説明

セルロースアシレート組成物、セルロースアシレートペレット、セルロースアシレートフィルムとその製造方法、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置

【課題】ゲル状ブツ発生数が少なく、面状が極めて良好であり、液晶表示装置に組み込んだときに発生する画像のボケを抑制することができる溶融セルロースアシレートフィルムを提供する。
【解決手段】特定構造を有するリン酸エステル系化合物と、特定構造を有するp−キノイド系化合物とを含有することを特徴とする、セルロースアシレート組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、特に液晶表示装置用の光学フィルムとして有用な材料と光学素子に関する。具体的には、セルロースアシレート組成物、セルロースアシレートペレット、セルロースアシレートフィルムとその製造方法、並びに、これらを用いた偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置等に使用されるセルロースアシレートフィルムを製造する際に、セルロースアシレートを塩素系有機溶剤に溶解し、これを基材上に流延、乾燥して製膜する溶液流延法が主に実施されている。塩素系有機溶剤の中でもジクロロメタンは、従来からセルロースアシレートに対する良好な溶媒として用いられており、また、沸点が低い(約40℃)ことから製造工程の製膜および乾燥工程において乾燥させ易いという利点があるため、セルロースアシレートフィルムの溶液流延法に好ましく使用されている。
【0003】
しかしながら近年、環境保全の観点から、塩素系有機溶剤などの有機溶媒の排出に対する規制が厳しくなっている。密閉設備における取り扱い工程でも、低沸点である塩素系有機溶媒の漏れを著しく低減することが要求されるようになっている。このため、種々の工夫により殆ど有機溶媒を排出することはなくなってきたが、完全な非排出までには至っていないため、さらなる研究が必要とされている。
【0004】
そこで、有機溶剤を用いない製膜法として、特定のセルロースアシレートを溶融製膜する方法が提案された(特許文献1)。この方法は、セルロースアシレートのエステル基の炭素鎖を長くすることで融点を下げ、溶融製膜しやすくしたものである。具体的には、セルロースアセテートから、セルロースプロピオネートやセルロースブチレート等に変えることで溶融製膜を可能にしている。この特許文献の中には、製膜後に切り落とした両端を破砕し製膜原料として使用することも記載されている(段落番号[0103])。
【0005】
また、特許文献2には、最大粒径が1μm以下の添加剤を一種以上内包するセルロースアシレートを溶融製膜することが記載されている。得られるセルロースエステルフィルムは、光学特性が向上しており、偏光板にしたときに直交状態下で観察される輝点異物数が低減されていると記載されている。また、この特許文献の中には、製膜後に切り落とした両端を破砕し製膜原料として使用することも記載されている(段落番号[0124])。
【特許文献1】特開2000−352620号公報
【特許文献2】特開2006−63169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの特許文献に記載される製膜工程を追試したところ、得られたセルロースアシレートフィルムに微細なゲル状ブツ(溶融押出工程中に生じる小さな球状の塊であり、フィシュアイのような透明性を持つものを指す)が生じ、面状が不良という問題があることが判明した。また、該フィルムを液晶表示装置に取組んだところ画像のボケがスポット的に発生し、改良が必要であることも明らかになった。さらに、製膜後スリットした端部を回収し、再度溶融製膜に使用した際に、製膜したフィルムのゲル状ブツと面状がさらに悪化する傾向があり、得られたフィルムを液晶表示装置に取組んだところ画像のボケがさらに顕著に発生した。
【0007】
これらの従来技術の課題を解決すべく、本発明は、溶融製膜したフィルムのゲル状ブツと面状不良を改良し、液晶表示装置に組み込んだときに発生する表示画面での画像のボケを抑制することができるセルロースアシレートフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来溶融製膜したセルロースアシレートのゲル状ブツと面状不良は、セルロースアシレートが溶融製膜工程中の熱、滞留(例えば濾過製膜中の滞留)、機械的せん断などにより劣化を引起すことに起因することを見出した。このような劣化は、特に溶融製膜の回収樹脂を原材料への再利用する際に促進される。本発明者らはこれらの改良に取り組んだ結果、特定構造の化合物を2種以上組み合わせてセルロースアシレートに含有させることにより、溶融製膜したセルロースアシレートフィルムのゲル状ブツと面状を格段に向上させることができることを見出した。
また、本発明者らは画像ボケについて鋭意検討を進めた結果、セルロースアシレートフィルムを打ち抜いた際に裁断不良が生じ、破断面に微細なひび割れ(クラック)が発生して、これが擦られて剥落しフィルム表面に付くことで画像ボケを引起すことが分かった。本発明では、意外なことに、上記の特定構造の化合物を2種以上組み合わせてセルロースアシレート回収樹脂に含有させることにより、液晶表示装置に取組んだときの画像のボケの発生を著しく低減できることを見出した。
【0009】
本発明は以上の知見に基づいて提供されたものであり、その構成は以下に記載される通りである。
[1] 下記一般式(I)で表される化合物の少なくとも一つと、下記一般式(II)または下記一般式(III)で表される化合物の少なくとも一つとを含有することを特徴とする、セルロースアシレート組成物。
【0010】
【化1】

(一般式(I)において、R11、R12およびR13は各々独立にアルキル基またはアリール基を表す。一般式(II)において、Y22、Y23、Y24、Y25およびY26は各々独立に水素原子またはアルキル基を表す。Y27は水素原子または置換基を表す。一般式(III)において、Y32、Y33、Y35およびY36は各々独立に水素原子またはアルキル基を表し、Y38およびY39は各々独立に水素原子、アルキル基またはアリール基を表す。前記のアルキル基およびアリール基はいずれも置換されていてもよい。)
[2] セルロースアシレートに対し、前記一般式(I)で表される化合物を0.0001〜1質量%含有し、且つ前記一般式(II)で表される化合物および前記一般式(III)で表される化合物を合計量で0.0001〜1質量%含有することを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレート組成物。
[3] 前記セルロースアシレートが、下記式(S−1)〜(S−3)を満たすことを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロースアシレート組成物。
式(S−1) 2.5≦X+Y≦3.0
式(S−2) 0≦X≦2.2
式(S−3) 0.5≦Y≦3.0
(式中、Xはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Yはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度の総和を表す。)
[4] 重量平均分子量(Mw)が0〜20%異なる2種類以上のセルロースアシレートを使用することを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物。
[5] 硫酸根含有量が0〜100ppmであり、2族金属含有量が30〜400ppmであり、且つ(アルカリ金属モル量と2族金属モル量の和)/(硫酸根モル量)の比が0.3〜3.0であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物。
【0011】
[6] [1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物からなるセルロースアシレートペレット。
[7] [1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物からなるセルロースアシレートフィルム。
【0012】
[8] [1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物、[6]に記載のセルロースアシレートペレットまたは[7]に記載のセルロースアシレートフィルムを180〜240℃の温度で溶融し、6分以内の滞留時間で製膜する工程を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[9] タッチロール製膜法または静電印加法を用いてキャストする工程を含むことを特徴とする[8]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[10] 少なくとも1軸に1%〜200%延伸する工程を含むことを特徴とする[8]または[9]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[11] [8]〜[10]のいずれか一項に記載の製造方法により製造したセルロースアシレートフィルム。
【0013】
[12] [7]または[11]に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1層積層した偏光板。
[13] [7]または[11]に記載のセルロースアシレートフィルムを用いた光学補償フィルム。
[14] [7]または[11]に記載のセルロースアシレートフィルムを用いた反射防止フィルム。
[15] [7]または[11]に記載のセルロースアシレートフィルム、[12]に記載の偏光板、[13]に記載の光学補償フィルム、[14]に記載の反射防止フィルムの少なくとも一つを用いた液晶表示装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、ゲル状ブツが少なく、面状が良好であり、液晶表示装置に組み込んだときに発生する画像のボケを抑制することができる。本発明のセルロースアシレート組成物、セルロースアシレートペレットおよびセルロースアシレートフィルムの製造方法は、このような特徴を有するセルロースアシレートフィルムを簡便に製造するのに有用である。また、本発明によれば、コスト面および環境面から極めて重要であるセルロースアシレートの回収樹脂の再利用方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下において、本発明のセルロースアシレート組成物等について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
《一般式(I)〜(III)の化合物》
(作用と含有量)
本発明のセルロースアシレート組成物は、一般式(I)で表される化合物の少なくとも一つと、一般式(II)で表される化合物または一般式(III)で表される化合物の少なくとも一つとを含有することを特徴している。
【0017】
一般式(I)で表される化合物の少なくとも一つと、一般式(II)で表される化合物または一般式(III)で表される化合物の少なくとも一つとを含有する本発明のセルロースアシレート組成物は、溶融製膜工程中の高温熱やせん断などによるポリマーラジカル、ポリマーパーオキサイドラジカル等の発生を抑制し、さらに、ラジカル連鎖反応や酸化劣化のサイクルの切断を抑え、酸化劣化によるセルロースアシレートフィルムの着色、ゲル状ブツおよび劣化分解物による面状の悪化を抑制することができる。このため、本発明のセルロースアシレート組成物を用いて製膜したセルロースアシレートフィルムは、液晶表示装置に組み込んだときに発生する画像のボケを格段的に改良できる。
【0018】
本発明のセルロースアシレート組成物では、セルロースアシレートに対し、一般式(I)で表される化合物を0.0001〜1質量%を含有することが好ましく、より好ましくは0.001〜0.8質量%、さらに好ましくは0.002〜0.5質量%である。一般式(I)で表される化合物を含有させることで、セルロースアシレート樹脂の劣化防止効果が得られる。また、本発明のセルロースアシレート組成物では、一般式(II)で表される化合物と一般式(III)で表される化合物を合計量で、セルロースアシレートに対して0.0001〜1質量%含有することが好ましく、より好ましくは0.001〜0.8質量%、さらに好ましくは0.002〜0.5質量%である。
【0019】
一般式(I)で表れるリン酸エステル化合物の含有量や、一般式(II)で表される化合物と一般式(III)で表される化合物の合計含有量が0.0001質量%以上であれば、ラジカル捕捉効率がより高いため、ゲル状ブツと面状の改良効果が得られやすい。また、一般式(I)で表れるリン酸エステル化合物の含有量や、一般式(II)で表される化合物と一般式(III)で表される化合物の合計含有量が1質量%以下であれば、製膜したときのセルロースアシレートフィルムの物性がより優れたものになりやすく、得られたフィルムを液晶表示装置に組み込んだときに画像ボケの改良効果がより得られやすい。
一般式(I)で表される化合物に対して、一般式(II)で表される化合物と一般式(III)で表される化合物は合計量で、0.0002〜2質量%含有することが好ましく、より好ましくは0.004〜1.6質量%であり、さらに好ましくは0.02〜1.0質量%である。
【0020】
(一般式(I)の化合物)
一般式(I)で表される化合物について詳しく説明する。
【0021】
【化2】

一般式(I)において、R11、R12およびR13は各々独立にアルキル基またはアリール基を表す。アルキル基およびアリール基は置換されていてもよい。
11、R12およびR13がとりうるアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜50であり、より好ましくは1〜40であり、さらに好ましくは1〜20である。好ましいアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基などを挙げることができる。これらの基はさらに置換されていてもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。アルキル基の置換基としては、置換可能な基であればいかなるものであってもよいが、置換基の好ましい例としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子)、アルキル基(直鎖、分岐、環状のアルキル基で、ビシクロアルキル基、活性メチン基を含む)、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基(置換する位置は問わない)、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロ環オキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アシルカルバモイル基、N−スルホニルカルバモイル基、N−カルバモイルカルバモイル基、N−スルファモイルカルバモイル基、カルバゾイル基、カルボキシ基またはその塩、オキサリル基、オキサモイル基、シアノ基、カルボンイミドイル基(Carbonimidoyl基)、ホルミル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基(エチレンオキシ基もしくはプロピレンオキシ基単位を繰り返し含む基を含む)、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、(アルコキシもしくはアリールオキシ)カルボニルオキシ基、カルバモイルオキシ基、スルホニルオキシ基、アミノ基、(アルキル,アリール,またはヘテロ環)アミノ基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、ウレイド基、チオウレイド基、イミド基、(アルコキシもしくはアリールオキシ)カルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、セミカルバジド基、アンモニオ基、オキサモイルアミノ基、N−(アルキルもしくはアリール)スルホニルウレイド基、N−アシルウレイド基、N−アシルスルファモイルアミノ基、4級化された窒素原子を含むヘテロ環基(例えばピリジニオ基、イミダゾリオ基、キノリニオ基、イソキノリニオ基)、イソシアノ基、イミノ基、(アルキルまたはアリール)スルホニル基、(アルキルまたはアリール)スルフィニル基、スルホ基またはその塩、スルファモイル基、N−アシルスルファモイル基、N−スルホニルスルファモイル基またはその塩、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基などが挙げられる。
【0022】
11、R12およびR13がとりうるアリール基の炭素数は、好ましくは6〜50であり、より好ましくは6〜40であり、さらに好ましくは6〜20である。好ましいアリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基などを挙げることができる。これらの基はさらに置換されていてもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。アリール基の置換基としては、置換可能な基であればいかなるものであってもよいが、上記のアルキル基の置換基を好ましい例として挙げることができる。なかでも、置換基としては、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、炭素数1〜9のアルキル基がさらに好ましく、炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、tert−ブチル基など)が特に好ましい。
11、R12およびR13がアリール基を表すとき、アリール基は置換基を有していることが好ましく、置換基はアリール基の2位または6位の少なくとも一方に置換していることがさらに好ましい。2位または6位の置換基として特に好ましい例として、メチル基、エチル基、tert−ブチル基を挙げることができる。
【0023】
一般式(I)で表される化合物は、分子内に複数のリン酸エステル構造を含んでいてもよい。1分子あたりのリン酸エステル構造の数として、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜5、特に好ましくは1〜3である。また、一般式(I)で表される化合物は、亜リン酸エステル構造、またはフェノール構造を分子内に含んでいてもよい。さらに、一般式(I)で表される化合物は、分子内にスピロ構造を有するものであってもよく、また対称構造を有するものであってもよい。
一般式(III)で表される化合物の分子量は、好ましくは300〜10000であり、さらに好ましくは450〜5000であり、特に好ましくは600〜3000である。
【0024】
以下に一般式(I)で表される化合物の具体例を示すが、本発明で用いることができる一般式(I)で表される化合物はこれらに限定されない。
【0025】
【化3】

【0026】
一般式(I)で表される化合物は、例えば、対応する亜リン酸エステル化合物を酸化する方法、あるいはオキシ塩化リンやリン酸ハライドなどと、アルコールまたはフェノール類とを原料として、リン酸エステルを得る方法により合成することができる。化合物I−1を始めとする上記化合物は、特開2000−128892号公報に記載の方法により、対応する亜リン酸エステル化合物を酸化して合成することができる。
【0027】
(一般式(II)の化合物)
一般式(II)で表される化合物について詳しく説明する。
【0028】
【化4】

一般式(II)において、Y22、Y23、Y24、Y25およびY26は各々独立に水素原子またはアルキル基を表す。アルキル基は置換されていてもよい。
22、Y23、Y24、Y25およびY26がとりうるアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜50であり、より好ましくは1〜40であり、さらに好ましくは1〜20である。好ましいアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基などを挙げることができる。これらの基はさらに置換されていてもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。
アルキル基の置換基としては、上記のR11、R12およびR13がアルキル基を表すときのアルキル基の置換基を好ましい例として挙げることができる。なかでも、置換基としては、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、炭素数1〜9のアルキル基がさらに好ましく、炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、tert−ブチル基など)が特に好ましい。
一般式(II)において、Y22またはY26の少なくとも一方はアルキル基であることが好ましい。Y22またはY26の少なくとも一方がとりうるアルキル基として、好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基を挙げることができ、特に好ましい例として、メチル基、エチル基、tert−ブチル基を挙げることができる。
