説明

セルロースアセテートフィルムとその製造方法、偏光板および液晶表示装置

【課題】溶液流延したときに支持体からの剥離が容易である、Rthの発現性が良好なセルロースアセテートフィルムの製造方法の提供。
【解決手段】全置換度2.0〜2.7のセルロースアセテートと溶媒とを含有するドープを支持体上に溶液流延する工程と、前記ドープ膜を前記支持体から剥ぎ取る工程とを含み、前記溶媒の15質量%以上がアルコールであって、前記アルコールの平均炭素数が1.5〜4であることを特徴とするセルロースアセテートフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアセテートフィルムおよびセルロースアセテートフィルムの製造方法に関する。また、該セルロースアセテートフィルムを含むことを特徴とする偏光板および液晶表示装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な光学フィルムが液晶表示装置用途として用いられており、様々な添加剤を添加した光学フィルムが知られている。このような光学フィルムは様々な製膜方法で製造されているが、代表的な方法としてセルロースアシレートを溶媒に溶解させたドープを支持体上に流涎して製膜する溶液流延法により製造することが広く行われている。
【0003】
近年、膜厚方向のレターデーションRthを発現させたフィルムを安価に製造する観点から、全アシル置換度の低いセルロースジアシレートを用いることが検討されてきている。これに対し、全アシル置換度の低いセルロースジアセテートを用いたフィルムを溶液流延により製造した場合については、支持体からの剥離性を改善する方法についてはいまだ十分に検討されていないのが現状であった。
【0004】
特許文献1には、全アシル基の置換度が2.1〜2.7と低いセルロースアセテートに対して、溶液流延前のセルロースアセテートドープの含水率を特定の範囲に制御し、セルロースアセテートと溶媒(溶剤)のΔSP値(溶解度値)を適切な範囲にすることで、得られるフィルムの白化を抑制することができることが開示されている。同文献では、溶媒のΔSP値を制御するときにメチクロ/メタノールの溶媒の組成比を変化させ、最大で70/30(質量比)として白化の検討を行っているが、剥離性については何ら検討されていなかった。さらに、同文献では炭素数2以上の1級アルコールを用いた実施例はなく、メタノールが溶媒として最も好ましいことが記載されている。
なお、同文献の実施例では、剥離剤(剥離促進剤)として、クエン酸ハーフエステルを用いていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−263619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが、全アシル置換度の低いセルロースジアセテート(以下、DACとも言う)を用いたフィルムを溶液流延により製造したところ、全アシル置換度の高いセルローストリアセテートを用いた場合と比較して、Rthの発現性は良好となるものの、支持体からの剥離はさらに困難になってしまうことがわかった。
これに対し、本発明者らが全アシル基の置換度が2.0〜2.7程度であり、かつ、アシル基としてプロピオニル基をある程度有している比較的高価なセルロースアセテート・プロピオネート(以下、CAPとも言う)を用いて溶液流延製膜したところ、驚くべきことに、同程度の全アシル置換度であり、アシル基としてアセチル基のみを有する安価なセルロースジアセテートフィルムよりも剥離性が良好であることがわかった。
いかなる理論に拘泥するものでもないが、このような水酸基量が同程度のCAPとDAPの支持体からの剥離性の違いは、セルロースアセテートの側鎖プロピオニル鎖がアセチル鎖よりも長いことによって支持体と無置換の水酸基の距離が離れ、支持体と水酸基間の相互作用が減少することで、剥離荷重が減少するものと予想される。
そのため、全アシル置換度を下げたときの支持体からの剥離性の改善という課題は、よりDACに特有の課題であることを見出すに至った。
そこで、本発明者らは、このようなCAPよりもさらに安価で製造コストの低い、全アシル置換度の低いセルロースジアセテートを用いて溶液流延製膜をするときに特有の、支持体からのフィルムの剥離性を改善することを目的として鋭意研究をすることとした。
【0007】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、溶液流延したときに支持体からの剥離が容易である、Rthの発現性が良好なセルロースアセテートフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題のもと、本発明者らが鋭意検討を行い、セルロースアセテートフィルムの剥離特性に関して研究を重ねたところ、セルロースアセテートを溶解させるドープに使用する溶媒において、平均炭素数が特定の範囲のアルコールを、特定の範囲の割合溶媒で混合させることにより、支持体から良好に剥離できることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、以下の手段により上記課題を解決した。
【0009】
[1] 全置換度2.0〜2.7のセルロースアセテートと溶媒とを含有するドープを支持体上に溶液流延する工程と、前記ドープ膜を前記支持体から剥ぎ取る工程とを含み、前記溶媒の15質量%以上がアルコールであって、前記アルコールの平均炭素数が1.5〜4であることを特徴とするセルロースアセテートフィルムの製造方法。
[2] 前記アルコールとして、エタノールを含むことを特徴とする[1]に記載のセルロースアセテートフィルムの製造方法。
[3] 前記支持体が、移動する帯状の支持体であり、前記支持体の前記ドープ膜を剥ぎ取る領域において、前記支持体のドープ膜剥離側とは反対の面に表面温度が10℃以下の冷却体を接触させることを特徴とする請求項[1]または[2]に記載のセルロースアセテートフィルムの製造方法。
[4] 剥離促進剤を前記ドープ中に含むことを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアセテートフィルムの製造方法。
[5] 前記剥離促進剤が下記一般式(1)で表される有機酸であり、該剥離促進剤を前記ドープ中のセルロースアセテートに対して0.001〜20質量%含有することを特徴とする[4]に記載のセルロースアセテートフィルムの製造方法。
一般式(1) X−L−(R1n
(式中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸性基を表し、Lは単結合または2価以上の連結基を表し、R1は水素原子、炭素数6〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアルキニル基、炭素数6〜30のアリール基または炭素数6〜30の複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。nはLが単結合の場合は1であり、Lが2価以上の連結基の場合は(Lの価数−1)である。)
[6] 前記一般式(1)におけるXが、カルボキシル基、スルフォン酸基、スルフィン酸基、リン酸基、スルフォンイミド基またはアスコルビン酸基を表すことを特徴とする[5]に記載のセルロースアセテートフィルムの製造方法。
[7] 膜厚方向のレターデーションRth制御剤を前記ドープ中に含むことを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載のセルロースアセテートフィルムの製造方法。
[8]下記式(1)を満たす温度で延伸する工程を含むことを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載のセルロースアセテートフィルムの製造方法。
Te−30℃≦延伸温度≦Te+30℃ (1)
Te=T[tanδ]−ΔTm (1’)
ΔTm=Tm(0)−Tm(x) (1’’)
(式(1)中、T[tanδ]は残留溶媒量が0%のときのセルロースアセテートの動的粘弾性tanδを測定した際にtanδがピークを示す温度を表し、Tm(0)は残留溶媒量が0%のときのセルロースアセテートの結晶融解温度を表し、Tm(x)は該セルロースアセテートに対する残留溶媒量がx%のときのセルロースアセテートの結晶融解温度を表す。)
[9] [1]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースアセテートフィルムの製造方法により製造され、波長590nmで測定した膜厚方向のレターデーション値Rthが80nm以上であることを特徴とするセルロースアセテートフィルム。
[10] ヘイズが0.5%未満であることを特徴とする[9]に記載のセルロースアセテートフィルム。
[11] 波長590nmで測定したフィルム面内方向のレターデーション値Reが30〜100nmであることを特徴とする[9]または[10]に記載のセルロースアセテートフィルム。
[12] 偏光子と、少なくとも1枚の[9]〜[11]のいずれか一項に記載のセルロースアセテートフィルムとを含むことを特徴とする偏光板。
[13] [9]〜[11]のいずれか一項に記載のセルロースアセテートフィルムを含むことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶液流延したときに支持体からの剥離が容易である、Rthの発現性が良好なセルロースアセテートフィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、2つのロール間に掛け渡された無端バンドを有する態様の溶液流延装置において、本発明の製造方法での流延製膜および剥ぎ取り条件を制御するための好ましい装置の概要を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0013】
[セルロースアセテートフィルムの製造方法]
本発明のセルロースアセテートフィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法とも言う)は、全置換度2.0〜2.7のセルロースアセテートと溶媒とを含有するドープを支持体上に溶液流延する工程と、前記ドープ膜を前記支持体から剥ぎ取る工程とを含み、前記溶媒の15質量%以上がアルコールであって、前記アルコールの平均炭素数が1.5〜4であることを特徴とする。
以下、本発明の製造方法について説明する。
【0014】
本発明のセルロースアセテートフィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は、溶液製膜法(ソルベントキャスト法)により製造される。ソルベントキャスト法を利用したセルロースアセテートフィルムの製造例については、米国特許第2,336,310号、同2,367,603号、同2,492,078号、同2,492,977号、同2,492,978号、同2,607,704号、同2,739,069号及び同2,739,070号の各明細書、英国特許第640731号及び同736892号の各明細書、並びに特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号及び同62−115035号等の公報を参考にすることができる。また、本発明のフィルムは、延伸処理を施されることが好ましいが、本明細書中で規定される以外の延伸処理の方法及び条件については、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号等の公報を参考にすることができる。
【0015】
<ドープの調製>
ソルベントキャスト法では、セルロースアセテートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造することができる。
【0016】
(ドープ)
本発明の製造方法で用いられるドープは、全アシル基の置換度が2.0〜2.7のセルロースアセテートと、溶媒とを含むことを特徴とする。このようなドープを用いることにより、Rthの発現性が良好なセルロースアセテートフィルムを得ることができる。以下、本発明のフィルムに用いられるドープおよびドープ中に含まれる各成分について説明する。
【0017】
(セルロースアセテート)
本発明に用いられるセルロースアセテートは、全アシル基の置換度が2.0〜2.7であれば特に定めるものではない。2.0以上であれば、水との相溶性が十分高く。得られるフィルムが白化しにくい。セルロースアセテートの原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)などがあり、いずれの原料セルロースから得られるセルロースアセテートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができる。
【0018】
