説明

セルロースエアロゲル及びその製造方法

【課題】ハンドリングの容易性、及び/又はコスト面での 有利性を有する溶媒、特にNMMOとは異なる特定の溶媒、を用いる、セルロースエアロゲルの製造方法の提供。より大きな窒素吸着比表面積を有するセルロースエアロゲルの提供。
【解決手段】A)苛性アルカリを2〜20重量%;及び尿素又はチオ尿素を4〜20重量%;を有する水溶液に、セルロース量が重量比で0.2〜20%となるようにセルロースを溶解しセルロース溶液を調製する工程;B)該セルロース溶液をセルロース非溶媒に浸漬して含液体セルロースゲルを調製する工程;C)該含液体セルロースゲルを、x)有機溶媒置換乾燥、y)超臨界乾燥、又はz)亜臨界乾燥を行い、セルロースエアロゲルを得る工程;を有するセルロースエアロゲルの製造方法であって、得られたセルロースエアロゲルは、窒素吸着BET法による比表面積が300m/g以上である方法により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエアロゲル及びその製造方法に関する。特に、本発明は、高い比表面積を有するセルロースエアロゲル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアロゲル (エアロジェル、アエロゲル、アエロジェルなどとも記される)とは空隙率の高い乾燥固体であって一定形状を保った物質を指す。
エアロゲルは、軽量、低熱伝導率、大比表面積、微細な孔径などの特徴を有するため、断熱材、微粒子捕捉材、フィルタ、触媒担体など様々な用途がある。
よく知られているエアロゲルとして、シリカおよび金属酸化物など無機系のもの;有機系のもの、例えば有機高分子からなるエアロゲル;及び無機-有機複合系のものが挙げられる。無機系エアロゲルは一般に、強度が低く、つぶれやすいという問題がある。これに対し有機高分子からなるエアロゲルは一般に、高強度であり、また熱分解によるカーボンエアロゲルの原料として利用できる。 そのようなものとしては レゾルシノール-ホルマリン樹脂をゲル化し乾燥したエアロゲル、いわゆるRFエアロゲルが知られている。
【0003】
有機系エアロゲルとして、セルロースからのエアロゲル調製が近年研究されている。例えば、欧州において AeroCellの名のもとにプロジェクト研究が行われた(非特許文献1)。 このプロジェクトではセルロース溶剤としてN-メチルモルホリンオキシド(NMMO)と水との混合液を用いて、80℃以上の高温でセルロースを溶解し、これを各種のセルロース非溶剤で処理してセルロースをゲル状に再生させる。そしてこの含液体ゲルを、溶媒置換を経て二酸化炭素超臨界乾燥に処することで大比表面積のセルロースエアロゲルが得られるとしている。このプロセスによる生成物の特性として、窒素吸着比 表面積の典型値として150〜250m/g 、特定条件において300〜370m/gという結果が示されている。最高値として420m/gが記載されているが、その条件は公表されていない。また、非特許文献1において、セルロースを苛性アルカリ単独水溶液に溶解した溶液を利用してもエアロゲルが得られることに言及しているが具体的データは示されていない。
【非特許文献1】Innerlohinger 2006。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載される溶媒、即ち含水NMMOは、再生セルロース繊維の製造に用いられる溶剤であるが、NMMOが高融点(190℃)の物質であるため、含水状態においても液状に維持するには80℃以上の高温を必要とするが、このような高温においては爆発を起こしやすく危険性を伴う、という問題点があった。
また、NMMOは高価である、というコスト面での問題点もある。さらに、NMMOは、セルロースを溶解させるような高温においては分解しやすく再利用が困難であり、コスト面においても問題を有していた。
さらに、非特許文献1により得られるエアロゲルの窒素吸着比表面積の典型値は、150〜250m/gであり、より大きな窒素吸着比表面積を有するエアロゲルを得るためには、特定の条件が必要であるという欠点があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、上記問題点を有しないエアロゲルの製法を提供することにある。
具体的には、本発明の目的は、ハンドリングの容易性、及び/又はコスト面での有利性を有する溶媒、特にNMMOとは異なる特定の溶媒、を用いる、エアロゲルの製造方法を提供することにある。
また、本発明の目的は、上記目的に加えて、又は上記目的以外に、より大きな窒素吸着比表面積を有するエアロゲルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、次の発明を見出した。
<1> i)苛性アルカリを2〜20重量%、好ましくは4〜10重量%;及びii)尿素又はチオ尿素を4〜20重量%、好ましくは6〜15重量%;を有する水溶液に、セルロース量が重量比で0.2〜20%、好ましくは0.3〜10%となるようにセルロースを溶解しセルロース溶液を調製し、該セルロース溶液をセルロース非溶媒に浸漬して含液体セルロースゲルを調製し、該含液体セルロースゲルをx)有機溶媒置換乾燥、y)超臨界乾燥、又はz)亜臨界乾燥を行うことにより得られるセルロースエアロゲルであって、該セルロースエアロゲルの窒素吸着BET法による比表面積が300m/g以上、好ましくは350m/g以上、より好ましくは400m/g以上であるセルロースエアロゲル。
【0007】
<2> ハロゲン化アルカリを5〜12重量%、好ましくは6〜10重量%含む有機溶媒溶液に、セルロース量が重量比で0.2〜20%、好ましくは0.5〜10%となるようにセルロースを溶解しセルロース溶液を調製し、該セルロース溶液をセルロース非溶媒に浸漬して含液体セルロースゲルを調製し、該含液体セルロースゲルをx)有機溶媒置換乾燥、y)超臨界乾燥、又はz)亜臨界乾燥を行うことにより得られるセルロースエアロゲルであって、該セルロースエアロゲルの窒素吸着BET法による比表面積が300m/g以上、好ましくは350m/g以上、より好ましくは400m/g以上であるセルロースエアロゲル。
【0008】
<3> 上記<1>又は<2>において、セルロースが、植物セルロース、 微生物産生セルロース、ホヤ皮嚢セルロース及びそれらの誘導体、並びにそれらの混合物からなる群から選ばれる、少なくとも1種であるのがよい。
