説明

セルロースアシレート積層フィルム、セルロースアシレート積層フィルムの製造方法、偏光板および液晶表示装置

【課題】低ヘイズであり、位相差の波長分散特性が改善されたセルロースアシレート積層フィルムを提供する。
【解決手段】式(1)を満たすセルロースアシレートと非リン酸エステル系の化合物を含む低置換度層と、該低置換度層の少なくとも片方の面に式(2)を満たすセルロースアシレートを含む高置換度層とが積層しており、波長550nmにおける面内方向のレターデーションRe(550)が波長440nmにおける面内方向のレターデーションRe(440)と同等以上であるセルロースアシレート積層フィルム。
式(1) 2.0<Z1<2.7
(式(1)中、Z1は低置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
式(2) 2.7<Z2
(式(2)中、Z2は高置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレート積層フィルム、セルロースアシレート積層フィルムの製造方法、偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置のTV用途が進行し、画面サイズの大型化に伴い高画質化と低価格化が益々求められている。特にVAモードの液晶表示装置はコントラストが高く、比較的製造の歩留まりが高いことからTV用の液晶表示装置として最も一般的なものとなっている。
【0003】
しかしながら、VAモードの液晶表示装置を黒表示した場合には、液晶表示画面の法線方向においてはほぼ完全な黒色表示ができるものの、液晶表示画面の斜め方向から黒表示した画面を観察すると光漏れが発生して背景の黒表示ができないために視野角が狭くなるという問題があった。そのため、近年では高コントラストであり、さらに視野角特性が改善された液晶表示装置が求められている。
【0004】
視野角特性の問題を解決するために、例えば正の一軸性の屈折率異方性を有する第一の位相差板とフィルム面内の屈折率に対して膜厚方向の屈折率が十分小さい負の屈折率異方性を有する第2の位相差板とを併用して組み込むことにより、液晶表示装置の黒表示時の画面を斜め方向から観察した際の光漏れを低減する方法が提案されている(例えば特許文献1)。
しかしながら特許文献1に記載の方法はある特定の波長域(例えば550nm付近の緑色光)に対して光漏れを低減しているのみであり、それ以外の位相差板の波長分散特性と液晶セルの波長分散特性が不適合となる波長域(例えば450nm付近の青色光や650nm付近の赤色光)に対しては依然として光漏れが発生していた。そのため、特許文献1に記載の液晶表示装置の黒表示画面を斜めから観察すると、青色や赤色に着色してしまい、いわゆるカラーシフトの問題が発生することとなる。そのため、特許文献1に記載の方法では依然として視野角特性の問題の解決の観点からは、上記方法は満足のいくものではなかった。
【0005】
このような液晶表示装置の黒表示時の画面を斜め方向から観察した際のカラーシフトの問題を解決する方法として、位相差板の波長分散特性と液晶セルの波長分散特性とが適合するように、位相差板に用いるフィルムの波長分散特性を改善することが検討されている。このような位相差板の波長分散特性を改善する方法として、特定の範囲のアセチル化度のセルロースアセテートを含むフィルムを延伸することで、複屈折が長波長ほど大きいセルロースアセテートフィルムを得る方法が開示されている(特許文献2参照)。
しかしながら、特許文献2に記載の複屈折が長波長ほど大きいフィルムを用いることでカラーシフトの問題はある程度解決されたものの、該フィルムでは位相差の波長分散特性のみしか制御できておらず、同時に高ヘイズ化してしまうという問題が生じていた。高ヘイズの問題があるフィルムを液晶表示装置に組み込むと、表示される画像のコントラスト比が低くなってしまうため、依然として、高コントラスト化と視野角特性の改善とを両立するとの課題は解決されていなかった。
【0006】
一方、特許文献3および特許文献4には特定の積層構造を有し、低ヘイズ化されたセルロースエステル積層フィルムが開示されている。これらの文献では、フィルムのヘイズに加えて透湿性や寸法安定性などの特性を検討しているが、フィルムの位相差の波長分散特性については何ら検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3027805号公報
【特許文献2】特許3459779号公報
【特許文献3】特開2003−33998号公報
【特許文献4】特開平8−207210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、低ヘイズであり、位相差の波長分散特性が改善されたセルロースアシレート積層フィルムおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は該フィルムを用いた偏光板および液晶表示装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、アシル置換度がある特定の範囲である低置換度セルロースアシレートおよび特定の化合物を含む低置換度層と、その層よりも高いアシル置換度のセルロースアシレートを含む高置換度層とを有する積層フィルムを延伸することによって、低ヘイズであり、かつ位相差の波長分散特性が改善されたセルロースアシレート積層フィルムが得られることを見出すに至った。すなわち、上記課題は、以下の手段によって解決される。
【0010】
[1] 下記式(1)を満たすセルロースアシレートと非リン酸エステル系の化合物を含む低置換度層と、該低置換度層の少なくとも片方の面に下記式(2)を満たすセルロースアシレートを含む高置換度層とが積層しており、波長550nmにおける面内方向のレターデーションRe(550)が波長440nmにおける面内方向のレターデーションRe(440)と同等以上であることを特徴とするセルロースアシレート積層フィルム。
式(1) 2.0<Z1<2.7
(式(1)中、Z1は低置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
式(2) 2.7<Z2
(式(2)中、Z2は高置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
[2] 波長550nmにおける面内方向のレターデーションRe(550)が波長440nmにおける面内方向のレターデーションRe(440)よりも大きいことを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
[3] 前記高置換度層が非リン酸エステル系の化合物を添加剤として含み、かつ、該高置換度層に含まれるセルロースアシレートに対する該添加剤の割合(質量部)が前記低置換度層に含まれるセルロースアシレートに対する該添加剤の割合(質量部)よりも少ないことを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
[4] 前記非リン酸エステル系の化合物が、非リン酸エステル系のエステル系化合物であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
[5] 前記非リン酸エステル系の化合物が、芳香族環を含有するポリエステル化合物であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
[6] 測定波長590nmにおいて、面内方向のレターデーションReが25nm≦|Re|≦100nmであり、かつ、膜厚方向のレターデーションRthが50nm≦|Rth|≦300nmであることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
[7] 波長550nmにおけるフィルム膜厚方向のレターデーションRth(550)が、波長440nmにおける膜厚方向のレターデーションRth(440)と同等以上であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
[8] 波長550nmにおける膜厚方向のレターデーションRth(550)が波長440nmにおける膜厚方向のレターデーションRth(440)よりも大きいことを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
[9] 内部ヘイズが0.2%以下であることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
[10] 前記低置換度層に少なくとも1種のレターデーション発現剤を含有することを特徴とする[1]〜[9]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
[11] 前記レターデーション発現剤中に含まれる円盤状化合物が、前記セルロースアシレート100質量部に対して3質量部未満であることを特徴とする[1]〜[10]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
[12] 前記低置換度層に用いるセルロースアシレートが下記式(3)および(4)を満たすことを特徴とする[1]〜[11]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
式(3) 1.0<X1<2.7
式(4) 0≦Y1<1.5
式(4’) X1+Y1=Z1
(式(3)、(4)および(4’)中、X1は低置換度層のセルロースアシレートのアセチル基の置換度を表し、Y1は低置換度層のセルロースアシレートの炭素数3以上のアシル基の置換度の合計を表し、Z1は低置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
[13] 前記高置換度層に用いるセルロースアシレートが下記式(5)および(6)を満たすことを特徴とする[1]〜[12]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
式(5) 1.2<X2<3.0
式(6) 0≦Y2<1.5
式(6’) X2+Y2=Z2
(式(5)、(6)および(6’)中、X2は高置換度層のセルロースアシレートのアセチル基の置換度を表し、Y2は高置換度層のセルロースアシレートの炭素数3以上のアシル基の置換度の合計を表し、Z2は高置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
[14] 前記低置換度層の両方の面に、前記高置換度層(但し、それぞれの高置換度層の組成はそれぞれ独立であって同一であってもよい)を有することを特徴とする[1]〜[13]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
[15] 前記セルロースアシレートのアシル基の炭素原子数が2〜4であることを特徴とする[1]〜[14]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
[16] 前記セルロースアシレートがセルロースアセテートであることを特徴とする[1]〜[15]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
[17] 前記低置換度層の平均膜厚が30〜100μmであり、前記高置換度層の少なくとも一方の平均膜厚が該低置換度層平均膜厚の0.2%以上25%未満であることを特徴とする[1]〜[16]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
[18] 前記高置換度層の少なくとも一層がマット剤を含有することを特徴とする[1]〜[17]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
[19] 下記式(1)を満たすセルロースアシレートと非リン酸エステル系の化合物を含む低置換度層用のセルロースアシレート溶液と、下記式(2)を満たすセルロースアシレートを含む高置換度層用のセルロースアシレート溶液とを逐次流延または同時共流延してセルロースアシレート積層フィルムを製膜する工程と、該セルロースアシレート積層フィルムをフィルム全体の質量に対して残留溶媒を5質量%以上含んだ状態で、Tg−30℃以上の温度で延伸する工程と、を含むことを特徴とするセルロースアシレート積層フィルムの製造方法(但し、Tgはセルロースアシレート積層フィルムのガラス転移点温度を表す)。
式(1) 2.0<Z1<2.7
(式(1)中、Z1は低置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
式(2) 2.7<Z2
(式(2)中、Z2は高置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
[20] 前記非リン酸エステル系の化合物が、非リン酸エステル系のエステル系化合物であることを特徴とする[19]に記載のセルロースアシレート積層フィルムの製造方法。
[21] 前記低置換度層用のセルロースアシレート溶液と、前記高置換度層用のセルロースアシレート溶液とを同時共流延することを特徴とする[19]または[20]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[22] [19]〜[21]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルムの製造方法で製造されたセルロースアシレート積層フィルムを乾燥する工程と、乾燥後のセルロースアシレート積層フィルムをTg−10℃以上の温度で延伸する工程と、を含むことを特徴とするセルロースアシレート積層フィルムの製造方法(但し、Tgはセルロースアシレート積層フィルムのガラス転移点温度を表す)。
[23] 前記延伸工程において、製膜時の搬送方向に対して直交する方向に延伸することを特徴とする[19]〜[22]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルムの製造方法。
[24] 前記低置換度層用のセルロースアシレート溶液の25℃における粘度が、前記高置換度層用のセルロースアシレート溶液の25℃における粘度より10%以上高いことを特徴とする[19]〜[23]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルムの製造方法。
[25] [19]〜[24]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルムの製造方法で製造されたことを特徴とするセルロースアシレート積層フィルム。
[26] [1]〜[18]および[25]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルムを少なくとも1つ有することを特徴とする偏光板。
[27] [1]〜[18]および[25]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルムを少なくとも1つ有することを特徴とする液晶表示装置。
[28] 液晶セルと該液晶セルの両側に配置された一対の偏光板を有する液晶表示装置であって、前記偏光板の少なくとも一方が[26]に記載の偏光板であることを特徴とするIPS、OCBまたはVAモードの液晶表示装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低ヘイズであり、位相差の波長分散特性が改善されたセルロースアシレート積層フィルムを提供することができる。また、本発明によれば、該フィルムを簡便で安定に製造でき、製造コストも低い。さらに本発明によれば、該フィルムや該フィルムを用いた偏光板を液晶表示装置に組み込むことで、高いコントラスト比を有し、視野角特性が改善された液晶表示装置、特にVAモードの液晶表示装置を提供することができる。本発明の液晶表示装置は、黒表示時において、特定の波長の光漏れのみならず広範囲の波長の光漏れを改善できるため、斜めから液晶表示装置を観察した際のカラーシフトの問題までもが解決されており視野角特性は従来に比べて顕著に改善される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の液晶表示装置の一例の概略断面図である。
