説明

セルロースエステルフィルム、及びそれを用いた偏光板、表示装置

【課題】本発明の目的は、高倍率の延伸時の破断、及び切断によるクラックの発生が抑制されたセルロースエステルフィルムを提供することにあり、更にそれを用いた透明耐久性に優れた偏光板、表示装置を提供することにある。
【解決手段】フィルム中に少なくとも2種類の樹脂からなる粒子X1、X2を含有し、それぞれの粒子のメチレンクロライド溶媒中での体積膨張率をα1、α2とした時に、1.1≦α1<2.0であり、かつα2≧2.0であることを特徴とするセルロースエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルフィルム、及びそれを用いた偏光板、表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学用途に用いられる各種のポリマーフィルムの多くは、一般には流延ダイを用いてドープを支持体上に流延させ、これを支持体から剥ぎ取った後、乾燥することにより得られている。これは、溶液流延法と呼ばれている代表的なフィルムの製造方法である。
【0003】
このようにして得られたフィルムは、所定のサイズに切断される。この切断は、例えば、乾燥後のフィルムを所定の幅にするために、巻き取り軸等に巻き取る前の切断の場合もあるし、さらに、巻き取られた長尺状フィルムをシート状となるように、所定の長さに切断する場合もある。また、巻き取り前あるいは巻き取られた長尺状フィルムに塗布液を塗布してから、耳部を切断したり、シート状等に切断する場合などがある。
【0004】
この切断の工程においては、フィルムの切断性が悪いと、切断面にクラックが発生して歩留まり低下や、搬送故障や製品故障を引き起こすことがある。その他、フィルムの切断性が悪いと、フィルム製品縁となる切断部が変形したり、あるいは製品部が切れてしまうことがある。
【0005】
上記のような光学分野においては、その用途に応じてポリマーフィルムの延伸処理をすることが必要とされており、このように延伸されたポリマーフィルムはその延伸加工により脆くなってしまうために切断性が減退するので、クラックの発生頻度がより高くなるという問題がある。
【0006】
また、大型モニターやTV用途で使用されるポリマーフィルムは、画面の大型化に伴い、年々必要とされるフィルムの幅が大きくなってきており、広幅の製品を作るために高倍率の延伸処理が必要なケースが増えてきている。そのため、延伸処理時のフィルム破断の危険性も増加してきている。
【0007】
フィルムは搬送時や巻き取って保存する際の滑り性を付与するために、マット剤とよばれるシリカなどの微粒子が添加されており、特に搬送時のフィルムの摩擦抵抗を小さくすることにより搬送故障やフィルム破断等を防ぎフィルム生産性が確保されている。
【0008】
ただしマット剤を入れることによって、フィルムの透明性が損なわれてしまうため、透明性の確保のために粒子の種類を変えたり、あるいは凝集をコントロールしたり、これまでさまざまな工夫がなされてきた。
【0009】
例えば、特許文献1では、疎水化処理して凝集を制御した二酸化ケイ素をセルロースアシレートドープに添加し、滑り性と共に透明性を向上させている。
【0010】
また、特許文献2では、平均粒子径0.1〜0.5μmの弾性体の樹脂粒子を含有するセルロースエステルフィルムが記載されており、延伸時に粒子周りにできる空壁(クラック)を小さくすることにより、滑り性と共に透明性を確保している。
【0011】
しかしながら、広幅の製品を作るために高倍率の延伸処理を行う場合においては、上記マット剤の添加技術では、切断面のクラック、切断部変形、またはフィルム破断に対しては問題を十分に解決できず、早急な改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−70240号公報
【特許文献2】特開2009−114371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って本発明の目的は、高倍率の延伸時の破断、及び切断によるクラックの発生が抑制されたセルロースエステルフィルムを提供することにあり、更にそれを用いた透明耐久性に優れた偏光板、表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は以下の構成により達成される。
【0015】
1.フィルム中に少なくとも2種類の樹脂からなる粒子X1、X2を含有し、それぞれの粒子のメチレンクロライド溶媒中での体積膨張率をα1、α2とした時に、1.1≦α1<2.0であり、かつα2≧2.0であることを特徴とするセルロースエステルフィルム。
【0016】
2.前記粒子が、平均1次粒子径が50nm以下の架橋(メタ)アクリレート系樹脂からなることを特徴とする前記1に記載のセルロースエステルフィルム。
【0017】
3.前記樹脂からなる粒子X1、X2の屈折率の差が、0.001以上、0.020以下であることを特徴とする前記1または2に記載のセルロースエステルフィルム。
【0018】
4.前記樹脂からなる粒子X1、X2の含有比率(質量比)が、X1:X2=50:50〜95:5であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム。
【0019】
5.前記1〜4のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルムを少なくとも一方の面に有することを特徴とする偏光板。
【0020】
6.前記1〜4のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム、または前記5に記載の偏光板を有することを特徴とする表示装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高倍率の延伸時の破断、及び切断によるクラックの発生が抑制されたセルロースエステルフィルムを提供することができ、更にそれを用いた透明耐久性に優れた偏光板、表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
本発明のセルロースエステルフィルムは、フィルム中に少なくとも2種類の樹脂からなる粒子(本発明では簡単に樹脂粒子とも呼称する)X1、X2を含有し、それぞれの粒子のメチレンクロライド溶媒中での体積膨張率をα1、α2とした時に、1.1≦α1<2.0であり、かつα2≧2.0であることを特徴とする。
【0024】
一般的にフィルムに延伸処理を行った場合、延伸方向に残留応力が生じるが、特定の体積膨張率を有する2種類の樹脂からなる粒子を含有することによって、該粒子の周りに、同一種の粒子では得られない微小な残留応力ベクトルの偏りが生じ、この偏りが存在することによって延伸時の破断やクラックの進行に歯止めをかけ、高倍率の延伸時の破断、及び切断時のクラックの発生が抑制されたセルロースエステルフィルムが得られるものと推定される。
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0026】
本発明に係る樹脂からなる粒子は、少なくとも2種類の粒子X1、X2であり、それぞれの粒子のメチレンクロライド溶媒中での体積膨張率をα1、α2とした時に、1.1≦α1<2.0であり、かつα2≧2.0であることが特徴である。
【0027】
<体積膨張率の測定方法>
本発明において下記体積膨張率を測定する際の粒子径は、ゼータ電位粒子径測定装置(ゼータサイザー3000HSA)を用いて測定し、光散乱強度から算出したZ平均粒子径の値である。
【0028】
なお、本発明においてはメチレンクロライド中で体積膨張する樹脂粒子を用いる。
【0029】
体積膨張率は、樹脂粒子を6質量%の濃度でメチレンクロライドに分散し、分散後15分以内に測定した粒子径(r1)と、その分散液を室温下(25℃)、静置状態で経時して粒子径の増加が停止し平衡状態になったときの粒径(r2)から次式にて求めることができる。
【0030】
体積膨張率={(r2/r1)−1}
<体積膨張率の制御方法>
本発明に係る樹脂からなる粒子は、単官能モノマー(以下、「単に重合性のモノマー」とも呼ぶ)と架橋性モノマーの共重合体からなる架橋性粒子であることが好ましく、体積膨張率は粒子の架橋率(粒子形成に与える全モノマーに対する架橋性モノマーの含有率)によって制御することができる。
【0031】
(重合性モノマー)
本発明に係る樹脂からなる粒子の製造に使用することができる重合性モノマーとしては、
(a) メチルアクリレート、メチルメタクリレート(MMA)、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−ヘキシルメタクリレート及びシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの炭素数1〜6のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、なかでも炭素数1〜6のアルキル基を有するアルキルメタクリレートが好ましく;スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、ヘプチルスチレン及びオクチルスチレンなどのアルキルスチレン、フロロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ヨウ化スチレン;ニトロスチレン、アセチルスチレン及びメトキシスチレン等のスチレン系単量体;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート;
(b) アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、クロロ−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー等のマレイミド基含有モノマー;
が好ましい例として挙げられる。
【0032】
(架橋性モノマー)
本発明に係る樹脂からなる粒子の製造に使用することができる架橋性モノマーとしては、
(c) ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリヒドロキシメチルメタントリアクリレート、1,1,1−トリヒドロキシメチルエタントリアクリレート、1,1,1−トリヒドロキシメチルプロパントリアクリレート、トリビニルベンゼン等の重合性不飽和結合を2つ以上有するモノマーが使用できる。
【0033】
なかでも、(a)として、メチルメタクリレート、スチレン、グリシジルメタクリレート;(b)として、2−ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸;(c)として、ジビニルベンゼンを使用することが好ましい。
【0034】
