説明

セルロースエアロゲルおよびその製造方法

【課題】復元ハイドロゲルとした際に優れた食感および外観を与えるセルロースエアロゲルを提供する。
【解決手段】セルロース繊維を含むセルロースハイドロゲルを、0.001〜4質量%の二糖類水溶液に浸漬して、当該二糖類を前記セルロースハイドロゲル内に浸透させる浸透工程、および前記工程で得たセルロースハイドロゲルを乾燥する乾燥工程、を含む、セルロースエアロゲルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエアロゲルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維を含むエアロゲルおよびハイドロゲル(以下それぞれ「セルロースエアロゲル」および「セルロースハイドロゲル」ともいう)は、工業材料、医療用材料、食用材料として注目を集めている。セルロースハイドロゲルはセルロース繊維の三次元ネットワーク構造中のポア(空孔)に水を保持してなるゲルであり、この水を空気で置換することによりセルロースエアロゲルが得られる。さらに、当該エアロゲル中の空気を再び水で置換すると、セルロースハイドロゲルとなる。
【0003】
例えば特許文献1には、バクテリアから産生されるセルロースからなるバクテリアセルロースハイドロゲルを乾燥して得たエアロゲルを用いた成形材料が開示されている。また、特許文献2にはバクテリアセルロースハイドロゲルを用いた複合材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−36467号公報
【特許文献2】特開2006−241450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のとおりセルロースハイドロゲルは水を含んでいるため重く、輸送する際のコストが嵩む。そこでコストを低減させるために、セルロースハイドロゲルを乾燥してセルロースエアロゲルとして輸送し、使用する場所でセルロースハイドロゲルに復元することが提案されている。しかしながら、従来のセルロースエアロゲルでは、セルロースハイドロゲルへの復元性が十分ではなく、復元に労力や時間がかかるという作業上の問題や、水が浸透しない白残り部分が生じる等の外観上の問題が生じていた。特に、ナタデココのような食用のセルロースハイドロゲルでは、独特のこりこりとした食感が重視されるが、復元すると食感が損なわれ、食品としての価値が低下するという深刻な問題があった。
【0006】
上記事情を鑑み、本発明は、復元セルロースハイドロゲルとした際に優れた外観、食感を与えるセルロースエアロゲルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは課題解決について検討を重ねた結果、セルロースハイドロゲルを特定の濃度の二糖類水溶液に浸漬した後、当該セルロースハイドロゲルを乾燥させことにより前記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、前記課題は以下の本発明により解決される。
[1]セルロース繊維を含むセルロースハイドロゲルを、0.001〜4質量%の二糖類水溶液に浸漬して、当該二糖類を前記セルロースハイドロゲル内に浸透させる浸透工程、および
前記工程で得たセルロースハイドロゲルを乾燥する乾燥工程、
を含む、セルロースエアロゲルの製造方法。
[2]セルロース繊維を含むセルロースエアロゲルであって、当該セルロース繊維間に二糖類を含む、セルロースエアロゲル。
[3]前記[2]に記載のセルロースエアロゲルを0〜100℃において吸水させることを含む、復元セルロースハイドロゲルの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により復元セルロースハイドロゲルとした際に優れた外観、食感を与えるセルロースエアロゲルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】セルロースハイドロゲルの概要図
【図2】プレ加工を示す図
【図3】アフター加工を示す図
【図4】アフター加工を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「〜」はその両端の値を含む。
1.エアロゲルの製造方法
1−1.浸透工程
浸透工程では、セルロース繊維を含むセルロースハイドロゲルを、特定の濃度の二糖類水溶液に浸漬して、当該二糖類を前記ハイドロゲル内に浸透させる。
【0012】
(1)セルロースハイドロゲル
本発明で使用するセルロースハイドロゲルの例を図1に示す。図1中、10は第1ハイドゲル層、20は第2ハイドロゲル層であり、図1(a)は2層セルロースハイドロゲル、図1(b)は多層セルロースハイドロゲルである。本発明においては、3層以上を多層という。
【0013】
1)第1ハイドロゲル層、第2ハイドロゲル層
第1ハイドロゲル層は、第2ハイドロゲル層に比べて繊維密度が低い層である。層の特定は、セルロースハイドロゲルを乾燥させて得たセルロースエアロゲルを電子顕微鏡等で観察して、セルロース繊維がネットワーク構造を形成することにより生じるポア径を測定することにより可能である。セルロースエアロゲルにおいて、ポア径が大きい層が第1ハイドロゲル層に由来する層、ポア径の小さい層が第2ハイドロゲル層に由来する層である。あるいは、セルロースハイドロゲルを観察して、透明度によっても層を特定できる。この場合、透明度の高い層が第1ハイドロゲル層であり、透明度の低い層が第2ハイドロゲル層である。
【0014】
第1ハイドロゲル層と第2ハイドロゲル層とは、相対的に繊維密度に差があればよく、その程度は特に限定されない。しかしながら、前述のとおり求めた、第1ハイドロゲル層の平均ポア径:第2ハイドロゲル層の平均ポア径の組合せは、i)0.6〜1.0μm:0.1〜0.6μm、ii)0.2〜0.5μm:0.1〜0.3μm、iii)0.9〜5μm:0.3〜0.9μmが好ましい。i)のようなセルロースハイドロゲルは、市販の2層セルロースハイドロゲルから入手でき、ii)のようなセルロースハイドロゲルは市販の多層セルロースハイドロゲルから入手できる。また、iii)のようなセルロースハイドロゲルは、後述するような特定の温度範囲でセルロース産生バクテリアを培養することにより得られる。iii)における前記組合せは、0.9〜5μm:0.6〜0.9μmがより好ましい。
【0015】
平均ポア径は次のようにして測定される。1)セルロースハイドロゲルを、室温にて(20〜25℃)水に16〜24時間浸漬した後、凍結乾燥してセルロースエアロゲルを得る。2)当該セルロースエアロゲルの表面(または水平方向の切断面)を電子顕微鏡等で観察した際に認められるポア(空孔)の径を測定する。ポアが円でない場合は、長径と短径を測定し、その平均をポア径とする。3)複数のポアについてポア径を測定し、平均する。
【0016】
上記組合せにおいて、例えばi)0.6〜1.0μm:0.1〜0.6μmのように、表記上は0.6μmが重複する。しかし、第1エアロゲル層の平均ポア径は常に第2エアロゲル層の平均ポア径よりも大きく、前記表記は、両者の値が同じになることは意味しない。以下の平均繊維束間距離についても同様である。
【0017】
