説明

セルロースエステルフィルムおよびその製造方法

【課題】 セルロースエステルが有機溶媒に安定な状態で溶解している溶液を用いて、優れた性質を有するセルロースエステルフィルムを提供すること。
【解決手段】 炭素数4以下の脂肪族アルコールを45〜80質量%含有する有機溶媒混合物に下記式を満足するセルロースエステルを溶解した溶液を支持体上に流延し、形成されたフィルムを剥離する工程を含む、セルロースエステルフィルムの製造方法。
式(S−1) 2.50≦A+B≦3.00
式(S−2) 0≦A≦2.20
式(S−3) 0.80≦B≦3.00
(Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度、Bは炭素数3〜22のアシル基の置換度)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液流延によるセルロースエステルフィルムの製造方法と、該製造方法により製造したセルロースエステルフィルムに関する。本発明のセルロースエステルフィルムを用いれば、優れた偏光板や位相差フィルムを提供することができる。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステルの代表であるセルローストリアセテートは、その力学特性と透明性および現像による巻き癖解消性の特徴からハロゲン化銀写真感光材料用の支持体として長年利用されてきた。また、セルロースアセテートフィルムは、その光学的等方性から、さらに近年市場の拡大している液晶表示装置にも用いられている。液晶表示装置における具体的な用途としては、偏光板の保護フィルムおよびカラーフィルターが代表的であり、その光学異方性が小さいことを利用した電子材料用途への展開が近年著しく増大している。例えば、最近になり全世界的に急激に社会変化をもたらしているIT革命に対し、その主機器であるパソコン用液晶表示装置の保護膜としてセルローストリアセテートは急激に利用されている。さらにまた単なる保護膜ではなく、富士写真フイルム株式会社から発売されているWVフィルム(ワイドビューフィルム:視野角拡大を可能としたフィルム)のように機能を付与して利用されたものもある。そして、WVは液晶表示装置の見易さを格段に高め市場に急速に導入されている。さらに、ブラウン管タイプのCRTに代わり、省エネルギー,軽量でかつ場所をとらないことが特徴であることから、現在急速に市場に導入されている液晶テレビの反射防止膜(例えば富士写真フイルム株式会社製CVフィルム)への応用もされている。近年では、セルローストリアセテートに適度な光学特性を付与することで、偏光板保護膜と兼用したVA型、IPS型液晶表示装置の位相差フィルム、光学補償フィルムとしても応用されている。
【0003】
セルローストリアセテートフィルムは、一般に溶液製膜方法または溶融製膜方法により製造される。溶液製膜方法では、セルローストリアセテートを溶媒中に溶解した溶液(ドープ)を金属支持体上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムが形成される。一方、溶融製膜方法では、適当なセルロースエステルを加熱により溶融したものを支持体上に流延し、場合により適当な延伸を施して、冷却などを含めてフィルム形成がなされる。一般に、溶液製膜方法の方が溶融製膜方法よりも平面性の良好なフィルムを製造することができる。このため、実用的には溶液製膜方法の方が、現在採用されている。最近の溶液製膜方法では、ドープを支持体上へ流延してから、支持体上の成形フィルムを剥離するまでに要する時間を短縮して、製膜工程の生産性を向上させることが課題になっている。例えば、高濃度ドープを冷却ドラム上に流延することにより、流延後剥離までの時間を短縮することが提案されている。しかし、セルローストリアセテートはその溶解性が劣るため、高濃度溶液にするために種々の手段で実施されているが(例えば、低濃度で溶解した後に高温加圧下で急激に常圧に戻して濃縮したり、あるいは膨潤した不溶解状態のセルローストリアセテートを極低温(例えば−80℃)に冷却して溶解したりする方法)、所望の高濃度溶液は経時での溶液安定性が悪く、白濁したりセルローストリアセテートの結晶成長が見られたりするため、その改良が望まれていた。
【0004】
一方、近年になって液晶表示装置の高精細化・大画面化の進歩は著しく、溶液製膜方法で製造されるセルロースエステルへの要求品質も急速に厳しいものとなってきている。輝点欠陥となる異物、搬送中の擦り傷、厚み変動等の外観欠点は、数年前に比べ数段の品質が要求されている。例えば流延方向の厚み変動は、流延ダイの構造・配置、ダイリップから吐出するビードの減圧吸引、セルローストリアセテート溶液の粘度等の物性、支持体面での乾燥方法、支持体からの剥離方法、延伸条件での緩和等、個々の改良策が提案されてきている。しかしながら、セルローストリアセテートは温度や湿度変化に対する光学特性への影響が大きいことが問題となっている。これは、セルローストリアセテートが吸水性を有し、分子内で極性成分が影響される結果と考えられる。この改良として、水を殆ど吸収しないポリオレフィンポリマー(商品として、アペル(三井化学)、ゼオノア(日本ゼオン)など)が提案されている。これらの疎水的なポリマーにより湿度に対する変化は改良されたが、ポリビニルアルコールを主成分とする偏光膜を接着することが困難であり、その市場導入は急速には進んでいない。
【0005】
さらに液晶表示装置に必要とされる光学フィルムは、高い光学異方性が要求されている。そのために、従来はセルローストリアセテートフィルムを延伸し、面内のレターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)を発現させ、液晶表示素子の位相差膜として使用し、視野角拡大を図ることが検討されて、一部採用されている。ここで、STN型液晶表示素子と使用する場合には大きなRe,Rthを必要としないため、従来のセルローストリアセテートフィルムが中心に使用されてきた。しかし、近年バーティカルアラインメント(VA)方式やOCB方式の液晶表示素子が開発され、より大きいRe,Rth値を持った位相差膜が必要となってきた。このような位相差膜に対応するため、アセチル基以外にプロピオニル基をセルロースの水酸基に対して置換度0.6〜1.2で導入したセルロースエステルフィルムを溶液流延し製膜したフィルムを用いる技術が公開されている(特許文献1参照)。しかし、該特許に記載されている有機溶媒に溶解したセルロースエステル溶液は、支持体に流延し剥ぎ取る工程において剥離荷重が高く、剥離時のムラを反映してしまうという問題があった。このような位相差膜に対応するため、置換度0〜0.8のアセチル基以外に炭素数3〜22のアシル基を有するセルロースアシレートと非塩素系有機溶媒を用いる技術が提案され、その際にアルコール類を2〜40質量%併用することが好ましい態様として推奨された(特許文献2参照)。しかしながら、これらの技術では流延時に発生するダイスジ(ダイから流延することに起因して発生するスジ)を改良することが不十分であり、その改良が望まれていた。
【0006】
さらにこの改良として、セルロースエステルフィルムにpkaが低い酸類を含有させて剥離時の剥離荷重を低下させる技術が提案された(特許文献3参照)。しかしながら、これらのセルロースエステルでは、該提案の酸類を用いても流延後の支持体からの剥離特性を改善することはできなかった。したがって、高速剥離できて高生産性を有しかつ面状の良いセルロースエステルフィルムを得ることは困難であった。さらに、該剥離剤として提案されているpkaが低い酸類は、セルロースエステルの高温高湿条件での保存時に、セルロースエステルを分解するという問題を抱えるものであった。
【特許文献1】特開2001−188128号公報
【特許文献2】特開2002−265636号公報
【特許文献3】特開2002−265639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、セルロースエステルが有機溶媒に安定な状態で溶解している溶液を用いて、優れたセルロースエステルフィルムを製造する溶液製膜方法を提供することである。具体的には、溶液製膜する際に支持体上に流延されたセルロースエステルウェブを短時間で剥離することができ、また剥離した時に良好なウェブ面状を有するセルロースエステルウェブを得ることができる製造方法を提供することである。また本発明の目的は、環境条件の変動による光学特性の変化が小さいセルロースエステルフィルムを提供し、優れた偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム等の提供に資することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は以下の構成により達成された。
[態様1] 炭素数4以下の脂肪族アルコールを45〜80質量%含有する有機溶媒混合物に下記式(S−1)〜(S−3)を満足するセルロースエステルを溶解したセルロースエステル溶液を支持体上に流延し、支持体上に形成されたセルロースエステルフィルムを支持体から剥離する工程を含むことを特徴とする、セルロースエステルフィルムの製造方法。
式(S−1) 2.50≦A+B≦3.00
式(S−2) 0≦A≦2.20
式(S−3) 0.80≦B≦3.00
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度を表す。)
[態様2] 炭素数4以下の脂肪族アルコールが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールおよびn−ブタノールからなる群より選択される1以上のアルコールであることを特徴とする[態様1]に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
[態様3] 有機溶媒混合物が、炭素数4以下の脂肪族アルコール以外に、ハロゲン系有機溶媒を含有することを特徴とする[態様1]または[態様2]に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
[態様4] 有機溶媒混合物が、炭素数4以下の脂肪族アルコール以外に、炭素数3〜12のエーテル類、炭素原子数3〜12のケトン類および炭素数3〜12のエステル類からなる群より選択される1以上の有機溶媒を含有することを特徴とする[態様1]または[態様2]に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
[態様5] セルロースエステルが下記式(S−4)〜(S−6)を満足し、重合度が180〜400であることを特徴とする[態様1]〜[態様4]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
式(S−4) 2.65≦A+B’≦3.00
式(S−5) 0≦A≦2.00
式(S−6) 1.25≦B’≦3.00
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対するプロピオニル基とブチリル基の置換度の総和を表す。)
[態様6] セルロースエステル溶液を、下記(a)〜(c)からなる群より選択される1以上の方法で作製することを特徴とする[態様1]〜[態様5]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(a)−10〜40℃にてセルロースエステルを有機溶媒混合物で膨潤する工程、得
られた混合物を0〜40℃に加温して有機溶媒混合物中にセルロースエステル
を溶解する工程からなるセルロースエステル溶液の調製方法。
(b)−10〜40℃にてセルロースエステルを有機溶媒混合物で膨潤する工程、得
られた混合物を−100〜−10℃に冷却する工程、および冷却した混合物を
0〜40℃に加温して有機溶媒混合物中にセルロースエステルを溶解する工程
からなるセルロースエステル溶液の調製方法。
(c)−10〜40℃にてセルロースエステルを有機溶媒混合物で膨潤する工程、得
られた混合物を0.2〜30MPaで60〜240℃に加熱する工程、および
加熱した混合物を0〜40℃に冷却して有機溶媒混合物中にセルロースエステ
ルを溶解する工程からなるセルロースエステル溶液の調製方法。
[態様7] セルロースエステルフィルムを支持体から剥離する時の最大剥離荷重が1〜30g/cmであり、支持体に流延してから剥離を開始するまでの時間が30〜600秒であることを特徴とする[態様1]〜[態様6]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
[態様8] セルロースエステルフィルムを支持体から剥離して乾燥する過程で、セルロースエステルフィルム少なくとも一方向(好ましくは流延方向又は流延方向と直交する方向)に1.03〜3倍に延伸することを特徴とする[態様1]〜[態様7]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
[態様9] [態様1]〜[態様8]のいずれか一項に記載の製造方法により製造したセルロースエステルフィルム。
[態様10] 面内のレターデーション(Re)が0≦Re≦200nmであり、厚み方向のレターデーション(Rth)が0≦Rth≦500nmであることを特徴とする[態様9]に記載のセルロースエステルフィルム。
[態様11] フィルム表面の水の接触角が45°以下(25℃/相対湿度60%)であることを特徴とする[態様9]または[態様10]に記載のセルロースエステルフィルム。
【0009】
[態様12] セルロースエステル溶液を支持体上に流延した後に、乾燥ゾーンに導入して乾燥することによりセルロースエステルフィルムを形成する工程を有し、さらに該乾燥ゾーンの出口温度から50℃まで2℃/分〜60℃/分の速度でフィルムを冷却する工程を有することを特徴とする[態様1]〜[態様8]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
[態様13] セルロースエステルフィルムを支持体から剥離した後に、40℃から120℃まで4℃/分〜60℃/分の速度でフィルムを昇温することを特徴とする[態様1]〜[態様8]、[態様12]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
[態様14] セルロースエステルが、一度溶液製膜したセルロースエステルフィルム1質量%〜50質量%と、未製膜のセルロースエステルとの混合物であることを特徴とする[態様1]〜[態様8]、[態様12]、[態様13]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
[態様15] 偏光膜に[態様9]〜[態様11]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムを少なくとも1層積層したことを特徴とする偏光板。
