説明

セルロースエステルフィルム、偏光板及び液晶表示装置

【課題】湿度変動によるリターデーション値の可逆的な変動を改善したセルロースエステルフィルム、かつ該セルロースエステルフィルムを用いた、光漏れ、視野角特性、視認性に優れた偏光板及び液晶表示装置を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物を含有するセルロースエステルフィルム。一般式(1)B−(G−A)n−G−B(式中、Bはベンゼンモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜3のアルキレングリコール残基または炭素数が4〜6のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜10のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロースエステルフィルム、偏光板及び液晶表示装置に関し、より詳しくは湿度変動によるリターデーション値の可逆的な変動を改善したセルロースエステルフィルム、かつ該セルロースエステルフィルムを用いた、光漏れ、視野角特性、視認性に優れた偏光板及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型軽量ノートパソコンや薄型で大画面のTVの開発が進み、それに伴って、液晶表示装置等の表示装置で用いられる偏光板の保護フィルムもますます薄膜化、大型化、高性能化への要求が強くなってきている。その中において、従来から液晶表示装置は、視野角が狭いことが問題とされていた。液晶表示装置の視野角を拡大するため、前記保護フィルムに光学補償シートとしての機能を持たせる方法が提案されている(例えば、特開平6−222213号公報参照)。
【0003】
また、偏光板の破れを防止させる目的で前記保護フィルムに架橋剤を導入する技術が提案されており、(例えば、特開2001−55402号公報参照。)これらにより偏光板収率を向上させることが出来る。
【0004】
更に、視野角による表示(コントラスト、色味、階調)の変化、特に色味変化について問題とされ、前記保護フィルムに、新たに棒状化合物を導入することが提案されている(例えば、特開2002−267847号公報、特開2004−4550号公報参照)。
【0005】
上記手段を用いることにより視野角による表示(コントラスト、色味、階調)の変化、偏光板の破れ等を改善することが出来るが十分とは言えなかった。また、現行の偏光板は、保護フィルムとしてセルロースエステルフィルムが使用されており、そのリターデーション値が湿度に依存して可逆に変動することが問題となった。これは、湿度変動により液晶ディスプレイの表示品位が変動することにつながるため、この問題を解決できる技術的手段が求められていた。
【0006】
更に、17インチ以上の大型パネルに、前記の光学補償シートを保護フィルムとして用いた偏光板を装着したところ、熱歪みによる光漏れは完全には無くならないことが判明した。光学補償シートは、液晶セルを光学的に補償する機能を有するのみでなく、使用環境の変化による耐久性にも優れている必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−222213号公報
【特許文献2】特開2001−55402号公報
【特許文献3】特開2002−267847号公報
【特許文献4】特開2004−4550号公報
【発明の概要】
【0008】
従って、本発明の目的は、湿度変動によるリターデーション値の可逆的な変動を改善したセルロースエステルフィルム、かつ該セルロースエステルフィルムを用いた、光漏れ、視野角特性、視認性に優れた偏光板及び液晶表示装置を提供することにある。
【0009】
本発明の上記課題は以下の構成により達成される。
【0010】
(1)下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とするセルロースエステルフィルム。
【0011】
一般式(1) B−(G−A)n−G−B
式中、Bはベンゼンモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜3のアルキレングリコール残基または炭素数が4〜6のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜10のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。
【0012】
(2)前記一般式(1)の化合物の分子量が300〜2000であることを特徴とする前記(1)に記載のセルロースエステルフィルム。
【0013】
(3)更に多価アルコールエステル系化合物を含むことを特徴とする前記(1)または(2)に記載のセルロースエステルフィルム。
【0014】
(4)下記式(I)、(II)を同時に満足するセルロースエステルを含有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム。
【0015】
(I)2.1≦X+Y≦2.9
(II)1.0≦X≦2.9
但し、Xはアセチル基の置換度、Yは脂肪酸エステル基の置換度である。
【0016】
(5)幅が1.4〜4mであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム。
【0017】
(6)偏光子の少なくとも一方の面に、前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルムを設けることを特徴とする偏光板。
【0018】
(7)前記偏光子の少なくとも一方の面に設けられたセルロースエステルフィルムが偏光板用保護フィルムであることを特徴とする前記(6)に記載の偏光板。
【0019】
(8)前記偏光子の少なくとも一方の面に設けられたセルロースエステルフィルムが位相差フィルムであることを特徴とする前記(6)に記載の偏光板。
【0020】
(9)前記位相差フィルムの、下記式で表されるRoが、23℃、55%RHの条件下で20nm以上300nm以下であり、下記式で表されるRtが、23℃、55%RHの条件下で70nm以上400nm以下であることを特徴とする前記(8)に記載の偏光板。
Ro=(nx−ny)×d
Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
式中、nx、ny、nzはそれぞれ屈折率楕円体の主軸x、y、z方向の屈折率を表し、かつ、nx、nyは前記セルロースエステルフィルム面内方向の屈折率を、nzは前記セルロースエステルフィルムの厚み方向の屈折率を表す。また、nx≧nyであり、dは前記セルロースエステルフィルムの厚み(nm)を表す。
【0021】
(10)前記(6)〜(9)のいずれか1項に記載の偏光板を用いたことを特徴とする液晶表示装置。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】延伸工程での延伸角度を説明する図である。
【図2】本発明に用いられるテンター工程の1例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明のセルロースエステルフィルムは、下記一般式(1)で表される芳香族末端エステル系化合物を含有することを特徴とする(以下、一般式(1)で表される芳香族末端エステル系化合物を、単に芳香族末端エステル系化合物と表す)。
一般式(1) B−(G−A)n−G−B
(式中、Bはベンゼンモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。)
一般式(1)中、Bで示されるベンゼンモノカルボン酸残基とGで示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基、Aで示されるアルキレンジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のポリエステル系化合物と同様の反応により得られる。
【0026】
本発明に係る芳香族末端エステル系化合物のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することが出来る。
【0027】
本発明の芳香族末端エステル系化合物の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
【0028】
また、本発明の芳香族末端エステル系化合物の炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0029】
