種を混合して用いてもよく、反応溶媒として好ましくはトルエン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドである。
【0133】
反応温度としては、好ましくは0〜150℃、より好ましくは0〜100℃、更に好ましくは0〜90℃であり、特に好ましくは20℃〜90℃である。本反応には塩基を用いないのが好ましく、塩基を用いる場合には有機塩基、無機塩基のどちらでもよく、好ましくは有機塩基であり、ピリジン、3級アルキルアミン(好ましくはトリエチルアミン、エチルジイソプルピルアミンなどが挙げられる)である。
【0134】
本発明のセルロースアシレートフィルムの光学特性は、
式(IV)Re(λ)=(nx−ny)×d、
式(V)Rth(λ)={(nx+ny)/2−nz}×d,
で表されるReレタデーション値、Rthレタデーション値がそれぞれ、以下の式(VI)及び(VII)を満たすことが好ましい。
(VI)46nm≦Re(630)≦200nm
(VII)70nm≦Rth(630)≦350nm
[式中、Re(λ)は波長λnmにおける正面レタデーション値(単位:nm)、Rth(λ)は波長λnmにおける膜厚方向のレタデーション値(単位:nm)である。またnxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さである。]
さらに好ましくは、下記式(VIII)及び(IX)を満たすことである。
(VIII)46nm≦Re(630)≦100nm
(IX)180nm≦Rth(630)≦350nm
【0135】
湿度変化や高温経時による質量変化や寸法変化に伴いRe及びRthの値が変化する。Re及びRthの値が変化は少ないほど好ましい。湿度による光学特性変化を少なくするために6位アシル置換度の大きなセルロースアシレートを使用するほかに、疎水性の各種添加剤(可塑剤、レタデーション制御剤、紫外線吸収剤など)を用いることによって、フィルムの透湿度や平衡含水率を小さくする。好ましい透湿度は60℃、95%RH24時間で1平方メートル当たり400gから2300gである。好ましい平衡含水率は25℃、80%RHにおける測定値が3.4%以下である。25℃における湿度を10%RHから80%RHに変化させた時の光学特性の変化量がRe値で12nm以下、Rth値で32nm以下であることが好ましい。好ましい疎水性添加剤の量はセルロースアシレートに対して10%から30%であり、12%から25%がより好ましく、14.5%から20%が特に好ましい。添加剤に揮発性や分解性があってフィルムの質量変化や寸法変化が発生すると光学特性変化が起こる。従って80℃、90%RHで48時間経時した後のフィルムの質量変化量は5%以下であることが好ましい。同様に60℃、95%RHで24時間経時後の寸法変化量は5%以下であることが好ましい。また寸法変化や質量変化が少々あっても、フィルムの光弾性係数が小さいと光学特性の変化量は少なくなる。従ってフィルムの光弾性係数が50×10-13 cm2 /dyne以下であることが好ましい。
【0136】
本発明に用いられるドープの製造方法は、特に限定されるものではない。具体的な一例を説明する。ジクロロメタンを主溶媒として、アルコール類を添加した混合溶媒を用いる。その混合溶媒にTAC及び可塑剤(例えば、トリフェニルフォスフェート,ビフェニルジフェニルフォスフェートなど)を添加して攪拌溶解してドープ(以下、原料ドープと称する)を得る。なお、溶解する際には加温したり冷却したりすることで溶解性を向上できる。さらに、原料ドープと混合溶媒と紫外線吸収剤(例えば、ベンゾトリアゾール系化合物が好ましい)とを混合して溶解させて添加液(以下、添加剤液と称する)を調製する。また、原料ドープと混合溶媒とマット剤(例えば、シリカ粒子など)とを混合して分散させて添加液(以下、マット剤液と称する)を調製する。さらに、目的に応じて劣化防止剤,光学異方性コントロール剤(レターデーション制御剤),染料,顔料及び剥離剤などを含む添加液を調製し用いても良い。
【0137】
[ドープ製造方法]
本発明のセルロースアシレートフィルム製造ラインは、ドープ製造設備と溶液製膜設備とを有している。図4にドープ製造設備40を示す。ドープ製造設備40には、溶媒を貯留するための第1タンク41と、溶媒とTAC等とを混合するための第2タンク43と、TACを供給するための第1ホッパ44と、SiO2 11を供給するための第2ホッパ45と、SiO2 11と分散媒とを混合して第1分散液をつくるための第3タンク46とが備えられ、さらに、後述する膨潤液を加熱するための加熱装置56と、加熱された膨潤液の温度を調整するための温調機57と、インラインミキサ55と、第1〜第3のろ過装置58,59,65と、ドープ濃度を調整するためのフラッシュ装置61とが配されている。そしてドープ製造設備40には、さらに、溶媒を回収するための回収装置62と、回収された溶媒を再生するための再生装置63とが備えられている。そして、このドープ製造設備40は、ドープを一時的に貯留するための第4タンク60を介して溶液製膜設備70に接続されている。
【0138】
本実施形態においては、上記のドープ製造設備40を用いて、以下の方法でドープが製造される。まず始めに、バルブV1を開き、溶剤が第1タンク41から第2タンク43に送られる。次に、第1ホッパ44に入れられているTACが、計量されながら第2タンク43に送り込まれる。一方、SiO2 11と分散媒とがそれぞれ第3タンク46に送られ混合される。本実施形態では、分散媒として、第1タンク41の溶剤を用いる。第3タンク46ではSiO2 11が分散媒中に分散され、第1分散液21(図3参照)がつくられる。そして、この第1分散液は、第1ろ過工程22(図3参照)に供され、この工程で第1ろ過装置58によりろ過される。第1ろ過装置58に用いられるフィルタ孔径は前述のとおりである。
【0139】
第2タンク43には、図4に示すようにその外面を包み込むジャケット43aと、モータ43bにより回転する第1攪拌機43cとが備えられている。さらに、図4に示すように、この第2タンク43には、モータ43dにより回転する第2攪拌機43eが取り付けられていることが好ましい。なお、第1攪拌機43cは、アンカー翼が備えられたものであることが好ましく、第2攪拌機43eは、ディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。そして、本実施形態で用いた第2タンク43は、ジャケット43aの内部に伝熱媒体を流すことにより温度調整されており、その好ましい温度範囲は−10℃〜55℃の範囲である。第1攪拌機43c,第2攪拌機43eのタイプを適宜選択して使用することにより、TACが溶媒中で膨潤した膨潤液22を得る。
【0140】
次に、膨潤液52は、ポンプP1により加熱装置56に送られる。加熱装置56は、ジャケット付き配管であることが好ましく、さらに、膨潤液52を加圧することができる構成のものが好ましい。このような加熱装置56を用いることにより、加熱条件下または加圧加熱条件下で膨潤液52中の固形分を溶解させる。なお、膨潤、溶解における温度は、0℃〜97℃であることが好ましい。また、加熱装置56を用いずに、膨潤液52を−100℃〜−10℃の温度に冷却する周知の冷却溶解法を行うこともできる。加熱溶解法及び冷却溶解法を適宜選択して行うことでTACを溶媒に十分溶解させてセルロースアシレート溶液を得ることが可能となる。
【0141】
そして、温調機57により略室温とされたセルロースアシレート溶液に、第1ろ過工程を経た第1分散液をインライン混合する。このインライン混合工程24(図3参照)では、インラインミキサ55により十分な混合がなされ、第2分散液25(図3参照)としてのドープ66が得られる。そして、このドープ66を、第2ろ過装置59によりろ過してドープ中に含まれる不純物を取り除く。第2ろ過装置59に使用されるフィルタは前述の通りである。また、第2ろ過装置59におけるろ過流量は、50リットル/hr.以上であることが好ましい。ろ過後のドープは、バルブV2を介して第4タンク60に送られ、所定時間貯留されてから、溶液製膜設備70送られる。
【0142】