[態様16] [態様9]〜[態様11]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムを基材として、該基材上に光学補償層を有することを特徴とする液晶表示板用光学補償フィルム。
[態様17] [態様9]〜[態様11]のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムを基材に用いたことを特徴とする反射防止フィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、セルロースエステルが有機溶媒に安定な状態で溶解している溶液を用いて、優れた性質を有するセルロースエステルフィルムを提供することができる。特に、本発明の製造方法によれば、溶液製膜する際に支持体上に流延されたセルロースエステルウェブを短時間で剥離することができ、また剥離した時に良好なウェブ面状を有するセルロースエステルウェブを得ることができる。また本発明のセルロースエステルフィルムは、環境条件の変動による光学特性の変化が小さくて、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム等の製造に有効に使用することができる。
【発明の実施の形態】
【0011】
以下において、本発明のセルロースエステルフィルムおよびその製造方法について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
<セルロースエステル>
まず本発明で用いられるセルロースエステルについて記載する。
(セルロースエステル)
本発明で好ましく用いられるセルロースエステルについて詳細に記載する。本発明のセルロースエステルは下記式(S−1)〜(S−3)を満足する。
式(S−1) 2.50≦A+B≦3.00
式(S−2) 0≦A≦2.20
式(S−3) 0.80≦B≦3.00
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度を表す。)
【0013】
セルロースを構成する、ベータ(β)−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースエステルは、これらの水酸基の一部または全部をエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位のそれぞれについて、セルロースがエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)の合計を意味する。本発明では、より好ましくは2.6≦A+B≦3.0であり、さらに好ましくは2.67≦A+B≦2.97である。また好ましくは、Aは0≦A≦1.4であり、Bは1.3≦B≦2.97が好ましく、さらには1.4≦B≦2.97が好ましい。本発明においては、セルロースの2位、3位および6位の水酸基の置換度は特に限定されないが、セルロースエステルの6位の置換度が好ましくは0.7以上であり、さらに好ましくは0.8以上であり、特に好ましくは0.85以上である。これらによりセルロースエステルの溶解性を向上させることができる。
【0014】
次に本発明のセルロースエステルの置換基Bで表される炭素数3〜22のアシル基は、脂肪族アシル基でも芳香族アシル基のいずれであってもよい。本発明のセルロースエステルのアシル基が脂肪族アシル基である場合、炭素数3〜18であることが好ましく、炭素数3〜12であることがさらに好ましく、炭素数3〜8であることが特に好ましい。これらの脂肪族アシル基の例としては、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、あるいはアルキニルカルボニル基などを挙げることができる。アシル基が芳香族アシル基である場合、炭素数6〜22であることが好ましく、炭素数6〜18であることがさらに好ましく、炭素数6〜12であることが特に好ましい。これらのアシル基は、それぞれさらに置換基を有していてもよい。
【0015】
好ましいアシル基の例としては、プロピオニル基、ブチリル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブチリル基、ピバロイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフタレンカルボニル基、フタロイル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、さらに好ましいものは、プロピオニル基、ブチリル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、ピバロイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などであり、特に好ましいものはプロピオニル基、ブチリル基である。
【0016】
本発明のセルロースエステルの好ましい例として、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースプロパノエートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレート、セルロースアセテートヘキサノエート、セルロースアセテートオクタノエート、セルロースアセテートシクロヘキサノエート、セルロースアセテートデカノエート、セルロースアセテートアダマンタンカルボキシレート、セルロースアセテートサルフェート、セルロースアセテートカルバメート、セルロースプロピオネートサルフェート、セルロースアセテートプロピオネートサルフェート、セルロースアセテートフタレートなどを挙げることができる。さらに好ましい例としては、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースプロパノエートブチレート、セルロースアセテートヘキサノエート、セルロースアセテートオクタノエートなどを挙げることができる。特に好ましい例としては、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースブチレートを挙げることができる。この場合、アセチルと炭素数3以上のアシル基の置換度は、前述した範囲で作成されたものであり、その置換度によって所望の特性(特に光学特性)を得ることができる。
【0017】
(セルロースエステルの製造方法)
次に、本発明のセルロースエステルの製造方法について説明する。本発明のセルロースエステルの更に詳細な原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁に従って合成できる。
【0018】
セルロース原料としては、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のものが好ましく用いられる。セルロース原料としては、α−セルロース含量が92質量%〜99.9質量%の高純度のものを用いることが好ましい。セルロース原料がシート状や塊状である場合は、あらかじめ解砕しておくことが好ましく、セルロースの形態は微細粉末から羽毛状になるまで解砕が進行していることが好ましい。
【0019】
セルロース原料はアシル化に先立って、活性化剤と接触させる処理(活性化)を行なうことが好ましい。活性化剤としては、カルボン酸または水を用いることができるが、水を用いた場合には、活性化の後に酸無水物を過剰に添加して脱水を行ったり、水を置換するためにカルボン酸で洗浄したり、アシル化の条件を調節したりするといった工程を含むことが好ましい。活性化剤はいかなる温度に調節して添加してもよく、添加方法としては噴霧、滴下、浸漬などの方法から選択することができる。活性化剤として好ましいカルボン酸は、炭素数2〜7のカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチルプロピオン酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバル酸)、ヘキサン酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、シクロペンタンカルボン酸、ヘプタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸など)であり、より好ましくは、酢酸、プロピオン酸、または酪酸である。活性化の際は更に硫酸などをセルロースに対して0.1質量%〜10質量%添加してもよい。
【0020】
活性化剤の添加量は、セルロース質量に対して0.05〜100質量倍であることが好ましく、0.1〜20質量倍であることが更に好ましく、0.3〜20質量倍であることが特に好ましい。活性化の時間は20分〜72時間が好ましく、更に好ましくは30分〜24時間、特に好ましくは30分〜12時間である。また、活性化の温度は0℃〜90℃が好ましく、15℃〜80℃が更に好ましく、20℃〜60℃が特に好ましい。セルロースの活性化の工程は加圧または減圧条件下で行なうこともできる。また、加熱の手段として、マイクロ波や赤外線などの電磁波を用いてもよい。
【0021】
本発明におけるセルロースエステルを製造する方法においては、セルロースにカルボン酸の酸無水物を加え、ブレンステッド酸またはルイス酸を触媒として反応させることで、セルロースの水酸基をアシル化することが好ましい。本発明のセルロースアシレートを得る方法としては、アシル化剤として2種のカルボン酸無水物を混合または逐次添加により反応させる方法、2種のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を用いる方法、カルボン酸と別のカルボン酸の酸無水物(例えば、酢酸とプロピオン酸無水物)を原料として反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を合成してセルロースと反応させる方法、置換度が3に満たないセルロースエステルを一旦合成し、酸無水物や酸ハライドを用いて残存する水酸基を更にアシル化する方法などを用いることができる。
【0022】
カルボン酸の酸無水物として、好ましくはカルボン酸としての炭素数が2〜7であり、例えば、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、2−メチルプロピオン酸無水物、吉草酸無水物、3−メチル酪酸無水物、2−メチル酪酸無水物、2,2−ジメチルプロピオン酸無水物(ピバル酸無水物)、ヘキサン酸無水物、2−メチル吉草酸無水物、3−メチル吉草酸無水物、4−メチル吉草酸無水物、2,2−ジメチル酪酸無水物、2,3−ジメチル酪酸無水物、3,3−ジメチル酪酸無水物、シクロペンタンカルボン酸無水物、ヘプタン酸無水物、シクロヘキサンカルボン酸無水物、安息香酸無水物などを挙げることができる。
【0023】
より好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、吉草酸無水物、ヘキサン酸無水物、ヘプタン酸無水物などの無水物であり、特に好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物である。セルロースエステルを調製する目的で、これらの酸無水物を併用して使用することが好ましく行われる。その混合比は目的とするセルロースエステルの置換比に応じて決定することが好ましい。酸無水物は、セルロースに対して、通常は過剰当量を添加することが好ましく、セルロースの水酸基に対して1.2〜50当量添加することが好ましく、1.5〜30当量添加することがより好ましく、2〜10当量添加することが特に好ましい。
【0024】
本発明におけるセルロースエステルの製造に用いるアシル化の触媒には、ブレンステッド酸またはルイス酸を使用することが好ましい。ブレンステッド酸およびルイス酸の定義については、例えば、「理化学辞典」第五版(2000年)に記載されている。好ましいブレンステッド酸の例としては、硫酸、過塩素酸、リン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などを挙げることができる。好ましいルイス酸の例としては、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アンチモン、塩化マグネシウムなどを挙げることができる。触媒としては、硫酸または過塩素酸がより好ましく、硫酸が特に好ましい。触媒の好ましい添加量は、セルロースに対して0.1〜30質量%であり、より好ましくは1〜15質量%であり、特に好ましくは3〜12質量%である。
【0025】
アシル化を行なう際には、粘度、反応速度、攪拌性、アシル置換比などを調整する目的で、溶媒を添加してもよい。このような溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、カルボン酸、アセトン、エチルメチルケトン、トルエン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどを用いることもできるが、好ましくはカルボン酸であり、例えば、炭素数2〜7のカルボン酸{例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチルプロピオン酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバル酸)、ヘキサン酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、シクロペンタンカルボン酸}などを挙げることができる。更に好ましくは、酢酸、プロピオン酸、酪酸などを挙げることができる。これらの溶媒は混合して用いてもよい。
【0026】
アシル化を行なう際には、酸無水物と触媒、さらに、必要に応じて溶媒を混合してからセルロースと混合してもよく、またこれらを別々に逐次セルロースと混合してもよいが、通常は、酸無水物と触媒との混合物、または、酸無水物と触媒と溶媒との混合物をアシル化剤として調整してからセルロースと反応させることが好ましい。アシル化の際の反応熱による反応容器内の温度上昇を抑制するために、アシル化剤は予め冷却しておくことが好ましい。冷却温度としては、−50℃〜20℃が好ましく、−35℃〜10℃がより好ましく、−25℃〜5℃が特に好ましい。アシル化剤は液状で添加しても、凍結させて結晶、フレーク、またはブロック状の固体として添加してもよい。
【0027】
アシル化剤はさらに、セルロースに対して一度に添加しても、分割して添加してもよい。また、アシル化剤に対してセルロースを一度に添加しても、分割して添加してもよい。アシル化剤を分割して添加する場合は、同一組成のアシル化剤を用いても、複数の組成の異なるアシル化剤を用いても良い。好ましい例として、1)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒を添加する、2)酸無水物、溶媒と触媒の一部の混合物をまず添加し、次いで、触媒の残りと溶媒の混合物を添加する、3)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒と溶媒の混合物を添加する、4)溶媒をまず添加し、酸無水物と触媒との混合物あるいは酸無水物と触媒と溶媒との混合物を添加する、などを挙げることができる。