また、本発明の芳香族末端エステル系化合物の炭素数6〜12のアリールグリコール成分としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0030】
本発明の芳香族末端エステル系化合物の炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。炭素数6〜12のアリールジカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0031】
本発明の芳香族末端エステル系化合物は、数平均分子量が、好ましくは300〜2000、より好ましくは500〜1500の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、水酸基価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、水酸基価は15mgKOH/g以下のものが好適である。本発明の芳香族末端エステル系化合物の分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定を行った。GPCで測定できない低分子量の化合物については、構造式から計算により求めた値を分子量とした。
【0032】
(芳香族末端エステル系化合物の酸価、水酸基価)
酸価とは、試料1g中に含まれる酸(分子末端に存在するカルボキシル基)を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいう。酸価及び水酸基価はJIS K0070に準拠して測定したものである。
【0033】
以下、本発明に係る芳香族末端エステル系化合物の合成例を示す。
【0034】
〈サンプルNo.1(芳香族末端エステル系化合物サンプル)〉
反応容器に、フタル酸820部(5モル)、1,2−プロピレングリコール608部(8モル)、安息香酸610部(5モル)及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.30部を一括して仕込み窒素気流中で攪拌下、還流凝縮器を付して過剰の1価アルコールを還流させながら、酸価が2以下になるまで130〜250℃で加熱を続け生成する水を連続的に除去した。次いで200〜230℃で6.65×103Pa〜最終的に4×102Pa以下の減圧下、留出分を除去し、この後濾過して次の性状を有する芳香族末端エステル系化合物を得た。得られた芳香族末端エステル系化合物は下記例示化合物(1)の構造を有していた。
粘度(25℃、mPa・s);19815
酸価;0.4。
【0035】
〈サンプルNo.2(芳香族末端エステル系化合物サンプル)〉
反応容器に、アジピン酸500部(3.5モル)、安息香酸305部(2.5モル)、ジエチレングリコール583部(5.5モル)及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.45部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステル系化合物を得た。得られた芳香族末端エステルは下記例示化合物(2)の構造を有していた。
粘度(25℃、mPa・s);90
酸価;0.05。
【0036】
〈サンプルNo.3(芳香族末端エステル系化合物サンプル)〉
反応容器にイソフタル酸570部(3.5モル)、安息香酸305部(2.5モル)、ジプロピレングリコール737部(5.5モル)及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.40部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステル系化合物を得た。得られた芳香族末端エステル系化合物は下記例示化合物(3)の構造を有していた。
粘度(25℃、mPa・s);33400
酸価;0.2。
【0037】
以下に、本発明に係る芳香族末端エステル系化合物の具体的化合物を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0038】
【化1】

【0039】
【化2】

【0040】
本発明に係る芳香族末端エステル系化合物の含有量は、セルロースエステルフィルム中に1〜20質量%含有することが好ましく、特に3〜11質量%含有することが好ましい。
【0041】
本発明では、更に多価アルコールエステル系化合物を含むことが好ましい。
【0042】
本発明で用いられる多価アルコールエステル系化合物は、2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなり、分子内に芳香族環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。
【0043】
前記多価アルコールエステル系化合物に用いられる、多価アルコールは、次の一般式(2)で表される。
一般式(2) R1−(OH)n
式中、R1はn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性またはフェノール性水酸基を表す。
【0044】
好ましい多価アルコールの例としては、例えば、以下のようなものを挙げることが出来るが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトールなどを挙げることが出来る。中でも、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0045】
前記多価アルコールエステル系化合物に用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸などを用いることが出来る。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると、透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることが出来るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることが出来る。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。酢酸を用いるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0047】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸などを挙げることが出来る。好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来る。好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などのベンゼン環を2個以上持つ芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来る。特に、安息香酸が好ましい。
【0048】
多価アルコールエステル系化合物の分子量は特に制限はないが、分子量300〜1500の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は一種類でもよいし、二種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。以下に、多価アルコールエステルの具体的化合物を示す。
【0049】
前記多価アルコール系化合物の含有量はセルロースエステルフィルム中に0〜15質量%含有することが好ましく、特に3〜10質量%含有することが好ましい。
【0050】
【化3】

【0051】
【化4】

【0052】
【化5】

【0053】
【化6】

【0054】
本発明に係るセルロースエステルフィルムは、上記芳香族末端エステル系化合物や多価アルコールエステル系化合物以外に、更に可塑剤を含有することも好ましい。
【0055】
上記芳香族末端エステル系化合物や多価アルコールエステル系化合物以外に、可塑剤を含有させることによって、前記化合物や可塑剤の溶出を少なくすることが出来る。その理由は明らかではないが、1種類当たりの添加量を減らすことが出来ることと、前記化合物と可塑剤及び前記化合物、可塑剤とセルロースエステルとの相互作用によって溶出が抑制されるものと思われる。
【0056】
本発明で用いることの出来る可塑剤は下記のものが例示出来るが、特にこれらのみに限定されるものではない。
【0057】