<4> 上記<3>において、誘導体は、セルロースの水酸基を置換度1.0以下にエステル化及び/又はエーテル化したセルロース誘導体であるのがよい。
【0009】
<5> 上記<1>〜<4>のいずれかにおいて、含液体セルロースゲルを化学的に疎 水化処理し、その後、x)、y)又はz)の乾燥を行うのがよい。
<6> 上記<1>〜<5>のいずれかにおいて、含液体セルロースゲルに無機物を付着させ、その後、x)、y)又はz)の乾燥を行うのがよい。なお、化学的疎水化処理を行う場合、無機物付着は、該化学的疎水化処理前又はその後又はその間に行うことができ、好ましくは無機物付着は、該化学的疎水化処理前に行うのがよい。
<7> 上記<1>〜<6>のいずれかにおいて、セルロース非溶媒は、水、低級アルキルアルコール(メタノール、エタノールなど)及びその水溶液;低級ケトン(アセトンなど);低級脂肪酸エステル(酢酸エチルなど);酸性水溶液(希硫酸、希塩酸など);及び塩類(硫酸ナトリウムなど)の希薄水溶液;並びにこれらの混合物からなる群、好ましくは純水、メタノール、エタノール、20%以下の希硫酸及び20%以下の硫酸ナトリウム水溶液並びにこれらの 混合物からなる群からなる群から選ばれるのがよい。
【0010】
<8> 上記<1>〜<7>のいずれかのx)有機溶媒置換乾燥はアセトン、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、芳香族炭化水素及びハロゲン化低級炭化水素、並びにこれらの誘導体及びこれらの混合物からなる群、好ましくは2-プロパノール、t-ブタノール、ベンゼン、トルエン、及びフッ素化低級炭化水素からなる群から選ばれる溶媒を用いるのがよい。
<9> 上記<1>〜<7>のいずれかのy)超臨界乾燥は、CO浸漬又はCO雰囲気下、温度35〜60℃、圧力75〜180kg/cmの条件下で行うのがよい。
<10> 上記<1>〜<7>のいずれかのz)亜臨界乾燥は、各々の溶媒の臨界点以下、該溶媒の常圧での沸点より10℃低い温度又はそれ 以上の温度で行うのがよい。
【0011】
<11> 上記<2>〜<10>のいずれかにおいて、ハロゲン化アルカリを含む有機溶媒溶液は、塩化リチウムを含むのがよい。
<12> 上記<2>〜<11>のいずれかにおいて、ハロゲン化アルカリを含む有機溶媒溶液は、N,N-ジメチルアセトアミドを用いるのがよい。
【0012】
<13> A)i)苛性アルカリを2〜20重量%、好ましくは4〜10重量%;及びii)尿素又はチオ尿素を4〜20重量%、好ましくは6〜15重量%;を有する水溶液に、セルロース量が重量比で0.2〜20%、好ましくは0.3〜10%となるようにセルロースを溶解しセルロース溶液を調製する工程;
B)該セルロース溶液をセルロース非溶媒に浸漬して含液体セルロースゲルを調製する工程;
C)該含液体セルロースゲルを、x)有機溶媒置換乾燥、y)超臨界乾燥、又はz)亜臨界乾燥を行い、セルロースエアロゲルを得る工程;を有するセルロースエアロゲルの製造方法であって、得られたセルロースエアロゲルは、窒素吸着BET法による比表面積が300m/g以上、好ましくは350m/g以上、より好ましくは400m/g以上である、上記方法。
【0013】
<14> A’)ハロゲン化アルカリを5〜12重量%、好ましくは6〜10重量%含む有機溶媒溶液に、セルロース量が 重量比で0.2〜20%、好ましくは0.5〜10%となるようにセルロースを溶解しセルロース溶液を調製する工程;
B)該セルロース溶液をセルロース非溶媒に浸漬して含液体セルロースゲルを調製する工程;
C)該含液体セルロースゲルを、x)有機溶媒置換乾燥、y)超臨界乾燥、又はz)亜臨界乾燥を行い、セルロースエアロゲルを得る工程;を有するセルロースエアロゲルの製造方法であって、得られたセルロースエアロゲルは、窒素吸着BET法による比表面積が300m/g以上、好ましくは350m/g以上、より好ましくは400m/g以上である、上記方法。
【0014】
<15> 上記<13>又は<14>において、セルロースが、植物セルロース、 微生物産生セルロース、ホヤ皮嚢セルロース及びそれらの誘導体、並びにそれらの混合物からなる群から選ばれる、少なくとも1種であるのがよい。
<16> 上記<15>において、誘導体は、セルロースの水酸基を置換度1.0以下にエステル化及び/又はエーテル化したセルロース誘導体であるのがよい。
【0015】
<17> 上記<13>〜<16>のいずれかにおいて、D)含液体セルロースゲルを化学的に疎 水化処理する工程をB)工程後に有し、該D)工程後、x)、y)又はz)の乾燥を行うのがよい。
<18> 上記<13>〜<17>のいずれかにおいて、E)含液体セルロースゲルに無機物を付着させる工程をB)工程後に有し、該E)工程後、x)、y)又はz)の乾燥を行うのがよい。なお、D)化学的疎水化処理工程を行う場合、E)無機物付着工程は、該D)工程前又はその後又はその間に行うことができ、好ましくはE)無機物付着工程は、該D)化学的疎水化処理工程前に行うのがよい。
<19> 上記<13>〜<18>のいずれかにおいて、セルロース非溶媒は、水、低級アルキルアルコール(メタノール、エタノールなど)及びその水溶液;低級ケトン(アセトンなど);低級脂肪酸エステル(酢酸エチルなど);酸性水溶液(希硫酸、希塩酸など);及び塩類(硫酸ナ トリウムなど)の希薄水溶液;並びにこれらの混合物からなる群、好ましくは純水、メタノール、エタノール、20%以下の希硫酸及び20%以下の硫酸ナトリウム水溶液並びにこれらの混合物からなる群から選ばれる溶媒を用いるのがよい。
【0016】
<20> 上記<13>〜<19>のいずれかのx)有機溶媒置換乾燥はアセトン、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、芳香族炭化水素及びハロゲン化低級炭化水素、並びにこれらの誘導体及びこれらの混合物からなる群、好ましくは2-プロパノール、t-ブタノール、ベンゼン、トルエン、及びフッ素化低級炭化水素からなる群から選ばれる溶媒を用いるのがよい。
<21> 上記<13>〜<19>のいずれかのy)超臨界乾燥は、CO浸漬又はCO雰囲気下、温度35〜60℃、圧力75〜180kg/cmの条件下で行うのがよい。
<22> 上記<13>〜<19>のいずれかのz)亜臨界乾燥は、各々の溶媒の臨界点以下、該溶媒の常圧での沸点より10℃低い温度又はそれ以上の温度で行うのがよい。