ところで、上記のように、一旦膨潤液52をつくり、その後にこの膨潤液52を溶液とする方法は、TACの濃度を上昇させるほど要する時間が長くなり、製造効率の点で問題となる場合がある。その場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを一旦調製し、その後に目的の濃度とするための濃縮工程を設けることが好ましい。このような方法では、第2ろ過装置59でろ過されたドープを、バルブV2を介してフラッシュ装置61に送り、このフラッシュ装置61内でドープ中の溶媒の一部を蒸発させる。蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示せず)により凝縮されて液体となり回収装置62により回収される。回収された溶媒は、再生装置63によりドープ調製用の溶媒として再生されて再利用される。この再利用はコストの点で効果がある。
【0143】
また、濃縮されたドープ66はポンプP2によりフラッシュ装置61から抜き出される。さらに、ドープ66に発生した気泡を抜くための泡抜き処理が行われることが好ましい。この泡抜き方法としては、公知の種々の方法が適用され、例えば超音波照射法が挙げられる。ドープ66は続いて第3ろ過装置65に送られて、異物が除去される。なお、このろ過の際のドープ66の温度は、0℃〜200℃であることが好ましい。
【0144】
本発明において用いるインラインミキサ55としては特に限定されず、また、混合方法の異なる複数のインラインミキサを直列に接続して混合をより完全に行うことがより好ましい。
【0145】
特に好ましいインラインミキサ55としては、スタティックミキサと、スルーザミキサとが例示され、これらのうち少なくともいずれか一方が用いられることが好ましい。スタティックミキサを用いた場合には、スタティックミキサのエレメント数が6以上9以下であることが好ましく、6以上60以下であることがより好ましい。
【0146】
スタティックミキサと、スルーザミキサとの両方を備えている場合には、スルーザミキサをスタティックミキサの上流側に配置することが好ましい。さらに、スルーザミキサと添加剤液を添加する添加口との距離が5mm以上150mm以下であることが好ましく、さらには、スルーザミキサと添加剤液を添加する添加口との距離が5mm以上15mm以下であることがより好ましい。また、スルーザミキサを構成するエレメントの上流側端部が、前記原料ドープの流される配管の内側壁近傍に位置することが好ましい。
【0147】
以上の方法により製造されるドープは、セルロースアシレート濃度が5質量%〜40質量%であることが好ましい。なお、セルロースアシレートフィルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法、濾過方法、脱泡、添加方法については、特願2004−264464号の[0517]段落から[0616]段落が詳しく、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0148】
[溶液製膜方法]
次に、上記で得られたドープ66を用いてフィルムを製造する方法を説明する。図5は溶液製膜設備70を示す概略図である。ただし、本発明は、図5に示すような溶液製膜設備に限定されるものではない。溶液製膜設備70には、第4ろ過装置74と、流延ダイ80と、回転ローラ81,82に掛け渡された流延バンド83と、テンタ110とが備えられており、さらに、耳切装置112と、乾燥室115と、冷却室117と、巻取室120とが配されている。なお、テンタ110と乾燥室115との間や、その他の箇所にはフィルム搬送用あるいは支持用のローラが適宜配されているが、図の煩雑さを避けるために図5においては図示を略す。
【0149】
溶液製膜設備70の上流の第4タンク60には、モータ60aで回転する攪拌機60bが取り付けられている。そして、このストックタンク60は、ポンプP3,第4ろ過装置74を介して流延ダイ80と接続している。
【0150】
流延ダイ80の材質としては、2層ステンレス鋼、または、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率が2×10-5(℃-1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有するものも、この流延ダイ80の材質として用いることができ、さらに、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものが用いられる。さらに、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して流延ダイ80を作製することが好ましい。これにより流延ダイ80内を流れるドープの面状が一定に保たれる。流延ダイ80と後に説明するフィードブロックとの接液面の仕上げ精度は、表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイ80のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能とされている。流延ダイ80のリップ先端の接液部の角部分について、そのRは全巾にわたり50μm以下とされている。また、流延ダイ80の内部における剪断速度が1(1/sec)〜5000(1/sec)となるように調整されていることが好ましい。
【0151】
流延ダイ80の幅は特に限定されるものではないが、最終製品となるフィルムの幅の1.0倍〜2.0倍程度であることが好ましい。また、製膜中の温度が所定温度に保持されるように、この流延ダイ80に温調機を取り付けることが好ましい。また、流延ダイ80にはコートハンガー型のものを用いることが好ましい。さらに、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を流延ダイ80の幅方向において所定の間隔で設け、ヒートボルトによる自動厚み調整機構が流延ダイ80に備えられていることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)43の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。また、フィルム製膜ライン40中に図示しない厚み計(例えば、赤外線厚み計)のプロファイルに基づく調整プログラムによってフィードバック制御を行ってもよい。流延エッジ部を除いて任意の2点の厚み差は1μm以内に調整し、幅方向厚みの最小値で最も大きな差が3μm以下となるように調整することが好ましい。また、リップ間隔精度は±50μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
【0152】
流延ダイ80のリップ先端には硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削でき気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつ流延ダイ80と密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC),Al2 3 ,TiN,Cr2 3 などが挙げられるが、中でも特に好ましくはWCである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
【0153】
流延ダイ80のスリット端に流出するドープが、局所的に乾燥固化することを防止するために溶媒供給装置(図示しない)をスリット端に取り付けることが好ましい。この場合には、ドープを可溶化する溶媒(例えば、ジクロロメタン86.5質量部,アセトン13質量部,n−ブタノール0.5質量部の混合溶媒)が流延ビードの両端部に供給されることが好ましい。なお、この液を供給するポンプとしては、脈動率が5%以下のものを用いることが好ましい。
【0154】
流延ダイ80の下方には、回転ローラ81,82に掛け渡された流延バンド83が設けられている。回転ローラ81,82は、図示しない駆動装置により回転し、この回転に伴い流延バンド83は無端で走行する。流延バンド83は、その移動速度、すなわち流延速度が10m/分〜200m/分で移動できるものであることが好ましい。また、流延バンド83の表面温度を所定の値にするために、回転ローラ81,82には伝熱媒体循環装置84が取り付けられていることが好ましく、流延バンド83は、その表面温度が−20℃〜40℃に調整可能なものであることが好ましい。本実施形態において用いた回転ローラ81,82には、伝熱媒体流路(図示せず)が形成されており、その流路中を、所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、回転ローラ81,82の温度が所定の値に保持されるものとなっている。