【図2】共流延用ダイを用いて同時共流延により3層構造の積層セルロースアシレートフィルムを流涎するときの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明のセルロースアシレート積層フィルムやその製造方法、それに用いる添加剤などについて詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本明細書中において、特に断りなくReとRthを用いている場合、これらReとRthは測定波長590nmにおける値をそれぞれ表す。
【0014】
[セルロースアシレート積層フィルム]
本発明のセルロースアシレート積層フィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は、下記式(1)を満たすセルロースアシレートと非リン酸エステル系の化合物を含む低置換度層と、該低置換度層の少なくとも片方の面に下記式(2)を満たすセルロースアシレートを含む高置換度層とが積層しており、波長550nmにおける面内方向のレターデーションRe(550)が波長440nmにおける面内方向のレターデーションRe(440)よりも大きいことを特徴とする。
式(1) 2.0<Z1<2.7
(式(1)中、Z1は低置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
式(2) 2.7<Z2
(式(2)中、Z2は高置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
このような構成である本発明のセルロースアシレート積層フィルムは、位相差の波長分散特性が適合する液晶セルの特性に応じて調節されている。本発明のセルロースアシレート積層フィルムが示す波長分散特性を有することで液晶表示装置の黒表示時に斜めから表示画面を観察した際のカラーシフトの問題を解決できる点については、特開2008−262161号公報に記載がある。
以下、本発明のフィルムの好ましい態様を参照しつつ、本発明を具体的に説明する。
【0015】
(セルロースアシレート)
本発明に用いられるセルロースアシレートは、各層に含まれるセルロースアシレートのアシル基の総アシル置換度がそれぞれ前記式(1)および(2)を満たす。アシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができる。
【0016】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。本発明のセルロースアシレートは、炭素数2〜4のアシル基を置換基として有することが好ましい。2種類以上のアシル基を用いるときは、そのひとつがアセチル基であることが好ましく、炭素数2〜4のアシル基としてはプロピオニル基またはブチリル基が好ましい。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液が作製でき、特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低くろ過性のよい溶液の作成が可能となる。
【0017】
まず、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートについて詳細に記載する。セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をアシル基によりアシル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位に位置するセルロースの水酸基がアシル化している割合(各位における100%のアシル化は置換度1)の合計を意味する。
【0018】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、tert−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、tert−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはアセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基(アシル基が炭素原子数2〜4である場合)であり、より特に好ましくはアセチル基(セルロースアシレートが、セルロースアセテートである場合)である。
【0019】
セルロ−スのアシル化において、アシル化剤としては、酸無水物や酸クロライドを用いた場合、反応溶媒である有機溶媒としては、有機酸、例えば、酢酸、メチレンクロライド等が使用される。
【0020】
触媒としては、アシル化剤が酸無水物である場合には、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられ、アシル化剤が酸クロライド(例えば、CH3CH2COCl)である場合には、塩基性化合物が用いられる。
【0021】
最も一般的なセルロ−スの混合脂肪酸エステルの工業的合成方法は、セルロ−スをアセチル基および他のアシル基に対応する脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、吉草酸等)またはそれらの酸無水物を含む混合有機酸成分でアシル化する方法である。
【0022】
本発明のフィルムは、前記低置換度層に用いるアセロースアシレートが下記式(3)および(4)を満たすことが、レターデーションの波長分散性の観点から好ましい。
式(3) 1.0<X1<2.7
(式(3)中、X1は低置換度層のセルロースアシレートのアセチル基の置換度を表す。)
式(4) 0≦Y1<1.5
(式(4)中、Y1は低置換度層のセルロースアシレートの炭素数3以上のアシル基の置換度の合計を表す。)
なおX1とY1は前記式(1)の前記Z1との間にX1+Y1=Z1の関係が成り立つ。
【0023】
本発明のフィルムは、前記高置換度層に用いるセルロースアシレートが下記式(5)および(6)を満たすことが、レターデーションの波長分散性の観点から好ましい。
式(5) 1.2<X2<3.0
(式(5)中、X2は高置換度層のセルロースアシレートのアセチル基の置換度を表す。)
式(6) 0≦Y2<1.5
(式(6)中、Y2は高置換度層のセルロースアシレートの炭素数3以上のアシル基の置換度の合計を表す。)
なおX2とY2は前記式(2)の前記Z2との間にX2+Y2=Z2の関係が成り立つ。
【0024】
本発明に用いるセルロースアシレートは、例えば、特開平10−45804号公報に記載されている方法により合成できる。
セルロースアシレートには主に製造過程に起因する微量金属成分が含まれることが知られている。
これら微量金属成分は成膜時に流延支持体表面上の汚れの原因になって、膜品質や製造上の不具合を引き起こすため、低い事が好ましいことが知られている。
これらの微量金属成分は、被対象となるセルロースアシレートをサンプルとして、イオンクロマトグラフィー、原子吸光スペクトル、ICP、ICP−MS等の分析方法により定量できる。
【0025】
(非リン酸エステル系の化合物)
本発明のフィルムは、前記低置換度層中に、非リン酸エステル系の化合物を含む。このような非リン酸エステル系の化合物を含むことにより、本発明のフィルムは低ヘイズ化するという効果を奏する。また、本発明のフィルムが後述するNzファクター低いときであっても、レターデーションと低ヘイズ化の両立という効果を奏し易くなる。
また、本明細書中、「非リン酸エステル系の化合物」とは、「エステル結合を有する化合物であって、該エステル結合に寄与する酸がリン酸以外である化合物」のことを言う。すなわち、「非リン酸エステル系の化合物」は、リン酸を含まず、エステル系である、化合物を意味する。
また、前記非リン酸エステル系の化合物は、低分子化合物であっても、ポリマー(高分子化合物)であってもよい。以下、ポリマー(高分子化合物)である非リン酸エステル系の化合物のことを、非リン酸エステル系ポリマーとも言う。
【0026】
本発明のフィルムは、前記高置換度層が前記非リン酸エステル系の化合物を添加剤として含み、かつ、該高置換度層に含まれるセルロースアシレートに対する該添加剤の割合(質量部)が前記低置換度層に含まれるセルロースアシレートに対する該添加剤の割合(質量部)よりも少ないことが、低ヘイズ化の観点から好ましい。以下、本発明に用いられる非リン酸エステル系の化合物について説明する。
【0027】
前記非リン酸エステル系の化合物としては、セルロースアシレートフィルムの添加剤として公知の高分子量添加剤および低分子量添加剤を広く採用することができる。添加剤の含量は、セルロース系樹脂に対して、1〜35質量%であることが好ましく、4〜30質量%であることがより好ましく10〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明のフィルムに非リン酸エステル系の化合物として用いられる高分子量添加剤は、その化合物中に繰り返し単位を有するものであり、数平均分子量が700〜10000のものが好ましい。高分子量添加剤は、溶液流延法において、溶媒の揮発速度を速める機能や、残留溶媒量を低減する機能も有する。さらに、機械的性質向上、柔軟性付与、耐吸水性付与、水分透過率低減等のフィルム改質の観点で、有用な効果を示す。
【0029】
ここで、本発明における非リン酸エステル系の化合物である高分子量添加剤の数平均分子量は、より好ましくは数平均分子量700〜8000であり、さらに好ましくは数平均分子量700〜5000であり、特に好ましくは数平均分子量1000〜5000である。
以下、本発明に用いられる非リン酸エステル系の化合物である高分子量添加剤について、その具体例を挙げながら詳細に説明するが、本発明で用いられる非リン酸エステル系の化合物である高分子量添加剤がこれらのものに限定されるわけでないことは言うまでもない。
また、前記非リン酸エステル系の化合物は、非リン酸エステル系のエステル系化合物であることが好ましい。但し、前記「非リン酸エステル系のエステル系化合物」は、リン酸エステルを含まず、エステル系である、化合物を意味する。
【0030】
非リン酸エステル系の化合物である高分子系添加剤としては、ポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)、ポリエステル系成分と他の成分の共重合体などが挙げられ、脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)とアクリル系ポリマーの共重合体およびポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)とスチレン系ポリマーの共重合体が好ましく、少なくとも共重合成分の1つとして芳香族環を含有するポリエステル化合物であることがより好ましい。
【0031】
前記脂肪族ポリエステル系ポリマーとしては、炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸と、炭素数2〜12の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールから選ばれる少なくとも1種類以上のジオールとの反応によって得られるものであり、かつ反応物の両末端は反応物のままでもよいが、さらにモノカルボン酸類やモノアルコール類またはフェノール類を反応させて、所謂末端の封止を実施してもよい。この末端封止は、特にフリーなカルボン酸類を含有させないために実施されることが、保存性などの点で有効である。本発明のポリエステル系ポリマーに使用されるジカルボン酸は、炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸残基または炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸残基であることが好ましい。
【0032】
本発明で好ましく用いられる炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。
【0033】
これらの中でも好ましい脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である。特に好ましくは、脂肪族ジカルボン酸成分としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸である。
【0034】
前記高分子量添加剤に利用されるジオールは、例えば、炭素数2〜20の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールから選ばれるものである。
【0035】
炭素原子2〜20の脂肪族ジオールとしては、アルキルジオールおよび脂環式ジオール類を挙げることができ、例えば、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
【0036】
好ましい脂肪族ジオールとしては、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールであり、特に好ましくはエタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールである。
【0037】
炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールとしては、好ましくは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエチレンエーテルグリコールおよびポリプロピレンエーテルグリコールならびにこれらの組み合わせが挙げられる。その平均重合度は、特に限定されないが好ましくは2〜20であり、より好ましくは2〜10であり、さらには2〜5であり、特に好ましくは2〜4である。これらの例としては、典型的に有用な市販のポリエーテルグリコール類としては、カーボワックス(Carbowax)レジン、プルロニックス(Pluronics) レジンおよびニアックス(Niax)レジンが挙げられる。
【0038】
本発明においては、特に末端がアルキル基あるいは芳香族基で封止された高分子量添加剤であることが好ましい。これは、末端を疎水性官能基で保護することにより、高温高湿での経時劣化に対して有効であり、エステル基の加水分解を遅延させる役割を示すことが要因となっている。
本発明のポリエステル添加剤の両末端がカルボン酸やOH基とならないように、モノアルコール残基やモノカルボン酸残基で保護することが好ましい。
この場合、モノアルコールとしては炭素数1〜30の置換、無置換のモノアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert−ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコール、ベンジルアルコール、3−フェニルプロパノールなどの置換アルコールなどが挙げられる。
【0039】
好ましく使用され得る末端封止用アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、オレイルアルコール、ベンジルアルコールであり、特にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソブタノール、シクロヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、ベンジルアルコールである。
【0040】
また、モノカルボン酸残基で封止する場合は、モノカルボン酸残基として使用されるモノカルボン酸は、炭素数1〜30の置換、無置換のモノカルボン酸が好ましい。これらは、脂肪族モノカルボン酸でも芳香族環含有カルボン酸でもよい。好ましい脂肪族モノカルボン酸について記述すると、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸が挙げられ、芳香族環含有モノカルボン酸としては、例えば安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−tert−アミル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上を使用することができる。