【0017】
<23> 上記<14>〜<22>のいずれかにおいて、ハロゲン化アルカリを含む有機溶媒溶液は、塩化リチウムを含むのがよい。
<24> 上記<14>〜<23>のいずれかにおいて、ハロゲン化アルカリを含む有機溶媒溶液は、N,N-ジメチルアセトアミドを用いるのがよい。
【0018】
<25> 上記<1>〜<12>のいずれかにおけるセルロースエアロゲルを非酸化的 雰囲気において150℃以上、好ましくは200〜3000℃で熱処理して得られるセルロースエアロゲルの炭化物。
<26> 上記<13>〜<24>のいずれかの方法により得たセルロースエアロゲルを非酸化的雰囲気において150℃以上、好ましくは200〜3000℃で熱処理して得られるセルロースエアロゲルの炭化物。
【0019】
<27> 以下の工程を有する、セルロースエアロゲルの炭化物の 製造方法であって、
A)i)苛性アルカリを2〜20重量%;及びii)尿素又はチオ尿素を4〜20重量%;を有する水溶液に、セルロース量が重量比で0.2〜20%となるようにセルロースを溶解しセルロース溶液を調製する工程;又は
A’)ハロゲン化アルカリを5〜12重量%含む有機溶媒溶液に、セルロース量が重量比で0.2〜20%となるようにセルロースを溶解しセルロース溶液を調製する工程;
B)該セルロース溶液をセルロース非溶媒に浸漬して含液体セルロースゲルを調製する工程;
C)該含液体セルロースゲルを、x)有機溶媒置換乾燥、y)超臨界乾燥、又はz)亜臨界乾燥を行い、窒素吸着BET法による比表面積が300m/g以上であるセルロースエアロゲルを得る工程;及び
F)得られたセルロースエアロゲルを非酸化的雰囲気において150℃以上で熱処理してセルロースエアロゲルの炭化物を得る工程;
を有する、上記方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、ハンドリングの容易性、及び/又はコスト面での有利性を有する溶媒、特にNMMOとは異なる特定の溶媒を用いる、エアロゲルの製造方法を提供することができる。
また、本発明により、上記効果に加えて、又は上記効果以外に、より大きな窒素吸着比表面積を有するエアロゲルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、以下の方法によって、高い窒素吸着比表面積を有するセルロースエアロゲルを提供する。
即ち、本発明の方法は、A)i)苛性アルカリを2〜20重量%、好ましくは4〜10重量%;及びii)尿素又はチオ尿素を4〜20重量%、好ましくは6〜15重量%;を有する水溶液に、セルロース量が重量比で0.2〜20%、好ましくは0.3〜10%となるようにセルロースを溶解しセルロース溶液を調製する工程;
B)該セルロース溶液をセルロース非溶媒に浸漬して含液体セルロースゲルを調製する工程;
C)該含液体セルロースゲルを、x)有機溶媒置換乾燥、y)超臨界乾燥、又はz)亜臨界乾燥を行い、セルロースエアロゲルを得る工程;を有する。
【0022】
または、本発明の方法は、A’)ハロゲン化アルカリを5〜12重量%、好ましくは6〜10重量%含む有機溶媒溶液に、セルロース量が重量比で0.2〜20%、好ましくは0.5〜10%となるようにセルロースを溶解しセルロース溶液を調製する工程;
B)該セルロース溶液をセルロース非溶媒に浸漬して含液体セルロースゲルを調製する工程;
C)該含液体セルロースゲルを、x)有機溶媒置換乾燥、y)超臨界乾燥、又はz)亜臨界乾燥を行い、セルロースエアロゲルを得る工程;を有する。
【0023】
上記のA)又はA’)工程を用いる方法により、窒素吸着BET法による比表面積が300m/g以上、好ましくは350m/g以上、より好ましくは400m/g以上であるセルロースエアロゲルを得ることができる。
【0024】
本発明の方法に用いるセルロースは、植物セルロース、微生物産生セルロース、ホヤ皮嚢セルロース及びそれらの誘導体、並びにそれらの混合物からなる群から選ばれる、少なくとも1種であるのがよい。特に、木材セルロース、綿セルロース又はホヤ皮嚢セルロース、もしくはこれらの混合物であるのが好ましい。
また、各種セルロースの誘導体は、セルロースの水酸基を置換度1.0以下、好ましくは置換度0.1〜0.8にエステル化及び/又はエーテル化したセルロース誘導体であるのがよい。
【0025】
本発明の方法のA)工程又はA’)工程は、セルロースを特定の溶媒に溶解しセルロース溶液を調製する工程である。
本発明の目的である大比表面積のエアロゲルを得るためには、後述のB)工程、即ちセルロース非溶媒でセルロースをゲル化させる際に、セルロース分子がなるべく微細なフィブリルを形成する溶媒を用いるのがよい。一般にフィブリルが微細であると光を散乱しなくなるので、上記の目的には含液体セルロースゲル生成(以下、「再生」という場合がある)時になるべく透明度の高いゲルを生成する溶媒が適する。そのような溶媒としては以下が適する。
【0026】
A)工程において用いる溶媒は、i)苛性アルカリを2〜20重量%、好ましくは4〜10重量%;及びii)尿素又はチオ 尿素を4〜20重量%、好ましくは6〜15重量%;を有する水溶液である。
ここで、i)苛性アルカリとは、NaOH又はLiOH、もしくはそれらの混合体である。好ましくは、NaOHであるのがよい。また、ii)尿素又はチオ尿素のうち、尿素であるのが好ましい。
【0027】
A’)工程に用いる溶媒は、有機溶媒であり、好ましくはN,N-ジメチルアセトアミドであるのがよい。また、該溶媒にハロゲン化アルカリ、好ましくは塩化リチウムを用いるのがよい。
【0028】
A)工程又はA’)工程のいずれを用いる場合においても、特定の溶媒を用いることにより、次のような作用を奏するものと考えられる。即ち、いずれの工程においても用いる溶媒は、取り扱いの容易である。特に、A)工程に用いる溶媒は、安価、低毒性、低環境負荷の薬品のみを用いるものであり、実用的価値が高い。
【0029】
A)工程又はA’)工程後、B)工程に付される。
B)工程は、A)又はA’)工程で得られたセルロース溶液を、セルロース非溶媒に浸漬して含液体セルロースゲルを調製する工程である。
