説明

セルロースエステルフィルム、位相差フィルム、偏光板、及び液晶表示装置

【課題】製造時の工程汚染が少なく生産効率が高い、優れたセルロースエステルフィルム、優れた特性の位相差フィルム、及びこれらを用いた偏光板、液晶表示装置を提供する。
【解決手段】芳香族ジカルボン酸と、脂肪族ジカルボン酸と、平均炭素数が2.0以上3.0以下の脂肪族ジオールと、モノカルボン酸とを含む混合物から得られ、両末端がモノカルボン酸エステル誘導体からなる重縮合エステルを含有するセルロースエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルフィルム、位相差フィルム、偏光板、及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化銀写真感光材料、位相差フィルム、偏光板および画像表示装置には、セルロースエステル、ポリエステル、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ビニルポリマー、および、ポリイミド等に代表されるポリマーフィルムが用いられている。これらのポリマーからは、平面性や均一性の点でより優れたフィルムを製造することができるため、光学用途のフィルムとして広く採用されている。例えば、適切な透湿度を有するセルロースエステルフィルムは、最も一般的なポリビニルアルコール(PVA)/ヨウ素からなる偏光子とオンラインで直接貼り合わせることが可能である。そのため、セルロースエステル、特にセルロースアセテートは偏光板の保護フィルムとして広く採用されている。
【0003】
透明ポリマーフィルムを、位相差フィルム、位相差フィルムの支持体、偏光板の保護フィルム、および液晶表示装置のような光学用途に使用する場合、その光学異方性の制御は、表示装置の性能(例えば、視認性)を決定する上で非常に重要な要素となる。
【0004】
一方、光学用途に用いるセルロースエステルフィルムを製造する方法としては、溶液製膜法が広く利用されている。この場合には、製造する際には高速製膜適性を付与する目的で、可塑剤を添加することが好ましい。これは、可塑剤を添加することによって、溶液製膜時の乾燥の際に溶媒を短時間で揮発させることができるためである。しかしながら、通常用いられている可塑剤を含む透明ポリマーフィルムは、例えば、乾燥工程等で高温にて処理しようとすると発煙が生じたり、揮散した油分等が製造機に付着することにより、動作の不具合が生じたり、ポリマーフィルムに汚れが付着して面状故障が発生する場合がある。このため、可塑剤を用いた透明ポリマーフィルムに対する製造条件や処理条件には自ずと制約があった。
【0005】
高分子の可塑剤として400〜5000の質量平均分子量を有するポリエステル及びポリエステルエーテルを添加する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この技術によると、素材析出防止、透湿度、寸度に優れる、との記載があるが、製造時の工程汚染や高温での延伸処理時の素材揮散性が不十分であった。さらに、芳香族環を有するポリエステルを含有するセルロースエステルフィルムが開示されている(例えば、特許文献2および3参照)。しかしながらこれらの化合物においても、上記の可塑剤の揮散による製造設備の動作の不具合やフィルムの面状故障の発生、偏光板形態での経時性能の点で満足できるものではなかった。
【0006】
一方、液晶表示装置において、視野角の拡大、画像着色の改良、及びコントラストの向上のため光学補償フィルムを使用することは広く知られた技術である。最も普及しているVA(Vertically Aligned)モード(垂直配向モード)、TNモード等では特に光学特性(例えばRe値およびRth値)を所望の値に制御できる光学補償フィルムが求められている。
VAモードに適した光学特性の調整には延伸処理が必要であり、製造時の工程汚染による面状故障への対策が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−3767号公報
【特許文献2】特開2006−064803号公報
【特許文献3】米国特許第5559171号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、製造時の工程汚染が少なく生産効率が高い、優れたセルロースエステルフィルムを提供することにある。
本発明の他の目的は、上記セルロースエステルフィルムを用いた、面状が良好で、Re値およびRth値を所望の値に制御できる位相差フィルム及び経時性能変化が小さい偏光板を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、上記偏光板を用いた表示品質の良好な液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、上記課題は以下の構成によって解決されることを見出した。
1. 芳香族ジカルボン酸と、脂肪族ジカルボン酸と、平均炭素数が2.0以上3.0以下の脂肪族ジオールと、モノカルボン酸とを含む混合物から得られ、両末端がモノカルボン酸エステル誘導体からなる重縮合エステルを含有するセルロースエステルフィルム。
2. 前記重縮合エステルの両末端が脂肪族モノカルボン酸エステル誘導体である上記1に記載のセルロースエステルフィルム。
3. 前記重縮合エステルの数平均分子量が700以上2000以下である上記1または2に記載のセルロースエステルフィルム。
4. 前記セルロースエステルフィルムが、搬送方向に対して垂直な方向(幅方向)に5%以上100%以下の延伸倍率で延伸されたものである上記1〜3のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム。
5. 前記延伸がセルロースエステルフィルムの残留溶剤量が5%以下で行われた上記4に記載のセルロースエステルフィルム。
ここで、残留溶剤量は下記のように定義される。
残留溶剤量=(残存揮発分質量/加熱処理後フィルム質量)×100%
6. 少なくとも2つの芳香環を有する化合物を含有する上記1〜5のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム。
7. 前記セルロースエステルフィルムがセルロースアシレートを含み、該セルロースアシレートのアシル置換度が2.00〜2.95であり、該セルロースアシレートの粘度平
均重合度が180〜700である上記1〜6のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム。
8. 上記1〜7のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルムを含む位相差フィルム。
9. 偏光子の両側に保護フィルムを有する偏光板において、該保護フィルムの少なくとも1枚が上記1〜7のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルムまたは上記8に記載の位相差フィルムである偏光板。
10.液晶セル及びその両側に偏光板を有し、該偏光板のうち少なくとも1枚が上記9に記載の偏光板である液晶表示装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば製造時の工程汚染が少なく生産効率が高く、面状が良好で、Re値およびRth値を所望の値に制御できる、優れたセルロースエステルフィルム、位相差フィルム及び偏光板を提供することができる。また、上記フィルムまたは偏光板を用いた表示品質の良好な液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、数値が物性値、特性値等を表す場合に、「(数値1)〜(数値2)」及び「(数値1)乃至(数値2)」という記載は「(数値1)以上(数値2)以下」の意味を表す。
【0012】
本発明のセルロースエステルフィルムは、芳香族ジカルボン酸と、脂肪族ジカルボン酸と、平均炭素数が2.0以上3.0以下の脂肪族ジオールと、モノカルボン酸とを含む混合物から得られ、両末端がモノカルボン酸エステル誘導体からなる重縮合エステルを含有する。
【0013】
〔重縮合エステル〕
本発明に係る重縮合エステルは、少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸(芳香環を有するジカルボン酸)と少なくとも一種の脂肪族ジカルボン酸と、少なくとも一種の平均炭素数が2.0以上3.0以下の脂肪族ジオールと、少なくとも一種のモノカルボン酸とを含む混合物を原料として得ることができる。
【0014】
脂肪族ジオールの平均炭素数は、脂肪族ジオールの組成比(モル分率)を構成炭素数に乗じて算出した値とする。例えばエチレングリコール50モル%と1,2−プロパンジオール50モル%から成る場合は平均炭素数2.5となる。
【0015】
重縮合エステルの数平均分子量は700〜2000であることが好ましく、700〜1500がより好ましく、700〜1200がさらに好ましい。本発明の重縮合エステルの数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定、評価することができる。
【0016】
本発明にかかる芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との比率は、芳香族ジカルボン酸がジカルボン酸の総量に対して5〜70モル%であることが好ましい。芳香族ジカルボン酸が5モル%未満では偏光板の性能変化が大きく不十分であり、フィルムの経時後、透水性が低下してしまう。芳香族ジカルボン酸が70モル%を超えるとセルロースエステルへの相溶性が低下し、製膜過程でブリードアウトが発生し易くなり好ましくない。
本発明の重縮合エステルを構成するジカルボン酸中の芳香族ジカルボン酸はより好ましくは10〜60モル%であり、20〜50モル%であることがさらに好ましい。
脂肪族ジオールのうち、エチレングリコールが50モル%であることが好ましく、75モル%であることがより好ましい。
【0017】
芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸等が好ましく用いられ、フタル酸、テレフタル酸がより好ましい。また、芳香族ジカルボン酸は1種でも、2種以上を用いてもよい。2種用いる場合は、フタル酸とテレフタル酸を用いることが好ましい。
【0018】