【0155】
なお、回転ローラ81,82を直接支持体として用いることも可能である。この場合には、回転の速度ムラが0.2%以下となるように高精度で回転できるものであることが好ましい。この場合には、回転ローラ81,82の表面の平均粗さを0.01μm以下とすることが好ましい。回転ローラ81,82の表面にはハードクロムメッキ処理などを行うことが好ましく、これにより、さらに、十分な硬度と耐久性を持たせることもできる。なお、支持体(流延バンド83や回転ローラ81,82)の表面欠陥は最小限に抑制することが好ましい。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m2 以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m2 以下であることが好ましい。
【0156】
流延ダイ80、流延バンド83等の流延機器は流延室85に収められている。流延室85には、その内部温度を所定の値に保つための温度コントローラ86と、揮発している有機溶媒を凝縮回収するための第1の凝縮器(コンデンサ)87とが設けられている。そして、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置88が流延室85の外部に設けられている。また、流延ダイ80から流延バンド83にかけて形成される流延ビードの背面部を圧力制御するための減圧チャンバ90が配されていることが好ましく、本実施形態においてもこれを使用している。
【0157】
さらに、バンド83の上方には、流延膜89の溶媒を蒸発させるために風を吹き付ける給気ダクト91と,流延膜89からの蒸発溶媒を風とともに排気するための排気ダクト92が設けられ、給気ダクト91と排気ダクト92との間には、ガイド板94が備えられている。
【0158】
渡り部100には、送風機101が備えられ、また、テンタ110の下流の耳切装置112には、切り取られたフィルム32の側端部屑を細かく切断処理するためのクラッシャ113が備えられている。
【0159】
また、乾燥室115には、多数のローラ115aが備えられており、また、蒸発して発生した溶媒ガスを吸着回収するための吸着回収装置116が取り付けられている。そして、図5においては、乾燥室115の下流に冷却室117が設けられているが、乾燥室115と冷却室117との間に調湿室(図示しない)を設けてもよい。冷却室117の下流には、フィルム32の帯電圧を所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)となるように調整するための強制除電装置(除電バー)118を設けられている。図5においては、強制除電装置118は、冷却室117の下流側とされている例を図示しているが、この設置位置に限定されるものではない。さらに、本実施形態においては、フィルム32の両縁にエンボス加工でナーリングを付与するためのナーリング付与ローラ119が強制除電装置118の下流に適宜設けられる。また、巻き取り室90の内部には、フィルム32を巻き取るための巻取ローラ121と、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ122とが備えられている。
【0160】
次に、以上のような溶液製膜設備70を使用してフィルムを製造する方法の一例を以下に説明する。ドープ66は、攪拌機60bの回転により常に均一化されている。ドープ66には、この攪拌の際にも可塑剤、紫外線吸収剤などの添加剤を混合させることもできる。
【0161】
そして、ドープ66は、ポンプP3により第4ろ過装置74に送られてここで濾過された後に、流延ダイ80から流延バンド83に流延される。回転ローラ81,82の駆動は、流延バンド83に生じるテンションが1.5×104 kg/mとなるように調整されることが好ましい。また、流延バンド83と回転ローラ81,82との相対速度差は、0.01m/min.以下となるように調整する。流延バンド83の速度変動を0.5%以下とし、流延バンド83が一回転する際に生じる幅方向の蛇行が1.5mm以下とされることが好ましい。この蛇行を抑制するために、流延バンド83の両端の位置を検出する検出器(図示しない)を設け、その測定値に基づき回転ローラの速度をフィードバック制御により制御することがより好ましい。さらに、流延ダイ80直下における流延バンド83について、回転ローラ81の回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以下となるように調整することが好ましい。また、流延室85の温度は、温度コントローラ86により−10℃〜57℃とされることが好ましい。なお、流延室85の内部で蒸発した溶媒は回収装置88により回収された後、再生させてドープ調製用溶媒として再利用される。
【0162】
流延ダイ80から流延バンド83にかけては流延ビードが形成され、流延バンド83上には流延膜89が形成される。流延時のドープ66の温度は、−10℃〜57℃であることが好ましい。また、流延ビードを安定させるために、このビードの背面が減圧チャンバ90により所定の圧力値に制御されることが好ましい。ビード背面は前面よりも−10Pa〜−1500Pa減圧することが好ましい。さらに、減圧チャンバ90にはジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つように温度制御されることが好ましい。また、流延ビードの形状を所望のものに保つために流延ダイ80のエッジ部に吸引装置(図示せず)を取り付けることが好ましい。このエッジ吸引風量は、1L/min.〜100L/min.の範囲であることが好ましい。
【0163】
流延膜89は、自己支持性を有するものとなった後に、湿潤フィルム66として剥取ローラ95で支持されながら流延バンド83から剥ぎ取られる。その後に多数のローラが設けられている渡り部100を搬送させた後にテンタ110にフィルム32を送り込む。渡り部100では、送風機101から所望の温度の乾燥風を送風することでフィルム32の乾燥を進行させる。このとき乾燥風の温度が、20℃〜250℃であることが好ましい。
【0164】
本実施形態では、流延バンド83から剥離されたフィルム32に対して搬送方向に張力をかけて、流延膜89であったときの長さに対して101〜120%の延伸倍率となるように制御している。この張力制御は、本実施形態では剥取ローラ95により行っているが、この方法に限定されず、他の張力制御装置によって実施してもよい。このように、流延バンド83から剥離された直後のフィルム32を搬送方向に上記延伸倍率となるように延伸することにより、剥ぎ取り時の微小な振動や厚みのわずかなムラを抑制することができる。
【0165】
テンタ110に送られたフィルム32は、その両端部がクリップで把持されて搬送されながら乾燥される。また、テンタ110の内部を異なった温度ゾーンに区画分割して、その区画毎に乾燥条件を適宜調整することが好ましい。なお、テンタ110では、フィルム32を幅方向に延伸させることが可能とされている。テンタ110により延伸される前のフィルム32の幅をD1とし、テンタ110により延伸されたフィルム32の幅をD2とするとき、本実施形態においては、(D2/D1)×100が101〜135(%)となるように延伸する。これにより、流延バンド83からの剥離直後における搬送方向への延伸と同様に、微小な厚みムラを低減したり、所定の光学特性の付与等が可能となる。
【0166】
なお、流延バンド83からの剥離直後とテンタとにおける延伸は、いずれか一方でも効果はあるが、本実施形態のように両方とも実施すると、より効果がある。
【0167】
フィルム32は、テンタ110で所定の残留溶媒量まで乾燥された後、その下流側に送り出される。フィルム32の両側端部は、耳切装置112によりその両縁が切断され、切断された側端部は図示しないカッターブロワーによりクラッシャ113に送られる。クラッシャ113により、側端部は粉砕されてチップとなる。このチップはドープ調製用に再利用されるので、この方法はコストの点において有効である。なお、この両側端部の切断工程については省略することもできるが、前記流延工程から前記フィルムを巻き取る工程までのいずれかで行うことが好ましい。
【0168】
