説明

セルロースエステルフィルム、その製造方法、セルロースエステルフィルムを用いた偏光板、及び表示装置

【課題】 ウェブの延伸工程において、ウェブを幅手方向に1.2倍以上に延伸してもヘイズが高くならないセルロースエステルフィルムの製造方法、その方法により製造されたセルロースエステルフィルム、該フィルムを用いた偏光板、及び表示装置を提供する。
【解決手段】 溶液流延製膜法によるセルロースエステルフィルムの製造方法は、延伸工程におけるウェブの延伸率が20〜60%であり、かつ延伸工程における温風吹出し手段から吹き出す温風の温度が、巻き取り後のフィルムのガラス転移温度(Tg)に対し、Tg+35℃〜Tg+80℃である。延伸工程に入る直前のフィルムの残留溶媒量が10〜35重量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置(LCD)に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルムなどの各種機能フィルム等にも利用することができるセルロースエステルフィルム、その製造方法、セルロースエステルフィルムを用いた偏光板、及び表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置は、その画質の向上や高精細化技術の向上により、テレビや大型モニターに使用されるようになってきており、特に、これら液晶表示装置の大型化や、効率生産によるコストダウンなどの要望が液晶表示装置の材料にも強くなり、光学フィルムの広幅化が求められている。
【0003】
また、近年では、液晶TVの急激な伸びに対応すべく、光学フィルムの需要も急激に伸びており、生産性向上が強く求められている。溶液流延法で製膜するセルロースエステルフィルムについては、薄膜フィルムでは、乾燥する溶剤量が少なくてすむため、生産速度アップは可能である。
【0004】
溶液流延製膜法で幅の広いフィルムを得ることは、回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトまたは同ドラムなどよりなる流延支持体上での流延幅を広げることで、可能となる。
【0005】
一方、流延支持体や流延ダイスの幅には装置製造上の制約より上限がある。流延支持体がエンドレスベルトの場合では、幅の上限が現在では2000mmとされている。その場合の流延幅の上限は、エンドレスベルト搬送時の蛇行等を考慮すると、最大で1900mm程度が安全である。また流延支持体が金属製のドラムの場合でも、同様の製造上の制約から、最大幅は2500mm程度である。ドラム製膜の場合は、冷却によるゲル化で流延膜に自己支持性を持たせるため、冷却されている部分での製膜が必要となるが、端部は放熱のため温度変化があって使用できず、流延幅は2000mm程度にとどまる。
【0006】
いずれも設備製造上の制約より流延時の幅が限定されるため、現状では、流延後のフィルムを延伸して、フィルム幅をできるだけ広く取ることで、広幅のフィルムを得ることが考えられる。流延後のフィルムを延伸して広い幅のフィルムを得る方法としては、PETやポリビニルアルコールなどでは知られており、流延幅に対して2〜4倍程度延伸して広い幅のフィルムを得ている。
【0007】
ところが、セルロースエステルフィルムの場合は、分子構造の剛直さのために、延伸率を高くできないとこれまでは考えられてきた。下記の特許文献1、2では、セルロースエステルフィルムを1.2倍に延伸することが提案されている。
【特許文献1】特開2002−71957号公報
【特許文献2】特開2002−131540号公報 特許文献1には、残留溶媒量が120重量%未満、温度が115℃以上、160℃以下のときに、1.2〜4.0倍に延伸することが記載されている。また、特許文献2には、フィルム通過部の温度差が0℃以上、4℃以下の恒温槽内で、温度が室温〜160℃以下のときに、1.2倍以上、1.8倍以下に延伸することが記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に記載の製造方法では、セルロースエステルのヘイズが高くなり、光の透過率が低下するために、表示装置に組み込んだ際にコントラストが低くなってしまうという問題があった。そして、この問題は延伸時にフィルムに無理な力が掛かっているためと考えられる。
【0009】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、ウェブの延伸工程において、ウェブを幅手方向に1.2倍以上に延伸してもヘイズが高くならないセルロースエステルフィルムの製造方法、その方法により製造されたセルロースエステルフィルム、セルロースエステルフィルムを用いた偏光板、及び表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、セルロースエステル樹脂を含む樹脂溶液を、流延支持体に流延して流延膜を形成し、流延膜中の溶媒を流延膜が剥離可能な状態になるまで乾燥して、流延支持体から剥離した後に、剥離したウェブの両端部を把持して幅手方向に延伸する延伸工程を経て、溶媒を乾燥し、巻き取ることによりセルロースエステルフィルムを得るセルロースエステルフィルムの製造方法において、延伸工程におけるウェブの延伸率が20〜60%であり、かつ延伸工程における温風吹出し手段から吹き出す温風の温度が、巻き取り後のフィルムのガラス転移温度(Tg)に対し、Tg+35℃〜Tg+80℃であることを特徴としている。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、延伸工程に入る直前のフィルムの残留溶媒量が、10〜35重量%であることを特徴としている。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、延伸工程から送られてきた排気風に含まれる溶媒以外の有機成分を除去する除去手段を有することを特徴としている。
【0013】
請求項4の発明は、請求項3に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、前記有機成分を除去した排気風を、再び延伸工程より上流の乾燥風の一部として再利用することを特徴としている。
【0014】
請求項5の発明は、請求項4に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、前記除去手段が複数接続されていることを特徴としている。
【0015】
請求項6の発明は、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の方法で製造されたセルロースエステルフィルムであって、巻き取り後のフィルムの幅が、1650〜2500mmであることを特徴としている。
【0016】
請求項7の発明は、請求項6に記載のセルロースエステルフィルムであって、巻き取り後のフィルムの膜厚が、40〜80μmであることを特徴としている。
【0017】
請求項8に記載の偏光板の発明は、請求項6または7に記載のセルロースエステルフィルムを一方の面に用いることを特徴としている。
【0018】
請求項9に記載の表示装置の発明は、請求項6または7に記載のセルロースエステルフィルムを用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明は、セルロースエステル樹脂を含む樹脂溶液を、流延支持体に流延して流延膜を形成し、流延膜中の溶媒を流延膜が剥離可能な状態になるまで乾燥して、流延支持体から剥離した後に、剥離したウェブの両端部を把持して幅手方向に延伸する延伸工程を経て、溶媒を乾燥し、巻き取ることによりセルロースエステルフィルムを得るセルロースエステルフィルムの製造方法において、延伸工程におけるウェブの延伸率が20〜60%であり、かつ延伸工程における温風吹出し手段から吹き出す温風の温度が、巻き取り後のフィルムのガラス転移温度(Tg)に対し、Tg+35℃〜Tg+80℃であるもので、請求項1の発明によれば、高延伸にしても、フィルムのヘイズが高くならず、透明性、平面性に優れた光学特性、セルロースエステルフィルムを製造することができるという効果を奏する。
【0020】
請求項2の発明は、請求項1に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、延伸工程に入る直前のフィルムの残留溶媒量が、10〜35重量%であるもので、請求項2の発明によれば、フィルムにかかる応力をさらに小さくしつゝ、適度な自己支持性を確保することができる。
【0021】
本発明のように延伸工程の温度を高くすると、可塑剤などの有機成分が揮発する量が増える傾向にあるが、請求項3の発明によれば、延伸工程からの排気風に含まれる有機成分を除去する手段を有するために、有機成分によるフィルムの汚染やフィルム製造装置の汚染を防止することができる。また、請求項の発明4によれば、再び延伸工程より上流の乾燥風の一部として再利用するので、セルロースエステルフィルムの製造コストを低減することができるという効果を奏する。
【0022】
請求項5の発明は、請求項4に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、前記除去手段が複数接続されているもので、請求項5の発明によれば、排気風中の有機成分の濃度を確実に低減することができるので、排気風を、再び延伸工程より上流の乾燥風の一部として有効に再利用することができる。
【0023】
請求項6の発明は、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の方法で製造されたセルロースエステルフィルムであって、巻き取り後のフィルムの幅が、1650〜2500mmであるもので、請求項6の発明によれば、幅の広い液晶表示装置用セルロースエステルフィルムを製造することができるという効果を奏する。
【0024】