本発明に係る粒子の具体例としては、例えば架橋ポリメチルメタアクリレート粒子、架橋メチルメタアクリレート−スチレン共重合体粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋メチルメタアクリレート−メチルアクリレート共重合粒子、架橋アクリレート−スチレン共重合粒子等の樹脂粒子が好ましく挙げられる。なかでも架橋スチレン粒子、架橋ポリメチルメタアクリレート粒子、架橋メチルメタアクリレート−スチレン共重合体粒子等が好ましい。
【0035】
本発明に係る樹脂からなる粒子の屈折率は1.40〜1.65が好ましく、更に好ましくは1.45〜1.60であり、最も好ましくは1.45〜1.56であり、上記重合性モノマー、及び架橋性モノマーの種類を選択することで調整できる。
【0036】
基材樹脂であるセルロースエステルとの屈折率との差は0.00〜0.15が好ましく、更に好ましくは0.00〜0.10、最も好ましくは0.005〜0.05である。基材樹脂自身との屈折率差を大きくしすぎると内部散乱性が大きくなり過ぎ、ヘイズが上昇し、正面コントラストの低下を招きやすい。また、本発明に係る樹脂からなる粒子X1、X2の屈折率の差が、0.001以上、0.020以下であることが内部散乱を抑制する観点から好ましい。
【0037】
粒子の屈折率は、市販の標準屈折液(株式会社モリテックス、カーギル標準屈折液)の中から、屈折率が1.43〜1.75の範囲の液を、約0.01刻みで用意した。これらの標準屈折液中に、粒子をそれぞれ超音波洗浄機を用いて分散させ、分散液の波長588nmにおける透過率が最も高くなった時の屈折液の屈折率を、それぞれ粒子の屈折率とする。
【0038】
<粒子の製造方法>
本発明に係る樹脂からなる粒子の製造法は、懸濁重合、乳化重合、ソープフリー乳化重合、分散重合、シード重合等のいずれの方法で製造されてもよい。これらの製造法は、例えば「高分子合成の実験法」(大津隆行、木下雅悦共著、化学同人社)130頁及び146頁から147頁の記載、「合成高分子」1246〜290、同31〜108等に記載の方法、及び特許番号第2543503号、同第3508304号、同第2746275号、同第3521560号、同第3580320号、特開平10−1561号、特開平7−2908号、特開平5−297506号、特開2002−145919号等に記載の方法を参考にすることができる。
【0039】
粒子の形状は、真球あるいは不定形のいずれも使用できるが、拡散性の制御性、塗布面状の均質性の点から真球状の単分散性粒子が好ましい。
【0040】
本発明に係る樹脂からなる粒子は、平均1次粒子径が50nm以下であることが好ましい。少なくとも2種類の粒子X1、X2の平均1次粒子径は同じでも異なっていてもよい。平均1次粒子径は5〜30nmであることが、本発明の効果を得る上でより好ましい。
【0041】
(平均1次粒子径の測定方法)
本発明に係る粒子の平均1次粒子径は、透過電子顕微鏡などを用いて観察することができる。例えば、透過電子顕微鏡((株)日立製作所製 H−9000UHR型)を使用し、加速電圧200kV、倍率5万倍にて1次粒子を観察し、その写真像の粒子をフェレ径にて200個カウントし、その平均径を平均1次粒子径(TEM径)として算出することができる。
【0042】
本発明に係る樹脂からなる粒子の添加量は、セルロースエステルフィルム1m当たり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gがより好ましく、0.08〜0.16gが更に好ましい。添加量は、セルロースエステルフィルムの透明性と本発明の効果に基づき設計されるものである。
【0043】
また、樹脂からなる粒子X1、X2の含有比率(質量比)は、X1:X2=50:50〜95:5であることが滑り性と透明性をバランスさせながら、本発明の効果を発揮する上で好ましい。
【0044】
本発明に係る樹脂からなる粒子の添加は、1次粒子のまま添加するか、または例えばエタノール等の適当な溶剤に該粒子を分散させて2次粒子化した分散液を作製し、セルロースエステル樹脂を溶解させたドープに直接、または別系統からインライン添加によって行うことができる。該2次粒子の平均粒子径は0.01〜1.0μmの範囲が滑り性の観点から好ましい。
【0045】
<セルロースエステル>
本発明のセルロースエステルフィルムに用いられるセルロースエステルは、特に制限されるものではないが、総アシル基置換度が2.50〜2.95のセルロースエステルであることが好ましい。
【0046】
セルロースエステルは、セルロースの低級脂肪酸エステルであることが好ましい。セルロースエステルの低級脂肪酸エステルにおける低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味し、例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等、また特開平10−45804号、同8−231761号、米国特許第2,319,052号等に記載されているセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の混合脂肪酸エステルなどがセルロースの低級脂肪酸エステルを用いることができる。
【0047】
セルロースエステルのアシル基置換度の測定方法としては、ASTM−D−817−96に準じて実施することができる。
【0048】
上記脂肪酸の中でも、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートがより好ましい。
【0049】
好ましいセルロースの低級脂肪酸エステルは、炭素数2〜4のアシル基を置換基として有し、アセチル基置換度をX、プロピオニル基またはブチリル基置換度をYとすると
2.50≦X+Y≦2.95
0.1≦Y≦1.1の範囲にあるものが用いられるが、0.5≦Y≦1.0の範囲がさらに好ましい。プロピオニル基またはブチリル基置換度を上げることは、吸湿性の改善や弾性率を低下させるため好ましく、また、ブチリル基よりプロピオニル基の方が耐熱性に優れるため好ましい。
【0050】
セルロースエステルは、重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除した分子量分布Mw/Mnが1.4〜3.0であることが好ましい。更に好ましくは、1.4〜2.2である。この範囲にすることで、延伸した時のヘイズなどが向上する。
【0051】
セルロースアセテートの分子量は、数平均分子量(Mn)で30000〜200000のものが用いられる。35000〜70000のものが更に好ましい。数平均分子量(Mn)が30000未満だと、製膜時にシワが入りやすくなるので好ましくなく、数平均分子量(Mn)が200000を超えるとドープ粘度が高くなるので生産上好ましくない。
【0052】
セルロースエステルの平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用いて公知の方法で測定することができる。これを用いて数平均分子量Mn、重量平均分子量Mwを算出し、その比(Mw/Mn)を計算することができる。
【0053】
測定条件は以下の通りである。
【0054】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806,K805,K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に得ることが好ましい。
【0055】
セルロースエステルは綿花リンターから合成されたセルロースエステルと木材パルプから合成されたセルロースエステル、それ以外の原料から合成されたセルロースエステルを単独或いは混合して用いることができる。
【0056】
セルロースエステルの代わりに、セルロースエステルフィルムの返材を用いても良い。返材とは、セルロースエステルフィルムを細かく粉砕した物で、セルロースエステルフィルムを製膜するときに発生する、フィルムの両サイド部分を切り落とした物や、擦り傷などでスペックアウトしたセルロースフィルム原反が使用される。
【0057】
返材の使用比率は、主ドープ等の処方値の固形分に対して0〜70質量%が好ましく、10〜50質量%が更に好ましく、20〜40質量%が最も好ましい。返材使用量の多い方が、濾過性に優れ、返材使用量の少ない方が、滑り性に優れるため、上記範囲にすることが好ましい。
【0058】
返材を使用した場合は、その使用量に対応して、可塑剤、紫外線吸収剤、微粒子などセルロースエステルフィルムに含まれる添加剤は減量して、最終的なセルロースエステルフィルム組成が設計値になるように調整を行う。
【0059】
<可塑剤>
本発明のセルロースエステルフィルムは、本発明の効果を得る上で必要に応じて可塑剤を含有することができる。可塑剤は特に限定されないが、好ましくは、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤及び多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、アクリル系可塑剤等から選択される。そのうち、可塑剤を2種以上用いる場合は、少なくとも1種は多価アルコールエステル系可塑剤であることが好ましい。
【0060】
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
【0061】
本発明に好ましく用いられる多価アルコールは次の一般式(a)で表される。
【0062】
一般式(a) R1−(OH)n
但し、R1はn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性、及び/またはフェノール性水酸基を表す。
【0063】
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0064】
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0065】
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0066】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることが更に好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0067】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0068】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0069】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、メトキシ基或いはエトキシ基などのアルコキシ基を1〜3個を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。
【0070】
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0071】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0072】
以下に、多価アルコールエステルの具体的化合物を例示する。
【0073】
【化1】