また、エアロゲル層における繊維密度は、以下のように測定される平均繊維束間距離によっても評価できる。通常セルロースハイドロゲルは、まず薄いシート状のセルロースハイドロゲルが産生され、次いで当該シート状のゲルが積層されてある程度の大きさのセルロースハイドロゲルが形成される。前述のとおりセルロース産生バクテリアを用いてセルロースハイドロゲルを製造する場合、通常、前記シート状のゲルは液面に平行に液相側に積層される。よって、セルロースハイドロゲル中にはセルロースの繊維が寄り集まった繊維束が層状に存在する。当該繊維束同士の最短距離を繊維束間距離といい、複数の繊維束について繊維束間距離を測定し平均したものを平均繊維束間距離という。平均繊維束間距離は繊維密度の指標となり、平均繊維束間距離が大きいほど繊維密度は小さくなる。第1エアロゲル層と第2エアロゲル層とにおける平均繊維束間距離は、前記i)の場合は、5〜10μm:3〜5μm、ii)の場合は3.5〜5μm:3〜4μm、iii)の場合は3.5〜5μm:0.1μm以上3μm未満が好ましい。平均繊維束間距離は、次のようにして測定される。1)カッター等を用いてセルロースエアロゲルを積層面に垂直に切断する。2)切断面を電子顕微鏡等で観察して、層状に存在する繊維束同士の層間の最短距離を測定する。3)複数の繊維束について前記距離を測定し平均する。
【0018】
この他、繊維密度はセルロースハイドロゲル単位質量あたりの乾燥質量Rを算出する、乾燥質量法でも評価できる。具体的にR(%)はD/W×100で定義される。Dはハイドロゲル乾燥時の質量であり、Wはハイドロゲルの飽和吸水時の質量である。ハイドロゲル乾燥時とは、ハイドロゲルが完全に乾燥されエアロゲルになっている状態である。飽和吸水時とは、常態(室温、大気圧下)でゲルを吸水させた際に吸水量が飽和する時点である。Dを第1エアロゲル層の乾燥時の質量D1とし、Wを第1エアロゲル層を飽和吸水させた質量W1とすれば、第1エアロゲル層のR、すなわちR1が求められる。同様に、第2エアロゲル層のR、すなわちR2も求められる。
【0019】
具体的なWおよびDの求め方について、W1およびD1を求める場合を例に説明する。
1)前述の方法により第1エアロゲル層および第2エアロゲル層を特定する。
2)第1エアロゲル層から試料を採取する。
3)当該試料を室温にて水に1晩侵漬した後、質量を秤量し飽和吸水時質量W1を求める。
4)前記3)で得た試料を乾燥した後、質量を秤量して乾燥時質量D1を求める。
【0020】
秤量は、精密天秤を用いて、0.1mgのオーダーまで測定することが好ましい。乾燥は、熱風乾燥、凍結乾燥、または自然乾燥等により行なってよいが、乾燥効率を考慮すると熱風乾燥が好ましい。第1エアロゲル層と第2エアロゲル層を分割する場合には、ゲルをつぶさないようにカッター等を用いて切断することが好ましい。
【0021】
Rが大きい方が第2エアロゲル層(高密度層)であり、小さい方が第1エアロゲル層(低密度層)である。
好ましいR1:R2は、
前記i)の場合、「0.1以上0.42未満」:「0.42〜1.5」
前記ii)の場合、「0.34以上0.50未満」:「0.50〜1.5」
前記iii)の場合、「0.05以上0.50未満」:「0.50〜1.2」
である。
【0022】
2)形状、寸法
本発明で用いるセルロースハイドロゲルの形状は限定されないが、取扱性等から略立方体または略直方体が好ましい。略立方体とは立方体に準じる形状である。例えば、略立方体は、頂点や面と面とがなす角度が直角からややずれている、または丸みを帯びている形状の立方体や、各辺が略平行であるような立方体を含む。この場合、取扱性の観点から、第1ハイドロゲル層および第2ハイドロゲル層の主面が、略立方体または略直方体の底面と略平行であることが好ましい。略直方体においても同様である。略直方体とは、一辺の長さが他の辺よりも短い板状の形状も含む。板状とはバクテリアを培養して得られる前述のシートより厚く、当該シートとは異なる。主面とは、各層の主たる面であり、他の層が積層される面である。
【0023】
本発明で用いるセルロースハイドロゲルの寸法は、特に限定されないが、取扱性等を考慮すると、一辺の長さが0.5〜2.0cmであることが好ましく、1.0〜1.8cmであることがより好ましい。
【0024】
3)準備
セルロースハイドロゲルとして、図1に示す構造のものを準備することが好ましい。図1(a)と同じ構造を有するセルロースハイドロゲルは、ハイドロゲルのセルロース産生菌を、液相中に存在する液相培地部分と空気相に存在する空気相培地部分とを備える培地にて培養して、液相培地部分由来の繊維密度の低い第1ハイドロゲル層および空気相培地由来の繊維密度の高い第2ハイドロゲル層を形成して製造できる。酢酸菌は好気性菌であるので、空気相培地においてセルロースを盛んに産生する。このため空気相培地においては繊維密度の高い層が得られる。通常、ゲルは鉛直下方向(液相培地方向)へ伸長して厚みが増していくが、液相培地においては、酸素濃度が低い、培養するにつれて老廃物がたまり栄養分が乏しくなる等の理由から菌の活性および増殖が低下する。よって液相培地においては繊維密度の低い層が得られる。さらに、空気相培地は水分が乏しいので産生されたセルロース繊維同士間に水があまり存在しない。このためセルロース繊維同士間の距離が短くなり、結果として得られる層の繊維密度はより高くなる。逆に、水分に富む液相培地では、繊維密度が低い層が形成される。セルロース産生菌としては、公知のものを使用できるが、例えば、ATCC23769、ATCC10245、ATCC35959、ATCC10821、ATCC700178、Acetobacter xylinum FF-88 (FERM BP-4407)の菌株を使用できる。培地も公知のもの、例えば、寒天状の固体培地や液体培地(培養液)等を使用できる。培養液としては、コーンスティープリカーおよび果糖を主成分とし、pHを5程度に調整した培養液等が挙げられる。また、培養は静置培養であることが好ましい。
【0025】
培養後の培地に公知の後処理を施すことでセルロースハイドロゲルとできる。例えば、産生物を培地から取り出した後、水洗、アルカリ処理によりバクテリアを除去することにより、セルロースハイドロゲルを得ることができる。後処理前の産生物は培地由来の糖を内部に含んでいることがあるが、当該後処理によって内部の糖は除去される。
【0026】
このようにして製造されたセルロースハイドロゲルとしては、株式会社フジッコ製「フジッコナタデココ」、株式会社たらみ製「おいしい果汁のゼロカロリーゼリー」、和歌山産業株式会社製「生菓子(ナタデココ)」等が挙げられる。このセルロースハイドロゲルは、前記i)の平均ポア径および切断面平均繊維幅の組合せ、または前記i)のRの組合せを有することが好ましい。
【0027】
また、図1(b)と同じ構造を有するセルロースハイドロゲルは、セルロース産生菌を、23〜40℃で培養して繊維密度の低い第1ハイドロゲル層を形成する高温培養、セルロース産生菌を10℃以上23℃未満で培養して繊維密度の高い第2ハイドロゲル層を形成する低温培養を交互に繰り返して製造できる。高温(23〜40℃)で培養することにより、セルロース産生菌がセルロースハイドロゲルを産生する。温度設定の容易さ、コスト等を考慮すると、当該培養温度は、23〜33℃が好ましく、25〜32℃がより好ましく、26〜31℃がさらに好ましい。また培養時間は所望の層の厚さを得るために適宜調整してよいが、12時間〜60日が好ましく、3日〜22日が好ましく、4日〜10日がより好ましい。この際、培養は静置培養であることが好ましい。
【0028】
低温(10℃以上23℃未満)でセルロース産生菌を培養することで前記第1ハイドロゲル層よりも繊維密度の高い第2ハイドロゲル層を形成する。一般に、温度が高い方がバクテリアの活性が高くなるので、得られる層の繊維密度も高くなると考えられるが、この方法においては、低い温度で培養することにより、繊維密度の低い層を得る。この理由は限定されないが、次のように考えられる。一般に、セルロース産生菌を培養すると、菌はセルロースを吐き出しながらランダムに運動する。培養温度が適温の場合には菌は活発に運動し、かつ増殖する。このため、産生されるセルロース繊維の量は多いが、菌の移動距離も大きいので単位体積あたりの繊維密度が低くなり低繊維密度層が得られる。しかし培養温度が低い場合には菌の運動性が低下するため、菌の行動範囲が狭まり、菌は位置をあまり変えずに増殖する。このため、一定の限られた場所で菌が増殖し、かつセルロースを産生するので、単位体積あたりの繊維密度が高くなり高繊維密度層が得られる。