請求項7のセルロースエステルフィルムの発明は、巻き取り後のフィルムの膜厚が、40〜80μmであるもので、請求項7の発明によれば、表示装置の薄型化に貢献できるという効果を奏する。
【0025】
請求項8に記載の偏光板の発明によれば、これを液晶表示装置に組み込んだ場合にも、コントラストの低下を起こさず、視認性に優れているという効果を奏する。
【0026】
請求項9に記載の表示装置の発明によれば、コントラストの低下を起こさず、視認性に優れているという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
つぎに、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
本発明は、セルロースエステル樹脂を含む樹脂溶液(ドープ)を、回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトまたは同ドラムなどよりなる流延支持体に流延して流延膜を形成し、流延膜中の溶媒を流延膜が剥離可能な状態になるまで乾燥して、流延支持体から剥離した後に、剥離したウェブの両端部を把持して幅手方向に延伸する延伸工程を経て、溶媒を乾燥し、巻き取ることによりセルロースエステルフィルムを得る、溶液流延製膜法によるセルロースエステルフィルムの製造方法において、延伸工程におけるウェブの延伸率が20〜60%であり、かつ延伸工程における温風吹出し手段から吹き出す温風の温度が、巻き取り後のフィルムのガラス転移温度(Tg)に対し、Tg+35℃〜Tg+80℃であることを特徴とする。
【0029】
本実施形態における延伸工程は、ウェブ(またはフィルム)の両側縁部をクリップ等で把持して延伸するテンター方式であり、温風吹出し手段は、テンターの温風吹出しスリット口である。
【0030】
本実施形態において、セルロースエステル樹脂を含む樹脂溶液(ドープ)は、可塑剤、リタデーション調整剤、紫外線吸収剤、微粒子、及び低分子量物質のうちの少なくとも1種以上の物質と、セルロースエステル樹脂と、溶媒とを含むものである。
【0031】
以下、これらについて詳述する。
【0032】
セルロースエステルは、セルロース由来の水酸基がアシル基などで置換されたセルロースエステルである。例えば、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートなどのセルロースアシレートや、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートなどが挙げられる。中でも、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートが好ましい。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その他の置換基が含まれていてもよい。
【0033】
セルローストリアセテートの例としては、アセチル基の置換度が2.0以上3.0以下であることが好ましい。置換度をこの範囲にすることで、良好な成形性が得られ、かつ所望の面内方向リタデーション(R )、及び厚み方向リタデーション(Rt)を得ることができるのである。アセチル基の置換度が、この範囲より低いと、位相差フィルムとしての耐湿熱性、特に湿熱下での寸法安定性に劣る場合があり、置換度が大きすぎると、必要なリタデーション特性が発現しなくなる場合がある。
【0034】
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。また、それらから得られたセルロースエステルは、それぞれ任意の割合で混合使用することができる。
【0035】
本発明において、セルロースエステルの数平均分子量は、60000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。さらに70000〜200000が好ましい。
【0036】
本明細書において、セルロースエステルフィルムに対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する溶媒を主溶媒または主たる溶媒という。
【0037】
良溶媒の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、γ−ブチロラクトン等のエステル類の他、メチルセロソルブ、ジメチルイミダゾリノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ニトロエタン、塩化メチレン、アセト酢酸メチルなどが挙げられるが、1,3−ジオキソラン、THF、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチル及び塩化メチレンが好ましい。
【0038】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40重量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。これらは、ドープを流延支持体に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることで、ウェブ(流延支持体上にセルロース誘導体のドープを流延した以降のドープ膜の呼び方をウェブとする)をゲル化させ、ウェブを丈夫にして、流延支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は、非塩素系有機溶媒によるセルロースエステル樹脂の溶解を促進したりする役割もある。
【0039】
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、かつ毒性がないことなどからエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロース誘導体に対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
【0040】
このような条件を満たす好ましい高分子化合物であるセルロースエステル樹脂を高濃度に溶解する溶剤として最も好ましい溶剤は塩化メチレン:エチルアルコールの比が95:5〜80:20の混合溶剤である。あるいは、酢酸メチル:エチルアルコール60:40〜95:5の混合溶媒も好ましく用いられる。
【0041】
本発明におけるフィルムには、フィルムに加工性・柔軟性・防湿性を付与する可塑剤、フィルムに滑り性を付与する微粒子(マット剤)、紫外線吸収機能を付与する紫外線吸収剤、フィルムの劣化を防止する酸化防止剤等の種々の添加剤を配合することができる。
【0042】
本発明において使用する可塑剤としては、フィルムにヘイズを発生させたり、フィルムからブリードアウトあるいは揮発しないように、セルロースエステル樹脂や加水分解重縮合が可能な反応性金属化合物の重縮合物と、水素結合などによって相互作用可能である官能基を有していることが好ましい。
【0043】
このような官能基としては、水酸基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、カルボン酸残基、アミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルホン酸残基、ホスホニル基、ホスホン酸残基等が挙げられるが、好ましくはカルボニル基、エステル基、ホスホニル基である。
【0044】
このような可塑剤の例として、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などを好ましく用いることができるが、特に好ましくは多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤等の非リン酸エステル系可塑剤である。
【0045】
多価アルコールエステルは、2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。この多価アルコールは、つぎの一般式(1)で表される。
【0046】
一般式(1) R−(OH)n
(ただし、Rはn価の有機基、nは2以上の正の整数を表す)
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
好ましい多価アルコールの例としては、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0048】
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0049】
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることがさらに好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させると、セルロースエステル樹脂との相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0051】
好ましい脂肪族モノカルボン酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0052】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0053】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
【0054】
多価アルコールエステルの分子量は、特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが、さらに好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステル樹脂との相溶性の点では、小さい方が好ましい。
【0055】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0056】