一般式(II)において、Y27は水素原子または置換基を表す。Y27が置換基を表すとき、好ましい例としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子)、アルキル基(直鎖、分岐、環状のアルキル基で、ビシクロアルキル基、活性メチン基を含む)、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基(置換する位置は問わない)、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロ環オキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アシルカルバモイル基、N−スルホニルカルバモイル基、N−カルバモイルカルバモイル基、N−スルファモイルカルバモイル基、カルバゾイル基、カルボキシ基またはその塩、オキサリル基、オキサモイル基、シアノ基、カルボンイミドイル基(Carbonimidoyl基)、ホルミル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基(エチレンオキシ基もしくはプロピレンオキシ基単位を繰り返し含む基を含む)、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、(アルコキシもしくはアリールオキシ)カルボニルオキシ基、カルバモイルオキシ基、スルホニルオキシ基、アミノ基、(アルキル,アリール,またはヘテロ環)アミノ基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、ウレイド基、チオウレイド基、イミド基、(アルコキシもしくはアリールオキシ)カルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、セミカルバジド基、アンモニオ基、オキサモイルアミノ基、N−(アルキルもしくはアリール)スルホニルウレイド基、N−アシルウレイド基、N−アシルスルファモイルアミノ基、4級化された窒素原子を含むヘテロ環基(例えばピリジニオ基、イミダゾリオ基、キノリニオ基、イソキノリニオ基)、イソシアノ基、イミノ基、(アルキルまたはアリール)スルホニル基、(アルキルまたはアリール)スルフィニル基、スルホ基またはその塩、スルファモイル基、N−アシルスルファモイル基、N−スルホニルスルファモイル基またはその塩、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基、アルキルペルオキシド基、アリールペルオキシド基、ヒドロペルオキシド基、ニトロ基などが挙げられる。さらに好ましくは、ヒドロキシ基、アルコキシ基(エチレンオキシ基もしくはプロピレンオキシ基単位を繰り返し含む基を含む)、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、(アルコキシもしくはアリールオキシ)カルボニルオキシ基、カルバモイルオキシ基、スルホニルオキシ基、アミノ基、(アルキル,アリール,またはヘテロ環)アミノ基、アルキルペルオキシド基、アリールペルオキシド基、ヒドロペルオキシド基、ニトロ基などが挙げられる。特に好ましくは、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキルペルオキシド基、アリールペルオキシド基、ヒドロペルオキシド基、ニトロ基などが挙げられる。
【0029】
一般式(II)で表される化合物は、分子内に複数のキノン付加体構造を含んでいてもよい。1分子あたりのキノン付加体構造の数として、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜5、特に好ましくは1〜3である。また、一般式(II)で表される化合物は、フェノール構造、キノンメチド構造、亜リン酸エステル構造、またはリン酸エステル構造を分子内に含んでいてもよい。さらに、一般式(II)で表される化合物は、分子内にスピロ構造を有するものであってもよく、また対称構造を有するものであってもよい。
一般式(II)で表される化合物の分子量は、好ましくは300〜10000であり、さらに好ましくは450〜5000であり、特に好ましくは600〜3000である。
【0030】
以下に一般式(II)で表される化合物の具体例を示すが、本発明で用いることができる一般式(II)で表される化合物はこれらに限定されない。
【0031】
【化5】

【0032】
一般式(II)で表される化合物は、対応するフェノール系化合物を酸化することにより合成することができる。例えば、化合物II−1は、1,1,3−トリ(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−6−メチルフェニル)ブタンを特開2000−128892号公報に記載の方法により酸化して合成することができる。他の一般式(II)で表される化合物についても、同様の方法で合成することができる。
【0033】
(一般式(III)の化合物)
一般式(III)で表される化合物について詳しく説明する。
【0034】
【化6】

一般式(III)において、Y32、Y33、Y35およびY36は各々独立に水素原子またはアルキル基を表し、Y38およびY39は各々独立に水素原子、アルキル基またはアリール基を表す。前記のアルキル基およびアリール基はいずれも置換されていてもよい。
32、Y33、Y35およびY36がとりうるアルキル基の好ましい炭素数と具体例については、一般式(II)のY22、Y23、Y24、Y25およびY26がとりうるアルキル基の好ましい炭素数と具体例を参照することができる。
一般式(III)において、Y32またはY36の少なくとも一方はアルキル基であることが好ましい。Y32またはY36の少なくとも一方がとりうるアルキル基として、好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基を挙げることができ、特に好ましい例として、メチル基、エチル基、tert−ブチル基を挙げることができる。
一般式(III)において、Y38およびY39がとりうるアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜50であり、より好ましくは1〜40であり、さらに好ましくは1〜20である。好ましいアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基などを挙げることができる。これらの基はさらに置換されていてもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。アルキル基の置換基としては、上記のR11、R12およびR13がアルキル基を表すときのアルキル基の置換基を好ましい例として挙げることができる。
【0035】
38およびY39がとりうるアリール基の炭素数は、好ましくは6〜50であり、より好ましくは6〜40であり、さらに好ましくは6〜20である。好ましいアリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基などを挙げることができる。これらの基はさらに置換されていてもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。アリール基の置換基としては、置換可能な基であればいかなるものであってもよいが、上記のR11、R12およびR13がアルキル基を表すときのアルキル基の置換基を好ましい例として挙げることができる。なかでも、置換基としては、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、炭素数1〜9のアルキル基がさらに好ましく、炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、tert−ブチル基など)が特に好ましい。
38またはY39のいずれか一方は水素原子であることが好ましい。
【0036】
一般式(III)で表される化合物は、分子内に複数のキノンメチド構造を含んでいてもよい。1分子あたりのキノン付加体構造の数として、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜5、特に好ましくは1〜3である。また、一般式(III)で表される化合物は、フェノール構造、キノン付加体構造、亜リン酸エステル構造、またはリン酸エステル構造を分子内に含んでいてもよい。さらに、一般式(III)で表される化合物は、分子内にスピロ構造を有するものであってもよく、また対称構造を有するものであってもよい。
一般式(III)で表される化合物の分子量は、好ましくは300〜10000であり、さらに好ましくは450〜5000であり、特に好ましくは600〜3000である。
【0037】
以下に一般式(III)で表される化合物の具体例を示すが、本発明で用いることができる一般式(III)で表される化合物はこれらに限定されない。
【0038】
【化7】

【0039】
一般式(III)で表される化合物は、対応するフェノール系化合物を酸化することにより合成することができる。例えば、化合物III−1は、1,1,3−トリ(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−6−メチルフェニル)ブタンを特開2000−128892号公報に記載の方法、あるいは酸化銀やベヘン酸銀などの弱い酸化剤により酸化して合成することができる。他の一般式(III)で表される化合物についても、同様の方法で合成することができる。
【0040】
《セルロースアシレート樹脂》
(組成)
本発明のセルロースアシレート組成物には、セルロースアシレートが含まれている。本発明のセルロースアシレート組成物中に含まれるセルロースアシレートの含有量は、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
本発明で用いるセルロースアシレートは、下記(S−1)〜(S−3)の置換度を満足するものであることが好ましい。
式(S−1) 2.5≦X+Y ≦3.0
式(S−2) 0≦X≦2.2
式(S−3) 0.5≦Y≦3.0
【0041】
本発明で用いるセルロースアシレートは、下記の式(S−4)〜(S−6)を満足するものであることがより好ましい。
式(S−4) 2.55≦X+Y≦3.0
式(S−5) 0≦X≦1.8
式(S−6) 0.8≦Y≦3
【0042】
本発明で用いるセルロースアシレートは、下記の式(S−7)〜(S−9)を満足するものであることがさらに好ましい。
式(S−7) 2.6≦X+Y≦3.0
式(S−8) 0≦X≦1.2
式(S−9) 1.2≦Y≦3
【0043】
前記式中、Xはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Yはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度の総和を表す。ここでいう「置換度」とは、セルロースの2位、3位および6位のぞれぞれの水酸基が置換されている割合の合計を意味する。2位、3位および6位の全ての水酸基が置換された場合は置換度が3となる。セルロースアシレートの置換度を前記範囲にすることで融解温度を低下し、融解性が良好となり、より均一に製膜することができる。
【0044】
本発明の炭素数3〜22のアシル基は、脂肪族アシル基でも芳香族アシル基のいずれであってもよい。これらのアシル基は複数同時に存在していてもよい。アシル基の炭素数を長くし過ぎると、分子疎水性が強すぎてしまうため、フィルムのケン化特性および偏光子との貼合適性を過度に低下させてしまう場合がある。このため、炭素数3〜22のアシル基はプロピオネート基、ブチレート基およびペンタノイル基から選択されるものであることが好ましく、より好ましくはプロピオネート基、ブチレート基であり、さらに好ましくはプロピオネート基である。
【0045】
(重合度)
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重量平均重合度は300〜600、好ましくは320〜550、さらに好ましくは330〜500である。重量平均重合度は、本発明では後述のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用い、単分散ポリスチレンを標品として使用して測定される。
本発明においては、セルロースアシレートのGPCによる重量平均重合度/数平均重合度が1.6〜3.6であることが好ましく、1.7〜3.3であることがさらに好ましく、1.8〜3.2であることが特に好ましい。これらのセルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合してもよい。
【0046】
本発明のセルロースアシレート組成物には、重量平均分子量が異なる2種以上のセルロースアシレートを好ましく含有させることができる。特に、重量平均分子量(Mw)が0〜20%異なる2種類以上の樹脂を使用することが好ましく、より好ましくは0〜15%、さらに好ましくは0〜10%異なる2種類以上の樹脂を使用する。ここでいう割合は、重量平均分子量が高いセルロースアシレートを100%とした場合の割合である。
特に、溶融製膜したフィルムの屑を回収して製膜前の樹脂原料に混合して再利用する際に、回収樹脂の重量平均分子量と製膜前の樹脂原料の重量平均分子量との差が上記の範囲内であるようにすることが好ましい。重量平均分子量の差を0〜20%にすることにより、熱分解やラジカルゲル化などの反応を最小限に抑えることができる。その結果、製膜したフィルムの力学特性の低下やバラツキを抑えることができる。
【0047】
本発明で用いるセルロースアシレートには、セルロースアシレート以外の高分子成分を適宜混合してもよい。混合される高分子成分はセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上となるような成分であるのが望ましい。
【0048】
本発明で用いるセルロースアシレートを合成する際のセルロース原料としては、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のものが好ましく用いられる。
【0049】
本発明で用いるセルロースアシレートの合成方法については、特開2006−45500号公報の段落番号[0018]〜[0033]、特開2006−45501号公報の段落番号[0014]〜[0030]、特開2006−45502号公報の段落番号[0018]〜[0023]に詳細に記載されている。また、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7頁〜12頁にも詳細に記載されている。これらの合成方法は、本発明においても好ましく用いることができる。また、本発明において好ましく使用されるセルロースアシレートの具体的な合成手順については、後述する合成例1〜3を参照することができる。
【0050】
(ろ過)
本発明で用いるセルロースアシレート中の異物を最大限に低減しておくため、異物を原料から除去しておくことが好ましい。具体的には、原料合成段階でろ過方法を用いて除去することが好ましい。より具体的には、セルロースアシレート中の未反応物、難溶解性塩、その他の異物などを除去または削減するために、アシル化工程から再沈殿工程の間のいずれかにおいて、セルロースアシレートを含む反応溶液をろ過することが好ましい。ろ過に用いるフィルターの保留粒子サイズは、好ましくは0.1μm〜50μmであり、さらに好ましくは、0.5μm〜40μmであり、特に好ましくは、1μm〜30μmである。フィルターの保留粒子サイズが0.1μmより小さ過ぎると、ろ過圧の上昇が著しくなり、実質的に工業的な生産が困難になる傾向がある。また、保留粒子サイズが40μmより大き過ぎると、異物の除去が十分にできない場合がある。また、濾過は2回以上繰り返して行ってもよい。
【0051】
フィルターの材質は溶媒によって悪影響を受けないものであれば特に限定されないが、好ましい例としては、セルロース系フィルター、金属フィルター、金属焼結フィルター、セラミック焼結フィルター、テフロンフィルター(PTFEフィルター)、ポリエーテルサルホンフィルター、ポリプロピレンフィルター、ポリエチレンフィルター、ガラス繊維性フィルターなどを挙げることができ、これらを組み合わせて使用してもよい。中でもステンレス製の金属フィルター、金属焼結フィルターが好ましい。
【0052】
フィルターの材質として、電荷的捕捉機能を有するフィルターもまた、好ましく用いることができる。電荷的捕捉機能を有するフィルターとは、電気的に荷電異物を捕捉除去する機能を有するフィルターであり、通常、濾材に電荷を付与したものが用いられる。このようなフィルターの例としては、特表平4−504379号公報、特開2000−212226号公報などに記載されたものを選択することができる。
【0053】
また、セライト、層状粘土鉱物(好ましくは、タルク、マイカ、カオリナイトなど)などを濾過助剤としてセルロースアシレート溶液に混合し、これを濾過するいわゆるケーク濾過も好ましく用いることができる。ろ過圧や取り扱い性の制御の目的から、ろ過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。
【0054】
(形態)
本発明で用いるセルロースアシレートは粒子状、粉末状、繊維状、塊状など種々の形状のいずれであってもよいが、フィルム製造の原料としては粒子状または粉末状であることが好ましい。このため、乾燥後のセルロースアシレートは、粒子サイズの均一化や取り扱い性の改善のために、粉砕や篩がけを行ってもよい。セルロースアシレートが粒子状であるとき、使用する粒子の90質量%以上は、0.5〜5mmの粒子サイズを有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が1〜4mmの粒子サイズを有することが好ましい。セルロースアシレート粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。また、本発明で用いるセルロースアシレート粒子は、見かけ密度が好ましくは0.5〜1.3、さらに好ましくは0.7〜1.2、特に好ましくは0.8〜1.15である。見かけ密度の測定法は、JIS K−7365に規定されている。
【0055】
本発明で用いるセルロースアシレート粒子は、安息角が10〜70度であることが好ましく、15〜60度であることがさらに好ましく、20〜50度であることが特に好ましい。得られたセルロースアシレートは、環境による影響を受けにくくするために、低温暗所で保存することが望ましい。さらに、保管用としてアルミニウムなどの防止素材で作製された防湿袋や、SUS製ドラムあるいはコンテナに保存することがさらに好ましい。
【0056】
(結晶性)
本発明で用いるセルロースアシレートは結晶性を示し、結晶融解熱が3J/g〜50J/gであることが好ましく、より好ましくは5J/g〜30J/g、さらに好ましくは7J/g〜22J/gである。結晶融解熱が3J/g未満で低過ぎる(非晶性)と、延性が高く、打ち抜き加工した際に切断面が伸ばされ髭状となり、これがフィルムに付着し画像ボケを引き起こす傾向がある。また結晶融解熱が50J/gを超えて高すぎると、脆性が高く、打ち抜き加工を行った際裁断面がひび割れやすく、これがフィルムに付着し画像ボケを引き起こす傾向がある。ここでいう結晶融解熱は、180℃で3時間熱処理したサンプル約10mg精秤し測定パンに入れ、DSCを用いて30℃から250℃まで10℃/分で昇温したときに、170℃から240℃の間に現れる吸熱ピークの面積(吸熱量)から求められる。
【0057】
(金属イオン含有量および硫酸根含有量)
本発明では、耐熱性に優れたセルロースアシレートを用いることが好ましい。セルロースアシレートの耐熱性改良は、金属イオン含有量、硫酸根含有量、および金属モル量/硫酸根モル量の比を適宜調整することにより行うことができる。
【0058】
本発明で用いるセルロースアシレートは、強アルカリ性の1族アルカリ金属含有量が少ないことが好ましい。1族アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。本発明で用いるセルロースアシレート中における1族アルカリ金属含有量は0〜40ppmであることが好ましく、より好ましくは0〜30ppm、さらに好ましくは0〜20ppmである。これらの強アルカリ性1族アルカリ金属イオンはセルロースアシレート合成工程において使用される水から持ち込まれるか、またはセルロースアシレートの安定化工程中に、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム等化合物として添加されることが多い。このように、原料樹脂中の強アルカリ性の1族金属塩基を上述の範囲内に抑えることにより、溶融製膜の高温熱履歴における1族金属塩基の活性化を抑制し、プロトンの引き抜き反応やラジカル連鎖反応や熱劣化等による発生するゲル状ブツや分解劣化物や着色を一段と抑制することができる。
【0059】
本発明で用いるセルロースアシレート樹脂は、硫酸根含有量が0〜100ppmであることが好ましく、より好ましくは0ppm〜80ppm、さらに好ましくは5ppm〜60ppmである。ここでいう硫酸根とは、結合硫酸、非結合の硫酸、塩、エステル、錯体などの形でセルロースアシレート中に存在している硫酸根であり、「硫酸根含有量」とはそれらの硫酸根の含有量の合計をいう。セルロースアシレートの硫酸根は、アシル化の触媒としての硫酸がセルロースの水酸基に硫酸エステルなどの形で結合したもの、または、遊離の硫酸、塩、エステル、錯体などの形でセルロースアシレート中に取り込まれ、洗浄工程で除去しきれないものが残留しているものと考えられる。セルロースアシレートの硫酸根含有量を0〜100ppmとするには、セルロースアシレート合成の際に適度な洗浄を実施すればよい。硫酸根含有量が上述の範囲内であれば、セルロースアシレートの熱安定性が良好となる。また、前記残存硫酸根量が0〜100ppmであれば、後述の金属量との関係によって熱安定性が低下する問題が生じにくく、高温下に置かれた場合であってもゲル状ブツおよび劣化分解物を生じにくい。
【0060】