本発明で好ましく用いられる脂肪族ジカルボン酸は例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸または1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。好ましくはコハク酸、アジピン酸である。また、脂肪族ジカルボン酸は1種でも、2種以上を用いてもよい。2種用いる場合は、コハク酸とアジピン酸を用いることが好ましい。
【0019】
重縮合エステルを形成するジオールとしては平均炭素数が2.0以上3.0以下の脂肪族ジオールである。脂肪族ジオールの平均炭素数が3.0より大きいと化合物の加熱減量が増大し、セルロースアシレートウェブ乾燥時の工程汚染が原因と考えられる面状故障が発生する。また、脂肪族ジオールの平均炭素数が2.0未満では合成が困難となるため、使用できない。
脂肪族ジオールとしては、アルキルジオールまたは脂環式ジオール類を挙げることができ、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、ジエチレングリコール等があり、これらはエチレングリコールとともに1種または2種以上の混合物として使用されることが好ましい。
【0020】
好ましい脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、及び1,3−プロパンジオールであり、特に好ましくはエチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールである。
【0021】
本発明の重縮合エステルの両末端はモノカルボン酸と反応させて封止する。このとき、該重縮合エステルの両末端はモノカルボン酸エステル誘導体となっている。好ましくは脂肪族モノカルボン酸エステル誘導体である。即ち封止に用いるモノカルボン酸類としては脂肪族モノカルボン酸が好ましく、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、安息香酸及びその誘導体等が好ましく、酢酸またはプロピオン酸がより好ましく、酢酸が最も好ましい。重縮合エステルの両末端に使用するモノカルボン酸類の炭素数が3以下であると、化合物の加熱減量が大きくならず、面状故障の発生を低減することが可能である。
封止に用いるモノカルボン酸は2種以上を混合してもよい。
本発明の重縮合エステルの両末端は酢酸またはプロピオン酸による封止が好ましく、酢酸封止により両末端がアセチルエステル残基となることが最も好ましい。
【0022】
(重縮合エステルの具体例)
以下の表1に本発明にかかる重縮合エステルの具体例を記すが、これらに限定されるものではない。
【0023】
【表1】

【0024】
本発明に係る重縮合エステルの合成は、常法により上記芳香族ジカルボン酸と、脂肪族ジカルボンと平均炭素数が2.0以上3.0以下の脂肪族ジオールとモノカルボン酸とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。また、本発明に係る重縮合エステルについては、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0025】
本発明の重縮合エステルの添加量は、セルロースエステル量に対し0.1乃至25質量%であることが好ましく、1乃至20質量%であることがさらに好ましく、3乃至15質量%であることが最も好ましい。
【0026】
本発明の重縮合エステルが含有する原料の脂肪族ジオール、ジカルボン酸エステル、またはジオールエステルのセルロースエステルフィルム中の含有量は、1質量%未満が好ましく、0.5質量%未満がより好ましい。ジカルボン酸エステルとしては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、アジピン酸ジ(ヒドロキシエチル)、コハク酸ジ(ヒドロキシエチル)等が挙げられる。ジオールエステルとしては、エチレンジアセテート、プロピレンジアセテート等が挙げられる。
【0027】
(少なくとも2つの芳香環を有する化合物)
本発明のセルロースエステルフィルムは、さらに、少なくとも2つの芳香環を有する化合物を含有することが好ましい。
以下に少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物について説明する。
少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物は一様配向した場合に光学的に正の1軸性を発現することが好ましい。
少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物の分子量は、300ないし1200であることが好ましく、400ないし1000であることがより好ましい。
本発明のセルロースエステルフィルムを光学補償フィルムとして用いる場合、光学特性とくにReを好ましい値に制御するには、延伸が有効である。Reの上昇はフィルム面内の屈折率異方性を大きくすることが必要であり、一つの方法が延伸によるポリマーフィルムの主鎖配向の向上である。また、屈折率異方性の大きな化合物を添加剤として用いることで、さらにフィルムの屈折率異方性を上昇することが可能である。例えば上記の2つ以上の芳香環を有する化合物は、延伸によりポリマー主鎖が並ぶ力が伝わることで該化合物の配向性も向上し、所望の光学特性に制御することが容易となる。
【0028】
少なくとも2つの芳香環を有する化合物としては、例えば特開2003−344655号公報に記載のトリアジン化合物、特開2002−363343号公報に記載の棒状化合物、特開2005−134884及び特開2007−119737号公報に記載の液晶性化合物等が挙げられる。より好ましくは、上記トリアジン化合物または棒状化合物である。
少なくとも2つの芳香環を有する化合物は2種以上を併用して用いることもできる。
【0029】
少なくとも2つの芳香環を有する化合物の添加量はセルロースエステルに対して質量比で0.05%以上10%以下が好ましく、0.5%以上8%以下がより好ましく、1%以上5%以下がさらに好ましい。
【0030】
次に、位相差フィルム、偏光板などに使用することができるセルロースエステルフィルムについて詳しく説明する。
【0031】
〔セルロースエステル〕
本発明のセルロースエステルフィルムにおいて、セルロースエステルとしては、セルロースエステル化合物、および、セルロースを原料として生物的或いは化学的に官能基を導入して得られるエステル置換セルロース骨格を有する化合物が挙げられる。
【0032】
前記セルロースエステルは、セルロースと酸とのエステルである。前記エステルを構成する酸としては、有機酸が好ましく、カルボン酸がより好ましく、炭素原子数が2〜22の脂肪酸がさらに好ましく、炭素原子数が2〜4の低級脂肪酸であるセルロースアシレートが最も好ましい。
【0033】
[セルロースアシレート原料綿]
本発明に用いられるセルロースアシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」(丸澤、宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)や発明協会公開技報2001−1745(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができ、本発明のセルロースアシレートフィルムに対しては特に限定されるものではない。
【0034】
[セルロースアシレート置換度]
次に上述のセルロースを原料に製造される本発明において好適なセルロースアシレートについて記載する。
本発明に用いられるセルロースアシレートはセルロースの水酸基がアシル化されたもので、その置換基はアシル基の炭素数が2のアセチル基から炭素数が22のものまでいずれも用いることができる。本発明においてセルロースアシレートにおける、セルロースの水酸基への置換度については特に限定されないが、セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素数3〜22の脂肪酸の結合度を測定し、計算によって置換度を得ることができる。測定方法としては、ASTM D−817−91に準じて実施することができる。
【0035】
上記のように、セルロースの水酸基への置換度については特に限定されないが、セルロースの水酸基へのアシル置換度が2.00〜2.95であることが好ましい。
【0036】
セルロースの水酸基に置換する酢酸及び/又は炭素数3〜22の脂肪酸のうち、炭素数2〜22のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく特に限定されず、単一でも2種類以上の混合物でもよい。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、又は芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましいアシル基としては、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、へプタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、i−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどが好ましく、アセチル、プロピオニル、ブタノイルがより好ましい。最も好ましい基はアセチルである。
【0037】
上記のセルロースの水酸基に置換するアシル置換基のうちで、実質的にアセチル基/プロピオニル基/ブタノイル基の少なくとも2種類からなる場合においては、その全置換度が2.50〜2.95であることが好ましく、より好ましいアシル置換度は2.60〜2.95であり、さらに好ましくは2.65〜2.95である。
上記のセルロースアシレートのアシル置換基が、アセチル基のみからなる場合においては、その全置換度が2.00〜2.95であることが好ましい。さらには置換度が2.40〜2.95であることが好ましく、2.85〜2.95であることがより好ましい。
【0038】
[セルロースアシレートの重合度]
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で180〜700であり、セルロースアセテートにおいては、180〜550がより好ましく、180〜400が更に好ましく、180〜350が特に好ましい。重合度が該上限値以下であれば、セルロースアシレートのドープ溶液の粘度が高くなりすぎることがなく流延によるフィルム作製が容易にできるので好ましい。重合度が該下限値以上であれば、作製したフィルムの強度が低下するなどの不都合が生じないので好ましい。粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法{宇田和夫、斉藤秀夫、「繊維学会誌」、第18巻第1号、105〜120頁(1962年)}により測定できる。この方法は特開平9−95538号公報にも詳細に記載されている。