【0029】
また、10℃以上23℃未満という低温で培養することにより、酢酸菌の活性は低下しないが他の菌の活性が低下するので、ゲル中の不純物を少なくできる、または培地が腐食しにくくなる等の利点がある。
【0030】
この効果をよりよく発現するために、低温培養温度は15〜20℃が好ましく、17〜19℃がより好ましい。培養時間は高温培養と同様である。
高温培養と低温培養を交互に行なうことで、第1ハイドロゲル層と第2ハイドロゲル層が交互に積層された構造となる。効率よく製造するために高温培養と低温培養とは、連続して行うことが好ましい。また、得られるセルロースハイドロゲルの最外層が繊維密度の高い第2ハイドロゲル層であると、ゲルの強度、形状安定性が良好となるので、低温培養を最初に行ない、その後、両方の培養を繰り返し最後に低温培養を実施することがより好ましい。
【0031】
この方法においては、第1ハイドロゲル層および第2ハイドロゲル層の厚みを所望のとおりに制御できる。一般に、各層の厚みは、1〜8mmが好ましく、2〜4mmがより好ましい。
【0032】
このセルロースハイドロゲルは、前記iii)の平均ポア径および切断面平均繊維幅の組合せ、または前記iii)のRの組合せを有することが好ましい。
図1(b)と同じ構造を有するセルロースハイドロゲルは、ミニストップ株式会社製「ハロハロ」に含まれるナタデココ、株式会社ドール「ナタデココシラップづけ(ライト)」として入手できる。これらの市販のセルロースハイドロゲルは、異なる温度での培養を繰り返すことで製造できるが、「セルロース産生菌を23〜40℃で培養して繊維密度の低い第1ハイドロゲル層を形成し、10℃以上23℃未満で培養して繊維密度の高い第2ハイドロゲル層を形成する」前述の方法とは培養温度の点で異なる。すなわち、これらの市販の多層セルロースハイドロゲルは、タイやフィリピン等の東南アジア地域において自然環境下において製造される。この際、昼間の高温(29〜32℃)培養においてバクテリアが高活性となり繊維密度の高い層が産生され、夜間(24〜25℃)の低温培養においてバクテリアが低活性となり繊維密度の低い層が産生される。このセルロースハイドロゲルからは、前記ii)の平均ポア径および切断面平均繊維幅の組合せ、または前記iii)のRの組合せを有するセルロースエアロゲルが調製できる。
【0033】
(2)二糖類水溶液
本発明においては、セルロースハイドロゲルを、特定濃度の二糖類水溶液に浸漬する。二糖類とは、単糖類の二分子が結合した糖である。本発明では二糖類として、マルトース(麦芽糖)、スクロース(ショ糖)、またはラクトース(乳糖)を用いることが好ましい。これらは併用してもよい。マルトースとは、2つのD−グルコースが、α1−4グリコシド結合で結合した糖である。スクロースとはD−グルコースとD−フルクトースの還元基同士がグリコシド結合で結合した糖である。ラクトースとはD−グルコースの4位にD−ガラクトースがβ−グリコシド結合した糖である。
【0034】
二糖類水溶液は二糖類を水に溶解させて調製できる。水溶液の濃度は0.001〜4質量%である。当該濃度が低いと二糖類をセルロースハイドロゲル内に浸透させやすいといる利点がある。一方、当該濃度が高いと二糖類を多量にセルロースハイドロゲル内に浸透でき、その結果、後述するように食感および外観に特に優れた復元セルロースハイドロゲルを得られるという利点がある。しかしながら当該濃度が高いと二糖類をセルロースハイドロゲル内に浸透しにくいことがあるので、後述するように浸透工程の際にオートクレーブを使用することや、セルロースハイドロゲルにプレ加工を施すことが好ましい。
【0035】
低濃度の場合(以下「低濃度領域」ともいう)、濃度範囲は0.001〜1質量%が好ましく、0.01〜0.5質量%がより好ましく、0.1〜0.5質量%がさらに好ましく、0.2〜0.3質量%がよりさらに好ましく、0.22〜0.27質量%が特に好ましい。高濃度の場合(以下「高濃度領域」ともいう)、濃度範囲は1質量%を超え4質量%以下が好ましく、1.2〜3質量%がより好ましく、1.5〜2.5質量%がさらに好ましい。
【0036】
マルトースは、水あめに主成分として含まれているので、本発明においては、マルトースを含む水溶液として、水あめ水溶液を用いてもよい。水あめとは、主成分のマルトースの他に、ブドウ糖およびデキストリンを含む食用の甘味料である。水あめを用いると表面のつやを向上できる。水あめ水溶液の濃度は、当該水溶液に含まれるマルトースの濃度が前記範囲となるように調製される。しかしながら水あめには他の成分が含まれているので水あめの濃度が高くなるとゲル内に浸透しにくくなる。よって、この観点からは、水あめ濃度は0.01〜0.25質量%が好ましい。しかし、後述のプレ加工等を施すと高い濃度の水あめ水溶液を用いても浸透性が高まる。この場合、水あめ濃度は0.01〜2.5質量%が好ましい。また、水あめ水溶液は、ゼラチンを含んでいてもよい。このような水溶液は、水あめ2〜10gとゼラチン10〜20mLを30mLの水に溶解して得た水溶液をさらに10〜1000倍に希釈して得ることが好ましい。ゼラチンとは、コラーゲンを水で煮沸して得られる誘導たんぱく質である。
【0037】
(3)浸漬
セルロースハイドロゲルを前記水溶液に浸漬することで、前記二糖類がセルロースハイドロゲル中に浸透する。浸漬時の温度は適宜調整してよいが15〜100℃が好ましい。浸漬時間は、温度により適宜調整されるが10分〜24時間が好ましい。特に二糖類水溶液の濃度が低濃度領域である場合は、二糖類がセルロースハイドロゲル内に浸透しやすいので、浸漬条件を15〜30℃で1〜24時間程度とすることが好ましい。また二糖類水溶液の濃度が高濃度領域である場合は、二糖類がセルロースハイドロゲル内に浸透にくい場合があるが、この場合には、1)浸漬条件を80〜100℃で10分〜1時間程度とする、あるいは2)プレ加工を行なったセルロースハイドロゲルを15〜30℃で1〜24時間程度の条件にて浸漬することが好ましい。1)の場合は、温度が高いと水が蒸発してしまうのでオートクレーブ等の耐圧加熱装置を用いることが好ましい。
【0038】
(4)作用機序
特定濃度の二糖類水溶液にセルロースハイドロゲルを浸漬することで、復元性に優れ、かつ食感および外観性にも優れる復元セルロースハイドロゲルが得られる。この理由は、限定されないが、次のように推察される。二糖類は、セルロース類似の化学構造を有し、かつ分子量も低いので、セルロースハイドロゲル内に浸透しやすい。そして二糖類は、セルロース繊維と親和性がよいので、乾燥時にもセルロース繊維間に存在する。このため、二糖類がなければ乾燥によってセルロース繊維同士が強固に結びついてしまうところ、二糖類により、セルロース繊維同士が強固に結びつくことが低減される。その結果、再び吸水させて復元セルロースハイドロゲルを得る際に、元のセルロース繊維によるネットワーク構造が再現されやすくなる。従って、より良い効果を得るには、二糖類をセルロースハイドロゲル内に均一に浸透させることが重要となる。浸透を推進する力は浸透圧であり浸透圧はモル濃度に比例する。この点、本発明では二糖類を用いるので、同じ質量%であれば、多糖類よりも高いモル濃度の水溶液とできるので浸透力を高められる。
【0039】