本発明で用いるセルロースアシレートは、(1族アルカリ金属モル量と2族金属モル量との和)/(硫酸根モル量)の比が0.3〜3.0であることが好ましく、より好ましくは0.4〜2.5、さらに好ましくは0.5〜2.0である。また、2族金属含有量が1族アルカリ金属含有量より多いことが好ましい。2族金属を単独で含んでいてもよく、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。これらの化合物はセルロースアシレート合成工程の中で添加するのが好ましく、より好ましくはセルロースアシレート合成後の洗浄工程の後に添加するのが好ましい。好ましい2族金属元素は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムであり、さらに好ましくはマグネシウム、カルシウム、特に好ましくはカルシウムである。2族金属は、弱アルカリ性化合物として添加することが好ましく、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩、金属水酸化物、金属酸化物などを挙げることができる。2族金属としてより好ましくは水酸化化合物や弱酸塩化合物、さらに好ましくは水酸化化合物であり、中でもマグネシウム、カルシウムの炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物が好ましく、中でも水酸化カルシウムを添加するのが好ましい。2族金属含有量は40〜400ppmが好ましい、より好ましくは45〜300ppm、さらに好ましくは50〜200ppmである。
アルカリ金属および/または2族金属を含有することにより、上述の硫酸を中和する効果が得られる。この結果、セルロースアシレート樹脂の熱安定性が低下する問題が生じにくく、高温下に置かれた場合であってもゲル状ブツおよび劣化分解物の生成と着色を一段と抑制する効果が得られる。
これらの条件は、各々を組み合わせることが好ましい。例えば、1族アルカリ金属含有量が0〜40ppmであり、2族アルカリ金属含有量が40〜400ppmであり、硫酸根含有量が0〜100ppmであり、且つ(1族アルカリ金属モル量と2族金属モル量との和)/(硫酸根モル量)の比が0.3〜3.0であることが好ましい。
【0061】
《添加剤》
本発明のセルロースアシレート組成物には、少なくとも一種の安定剤を添加することができる。また、本発明のセルロースアシレート組成物を用いて製膜する際に、工程中にて安定剤を好ましく添加することができる。安定剤は、特にセルロースアシレートの加熱溶融前または加熱溶融時に添加することが好ましい。安定剤は、セルロースアシレート組成物中に含まれる材料の酸化防止、分解して発生した酸の捕捉、光または熱によるラジカル種基因の分解反応を抑制または禁止する等、解明できていない分解反応を含めて、着色や分子量低下に代表される変質や材料の分解による揮発成分の生成を抑制するために有用である。安定剤には、製膜するための溶融温度においても安定化剤自身が分解せずに機能することが求められる。以下において安定化剤について具体的に説明するが、本発明で用いることができる安定剤は以下に説明されるものに限定されない。
【0062】
安定剤の代表的な素材としては、フェノール系安定剤、亜リン酸系安定剤(フォスファイト系)、チオエーテル系安定剤、アミン系安定剤、エポキシ系安定剤、ラクトン系安定剤、アミン系安定剤、金属不活性化剤(スズ系安定剤)などが挙げられる。これらは、特開平3−199201号公報、特開平5−1907073号公報、特開平5−194789号公報、特開平5−271471号公報、特開平6−107854号公報などに記載がある。
【0063】
これらの安定剤は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。安定化剤の添加量は、セルロースアシレート樹脂の質量に対して0.001質量%〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.005質量%〜3質量%であり、さらに好ましくは0.01質量%〜0.8質量%である。
【0064】
(フェノール系安定剤)
本発明のセルロースアシレート組成物に含まれる構成材料の熱溶融時における安定化のために用いるフェノール系安定剤として、既知のヒンダードフェノール系安定剤を用いることができる。これには、例えば米国特許第4,839,405号明細書の第12〜14欄に記載されているものなどの、2,6−ジアルキルフェノール誘導体化合物が含まれる。
フェノール系安定剤は一次ラジカル捕捉剤として、ラジカルおよびポーオキサイドラジカルのトラップ機能を有する。フェノール系安定剤はフェノール性OH基からH・を供与し、準安定化なハイドロパーオキサイドROOH過酸化物となるとともに、それ自体はROO・と比較してより安定なフェノキシラジカルとなる。
【0065】
フェノール系安定剤の中でも、特に分子量500以上のフェノール系安定剤を添加することが好ましい。好ましいフェノール系安定剤としては、ヒンダードフェノール系安定剤が挙げられる。特に、ヒドロキシフェニル基に隣接する部位に置換基を有するものが好ましく、その場合の置換基としては炭素数1〜22の置換または無置換のアルキル基が好ましい。フェノール系安定剤の具体例として例えば下記の化合物を挙げることができるが、本発明で用いることができるフェノール系安定剤はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0066】
(PH−1)
n−オクタデシル−3−(3',5'−ジ−tert−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル) プロピオネート(分子量531、白色粉末、融点69.2℃以上)
(PH−2)
テトラキス−[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(分子量1178、白色粉末、融点115〜125℃)
(PH−3)
トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート(分子量784、白色粉末、融点221℃)
(PH−4)
トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート](分子量588、白色粉末、融点77℃)
【0067】
(PH−5)
3,9−ビス−{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(分子量741、白色粉末、融点125℃)
(PH−6)
1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(分子量775、白色粉末、融点244〜249℃)
(PH−7)
1,1,3−トリス(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)ブタン(分子量545、白色粉末、融点69.2℃)
(PH−8)
1,6−ヘキサンジオール−ビス{3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}(分子量639、無色液体、融点10℃以下)
(PH−9)
2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(分子量589)
(PH−10)
1,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート](分子量643、白色粉末、融点91〜96℃)
(PH−11)
N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)(分子量6、白色粉末、融点156〜161℃)
(PH−12)
N:ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウム(分子量695、白色粉末、融点90〜65℃)
【0068】
これらのフェノール系安定剤は、市販品として容易に入手可能であり、下記のメーカーから販売されている。チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社から、Irganox 1076、Irganox 1010、Irganox 3113、Irganox 245、Irganox 1135、Irganox 1330、Irganox 259、Irganox 565、Irganox 1035、Irganox 1098、Irganox 1425WLとして入手することができる。また、旭電化工業株式会社から、アデカスタブ AO−50、アデカスタブ AO−60、アデカスタブ AO−20、アデカスタブ AO−70、アデカスタブ AO−80として入手することができる。さらに、住友化学株式会社から、スミライザーBP−76、スミライザーBP−101、スミライザーGA−80として入手することができる。また、シプロ化成株式会社からシーノックス326M、シーノックス336Bとしても入手することができる。
【0069】
(亜リン酸系安定剤)
上記の亜リン酸系安定剤としては、特開2004−182979号公報の[0023]〜[0039]に記載の化合物をより好ましく用いることができる。亜リン酸エステル系安定剤の具体例としては、特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物を挙げることができる。さらに、その他の安定剤としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている素材を好ましく用いることができる。
【0070】
本発明で用いる亜リン酸エステル系安定剤は、高温での安定性を保つために高分子量であるものが有用である。亜リン酸エステル系安定剤の分子量は、好ましくは500以上であり、より好ましくは550以上であり、特に好ましくは600以上である。さらに、少なくとも一置換基は芳香族性エステル基であることが好ましい。また、亜リン酸エステル系安定剤は、トリエステルであることが好ましく、リン酸、モノエステルやジエステルの不純物の混入がないことが望ましい。これらの不純物が存在する場合は、その含有量が5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下であり、特には2質量%以下である。これらは、特開2004−182979号公報の段落番号[0023]〜[0039]に記載の化合物などを挙げることが、さらに特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物も挙げることができる。亜リン酸エステル系安定剤の好ましい具体例として下記の化合物を挙げることができるが、本発明で用いることができる亜リン酸エステル系安定剤はこれらに限定されるものではない。
【0071】
(PF-1)
トリスノニルフェニルフォスファイト(分子量689、無色液体)
(PF-2)
トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト(分子量647、白色粉末、融点183℃)
(PF-3)
ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト(分子量733、融点52℃)
(PF-4)
ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールフォスファイト(分子量605白色粉末、融点183℃)
(PF-5)
ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール ジフォスファイト(分子量633、白色粉末、融点235℃)
(PF-6)
2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルフォスファイト(分子量529、白色粉末、融点148℃)
(PF-7)
テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニレン−ジ−フォスファイト(分子量517、白色粉末、融点75℃)
【0072】
これらは、旭電化工業株式会社からアデカスタブ1178、同2112、同PEP−8、同PEP−24G、PEP−36、同HP−10として、またクラリアント社からSandostab P−EPQとして市販されており、入手可能である。
さらに本発明では、フェノールと亜リン酸エステルを同一分子内に有する安定剤も好ましく用いられる。具体的な化合物として下記のものを挙げることができるが、本発明で用いることができる安定化剤はこれらに限定されるものではない。これらの化合物については、さらに特開平10−273494号公報に詳細に記載されている。代表的な市販品としては、住友化学株式会社のスミライザーGPを挙げることができる。
【0073】
(FFP−1)
2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量632)
(FFP−2)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量702)
(FFP−3)
2,4,8,10−テトラ−tert−ペンチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量787)
(FFP−4)
2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量646)
(FFP−5)
2,4,8,10−テトラ−tert−ペンチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量801)
(FFP−6)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量716)
(FFP−7)
2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイルオキシ)−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量618)
(FFP−8)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイルオキシ)−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量717)
(FFP−9)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量660)
(FFP−10)
2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量590)
(FFP−11)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量717)
(FFP−12)
2,10−ジエチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量661)
(FFP−13)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[2,2−ジメチル−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量688)
(FFP−14)
6−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量660)
【0074】
(チオエーテル系安定剤)
本発明においてセルロースアシレートに添加することができるチオエーテル系安定剤も分子量500以上であるものが好ましく、公知の任意のチオエーテル系安定剤を用いることができる。そのようなチオエーテル系安定剤は、住友化学株式会社からスミライザーTPL、同TPM、同TPS、同TDPとして市販されている。また、旭電化工業株式会社から、アデカスタブAO−412Sとしても入手可能である。
【0075】
(エポキシ系安定剤)
エポキシ系安定剤は、酸捕捉剤として作用し、米国特許第4,137,201号明細書に記載されている酸捕捉剤としてのエポキシ化合物を含んでいるものが好ましい。このような酸捕捉剤としてのエポキシ化合物は当該技術分野において既知であり、種々のポリグリコールのジグリシジルエーテル、特にポリグリコール1モル当たりに約8〜40モルのエチレンオキシドなどの縮合によって誘導されるポリグリコール、グリセロールのジグリシジルエーテルなど、金属エポキシ化合物(例えば、塩化ビニルポリマー組成物において、および塩化ビニルポリマー組成物と共に、従来から利用されているもの)、エポキシ化エーテル縮合生成物、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(即ち、4,4’−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン)、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル(特に、2〜22個の炭素原子を有する脂肪酸と、4〜2個の炭素原子のアルキルのエステル(例えば、ブチルエポキシステアレート)など)、および種々のエポキシ化長鎖脂肪酸トリグリセリドなど(例えば、エポキシ化大豆油などの組成物によって代表され、例示され得る、エポキシ化植物油および他の不飽和天然油(これらは時としてエポキシ化天然グリセリドまたは不飽和脂肪酸と称され、これらの脂肪酸は一般に12〜22個の炭素原子を含有している))が含まれる。特に好ましいのは、市販のエポキシ基含有エポキシド樹脂化合物 EPON 815c、およびエポキシ化エーテルオリゴマー縮合生成物である。
【0076】
本発明で用いるエポキシ系安定剤としては、脂肪族、芳香族、脂環族、芳香族脂肪族またはヘテロ環式構造を有し、側鎖としてエポキシ基を有する化合物も有用である。エポキシ基は好ましくは、グリシジル基としてエーテルまたはエステル結合により分子の残基に結合するか、あるいはヘテロ環式アミン、アミドまたはイミドのN−グリシジル誘導体である。これらのタイプのエポキシ化合物は広く公知であり、市販品として容易に入手可能である。これらの素材は特開平11−189706号公報の段落番号[0096]〜[0112]に詳細に記載されている。
【0077】
以上の中でもより好ましくは、エポキシ化リノール酸オクチル、エポキシ化リシノール酸オクチル、エポキシ化大豆油脂肪酸オクチル、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油であり、特に好ましくはエポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油である。これらのエポキシ系素材は、アデカスタブ O−130P、アデカスタブ O−180A(旭電化工業株式会社)から、市販品として入手できる。
【0078】
(スズ系安定剤)
上記スズ系安定剤としては、公知の任意のスズ系安定剤を用いることができる。好ましいスズ系安定剤の具体例としては、オクチル錫マレエートポリマー、モノステアリル錫トリス(イソオクチルチオグリコレート)、ジブチル錫ジラウレートが挙げられる。
【0079】
(酸捕捉剤)
セルロースアシレートは高温下では酸によっても分解が促進されるため、本発明では酸捕捉剤を使用することが好ましい。
【0080】
本発明において有用な酸捕捉剤としては、酸と反応して酸を不活性化する化合物であれば制限なく、用いることができるが、中でも米国特許第4,137,201号明細書に記載されているエポキシ基を有する化合物が好ましい。このような酸捕捉剤としてのエポキシ化合物は当該技術分野において既知であり、種々のポリグリコールのジグリシジルエーテル、特にポリグリコール1モル当たりに約8〜40モルのエチレンオキシドなどの縮合によって誘導されるポリグリコール、グリセロールのジグリシジルエーテルなど、金属エポキシ化合物(例えば、塩化ビニルポリマー組成物において、および塩化ビニルポリマー組成物と共に、従来から利用されているもの)、エポキシ化エーテル縮合生成物、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(即ち、4,4’−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン)、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル(特に、2〜22この炭素原子の脂肪酸の4〜2個程度の炭素原子のアルキルのエステル(例えば、ブチルエポキシステアレート)など)、および種々のエポキシ化長鎖脂肪酸トリグリセリドなど(例えば、エポキシ化大豆油など)の組成物によって代表され例示され得るエポキシ化植物油および他の不飽和天然油(これらはときとしてエポキシ化天然グリセリドまたは不飽和脂肪酸と称され、これらの脂肪酸は一般に12〜22個の炭素原子を含有している)が含まれる。また、市販のエポキシ基含有エポキシド樹脂化合物として、EPON 815Cも好ましく用いることができる。
【0081】
さらに上記以外に用いることが可能な酸捕捉剤としては、オキセタン化合物やオキサゾリン化合物、あるいはアルカリ土類金属の有機酸塩やアセチルアセトナート錯体、特開平5−194788号公報の段落番号[0068]〜[0105]に記載されているものが含まれる。
【0082】
なお酸捕捉剤は酸掃去剤、酸捕獲剤、酸キャッチャー等と称されることもあるが、本発明においてはこれらの呼称による差異なく、用いることができる。
【0083】
本発明に用いられる酸捕捉剤は、少なくとも上記の1種以上選択できる。酸捕捉剤の添加量は、セルロースアシレートの質量に対して0.001質量%〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.005質量%〜3質量%であり、さらに好ましくは0.01質量%〜2質量%である。
【0084】
(紫外線吸収剤)
本発明のセルロースアシレート組成物には、1種または2種以上の紫外線吸収剤を含有させることが好ましい。紫外線吸収剤は、製膜工程中にセルロースアシレート組成物に添加してもよい。
紫外線吸収剤は、液晶の劣化防止の観点から、波長380nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。特に好ましい紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、セルロース混合エステルに対する不要な着色が少ないことから好ましい。これらは、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号、特開2000−204173号の各公報に記載されている。紫外線吸収剤の添加量は、セルロースアシレート組成物または調製する溶融物(メルト)の0.01〜2質量%であることが好ましく、0.01〜1.5質量%であることがさらに好ましい。