【0039】
また、本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって評価され、その多分散性指数Mw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)が小さく、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜4.0であることが好ましく、2.0〜4.0であることがさらに好ましく、2.3〜3.4であることが最も好ましい。
【0040】
[セルロースアシレートフィルムの製造]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、ソルベントキャスト法により製造することができる。ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造する。
有機溶媒は、炭素原子数が3乃至12のエーテル、炭素原子数が3乃至12のケトン、炭素原子数が3乃至12のエステルおよび炭素原子数が1乃至6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。
エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する溶媒の上記した好ましい炭素原子数範囲内であることが好ましい。
【0041】
炭素原子数が3乃至12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25乃至75モル%であることが好ましく、30乃至70モル%であることがより好ましく、35乃至65モル%であることがさらに好ましく、40乃至60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0042】
0℃以上の温度(常温または高温)で処理することからなる一般的な方法で、セルロースアシレート溶液を調製することができる。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースアシレートの量は、得られる溶液中に10乃至40質量%含まれるように調整する。セルロースアシレートの量は、10乃至30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0乃至40℃)でセルロースアシレートと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアセテートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。
加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60乃至200℃であり、さらに好ましくは80乃至110℃である。
【0043】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶剤中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0044】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを製造する。ドープには前記のレターデーション上昇剤を添加することが好ましい。
ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18乃至35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。
【0045】
本発明では、ドープ(セルロースアシレート溶液)をバンド上に流延する場合、剥ぎ取り前乾燥の前半において10秒以上90秒以下、好ましくは15秒以上90秒以下の時間、実質的に無風で乾燥する工程を行う。また、ドラム上に流延する場合、剥ぎ取り前乾燥の前半において1秒以上10秒以下、好ましくは2秒以上5秒以下の時間、実質的に無風で乾燥する工程を行うことが好ましい。
本発明において、「剥ぎ取り前乾燥」とはバンドもしくはドラム上にドープが塗布されてからフィルムとして剥ぎ取られるまでの乾燥を指すものとする。また、「前半」とはドープ塗布から剥ぎ取りまでに要する全時間の半分より前の工程を指すものとする。「実質的に無風」であるとは、バンド表面もしくはドラム表面から200mm以内の距離において0.5m/s以上の風速が検出されない(風速が0.5m/s未満である)ことである。 剥ぎ取り前乾燥の前半は、バンド上の場合通常30〜300秒程度の時間であるが、その内の10秒以上90秒以下、好ましくは15秒以上90秒以下の時間、無風で乾燥する。ドラム上の場合は通常5〜30秒程度の時間であるが、その内の1秒以上10秒以下、好ましくは2秒以上5秒以下の時間、無風で乾燥する。雰囲気温度は0℃〜180℃が好ましく、40℃〜150℃がさらに好ましい。無風で乾燥する操作は剥ぎ取り前乾燥の前半の任意の段階で行うことができるが、好ましくは流延直後から行うことが好ましい。無風で乾燥する時間が、バンド上の場合に10秒未満(ドラム上の場合に1秒未満)であると、添加剤がフィルム内に均一に分布することが難しく、90秒を超えると(ドラム上の場合10秒を超えると)乾燥不十分で剥ぎ取られることになり、フィルムの面状が悪化する。
剥ぎ取り前乾燥における無風で乾燥する以外の時間は、不活性ガスを送風することにより乾燥を行なうことができる。このときの風温は0℃〜180℃が好ましく、40℃〜150℃がさらに好ましい。
【0046】
ソルベントキャスト法における乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。バンドまたはドラム上での乾燥は空気、窒素などの不活性ガスを送風することにより行なうことができる。
【0047】
得られたフィルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0048】
調整したセルロースアシレート溶液(ドープ)を用いて二層以上の流延を行いフィルム化することもできる。この場合、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを作製することが好ましい。ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が10乃至40%の範囲となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。
【0049】
二層以上の複数のセルロースアシレート液を流延する場合、複数のセルロースアシレート溶液を流延することが可能で、支持体の進行方向に間隔をおいて設けられた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよい。例えば、特開昭61−158414号、特開平1−122419号、および、特開平11−198285号の各公報に記載の方法を用いることができる。また、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延することによってもフィルム化することができる。例えば、特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、および、特開平6−134933号の各公報に記載の方法を用いることができる。また、特開昭56−162617号公報に記載の高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高、低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押し出すセルロースアシレートフィルムの流延方法を用いることもできる。
【0050】
また、二個の流延口を用いて、第一の流延口により支持体に成形したフィルムを剥ぎ取り、支持体面に接していた側に第二の流延を行うことにより、フィルムを作製することもできる。例えば、特公昭44−20235号公報に記載の方法を挙げることができる。
流延するセルロースアシレート溶液は同一の溶液を用いてもよいし、異なるセルロースアシレート溶液を用いてもよい。複数のセルロースアシレート層に機能をもたせるために、その機能に応じたセルロースアシレート溶液を、それぞれの流延口から押し出せばよい。さらに本発明のセルロースアシレート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、紫外線吸収層、偏光層など)と同時に流延することもできる。
【0051】
従来の単層液では、必要なフィルムの厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースアシレート溶液を押し出すことが必要である。その場合セルロースアシレート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良となったりして問題となることが多かった。この問題の解決方法として、複数のセルロースアシレート溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に支持体上に押し出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースアシレート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができる。
【0052】
本発明のセルロースエステルフィルムの好ましい幅は0.5〜5mであり、より好ましくは0.7〜3mである。フィルムの好ましい巻長は300〜30000mであり、より好ましくは500〜10000mであり、さらに好ましくは1000〜7000mである。
【0053】
(膜厚)
本発明のセルロースエステルフィルムの膜厚は20μm〜180μmが好ましく、30μm〜120μmがより好ましく、40μm〜100μmがさらに好ましい。膜厚が20μm以上であれば偏光板等に加工する際のハンドリング性や偏光板のカール抑制の点で好ましい。また、本発明のセルロースエステルフィルムの膜厚むらは、搬送方向および幅方向のいずれも0〜2%であることが好ましく、0〜1.5%がさらに好ましく、0〜1%であることが特に好ましい。
【0054】
(添加剤)