一方、同じ質量%であれば単糖類の方がモル濃度の高い水溶液を得られるが、単糖類は二糖類ほどの効果を発揮しない。この理由は次のように推察される。単糖類は溶液中では直鎖状で存在する。二糖類は溶液中では環状で存在するので、単糖類は二糖類より立体障害が少ない。すなわち、単糖類水溶液は、高浸透圧および低立体障害性からゲルの内部まで容易に浸透しうる。しかしながら、鎖状であるため水素結合が可能な官能基の濃度が高いので、単糖類を介してセルロース繊維同士の部分的な水素結合が過度に形成される。その結果、乾燥時においてゲルの収縮や破損がおこりやすくなる。さらに単糖類のフルクトースやマンノースは吸湿性が21.4%、20.1%であり、二糖類のスクロース(0.0425%)やマルトース(0.513%)に比べて吸湿性が高い。吸湿性が高いと乾燥しにくく局所的に高濃度になり粘度が上昇するので、ゲルを乾燥する際に単糖類が網目構造中に均一に分布しにくい。さらに単糖類のグルコース、フルクトース、ガラクトースは結晶サイズが大きい。以上、浸透が不均一であることや結晶サイズが大きいことにより、乾燥時に破損等の不具合が生じやすい。たとえ乾燥時に破損が生じない場合でも、内部に部分的な繊維間水素結合が過度に形成されることから復元率や食感が低下する。一方、二糖類は、水溶液中で環状であること等により、単糖類で見られるような不具合が生じない。以上から、本発明においては二糖類を用いることで前記効果を発揮できると考えられる。
【0040】
また、マルトースと併用されるゼラチンは、分子量が高いのでセルロースハイドロゲルの外郭を補強するように作用していると考えられる。ただしゼラチンはセルロースハイドロゲルを完全被膜することはないので、食感を低下させないと考えられる。
【0041】
ところで前述の「ナタデココシラップづけ(ライト)」のシラップは、成分表示によれば砂糖すなわちスクロース(ショ糖)である。発明者らは、予備的に「ナタデココシラップづけ(ライト)」をそのまま乾燥に供したが、ゲルがちぢれてしまい乾燥できなかったことを確認している。この理由は、シラップ中のスクロース濃度が約20質量%と極めて高く、セルロースハイドロゲル中にスクロースが均一に浸透していないためと推察された。
【0042】
1−2.乾燥工程
本工程では、浸透工程で得たセルロースハイドロゲルを乾燥して、セルロースエアロゲルを得る。乾燥方法としては、凍結乾燥、減圧乾燥、超臨界液体乾燥、亜臨界液体乾燥等が挙げられる。凍結乾燥は、水を凍結して昇華して行なう乾燥である。本発明においては、ゲルの劣化を避けるため、減圧下、50℃以下の低温において凍結乾燥することが好ましい。具体的には、15〜25Paの圧力下、−50〜−40℃の温度にて凍結乾燥することが好ましい。
【0043】
減圧乾燥は、減圧下において水を除去する乾燥である。本発明においては、25Pa〜0.1MPaの圧力下、−40〜100℃の温度にて乾燥することが好ましい。
超臨界液体乾燥は、溶媒溶液を超臨界以上に加熱した後、穏やかに溶媒蒸気を系外に排出することにより乾燥させる方法である。亜臨界液体乾燥とは、溶媒溶液を、超臨界よりも温度および圧力がやや低い状態の亜臨界状態にし、溶媒蒸気を系外に排出することにより乾燥させる方法である。
【0044】
本発明においては、セルロースハイドロゲル中の水をそのまま、またはエタノール、メタノール、二酸化炭素等で置換し、水またはエタノール等を超臨界液体乾燥または亜臨界液体乾燥することが好ましい。臨界温度および圧力は以下に示すとおりである。例えば、エタノールを用いる場合、6.38MPa、243℃で超臨界液体乾燥することができる。
【0045】
水を置換せずにそのまま乾燥させる場合は、超臨界状態で行なうとセルロースが分解する場合があるので、亜臨界状態で行なうことが好ましい。例えば、大気圧で100℃以上、かつ22.12MPaで温度374.15℃(647.30K)以下とすることが好ましい。
二酸化炭素:304.1(K)、7.38(MPa)
水 :647.3(K)、22.12(MPa)
メタノール:512.6(K)、8.09(MPa)
エタノール:513.9(K)、6.14(MPa)
アセトン :508.1(K)、4.70(MPa)
乾燥時間は、乾燥状態により適宜調整できるが、24〜72時間程度行なうことが好ましい。
【0046】
この他、セルロースハイドロゲルの約30〜50体積%が二糖類水溶液に浸漬した状態で乾燥を行なってもよい。
【0047】
1−3.プレ加工工程
本発明では、浸透工程に供する前のセルロースハイドロゲルに対して加工を施してもよい。加工により、乾燥後のゲルを吸収させて再度セルロースハイドロゲルを得る場合に、復元性を高めることができる。復元性は復元セルロースハイドロゲルの形状および性状が、元のセルロースハイドロゲルにどの程度近いかを表す指標である。プレ加工として、以下の貫通穿孔加工または非貫通穿孔加工を施すことが好ましい。
【0048】
(1)貫通穿孔加工
貫通穿孔加工とは、略立方体等の面の中心を通り、対向する面の中心へ貫通する孔を設けることである。この孔により、二糖類がセルロースエアロゲル中により浸透しやすくなる。図2(a)は貫通穿孔加工されたセルロースハイドロゲルを示す。図2(a)中、40が貫通孔である。
【0049】
穿孔には公知の材料を用いてよいが、例えば、直径が0.3〜1mmの針を用いることが好ましい。さらに、貫通穿孔加工は、略立方体等の6面に対して施すことが好ましい。
【0050】
(2)非貫通穿孔加工
非貫通穿孔加工とは、略立方体等の面から対向する面へ向けて、貫通しない孔を設けることである。図2(b1)は非貫通穿孔加工されたセルロースハイドロゲルを示す。図2(b)中、42が非貫通孔である。非貫通孔42の深さ方向と、非貫通孔42が設けられる面とのなす最小角度は75〜90°が好ましい。
【0051】
孔の深さは対向する面間の距離Mの20〜50%が好ましい。孔の数は(1.5〜2.5cmあたり)4〜6個程度が好ましい。この場合、少なくとも4個の孔を図2(b2)に示すように、対角線上であって頂角から中心に向かってd離れた位置に設けることが好ましい。dは、長辺と短辺の平均長さをLとしたとき、0.13L〜0.3Lであることが好ましい。他の孔は任意の箇所に設けてよい。
【0052】
非貫通穿孔加工は、例えば、直径が0.3〜1mmの針を用いて行なうことが好ましい。さらに、非貫通穿孔加工は、略立方体等の6面に対して施すことが好ましい。
【0053】
(3)プレ加工の効果
プレ加工により、次の浸透工程において二糖類がセルロースハイドロゲル内に均一に浸透しやすくなる。一方で、セルロースハイドロゲルに対して加工を行ない、これを乾燥すると、乾燥時に加工部近傍から優先的に水分が抜けるのでセルロース繊維が過度に密着しやすくなる。密着したセルロース繊維は、吸水時には容易にほぐれないので、加工による吸水速度の向上効果が相殺されてしまい、満足の行く復元性が得られにくい。しかし、本発明においてはプレ加工として、貫通孔および非貫通孔を設けるので加工された部分の表面積が少ない。よって過度に密着する繊維の量を低減できる。
【0054】
以上から、プレ加工により復元セルロースハイドロゲルを得る場合の復元性を高めることができる。プレ加工による効果は高濃度領域の二糖類水溶液を用いる際に特に顕著となる。
【0055】
2.セルロースエアロゲル
2−1.セルロースエアロゲル
乾燥工程を経てセルロースエアロゲルが調製できる。セルロースエアロゲルとは、セルロース繊維の三次元ネットワーク構造中のポアに空気を保持してなるゲルである。本発明で得られるセルロースエアロゲルは、前述のとおり、セルロース繊維同士の間に二糖類が均一に存在しているので、復元性に優れ、かつ復元セルロースハイドロゲルの食感および外観性にも優れる。
【0056】