リン酸エステル系可塑剤では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等を用いることが出来る。
【0058】
これらの可塑剤は単独或いは2種以上混合して用いることが出来る。上記芳香族末端エステル系化合物や多価アルコールエステル系化合物と可塑剤の含有量は、それらの総量として、セルロースエステルに対して4〜20質量%が好ましく、6〜16質量%が更に好ましく、特に好ましくは7〜11質量%である。これらの添加物の添加量が多すぎると、フィルムが柔らかくなりすぎるため熱による弾性率の低下率が大きくなり、添加量が少なすぎるとフィルムの透湿性が低下する。
【0059】
本発明に用いられるセルロースエステルは、セルロースの低級脂肪酸エステルであることが好ましい。セルロースの低級脂肪酸エステルにおける低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味し、例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等や、特開平10−45804号、同8−231761号、米国特許第2,319,052号等に記載されているようなセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の混合脂肪酸エステルを用いることが出来る。上記記載の中でも、特に好ましく用いられるセルロースの低級脂肪酸エステルは、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートである。これらのセルロースエステルは単独或いは混合して用いることが出来る。
【0060】
セルローストリアセテートの場合には、平均酢化度(結合酢酸量)54.0〜62.5%のものが好ましく用いられ、更に好ましいのは平均酢化度が58.0〜62.5%のセルローストリアセテートである。
【0061】
セルローストリアセテート以外で好ましいセルロースエステルは、炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有し、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基の置換度をYとした時、下記式(I)及び(II)を同時に満たすセルロースエステルである。
(I)2.1≦X+Y≦2.9
(II)1.0≦X≦2.9
(但し、Xはアセチル基の置換度、Yは脂肪酸エステル基の置換度である。)
更に好ましくは、下記式(I)’及び(II)’を同時に満たすセルロースエステルであ
る。
(I)’ 2.4≦X+Y≦2.9
(II)’ 1.0≦X≦2.9
中でも1.0≦X≦2.0、0.5≦Y≦1.3のセルロースアセテートプロピオネートが好ましい。アシル基で置換されていない部分は、通常水酸基として存在しているものである。これらは公知の方法で合成することが出来る。これらアシル基置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法に準じて測定することができる。
【0062】
セルロースエステルは綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等を原料として合成されたセルロ−スエステルを単独或いは混合して用いることが出来る。特に、綿花リンター(以下、単にリンターとすることがある)から合成されたセルロ−スエステルを単独或いは混合して用いることが好ましい。
【0063】
本発明で用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値が1.4〜3.0であるセルロースエステルであることが好ましく、より好ましくは1.4〜2.5の範囲である。Mw/Mnをこの範囲にすることで、セルロースエステルフィルムを延伸した時の位相差の発現性が向上し、延伸時の白濁などが改善される。
【0064】
セルロースエステルの平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用いて公知の方法で測定することが出来る。これらを用いて数平均分子量、重量平均分子量を算出し、その比(Mw/Mn)を計算することが出来る。
【0065】
セルロースエステルの分子量は、数平均分子量(Mn)で30000〜200000のものが好ましく、40000〜170000のものが更に好ましい。セルロースエステルの分子量が大きいと、湿度によるリターデーション値の変化率が小さくなるが、分子量が大きすぎると、セルロースエステルの溶解液の粘度が高くなり過ぎ、生産性が低下する。
【0066】
高速液体クロマトグラフィーを用いた数平均分子量、重量平均分子量の測定条件は以下の通りである。
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806,K805,K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に得ることが好ましい。
【0067】
次に、本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法について説明する。本発明のセルロースエステルフィルムの製造は、セルロースエステル及び添加剤を溶剤に溶解させてドープ液を形成する工程、ドープ液を支持体上に流延する工程、流延したドープ液を乾燥する工程により行われる。
【0068】
ドープ液中のセルロースエステルの濃度は、濃い方が支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、セルロースエステルの濃度が濃すぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜50質量%が好ましく、更に好ましくは15〜35質量%である。
【0069】
ドープ液で用いられる溶剤は単独でも併用でもよいが、セルロースエステルの良溶剤と貧溶剤を混合して使用することが生産効率の点で好ましく、良溶剤が多い方がセルロースエステルの溶解性の点で好ましい。良溶剤と貧溶剤の混合比率の好ましい範囲は、良溶剤が70〜98質量%であり、貧溶剤が30〜2質量%である。
【0070】
良溶剤、貧溶剤とは、使用するセルロースエステルを単独で溶解するものを良溶剤、単独で膨潤するかまたは溶解しないものを貧溶剤と定義している。その為、セルロースエステルの平均酢化度によっては、良溶剤、貧溶剤が変わり、例えば、アセトンを溶剤として用いるときには、セルロースの酢酸エステル(結合酢酸量55%)、セルロースアセテートプロピオネートでは良溶剤になり、セルロースの酢酸エステル(結合酢酸量60%)では貧溶剤となってしまう。
【0071】
良溶剤は特に限定されないが、例えば、セルローストリアセテートの場合は、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類、セルロースアセテートプロピオネートの場合は、メチレンクロライド、アセトン、酢酸メチルなどが挙げられる。
【0072】
また、貧溶剤は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、アセトン、シクロヘキサノン等が好ましく用いられる。
【0073】
上記記載のドープ液を調製する時の、セルロースエステルの溶解方法としては、一般的な方法を用いることが出来る。加熱と加圧を組み合わせると、常圧における沸点以上に加熱できる。溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。また、セルロースエステルを貧溶剤と混合して湿潤或いは膨潤させた後、更に良溶剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
【0074】
加圧は窒素ガスなどの不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えば、ジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
【0075】
溶剤を添加しての加熱温度は、高い方がセルロースエステルの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度が高すぎると必要とされる圧力が大きくなり、生産性が悪くなる。好ましい加熱温度の範囲は45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70℃〜105℃の範囲が更に好ましい。また、圧力は設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。