セルロースエステルフィルムには、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。劣化防止剤の添加量は、効果の発現及びフィルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)の抑制の観点から、調製する溶液(ドープ)の0.01乃至1質量%であることが好ましく、0.01乃至0.2質量%であることがさらに好ましい。
特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
【0055】
本発明のセルロースエステルフィルムには紫外線吸収剤を添加してもよい。紫外線吸収剤としては特開2006−282979号公報に記載の化合物(ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、トリアジン)が好ましく用いられる。紫外線吸収剤は2種以上を併用して用いることもできる。
紫外線吸収剤としてはベンゾトリアゾールが好ましく、具体的にはTINUVIN328、TINUVIN326、TINUVIN329、TINUVIN571、アデカスタブLA−31等が挙げられる。
紫外線吸収剤の使用量はセルロースエステルに対して質量比で10%以下が好ましく、3%以下がさらに好ましく、2%以下0.05%以上が最も好ましい。
【0056】
(マット剤微粒子)
本発明のセルロースエステルフィルムは、マット剤として微粒子を含有することが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子は珪素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/L以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/Lが好ましく、100〜200g/Lがさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)35頁〜36頁に詳細に記載されており、本発明のセルロースエステルフィルムにおいても好ましく用いることができる。
【0057】
[延伸]
本発明のセルロースエステルフィルムは、延伸処理によりレターデーションを調整することができる。積極的に幅方向(搬送方向に対して垂直な方向)に延伸する方法は、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、特開平4−284211号、特開平4−298310号、および特開平11−48271号の各公報などに記載されている。フィルムの延伸は、常温または加熱条件下で実施する。加熱温度は、フィルムのガラス転移温度を挟む±20℃であることが好ましい。これは、ガラス転移温度より極端に低い温度で延伸すると、破断しやすくなり所望の光学特性を発現させることができない。また、ガラス転移温度より極端に高い温度で延伸すると、延伸により分子配向したものが熱固定される前に、延伸時の熱で緩和し配向を固定化することができず、光学特性の発現性が悪くなる。
【0058】
さらに、延伸ゾーン(例えばテンターゾーン)において、フィルムを噛み込み、搬送し最大拡幅率を経た後に、通常緩和させるゾーンを設ける。これは軸ずれを低減するのに必要なゾーンである。通常の延伸ではこの最大拡幅率を経た後の緩和率ゾーンでは、テンターゾーンを通過させるまでの時間は1分より短く、フィルムの延伸は、搬送方向あるいは幅方向だけの一軸延伸でもよく同時あるいは逐次2軸延伸でもよいが、幅方向により多く延伸することが好ましい。幅方向の延伸は5〜100%の延伸が好ましく、特に好ましくは5〜80%延伸を行う。また、延伸処理は製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理しても良い。前者の場合には残留溶剤量を含んだ状態で延伸を行っても良く、残留溶剤量=(残存揮発分質量/加熱処理後フィルム質量)×100%が0.05〜50%で好ましく延伸することができる。残留溶剤量が0.05〜5%の状態で5〜80%延伸を行うことが特に好ましい。
【0059】
また本発明のセルロースエステルフィルムは、二軸延伸を行ってもよい。
二軸延伸には、同時二軸延伸法と逐次二軸延伸法があるが、連続製造の観点から逐次二軸延伸方法が好ましく、ドープを流延した後、バンドもしくはドラムよりフィルムを剥ぎ取り、幅方向に延伸した後、長手方向に延伸されるか、または長手方法に延伸した後、幅方向に延伸される。
【0060】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。本発明のセルロースエステルフィルムの製造に用いる巻き取り機は一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取る
ことができる。
【0061】
[セルロースエステルフィルムの表面処理]
セルロースエステルフィルムは、表面処理を施すことが好ましい。具体的方法としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理または紫外線照射処理が挙げられる。また、特開平7−333433号公報に記載のように、下塗り層を設けることも好ましい。
フィルムの平面性を保持する観点から、これら処理においてセルロースエステルフィルムの温度をTg(ガラス転移温度)以下、具体的には150℃以下とすることが好ましい。
偏光板の透明保護膜として使用する場合、偏光子との接着性の観点から、酸処理またはアルカリ処理、すなわちセルロースエステルに対する鹸化処理を実施することが特に好ましい。
表面エネルギーは55mN/m以上であることが好ましく、60mN/m以上75mN/m以下であることが更に好ましい。
【0062】
以下、アルカリ鹸化処理を例に、具体的に説明する。
セルロースエステルフィルムのアルカリ鹸化処理は、フィルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。
アルカリ溶液としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオン濃度は0.1乃至3.0モル/リットルの範囲にあることが好ましく、0.5乃至2.0モル/リットルの範囲にあることがさらに好ましい。アルカリ溶液温度は、室温乃至90℃の範囲にあることが好ましく、40乃至70℃の範囲にあることがさらに好ましい。
【0063】
固体の表面エネルギーは、「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社1989.12.10発行)に記載のように接触角法、湿潤熱法、および吸着法により求めることができる。本発明のセルロースエステルフィルムの場合、接触角法を用いることが好ましい。
具体的には、表面エネルギーが既知である2種の溶液をセルロースエステルフィルムに滴下し、液滴の表面とフィルム表面との交点において、液滴に引いた接線とフィルム表面のなす角で、液滴を含む方の角を接触角と定義し、計算によりフィルムの表面エネルギーを算出できる。
【0064】
(フィルムのレターデーション)
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。ReはKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rthは前記Re、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値の計3つの方向で測定したレターデーション値を基にKOBRA 21ADHが算出する。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx,ny,nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0065】
本発明のセルロースエステルフィルムは偏光板の保護フィルムとして用いられ、特に、様々な液晶モードに対応した位相差フィルムとしても好ましく用いることができる。
本発明のセルロースエステルフィルムを位相差フィルムとして用いる場合、セルロースエステルフィルムの好ましい光学特性は液晶モードによって異なる。
【0066】
VAモード用としては590nmで測定したReは20〜150nmのものが好ましく、50〜130nmのものがより好ましく、70〜120nmのものがさらに好ましい。Rthは100〜300nmのものが好ましく、120〜280nmのものがより好ましく、150〜250nmのものがさらに好ましい。
TNモード用としては590nmで測定したReは0〜100nmのものが好ましく、20〜90nmのものがより好ましく、50〜80nmのものがさらに好ましい。Rthは20〜200nmのものが好ましく、30〜150nmのものがより好ましく、40〜120nmのものがさらに好ましい。
TNモード用では前記レターデーション値を有するセルロースエステルフィルム上に光学異方性層を塗布して位相差フィルムとして使用できる。
【0067】
(フィルムのヘイズ)
本発明のセルロースエステルフィルムのヘイズは、0.01〜2.0%であることが好ましい。より好ましくは0.05〜1.5%であり、0.1〜1.0%であることがさらに好ましい。光学フィルムとしてフィルムの透明性は重要である。ヘイズの測定は、本発明のセルロースエステルフィルム試料40mm×80mmを、25℃、60%RHでヘイズメーター“HGM−2DP”{スガ試験機(株)製}を用いJIS K−6714に従って測定した。
【0068】
(分光特性、分光透過率)
セルロースエステルフィルムの試料13mm×40mmを、25℃、60%RHで分光光度計“U−3210”{(株)日立製作所}にて、波長300〜450nmにおける透過率を測定することができる。傾斜幅は72%の波長−5%の波長で求めることができる。限界波長は、(傾斜幅/2)+5%の波長で表し、吸収端は、透過率0.4%の波長で表すことができる。これより380nm及び350nmの透過率を評価することができる。
本発明のセルロースエステルフィルムは、偏光板の液晶セルに面した保護フィルムの対向側に用いる場合には、上記方法により測定した波長380nmにおける分光透過率が45%以上95%以下であり、かつ波長350nmにおける分光透過率が10%以下であることが好ましい。
【0069】
(ガラス転移温度)
本発明のセルロースエステルフィルムのガラス転移温度は120℃以上が好ましく、更に140℃以上が好ましい。
ガラス転移温度は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で測定したときにフィルムのガラス転移に由来するベースラインが変化しはじめる温度と再びベースラインに戻る温度との平均値として求めることができる。