さらに、セルロースハイドロゲルを単に乾燥させると、セルロースハイドロゲルにヒビが入る等の不具合が生じることがある。この理由は、乾燥中にセルロースハイドロゲル内部に存在する水が体積膨張を起こすことがあり、これによって生じたひずみにより、既に乾燥して強度が低下しているセルロースハイドロゲル表面が破壊されるためと考えられる。このように表面が破壊されると、復元セルロースハイドロゲルとしたときに食感が損なわれる。しかし、本発明では、このような不具合が生じないので、より一層食感および外観が向上すると考えられる。
【0057】
2−2.セルロースエアロゲルへの加工(アフター加工)
セルロースエアロゲルには、切込を設けるなどの加工を施してもよい。セルロースエアロゲルへ施す加工を「アフター加工」ともいう。アフター加工により、セルロースエアロゲルを吸水させて再度セルロースハイドロゲルを得る場合に、復元性を高めることができる。以下、アフター加工について説明する。
【0058】
(1)切込加工
切込加工として、最外層を構成する第2エアロゲル層表面に、i)深さxの切込1を長辺と短辺のいずれかに平行に複数設ける、またはii)深さxの切込1を長辺と短辺のいずれか一方の辺に平行に複数設け、さらに他方の辺に平行して深さxの切込2を複数設けることが好ましい。i)の加工を「平行カット」、ii)の加工を「クロスカット」ともいう。図3は、このような加工が施されたセルロースエアロゲルを示す。図3(a)は平行カットを施したセルロースエアロゲルを、図3(b)はクロスカットを施したセルロースエアロゲルである。図3中、30は切込1であり、s1は切込1に平行な辺1(長さはL1)である。32は切込2であり、s2は切込2に平行な辺2(長さはL2)である。図3中、第1エアロゲル層および第2エアロゲル層の表示は省略してある。
【0059】
切込の深さxは、前記略立方体または略直方体(以下「略立方体等」ともいう)の切込が設けられる面の長辺と短辺の平均長さをL(=(長辺+短辺)/2)としたときに、0.02L〜0.1Lとなる長さである。具体的には、0.5〜1mm程度が好ましい。
【0060】
また、切込の深さ方向と切込を設ける面とのなす最小角度は、15〜90°であることが好ましい。当該角度が15〜30°程度であると、セルロースエアロゲルを損傷することなく切込を設けることができる場合がある。
【0061】
このように、最外層を構成する第2エアロゲル層表面に加工を施すことにより、復元性に優れたセルロースエアロゲルが得られる。この理由は限定されないが、第2エアロゲル層は繊維密度が高いので、ポア径が小さく水が浸透しにくいが、前記加工を施すことにより、水が浸透しやすくなるためと推察される。この効果をより良く発揮するために、切込1の長さは、当該切込に平行な辺1の長さL1の70〜100%が好ましい。また、隣接する切込1同士の間隔は、L1/5〜L1/100が好ましい。具体的には、1つの面に5〜100本程度設けることが好ましい。この場合、切込1はできるだけ非等間隔で設けられることが好ましい。切込2に関しても同様である。切込を、周期性を有するように等間隔に設けると、いわゆるハスの葉効果により表面が濡れ難くなって水が浸透しにくくなる場合がある。
【0062】
切込を設ける手段は限定されない。例えば、カッターやカミソリを用いて切込を設けてよい。さらにこの切込加工は、略立方体等の他の5面に対して施してもよい。
【0063】
(2)貫通穿孔加工
セルロースエアロゲルには、前記切込加工に加えて、貫通穿孔加工を施してもよい。貫通穿孔加工とは、略立方体等の面の中心を通り、対向する面の中心へ貫通する孔を設けることである。この孔により、水がセルロースエアロゲル中により浸透しやすくなる。図4(a)は貫通穿孔加工されたセルロースエアロゲルを示す。図4(a)中、40が貫通孔である。
【0064】
穿孔には公知の材料を用いてよいが、例えば、直径が0.3〜1mmの針を用いることが好ましい。さらに、貫通穿孔加工は、略立方体等の6面に対して施してもよい。
【0065】
(3)非貫通穿孔加工
セルロースエアロゲルには、前記切込加工に加えて、非貫通穿孔加工を施してもよい。非貫通穿孔加工とは、略立方体等の面から対向する面へ向けて、貫通しない孔を設けることである。図4(b)は貫通穿孔加工されたセルロースエアロゲルを示す。図4(b)中、42が非貫通孔である。非貫通孔42の深さ方向と、非貫通孔42が設けられる面とのなす最小角度は75〜90°が好ましい。
【0066】
孔の深さは対向する面間の距離Mの10〜70%が好ましい。貫通しない孔の数は、2〜20個程度が好ましい。非貫通穿孔加工は、例えば、直径が0.3〜1mmの針を用いて行なうことが好ましい。さらに、非貫通穿孔加工は、略立方体等の6面に対して施してもよい。
【0067】
(4)深切込加工
セルロースエアロゲルには、前記切込加工に加えて、深切込加工を施してもよい。深切込加工とは、略立方体等の対向する2面に、0.5M〜0.7M(ただしMは、前記対向する面間の距離)の深さの深切込を、双方の深切込がセルロースエアロゲル中で結合しないように1つずつ設けることである。この深切込により、水がセルロースエアロゲル中により浸透しやすくなる。図4(c)は深切込加工されたセルロースエアロゲルを示す。図4(c)中、44が深切込である。この場合、深切込の深さ方向と深切込を設ける面とのなす最小角度は75〜90°が好ましく、85〜90°がより好ましい。また、深切込を設けるz軸上の位置は、図4(c)のz軸方向の辺(s3)の長さをZとした場合、0.25Z〜0.33Zが好ましい。
【0068】
深切込の幅(図4(c)におけるy軸方向の長さ)が過度に長いと、セルロースエアロゲルの強度が低下することがあるので、切込の幅は当該切込を設ける面の短辺と長辺の平均長さLの50〜70%が好ましい。深切込を設ける手段は、切込加工で述べたとおりである。
【0069】
(5)加工の組合せ
前記1)〜4)で説明した加工は、任意に組合せてよい。特に、1)〜3)の加工を略立方体等の6面に対して施し、4)の加工を対向する2面に対して施すと、極めて復元性に優れたセルロースエアロゲルが得られるので好ましい。この加工を特に「S加工」ということがある。
【0070】
(6)アフター加工の効果
前述のとおり、セルロースハイドロゲルに対して加工を行ない、これを乾燥すると、乾燥時に加工部近傍のセルロース繊維が過度に密着しやすくなる。しかし、乾燥後のセルロースゲルに対して加工を行なうと、加工部近傍のセルロース繊維の過度な密着が生じないので優れた復元性を達成できる。
【0071】
また、プレ加工とアフター加工とを併用すると、復元セルロースハイドロゲルの復元率がより向上するので好ましい。ただし、過度にアフター加工を施すと食感が損なわれる場合がある。よって、両者を併用する場合、アフター加工として、(1)で説明した切込加工のみを施すことが好ましい。
【0072】
2−3.プレス加工工程
本発明のセルロースハイドロゲルに対してはプレス加工を行なってもよい。プレス加工を行なうことにより、セルロースハイドロゲル内に空孔が形成され、復元セルロースハイドロゲルとする際の復元率が向上する。圧縮は、国際公開第2012/096385号に記載の方法に準じて、セルロース繊維の成長方向に直交するセルロースハイドロゲルの厚さ方向に、当該エアロゲルを圧縮することが好ましい。
【0073】
3.復元ハイドロゲル
(1)調製方法(復元方法)
本発明で得たセルロースエアロゲル(以下「本発明のセルロースエアロゲル」ともいう)は、吸水させることで復元セルロースハイドロゲルとできる。この時の温度は0〜100℃が好ましい。吸水は、前記温度の水または水溶液に本発明のセルロースハイドロゲルを浸漬することで行なえる。水溶液としては、糖水溶液、無機イオン(ミネラル成分)を含む水溶液、炭酸水、だし汁等が挙げられる。
【0074】