【0076】
次に、このセルロースエステル溶液を、濾紙などの適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材としては、不溶物などを除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さすぎると、濾過材の目詰まりが発生しやすいという問題点がある。このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの範囲の濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの範囲の濾材が更に好ましい。
【0077】
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することが出来るが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレス等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。
【0078】
ドープ液の濾過は通常の方法で行うことが出来るが、溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過材前後の差圧(以下、濾圧とすることがある)の上昇が小さく、好ましい。好ましい温度範囲は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃の範囲であることが更に好ましい。濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることが更に好ましい。
【0079】
流延(キャスト)工程における支持体は、表面を鏡面仕上げしたステンレスの無端ベルトもしくはドラムが好ましく用いられる。キャスト工程の支持体の温度は、0℃〜溶剤の沸点未満の温度で、温度が高い方が乾燥速度が速く出来るので好ましいが、あまり高すぎると発泡したり、平面性が劣化する場合がある。好ましい支持体温度は0〜40℃であり、5〜30℃の支持体上に流延することが更に好ましい。支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水バットを支持体に接触させる方法がある。温水バットを用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は、目的の温度よりも高い温度の風を使う必要がある場合がある。
【0080】
セルロースエステルフィルムが良好な平面性を示すためには、支持体から剥離する際の残留溶媒量は、10〜120%が好ましく、更に好ましくは20〜40%または60〜120%であり、特に好ましくは20〜30%または70〜115%である。残留溶媒量は下記式で定義される。
残留溶媒量=((加熱処理前の質量−加熱処理後の質量)/(加熱処理後の質量))×100(%)
尚、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、フィルムを115℃で1時間の加熱処理を行うことを表す。
【0081】
また、セルロースエステルフィルムの乾燥工程においては、支持体より剥離したフィルムを更に乾燥し、残留溶媒量を3%以下にすることが好ましい、更に好ましくは0.5%以下である。フィルム乾燥工程では一般にロール懸垂方式か、テンター方式でフィルムを搬送しながら乾燥する方式が採られる。
【0082】
支持体より剥離した直後の残留溶剤量の多いところで、テンター方式で幅保持または延伸を行うことが、フィルムの平面性向上の点で好ましい。また、テンターの延伸倍率を大きくすると幅方向の吸水弾性率が大きくなる。好ましい延伸倍率は0〜40%であり、1〜35%が更に好ましい。延伸倍率0%とは幅保持のことであり、残留溶剤量が多い所では延伸と同様の効果を得ることが出来る。
【0083】
フィルムを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行う事が出来るが、簡便さの点で熱風で行うことが好ましい。
【0084】
乾燥温度は40〜150℃の範囲で段階的に高くしていくことが好ましく、50〜140℃の範囲で行うことが寸法安定性を良くするため更に好ましい。また、フィルムの軟化点±20℃の範囲で10〜40分間乾燥することが、吸水弾性率向上の点で好ましい。フィルムの軟化点±20℃の乾燥中に搬送張力を制御することで、流延方向の吸水弾性率をコントロールすることが出来る。好ましい搬送張力の範囲は80〜350N/mであり、150〜300N/mが更に好ましい。
【0085】
フィルムの厚さは特に限定されないが、例えば、10μm〜1mm程度のもの等任意の厚さのフィルムを作製することが出来る。好ましくは乾燥、延伸等の処理が終わった後の膜厚で10〜500μmが好ましく、特に30〜120μmが好ましい。
【0086】
本発明のセルロースエステルフィルムは、幅1〜4mのものが好ましく用いられる。
【0087】
本発明の構成により、平面性にも優れたセルロースエステルフィルムが得られるため、広幅のセルロースエステルフィルムで著しい効果が認められる。特に幅1.4〜4mのものが好ましく用いられ、特に好ましくは1.4〜2mである。4mを超えると搬送が困難となる。
【0088】
本発明のセルロースエステルフィルムには、必要に応じて紫外線吸収剤、染料、マット剤等の添加剤を添加してもよい。紫外線吸収剤は液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明においては、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0089】
本発明においては、分子内に芳香族環を2つ以上有する紫外線吸収剤が特に好ましく用いられる。用いられる紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体などが挙げられる。好ましく用いられる紫外線吸収剤は、透明性が高く、偏光板や液晶素子の劣化を防ぐ効果に優れたベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく、不要な着色がより少ないベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が特に好ましい。紫外線吸収剤の具体例として、例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のTINUVIN109、TINUVIN171、TINUVIN326、TINUVIN327、TINUVIN328等を好ましく用いることが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0090】
紫外線吸収剤は単独で用いてもよいし、2種以上の混合物であってもよい。また、紫外線吸収剤としては、高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることが出来、特に、特開平6−148430号記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
【0091】
紫外線吸収剤の添加方法は、アルコールやメチレンクロライド、ジオキソランなどの有機溶媒に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、または直接ドープ組成中に添加してもよい。無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースエステル中にディゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
【0092】
紫外線吸収剤の使用量は化合物の種類、使用条件などにより一様ではないが、セルロースエステルフィルムの乾燥膜厚が30〜200μmの場合は、セルロースエステルフィルムに対して0.5〜4.0質量%が好ましく、0.6g〜2.0質量%が更に好ましい。本発明においては、フィルムの黄色みを抑えるために青色染料を添加してもよい。好ましい染料としてはアンスラキノン系染料が挙げられる。アンスラキノン系染料は、アンスラキノンの1位から8位迄の位置に任意の置換基を有することが出来る。好ましい置換基としては、アニリノ基、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、または水素原子が挙げられる。これらの染料のフィルムへの添加量は、フィルムの透明性を維持するため0.1〜1000μg/m、好ましくは10〜100μg/mである。