まず、本発明に好ましく用いられるセルロースアセテートについて詳細に記載する。セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアセテートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位に位置するセルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)を意味する。
全アシル置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.1〜2.55が好ましく、より好ましくは2.2〜2.55であり、特に好ましくは2.35〜2.50であり、より特に好ましくは2.40〜2.50である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.08〜0.66が好ましく、より好ましくは0.15〜0.60、さらに好ましくは0.20〜0.45である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度である(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は全アシル置換度に対する6位のアシル置換度の割合であり、以下「6位のアシル置換率」とも言う。
【0019】
前記ドープに用いられるセルロースアセテートのアシル基はアセチル基である。
【0020】
セルロースのアシル化において、アシル化剤として酸無水物や酸クロライドを用いた場合、反応溶媒である有機溶媒としては、有機酸、例えば、酢酸、メチレンクロライド等が使用される。
【0021】
触媒としては、アシル化剤が酸無水物である場合には、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられ、アシル化剤が酸クロライド(例えば、CH3CH2COCl)である場合には、塩基性化合物が用いられる。
【0022】
最も一般的なセルロ−スの混合脂肪酸エステルの工業的合成方法は、セルロースをアセチル基に対応する脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、吉草酸等)またはそれらの酸無水物を含む混合有機酸成分でアシル化する方法である。
【0023】
本発明に用いるセルロースアセテートは、例えば、特開平10−45804号公報に記載されている方法により合成できる。
【0024】
本発明に用いられるドープにおいて、セルロースアセテートの量は、得られるドープ中に10〜40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアセテートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0025】
(溶媒)
本発明に用いられる溶媒は、溶液流延に用いられる溶媒であれば公知のものを採用することができるが、よりヘイズを低下させる観点から、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルおよび炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0026】
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素の例として、ジクロロメタン(以下、メチクロとも言う)、クロロホルム、塩化メチル、四塩化炭素、トリクロル酢酸、臭化メチル、ウ化メチル、トリ(テトラ)クロロエチレン等が挙げられ、少なくともジクロロメタンを含むことが好ましい。
【0027】
本発明ではさらに、貧溶媒を3〜40重量%の割合で含むことが好ましく、5〜20重量%の割合で含むことがより好ましい。前記貧溶媒を上記範囲内で含むことにより、セルロースアセテートとの相溶性が向上し、ヘイズがより低下する傾向にあり好ましい。
さらに、貧溶媒の沸点は、120℃以下であることが好ましく、40〜100℃であることがより好ましい。沸点を120℃以下とすることにより、溶媒の乾燥速度をより早くすることができ好ましい。
【0028】
このような貧溶媒としては、アルコール(メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール)および水が好ましい例として挙げられる。その中でも本発明の製造方法では、第1級アルコール(メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール)を用いることがより好ましく、エタノールが剥離性と乾燥速度の両立の観点から最も好ましい。
本発明の製造方法は、前記ドープ中において、前記溶媒の15質量%以上がアルコール(好ましくは第1級アルコール)であって、前記アルコールの平均炭素数が1.5〜4であることを特徴とする。
ここで、炭素数2以上の第1級アルコールとしては、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノールなどを挙げることでき、その中でもエタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールが好ましい例として挙げられる。なお、ここでいる第1級アルコールには炭素数3以上の多価アルコールであるグリコール類などが含まれることがあるが、当然炭素数2のグリコールであるエチレングリコールは第1級アルコールではない。
また、ドープ中に含まれるアルコール平均炭素数が1.5〜4である限り、前記アルコールを2種以上混合して用いてもよい。さらに、平均炭素数が1.5〜4である限り、当然炭素数1のメタノールや、炭素数5以上のアルコールを用いてもよい。具体的には、炭素数2のアルコールであるエタノールと炭素数1のメタノールと、エタノール/メタノール=1/1(質量比)以上で混合した溶媒を用いることができる。
前記ドープ中に溶媒として15質量%以上含まれるアルコールの平均炭素数は、1.5〜4であることが好ましく、1.5〜2.5であることがより好ましく、1.5〜2であることが特に好ましい。
また、前記ドープ中に溶媒として含まれるアルコールの含有量は、前記溶媒の18〜40質量%であることがより剥離性を改善する観点から好ましく、20〜30質量%であることが特に好ましい。
さらに、前記溶媒の全質量に対する前記炭素数2以上のアルコールの合計含有量が10〜40質量%であることが好ましい。
また、前記溶媒の全質量に対する、前記炭素数2以上のアルコールの合計含有量が10質量%以上であることがさらに剥離性を改善する観点から好ましく、10〜40質量%であることがより好ましく、15〜40重量%の割合で含むことが特に好ましく、20〜30重量%の割合で含むことがより特に好ましい。前記炭素数2以上のアルコールを上記範囲内で含むことにより、セルロースアセテートとの相溶性が向上し、ヘイズがより低下する傾向にあり好ましい。
さらに、前記炭素数2以上のアルコールの沸点は、120℃以下であることが好ましく、40〜100℃であることがより好ましい。沸点を120℃以下とすることにより、溶媒の乾燥速度をより早くすることができ好ましい。
【0029】
(添加剤)
本発明のフィルム中には、添加剤として、剥離促進剤;Rth制御剤(非リン酸エステル系の化合物を含む);無機微粒子(マット剤);フタル酸エステル、リン酸エステル系の化合物などの可塑剤;Re発現剤;紫外線吸収剤;酸化防止剤などの添加剤を加えることもできる。
【0030】
(1) 剥離促進剤
本発明の製造方法は、剥離促進剤を前記ドープ中に含むことが、より剥離性を改善する観点から好ましい。剥離促進剤は、例えば、前記ドープ中のセルロースアセテートに対して0.001質量%(10ppm)〜20質量%(200000ppm)の割合で含めることができ、50ppm〜15質量%(150000ppm)であることが好ましく、100ppm〜10質量%(100000ppm)であることがより好ましく、0.03質量%(300ppm)〜10質量%(100000ppm)であることが特に好ましく、0.1質量%(1000ppm)〜5質量%(50000ppm)であることがより特に好ましい。
剥離促進剤としては、例えば特開2006−45497号公報の段落番号0048〜0069に記載の化合物を好ましく用いることができるが、その他の本発明の製造方法に好ましく用いられる剥離促進剤の例とともに、以下に具体的に説明する。
【0031】
前記剥離促進剤は、有機酸、多価カルボン酸エステル、界面活性剤またはキレート剤であることが好ましい。
多価カルボン酸エステルとしては、特開2006−45497号公報の段落番号0049に記載の化合物を好ましく用いることができる。
前記界面活性剤としては、特開2006−45497号公報の段落番号0050〜0051に記載の化合物を好ましく用いることができる。
キレート剤は、鉄イオンなど金属イオンやカルシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオンなどの多価イオンを配位(キレート)できる化合物であり、前記キレート剤としては、特公平6−8956号、特開平11−190892号の公報または明細書に記載の化合物を用いることができる。
【0032】
前記有機酸としては、下記一般式(1)で表される有機酸を用いることが好ましい。
下記一般式(1)で表される本発明において剥離促進剤として好ましく用いられる有機酸について詳しく説明する。
一般式(1)
X−L−(R1n
(式中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸性基を表し、Lは単結合または2価以上の連結基を表し、R1は炭素数6〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアルキニル基、炭素数6〜30のアリール基または炭素数6〜30の複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。nはLが単結合の場合は1であり、Lが2価以上の連結基の場合は(Lの価数−1)である。)
一般式(1)中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸を表し、カルボキシル基、スルフォン酸基、スルフィン酸基、リン酸基、スルフォンイミド基、アスコルビン酸基が好ましく、カルボキシル基、スルフォン酸基がさらに好ましく、カルボキシル基が最も好ましい。なお、Xがアスコルビン酸基を表す場合は、アスコルビン酸の水素原子のうち、5位、6位の位置の水素原子が外れてLと連結していることが好ましい。
本明細書中、酸解離定数としては、化学便覧、丸善株式会社刊に記載の値を採用する。
【0033】
一般式(1)中、R1は水素原子、炭素数6〜30のアルキル基(置換基を有してもよい)、アルケニル基(置換基を有してもよい)、アルキニル基(置換基を有してもよい)、アリール基(置換基を有してもよい)、複素環基(置換基を有してもよい)を表す。置換基として、ハロゲン原子、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシル基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、ヒドロキシル基、アシルオキシ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、アシルアミノ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホニル基、スルファモイル基、スルフォンアミド基、スルホリル基、カルボキシル基等が挙げられる。
1はさらに好ましくは、炭素数8〜24のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基であり、最も好ましくは炭素数10〜24の直鎖のアルキル基、アルケニル基である。
【0034】
一般式(1)におけるLは単結合または2価以上の連結基を表す。前記Lが連結基を表す場合、下記群のユニット、またはこれらのユニットを組み合わせて得られる連結基を表すことが好ましい。
ユニット:−O−、−CO−、−N(−R2)−(前記R2は炭素数1〜5のアルキル基)、−CH=CH−、−SO2−。
一般式(1)におけるLは、単結合、エステル基由来の連結基(−COO−、−OCO−)、またはアミド基由来の連結基(−CONR2−、−NR2CO−)を部分構造として有することが特に好ましい。
また、前記Lは、さらに置換基を有していてもよく、該置換基としては特に制限はなく前記R1が有していてもよい置換基を挙げることができるが、その中でも−OH基が好ましい。
前記Lとしては、具体的に以下の構造であることが好ましい。但し、以下においてp、q、rはそれぞれ1〜40の整数を表し、1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜6であることがより好ましい。