【0074】
【化2】

【0075】
【化3】

【0076】
【化4】

【0077】
グリコレート系可塑剤は特に限定されないが、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が好ましく用いることができる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0078】
フタル酸エステル系可塑剤としては、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が挙げられる。
【0079】
クエン酸エステル系可塑剤としては、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
【0080】
脂肪酸エステル系可塑剤として、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。
【0081】
リン酸エステル系可塑剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が挙げられる。
【0082】
多価カルボン酸エステル化合物としては、2価以上、好ましくは2価〜20価の多価カルボン酸とアルコールのエステルよりなる。また、脂肪族多価カルボン酸は2〜20価であることが好ましく、芳香族多価カルボン酸、脂環式多価カルボン酸の場合は3価〜20価であることが好ましい。
【0083】
多価カルボン酸は次の一般式(b)で表される。
【0084】
一般式(b) R2(COOH)m(OH)n
(但し、R2は(m+n)価の有機基、mは2以上の正の整数、nは0以上の整数、COOH基はカルボキシル基、OH基はアルコール性またはフェノール性水酸基を表す)
好ましい多価カルボン酸の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような3価以上の芳香族多価カルボン酸またはその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸のような脂肪族多価カルボン酸、酒石酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸のようなオキシ多価カルボン酸などを好ましく用いることができる。特にオキシ多価カルボン酸を用いることが、保留性向上などの点で好ましい。
【0085】
本発明に用いることのできる多価カルボン酸エステル化合物に用いられるアルコールとしては特に制限はなく公知のアルコール、フェノール類を用いることができる。例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。また、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコールまたはその誘導体、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールまたはその誘導体なども好ましく用いることができる。
【0086】
多価カルボン酸としてオキシ多価カルボン酸を用いる場合は、オキシ多価カルボン酸のアルコール性またはフェノール性の水酸基をモノカルボン酸を用いてエステル化しても良い。好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0087】
脂肪族モノカルボン酸としては炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。
【0088】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸などを挙げることができる。
【0089】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0090】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などのベンゼン環を2個以上もつ芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に酢酸、プロピオン酸、安息香酸であることが好ましい。
【0091】
多価カルボン酸エステル化合物の分子量は特に制限はないが、分子量300〜1000の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることが更に好ましい。保留性向上の点では大きい方が好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0092】
本発明に用いることのできる多価カルボン酸エステルに用いられるアルコール類は一種類でも良いし、二種以上の混合であっても良い。
【0093】
本発明に用いることのできる多価カルボン酸エステル化合物の酸価は1mgKOH/g以下であることが好ましく、0.2mgKOH/g以下であることが更に好ましい。酸価を上記範囲にすることによって、リターデーションの環境変動も抑制されるため好ましい。
【0094】
(酸価)
酸価とは、試料1g中に含まれる酸(試料中に存在するカルボキシル基)を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいう。酸価はJIS K0070に準拠して測定したものである。
【0095】
特に好ましい多価カルボン酸エステル化合物の例を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が挙げられる。
【0096】
(糖エステル化合物)
本発明のセルロースエステルフィルムは、下記一般式(I)で表される化合物(本発明では糖エステル化合物と呼称する)を含有することが、延伸によるヘイズを防ぐ上で好ましい。
【0097】
【化5】

【0098】
本発明に用いられる一般式(I)で表される化合物の平均置換度は3.0〜6.0であることが、延伸処理においてヘイズ上昇を抑制し安定な位相差を発現する上でも有効である。平均置換度はより好ましくは4.5〜6.0の範囲である。
【0099】
本発明において、一般式(I)で表される化合物の置換度とは、一般式(I)に含まれる8つの水酸基のうち、水素以外の置換基で置換されている数を表し、すなわち、一般式(I)のR〜Rのうち、水素以外の基を含む数を表す。したがって、R〜Rがすべて水素以外の置換基により置換された場合に、置換度は最大値の8.0となり、R〜Rがすべて水素原子である場合には、0.0となる。
【0100】
一般式(I)で表される構造を有する化合物は、水酸基の数、OR基の数が固定された単一種の化合物を合成することは困難であり、式中の水酸基の数、OR基の異なる成分が数種類混合された化合物となることが知られているため、本発明における一般式(I)の置換度としては、平均置換度を用いることが適当であり、常法により高速液体クロマトグラフィーによって置換度分布を示すチャートの面積比から平均置換度を測定することができる。
【0101】
一般式(I)において、R〜Rは、置換又は無置換のアルキルカルボニル基、或いは、置換又は無置換のアリルカルボニル基を表し、R〜Rは、同じであっても、異なっていてもよい。
【0102】
本発明に用いられる糖エステル化合物の合成原料の糖の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0103】
グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、あるいはアラビノース、ラクトース、スクロース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノースあるいはケストース挙げられる。
【0104】
この他、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース、キシロトリオース、ガラクトシルスクロースなども挙げられる。
【0105】
本発明に用いられる糖エステル化合物の合成時に用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。用いられるカルボン酸は1種類でもよいし2種以上の混合であってもよい。
【0106】
好ましい脂肪族モノカルボン酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0107】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0108】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環に1〜5個のアルキル基もしくはアルコキシ基を導入した芳香族モノカルボン酸、ケイ皮酸、ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
【0109】
具体例の一部を以下に示すが、これらは、R〜Rをすべて同じ置換基Rとした場合であって、本発明はこれらに限定されない。
【0110】
【化6】