グリコレート系可塑剤は、特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するグリコレート系可塑剤を、好ましく用いることができる。好ましいグリコレート系可塑剤としては、例えばブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート等を用いることができる。
【0057】
リン酸エステル系可塑剤では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等を用いることができる。
【0058】
これらの可塑剤は、単独あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0059】
可塑剤の使用量は、1〜20重量%が好ましい。6〜16重量%がさらに好ましく、特に好ましくは8〜13重量%である。
【0060】
本発明におけるセルロースエステル樹脂には、滑り性を付与するために、マット剤等の微粒子を添加するのが好ましい。微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。
【0061】
無機化合物の微粒子の例としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化錫等の微粒子が挙げられる。この中では、ケイ素原子を含有する化合物の微粒子であることが好ましく、特に二酸化ケイ素微粒子が好ましい。二酸化ケイ素微粒子としては、例えばアエロジル株式会社製のAEROSIL 200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812,R805、OX50、TT600などが挙げられる。
【0062】
有機化合物の微粒子の例としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素化合物樹脂、ウレタン樹脂等の微粒子が挙げられる。
【0063】
微粒子の1次粒径は、特に限定されないが、最終的にフィルム中での平均粒径は、0.05〜5.0μm程度が好ましい。さらに好ましくは、0.1〜1.0μmである。
【0064】
微粒子の平均粒径は、セルロースエステルフィルムを電子顕微鏡や光学顕微鏡で観察した際に、フィルムの観察場所における、粒子の長軸方向の長さの平均値を指す。フィルム中で観察される粒子であれば、1次粒子であっても、1次粒子が凝集した2次粒子であってもよいが、通常観察される多くは2次粒子である。
【0065】
微粒子の分散は、微粒子と溶剤を混合した組成物を高圧分散装置で処理することが好ましい。高圧分散装置は、微粒子と溶媒を混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態など特殊な条件を作りだす装置である。
【0066】
上記のような高圧分散装置としては、例えばMicrofluidics Corporation社製の超高圧ホモジナイザー(商品名マイクロフルイダイザー)あるいはナノマイザー社製ナノマイザーが挙げられ、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモゲナイザーなどが挙げられる。
【0067】
本発明において、微粒子は、低級アルコール類を25〜100重量%含有する溶剤中で分散した後、セルロースエステル樹脂を溶剤に溶解したドープと混合する。
【0068】
ここで、低級アルコールの含有比率としては、好ましくは50〜100重量%、さらに好ましくは75〜100重量%である。
【0069】
また、低級アルコール類の例としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。
【0070】
低級アルコール以外の溶媒としては、特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
【0071】
偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光学補償フィルムなどの各種光学フィルムには、劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が含まれていることが好ましい。
【0072】
紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0073】
本実施形態において、使用し得る紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報に記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報に記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。
【0074】
有用な紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0075】
また、紫外線吸収剤の市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(何れもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を、好ましく使用できる。
【0076】
また、本発明において使用し得る紫外線吸収剤であるベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0077】
本発明において、これらの紫外線吸収剤の配合量は、セルロースエステル(セルロース誘導体)に対して、0.01〜10重量%の範囲が好ましく、さらに0.1〜5重量%が好ましい。紫外線吸収剤の使用量が少なすぎると、紫外線吸収効果が不充分の場合があり、紫外線吸収剤の多すぎると、フィルムの透明性が劣化する場合があるので、好ましくない。紫外線吸収剤は熱安定性の高いものが好ましい。
【0078】
また、本実施形態のセルロースエステルフィルムに用いることのできる紫外線吸収剤は、特開平6−148430号公報及び特開2002−47357号公報に記載の高分子紫外線吸収剤(または紫外線吸収性ポリマー)も挙げられる。とりわけ特開平6−148430号公報に記載の一般式(1)、あるいは一般式(2)、あるいは特開2002−47357号公報に記載の一般式(3)(6)(7)で表される高分子紫外線吸収剤が、好ましく用いられる。
【0079】
酸化防止剤は、一般に、劣化防止剤ともいわれるが、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルム中に含有させるのが好ましい。すなわち、液晶画像表示装置などが高湿高温の状態に置かれた場合には、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルムの劣化が起こる場合がある。酸化防止剤は、例えばフィルム中の残留溶媒中のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸などによりフィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、フィルム中に含有させるのが好ましい。
【0080】
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
【0081】
以下、本発明によるセルロースエステルフィルムの実施形態について詳しく述べる。フィルムは、溶液流延製膜方法により作製できる。
【0082】
図1は、溶液流延製膜法によるセルロースエステルフィルムの製造方法を実施する装置の具体例を示すフローシートである。なお、本発明の実施にあたっては、以下に示す図面のプロセスに限定されるものではない。
【0083】
まず、図示しない溶解釜において、セルロースエステル樹脂を、良溶媒及び貧溶媒の混合溶媒に溶解し、これに上記の可塑剤や紫外線吸収剤を添加して樹脂溶液(ドープ)を調製する。
【0084】
図1において、ついで溶解釜で調整されたドープを、例えば加圧型定量ギヤポンプを通して、導管によって流延ダイ(2)に送液し、流延ベルト(1)上の流延位置に、流延ダイ(2)からドープを流延する。流延ベルト(1)は、本発明の流延支持体に相当するものであり、回転駆動され、無限に移行するステンレス鋼製エンドレスベルトである。
【0085】
流延ダイ(2)によるドープの流延には、流延されたドープ膜(ウェブ)をブレードで膜厚を調節するドクターブレード法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、口金部分のスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があるが、何れも好ましく用いられる。
【0086】
流延ベルト(1)は一対のドラムの間に掛け渡され、およびその中間の上部移行部及び下部移行部をそれぞれ複数のロール(図示略)により裏側から支えている。
【0087】
流延ベルト(1)の両端巻回部のドラムの一方、もしくは両方に、流延ベルト(1)に張力を付与する駆動装置が設けられ、これによって流延ベルト(1)は張力が掛けられて張った状態で使用される。
【0088】
さらに、本実施形態では、巻き取り後のフィルムの幅として1650〜2500mmを確保するために、流延ベルト幅は2000〜2500mm、セルロースエステル溶液の流延幅は1900〜2480mmとしている。これにより、流延支持体方式によって幅の広い液晶表示装置用セルロースエステルフィルムを製造することができるものである。
【0089】
ここで、流延支持体(1)の幅、セルロースエステル溶液の流延幅、および巻き取り後のフィルムの幅が、それぞれ上記の下限値以上であれば、近年の液晶表示装置の大型化には、対応することができる。また、流延ベルト(1)の幅、セルロースエステル溶液の流延幅、および巻き取り後のフィルムの幅が、それぞれ上限値以下であれば、剥離後のフィルムの残留溶媒量が多い状態でも、フィルムが垂れ下がったり、伸びのムラが生じたりすることがない。
【0090】