【0041】
かかる前記高分子量添加剤の合成は、常法により上記脂肪族ジカルボン酸とジオールおよび/または末端封止用のモノカルボン酸またはモノアルコール、とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。これらのポリエステル系添加剤については、村井孝一編者「添加剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0042】
前記芳香族ポリエステル系ポリマーは、前記ポリエステルポリマーに芳香環を有するモノマーを共重合することによって得られる。芳香環を有するモノマーとしては、炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸、炭素数6〜20の芳香族ジオールから選ばれる少なくとも1種類以上のモノマーである。
炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸等がある。これらの中でも好ましい芳香族ジカルボン酸としてはフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、である。
【0043】
炭素数6〜20の芳香族ジオールとしては、特に限定されないがビスフェノールA、1,2−ヒドロキシベンゼン、1,3−ヒドロキシベンゼン、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノールが挙げられ、好ましくはビスフェノールA、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノールである。
【0044】
本発明では、芳香族ポリエステル系ポリマーは前述のポリエステルに芳香族ジカルボン酸または芳香族ジオールのそれぞれの少なくとも一種類を組み合わせて用いられるが、その組み合わせは特に限定されるものではなく、それぞれの成分を数種類組み合わせても問題ない。本発明においては、前述のように、特に末端がアルキル基あるいは芳香族基で封止された高分子量添加剤であることが好ましく、封止には前述の方法を使用することができる。
【0045】
<その他の添加剤>
本発明のフィルム中には、前記非リン酸エステル系の化合物以外の添加剤として、レターデーション調整剤(レターデーション発現剤およびレターデーション低減剤);フタル酸エステル、リン酸エステルなどの可塑剤;紫外線吸収剤;酸化防止剤;マット剤などの添加剤を加えることもできる。
【0046】
本発明ではレターデーション低減剤として、リン酸系であるエステル系の化合物や、セルロースアシレートフィルムの添加剤として公知の非リン酸エステル系の化合物以外の化合物を広く採用することができる。
【0047】
高分子系レターデーション低減剤としては、リン酸系であるポリエステル系ポリマー、スチレン系ポリマーおよびアクリル系ポリマーおよびこれら等の共重合体から選択され、アクリル系ポリマーおよびスチレン系ポリマーが好ましい。また、スチレン系ポリマー、アクリル系ポリマーといった、負の固有複屈折を有するポリマーを少なくとも一種含まれることが好ましい。
【0048】
非リン酸エステル系の化合物以外の化合物である低分子量レターデーション低減剤としては、以下を挙げることができる。これらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば融点20℃以下の紫外線吸収材料と融点20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に劣化防止剤の混合などである。さらにまた、赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報に記載されている。またその添加する時期はセルロースアシレート溶液(ドープ)作製工程において何れで添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。さらにまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。
【0049】
非リン酸エステル系の化合物以外の化合物である低分子量レターデーション低減剤としては、特に限定されないが、詳細は特開2007−272177号公報の[0066]〜[0085]に記載されている。
【0050】
特開2007−272177号公報の[0066]〜[0085]に一般式(1)として記載される化合物は、以下の方法にて作成することができる。
該公報一般式(1)の化合物は、スルホニルクロリド誘導体とアミン誘導体との縮合反応により得ることができる。
【0051】
特開2007−272177号公報一般式(2)に記載の化合物は、縮合剤(例えばジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)など)を用いた、カルボン酸類とアミン類との脱水縮合反応、またはカルボン酸クロリド誘導体とアミン誘導体との置換反応などにより得ることができる。
【0052】
前記レターデーション低減剤は、Rth低減剤であることが好適なNzファクターを実現する観点からより好ましい。前記レターデーション低減剤のうち、Rth低減剤としては、アクリル系ポリマーおよびスチレン系ポリマー、一般式(3)〜(7)の低分子化合物などを挙げることができ、その中でもアクリル系ポリマーおよびスチレン系ポリマーが好ましく、アクリル系ポリマーがより好ましい。
【0053】
レターデーション低減剤は、セルロース系樹脂に対し、0.01〜30質量%の割合で添加することが好ましく、0.1〜20質量%の割合で添加することがより好ましく、0.1〜10質量%の割合で添加することが特に好ましい。
上記添加量を30質量%以下とすることにより、セルロース系樹脂との相溶性を向上させることができ、白化を抑制させることができる。2種類以上のレターデーション低減剤を用いる場合、その合計量が、上記範囲内であることが好ましい。
【0054】
(可塑剤)
本発明に用いられる可塑剤としては、セルロースアシレートの可塑剤として知られる多くの化合物も有用に使用することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。
【0055】
(レターデーション発現剤)
本発明のフィルムは、レターデーション値を発現するために、前記低置換度層に少なくとも1種のレターデーション発現剤を含有することが好ましい。前記レターデーション発現剤としては、特に制限はないが、棒状化合物からなるものや、シクロアルカンまたは芳香族環といった環状構造を有する化合物からなるものや、前記非リン酸エステル系の化合物のうちレターデーション発現性を示す化合物を挙げることができる。環状構造を有する化合物としては、円盤状化合物が好ましい。上記棒状化合物あるいは円盤状化合物としては、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション発現剤として好ましく用いることができる。
棒状化合物からなるレターデーション発現剤の添加量は、セルロースアシレートを含むポリマー成分100質量部に対して0.1〜30質量部であることが好ましく、0.5〜20質量部であることがさらに好ましい。前記レターデーション発現剤中に含まれる円盤状化合物が、前記セルロースアシレート100質量部に対して3質量部未満であることが好ましく、2質量部未満であることがより好ましく、1質量部未満であることが特に好ましい。
円盤状化合物はRthレターデーション発現性において棒状化合物よりも優れているため、特に大きなRthレターデーションを必要とする場合には好ましく使用される。2種類以上のレターデーション発現剤を併用してもよい。
レターデーション発現剤は、250〜400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0056】
円盤状化合物について説明する。円盤状化合物としては少なくとも二つの芳香族環を有する化合物を用いることができる。
本明細書において、「芳香族環」は、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。
芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。
芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。
芳香族環としては、ベンゼン環、縮合ベンゼン環、ビフェニール類が好ましい。特に1,3,5−トリアジン環が好ましく用いられる。具体的には例えば特開2001−166144号公報に開示の化合物が好ましく用いられる。
【0057】
レターデーション発現剤が有する芳香族環の炭素数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがより好ましく、2〜8であることがさらに好ましく、2〜6であることが最も好ましい。
二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合および(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。結合関係は、(a)〜(c)のいずれでもよい。
【0058】
(a)の縮合環(二つ以上の芳香族環の縮合環)の例には、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ビフェニレン環、ナフタセン環、ピレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドリジン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、プリン環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環およびチアントレン環が含まれる。ナフタレン環、アズレン環、インドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環およびキノリン環が好ましい。
【0059】
(b)の単結合は、二つの芳香族環の炭素原子間の結合であることが好ましい。二以上の単結合で二つの芳香族環を結合して、二つの芳香族環の間に脂肪族環または非芳香族性複素環を形成してもよい。
【0060】
(c)の連結基も、二つの芳香族環の炭素原子と結合することが好ましい。連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−CO−、−O−、−NH−、−S−またはそれらの組み合わせであることが好ましい。組み合わせからなる連結基の例を以下に示す。なお、以下の連結基の例の左右の関係は、逆になってもよい。
c1:−CO−O−
c2:−CO−NH−
c3:−アルキレン−O−
c4:−NH−CO−NH−
c5:−NH−CO−O−
c6:−O−CO−O−
c7:−O−アルキレン−O−
c8:−CO−アルケニレン−
c9:−CO−アルケニレン−NH−
c10:−CO−アルケニレン−O−
c11:−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−
c12:−O−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−O−
c13:−O−CO−アルキレン−CO−O−
c14:−NH−CO−アルケニレン−
c15:−O−CO−アルケニレン−
【0061】
芳香族環および連結基は、置換基を有していてもよい。
置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基、ウレイド基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基および非芳香族性複素環基が含まれる。
【0062】
アルキル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基)を有していてもよい。アルキル基の(置換アルキル基を含む)例には、メチル基、エチル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、2−ヒドロキシエチル基、4−カルボキシブチル基、2−メトキシエチル基および2−ジエチルアミノエチル基の各基が含まれる。
アルケニル基の炭素原子数は、2〜8であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルケニル基の例には、ビニル基、アリル基および1−ヘキセニル基が含まれる。
アルキニル基の炭素原子数は、2〜8であることが好ましい。環状アルキニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキニル基の例には、エチニル基、1−ブチニル基および1−ヘキシニル基が含まれる。
【0063】
脂肪族アシル基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル基、プロパノイル基およびブタノイル基が含まれる。
脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシ基が含まれる。
アルコキシ基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。アルコキシ基は、さらに置換基(例えば、アルコキシ基)を有していてもよい。アルコキシ基の(置換アルコキシ基を含む)例には、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基およびメトキシエトキシ基が含まれる。
アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニル基およびエトキシカルボニル基が含まれる。
アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、メトキシカルボニルアミノ基およびエトキシカルボニルアミノ基が含まれる。
【0064】
アルキルチオ基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ基、エチルチオ基およびオクチルチオ基が含まれる。
アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例には、メタンスルホニル基およびエタンスルホニル基が含まれる。
脂肪族アミド基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アミド基の例には、アセトアミドが含まれる。
脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド基、ブタンスルホンアミド基およびn−オクタンスルホンアミド基が含まれる。
脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基および2−カルボキシエチルアミノ基が含まれる。
脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例には、メチルカルバモイル基およびジエチルカルバモイル基が含まれる。
脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例には、メチルスルファモイル基およびジエチルスルファモイル基が含まれる。
脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例には、メチルウレイド基が含まれる。
非芳香族性複素環基の例には、ピペリジノ基およびモルホリノ基が含まれる。
レターデーション発現剤の分子量は、300〜800であることが好ましい。
【0065】
円盤状化合物として下記一般式(I)で表されるトリアジン化合物を用いることが好ましい。
【0066】
【化1】