【0085】
また、本発明では、有用な高分子紫外線吸収剤として、特開平6−148430号公報に記載されている高分子紫外線吸収剤や、紫外線吸収剤モノマーを含むポリマーを制限なく使用できる。紫外線吸収性モノマーから誘導されるポリマーの重量平均分子量は2000〜30000であることが好ましく、より好ましくは5000〜20000である。紫外線吸収性モノマーから誘導されるポリマー中の紫外線吸収性モノマーの含有量は1〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜60質量%である。
【0086】
本発明に用いることのできる市販品としての紫外線吸収剤モノマーとして、1−(2−ベンゾトリアゾール)−2−ヒドロキシ−5−(2−ビニルオキシカルボニルエチル)ベンゼン、大塚化学社製の反応型紫外線吸収剤RUVA−93の1−(2−ベンゾトリアゾール)−2−ヒドロキシ−5−(2−メタクリロイルオキシエチル)ベンゼンまたはこの類似化合物を挙げることができる。これらを単独または共重合したポリマーまたはコポリマーも好ましく用いられるが、本発明で用いることができる紫外線吸収剤はこれらに限定されない。例えば、市販品の高分子紫外線吸収剤として、大塚化学(株)製のPUVA−30Mも好ましく用いられる。本発明において、紫外線吸収剤は2種以上用いてもよい。
【0087】
本発明では、紫外線吸収剤として以下の市販品も使用することができる。ベンゾトリアゾール系としてはTINUBIN P(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 234(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 320(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 327(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 328(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、スミソーブ340(住友化学社製)、アデカスタブLA−31(旭電化工業社製)などが挙げられる。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、シーソーブ100(シプロ化成社製)、シーソーブ101(シプロ化成社製)、シーソーブ101S(シプロ化成社製)、シーソーブ102(シプロ化成社製)、シーソーブ103(シプロ化成社製)、アデカスタブLA−51(旭電化工業社製)、ケミソープ111(ケミプロ化成社製)、UVINUL D−49(BASF社製)などが挙げられる。また、オキザリックアシッドアニリド系紫外線吸収剤としては、TINUBIN 312(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)やTINUBIN 315(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)などが挙げられる。さらにサリチル酸系紫外線吸収剤としては、シーソーブ201(シプロ化成社製)やシーソーブ202(シプロ化成社製)が上市されており、シアノアクリレート系紫外線吸収剤としてはシーソーブ501(シプロ化成社製)、UVINUL N−539(BASF社製)などが挙げられる。これらの中でも、特にアデカスタブLA−31が好ましい。
【0088】
本発明に用いられる紫外線吸収剤および紫外線吸収性ポリマーの使用量は、化合物の種類、使用条件などにより一様ではないが、紫外線吸収剤である場合には、製膜されるセルロースアシレートフィルム1m2 当たり0.2〜3.0gが好ましく、0.4〜2.0gがさらに好ましく、0.5〜1.5gが特に好ましい。また、紫外線吸収ポリマーを用いる場合には、セルロースアシレートフィルム1m2 当たり0.6〜9.0gが好ましく、1.2〜6.0gがさらに好ましく、1.5〜3.0gが特に好ましい。
【0089】
(光安定剤)
本発明では、光安定剤を用いることもできる。光安定剤としては、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)化合物が挙げられ、これは既知の化合物であり、例えば、米国特許第4,619,956号明細書の第5〜11欄および米国特許第4,839,405号明細書の第3〜5欄に記載されているように、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン化合物、またはそれらの酸付加塩もしくはそれらと金属化合物との錯体が含まれる。これらは、旭電化からアデカスタブLA−57、同LA−52、同LA−67、同LA−62、同LA−77として、またチバ・スペシャリティーケミカルズ社からTINUVIN 765、同144として市販されている。
【0090】
これらのヒンダードアミン系耐光安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらヒンダードアミン系光安定剤と、可塑剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤とを併用してもよいし、添加剤の分子構造の一部にヒンダードアミン系光安定剤の構造が導入されていてもよい。ヒンダードアミン系光安定剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、セルロースアシレート100質量部に対して好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは0.02〜15質量部、特に好ましくは0.05〜10質量部である。製膜時に光安定剤を添加する場合、その添加の時期は溶融物(メルト)作製工程の何れの段階であってもよく、また、溶融物作製工程(メルト調製工程)の最後に添加してもよい。
【0091】
(可塑剤)
本発明のセルロースアシレート組成物には可塑剤を添加することができる。また、製膜時にセルロースアシレート組成物に可塑剤を添加してもよい。
可塑剤を添加することによって、得られるフィルムの機械的性質を向上させ、柔軟性や耐吸水性を付与し、水分透過率を低減させる等のフィルム改質効果が期待できる。また溶融流延法で製膜する際には、用いるセルロースアシレート単独のガラス転移温度よりも、可塑剤の添加によりフィルム構成材料の溶融温度を低下させることができる。また、同じ加熱温度において、セルロースアシレートよりも粘度を低下させることができる。本発明に用いる可塑剤としては、例えばリン酸エステル誘導体、カルボン酸エステル誘導体が好ましく用いられる。また、特開2003−12859号公報に記載の重量平均分子量が500〜10000であるエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマー、芳香環を側鎖に有するアクリル系ポリマーまたはシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリル系ポリマーなども好ましく用いられる。
【0092】
可塑剤は液体であっても固体であってもよく、組成物の制約上無色であることが好ましい。熱的にはより高温において安定であることが好ましく、分解開始温度が150℃以上、さらに200℃以上であるものが好ましい。添加量は光学物性・機械物性に悪影響がなければよく、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。具体的には、セルロースアシレート100質量部に対して、好ましくは0.001〜50質量部、より好ましくは0.01〜30質量部である。特に0.1〜15質量%が好ましい。以下、本発明に用いられる可塑剤について具体的に説明するが、本発明で用いることができる可塑剤は以下に例示されるものに限定されない。
【0093】
可塑剤として、リン酸エステル系可塑剤を好ましく用いることができる。具体的には、リン酸シクロアルキルエステル、リン酸アリールエステルが挙げられる。これらの置換基は、同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のミックスでもよく、また置換基同士が共有結合で結合していてもよい。またエチレンビス(ジメチルホスフェート)、ブチレンビス(ジエチルホスフェート)等のアルキレンビス(ジアルキルホスフェート)、エチレンビス(ジフェニルホスフェート)、プロピレンビス(ジナフチルホスフェート)等のアルキレンビス(ジアリールホスフェート)、フェニレンビス(ジブチルホスフェート)、ビフェニレンビス(ジオクチルホスフェート)等のアリーレンビス(ジアルキルホスフェート)、フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、ナフチレンビス(ジトルイルホスフェート)等のアリーレンビス(ジアリールホスフェート)等のリン酸エステルが挙げられる。これらの置換基は、同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のミックスでもよく、また置換基同士が共有結合で結合していてもよい。
【0094】
さらにリン酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。上記化合物の中では、リン酸アリールエステル、アリーレンビス(ジアリールホスフェート)が好ましく、具体的にはトリフェニルホスフェート、フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)が好ましい。また特表平6−501040号公報の請求項3〜7に記載のリン酸エステル系可塑剤を用いることも好ましい。さらに、リン酸エステル系可塑剤としては、特開2002−363423号公報の段落番号[0027]〜[0034]、特開2002−265800号公報の段落番号[0027]〜[0034]、特開2003−155292号公報の段落番号[0014]〜[0040]等に記載の揮発性し難いリン酸エステル化合物を好ましい例として挙げることができる。
【0095】
リン酸エステル系可塑剤は、旭電化工業株式会社から、アデカスタブFP−500、アデカスタブFP−600、アデカスタブFP−700、アデカスタブFP−2100、アデカスタブPFR等として市販され、入手することができる。また、味の素化学株式会社から、レオフォースBAPPとして入手することもできる。
【0096】
可塑剤として、カルボン酸エステルも好ましく用いることができる。カルボン酸エステルとしては、例えば、フタル酸エステル類、クエン酸エステル類、アジピン酸エステル類、芳香族多価カルボン酸エステル類、肪族多価カルボン酸エステル類、ジグリセリンテトラアセテート、アルキルフタリルアルキルグリコレート、多価アルコールの脂肪酸エステル類などを挙げることができる。多価アルコール系可塑剤は、グリセリンエステル、ジグリセリンエステルなどグリセリン系のエステル化合物やポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物などである。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル等を単独あるいは併用するのが好ましい。
【0097】
本発明では、糖類系可塑剤も好ましく用いられる。糖類系可塑剤とは、具体的には単糖あるいは2〜10個の単糖単位を含む炭水化物の誘導体であるが、これらの単糖または多糖は、分子中の置換可能な基(例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基など)が置換されていることを特徴とする。置換基の例としては、エーテル基、エステル基、アミド基、イミド基などを挙げることができる。単糖または2〜10個の単糖単位を含む炭水化物の例としては、例えば、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、フルクトース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、トレハロース、イソトレハロース、ネオトレハロース、トレハロサミン、コウジビオース、ニゲロース、マルトース、マルチトール、イソマルトース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、δ−シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトールなどを挙げることができる。
【0098】
本発明では、ポリマー可塑剤も好ましく用いられる。ポリマー可塑剤としては、具体的には脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN−ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ4−ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア等が挙げられる。数平均分子量は、1,000〜500,000程度が好ましく、特に好ましくは、5,000〜200,000である。1,000以上であれば揮発性に問題が生じにくく、500,000以下であればより可塑化能力を発揮しやすく、セルロースアシレート組成物の機械的性質をより改善することができる。これらポリマー可塑剤は、1種の繰り返し単位からなる単独重合体でも、複数の繰り返し構造体を有する共重合体でもよい。また、上記ポリマーを2種以上併用して用いてもよく、他の可塑剤、酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤、滑り剤およびマット剤等を含有させてもよい。
【0099】
これらの可塑剤の添加量は、セルロースアシレートに対して、0.5〜50質量%の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは1〜30質量%の範囲、さらに好ましくは1〜15質量%の範囲である。これらの化合物の添加量は、上記目的の観点から適宜調整することができる。
【0100】
(微粒子)
本発明では、セルロースアシレートに微粒子を混合してもよい。微粒子としては、無機化合物の微粒子や有機化合物の微粒子が挙げられ、いずれでもよい。本発明におけるセルロースアシレートに含まれる微粒子の平均一次粒子サイズは、ヘイズを低く抑えるという観点から5nm〜3μmであることが好ましく、5nm〜2.5μmであることがより好ましく、10nm〜2.0μmであることがさらに好ましい。ここで、微粒子の平均一次粒子サイズは、セルロースアシレートフィルムを透過型電子顕微鏡(倍率50万〜100万倍)で観察し、粒子100個の一次粒子サイズの平均値を求めることにより決定する。微粒子の添加量は、セルロースアシレートに対して0.005〜1.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.8質量%であり、さらに好ましくは0.02〜0.4質量%である。
【0101】
また、本発明のセルロースアシレート組成物を用いて製造されるセルロースアシレートフィルム中での微粒子の平均二次粒子サイズは0.01〜5μmであることが好ましく、0.02〜3μmであることがより好ましく、0.02〜1μmであることが特に好ましい。ここで、微粒子の平均二次粒子サイズは、セルロースアシレートフィルムを透過型電子顕微鏡(倍率10万〜100万倍)で観察し、粒子100個の二次粒子サイズの平均値を求めることにより決定する。前記無機化合物としては、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2、V25、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウム等が挙げられる。好ましくは、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2およびV25の少なくとも1種であり、さらに好ましくはSiO2、TiO2、SnO2、Al23およびZrO2の少なくとも1種である。
【0102】
前記SiO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上、日本アエロジル(株)製)等の市販品を使用することができる。また、前記ZrO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR976およびR811(以上、日本アエロジル(株)製)等の市販品を使用することができる。またシーホスターKE−E10、同E30、同E40、同E50、同E70、同E150、同W10、同W30、同W50、同P10、同P30、同P50、同P100、同P150、同P250(日本触媒)なども使用することができる。さらに、シリカマイクロビーズP−400、700(触媒化成工業株式会社製品)も使用することができる。また、SO−G1、SO−G2、SO−G3、SO−G4、SO−G5、SO−G6、SO−E1、SO−E2、SO−E3、SO−E4、SO−E5、SO−E6、SO−C1、SO−C2、SO−C3、SO−C4、SO−C5、SO−C6、(株式会社アドマテックス製)も使用することができる。さらに、シリカ粒子8050、同8070、同8100、同8150(株式会社モリテックス 製、水分散物を粉体化)も使用することができる。
【0103】
なお、本発明では、予めセルロースアシレートに所望量よりも高濃度の安定剤を有する微粒子含有マスターペレットを作製しておいてもよい。これにより、微粒子の分散性のよいセルロースアシレートペレットが作製可能となり、優れた面状と表面の滑り性(キシミ防止)を備えたセルロースアシレートフィルムをハンドリング性よく製造することが可能になる。
この時、別途微粒子を含まないセルロースアシレートのマスターペレット(セルロースアシレートマスターペレット)を作製しておくことが必要である。その場合、微粒子含有マスターペレットには、同時に上記の安定剤を含有させておくことが好ましい。また、微粒子含有マスターペレット中の微粒子の添加量は特に制限されないが、好ましくはセルロースアシレートフィルム中の微粒子最終濃度の2〜50倍が好ましく、より好ましくは2〜30倍であり、さらに好ましくは3〜25倍であり、特に好ましくは4〜20倍である。セルロースアシレートマスターペレットと微粒子含有マスターペレットの混合には、前記した混合機を利用することができる。なお、微粒子含有マスターペレットを作製する段階で、微粒子以外の添加剤(安定剤、可塑剤、その他の添加剤など)を一緒に添加してもよく、その場合も微粒子以外の添加剤の濃度は、好ましくはセルロースアシレートフィルム中の所望添加剤最終濃度の2〜50倍が好ましく、より好ましくは2〜30倍であり、さらに好ましくは3〜25倍であり、特に好ましくは4〜20倍である。
【0104】
(光学調整剤)
本発明のセルロースアシレート組成物には、光学調整剤を添加することができる。光学調整剤は、製膜時にセルロースアシレート組成物に添加してもよい。
光学調整剤としてはレターデーション調整剤を挙げることができ、例えば、特開2001−166144号、特開2003−344655号、特開2003−248117号、特開2003−66230号各公報記載のものを使用することができる。光学調整剤を添加することによって、面内のレターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)を制御することができる。好ましい添加量は0〜10質量%であり、より好ましくは0〜8質量%、さらに好ましくは0〜6質量%である。
【0105】
《セルロースアシレートフィルムの製造》
以下に、本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法について、詳細に記述する。なお、本発明のセルロースアシレートフィルムは、一般式(I)で表される化合物の少なくとも一つと、一般式(II)または一般式(III)で表される化合物の少なくとも一つとを含有するものであればよく、本発明の製造方法により製造されたものに限定されるものではない。
【0106】
本発明のセルロースアシレート組成物やセルロースアシレートフィルムは、残留溶剤が0.01質量%以下、さらに好ましくは0質量%であることが好ましい。セルロースアシレート組成物や回収したセルロースアシレートフィルムを用いて溶融製膜する際に、残留溶剤は微細な気泡となり、クラックが発生し易くなる。回収セルロースアシレートを再利用することを考慮すると、残留溶剤の発生しない溶融製膜法により製膜することが好ましく、特に本発明の製造方法により製膜することが好ましい。
【0107】
溶融製膜法によるセルロースアシレートフィルムの製造は、以下の手順で実施することができる。
(1)ペレット化
製膜用の原料となるセルロースアシレートと添加物は、溶融製膜に先立ち混合しペレット化しておくのが好ましい。このとき、再使用セルロースアシレートと未使用セルロースアシレートを添加剤と一緒にペレット化することがより好ましい。その際、混合の均質化を行うことが好ましい。
ペレット化を行うにあたりセルロースアシレートおよび添加物は事前に乾燥しておくことが好ましいが、ベント式押出機を用いることで、これに代用することもできる。乾燥を行う場合は、乾燥方法として、加熱炉内にて90℃で8時間以上加熱する方法等を用いることができるが、この限りではない。ペレット化はセルロースアシレートと添加物を2軸混練押出機を用い150℃〜250℃で溶融後、ヌードル状に押出したものを水中で固化し裁断することで行うことができる。溶融温度は、180〜230℃が好ましく、190〜220℃がより好ましく、200〜225℃がさらに好ましい。また、押出機による溶融後水中に口金より直接押出ながらカットする、アンダーウオーターカット法等によりペレット化を行ってもかまわない。