セルロース非溶媒として、セルロースを溶解しない溶媒であれば、特に制限されない。セルロース非溶媒として、水、低級アルキル アルコール(メタノール、エタノールなど)及びその水溶液;低級ケトン(アセトンなど);低級脂肪酸エステル(酢酸エチルなど);酸性水溶液(希硫酸、希塩酸など);及び塩類(硫酸ナトリウムなど)の希薄水溶液;並びにこれらの混合物からなる群、好ましくは純水、メタノール、エタノール、20%以下の希硫酸及び20%以下の硫酸ナトリウム水溶液並びにこれらの混合物からなる群から選ばれるのがよい。
【0030】
B)工程において、任意形状の含液体セルロースゲルに調製することができる。即ち、セルロース溶液を、セルロース非溶媒に浸漬する際、所望の形状を有する型にセルロース溶液を注入し、その溶液が注入された型をセルロース非溶媒に浸漬することにより、所望形状の含液体セルロースゲルを調製することができる。なお、非特許文献1に記載される、300m/g以上の比表面積を与える特定の手法は、高温の微小な液滴を氷冷水に直接落とす方法であるため、所望形状を有する含液体セルロースゲル又はセルロースエアロゲルを調製することができない。
【0031】
含液体セルロースゲルを得た状態において、含液体セルロースゲル中の液はそれと相溶性のある任意の溶媒に置換することができる。A)又はA’)工程で用いた溶媒、該工程で用いた化合物、具体的にはA)工程における苛性アルカリ及び尿素又はチオ尿素、及び/又はA’)工程におけるハロゲン化アルカリ、並びにB)工程で用いたセルロース非溶媒などを除去するには、適当な溶剤、例えば水、エタノールなどで洗浄した後、任意の溶媒に置換する。なお、従来のセルロース溶媒、例えばビスコース、銅アンモニア、ロダンカルシウムなどのセルロース溶液は、本B)工程時に白濁することが多く、本発明には適さない。
【0032】
B)工程後、C)工程に付される。
B)工程後、C)工程前に、D)含液体セルロースゲルを化学的に疎水化処理する工程を設けてもよい。
また、B)工程後、C)工程前に、E)含液体セルロースゲルに無機物を付着させる工程を設けてもよい。なお、D)工程及びE)工程を共に設ける場合、E)工程は、D)工程前、D)工程と共に、又はD)工程後に行うことができ、好ましくはE)工程は、該D)化学的疎水化処理工程前に行うのがよい。
【0033】
D)工程は、含液体セルロースゲルを化学的に疎 水化処理する工程である。具体的には、含液体セルロースゲルをヘキサメチルジシラザンなどのシリル化剤で処理して、ゲルを構成するセルロースフィブリルの表面にシリル基を導入する工程である。より具体的には、シリル化剤処理前に、含液体セルロースゲルの含有液体を、水酸基を持たない有機溶媒に置換するのが好ましい。
この工程を付することにより、その後、C)工程、例えば超臨界乾燥など、を経て得られるエアロゲルは、疎水性になる。このため、撥水性および合成樹脂との親和性を有することとなり、そのような特性を有する材料として応用することができる。
【0034】
E)工程は、含液体セルロースゲルに無機物を付着させる工程である。
この工程により、次のような作用を奏することができる。即ち、含液体セルロースゲルは、微細なセルロースフィブリルを構成要素とする三次元網目の構造体である。このような構造中には、含有液体と相溶性のある溶媒を用いた低分子物質の任意の溶液を浸透及び/又は含浸させることができる。そのような溶液として化学反応によって固体が析出するような溶液を用い、反応条件(温度、含浸の順序、低分子物質の濃度など)を適切に制御すると、ゲルの網目の中で微細な粒子を形成させることができる。そのような粒子はセルロースフィブリルに付着するか、付着はしなくとも網目に閉じ込められた形でゲル内に保持される。 このようにして無機物を付着させた含液体セルロースゲルを、その後のC)工程で乾燥させることにより、無機物微粒子を保持した、あるいは無機物薄膜でセルロースフィブリルが被覆されたセルロースエアロゲルを得ることができる。このようなセルロースエアロゲルは、導電性材料、触媒、電極などに応用することができる。
【0035】
B)工程後、所望によりD)及び/又はE)工程を付された後、C)工程に付される。C)工程は、含液体セルロースゲルを乾燥させてセルロースエアロゲルを得る工程である。
C)工程での乾燥工程は、x)有機溶媒置換乾燥、y)超臨界乾燥、又はz)亜臨界乾燥により行うことができる。
【0036】
x)有機溶媒置換乾燥は、含液体セルロースゲルに含まれる液体を他の溶媒、即ち有機溶媒に置換した後、該置換した有機溶媒を乾燥させる工程である。他の溶媒、即ち有機溶媒として、アセトン、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、芳香族炭化水素及びハロゲン化低級炭化水素、並びにこれらの誘 導体及びこれらの混合物からなる群、好ましくは2-プロパノール、t-ブタノール、ベンゼン、トルエン、及びフッ素化低級炭化水素からなる群から選ばれるのがよいが、これらに限定されない。他の溶媒としてt−ブタノール、ベンゼン、もしくはハロゲン化低級炭化水素又はその誘導体を用いるのが好ましく、最も好ましくはt−ブタノール又はフッ素化低級炭化水素であるのがよい。また、x)有機溶媒置換乾燥における乾燥法として、凍結乾燥法又は亜臨界乾燥、好ましくは凍結乾燥法を用いるのがよい。
【0037】
y)超臨界乾燥は、含液体セルロースゲルを超臨界雰囲気下で乾燥させる工程である。ここで超臨界として、CO浸漬又はCO雰囲気下、温度35〜60℃、圧力75〜180kg/cmの条件下で行うのがよい。
含液体セルロースゲルに含まれる液体が有機溶媒である場合、超臨界乾燥には エタノールおよびメタノールが適する。 亜臨界乾燥にはエタノール、メタノール、脂肪族および芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、 ケトン、エステルなどの溶媒が適する。
なお、二酸化炭素超臨界乾燥を行う場合、含液体セルロースゲルを洗浄し含有液体を適切な中間溶媒へと置換するのがよい。該中間溶媒として、水と液体二酸化炭素の両方に相溶性のある有機溶媒、例えば低級アルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、非プロトン性極性溶媒(N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなど)などを挙げることができる。
【0038】
z)亜臨界乾燥は、含液体セルロースゲルを亜臨界雰囲気下で乾燥させる工程である。亜臨界条件として、各々の溶媒の臨界点以下、該溶媒の常圧での沸点より10℃低い温度又はそれ以上の温度で行うのがよい。