また、本実施形態においては、流延ベルト(1)の周速度を80〜200m/minとする。
【0091】
すなわち、流延ベルト(1)の周速度を従来のドラム周速度より速くすることにより、フィルムの生産速度アップが可能で、セルロースエステルフィルムの生産性を増大することができる。
【0092】
製膜時の流延ベルト(1)の温度としては、一般的な温度範囲0℃〜溶剤の沸点未満の温度、混合溶剤では最も沸点の低い溶剤の沸点未満の温度で流延することができ、さらには5℃〜溶剤沸点−5℃の範囲が、より好ましい。
【0093】
上記のようにして流延ベルト(1)表面に流延されたドープは、冷却ゲル化によりゲル膜の強度(フイルム強度)が増加して、さらに剥ぎ取りまでの間で乾燥が促進されることによってもゲル膜の強度(フイルム強度)が増加する。
【0094】
また、製膜速度を上げるために、加圧流延ダイ(12)を流延用の流延ベルト(1)上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層製膜してもよい。
【0095】
流延ベルト(1)上では、ウェブ(10)が流延ベルト(1)から剥離ロール(16)によって剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させるため、ウェブ(10)中の残留溶媒量が150重量%以下まで乾燥させるのが好ましく、80〜120重量%が、より好ましい。また、流延ベルト(1)からウェブ(10)を剥離するときのウェブ温度は、0〜30℃が好ましい。また、ウェブ(10)は、流延ベルト(1)からの剥離直後に、流延ベルト(1)密着面側からの溶媒蒸発で温度が一旦急速に下がり、雰囲気中の水蒸気や溶剤蒸気など揮発性成分がコンデンスしやすいため、剥離時のウェブ温度は5〜30℃がさらに好ましい。
【0096】
ここで、残留溶媒量は、下記の式で表わせる。
【0097】
残留溶媒量(重量%)={(M−N)/N}×100
式中、Mはウェブの任意時点での重量、Nは重量Mのものを110℃で3時間乾燥させたときの重量である。
【0098】
また、延伸率は、下記の式で表わせる
延伸工程のテンター(5)手前のクリップ間距離:h、および
延伸工程のテンター(5)終了時のクリップ間距離:Hとしたとき、
延伸率=H/h×100%
流延ベルト(1)上に流延されたドープにより形成されたドープ膜(ウェブ)を、流延ベルト(1)上で加熱し、流延ベルト(1)から剥離ロール(3)によってウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる。
【0099】
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法、及び/または流延ベルト(1)の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等がある。
【0100】
剥離の際、フィルムは搬送方向に伸びやすく、幅手方向にフィルムは縮みやすいので、流延ベルト(1)からウェブ(10)を剥離ロール(3)によって剥離する際の剥離張力は、剥離できる最低張力〜170N/mで剥離することが好ましく、さらに好ましくは、最低張力〜140N/mで剥離することである。
【0101】
流延支持体(1)上でウェブ(10)が剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させた後に、ウェブ(10)を剥離ロール(3)によって剥離し、ついで、延伸工程のテンター(5)においてウェブ(10)を延伸する。
【0102】
延伸工程のテンター(5)に入る直前のウェブ(フィルム)(10)の残留溶媒量が、10〜35重量%であることが好ましい。
【0103】
延伸工程においては、テンター(5)の底の前寄り部分の温風吹出し手段すなわち温風吹出しスリット口(5a)から温風(11)が吹込まれ、テンター(5)の天井の後寄り部分の排出口(5b)から排気風(12)が排出せられることによってウェブ(10)が、延伸されると共に乾燥されている。
【0104】
なお、本発明における延伸工程延伸工程における温風吹出し手段には、具体的には、延伸工程のテンター(5)の温風吹出しスリット口(5a)が対応するが、温風の吹き出しによりフィルムを効率的に加熱する形状であれば、特に限定されない。例えば図示のようなスリット形状、あるいはまたパンチ板形状のようなものが挙げられる。
【0105】
本発明において、延伸工程のテンター(5)におけるウェブの延伸率は20〜60%であり、かつテンター(5)における温風吹出しスリット口(5a)から吹き出す温風(11)の温度は、巻き取り後のフィルムのガラス転移温度(Tg)に対し、Tg+35℃〜Tg+80℃とする。また、該温度は、Tg+40℃〜Tg+50℃であることが、より好ましい。
【0106】
ここで、延伸工程のテンター(5)におけるウェブ(10)の延伸率が下限値未満であれば、幅の広いフィルムが得られないので、好ましくない。また、テンター(5)におけるウェブ(10)の延伸率が上限値を超えると、フィルムのヘイズが上昇し、光の透過率が下がるため、液晶表示装置に組み込んだ場合、コントラストが低下するので、好ましくない。
【0107】
また、延伸工程のテンター(5)における温風吹出しスリット口(5a)から吹き出す温風(11)の温度が、下限値未満であれば、延伸する際にフィルムに無理な応力がかかるため、ヘイズが上昇し、光の透過率が下げるため、液晶表示装置に組み込んだ際にコントラストが低下するので、好ましくない。また、テンター(5)における温風吹出しスリット口(5a)から吹き出す温風(11)の温度が上限値を超えると、フィルムは軟化し、自己支持性がなくなるため、テンター内部やクリップ部でウェブがちぎれるので、好ましくない。
【0108】
ここで、延伸工程のテンター(5)での温風(11)の温度が、Tg+35℃以上であれば、幅の広いフィルムが得られるので、好ましい。また、延伸工程のテンター(5)での温風(11)の温度が、Tg+80℃以下であると、フィルムのヘイズが上昇せず、光の透過率が高く、液晶表示装置に組み込んだ場合、コントラストの低下を防げるので、好ましい。
【0109】
流延ベルト(1)から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってウェブ(またはフィルム)(10)は幅手方向に収縮しようとする。高温度で乾燥するほど収縮が大きくなる。この収縮は可能な限り抑制しながら乾燥することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。
【0110】
延伸工程のこれらの幅保持あるいは横方向の延伸は、テンター(5)によって行なうことが好ましく、ピンテンターでもクリップテンターでもよい。
【0111】
本実施形態においては、延伸工程のテンター(5)からの排気風(12)に含まれる低分子量の有機成分(可塑剤等)を除去する例えば2基の有機成分除去装置(除去手段)(13a)(13b)を有し、これらの有機成分除去装置(13a)(13b)を通過した後の排気風(14)中の有機成分濃度は、1〜100μg/mである。
【0112】
さらに本実施形態においては、有機成分除去装置(13a)(13b)で有機成分を除去した排気風(14)を、再び延伸工程のテンター(5)より上流の温風すなわち乾燥風(11)の一部として再利用するものである。なお、有機成分除去装置(13a)(13b)は、図示のものは、2基であるが、複数段であればよく、例えば2〜4基の有機成分除去装置(13a)(13b)が接続されていることが好ましい。
【0113】
延伸工程のテンター(5)の後に、後乾燥装置(6)を設けている。後乾燥装置(6)内では、側面から見て千鳥配置せられた複数の搬送ロール(7)によってウェブ(10)が蛇行せられ、その間にウェブ(10)が乾燥せられるものである。また、後乾燥装置(6)でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時及びフィルム搬送工程での残留溶媒量、後乾燥装置(6)での温度等に影響を受けるが、30〜250N/mが好ましく、60〜150N/mがさらに好ましい。80〜120N/mが最も好ましい。
【0114】
なお、ウェブ(またはフィルム)(10)を乾燥させる手段は、特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行なう。簡便さの点から熱風で乾燥するのが好ましく、例えば後乾燥装置(6)の底の前寄り部分の温風入口から吹込まれる乾燥風(15)によって乾燥され、後乾燥装置(6)の天井の後寄り部分の出口から排気風(16)が排出せられることによって乾燥される。乾燥風(15)の温度は40〜160℃が好ましく、50〜160℃が平面性、寸法安定性を良くするためさらに好ましい。
【0115】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。この場合、乾燥雰囲気を溶媒の爆発限界濃度を考慮して実施することは勿論のことである。
【0116】
乾燥時のウェブ搬送張力は、30〜300N/幅mであり、40〜270N/幅mが、より好ましい。
【0117】
流延から後乾燥までの工程後に、ウェブ(10)表面のクリーン化装置が配置されるのが、好ましい。
【0118】
クリーン化装置は、搬送途中のウェブ(10)に対し、超音波振動を与えると共に表面に高圧風を吹き当てて付着物を吹き飛ばして吸引し、付着している粉塵などを除去するものである。この他、火炎処理(コロナ処理、プラズマ処理)を行なう方式、粘着ロールを設置する方式など、公知の手段・方法を特別の制限なく用いることができる。なお、配置するクリーン化手段は、単一であってもよいし、2以上の複数であってもよい。
【0119】
ウェブ(10)に対する粉塵などの付着は、静電気の作用による場合が多いので、上記のクリーン化装置の前に除電手段、例えば、除電バーを配置してウェブ(10)の静電気を除去することが好ましい。除電バーとしては、公知のものを特別の制限なく用いることができる。