一方、本実施形態においては、両側端部を切断除去されたフィルム32は、乾燥室115に送られ、さらに乾燥される。乾燥室115内の温度は、特に限定されるものではない。乾燥室115においては、フィルム32は、ローラ115aに巻き掛けられながら搬送されており、ここで蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置116により吸着回収される。溶媒成分が除去された空気は、乾燥室115の内部に乾燥風として再度送風される。なお、乾燥室115は、乾燥温度を変えるために複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置112と乾燥室115との間に予備乾燥室(図示しない)を設けてフィルム32を予備乾燥すると、乾燥室115においてフィルム温度が急激に上昇することが防止されるので、これにより、フィルム32の形状変化を、より抑制することができる。
【0169】
フィルム32は、冷却室117では略室温にまで冷却される。なお、乾燥室115と冷却室117との間に調湿室(図示しない)を設けてもよく、この調湿室ではフィルム32に対して、所望の湿度及び温度に調整された空気を吹き付けられることが好ましい。これにより、フィルム32のカールの発生や巻き取る際の巻き取り不良の発生を抑制することができる。
【0170】
また、強制除電装置118により、フィルム32が搬送されている間の帯電圧が所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)とされる。図では、冷却室117の下流側に設けられている例を図示しているがその位置に限定されるものではない。さらに、ナーリング付与ローラ119を設けて、フィルム32の両縁にエンボス加工でナーリングを付与することが好ましい。なお、ナーリングされた箇所の凹凸が、1μm〜200μmであることが好ましい。
【0171】
最後に、フィルム32を巻取室120内の巻取ローラ121で巻き取る。この際には、プレスローラ122で所望のテンションを付与しつつ巻き取ることが好ましい。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。巻き取られるフィルム32は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フィルムの幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上1800mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、1800mmより大きい場合にも効果がある。フィルムの厚みが15μm以上100μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0172】
本発明では、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させる方法を用いてもよい。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとのいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成されるビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0173】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取り方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特願2004−264464号の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されている。これらの記載も本発明に適用することができる。
【0174】
以上のように、支持体から剥ぎ取られたフィルムを巻き取るまでの間に、乾燥工程や側端部の切除除去工程などの様々な工程が行われている。これらの各工程内、あるいは各工程間では、フィルムは主にローラにより支持または搬送されている。これらのローラには、駆動ローラと非駆動ローラとがあり、非駆動ローラは、主に、フィルムの搬送路を決定するとともに搬送安定性を向上させるために使用される。また、駆動ローラのうちのいくつかはサクションローラとしている。
【0175】
一方、駆動ローラは、フィルムに駆動を伝達し、これを下流へと搬送するために使用されており、通常はサクションローラが使用されている。製膜におけるフィルム搬送では、流延工程や剥ぎ取り工程、乾燥工程、巻き取り工程などの各工程内あるいは各工程間で、搬送張力の分離が必要となる場合があり、その際には、サクションローラにより駆動力をフィルムに与えることで搬送張力の分離を図っている。このサクションローラは、それ自体にフィルムを吸着させて搬送するため、ローラ周面に多数の空気吸引孔を有している。
【0176】
搬送工程で使用する駆動ローラは、あらかじめその周面を窒化処理や硬化クロムめっき、あるいは焼入れ処理などで硬化処理したものを使用し、また、その周面の表面硬度は、ビッカース硬度で500以上2000以下であることが好ましく、より好ましくは800以上1200以下である。
【0177】
本発明において使用する駆動ローラは市販のサクションローラであり、このサクションローラは周面に多数の空気吸引孔を有する。図6は、テンタ110と乾燥室115との間におけるフィルム32の搬送の状態を示す説明図である。ここでのローラの図示は、R1〜R4の4本としているが、この本数は適宜変更される。図4では、フィルム32の走行方向において上流側からR1,R2,R3,R4と符号を付しており、符号R3が駆動ローラとしてのサクションローラとしている。フィルム32の温度を調整するために、サクションローラR3にはその周面温度を制御するための温度制御手段131が備えられるとともに、フィルム32に対する吸引力を制御するための吸引制御手段132が備えられている。さらに、このサクションローラR3には、回転速度を制御するためのモータ133が備えられている。
【0178】
そして、サクションローラR3の上流側に配されるローラR2と下流側に配されたローラR4には、フィルム32に対する押しつけ圧力を制御するための押圧制御手段136が備えられている。さらに、ローラR2〜R4に至るフィルム32の搬送路近傍には、フィルム32の温度を検知するための温度センサ137が備えられ、この温度センサ137の検知結果が温度制御手段131に送られる。
【0179】
フィルム32は、サクションローラR3の周面温度を制御することにより、サクションローラR3の上流側及び下流側での温度差を制御される。本実施形態では、サクションローラR3の上流側におけるフィルム32の温度をTP1(℃)とし、下流側における温度をTP2(℃)とするとき、(|TP1−TP2|/TP1)×100で得られる百分率が30%以内となるようにフィルム32の温度が制御される。これにより、フィルム32の表面にすりキズがつくことを抑制することができる。
【0180】
また、ローラR2,R4は、ともに押圧制御手段136により矢線(A)で示される方向にシフトされ、フィルムの搬送方向における張力を制御される。本実施形態では、サクションローラR3の上流側におけるフィルム32が搬送方向において張られる力をTS1(N)とし、下流側におけるフィルム32が搬送方向において張られる力をTS2(N)とするとき、(|TS1−TS2|/TS1)×100で得られる百分率が30%以内となるようにフィルム32の搬送方向における張力が制御される。これにより、上述のサクションローラでの温度制御と同様に、フィルム32の表面にすりキズがつくことを抑制することができる。
【0181】
サクションローラR3における上記温度制御と、上記張力制御とは、いずれか一方でも効果はあるが、本実施形態のように両方を実施するとより効果がある。
【0182】
なお、サクションローラの周面の表面粗Ryは、0.3μm以上1.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上0.8μm以下である。この周面の表面粗さRyは、そのローラにおいて孔のない平滑部の表面粗さが前記周面粗さであるものとする。また、その孔径は1mm以上6mm以下であることが好ましいが、より好ましくは2mm以上4mm以下であり、その孔の面取り量は、孔径の2%以上20%以下であることが好ましい。
【0183】