押出機は十分な溶融混練が得られる限り、任意の公知の単軸スクリュー押出機、非かみ合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、かみ合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、かみ合い型同方向回転二軸スクリュー押出機などを用いることができる。
ペレットの大きさは、断面積が1mm2〜300mm2、長さが1mm〜30mmが好ましく、より好ましくは断面積が2mm2〜100mm2、長さが1.5mm〜10mmである。またペレット化を行う時に、上記添加物は押出機の途中にある原料投入口やベント口から投入することもできる。
押出機の回転数は10rpm〜1000rpmが好ましく、より好ましくは20rpm〜700rpm、さらにより好ましくは30rpm〜500rpmである。押出機の回転数が10rpmよりも大幅に低くなり過ぎると、滞留時間が長くなり、熱劣化により分子量が低下したり、黄色味が悪化したりしやすくなってしまう。逆に押出機の回転数が500rpmよりも大幅に高くなり過ぎると、剪断により分子の切断が起きやすくなり、分子量低下を招いたり、架橋ゲルの発生が増加したりするなどの問題が生じやすくなる。
ペレット化における押出滞留時間は10秒〜6分、より好ましくは15秒〜5分、さらに好ましくは30秒〜3分である。十分に溶融ができれば、滞留時間は短い方が樹脂の劣化や黄色味の発生を抑えることができるため好ましい。
【0108】
(2)溶融製膜
(乾燥)
溶融製膜に先立ち原料中(ペレットや破砕した再使用セルロースアシレート)の水分を減少させておくことが好ましい。乾燥の方法については、除湿風乾燥機を用いて乾燥することが一般的であるが、目的とする含水率が得られるのであれば特に限定されない。本発明では、加熱、送風、減圧、攪拌などの手段を単独または組み合わせで用いることで効率的に行うことが好ましい。さらには、乾燥ホッパ−を断熱構造にすることがより好ましい。乾燥温度は40〜180℃が好ましく、さらに好ましくは60〜160℃、特に好ましくは80〜140℃である。乾燥風量は多いほど乾燥効率は上がるが、水分除去効率と経済性を考慮すると1時間あたりにセルロースアシレート100kgを乾燥させるのに必要な風量としては好ましくは10〜200m3/時間で有り、特に好ましくは50〜125m3/時間である。乾燥風の露点は好ましくは−60℃〜0℃であり、乾燥効率と経済性を考慮するとより好ましくは−40℃〜−20℃である。
本発明のセルロースアシレートは、その含水率が1.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0109】
(溶融押出し)
原料のセルロースアシレートは押出機の供給口を介してシリンダー内に供給される。このとき原料には、下記のいずれを選択してもよい。
イ)未使用セルロースアシレートペレットと破砕した再使用セルロースアシレート
ロ)未使用のセルロースアシレートと再使用のセルロースアシレートを混合したペレット
ハ)未使用のセルロースアシレートから作成したペレットと再使用のセルロースアシレートから作成したペレット
イ)およびハ)については、これらをブレンドする際に混合の均質化を行うことが好ましい。
【0110】
押出し機のシリンダー内は供給口側から順に、供給口から供給したセルロースアシレート樹脂を定量輸送する供給部(領域A)とセルロースアシレート樹脂を溶融混練・圧縮する圧縮部(領域B)と溶融混練・圧縮されたセルロースアシレート樹脂を計量する計量部(領域C)とで構成される。セルロースアシレート樹脂は上述の方法により水分量を低減させるために、乾燥することが好ましいが、残存する酸素による溶融樹脂の酸化を防止するために、押出機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出し機を用い真空排気しながら実施するのがより好ましい。押出機のスクリュー圧縮比は通常2.5〜4.5に設定され、L/Dは通常20〜70に設定されている。ここでスクリュー圧縮比とは供給部Aと計量部Cとの容積比、即ち供給部Aの単位長さあたりの容積÷計量部Cの単位長さあたりの容積で表され、供給部Aのスクリュー軸の外径d1、計量部Cのスクリュー軸の外径d2、供給部Aの溝部径a1、および計量部Cの溝部径a2とを使用して算出される。また、L/Dとはシリンダー内径に対するシリンダー長さの比である。また、押出温度は好ましくは190℃〜240℃に設定される。より好ましくは200℃〜240℃、さらに好ましくは210℃〜240℃、特に好ましくは220℃〜235℃である。
【0111】
スクリュー圧縮比が2.5を下回って小さ過ぎると、十分に溶融混練されず、未溶解部分が発生し、製造後のセルロースアシレートフィルムに未溶解異物が残存し易くなり、さらに、気泡が混入し易くなる。これにより、セルロースアシレートフィルムの強度が低下したり、あるいはフィルムを延伸する場合に破断し易くなったりして、配向を十分に上げることができなくなる。逆に、スクリュー圧縮比が4.5を上回って大き過ぎると、せん断応力がかかり過ぎて発熱により樹脂が劣化し易くなるので、製造後のセルロースアシレートフィルムに黄色味が出易くなる。また、せん断応力がかかり過ぎると分子の切断が起こり分子量が低下してセルロースアシレートフィルムの機械的強度が低下する。したがって、製造後のセルロースアシレートフィルムに黄色味が出にくく且つフィルム強度が強くさらに延伸破断しにくくするためには、スクリュー圧縮比は2.5〜4.5の範囲が好ましく、より好ましくは2.8〜4.2、特に好ましいのは3.0〜4.0の範囲である。
【0112】
また、L/Dが20を下回って小さ過ぎると、溶融不足や混練不足となり、圧縮比が小さい場合と同様に製造後のセルロースアシレートフィルムに未溶解異物が発生し易くなる。逆に、L/Dが70を上回って大き過ぎると、押出機内でのセルロースアシレート樹脂の滞留時間が長くなり過ぎ、樹脂の劣化を引き起こし易くなる。また、滞留時間が長くなると分子の切断が起こったり分子量が低下してセルロースアシレートフィルムの機械的強度が低下する。したがって、製造後のセルロースアシレートフィルムに黄色味が出にくく且つフィルム強度が強くさらに延伸破断しにくくするためには、L/Dは20〜70の範囲が好ましく、より好ましくは22〜65の範囲、特に好ましくは24〜50の範囲である。
また、押出温度は上述の温度範囲にすることが好ましい。このようにして得たセルロースアシレートフィルムは、ヘイズが通常2.0%以下、イエローインデックス(YI値)が通常10以下である特性値を有している。
ここで、ヘイズは押出温度が低過ぎないかの指標、換言すると製造後のセルロースアシレートフィルムに残存する未溶解異物の多少を知る指標になり、ヘイズが2.0%を超えると、製造後のセルロースアシレートフィルムの強度低下と延伸時の破断が発生し易くなる。また、イエローインデックス(YI値)は押出温度が高過ぎないかを知る指標となり、イエローインデックス(YI値)が10以下であれば、黄色味の点で問題無い。
【0113】
押し出し機の種類として、一般的には設備コストの比較的安い単軸押し出し機が用いられることが多く、フルフライト、マドック、ダルメージ等のスクリュータイプがあるが、熱安定性の比較的悪いセルロースアシレート樹脂には、フルフライトタイプが好ましい。また、設備コストは高価であるが、スクリューセグメントを変更することにより、途中でベント口を設けて不要な揮発成分を脱揮させながら押出ができる二軸押出機を用いることが可能である。二軸押し出し機には大きく分類して同方向と異方向のタイプがあり、どちらも用いることが可能であるが、滞留部分が発生し難くセルフクリーニング性能の高い同方向回転のタイプを用いることが好ましい。二軸押出機は設備が高価であるが、混練性が高く、樹脂の供給性能が高いため、低温での押出が可能となるため、熱分解し易いセルロースアセテート樹脂の製膜に適している。ベント口を適正に配置することにより、未乾燥状態でのセルロールアシレートペレットやパウダーをそのまま使用することも可能である。また、製膜途中で出たフィルムのミミ等も乾燥させることなしにそのまま再利用することもできる。
なお、好ましいスクリューの直径は目標とする単位時間あたりの押出量によって異なるが、好ましくは10mm〜300mm、より好ましくは20mm〜250mm、さらに好ましくは30mm〜150mmである。
【0114】
(濾過)
樹脂中の異物濾過のためや異物によるギアポンプ損傷を避けるために、押し出し機出口にフィルター濾材を設けるいわゆるブレーカープレート式の濾過を行うことが好ましい。またさらに精度高く異物濾過をするために、ギアポンプ通過後にいわゆるリーフ型ディスクフィルターを組み込んだ濾過装置を設けることが好ましい。本発明では再使用セルロースアシレート中の異物を少なくするために、このような濾過工程を入れることが好ましく、なかでも精密濾過の可能なリーフ型ディスクフィルターを用いることが好ましい。耐圧,フィルターライフの適性を確保するために、リーフ型ディスクフィルターの使用枚数は好ましくは1枚〜300枚、より好ましくは5枚〜120枚、さらに好ましくは10枚〜80枚とする。
濾過は、1段で行ってもよく、多段濾過でもよい。濾過精度は3μm〜20μmが好ましく、さらに好ましくは5μm〜15μmである。
濾材の種類は、高温高圧下で使用される点から鉄鋼材料を用いることが好ましく、鉄鋼材料の中でも特にステンレス鋼,スチールなどを用いることが好ましく、腐食の点から特にステンレス鋼を用いることが望ましい。濾材の構成としては、線材を編んだものの他に、例えば金属長繊維あるいは金属粉末を焼結し形成する焼結濾材が使用でき、濾過精度,フィルターライフの点から焼結濾材が好ましい。
【0115】
(ギアポンプ)
厚み精度を向上させるためには、吐出量の変動を減少させることが重要である。押出機出機とダイスの間にギアポンプを設けて、ギアポンプから一定量のセルロースアシレート樹脂を供給することが効果的である。ギアポンプとは、ドライブギアとドリブンギアとからなる一対のギアが互いに噛み合った状態で収容され、ドライブギアを駆動して両ギアを噛み合い回転させることにより、ハウジングに形成された吸引口から溶融状態の樹脂をキャビティ内に吸引し、同じくハウジングに形成された吐出口からその樹脂を一定量吐出するものである。押出機先端部分の樹脂圧力が若干の変動があっても、ギアポンプを用いることにより変動を吸収し、製膜装置下流の樹脂圧力の変動は非常に小さなものとなり、厚み変動が改善される。ギアポンプを用いることにより、ダイ部分の樹脂圧力の変動巾を±1%以内にすることが可能である。
ギアポンプによる定量供給性能を向上させるために、スクリューの回転数を変化させて、ギアポンプ前の圧力を一定に制御する方法も用いることができる。また、ギアポンプのギアの変動を解消した3枚以上のギアを用いた高精度ギアポンプも有効である。
【0116】
ギアポンプを用いるその他のメリットとしては、スクリュー先端部の圧力を下げて製膜できることから、エネルギー消費の軽減・樹脂温上昇の防止・輸送効率の向上・押出機内での滞留時間の短縮・押出機のL/Dを短縮が期待できる。また、異物除去のために、フィルターを用いる場合には、ギアポンプが無いと、ろ圧の上昇と共に、スクリューから供給される樹脂量が変動したりすることがあるが、ギアポンプを組み合わせて用いることにより解消が可能である。一方、ギアポンプのデメリットとしては、設備の選定方法によっては、設備の長さが長くなり、樹脂の滞留時間が長くなることと、ギアポンプ部のせん断応力によって分子鎖の切断を引き起こすことがあり、注意が必要である。
【0117】
本発明の製造方法では、ペレット化および溶融製膜温度と滞留時間とを制御することにより、溶融製膜中の熱分解を抑制する。ペレット化の温度および溶融製膜温度が高くなるか、または滞留時間が長くなると、熱分解またはラジカルゲル化の発生傾向が高くなり、これが製造したフィルムのゲル状ブツと面状不良の原因となる。本発明の製造方法では、180〜230℃で溶融してペレットを作製し、該ペレットを200〜240℃で溶融してダイから押し出すことが好ましい。投入ホッパからダイよりフィルム状排出するまでの時間を滞留時間と定義したとき、本発明の製造方法ではその滞留時間が6分以下であることが好ましい。より好ましいペレット化温度は190〜220℃であり、さらに好ましいペレット化温度は200〜225℃である。溶融製膜温度は210〜240℃がより好ましく、220〜235℃がさらに好ましい。また、滞留時間は5分以下であることがより好ましく、1〜5分であることがさらに好ましく、2〜5分であることがさらにより好ましく、2〜4分であることが特に好ましい。
【0118】
ギアポンプの軸受循環用ポリマーの流れが悪くなることにより、駆動部と軸受部におけるポリマーによるシールが悪くなり、計量および送液押し出し圧力の変動が大きくなったりする問題が発生する。このため、セルロースアシレート樹脂の溶融粘度に合わせたギアポンプの設計(特にクリアランス)が必要である。また、場合によっては、ギアポンプの滞留部分がセルロースアシレート樹脂の劣化の原因となるため、滞留のできるだけ少ない構造が好ましい。押出機とギアポンプあるいはギアポンプとダイ等をつなぐポリマー管やアダプタについても、できるだけ滞留の少ない設計が必要であり、且つ溶融粘度の温度依存性の高いセルロースアシレート樹脂の押出圧力安定化のためには、温度の変動をできるだけ小さくすることが好ましい。一般的には、ポリマー管の加熱には設備コストの安価なバンドヒーターが用いられることが多いが、温度変動のより少ないアルミ鋳込みヒーターを用いることがより好ましい。さらに上述のように押出し機内で、押出し機のバレルを3〜20に分割したヒーターで加熱し溶融することが好ましい。
【0119】
(ダイ)
ダイス内の溶融樹脂の滞留が少ない設計であれば、一般的に用いられるTダイ、フィッシュテールダイ、ハンガーコートダイの何れのタイプでも構わない。また、Tダイの直前に樹脂温度の均一性アップのためのスタティックミキサーを入れることも問題ない。Tダイ出口部分のクリアランスは一般的にフィルム厚みの1.0〜20.0倍がよく、さらに好ましくは3.0〜15倍である。特に好ましくは5.0〜10倍である。
ダイのクリアランスは40〜50mm間隔で調整可能であることが好ましく、より好ましくは25mm間隔以下である。また、下流のフィルム厚みを計測してダイの厚み調整にフィードバックさせる方法も厚み変動の低減に有効である。
機能層を外層に設けるため、多層製膜装置を用いて2種以上の構造を有するフィルムの製造も可能である。
【0120】
(キャスト)
ダイよりシート上に押し出された溶融樹脂をキャスティングドラム上で冷却固化し、フイルムを得る。この時、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、タッチロール法等の方法を用い密着を上げることが好ましい。タッチロール法ではキャスティングドラムにタッチロールを押し当てて製膜する。またエッジピニング(フィルムの両端部のみを密着させる方法)を採用することも好ましい。
タッチロールには通常剛直な素材を用いるが、剛直すぎるとダイから出たメルトをロール間で挟む時に残留歪が発生し易く、一層部分的な歪を助長してしまう。このためタッチロールの材質は、弾性を有するものが好ましい。これにより過剰な面圧がかかっても、タッチロールが変形することでメルトとの密着を向上させることができる。即ち、両端の厚みは上述のように厚くなり易いが、このような変形し易い(低弾性を有する)タッチロールを用いることで、ロールがしなやかに変形し、メルトをより効果的に挟み込むことができる。
ロールに低弾性を付与するためには、ロールの外筒厚みを通常のロールよりも薄くすることが必要であり、外筒の肉厚Zは、0.05mm〜7.0mmが好ましく、より好ましくは0.2mm〜5.0mmである。さらに好ましくは0.3mm〜3.5mmである。タッチロールは金属シャフトの上に設置し、その間に熱媒(流体)を通してもよく、外筒と金属シャフトの上に間に弾性体層を設け、外筒の間に熱媒(流体)を満たしたものが挙げられる。
【0121】
タッチロールのキャスティングロールに対する押え圧は、0.1〜10MPaが好ましく、より好ましくは0.2〜8MPa、さらに好ましくは0.3〜5MPaである。ここでいう押え圧とは、タッチロールを押付ける力を、タッチロールとキャスティングロールの接触面積で割った値を指す。押え圧は上記範囲未満ではタッチロールの押し付けが弱く面内の不均一性を是正できず、一方上記を越えると全幅に亘り均一な押え圧を加えることができず(ロールがたわみ両端もしくは中央に線圧が集中し易い)不均一性が増加しやすくなる。
タッチロールの温度は、好ましくは60℃〜160℃、より好ましくは70℃〜150℃、さらに好ましくは80℃〜140℃に設定する。160℃以下であれば急冷の効果が得られやすく、60℃以上であれば樹脂が急激に収縮することもないため皺が発生しにくい。このような温度制御はこれらのロール内部に温調した液体、気体を通すことで達成できる。
タッチロール、キャスティングロールは、表面が鏡面であることが好ましく、算術平均高さRaが通常100nm以下、好ましくは50nm以下、さらに好ましくは25nm以下である。具体的には例えば特開平11−314263号公報、特開2002−36332号公報、特開平11−235747号公報、国際公開第97/28950号パンフレット、特開2004−216717号公報、特開2003−145609号公報記載のものを利用できる。
【0122】
また、静電印加を行うことでも本発明を実施できる。静電印加はメルトに静電気を与え、これによりキャスティングロールとの密着を改良するものである。静電印加はメルト全面に付与してもよく、両端あるいは片端に付与してもよい。具体的には、例えば、特開平7−52232号、特開平8−111347号、特開平10−315306号、特開平10−323881号各公報などに記載の方法を使用することができる。
本発明では、両端に静電印加するエッジピニング法を用いるほうが、全幅に渡り静電印加する方法より好ましい。静電印加する幅は一端あたり全幅の1%〜20%が好ましく、より好ましくは2%〜15%、さらに好ましくは3%〜12%である。すなわち、全面に渡って静電印加を行うと幅全面に渡り急冷され大きな熱収縮応力が発生するため皺が発生し易いが、両端のみを静電印加する方法では必要な端部のみを効率的に冷却するため熱収縮応力も小さく皺が発生し難いため、より好ましい。幅静電印加はメルトが接触する直上1cm〜30cmのところに3kV〜15kV、より好ましくは4kV〜12kVの、さらに好ましくは5kV〜9kVの電圧を電極に加えることが望ましい。電極は針状のものを使用することができ、この本数を増やすことで静電印加の幅を調整できる。このようなエッジピニングの方法としては、例えば特開2003−94509号、特開2004−91619号、特開2004−160819号、特開2005−14522号各公報などに記載の方法を用いることができる。
【0123】
このキャスティングロールの直ぐ後に1本以上のキャスティングロールを直列に並べ、固化したフィルムを徐冷することがより好ましい。好ましいキャスティングロールの総数は1本〜6本、より好ましくは2本〜5本である。キャスティングロール直径は50mm〜5000mmが好ましく、さらに好ましくは150mm〜1000mmである。複数本あるロールの間隔は、面間で0.3mm〜300mmが好ましく、さらに好ましくは3mm〜30mmである。キャスティングドラムは60℃〜160℃が好ましく、さらに好ましくは80℃〜140℃である。
【0124】
この後、固化したフィルムをキャスティングドラムから剥ぎ取り、ニップロールを経た後巻き取る。巻き取り速度は10m/分〜100m/分が好ましく、より好ましくは15m/分〜80m/分、さらに好ましくは20m/分〜70m/分である。
製膜幅は、好ましくは0.7m〜5m、より好ましくは1m〜4m、さらに好ましくは1.3m〜3mが好ましい。このようにして得られた未延伸フィルムの厚みは30μm〜400μmが好ましく、より好ましくは40μm〜300μm、さらに好ましくは50μm〜200μmである。
【0125】
(トリミング)
キャストロールの後で少なくともフィルムの片端をスリット(トリミング)することが好ましい。トリミングはロータリーカッター、シャー刃、ナイフ等何れのタイプの物を用いても構わない。材質についても、炭素鋼、ステンレス鋼の何れを用いても構わない。一般的には、超硬刃、セラミック刃を用いると刃物の寿命が長く、また切り粉の発生が抑えられて好ましい。トリミング幅は、各々膳幅の1%〜20%が好ましく、より好ましくは2%〜15%、さらに好ましくは3%〜12%である。トリミングで切り落とした部分は上述のように直ちに破砕し再使用セルロースアシレートにすることが好ましい。
【0126】
(巻き取り)
巻き取り前に、片端あるいは両端に厚みだし加工(ナーリング処理)を行うことも好ましい。厚みだし加工による凹凸の高さは1μm〜200μmが好ましく、より好ましくは10μm〜150μm、さらに好ましくは20μm〜100μmである。厚みだし加工は両面に凸になるようにしても、片面に凸になるようにしても構わない。厚みだし加工の幅は1mm〜50mmが好ましく、より好ましくは3mm〜30mm、さらに好ましくは5mm〜20mmである。押出し加工は室温〜300℃で実施することができる。
また、巻き取り前に、少なくとも片面にラミフィルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。ラミフィルムの厚みは5μm〜200μmが好ましく、10μm〜150μmがより好ましく、15μm〜100μmがさらに好ましい。材質はポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン等とすることができ、特に限定されない。
【0127】
これらを実施した後にフィルムを巻き取るが、好ましい巻き取り張力は1kg/m幅〜50kg/幅、より好ましくは2kg/m幅〜40kg/幅、さらに好ましくは3kg/m幅〜20kg/幅である。巻き取り張力が1kg/m幅以上であればフィルムをより均一に巻き取りやすい。また、巻き取り張力が50kg/幅以下であればフィルムをより適度な堅さで巻き取りやすく、巻き外観が悪化しにくい。このため、フィルムのコブの部分がクリープ現象により延びてフィルムの波うちの原因になったり、フィルムの伸びによる残留複屈折が生じたりしにくい。巻き取り張力は、ラインの途中のテンションコントロールにより検知し、一定の巻き取り張力になるようにコントロールされながら巻き取ることが好ましい。製膜ラインの場所により、フィルム温度に差がある場合には熱膨張により、フィルムの長さが僅かに異なる場合があるため、ニップロール間のドロー比率を調整し、ライン途中でフィルムに規定以上の張力がかからない様にすることが必要である。