【0067】
上記一般式(I)中:
201は、各々独立に、オルト位、メタ位およびパラ位の少なくともいずれかに置換基を有する芳香族環または複素環を表す。
201は、各々独立に、単結合または−NR202−を表す。ここで、R202は、各々独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基または複素環基を表す。
【0068】
201が表す芳香族環は、フェニルまたはナフチルであることが好ましく、フェニルであることが特に好ましい。R201が表す芳香族環はいずれかの置換位置に少なくとも一つの置換基を有してもよい。前記置換基の例には、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アルキル置換スルファモイル基、アルケニル置換スルファモイル基、アリール置換スルファモイル基、スルオンアミド基、カルバモイル、アルキル置換カルバモイル基、アルケニル置換カルバモイル基、アリール置換カルバモイル基、アミド基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基およびアシル基が含まれる。
【0069】
201が表す複素環基は、芳香族性を有することが好ましい。芳香族性を有する複素環は、一般に不飽和複素環であり、好ましくは最多の二重結合を有する複素環である。複素環は5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましく、6員環であることが最も好ましい。複素環のヘテロ原子は、窒素原子、硫黄原子または酸素原子であることが好ましく、窒素原子であることが特に好ましい。芳香族性を有する複素環としては、ピリジン環(複素環基としては、2−ピリジルまたは4−ピリジル)が特に好ましい。複素環基は、置換基を有していてもよい。複素環基の置換基の例は、上記アリール部分の置換基の例と同様である。
201が単結合である場合の複素環基は、窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基であることが好ましい。窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましく、5員環であることが最も好ましい。複素環基は、複数の窒素原子を有していてもよい。また、複素環基は、窒素原子以外のヘテロ原子(例えば、O、S)を有していてもよい。以下に、窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基の例を示す。ここで、−C49nは、n−C49を示す。
【0070】
【化2】