含液体セルロースゲルに含まれる液体が有機溶媒である場合、亜臨界乾燥にはエタノール、メタノール、脂肪族および芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、 ケトン、エステルなどの溶媒が適する。
なお、二酸化炭素亜臨界乾燥を行う場合、含液体セルロースゲルを洗浄し含有液体を適切な中間溶媒へと置換するのがよい。該中間溶媒として、水と液体二酸化炭素の両方に相溶性のある有機溶媒、例えば低級アルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、非プロトン性極性溶媒(N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなど)などを挙げることができる。
【0039】
このように、A)又はA’)、B)及びC)工程、並びに所望によりD)及び/又はE)工程を経ることにより、セルロースエアロゲル、特に窒素吸着BET法による比表面積が300m/g以上であるセルロースエアロゲルを得ることができる。特に、窒素吸着BET法による比表面積が、好ましくは350m/g以上、より好ましくは400m/g以上であるセルロースエアロゲルを得ることができる。
【0040】
本発明のセルロースエアロゲルは、上述のように、軽量、低熱伝導率、大比表面積、微細な孔径などの特徴を有するため、断熱材、微粒子捕捉材、フィルタ、触媒担体など様々な用途がある。
特に、本発明のセルロースエアロゲルは、従来知られているシリカエアロゲルに比して透明度と比表面積は劣るものの機械的強度と耐湿性では格段に優れているとともに、熱分解炭素の原料とすることもできる。これらの特徴を活かした用途として、吸着剤;微粒子捕捉フィルタ;触媒担体;緩衝材;断熱材;吸音材;コンポジット材料;などを挙げることができる。なお、炭化および/又は無機物付着により、さらに、電子材料;電磁波遮蔽材;磁性材料;各種電池材料、例えば燃料電池用材料(特に電極用材料)、リチウムイオン電池用材料(特に電極用材料)、二重層キャパシタ用材料(特に電極用材料);などへ応用することができる。
【0041】
上記のように得られたセルロースエアロゲルは、さらに、熱処理工程を付することにより、該セルロースエアロゲルの炭化物を得ることができる。即ち、セルロースエアロゲルを非酸化的雰囲気において150℃以上、好ましくは200〜3000℃で熱処理して、セルロースエアロゲルの炭化物を得ることができる。
ここで、非酸化的雰囲気として、真空、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気を挙げることができるが、酸素を含まない雰囲気下であれば、これらに限定されない。
【0042】
このようにして得られた、セルロースエアロゲルの炭化物は、導電性材料、電極、吸着剤に応用することができる。
【0043】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
水酸化ナトリウム7gと尿素12gを含む水溶液95gを−12℃に冷却しておき、これにろ紙パルプ(アドバンテック東洋)5gを加えて攪拌するとセルロースは速やかに溶解し透明な溶液を与えた。
該溶液約5mLをガラス板上に流し 直径0.5mmの針金を両端に巻いたガラス棒で塗り拡げることにより厚さ0.5mmの溶液層を形成し、ただちに5%硫酸100mLに浸漬した。10分放置すると溶液はゲル化し、ガラス板から剥がすことができ、セルロースゲルを得た。該セルロースゲルを水、次いでエタノールで十分に洗浄し、超臨界二酸化炭素乾燥装置(日立製作所 HCP−2)により二酸化炭素超臨界乾燥(温度:40℃;圧力90kg/cm)して、エアロゲルA−1を得た。
エアロゲルA−1の吸着特性を、Quantachrome-Nova4000型窒素吸着装置により測定し、BET法による窒素吸着比表面積:391.8m/g を得た。エアロゲルの寸法と重量から求めた密度は0.20g/cmであり、これから、セルロース実質部の密度を1.5g/cmとして計算した空隙率は86.7%であった。
【実施例2】
【0045】
実施例1における超臨界二酸化炭素乾燥の代りにt-ブチルアルコールへの溶媒置換乾燥を行う以外、実施例1と同様な方法により、エアロゲルA−2を得た。
得られたエアロゲルA−2の特性を、実施例1と同様に測定することにより、比表面積:366.1m/g、密度:0.22g/cm、空隙率:86.9%を得た。
【0046】
(比較例1)
実施例1における超臨界二酸化炭素乾燥の代りに水への溶媒置換乾燥を行う以外、実施例1と同様の方法により、エアロゲルCA−1を得た。これはエアロゲルA−1およびA−2と異なり白濁した物質であった。エアロゲルCA−1の特性を実施例1と同様に測定することにより、比表面積:133.3 m/g、密度:0.16g/cm、空隙率:89.9%を得た。
【実施例3】
【0047】
実施例1における苛性アルカリ成分である水酸化ナ トリウム7%の代りに水酸化リチウム4.6%とし、ろ紙パルプの仕込み濃度を6%とし、再生浴である5%硫酸の代わりに純水とした以外、実施例1と同様の方法により、エアロゲルB−1を得た。エアロゲルB−1 の特性を実施例1と同様に測定することにより、窒素吸着比表面積:406m/g、密度:0.16g/cm、空隙率:89.9%を得た。
【実施例4】
【0048】
実施例3における再生浴である純水の代わりに100%エタノールとした以外、実施例3と同様の方法により、エアロゲルB−2を得た。エアロゲルB−2の特性を、実施例1と同様に測定することにより、比表面積:410m/g、密度:0.19g/cm、空隙率:88.7%を得た。
【実施例5】
【0049】
実施例4におけるセルロース濃度を4%とし、再生浴である100%エタノールの代わりに90vol%エタノール(残りの10vol%は水)とした以外、実施例4と同様の方法により、エアロゲルB−3を得た。エアロゲルB−3の特性を、実施例1と同様に測定することにより、比表面積:416m/g、密度:0.10g/cm、空隙率:94.3%を得た。
【実施例6】
【0050】
実施例5におけるセルロース濃度を6%とした以外、実施例5と同様の方法により、エアロゲルB−4を得た。エアロゲルB−4の特性を、実施例1と同様に測定することにより、比表面積:389m/g、密度:0.13g/cm、空隙率:90.4%を得た。