【0028】
セルロースのアシル化は発熱反応であるが、本発明のセルロースエステルを製造する方法においては、アシル化の際の最高到達温度が−50℃〜50℃であることが好ましく重合度のコントロールが容易であり、好ましくは−30℃〜45℃であり、より好ましくは−20℃〜40℃であり、特に好ましくは−20℃〜35℃である。好ましいアシル化時間は0.5時間〜24時間であり、1時間〜12時間がより好ましく、1.5時間〜6時間が特に好ましい。
【0029】
本発明に用いられるセルロースエステルを製造する方法においては、アシル化反応の後に、反応停止剤を加えることが好ましい。反応停止剤としては、酸無水物を分解するものであればいかなるものでもよく、好ましい例として、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)またはこれらを含有する組成物などを挙げることができる。反応停止剤の添加に際しては、反応装置の冷却能力を超える大きな発熱が生じて、セルロースエステルの重合度を低下させる原因となったり、セルロースエステルが望まない形態で沈殿したりする場合があるなどの不都合を避けるため、水やアルコールを直接添加するよりも、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸と水との混合物を添加することが好ましく、カルボン酸としては酢酸が特に好ましい。カルボン酸と水の組成比は任意の割合で用いることができるが、水の含有量が5質量%〜80質量%、さらには10質量%〜60質量%、特には15質量%〜50質量%の範囲であることが好ましい。
【0030】
反応停止剤は、アシル化の反応容器に添加しても、反応停止剤の容器に反応物を添加してもよい。反応停止剤は3分〜3時間かけて添加することが好ましく、より好ましくは4分〜2時間であり、更に好ましくは5分〜1時間であり、特に好ましくは10分〜45分である。反応停止剤を添加する際には反応容器を冷却しても冷却しなくてもよいが、解重合を抑制する目的から、反応容器を冷却して温度上昇を抑制することが好ましい。また、反応停止剤を冷却しておくことも好ましい。
【0031】
アシル化の停止後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解およびエステル化触媒の一部または全部の中和のために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物)またはその溶液を添加してもよい。中和剤の溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)、カルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、ケトン(例えば、アセトン、エチルメチルケトンなど)、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒、およびこれらの混合溶媒を好ましい例として挙げることができる。
【0032】
このようにして得られるセルロースエステルは、セルロース水酸基の全置換度がほぼ3に近いものであるが、所望の置換度のものを得る目的で、少量の触媒(一般には、残存する硫酸などのアシル化触媒)と水との存在下で、20〜90℃に数分〜数日間保つことによりエステル結合を部分的に加水分解し、所望のアシル置換度を有するセルロースエステルまで変化させること(いわゆる熟成)が一般的に行われる。部分加水分解の過程でセルロースの硫酸エステルも加水分解されることから、加水分解の条件を調節することにより、セルロースに結合した硫酸エステルの量を削減することができる。所望のセルロースエステルが得られた時点で、系内に残存している触媒を、前記のような中和剤またはその溶液を用いて完全に中和し、部分加水分解を停止させることが好ましい。反応溶液に対して溶解性が低い塩を生成する中和剤(例えば、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなど)を添加することにより、溶液中あるいはセルロースに結合した触媒(例えば、硫酸エステル)を効果的に除去することも好ましい。
【0033】
セルロースエステル中の未反応物、難溶解性塩、その他の異物などを除去または削減する目的として、アシル化後の反応混合物のろ過を行なうことが好ましい。ろ過は、エステル化の完了から再沈殿までの間のいかなる工程において行ってもよい。ろ過圧や取り扱い性の制御の目的から、ろ過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。ろ過の際には、そのろ材は特に限定されず、布、ガラスフィルター、セルロース系ろ紙、セルロース系布フィルター、金属フィルター、ポリマー系フィルター(例えば、ポリプロピレン製フィルター、ポリエチレンフィルター、ポリアミド系フィルター、フッ素系フィルターなど)を挙げることができる。そのフィルター口径サイズは、0.1〜500μmが好ましく、より好ましくは2〜200μmであり、更には3〜60μmである。
【0034】
得られたセルロースエステル溶液を、水もしくはカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸など)水溶液のような貧溶媒中に混合するか、セルロースエステル反応溶液中に、貧溶媒を混合することにより、セルロースエステルを再沈殿させ、洗浄および安定化処理により目的のセルロースエステルを得ることができる。再沈殿によって、精製効果の向上、分子量分布や見かけ密度の調節を図ることができる。再沈殿は連続的に行っても、一定量ずつバッチ式で行ってもよい。セルロースエステル溶液の濃度および貧溶媒の組成をセルロースエステルの置換様式あるいは重合度により調整することで、再沈殿したセルロースエステルの形態や分子量分布を制御することも好ましい。
【0035】
生成したセルロースエステルは洗浄処理することが好ましい。洗浄には、不純物を除去することができるものであればいかなるものでも良いが、通常は水または温水が用いられる。洗浄水の温度は、好ましくは5℃〜100℃であり、更に好ましくは15℃〜90℃であり、特に好ましくは30℃〜80℃である。洗浄処理はろ過と洗浄液の交換を繰り返すいわゆるバッチ式で行っても、連続洗浄装置を用いて行ってもよい。再沈殿および洗浄の工程で発生した廃液を再沈殿の貧溶媒として再利用したり、蒸留などの手段によりカルボン酸などの溶媒を回収して再利用することも好ましい。洗浄の進行はいかなる手段で追跡を行なってよいが、水素イオン濃度、イオンクロマトグラフィー、電気伝導度、ICP、元素分析、原子吸光スペクトルなどの方法を好ましい例として挙げることができる。処理により、セルロースエステル中のブレンステッド酸(硫酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸など)、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物)、中和剤と触媒との反応物、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、中和剤とカルボン酸との反応物などを除去することができ、セルロースエステルの安定性(特に高温高湿度によるエステル結合の分解)を高めるために有効である。
【0036】
温水処理による洗浄後のセルロースエステルは、安定性を更に向上させたり、カルボン酸臭を低下させるために、弱アルカリ(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物など)の水溶液などで処理することも好ましい。残存不純物の量は、洗浄液の量、洗浄の温度、時間、攪拌方法、洗浄容器の形態、安定化剤の組成や濃度により制御できる。
【0037】
本発明においてセルロースエステルの含水率を好ましい量に調整するためには、セルロースエステルを乾燥することが好ましい。乾燥の方法については、目的とする含水率が得られるのであれば特に限定されないが、加熱、送風、減圧、攪拌などの手段を単独または組み合わせで用いることで効率的に行うことが好ましい。乾燥温度として好ましくは0〜200℃であり、さらに好ましくは40〜180℃であり、特に好ましくは50〜160℃である。この時、セルロースエステルのガラス転移点(Tg)よりも低い温度で乾燥することが好ましく、Tgより10℃以上低い乾燥温度が更に好ましい。乾燥によって得られる本発明のセルロースエステルは、その含水率が2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることが更に好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。
【0038】
セルロースエステルをフィルム製造の原料として用いる場合、粒子状または粉末状であることが好ましい。乾燥後のセルロースエステルは、粒子サイズの均一化や取り扱い性の改善のために、粉砕や篩がけを行っても良い。セルロースエステルが粒子状であるとき、使用する粒子の90質量%以上は、0.5〜5mmの粒子サイズを有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が1〜4mmの粒子サイズを有することが好ましい。セルロースエステル粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。
【0039】
本発明で好ましく用いられるセルロースエステルの重合度は、平均重合度150〜700、好ましくは180〜550、更に好ましくは180〜400であり、特に好ましくは平均重合度200〜350である。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)、ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC)による分子量分布測定などの方法により測定できる。更に特開平9−95538号公報に詳細に記載されている。これらのセルロースエステルは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合しても良い。また、セルロースエステル以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。混合される高分子成分はセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が80%以上、更に好ましくは90%以上、更に好ましくは92%以上であることが好ましい。
【0040】
得られたセルロースエステルは、その保存は環境による影響を受けにくくするために、低温暗所で保存する事が望ましい。更に、保管用としてアルミニウムなどの防止素材で作製された防湿袋や、SUS製ドラムあるいはコンテナに保存する事がさらに好ましい。
【0041】
その他、6位置換度の大きいセルロースエステルの合成については、特開平11−5851号、特開2002−212338号や特開2002−338601号各公報などに記載がある。セルロースエステルの他の合成法としては、塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、ピリジン、トリエチルアミン、tert−ブトキシカリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなど)の存在下に、カルボン酸無水物やカルボン酸ハライドと反応させる方法、アシル化剤として混合酸無水物(カルボン酸・トリフルオロ酢酸混合無水物、カルボン酸・メタンスルホン酸混合無水物など)を用いる方法も用いることができ、特に後者の方法は、炭素数の多いアシル基や、カルボン酸無水物−酢酸−硫酸触媒による液相アシル化法が困難なアシル基を導入する際には有効である。
【0042】
<セルロースエステルフィルムの製造方法>
(有機溶媒混合物)
次に本発明のセルロースエステルを有機溶媒混合物に溶解して流延製膜する方法について、以下に記述する。本発明の有機溶媒混合物は、有機溶媒が炭素数4以下である脂肪族アルコールを全有機溶媒混合物中の45〜80質量%含有することを特徴するものである。炭素数4以下である脂肪族アルコールとしては、具体的にはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノールであり、より好ましくはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールであり、特にはメタノール、エタノール、1−ブタノールである。これらは、1種類のアルコールのみでもよいがさらには2種類以上の混合物でも良く、例えばメタノール/1−ブタノール、エタノール/1−ブタノールなどが推奨され、特にはメタノール/1−ブタノールが好ましい。本発明の炭素数4以下である脂肪族アルコールの全有機溶媒混合物に対する含有量は、45〜80質量%であるが、好ましくは50〜70質量%である。
【0043】
次に、炭素数4以下である脂肪族アルコール以外の併用される有機溶媒について記述する。本発明においては、炭素数4以下である脂肪族アルコール以外の有機素材は特に限定されないが、好ましくはハロゲン系有機溶媒か、あるいは炭素原子数が3〜12のエーテル類、炭素原子数が3〜12のケトン類および炭素原子数が3〜12のエステル類から選ばれる有機溶媒であることが好ましい。これらのなかでも、低沸点有機溶媒であることが好ましいが、乾燥工程を調整することで、セルロースエステルフィルムから有機溶媒を除去できれば特にこだわらない。
【0044】
まず本発明のセルロースエステルに用いられるハロゲン系有機溶媒について記述する。本発明の炭素数4以下の脂肪族アルコ−ル溶媒と併用されるハロゲン系有機溶媒は、炭素原子数が1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく、好ましくはジクロロメタン、クロロホルムである。特にジクロロメタンが好ましい。
次に、本発明のセルロースエステルに環境に優しい観点からは、非ハロゲン系有機溶媒が推奨される。好ましい非ハロゲン系有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテルから選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトンおよび、エーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する主溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0045】