また、ガラス転移温度の測定は、以下の動的粘弾性測定装置を用いて求めることもできる。本発明のセルロースエステルフィルム試料(未延伸)5mm×30mmを、25℃60%RHで2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(バイブロン:DVA−225(アイティー計測制御(株)製))で、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃〜250℃、周波数1Hzで測定し、縦軸に対数軸で貯蔵弾性率、横軸に線形軸で温度(℃)をとった時に、貯蔵弾性率が固体領域からガラス転移領域へ移行する際に見受けられる貯蔵弾性率の急激な減少を固体領域で直線1を引き、ガラス転移領域で直線2を引いたときの直線1と直線2の交点を、昇温時に貯蔵弾性率が急激に減少しフィルムが軟化し始める温度であり、ガラス転移領域に移行し始める温度であるため、ガラス転移温度Tg(動的粘弾性)とする。
【0070】
(フィルムの平衡含水率)
本発明のセルロースエステルフィルムの平衡含水率は、偏光板の保護膜として用いる際、ポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマーとの接着性を損なわないために、膜厚のいかんに関わらず、25℃、80%RHにおける平衡含水率が、0〜4%であることが好ましい。0.1〜3.5%であることがより好ましく、1〜3%であることが特に好ましい。平衡含水率が4%以下であれば、光学補償フィルムの支持体として用いる際に、レターデーションの湿度変化による依存性が大きくなりすぎることがなく好ましい。
含水率の測定法は、本発明のセルロースエステルフィルム試料7mm×35mmを水分測定器、試料乾燥装置“CA−03”及び“VA−05”{共に三菱化学(株)製}にてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料質量(g)で除して算出した。
【0071】
(フィルムの透湿度)
フィルムの透湿度は、JIS Z−0208をもとに、60℃、95%RHの条件において測定される。
透湿度は、セルロースエステルフィルムの膜厚が厚ければ小さくなり、膜厚が薄ければ大きくなる。そこで膜厚の異なるサンプルでは、基準を80μmに設け換算する必要がある。膜厚の換算は、下記数式に従って行うことができる。
数式:80μm換算の透湿度=実測の透湿度×実測の膜厚(μm)/80(μm)。
【0072】
透湿度の測定法は、「高分子の物性II」(高分子実験講座4 共立出版)の285頁〜294頁「蒸気透過量の測定(質量法、温度計法、蒸気圧法、吸着量法)」に記載の方法を適用することができる。
【0073】
本発明のセルロースエステルフィルムの透湿度は、400〜2000g/m2・24hであることが好ましい。400〜1800g/m2・24hであることがより好ましく、400〜1600g/m2・24hであることが特に好ましい。透湿度が2000g/m2・24h以下であれば、フィルムのRe値、Rth値の湿度依存性の絶対値が0.5nm/%RHを超えるなどの不都合が生じることがなく、好ましい。
【0074】
(フィルムの寸度変化)
本発明のセルロースエステルフィルムの寸度安定性は、60℃、90%RHの条件下に24時間静置した場合(高湿)の寸度変化率、及び90℃、5%RHの条件下に24時間静置した場合(高温)の寸度変化率が、いずれも0.5%以下であることが好ましい。
より好ましくは0.3%以下であり、さらに好ましくは0.15%以下である。
【0075】
(フィルムの弾性率)
本発明のセルロースエステルフィルムの弾性率は、200〜500kgf/mm2であることが好ましく、より好ましくは240〜470kgf/mm2であり、さらに好ましくは270〜440kgf/mm2である。具体的な測定方法としては、東洋ボールドウィン(株)製万能引っ張り試験機“STM T50BP”を用い、23℃、70RH%雰囲気中、引張速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めた。
【0076】
(セルロースエステルフィルムの構成)
本発明のセルロースエステルフィルムは単層構造であっても複数層から構成されていても良いが、単層構造であることが好ましい。ここで、「単層構造」のフィルムとは、複数のフィルム材が貼り合わされているものではなく、一枚のセルロースエステルフィルムを意味する。そして、複数のセルロースエステル溶液から、逐次流延方式や共流延方式を用いて一枚のセルロースエステルフィルムを製造する場合も含む。
【0077】
この場合、添加剤の種類や配合量、セルロースエステルの分子量分布やセルロースエステルの種類等を適宜調整することによって厚み方向に分布を有するようなセルロースエステルフィルムを得ることができる。また、それらの一枚のフィルム中に光学異方性部、防眩部、ガスバリア部、耐湿性部などの各種機能性部を有するものも含む。
【0078】
《位相差フィルム》
本発明のセルロースエステルフィルムは、位相差フィルムとして用いることができる。なお、「位相差フィルム」とは、一般に液晶表示装置等の表示装置に用いられ、光学異方性を有する光学材料のことを意味し、位相差板、光学補償フィルム、光学補償シートなどと同義である。液晶表示装置において、位相差フィルムは表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりする目的で用いられる。
本発明の透明セルロースエステルフィルムを用いることで、Re値およびRth値を自在に制御した位相差フィルムを容易に作製することができる。
【0079】
また、本発明のセルロースエステルフィルムを複数枚積層したり、本発明のセルロースエステルフィルムと本発明外のフィルムとを積層したりしてReやRthを適宜調整して位相差フィルムとして用いることもできる。フィルムの積層は、粘着剤や接着剤を用いて実施することができる。
【0080】
また、場合により、本発明のセルロースエステルフィルムを位相差フィルムの支持体として用い、その上に液晶等からなる光学異方性層を設けて位相差フィルムとして使用することもできる。本発明の位相差フィルムに適用される光学異方性層は、例えば、液晶性化合物を含有する組成物から形成してもよいし、複屈折を持つセルロースエステルフィルムから形成してもよいし、本発明のセルロースエステルフィルムから形成してもよい。
前記液晶性化合物としては、ディスコティック液晶性化合物または棒状液晶性化合物が好ましい。
【0081】
(ディスコティック液晶性化合物)
本発明において前記液晶性化合物として使用可能なディスコティック液晶性化合物の例には、様々な文献(例えば、C.Destrade et al.,Mol.Crysr.Liq.Cryst.,vol.71,page 111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al.,Angew.Chem.Soc.Chem.Comm.,page 1794(1985);J.Zhang et al.,J.Am.Chem.Soc.,vol.116,page 2655(1994))に記載の化合物が含まれる。
【0082】
前記光学異方性層において、ディスコティック液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。また、ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284号公報に記載がある。ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基の間に、連結基を導入する。重合性基を有するディスコティック液晶性分子については、特開2001−4387号公報に開示されている。
【0083】
《偏光板》
本発明のセルロースエステルフィルムまたは位相差フィルムは、偏光板(本発明の偏光板)の保護フィルムとして用いることができる。本発明の偏光板は、偏光子とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルム(透明フィルム)からなり、本発明のセルロースエステルフィルムまたは位相差フィルムは少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして用いることができる。
本発明のセルロースエステルフィルムを前記偏光板保護フィルムとして用いる場合、本発明のセルロースエステルフィルムには前記表面処理(特開平6−94915号公報、同6−118232号公報にも記載)を施して親水化しておくことが好ましく、例えば、グロー放電処理、コロナ放電処理、または、アルカリ鹸化処理などを施すことが好ましい。特に、本発明のセルロースエステルフィルムを構成するセルロースエステルがセルロースアシレートの場合には、前記表面処理としてはアルカリ鹸化処理が最も好ましく用いられる。
【0084】
また、前記偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸した偏光子を用いる場合、接着剤を用いて偏光子の両面に本発明の透明セルロースエステルフィルムの表面処理面を直接貼り合わせることができる。本発明の製造方法においては、このように前記セルロースエステルフィルムが偏光子と直接貼合されていることが好ましい。前記接着剤としては、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例えば、ポリブチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全鹸化ポリビニルアルコールの水溶液である。
【0085】
一般に液晶表示装置は二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられるため、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明のセルロースエステルフィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれに用いてもよいが、本発明のセルロースエステルフィルムは、液晶表示装置における偏光子と液晶層(液晶セル)の間に配置される保護フィルムとして、特に有利に用いることができる。また、前記偏光子を挟んで本発明のセルロースエステルフィルムの反対側に配置される保護フィルムには、透明ハードコート層、防眩層、反射防止層などを設けることができ、特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムとして好ましく用いられる。