【0120】
乾燥工程では、ウェブ(10)に含有される可塑剤が蒸発し、ロールや壁面においてコンデンスする現象を抑制する対策として、単位時間当たり供給風量に対して特定量以上の新鮮なガスを流入させることが好ましい。そして、供給する新鮮ガスの量は、全供給風量の5〜50%に設定することが好ましい。
【0121】
新鮮ガス供給量を5〜50%にしているのは、5%未満では、新鮮ガス量が少なすぎて可塑剤コンデンスを抑制しきれないためであり、50%を超えると新鮮ガス量が多すぎ、ランニングコストで無駄が多くなるためである。
【0122】
後乾燥装置(6)でのフィルムの搬送方向への伸びを防止する目的で、テンションカットロールを設けることが好ましい。乾燥終了後、巻き取り前にスリッターを設けて端部を切り落とすことが良好な巻姿を得るため好ましい。
【0123】
後乾燥工程(6)を終えたセルロースエステルフィルムに対し、巻取工程に導入する前段において、エンボス加工装置によりフィルムにエンボスを形成する加工が行なわれる。
【0124】
ここで、エンボスの高さh(μm)は、フィルム膜厚Tの0.05〜0.3倍の範囲、幅Wは、フィルム幅Lの0.005〜0.02倍の範囲に設定する。エンボスは、フィルムの両面に形成してもよい。この場合、エンボスの高さh1+h2(μm)は、フィルム膜厚Tの0.05〜0.3倍の範囲、幅Wはフィルム幅Lの0.005〜0.02倍の範囲に設定する。例えばフィルム膜厚40μmであるとき、エンボスの高さh1+h2(μm)は2〜12μmに設定する。エンボス幅は5〜30mmに設定する。
【0125】
エンボスの幅については、エンボス部は最終的にロス部分となるため少なくしたいが、例えば50μm以内の薄膜フィルムで、50m/分以上の高速製膜時において、フィルムのすべりを抑えるための最低限必要なエンボス幅である。但し、前述のエンボスの高さともリンクしており、ピラミッド状、馬の背、多角形状、巻きずれ故障を全てクリアーするエンボス高さ×エンボス幅を決定したものである。なお、エンボスは、フィルムの両端部だけでなく中央部部分にも配置することができる。
【0126】
本発明において、巻取前及び巻取部直後に除電器を設置し、フィルムを除電するのが好ましい。
【0127】
除電器は、元巻を再繰り出しした際の帯電電位が±2KV以下となるように、巻取時に除電装置あるいは強制帯電装置により逆電位を与える構成で行なうことができるが、強制帯電電位が、1〜150Hzで正負交互に変換される除電器により除電する構成とすることもできる。
【0128】
また、上記の除電器に代えて、イオン風を発生させるイオナイザーや除電バーを利用することができる。ここで、イオナイザー除電は、エンボス加工装置から搬送ロールを経て巻き取られていくフィルムに向けてイオン風を吹き付けることによって行なわれる。イオン風は、除電器により発生される。除電器としては、公知のものを制限なく用いることができる。
【0129】
乾燥が終了したフィルム(20)を巻取り装置(8)によって巻き取り、光学フィルムの元巻を得る工程において、乾燥を終了するフィルム(20)の残留溶媒量は、0.5重量%以下、好ましくは0.1重量%以下とすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。
【0130】
フィルムの巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。
【0131】
巻取りコア(巻芯)への、フィルムの接合は、両面接着テープでも、片面接着テープでもどちらでも良い。
【0132】
本発明によるセルロースエステルフィルムは、巻き取り後のフィルムの幅が、1650〜2500mmであることが好ましい。
【0133】
本発明においては、セルロースエステルフィルムの乾燥後の膜厚は、液晶表示装置の薄型化の観点から、仕上がりフィルムとして、40〜80μmの範囲が好ましい。ここで、乾燥後のフィルム膜厚とは、フィルム中の残留溶媒量が0.5重量%以下の状態のフィルムを言うものである。
【0134】
ここで、巻き取り後のセルロースエステルフィルムの膜厚が薄過ぎると、例えば偏光板用保護フィルムとしての必要な強度が得られない場合がある。フィルムの膜厚が厚過ぎると、従来のセルロースエステルフィルムに対して薄膜化の優位性がなくなる。膜厚の調節には、所望の厚さになるように、ドープ濃度、ポンプの送液量、流延ダイの口金のスリット間隙、流延ダイの押し出し圧力、流延支持体の速度等をコントロールするのがよい。また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて、プログラムされたフィードバック情報を上記各装置にフィードバックさせて調節するのが好ましい。
【0135】
溶液流延製膜法を通しての流延直後からの乾燥までの工程において、乾燥装置内の雰囲気を、空気とするのもよいが、窒素ガスや炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気で行なってもよい。ただ、乾燥雰囲気中の蒸発溶媒の爆発限界の危険性は常に考慮されなければならないことはもちろんである。
【0136】
本発明において、セルロースエステルフィルムは、含水率としては0.1〜5%が好ましく、0.3〜4%がより好ましく、0.5〜2%であることがさらに好ましい。
【0137】
本発明において、セルロースエステルフィルムは、透過率が90%以上であることが望ましく、さらに好ましくは92%以上であり、さらに好ましくは93%以上である。
【0138】
また、本発明の方法により製造されたセルロースエステルフィルムは、3枚重ねた場合のヘイズが、0.3〜2.0であるもので、本発明のセルロースエステルフィルムによれば、フィルムのヘイズが非常に低いものであり、透明性、平面性に優れた光学特性を有するものである。
【0139】
本実施形態では、下記式で定義される面内方向リタデーション(R )を、温度23℃、湿度55%RHの条件下で30〜300nm、厚み方向リタデーション(Rt)が、温度23℃、湿度55%RHの条件下で70〜400nmとする。
【0140】
=(nx−ny)×d
Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、R はフィルム面内リタデーション値、Rtはフィルム厚み方向リタデーション値、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率(屈折率は波長590nmで測定)、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。)
なお、リタデーション値R 、Rtは、自動複屈折率計を用いて測定することができる。例えば、KOBRA−21ADH(王子計測機器株式会社製)を用いて、温度23℃、湿度55%RHの環境下で、波長が590nmで求めることができる。
【0141】
本発明の方法により製造されたセルロースエステルフィルムは、液晶表示用部材、詳しくは偏光板用保護フィルムに用いられるのが好ましい。特に、透湿度と寸法安定性に対して共に厳しい要求のある偏光板用保護フィルムにおいて、本発明の方法により製造されたセルロースエステルフィルムは好ましく用いられる。
【0142】
本実施形態のセルロースエステルフィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供することができる。
【0143】
ところで、偏光フィルムは、従来から使用されている、例えば、ポリビニルアルコールフィルムのような延伸配向可能なフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して縦延伸したものである。偏光フィルム自身では、十分な強度、耐久性がないので、一般的にはその両面に保護フィルムとしての異方性のないセルロースエステルフィルムを接着して偏光板としている。
【0144】
上記偏光板には、本発明の方法により製造されたセルロースエステルフィルムを位相差フィルムとして貼り合わせて作製してもよいし、また本発明の方法により製造されたセルロースエステルフィルムを位相差フィルムと保護フィルムとを兼ねて、直接偏光フィルムと貼り合わせて作製してもよい。貼り合わせる方法は、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行なうことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコール水溶液が好ましく用いられる。さらに、長手方向に延伸し、二色性染料処理した長尺の偏光フィルムと長尺の本発明の方法により製造された位相差フィルムとを貼り合わせることによって長尺の偏光板を得ることができる。偏光板はその片面または両面に感圧性接着剤層(例えば、アクリル系感圧性接着剤層など)を介して剥離性シートを積層した貼着型のもの(剥離性シートを剥すことにより、液晶セルなどに容易に貼着することができる)としてもよい。
【0145】
このようにして得られた偏光板は、種々の表示装置に使用できる。特に電圧無印加時に液晶性分子が実質的に垂直配向しているVAモードや、電圧無印加時に液晶性分子が実質的に水平かつねじれ配向しているTNモードの液晶セルを用いた液晶表示装置が好ましい。
【0146】
ところで、偏光板は、一般的な方法で作製することができる。例えば、光学フィルムあるいはセルロースエステルフィルムをアルカリケン化処理し、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬、延伸して作製した偏光膜の両面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリケン化処理とは、水系接着剤の濡れを良くし、接着性を向上させるために、セルロースエステルフィルムを高温の強アルカリ液中に漬ける処理のことをいう。
【0147】