【実施例7】
【0051】
実施例4における再生浴である100%エタノールの代わりに100%メタノールを用いた以外、実施例4と同様の方法により、エアロゲルB−5を得た。エアロゲルB−5の特性を、実施例1と同様に測定することにより、比表面積:369m/g、密度:0.16g/cm、空隙率:89.8%を得た。
【実施例8】
【0052】
実施例4における再生浴である100%エタノールの代わりに100%アセトンを用いた以外、実施例4と同様の方法により、エアロゲルB−6を得た。エアロゲルB−6の特性を、実施例1と同様に測定することにより、比表 面積:308m/g、密度:0.58g/cm、空隙率:61.8%を得た。
【実施例9】
【0053】
実施例5における再生浴である90%エタノールの代わりに100%2-プロパノールを用いた以外、実施例5と同様の方法により、エアロゲルB−7を得た。エアロゲルB−7の特性を、実施例1と同様に測定することにより、比表面積:328m/g、密度:0.33g/cm、空隙率:78.7%を得た。
【実施例10】
【0054】
実施例7におけるろ紙パルプの代わりにWhatman社製CF11を用いた以外、実施例7と同様の方法により、エアロゲルB−8を得た。エアロゲルB−8の特性を、実施例1と同様に測定することにより、比表面積:452m/g、密度:0.11g/cm、空隙率:92.7%を得た。
【実施例11】
【0055】
実施例10におけるWhatman社製CF11の代わりに綿リンタを用い且つ該セルロース仕込み濃度を5%とした以外、実施例10と同様の方法により、エアロゲルB−9を得た。エアロゲルB−9の特性を、実施例1と同様に測定することにより、比表面積:485m/g、密度:0.13g/cm、空隙率:91.3%を得た。
【実施例12】
【0056】
<ホヤ皮嚢セルロースの調製>
マボヤの加工食品廃棄物として得られるマボヤ皮嚢を室温で0.2%NaOHに保存した原料をミキサーで解繊した。該解繊物を、5%NaOHに室温で一夜浸漬し、水洗後、 0.3%亜塩素酸ナトリウム水溶液中で60℃で2時間の処理を3回繰返して非セルロース成分を除去した。該処理物を十分に水洗した後に水から凍結乾燥し、ホヤ皮嚢セルロースを得た。
<ホヤセルロースの調製>
実施例11における綿リンタの代わりに上述のホヤ皮嚢セルロースを用い且つ該セルロース仕込み濃度を3%とした以外、実施例11と同様の方法により、エアロゲルB−10を得た。エアロゲルB−10の特性を、実施例1と同様に測定することにより、比表面積:392m/g、密度:0.11g/cm、空隙率:92.5%を得た。
【実施例13】
【0057】
実施例12におけるセルロース仕込み濃度を0.5%とした以外、実施例12と同様の方法により、エアロゲルB−11を得た。エアロゲルB−11の特性を、実施例1と同様に測定することにより、比表面積:481m/g、密度:0.01g/cm、空隙率:98.0%を得た。
【実施例14】
【0058】
ろ紙パルプ粉末(アドバンテック東洋(株)製)5gを、塩化リチウム(和光純薬、特級)95gを含む8.0%N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)溶液 に室温で溶解した。該溶液を実施例1と同様にして0.5mmの層としてから100%エタノールに浸漬してゲル化させ、エタノールで十分に洗浄した。該セルロースゲルを二酸化炭素超臨界乾燥して、エアロゲルC−1を得た。エアロゲルC−1の特性を実施例1と同様に測定することにより、窒素吸着比表面積:474m/g、密度:0.23g/cm、空隙率:85.1%を得た。
【実施例15】
【0059】
実施例4において得られる含液体セルロースゲルに含まれる純 エタノールをヘプタフルオロシクロペンタン(日本ゼオン(株)製、商品名ゼオローラH)に置換し、その後、真空下で凍結乾燥を行うことによりエアロゲルD−1を得た。エアロゲルD−1の特性を実施例1と同様に測定することにより、窒素吸着比表面積:389m/gを得た。なお、上記ヘプタフルオロシクロペンタン(日本ゼオン(株)製、商品名ゼオローラH)は、シリカなどの無機物エアロゲルの調製にも適用可能であった。
【実施例16】
【0060】
実施例5において得られる含液体セルロースゲルに含まれる90%エタノールを純水に置換して十分に洗浄した後、該セルロースゲルを0.17%硝酸銀水溶液に浸漬し、10分以上放置して該溶液をゲル内に浸透させた。該硝酸銀溶液含有セルロースゲルを0.4%水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)溶液に浸漬し、25℃で3時間放置すると、銀イオンが還元されて銀微粒子としてゲル内で析出し、ゲルは黄変した。該ゲルを十分に水洗した後、含有液体をエタノールに置換し、実施例1と同様にCO超臨界乾燥して エアロゲルAgを得た。エアロゲルAgの特性を実施例1と同様に測定することにより、窒素吸着比表面積:341m/g、密度0.11g/cmを得た(銀付着なしでの値は、実施例5より各々、窒素吸着比表面積:416m/g、密度:0.10g/cm)。
【実施例17】
【0061】
実施例6において得られる含液体 セルロースゲルに含まれる90%エタノールを純水に置換して十分に洗浄した後、該セルロースゲルを2.43%塩化鉄(III)(FeCl)水溶液に浸漬し、10分以上放置して該溶液をゲル内に浸透させた。該塩化鉄溶液含有セルロースゲルを28%アンモニア水に浸漬し、21℃で30分放置すると、鉄イオンが還元されて水酸化鉄微粒子としてゲル内で析出し、ゲルは褐変した。該ゲルを十分に水洗した後含有液体をエタノールに置換し、実施例1と同様にCO超臨界乾燥してエアロゲルFeを得た。エアロゲルFeの特性を実施例1と同様に測定することにより、窒素吸着比表面積:426m/g、密度:0.244g/cmを得た(水酸化鉄付着なしでの値は 実施例6より各々、窒素吸着比表面積:389m/g、密度:0.13g/cm)。
【実施例18】
【0062】