【0111】
【化7】

【0112】
【化8】

【0113】
本発明に用いられる糖エステル化合物は、糖エステルに、アシル化剤(エステル化剤ともいう、例えば、アセチルクロライドの酸ハロゲン化物、無水酢酸等の無水物)を反応させることによって製造することが可能であり、置換度の分布は、アシル化剤の量、添加タイミング、エステル化反応時間の調節によって成されるが、置換度違いの糖エステル化合物の混合、あるいは純粋に単離した置換度違いの化合物を混合することにより、目的の平均置換度、置換度4以下の成分を調整することができる。
【0114】
(合成例:本発明に係る化合物の合成)
【0115】
【化9】

【0116】
撹拌装置、還流冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた四頭コルベンに、ショ糖34.2g(0.1モル)、無水安息香酸135.6g(0.6モル)、ピリジン284.8g(3.6モル)を仕込み、撹拌下に窒素ガス導入管から窒素ガスをバブリングさせながら昇温し、70℃で5時間エステル化反応を行った。
【0117】
次に、コルベン内を4×10Pa以下に減圧し、60℃で過剰のピリジンを留去した後に、コルベン内を1.3×10Pa以下に減圧し、120℃まで昇温させ、無水安息香酸、生成した安息香酸の大部分を留去した。そして、次にトルエン1L、0.5質量%の炭酸ナトリウム水溶液300gを添加し、50℃で30分間撹拌後、静置して、トルエン層を分取した。最後に、分取したトルエン層に水100gを添加し、常温で30分間水洗後、トルエン層を分取し、減圧下(4×10Pa以下)、60℃でトルエンを留去させ、化合物A−1、A−2、A−3、A−4及びA−5等の混合物である糖エステル化合物1を得た。
【0118】
得られた混合物を高速液体クロマトグラフィー−質量分析(HPLC−MS)で解析したところ、A−1が1.2質量%、A−2が13.2質量%、A−3が14.2質量%、A−4が35.4質量%、A−5等が40.0質量%であった。平均置換度は5.2であった。
【0119】
同様に、無水安息香酸158.2g(0.7モル)、146.9g(0.65モル)、135.6g(0.6モル)、124.3g(0.55モル)と当モルのピリジンとを反応させて、表1記載のような成分の糖エステルを得た。
【0120】
【表1】

【0121】
ついで、得られた混合物の一部を、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製することで、それぞれ純度100%のA−1、A−2、A−3、A−4及びA−5等を得た。
【0122】
なお、A−5等とは、置換度4以下のすべての成分、つまり置換度4、3、2、1の化合物の混合物であることを意味する。また、平均置換度は、A−5等を置換度4として計算した。
【0123】
本発明においては、ここで作製した方法により所望の平均置換度に近い糖エステル及び単離したA−1〜A−5等を組み合わせ添加することにより、平均置換度を調整した。
【0124】
<HPLC−MSの測定条件>
1)LC部
装置:日本分光(株)製カラムオーブン(JASCO CO−965)、ディテクター(JASCO UV−970−240nm)、ポンプ(JASCO PU−980)、デガッサ−(JASCO DG−980−50)
カラム:Inertsil ODS−3 粒子径5μm 4.6×250mm(ジーエルサイエンス(株)製)
カラム温度:40℃
流速:1ml/min
移動相:THF(1%酢酸):HO(50:50)
注入量:3μl
2)MS部
装置:LCQ DECA(Thermo Quest(株)製)
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化(ESI)法
Spray Voltage:5kV
Capillary温度:180℃
Vaporizer温度:450℃
本発明に係る偏光板保護フィルムは、上記糖エステル化合物を、偏光板保護フィルム中に1〜20質量%、特に3〜15質量%含むことが好ましい。この範囲内であれば、本発明の優れた効果を呈すると共に、原反保管中におけるブリードアウトなどもなく好ましい。
【0125】
(ポリエステル系化合物)
本発明に係るセルロースエステルフィルムは、下記一般式(II)で表されるポリエステル系化合物を含有することが、延伸によるヘイズを防ぎ、破断等を抑制する上で好ましい。
【0126】
ポリエステル系化合物は、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するポリエステル系化合物を用いることが好ましい。ポリエステル系化合物としては、下記一般式(II)で表せる芳香族末端エステル系可塑剤を用いることが好ましい。
【0127】
一般式(II) B−(G−A)n−G−B
(式中、Bはベンゼンモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。)
一般式(II)中、Bで示されるベンゼンモノカルボン酸残基とGで示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基、Aで示されるアルキレンジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のポリエステル系可塑剤と同様の反応により得られる。
【0128】
エステル系可塑剤のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0129】
エステル系可塑剤の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。特に炭素数2〜12のアルキレングリコールがセルロースエステルとの相溶性に優れているため、特に好ましい。
【0130】
また、上記芳香族末端エステルの炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0131】
芳香族末端エステルの炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。炭素数6〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0132】
エステル系可塑剤は、数平均分子量が、好ましくは300〜1500、より好ましくは400〜1000の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、水酸基価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、水酸基価は15mgKOH/g以下のものである。
【0133】
以下、芳香族末端エステル系可塑剤の合成例を示す。
【0134】
〈サンプルNo.1(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器にフタル酸410部、安息香酸610部、ジプロピレングリコール737部、及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.40部を一括して仕込み窒素気流中で攪拌下、還流凝縮器を付して過剰の1価アルコールを還流させながら、酸価が2以下になるまで130〜250℃で加熱を続け生成する水を連続的に除去した。次いで200〜230℃で1.33×10Pa〜最終的に4×10Pa以下の減圧下、留出分を除去し、この後濾過して次の性状を有する芳香族末端エステル系可塑剤を得た。
【0135】
粘度(25℃、mPa・s);43400
酸価 ;0.2
〈サンプルNo.2(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、フタル酸410部、安息香酸610部、エチレングリコール341部、及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.35部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
【0136】
粘度(25℃、mPa・s);31000
酸価 ;0.1
〈サンプルNo.3(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、フタル酸410部、安息香酸610部、1,2−プロパンジオール418部、及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.35部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
【0137】
粘度(25℃、mPa・s);38000
酸価 ;0.05
〈サンプルNo.4(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、フタル酸410部、安息香酸610部、1,3−プロパンジオール418部、及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.35部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
【0138】
粘度(25℃、mPa・s);37000
酸価 ;0.05
以下に、芳香族末端エステル系可塑剤の具体的化合物を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0139】
【化10】