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースアシレートフィルムの性能及びそれらの測定法は、特願2004−264464号の[0112]段落から[0139]段落に記載されている。これらも本発明にも適用することができる。
【0184】
[表面処理]
前記セルロースアシレートフィルムの少なくとも一方の面が表面処理されていることが好ましい。前記表面処理が真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
【0185】
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
前記セルロースアシレートフィルムの少なくとも一方の面が下塗りされていても良い。
【0186】
さらに前記セルロースアシレートフィルムは、これをベースフィルムとし、このベースフィルムに他の機能性層を付与した機能性材料に好ましく用いることできる。前記機能性層が帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選択される少なくとも1層であることが好ましい。なお、特願2004−264464号の[0890]段落から[1087]段落に機能性層の付与方法が、詳細な条件、方法も含めて記載されている。これらも本発明に適用できる。
【0187】
(用途)
前記セルロースアシレートフィルムは、特に偏光板保護フィルムとしても機能する光学補償フィルムとして有用である。セルロースアシレートフィルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を、液晶層に通常は2枚貼って液晶表示装置を作製する。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、周知の各種配置とすることができる。特願2004−264464号には、液晶表示装置として、TN型,STN型,VA型,OCB型,反射型、その他の例が詳しく記載されている。この方法は、本発明にも適用することができる。また、同出願には光学的異方性層を付与したセルロースアシレートフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフィルムについての記載もある。更には、適度な光学性能を付与した二軸性セルロースアシレートフィルムとして光学補償フィルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フィルムと兼用して使用することもできる。これらの記載内容は、本発明にも適用することができる。特願2004−264464号の[1088]段落から[1265]段落に詳細が記載されている。
【0188】
また、本発明の製造方法により光学特性に優れるセルローストリアセテートフィルム(TACフィルム)を得ることができる。前記TACフィルムは、偏光板保護フィルムや写真感光材料のベースフィルムとして用いることができる。さらにテレビ用途などの液晶表示装置の視野角依存性を改良するための光学補償フィルムとしても使用可能である。特に偏光板の保護膜を兼ねる用途に効果的である。そのため、従来のTNモードだけでなくIPSモード、OCBモード、VAモードなどにも用いられる。また、前記偏光板保護膜用フィルムを用いて偏光板を構成しても良い。
【0189】
また、本発明では、上述のように、ポリマーの種類に応じて、溶液製膜に代えて溶融製膜によりフィルムを製造することもある。この場合には、流延工程に代えて溶融押出工程とし、市販の各種溶融押出ダイによりポリマーを溶融してフィルム形状に押出し、押し出されたフィルムを所定の条件により冷却してフィルムを製造するとよい。長尺状に押し出されたフィルムについては、必要に応じて所定の方向に延伸してもよい。なお、押し出されたフィルムの前記冷却方法としては、自然冷却でもよいし、所定の冷却装置による冷却でもよい。
【実施例1】
【0190】
次に、本発明の実施例を説明する。実験1のみ詳細に記載し、実験2〜4については、実験1と異なる条件のみを記す。なお比較実験1〜4は実験1の比較実験として実施したものである。
【0191】
[実験1]
フィルム製造に使用したポリマー溶液(ドープ)の調製に際しての配合を下記に示す。
[組成]
セルローストリアセテート(置換度2.84、粘度平均重合度306、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度 315mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.5mmである粉体) 100質量部
ジクロロメタン(第1溶媒) 320質量部
メタノール(第2溶媒) 83質量部
1−ブタノール(第3溶媒) 3質量部
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.6質量部
可塑剤B(ジフェニルフォスフェート) 3.8質量部
UV剤a:2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール 0.7質量部
UV剤b:2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール 0.3質量部
クエン酸エステル混合物(クエン酸、クエン酸モノエチルエステル、クエン酸ジエチルエステル、クエン酸トリエチルエステル混合物) 0.006質量部
微粒子(二酸化ケイ素(粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05質量部
【0192】
さらに、光学特性を制御するために、以下の化57で示される化合物を、添加量を変えて添加した。なお、それぞれの添加量は、表1の化57添加率(単位;重量%)の欄に示すとおりであり、この添加率は上記セルローストリアセテートに対する重量比率である。
【0193】
【化57】

【0194】
[セルローストリアセテート]
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1質量%以下であり、Ca含有量が58ppm、Mg含有量が42ppm、Fe含有量が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンが15ppm含むものであった。また6位アセチル基の置換度は0.91であり全アセチル中の32.5%であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8質量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であり、Tg(ガラス転移点;DSCにより測定)は160℃、結晶化発熱量は6.4J/gであった。このTACは、綿から採取したセルロースを原料として合成されたものである。以下の説明において、これを綿原料TACと称する。
【0195】
(1−1)ドープ仕込み
図4に示すドープ製造設備40を用いてドープ66を調製した。攪拌羽根を有する4000Lのステンレス製第1タンク41で、前記複数の溶媒を混合してよく攪拌し、混合溶媒とした。なお、溶媒は、すべてその含水率が0.5質量%以下のものを使用した。次に、TACのフレーク状粉体を第1ホッパ44から徐々に添加した。TAC粉末は、第2タンク43に投入されて、回転軸にアンカー翼を備えたディゾルバータイプの偏芯攪拌機43cにより、所定の攪拌条件で30分間分散された。分散開始時の温度は25℃であり、最終到達温度は48℃となった。高速攪拌の後、アンカー翼の周速を所定の値に設定してさらに100分間攪拌し、TACフレークを膨潤させて膨潤液52を得た。膨潤終了までは窒素ガスによりタンク内を0.12MPaになるように加圧した。この際の第3タンク46の内部は、酸素濃度が2vol%未満であり防爆上で問題のない状態を保った。また膨潤液中の水分量は0.3質量%であった。
【0196】
(1−2)溶解・濾過
膨潤液52を第3タンク46からポンプP1を用いてジャケット付配管に送液した。ジャケット付き配管で膨潤液52を50℃まで加熱して、更に2MPaの加圧下で90℃まで加熱し、完全溶解した。このときの加熱時間は15分であった。次に、溶解された液を、温調機で36℃まで温度を下げた。このセルロースアシレート溶液12に対して、予め調製されたSiO2 の第1分散液22を第3タンク46から送液量を調整しながら第1ろ過装置58により濾過した後、所定流量でインライン混合した。SiO2 は、流延時におけるドープ66の濃度が0.1%となるように予め添加量を調整する。第1ろ過装置58のフィルタ孔径は10μmである。なお、本実施例1では、第1ろ過装置58の下流側から上流側へは別途送液ラインを設けており、第1分散液22を繰り返しろ過することができるようにし、3回のろ過を実施した。