【0093】
本発明には必要に応じてマット剤として、酸化珪素等の微粒子を加えてもよい。マット剤微粒子は有機物によって表面処理されていることが、フィルムのヘイズを低下できるため好ましい。表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサンなどが挙げられる。微粒子の平均径が大きい方がマット効果は大きく、平均径の小さい方は透明性に優れるため、微粒子の一次粒子の平均径は5〜50nmが好ましく、更に好ましくは7〜20nmである。
【0094】
酸化珪素の微粒子としては特に限定されないが、例えば、日本アエロジル(株)製のAEROSIL200、200V、300、R972、R972V、R972CF、R974、R202、R805、R812、OX50、TT600などが挙げられ、好ましくはAEROSIL200、200V、R972、R972V、R974、R202、R805、R812などが挙げられる。
【0095】
各種添加剤はドープ液にバッチ添加してもよいし、添加剤溶解液を別途用意してインライン添加してもよい。添加剤溶解液をインライン添加する場合は、ドープとの混合性を良くするため、少量のセルロースエステルを溶解するのが好ましい。好ましいセルロースエステルの量は、溶剤100質量部に対して1〜10質量部で、より好ましくは3〜5質量部である。
【0096】
本発明においてインライン添加、混合を行うためには、例えば、スタチックミキサー(東レエンジニアリング製)、SWJ(東レ静止型管内混合器 Hi−Mixer)等のインラインミキサー等が好ましく用いられる。
【0097】
(位相差フィルム)
液晶ディスプレイは、異方性を持つ液晶材料や偏光板を使用するために正面から見た場合に良好な表示が得られても、斜めから見ると表示性能が低下するという視野角の問題があり、性能向上のためにも視野角補償板が必要である。平均的な屈折率分布はセルの厚み方向で大きく、面内方向でより小さいものとなっている。その為補償板としては、この異方性を相殺できるもので、膜厚方向の屈折率が面内方向より小さな屈折率を持つ、いわゆる負の一軸性構造を持つものが有効であり、本発明のセルロースエステルフィルムはそのような機能を有する位相差フィルムとしても利用出来る。
【0098】
本発明では、前記セルロースエステルフィルムが延伸され、下記式で定義されるRoが23℃、55%RHの条件下で20〜300nm、Rtが23℃、55%RHの条件下で70〜400nmであることが位相差フィルムとして好ましい。
Ro=(nx−ny)×d
Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
(式中、nx、ny、nzはそれぞれ屈折率楕円体の主軸x、y、z方向の屈折率を表し、かつ、nx、nyはフィルム面内方向の屈折率を、nzはフィルムの厚み方向の屈折率を表す。また、nx≧nyであり、dはフィルムの厚み(nm)を表す。)
尚、レターデーション値Ro、Rtは自動複屈折率計を用いて測定することが出来る。例えば、KOBRA−21ADH(王子計測機器(株))を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が590nmで求めることが出来る。
【0099】
更にRoとRtの比が下記式を満たすことが好ましい。
2≦Rt/Ro≦5
本発明に係るセルロースエステルフィルムを作製する為の延伸工程(テンター工程ともいう)の一例を、図2を用いて説明する。
【0100】
図2において、工程Aでは、図示されていないフィルム搬送工程D0から搬送されてきたフィルムを把持する工程であり、次の工程Bにおいて、図1に示すような延伸角度でフィルムが幅手方向(フィルムの進行方向と直交する方向)に延伸され、工程Cにおいては、延伸が終了し、フィルムが把持したまま搬送される工程である。
【0101】
フィルム剥離後から工程B開始前及び/または工程Cの直後に、フィルム幅方向の端部を切り落とすスリッターを設けることが好ましい。特に、A工程開始直前にフィルム端部を切り落とすスリッターを設けることが好ましい。幅手方向に同一の延伸を行った際、特に工程B開始前にフィルム端部を切除した場合とフィルム端部を切除しない条件とを比較すると、前者がより配向角分布を改良する効果が得られる。
【0102】
これは、残留溶媒量の比較的多い剥離から幅手延伸工程Bまでの間での長手方向の意図しない延伸を抑制した効果であると考えられる。
【0103】
テンター工程において、配向角分布を改善するため意図的に異なる温度を持つ区画を作ることも好ましい。また、異なる温度区画の間にそれぞれの区画が干渉を起こさないように、ニュートラルゾーンを設ける事も好ましい。
【0104】
尚、延伸操作は多段階に分割して実施してもよく、流延方向、幅手方向に二軸延伸を実施することが好ましい。また、二軸延伸を行う場合にも同時二軸延伸を行ってもよいし、段階的に実施してもよい。この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行うことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。即ち、例えば、次のような延伸ステップも可能である。
・流延方向に延伸−幅手方向に延伸−流延方向に延伸−流延方向に延伸
・幅手方向に延伸−幅手方向に延伸−流延方向に延伸−流延方向に延伸
また、同時2軸延伸には、一方向に延伸し、もう一方を張力を緩和して収縮させる場合も含まれる。同時2軸延伸の好ましい延伸倍率は幅方向に×1.05〜×1.5倍で長手方向(流延方向)に×0.8〜×1.3倍であり、特に幅方向に×1.1〜×1.5倍、長手方向に×0.8〜×0.99倍とすることが好ましい。特に好ましくは幅方向に×1.1〜×1.4倍、長手方向に×0.9〜×0.99倍である。
【0105】
また、本発明における「延伸方向」とは、延伸操作を行う場合の直接的に延伸応力を加える方向という意味で使用する場合が通常であるが、多段階に二軸延伸される場合に、最終的に延伸倍率の大きくなった方(即ち、通常遅相軸となる方向)の意味で使用されることもある。特に、寸法変化率に関する記載の場合の単に「延伸方向」という表現の場合には主として後者の意味で使用される。残留溶媒量は前記式により表される。
【0106】
セルロースエステルフィルムの延伸操作を行うことによる80℃、90%RH条件下における寸法安定性の改善のためには、残留溶媒存在下、かつ加熱条件下にて延伸操作を行うことが好ましい。
【0107】
フィルムを幅手方向に延伸する場合には、フィルムの幅手方向で光学遅相軸の分布(以下、配向角分布)が悪くなることはよく知られている。RthとRoの値を一定比率とし、かつ、配向角分布を良好な状態で幅手延伸を行うため、工程A、B、Cで好ましいフィルム温度の相対関係が存在する。工程A、B、C終点でのフィルム温度をそれぞれTa℃、Tb℃、Tc℃とすると、Ta≦Tb−10であることが好ましい。また、Tc≦Tbであることが好ましい。Ta≦Tb−10かつ、Tc≦Tbであることが更に好ましい。
【0108】
工程Bでのフィルム昇温速度は、配向角分布を良好にするために、0.5〜10℃/sの範囲が好ましい。
【0109】
工程Bでの延伸時間は、80℃、90%RH条件における寸法変化率を小さくするためには短時間である方が好ましい。但し、フィルムの均一性の観点から、最低限必要な延伸時間の範囲が規定される。具体的には1〜10秒の範囲であることが好ましく、4〜10秒がより好ましい。また、工程Bの温度は40〜180℃、好ましくは100〜160℃である。
【0110】
上記テンター工程において、熱伝達係数は一定でもよいし、変化させてもよい。熱伝達係数としては、41.9〜419×10J/mhrの範囲の熱伝達係数を持つことが好ましい。更に好ましくは、41.9〜209.5×10J/mhrの範囲であり、41.9〜126×10J/mhrの範囲が最も好ましい。
【0111】
80℃、90%RH条件下における寸法安定性を良好にするため、上記工程Bでの幅手方向への延伸速度は、一定で行ってもよいし、変化させてもよい。延伸速度としては、50〜500%/minが好ましく、更に好ましくは100〜400%/min、200〜300%/minが最も好ましい。
【0112】
テンター工程において、雰囲気の幅手方向の温度分布が少ない事が、フィルムの均一性を高める観点から好ましく、テンター工程での幅手方向の温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。上記温度分布を少なくすることにより、フィルムの幅手での温度分布も小さくなることが期待出来る。