実施例6において得られる含液体 セルロースゲルに含まれる90%エタノールを純水に置換して十分に洗浄した後、該セルロースゲルを2.21%塩化コバルト(II)(CoCl)水溶液に浸漬し、10分以上放置して該溶液をゲル内に浸透させた。該塩化コバルト溶液含有セルロースゲルを28%アンモニア水に浸漬し、21℃で30分放置すると、コバルトイオンが還元されて水酸化コバルト微粒子としてゲル内で析出し、ゲルは淡紅色に着色した。該ゲルを十分に水洗した後含有液体をエタノールに置換し、 実施例1と同様にCO超臨界乾燥してエアロゲルCoを得た。 エアロゲルCoの特性を実施例1と同様に測定することにより、窒素吸着比 表面積:398m/g、密度:0.324g/cmを得た(水酸化コバルト付着なしでの値は 実施例6より各々、窒素吸着比表面積:389m/g、密度:0.13g/cm
【実施例19】
【0063】
実施例4において得られる含液体 セルロースゲルに含まれるエタノールをn-ヘキサンに溶媒置換した。該含n-ヘキサンセルロースゲル1gをn-ヘキサン50g中に置き、室温においてヘキサメチルジシラザン(HMDS、和光純薬)4gを加え、60℃で12時間反応させた。その後、n-ヘキサンで十分に洗浄して未反応のHMDSを除去することにより、含ヘキサンシリル化セルロースゲルを得た。該含ヘキサンシリル化セルロースゲルを、実施例1と同様にCO超臨界乾燥してエアロゲルSiを得た。エアロゲルSiの特性を、実施例1と同様に測定することにより、窒素吸着比表面積:328m/g、密度:0.28g/cmを得た。
【実施例20】
【0064】
実施例10で得たエアロゲルB−8をマッフル炉(アドバンテック東洋FUW210PA)により窒素気流下、昇温速度:毎分10℃で600℃まで加熱処理し、エアロゲルの炭化物であるカーボンエアロゲル1を得た。 カーボンエアロゲル1の特性を、実施例1と同様に測定することにより、窒素吸着比表面積:151m/gを得た。
【実施例21】
【0065】
実施例17で得たエアロゲルFeを、マッフル炉(アドバンテック東洋FUW210PA)により窒素気流下、昇温速度:毎分10℃で400℃まで加熱処理し、エアロゲルFeの炭化物である、カーボンエアロゲルFeを得た。 カーボンエアロゲルFeの特性を、実施例1と同様に測定することにより、窒素吸着比表面積:166m/gを得た。
【0066】
(比較例2)
アガロース粉末(和光純薬)3gを、97gの純水に分散し、95℃で10分間攪拌して溶解させた。該溶液約5mLを熱いうちにガラス板上流延し、直径0.5mmの針金を両端に巻いたガラス棒で塗り拡げることにより、厚さ0.5mmの溶液層を形成してから放置冷却してゲル化させた。このアガロースヒドロゲルの含有液をエタノールに置換し、実施例1と同様にCO超臨界乾燥(温度:40℃;圧力90kg/cm)して、エアロゲルCAAを得た。
エアロゲルCAAの特性を、実施例1と同様に測定することにより、窒素吸着比表面積:122.1m/g、密度:0.26g/cm、空隙率:84.7%を得た。
【0067】
(比較例3)
水酸化銅(II)(Cu(OH))9.8gを脱イオン水50mLに溶解させ、氷冷しながらエチレン ジアミン13.4mLを加えて攪拌し溶解させた。これを水で希釈して全量を100mLとし、銅エチレンジアミン液を調製した。
ろ紙パルプ粉末(アドバンテック東洋(株)製)6gを、室温で、上記で得た銅エチレンジアミン液94gに分散し、−30℃に冷却して凍結させてから室温に戻し5分間攪拌してセルロースを溶解させた。該セルロース溶液を実施例1と同様にガラス板上に流延し、エタノール100mLに浸漬してゲル化させた。このゲルをエタノールで十分に洗浄し、実施例2と同様にt−ブチルアルコールに溶媒置換乾燥して、エアロゲルCBを得た。
エアロゲルCBは青く着色し、乾燥によって顕著に収縮、変形しており、寸法からの密度測定はできなかった。エアロゲルCBの窒素吸着比表面積を、実施例1と同様に測定することにより、249m/gを得た。
【0068】
(比較例4)
ろ紙パルプ粉末(アドバンテック東洋(株)製)6gを、21℃で、16.5%NaOH300gに浸漬し、12時間放置して膨潤させた。該混合物を18gまで絞ってからほぐし、さらに21℃で12時間放置して熟成した。該熟成物に二硫化炭素CS1.92gを加えることにより、キサントゲン酸セルロースとした。該キサントゲン酸セルロースを4%NaOH水溶液80gを加えて攪拌することにより、6%ビスコース溶液を得た。
該ビスコース溶液を実施例1と同様にガラス板上に流延し、5%硫酸100mLに浸漬してゲル化させた。このゲルを水で十分に洗浄し、エタノール置換を経て実施例2と同様にt−ブチルアルコールに溶媒置換乾燥して、エアロゲルCCを得た。
エアロゲルCCは乾燥によって顕著に収縮、変形しており、寸法からの密度測定はできなかった。エアロゲルCCの窒素吸着比表面 積を、実施例1と同様に測定することにより、202m/gを得た。
【0069】
同じセルロース原料(ろ紙パルプ)と同じ仕込み濃度(6%)で比較すると、本発明のエアロゲルB−1、B−2、B−4、及びB−5はいずれも、300m/g以上、好ましくは350m/g以上、より好ましくは400m/g以上の比表面積を与えるのに対し、比較例3及び4で示したエアロゲルCB及びCCは、250m/g以下の値しか与えない。
本発明によるエアロゲルの比表面積値は、セルロースの仕込み濃度にはあまり依存せず、再生浴の種類の方に強く影響される傾向がある。そして好適な条件においてはエアロゲルB−9およびエアロゲルG−1のごとく、500m/gに近い大比表面積を与える。これは、本発明に規定する溶媒を用いることにより、再生過程におけるセルロース分子の挙動がエアロゲルの調製にとって好ましい、すなわちフィブリルが細いにもかかわらず乾燥時の凝集が起こりにくいことに起因する。
なお、セルロースの凝集が抑えられフィブリルが細くなることは、得られるエアロゲルの透明性によって観察することができる。即ち、本発明のエアロゲルで比表面積の大きいものは半透明であるのに対して、比較例のエアロゲル群は強く白濁していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)苛性アルカリを2〜20重量%;及びii)尿素又はチオ尿素を4〜20重量%;を有する水溶液に、セルロース量が重量比で0.2〜20%となるようにセルロースを溶解しセルロース溶液を調製し、該セルロース溶液をセルロース非溶媒に浸漬して含液体セルロースゲルを調製し、該含液体セルロースゲルをx)有機溶媒置換乾燥、y)超臨界乾燥、又はz)亜臨界乾燥を行うことにより得られるセルロースエアロゲルであって、該セルロースエアロゲルの窒素吸着BET法による比表面積が300m/g以上であるセルロースエアロゲル。