【0086】
《液晶表示装置》
本発明のセルロースエステルフィルム、位相差フィルムおよび偏光板は、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。以下にこれらのフィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。これらのモードのうち、本発明のセルロースエステルフィルム、位相差フィルムおよび偏光板は特にVAモードおよびIPSモードの液晶表示装置に好ましく用いられる。これらの液晶表示装置は、透過型、反射型および半透過型のいずれでもよい。
【0087】
(TN型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置とについては、古くからよく知られている。TN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号および特開平9−26572号の各公報の他、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.143や、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.1068)に記載がある。
【0088】
(VA型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体として特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。これらの態様において本発明のセルロースエステルフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。
【0089】
(IPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、IPSモードおよびECBモードの液晶セルを有するIPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体、または偏光板の保護フィルムとして特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において本発明のセルロースエステルフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラスの良化に寄与する。
【0090】
(反射型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の位相差フィルムとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くからよく知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、国際公開第00/65384号パンフレットに記載がある。
【0091】
(その他の液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているのが特徴である。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置とについては、クメ(Kume)他の論文(Kume et al.,SID 98 Digest 1089(1998))に記載がある。
【0092】
(ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム)
本発明のセルロースエステルフィルムは、場合により、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムへ適用してもよい。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明の透明セルロースエステルフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れか或いは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)54頁〜57頁に詳細に記載されており、本発明のセルロースエステルフィルムにおいても好ましく用いることができる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に限定されることはない。
【0094】
〔実施例1:セルロースアシレートフィルム101の作製〕
(セルロースアシレート溶液A−1の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液A−1を調製した。アセチル置換度はASTM D−817−91に準じて測定した。粘度平均重合度は宇田らの極限粘度法{宇田和夫、斉藤秀夫、「繊維学会誌」、第18巻第1号、105〜120頁(1962年)}により測定した。
【0095】
セルロースアシレート溶液A−1の組成
・セルロースアシレート(アセチル置換度2.86、粘度平均重合度310)
100質量部
・前記重縮合エステルP−8 12質量部
・メチレンクロライド 384質量部
・メタノール 69質量部
・ブタノール 9質量部
【0096】
(マット剤分散液B−1の調製)
下記の組成物を分散機に投入し、攪拌して各成分を溶解し、マット剤分散液B−1を調製した。
【0097】
マット剤分散液B−1の組成
・シリカ粒子分散液(平均粒径16nm)
“AEROSIL R972”、日本アエロジル(株)製
10.0質量部
・メチレンクロライド 72.8質量部
・メタノール 3.9質量部
・ブタノール 0.5質量部
・セルロースアシレート溶液A−1 10.3質量部
【0098】
(紫外線吸収剤溶液C−1の調製)
下記の組成物を別のミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、紫外線吸収剤溶液C−1を調製した。
【0099】
紫外線吸収剤溶液C−1の組成
・紫外線吸収剤(下記UV−1) 4.0質量部
・紫外線吸収剤(下記UV−2) 8.0質量部
・紫外線吸収剤(下記UV−3) 8.0質量部
・メチレンクロライド 55.7質量部
・メタノール 10質量部
・ブタノール 1.3質量部
・セルロースアシレート溶液A−1 12.9質量部
【0100】
【化1】

【0101】
(セルロースアシレートフィルム(101)の作製)
セルロースアシレート溶液A−1を94.6質量部、マット剤分散液B−1を1.3質量部とした混合物に、セルロースアシレート100質量部当たり、紫外線吸収剤(UV−2)及び紫外線吸収剤(UV−3)がそれぞれ0.4質量部、紫外線吸収剤(UV−1)が0.2質量部、重縮合エステルP−8が12質量部となるように、紫外線吸収剤溶液C−1を加え、加熱しながら充分に攪拌して各成分を溶解し、ドープを調製した。得られたドープを30℃に加温し、流延ギーサーを通して直径3mのドラムである鏡面ステンレス支持体上に流延した。支持体の表面温度は−5℃に設定し、塗布幅は1470mmとした。流延部全体の空間温度は、15℃に設定した。そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたセルロースエステルフィルムをドラムから剥ぎ取った後、両端をピンテンターでクリップした。剥ぎ取り直後のセルロースアシレートウェブの残留溶媒量は70%およびセルロースアシレートウェブの膜面温度は5℃であった。
【0102】
ピンテンターで保持されたセルロースアシレートウェブは、乾燥ゾーンに搬送した。初めの乾燥では45℃の乾燥風を送風した。次に110℃で5分、さらに140℃で10分乾燥し、巻き取り直前に両端(全幅の各5%)を耳切りした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、3000mのロール状に巻き取った。このようにして得た透明フィルムの幅は各水準とも1.45mであり、厚み40μmのセルロースアシレートフィルム試料101を作製した。
【0103】
(セルロースアシレートフィルム102〜125の作製)
セルロースアシレートフィルム101の作製において重縮合エステルP−8を用いる代わりに、表3に示す組成となるように前記表1及び下記表2に記載の重縮合体の中から表3の重縮合体を使用してドープを調製し、セルロースアシレートフィルム102〜125を作製した。
【0104】
【表2】

【0105】
また、使用した重縮合体及び低分子可塑剤の加熱減量を熱天秤法で測定した。140℃,60分間加熱したときの質量減少率を重縮合体、可塑剤の加熱減量として表3に示す。値が大きいとセルロースアシレートウェブの乾燥時に化合物が揮散し製造工程が汚染され、面状故障の原因となる場合がある。
【0106】
(面状故障)
得られたセルロースアセテートフィルム試料をロール状に巻き取り、この元巻きから100mm×100mmのサイズを裁断し、偏光顕微鏡を用いてクロスニコル下で倍率30倍で観察し、異物発生箇所の個数で下記の評価を行った。ここで異物とは重縮合体、可塑剤またはその他の添加剤に由来するブリードアウト成分、表面の汚れ、あるいはフィルム内部または表面の析出物により、偏光顕微鏡下で輝点として観察される。
◎:異物の個数0〜4個
○:異物の個数5〜10個
△:異物の個数11〜50個
×:異物の個数51個以上
【0107】
(偏光板性能)
1)フィルムの鹸化
得られたフィルムを、55℃に保った1.5mol/LのNaOH水溶液(鹸化液)に2分間浸漬した後、フィルムを水洗し、その後、25℃の0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、さらに水洗浴を30秒流水下に通して、フィルムを中性の状態にした。そして、エアナイフによる水切りを3回繰り返し、水を落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理したフィルムを作製した。
【0108】
2)偏光子の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて厚み20μmの偏光子を作製した。
【0109】
3)貼り合わせ
ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の両側に作製したセルロースアシレートフィルム101を貼り付け、70℃で10分以上乾燥した。得られた偏光板を偏光板101とした。同様にしてセルロースアシレートフィルム102〜125を用いて、偏光板102〜125を作製した。
【0110】
4)偏光板の評価