本実施形態の方法により製造されたセルロースエステルフィルムには、ハードコート層、防眩層、反射防止層、防汚層、帯電防止層、導電層、光学異方層、液晶層、配向層、粘着層、接着層、下引き層等の各種機能層を付与することができる。これらの機能層は塗布あるいは蒸着、スパッタ、プラズマCVD、大気圧プラズマ処理等の方法で設けることができる。
【0148】
このようにして得られた偏光板が、液晶セルの片面または両面に設けられ、これを用いて、液晶表示装置が得られる。
【0149】
本発明において、液晶表示装置は、棒状の液晶分子が一対のガラス基板に挟持された液晶セルと、液晶セルを挾むように配置された偏光膜及びその両側に配置された透明保護層からなる2枚の偏光板を持つものである。
【0150】
本発明の方法により製造されたセルロースエステルフィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供することができる。さらに、この偏光板あるいは位相差フィルムを用いた液晶表示装置は、長期間に亘って安定した表示性能を維持することができる。
【0151】
本実施形態の方法により製造されたセルロースエステルフィルムは、反射防止用フィルムあるいは光学補償フィルムの基材としても使用できる。
【実施例】
【0152】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0153】
実施例1
(ドープ組成1)
セルローストリアセテート 100重量部
(Mn=148000、Mw=310000、Mw/Mn=2.1)
トリフェニルフォスフェート 8重量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2重量部
メチレンクロライド 440重量部
エタノール 40重量部
チヌビン109(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5重量部
チヌビン171(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5重量部
アエロジル972V(日本アエロジル株式会社製) 0.2重量部
上記の材料を、順次密閉容器中に投入し、容器内の温度を20℃から80℃まで昇温した後、温度を80℃に保ったままで3時間攪拌を行なって、セルローストリアセテートを完全に溶解した。その後、攪拌を停止し、液温を43℃まで下げた。このドープを濾紙(安積濾紙株式会社製、安積濾紙No.244)を使用して濾過し、ドープを得た。
【0154】
図1に示す流延支持体式溶液流延製膜装置を用い、鏡面処理された表面を有する駆動回転ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる支持体(1)上に、上記のように調製したドープを均一に流延し、流延によって形成されたドープ膜(ウェブ)を支持体(1)上で乾燥させ、ウェブがエンドレスベルトよりなる支持体の下面に至り、ほぼ一巡したところで、剥離ロール(3)によりウェブ(フィルム)(10)を支持体(1)から剥離した。
【0155】
ついで、剥離後のウェブ(10)を、テンター(5)に導入して、ウェブ両端をクリップではさみ、幅を保持したまま160℃の温風(11)を当てて乾燥させながら、ウェブ(10)を幅手方向に延伸した。
【0156】
ここで、延伸工程のテンター(5)に入る直前のウェブ(フィルム)(10)の残留溶媒量が、12重量%であった。
【0157】
そして、延伸工程のテンター(5)におけるウェブの延伸率を20%とし、かつテンター(5)における温風吹出しスリット口(5a)から吹き出す温風(11)の温度は160℃とした。ここで、テンター(5)での温風(11)の温度は、巻き取り後のセルローストリアセテートフィルムのガラス転移温度:Tg=125℃に対し、Tg+35℃であった。
【0158】
また、この実施例では、テンター(5)からの排気風(12)に含まれる溶媒以外の有機成分を除去する2連の有機成分除去装置(13a)(13b)を有し、これらの有機成分除去装置(13a)(13b)を通過した後の排気風(14)中の低分子量有機成分濃度は、20μg/mであった。
【0159】
なお、テンター(5)の排気風(12)中に含まれる有機成分の測定は、一定量の体積の排気風空気をサンプリングし、密閉した状態でGC/MSにより分析した。
【0160】
こうして、有機成分除去装置(13a)(13b)により有機成分を除去した排気風(14)を、再びテンター(5)より上流の温風(11)の一部として再利用した。
【0161】
その後、ウェブ(フィルム)(10)を、側面から見て千鳥配置せられかつ多数の鏡面搬送ロール(7)を具備するロール搬送乾燥装置(6)で、100℃の乾燥風(15)にて乾燥させた。乾燥が終了したフィルム(20)を巻取り装置(8)によって巻き取り、最終的に膜厚80μm、およびフィルム幅:1860mmのセルローストリアセテートフィルム(20)を得た。
【0162】
なお、巻取りロールに巻き取られるセルロースアセテートフィルムの幅手方向両端部にエンボス加工を施し、エンボス加工による凸部の高さを4〜12μmの範囲とするとともに、エンボス加工による凸部の高さの差を2μm以下とした。
【0163】
巻取り時にセルロースアセテートフィルムの表面電位を除去または低減する手段として除電ブロアを用いた。
【0164】
下記の表1に、セルローストリアセテートフィルムの製造に用いたドープ組成の種類、ウェブ(10)の延伸率(%)、延伸工程のテンター(5)での温風吹出しスリット口(5a)から吹き出す温風(11)の温度(℃)、巻き取り後のセルローストリアセテートフィルムのガラス転移温度(Tg)(℃)、テンター(5)に入る直前のウェブ(10)の入り残留溶媒量(%)、および膜厚(μm)を記載した。
【0165】
つぎに、この実施例1で得られたセルローストリアセテートフィルムのヘイズ値を測定し、得られた結果を下記の表1にあわせて示した。
【0166】
ここで、セルローストリアセテートフィルムのヘイズは、つぎのようにして測定した。すなわち、流延製膜されたフィルムをサンプリングし、その中から無作為に10箇所選んで、JIS K6714に規定される方法に従って、ヘイズ・メーター(1001DP型、日本電色工業株式会社製)を用いて、セルローストリアセテートフィルムを3枚重ねて、ヘイズを測定した。
【0167】
実施例2〜15
上記実施例1の場合と同様に、ドープ組成1を用いて、セルローストリアセテートフィルムを製造するが、各実施例において、製膜条件の一部を、つぎのように種々異なるものとした。
【0168】
まず、実施例2では、実施例1の場合とほゞ同じ条件としたが、延伸工程のテンター(5)でのウェブ(10)の延伸率を、30(%)と変化させた。
【0169】
実施例3と4では、実施例1と2の場合とほゞ同じ条件としたが、テンター(5)における温風吹出しスリット口(5a)から吹き出す温風(11)の温度は170℃と変化させた。
【0170】
実施例5と6では、同様に、実施例1と2の場合とほゞ同じ条件としたが、温風(11)の温度は180℃と変化させた。
【0171】
実施例7では、実施例5の場合とほゞ同じ条件としたが、ウェブ(10)の延伸率を、40(%)と変化させた。
【0172】
実施例8では、実施例7の場合とほゞ同じ条件としたが、ウェブ(10)の延伸率を、55(%)と変化させるとともに、テンター(5)に入る直前のウェブ(10)の入り残留溶媒量を35(%)と変化させた。
【0173】
実施例9では、実施例7の場合とほゞ同じ条件としたが、温風(11)の温度は200℃と変化させた。
【0174】
実施例10では、実施例9の場合とほゞ同じ条件としたが、テンター(5)に入る直前のウェブ(10)の入り残留溶媒量を35(%)と変化させた。
【0175】
実施例11では、実施例10の場合とほゞ同じ条件としたが、ウェブ(10)の延伸率を、60(%)と変化させた。
【0176】
実施例12と13では、実施例6の場合とほゞ同じ条件としたが、テンター(5)に入る直前のウェブ(10)の残留溶媒量を、20重量%、35重量%と変化させた。
【0177】
実施例14と15では、実施例6の場合とほゞ同じ条件としたが、フィルムの膜厚を、40μm、60μmとそれぞれ変化させた。
【0178】
比較例1〜6
比較のために、上記実施例1のドープ組成1を用いて、セルローストリアセテートフィルムを作製するが、上記実施例1の場合と異なる点は、比較例1と6では、テンター(5)でのウェブ(10)の延伸率(%)を、本発明の範囲外の18%、および65%とした。比較例2〜5では、テンター(5)における温風吹出しスリット口(5a)から吹き出す温風(11)の温度を、いずれも本発明の範囲外のものとした。
【0179】
なお、比較例6では、上記実施例1のドープ組成1を用いて、膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルムを作製するために、上記実施例1の場合と同様に実施したところ、テンター(5)においてウェブ(10)を、延伸率65%で延伸した時点で、ウェブ(10)が破断してしまい、フィルムを作製することができなかった。
【0180】
下記の表1に、実施例2〜15、および比較例1〜6におけるセルローストリアセテートフィルムの製造に用いたドープ組成の種類、ウェブ(10)の延伸率(%)、延伸工程のテンター(5)での温風吹出しスリット口(5a)から吹き出す温風(11)の温度(℃)、セルローストリアセテートフィルムのガラス転移温度(Tg)(℃)、テンター(5)に入る直前のウェブ(10)の入り残留溶媒量(%)、および膜厚(μm)をあわせて記載した。
【0181】
そして、実施例2〜15、および比較例1〜5で得られたセルローストリアセテートフィルムについて、フィルムのヘイズ値を上記実施例1の場合と同様に測定し、得られた結果を下記の表1にあわせて示した。
【0182】
実施例16
下記のドープ組成2を用いて、上記実施例1の場合とほゞ同様に実施し、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造した。