【0140】
【化11】

【0141】
【化12】

【0142】
本発明に係るセルロースエステルフィルムは、上記ポリエステル系化合物を、フィルム中に1〜20質量%、特に3〜11質量%含むことが好ましい。この範囲内であれば、本発明の優れた効果を呈すると共に、破断等の故障を抑制することができる。
【0143】
(紫外線吸収剤)
本発明に係るセルロースエステルフィルムは、紫外線吸収剤を含有することもできる。紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0144】
本発明に用いられる紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。
【0145】
例えば、5−クロロ−2−(3,5−ジ−sec−ブチル−2−ヒドロキシルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、(2−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン等があり、また、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328等のチヌビン類があり、これらはいずれもBASFジャパン社製の市販品であり好ましく使用できる。
【0146】
本発明で好ましく用いられる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤であり、特に好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、である。
【0147】
以下に本発明に用いられるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0148】
UV−1:2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
UV−2:2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール
UV−3:2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
UV−4:2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール
UV−5:2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
UV−6:2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)
UV−7:2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール
UV−8:2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール(TINUVIN171)
UV−9:オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物(TINUVIN109)
以下にベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0149】
UV−10:2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン
UV−11:2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン
UV−12:2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン
UV−13:ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)
この他、1,3,5トリアジン環を有する化合物等の円盤状化合物も紫外線吸収剤として好ましく用いられる。
【0150】
本発明のセルロースエステルフィルムは紫外線吸収剤を2種以上を含有することも好ましい。
【0151】
また、紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることができ、特に特開平6−148430号記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
【0152】
紫外線吸収剤の添加方法は、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやメチレンクロライド、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の有機溶媒或いはこれらの混合溶媒に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、または直接ドープ組成中に添加してもよい。無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースエステル中にディゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
【0153】
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、偏光板保護フィルムの乾燥膜厚が30〜200μmの場合は、偏光板保護フィルムに対して0.5〜10質量%が好ましく、0.6〜4質量%が更に好ましい。
【0154】
(酸化防止剤)
酸化防止剤は劣化防止剤ともいわれる。高湿高温の状態に液晶画像表示装置などがおかれた場合には、セルロースエステルフィルムの劣化が起こる場合がある。酸化防止剤は、例えば、セルロースエステルフィルム中の残留溶媒量のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸等によりセルロースエステルフィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、前記セルロースエステルフィルム中に含有させるのが好ましい。
【0155】
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また、例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
【0156】
これらの化合物の添加量は、セルロース誘導体に対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。
【0157】
また本発明において、セルロースエステルフィルム中に本発明の効果を阻害しない範囲で従来の微粒子マット剤を含有することができる。微粒子のマット剤としては、例えば二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機微粒子や架橋高分子微粒子を含有させることが好ましい。中でも二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを小さくできるので好ましい。二酸化ケイ素の微粒子としてはアエロジル(株)製のAEROSIL 200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812,OX50、TT600等を挙げることが出来、好ましくはAEROSIL 200V、R972、R972V、R974、R202、R812である。これらのマット剤は2種以上併用してもよい。2種以上併用する場合、任意の割合で混合して使用することができる。この場合、平均粒径や材質の異なるマット剤、例えばAEROSIL 200VとR972Vを質量比で0.1:99.9〜99.9〜0.1の範囲で使用できる。
【0158】
<セルロースエステルフィルムの製造方法>
本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法について述べる。
【0159】
本発明におけるセルロースエステルドープの調製方法について述べる。セルロースエステルに対する良溶媒を主とする有機溶媒に溶解釜中でフレーク状のセルロースエステルを攪拌しながら溶解し、ドープを形成する。溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号、同9−95557号または同9−95538号公報に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号公報に記載の如き高圧で行う方法等種々の溶解方法がある。溶解後ドープを濾材で濾過し、脱泡してポンプで次工程に送る。ドープ中のセルロースエステルの濃度は10〜35質量%程度である。更に好ましくは、15〜25質量%である。本発明に有用なポリマーをセルロースエステルドープ中に含有させるには、予め有機溶媒に該ポリマーを溶解してから添加、セルロースエステルドープに直接添加等、添加方法については、制限なく行うことができる。この場合、ポリマーがドープ中で白濁したり、相分離したりしないように添加する。添加量については、前記の通りである。
【0160】
セルロースエステルに対する良溶媒としての有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、ギ酸エチル、アセトン、シクロヘキサノン、アセト酢酸メチル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、塩化メチレン、ブロモプロパン等を挙げることが出来、酢酸メチル、アセトン、塩化メチレンを好ましく用いられる。しかし最近の環境問題から非塩素系の有機溶媒の方が好ましい傾向にある。また、これらの有機溶媒に、メタノール、エタノール、ブタノール等の低級アルコールを併用すると、セルロースエステルの有機溶媒への溶解性が向上したりドープ粘度を低減できるので好ましい。特に沸点が低く、毒性の少ないエタノールが好ましい。本発明に係るドープに使用する有機溶媒は、セルロースエステルの良溶媒と貧溶媒を混合して使用することが、生産効率の点で好ましく、良溶媒と貧溶媒の混合比率の好ましい範囲は、良溶媒が70〜98質量%であり、貧溶媒が2〜30質量%である。本発明に用いられる良溶媒、貧溶媒とは、使用するセルロースエステルを単独で溶解するものを良溶媒、単独では溶解しないものを貧溶媒と定義している。本発明に係るドープに使用する貧溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、アセトン、シクロヘキサノン等を好ましく使用し得る。本発明に有用なエステル系可塑剤に対しても、有機溶媒の選定は、セルロースエステルの良溶媒を用いるのが好ましい。前記のように、低分子可塑剤を使用する場合には、通常の添加方法で行うことが出来、ドープ中に直接添加しても、予め有機溶媒に溶解してからドープ中に注ぎ入れてもよい。
【0161】
本発明において、前記のような種々の添加剤をセルロースエステルドープに添加する際、セルロースエステルドープと各種添加剤を少量のセルロースエステルとを溶解させた溶液にしてインライン添加し混合を行うことも出来好ましい。例えば、スタチックミキサーSWJ(東レ静止型管内混合器 Hi−Mixer)(東レエンジニアリング製)のようなインラインミキサーを使用するのが好ましい。インラインミキサーを用いる場合、セルロースエステルを高圧下で濃縮溶解したドープに適用するのが好ましく、加圧容器の種類は特に問うところではなく、所定の圧力に耐えることが出来、加圧下で加熱、攪拌が出来ればよい。
【0162】
本発明において、セルロースエステルドープは濾過することによって異物、特に液晶画像表示装置において、画像と認識しまごう異物は除去しなければならい。偏光板保護フィルムの品質は、この濾過によって決まるといってよい。濾過に使用する濾材は絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生しやすく、濾材の交換を頻繁に行わなければならず、生産性を低下させるという問題点ある。このため、本発明のセルロースエステルドープの濾材は、絶対濾過精度0.008mm以下のものが好ましく、0.001〜0.008mmの範囲がより好ましく、0.003〜0.006mmの範囲の濾材が更に好ましい。濾材の材質には特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック繊維製の濾材やステンレス繊維等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。本発明のセルロースエステルドープの濾過は通常の方法で行うことができるが、溶媒の常圧での沸点以上でかつ溶媒が沸騰しない範囲の温度で加圧下加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の差圧(以下、濾圧とすることがある)の上昇が小さく、好ましい。好ましい温度範囲は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃の範囲であることが更に好ましい。濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6×10Pa以下であることが好ましく、1.2×10Pa以下であることがより好ましく、1.0×10Pa以下であることが更に好ましい。原料のセルロースにアシル基の未置換若しくは低置換度のセルロースエステルが含まれていると異物故障(以下輝点とすることがある)が発生することがある。輝点は直交状態(クロスニコル)の2枚の偏光板の間にセルロースエステルフィルムを置き、光を片側から照射して、その反対側から光学顕微鏡(50倍)で観察すると、正常なセルロースエステルフィルムであれば、光が遮断されていて、黒く何も見えないが、異物があるとそこから光が漏れて、スポット状に光って見える現象である。輝点の直径が大きいほど液晶画像表示装置とした場合実害が大きく、50μm以下であることが好ましく、10μm以下がより好ましく、更に8μm以下が好ましい。尚、輝点の直径とは、輝点を真円に近似して測定する直径を意味する。輝点は上記の直径のものが400個/cm以下であれば実用上問題ないが、300個/cm以下が好ましく、200個/cm以下がより好ましい。このような輝点の発生数及び大きさを減少させるために、細かい異物を十分濾過する必要がある。また、特開2000−137115号公報に記載のような、一度製膜したセルロースエステルフィルムの粉砕品をドープにある割合再添加して、セルロースエステル及びその添加剤の原料とする方法は輝点を低減することができるため好ましく用いることができる。
【0163】