−(CH2p−CO−O−(CH2q−O−;
−(CH2p−CO−O−(CH2q−(CH(OH))−(CH2r−O−。
【0035】
以下に本発明の一般式(1)で表される有機酸の好ましい具体例を以下に挙げる。
《脂肪酸》
ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレン酸、ウンデカン酸、吉草酸。
《アルキル硫酸》
ミリスチル硫酸、セチル硫酸、オレイル硫酸。
《アルキルベンゼンスルフォン酸》
ドデシルベンゼンスルフォン酸、ペンタデシルベンゼンスルフォン酸。
《アルキルナフタレンスルフォン酸》
セスキブチルナフタレンスルフォン酸、ジイソブチルナフタレンスルフォン酸。
《ジアルキルスルフォコハク酸》
ジオクチルスルフォコハク酸、ジヘキシルスルフォコハク酸、ジシクロヘキシルコハク酸、ジアミルスルフォコハク酸、ジトリデシルシクロコハク酸。
【0036】
《多価カルボン酸および多価カルボン酸の一部誘導体》
本発明の一般式(1)で表される有機酸としては、多価カルボン酸および多価カルボン酸の一部誘導体が特に好ましく、多価カルボン酸の一部誘導体がより特に好ましい。
【0037】
前記多価カルボン酸および多価カルボン酸の一部誘導体に用いられる多価カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、クエン酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸が好ましい。
前記多価カルボン酸が誘導体ではない場合は、前記多価カルボン酸としてはクエン酸が特に好ましい。
【0038】
前記多価カルボン酸の一部誘導体とは、多価カルボン酸のうち、少なくとも1つが無置換のカルボキシル基を有し、その他のカルボキシル基が置換されている有機酸のことを言う。その他のカルボキシル基は、アルコール類とエステル結合を形成していることが好ましい。その中でも、本発明の一般式(1)で表される有機酸としては、多価アルコール1分子に脂肪酸1分子と多価カルボン酸1分子が結合し、多価カルボン酸由来の無置換のカルボキシル基を少なくとも1つ有するものが特に好ましい。
【0039】
前記多価カルボン酸の一部誘導体に用いられる前記多価カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、クエン酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸が好ましい。
前記多価カルボン酸の一部誘導体に用いられる前記多価アルコールとしては、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール、グリセリン等を挙げることができる。
前記多価カルボン酸の一部誘導体に用いられる前記脂肪酸は限定されないが、炭素数8〜22の飽和または不飽和の脂肪酸が好ましく、具体的には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸等があげられる。
【0040】
前記多価カルボン酸の一部誘導体のなかでも、グリセリン1分子に脂肪酸1分子と多価カルボン酸1分子が結合したカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドが特に好ましい。
以下に、本発明の製造方法に使用することができるカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドについて詳しく説明する。
【0041】
本発明で使用することができるカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドは、一般的には、特開平4−218597号公報、特許第3823524号公報等に記載されている方法に従って、多価有機酸の無水物と脂肪酸モノグリセリドを反応させることにより得られる。
反応は、通常、無溶媒条件下で行われ、例えば無水コハク酸と炭素数18の脂肪酸モノグリセリドの反応では、温度120℃前後においえて90分程度で反応が完了する。かくして得られた有機酸モノグリセリドは、通常、有機酸、未反応モノグリセリド、ジグリセリド、及びその他オリゴマーを含む混合物となっている。本発明においては、このような混合物のまま使用してもよい。
前記カルボキシル基含有有機酸モノグリセリドの純度を高めたい場合は、上記のような混合物中のカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドを蒸留等により精製すればよく、また、純度の高いカルボキシル基含有有機酸モノグリセリドとしては、蒸留モノグリセリドとして市販されているものを使用できる。前記カルボキシル基含有有機酸モノグリセリドの市販品としては、例えば、理研ビタミン社製ポエムB−30(グリセリンコハク酸脂肪酸エステル)、同ポエムK−37V(グリセリンクエン酸オレイン酸エステル)、花王社製ステップSS(ステアリン酸/パルミチン酸モノグリセリドにコハク酸を結合させたコハク酸モノグリセリド)等があげられる。
【0042】
(2) Rth制御剤
本発明の製造方法は、膜厚方向のレターデーションRth制御剤を前記ドープ中に含むことが、フィルムのRthの発現性を80nm以上に制御する観点から好ましい。
前記Rth制御剤としては、非リン酸エステル系の化合物であるRth制御剤を用いることができる。
【0043】
前記高分子量添加剤は、リン酸エステル系の化合物または非リン酸エステル系のポリエステル系の化合物であることが、ヘイズを低減できる観点からも好ましい。
【0044】
本発明のフィルムは、前記非リン酸エステル系の化合物であるRth制御剤を含むことが好ましい。このような非リン酸エステル系の化合物を含むことにより、本発明のフィルムは白化しにくくなるという効果を奏する。
また、本明細書中、「非リン酸エステル系の化合物」とは、「エステル結合を有する化合物であって、該エステル結合に寄与する酸がリン酸以外である化合物」のことを言う。すなわち、「非リン酸エステル系の化合物」は、リン酸を含まず、エステル系である、化合物を意味する。
また、前記非リン酸エステル系の化合物は、低分子化合物であっても、ポリマー(高分子化合物)であってもよい。以下、ポリマー(高分子化合物)である非リン酸エステル系の化合物のことを、非リン酸エステル系ポリマーとも言う。
【0045】
前記非リン酸エステル系の化合物であるRth制御剤としては、セルロースアシレートフィルムの添加剤として公知の高分子量添加剤および低分子量添加剤を広く採用することができる。
【0046】
前記非リン酸エステル系の化合物であるRth制御剤として用いられる高分子量添加剤は、その化合物中に繰り返し単位を有するものであり、数平均分子量が700〜10000のものが好ましい。高分子量添加剤は、溶液流延法において、溶媒の揮発速度を速める機能や、残留溶媒量を低減する機能も有する。さらに、機械的性質向上、柔軟性付与、耐吸水性付与、水分透過率低減等のフィルム改質の観点で、有用な効果を示す。
なお、前記高分子量添加剤であるRth制御剤については、特開2009−263619号公報に記載の高分子量添加剤を好ましく用いることができる。
【0047】
ここで、前記非リン酸エステル系の化合物である高分子量添加剤の数平均分子量は、より好ましくは数平均分子量700〜8000であり、さらに好ましくは数平均分子量700〜5000であり、特に好ましくは数平均分子量1000〜5000である。
以下、前記非リン酸エステル系の化合物である高分子量添加剤について、その具体例を挙げながら詳細に説明するが、前記非リン酸エステル系の化合物である高分子量添加剤がこれらのものに限定されるわけでないことは言うまでもない。
【0048】
非リン酸エステル系の化合物である高分子系添加剤としては、ポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)、ポリエステル系成分と他の成分の共重合体などが挙げられ、脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)とアクリル系ポリマーの共重合体およびポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)とスチレン系ポリマーの共重合体が好ましく、少なくとも共重合成分の1つとして芳香族環を含有するポリエステル化合物であることがより好ましい。
【0049】
前記脂肪族ポリエステル系ポリマーとしては、炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸と、炭素数2〜12の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールから選ばれる少なくとも1種類以上のジオールとの反応によって得られるものであり、かつ反応物の両末端は反応物のままでもよいが、さらにモノカルボン酸類やモノアルコール類またはフェノール類を反応させて、所謂末端の封止を実施してもよい。この末端封止は、特にフリーなカルボン酸類を含有させないために実施されることが、保存性などの点で有効である。本発明のポリエステル系ポリマーに使用されるジカルボン酸は、炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸残基または炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸残基であることが好ましい。
【0050】
本発明で好ましく用いられる炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。
【0051】
これらの中でも好ましい脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である。特に好ましくは、脂肪族ジカルボン酸成分としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸である。
【0052】
前記高分子量添加剤に利用されるジオールは、例えば、炭素数2〜20の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールから選ばれるものである。
【0053】
炭素原子2〜20の脂肪族ジオールとしては、アルキルジオールおよび脂環式ジオール類を挙げることができ、例えば、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
【0054】
好ましい脂肪族ジオールとしては、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールであり、特に好ましくはエタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールである。
【0055】
炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールとしては、好ましくは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエチレンエーテルグリコールおよびポリプロピレンエーテルグリコールならびにこれらの組み合わせが挙げられる。その平均重合度は、特に限定されないが好ましくは2〜20であり、より好ましくは2〜10であり、さらには2〜5であり、特に好ましくは2〜4である。これらの例としては、典型的に有用な市販のポリエーテルグリコール類としては、カーボワックス(Carbowax)レジン、プルロニックス(Pluronics)レジンおよびニアックス(Niax)レジンが挙げられる。
【0056】
本発明においては、特に末端がアルキル基あるいは芳香族基で封止された高分子量添加剤であることが好ましい。これは、末端を疎水性官能基で保護することにより、高温高湿での経時劣化に対して有効であり、エステル基の加水分解を遅延させる役割を示すことが要因となっている。
前記ポリエステル添加剤の両末端がカルボン酸やOH基とならないように、モノアルコール残基やモノカルボン酸残基で保護することが好ましい。
この場合、モノアルコールとしては炭素数1〜30の置換、無置換のモノアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert−ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコール、ベンジルアルコール、3−フェニルプロパノールなどの置換アルコールなどが挙げられる。
【0057】
好ましく使用され得る末端封止用アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、オレイルアルコール、ベンジルアルコールであり、特にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソブタノール、シクロヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、ベンジルアルコールである。