【0113】
工程Cに於いて、寸法変化を抑えるため幅方向に緩和する事が好ましい。具体的には、前工程のフィルム幅に対して95〜99.5%の範囲になるようにフィルム幅を調整する事が好ましい。
【0114】
テンター工程で処理した後、更に後乾燥工程(以下、工程D1)を設けるのが好ましい。50〜140℃で行うのが好ましい。更に好ましくは、80〜140℃の範囲であり、最も好ましくは110〜130℃の範囲である。
【0115】
工程D1で、フィルムの幅方向の雰囲気温度分布が少ない事は、フィルムの均一性を高める観点から好ましい。±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。
【0116】
工程D1でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時及び工程D0での残留溶媒量、工程D1での温度などに影響を受けるが、80〜200N/mが好ましく、140〜200N/mが更に好ましい。140〜160N/mが最も好ましい。
【0117】
工程D1での搬送方向へフィルムの伸びを防止する目的で、テンションカットロールを設けることが好ましい。乾燥終了後、巻き取り前にスリッターを設けて端部を切り落とすことが良好な巻姿を得るため好ましい。
【0118】
本発明の偏光板において、表示特性の向上のためにリターデーションをフィルムに付与するために、セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸して、セルロースエステルフィルムのリターデーションを制御することが好ましい。
【0119】
本発明の目的を達成するために、具体的には本発明の偏光板に用いる位相差フィルムは、流延製膜法により作製した30μm〜150μm以下の膜厚で好ましく、これは本発明の効果に加えてフィルムの物理的な強度と製造面の両立の観点に由来する。該フィルムの膜厚において、より好ましくは40μm〜120μm以下の範囲である。
【0120】
また、本発明に係るセルロースエステルフィルムにおいては、幅手方向の弾性率が流延方向の弾性率以上となることが好ましく、幅手方向の弾性率が流延方向の弾性率の1.0〜1.5倍となることが更に好ましい。セルロースエステルフィルムにおける弾性率は、延伸の程度によって制御できるため、幅手方向及び流延方向の延伸倍率を適宜調整することで、幅手方向及び流延方向の弾性率の比を制御することができる。
【0121】
(偏光板)
本発明の偏光板について述べる。
【0122】
偏光板は一般的な方法で作製することが出来る。本発明のセルロースエステルフィルムの裏面側をアルカリ鹸化処理し、処理したセルロースエステルフィルムを、ヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光膜(偏光子)の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。もう一方の面にも該セルロースエステルフィルムを用いても、別の偏光板保護フィルムを用いてもよい。本発明のセルロースエステルフィルムに対して、もう一方の面に用いられる偏光板保護フィルムは、前記位相差フィルムであることが好ましい。或いは更にディスコチック液晶、棒状液晶、コレステリック液晶などの液晶化合物を配向させて形成した光学異方層を有している位相差フィルムを兼ねる偏光板保護フィルムを用いることが好ましい。例えば、特開2003−98348記載の方法で光学異方性層を形成することが出来る。本発明のセルロースエステルフィルムと組み合わせて使用することによって、平面性に優れ、安定した視野角拡大効果を有する偏光板を得ることが出来る。
【0123】
本発明のセルロースエステルフィルムの偏光膜を挟んだ反対側には、膜厚40〜120μmの別の偏光板保護フィルムを用いることが出来、市販のセルロースエステルフィルムとして、コニカミノルタタックKC8UX2M、KC4UX、KC5UX、KC4UY、KC8UY、KC12UR、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC8UCR−5、KC8UX−RHA(コニカミノルタオプト(株)製)等も好ましく用いられる。
【0124】
偏光板の主たる構成要素である偏光膜とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光膜は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。偏光膜は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。該偏光膜の面上に、本発明のセルロースエステルフィルムの片面を貼り合わせて偏光板を形成する。好ましくは完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせる。
【0125】
偏光膜は一軸方向(通常は長手方向)に延伸されているため、偏光板を高温高湿の環境下に置くと延伸方向(通常は長手方向)は縮み、延伸と垂直方向(通常は幅方向)には伸びる。偏光板保護用フィルムの膜厚が薄くなるほど偏光板の伸縮率は大きくなり、特に偏光膜の延伸方向の収縮量が大きい。通常、偏光膜の延伸方向は偏光板保護用フィルムの流延方向(MD方向)と貼り合わせるため、偏光板保護用フィルムを薄膜化する場合は、特に流延方向の伸縮率を抑える事が重要である。本発明に係るセルロースエステルフィルムは極めて寸法安定に優れる為、このような偏光板保護フィルムとして好適に使用される。
【0126】
即ち60℃、90%RHの条件での耐久性試験によっても波打ち状のむらが増加することはなく、裏面側に位相差フィルムを有する偏光板であっても、耐久性試験後に視野角特性が変動することなく良好な視認性を提供することが出来る。
【0127】
(表示装置)
本発明の偏光板を表示装置に組み込むことによって、種々の視認性に優れた本発明の表示装置を作製することが出来る。本発明のセルロースエステルフィルムは反射型、透過型、半透過型LCD或いはTN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型(PVA型、MVA型)、IPS型等の各種駆動方式のLCDで好ましく用いられる。また、本発明のセルロースエステルフィルムは、平面性に優れ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、電子ペーパー等の各種表示装置にも好ましく用いられる。特に画面が30型以上の大画面の表示装置では、色むらや波打ちむらが少なく、長時間の鑑賞でも目が疲れないという効果があった。
【実施例】
【0128】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0129】
実施例1
《セルロースエステルフィルム101の作製》
用いるセルロースエステル、可塑剤(ここでは、前記芳香族末端エステル化合物及び多価アルコールエステル化合物も可塑剤の一種として表す)、紫外線吸収剤、微粒子について表1に示す。
【0130】
【表1】

【0131】
【化7】

【0132】
〈微粒子分散液〉
微粒子 11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
【0133】
〈微粒子添加液〉
メチレンクロライドを入れた溶解タンクにセルロースエステルBを添加し、加熱して完全に溶解させた後、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した。濾過後のセルロースエステル溶液を充分に攪拌しながら、ここに微粒子分散液をゆっくりと添加した。更に、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液を調製した。
メチレンクロライド 99質量部
セルロースエステルB 4質量部
微粒子分散液 11質量部。
【0134】
下記組成の主ドープ液を調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースエステルBを攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解し、更に可塑剤及び紫外線吸収剤を添加、溶解させた。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。
【0135】