前記偏光板の一方のフィルム側を粘着剤でガラス板に貼り合わせたサンプルを二組作製し、これをクロスニコルに配置して透過率を測定した(初期透過率、25℃60%RHにて測定)。さらに上記サンプルを60℃相対湿度90%の条件で1000時間放置し、その後さらに、25℃60%RHで5時間以上放置した後、再度クロスニコルに配置して透過率を測定した(経時透過率)。初期透過率と経時透過率の波長400nm〜700nmの範囲での最大変化幅に100を乗じた値を偏光板経時変化の指標とした。透過率測定には分光光度計“U−3210”{(株)日立製作所}を用いた。結果を表3に示す。偏光板経時変化が小さいことを優先して、総合評価を示した。◎:非常に良好、○:良好、△:やや劣る、×:劣る。
【0111】
【表3】

【0112】
本発明の重縮合エステルを含有するセルロースエステルフィルムは加熱減量が小さく工程汚染を少なくできフィルム面状も良好である。また偏光板の性能変化も小さく保護フィルムとして優れている。
重縮合エステルの芳香族ジカルボン酸がなく脂肪族ジカルボン酸のみからなる場合は偏光板の性能変化が不適であり、原因は明らかではないがフィルムの経時後透水性の低下等を要因と推定している(試料117)。芳香族ジカルボン酸のみからなる試料121、122ではブリードアウトが発生した。
重縮合エステルの脂肪族ジオールの平均炭素数が大きいと化合物の加熱減量が増大し、セルロースアシレートウェブ乾燥時の工程汚染により面状故障が発生する(試料107)。
また、重縮合エステルの末端を封止した場合、末端構造の炭素数が大きい、2−エチルヘキシル、及びベンゾイルエステル残基等では偏光板の性能変化は小さいが、化合物の加熱減量が大きく面状故障が発生する場合がある(試料114、116)。また末端に封止がない場合には、偏光板の性能変化が不十分である(試料112、113)。
末端封止のエステル誘導体及び脂肪族ジオールの平均炭素数が3以下の場合には、重縮合エステルの合成工程における減圧等で低分子成分を除去することが可能である。したがって、これらの構造では化合物の加熱減量が小さく工程汚染を低減することが可能である。
重縮合エステルの数平均分子量は700を下回ると低分子成分の増大が加熱減量に影響し好ましくない傾向がある(試料110)。数平均分子量が2000を超えるとブリードアウトの発生がみられ好ましくない傾向がある(試料111)。
【0113】
〔実施例2:セルロースアシレートフィルム201の作製〕
(セルロースアシレート溶液A−2の調製)
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、更に90℃で約10分間加熱した後、平均孔径34μmのろ紙および平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過し、セルロースアシレート溶液A−2を調製した。
【0114】
セルロースアシレート溶液A−2の組成
・セルロースアシレート(アセチル置換度2.86、粘度平均重合度310)
100.0質量部
・前記重縮合エステルP−15 12.0質量部
・メチレンクロライド 403.0質量部
・メタノール 60.2質量部
【0115】
(マット剤分散液B−2の調製)
次に上記方法で作製したセルロースアシレート溶液を含む下記組成物を分散機に投入し、マット剤分散液B−2を調製した。
【0116】
マット剤分散液B−2の組成
・平均粒径16nmのシリカ粒子
“AEROSIL R972”、日本アエロジル(株)製
2.0質量部
・メチレンクロライド 72.4質量部
・メタノール 10.8質量部
・セルロースアシレート溶液A−2 10.3質量部
【0117】
(レターデーション発現剤溶液C−2の調製)
次に上記方法で作製したセルロースアシレート溶液を含む下記組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して溶解し、レターデーション発現剤溶液C−2を調製した。
【0118】
レターデーション発現剤溶液C−2の組成
・下記化合物(A) 7.5質量部
・下記化合物(B) 7.5質量部
・メチレンクロライド 63.5質量部
・メタノール 9.5質量部
・セルロースアシレート溶液A−2 14.0質量部
【0119】
【化2】

【0120】
上記セルロースアシレート溶液A−2を100質量部、マット剤分散液B−2を1.35質量部、更にセルロースアシレートフィルム中のレターデーション発現剤がセルロースアシレート100質量部当たり、前記化合物(A)が2.5質量部、前記化合物(B)が2.5質量部となる量のレターデーション発現剤溶液C−2を混合し、製膜用ドープを調製した。
【0121】
(流延・延伸工程)
コートハンガータイプの材質がオーステナイト相とフェライト相の混合組成を持つ2相系ステンレス鋼を使用した。支持体として長さが100mのステンレス製のエンドレスバンドを利用した。前記流延ダイ及び支持体などが設けられている流延室の温度は、35℃に保った。ドープ中の溶剤比率が乾量基準で45質量%になった時点で流延支持体からフィルムとして剥離した。この時の剥離テンションは8kgf/mであり、支持体速度に対して剥ぎ取り速度(剥取りロールドロー)は100.1%〜110%の範囲で適切に剥ぎ取れるように設定した。剥ぎ取られたフィルムは、クリップを有したテンターで両端を固定しながらテンターの乾燥ゾーン内を搬送し、テンター内を3ゾーンに分け、それぞれのゾーンの乾燥風温度を上流側から90℃、100℃、110℃とし、残留溶剤量が1%未満のセルロースアシレートフィルムを製造した。
支持体上形成されたフィルム中の残留溶剤量は次式で表される。
残留溶剤量=(残存揮発分質量/加熱処理後フィルム質量)×100%
尚、残存揮発分質量はフィルムを115℃で1時間加熱処理したとき、加熱処理前のフィルム質量から加熱処理後のフィルム質量を引いた値である。
次に、得られたフィルムを180℃の条件でテンターを用いて25%の延伸倍率まで、30%/分の延伸速度で幅方向に延伸(横延伸)した。出来上がったセルロースアシレートフィルムの膜厚は60μmであった。このフィルムをフィルム201とした。
【0122】
重縮合エステルまたは低分子可塑剤を下記表4に示したように変更した以外はフィルム201の作製と同様にしてセルロースアセテートフィルム202〜204を作製した。
【0123】
(レターデーションの測定)
Re、及びRthは前記方法により自動複屈折率計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株)製)を用い、測定波長590nm、25℃60%RHで測定した。測定結果を表4に示す。
【0124】
【表4】

【0125】
従来の低分子可塑剤を用いた場合、Re、Rthは好ましい値に調整可能であるが、加熱減量が大きく面状故障の点で不十分であった(試料203)。
本発明にかかる重縮合エステルに依れば面状故障による得率を損なうことなく、高いRe、Rth有し位相差フィルムに好適なセルロースアセテートフィルムを得ることができる。
【0126】
〔実施例3:VAモード液晶表示装置への実装実験〕
セルロースアセテートフィルム201と市販のセルローストリアシレートフィルム(フジタックTD80UF、富士フイルム(株)製)に実施例1と同様に鹸化処理を行った。さらにポリビニルアルコール系接着剤を用いて、実施例1で作製した偏光子を2つのフィルムで挟み込み、70℃で10分以上乾燥した。
偏光子の透過軸と上記のように作製したセルロースアシレートフィルムの遅相軸とが平行になるように配置した。偏光子の透過軸と市販のセルローストリアシレートフィルムの遅相軸とは直交するように配置した。
【0127】
(液晶セルの作製)
液晶セルは、基板間のセルギャップを3.6μmとし、負の誘電率異方性を有する液晶材料(「MLC6608」、メルク社製)を基板間に滴下注入して封入し、基板間に液晶層を形成して作製した。液晶層のレターデーション(即ち、液晶層の厚さd(μm)と屈折率異方性Δnとの積Δn・d)を300nmとした。なお、液晶材料は垂直配向するように配向させた。
【0128】
(VAパネルへの実装)
上記の垂直配向型液晶セルを使用した液晶表示装置の上側偏光板と、下側偏光板(バックライト側)に上記セルロースアシレートフィルム201を備えた偏光板を、該セルロースアシレートフィルム201が液晶セル側となるように設置した。上側偏光板および下側偏光板は粘着剤を介して液晶セルに貼りつけた。上側偏光板の透過軸が上下方向に、そして下側偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロスニコル配置とした。
液晶セルに55Hzの矩形波電圧を印加した。白表示5V、黒表示0Vのノーマリーブラックモードとした。黒表示の方位角45度、極角60度方向視野角における黒表示透過率(%)及び、方位角45度極角60度と方位角180度極角60度との色ずれを求めた。
また、透過率の比(白表示/黒表示)をコントラスト比として、測定機(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角(コントラスト比が10以上で黒側の階調反転のない極角範囲)を測定した。
作製した液晶表示装置を観察した結果、本発明のフィルムを用いた液晶パネルは正面方向および視野角方向のいずれにおいても、ニュートラルな黒表示が実現できていた。
また、視野角(コントラスト比が10以上で黒側の階調反転のない極角範囲)は上下左右で極角80°以上であり、黒表示時の色ずれも0.02未満であり良好な結果を得た。
【0129】
〔実施例4〕
(TNモードモニターへの実装実験)
(セルロースアシレートフィルム401の作製)
実施例1のセルロースアセテートフィルム123において、本発明の重縮合体P−34の他に、下記化合物(C)がセルロースアシレート100質量部当たり、2.0質量%となるようにして製膜を行った。このとき厚みは80μmとなるように流延ダイ及び諸条件を調整した。得られた残留溶剤量が0.2%未満のセルロースアシレートフィルムを試料401とした。
【0130】
【化3】

【0131】
セルロースアシレートフィルム試料401のレターデーションを前記方法で測定したところ、Rthは90nmであった。
【0132】
(鹸化処理)
上記で作製したセルロースアセテートフィルム401上に下記組成の液を5.2ml/m塗布し、60℃で10秒間乾燥させた。フィルムの表面を流水で10秒洗浄し、25℃の空気を吹き付けることでフィルム表面を乾燥させた。
<鹸化液組成>
イソプロピルアルコール 818質量部
水 167質量部
プロピレングリコール 187質量部
水酸化カリウム 80質量部
【0133】
(配向膜の形成)