【0071】
202が表すアルキル基は、環状アルキル基であっても鎖状アルキル基であってもよいが、鎖状アルキル基が好ましく、分岐を有する鎖状アルキル基よりも、直鎖状アルキル基がより好ましい。アルキル基の炭素原子数は、1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましく、1〜10であることがさらに好ましく、1〜8がさらにまた好ましく、1〜6であることが最も好ましい。アルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基)およびアシルオキシ基(例えば、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基)が含まれる。
【0072】
202が表すアルケニル基は、環状アルケニル基であっても鎖状アルケニル基であってもよいが、鎖状アルケニル基を表すのが好ましく、分岐を有する鎖状アルケニル基よりも、直鎖状アルケニル基を表すのがより好ましい。アルケニル基の炭素原子数は、2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましく、2〜10であることがさらに好ましく、2〜8であることがさらにまた好ましく、2〜6であることが最も好ましい。アルケニル基は置換基を有していてもよい。置換基の例には、前述のアルキル基の置換基と同様である。
202が表す芳香族環基および複素環基は、R201が表す芳香族環および複素環と同様であり、好ましい範囲も同様である。芳香族環基および複素環基はさらに置換基を有していてもよく、置換基の例にはR201の芳香族環および複素環の置換基と同様である。
【0073】
一般式(I)で表される化合物は、例えば特開2003−344655号公報に記載の方法等、公知の方法により合成することができる。レターデーション発現剤の詳細は公開技報2001−1745の49頁に記載されている。
【0074】
本発明のレターデーション発現剤としては、前記低分子化合物と同様に、高分子系添加剤を使用することもできる。ここで、本発明において前記非リン酸系エステル系ポリマーとして用いられているポリマーがレターデーション発現剤としての機能を兼ねていてもよい。前記非リン酸エステル系ポリマーでもある高分子系のレターデーション発現剤としては、前記芳香族ポリエステル系ポリマーおよび前記芳香族ポリエステル系ポリマーとその他の樹脂の共重合体が好ましい。
【0075】
本発明のレターデーション発現剤は、Re発現剤であることが効率的にReを発現させ、適切なNzファクターを実現する観点からより好ましい。前記レターデーション発現剤のうち、Re発現剤としては、例えば、円盤状化合物および棒状化合物などを挙げることができる。
【0076】
本発明では、必要に応じ、劣化防止剤、紫外線吸収剤、剥離促進剤、マット剤、滑剤、前述の可塑剤等を適宜用いることができる。
【0077】
(劣化防止剤)
本発明においてはセルロースアシレート溶液に公知の劣化(酸化)防止剤、例えば、2、6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、4、4'−チオビス−(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1、1'−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2、2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2、5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などのフェノール系あるいはヒドロキノン系酸化防止剤を添加することができる。さらに、トリス(4−メトキシ−3、5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2、4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2、6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、ビス(2、4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどのリン系酸化防止剤をすることが好ましい。劣化防止剤の添加量は、セルロース系樹脂100質量部に対して、0.05〜5.0質量部を添加する。
【0078】
(紫外線吸収剤)
本発明においてはセルロースアシレート溶液に、偏光板または液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。ヒンダードフェノール系化合物の例としては、2、6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N、N'−ヘキサメチレンビス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1、3、5−トリメチル−2、4、6−トリス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。ベンゾトリアゾール系化合物の例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2、2−メチレンビス(4−(1、1、3、3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、(2、4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3、5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1、3、5−トリアジン、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N、N'−ヘキサメチレンビス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1、3、5−トリメチル−2、4、6−トリス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2(2'−ヒドロキシ−3'、5'−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、(2(2'−ヒドロキシ−3'、5'−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2、6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕などが挙げられる。これらの紫外線防止剤の添加量は、光学フィルム全体中に質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0079】
(剥離促進剤)
本発明のフィルムには、剥離促進剤を含むことが、より剥離性と高める観点から好ましい。剥離促進剤は、例えば、0.001〜1重量%の割合で含めることができ、0.5重量%以下の添加であれば剥離剤のフィルムからの分離等が発生し難いため好ましく、0.005重量%以上であれば所望の剥離低減効果を得ることができるため好ましいため、0.005〜0.5重量%の割合で含めることが好ましく、0.01〜0.3重量%の割合で含めることがより好ましい。剥離促進剤としては、公知のものが採用でき、有機、無機の酸性化合物、界面活性剤、キレート剤等を使用することができる。中でも、多価カルボン酸およびそのエステルが効果的であり、特に、クエン酸のエチルエステル類が効果的に使用することができる。
本発明のフィルムには、後述するスキンB層に剥離促進剤を含むことが好ましい。
【0080】
(マット剤)
本発明のフィルムは、前記高置換度層の少なくとも一層がマット剤を含有することが、フィルムすべり性、および安定製造の観点から好ましい。前記マット剤は、無機化合物のマット剤であっても、有機化合物のマット剤であってもよい。
前記無機化合物のマット剤の好ましい具体例としては、ケイ素を含む無機化合物(例えば、二酸化ケイ素、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなど)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ストロングチウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化スズ・アンチモン、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン及びリン酸カルシウム等が好ましく、更に好ましくはケイ素を含む無機化合物や酸化ジルコニウムであるが、セルロースアシレートフィルムの濁度を低減できるので、二酸化ケイ素が特に好ましく用いられる。前記二酸化ケイ素の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R974、R812、200、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。前記酸化ジルコニウムの微粒子としては、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名で市販されているものが使用できる。
前記有機化合物のマット剤の好ましい具体例としては、例えば、シリコーン樹脂、弗素樹脂及びアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、中でも、シリコーン樹脂が好ましく用いられる。シリコーン樹脂の中でも、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、トスパール105、トスパール108、トスパール120、トスパール145、トスパール3120及びトスパール240(以上東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。
【0081】
これらのマット剤をセルロースアシレート溶液へ添加する場合は、特にその方法に限定されずいずれの方法でも所望のセルロースアシレート溶液を得ることができれば問題ない。例えば、セルロースアシレートと溶媒を混合する段階で添加物を含有させてもよいし、セルロースアシレートと溶媒で混合溶液を作製した後に、添加物を添加してもよい。更にはドープを流延する直前に添加混合してもよく、所謂直前添加方法でありその混合はスクリュー式混練をオンラインで設置して用いられる。具体的には、インラインミキサーのような静的混合機が好ましく、また、インラインミキサーとしては、例えば、スタチックミキサーSWJ(東レ静止型管内混合器Hi−Mixer)(東レエンジニアリング製)のようなものが好ましい。なお、インライン添加に関しては、濃度ムラ、粒子の凝集等をなくすために、特開2003-053752号公報には、セルロースアシレートフィルムの製造方法において、主原料ドープに異なる組成の添加液を混合する添加ノズル先端とインラインミキサーの始端部の距離Lが、主原料配管内径dの5倍以下とする事で、濃度ムラ、マット粒子等の凝集をなくす発明が記載されている。さらに好ましい態様として、主原料ドープと異なる組成の添加液供給ノズルの先端開口部とインラインミキサーの始端部との間の距離(L)が、供給ノズル先端開口部の内径(d)の10倍以下とし、インラインミキサーが、静的無攪拌型管内混合器または動的攪拌型管内混合器であることが記載されている。さらに具体的には、セルロースアシレートフィルム主原料ドープ/インライン添加液の流量比は、10/1〜500/1、好ましくは50/1〜200/1であることが開示されている。さらに、添加剤ブリードアウトが少なく、かつ層間の剥離現象もなく、しかも滑り性が良好で透明性に優れた位相差フィルムを目的とした発明の特開2003-014933号にも、添加剤を添加する方法として、溶解釜中に添加してもよいし、溶解釜〜共流延ダイまでの間で添加剤や添加剤を溶解または分散した溶液を、送液中のドープに添加してもよいが、後者の場合は混合性を高めるため、スタチックミキサー等の混合手段を設けることが好ましいことが記載されている。
【0082】
本発明のフィルムがスキンB層/コア層/スキンA層の構造を有するとき、本発明のフィルムは、前記スキンA層および前記スキンB層の少なくとも一方にマット剤を含有することが、フィルム面の摩擦係数低減による耐擦傷性、幅広幅フィルムを長尺で巻いたときに発生するキシミの防止、フィルム折れの防止の観点から好ましく、前記スキンA層および前記スキンB層の両方にマット剤を含有することが耐擦傷性、キシミを効果的に低減する観点から特に好ましい。
本発明のフィルムにおいて、前記マット剤は、多量に添加しなければフィルムのヘイズが大きくならず、実際にLCDに使用した場合、コントラストの低下、輝点の発生等の不都合が生じにくい。また、少なすぎなければ上記のキシミ、耐擦傷性を実現することができる。これらの観点から0.01〜5.0重量%の割合で含めることが好ましく、0.03〜3.0重量%の割合で含めることがより好ましく、0.05〜1.0重量%の割合で含めることが特に好ましい。
【0083】
(ヘイズ)
本発明のフィルムは、ヘイズが0.20%未満であることが好ましく、0.15%未満であることがより好ましく、0.10%未満であることが特に好ましい。ヘイズを0.2%未満とすることにより、液晶表示装置に組み込んだ際のコントラスト比を改善することができる。また、フィルムの透明性がより高くなり、光学フィルムとしてより用いやすくなるという利点もある。
【0084】
[本発明のフィルムの光学性能]
(Re、Rth)
本発明のフィルムは、波長550nmにおける面内方向のレターデーションRe(550)が波長440nmにおける面内方向のレターデーションRe(440)と同等以上であり、Re(440)よりも大きいことが好ましい。このような波長分散特性を有することで、本発明のフィルムを液晶表示装置に組み込んだときに、液晶表示画面を黒表示した時に斜めから観察した際のカラーシフトの問題を解決することができる。
【0085】
本発明のフィルムは、波長550nmにおけるフィルム膜厚方向のレターデーションRth(550)が、波長440nmにおける膜厚方向のレターデーションRth(440)と同等以上であることがよりカラーシフトの問題を解決し易くする観点から好ましく、Rth(440)よりも大きいことが、よりカラーシフトの問題を解決し易くする観点からより好ましい。
【0086】
また本発明のフィルムは2軸性の光学補償フィルムであることが好ましい。
ここで光学補償フィルムが2軸性であるとは光学補償フィルムのnx、nyおよびnz(nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。)がそれぞれ全て異なる場合であり、本発明の場合にはnx>ny>nzであることがさらに好ましい。
本発明のフィルムが2軸性の光学特性を示すということは液晶表示装置、特にVAモード液晶表示装置における斜め方向から観察した場合のカラーシフトの問題を低減する上で好ましい特性である。
【0087】
本発明のフィルムはまた、面内方向のレターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthの波長分散が、可視光域の光に対し、長波長ほど大きいことが好ましい。
ここで可視光域の光とは具体的には波長380〜780nmであり、長波長ほどRe及びRthの値が大きい特性を有することが好ましい。
このようなフィルムを本発明の液晶表示装置に用いることで液晶表示装置を斜め方向からみた場合における色味付きをより軽減することができる。
【0088】
本発明のフィルムは、位相差フィルムに用いる場合等には、ReおよびRthは液晶セルおよび光学フィルムの設計により、適宜選択されるが、測定波長590nmにおいて面内方向のレターデーションReが25nm≦|Re|≦100nmであり、かつ、膜厚方向のレターデーションRthが50nm≦|Rth|≦250nmであることが、位相差フィルムとして液晶表示装置用の光学補償に用いる観点から、好ましい。前記Reは30nm≦|Re|≦80nmであることがより好ましく、35nm≦|Re|≦70nmであることが特に好ましい。前記Rthは70nm≦|Rth|≦240nmであることがより好ましく、90nm≦|Rth|≦230nmであることが特に好ましい。
【0089】
本明細書におけるRe(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、590nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A)及び式(4)よりRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0090】
【数1】