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが挙げられる。炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが挙げられる。炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが挙げられる。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが挙げられる。
【0046】
本発明において好ましく用いられる非ハロゲン系溶媒は、2種類以上の混合溶媒であってもよく、例えば第1溶媒が酢酸メチル、酢酸エチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、アセトン、ジオキソラン、ジオキサンから選ばれる少なくとも1種あるいは或いはそれらの混合液であり、第2の溶媒が炭素原子数が4〜7のケトン類またはアセト酢酸エステルから選ばれることも好ましい。なお、第1溶媒が2種類以上の溶媒混合液の場合は、第2の溶媒がなくてもよい。第1の溶媒は、さらに好ましくは酢酸メチル、アセトン、蟻酸メチル、蟻酸エチルあるいはこれらの混合物であり、第2の溶媒は、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチル酢酸メチルが好ましく、これらの混合液であってもよい。さらに、本発明のおいては、ハロゲン系有機溶媒と非ハロゲン系溶媒を混合しても問題ない。例えば、酢酸メチルとジクロロメタンの混合物(混合比率は、例えば95/9〜5/95、より好ましくは80/20〜30/70)でも問題ない。
【0047】
本発明の炭素数4以下の脂肪族アルコ−ル溶媒と併用される非ハロゲン系有機溶媒からなる併用混合溶媒は、第1の溶媒が20〜90質量%、第2の溶媒が5〜60質量%の比率で含まれることが好ましく、さらに第1の溶媒が30〜86質量%であり、第2の溶媒が10〜50質量%含まれることが好ましい。また特に第1の溶媒が30〜80質量%であり、第2の溶媒が10〜50質量%含まれることが好ましい。
【0048】
本発明で好ましいこれらの溶媒組み合わせの具体例として、以下のものを挙げることができる。
(SL−1)メタノール/ジクロロメタン(60/40、質量部)
(SL−2)メタノール/ジクロロメタン(70/30、質量部)
(SL−3)メタノール/アセトン/ジクロロメタン(50/30/20、質量部)
(SL−4)メタノール/メチルエチルケトン/ジクロロメタン(60/20/20、質量部)
(SL−5)エタノール/ブタノール/アセトン/ジクロロメタン(60/10/10/20、質量部)
(SL−6)イソプロパノール/アセトン/ジクロロメタン(55/35/10、質量部)
(SL−7)メタノール/アセトン(60/40、質量部)
(SL−8)メタノール/酢酸メチル(70/30、質量部)
(SL−9)メタノール/ギ酸メチル(45/55、質量部)
【0049】
(SL−10)エタノール/酢酸メチル(50/50、質量部)
(SL−11)メタノール/酢酸メチル/アセトン(50/30/20、質量部)
(SL−12)メタノール/ブタノール/酢酸メチル/アセトン(50/10/20/20、質量部)
(SL−13)エタノール/イソプロパノール/アセトン(30/20/50、質量部)
(SL−14)エタノール/ブタノール/アセトン(50/10/40、質量部)
(SL−15)メタノール/ブタノール/酢酸メチル/ジクロロメタン(60/10/20/20、質量部)
(SL−16)メタノール/ブタノール/ギ酸メチル/ジクロロメタン(50/10/30/10、質量部)
(SL−17)メタノール/ブタノール/ジオキソラン(50/10/40、質量部)
【0050】
(添加剤)
本発明のセルロースエステル溶液には、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤、微粒子、光学特性調整剤など)を加えることができる。またその添加する時期はドープ作製工程において何れでも添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。
【0051】
好ましく添加される可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェートが含まれる。
【0052】
カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、が含まれる。
【0053】
その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。グリコール酸エステルの例としては、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレートなどがある。さらにトリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ジトリメチロールプロパンテトラプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネート、イノシトールペンタアセテート、ソルビタンテトラブチレート等も好ましく利用される。
【0054】
中でもトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジエチルヘキシルフタレート、トリアセチン、エチルフタリルエチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネート等が好ましい。特にトリフェニルホスフェート、ジエチルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネートが好ましい。これらの可塑剤は1種でもよいし2種以上併用してもよい。可塑剤の添加量はセルロースエステルに対して5〜30質量%、特に5〜16質量%が好ましい。
【0055】
これらの可塑剤として、特開平11−124445号公報記載の(ジ)ペンタエリスリトールエステル類、特開平11−246704号公報記載のグリセロールエステル類、特開2000−63560号公報記載のジグリセロールエステル類、特開平11−92574号公報記載のクエン酸エステル類、特開平11−90946号公報記載の置換フェニルリン酸エステル類などに記載されている。
【0056】
セルロースエステルフィルムには、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)や紫外線防止剤を添加してもよい。これらの劣化防止剤や紫外線防止剤については、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号、特開2000−204173号の各公報に記載がある。これらの添加量は、調製する溶液(ドープ)の0.01〜1質量%であることが好ましく、0.01〜0.2質量%であることがさらに好ましい。添加量が0.01質量%未満であると、劣化防止剤の効果がほとんど認められない。添加量が1質量%を越えると、フィルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)が認められる場合がある。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を挙げることができる。
【0057】
特に好ましくは、1種または2種以上の紫外線吸収剤を含有させることである。液晶用紫外線吸収剤は、液晶の劣化防止の観点から、波長380nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。特に好ましい紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、セルロースエステルに対する不要な着色が少ないことから、好ましい。
【0058】
好ましい紫外線防止剤として、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。特に2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が最も好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジンなどのヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイトなどの燐系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜3.0%が好ましく、10ppm〜2%がさらに好ましい。
【0059】
また光学異方性をコントロールするためのレターデーション上昇剤が、場合により添加される。これらは、セルロースエステルフィルムのレターデーションを調整するため、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物をレターデーション上昇剤として使用することが好ましい。芳香族化合物は、セルロースエステル100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲で使用する。芳香族化合物は、セルロースアセレート100質量部に対して、0.05〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1〜10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。2種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。
【0060】
芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。
【0061】
本発明のセルロースエステルフィルムは、好ましい光学特性(Re,Rth)を示す。
本明細書において、Reレターデーション値およびRthレターデーション値は、以下に基づき算出するものとする。Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)、遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜軸としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値等の計3つ以上の方向で測定したレターデーション値を基にKOBRA 21ADHが算出する。この時、平均屈折率の仮定値および膜厚を入力することが必要である。KOBRA 21ADHはRth(λ)に加えてnx、ny、nzも算出する。平均屈折率は、セルロースアセテートでは1.48を使用するが、セルロースアセテート以外の代表的な光学用途のポリマーフィルムの値としては、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)、等の値を用いることができる。その他の既存のポリマー材料の平均屈折率値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)やポリマーフィルムのカタログ値を使用することができる。また、平均屈折率が不明な材料の場合は、アッベ屈折計を用いて測定することができる。本明細書におけるλは、特に記載がなければ550±5nmまたは590±5nmを指す。
一般には、本発明のセルロースエステルフィルムのRthは100μm当たり、好ましくは−100nm〜600nmであり、より好ましくは−70nm〜400nmであり、さらに好ましくは−70nm〜250nmである。また、Reは、100μm当たり、好ましくは0nm〜300nmであり、より好ましくは0nm〜200nmであり、さらに好ましくは0nm〜150nmである。この時Reは、流延方法でも幅方向のどちらでもよく特に限定されない。
【0062】
また、本発明のセルロースエステル溶液には、必要に応じてさらに種々の添加剤を溶液の調製前から調製後のいずれの段階で添加してもよい。添加剤としては、紫外線吸収剤、シリカ、カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナなどの無機微粒子、カルシウム、マグネシウムなど2族金属の塩などの熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤などである。
【0063】
(製造工程)
次に本発明のセルロースエステルフィルムの製造工程について記載する。まず、溶解工程について記述する。本発明のセルロースエステル溶液(ドープ)の調製は、その溶解方法は特に限定されず、室温で行ってもよいし、冷却溶解法、高温溶解方法、超臨界溶解法で行ってもよいし、さらにはこれらを組み合わせて行ってもよい。
【0064】
室温溶解の場合は、温度−10〜40℃でセルロースエステルを有機溶媒混合液や添加剤と混合し、溶解釜などの中で攪拌・混合して溶解させる。このとき、まず−10〜40℃にてセルロースエステルを有機溶媒混合物で膨潤し、得られた混合物を0〜40℃に加温して有機溶媒混合物中にセルロースエステルを溶解することが好ましい。溶解に関しては、セルロースエステル粉体を溶媒で十分均一に浸すことが重要であり、所謂ママコ(溶媒が全く行き渡らないセルロースエステルフ粉末部)を発生させないことが必須である。そのため、攪拌容器の中に溶媒を予め添加しておき、その後に、溶解容器を減圧にしてセルロースエステルを添加することが好ましい場合もある。また、逆に攪拌容器の中にセルロースエステルを予め添加しておき、その後に、溶解容器を減圧にして溶媒を添加することが好ましい場合もある。また、セルロースエステルに、予め本発明の炭素数4以下のアルコールを添加しておき、しかる後に有機溶媒を添加することも、好ましい溶液の作製方法である。複数の溶媒を用いる場合は、その添加順は特に限定されない。攪拌に当たってはセルロースエステルと溶媒を混合した後、そのまま静置して十分にセルロースエステルを溶媒で膨潤させて、続いて攪拌して均一な溶媒としてもよい。セルロースエステルの量は、この混合物中に5〜40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースエステルの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0065】
次に冷却溶解法について記述する。まず室温近辺の温度(−10〜40℃)で有機溶媒混合液中にセルロースエステルを撹拌しながら徐々に添加する。このとき複数の溶媒を用いる場合は、その添加順は特に限定されない。例えば、本発明の炭素数4以下のアルコールを溶媒中にセルロースエステルを添加した後に、他の併用溶媒を添加してもよいし、逆に予めセルロースエステルに併用溶媒を加えておいてもよく、不均一溶解の防止(所謂ママコ防止)に有効である。セルロースエステルの量は、この混合物中に5〜40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースエステルの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