【0183】
(ドープ組成2)
セルロースアセテートプロピオネート 100重量部
(アセチル基置換度+プロピオニル基置換度=2.45、
Mn=60000、Mw=180000、Mw/Mn=3.00)
トリフェニルフォスフェート 8重量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2重量部
メチレンクロライド 360重量部
エタノール 60重量部
チヌビン109(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5重量部
チヌビン171(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5重量部
アエロジル972V(日本アエロジル株式会社製) 0.2重量部
この実施例16では、延伸工程のテンター(5)に入る直前のウェブ(10)の残留溶媒量を12重量%とし、テンター(5)におけるウェブ(10)の延伸率は、25%とした。また、テンター(5)における温風吹出しスリット口(5a)から吹き出す温風(11)の温度は、それぞれ185℃とした。ここで、テンター(5)での温風(11)の温度は、巻き取り後のセルロースアセテートプロピオネートフィルムのガラス転移温度:Tg=145℃に対し、Tg+40℃であった。巻き取り後のセルロースアセテートプロピオネートフィルムの膜厚は、40μmとした。
【0184】
実施例17〜26
上記実施例16の場合と同様に、ドープ組成2を用いて、セルロースアセテートプロピオネートを製造するが、各実施例において、製膜条件の一部を、つぎのように種々異なるものとした。
【0185】
まず、実施例17と18では、実施例16の場合とほゞ同じ条件としたが、延伸工程のテンター(5)でのウェブ(10)の延伸率を、35(%)、40(%)と変化させた。
【0186】
実施例19では、実施例16の場合とほゞ同じ条件としたが、延伸工程のテンター(5)でのウェブ(10)の延伸率を、60(%)と変化させるとともに、テンター(5)における温風吹出しスリット口(5a)から吹き出す温風(11)の温度を、180℃と変化させた。
【0187】
実施例20では、実施例18の場合とほゞ同じ条件としたが、テンター(5)における温風吹出しスリット口(5a)から吹き出す温風(11)の温度を、200℃と変化させた。
【0188】
実施例21〜23では、実施例17の場合とほゞ同じ条件としたが、テンター(5)に入る直前のウェブ(10)の入り残留溶媒量を、10(%)、20(%)、35(%)とそれぞれ変化させた。
【0189】
実施例24〜26では、実施例17の場合とほゞ同じ条件としたが、フィルムの膜厚を、50μm、60μm、80μmとそれぞれ変化させた。
【0190】
比較例7〜9
比較のために、上記実施例16のドープ組成2を用いて、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを作製するが、上記実施例16の場合と異なる点は、テンター(5)における温風吹出しスリット口(5a)から吹き出す温風(11)の温度を、いずれも本発明の範囲外のものとした。
【0191】
下記の表1に、実施例16〜26、および比較例7〜9におけるセルロースアセテートプロピオネートフィルムの製造に用いたドープ組成の種類、ウェブ(10)の延伸率(%)、テンター(5)での温風吹出しスリット口(5a)から吹き出す温風(11)の温度(℃)、巻き取り後のセルロースアセテートプロピオネートフィルムのガラス転移温度(Tg)(℃)、テンター(5)でのフィルムの入り残留溶媒量(%)、および膜厚(μm)をあわせて記載した。
【0192】
そして、実施例16〜26、および比較例7〜9で得られたセルロースアセテートプロピオネートフィルムについて、フィルムのヘイズ値を上記実施例1の場合と同様に測定し、得られた結果を下記の表1にあわせて示した。
【0193】
比較例10
比較のために、下記のドープ組成3を用いて、上記実施例1の場合とほゞ同様に実施し、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造した。
【0194】
(ドープ組成3)
セルローストリアセテート 100重量部
(Mn=148000、Mw=310000、Mw/Mn=2.1)
メチレンクロライド 440重量部
エタノール 40重量部
アエロジル972V(日本アエロジル株式会社製) 0.2重量部
ここで、延伸工程のテンター(5)に入る直前のウェブ(フィルム)(10)の残留溶媒量が、12重量%であった。
【0195】
そして、テンター(5)におけるウェブの延伸率を30%とし、かつテンター(5)における温風吹出しスリット口(5a)から吹き出す温風(11)の温度は180℃とした。ここで、テンター(5)での温風(11)の温度は、巻き取り後のセルローストリアセテートフィルムのガラス転移温度:Tg=110℃に対し、Tg+70℃であった。
【0196】
この比較例10のドープ組成3には、可塑剤が含まれていないため、テンター(5)においてウェブ(10)を延伸率10%以上で延伸した時点で、破断してしまい、フィルムを作製することができなかった。
【表1】

【0197】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1〜26のセルロースエステルフィルムによれば、溶液流延製膜法によるセルロースエステルフィルムの製造方法において、いわゆる高延伸にしても、フィルムのヘイズが高くならず、透明性、平面性に優れた光学特性、セルロースエステルフィルムを製造することができるとともに、生産速度を上げることができて、フィルムの生産性を向上することができ、ひいては近年の偏光板用保護フィルム等の薄膜化、広幅化、及び高品質化の要求に応えることができるものであった。
【0198】
これに対し、比較例1〜5および比較例7〜9で得られたセルロースエステルフィルムでは、高延伸にすると、フィルムのヘイズが高くなり、透明性、平面性が低下した。このため、セルロースエステルフィルムの生産速度を上げることができず、フィルムの生産性を向上することができないものであり、偏光板用保護フィルム等の薄膜化、広幅化、及び高品質化の要求に応えることができないものであった。
【0199】
実施例27
(偏光膜を作製)
図2に示す液晶表示パネルを作製するために、まず、偏光膜を作製した。すなわち、厚さ、120μmのポリビニルアルコールフィルムを、温度110℃、延伸倍率5倍で一軸延伸した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、ついでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し偏光膜を得た。
【0200】
(偏光板の作製)
ついで、下記の工程1〜工程5に従って、上記の偏光膜に、実施例6で作製した膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルム(T−1)と、実施例21で作製した膜厚40μmのセルロースアセテートプロピオネートフィルム(T−2)とを貼り合わせて偏光板1を作製した。
【0201】
工程1:50℃の2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に60秒間浸漬し、ついで水洗し乾燥して、偏光膜と貼合する側を鹸化したT−1,T−2のフィルムを得た。
【0202】
工程2:偏光膜を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒浸漬した。
【0203】
工程3:工程2で偏光膜に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、この偏光膜の両側に、工程1で処理したT−1,T−2のフィルムを積層して配置した。
【0204】
工程4:工程3で配置した偏光膜とT−1,T−2のフィルムを、圧力20〜30N/cm、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
【0205】
工程5:80℃の乾燥機中に工程4で作製した偏光膜とT−1,T−2のフィルムを2分間乾燥し、偏光板1を作製した。
【0206】
つぎに、液晶表示パネルのもう一方の面に貼り合わせる偏光板2としては、上記の場合と同様にして作製した偏光板1を利用し、その貼合わせ方向が液晶を中心として対称となるように配置した。
【0207】
従って、表2に示すように、偏光板2のフィルムT−3が、実施例21で作製した膜厚40μmのセルロースアセテートプロピオネートフィルムとなり、偏光板2のフィルムT−4が、実施例6で作製した膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルムとした。
【0208】
(液晶表示パネルの作製)
ついで、市販の液晶表示パネル(NEC製 カラー液晶ディスプレイ、MultiSync、LCD1525J:型名、LA−1529HM)の両面の偏光板をそれぞれ注意深く剥離し、この液晶に、上記作製した偏光板1および偏光板2を貼り合わせて、液晶表示パネルを作製しした。
【0209】
このとき、図2に示すように、中央の液晶に対し、偏光板1および偏光板2の実施例6で作製した膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルム(T−1)と(T−4)がそれぞれ外側に、実施例21で作製した膜厚40μmのセルロースアセテートプロピオネートフィルム(T−2)と(T−3)がそれぞれ中央の液晶側となるように、貼り合わせた。
【0210】
そしてこの場合、偏光板1の外側フィルム(T−1)側が液晶表示パネルの表示側であり、偏光板2の外側フィルム(T−4)がバックライト側である。
【0211】
こうして得られた実施例27の液晶表示パネルについて、コントラストを測定し、得られた結果を下記の表2に示した。
【0212】