【0058】
また、モノカルボン酸残基で封止する場合は、モノカルボン酸残基として使用されるモノカルボン酸は、炭素数1〜30の置換、無置換のモノカルボン酸が好ましい。これらは、脂肪族モノカルボン酸でも芳香族環含有カルボン酸でもよい。好ましい脂肪族モノカルボン酸について記述すると、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸が挙げられ、芳香族環含有モノカルボン酸としては、例えば安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−tert−アミル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上を使用することができる。
【0059】
かかる前記高分子量添加剤の合成は、常法により上記脂肪族ジカルボン酸とジオールおよび/または末端封止用のモノカルボン酸またはモノアルコール、とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。これらのポリエステル系添加剤については、村井孝一編者「添加剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0060】
前記芳香族ポリエステル系ポリマーは、前記ポリエステルポリマーに芳香環を有するモノマーを共重合することによって得られる。芳香環を有するモノマーとしては、炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸、炭素数6〜20の芳香族ジオールから選ばれる少なくとも1種類以上のモノマーである。
炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸等がある。これらの中でも好ましい芳香族ジカルボン酸としてはフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、である。
【0061】
炭素数6〜20の芳香族ジオールとしては、特に限定されないがビスフェノールA、1,2−ヒドロキシベンゼン、1,3−ヒドロキシベンゼン、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノールが挙げられ、好ましくはビスフェノールA、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノールである。
【0062】
前記芳香族ポリエステル系ポリマーは前述のポリエステルに芳香族ジカルボン酸または芳香族ジオールのそれぞれの少なくとも一種類を組み合わせて用いられるが、その組み合わせは特に限定されるものではなく、それぞれの成分を数種類組み合わせても問題ない。本発明においては、前述のように、特に末端がアルキル基あるいは芳香族基で封止された高分子量添加剤であることが好ましく、封止には前述の方法を使用することができる。
【0063】
前記非リン酸エステル系の化合物以外のRth制御剤として、例えば、リン酸エステル系の化合物や、セルロースアシレートフィルムの添加剤として公知のエステル系以外の化合物を広く採用することができる。
【0064】
高分子系Rth低減剤としては、リン酸ポリエステル系ポリマー、スチレン系ポリマーおよびアクリル系ポリマーおよびこれら等の共重合体から選択され、アクリル系ポリマーおよびスチレン系ポリマーが好ましい。また、スチレン系ポリマー、アクリル系ポリマーといった、負の固有複屈折を有するポリマーを少なくとも一種含まれることが好ましい。
【0065】
非リン酸エステル系以外の化合物である低分子量Rth低減剤としては、以下を挙げることができる。これらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に劣化防止剤の混合などである。さらにまた、赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報に記載されている。またその添加する時期はセルロースアセテート溶液(ドープ)作製工程において何れで添加してもよいが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。さらにまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。
【0066】
非リン酸エステル系以外の化合物である低分子量Rth低減剤としては、特に限定されないが、詳細は特開2007−272177号公報の[0066]〜[0085]に記載されている。
【0067】
特開2007−272177号公報の[0066]〜[0085]に一般式(1)として記載される化合物は、以下の方法にて作成することができる。
該公報一般式(1)の化合物は、スルホニルクロリド誘導体とアミン誘導体との縮合反応により得ることができる。
【0068】
特開2007−272177号公報一般式(2)に記載の化合物は、縮合剤(例えばジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)など)を用いた、カルボン酸類とアミン類との脱水縮合反応、またはカルボン酸クロリド誘導体とアミン誘導体との置換反応などにより得ることができる。
【0069】
Rth低減剤としては、アクリル系ポリマーおよびスチレン系ポリマー、特開2007−272177号公報一般式(3)〜(7)の低分子化合物などを挙げることができ、その中でもアクリル系ポリマーおよびスチレン系ポリマーが好ましく、アクリル系ポリマーがより好ましい。
【0070】
前記Rth制御剤は、セルロースアセテートに対し、0.01〜30質量%の割合で添加することが好ましい。
上記添加量を30質量%以下とすることにより、セルロース系樹脂との相溶性を向上させることができ、白化を抑制させることができる。2種類以上の前記Rth制御剤を用いる場合、その合計量が、上記範囲内であることが好ましい。
【0071】
前記Rth制御剤は、得られるフィルムのヘイズをさらに低減させる観点から、セルロースアセテートに対し、10〜30質量%の割合で添加することがより好ましく、15〜30質量%の割合で添加することが特に好ましい。
【0072】
(3)無機微粒子
本発明のフィルムは、少なくとも一方の最外層に無機微粒子を含むことが好ましい。
【0073】
本発明のフィルムには、無機微粒子(マット剤)を加えることが好ましい。本発明に使用される無機微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムを挙げることができる。無機微粒子はケイ素を含むものが、濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜30nmであるものがフィルムの全ヘイズを本発明の範囲に制御できる観点から、より好ましい。見かけ比重は10〜100g/リットル以上であるものが好ましく、30〜80g/リットル以上であるものがさらに好ましい。
本発明のフィルムが2層の積層構造であるときは、前記無機微粒子は少なくとも一方の最外層に含まれる。また、本発明のフィルムが3層以上の積層構造であるときは、前記無機微粒子は前記表層の両方に含まれることが好ましい。
【0074】
これらの微粒子は、通常平均粒子径が0.1〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子径は0.2μm〜1.5μmが好ましく、0.4μm〜1.2μmがさらに好ましく、0.6μm〜1.1μmが最も好ましい。1次、2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒子サイズとした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とした。
【0075】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976およびR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中でアエロジルR972が、無機微粒子分散溶液を作製する際の凝集性の観点から特に好ましい。
【0076】
本発明において2次平均粒子径の小さな粒子を有するフィルムを得るために、微粒子の分散液を調製する際にいくつかの手法が考えられる。例えば、溶媒と微粒子を撹拌混合した微粒子分散液をあらかじめ作成し、この微粒子分散液を別途用意した少量のセルロースアセテート溶液に加えて撹拌溶解し、さらにメインのセルロースアセテートドープ液と混合する方法がある。この方法は二酸化珪素微粒子の分散性がよく、二酸化珪素微粒子がさらに再凝集しにくい点で好ましい調製方法である。ほかにも、溶媒に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行い、これを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。本発明はこれらの方法に限定されないが、二酸化珪素微粒子を溶媒などと混合して分散するときの二酸化珪素の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がさらに好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度は低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0077】
使用される溶媒は低級アルコール類としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶媒を用いることが好ましい。
【0078】
(4)可塑剤
本発明に用いられる可塑剤としては、セルロースアシレートの可塑剤として知られる多くの化合物も有用に使用することができる。可塑剤としては、リン酸エステル系化合物またはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステル系化合物の例には、トリフェニルホスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。
【0079】
(5)Re発現剤
本発明のフィルムは、Re発現剤を含んでいても含んでいなくても所望の面内方向のレターデーションを発現させることができるが、さらにRe発現剤を含んでいてもよい。Re発現剤を採用することにより、低延伸倍率で高いRe発現性を得られる。Re発現剤の種類としては、特に定めるものではないが、棒状または円盤状化合物からなるものや、前記非リン酸エステル系の化合物のうちRe発現性を示す化合物を挙げることができる。上記棒状または円盤状化合物としては、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をRe発現剤として好ましく用いることができる。
二種類以上のRe発現剤を併用してもよい。
Re発現剤は、250〜400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0080】
Re発現剤としては、例えば特開2004−50516号公報、特開2007−86748号公報に記載されている化合物を用いることができるが、本発明はこれらに限定されない。
円盤状化合物としては、例えば欧州特許出願公開第0911656A2号明細書に記載の化合物、特開2003−344655号公報に記載のトリアジン化合物、特開2008−150592号公報[0097]〜[0108]に記載されるトリフェニレン化合物も好ましく用いることもできる。
【0081】
円盤状化合物は、例えば特開2003−344655号公報に記載の方法、特開2005−134884号公報に記載の方法等、公知の方法により合成することができる。
【0082】
前述の円盤状化合物の他に直線的な分子構造を有する棒状化合物も好ましく用いることができ、例えば特開2008−150592号公報[0110]〜[0127]に記載される棒状化合物を好ましく用いることができる。
【0083】
溶液の紫外線吸収スペクトルにおいて最大吸収波長(λmax)が250nmより長波長である棒状化合物を、二種類以上併用してもよい。
棒状化合物は、文献記載の方法を参照して合成できる。文献としては、Mol. Cryst. Liq. Cryst., 53巻、229ページ(1979年)、同89巻、93ページ(1982年)、同145巻、111ページ(1987年)、同170巻、43ページ(1989年)、J. Am. Chem. Soc.,113巻、1349ページ(1991年)、同118巻、5346ページ(1996年)、同92巻、1582ページ(1970年)、J. Org. Chem., 40巻、420ページ(1975年)、Tetrahedron、48巻16号、3437ページ(1992年)を挙げることができる。