【0066】
次に、混合物を−100〜−10℃(好ましくは−80〜−10℃、さらに好ましくは−50〜−20℃、最も好ましくは−50〜−30℃)に冷却し、さらに0〜40℃に加温する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30〜−20℃)中で実施できる。このようにして冷却することにより、セルロースエステルと有機溶媒混合液の混合物は固化する。冷却速度は、特に限定されないがバッチ式での冷却の場合は、冷却に伴いセルロースエステル溶液の粘度が上がり、冷却効率が劣るために所定の冷却温度に達するために効率よい溶解釜とすることが必要である。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。冷却溶解方法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
【0067】
本発明では高温溶解法も好ましく用いられる。まず室温近辺の温度(−10〜40℃)で有機溶媒混合物中にセルロースエステルを撹拌しながら徐々に添加する。複数の溶媒を用いる場合は、その添加順は特に限定されない。例えば、本発明の炭素数4以下のアルコール溶媒中にセルロースエステルを添加した後に、他の併用溶媒を添加してもよいし、逆に併用溶媒を予めセルロースエステルに加えてもよく、不均一溶解の防止に有効である。本発明のセルロースエステル溶液は、各種溶媒を含有する混合有機溶媒中にセルロースエステルを添加し予め膨潤させておくことが好ましい。その場合、−10〜40℃でいずれかの溶媒中に、セルロースエステルを撹拌しながら徐々に添加してもよいし、場合により本発明の炭素数4以下のアルコールを加え、その後に他の併用溶媒を加えて混合し均一の膨潤液としてもよく、さらには2種以上の溶媒で膨潤させしかる後に残りの溶媒を加えても良い。
【0068】
次に有機溶媒混合液は、0.2MPa〜30MPaの加圧下で60〜240℃に加熱される(好ましくは80〜220℃、さらに好ましくは100〜200℃、最も好ましくは100〜190℃)。加熱は、例えば高圧蒸気でもよく電気熱源でもよい。高圧のためには耐圧容器あるいは耐圧ラインを必要とするが、鉄やステンレス製あるいは他の金属耐圧容器やラインのいずれでもよく、特に限定されない。次にこれらの加熱溶液はそのままでは塗布できないため、使用された溶媒の最も低い沸点以下に冷却する必要がある。その場合、−10〜40℃に冷却して常圧に戻すことが一般的である。冷却はセルロースエステル溶液が内蔵されている高圧高温容器やラインを、室温に放置するだけでもよく、さらに好ましくは冷却水などの冷媒を用いて該装置を冷却してもよい。なお、溶解を早めるために加熱と冷却の操作を繰り返してもよい。溶解が十分であるかどうかは、目視により溶液の概観を観察するだけで判断することができる。高圧高温溶解方法においては、溶媒の蒸発を避けるために密閉容器を用いる。また、膨潤工程おいて、加圧や減圧にしたりすることでさらに溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器あるいはラインが必須である。
【0069】
前述した方法により得られたセルロースエステル溶液は、セルロースエステル溶液として高濃度のドープが得られるのが特徴であり、濃縮という手段に頼らずとも高濃度でしかも安定性の優れたセルロースエステル溶液が得られる。しかし、さらに溶解を短時間で達成するために低濃度で溶解してから、濃縮手段を用いて濃縮する方法も採用される。濃縮の方法としては、特に限定するものはないが、例えば、低濃度溶液を筒体とその内部の周方向に回転する回転羽根外周の回転軌跡との間に導くとともに、溶液との間に温度差を与えて溶媒を蒸発させながら高濃度溶液を得る方法(例えば、特開平4−259511号公報等)、加熱した低濃度溶液をノズルから容器内に吹き込み、溶液をノズルから容器内壁に当たるまでの間で溶媒をフラッシュ蒸発させるとともに、溶媒蒸気を容器から抜き出し、高濃度溶液を容器底から抜き出す方法(例えば、米国特許第2,541,012号、同第2,858,229号、同第4,414,341号、同第4,504,355号各明細書等などに記載の方法)等で実施できる。セルロースエステル溶液の製膜直前の粘度は、製膜の際に流延可能な範囲であればよく、通常10Pa・s〜2000Pa・sの範囲に調製されることが好ましく、特に30Pa・s〜400Pa・sが好ましい。なお、この時の温度はその流延時の温度であれば特に限定されないが、好ましくは−5〜70℃であり、より好ましくは−5〜55℃である。
【0070】
次に、セルロースエステル溶液のろ過について記述する。セルロースエステル溶液は流延に先だって金網やネルなどの適当な濾材を用いて、未溶解物やゴミ、不純物などの異物を濾過除去しておくのが好ましい。セルロースエステル溶液のろ過には絶対濾過精度が0.005mm以上で、0.1mm以下のフィルターを用いられ、さらには絶対濾過精度が0.005mm未満、0.0005mm以上であるフィルターを用いることが好ましく用いられる。その場合、16kg/cm2以下(好ましくは12kg/cm2以下、さらに好ましくは10kg/cm2、特に好ましくは2kg/cm2 以下。)の濾過圧力で濾過して製膜することが好ましい。このろ過によりクロスニコル状態で認識される大きさが50μmを越える異物は面積250mm2 当たり実質上0個が達成でき、さらには5〜50μmの異物が面積250mm2当たり200個以下が達成でき、偏光板用保護膜の商品価値を著しくあげることができる。ここで、本発明で得られるフィルムはクロスニコル状態で配置した二枚の偏光板の間に置かれ、一方の偏光板の外側から光を当て、他方の偏光板の外側から顕微鏡(透過光源で倍率30倍)で認識し、その時の異物の数を10箇所にわたって測定し、この評価を5回繰り返した時の異物の数と定義したものである。
【0071】
本発明のセルロースエステル溶液を用いたフィルムの溶液流延の製造方法について述べる。本発明のセルロースエステルフィルムを製造する方法および設備は、従来セルローストリアセテートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法および溶液流延製膜装置が用いられる。溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースエステル溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡する工程などで最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の支持体の上に均一に流延され、支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。ハロゲン化銀写真感光材料や電子ディスプレイ用機能性保護膜に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等の支持体への表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。以下に各製造工程について簡単に述べるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
まず、調製したセルロースエステル溶液(ドープ)は、ソルベントキャスト法によりセルロースエステルフィルムを作製される際に、ドープはドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が10〜40%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許第2,336,310号、同2,367,603号、同2,492,078号、同2,492,977号、同2,492,978号、同2,607,704号、同2,739,069号、同2,739,070号、英国特許第640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましく用いられる。
【0073】
本発明では得られたセルロースエステル溶液を、支持体としての平滑なバンド上或いはドラム上に単層液として流延してもよいし、2層以上の複数のセルロースエステル液を流延してもよい。複数のセルロースエステル溶液を流延する場合、支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口からセルロースエステルを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよく、例えば特開昭61−158414号、特開平1−122419号、特開平11−198285号各公報などに記載の方法が適応できる。また、2つ以上の流延口からセルロースエステル溶液を流延することによってもフィルム化することでもよく、例えば特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、特開平6−134933号各公報に記載の方法で実施できる。また、特開昭56−162617号公報に記載の高粘度セルロースエステル溶液の流れを低粘度のセルロースエステル溶液で包み込み、その高,低粘度のセルロースエステル溶液を同時に押出すセルロースエステルフィルム流延方法でもよい。
【0074】
或いはまた2個の流延口を用いて、第一の流延口により支持体に成型したフィルムを剥離、支持体面に接していた側に第二の流延を行なうことによりフィルムを作製することでもよく、例えば特公昭44−20235号公報に記載されている方法である。流延するセルロースエステル溶液は同一の溶液でもよいし、異なるセルロースエステル溶液でもよく特に限定されない。複数のセルロースエステル層に機能を持たせるために、その機能に応じたセルロースエステル溶液を、それぞれの流延口から押出せばよい。さらの本発明のセルロースエステル溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、UV吸収層、偏光膜など)を同時に流延することも実施しうる。
【0075】
さらに詳細に本発明に有用な流延方法について記すと、調製されたドープを加圧ダイから支持体上に均一に押し出す方法、一旦支持体上に流延されたドープをブレードで膜厚を調節するドクターブレードによる方法、或いは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、加圧ダイによる方法が好ましい。加圧ダイにはコートハンガータイプやTダイタイプ等があるがいずれも好ましく用いることができる。また、ここで挙げた方法以外にも従来知られているセルローストリアセテート溶液を流延製膜する種々の方法(例えば特開昭61−94724号、同61−148013号、特開平4−85011号、同4−286611号、同5−185443号、同5−185445号、同6−278149号、同8−207210号各公報などに記載の方法)を好ましく用いることができ、用いる溶媒の沸点等の違いを考慮して各条件を設定することによりそれぞれの公報に記載の内容と同様の効果が得られる。
【0076】
本発明のセルロースエステルフィルムを製造するのに使用されるエンドレスに走行する支持体としては、表面がクロムメッキによって鏡面仕上げされたドラムや表面研磨によって鏡面仕上げされたステンレスベルト(バンドといってもよい)が用いられる。本発明のセルロースエステルフィルムの製造に用いられる加圧ダイは、支持体の上方に1基或いは2基以上の設置でもよい。好ましくは1基または2基である。2基以上設置する場合には流延するドープ量をそれぞれのダイに種々な割合にわけてもよく、複数の精密定量ギヤアポンプからそれぞれの割合でダイにドープを送液する。
【0077】
本発明のセルロースエステルフィルムの製造に係わる支持体上におけるドープの乾燥は、一般的には支持体(ドラム或いはベルト)の表面側、つまり支持体上にあるウェブの表面から熱風を当てる方法、ドラム或いはベルトの裏面から熱風を当てる方法、温度コントロールした液体をベルトやドラムのドープ流延面の反対側の裏面から接触させて、伝熱によりドラム或いはベルトを加熱し表面温度をコントロールする液体伝熱方法などがあるが、裏面液体伝熱方式が好ましい。流延される前の支持体の表面温度はドープに用いられている溶媒の沸点以下であれば何度でもよい。しかし乾燥を促進するためには、また支持体上での流動性を失わせるためには、使用される溶媒の内の最も沸点の低い溶媒の沸点より1〜10℃低い温度に設定することが好ましい。
本発明のセルロースエステルフィルムの乾燥工程における乾燥温度は40〜250℃、特に70〜180℃が好ましい。さらに残留溶媒を除去するために、50〜160℃で乾燥され、その場合逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることが好ましく用いられている。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥離までの時間を短縮することが可能である。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量および乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。最終仕上がりフィルムの残留溶媒量は2質量%以下、さらに0.4質量%以下であることが、寸度安定性が良好なフィルムを得る上で好ましい。
【0078】
支持体上に形成されたセルロースエステルフィルムは、支持体から剥離する。このときの、剥離荷重の最大値(最大剥離荷重)は1〜30g/cmであることが好ましく、1〜28g/cmであることがより好ましく、3〜25g/cmであることがさらに好ましい。また、溶液を支持体上にドープを流延した時点から剥離が開始するまでの時間は30〜600秒であることが好ましく、30〜400秒がより好ましく、30〜240秒がさらに好ましい。
【0079】
支持体から剥離後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってフィルムは巾方向に収縮しようとする。高温度で乾燥するほど収縮が大きくなる。この収縮は可能な限り抑制しながら乾燥することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているような乾燥全工程或いは一部の工程を幅方向にクリップでウェブの巾両端を巾保持しつつ乾燥させる方法(テンター方式)が好ましい。
【0080】