【請求項2】
ハロゲン化アルカリを5〜12重量%含む有機溶媒溶液に、セルロース量が重量比で0.2〜20%となるようにセルロースを溶解しセルロース溶液を調製し、該セルロース溶液をセルロース非溶媒に浸漬して含液体セルロースゲルを調製し、該含液体セルロースゲルをx)有機溶媒置換乾燥、y)超臨界乾燥、又はz)亜臨界乾燥を行うことにより得られるセルロースエアロゲルであって、該セルロースエアロゲルの窒素吸着BET法による比表面積が300m/g以上であるセルロースエアロゲル。
【請求項3】
前記セルロースが、植物セルロース、微生物産生セルロース、ホヤ皮嚢セルロース及びそれらの誘導体、並びにそれらの混合物からなる群から選ばれる、少なくとも1種である請求項1又は2記載のセルロースエアロゲル。
【請求項4】
前記誘導体は、セルロースの水酸基を置換度1.0以下にエステル化及び/又はエーテル化したセルロース誘導体である請求項3 記載のセルロースエアロゲル。
【請求項5】
前記含液体セルロースゲルを化学的に疎水化処理し、その後、前記x)、y)又はz)の乾燥を行う請求項1〜4のいずれか1項記載のセルロースエアロゲル。
【請求項6】
前記含液体セルロースゲルに無機物を付着させ、その後、前記x)、y)又はz)の乾燥を行う請求項1〜5のいずれか1項記載のセルロースエアロゲル。
【請求項7】
A)i)苛性アルカリを2〜20重量%;及びii)尿素又はチオ尿素を4〜20重量%;を有する水溶液に、セルロース量が重量比で0.2〜20%となるようにセルロースを溶解しセルロース溶液を調製する工程;
B)該セルロース溶液をセルロース非溶媒に浸漬して含液体セルロースゲルを調製する工程;
C)該含液体セルロースゲルを、x)有機溶媒置換乾燥、y)超臨界乾燥、又はz)亜臨界乾燥を行い、セルロースエアロゲルを得る工程;を有するセルロースエアロゲルの製造方法であって、得られたセルロースエアロゲルは、窒素吸着BET法による比表面積が300m/g以上である、上記方法。
【請求項8】
A’)ハロゲン化アルカリを5〜12重量%含む有機溶媒溶液に、セルロース量が重量比で0.2〜20%となるようにセルロースを溶解しセルロース溶液を調製する工程;
B)該セルロース溶液をセルロース非溶媒に浸漬して含液体セルロースゲルを調製する工程;
C)該含液体セルロースゲルを、x)有機溶媒置換乾燥、y)超臨界乾燥、又はz)亜臨界乾燥を行い、セルロースエアロゲルを得る工程;を有するセルロースエアロゲルの製造方法であって、得られたセルロースエアロゲルは、窒素吸着BET法による比表面積が300m/g以上である、上記方法。
【請求項9】
前記セルロースが、植物セルロース、微生物産生セルロース、ホヤ皮嚢セルロース及びそれらの誘導体、並びにそれらの混合物からなる群から選ばれる、少なくとも1種である請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
前記誘導体は、セルロースの水酸基を置換度1.0以下にエステル化及び/又はエーテル化したセルロース誘導体である請求項9 記載の方法。
【請求項11】
B)工程後であって且つC)工程前に、D)前記含液体セルロースゲルを化学的に疎水化処理する工程をさらに有する請求項7〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
B)工程後であって且つC)工程前に、E)前記含液体セルロースゲルに無機物を付着させる工程をさらに有する請求項7〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれか1項記載のセルロースエアロゲルを非酸化的雰囲気において150℃以上で熱処理して得られるセルロースエアロゲルの炭化物。
【請求項14】
請求項7〜11のいずれか1項記載の方法により得たセルロースエアロゲルを非酸化的雰囲気において150℃以上で熱処理して得られるセルロースエアロゲルの炭化物。
【請求項15】
以下の工程を有する、セルロースエアロゲルの炭化物の 製造方法であって、
A)i)苛性アルカリを2〜20重量%;及びii)尿素又はチオ尿素を4〜20重量%;を有する水溶液に、セルロース量が重量比で0.2〜20%となるようにセルロースを溶解しセルロース溶液を調製する工程;又は
A’)ハロゲン化アルカリを5〜12重量%含む有機溶媒溶液に、セルロース量が重量比で0.2〜20%となるようにセルロースを溶解しセルロース溶液を調製する工程;
B)該セルロース溶液をセルロース非溶媒に浸漬して含液体セルロースゲルを調製する工程;
C)該含液体セルロースゲルを、x)有機溶媒置換乾燥、y)超臨界乾燥、又はz)亜臨界乾燥を行い、窒素吸着BET法による比表面積が300m/g以上であるセルロースエアロゲルを得る工程;及び
F)得られたセルロースエアロゲルを非酸化的雰囲気において150℃以上で熱処理してセルロースエアロゲルの炭化物を得る工程;
を有する、上記方法。


【公開番号】特開2008−231258(P2008−231258A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73104(P2007−73104)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載年月日:平成19年1月22日 http://www.chemistry.org/portal/a/c/s/l/home.html http://www.chemistry.org/portal/a/c/s/l/acsdisplay.html http://acswebcontent.acs.org/nationalmeeting/chicago2007/home.html http://oasys2.confex.com/acs/233nm/techprogram/MEETING.HTM http://oasys2.confex.com/acs/233nm/techprogram/CELL.HTM http://oasys2.confex.com/acs/233nm/techprogram/S22868.HTM http://oasys2.confex.com/acs/233nm/techprogram/P106323.HTM
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】