(表示パネル実装時のコントラストの測定)
表示パネル実装時のコントラストの測定を表示パネルの視野角の評価を行なうことにより、実施した。ここで、視野角評価は、液晶表示パネルを、ELDIM社製EZ−contrastを用いて視野角を測定した。測定方法は、液晶表示パネルの白表示と、黒表示時のコントラストについて、パネル面に対する法線方向からの傾き角80°に対するコントラストが、全方位において下記値の範囲内でランク付けを行なった。
【0213】
◎◎◎:コントラストが全方位40以上
◎◎ :コントラストが全方位30以上
◎ :コントラストが全方位20以上
○ :コントラストが全方位15以上
△ :コントラストが全方位5以上、15未満の領域が存在した
× :コントラストが全方位5未満の領域が存在した
実施例28〜31
実施例27の場合と同様に液晶表示パネルを作製するが、上記実施例27の場合と異なる点は、つぎの通りである。
【0214】
実施例28では、偏光膜に、実施例6で作製した膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルム(T−1)と、実施例25で作製した膜厚60μmのセルロースアセテートプロピオネートフィルム(T−2)とを貼り合わせて偏光板1を作製し、液晶表示パネルのもう一方の面に貼り合わせる偏光板2としては、上記の場合と同様にして作製した偏光板1を利用し、その貼合わせ方向が液晶を中心として対称となるように配置した。
【0215】
従って、表3に示すように、偏光板2のフィルムT−3が、実施例25で作製した膜厚60μmのセルロースアセテートプロピオネートフィルムとなり、偏光板2のフィルムT−4が、実施例6で作製した膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルムとした。
【0216】
実施例29では、偏光膜に、実施例6で作製した膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルム(T−1)と、実施例26で作製した膜厚80μmのセルロースアセテートプロピオネートフィルム(T−2)とを貼り合わせて偏光板1を作製し、液晶表示パネルのもう一方の面に貼り合わせる偏光板2としては、上記の場合と同様にして作製した偏光板1を利用し、その貼合わせ方向が液晶を中心として対称となるように配置した。
【0217】
従って、表2に示すように、偏光板2のフィルムT−3が、実施例26で作製した膜厚80μmのセルロースアセテートプロピオネートフィルムとなり、偏光板2のフィルムT−4が、実施例6で作製した膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルムとした。
【0218】
実施例30では、偏光膜に、実施例13で作製した膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルム(T−1)と、実施例25で作製した膜厚60μmのセルロースアセテートプロピオネートフィルム(T−2)とを貼り合わせて偏光板1を作製し、液晶表示パネルのもう一方の面に貼り合わせる偏光板2としては、上記の場合と同様にして作製した偏光板1を利用し、その貼合わせ方向が液晶を中心として対称となるように配置した。
【0219】
従って、表2に示すように、偏光板2のフィルムT−3が、実施例25で作製した膜厚60μmのセルロースアセテートプロピオネートフィルムとなり、偏光板2のフィルムT−4が、実施例13で作製した膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルムとした。
【0220】
実施例31では、偏光膜に、実施例13で作製した膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルム(T−1)と、実施例17で作製した膜厚40μmのセルロースアセテートプロピオネートフィルム(T−2)とを貼り合わせて偏光板1を作製し、液晶表示パネルのもう一方の面に貼り合わせる偏光板2としては、上記の場合と同様にして作製した偏光板1を利用し、その貼合わせ方向が液晶を中心として対称となるように配置した。
【0221】
従って、表2に示すように、偏光板2のフィルムT−3が、実施例17で作製した膜厚40μmのセルロースアセテートプロピオネートフィルムとなり、偏光板2のフィルムT−4が、実施例13で作製した膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルムとした。
【0222】
こうして得られた実施例28〜31の液晶表示パネルについて、実施例27の場合と同様に、コントラストを測定し、得られた結果を下記の表2にあわせて示した。
【0223】
比較例11
比較例のために、上記実施例27の場合と同様に液晶表示パネルを作製するが、上記実施例27の場合と異なる点は、偏光膜に、比較例2で作製した膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルム(T−1)と、比較例8で作製した膜厚80μmのセルロースアセテートプロピオネートフィルム(T−2)とを貼り合わせて偏光板1を作製し、液晶表示パネルのもう一方の面に貼り合わせる偏光板2としては、上記の場合と同様にして作製した偏光板1を利用し、その貼合わせ方向が液晶を中心として対称となるように配置した。
【0224】
従って、表2に示すように、偏光板2のフィルムT−3が、比較例8で作製した膜厚80μmのセルロースアセテートプロピオネートフィルムとなり、偏光板2のフィルムT−4が、比較例2で作製した膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルムとした。
【0225】
こうして得られた比較例11の液晶表示パネルについて、実施例27の場合と同様に、コントラストを測定し、得られた結果を下記の表2にあわせて示した。
【表2】

【0226】
上記表2の結果から明らかなように、本発明の実施例27〜31の液晶表示パネルによれば、比較例11の液晶表示パネルに比べて、優れたコントラストを有していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0227】
【図1】本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法を実施する装置の具体例を示すフローシートである。
【図2】本発明の方法により製造されたセルロースエステルフィルムを用いた液晶表示パネルの具体例を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0228】
1:エンドレスベルト(流延支持体)
2:流延ダイ
3:剥離ロール
5:テンター(延伸工程)
5a:温風吹出しスリット口(温風吹出し手段)
5b:排気風出口
6:ロール搬送乾燥装置
7:搬送ロール
8:巻取り機
10:ウェブ
11:温風(乾燥風)
12:排気風
13a:有機成分除去装置(有機成分除去手段)
13b:有機成分除去装置(有機成分除去手段)
14:排気風
15:乾燥風
16:排気風
20:セルロースエステルフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステル樹脂を含む樹脂溶液を、流延支持体に流延して流延膜を形成し、流延膜中の溶媒を流延膜が剥離可能な状態になるまで乾燥して、流延支持体から剥離した後に、剥離したウェブの両端部を把持して幅手方向に延伸する延伸工程を経て、溶媒を乾燥し、巻き取ることによりセルロースエステルフィルムを得るセルロースエステルフィルムの製造方法において、延伸工程におけるウェブの延伸率が20〜60%であり、かつ延伸工程における温風吹出し手段から吹き出す温風の温度が、巻き取り後のフィルムのガラス転移温度(Tg)に対し、Tg+35℃〜Tg+80℃であることを特徴とする、セルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
延伸工程に入る直前のフィルムの残留溶媒量が、10〜35重量%であることを特徴とする、請求項1に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
延伸工程から送られてきた排気風に含まれる溶媒以外の有機成分を除去する除去手段を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記有機成分を除去した排気風を、再び延伸工程より上流の乾燥風の一部として再利用することを特徴とする、請求項3に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記除去手段が複数接続されていることを特徴とする、請求項4に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の方法で製造されたセルロースエステルフィルムであって、巻き取り後のフィルムの幅が、1650〜2500mmであることを特徴とする、セルロースエステルフィルム。
【請求項7】
巻き取り後のフィルムの膜厚が、40〜80μmであることを特徴とする、請求項6に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項8】
請求項6または7に記載のセルロースエステルフィルムを一方の面に用いることを特徴とする、偏光板。
【請求項9】
請求項6または7に記載のセルロースエステルフィルムを用いることを特徴とする、表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−213469(P2008−213469A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15861(P2008−15861)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】