次に、セルロースエステルドープを金属支持体上に流延する工程、金属支持体上での乾燥工程及びウェブを金属支持体から剥離する剥離工程について述べる。金属支持体は無限に移行する無端の金属ベルト或いは回転する金属ドラムであり、その表面は鏡面となっている。流延工程は、上記の如きドープを加圧型定量ギヤポンプを通して加圧ダイに送液し、流延位置において、金属支持体上に加圧ダイからドープを流延する工程である。その他の流延する方法は流延されたドープ膜をブレードで膜厚を調節するドクターブレード法、或いは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、口金部分のスリット形状を調整出来、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があるが、何れも好ましく用いられる。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。膜厚の調節には、所望の厚さになるように、ドープ濃度、ポンプの送液量、ダイの口金のスリット間隙、ダイの押し出し圧力、金属支持体の速度等をコントロールするのがよい。
【0164】
金属支持体上での乾燥工程は、ウェブ(金属支持体上に流延した以降のドープ膜の呼び方をウェブとする)を支持体上で加熱し溶媒を蒸発させる工程である。溶媒を蒸発させるには、ウェブ側及び支持体裏側から加熱風を吹かせる方法、支持体の裏面から加熱液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等がある。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。また、ウェブの膜厚が薄ければ乾燥が早い。金属支持体の温度は全体が同じでも、位置によって異なっていてもよい。
【0165】
本発明に適した金属支持体上での乾燥方法は、例えば、金属支持体温度を0〜40℃、好ましくは5〜30℃として流延するのが好ましい。ウェブに当てる乾燥風は30〜45℃程度が好ましいが、これに限定されない。
【0166】
剥離工程は、金属支持体上で有機溶媒を蒸発させて、金属支持体が一周する前にウェブを剥離する工程で、その後ウェブは乾燥工程に送られる。金属支持体からウェブを剥離する位置のことを剥離点といい、また剥離を助けるロールを剥離ロールという。ウェブの厚さにもよるが、剥離点でのウェブの残留溶媒量(下記式)があまり大き過ぎると剥離し難かったり、逆に支持体上で充分に乾燥させてから剥離すると、途中でウェブの一部が剥がれたりすることがある。通常、残留溶媒量が20〜150質量%でウェブの剥離が行われる。本発明において好ましい剥離残留溶媒量は20〜40質量%または60〜120質量%で、特に好ましくは20〜30質量%または70〜115質量%である。製膜速度を上げる方法(残留溶媒量ができるだけ多いうちに剥離するため製膜速度を上げることができる)として、残留溶媒量が多くとも剥離できるゲル流延法(ゲルキャスティング)がある。その方法としては、ドープ中にセルロースエステルに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。また、ドープ中に金属塩を加える方法もある。支持体上でゲル化させ膜を強くすることによって、剥離を早め製膜速度を上げることができる。残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブが柔らか過ぎると剥離時平面性を損なったり、剥離張力によるツレや縦スジが発生し易く、経済速度と品質との兼ね合いで残留溶媒量を決められる。
【0167】
本発明で用いる残留溶媒量は下記の式で表せる。
【0168】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0169】
また、セルロースエステルフィルムの乾燥工程においては、支持体より剥離したフィルムを更に乾燥し、残留溶媒量を2.0質量%以下にすることが好ましい、より好ましくは1.0質量%、更に好ましくは、0.5質量%以下である。
【0170】
ウェブ乾燥工程ではロールを千鳥状に配置したロール乾燥装置、ウェブの両端をクリップで把持しながら、幅保持或いは若干幅方向に延伸するテンター乾燥装置でウェブを搬送しながら乾燥する方式が採られる。本発明においては、テンター乾燥装置で支持体より剥離した後任意の過程で、また任意の残留溶媒量の多いところで、幅保持または延伸することによって光学性能を良好ならしめることが好ましい。ウェブを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行う。簡便さの点で熱風で行うのが好ましい。乾燥温度は40〜150℃の範囲で段階的に高くしていくことが好ましく、50〜140℃の範囲で行うことが更に好ましい。
【0171】
尚、例えばウェブの両端をクリップ等で把持するテンター方式による延伸操作は多段階に分割して実施してもよく、流延方向、幅手方向に二軸延伸を実施することも好ましい。また、二軸延伸を行う場合にも同時二軸延伸を行ってもよいし、段階的に実施してもよい。この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行うことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。
【0172】
また、同時2軸延伸には、一方向に延伸し、もう一方を張力を緩和して収縮させる場合も含まれる。同時2軸延伸の好ましい延伸倍率は幅方向に×1.05〜×2.0倍で長手方向(流延方向)に×0.8〜×1.5倍であり、特に幅方向に×1.1〜×1.8倍、長手方向に×0.9〜×1.3倍とすることが好ましい。特に好ましくは幅方向に×1.2〜×1.5倍、長手方向に×0.9〜×1.1倍である。
【0173】
本発明に係る樹脂からなる粒子の効果は延伸することによってその効果を発揮する。1.0倍では差が見られないが、1.05倍以上でその効果が見られ、1.25倍以上で顕著な差が見られ、1.4倍以上で最もヘイズの差が大きくなり、コントラスト改善に効果が得られる。
【0174】
セルロースエステルフィルムの膜厚は薄い方が前記製造時に用いられる溶媒(ドープ製造)である例えば、残留メチレンクロライド等の減量手段として効果が大きい。
【0175】
また、セルロースエステルフィルムの膜厚は薄い方が、出来上がった偏光板が薄くなり、液晶ディスプレイの薄膜化が容易になるため好ましいが、薄過ぎると、透湿度や、引き裂き強度などが劣化する。また、位相差フィルムとしてのリターデーション等が得にくくなるので、これらを満たすセルロースエステルフィルムの膜厚は30〜80μmの範囲であることが好ましい。
【0176】
セルロースエステルフィルムの幅は、1.4m以上の広幅であることが好ましく、好ましくは1.5m〜3mの範囲が、生産性の観点から大サイズの液晶表示装置に好ましい。
【0177】
本発明のセルロースエステルフィルムは前記延伸操作を行い複屈折性を制御した位相差フィルムであることが好ましい。
【0178】
本発明の延伸されたセルロースエステルフィルムは、位相差フィルムとして使用することもでき、その場合は下記式(I)により定義されるリターデーション値Roが20〜100nmでかつ下記式(II)により定義にされるリターデーション値Rtが70〜400nmの範囲にあることが好ましい。
【0179】
式(I) Ro=(nx−ny)×d
式(II) Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
式中、nxはフィルム面内の屈折率が最も大きい方向の屈折率、nyはnxに直角な方向でのフィルム面内の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚み(nm)をそれぞれ表す。
【0180】
リターデーション値における特に好ましい範囲は、Roは45〜75(nm)であり、Rtは70〜200(nm)であり、更に好ましくは100〜150(nm)である。
【0181】
リターデーション値を上記範囲にすることで、特に偏光板用位相差フィルムとしての光学性能を十分に満足することができる。
【0182】
尚、リターデーション値Ro、Rtは自動複屈折率計を用いて測定することができる。例えば、KOBRA−21ADH(王子計測機器(株))を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が590nmで求めることができる。
【0183】
本発明のセルロースエステルフィルムの遅相軸または進相軸はフィルム面内に存在し、製膜方向とのなす角をθ1とするとθ1は−1°以上+1°以下であることが好ましく、−0.5°以上+0.5°以下であることがより好ましい。このθ1は配向角として定義でき、θ1の測定は、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器)を用いて行うことができる。θ1が各々上記関係を満たすことは、表示画像において高い輝度を得ること、光漏れを抑制または防止することに寄与でき、カラー液晶表示装置においては忠実な色再現を得ることに寄与できる。
【0184】
<偏光板>
本発明の偏光板は、前記本発明のセルロースエステルフィルムを偏光板保護フィルムとして用いて、偏光子の少なくとも一方の面に貼合した偏光板であることが特徴である。
【0185】
本発明の偏光板は一般的な方法で作製することができる。本発明のセルロースエステルフィルムの偏光子側をアルカリ鹸化処理し、沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。もう一方の面には該セルロースエステルフィルムを用いても、また他の偏光板保護フィルムを貼合することもできる。例えば、市販のセルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタック KC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UCR3、KC8UCR4、KC8UCR5、KC8UY、KC4UY、KC12UR、KC4UE、KC8UE、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、KC8UXW−RHA−C、KC8UXW−RHA−NC、KC4UXW−RHA−NC、以上コニカミノルタオプト(株)製)等は好ましく用いられる。
【0186】
表示装置の表面側に用いられる偏光板保護フィルムには、防眩層或いはクリアハードコート層のほか、反射防止層、帯電防止層、防汚層、バックコート層を有することが好ましい。
【0187】
偏光板の主たる構成要素である偏光子とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。偏光子の膜厚は5〜30μmが好ましく、特に10〜20μmであることが好ましい。
【0188】
また、特開2003−248123号公報、特開2003−342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、けん化度99.0〜99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールも好ましく用いられる。中でも熱水切断温度が66〜73℃であるエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムが好ましく用いられる。又、フィルムのTD方向に5cm離れた二点間の熱水切断温度の差が1℃以下であることが、色斑を低減させるうえで更に好ましく、更にフィルムのTD方向に1cm離れた二点間の熱水切断温度の差が0.5℃以下であることが、色斑を低減させるうえで更に好ましい。
【0189】
このエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムを用いた偏光子は、偏光性能及び耐久性能に優れているうえに、色斑が少なく、大型液晶表示装置に特に好ましく用いられる。
【0190】
以上のようにして得られた偏光子は、通常、その両面または片面に保護フィルムが貼合されて偏光板として使用される。貼合する際に用いられる接着剤としては、PVA系の接着剤やウレタン系の接着剤などを挙げることができるが、中でもPVA系の接着剤が好ましく用いられる。
【0191】
<表示装置>
本発明の偏光板を表示装置に組み込むことによって、種々の視認性に優れた本発明の表示装置を作製することができる。本発明のセルロースエステルフィルムは反射型、透過型、半透過型LCD或いはTN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型(PVA型、MVA型)、IPS型等の各種駆動方式のLCDで好ましく用いられる。また、本発明のセルロースエステルフィルムは透明性、平面性に優れ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、電子ペーパー等の各種表示装置にも好ましく用いられる。特に画面が30型以上、特に30型〜54型の大画面の液晶表示装置では、画面周辺部での白抜けなどもなく、その効果が長期間維持され、MVA型液晶表示装置、IPS型液晶表示装置では顕著な効果が認められる。特に、本発明により色むら、ぎらつきや波打ちムラが少なく、長時間の鑑賞でも目が疲れないという効果があった。
【実施例】
【0192】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0193】
実施例1
<樹脂からなる粒子A1〜A16の作製>
(樹脂からなる粒子A1の作製)
攪拌機、還流冷却器を備えた反応器に、水600質量部を充填し、これにポリビニルアルコール0.7質量部とドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.7質量部を加えて溶解した。次に、これに重合性モノマーとしてメチルメタアクリレート80質量部と架橋性モノマーとしてエチレングリコールジメタクリレート20質量部、更に、過酸化ベンゾイル2.0質量部の混合液を加え撹拌した。この混合液をホモジナイザーを用いて4500rpmで15分間分散して均一にした。次いで窒素ガスを吹き込みながら75℃で4時間撹拌を続けた。その後遠心分離法で軽く脱水し、生成物を水で洗浄したあと乾燥した。得られた樹脂粒子(A1)は真球状であり平均1次粒子径は20nm、屈折率は1.485、体積膨張率は1.05であった。
【0194】
(樹脂からなる粒子A2〜A16の作製)
樹脂粒子A1に対して、重合性モノマーの種類や量(単位:質量部)、架橋性モノマーの種類や量を変えて樹脂粒子を調製した。また平均1次粒子径はホモジナイザーの回転数を変えて調節した。
【0195】
モノマー類の種類と量、調製した粒子の特性値を表2に示す。
【0196】
尚、粒子A8、A9はA3、A5の水溶性反応溶媒の量を900質量部から300質量部に変えた以外は同様にして調製した。
【0197】
【表2】