【0197】
そしてインライン混合工程24を経た液を、公称孔径10μmのフィルタを備えた第2ろ過装置59を通過させて台2分散液25としてのドープを得た。この際、第2ろ過装置59における1次側圧力を1.5MPa、2次側圧力を1.2MPaとした。なお、本実施例では、第2ろ過装置59の下流側から上流側へは別途送液ラインを設けており、第2分散液25を繰り返しろ過することができるようにし、3回のろ過を実施した。高温にさらされるフィルタ、ハウジング、及び配管としては、ハステロイ合金製で耐食性の優れたものを利用し保温加熱用の伝熱媒体を流通させるジャケットを備えたものを使用した。
【0198】
(1−3)濃縮・濾過・脱泡・添加剤
このようにして得られたドープ66を80℃で常圧とされたフラッシュ装置61でフラッシュ蒸発させて、蒸発した溶媒を凝縮器で凝縮し回収装置62で回収した。このようにして、ドープ66の濃度を表1に記すように調整した。なお、凝縮された溶媒はドープ調製用溶媒として再利用すべく回収装置で回収された後に再生装置で再生した後に溶媒タンクに送液した。回収装置62,再生装置63では、蒸留や脱水などが行われる。フラッシュ装置61のフラッシュタンクには攪拌軸にアンカー翼を備えた攪拌機を設け、この攪拌機により、フラッシュされたドープを攪拌して脱泡を行った。このフラッシュタンク内のドープ66の温度は25℃であり、タンク内におけるドープ66の平均滞留時間は50分であった。このドープ66を採取して25℃で測定した剪断粘度は、剪断速度10(sec-1)で450Pa・sであった。
【0199】
つぎに、このドープ66に弱い超音波を照射することによって泡抜きを実施した。その後、ポンプP2を用いて1.5MPaに加圧した状態で、第3ろ過装置65を通過させた。第3ろ過装置65では、ドープ66を、最初公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルタが用いられ通過させ、ついで同じく10μmの焼結繊維フィルタを通過させた。それぞれの1次側圧力は1.5MPa,1.2MPaであり、2次側圧力は1.0MPa,0.8MPaであった。ろ過後のドープ66の温度を36℃に調整して2000Lのステンレス製ストックタンク内にドープ66を送液してここに貯蔵した。第4タンク60は中心軸にアンカー翼を備えた攪拌機40bを有しており、この攪拌機40bにより内部が常時攪拌される。なお、ドープ66を濃縮する直前から濃縮後までの間における設備のドープ接液部には、腐食などの問題は全く生じなかった。
【0200】
また、ジクロロメタンが86.5質量部、アセトンが13質量部、1−ブタノール0.5質量部の混合溶媒Aを作製した。
【0201】
(1−4)吐出・直前添加・流延・ビード減圧
図5に示す溶液製膜設備70を用いてフィルム32を製造した。第4タンク60内のドープ66を高精度ギアポンプP3で第4ろ過装置74へ送った。このポンプP3は、ポンプP4の1次側を増圧する機能を有しており、1次側の圧力が0.8MPaになるようにインバーターモーターによりポンプP4の上流側に対するフィードバック制御を行い送液する。ポンプP4は容積効率99.2%、吐出量の変動率0.5%以下の性能である。また、その吐出圧力は1.5MPaであった。そして、第4ろ過装置74を通ったドープ66を流延ダイ80に送液した。
【0202】
流延ダイ80は、幅が1.8mであり乾燥された後のフィルム32の膜厚が80μmとなるように、ダイ80の吐出口のドープ66の流量を調整して流延を行った。またダイ80の吐出口からのドープ66の流延幅を1700mmとした。ドープ66の温度を36℃に調整するために、流延ダイ80にジャケット(図示しない)を設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の入口温度を36℃とした。
【0203】
流延ダイ80と配管とはすべて、稼働中には36℃に保温した。流延ダイ80は、コートハンガータイプのダイである。そしてこのダイ80としては、厚み調整ボルトが20mmピッチに設けられており、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を具備しているものを使用した。このヒートボルトは予め設定したプログラムによりポンプの送液量に応じたプロファイルを設定することもでき、溶液製膜設備70に設置した赤外線厚み計(図示しない)のプロファイルに基づいた調整プログラムによってフィードバック制御も可能な性能を有するものを用いた。流延側端部20mmを除いたフィルム32においては、50mm離れた任意の2点の厚みの差は1μm以内であり、幅方向における厚みのばらつきが3μm/m以下となるように調整した。また、全体厚みは±1.5%以下に調整した。
【0204】
また、流延ダイ80の1次側には、この部分を減圧するための減圧チャンバ90を設置した。この減圧チャンバ90の減圧度は、流延ダイ80から流出されて流延開始位置に達するまでの流延ビードの前後で1Pa〜5000Paの圧力差が生じるように調整され、この調整は流延速度に応じてなされる。その際に、ビードの長さが所定の値となるようにビード両面側の圧力差を設定した。また、減圧チャンバ90は、流延部周囲のガスの凝縮温度よりも高い温度に設定できる機構を具備したものであった。ダイ吐出口におけるビードの前面部、背面部にはラビリンスパッキン(図示しない)を設け、また、ダイ吐出口の両端には開口部を設けた。さらに、ダイ80には、流延ビードの両縁の乱れを調整するためのエッジ吸引装置(図示しない)が取り付けられている。
【0205】
(1−5)流延ダイ
流延ダイ80の材質は、熱膨張率が2×10-5(℃-1)以下の2層ステンレス鋼である。そしてこれは、電解質水溶液での強制腐食試験においてSUS316製と略同等の耐腐食性を有する素材であり、また、ジクロロメタン,メタノール,水の混合液に3ヶ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有する。流延ダイ80の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であり、スリットのクリアランスは1.5mmに調整した。ダイ80のリップ先端の接液部の角部分については、面取り半径Rがスリット全巾に亘り50μm以下になるように加工されている。ダイ内部での剪断速度は1(1/sec)〜5000(1/sec)の範囲であった。また、流延ダイ80のリップ先端には、溶射法によりWC(タングステンカーバイド)コーティングをおこない硬化膜を設けた。
【0206】
さらに流延ダイ80の吐出口には、流出するドープ66が局所的に乾燥固化することを防止するために、ドープ66を可溶化するための前記混合溶媒Aを流延ビードの両側端部と吐出口との界面部に対し、それぞれ0.5ml/min.ずつで供給した。この混合溶媒Aを供給するポンプの脈動率は5%以下であった。また、減圧チャンバ90によりビード背面側の圧力を前面部よりも150Pa低くした。また、減圧チャンバ90の内部温度を所定の温度で一定にするためにジャケット(図示しない)を取り付けた。そのジャケット内には35℃に調整された伝熱媒体を供給した。前記エッジ吸引装置は、1L/min.〜100L/min.の範囲となるようにエッジ吸引風量を調整することができるものであり、本実施例ではこれを30L/min.〜40L/min.の範囲となるように適宜調整した。
【0207】
(1−6)金属支持体
支持体として、幅2.1mで長さ70mのステンレス製のエンドレス流延バンド83を用いた。流延バンド83は、厚みが1.5mm、表面粗さが0.05μm以下になるように研磨した。その材質はSUS316製であり、十分な耐腐食性と強度を有するものとした。流延バンド83の全体の厚みムラは0.5%以下であった。流延バンド83は、2個のバックアップローラ81,82により搬送させた。その際の流延バンド83の搬送方向における張力は1.5×105 N/m2 となるように、流延バンド83とバックアップローラ81,82との相対速度差が0.01m/min以下になるように調整した。また、流延バンド83の速度変動は0.5%以下であった。また1回転の幅方向の蛇行が1.5mm以下に制限されるように流延バンド83の両端位置を検出して制御した。また、流延ダイ80の直下におけるダイ80のリップ先端と流延バンド83との上下方向における位置変動は200μm以下にした。なお、流延バンド83は、風圧変動抑制手段(図示しない)を有した流延室(図示なし)内に設置されている。この流延バンド83上に流延ダイ80からドープ66を流延した。