鹸化処理したセルロースアセテートフィルム401のバンド面側に、下記の組成の塗布液を#14のワイヤーバーコーターで24ml/m2 塗布した。60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥して配向膜を形成した。
次に、セルロースアセテートフィルム401の延伸方向(遅相軸と一致)と45゜の方向に形成した配向膜にラビング処理を実施した。
【0134】
<配向膜塗布液組成>
下記構造の変性ポリビニルアルコール(D) 20質量部
水 360質量部
メタノール 120質量部
グルタルアルデヒド(架橋剤) 1.0質量部
【0135】
【化4】

【0136】
(光学異方性層の形成及び位相差フィルムの作製)
上記配向膜上に、下記ディスコティック液晶性化合物(E)91質量部、エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)製)9質量部、セルロースアセテートブチレート(CAB531−1、イーストマンケミカル社製)1.5質量部、光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製)3質量部、増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)1質量部を、214.2質量部のメチルエチルケトンに溶解した塗布液を、#3のワイヤーバーコーターで5.2ml/m塗布した。これを金属の枠に貼り付けて、130℃の恒温槽中で2分間加熱し、ディスコティック液晶性化合物(E)を配向させた。次に、90℃で120W/cm高圧水銀灯を用いて、1分間UV照射しディスコティック液晶性化合物(E)を重合させた。その後、室温まで放冷した。このようにして、光学異方性層を形成すると共に、積層位相差フィルム401を作製した。
【0137】
【化5】

【0138】
《偏光板の作製》
この積層位相差フィルム401を40℃の2.5N水酸化ナトリウム水溶液で60秒間アルカリ処理し、3分間水洗して鹸化処理層を形成し、アルカリ処理したフィルムを得た。
【0139】
次に実施例3と同様に、偏光子の片側に上記アルカリ処理した積層位相差フィルム401を、偏光子の逆の面に40μmの厚さのセルローストリアセテートフィルム(フジタック、富士フイルム(株)製)を同様にアルカリ処理し、貼り合わせ、偏光板試料401を作製した。
【0140】
〈視野角の評価〉
NEC製LA−1529HM型のTFT−TN液晶パネルの偏光板を剥がし、偏光板と液晶パネルの間に設置されている光学補償フィルムを剥がした。上述の方法で作製した偏光板試料401を、位相差フィルム側を偏光子と液晶パネルとの間になるように設置し添付した。この偏光板の貼付は、液晶パネルに対してバックライト側と画像観察面側の両側に実施した。
【0141】
パソコンでモニターを駆動し、白色/黒色表示時のコントラスト比をELDIM社のEz−Contrastを用いて測定し、上下左右について、コントラスト比が10以上を示す液晶パネルの法線方向からの角度をそれぞれ測定し、上下左右で何れも40°以上の良好な結果を得た。
【0142】
(実施例5)
セルロースエステルフィルム試料501の作製
(微粒子分散液Dの調製)
・アエロジル200(日本アエロジル(株)製) 11質量部
・エタノール 89質量部
上記をディゾルバーで30分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
【0143】
(微粒子添加液Dの作製)
・セルロースエステルD−1 4質量部
・メチレンクロライド 99質量部
・微粒子分散液D 11質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、安積濾紙(株)社製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、微粒子添加液Dを調製した。上記セルロースエステルD−1とは、セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度1.7、プロピオニル基置換度0.8、数平均分子量54000(Mw/Mn=2.9))である。
【0144】
(ドープ液Dの調製)
・セルロースエステルD−1 100質量部
・重縮合エステルP−34 12.0質量部
・メチレンクロライド 300質量部
・エタノール 57質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解させた。これを安積濾紙(株)社製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、ドープ液Dを調製した。
ドープ液Dを100質量部と微粒子添加液Dを2質量部となるように、インラインミキサーで十分に混合し、ベルト流延装置を用い、2000mm幅でステンレスバンド支持体上に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶媒量が110%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体上から剥離した。剥離の際に張力をかけて縦(MD)延伸倍率が1.02倍となるように延伸し、ついで、テンターで両端部を把持し、幅手(TD)方向の延伸倍率が1.3倍となるように延伸した。延伸開始時の残留溶剤量は30%であった。把持したまま125℃の乾燥ゾーンで30分間搬送させ、1500mm幅にスリットし、膜厚40μmのセルロースエステルフィルム試料501を得た。
【0145】
(セルロースエステルフィルム試料502の作製)
微粒子添加液Dおよびドープ液Dに対し、セルロースエステルD−1をセルロースエステルD−2(セルロースアセテートプロピオネート;アセチル基置換度1.65、プロピオニル基置換度0.9、数平均分子量54000(Mw/Mn=2.9))、ドープ液Dにおいて重縮合エステルP−34をP−36に置き換えて調製したものを用いた以外はセルロースエステルフィルム試料501と同様にしてセルロースエステルフィルム試料502を得た。
【0146】
(セルロースエステルフィルム試料503の作製)
微粒子添加液Dおよびドープ液Dに対し、セルロースエステルD−1をセルロースエステルD−3(セルロースアセテートプロピオネート;アセチル基置換度1.45、プロピオニル基置換度1.1、数平均分子量54000(Mw/Mn=2.9))、ドープ液Dにおいて重縮合エステルP−34をP−3に置き換えて調製したものを用いた以外はセルロースエステルフィルム試料501と同様にしてセルロースエステルフィルム試料503を得た。
【0147】
実施例2と同様にして、得られたセルロースエステルフィルム試料501〜503の面状故障及び光学特性(Re・Rth)を評価し、下記表5に示す通り、良好な結果を得た。
【0148】
【表5】

【0149】
(実施例6)
(セルロースエステルフィルム試料601の作製)
実施例5のセルロースエステルフィルム試料501において、セルロースエステルD−1を、アセチル置換度2.42のセルロースアシレートに置き換え、重縮合エステルP−34をP−33に置き換え、セルロースアシレート100質量部あたり20質量部となるように調整した以外は同様にして、セルロースエステルフィルム試料601を作製した。
【0150】
(セルロースエステルフィルム試料602の作製)
セルロースエステルフィルム試料601において、重縮合エステルP−33をP−38に置き換え、さらに実施例2の化合物(A)及び(B)を、各々セルロースアシレート100質量部あたりそれぞれ1.5質量部となるように調整した以外は同様にして、セルロースエステルフィルム試料602を作製した。
【0151】
実施例2と同様にして、得られたセルロースエステルフィルム試料601および602の面状故障及び光学特性(Re・Rth)を評価し、下記表6に示す通り、良好な結果を得た。
【0152】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸と、脂肪族ジカルボン酸と、平均炭素数が2.0以上3.0以下の脂肪族ジオールと、モノカルボン酸とを含む混合物から得られ、両末端がモノカルボン酸エステル誘導体からなる重縮合エステルを含有するセルロースエステルフィルム。
【請求項2】
前記重縮合エステルの両末端が脂肪族モノカルボン酸エステル誘導体である請求項1に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項3】
前記重縮合エステルの数平均分子量が700以上2000以下である請求項1または2に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項4】
前記セルロースエステルフィルムが、搬送方向に対して垂直な方向(幅方向)に5%以上100%以下の延伸倍率で延伸されたものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項5】
前記延伸がセルロースエステルフィルムの残留溶剤量が5%以下で行われた請求項4に記載のセルロースエステルフィルム。
ここで、残留溶剤量は下記のように定義される。
残留溶剤量=(残存揮発分質量/加熱処理後フィルム質量)×100%
【請求項6】
少なくとも2つの芳香環を有する化合物を含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項7】
前記セルロースエステルフィルムがセルロースアシレートを含み、該セルロースアシレートのアシル置換度が2.00〜2.95であり、該セルロースアシレートの粘度平均重合度が180〜700である請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルムを含む位相差フィルム。
【請求項9】
偏光子の両側に保護フィルムを有する偏光板において、該保護フィルムの少なくとも1枚が請求項1〜7のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルムまたは請求項8に記載の位相差フィルムである偏光板。
【請求項10】
液晶セル及びその両側に偏光板を有し、該偏光板のうち少なくとも1枚が請求項9に記載の偏光板である液晶表示装置。

【公開番号】特開2010−242050(P2010−242050A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118027(P2009−118027)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】