【0198】
(体積膨張率の測定方法)
下記粒子径はゼータ電位粒子径測定装置(ゼータサイザー3000HSA)を用いて測定し、光散乱強度から算出したZ平均粒子径の値である。
【0199】
体積膨張率は、樹脂微粒子を6質量%の濃度でメチレンクロライドに分散し、分散後15分以内に測定した粒子径(r1)と、その分散液を室温下(25℃)、静置状態で経時して粒子径の増加が停止し平衡状態になったときの粒径(r2)から次式にて求めた。
【0200】
体積膨張率={(r2/r1)−1}
(平均1次粒子径の測定方法)
透過電子顕微鏡((株)日立製作所製 H−9000UHR型)を使用し、加速電圧200kV、倍率5万倍にて1次粒子を観察し、その写真像の粒子をフェレ径にて200個カウントし、その平均径を平均1次粒子径(TEM径)として算出した。
【0201】
(屈折率の測定方法)
市販の標準屈折液(株式会社モリテックス、カーギル標準屈折液)の中から、屈折率が1.43〜1.75の範囲の液を、約0.01刻みで用意した。これらの標準屈折液中に、粒子をそれぞれ超音波洗浄機を用いて分散させ、分散液の波長588nmにおける透過率が最も高くなった時の屈折液の屈折率を、それぞれ粒子の屈折率とした。
【0202】
<セルロースエステルフィルム101の作製>
〈樹脂粒子分散液1〉
樹脂粒子A1 16質量部
樹脂粒子A5 4質量部
エタノール 80質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
【0203】
〈微粒子添加液1〉
メチレンクロライド、及びセルロースエステルを入れた溶解タンクに十分攪拌しながら、微粒子分散液1をゆっくりと添加した。更に、2次粒子の平均粒子径が0.5μmとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液1を調製した。
【0204】
メチレンクロライド 90質量部
セルロースエステル(セルローストリアセテート:アセチル基置換度2.9、重量平均
分子量280000) 5質量部
樹脂粒子分散液1 5質量部
下記組成の主ドープ液を調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースアセテート(アセチル基置換度2.9)を攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解し。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。
【0205】
〈主ドープ液の組成〉
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースエステル(セルローストリアセテート:アセチル基置換度2.9、重量平均
分子量280000) 100質量部
トリフェニレンホスフェート 5質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート 5質量部
微粒子添加液1 10質量部
チヌビン928(BASFジャパン(株)製) 2.5質量部
以上を密閉容器に投入し、攪拌しながら溶解してドープ液を調製した。次いで、無端ベルト流延装置を用い、ドープ液を温度33℃、1.7m幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は30℃に制御した。
【0206】
ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したフィルム中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させ、次いで剥離張力130N/mで、ステンレスベルト支持体上から剥離した。
【0207】
剥離したセルロースアセテートフィルムを、175℃の熱をかけながらテンターを用いて幅方向に40%延伸した。延伸開始時の残留溶媒は10%であった。
【0208】
次いで、乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させた。乾燥温度は130℃で、搬送張力は100N/mとした。
【0209】
次いで、スリッターにより、所定のフィルム幅に裁断した後、エンボス装置によりフィルム端部付近にエンボス高さ6μmを目標に加工を行った。
【0210】
以上のようにして、フィルム幅2.25m、乾燥膜厚40μmのセルロースエステルフィルム101を得た。
【0211】
<セルロースアセテートフィルム102〜130の作製>
ドープ構成物を表3に示すように変更した以外は、セルロースエステルフィルム101と同様にしてセルロースエステルフィルム102〜130を作製した。
【0212】
【表3】