主ドープ液100質量部と微粒子添加液2質量部となるように加えて、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi−Mixer、SWJ)で十分に混合し、次いでベルト流延装置を用い、幅2mのステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体上で、残留溶媒量が110%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体から剥離した。剥離の際に張力をかけて縦(MD)延伸倍率が1.02倍となるように延伸し、次いで、テンターでウェブ両端部を把持し、幅手(TD)方向の延伸倍率が1.3倍となるように延伸した延伸開始時の残留溶媒は30%であった。延伸後、その幅を維持したまま数秒間保持し、幅方向の張力を緩和させた後幅保持を解放し、更に125℃に設定された第3乾燥ゾーンで30分間搬送させて乾燥を行い、幅1.5m、かつ端部に幅1cm、高さ8μmのナーリングを有する膜厚40μmの本発明のセルロースエステルフィルム101を作製した。
【0136】
〈主ドープ液の組成〉
メチレンクロライド 300質量部
エタノール 57質量部
セルロースエステルB 100質量部
可塑剤(C) 5.5質量部
可塑剤(D) 5.5質量部
紫外線吸収剤(A) 0.4質量部
紫外線吸収剤(B) 0.7質量部
紫外線吸収剤(C) 0.6質量部。
【0137】
樹脂、可塑剤、紫外線吸収剤、乾燥温度、幅手方向の延伸倍率を表2、表3に記載のように変更した以外は、上記と同様にして本発明のセルロースエステルフィルム102〜110、比較のセルロースエステルフィルム201、202を作製した。
【0138】
【表2】

【0139】
【表3】

【0140】
得られた各々のサンプルについて、以下の要領でフィルムのMD(流延方向)、TD(幅手方向)の吸湿膨張係数、湿度変化に対するリターデーション値変動を測定した。
【0141】
(吸湿膨張係数)
吸湿膨張係数(1/%RH)は下記式で表される。下記において、L4は23℃のある相対湿度(RH4、本実施例では80%RH)に変化させた時のフィルム試料の長さ(mm)、L0は標準状態(23℃、55%RH)におけるフィルム試料の原寸(mm)、RH0は標準相対湿度(%RH)、RH4は上記の変化させた相対湿度(%RH)である。β={(L4−L0)/L0}/(RH4−RH0)
吸湿膨張係数は相対湿度1%当たりの寸法の変化であり、湿度の変動によって変化が大きいフィルムか小さいフィルムかを表す。本発明において、吸湿膨張係数は6×10−5(1/%RH)以下であることが好ましく、3×10-5(1/%RH)以下であることがより好ましく、1×10-5(1/%RH)以下であることが更に好ましい。
【0142】
(湿度変化に対するリターデーション値変動)
作製したセルロースエステルフィルムの各湿度によるリターデーション値を各々求め、その値よりRt(a)を求めた。
【0143】
Rt(a)変動は、Rt(b)は23℃、20%RHにて5時間以上調湿した後、同環境で測定したRt値を測定しこれをRt(b)とし、Rt(c)は同じフィルムを続けて23℃、80%RHにて5時間以上調湿した後、同環境で測定したRt値を求めこれをRt(c)とし、下記の式よりRt(a)を求めた。
Rt(a)=|Rt(b)−Rt(c)|
更に調湿後の試料を再度23℃55%RHの環境にて測定を行い、この変動が可逆変動であることを確認した。
【0144】
実施例1で作製したセルロースエステルフィルムの上記評価結果を表3に示す。
【0145】
本発明のセルロースエステルフィルム101〜110は比較フィルムに比べて、吸湿膨張係数が小さいため、温度湿度に関する寸法変化、リターデーション値Rt変動が小さく偏光板保護フィルムとして優れていることが分る。また、セルロースエステルフィルム101の作製において、可塑剤Cを同量の芳香族末端エステルサンプルNo.2および4〜12それぞれに変更した以外はセルロースエステルフィルム101と同様にして作成した各セルロースエステルフィルムは、いずれもセルロースエステルフィルム101と同様に偏光板保護フィルムとして優れた結果を示した。
【0146】
実施例2
《偏光板の作製》
厚さ、120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し偏光膜を得た。
【0147】
次いで、下記工程1〜5に従って偏光膜と前記セルロースエステルフィルム101〜110、201、202と、裏面側には下記セルロースエステルフィルムを偏光板保護フィルムとして貼り合わせて偏光板を作製した。
【0148】
工程1:60℃の2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し、次いで水洗し乾燥して、偏光子と貼合する側を鹸化したセルロースエステルフィルムを得た。
【0149】
工程2:前記偏光膜を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒浸漬した。
【0150】
工程3:工程2で偏光膜に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これを工程1で処理したセルロースエステルフィルムの上にのせて配置した。
【0151】
工程4:工程3で積層したセルロースエステルフィルム101〜110、201、202と偏光膜と裏面側セルロースエステルフィルムを圧力20〜30N/cm2、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
【0152】
工程5:80℃の乾燥機中に工程4で作製した偏光膜とセルロースエステルフィルム101〜110、201、202と裏面側セルロースエステルフィルムとを貼り合わせた試料を2分間乾燥し、偏光板101〜110、201、202を作製した。
【0153】
(裏面側セルロースエステルフィルムの作製)
〈微粒子分散液〉
微粒子 11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
【0154】
〈微粒子添加液〉
メチレンクロライドを入れた溶解タンクにセルロースエステルBを添加し、加熱して完全に溶解させた後、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した。濾過後のセルロースエステル溶液を充分に攪拌しながら、ここに上記微粒子分散液をゆっくりと添加した。更に、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液を調製した。
メチレンクロライド 99質量部
セルロースエステルB 4質量部
微粒子分散液 11質量部。
【0155】
下記組成の主ドープ液を調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースエステル(アセチル基置換度2.9、Mn80000、Mw/Mn2.4)を攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解し、更に可塑剤及び紫外線吸収剤を添加、溶解させた。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。
【0156】
主ドープ液100質量部と微粒子添加液5質量部となるように加えて、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi−Mixer、SWJ)で十分に混合し、次いでベルト流延装置を用い、幅2mのステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体上で、残留溶媒量が110%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体から剥離した。剥離の際に張力をかけて縦(MD)延伸倍率が1.1倍となるように延伸し、次いで、テンターでウェブ両端部を把持し、幅手(TD)方向の延伸倍率が1.1倍となるように延伸した。延伸後、その幅を維持したまま数秒間保持し、幅方向の張力を緩和させた後幅保持を解放し、更に125℃に設定された第3乾燥ゾーンで30分間搬送させて乾燥を行い、幅1.5m、かつ端部に幅1cm、高さ8μmのナーリングを有する膜厚80μmのセルロースエステルフィルムを作製した。
【0157】
〈主ドープ液の組成〉
メチレンクロライド 450質量部
エタノール 30質量部
セルロースエステル(アセチル基置換度2.9、Mn80000、Mw/Mn2.4) 100質量部