【0084】
前記Re発現剤は、セルロースアセテートに対し、0.2〜10質量%の割合で添加することがより好ましく、0.5〜5質量%の割合で添加することがより好ましく、1〜4質量%の割合で添加することが特に好ましい。
さらに、前記Re発現剤は、前記Rth制御剤と適当に併用することが、ReおよびRthを好ましい範囲に制御しつつ、かつ、ヘイズが低いセルロースアセテートフィルムを製造することができる観点から、好ましい。
【0085】
(ドープの製造)
本発明の製造方法では、一般的な方法で前記ドープを調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温または高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。ドープは、常温(0〜40℃)でセルロースアセテートと溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアセテートと溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0086】
各成分は予め粗混合してから容器(タンク等)に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
【0087】
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶媒中に溶解することが好ましい。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却することが好ましい。
【0088】
冷却溶解法により、前記ドープを調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な溶媒中にもセルロースアセテートを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でセルロースアセテートを溶解できる溶媒であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるという効果がある。
冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にセルロースアセテートを撹拌しながら徐々に添加する。セルロースアセテートの量は、この混合物中に10〜40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアセテートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。
次に、混合物を−100〜−10℃(好ましくは−80〜−10℃、さらに好ましくは−50〜−20℃、最も好ましくは−50〜−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30〜−20℃)中で実施できる。このように冷却すると、セルロースアセテートと有機溶媒の混合物は固化する。
【0089】
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を、冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
さらに、これを0〜200℃(好ましくは0〜150℃、さらに好ましくは0〜120℃、最も好ましくは0〜50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースアセテートが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよいし、温浴中で加温してもよい。加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を、加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
【0090】
以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
なお、セルロースアセテート(全アセチル置換度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20質量%の溶液は、示差走査熱量測定(DSC)によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保存する必要がある。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアセテートの全アセチル置換度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
【0091】
本発明では、好ましくは、サイロによってセルロースアセテートの乾燥をあらかじめ行い、その後前記溶媒と混合してドープを調整する。また、さらに好ましくは、ドープに添加する添加剤についてもあらかじめサイロによって乾燥を行い、その後前記溶媒やセルロースアセテートと混合してドープを調整する。
【0092】
<製膜工程および剥離工程>
本発明の製造方法は、支持体上に、全置換度2.0〜2.7のセルロースアセテートと溶媒とを含むドープを溶液流延してドープ膜を形成する工程(以下、製膜工程とも言う)と、前記ドープ膜を前記支持体から剥ぎ取る工程(以下、剥離工程とも言う)を含むことを特徴とする。すなわち、本発明では、調製したドープから、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレテートフィルムを製造することができる。
さらに、本発明の製造方法は、前記支持体が移動する帯状の支持体であることが好ましい。
さらに、本発明の製造方法は、前記ドープ膜を剥ぎ取る時の残留溶媒量を100%以下に制御することが好ましく、前記支持体の前記ドープ膜を剥ぎ取る領域において、前記支持体のドープ膜剥離側とは反対の面に表面温度が10℃以下の冷却体を接触させることも好ましい。
以下、本発明の製造方法における前記製膜工程および前記剥離工程について好ましい態様を説明する。
【0093】
低アシル置換度である本発明のセルロースアセテートフィルムを製造する方法における製膜工程に用いられる設備は、従来セルローストリアセテートフィルム製造に供するのと同様の溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置が用いられる。本発明の製造方法では、例えば、特開2004−359379号公報に記載の製造装置を好ましく用いることができる。
ソルベントキャスト法における流延および後述の乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
さらに特開2000−301555号、特開2000−301558号、特開平7−032391号、特開平3−193316号、特開平5−086212号、特開昭62−037113号、特開平2−276607号、特開昭55−014201号、特開平2−111511号、および特開平2−208650号の各公報に記載のセルロースアシレート製膜技術を本発明では応用できる。
以下、より具体的に、前記製膜工程および前記剥離工程について、好ましい態様を説明する。
【0094】
溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースアセテート溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製することが好ましい。
本発明の製造方法では、調製されたドープは、移動する帯状の支持体上に溶液流延される。調製されたドープは、ドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、前記移動する帯状の支持体上に溶液流延されることが好ましい。
前記移動する帯状の支持体は、特に制限はないが、バンド状またはベルト上であることが好ましく、無端のバンドまたはベルトであることがより好ましい。このような無端の支持体を用いることで、エンドレスにドープを移動させることができる。さらに、前記帯状の支持体は、どのような態様で移動していてもよいが、2以上のロール(ドラム)間に掛け渡された無端ベルトであることが特に好ましい。
また、前記帯状の支持体の材質については特に制限はないが、金属製であることが好ましく、SUS製(例えば、SUS 316)であることがより好ましい。
前記帯状の支持体の比熱は、0.1〜1.0J/(m3?K)であることが好ましい。
前記帯状の支持体の幅は1〜3mであることが好ましく、1.5〜3mであることがより好ましく、約2mであることが特に好ましい。なお、ここでいう約2mとは、2m±30cmの範囲を言う。
前記帯状の支持体の長さ(いわゆるバンド長)は、80〜100mであることが好ましい。
前記帯状の支持体の表面粗さ(Ra値)は、0.01μm以下であることが好ましい。また、前記帯状の支持体の表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。なお、鏡面仕上げとは、研磨を繰り返して、バンド表面を平滑にすることを言う。さらに、前記バンド表面は、幅方向でのより高い厚み精度を有する、いわゆる超鏡面に仕上げられていることがより好ましい。
前記帯状の支持体の厚みは1.5〜2mmであることが好ましい。
前記帯状の支持体はドープ膜剥ぎ取り領域において、剥離側とは反対の面が冷却体に接している。前記冷却体は、形状に特に制限はなく、冷却板や冷却曲面体であってもよいが、その中でも円筒状の冷却体であることが好ましい。さらに、前記冷却体は、駆動ロールまたは従動ロールであって、これらのいずれかのロールに前記帯状の支持体が巻き付けられていることが好ましい。前記ロールの直径は、2〜3mであることが好ましい。また、前記ロールが複数ある場合、少なくとも一方がモーターによって前記帯状の支持体を積極的に回動させることができる駆動ロールであることが好ましい。なお、その他の前記帯状の支持体が巻き付けられているロールは、駆動ロールであっても、駆動ロールに連れ周りする従動ロールであってもよい。
前記駆動ロールのよって駆動される前記帯状の支持体の移動速度は、15〜80m/sであることが好ましい。
【0095】
本発明の製造方法では、前記ドープが前記帯状の支持体の上に均一に流延されたあと、特定の条件に制御しつつ、前記ドープ膜を前記支持体から剥ぎ取ることが好ましい。本発明の製造方法では、前記ドープを剥ぎ取る領域(以下、剥離点とも言う)については特に制限はないが、前記ドープ膜を剥ぎ取る時の残留溶媒量を100%以下に制御し、かつ、前記ドープ膜を支持体から剥ぎ取る領域において、前記支持体のドープ膜剥離側とは反対の面に表面温度が10℃以下の冷却体を接触させることが好ましい。このように前記帯状の支持体上で溶媒を蒸発させてから、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を該帯状の支持体から剥離することが、剥離性を改善する観点から好ましい。
具体的な態様としては、前記帯状の支持体が無端ベルトである場合、ほぼ一周弱、走行した点を剥離点とすることが好ましい。
【0096】
前記ドープ膜を剥ぎ取る時の残留溶媒量を100%以下に制御する方法としては、例えば、特公平5−17844号公報に記載があり、前記ドープを前記帯状の支持体上に流延してから2秒以上風に当てて乾燥する方法などを挙げることができる。また、前記帯状の支持体の表面温度を、剥離点近傍に到達するまでの残留溶媒量を制御する領域において、10℃〜40℃にする方法などを挙げることができる。
なお、残留溶媒量は下記の式で表せる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを測定したウェブを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
前記ドープ膜を剥ぎ取る時の残留溶媒量は、50質量%以下に制御することがより好ましく、45質量%以下に制御することが特に好ましく、45質量%未満に制御することがより特に好ましい。前記ドープ膜を剥ぎ取る時の残留溶媒量を30質量%以上とすることが、フィルムのRthをより発現させる観点から、好ましい。
【0097】
本発明の製造方法では、前記ドープ膜を支持体から剥ぎ取る領域において、前記支持体のドープ膜剥離側とは反対の面に表面温度が10℃以下の冷却体を接触させることが好ましい。前記冷却体は、前記移動する帯状の支持体を回動させることができるロールを兼ねていることが好ましい。前記冷却体の表面温度の制御方法としては、例えば、不凍液を用いたブラインチラーで冷却することによりの表面温度を10℃以下(上限値は好ましくは5℃以下、より好ましくは0℃以下、特に好ましくは−5℃以下)とすることができる。前記剥ぎ取り領域に最も近いロールの表面温度は、−25℃〜5℃であることがより好ましく、−25℃〜0℃であることが特に好ましく、−20℃〜−5℃であることがより特に好ましい。