巻き取り張力はテンションコントロールの制御により、一定張力で巻き取ることもできるが、巻き取った直径に応じてテーパーをつけ、適正な巻き取り張力にすることがより好ましい。一般的には巻き径が大きくなるにつれて張力を少しずつ小さくするが、場合によっては、巻き径が大きくなるにしたがって張力を大きくする方が好ましい場合もある。
【0128】
《回収》
製膜した未延伸フィルムや延伸フィルムを製品サイズに合わせるためのトリミング工程実施時や、製膜条件調整時には屑フィルムが発生する。発生量は投入原料の5〜30%程度に達するのが一般的であるため、屑フィルムを粉砕し、未使用原料と混合あるいは単独で再利用することは、コスト面および環境面から極めて重要である。
【0129】
(フィルムの粉砕)
発生した屑フィルムは、製膜時のオンライン上で、連続した短冊状のままピンチロールまたは送風機で粉砕機へ送って細片状に粉砕することが好ましく、一旦巻き取り機で巻き取った後、にオフラインの粉砕機で粉砕する方法を用いても構わない。フィルム端部の熱劣化が激しいフィルムの場合には、フィルムの端部のみをスリットして除去して用いてもよい。
フィルムを粉砕する際には、粉砕機、固定刃と回転刃との接触により粉砕(切断・せん断)するもの、シュレッダーの様な短冊状に細切り状に切断するもの、あるいはカッターミルのようなせん断力を利用する粉砕機(細断機)、ブロワーカッターやハンマーミル等を利用できる。粉砕刃としては、平刃、くし刃、ロータリー刃等を用いることができる。
粉砕するフィルムのサイズは、通常0.1〜30mmであり、好ましくは0.5〜15mm、さらに好ましくは1〜10mm程度である。粉砕サイズが大き過ぎると配管に詰まり易く、一方、粉砕サイズが小さ過ぎても、配管内部に付着し易いため好ましくない。粉砕サイズは、通過させるメッシュの穴径で調整することができる。
【0130】
また、一次破砕機ではやや大きいサイズに粉砕し、二次粉砕機で目標サイズに粉砕する様な、多段粉砕も有効である。さらに粉砕時に剪断発熱し粉砕フィルムがブロッキングすることを防止するため、発熱し難い構造や冷却機能を有する粉砕機の利用が有効である。
粉砕時に金属部同士が接触し金属粉が発生するのを防止するため、磁力を有する金属除去装置により取り除くことが有効である。また、フィルム屑に付着したゴミを洗浄、乾燥で除去してもよい。
粉砕フィルムは、加圧あるいは減圧よる気体搬送により搬送するのが好ましく、コンベアやロータリーフィーダーによる輸送等によってもよい。また、粉砕フィルムはかさ比重が小さいため、圧縮機を用いたり、単軸あるいは二軸押出機を用いたリしてペレット化を行なってもかまわない。
【0131】
(粉砕原料の乾燥)
粉砕フィルムは、吸湿を防止した粉砕機を用いてインラインで直ちに原料に戻す場合は乾燥が不要だが、通常は所定の水分率にするため乾燥が必要である。乾燥する場合は、熱風乾燥機、ドライエアー乾燥機、真空乾燥機、超音波乾燥機、赤外線乾燥機等を使用できる。
【0132】
(粉砕原料輸送・供給)
粉砕、乾燥処理したフィルムは気送配管により原料タンクに供給され、バージン原料(未使用セルロースアシレート)と混合し、ホッパーへ供給してもよい。また、粉砕フィルムとバージン原料を別々に計量し、押出機機に供給してもよい。粉砕フィルム原料とバージン原料の混合割合は質量比で1:99〜70:30が好ましく、さらに好ましくは5:95〜50:50である。この範囲内であれば、粉砕フィルムとバージン原料の嵩密度が異なっても押出機への供給安定性が良好であるため好ましい。但しリペレット化した場合は、フィルム物性に問題がなければ、上記範囲である必要はなく、任意の配合比率で混合することが可能である。
【0133】
《未延伸セルロースアシレートフィルムの物性》
このようにして得た未延伸セルロースアシレートフィルムは、Reが0〜20nm,Rthが0〜80nmであることが好ましく、より好ましくはReが0〜10nm,Rthが0〜60nm、さらに好ましくはReが0〜10nm,Rthが0〜30nmである。Re、Rthは各々面内のリターデーションおよび厚さ方向のリターデーションを表す。ReはKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)で光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rthはセルロースアシレートフィルムを25℃・相対湿度60%にて24時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃・相対湿度60%において、フィルム表面に対し垂直方向および遅相軸を回転軸としてフィルム面法線から+50°から−50°まで10°刻みで傾斜させた方向から波長590nmにおける位相差値を測定する。その測定されたレタデーション値(Re)と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
未延伸セルロースアシレートフィルムは、製膜方向(長手方向)とフィルムのReの遅相軸とのなす角度θが、0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。
【0134】
Reの湿度依存性((25℃・相対湿度10%で測定したRe)−(25℃・相対湿度80%で測定したRe))は0nm〜8nmが好ましく、より好ましくは0nm〜5nmである。Rthの湿度依存性((25℃・相対湿度10%で測定したRth)−(25℃・相対湿度80%で測定したRth))は0nm〜20nmが好ましく、より好ましくは0nm〜10nmである。
光弾性係数はMD、TDとも13×10-13(cm2/dyn)〜25×10-13(cm2/dyn)が好ましく、より好ましくは14×10-13(cm2/dyn)〜20×10-13(cm2/dyn)である。
全光透過率は90%〜100%が好ましい。ヘイズは好ましくは0〜1%であり、より好ましくは0〜0.6%である。
厚みむらは長手方向、幅方向いずれも0%〜3%が好ましく、さらに好ましくは0%〜2%である。
引張り弾性率は1.5kN/mm2〜3.5kN/mm2が好ましく、より好ましくは1.8kN/mm2〜2.6kN/mm2である。破断伸度は3%〜300%が好ましい。
【0135】
Tgは95℃〜145℃が好ましい。80℃1日での熱寸法変化は縦、横両方向とも0%〜±1%が好ましく、さらに好ましくは0%〜±0.3%である。
40℃・相対湿度90%での透水率は300g/m2・日〜1000g/m2・日が好ましく、さらに好ましくは500g/m2・日〜800g/m2・日である。25℃・相対湿度80%での平衡含水率は1質量%〜4質量%が好ましく、さらに好ましくは1.5質量%〜2.5質量%である。
熱膨張係数はMD、TDとも50ppm/℃〜180ppm/℃が好ましく、より好ましくは100ppm/℃〜160ppm/℃である。湿度熱膨張係数はMD、TDとも40ppm/℃〜90ppm/℃が好ましく、より好ましくは50ppm/℃〜80ppm/℃である。
【0136】
《延伸および延伸セルロースアシレートフィルムの物性》
(1)延伸
製膜したセルロースアシレートフィルムを、縦延伸、横延伸することも好ましい。縦延伸、横延伸はいずれか一方だけを実施してもよいし、両方実施してもよい。また縦延伸、横延伸は各々1回で行ってもよく、複数回に亘って実施してもよく、同時に縦、横に延伸してもよい。
縦延伸、横延伸はTg〜(Tg+50℃)で行うのが好ましく、より好ましくは(Tg+3℃)〜(Tg+40℃)、さらに好ましくは(Tg+5℃)〜(Tg+30℃)である。
好ましい延伸倍率は少なくとも一方向に1%〜200%、より好ましくは2%〜180%、さらに好ましくは3%〜150%である。縦、横均等に延伸してもよいが、一方の延伸倍率を他方より大きくし不均等に延伸するほうがより好ましい。縦(MD)、横(TD)いずれを大きくしてもよいが、小さい方の延伸倍率は1%〜30%が好ましく、より好ましくは2%〜25%であり、さらに好ましくは3%〜20%である。大きいほうの延伸倍率は30%〜200%であり、より好ましくは35%〜180%、さらに好ましくは40%〜150%である。ここでいう延伸倍率は、以下の式を用いて求めたものである。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/(延伸前の長さ)
このような延伸は、出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸してもよく(縦延伸)、フィルムの両端をチャックで把持しこれを直交方向(長手方向と直角方向)に広げてもよい(横延伸)。また、特開2000−37772号、特開2001−113591号、特開2002−103445号各公報に記載の同時2軸延伸法を用いてもよい。
【0137】
Re、Rthの比を自由に制御するには、縦延伸の場合、ニップロール間をフィルム幅で割った値(縦横比)を制御することでも達成できる。即ち縦横比を小さくすることで、Rth/Re比を大きくすることができる。また、縦延伸と横延伸とを組み合わせてRe,Rthを制御することもできる。即ち縦延伸倍率と横延伸倍率を差が小さくすることでReは小さくでき、この差を大きくすることでReは大きくできる。
【0138】
(2)延伸セルロースアシレートフィルムの物性
このようにして延伸したセルロースアシレートフィルムのRe、Rthは下式を満足することが好ましい。
150≧Re≧0
300≧Rth≧0
Re、Rthは下式を満足することがより好ましい。
Rth≧Re×1.1
120≧Re≧10
280≧Rth≧50
Re、Rthは下式を満足することがさらに好ましい。
Rth≧Re×1.2
100≧Re≧20
260≧Rth≧100
【0139】
また製膜方向(長手方向)と遅相軸とのなす角度θは、縦延伸の場合0±3°が好ましく、より好ましくは0±1°である。横延伸の場合は、90±3°あるいは−90±3°が好ましく、より好ましくは90±1°あるいは−90±1°である。
延伸後のセルロースアシレートフィルムの厚みは15μm〜200μmが好ましく、より好ましくは40μm〜140μmである。厚みむらは長手方向、幅方向いずれも0%〜3%が好ましく、さらに好ましくは0%〜1%である。
延伸セルロースアシレートフィルムの物性は以下の範囲が好ましい。
引張り弾性率は1.5kN/mm2以上3.0kN/mm2未満が好ましく、より好ましくは1.8kN/mm2〜2.6kN/mm2である。
破断伸度は3%〜100%が好ましく、より好ましくは8%〜50%である。
Tgは95℃〜145℃が好ましく、より好ましくは105℃〜135℃である。
80℃1日での熱寸法変化は縦、横両方向とも0%〜±1%が好ましく、さらに好ましくは0%〜±0.3%である。
40℃・相対湿度90%での透水率は300g/m2・日〜1000g/m2・日が好ましく、さらに好ましくは500g/m2・日〜800g/m2・日である。
25℃・相対湿度80%での平衡含水率は1質量%〜4質量%が好ましく、さらに好ましくは1.5質量%〜2.5質量%である。
ヘーズは0%〜3%が好ましく、より好ましくは0%〜1%以下である。全光透過率は90%〜100%が好ましい。
【0140】
《セルロースアシレートフィルムの面状・結晶性》
本発明の延伸・未延伸セルロースアシレートフィルムにおいて、その長手方向に形成されるダイラインの深さは500nm以下、幅は0.2mm以上、より好ましくは、深さ100nm以下、幅0.3mm以上、さらに好ましくは、深さ50nm以下、幅0.5mm以上である。ダイラインの高さ、深さは、三次元構造解析顕微鏡(Zygo社製 NewView 6000型)を用いてフィルムの凹凸を測定することにより得られる。
また、上記ダイラインの本数は、幅方向に対して、5本/10cm以下、より好ましくは、3本/10cm以下、さらに好ましくは1本/10cm以下である。ダイラインの数は、該フィルム(製膜全幅×長手方向30cm)を白色スクリーンの前に10mmの間隔を空け平行に設置し、このフィルムの中央部から32.5度の方向に1m離して設置したスライド投影機(例えばキャビン工業(株)製Color CabinIII)から投光し、スクリーンに投影された製膜方向(MD)に平行なスジ(光の明暗)の内、3mm幅以下のものの本数を全幅に亘って数え、幅10cmあたりの本数を求めた。
【0141】
また、本発明のセルロースアシレートフィルムに含まれる、最大径50μm以上の異物は、好ましくは0個/3m長×全幅であり、最大径20〜50μm以下の異物は好ましくは30個/3m長×全幅以下である。さらに、該フィルムをクロスニコル状態に配置された2枚の偏光板の間に配置し、一方の偏光板側から光を当てて他方の偏光板の側から観測するに当って、最大径20〜50μm異物のうち輝点となる数は、好ましくは15個/3m長×全幅以下であり、より好ましくは10個/3m長×全幅以下、さらに好ましくは5個/cm2以下である。なお、異物の数、大きさの測定は、製膜フィルムを、3m長×全幅でサンプリングし、反射光源のもとで膜中異物を目視にて検出した後、光学顕微鏡を用いてその数と大きさを測定することができる。
ダイライン、フィルム中に含まれる異物の数が上記範囲であると、高輝度のバックライトユニットを有する液晶表示ユニットに組み込む場合にも光漏れなどがなく良好な表示状態とすることができる。
【0142】
未延伸・延伸セルロースアシレートフィルムは結晶性を示し、示差熱分析計(DSC)において170℃〜240℃に結晶融解に起因する吸熱ピークが現れる。結晶融解熱は7J/g〜20J/gが好ましい。
【0143】
《セルロースアシレートフィルムの表面処理》
セルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行なうことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10-3〜20Torrの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、さらにまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類およびそれらの混合物などが挙げられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)30頁〜32頁に詳細に記載されている。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10〜1000keV下で20〜500kGyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30〜500keV下で20〜300kGyの照射エネルギーが用いられる。これらの中でも特に好ましくは、アルカリ鹸化処理でありセルロースアシレートフィルムの表面処理としては極めて有効である。
【0144】
アルカリ鹸化処理は、鹸化液に浸漬してもよく、鹸化液を塗布してもよい。浸漬法の場合は、NaOHやKOH等のpH10〜14の水溶液を20℃〜80℃に加温した槽を0.1分〜10分通過させたあと、中和、水洗、乾燥することで達成できる。塗布方法の場合、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を用いることができる。アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、鹸化液の透明支持体に対して塗布するために濡れ性が良く、また鹸化液溶媒によって透明支持体表面に凹凸を形成させずに、面状を良好なまま保つ溶媒を選択することが好ましい。具体的には、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、上記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがさらに好ましい。
【0145】
鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒〜5分が好ましく、5秒〜5分がさらに好ましく、20秒〜3分が特に好ましい。アルカリ鹸化反応後、鹸化液塗布面を水洗あるいは酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。また、塗布式鹸化処理と後述の配向膜解塗設を、連続して行なうことができ、工程数を減少できる。これらの鹸化方法としては、具体的には、例えば、特開2002−82226号公報、国際公開第02/46809号パンフレットに内容されている方法が挙げられる。
機能層との接着のため下塗り層を設けることも好ましい。この層は上記表面処理をした後、塗設してもよく、表面処理なしで塗設してもよい。下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載されている。
これらの表面処理、下塗り工程は、製膜工程の最後に組み込むこともでき、単独で実施することもでき、後述の機能層付与工程の中で実施することもできる。
【0146】
《セルロースアシレートフィルムの機能化》
上記の未延伸、延伸セルロースアシレートフィルムや、これらに上記の表面処理を施したフィルムは、そのまま単独で使用してもよいし、さらにこれらと他のフィルムや素子を組み合わせて使用してもよい。中でも、本発明のセルロースアシレートフィルムに、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に詳細に記載されている機能性層を組み合わせて使用することが好ましい。特に好ましいのが、偏光膜の付与、光学補償層の付与、反射防止層の付与であり、これによって、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムが提供される。
【0147】
(偏光板の作成)
現在、市販の偏光膜は、延伸したポリマーを、浴槽中のヨウ素もしくは二色性色素の溶液に浸漬し、バインダー中にヨウ素、もしくは二色性色素を浸透させることで作製されるのが一般的である。偏光膜は、Optiva Inc.に代表される塗布型偏光膜も利用できる。偏光膜におけるヨウ素および二色性色素は、バインダー中で配向することで偏光性能を発現する。二色性色素としては、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素あるいはアントラキノン系色素が用いられる。二色性色素は、水溶性であることが好ましい。二色性色素は、親水性置換基(例、スルホ基、アミノ基、ヒドロキシル基)を有することが好ましい。例えば、発明協会公開技法(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行)58頁に記載の化合物が挙げられる。
詳細な偏光板の作製方法および偏光板特性は特開2005−128520号公報の段落番号[0008]〜[0020]、特開2005−266222号公報の段落番号[0007]〜[0013]、特開2005−138375号公報の段落番号[0083]〜[0113]、特開2006−2026の段落番号[0142]〜[0145]、特開2006−45500の段落番号[0109]〜[0111]に記載するものが好ましく用いることができる。
【0148】
(光学補償フィルムの作成)
光学異方性層は、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶化合物を補償するためのものであり、セルロースアシレートフィルムの上に配向膜を形成し、さらに光学異方性層を付与することで形成される。
【0149】
(反射防止フィルムの作成)
反射防止膜は、一般に、防汚性層でもある低屈折率層、および低屈折率層より高い屈折率を有する少なくとも一層の層(即ち、高屈折率層、中屈折率層)とを透明基体上に設けて成る。屈折率の異なる無機化合物(金属酸化物等)の透明薄膜を積層させた多層膜として、化学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法、金属アルコキシド等の金属化合物のゾルゲル方法でコロイド状金属酸化物粒子皮膜を形成後に後処理(紫外線照射:特開平9−157855号公報、プラズマ処理:特開2002−327310号公報)して薄膜を形成する方法が挙げられる。一方、生産性が高い反射防止膜として、無機粒子をマトリックスに分散されてなる薄膜を積層塗布してなる反射防止膜が各種提案されている。
上述したような塗布による反射防止フィルムに最上層表面が微細な凹凸の形状を有する防眩性を付与した反射防止層から成る反射防止フィルムも挙げられる。
本発明のセルロースアシレートフィルムは上記いずれの方式にも適用できるが、特に好ましいのが塗布による方式(塗布型)である。
【0150】
《液晶表示装置》
本発明のセルロースアシレートフィルム、並びに、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた本発明の偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムは、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。以下にこれらのフィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。これらのモードのうち、本発明のセルロースアシレートフィルム、偏光板および光学補償フィルムは特にTN、STN、VA、IPSモードの液晶表示装置に好ましく用いられる。これらの液晶表示装置は、透過型、反射型および半透過型のいずれでもよい。
【0151】
(TNモード液晶表示装置)
カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。TNモードの黒表示における液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。本発明のセルロースアシレートフィルムは、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の位相差板の支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置とについては、古くからよく知られている。TN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号および特開平9−26572号の各公報の他、モリ(Mori)他の論文(Jpn. J. Appl. Phys. Vol.36(1997)p.143や、Jpn. J. Appl. Phys. Vol.36(1997)p.1068)に記載がある。
【0152】
(STN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示 装置の位相差板の支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360°の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)との積(Δnd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開2000−105316号公報に記載がある。
【0153】
(OCBモード液晶表示装置)
棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルである。ベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置は、米国特許第4,583,825号、同5,410,422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend) 液晶モードとも呼ばれる。
OCBモードの液晶セルもTNモード同様、黒表示においては、液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0154】
(VAモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向しているのが特徴であり、VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償板や光学補償板の支持体として用いてもよい。または偏光板の保護フィルムとして特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。
【0155】
(IPSモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に面内に水平に配向しているのが特徴であり、これが電圧印加の有無で液晶の配向方向を変えることでスイッチングするのが特徴である。具体的には特開2004−365941号公報、特開2004−12731号、特開2004−215620号公報、特開2002−221726号公報、特開2002−55341号公報、特開2003−195333号公報に記載のものなどを使用できる。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償板や光学補償板の支持体として用いてもよい。または偏光板の保護フィルムとして特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。
【0156】
(反射型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の位相差板としても有利に用いられる。これらの表示モードは古くからよく知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、国際公開第00/65384号パンフレットに記載がある。
【0157】
(その他の液晶表示装置)
本発明の透明ポリマーフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置とについては、クメ(Kume)他の論文(Kume et al., SID 98 Digest 1089 (1998))に記載がある。
【0158】
《測定方法および評価方法》
以下において、セルロースアシレートペレットおよびセルロースアシレートフィルムの測定方法と評価方法ついて記載する。本出願に記載される測定値は、以下に記載される方法により測定されたものである。
【0159】
(セルロースアシレートの置換度)
アシル基の置換度は、ASTM D−817−91に準じた方法、セルロースアシレートを完全に加水分解し、遊離したカルボン酸またはその塩をガスクロマトグラフィーあるいは高速液体クロマトグラフィーで定量する方法、1H−NMRあるいは13C−NMRによる方法などを単独または組み合わせることにより決定した。
【0160】
(セルロースアシレートの分子量)
セルロースアシレート樹脂をTHFに溶解し0.5質量%のサンプル溶液を調製した。これを、GPCを用いて下記の条件下で測定し、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を求めた。なお、検量線はポリスチレン(TSK標準ポリスレン:分子量1050、5970、18100、37900、190000、706000)を用いて作成した。Mw、Mnを上記方法で決定した置換度から求めた1セグメントあたりの分子量で割った値をそれぞれDPwおよびDPnとした。
カラム:TSK GEL SupeZ4000、TSK GEL SupeZ2000、
TSK GEL SupeZM−M、TSK Guard Column SupeZ−L、
カラム温度:40℃
溶離液:THF
流量:1ml/分
検出器:RI
【0161】
(残留硫酸量)
セルロースアシレートの硫酸根の含有量は、ASTM D−817−96、酸化分解・電量滴定法などにより測定し、その量は、硫黄原子の含有量で定義した。
【0162】
(残留金属量)
セルロースアシレートを灰化後、ICP−MS分析法で定量した。
【0163】
(Tgの測定)
DSCの測定パンに試料を20mg入れた。これを窒素気流中で、10℃/分で30℃〜250℃まで昇温した後、30℃まで−10℃/分で冷却した。この後、再度30℃〜250℃まで昇温してベースラインが低温側から偏奇し始める温度をTgとした。
【0164】
(ReおよびRth)
フィルムを25℃・相対湿度60%にて24時間調湿後、プリズムカップラー(MODEL2010 Prism Coupler:Metricon製)を用い、25℃・相対湿度60%において、532nmの固体レーザーを用いて下記式(a)で表される平均屈折率(n)を求めた。
式(a): n=(nTE×2+nTM)/3
[式中、nTEはフィルム平面方向の偏光で測定した屈折率であり、nTMはフィルム面法線方向の偏光で測定した屈折率である。]
Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のリターデーションおよび厚さ方向のリターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定した。
測定されるフィルムが一軸または二軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)を算出した。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から−50°から+50°まで10°ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRに算出させた。
前記において、λに関する記載が特になく、Re、Rthとのみ記載されている場合は、波長590nmの光を用いて測定した値のことを表す。また、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率および入力された膜厚値を基に、以下の式(b)および式(c)よりRthを算出することもできる。
【0165】
【数1】

[式中、Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレタ−デーション値を表す。また、nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する方向の屈折率を表す。]
【0166】
式(c): Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
測定されるフィルムが一軸や二軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)を算出した。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出した。
これら平均屈折率と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRにnx、ny、nzを算出させた。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出した。
【0167】
(ReおよびRthの湿度依存性)
セルロースアシレートフィルムを、25℃・相対湿度10%で上記と同様に測定しRe(相対湿度10%)、Rth(相対湿度10%)を求めた。さらにこれらの試料を25℃・相対湿度80%で同様に測定し、Re(相対湿度80%)、Rth(相対湿度80%)を求めた。
25℃におけるRe(相対湿度80%)とRe(相対湿度10%)との差の絶対値を計算してReの湿度依存性とし、25℃におけるRth(相対湿度80%)とRth(相対湿度10%)との差の絶対値を計算してRthの湿度依存性とした。
【0168】
(Reムラ,Rthムラ)
セルロースアシレートフィルムの長さ方向10m、250m、450mのそれぞれの領域において、幅方向に端部から20cmごとに7個所ずつサンプリングして、合計21サンプルを用意した。これらのサンプルを25℃・相対湿度60%に3時間調湿し、同一環境下でRe、Rthを測定し、得られた数値の最大値と最小値の差を、それぞれReムラ,Rthムラとして評価した。数値が小さいほど、光学特性のバラツキが小さくて優れていることを示す。
【0169】
(軸ズレ)
セルロースアシレートフィルムを70mm×100mmに切り出して、自動複屈折計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株)製)を用いて軸ズレ角度を測定した。セルロースアシレートフィルムの幅方向に全幅にわたって等間隔で20点測定し、絶対値の平均値を求めた。また、遅相軸角度(軸ズレ)のレンジとは、幅方向全域にわたって等間隔に20点測定し、軸ズレの絶対値の大きいほうから4点の平均と小さいほうから4点の平均の差をとったものである。
【0170】
(ダイスジ)
セルロースアシレートフィルムの流延方向(長さ方向)にスジ状に発生するダイスジの評価を、反射光源のもとで目視で観察することにより行った。評価基準は、以下のとおりとした。
A: ダイスジは見られなかった。
B: ダイスジが微かに見られた。
C: はっきりと認められるダイスジがあった。
D: ダイスジが全面に著しく発生した。
【0171】
(面状)
セルロースアシレートフィルムを全幅×流れ方向30cmに切り出して、異物およびダイラインの数は、該フィルムを白色スクリーンの前に10mmの間隔を空け平行に設置し、このフィルムの中央部から32.5度の方向に1m離して設置したスライド投影機(例えばキャビン工業(株)製Color CabinIII)から投光し、スクリーンに投影された製膜方向(MD)に平行なスジ(光の明暗)の内、3mm幅以下のものの本数を全幅に亘って数え、幅10cmあたりの本数を求めた。評価基準は、以下のとおりとした。
A: ダイズジが0本/10cm以下であった。
B: ダイズジが2本/10cm以下であった。
C: ダイズジが5本/10cm以下であった。
D: ダイズジ5本/10cmよりも多かった。
【0172】
(異物)
セルロースアシレートフィルムを全幅×流れ方向3m長でサンプリングし、反射光源のもとで膜中異物を目視にて検出した後、光学顕微鏡を用いてその数と大きさを測定することができる。直交状態(クロスニコル)に二枚の偏光板を配置して透過光を遮断し、二枚の偏光板の間にセルロースアシレートフィルムを置き、最大径20μm以上の異物で輝点となる数を計数した。
【0173】
(ゲン状ブツ)
セルロースアシレートフィルムの長さ製膜方向10m、250m、450mのそれぞれの領域において、幅方向に両端部から均等な5個所ずつ10cm×10cmの大きさでサンプリングして、合計15サンプルを用意した。平行状態(パラレル)に配置した二枚の偏光板の間にセルロースアシレートフィルムサンプルを置いた。セルロースアシレートフィルムを挟んだ偏光板に片側から光を照射し、反対側から光学顕微鏡(50倍)で10cm2当たりの最大径20μm以上のゲル状ブツ数をカウントし、15個サンプルの測定数の平均値として記載した。
【0174】
(クラック発生率)
フィルムを一辺10cmの正方形のトムソン刃で打ち抜いて(例えば特公平6−73838号公報に記載の方法に準じて行う)、4隅を透過型光学顕微鏡を用いて100倍で観察した。クラックは細いヒゲ状に観察され、これを検出した隅の数(n)を観察した隅の数(m)で割り、クラック発生率を下記のように百分率で示した。
クラック発生率(%)=100×(n/m)
クラック発生率は以下の評価基準に従って評価した。評価Aおよび評価Bが実用範囲内であり、評価Aが最も好ましい。
A: クラック発生率が0%
B: クラック発生率が0%を超えて2%以下
C: クラック発生率が2%を超えて10%以下
D: クラック発生率が10%を超える。
【0175】
(残留溶剤量)
セルロースアシレートフィルム300mgを酢酸メチル30mlに溶解したもの(サンプルA)と、ジクロロメタン30mlに溶解したもの(サンプルB)を作製した。次いで、これらをガスクロマトグラフィー(GC)を用い、下記条件で測定した。
カラム:DB−WAX(0.25mmφ×30m、膜厚0.25μm)
カラム温度:50℃
キャリアーガス:窒素
分析時間:15分間
サンプル注入量:1μml
サンプルAで溶剤(酢酸メチル)以外の各ピークについて検量線を用いて含率を求め、その総和をSaとした。サンプルBで、サンプルAにおいて溶剤ピークで隠れていた領域の各ピークについて検量線を用いて含率を求め、その総和をSbとした。SaとSbの和を残留溶剤量とした。
【0176】
(傷つき)
セルロースアシレートフィルムを目視で観察し、以下の評価基準に従って傷つきを評価した。
A: 傷つきは全く認められなかった。
B: 傷つきがわずかに認められた。
C: 傷つきがかなり認められた。
D: 傷つきが著しく認められた。
【0177】
(ヘイズ)
セルロースアシレートフィルムを40mm×80mmに切り出して、25℃・相対湿度60%でヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機社製)を用いてJIS K−6714に従って測定した。
【0178】
(透過率)
セルロースアシレートフィルムを20mm×70mmに切り出して、25℃・相対湿度60%で透明度測定器(AKA光電管比色計、KOTAKI製作所)を用いて可視光(615nm)の透過率を測定した。
【0179】
(着色増加分)
セルロースアシレート組成物(製膜前の粉混合物)および製膜したフィルムのサンプルを、それぞれ0.2gをメチレンクロライドで全容が10mlとなるように溶解して2質量%の溶液を作製し、その400nmにおける吸光度を測定した。フィルムサンプルおよび組成物サンプルの400nmにおける吸光度の差を着色増加分として評価した。数値が小さいほど、着色が良好であることを示す。
着色増加分=フィルムの吸光度−組成物の吸光度
【0180】
(カール値)
セルロースアシレートフィルムを35mm×3mmに切り出して、カール調湿槽(HEIDON(No.YG53−168)、新東科学(株)製)にて相対湿度25%、55%、85%で24時間調湿し、曲率半径をカール板で測定した。またウェットでのカールは、水温25℃の水中に30分静置した後に、そのカール値を測定した。
【0181】
(キシミ値)
セルロースアシレートフィルムを100mm×200mmおよび75mm×100mmに切り出して、25℃・相対湿度60%の条件下で2時間調湿し、テンシロン引張試験機(RTA−100,オリエンテック(株)製)にて、大きいフィルム試料を台の上に固定し、200gのおもりをつけた小さいフィルム試料を載せた。次いで、おもりを水平方向に引っ張り、動きだした時の力、動いているときの力を測定し、静摩擦係数、動摩擦係数をそれぞれ算出して、靜的キシミ値および動的キシミ値とした。
F=μ×W (F:キシミ値、μ:摩擦係数、W:おもりの重さ(kgf))
【0182】
(含水率)
セルロースアシレートフィルムを7mm×35mmに切り出して、水分測定器と試料乾燥装置(CA−03、VA−05、共に三菱化学(株))とを用いてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料質量(g)で除して算出した。
【0183】
(熱収縮率)
セルロースアシレートフィルムを30mm×120mmに切り出して、90℃・相対湿度5%で24時間、120時間経時させ、自動ピンゲージ(新東科学(株)製)にて、両端に6mmφの穴を100mm間隔に開けて、間隔の原寸(L1)を最小目盛り1/1000mmまで測定した。さらに90℃・相対湿度5%にて24時間、120時間熱処理してパンチ間隔の寸法(L2)を測定した。熱収縮率を{(L1−L2)/L1}×100により求めた。
【0184】
(弾性率)
東洋ボールドウィン製の万能引っ張り試験機STM T50BPを用いて、23℃・相対湿度70%雰囲気中、引っ張り速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めた。
【0185】
(抗張力、伸長率)
試料15mm×250mmを、23℃・相対湿度65%、2時間調湿し、テンシロン引張試験機(RTA−100、オリエンテック(株))にてISO1184−1983に従って、初期試料長100mm、引張速度200±5mm/分で弾性率を引張初期の応力と伸びより算出し、抗張力、伸張力、破断伸度を評価した。
【実施例】
【0186】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0187】
[合成例1] セルロースアセテートプロピオネートの合成
セルロース(広葉樹パルプ)10質量部に、酢酸0.1質量部、プロピオン酸2.7質量部を噴霧した後、1時間室温で保存した(前処理)。別途、無水酢酸1.2質量部、プロピオン酸無水物61質量部、硫酸0.7質量部の混合物を調製し、−10℃に冷却後に、前記前処理を行ったセルロースと反応容器内で混合した。
30分経過後、外設温度を30℃まで上昇させ、4時間反応させた。反応容器に25%含水酢酸46質量部を添加し、内温を60℃に上昇させて、2時間攪拌した。酢酸マグネシウム4水和物と酢酸と水とを等質量ずつ混合した溶液を6.2質量部添加し、30分間攪拌した(中和工程)。反応液を金属焼結フィルター(保留粒子サイズ40μm、10μm2段で実施)にて加圧ろ過して異物を除去した。75%含水酢酸に濾過後の反応液を混合してセルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた後、70℃の温水にて、洗浄液のpHが6〜7になるまで洗浄を行った。さらに、0.001%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌する処理を行った後に濾過した。得られたセルロースアセテートプロピオネートは、70℃で乾燥させた。1H−NMRの測定から得られたセルロースアセテートプロピオネートはアセチル基の置換度0.15、プロピオニル基の置換度2.62、全アシル基の置換度の合計(全置換度)2.77、数平均分子量54500(数平均重合度DPn=173)、質量平均分子量132000(質量平均重合度DPw=419)、残存硫酸量45ppm、マグネシウム含有量8ppm、カルシウム含有量46ppm、ナトリウム含有量1ppm、カリウム含有量1ppm、鉄含有量2ppmであった。本試料のジクロロメタン溶液からキャストしたフィルムを偏光顕微鏡で観察した結果、偏光子を直交させた場合も平行にした場合も、異物は認められなかった。
【0188】
[合成例2] セルロースアセテートプロピオネートの合成
攪拌装置および冷却装置を付けた反応容器に、セルロース(パルプ)80質量部、酢酸33質量部を取り、60℃で4時間処理してセルロースを活性化した。無水酢酸33質量部、プロピオン酸518質量部、プロピオン酸無水物536質量部、硫酸4質量部を混合し、−20℃に冷却してから反応容器に添加した。
【0189】
反応の最高温度が35℃になるようにエステル化を実施し、反応液の粘度が840mPa・sとなった時点を反応の終点とした。終点での反応混合物の温度は15℃になるように調節した。水133質量部、酢酸133質量部の混合物を−5℃に冷却した反応停止剤を、反応混合物の温度が23℃を超えないように添加した。
【0190】
反応混合物の温度を60℃とし、2時間攪拌して部分加水分解を行い、硫酸に対して2当量の酢酸マグネシウムを含有する酢酸・水混合溶液にて部分加水分解を停止した。加水分解後の反応溶液を、保留粒子サイズ40μmのろ紙ならびに、保留粒子サイズ10μmの金属焼結フィルターで順次ろ過した。酢酸水溶液と混合することにより得られた高分子化合物の再沈殿を実施し、70〜80℃の温水での洗浄を繰り返した。脱液の後、0.001質量%の水酸化カルシウム水溶液に浸漬し、30分攪拌を行った後に再度脱液を行った。70℃で乾燥を行い、セルロースアセテートプロピオネートを得た。
【0191】