可塑剤(C) 2.2質量部
可塑剤(D) 9.5質量部
紫外線吸収剤(A) 0.4質量部
紫外線吸収剤(B) 0.7質量部
紫外線吸収剤(C) 0.6質量部
得られた偏光板の各々について光漏れ量、リワーク性を測定した。結果を表4に示す。
【0158】
(光漏れ量(耐久性))
作製した2枚の偏光板をクロスニコルに配置して、(株)日立製作所製の分光光度計U3100を用いて590nmの透過率(T1)を測定した。更に、偏光板を2枚とも80℃の条件で500時間処理した後、上記と同様にしてクロスニコルに配置した時の透過率(T2)を測定して、サーモ処理前後の透過率の変化を調べ、次式に従って光漏れ量を測定した。
光漏れ量(%)=T2(%)−T1(%)
光漏れ量は0〜5%であれば実用上問題ないが、0〜4%であることが好ましく、更に好ましくは0〜3%であり、0〜1(%)であることが特に好ましい。
【0159】
(リワーク性(偏光板収率))
作製した偏光板を20cm×20cmの大きさの正方形に断裁し、アクリル系接着剤を用いてガラス基板と貼り合わせる。次いで、貼り合わせた偏光板を角の部分から5Nの強さでガラスから剥がす。この作業を1種類のサンプルについて100枚の偏光板で行い、偏光板に裂け目が入って、完全に剥離されなかった偏光板の枚数を数える。リワーク性は以下の基準でランク付けする。
○ :0〜5枚
○△:6〜10枚
△ :11〜15枚
× :16枚以上
リワーク性は△レベル以上であれば実用上問題ないが、○△レベル以上であることが好ましく、○レベルであることが特に好ましい。
【0160】
【表4】

【0161】
上表から、本発明の偏光板101〜110はリワーク性、光漏れに優れた偏光板であることが明らかである。また、偏光板101の作製において、使用したセルロースエステルフィルム101の可塑剤Cを同量の芳香族末端エステルサンプルNo.2および4〜12それぞれに変更した以外は偏光板101と同様にして作製した各偏光板は、いずれも偏光板101と同様に偏光板として優れた結果を示した。
【0162】
実施例3
《液晶表示装置の作製》
視野角測定を行う液晶パネルを以下のようにして作製し、液晶表示装置としての特性を評価した。
【0163】
SONY製20型ディスプレイKLV−20AP2の予め貼合されていた両面の偏光板を剥がして、上記作製した偏光板101〜110、201、202をそれぞれ液晶セルのガラス面に貼合した。
【0164】
その際、その偏光板の貼合の向きは、前記セルロースエステルフィルム101〜110、201、202の面が、液晶セル側となるように、かつ、予め貼合されていた偏光板と同一の方向に吸収軸が向くように行い、液晶表示装置101〜110、201、202を各々作製した。また、使用した偏光板は、性能がばらつきやすい長尺セルロースエステルフィルムの端の部分から切り出したものを使用した。
【0165】
(視野角劣化)
23℃55%RHの環境でELDIM社製EZ−Contrast160Dを用いて液晶表示装置の視野角測定を行った。続いて23℃20%RH、さらに23℃80%RHの環境下で、作製した液晶表示装置(市販のパネル+自作楕円偏光板)の視野角を測定し下記基準にて評価した。最後に23℃55%RHの環境でもう一度視野角測定を行い、前記測定の際の変化が可逆変動であることを確認した。尚、これらの測定は、液晶表示装置を当該環境に5時間置いてから測定を行った。
○:視野角変動が全くない
△:視野角変動が認められる
×:視野角変動が非常に大きい。
【0166】
(視認性の評価)
上記作製した各液晶表示装置について、60℃、90%RHの条件で100時間放置した後、23℃、55%RHに戻した。その結果、表示装置の表面を観察すると本発明の偏光板を用いたものは、平面性に優れていたのに対し、比較の表示装置は細かい波打ち状のむらが認められ、長時間見ていると目が疲れやすかった。
◎:表面に波打ち状のむらは全く認められない
○:表面にわずかに波打ち状のむらが認められる
△:表面に細かい波打ち状のむらがやや認められる
×:表面に細かい波打ち状のむらが認められる。
【0167】
液晶表示装置101〜110、201、202の評価結果を上記表4に示す。結果から本発明の液晶表示装置101〜110は視野角劣化、視認性に優れた液晶表示装置であることが確認された。また、液晶表示装置101の作製において、使用したセルロースエステルフィルム101の可塑剤Cを同量の芳香族末端エステルサンプルNo.2および4〜12それぞれに変更した以外は液晶表示装置101と同様にして作製した各液晶表示装置は、いずれも液晶表示装置101と同様に液晶表示装置として優れた結果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明により、湿度変動によるリターデーション値の可逆的な変動を改善したセルロースエステルフィルム、かつ該セルロースエステルフィルムを用いた、光漏れ、視野角特性、視認性に優れた偏光板及び液晶表示装置を提供することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とするセルロースエステルフィルム。
一般式(1) B−(G−A)n−G−B
式中、Bはベンゼンモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜3のアルキレングリコール残基または炭素数が4〜6のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜10のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。
【請求項2】
前記一般式(1)の化合物の分子量が300〜2000であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項3】
更に多価アルコールエステル系化合物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項4】
下記式(I)、(II)を同時に満足するセルロースエステルを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム。
(I)2.1≦X+Y≦2.9
(II)1.0≦X≦2.9
但し、Xはアセチル基の置換度、Yは脂肪酸エステル基の置換度である。
【請求項5】
幅が1.4〜4mであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項6】
偏光子の少なくとも一方の面に、請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルムを設けることを特徴とする偏光板。
【請求項7】
前記偏光子の少なくとも一方の面に設けられたセルロースエステルフィルムが偏光板用保護フィルムであることを特徴とする請求項6に記載の偏光板。
【請求項8】
前記偏光子の少なくとも一方の面に設けられたセルロースエステルフィルムが位相差フィルムであることを特徴とする請求項6に記載の偏光板。
【請求項9】
前記位相差フィルムの、下記式で表されるRoが、23℃、55%RHの条件下で20nm以上300nm以下であり、下記式で表されるRtが、23℃、55%RHの条件下で70nm以上400nm以下であることを特徴とする請求項8に記載の偏光板。
Ro=(nx−ny)×d
Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
式中、nx、ny、nzはそれぞれ屈折率楕円体の主軸x、y、z方向の屈折率を表し、かつ、nx、nyは前記セルロースエステルフィルム面内方向の屈折率を、nzは前記セルロースエステルフィルムの厚み方向の屈折率を表す。また、nx≧nyであり、dは前記セルロースエステルフィルムの厚み(nm)を表す。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載の偏光板を用いたことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−32529(P2013−32529A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−194311(P2012−194311)
【出願日】平成24年9月4日(2012.9.4)
【分割の表示】特願2007−528275(P2007−528275)の分割
【原出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】