さらには、積極的に幅方向に延伸する方法もあり、本発明では、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号、同11−48271号各公報などに記載されている。これは、セルロースエステルフィルムの面内レターデーション値を高い値とするためには、製造したフィルムを延伸される。フィルムの延伸は、常温または加熱条件下で実施する。加熱温度は特に限定されないが、フィルムのガラス転移温度前後であることが好ましく、一般には80〜160℃で実施され、特には100〜140℃である。特には、Tg(ガラス転移点)よりもさらに10〜20℃の温度が好ましい。本発明のセルロースエステルフィルムの延伸は、一軸延伸でもよく2軸延伸でもよい。フィルムは、乾燥中の処理で延伸することができ、特に溶媒が残存する場合は有効である。例えば、フィルムの搬送ローラーの速度を調節して、フィルムの剥離速度よりもフィルムの巻き取り速度の方を速くするとフィルムは延伸される。フィルムの巾をテンターで保持しながら搬送して、テンターの巾を徐々に広げることによってもフィルムを延伸できる。
【0081】
フィルムの乾燥後に、延伸機を用いて延伸すること(好ましくはロング延伸機を用いる一軸延伸)もできる。フィルムの延伸倍率(元の長さに対する延伸による増加分の倍率)は、1.03〜300倍あることが好ましく、さらに好ましいのは1.05〜2.5%であり、より好ましくは1.05〜1.8%である。この時、延伸方向は流延方向でもよいし、流延方向と直角な方向に延伸されてもよく、さらに場合によっては両方向に延伸されてもよい。この時、延伸は同時に実施されてもよく、一方方向に延伸してその後別方向に延伸されてもよい。これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。本発明のセルロースエステルフィルムの製造に係わる巻き取り機は一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。本発明のでき上がり(乾燥後)のセルロースエステルフィルムの厚さは、使用目的によって異なるが、通常20から500μmの範囲であり、さらに30〜250μmの範囲が好ましく、特に30〜150μmの範囲が最も好ましい。フィルム厚さの調製は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、支持体速度等を調節すればよい。
【0082】
延伸速度は5%/分〜1000%/分であることが好ましく、さらに10%/分〜500%/分であることが好ましい。延伸温度は30℃〜160℃でおこなうことが好ましく、さらには70℃〜150℃が好ましい。特に85〜150℃が好ましい。延伸はヒートロールあるいは/および放射熱源(IRヒーター等)、温風により行なうことが好ましい。また、温度の均一性を高めるために恒温槽を設けてもよい。ロール延伸で一軸延伸を行なう場合、ロール間距離(L)と該位相差板のフィルム幅(W)の比であるL/Wが、2.0〜5.0であることが好ましい。
【0083】
さらに、テンター乾燥のウエブの発泡を防止し、離脱性を向上させ、発塵を防止するために、乾燥装置において乾燥器の熱風がウエブ両縁部に当たらないように、乾燥器の幅がウエブの幅よりも短く形成することも好ましい。また、テンターの保持部に乾燥風が当たらないようウエブ両側端部内側に遮風板をしてもよい。
【0084】
<セルロースエステルフィルムの改質>
次に本発明のセルロースエステルフィルムについて、さらに機能を付与する場合の好ましい態様を記述する。まずセルロースエステルフィルムの表面処理方法について記述する。セルロースエステルフィルムは、場合により表面処理を行なうことによって、セルロースエステルフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。グロー放電処理とは、10-320Torrの低圧ガス下でおこる、いわゆる低温プラズマのことも示すが、大気圧下でのグロー放電処理でもよい。
【0085】
まず、低圧下でのグロー放電処理は、米国特許第3,462,335号、同3,761,299号、同4,072,769号および英国特許第891,469号明細書に記載されている。また不活性ガス、酸化窒素類、有機化合物ガス等の特定のガス等を導入することも行われる。ポリマーの表面をグロー放電処理する際には大気圧でもよいし減圧下で実施されてもよい。グロー放電処理の雰囲気に酸素、窒素、ヘリウムあるいはアルゴンのような種々のガスや水を導入しながら実施してもよい。グロー放電処理時の真空度は0.005〜20Torrが好ましく、より好ましくは0.02〜2Torrである。また、電圧は500〜5000Vの間が好ましく、より好ましくは500〜3000Vである。使用する放電周波数は、直流から数千MHz、より好ましくは50Hz〜20MHz、さらに好ましくは1KHz〜1MHzである。放電処理強度は、0.01KV・A・分/m2〜5KV・A・分/m2が好ましく、より好ましくは0.15KV・A・分/m2〜1KV・A・分/m2である。
【0086】
次に紫外線照射法も本発明では好ましく用いられる。使用される水銀灯は石英管からなる高圧水銀灯で、紫外線の波長が180〜380nmの間であるものが好ましい。紫外線照射の方法については、光源はセルロースエステルフィルムの表面温度が150℃前後にまで上昇することが支持体性能上問題なければ、主波長が365nmの高圧水銀灯ランプを使用することができる。低温処理が必要とされる場合には主波長が254nmの低圧水銀灯が好ましい。またオゾンレスタイプの高圧水銀ランプ、および低圧水銀ランプを使用する事も可能である。処理光量に関しては処理光量が多いほどセルロースエステルフィルムと被接着層との接着力は向上するが、光量の増加に伴い支持体が着色し、また支持体が脆くなるという問題が発生する。従って、365nmを主波長とする高圧水銀ランプで、照射光量20〜10000(mJ/cm2)がよく、より好ましくは50〜2000(mJ/cm2)である。254nmを主波長とする低圧水銀ランプの場合には、照射光量100〜10000(mJ/cm2)がよく、より好ましくは300〜1500(mJ/cm2)である。
【0087】
次にセルロースエステルフィルムの表面処理としてコロナ放電処理も好ましく、コロナ放電処理装置は、Pillar社製ソリッドステートコロナ処理機、LEPEL型表面処理機、VETAPHON型処理機等を用いることができる。処理は空気中、常圧で行なうことができる。処理時の放電周波数は、5〜40KV、より好ましくは10〜30KVであり、波形は交流正弦波が好ましい。電極と誘電体ロールのギャップクリアランスは0.1〜10mm、より好ましくは1.0〜2.0mmである。放電は、放電帯域に設けられた誘電サポートローラーの上方で処理し、処理量は、0.3〜0.4KV・A・分/m2、より好ましくは0.34〜0.38KV・A・分/m2である。
【0088】
次に火炎処理について記述すると、用いるガスは天然ガス、液化プロパンガス、都市ガスのいずれでもかまわないが、空気との混合比が重要である。天然ガス/空気の好ましい混合比は容積比で1/6〜1/10、好ましくは1/7〜1/9である。また、液化プロパンガス/空気の場合は1/14〜1/22、好ましくは1/16〜1/19、都市ガス/空気の場合は1/2〜1/8、好ましくは1/3〜1/7である。
また、火炎処理量は1〜50Kcal/m2、より好ましくは3〜20Kcal/m2の範囲で行なうとよい。
【0089】
また、セルロースエステルフィルムの表面処理として好ましく用いられるアルカリケン化処理を具体的に説明する。セルロースエステルフィルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。アルカリ溶液としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオンの濃度は0.1mol/L〜4.0mol/Lであることが好ましく、0.5mol/L〜3.5mol/Lであることがさらに好ましい。アルカリ溶液温度は、室温〜90℃の範囲が好ましく、40℃〜70℃がさらに好ましい。次に一般には水洗され、しかる後に酸性水溶液を通過させた後に、水洗して表面処理したセルロースエステルフィルムを得る。この時、酸としては塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、蟻酸、クロロ酢酸、シュウ酸などであり、その濃度は0.01mol/L〜3.0mol/Lであることが好ましく、0.05mol/L〜2.0mol/Lであることがさらに好ましい。アルカリケン化時間は、20〜600秒で実施されるがことが好ましくは、さらには30〜300秒が好ましく、特には40〜210秒であることが好ましい。また中和は、20〜600秒で実施されることが好ましく、より好ましくは30〜250秒、特には40〜180秒であるであることが好ましい。さらに水洗については、20〜400秒で実施されることが好ましく、より好ましくは30〜300秒、特には40〜210秒であるであることが好ましい。
【0090】
これらの方法で得られた固体の表面エネルギーは、「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社 1989.12.10発行)に記載のように接触角法、湿潤熱法、および吸着法により求めることができ、接触角法を用いることが好ましく、水の接触角は10〜45°が好ましく、10〜40°がより好ましく、10〜30°が特に好ましい。セルロースエステルフィルムと機能性層を接着するために、表面活性化処理をしたのち、直接セルロースエステルフィルム上に機能層を塗布して接着力を得る方法と、一旦何がしかの表面処理をした後、あるいは表面処理なしで、下塗層(接着層)を設けこの上に機能層を塗布する方法とがある。下塗層の構成としても種々の工夫が行われており、第1層として支持体によく隣接する層(以下、下塗第1層と略す)を設け、その上に第2層として機能層とよく接着する下塗り第2層を塗布する所謂重層法がある。
【0091】
単層法においては、セルロースエステルフィルムを膨張させ、下塗層素材と界面混合させることによって良好な接着性を達成している場合が多い。本発明に使用する下塗ポリマーとしては、水溶性ポリマー、セルロースエステル、ラテックスポリマー、水溶性ポリエステルなどが例示される。水溶性ポリマーとしては、ゼラチン、ゼラチン誘導体、カゼイン、寒天、アルギン酸ナトリウム、でんぷん、ポリビニールアルコール、ポリアクリル酸共重合体、無水マレイン酸共重合体などであり、セルロースエステルとしてはカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどである。ラテックスポリマーとしては塩化ビニル含有共重合体、塩化ビニリデン含有共重合体、アクリル酸エステル含有共重合体、酢酸ビニル含有共重合体、ブタジエン含有共重合体などである。重層法における下塗第1層では、例えば塩化ビニル、塩化ビニリデン、ブタジエン、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸などの中から選ばれた単量体を出発原料とする共重合体を始めとして、ポリエチレンイミン、エポキシ樹脂、グラフト化ゼラチン、ニトロセルロース、等のオリゴマーもしくはポリマーなどがある。
【0092】
また本発明のセルロースエステルフィルムには好ましい態様としては、偏光子と接着するための親水性バインダー層が設けられることである。例えば、−COOM基含有の酢酸ビニル−マレイン酸共重合体化合物、または親水性セルロース誘導体(例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等)、ポリビニルアルコール誘導体(例えば酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアセタール、ポリビニルホルマール、ポリビニルベンザール等)天然高分子化合物(例えばゼラチン、カゼインアラビアゴム等)、親水基含有ポリエステル誘導体(例えばスルホン基含有ポリエステル共重合体)が挙げられる。
【0093】
本発明セルロースエステルフィルムに場合により施される下塗り層には、機能層の透明性などを実質的に損なわない程度に無機または、有機の微粒子をマット剤として含有させることができる。無機の微粒子のマット剤としてはシリカ(SiO2),二酸化チタン(TiO2),炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどを使用することができる。有機の微粒子マット剤としては、ポリメチルメタクリレート、セルロースアセテートプロピオネート、ポリスチレン、米国特許第4,142,894号明細書に記載されている処理液可溶性のもの、米国特許第4,396,706号明細書に記載されているポリマーなどを用いることができる。これらの微粒子マット剤の平均粒子サイズは0.01〜10μmのものが好ましい。より好ましくは、0.05〜5μmである。また、その含有量は0.5〜600mg/m2が好ましく、さらに好ましくは、1〜400mg/m2である。 下塗液は、一般に良く知られた塗布方法、例えばディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコ−ト法、スライドコート法、或いは、米国特許第2,681,294号明細書に記載のホッパーを使用するエクストルージョンコート法により塗布することができる。
【0094】
本発明のセルロースエステルフィルムが利用される偏光板用保護膜の構成においては、フィルムの少なくとも一層に帯電防止層を設けたり、偏光子と接着するための親水性バインダー層が設けられることが好ましい。まず、本発明の導電層について以下に記す。導電性素材としては、導電性金属酸化物や導電性ポリマーが好ましい。なお、蒸着やスパッタリングによる透明導電性膜でもよい。金属酸化物の例としては、 ZnO、TiO2、SnO2、Al23、In23、SiO2、MgO、BaO、MoO2、V25等、或いはこれらの複合酸化物が好ましく、特にZnO、SnO2あるいはV25が好ましい。複合酸化物の異種原子例としては、Al、In、Ta、Sb、Nb、ハロゲン、Agの添加が効果的であり、添加量は0.01mol%−25mol%の範囲が好ましい。また、これらの導電性を有する金属酸化物粉体の体積抵抗率は107Ω−cm特に105Ω−cm以下であって、1次粒子サイズが100Å〜0.2μm以下で、これら凝集体の高次構造の長径が300Å〜6μm以下である特定の構造を有する粉体を導電層に体積分率で0.01%〜20%以下含んでいることが好ましい。この導電性微粒子の使用量は0.01〜5.0g/m2が好ましく、特に0.005〜1g/m2が好ましい。
【0095】
導電性微粒子の分散用バインダーは、フィルム形成能を有する物であれば特に限定されるものではないが、例えばゼラチン、カゼイン等のタンパク質、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アセチルセルロース、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース化合物、デキストラン、寒天、アルギン酸ナトリウム、デンプン誘導体等の糖類、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリ−N−ビニルピロリドン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル酸等の合成ポリマー等を挙げる事ができる。