従来のセルロースエアロゲルでは、速やかに復元ハイドロゲルとするためには、熱水に浸漬する必要があったが、本発明のセルロースエアロゲルは、冷水(好ましくは4〜30℃、より好ましくは10〜30℃)でも容易に復元でき、優れた食感を有する。浸漬する時間は、1分〜24時間で選択できるが、本発明のセルロースエアロゲルは、3分程度の浸漬においても良好な食感を有する。
【0075】
(2)食感
ここでの食感は、復元セルロースハイドロゲルの食感と、原料としたセルロースハイドロゲルの食感とを比較して評価される。具体的には専らナタデココ等の食用セルロースハイドロゲルの開発に従事している人間の官能試験により評価できる。
【0076】
(3)復元性
復元性は復元セルロースハイドロゲルの形状および性状が、元のセルロースハイドロゲルにどの程度近いかを表す指標である。復元性は、復元率を用いて評価できる。復元率は、復元セルロースハイドロゲルの質量/セルロースエアロゲルの質量で定義される。
【0077】
また、復元性は復元セルロースハイドロゲルの白残りを目視で観察することによっても評価できる。「白残り」とは水が浸透しないため白く見える部分である。
本発明で得たセルロースエアロゲルは、3分間、5分間、60分間水に浸漬した時点における復元率(「3分復元率」、「5分復元率」、および「60分復元率」ともいう)において良好な値を有する。
【実施例】
【0078】
[実施例1]
<実施例1−1>
(1)マルトース水容液の調製
水あめ(ソントン食品工業株式会社製、麦芽糖水あめ)を水に溶解し、水あめの濃度が0.25質量%の水溶液S1を調製した。水溶液S1中のマルトース濃度は0.175質量%であった。
【0079】
(2)セルロースハイドロゲルの調製
図1(b)に示す構造を有する、縦横1辺が1.4cm、高さが1.7cmの直方体セルロースハイドロゲル(ミニストップ株式会社製「ハロハロ」に含まれるナタデココ)を準備した。当該ナタデココから不純物を除去し、十分な水洗を行なった後、100℃の熱水で10回洗浄した。このセルロースハイドロゲルの第1ハイドロゲル層のRおよび第2ハイドロゲル層のRは、それぞれ0.45%:1.0%であった。
【0080】
(3)浸漬、乾燥
25℃において、前記加工セルロースハイドロゲルを前記水溶液に一晩浸漬した。水溶液S1を満たした容器に前記浸漬後のセルロースハイドロゲルを入れ、当該セルロースハイドロゲルの半分が水溶液S1に浸漬するようにした。この容器を凍結乾燥機(東京理科器械株式会社製、FDU−1200)に装填し、−50〜−40℃、15〜25Paにて48時間凍結乾燥し、セルロースエアロゲルを得た。
【0081】
(4)復元
前記(3)で得たセルロースエアロゲルを25℃の水に5分間全浸漬して復元セルロースハイドロゲルを得た。当該復元セルロースハイドロゲルについて、復元率、外観、食感を評価した。復元率は前述のとおり、復元セルロースハイドロゲルの質量/セルロースエアロゲルの質量から求めた。質量は化学天秤(カルツァイス社製)を用いて測定した。
【0082】
外観は、ゲルを目視で観察し、以下の基準
A:全体的に透明
B:Aほど透明でないが白濁あり
C:全体的に白残りはないが白濁色
D:局部的に白残りあり
E:全体的に白残りあり
で評価した。
【0083】
食感は、次の手順で評価した。
1)食用セルロースハイドロゲルの開発に従事しているパネラーに、本例の原料としたセルロースハイドロゲルを試食させ、みずみずしさ、歯ごたえ、弾力(こりこり感)を理解させた。
2)次いで、本例で得たセルロースハイドロゲルを試食させ、みずみずしさ、歯ごたえ、弾力(こりこり感)を、元のセルロースハイドロゲルと比べて、同等か、低下しているかを評価させた。
3)上記評価を5人のパネラーに対して行ない、各食感についての平均値を得た。すなわち、例えば弾力について5人中、3人以上が低下したと判断した場合、「弾力は低下した」と判断した。
4)平均値を次の基準
A:みずみずしさ、歯ごたえ、こりこり感とも、元のセルロースハイドロゲルと同等であった
B:上記3つの食感のうち、1つが低下した
C:上記3つの食感のうち、2つが低下した
D:上記3つの食感のうち、3つが低下した
で評価した。
【0084】
<実施例1−2>
(1)アフター加工セルロースエアロゲルの調製
実施例1−1で得たセルロースエアロゲルに、以下のようにしてアフター加工を施した。セルロースハイドロゲルの6面の表面に、カミソリ(貝印カミソリ株式会社製、長柄ゴールドアルファ)を用いて前述のクロスカット加工を施した。切込深さは0.5〜1mmとし、切込の数は、1面あたり100本(切込1が50本、切込2が50本)とした。切込1および切込2の深さ方向と、当該切込が設けられた面とのなす最小角度は約90°であった。
【0085】
当該セルロースエアロゲルの6面に、裁縫用針(直径0.71mm)を用いて前述の貫通穿孔加工を施し、さらに、裁縫用針(直径0.53mm)を用いて前述の非貫通穿孔加工を施した。非貫通孔の数は1面あたり20個とし、深さは1〜5mmとした。非貫通孔の深さ方向と、当該孔が設けられた面とのなす最小角度は約90°であった。
【0086】
続いて、図4(c)に示すように、当該セルロースエアロゲルの側面の対向する2面にメス(アズワン株式会社製、ディスポメスNo.10)を用いて深さ8mm、長さ14mmの深切込を1本ずつ、当該面に垂直に設けた。深切込の主面と、当該主面に平行なセルロースエアロゲル面との最短距離は、0.3mmであった。
【0087】
(2)復元
このようにして得たアフター加工セルロースエアロゲルの復元率、外観、食感を、実施例1−1と同様にして評価した。
【0088】
<実施例1−3>
水溶液S1の代わりに水あめの濃度が0.025質量%の水溶液S2(マルトースの濃度は0.0175質量%)を用いた以外は、実施例1−2と同様にして、復元セルロースハイドロゲルを調製し、評価した。
【0089】
<実施例1−4>
水溶液S1の代わり水あめの濃度が0.0025質量%の水溶液S3(マルトースの濃度は0.00175質量%)を用いた以外は、実施例1−2と同様にして、復元セルロースハイドロゲルを調製し、評価した。
【0090】
<実施例1−5>
マルトースを含む水容液として、水あめ(ソントン食品工業株式会社製、麦芽糖水あめ)15mL、ゼラチン(森永製菓株式会社製、クックゼラチン)5gを水30mLに溶解し、原液を得た。当該原液を水で10倍希釈して、水溶液G1を調製した。
【0091】
当該水溶液G1を、水溶液S1の代わりに用いた以外は、実施例1−2と同様にして復元セルロースハイドロゲルを調製し、評価した。水溶液G1中のマルトースの濃度は2.3質量%であった。
【0092】
<実施例1−6>
前記原液を水で1000倍希釈して得た水溶液G2を用いた以外は、実施例1−5と同様にして復元セルロースハイドロゲルを調製し、評価した。水溶液G1中のマルトースの濃度は0.023質量%であった。
【0093】
これらの結果を表1に示す。
【0094】
[比較例1]
<比較例1−1>
マルトースを含む水溶液にセルロースハイドロゲルを浸漬しなかったこと以外は、実施例1−1と同様にして復元セルロースハイドロゲルを調製し、評価した。
【0095】
<比較例1−2>
ゼラチン(森永製菓株式会社製、クックゼラチン)を水に溶解し、0.2質量%の水溶液を得た。当該水溶液を、水溶液S1の代わりに用いた以外は、実施例1−1と同様にして復元セルロースハイドロゲルを調製し、評価した。
【0096】
<比較例1−3>
0.002質量%のゼラチン水溶液を用いた以外は、比較例1−2と同様にして復元セルロースハイドロゲルを調製し、評価した。
【0097】
<比較例1−4>