【0213】
《評価》
得られた各々のセルロースエステルフィルムについて、以下の要領で熱延伸時や熱延伸後でのスリッティングの際の破断、ヘイズ、切断面の評価を実施した。
【0214】
(破断)
上記セルロースエステルフィルムを同一処方で各々20本作製し、熱延伸時や熱延伸後でのスリッティングの際の破断の発生を以下の基準で評価した。
【0215】
○:破断の発生がない
△:1〜2本破断の発生あり
×:3本以上破断の発生があり実用上問題である
(ヘイズ)
上記作製したセルロースエステルフィルムについて、ヘイズ値を測定した。測定はフィルム試料1枚で、日本電色工業株式会社製NDH2000を用いJIS−K7136に従って測定し、以下の基準で評価した。
【0216】
○:ヘイズが0.5%未満
△:ヘイズが0.5〜1.0%未満
×:ヘイズが1.0%以上
(切断面)
顕微鏡でセルロースエステルフィルムの切断面を表面観察し、以下のようにランク分けした。
【0217】
○:平滑である
△:わずかにクラック(亀裂)がみられる
×:クラック(亀裂)がみられる
【0218】
【表4】

【0219】
表4の評価結果から、本発明のセルロースエステルフィルムは、熱延伸時や熱延伸後でのスリッティングの際の破断、ヘイズ、切断面に優れ、本発明の構成による効果が明かである。
【0220】
実施例2
<偏光板201〜230の作製>
厚さ、120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。
【0221】
これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し偏光子を得た。
【0222】
次いで、下記工程1〜5に従って偏光子と前記セルロースエステルフィルム101〜130と、裏面側にはコニカミノルタタックKC8UCR5(コニカミノルタオプト(株)製セルロースエステルフィルム)を貼り合わせて偏光板201〜230を作製した。
【0223】
工程1:60℃の2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し、次いで水洗し乾燥して、偏光子と貼合する側を鹸化したセルロースエステルフィルム101〜130とコニカミノルタタックKC8UCR5を得た。
【0224】
工程2:前記偏光子を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒浸漬した。
【0225】
工程3:工程2で偏光子に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これを工程1で処理したセルロースエステルフィルム101〜130の上にのせて配置した。
【0226】
工程4:工程3で積層したセルロースエステルフィルム101〜130と偏光子と裏面側コニカミノルタタックKC8UCR5を圧力20〜30N/cm、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
【0227】
工程5:80℃の乾燥機中に工程4で作製した偏光子とセルロースエステルフィルム101〜130とコニカミノルタタックKC8UCR5とを貼り合わせた試料を2分間乾燥し、それぞれ、セルロースエステルフィルム101〜130に対応する偏光板201〜230を作製した。
【0228】
<液晶表示装置の作製>
視野角測定を行う液晶パネルを以下のようにして作製し、液晶表示装置としての特性を評価した。
【0229】
SONY製40型ディスプレイBRAVIA X1の予め貼合されていた両面の偏光板を剥がして、上記作製した偏光板201〜242をそれぞれ液晶セルのガラス面の両面に貼合した。
【0230】
その際、その偏光板の貼合の向きは、KC8UCR5の面が液晶セル側となるように、かつ、予め貼合されていた偏光板と同一の方向に吸収軸が向くように行い、それぞれ、偏光板201〜230に対応する液晶表示装置301〜330を各々作製した。
【0231】
この液晶表示装置についてコントラストについて評価したところ、本発明のセルロースエステルフィルムを用いた偏光板を装着した液晶表示装置は、コントラストムラのない視認性に優れた液晶表示装置であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム中に少なくとも2種類の樹脂からなる粒子X1、X2を含有し、それぞれの粒子のメチレンクロライド溶媒中での体積膨張率をα1、α2とした時に、
1.1≦α1<2.0であり、かつα2≧2.0であることを特徴とするセルロースエステルフィルム。
【請求項2】
前記粒子が、平均1次粒子径が50nm以下の架橋(メタ)アクリレート系樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項3】
前記樹脂からなる粒子X1、X2の屈折率の差が、0.001以上、0.020以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項4】
前記樹脂からなる粒子X1、X2の含有比率(質量比)が、X1:X2=50:50〜95:5であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルムを少なくとも一方の面に有することを特徴とする偏光板。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロースエステルフィルム、または請求項5に記載の偏光板を有することを特徴とする表示装置。

【公開番号】特開2012−219121(P2012−219121A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83379(P2011−83379)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】