【0096】
次にイオン導電性物質とは、電気伝導性を示し、電気を選ぶ担体であるイオンを含有する物質のことである。この例としては、イオン性高分子化合物と電解質を含む金属酸化物ゾルを挙げることができる。これらの導電性層の電気抵抗は1012Ω(25℃・相対湿度10%)以下が好ましく、より好ましくは1010Ω以下、特に好ましくは109Ω以下である。さらに導電性材料として、有機電子伝導性材料もこのましく、例えばポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリアセチレン誘導体などを挙げることができる。
【0097】
本発明のセルロースエステルフィルムの利用においては界面活性剤が好ましく用いられ以下に述べる。本発明の機能層には界面活性剤はその使用目的によって、分散剤、塗布剤、濡れ剤、帯電防止剤などに分類されるが、以下に述べる界面活性剤を適宜使用することで、それらの目的は達成できる。本発明で使用される界面活性剤は、ノニオン性、イオン性(アニオン、カチオン、ベタイン)いずれも使用できる。さらにフッ素系低分子界面活性剤も有機溶媒中での塗布剤としたり、帯電防止剤として好ましく用いられる。使用される層としてはセルロースエステル溶液中でもよいし、その他の機能層のいずれでもよい。光学用途で利用される場合は、機能層の例としては下塗り層、中間層、配向制御層、屈折率制御層、保護層、防汚層、粘着層、バック下塗り層、バック層などである。その使用量は目的を達成するために必要な量であれば特に限定されないがしいが、一般には添加する層の質量に対して、0.0001〜5質量%が好ましく、さらには0.0005〜2質量%が好ましい。その場合の塗設量は、1m2当り0.02〜1000mgが好ましく、0.05〜200mgが好ましい。
【0098】
また、セルロースエステルフィルムの上のいずれかの層に滑り剤を含有させてもよく、その場合は特に最外層が好ましい。用いられる滑り剤としては、例えば、特公昭53−292号公報に開示されているようなポリオルガノシロキサン、米国特許第4,275,146号明細書に開示されているような高級脂肪酸アミド、特公昭58−33541号公報、英国特許第927、446号明細書或いは特開昭55−126238号および同58−90633号公報に開示されているような高級脂肪酸エステル(炭素数10〜24の脂肪酸と炭素数10〜24のアルコールのエステル)、そして、米国特許第3,933,516号明細書に開示されているような高級脂肪酸金属塩、また、特開昭58−50534号公報に開示されているような、直鎖高級脂肪酸と直鎖高級アルコールのエステル、世界公開90108115.8に開示されているような分岐アルキル基を含む高級脂肪酸−高級アルコールエステル等が知られている。
【0099】
このうちポリオルガノシロキサンとしては、一般的に知られている、ポリジメチルシロキサンポリジエチルシロキサン等のポリアルキルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等のポリアリールシロキサンのほかに、特公昭53−292号,特公昭55−49294号、特開昭60−140341号等各公報に示されるような、C5以上のアルキル基を持つオルガノポリシロキサン、側鎖にポリオキシアルキレン基を有するアルキルポリシロキサン、側鎖にアルコキシ、ヒドロキシ、水素、カルボキシル、アミノ、メルカプト基を有するようなオルガノポリシロキサン等の変性ポリシロキサンを用いることもできるし、シロキサンユニットを有するブロックコポリマーや、特開昭60−191240号公報に示されるようなシロキサンユニットを側鎖に持つグラフトコポリマーを用いることもできる。上記滑り剤の塗設にあたっては,皮膜形成能のあるバインダーと共に用いることもできる。このようなポリマーとしては,公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂、反応性樹脂、およびこれらの混合物、ゼラチンなどの親水性バインダーを使用することができる。滑り性能は静摩擦係数0.25以下が好ましく、試料を温度25℃・相対湿度60%で2時間調湿した後、HEIDON−10静摩擦係数測定機により、5mmφのステンレス鋼球を用いて測定した値であり、数値が小さい程滑り性は良い。
【0100】
本発明のセルロースエステルフィルムの機能層において、フィルムの易滑性や高湿度下での耐接着性の改良のためにマット剤を使用することが好ましい。その場合、表面の突起物の平均高さが0.005〜10μmが好ましく、より好ましくは0.01〜5μmである。又、その突起物は表面に多数ある程良いが、必要以上に多いとへイズとなり問題である。好ましい突起物は突起物の平均高さを有する範囲であれば、例えば球形、不定形マット剤で突起物を形成する場合はその含有量が0.5〜600mg/m2であり、より好ましいのは1〜400mg/m2である。この時、使用されるマット剤としてはその組成において特に限定されず、無機物でも有機物でもよく2種類以上の混合物でもよい。
【0101】
マット剤の無機化合物、有機化合物は、例えば、硫酸バリウム、マンガンコロイド、二酸化チタン、硫酸ストロンチウムバリウム、二酸化ケイ素、などの無機物の微粉末があるが、さらに例えば湿式法やケイ酸のゲル化より得られる合成シリカ等の二酸化ケイ素やチタンスラッグと硫酸により生成する二酸化チタン(ルチル型やアナタース型)等が挙げられる。また、粒子サイズの比較的大きい、例えば20μm以上の無機物から粉砕した後、分級(振動ろ過、風力分級など)することによっても得られる。その他、ポリテトラフルオロエチレン、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプピルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチレンカーボネート、澱粉等の有機高分子化合物の粉砕分級物もあげられる。あるいは又懸濁重合法で合成した高分子化合物、スプレードライ法あるいは分散法等により球型にした高分子化合物、または無機化合物を用いることができる。
【0102】
本発明のフィルムには、透明ハードコート層を設けることができる。透明ハードコート層としては活性線硬化性樹脂或いは熱硬化樹脂が好ましく用いられる。活性線硬化性樹脂層とは紫外線や電子線のような活性線照射により架橋反応などを経て硬化する樹脂を主たる成分とする層をいう。活性線硬化性樹脂としては紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂などが代表的なものとして挙げられるが、紫外線や電子線以外の活性線照射によって硬化する樹脂でもよい。紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、または紫外線硬化型エポキシ樹脂等を挙げることができる。なお、特開2003−039014号公報には、塗布されたフィルムを巻き回しや幅方向に把持して乾燥し、活性線硬化物質を含む塗布液を硬化処理等することにより、高い平面性を有する発明が記載されており、この発明は本発明にも適応できる。
【0103】
本発明のフィルムには、反射防止層を設けることもできる。反射防止層の構成としては、単層、多層等各種知られているが、多層のものとしては高屈折率層、低屈折率層を交互に積層した構造のものが一般的である。構成の例としては、透明基材側から高屈折率層/低屈折率層の2層の順から構成されたものや、屈折率の異なる3層を、中屈折率層(透明基材或いはハードコート層よりも屈折率が高く、高屈折率層よりも屈折率の低い層)/高屈折率層/低屈折率層の順に積層されているもの等があり、さらに多くの反射防止層を積層するものも提案されている。中でも、耐久性、光学特性、コストや生産性などから、ハードコート層を有する基材上に、高屈折率層/中屈折率層/低屈折率層の順に塗布することが好ましい構成である。
【0104】
本発明の光学フィルムは防眩層を設けることもできる。防眩層は表面に凹凸を有する構造をもたせることにより、防眩層表面または防眩層内部において光を散乱させることにより防眩機能発現させる為、微粒子物質を層中に含有した構成をとっている。これらの層として好ましい構成は以下に示される様なものである。これは膜厚0.5〜5.0μmであって、平均粒子サイズ0.25〜10μmの1種以上の微粒子を含む層であり、平均粒子サイズが当該膜厚の1.1から2倍の二酸化ケイ素粒子と平均粒子サイズ0.005〜0.1μmの二酸化ケイ素微粒子を例えばジアセチルセルロースのようなバインダー中に含有する層であって、これによって防眩機能を発揮することができる。この「粒子」としては、無機粒子および有機粒子が挙げられる。
【0105】
本発明の光学フィルムには、カール防止加工を施すこともできる。カール防止加工とは、これを施した面を内側にして丸まろうとする機能を付与するものであるが、この加工を施すことによって、透明樹脂フィルムの片面に何らかの表面加工をして、両面に異なる程度・種類の表面加工を施した際に、その面を内側にしてカールしようとするのを防止する働きをするものである。カール防止層は基材の防眩層または反射防止層を有する側と反対側に設ける態様或いは、例えば透明樹脂フィルムの片面に易接着層を塗設する場合もあり、又逆面にカール防止加工を塗設するような態様が挙げられる。
【0106】
<本発明のセルロースエステルフィルムの利用>
本発明のセルロースエステルフィルムに、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に詳細に記載されている機能性層を組み合わせることが好ましい。中でも好ましいのが、偏光膜の付与(偏光板)、光学補償層の付与(光学補償シート)、反射防止層の付与(反射防止フィルム)である。
【0107】
(1)偏光膜の付与(偏光板の作成)
現在、市販の偏光膜は、延伸したポリマーを、浴槽中のヨウ素もしくは二色性色素の溶液に浸漬し、バインダー中にヨウ素、もしくは二色性色素を浸透させることで作製されるのが一般的である。偏光膜におけるヨウ素および二色性色素は、バインダー中で配向することで偏光性能を発現する。二色性色素は、親水性置換基(例えば、スルホ、アミノ、ヒドロキシル)を有することが好ましい。例えば、発明協会公開技法(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会)58頁に記載の化合物が挙げられる。
【0108】
偏光膜のバインダーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。バインダーには、例えば特開平8−338913号公報の段落番号[0022]に記載の水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。変性ポリビニルアルコールについては、特開平8−338913号、同9−152509号および同9−316127号の各公報に記載がある。バインダー厚みは、1〜50μmであることが好ましく、より好ましくは2〜50μmであり、さらには5〜30μである。
偏光膜のバインダーは架橋していてもよい。架橋性のホウ素化合物(例えば、ホウ酸、硼砂)も、架橋剤として用いることができる。バインダーの架橋剤の添加量は、バインダーに対して、0.1〜20質量%が好ましい。
【0109】
偏光膜は、偏光膜を延伸するか(延伸法)、もしくはラビングした(ラビング法)後に、ヨウ素、二色性染料で染色することが好ましい。 延伸法の場合、延伸倍率は2.5〜30.0倍が好ましく、3.0〜10.0倍がさらに好ましい。延伸は平行延伸法、特開2002−86554号公報に記載の斜め方向に傾斜め方向に張り出したテンターを用い延伸する方法を用いることができる。上記ケン化後のセルロースエステルフィルムと、延伸して調製した偏光膜を貼り合わせ偏光板を調製する。張り合わせる方向は、セルロースエステルフィルムの流延軸方向と偏光板の延伸軸方向が45度になるように行なうのが好ましい。 貼り合わせの接着剤は特に限定されないが、PVA系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等の変性PVAを含む)やホウ素化合物水溶液等が挙げられ、中でもPVA系樹脂が好ましい。接着剤層厚みは乾燥後に0.01〜10μmが好ましく、0.05〜5μmが特に好ましい。
【0110】
(2)光学補償層の付与(光学補償シートの作成)
光学異方性層は、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶化合物を補償するためのものであり、セルロースエステルフィルムの上に配向膜を形成し、さらに光学異方性層を付与することで形成される。上記表面処理したセルロースエステルフィルム上に配向膜を設ける。この膜は、液晶性分子の配向方向を規定する機能を有する。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、本発明の構成要素としては必ずしも必須のものではない。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層のみを偏光子上に転写して本発明の偏光板を作製することも可能である。配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例えば、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
【0111】
配向膜の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。加熱乾燥は、20℃〜110℃で行なうことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、特に80℃〜100℃が好ましい。乾燥時間は1分〜36時間で行なうことができるが、好ましくは1分〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5で、特に5が好ましい。このようにして得た配向膜の膜厚は、0.1〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0112】
次に、配向膜の上に光学異方性層の液晶性分子を配向させる。その後、必要に応じて、配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、あるいは、架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させる。 光学異方性層に用いる液晶性分子には、棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子が含まれる。棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。
(棒状液晶性分子)
棒状液晶性分子は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。