【0091】
ここで、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表し、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(4)
なおこの際、パラメータとして平均屈折率nが必要になるが、これはアッベ屈折計((株)アタゴ社製の「アッベ屈折計2−T」)により測定した値を用いた。
【0092】
(NZファクター)
本発明のフィルムは、下記式(C)で表されるNZファクターがNzファクターは液晶セルおよび光学フィルム等の設計により、適宜選択されるが、一般的に、7以下であることが好ましく、5.5以下であることがより好ましく、4.5以下であることが特に好ましい。本発明のフィルムの好ましい態様では、低Nzファクターである場合においても、波長分散特性の改善と低へイズ化を両立することができる。
【数2】

【0093】
(セルロースアシレートフィルムの層構造)
本発明のフィルムは、前記式(1)を満たすセルロースアシレートと非リン酸エステル系の化合物を含む低置換度層と、該低置換度層の少なくとも片方の面に前記式(2)を満たすセルロースアシレートを含む高置換度層とが積層している。また、各層中におけるセルロースアシレートのアシル基置換度は均一であっても、複数のセルロースアシレートを一つの層に混在させてもよいが、各層中におけるセルロースアシレートのアシル基置換度は全て一定であることが光学特性の調整の観点から好ましい。
【0094】
また、本発明のフィルムは、溶液製膜で製造する際に支持体と接する層(以下、スキンB層とも言う)が前記高置換度層であり、その他の層が前記低置換度層であることが溶液製膜時の支持体からの剥離性をさらに改善する観点から好ましい。
【0095】
本発明のフィルムは、3層以上の積層構造を有していることが、寸法安定性や環境湿熱変化に伴うカール量低減の観点から好ましい。また、前記低置換度層の両面に前記高置換度層を有する場合、光学補償フィルムとして所望の光学特性を実現させる工程における自由度向上の観点から好ましい。さらに、本発明のフィルムは、3層以上の積層構造を有しており、少なくとも1つの内部層に含まれるセルロースアシレートが全て前記式(3)および(4)を満たすセルロースアシレートであり、両面の表面層に含まれるセルロースアシレートが全て前記式(5)および(6)を満たすセルロースアシレートであることがより好ましい。なお、本発明のフィルムが3層以上の積層構造を有している場合に限り、フィルム製膜時に支持体と接していない側の表面層のことをスキンA層とも言う。
【0096】
本発明のフィルムはスキンB層/コア層/スキンA層の3層構造であることが好ましい。本発明のフィルムが3層構造の場合、高置換度層/低置換度層/高置換度層という構成であっても低置換度層/高置換度層/低置換度層という構成であってもよいが、高置換度層/低置換度層/高置換度層の構成であることが、溶液製膜時の支持体からの剥離性を改善する観点および寸法安定性の観点から好ましい。
本発明のフィルムが3層構造であるとき、両面の表面層に含まれるセルロースアシレートは同じアシル置換度のセルロースアシレートを用いることが、製造コスト、寸法安定性および環境湿熱変化に伴うカール量低減の観点から好ましい。
【0097】
(膜厚)
本発明のフィルムは前記低置換度層の平均膜厚が30〜100μmであることが好ましく、30〜80μmであることがより好ましく、30〜70μmであることがさらに好ましい。30μm以上とすることにより、ウェブ状のフィルムを作製する際のハンドリング性が向上し好ましい。また、70μm以下とすることにより、湿度変化に対応しやすく、光学特性を維持しやすい。
【0098】
本発明のフィルムは、前記高置換度層の少なくとも一方の平均膜厚が前記低置換度層平均膜厚の0.2%以上25%未満であることが、0.2%以上であれば剥離性が十分となり、スジ状のムラ、フィルムの膜厚不均一あるいは光学特性不均一が抑制され、25%未満であればコア層の光学発現性を有効に利用することができ、積層フィルムが十分な光学特性を得ることができる観点から好ましい。前記高置換度層の少なくとも一方の平均膜厚が前記低置換度層平均膜厚の0.5〜15%であることがより好ましく、1.0〜10%であることが特に好ましい。また、前記スキンA層および前記スキンB層の平均膜厚がともに前記コア層平均膜厚の0.2%以上25%未満であることが、より好ましい。
【0099】
また、本発明のフィルムは、前記低置換度層の平均膜厚が30〜100μmであり、前記高置換度層の少なくとも一方の平均膜厚が該低置換度層平均膜厚の0.2%以上25%未満であることが、レターデーションの波長分散性の観点から好ましい。さらに、前記低置換度層の平均膜厚が30〜100μmであり、前記高置換度層の両方の平均膜厚が該低置換度層平均膜厚の0.2%以上25%未満であることがより好ましい。
【0100】
また、本発明のフィルムが3層以上の積層構造を有する場合、前記低置換度層(好ましくはコア層)の膜厚は30〜70μmであることが好ましく、30〜60μmであることがより好ましく、30〜50μmであることが特に好ましい。
本発明のフィルムが3層以上の積層構造を有する場合、前記高置換度層(好ましくはフィルム両面の表面層)の膜厚がともに0.5〜20μmであることがより好ましく、0.5〜10μmであることが特に好ましく、0.5〜3μmであることがより特に好ましい。
【0101】
本発明のフィルムは、3層の積層構造を有し、内部層(コア層)が前記低置換度層であり、表面層(スキンB層およびスキンA層)が前記高置換度層である積層構造を挙げることができる。前記スキンB層およびスキンA層の膜厚は、前記コア層よりも薄いことがさらに好ましい。前記表面層の膜厚の好ましい条件は、本発明のフィルムが3層以上の積層構造の場合と同様である。
【0102】
(フィルム幅)
本発明のフィルムは、フィルム幅が700〜3000mmであることが好ましく、1000〜2800mmであることがより好ましく、1500〜2500mmであることが特に好ましい。
また、本発明のフィルムは、フィルム幅が700〜3000mmであり、かつΔReが10nm以下であることが好ましい。
【0103】
[セルロースアシレート積層フィルムの製造方法]
本発明のセルロースアシレート積層フィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法とも言う)は、下記式(1)を満たすセルロースアシレートと非リン酸エステル系の化合物を含む低置換度層用のセルロースアシレート溶液と、下記式(2)を満たすセルロースアシレートを含む高置換度層用のセルロースアシレート溶液とを逐次流延または同時共流延してセルロースアシレート積層フィルムを製膜する工程と、該セルロースアシレート積層フィルムをフィルム全体の質量に対して残留溶媒を5質量%以上含んだ状態で、Tg−30℃以上の温度で延伸する工程とを含むことを特徴とする(但し、Tgはセルロースアシレート積層フィルムのガラス転移点温度を表す)。
式(1) 2.0<Z1<2.7
(式(1)中、Z1は低置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
式(2) 2.7<Z2
(式(2)中、Z2は高置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0104】
前記セルロースアシレート積層フィルムは、ソルベントキャスト法により製造されるのが好ましい。ソルベントキャスト法を利用したセルロースアシレートフィルムの製造例については、米国特許第2,336,310号、同2,367,603号、同2,492,078号、同2,492,977号、同2,492,978号、同2,607,704号、同2,739,069号及び同2,739,070号の各明細書、英国特許第640731号及び同736892号の各明細書、並びに特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号及び同62−115035号等の公報を参考にすることができる。また、前記セルロースアシレートフィルムは、延伸処理を施されていてもよい。延伸処理の方法及び条件については、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号等の各公報を参考にすることができる。
【0105】
[流延方法]
溶液の流延方法としては、調製されたドープを加圧ダイから金属支持体上に均一に押し出す方法、一旦金属支持体上に流延されたドープをブレードで膜厚を調節するドクターブレードによる方法、逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、加圧ダイによる方法が好ましい。加圧ダイにはコートハンガータイプやTダイタイプ等があるが、いずれも好ましく用いることができる。またここで挙げた方法以外にも、従来知られているセルローストリアセテート溶液を流延製膜する種々の方法で実施することができ、用いる溶媒の沸点等の違いを考慮して各条件を設定することにより、それぞれの公報に記載の内容と同様の効果が得られる。
【0106】
本発明のフィルムは、前記式(1)を満たすセルロースアシレートと非リン酸エステル系の化合物を含む低置換度層用のセルロースアシレート溶液(流延用ドープ)と、前記式(2)を満たすセルロースアシレートを含む高置換度層用のセルロースアシレート溶液を支持体上に形成する工程、および得られたフィルムを延伸する工程を含むプロセスで製造される。
【0107】
本発明の製造方法では、前記低置換度層用のセルロースアシレート溶液の25℃における粘度が、前記高置換度層用のセルロースアシレート溶液の25℃における粘度より10%以上高いことが、積層フィルム層の幅方向分布および積層フィルムの製造適性の観点から好ましい。
【0108】
〔共流延〕
本発明のフィルムの形成においては共流延法、逐次流延法、塗布法などの積層流延法を用いることが好ましく、特に同時共流延法を用いることが、安定製造および生産コスト低減の観点から特に好ましい。
共流延法および逐次流延法により製造する場合には、先ず、各層用のセルロースアセテート溶液(ドープ)を調製する。共流延法(重層同時流延)は、流延用支持体(バンドまたはドラム)の上に、各層(3層あるいはそれ以上でも良い)各々の流延用ドープを別のスリットなどから同時に押出す流延用ギーサからドープを押出して、各層同時に流延し、適当な時期に支持体から剥ぎ取って、乾燥しフィルムを成形する流延法である。図2に、共流延ギーサ3を用い、流延用支持体4の上に表層用ドープ1とコア層用ドープ2を3層同時に押出して流延する状態を断面図で示した。
【0109】
逐次流延法は、流延用支持体の上に先ず第1層用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して、流延し、乾燥あるいは乾燥することなく、その上に第2層用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して流延する要領で、必要なら第3層以上まで逐次ドープを流延・積層して、適当な時期に支持体から剥ぎ取って、乾燥しフィルムを成形する流延法である。塗布法は、一般的には、コア層のフィルムを溶液製膜法によりフィルムに成形し、表層に塗布する塗布液を調製し、適当な塗布機を用いて、片面ずつまたは両面同時にフィルムに塗布液を塗布・乾燥して積層構造のフィルムを成形する方法である。
【0110】
本発明のフィルムを製造するのに使用される、エンドレスに走行する金属支持体としては、表面がクロムメッキによって鏡面仕上げされたドラムや表面研磨によって鏡面仕上げされたステンレスベルト(バンドといってもよい)が用いられる。使用される加圧ダイは、金属支持体の上方に1基又は2基以上の設置でもよい。好ましくは1基又は2基である。2基以上設置する場合には、流延するドープ量をそれぞれのダイに種々な割合にわけてもよく、複数の精密定量ギアポンプからそれぞれの割合でダイにドープを送液してもよい。流延に用いられるセルロースアシレート溶液の温度は−10〜55℃が好ましく、より好ましくは25〜50℃である。その場合、工程のすべての溶液温度が同一でもよく、又は工程の各所で異なっていてもよい。異なる場合は、流延直前で所望の温度であればよい。
【0111】
[延伸処理]
本発明の製造方法では、製膜されたセルロースアシレート積層フィルムをフィルム全体の質量に対して残留溶媒を5質量%以上含んだ状態で、Tg−30℃以上の温度で延伸する工程を含む。前述の通り、本発明の光学補償フィルムは波長分散特性が改善されていることを特徴とするが、延伸処理によってこのような光学性能を付与することが可能となり、さらにセルロースアシレートフィルムに所望のレターデーションを付与することが可能である。セルロースアシレートフィルムの延伸方向はフィルム搬送方向と搬送方向に直交する方向(巾方向)のいずれでも好ましいが、フィルム搬送方向に直交する方向(幅方向)であることが、後に続く該フィルムを用いた偏光板加工プロセスの観点から特に好ましい。
【0112】
幅方向に延伸する方法は、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号などの各公報に記載されている。長手方向の延伸の場合、例えば、フィルムの搬送ローラーの速度を調節して、フィルムの剥ぎ取り速度よりもフィルムの巻き取り速度の方を速くするとフィルムは延伸される。幅方向の延伸の場合、フィルムの巾をテンターで保持しながら搬送して、テンターの巾を徐々に広げることによってもフィルムを延伸できる。フィルムの乾燥後に、延伸機を用いて延伸すること(好ましくはロング延伸機を用いる一軸延伸)もできる。
【0113】
本発明のフィルムの延伸倍率は、5%以上200%以下が好ましく、10%以上100%以下がさらに好ましく、20%以上50%以下が特に好ましい。
【0114】
セルロースアシレートフィルムを偏光子の保護膜として使用する場合には、偏光板を斜めから見たときの光漏れを抑制するため、偏光子の透過軸とセルロースアシレートフィルムの面内の遅相軸を平行に配置する必要がある。連続的に製造されるロールフィルム状の偏光子の透過軸は、一般的に、ロールフィルムの幅方向に平行であるので、前記ロールフィルム状の偏光子とロールフィルム状のセルロースアシレートフィルムからなる保護膜を連続的に貼り合せるためには、ロールフィルム状の保護膜の面内遅相軸は、フィルムの幅方向に平行であることが必要となる。従って幅方向により多く延伸することが好ましい。また延伸処理は、製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理してもよいが、本発明の製造方法では残留溶媒を含んだ状態で延伸を行うため、製膜工程の途中で延伸することが好ましい。
【0115】
[乾燥]
本発明の製造方法では、セルロースアシレート積層フィルムを乾燥する工程と、乾燥後のセルロースアシレート積層フィルムをTg−10℃以上の温度で延伸する工程とを含むことが、レターデーション発現性の観点から好ましい。
【0116】
セルロースアシレートフィルムの製造に係わる、金属支持体上におけるドープの乾燥は、一般的には、金属支持体(ドラム又はベルト)の表面側、つまり金属支持体上にあるウェブの表面から熱風を当てる方法、ドラム又はベルトの裏面から熱風を当てる方法、温度コントロールした液体をベルトやドラムのドープ流延面の反対側である裏面から接触させて、伝熱によりドラム又はベルトを加熱し表面温度をコントロールする裏面液体伝熱方法などがあるが、裏面液体伝熱方式が好ましい。流延される前の金属支持体の表面温度は、ドープに用いられている溶媒の沸点以下であれば何度でもよい。しかし乾燥を促進するためには、また金属支持体上での流動性を失わせるためには、使用される溶媒の内の最も沸点の低い溶媒の沸点より1〜10℃低い温度に設定することが好ましい。なお流延ドープを冷却して乾燥することなく剥ぎ取る場合はこの限りではない。
【0117】
フィルム厚さの調整は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節すればよい。
【0118】
以上のようにして得られた、セルロースアシレートフィルムの長さは、1ロール当たり100〜10000mで巻き取るのが好ましく、より好ましくは500〜7000mであり、さらに好ましくは1000〜6000mである。巻き取る際、少なくとも片端にナーリングを付与するのが好ましく、ナーリングの幅は3mm〜50mmが好ましく、より好ましくは5mm〜30mm、高さは0.5〜500μmが好ましく、より好ましくは1〜200μmである。これは片押しであっても両押しであってもよい。
【0119】
一般的に、大画面表示装置において、斜め方向のコントラストの低下及び色味付きが顕著となるので、本発明のフィルムは、特に大画面液晶表示装置に用いるのに適している。大画面用液晶表示装置用の光学補償フィルムとして用いる場合は、例えば、フィルム幅を1470mm以上として成形するのが好ましい。また、本発明の光学補償フィルムには、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様のフィルムのみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様のフィルムも含まれる。後者の態様の光学補償フィルムは、その状態で保管・搬送等され、実際に液晶表示装置に組み込む際や偏光子等と貼り合わされる際に、所望の大きさに切断されて用いられる。また、同様に長尺状に作製されたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光子等と、長尺状のまま貼り合わされた後に、実際に液晶表示装置に組み込む際に、所望の大きさに切断されて用いられる。ロール状に巻き上げられた光学補償フィルムの一態様としては、ロール長が2500m以上のロール状に巻き上げられた態様が挙げられる。
【0120】
[偏光板]
また、本発明は、本発明のフィルムを少なくとも一枚用いることを特徴とする偏光板にも関する。
本発明の偏光板は、偏光子と、該偏光子の片面に本発明のフィルムを有することが好ましい。本発明の光学補償フィルムと同様、本発明の偏光板の態様は、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様の偏光板のみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様(例えば、ロール長2500m以上や3900m以上の態様)の偏光板も含まれる。大画面液晶表示装置用とするためには、上記した通り、偏光板の幅は1470mm以上とすることが好ましい。
本発明の偏光板の具体的な構成については、特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば、特開2008−262161号公報の図6に記載の構成を採用することができる。
【0121】
[液晶表示装置]
本発明は本発明の偏光板を有する液晶表示装置にも関する。
本発明の液晶表示装置は液晶セルと該液晶セルの両側に配置された一対の偏光板を有する液晶表示装置であって、前記偏光板の少なくとも一方が本発明の偏光板であることを特徴とするIPS、OCBまたはVAモードの液晶表示装置であることが好ましい。
本発明の液晶表示装置の具体的な構成としては特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば図1に記載の構成とした例を採用することができる。また、特開2008−262161号公報の図2に記載の構成も好ましく採用することができる。
【実施例】
【0122】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0123】
(セルロースアシレートの調製)
特開平10−45804号公報、同08−231761号公報に記載の方法で、セルロースアシレートを合成し、その置換度を測定した。具体的には、触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、アシル置換基の原料となるカルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。この時、カルボン酸の種類、量を調整することでアシル基の種類、置換度を調整した。またアシル化後に40℃で熟成を行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
【0124】
(低置換度層用セルロースアシレート溶液「C01」〜「C20」の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液を調製した。各セルロースアシレート溶液の固形分濃度が下記表1に記載の値となるように溶剤(メチレンクロライドおよびメタノール)の量は適宜調整した。
・セルロースアセテート(置換度2.45) 100.0質量部
・化合物A 18.5質量部
・メチレンクロライド 365.5質量部
・メタノール 54.6質量部
下記の表に示したようにセルロースアシレートのアシル基の種類と置換度、添加剤量や添加剤種を変更した以外は「C01」と同様にしてその他の低置換度層用セルロースアシレート溶液を調製した。得られた低置換度層用セルロースアシレート溶液の固形分濃度および粘度を下記表1に示す。
【0125】
【表1】

【0126】
上記表1中、化合物Aはテレフタル酸/フタル酸/アジピン酸/コハク酸/エチレングリコール共重合体(共重合比[モル%]=22.5/2.5/10/15/50)を表す。化合物Bはテレフタル酸/フタル酸/アジピン酸/エチレングリコール共重合体(共重合比[モル%]=22.5/2.5/25/50)を表す。化合物Cはアジピン酸/コハク酸/エチレングリコール共重合体(共重合比[モル%]=25/25/50)を表す。化合物Dはテレフタル酸/コハク酸/プロピレンクリコール/エチレングリコール共重合体(共重合比[モル%]=27.5/22.5/25/25)を表す。化合物Eはテレフタル酸/フタル酸/コハク酸/プロピレンクリコール/エチレングリコール共重合体(共重合比[モル%]=22.5/2.5/25/37.5/12.5)を表す。なお、化合物A〜Eはいずれも非リン酸エステル系の化合物であり、かつ、レターデーション発現剤でもある。化合物A〜Dの末端はアセチル基で封止されており、化合物Eは末端が封止されていない。化合物Fは非リン酸エステル系の化合物である和光純薬(株)製の1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−β−D−グルコピラノースを使用した。化合物(I−2)は、特開2008−262161号公報に記載の化合物であるレターデーション発現剤の構造の例として挙げた下記の例示化合物(I−2)を表す。TPPはトリフェニルホスフェートを表す。BDPはビフェニルジフェニルホスフェートを表す。
表中のCAP2.45はアセチル置換度2.37、プロピオニル置換度0.8のセルロースアセテートプロピオネートを、CAP2.1はアセチル置換度1.6、プロピオニル置換度0.5のセルロースアセテートプロピオネートをそれぞれ表す。
【化3】