【0208】
バックアップローラ81,82としては、流延バンド83の温度調整を行うことができるように、内部に伝熱媒体を送液できるものを用いた。流延ダイ80側のバックアップローラ81には5℃の伝熱媒体を流し、他方のバックアップローラ82には乾燥のために40℃の伝熱媒体を流した。流延直前の流延バンド83の中央部の表面温度は15℃であり、その両側端の温度差は6℃以下であった。なお、流延バンド83としては、表面欠陥がないものが好ましく、30μm以上のピンホールが皆無であり、10μm〜30μmのピンホールが1個/m2 以下、10μm未満のピンホールが2個/m2 以下であるものを用いた。
【0209】
(1−7)流延乾燥
流延室85の温度は、温度コントローラ86により35℃に保った。流延バンド83上に流延されたドープ66から形成された流延膜89には、給気ダクト91から風を送った。なお、排気ダクト92により、排気を実施するとともに、ガイド板94により風の流れを制御した。また、流延バンド83の下部は、65℃となるように送風機113から送風した。それぞれの乾燥風の飽和温度はいずれも−8℃付近であった。流延バンド83上での乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、この酸素濃度を5vol%に保持するために空気を窒素ガスで置換した。また、流延室内の溶媒を凝縮回収するために、凝縮器(コンデンサ)を設け、その出口温度を−10℃に設定した。
【0210】
なお、流延開始点から5秒間の流延時間では空気の流れが直接ドープ66及び流延膜89に当たらないようにするために遮風板(図示なし)を設け、流延ダイ80直近の静圧変動を±1Pa以下に抑制した。流延膜89中の溶媒比率が乾量基準で50質量%になった時点で流延バンド83から剥取ローラ95で支持しながらフィルム32として剥ぎ取った。なお、この乾量基準による溶媒含有率は、サンプリング時におけるフィルム重量をx、そのサンプリングフィルムを乾燥した後の重量をyとするとき{(x−y)/y}×100で求める値である。このときの剥取テンションは1×102 N/m2 であり、剥取不良を抑制するために流延バンド83の速度に対する剥取速度(剥取ローラドロー)を110%に調整した。剥ぎ取ったフィルムの表面温度は15℃であった。流延バンド83上での乾燥速度は、平均60質量%乾量基準溶媒/min.であった。乾燥により発生した溶媒ガスは−10℃の凝縮器で凝縮液化して回収装置(図示せず)で回収した。回収された溶媒は、水分量が0.5%以下となるように調整した。溶媒が除去された乾燥風は再度加熱され乾燥風として再利用される。フィルム32を、ローラを介して搬送し、テンタ110に送った。この搬送時には、フィルム32に対して送風機(図示なし)から40℃の乾燥風を送った。なお、渡り部のローラで搬送している際に、湿潤フィルム66には所定値のテンションが付与されている。
【0211】
(1−8)テンタ搬送・乾燥・耳切
テンタ110に送られたフィルム32は、クリップでその両端を固定されながらテンタ110の乾燥ゾーン内を搬送され、この間、乾燥風により乾燥される。クリップは、20℃の伝熱媒体の供給により冷却した。テンタ110におけるクリップの搬送はチェーンで行い、そのスプロケットの速度変動は0.5%以下であった。乾燥風のガス組成は−10℃における飽和ガス濃度とした。テンタ110内での平均乾燥速度は120質量%(乾量基準溶媒)/min.であった。テンタ110の出口におけるフィルム32の残留溶媒量が7質量%となるように、乾燥ゾーンの条件を調整した。テンタ110内ではフィルム32を搬送しつつ幅方向における延伸も行った。なお、この延伸前のフィルム32の幅を100%としたとき、延伸後の幅が延伸前の110%となるように延伸した。剥取用のローラからテンタ110の入口に至るまでの延伸率(テンタ駆動ドロー)は102%とした。また、テンタ入口から出口までの長さに対する、クリップ狭持開始位置から狭持解除位置までの長さの割合は90%とした。テンタ110内で蒸発した溶媒は−10℃の温度で凝縮させ液化して回収した。凝縮回収用に凝縮器(コンデンサ)を設け、その出口温度は−8℃に設定した。そして凝縮溶媒は、含まれる水分量が0.5質量%以下に調整されて再使用された。
【0212】
そして、テンタ110の出口から30秒以内にフィルム32の耳切りを耳切装置112により実施した。
【0213】
(1−9)後乾燥・除電
テンタ110から乾燥室115に至る駆動ローラ4本をサクションローラR3とし、その前後におけるフィルム32の温度をそれぞれTP1=80℃,TP2=95℃とし、温度差を20℃とした。またローラR3の前後における張力を、それぞれTS1=150N,TS2=180Nとした。そして、このフィルム32を乾燥室115で高温乾燥した。乾燥室115を4区画に分割して、上流側から120℃,130℃,130℃,130℃の乾燥風を送風機(図示しない)から給気した。フィルム32のローラ115aによる搬送テンションは所定の値に制御され、最終的に残留溶媒量が0.3質量%になるまでの約10分間乾燥した。前記ローラ115aにおけるラップ角(フィルムの巻きかけ中心角)は、90°および180°とした。ローラ115aの材質はアルミ製もしくは炭素鋼製であり、表面にはハードクロム鍍金を施した。ローラ115aの表面形状はフラットなものとブラストによりマット化加工したものとを用いた。ローラ115aの回転によるフィルム位置の振れは全て50μm以下であった。また、所定の値のテンション条件下でのローラ撓みは0.5mm以下となるように選定した。
【0214】
乾燥室115での乾燥風に含まれる溶媒ガスは、吸着回収装置(図示せず)を用いて吸着回収除去した。ここに使用した吸着剤は活性炭であり、脱着は乾燥窒素を用いて行った。回収した溶媒は水分量0.3質量%以下に調整してドープ調製用溶媒として再利用した。乾燥風には溶媒ガスの他、可塑剤,UV吸収剤,その他の高沸点物が含まれるので、これを冷却除去する冷却器およびプレアドソーバーでこれらを除去して再生循環使用した。そして、最終的に屋外排出ガス中のVOC(揮発性有機化合物)が10ppm以下となるよう、吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶媒の内、凝縮法で回収する溶媒量は90質量%であり、残りのものの大部分は吸着回収により回収した。
【0215】
乾燥されたフィルム32を第1調湿室(図示しない)に搬送した。乾燥室115と第1調湿室との間の渡り部には、110℃の乾燥風を給気した。第1調湿室には、温度50℃、露点が20℃の空気を給気した。さらに、フィルム32のカールの発生を抑制するための第2調湿室(図示しない)にフィルム32を搬送した。第2調湿室では、フィルム32に直接90℃,湿度70%の空気をあてた。
【0216】
(1−10)ナーリング、巻取条件
調湿後のフィルム32は、冷却室で30℃以下に冷却した後に、第2耳切装置22により耳切りを行った。搬送中のフィルム32の帯電圧は、常時−3kV〜+3kVの範囲となるように強制除電装置(除電バー)を設置した。さらにフィルム32の両端にナーリング付与ローラ119でナーリングの付与を実施した。ナーリングはフィルム32の片面側からエンボス加工を行うことで付与し、ナーリングを付与する幅は10mmであり、凹凸の高さがフィルム32の平均厚みよりも平均12μm高くなるようにナーリング付与ローラ119による押し圧を設定した。
【0217】
そして、フィルム32を巻取室120に搬送した。巻取室120は、内部温度28℃,湿度70%に保持されている。さらに、巻取室120の内部にはフィルム32の帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVになるようにイオン風除電装置(図示なし)も設置した。このようにして得られたフィルム32の製品幅は、1475mmである。巻取室120の巻き取りローラの径は169mmである。巻き始めと巻き終わりとの各テンションが所定の値となるように制御した。巻き取ったフィルム32の全長は3940mであった。巻き取りの際の巻きズレの変動幅(オシレート幅と称することもある。)を±5mmとし、その巻き軸に対する巻きズレ周期を400mとした。また、巻取軸に対するプレスローラを押し圧については所定の値となるように設定された。巻き取り時のフィルム32の温度は25℃、含水量は1.4質量%、残留溶媒量は0.3質量%であった。全工程を通しても平均乾燥速度は20質量%(乾量基準溶媒)/minであった。また巻き緩み、シワもなく、10Gでの衝撃テストにおいても巻きずれが生じなかった。また、フィルムロールの外観も良好であった。