得られたセルロースアセテートプロピオネートは、アセチル基の置換度0.42、プロピオニル基の置換度2.40、全アシル基の置換度の合計(全置換度)2.82、数平均分子量50200(数平均重合度DPn=159)、質量平均分子量125900(質量平均重合度DPw=398)、残存硫酸量85ppm、マグネシウム含有量20ppm、カルシウム含有量93ppm、ナトリウム含有量1ppm、カリウム含有量は検出限界以下、鉄含有量3ppmであった。本試料のジクロロメタン溶液からキャストしたフィルムを偏光顕微鏡で観察した結果、不溶解物は認められなかった。
【0192】
[合成例3] セルロースアセテートブチレートの合成
攪拌装置および冷却装置を付けた反応容器に、セルロース(リンター)200質量部、酢酸100質量部を取り、60℃で4時間処理することによりセルロースを活性化した。酢酸161質量部、無水酢酸449質量部、酪酸742質量部、酪酸無水物1349質量部、硫酸14質量部を混合し、−20℃に冷却してから反応容器に添加した。
【0193】
反応の最高温度が30℃になるように制御しながらエステル化を実施し、反応液の粘度が1050mPa・sとなった時点を反応の終点とした。終点での反応混合物の温度は10℃になるように調節した。水297質量部、酢酸558質量部の混合物を−5℃に冷却した反応停止剤を、反応混合物の温度が23℃を超えないように添加した。
【0194】
反応混合物の温度を60℃とし、2時間30分攪拌して部分加水分解を行い、硫酸に対して2当量の酢酸マグネシウムを含有する酢酸・水混合溶液にて部分加水分解を停止した。加水分解後の反応溶液を、保留粒子サイズ40μmのろ紙ならびに、保留粒子サイズ10μmの金属焼結フィルターで順次ろ過した。酢酸水溶液と混合することにより得られた高分子化合物の再沈殿を実施し、70〜80℃の温水での洗浄を繰り返した。脱液の後、0.002質量%の水酸化カルシウム水溶液に浸漬し、30分攪拌を行った後に再度脱液を行った。70℃で乾燥を行い、セルロースアセテートブチレートを得た。
【0195】
得られたセルロースアセテートブチレートは、アセチル基の置換度1.51、ブチリル基の置換度1.19、全アシル基の置換度の合計(全置換度)2.70、数平均分子量55600(数平均重合度DPn=181)、質量平均分子量139000(質量平均重合度DPw=451)、残存硫酸量72ppm、マグネシウム含有量15ppm、カルシウム含有量83ppm、ナトリウム含有量1ppm、カリウム含有量4ppm、鉄含有量2ppmであった。本試料のジクロロメタン溶液からキャストしたフィルムを偏光顕微鏡で観察した結果、不溶解物はほとんど認められなかった。
【0196】
[実施例および比較例]
(1)セルロースアシレートの調製
上記のセルロースアシレート合成例1〜3の方法から、アシル化剤の組成、アシル化の反応温度および時間、部分加水分解の温度および時間を変化させることにより、表1に記載される種々のセルロースアシレートを同様に合成した。具体的には、目的とするアシル基の置換度に応じて、セルロースにアシル化剤(酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、プロピオン酸無水物、酪酸、酪酸無水物から単独または複数を組み合わせて選択される)、ならびに触媒としての硫酸を混合し、反応温度を40℃以下に保ちながらアシル化を実施した。原料となるセルロースが消失してアシル化が完了した後、さらに40℃以下で加熱を続けて、所望の重合度となるように調整した。酢酸水溶液を添加して残存する酸無水物を加水分解した後、60℃以下で加熱を行うことで部分加水分解を行い、所望の全置換度に調整した。残存する硫酸を過剰量の酢酸マグネシウムにより中和した。酢酸水溶液から再沈殿を行い、さらに、水での洗浄を繰り返すことにより、表1に記載のアシル基の種類、置換度、重合度の異なるセルロースアシレートを得た。
【0197】
(2)溶融製膜による未延伸セルロースアシレートフィルムの作成
(2−1)セルロースアシレートのペレット化
前記セルロースアシレートの原料を100℃で含水率を0.1質量%以下になるまで乾燥した後、安定剤(住友化学(株)製スミライザーGP)0.2質量部、安定剤(アデカスタブAO−60(旭電化工業社製))0.1質量部、安定剤(アデカスタブPEP36(旭電化工業社製))0.15質量部、二酸化珪素部粒子(アエロジルR972V)0.05質量部、紫外線吸収剤アデカスタブLA−31(旭電化工業社製)1.1質量部を添加した。また、下記表1の量になるように一般式(I)〜(III)で表される化合物を含有させた。各添加剤の添加量はセルロースアシレート100質量部に対する質量部である。
【0198】
下記表1に記載のセルロースアシレートに表1に記載の添加物をヘンシェルミキサー((株)三井三池製作所製)で撹拌・混合し、均一に混合した。この混合物を2軸混練押出機のホッパーに入れ、窒素雰囲気下で、入口の温度が150℃、出口の温度が215℃の条件で混練した。なお2軸混練機は圧縮率3のスクリューを用い、バレル直径40mm、L/D=40、吐出量=50〜250kg/時間で混練押出しを行った。さらに、二軸混練押出機スクリューのケーシングに排気口をつけ、これを真空ポンプに配管し、0.5気圧〜0.1気圧で真空排気しながら混練を行った。このようにして融解した後のセルロースアシレートを直径3mmのストランド状に押出した後、80℃の水浴温度で固化し、直径3mm長さ5mmに裁断した。
【0199】
(2−2)溶融製膜
上記方法で調製したセルロースアシレートペレットを、露点温度−40℃の脱湿風を用いて100℃で5時間乾燥し含水率を0.01質量%以下にした。これを80℃のホッパーに投入し、180℃(入口温度)から230℃(出口温度)に調整した溶融押出し機で溶融した。なお、これに用いたスクリューの直径は60mm、L/D=32、圧縮比4であった。溶融押出機から押出された樹脂はギアポンプで一定量計量され送り出されるが、この時ギアポンプ前の樹脂圧力が10MPaの一定圧力で制御できる様に、押出機の回転数を変更させた。ギアポンプから送り出されたメルト樹脂は濾過精度5μmのリーフディスクフィルターにて濾過し、スタティックミキサーを経由してスリット間隔0.8mm、230℃のハンガーコートダイから、キャスティングドラム(CD)上に表1記載の条件でダイから押出した。これをガラス転移温度(Tg)−5℃、Tg、Tg−10℃の設定した3連のキャストロール上に押し出し、最上流側のキャストロールに表1記載の条件でタッチロールを接触させ、あるいは静電印加し、未延伸フィルムを製膜した(ここでTgはメルト樹脂のガラス転移温度である)。なお、タッチロールは特開平11−235747号公報の実施例1に記載のもの(二重抑えロールと記載のあるもの)を用い、Tg−5℃に調温した(但し薄肉金属外筒厚みは3mmとした)。なお、実施例13および実施例14では、タッチロールを用いる代わりに5kVで静電印加を行った。
固化したメルトをキャスティングドラムから剥ぎ取り、巻き取り直前に両端(全幅の各5%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、30m/分で幅1.5m、長さ3000mの未延伸フィルムを得た。
【0200】
(2−3)評価
このようにして得た未延伸セルロースアシレートフィルムの物性を、前記の方法で測定し、以下の表1に記載した。得たフィルムを25℃・相対湿度60%で一辺10cmの正方形のトムソン刃で100点打ち抜き、上述の方法にしたがって四隅のクラック発生率を求め、表1に記載した。
【0201】
【表1】

【0202】
表1の結果から明らかなように、一般式(I)で表される化合物と、一般式(II)で表される化合物または一般式(III)で表される化合物の少なくとも一つとを含有する実施例1〜実施例20のフィルムは、フィルム面状、ダイライン、ゲル状ブツ数、クラック発生率のすべてが満足できる結果を示し、優れたセルロースアシレートフィルムであった。
【0203】
一方、一般式(I)で表される化合物と、一般式(II)で表される化合物または一般式(III)で表される化合物のいずれか一方の化合物のみを含有する比較例1〜3のフィルムは、あるいは一般式(I)で表される化合物を含有しない比較例4のフィルムは、フィルム面状、ダイライン、ゲル状ブツ発生数、クラック発生率のなどのフィルム性能が、実施例1〜20のフィルムと比べて劣っており、すべてが満足しうるものではなかった。さらに、一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)で表される化合物をいずれも含有しない比較例5のフィルムは、フィルム面状、ダイライン、ゲル状ブツ数、クラック発生率などがさらに悪化し、実用に適さないフィルムであった。
【0204】
実施例1〜実施例20のフィルムは、残存溶媒量がすべて0%であり、透過率はすべて92.2%以上であり、ヘイズはすべて0.3%以下であり、いずれも優れたフィルムであった。また、Reはすべて8nm以下であり、Rthはすべて20nm以下であり、Reムラはすべて2nm以下であり、Rthムラはすべて4nm以下であり、Reの湿度依存性{25℃におけるRe(相対湿度80%)とRe(相対湿度10%)との差の絶対値}はすべて5nm以下であり、Rthの湿度依存性{25℃におけるRth(相対湿度80%)とRth(相対湿度10%)との差の絶対値}はすべて20nm以下であり、いずれも優れたフィルムであった。また、波長分散特性については、|Re(700)−Re(400)|がすべて8nm以内であり、|Rth(700)−Rth(400)|がすべて30nm以内であった。着色の増加分は0.025以下であった。
【0205】
本発明のフィルム試料の代表として実施例3では、透水率が550g/m2・24時間であり、限界波長は389.2nm、吸収端は376.1nm、380nmの吸収は1.1%であり、軸ズレ(分子配向軸)は0.1°、弾性率は長手方向が2.80GPa、幅方向が2.75GPa、抗張力は長手方向が112MPa、幅方向が108MPa、伸長率は長手方向が62%,幅方向が65%であり、カール値は相対湿度25%で−0.3、ウェットでは1.0であった。また、含水率は1.6質量%であり、フィルムの縦横平均熱収縮(80℃/相対湿度90%/48時間)は−0.06%であり、熱収縮が生じ難いフィルムであった。キシミ値は0.51であり、算術平均粗さは50nmであり、傷つきは評価Aでハンドリング性も問題なかった。その他の本発明の試料(実施例1、実施例2、実施例4〜実施例20のフィルム)もほぼこれらに近い特性値を示すものであった。
【0206】
(3)回収セルロース原料の利用
実施例3のフィルムをトリミングしたものを、裁断機を用いて0.5〜10cm2の大きさに破砕した。これを上述の「破砕したセルロースアシレート」として使用した。その分子量Mwを測定したところ、Mw=125160(DPw=397)であった。これを、Mw=132000(DPw=419)の未使用セルロース原料と混合して(未使用:破砕=80:20(質量比))製膜原料として使用した。添加剤組成および製膜条件は実施例3と全く同様にして作製した。得られたフィルムには、一般式(I)で表される化合物I−2が0.018質量%、一般式(II)で表される化合物II−8が0.02質量%、一般式(III)で表される化合物III−8が0.011質量%含まれていた。得られたフィルムを分析して評価したところ、ゲル状ブツ数は20個/10cm2であり、ダイスジ、面状はいずれもAの評価ランクを得た。クラック発生率は5%であり、LCDでの画像ボケ数は4個/m2であった。このように、得られたフィルムは優れた特性を示すものであった。
【0207】
(4)偏光板の作成
(4−1)表面処理
上記(2)および(3)で製膜した未延伸フィルムに対して、下記の浸漬法で鹸化を行った。また、下記の塗布鹸化も実施したが浸漬鹸化と同様の結果を得た。
a)浸漬鹸化
60℃に調温した2.0mol/LのNaOH水溶液を鹸化液として用いて、未延伸フィルムを2分間浸漬した。その後、0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、水洗浴を通した。
b)塗布鹸化
iso-プロパノール80質量部に水20質量部を加え、これにKOHを1.5mol/Lとなるように溶解して60℃に調温したものを鹸化液として用いた。この鹸化液を60℃の未延伸フィルム上に10g/m2で塗布し、1分間鹸化した。その後、50℃の温水を10L/m2・分で1分間スプレーして洗浄した。
【0208】
(4−2)偏光膜の作成
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸して厚み20μmの偏光膜を調製した。
【0209】
(4−3)貼り合わせ
このようにして得た偏光膜を、上記方法で鹸化処理したセルロースアシレートフィルムを用い、下記構成となるように貼り合せて偏光板を作成した。このとき、PVA((株)クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として用いた。なお、下記に記載したフジタック(富士写真フィルム製TD80)も上記の方法で鹸化処理を行った。
偏光板A: セルロースアシレート/偏光膜/フジタック
偏光板B: セルロースアシレート/偏光膜/セルロースアシレート
上記の偏光板Bでは両面に同じ種類のフィルムを用いたが、異種のフィルムを用いたものでも、本発明の条件を満たすフィルム同士であれば、良好な結果が得られた。
【0210】
(4−4)評価
このようにして得た偏光板をトムソン刃で打ち抜き、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置の偏光板に代えて取り付けた。これを20セット作成し、この画面上に縦、横5mm間隔の升目を表示し、この升目のゆがみの発生数を各20セットの液晶表示装置で数え単位面積(m2)あたりの発生数を求めた。その平均値を「画像ボケ」として表1に示した。本発明を実施したものは良好な性能が得られた。一方、本発明の範囲外のものは、画像ボケが増加した。
【0211】
(5)光学補償フィルムの作成
特開平11−316378号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムの代わりに、本発明のセルロースアシレートフィルムを使用した。特開平7−333433号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムの代わりに、本発明のセルロースアシレートフィルムを使用して光学補償フィルターフィルムを作製し、TN型液晶表示装置に使用したところ同様に良好な性能が得られた。
【0212】
(6)低反射フィルムの作成
本発明のセルロースアシレートフィルムを用いて、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の実施例47に従って低反射フィルムを作成したところ、良好な光学性能が得られた。
【0213】
(7)液晶表示素子の作成
上記(4)で作成した本発明の偏光板を、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開平9−26572号公報の実施例1に記載のディスコティック液晶分子を含む光学的異方性層、ポリビニルアルコールを塗布した配向膜、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載の20インチOCB型液晶表示装置、特開2004−12731号公報の図11に記載のIPS型液晶表示装置に用いた。さらに、上記(6)で作成した本発明の低反射フィルムをこれらの液晶表示装置の最表層に貼り評価を行った。これらのいずれの液晶表示装置も、良好な光学性能が得られた。
【0214】
(8)延伸フィルムの作成・評価
実施例1の未延伸フィルムを各フィルムのガラス転移温度(Tg)よりも15℃高い温度(Tg+15℃)にて3000%/分の速度で下記倍率に延伸した。得られた延伸フィルムのRe,Rthを測定したところ下記の表に示す通りであった。なお、ここでいう延伸倍率は、下記式で定義される。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/(延伸前の長さ)
【0215】
【表2】

【0216】
これらの延伸フィルムを上記(4)にしたがって鹸化した後、下記組成の偏光板を作成した。
偏光板C: 延伸セルロースアシレート/偏光膜/フジタック
偏光板D: 延伸セルロースアシレート/偏光膜/セルロースアシレート
このようにして得た偏光板を、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置の偏光板に代えて取り付け、上記と同様にして「画像ボケ」を計測した。本発明を実施したものはいずれも良好な光学特性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0217】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、ゲル状ブツ発生数が少なく、面状が良好であり、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムとして有用であり、特に液晶表示装置に組み込んだときに発生する画像のボケを抑制することができる。また、本発明のセルロースアシレート組成物、セルロースアシレートペレットおよびセルロースアシレートフィルムの製造方法は、このような特徴を有するセルロースアシレートフィルムを簡便に製造するのに有用である。
さらに、本発明によれば、コスト面および環境面から極めて重要であるセルロースアシレートの回収樹脂の再利用を図ることができる。よって、本発明のセルロースアシレートフィルムは産業上の利用可能性が非常に高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物の少なくとも一つと、下記一般式(II)または下記一般式(III)で表される化合物の少なくとも一つとを含有することを特徴とする、セルロースアシレート組成物。
【化1】

(一般式(I)において、R11、R12およびR13は各々独立にアルキル基またはアリール基を表す。一般式(II)において、Y22、Y23、Y24、Y25およびY26は各々独立に水素原子またはアルキル基を表す。Y27は水素原子または置換基を表す。一般式(III)において、Y32、Y33、Y35およびY36は各々独立に水素原子またはアルキル基を表し、Y38およびY39は各々独立に水素原子、アルキル基またはアリール基を表す。前記のアルキル基およびアリール基はいずれも置換されていてもよい。)
【請求項2】
セルロースアシレートに対し、前記一般式(I)で表される化合物を0.0001〜1質量%含有し、且つ前記一般式(II)で表される化合物および前記一般式(III)で表される化合物を合計量で0.0001〜1質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレート組成物。
【請求項3】
前記セルロースアシレートが、下記式(S−1)〜(S−3)を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレート組成物。
式(S−1) 2.5≦X+Y≦3.0
式(S−2) 0≦X≦2.2
式(S−3) 0.5≦Y≦3.0
(式中、Xはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Yはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度の総和を表す。)
【請求項4】
重量平均分子量(Mw)が0〜20%異なる2種類以上のセルロースアシレートを使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物。
【請求項5】
硫酸根含有量が0〜100ppmであり、2族金属含有量が30〜400ppmであり、且つ(アルカリ金属モル量と2族金属モル量の和)/(硫酸根モル量)の比が0.3〜3.0であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物からなるセルロースアシレートペレット。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物からなるセルロースアシレートフィルム。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物、請求項6に記載のセルロースアシレートペレットまたは請求項7に記載のセルロースアシレートフィルムを180〜240℃の温度で溶融し、6分以内の滞留時間で製膜する工程を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項9】
タッチロール製膜法または静電印加法を用いてキャストする工程を含むことを特徴とする請求項8に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項10】
少なくとも1軸に1%〜200%延伸する工程を含むことを特徴とする請求項8または9に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の製造方法により製造したセルロースアシレートフィルム。
【請求項12】
請求項7または11に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1層積層した偏光板。
【請求項13】
請求項7または11に記載のセルロースアシレートフィルムを用いた光学補償フィルム。
【請求項14】
請求項7または11に記載のセルロースアシレートフィルムを用いた反射防止フィルム。
【請求項15】
請求項7または11に記載のセルロースアシレートフィルム、請求項12に記載の偏光板、請求項13に記載の光学補償フィルム、請求項14に記載の反射防止フィルムの少なくとも一つを用いた液晶表示装置。

【公開番号】特開2008−63531(P2008−63531A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245841(P2006−245841)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】