【0127】
(高置換度層用セルロースアシレート溶液「S01」〜「S13」の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して、各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液を調製した。各セルロースアシレート溶液の固形分濃度が下記表2に記載の値となるように溶剤(メチレンクロライドおよびメタノール)の量は適宜調整した。
・セルロースアセテート(置換度2.79) 100.0質量部
・トリフェニルホスフェート 6.0質量部
・ジフェニルビフェニルホスフェート 5.0質量部
・シリカ微粒子 R972(日本エアロジル製) 0.15質量部
・メチレンクロライド 395.0質量部
・メタノール 59.0質量部
下記の表2に示したようにセルロースアシレートの置換度、添加剤量や添加剤種を変更した以外は「S01」と同様にしてその他の高置換度層用セルロースアシレート溶液を調製した。得られた高置換度層用セルロースアシレート溶液の固形分濃度および粘度を下記表2に示す。
【0128】
【表2】

【0129】
[実施例および比較例]
(セルロースアシレート試料の作成)
前記低置換度層用セルロースアシレート溶液を下記表3に記載の膜厚のコア層になるように、前記高置換度層用セルロースアシレート溶液を下記表3に記載の膜厚のスキンA層およびスキンB層になるように、それぞれ流延した。得られたウェブ(フィルム)をバンドから剥離し、クリップに挟み、フィルム全体の質量に対する残留溶媒量が20〜5%の状態のときに下記表3に示した条件でテンターを用いて横延伸した。その後にフィルムからクリップを外して130℃で20分間乾燥させた後、更に下記表に示した条件でテンターを用いて再度横延伸した。
なお、残留溶媒量は下記の式にしたがって求めた。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを測定したウェブを120℃で2時間乾燥させた時の質量である。
また、得られたフィルムのTg(ガラス転移温度)を以下の方法から求めた。5mm×30mmのサンプルを、25℃60%RHで2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置DVA-225(アイティー計測制御(株)社製)を用いて、つかみ間距離20mm、周波数1Hzで測定することによって得られる貯蔵弾性率(E’)及び損失弾性率(E”)が入れ替わるtanδの温度を求め、これをTgとした。得られた結果を下記表3に記載した。
【0130】
【表3】

【0131】
[比較例3]
特開平8−207210号公報に記載の実施例1のフィルム試料を該文献に記載の方法で作成した。また、該文献に記載されてない条件については、実施例18と同様の条件として作成した。なお、比較例3のフィルムは、コア層に置換度2.5のセルロースアセテートを用い、表層に置換度2.9のセルロースアセテートを用いているものの、前記コア層に非リン酸エステル系の化合物を添加していない積層フィルムである。
【0132】
[比較例4]
特開2003−33998号公報に記載の試料No.21のフィルム試料を該文献に記載の方法で作成した。また、該文献に記載されてない条件については、実施例18と同様の条件として作成した。なお、比較例4のフィルムは、コア層に置換度2.65のセルロースアセテートを用いているものの、表層に本願式(2)の範囲を外れる置換度2.65のセルロースアセテートを用いており、前記コア層に非リン酸系エステル化合物を添加していない積層フィルムである。
【0133】
[比較例5]
特許第3459779号公報に記載の実施例2のフィルム試料を該文献に記載の方法で作成した。また、該文献に記載されてない条件については、実施例18と同様の条件として作成した。なお、比較例5のフィルムは、置換度2.534のセルロースアセテートと非リン酸エステル系の化合物であるフタル酸ジブチル(下記表中に化合物(a)と記載した)を用いているものの、高置換度層を有していない単層フィルムである。
【0134】
下記の表4に得られた各実施例および比較例のフィルム試料の具体的な構成について示す。下記表4中、比較例4で用いた化合物E−15は特開2003−33998号公報記載の化合物を表し、下記に構造を示す。また、比較例5で用いた化合物(a)はフタル酸ジブチルを表す。
【化4】

【0135】
【表4】

【0136】
実施例および比較例のフィルムの特性について、以下の測定および評価を実施した。
【0137】
<フィルムのヘイズ>
ヘイズの測定は、試料40mm×80mmをフィルム両面に流動パラフィンを塗布してガラス板で挟みこんだ後に、25℃相対湿度60%でヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)を用いてJIS K−6714に従って測定した。フィルムをはさみこまない流動パラフィンのみとガラス板の測定値をブランクとした。得られた結果を下記表に示した。
【0138】
<フィルムのレターデーション>
前述の方法により自動複屈折計KOBRA−WR(王子計測器(株)製)を用いて波長440nm、550nm、590nm、630nmにおいて3次元複屈折測定を行い、面内のレターデーションRe(λ)(但し、λは波長を表す)、および傾斜角を変えてReを測定することで得られる膜厚方向のレターデーションRth(λ)を求めた(但し、λは波長を表す)。各波長におけるReおよびRthの値を下記表5に示した。また、Re(630)−Re(440)の値とRth(630)−Rth(440)の値を下記表5に示した。
【0139】
【表5】

【0140】
上記表5より本発明の実施例のセルロースアシレート積層フィルムはいずれもヘイズが低く、Re(550)の値がRe(440)の値と同等以上であり、測定波長が長波長になるにつれてReおよびRthが減少することがなく、波長分散特性が良好な上、さらにレターデーション発現性までもが良好であった。また、実施例28以外の実施例のセルロースアシレート積層フィルムはいずれもヘイズが低く、Re(550)の値がRe(440)の値よりも大きく、測定波長が長波長になるにつれてReおよびRthが増化していて波長分散特性が良好な上、さらにレターデーション発現性までもが良好であった。一方、コア層のセルロースアシレートの置換度が高い比較例1のフィルムは、レターデーション発現性が低く、波長分散特性Re(630)−Re(440)の値も小さかった。またコア層にリン酸エステル系化合物であるTPPおよびBDPを含む比較例2は、レターデーション発現性が十分であってもヘイズが高かった。
比較例3については、レターデーション発現性もやや足りないばかりかヘイズも高いものであった。
比較例4については、ヘイズがある程度低いものの、レターデーション発現性が大幅に不足しており、ヘイズも高い結果であった。
比較例5については、ヘイズが高かった。
更に実施例13および実施例16の結果から本発明の構成ではスキン層のセルロースアシレートの置換度やスキン層そのものの膜厚の制御によってフィルムのレターデーション発現性を大きく変えることなく、レターデーションの波長分散特性を独立に制御し得ることがわかった。この特性から、本発明のセルロースアシレート積層フィルムは液晶表示装置の液晶セルとの波長分散特性を適合させる際に大いに役立つことがわかった。
【0141】
<偏光板試料の作製>
上記で作製した各実施例および比較例のセルロースアシレート積層フィルムの表面をアルカリ鹸化処理した。1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液に55℃で2分間浸漬し、室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.1規定の硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。続いて、厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で連続して5倍に延伸し、乾燥して厚さ20μmの偏光子を得た。ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、前記のアルカリ鹸化処理した各実施例および比較例のセルロースアシレート積層フィルムと、同様のアルカリ鹸化処理したフジタックTD80UL(富士写真フィルム社製)を用意し、これらの鹸化した面が偏光子側となるようにして偏光子を間に挟んで貼り合わせ、各実施例および比較例のセルロースアシレート積層フィルム、偏光子、TD80ULがこの順に貼り合わせてある偏光板をそれぞれ得た。この際、各セルロースアシレート積層フィルムのMD方向およびTD80ULの遅相軸が、偏光子の吸収軸と平行になるように貼り付けた。
【0142】
<液晶表示装置の作製>
VAモードの液晶TV(LCD−40MZW100、三菱(株)製)の表裏の偏光板および位相差板を剥がして、液晶セルとして用いた。図1の構成のように、外側保護フィルム(不図示)、偏光子11、下記表に記載の各実施例および比較例のセルロースアシレート積層フィルム14、液晶セル13(上記のVA液晶セル)、光学異方性フィルム(フジタックTD80UL)15、偏光子12および外側保護フィルム(不図示)をこの順に粘着剤を用いて貼り合わせ、各実施例および比較例の液晶表示装置を作製した。この際、上下の偏光板の吸収軸が直交するように貼り合わせた。なお実施例29、33はフロント側(視認側)には本発明のセルロースアシレート積層フィルムを、リア側のセルロースアシレートフィルムは富士フィルム製の“フジタックTD80UF”をそれぞれ使用し、実施例30はフロント側のセルロースアシレートフィルムには“フジタックTD80UF”を、リア側には本発明のセルロースアシレート積層フィルムをそれぞれ使用し、実施例31、32はフロント側には富士フィルム製“ゼロタックZRF80”を、リア側には本発明のセルロースアシレート積層フィルムをそれぞれ使用した。
【0143】
<液晶表示装置の評価>
(パネルの色味視野角評価)
上記作製したVAモードの液晶表示装置について、図1中の偏光子11側にバックライトを設置し、各々について測定機(EZ−Contrast XL88、ELDIM社製)を用いて、暗室内で黒表示時および白表示時の輝度および色度を測定し、黒表示におけるカラーシフトおよびコントラスト比(CR)を算出した。
【0144】
(コントラスト比)
測定結果を、以下の基準に従って、評価した。
◎:3000以上であり、実用上好ましい。
○:2000以上3000未満であり、実用上問題ない。
△:1500以上2000未満であるが、実用に耐えうる。
×:1500未満であり、実用上問題がある。
得られた評価を下記表6に記載した。
【0145】
(視野角(極角方向のカラーシフト))
黒表示時において、液晶セルの法線方向から一対の偏光板の透過軸の中心線方向(方位角45度)に視角を倒した場合の色度の変化Δxθ、Δyθを、極角0〜80度の間で測定した。ここで、Δxθ=xθ−xθ0、Δyθ=yθ−yθ0であり、(xθ0、yθ0)は黒表示における液晶セル法線方向で測定した色度であり、(xθ、yθ)は黒表示における液晶セル法線方向から一対の偏光板の透過軸の中心線方向に極角θ度まで視角を倒した方向で測定した色度である。
結果を以下の基準で評価した。得られた評価を下記表6に示した。
◎:Δxθ、Δyθがともに0.02以下である。
○:Δxθ、Δyθがともに0.03以下である。
△:Δxθ、Δyθがともに0.05以下である。
×:Δxθ、Δyθがともに0.1より大である。
【0146】
なお、本発明のフィルムは、極角方向のカラーシフトは、常に下記数式(II)および(III)を満たすことが好ましい。
数式(II): 0≦Δxθ≦0.1
数式(III): 0≦Δyθ≦0.1
【0147】
【表6】