寒天(伊勢食品工業株式会社製、パパ寒天)を水に溶解し、0.066質量%の水溶液を得た。当該水溶液を、水溶液S1の代わりに用いた以外は、実施例1−1と同様にして復元セルロースハイドロゲルを調製し、評価した。
【0098】
<比較例1−5>
0.00066質量%の寒天水溶液を用いた以外は、比較例1−4と同様にして復元セルロースハイドロゲルを調製し、評価した。
【0099】
これらの結果を表1に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
表1より、マルトースを含む水溶液を用いた本発明のセルロースエアロゲルは、復元率に優れ、外観および食感に優れた復元セルロースハイドロゲルを与えることが明らかである。
【0102】
[実施例2]
<実施例2−1>
セルロースエアロゲルへの切込加工を6面ではなく天面、底面の2面に対して施し、かつ深切込加工を施さなかった以外は、実施例1と同様にして復元セルロースハイドロゲルを得て、評価した。
【0103】
<実施例2−2>
水あめ水溶液S1の代わりにS2を用いた以外は、実施例2−1と同様にして復元セルロースハイドロゲルを得て、評価した。
【0104】
<実施例2−3>
水あめ水溶液S1の代わりに、水あめとゼラチンを含む水溶液G1を用いた以外は、実施例2−1と同様にして復元セルロースハイドロゲルを得て、評価した。
【0105】
<実施例2−4>
水あめ水溶液S1の代わりに、水あめとゼラチンを含む水溶液G2を用いた以外は、実施例2−1と同様にして復元セルロースハイドロゲルを得て、評価した。
【0106】
<比較例2−1>
マルトースを含む水溶液にセルロースハイドロゲルを浸漬しなかったこと以外は、実施例2−1と同様にして復元セルロースハイドロゲルを調製し、評価した。
【0107】
<比較例2−2>
寒天0.066質量%水溶液を、水溶液S1の代わりに用いた以外は、実施例2−1と同様にして復元セルロースハイドロゲルを調製し、評価した。
【0108】
<比較例2−3>
ゼラチン0.2質量%水溶液を、水溶液S1の代わりに用いた以外は、実施例2−1と同様にして復元セルロースハイドロゲルを調製し、評価した。
【0109】
これらの結果を表2に示す。
【0110】
【表2】

【0111】
表2より、マルトースを含む水溶液を用いた本発明のセルロースエアロゲルは、復元率に優れ、外観および食感に優れた復元セルロースハイドロゲルを与えることが明らかである。
【0112】
[実施例3]
表3に記載の水あめ水溶液を用い、天面と底面へのクロスカット加工において切込の数を1面あたり20本(切込1が10本、切込2が10本)とし、かつ貫通孔を側面のみ、一面につき中心に1個だけ設けた以外は、実施例2−1と同様にして、加工されたセルロースエアロゲルを準備した。次いで、実施例2−1と同様にして復元セルロースハイドロゲルを調製し、評価した。
【0113】
[比較例3]
水あめ水溶液を用いなかった以外は、実施例3と同様にして復元セルロースハイドロゲルを調製し、評価した。
【0114】
結果を表3に示す。
【0115】
【表3】

【0116】
表3より、水あめ水溶液を用いた本発明のセルロースエアロゲルは、復元率に優れ、外観および食感に優れた復元セルロースハイドロゲルを与えることが明らかである。なお、実施例3−1と3−2において見られる復元率の違いは、セルロースハイドロゲルのロットの違いに起因すると推察される。
【0117】

[実施例4]
<実施例4−1>
図1(a)に示す構造を有する、1辺が1.4cmの立方体セルロースハイドロゲル(株式会社たらみ製ナタデココ)を準備し、十分に水洗した後、100℃の熱水で10回洗浄した。当該セルロースハイドロゲルは、セルロース生産菌を液相培地部分と空気相培地部分とを備える培地にて静置培養して得られたセルロースハイドロゲルであり、液相培地部分由来の繊維密度の低い第1ハイドロゲル層および、空気相培地由来の繊維密度の高い第2ハイドロゲル層を備えていた。
【0118】
同ロットのセルロースハイドロゲルについて、前述の乾燥質量法により繊維密度の指標となるR(乾燥時質量/吸水時質量)を求めたところ、高密度層のRは0.52%、低密度層のRは0.29%であった。
【0119】
マルトース(和光純薬工業株式会社製)を水に溶解して2質量%のマルトース水溶液を準備した。当該水溶液の温度を25℃にし、前記セルロースハイドロゲルを1時間全浸漬した。
【0120】
続いて10mLのビーカーに当該セルロースハイドロゲルの第2ハイドロゲル層(高密度層)が下になるように載置し、蒸留水をハイドロゲルの高さの半分程度まで注いだ。この容器を凍結乾燥機(東京理科器械株式会社製、FDU−1200)に装填し、この状態で、凍結乾燥(東京理化器械株式会社製、FDU−1200)を用いて−50〜−40℃、15〜25Paの条件にて24時間凍結乾燥し、セルロースハイドロゲルを得た。
【0121】
当該セルロースエアロゲルを25℃の水に全浸漬して、5分後および60分後の復元率を測定し、復元60分後の外観(透明度)と食感を評価した。透明度は、以下の基準で評価し、食感は前述の基準
a:白残りほぼなく透明(10%v/v未満)
b:白残りややあり(10%v/v以上30%v/v未満)
c:白残り多い(30%v/v以上50%v/v未満)
d:白残りかなり多い(50%v/v以上80%v/v未満)
e:白残り大部分で全体に白っぽい(80%以上)
で評価した。
【0122】
<実施例4−2>
マルトースの代わりにスクロース(三井製糖株式会社製)を用いた以外は、実施例4−1と同様にしてセルロースハイドロゲルを得て、評価した。
【0123】
これらの結果を表4に示す。

【0124】
【表4】

【0125】
[実施例5]
<実施例5−1>
図1(a)に示す構造を有する、1辺が1.4cmの立方体セルロースハイドロゲル(株式会社たらみ製ナタデココ)を準備し、十分に水洗した後、100℃の熱水で10回洗浄した。当該セルロースハイドロゲルは、セルロース生産菌を液相培地部分と空気相培地部分とを備える培地にて静置培養して得られたセルロースハイドロゲルであり、液相培地部分由来の繊維密度の低い第1ハイドロゲル層および、空気相培地由来の繊維密度の高い第2ハイドロゲル層を備えていた。
【0126】
同ロットのセルロースハイドロゲルについて、前述の乾燥質量法により繊維密度の指標となるR(乾燥時質量/吸水時質量)を求めたところ、高密度層のRは0.52%、低密度層のRは0.29%であった。
【0127】
当該セルロースハイドロゲルにプレ加工を施した。具体的には、裁縫用針(直径0.71mm)を用いて面の中心を通る貫通穿孔を各面に設け、さらに裁縫用針(直径0.53mm)を用いて非貫通孔を各面に4個ずつ設けた。非貫通孔の深さは5mmとした。また非貫通孔は図2(b2)におけるdの値が2mmとなるように設けた。
【0128】
マルトース(和光純薬工業株式会社製)を水に溶解して2質量%のマルトース水溶液を準備した。当該水溶液の温度を25℃にし、前記プレ加工を行なったセルロースハイドロゲルを1時間全浸漬した。
【0129】
続いて10mLのビーカーに当該セルロースハイドロゲルの第2ハイドロゲル層(高密度層)が下になるように載置し、蒸留水をハイドロゲルの高さの半分程度まで注いだ。この容器を凍結乾燥機(東京理科器械株式会社製、FDU−1200)に装填し、この状態で、凍結乾燥(東京理化器械株式会社製、FDU−1200)を用いて−50〜−40℃、15〜25Paの条件にて24時間凍結乾燥し、セルロースハイドロゲルを得た。
【0130】
当該セルロースエアロゲルを25℃の水に全浸漬して、5分後および60分後の復元率を測定し、復元60分後の外観(透明度)と食感を評価した。透明度および食感は、実施例4と同じ基準で評価した。
【0131】
<実施例5−2>