【0218】
フィルムロールを25℃、相対湿度55%(以降、55%RHと記す)の貯蔵ラックに1ヶ月保管して、さらに上記と同様に検査した結果、いずれも変化は認められなかった。さらにフィルムロール内においてもフィルムの接着は認められなかった。また、フィルム32を製膜した後に、流延バンド83上にはドープ66から形成された流延膜の剥げ残りは全く見られなかった。
【0219】
(1−11)評価と結果
実験1により得られたフィルムについて、擦りキズ、異物数、厚み均一性を評価した。これらの評価についての結果を表1に示す。表1において、項目1は用いたマット剤としてのSiO2 粒子の粒子径(単位;nm)であって、(1)は一次粒子径、(2)は二次粒子径である。項目2はフィルムの表面粗さ(単位;nm)、項目3は厚みのばらつきである。項目4にはろ過装置のフィルタの孔径(単位;μm)、項目5はサクションローラ前後における(1)温度差と(2)テンション差、項目6はフィルム及びサクションローラ表面の擦り傷評価、項目7はフィルムにおける異物数、項目8は得られたフィルムを液晶画像表示装置の偏光板保護フィルムとして使用した場合の輝点欠陥評価である。
【0220】
項目2については、原子間距離顕微鏡にて測定した値である。項目3においては◎が全幅域において1μm以内のばらつきであることを示し、×が全幅域において3μm以上のばらつきがあることを示す。項目6においては、◎が30日の連続製造でもフィルム及びサクションローラに擦り傷が発生しなかったことを示し、○は擦り傷が若干認められたものの実用的には満足である範囲を示し、×は3日の連続製造でキズが発生したことを示す。項目7においては、◎が10μm以上の粒径の粒子がフィルム1m2 中に確認できなかったことを示し、○が1個であることを示し、×が10μm以上の粒径の粒子がフィルム1m2 中に5個以上であることを示す。項目8においては、20インチ画面で輝点数がゼロの場合を◎、1個の場合を○、2個の場合を△、3個以上の場合を×とする。
【0221】
[実験2]
ドープ製造設備40における第2ろ過装置59におけるフィルタを、孔径40μmのものに代えた以外は、実験1と同じ条件で実施した。
【0222】
[実験3]
剥ぎ取りドローを101%とした以外は実験2と同じ条件で実施した。
【0223】
[実験4]
マット剤の平均一次粒子径を50nmとした以外は実験3と同じ条件とした。
【0224】
[比較実験1]
マット剤の分散時間を実験1よりも短くし、その他の条件は実験2と同じとした。
【0225】
[比較実験2]
第2ろ過装置59のフィルタを孔径が80μmのものにした以外は比較実験1と同じ条件とした。
【0226】
[比較実験3]
サクションドラム前後の温度差を50℃とした以外は、実験2と同じ条件とした。
【0227】
[比較実験4]
サクションドラム前後のテンション差を50%とする以外は、実験2と同じ条件とした。
【0228】
【表1】

【0229】
以上の実験1〜4及び比較実験1〜4により、マット剤としてのSiO2 の二次粒子径が大きすぎると擦り傷、異物数、輝点欠陥が多くなることがわかる。また二次粒子径が小さすぎるとキシミ防止効果が得られない。また、サクションローラ前後の温度差やテンション差が擦り傷や輝点欠陥に影響を与えることがわかる。そしてこの結果により、フィルムの擦り傷は、液晶表示画面における輝点欠陥の原因となることが明確となった。
【図面の簡単な説明】
【0230】
【図1】本発明のセルロースアシレートフィルムに含有される微粒子の経時変化を示す説明図である。(a)は一次粒子の説明図であり、(b)は二次粒子の説明図である。
【図2】フィルムの任意方向に沿って測定された厚みデータの説明図である。
【図3】セルロースアシレートフィルムの製造フローである。
【図4】ドープ製造設備の概略図である。
【図5】溶液製膜設備の概略図である。
【図6】サクションローラによる搬送状態を示す側面図である。
【図7】従来のフィルムに発生する擦り傷の説明図である。
【符号の説明】
【0231】
11 SiO2 微粒子
12 セルロースアシレート溶液
15 セルロースアシレート
16 有機溶剤
17 分散媒
21 第1分散液
22 第1ろ過工程
24 インライン混合工程
25 第2ろ過工程
32 セルロースアシレートフィルム
40,43 第1,第2タンク
55 インラインミキサ
58,59 第1,第2ろ過装置
66 ドープ
70 溶液製膜設備
83 流延バンド
110 テンタ
131 温度制御手段
136 押圧制御手段
137 温度センサ
R3 サクションローラ
TD 厚み変動幅


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤とセルロースアシレートとを含む溶液に平均一次粒子径D1が1〜100nmの微粒子を混合した後、連続走行する支持体上に前記溶液を流延して流延膜を形成し、この流延膜を前記支持体から剥がして乾燥することにより製造され、
前記微粒子が前記溶液中及び前記流延膜中で凝集することにより形成されて5以上のモース硬度を示す凝集粒子を含み、
この凝集粒子の平均粒子径D2が、3×D1<D2<300×D1、かつ、2×Ra<D2<TD(ただし、TDは前記フィルムの厚みの変動幅、Raは前記フィルムの表面算術平均粗さ)を満たすことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項2】
前記微粒子が、マット剤としてのSiO2 であることを特徴とする請求項1記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項3】
平均一次粒子径が1〜100nmである微粒子を分散媒に分散して第1分散液とし、有機溶剤とセルロースアシレートとを含む溶液に前記第1分散液をインライン混合して第2の分散液とした後、連続走行する支持体上に前記第2分散液を流延して前記支持体からフィルムとして剥がし、このフィルムを乾燥させるセルロースアシレートフィルムの製造方法において、
前記第1分散液をろ過する第1ろ過工程と、前記第2分散液をろ過する第2ろ過工程との少なくともいずれか一の工程を有するとともに、
前記第1ろ過工程は、平均孔径が1μm以上40μm以下のろ過手段により前記第1分散液をろ過する工程であり、
前記第2工程は、平均孔径が1μm以上10μm以下のろ過手段により前記第1分散液をろ過する工程であることを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記フィルムを、サクションローラにより吸引しながら搬送し、前記サクションローラの上流側と下流側との前記フィルムの温度差(単位;℃)または張力差(単位;N)が、前記上流側における値の30%以内となることを特徴とする請求項3記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記微粒子は、前記第2分散液中に0.001%以上5%以下の質量パーセント濃度で含まれることを特徴とする請求項3または4いずれかひとつ記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記支持体から剥離された直後の前記フィルムを、長手方向における延伸倍率が101〜120%以下となるように延伸する第1延伸工程と、
幅方向における延伸倍率が101〜135%となるように前記第1延伸工程の後の前記フィルムを延伸しながら乾燥する第2延伸工程とを有することを特徴とする請求項3ないし5いずれかひとつ記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−274015(P2006−274015A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94693(P2005−94693)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】