このような温度範囲に前記冷却体の表面温度を制御し、前記範囲にドープの残留溶媒量を制御することにより、流延時の前記帯状の支持体の表面温度においてドープがゲル化させることができるのみならず、顕著に低アシル置換度のセルロースアセテートウェブの剥離性を改善することができる。
【0098】
一方、前記ドープ膜を支持体から剥ぎ取る領域において、前記支持体のドープ膜剥離側の面の表面温度については、必ずしも10℃以下でなくともよいが、10℃以下であることが好ましく、より好ましい範囲についても前記冷却体の表面温度の好ましい範囲と同様である。
【0099】
流延するドープ中に含まれる固形分濃度は、15%〜25%に制御することが乾燥後のフィルム面状の観点から好ましく、16%〜23%に制御することがより好ましく、17%〜22%に制御することが特に好ましい。
【0100】
本発明の製造方法に好ましく用いられるバンド流延装置の態様を図1に示した。
図1は、ベルト幅方向の高い厚み精度をもつ超鏡面加工がなされた単一の金属製無端ベルト101を使ったセルロースアセテートフィルム連続製造機の例を示している。このフィルム連続製造機は例えば、前記金属製無端ベルト101はステンレススチールからなり、その厚みは約1.5mm、ベルト幅は約3m、ベルト速度は2〜100m/minであって製品厚みは10μm以下であることが好ましい。なお、装置によっては、より厚いフィルムやシートにも適用できる。前記金属製の無端ベルト101は製品移送側の従動ロール102と原料樹脂供給側の駆動ロール103に上掛け渡されて、駆動ロール103により積極的に回動させることができる。
【0101】
図示例のフィルム連続製造機は、駆動ロール103側のベルト上面に高精度のギヤポンプ104からセルロースアセテートドープが定量で供給され、専用に設計されたTダイ105を介して所要の幅で押し出され、同ベルト101上を従動ロール側へと移送される間に残留溶媒量制御装置108によって3段の加熱がなされる。そののち、従動ロール102側のベルト転向部を経て、無端ベルト101の回動に伴われて同ベルト101の下面に担持されながら駆動ロール103側へと移送され、ドープ膜は剥ぎ取り領域107において無端ベルト101から剥離され、無端ベルト101から駆動ロール103の外側に配された引取ロール群106を介して図示せぬ巻取部に巻き取られる。ここで、駆動ロール103には冷却装置109が備えられており、剥ぎ取り領域107において、駆動ロール103、すなわち冷却体の表面温度を特定の範囲に制御している。なお、従動ロール102側にはベルト蛇行防止装置110の作動部が配されていることがより好ましい。
【0102】
<乾燥工程>
前記帯状の支持体上で乾燥され、剥離されたウェブの乾燥方法について述べる。前記帯状の支持体が1周する直前の剥離位置で剥離されたウェブは、千鳥状に配置されたロ−ル群に交互に通して搬送する方法や剥離されたウェブの両端をクリップ等で把持させて非接触的に搬送する方法などにより搬送される。乾燥は、搬送中のウェブ(フィルム)両面に所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエ−ブなどの加熱手段などを用いる方法によって行われる。急速な乾燥は、形成されるフィルムの平面性を損なう恐れがあるので、乾燥の初期段階では、溶媒が発泡しない程度の温度で乾燥し、乾燥が進んでから高温で乾燥を行うのが好ましい。支持体から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってフィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。収縮は、高温度で乾燥するほど大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているように、乾燥の全工程あるいは一部の工程を幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンタ−方式)が好ましい。上記乾燥工程における乾燥温度は、100〜145℃であることが好ましい。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量および乾燥時間が異なるが、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶媒を蒸発させることもできる。
【0103】
<延伸工程>
本発明の製造方法は、支持体から剥離したウェブ(フィルム)を、下記式(1)を満たす温度で延伸する工程を含むことが、光学発現性、フィルム白化の抑制を両立する観点から好ましい。
Te−30℃≦延伸温度≦Te+30℃ (1)
Te=T[tanδ]−ΔTm (1’)
ΔTm=Tm(0)−Tm(x) (1’’)
(式(1)中、T[tanδ]は残留溶媒量が0%のときのセルロースアセテートの動的粘弾性tanδを測定した際にtanδがピークを示す温度を表し、Tm(0)は残留溶媒量が0%のときのセルロースアセテートの結晶融解温度を表し、Tm(x)は該セルロースアセテートに対する残留溶媒量がx%のときのセルロースアセテートの結晶融解温度を表す。)
なお、残留溶媒量は下記の式で表せる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを測定したウェブを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。ウェブ中の残留溶媒量が多すぎると延伸の効果が得られず、また、少なすぎると延伸が著しく困難となり、ウェブの破断が発生してしまう場合がある。ウェブ中の残留溶媒量のさらに好ましい範囲は10質量%〜50質量%、特に12質量%〜30質量%が最も好ましい。また、延伸倍率が小さすぎると十分な位相差が得られず、大きすぎると延伸が困難となり破断が発生してしまう場合がある。
本発明では、溶液流延製膜したウェブは、特定の範囲の残留溶媒量であれば高温に加熱しなくても延伸可能であるが、乾燥と延伸を兼ねると、工程が短くてすむので好ましい。しかし、ウェブの温度が高すぎると、可塑剤が揮散するので、室温(15℃)〜145℃以下の範囲が好ましい。また、互いに直交する2軸方向に延伸することは、フィルムの屈折率Nx、Ny、Nzを本発明の範囲に入れるために有効な方法である。例えば流延方向に延伸した場合、幅方向の収縮が大きすぎると、Nzの値が大きくなりすぎてしまう。この場合、フィルムの幅収縮を抑制あるいは、幅方向にも延伸することで改善できる。幅方向に延伸する場合、幅手で屈折率に分布が生じる場合がある。これは、例えばテンター法を用いた場合にみられることがあるが、幅方向に延伸したことで、フィルム中央部に収縮力が発生し、端部は固定されていることにより生じる現象で、いわゆるボ−イング現象と呼ばれるものと考えられる。この場合でも、流延方向に延伸することで、ボ−イング現象を抑制でき、幅手の位相差の分布を少なく改善できるのである。さらに、互いに直交する2軸方向に延伸することにより得られるフィルムの膜厚変動が減少できる。光学フィルムの膜厚変動が大き過ぎると位相差のムラとなる。光学フィルムの膜厚変動は、±3%、さらに±1%の範囲とすることが好ましい。以上の様な目的において、互いに直交する2軸方向に延伸する方法は有効であり、互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ1.2〜2.0倍、0.7〜1.0倍の範囲とすることが好ましい。ここで、一方の方向に対して1.2〜2.0倍に延伸し、直交するもう一方を0.7〜1.0倍にすることは、フィルムを支持しているクリップやピンの間隔を延伸前の間隔に対して0.7〜1.0倍の範囲にすることを意味している。
【0104】
一般に、2軸延伸テンターを用いて幅手方向に1.2〜2.0倍の間隔となるように延伸する場合、その直角方向である長手方向には縮まる力が働く。
したがって、一方向のみに力を与えて続けて延伸すると直角方向の幅は縮まってしまうが、これを幅規制せずに縮まる量に対して、縮まり量を抑制していることを意味しており、その幅規制するクリップやピンの間隔を延伸前に対して0.7〜1.0倍の範囲に規制していることを意味している。このとき、長手方向には、幅手方向への延伸によってフィルムが縮まろうとする力が働いている。長手方向のクリップあるいはピンの間隔をとることによって、長手方向に必要以上の張力がかからないようにしているのである。ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。また、いわゆるテンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸が行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
前記延伸工程におけるフィルム延伸率(延伸倍率と称する場合がある)が1.2〜2.0倍であることが好ましく、1.3〜1.5倍であることがさらに好ましい。
【0105】
なお、延伸時におけるフィルム中の残留溶媒量がドープ中に含まれるセルロースアセテートに対して0質量%の場合はTe=T[tanδ]となるため、T[tanδ]−30℃≦延伸温度≦T[tanδ]+30℃で延伸することとなる。
【0106】
前記T[tanδ]は、バイブロンにより残留溶媒量0%のセルロースアセテートの動的粘弾性tanδを測定した際にtanδがピークを示した温度であり、フィルムごとに固有の温度である。動的粘弾性を測定する際に用いるバイブロンとしては特に制限はないが、例えば、IT計測制御株式会社社製、商品名DVA200を用いることができる。
【0107】
前記Tm(0)は残留溶媒量0%のセルロースアセテートの結晶融解温度を表し、前記Tm(x)はセルロースアセテートに対して残留溶媒量x%のセルロースアセテートの結晶融解温度を表す。一般的に剥離後のフィルムの残留溶媒量とフィルムの結晶融解温度Tmの関係は、残留溶媒量が高まるにつれてTmが低下する関係がある。前記結晶融解温度の測定は、DSCを用いた公知の方法を採用することができ、例えば公開技報2001-1745 11〜12頁に記載の方法で測定することができる。
【0108】
ここで、前記T[tanδ]は残留溶媒を含んだフィルムでは測定できない。しかしながら、本発明の式(1)で規定する延伸温度とすることで、残留溶媒を含んだフィルムを延伸した場合であっても、得られたフィルムを湿熱環境下で経時させた際の寸度変化率を顕著に改善させることができる。いかなる理論に拘泥するものでもないが、前記式(1’’)により求めたΔTmだけ残留溶媒の影響があると勘案して前記式(1)および(1’)にて延伸温度を補正して延伸することで、残留溶媒を含んだフィルムを延伸した場合であっても驚くべきことに上記の寸度変化率が顕著に改善される。
【0109】
フィルム搬送方向に直交する方向に延伸する方法は、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号などの各公報に記載されている。フィルム搬送方向(長手方向)の延伸の場合、例えば、フィルムの搬送ロールの速度を調節して、フィルムの剥ぎ取り速度よりもフィルムの巻き取り速度の方を速くするとフィルムは延伸される。フィルム搬送方向に直交する方向の延伸の場合、フィルムの幅をテンターで保持しながら搬送して、テンターの幅を徐々に広げることによってもフィルムを延伸できる。フィルムの乾燥後に、延伸機を用いて延伸すること(好ましくはロング延伸機を用いる一軸延伸)もできる。
【0110】
光学フィルムを偏光子の保護膜として使用する場合には、偏光板を斜めから見たときの光漏れを抑制するため、偏光子の透過軸と光学フィルムの面内の遅相軸を平行に配置する必要がある。連続的に製造されるロールフィルム状の偏光子の透過軸は、一般的に、ロールフィルムの幅方向に平行であるので、前記ロールフィルム状の偏光子とロールフィルム状の光学フィルムからなる保護膜を連続的に貼り合せるためには、ロールフィルム状の保護膜の面内遅相軸は、フィルムの幅方向に平行であることが必要となる。従って幅方向により多く延伸することが好ましい。また延伸処理は、製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理してもよいが、本発明の製造方法では残留溶媒を含んだ状態で延伸を行うため、製膜工程の途中で延伸することが好ましい。
【0111】
<熱処理工程>