実施例5−1で用いたものと同じロットのセルロースハイドロゲルを用い、マルトース水溶液の代わりに2質量%スクロース水溶液(スクロースは和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は、実施例5−1と同様にしてセルロースエアロゲルを調製し評価した。
【0132】
<実施例5−3>
実施例5−1で用いたものと同じロットのセルロースハイドロゲルを用い、マルトース水溶液の代わりに、前述の水あめを用いて調製した水あめ濃度2質量%の水溶液(マルトース濃度は1.4質量%)を用いた以外は、実施例5−1と同様にしてセルロースエアロゲルを調製評価した。
【0133】
<実施例5−4>
実施例5−1で用いたものと同じロットのセルロースハイドロゲルを用い、マルトース水溶液の代わりに2質量%ラクトース水溶液(ラクロースは和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は、実施例5−1と同様にしてセルロースエアロゲルを調製し評価した。
【0134】
[比較例5]
<比較例5−1>
実施例5−1で用いたものと同じロットのセルロースハイドロゲルを用い、マルトース水溶液の代わりに2質量%グルコース水溶液(グルコースは和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は、実施例5−1と同様にしてセルロースエアロゲルを調製し評価した。
【0135】
<比較例5−2>
実施例5−1で用いたものと同じロットのセルロースハイドロゲルを用い、マルトース水溶液の代わりに2質量%フルクトース水溶液(フルクトースは和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は、実施例5−1と同様にしてセルロースエアロゲルを調製し評価した。
【0136】
<比較例5−3>
実施例5−1で用いたものと同じロットのセルロースハイドロゲルを用い、マルトース水溶液の代わりに2質量%マンノース水溶液(マンノースは和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は、実施例5−1と同様にしてセルロースエアロゲルを調製し評価した。
【0137】
<比較例5−4>
実施例5−1で用いたものと同じロットのセルロースハイドロゲルを用い、マルトース水溶液の代わりに2質量%ガラクトース水溶液(ガラクトースは和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は、実施例5−1と同様にしてセルロースエアロゲルを調製し評価した。
【0138】
<比較例5−5>
実施例5−1で用いたものと同じロットのセルロースハイドロゲルを用い、糖水溶液を用いなかった以外は、実施例5−1と同様にしてセルロースエアロゲルを調製し評価した。
【0139】
以上の結果を表5に示す。

【0140】
【表5】

【0141】
[実施例6]
<実施例6−1>
実施例5と同じセルロースハイドロゲル(株式会社たらみ製ナタデココ)を準備し、十分に水洗した後、100℃の熱水で10回洗浄した。
【0142】
当該セルロースハイドロゲルに実施例5−1と同じプレ加工を施した後、実施例5−1と同様に2質量%のマルトースに浸漬した後、凍結乾燥を行なってセルロースハイドロゲルを得た。
【0143】
当該セルロースエアロゲルにアフター加工を施した。具体的には、セルロースエアロゲルの高密度層と低密度層の主面に実施例1と同じ切込加工を施した。ただし、切込の数は実施例1で設けた数の半分とした。加工された当該セルロースエアロゲルについて、実施例5−1と同様にして評価した。
【0144】
<実施例6−2>
実施例6−1で用いたものと同じロットのセルロースハイドロゲルを準備した。プレ加工として、まず面の中心と対向する面の中心を貫通する第1の貫通穿孔を各面に設けた。さらに各面に対向する面に垂直に延びる貫通孔を5本設けた。すなわち合計で18本の貫通孔を設けた。これ以外は実施例5−1と同様にしてセルロースエアロゲルを調製し評価した。
【0145】
<実施例6−3>
実施例6−1で用いたものと同じロットのセルロースハイドロゲルを準備した。プレ加工として、まず面の中心と対向する面の中心を貫通する第1の貫通穿孔を各面に設けた。さらに各面に対向する面に垂直に延びる貫通孔を4本設けた。すなわち合計で15本の貫通孔を設けた。これ以外は実施例5−1と同様にしてセルロースエアロゲルを調製し評価した。
【0146】
<実施例6−4>
実施例6−1で用いたものと同じロットのセルロースハイドロゲルを準備した。プレ加工を行なわなかった以外は実施例6−1と同様にしてセルロースエアロゲルを調製し評価した。
【0147】
これらの結果を実施例5−1の結果と合わせて表6に示す。

【0148】
【表6】

【符号の説明】
【0149】
10 第1ハイドロゲル層
20 第2ハイドロゲル層
30 切込1
s1 切込1に平行な辺1
32 切込2
s2 切込2に平行な辺2
40 貫通孔
42 非貫通孔
44 深切込
s3 辺

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を含むセルロースハイドロゲルを、0.001〜4質量%の二糖類水溶液に浸漬して、当該二糖類を前記セルロースハイドロゲル内に浸透させる浸透工程、および
前記工程で得たセルロースハイドロゲルを乾燥する乾燥工程、
を含む、セルロースエアロゲルの製造方法。
【請求項2】
前記セルロースハイドロゲルが略立方体または略直方体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記二糖類が、マルトース、スクロース、またはラクトースである、請求項1または2
に記載の製造方法。
【請求項4】
前記水溶液が水あめ水溶液である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記水あめ水溶液がさらにゼラチンを含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記浸透工程の前に、セルロース繊維を含むセルロースハイドロゲルに、貫通孔および非貫通孔を設けるプレ加工工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記プレ加工工程において、略立方体または略直方体のセルロースハイドロゲルの各面に、当該面の中心から対向する面の中心へ貫通する穿刺孔を設け、かつ前記略立方体または略直方体の各面に、対向する面へ向けて非貫通の穿刺孔を複数設ける、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記乾燥工程において、凍結乾燥、減圧乾燥、または超臨界液体乾燥を行なう、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
セルロース繊維を含むセルロースエアロゲルであって、当該セルロース繊維間に二糖類を含む、セルロースエアロゲル。
【請求項10】
請求項9に記載のセルロースエアロゲルを0〜100℃において吸水させることを含む、復元セルロースハイドロゲルの製造方法。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−67791(P2013−67791A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−196000(P2012−196000)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【出願人】(300071579)学校法人立教学院 (42)
【Fターム(参考)】