【0148】
表6より本発明の実施例101〜133の液晶表示装置は、コントラスト比および極角方向のカラーシフト(色味の視野角依存性)がともに良好であり、表示特性が明らかに改善されていることが分かった。加えて本発明の実施例の中においてもレターデーション発現性を変えずに波長分散性を制御することが好ましいことが実施例7と実施例13を比べた結果、分かった。
一方、ヘイズが高く、波長分散性も悪く、レターデーション発現性も低い比較例1のフィルムを組み込んだ比較例101の液晶表示装置では、コントラスト、視野角ともに不十分であった。レターデーション発現性は好ましいが、ヘイズが高い比較例2および3のフィルムを組み込んだ比較例102および103の液晶表示装置では、視野角は改善されたが、コントラスト比が不十分であった。一方、比較例101および104、105液晶表示装置は、いずれも良好なコントラスト比と良好な視野角特性とを両立できていない。
以上より、本発明の構成のセルロースアシレート積層フィルムはレターデーション発現性と波長分散特性を独立に制御でき、波長分散特性を長波長になるほど発現量が減少してしまうことがないように波長分散特性を改善されており、ヘイズを低く保つことができていた。その結果、該本発明のフィルムを組み込んだ本発明の液晶表示装置はコントラスト比と視野角特性を両方高いレベルで満足していたことがわかった。
【0149】
[実施例34]
上記表1に示した低置換度層用のセルロースアシレート溶液C01の粘度が30Pa・s前後になるように希釈変更し、高置換度層用のセルロースアシレート溶液S02の粘度が60Pa・s以上となるように変更した以外は実施例2と同様の条件で流延したところ、最終的にはフィルム試料を得ることができたが、バンドからの剥離に非常に大きな荷重を要した。
【0150】
[実施例35]
上記表1に示した低置換度層用のセルロースアシレート溶液C01またはC12のみでスキン層なしで実施例1と同様の条件で流延したところ、バンドから剥離できず、フィルム試料を得ることができなかった。
【0151】
実施例1〜10および実施例21〜25の試料で使用していたセルロースアセテートAとは以下表7に示すように異なるセルロースアセテートを使用した以外は各々の実施例に記載したのと同様にして、表8に示した実施例1−2〜7−2、9−2〜10−2、および実施例21−2〜25−2を作製した。各々の試料に対して後述した評価を実施した。結果を表8にあわせて記載した。
【0152】
【表7】

【0153】
セルロースアシレートに硝酸を加えてマルチウエーブ灰化した後に水に溶解し、ICP-OES法により微量金属成分である、鉄、カルシウム、マグネシウムのそれぞれの含有量を測定した。
【0154】
(フィルムの微小欠陥の評価)
フィルム2000m巻きロールのうちトップ100m、ラスト100mについて目視で確認できるサイズ100μm以上の欠陥個数をカウントし、それらの数値から2000m巻きロール全長換算の微小欠陥の個数を概算した。結果を以下に従って評価した。
△:微小欠陥の個数が400個以上
○:微小欠陥の個数が200以上〜400個未満
◎:微小欠陥の個数が200個未満
【0155】
【表8】

【0156】
表8の結果から、本実施例で作製したセルロースアセテートB、C、D、Hを使用したフィルム試料はセルロースアセテートAを使用したフィルム試料に対してフィルムの微小欠陥の個数が少なく、パネルに組み込んだ際の欠陥の低下や得率向上にとって好ましいことが分かった。さらにセルロースアセテートDは支持体からの剥離性、連続製造後の支持体への微量汚れ物質の付着が最も少なかった。セルロースアセテートE、FおよびGを使用したフィルム試料はセルロースアセテートAを使用したフィルム試料に対して微小欠陥の個数およびフィルム性能は同等であった。
【0157】
実施例2および実施例23、実施例25で作製したフィルムに対して以下の表9に記載したように変更を加え、かつ再延伸温度を185℃、1.25倍に変更した以外は同様にして各々実施例2−3、実施例23−3、実施例25−3のフィルムを作製した。それぞれのフィルムの性能は表10に記載した。
【0158】
特開2008−176281の実施例3に記載のB、G、Rのカラーフィルター厚みがそれぞれ、dB=3.3 μm 、dG=3.5 μm 、dR=3.8 μm であり、液晶層厚みが下記式を満足するVAモード液晶パネルを使用した以外は実施例102、実施例123、実施例125と同様にして、表11に示すように各々のフィルム試料を液晶パネルに実装した。各々の液晶表示装置のCRおよび視野角を実施例102、123、125同様に評価して結果をあわせて記載した。
(式)
dB < dG < dR
【0159】
【表9】

【0160】
【表10】

【0161】
【表11】

【0162】
表11に示した結果より、本発明の実施例102−3、123−3、125−3はCR、視野角ともに優れること、実施例102−4、123−4、125−4から本発明のフィルム試料は上記のカラーフィルター厚み(セル厚み)を有するマルチギャップ型の液晶パネルに対して使用した方が表示特性に優れることが明らかに分かった。
【符号の説明】
【0163】
11 偏光子
12 偏光子
13 液晶セル
14 各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルム
15 光学異方性フィルム(フジタックTD80UL)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)を満たすセルロースアシレートと非リン酸エステル系の化合物を含む低置換度層と、該低置換度層の少なくとも片方の面に下記式(2)を満たすセルロースアシレートを含む高置換度層とが積層しており、波長550nmにおける面内方向のレターデーションRe(550)が波長440nmにおける面内方向のレターデーションRe(440)と同等以上であることを特徴とするセルロースアシレート積層フィルム。
式(1) 2.0<Z1<2.7
(式(1)中、Z1は低置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
式(2) 2.7<Z2
(式(2)中、Z2は高置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
【請求項2】
波長550nmにおける面内方向のレターデーションRe(550)が波長440nmにおける面内方向のレターデーションRe(440)よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
【請求項3】
前記高置換度層が非リン酸エステル系の化合物を添加剤として含み、かつ、該高置換度層に含まれるセルロースアシレートに対する該添加剤の割合(質量部)が前記低置換度層に含まれるセルロースアシレートに対する該添加剤の割合(質量部)よりも少ないことを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
【請求項4】
前記非リン酸エステル系の化合物が、非リン酸エステル系のエステル系化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
【請求項5】
前記非リン酸エステル系の化合物が、芳香族環を含有するポリエステル化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
【請求項6】
測定波長590nmにおいて、面内方向のレターデーションReが25nm≦|Re|≦100nmであり、かつ、膜厚方向のレターデーションRthが50nm≦|Rth|≦300nmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
【請求項7】
波長550nmにおけるフィルム膜厚方向のレターデーションRth(550)が、波長440nmにおける膜厚方向のレターデーションRth(440)と同等以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
【請求項8】
波長550nmにおける膜厚方向のレターデーションRth(550)が波長440nmにおける膜厚方向のレターデーションRth(440)よりも大きいことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
【請求項9】
内部ヘイズが0.2%以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
【請求項10】
前記低置換度層に少なくとも1種のレターデーション発現剤を含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
【請求項11】
前記レターデーション発現剤中に含まれる円盤状化合物が、前記セルロースアシレート100質量部に対して3質量部未満であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
【請求項12】
前記低置換度層に用いるセルロースアシレートが下記式(3)および(4)を満たすことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
式(3) 1.0<X1<2.7
式(4) 0≦Y1<1.5
式(4’) X1+Y1=Z1
(式(3)、(4)および(4’)中、X1は低置換度層のセルロースアシレートのアセチル基の置換度を表し、Y1は低置換度層のセルロースアシレートの炭素数3以上のアシル基の置換度の合計を表し、Z1は低置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
【請求項13】
前記高置換度層に用いるセルロースアシレートが下記式(5)および(6)を満たすことを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
式(5) 1.2<X2<3.0
式(6) 0≦Y2<1.5
式(6’) X2+Y2=Z2
(式(5)、(6)および(6’)中、X2は高置換度層のセルロースアシレートのアセチル基の置換度を表し、Y2は高置換度層のセルロースアシレートの炭素数3以上のアシル基の置換度の合計を表し、Z2は高置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
【請求項14】
前記低置換度層の両方の面に、前記高置換度層(但し、それぞれの高置換度層の組成はそれぞれ独立であって同一であってもよい)を有することを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
【請求項15】
前記セルロースアシレートのアシル基の炭素原子数が2〜4であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
【請求項16】
前記セルロースアシレートがセルロースアセテートであることを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
【請求項17】
前記低置換度層の平均膜厚が30〜100μmであり、前記高置換度層の少なくとも一方の平均膜厚が該低置換度層平均膜厚の0.2%以上25%未満であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
【請求項18】
前記高置換度層の少なくとも一層がマット剤を含有することを特徴とする請求項1〜17のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルム。
【請求項19】
下記式(1)を満たすセルロースアシレートと非リン酸エステル系の化合物を含む低置換度層用のセルロースアシレート溶液と、下記式(2)を満たすセルロースアシレートを含む高置換度層用のセルロースアシレート溶液とを逐次流延または同時共流延してセルロースアシレート積層フィルムを製膜する工程と、
該セルロースアシレート積層フィルムをフィルム全体の質量に対して残留溶媒を5質量%以上含んだ状態で、Tg−30℃以上の温度で延伸する工程と、
を含むことを特徴とするセルロースアシレート積層フィルムの製造方法(但し、Tgはセルロースアシレート積層フィルムのガラス転移点温度を表す)。
式(1) 2.0<Z1<2.7
(式(1)中、Z1は低置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
式(2) 2.7<Z2
(式(2)中、Z2は高置換度層のセルロースアシレートの総アシル置換度を表す。)
【請求項20】
前記非リン酸エステル系の化合物が、非リン酸エステル系のエステル系化合物であることを特徴とする請求項19に記載のセルロースアシレート積層フィルムの製造方法。
【請求項21】
前記低置換度層用のセルロースアシレート溶液と、前記高置換度層用のセルロースアシレート溶液とを同時共流延することを特徴とする請求項19または20に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項22】
請求項19〜21のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルムの製造方法で製造されたセルロースアシレート積層フィルムを乾燥する工程と、
乾燥後のセルロースアシレート積層フィルムをTg−10℃以上の温度で延伸する工程と、
を含むことを特徴とするセルロースアシレート積層フィルムの製造方法(但し、Tgはセルロースアシレート積層フィルムのガラス転移点温度を表す)。
【請求項23】
前記延伸工程において、製膜時の搬送方向に対して直交する方向に延伸することを特徴とする請求項19〜22のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルムの製造方法。
【請求項24】
前記低置換度層用のセルロースアシレート溶液の25℃における粘度が、前記高置換度層用のセルロースアシレート溶液の25℃における粘度より10%以上高いことを特徴とする請求項19〜23のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルムの製造方法。
【請求項25】
請求項19〜24のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルムの製造方法で製造されたことを特徴とするセルロースアシレート積層フィルム。
【請求項26】
請求項1〜18および25のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルムを少なくとも1つ有することを特徴とする偏光板。
【請求項27】
請求項1〜18および25のいずれか一項に記載のセルロースアシレート積層フィルムを少なくとも1つ有することを特徴とする液晶表示装置。
【請求項28】
液晶セルと該液晶セルの両側に配置された一対の偏光板を有する液晶表示装置であって、前記偏光板の少なくとも一方が請求項26に記載の偏光板であることを特徴とするIPS、OCBまたはVAモードの液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−118339(P2011−118339A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89211(P2010−89211)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】