本発明のフィルムの製造方法は乾燥工程終了後に熱処理工程を設けることが好ましい。当該熱処理工程における熱処理は乾燥工程終了後に行われればよく、延伸/乾燥工程後直ちに行ってよいし、あるいは乾燥工程終了後に後述する方法で一旦巻き取った後に、熱処理工程だけを別途設けてもよい。本発明においては乾燥工程終了後に一旦、室温〜100℃以下まで冷却した後において改めて前記熱処理工程を設けることが好ましい。これは熱寸法安定性のより優れたフィルムを得られる点で有利であるからである。同様の理由で熱処理工程直前において残留溶媒量が2質量%未満、好ましくは0.4質量%未満まで乾燥されていることが好ましい。
このような処理によりフィルムの収縮率を小さくできる理由は明確ではないが、延伸工程にて延伸される処理を経たフィルムにおいては、延伸方向の残留応力が大きいため、熱処理によって前記残留応力が解消されることにより、熱処理温度以下の領域での収縮力が低減されるものと推定される。
【0112】
熱処理は、搬送中のフィルムに所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエーブなどの加熱手段などを用いる方法により行われる。
熱処理は150〜200℃の温度で行うことが好ましく、160〜180℃の温度で行うことがさらに好ましい。また、熱処理は1〜20分間行うことが好ましく、5〜10分間行うことがさらに好ましい。
熱処理温度が200℃を超えて長時間加熱すると、フィルム中に含まれる可塑剤の飛散量が増大するため問題となる場合がある。
なお前記熱処理工程において、フィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。この収縮を可能な限り抑制しながら熱処理することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましく、幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンター方式)が好ましい。さらに、フィルムの幅方向および搬送方向に、それぞれ0.9倍〜1.5倍に延伸することが好ましい。
【0113】
<巻き取り工程>
また、得られるウェブの両端をクリップで挟み、テンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取ることが好ましい。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変えることができる。
【0114】
得られたフィルムを巻き取る巻き取り機には、一般的に使用されている巻き取り機が使用でき、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロ−ル法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。以上の様にして得られた光学フィルムロールは、フィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲であることが好ましい。または、巻き取り方向に対して直角方向(フィルムの幅方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲にあることが好ましい。特にフィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±0.1度以内であることが好ましい。あるいはフィルムの幅手方向に対して±0.1度以内であることが好ましい。
【0115】
フィルム厚さの調整は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節すればよい。
【0116】
以上のようにして得られた、光学フィルムの長さは、1ロール当たり100〜10000mで巻き取るのが好ましく、より好ましくは500〜7000mであり、さらに好ましくは1000〜6000mである。光学フィルムの幅は、0.5〜5.0mが好ましく、より好ましくは1.0〜3.0mであり、さらに好ましくは1.0〜2.5mである。巻き取る際、少なくとも片端にナーリングを付与するのが好ましく、ナーリングの幅は3mm〜50mmが好ましく、より好ましくは5mm〜30mm、高さは0.5〜500μmが好ましく、より好ましくは1〜200μmである。これは片押しであっても両押しであってもよい。
【0117】
一般的に、大画面表示装置において、斜め方向のコントラストの低下および色味付きが顕著となるので、本発明のフィルムは、特に大画面液晶表示装置に用いるのに適している。大画面用液晶表示装置用の光学補償フィルムとして用いる場合は、例えば、フィルム幅を1470mm以上として成形するのが好ましい。また、本発明の光学補償フィルムには、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様のフィルムのみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様のフィルムも含まれる。後者の態様の光学補償フィルムは、その状態で保管・搬送等され、実際に液晶表示装置に組み込む際や偏光子等と貼り合わされる際に、所望の大きさに切断されて用いられる。また、同様に長尺状に作製されたポリビニルアルコールフィルム等からなる偏光子等と、長尺状のまま貼り合わされた後に、実際に液晶表示装置に組み込む際に、所望の大きさに切断されて用いられる。ロール状に巻き上げられた光学補償フィルムの一態様としては、ロール長が2500m以上のロール状に巻き上げられた態様が挙げられる。
【0118】
電子ディスプレイ用機能性保護膜に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等のフィルムへの表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。
【0119】
[セルロースアセテートフィルム]
(レターデーション)
本発明のフィルムは、本発明のセルロースアセテートフィルムの製造方法により製造され、波長590nmで測定した膜厚方向のレターデーション値Rthが80nm以上であることを特徴とする。また、Rthは、80nm≦Rth≦300nmを満たすことが好ましく、80nm≦Rth≦150nmを満たすことがより好ましい。このようなRthとすることにより、よりカラーシフトの少ないVA用位相差膜を作製できる。
【0120】
本発明のフィルムは、波長590nmで測定したフィルム面内方向のレターデーション値Reが30〜100nmであることが好ましい。
Reは、35nm≦Re≦80nmであることが好ましく、40nm≦Re≦60nmであることがより好ましい。
【0121】
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、590nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。測定波長λnmの選択にあたっては、波長選択フィルターをマニュアルで交換するか、または測定値をプログラム等で変換して測定するができる。
測定されるフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A)及び式(B)よりRthを算出することもできる。
【0122】
式(A):
【数1】


上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値をあらわす。
式(A)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。dは膜厚である。
式(B):
Rth={(nx+ny)/2 − nz} x d
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する: セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0123】
(膜厚)
本発明のフィルムの厚さは、用いる偏光板の種類等によって適宜定めることができるが、好ましくは30〜60μmであり、より好ましくは35〜55μmである。フィルムの厚さを60μm以下とすることにより、コストを下げることができ好ましい。
【0124】
(ヘイズ)
本発明のフィルムは、ヘイズが1%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましく、0.5%未満であることが特に好ましく、0.3%以下であることがより特に好ましい。
【0125】
(偏光板)
本発明の偏光板は、偏光子と、少なくとも1枚の請求項7〜9のいずれか一項に記載のセルロースアセテートフィルムとを含むことを特徴とする。
本発明のセルロースアセテートフィルムは、偏光板用保護フィルムに好適である。偏光板は、偏光子の少なくとも一方の面に保護フィルムを貼り合わせ積層することによって形成される。偏光子は従来から公知のものを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコールフィルムの如き親水性ポリマーフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して延伸したものである。セルロースアセテートフィルムと偏光子との貼り合わせは、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行うことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコ−ル水溶液が好ましく用いられる。
【0126】
本発明のセルロースアセテートフィルムは、偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルム/液晶セル/本発明のセルロースアセテートフィルム/偏光子/偏光板用保護フィルムの構成、もしくは偏光板用保護フィルム/偏光子/本発明のセルロースアセテートフィルム/液晶セル/本発明の偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルムの構成で好ましく用いることができる。特に、TN型、VA型、OCB型などの液晶セルに貼り合わせて用いることによって、視野角に優れ、着色が少ない視認性に優れた表示装置を提供することができる。また、本発明のセルロースアセテートフィルムを用いた偏光板は高温高湿条件下での劣化が少なく、長期間安定した性能を維持することができる。
【0127】
本発明の偏光板の態様は、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様の偏光板のみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様(例えば、ロール長2500m以上や3900m以上の態様)の偏光板も含まれる。大画面液晶表示装置用とするためには、上記した通り、偏光板の幅は1470mm以上とすることが好ましい。
本発明の偏光板の具体的な構成については、特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば、特開2008−262161号公報の図6に記載の構成を採用することができる。
【0128】
(液晶表示装置)
本発明の液晶表示装置は、本発明のセルロースアセテートフィルムを含むことを特徴とする。
本発明のフィルムは、本発明の偏光板を有する液晶表示装置に応用することができる。
本発明の液晶表示装置は液晶セルと該液晶セルの両側に配置された一対の偏光板を有する液晶表示装置であって、前記偏光板の少なくとも一方が本発明の偏光板であることを特徴とするIPS、OCBまたはVAモードの液晶表示装置であることが好ましい。
本発明の液晶表示装置の具体的な構成としては特に制限はなく公知の構成を採用できる.また、特開2008−262161号公報の図2に記載の構成も好ましく採用することができる。
【実施例】
【0129】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0130】
本発明では、下記の測定方法により測定を行った。
(剥ぎ取り適性)
各実施例および比較例において、支持体から流延膜を湿潤フィルムとして剥ぎ取る際(延伸前における剥ぎ取り)の剥離点の変動幅を測定し、剥ぎ取り適性の評価を行った。
◎:剥離点の変動幅 0mmで変動しない(非常に軽い)。
○:剥離点の変動幅 0mm超、2mm以内で変動する(軽い)。
▲:剥離点の変動幅 2mm超、5mm以内で変動する(やや重い)。
×:剥離点の変動幅 5mm超、10mm以上で変動する(重い)。
××:剥離点の変動幅 10mm超で変動する(非常に重い)
以上の評価にしたがって、剥ぎ取り適性を評価し、得られた結果を下記表3および表4に記載した。なお、比較例1、3〜6については剥ぎ取り適性の評価を行わなかった。
【0131】
(Re、Rth)
KOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)で上記の方法によりReおよびRthを波長590nmで計測した。その結果を下記表3および表4に記載した。
【0132】
(ヘイズ)
ヘイズの測定は、本発明のフィルム試料40mm×80mmを、25℃、相対湿度60%で、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)でJIS K−6714に従って測定した。その結果を下記表3および表4に示す。
【0133】
[実施例1〜53、比較例1〜7:セルロースアセテートフィルムの製膜]
(1)セルロースアセテートドープの調製
表3および表4に記載のアシル置換度のセルロースアセテートを調製した。触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、カルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。その後、硫酸触媒量、水分量および熟成時間を調整することで全置換度と6位置換度を調整した。熟成温度は40℃で行った。さらにこのセルロースアセテートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
【0134】
セルロースアセテート溶液
下記表3および表4に記載のセルロースアセテート、ジクロロメタン、下記表3および表4に記載のアルコールをミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、さらに90℃で約10分間加熱した後、平均孔径34μmのろ紙および平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過した。無機微粒子、下記表3および表4に記載の各添加剤をさらに投入し、以下のセルロースアセテート溶液を調製した。なお、無機微粒子は分散機に投入して調製し、各添加剤は加熱しながら攪拌して溶解した。実施例1のドープの組成を以下に示す。
【0135】
――――――――――――――――――――――――――――――――――
例) 実施例1のドープ
――――――――――――――――――――――――――――――――――
・セルロースアセテート(置換度2.10) 100.0質量部
・化合物B(Rth制御剤) 19.0質量部
・無機微粒子
(アエロジルR972、日本アエロジル(株)製) 0.2質量部
・メチレンクロライド 365.5質量部
・エタノール 54.6質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0136】
(各添加剤)
ここで、Rth制御剤およびRe発現剤(添加剤2)の添加量は、表3および表4に示したとおりであり、セルロースアセテートに対する質量%で示している。また、表4中、AAは
【化1】

を、ABは、
【化2】

を、ACは、
【化3】

をそれぞれ示している。
【0137】
また、添加剤Aについては特開2009−222994号公報の化合物D−1である。以下に前記添加剤Aの構造を記載する。
【化4】

添加剤B〜Hについては下記表1に記載のものである。なお、下記表1中、EGはエチレングリコールを、PGはプロピレングリコールを、BGはブチレングリコールを、TPAはテレフタル酸を、PAはフタル酸を、AAはアジピン酸を、SAはコハク酸をそれぞれ示している。
また、前記添加剤の添加量は、ドープ中に含まれる熱可塑性樹脂に対する質量%である。
【0138】
【表1】

【0139】
さらに、実施例11〜13では、剥離促進剤HKとしてクエン酸エチルエステル(モノエステル40%、ジエステル40%、トリエステル10%)をセルロースアセテートに対して300ppmとなる量を混合し、製膜用ドープを調製した。さらに、実施例14〜23では、下記表2に記載の剥離促進剤を、下記表3または4に記載の量を混合して製膜用ドープを調整した。セルロースアセテート、各溶媒、各添加剤の最終的な添加割合は下記表3および表4に記載のとおりとした。
なお、ドープの原料として用いたセルロースアセテートおよび各種添加剤は、あらかじめ (株)奈良機械製作所製のサイロを用いて120℃にて2時間乾燥を行ったものを用いた。
また、このときのドープ中に含まれる固形分濃度を測定し、下記表3および表4に記載した。
【0140】
【表2】

【0141】
(2)流延製膜、剥ぎ取り
上述のドープを、図1に示した構成のバンド流延機を用いて流延した。バンドはSUS 316製であり、バンド幅は約2mであり、バンドは無端ベルトであってバンド長は約80mであり、表面粗さRa値は0.01μmであり、バンドの厚みは約1.5〜2mmであり、超鏡面仕上げされたものであった。バンド流延機の無端金属ベルトは2つのロールに巻き付けてあり、その直径は約2.5mであり、ロールのうちドープ膜を剥ぎ取る側のロールには冷却装置が備え付けられている。冷却装置はブラインチラーを用いてロールを冷却できるようになっており、該ロールを冷却体としてその表面温度を下記表3および表4に記載した表面温度に制御した。また、無端金属ベルトの移動速度は、40m/sであった。
バンド上の給気温度80℃〜130℃(排気温度は75℃〜120℃)の範囲で適宜制御できる残留溶媒量制御装置によって、剥ぎ取り領域において下記表3および表4に記載した残留溶媒量となるように乾燥させた後、バンドからドープ膜を剥ぎ取った。
なお、表3および表4中、実施例52の「36→後乾0」とは、溶媒残留量36%の時点で剥ぎ取り後、延伸せずに(延伸ゾーンを介さずに)フィルムを120℃にて30分間乾燥し、その後乾燥されて乾燥膜になったフィルムに対して延伸を実施することを意味する。実施例53も、実施例52と同様に乾燥膜になったフィルムに対して実施したものである。
【0142】
(3)延伸
得られたウェブ(フィルム)をバンドから剥離し、クリップに挟み、フィルム全体の質量に対する残留溶媒量が30〜5%の状態のときに固定端一軸延伸の条件で、下記表3および表4に記載の延伸温度で、延伸倍率1.3倍でテンターを用いてフィルム搬送方向に直交する方向(横方向)に延伸した。
その後にフィルムからクリップを外して130℃で20分間乾燥させた。このとき、延伸後の膜厚が表3および表4に記載の膜厚(単位:μm)になるように、流延膜厚を調整した。このような方法で表3および表4に示した特性の各実施例および比較例のセルロースアセテートフィルムを作製し、その製造適性を判断する目的で、ロール幅1280mm、ロール長2600mmのロールを上記条件で最低24ロール作製した。連続で製造した24ロールの中の1ロールについて100m間隔で長手1mのサンプル(幅1280mm)を切り出して各測定を行った。
【0143】
【表3】


【0144】
【表4】

【0145】
表3および表4より、本発明によれば溶液流延したときに支持体からの剥離が容易である、Rthの発現性が良好なセルロースアセテートフィルムを提供できることがわかった。
一方、比較例1および3は用いたセルロースアセテートの全アシル置換度を本発明の範囲よりも低くしたものであり、得られたフィルムは剥ぎ取り適性が悪く、光学特性やヘイズの測定をできなかった。比較例2および4は、用いたセルロースアセテートの全アシル置換度を本発明の範囲よりも高くしたものであり、得られたフィルムはRthの発現性が悪かった。比較例5はドープの溶媒としてアルコールの平均炭素数を本発明の範囲の下限値よりも低くしたものであり、メチクロ/メタノールの溶媒組成では得られたフィルムは剥ぎ取り適性が悪く、光学特性やヘイズの測定をできなかった。比較例6はドープの溶媒としてアルコールの平均炭素数を本発明の範囲の上限値よりも高くしたものであり、得られたフィルムは剥ぎ取り適性が悪く、光学特性やヘイズの測定をできなかった。比較例7はドープの溶媒組成において、エタノールの溶媒中の含有量を本発明の範囲よりも少なくしたものであり、得られたフィルムは剥ぎ取り適性が悪く、光学特性やヘイズの測定をできなかった。
【符号の説明】
【0146】
101 金属製無端ベルト
102 従動ロール
103 駆動ロール(冷却体)
104 ギヤポンプ
105 Tダイ
106 引取ロール群
107 剥ぎ取り領域
108 残留溶媒量制御装置
109 ロール冷却装置
110 ベルト蛇行防止装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全置換度2.0〜2.7のセルロースアセテートと溶媒とを含有するドープを支持体上に溶液流延する工程と、
前記ドープ膜を前記支持体から剥ぎ取る工程とを含み、
前記溶媒の15質量%以上がアルコールであって、前記アルコールの平均炭素数が1.5〜4であることを特徴とするセルロースアセテートフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記アルコールとして、エタノールを含むことを特徴とする請求項1に記載のセルロースアセテートフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記支持体が、移動する帯状の支持体であり、
前記支持体の前記ドープ膜を剥ぎ取る領域において、前記支持体のドープ膜剥離側とは反対の面に表面温度が10℃以下の冷却体を接触させることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアセテートフィルムの製造方法。
【請求項4】
剥離促進剤を前記ドープ中に含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアセテートフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記剥離促進剤が下記一般式(1)で表される有機酸であり、
該剥離促進剤を前記ドープ中のセルロースアセテートに対して0.001〜20質量%含有することを特徴とする請求項4に記載のセルロースアセテートフィルムの製造方法。
一般式(1) X−L−(R1n
(式中、Xは酸解離定数が5.5以下の酸性基を表し、Lは単結合または2価以上の連結基を表し、R1は水素原子、炭素数6〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のアルキニル基、炭素数6〜30のアリール基または炭素数6〜30の複素環基を表し、さらに置換基を有していてもよい。nはLが単結合の場合は1であり、Lが2価以上の連結基の場合は(Lの価数−1)である。)
【請求項6】
一般式(1)におけるXが、カルボキシル基、スルフォン酸基、スルフィン酸基、リン酸基、スルフォンイミド基またはアスコルビン酸基を表すことを特徴とする請求項5に記載のセルロースアセテートフィルムの製造方法。
【請求項7】
膜厚方向のレターデーションRth制御剤を前記ドープ中に含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースアセテートフィルムの製造方法。
【請求項8】
下記式(1)を満たす温度で延伸する工程を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロースアセテートフィルムの製造方法。
Te−30℃≦延伸温度≦Te+30℃ (1)
Te=T[tanδ]−ΔTm (1’)
ΔTm=Tm(0)−Tm(x) (1’’)
(式(1)中、T[tanδ]は残留溶媒量が0%のときのセルロースアセテートの動的粘弾性tanδを測定した際にtanδがピークを示す温度を表し、Tm(0)は残留溶媒量が0%のときのセルロースアセテートの結晶融解温度を表し、Tm(x)は該セルロースアセテートに対する残留溶媒量がx%のときのセルロースアセテートの結晶融解温度を表す。)
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のセルロースアセテートフィルムの製造方法により製造され、
波長590nmで測定した膜厚方向のレターデーション値Rthが80nm以上であることを特徴とするセルロースアセテートフィルム。
【請求項10】
ヘイズが0.5%未満であることを特徴とする請求項9に記載のセルロースアセテートフィルム。
【請求項11】
波長590nmで測定したフィルム面内方向のレターデーション値Reが30〜100nmであることを特徴とする請求項9または10に記載のセルロースアセテートフィルム。
【請求項12】
偏光子と、少なくとも1枚の請求項9〜11のいずれか一項に記載のセルロースアセテートフィルムとを含むことを特徴とする偏光板。
【請求項13】
請求項9〜11のいずれか一項に記載のセルロースアセテートフィルムを含むことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−183584(P2011−183584A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48891(P2010−48891)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】