棒状液晶性分子については、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994)日本化学会編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第142委員会編の第3章に記載がある。 棒状液晶性分子の複屈折率は、0.001〜0.7の範囲にあることが好ましい。 棒状液晶性分子は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重合性基は、ラジカル重合性不飽基或はカチオン重合性基が好ましく、具体的には、例えば特開2002−62427号公報の段落番号[0064]〜[0086]に記載の重合性基、重合性液晶化合物が挙げられる。
【0113】
(円盤状液晶性分子)
円盤状液晶性分子としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造である液晶性を示す化合物も含まれる。分子または分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。円盤状液晶性分子から形成する光学異方性層は、最終的に光学異方性層に含まれる化合物が円盤状液晶性分子である必要はなく、例えば、低分子の円盤状液晶性分子が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。円盤状液晶性分子の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、円盤状液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。円盤状液晶性分子を重合により固定するためには、円盤状液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。円盤状コアと重合性基は、連結基を介して結合する化合物が好ましく、これにより重合反応においても配向状態を保つことができる。例えば、特開2000−155216号公報の段落番号[0151]〜[0168]に記載の化合物等が挙げられる。
【0114】
(光学異方性層の他の組成物)
上記の液晶性分子と共に、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー等を併用して、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶分子の配向性等を向上することができる。液晶性分子と相溶性を有し、液晶性分子の傾斜角の変化を与えられるか、あるいは配向を阻害しないことが好ましい。
(光学異方性層の形成)
光学異方性層は、液晶性分子および必要に応じて後述の重合性開始剤や任意の成分を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成できる。光学異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜15μmであることがさらに好ましく、1〜10μmであることが最も好ましい。配向させた液晶性分子を、配向状態を維持して固定することができる。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
【0115】
この光学補償フィルムと偏光膜を組み合わせることも好ましい。具体的には、上記のような光学異方性層用塗布液を偏光膜の表面に塗布することにより光学異方性層を形成する。その結果、偏光膜と光学異方性層との間にポリマーフイルムを使用することなく、偏光膜の寸度変化にともなう応力(歪み×断面積×弾性率)が小さい薄い偏光板が作成される。本発明に従う偏光板を大型の液晶表示装置に取り付けると、光漏れなどの問題を生じることなく、表示品位の高い画像を表示することができる。偏光膜と光学補償層の傾斜角度は、LCDを構成する液晶セルの両側に貼り合わされる2枚の偏光板の透過軸と液晶セルの縦または横方向のなす角度にあわせるように延伸することが好ましい。通常の傾斜角度は45°である。しかし、最近は、透過型、反射型および半透過型LCDにおいて必ずしも45°でない装置が開発されており、延伸方向はLCDの設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0116】
<液晶表示装置への利用>
(一般的な液晶表示装置の構成)
セルロースエステルフィルムは、様々な用途で用いることができる。本発明のセルロースエステルフィルムは、液晶表示装置の光学補償シートとして用いると有効である。なお、フィルムそのものを光学補償シートとして用いる場合は、偏光素子(後述)の透過軸と、セルロースエステルフィルムからなる光学補償シートの遅相軸とを実質的に平行または垂直になるように配置することが好ましい。このような偏光素子と光学補償シートとの配置については、特開平10−48420号公報に記載がある。液晶表示装置は、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光素子、および該液晶セルと該偏光素子との間に少なくとも一枚の光学補償シートを配置した構成を有している。
【0117】
液晶セルの液晶層は、通常は、二枚の基板の間にスペーサーを挟み込んで形成した空間に液晶を封入して形成する。透明電極層は、導電性物質を含む透明な膜として基板上に形成する。液晶セルには、さらにガスバリアー層、ハードコート層あるいは(透明電極層の接着に用いる)アンダーコート層を設けてもよい。これらの層は、通常、基板上に設けられる。液晶セルの基板は、一般に80〜500μmの厚さを有する。
【0118】
光学補償シートは、液晶画面の着色を取り除くための複屈折率フィルムである。本発明のセルロースエステルフィルムそのものを、光学補償シートとして用いることができる。さらに反射防止層、防眩性層、λ/4層や2軸延伸セルロースエステルフィルムとして機能を付与してもよい。また、液晶表示装置の視野角を改良するため、本発明のセルロースエステルフィルムと、それとは(正/負の関係が)逆の複屈折を示すフィルムを重ねて光学補償シートとして用いてもよい。光学補償シートの厚さの範囲は、前述した本発明のフィルムの好ましい厚さと同じである。
【0119】
偏光素子の偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。いずれの偏光膜も、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。偏光板の保護膜は、25〜350μmの厚さを有することが好ましく、40〜200μmの厚さを有することがさらに好ましい。液晶表示装置には、表面処理膜を設けてもよい。表面処理膜の機能には、ハードコート、防曇処理、防眩処理および反射防止処理が含まれる。
前述したように、支持体の上に液晶(特にディスコティック液晶性分子)を含む光学的異方性層を設けた光学補償シートも提案されている(特開平3−9325号、同6−148429号、同8−50206号、同9−26572号の各公報記載)。本発明のセルロースエステルフィルムは、そのような光学補償シートの支持体としても用いることができる。
【0120】
(ディスコティック液晶性分子を含む光学的異方性層)
光学的異方性層は、傾斜配向したディスコティック液晶性分子を含む層であることが好ましい。ディスコティック液晶性分子の円盤面と支持体面とのなす角は、光学的異方性層の深さ方向において変化している(ハイブリッド配向している)ことが好ましい。ディスコティック液晶性分子の光軸は、円盤面の法線方向に存在する。ディスコティック液晶性分子は、円盤面の法線方向の屈折率よりも円盤面方向の屈折率が大きな複屈折性を有する。ディスコティック液晶性分子は、支持体表面に対して実質的に水平に配向させてもよい。
【0121】
(VA型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有効に用いられる。VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートには、レターデーションの絶対値が最小となる方向が光学補償シートの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートの光学的性質は、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体との配置により決定される。VA型液晶表示装置に光学補償シートを二枚使用する場合は、光学補償シートの面内レターデーションを、−5nm〜5nmの範囲内にすることが好ましい。従って、二枚の光学補償シートのそれぞれの面内レターデーションの絶対値は、0〜5とすることが好ましい。
【0122】
VA型液晶表示装置に光学補償シートを一枚使用する場合は、光学補償シートの面内レターデーションを、−10nm〜10nmの範囲内にすることが好ましい。このような光学特性範囲になるように、本発明のセルロースエステルフィルムは各種VAセルに対応した光学特性を付与すればよい。その範囲は、セルギャップに対応して一枚型セルロースエステルフィルムでは、Reが40〜120nmであり、好ましくはReが50〜100nmであり、特には50〜90nmである。また、Rthが160〜300nmであり、好ましくはRthが170〜260nmであり、特には180〜240nmである。また、VA型液晶表示装置に光学補償シートをニ枚使用する場合は、本発明のセルロースエステルフィルムは各種VAセルに対応した光学特性を付与すればよい。その範囲は、セルギャップに対応して二枚型セルロースエステルフィルムでは、Reが20〜80nmであり、好ましくはReが30〜70nmであり、特には30〜60nmである。また、Rthが80〜200nmであり、好ましくはRthが90〜180nmであり、特には95〜165nmである。
【0123】
(OCB型液晶表示装置およびHAN型液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置あるいはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートには、レターデーションの絶対値が最小となる方向が光学補償シートの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートの光学的性質も、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体との配置により決定される。本発明のセルロースエステルフィルムは各種OCBモードの液晶セルに対応した光学特性を付与すればよい。その範囲は、Reが20〜100nmであり、好ましくはReが30〜80nmであり、特には30〜60nmである。また、Rthが150〜300nmであり、好ましくはRthが160〜260nmであり、特には170〜250nmである。
【0124】
(その他の液晶表示装置)
本発明のセルロースエステルフィルムは、ASM(Axially Symmetric Alligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置については、クメ(Kume)外の論文(Kume et al., SID 98 Digest 1089 (1998))に記載がある。本発明のセルロースエステルフィルムを、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置については、古くから良く知られている。TN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開平3−9325号、同6−148429号、同8−50206号、同9−26572号の各公報に記載がある。これらの各種液晶表示装置に対する光学補償シート用として、本発明のセルロースエステルはその光学特性を所望の範囲の付与すればよい。
【0125】
<測定方法および評価方法>
以下にセルロースアシレートフィルムに関する測定方法と評価方法ついて記載する。更に追加の特性評価方法は、別途後述した。
(ReおよびRth並びに、湿度に伴うReおよびRth変動)
セルロースエステルフィルムを25℃・相対湿度60%にて24時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃・相対湿度60%において、フィルム表面に対し垂直方向および遅相軸を回転軸としてフィルム面法線から+50°から−50°まで10°刻みで傾斜させた方向から波長590nmにおける位相差を測定し、面内レターデーション値(Re)と膜厚方向のレターデーション値(Rth)とを算出させた。特に断らない場合ReおよびRthは、この値をさす。
さらに、これらのサンプルを、25℃・相対湿度10%で同様に測定しRe(10%RH)、Rth(10%RH)を求めた。さらにこれらの試料を25℃・相対湿度80%で同様に測定し、Re(80%RH)、Rth(80%RH)を求めた。各試料について、下記式に従い湿度Re変動、湿度Rth変動を求めた。
・湿度Re変動(%/相対湿度%)=[100×{Re(80%RH)とRe(10%RH)の差の絶対値}/Re(60%RH)]/70
・湿度Rth変動(%/相対湿度%)=[100×{Rth(80%RH)とRth(10%RH)の差の絶対値}/Rth(60%RH)]/70
【0126】
(光弾性係数)
(ア)1cm幅×10cm長のサンプルを、サンプルの長手方向がMD方向とTD方向になるように2種類切り出した。
(イ)これをエリプソ測定装置(日本分光製 M−150)にセットし、長手方向(10cm長)に沿って100g、200g、300g、400g、500gの荷重を掛けながら、順次25℃・相対湿度60%において632.8nmの光でReを測定した。
(ウ)横軸に応力(荷重をフィルム断面積で割った値(kgf/cm2))、縦軸にRe変化(nm)をプロットし、この傾きから光弾性(cm2/kgf)を求めた。
(エ)2種類のサンプルの測定値を平均して光弾性(cm2/kgf)とした。
【0127】
(セルロースエステルの置換度)
セルロースの水酸基に対するアシル基の置換度は、Carbohydr.Res.273(1995)83−91(手塚他)に記載の方法で13C NMRにより求めた。
【0128】
(ヘイズ)
試料40mm×80mmを、25℃・相対湿度60%でヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)を用いてJIS K−6714に従って測定した。
【0129】
(透明度)
試料20mm×70mmについて、25℃・相対湿度60%で透明度測定器(AKA光電管比色計、KOTAKI製作所)を用いて可視光(615nm)の透明度を測定した。
【0130】
(分子配向軸)
試料70mm×100mmを、25℃・相対湿度65%で2時間調湿し、自動複屈折計(KOBRA21DH、 王子計測(株))を用いて垂直入射における入射角を変化させた時の位相差を測定して分子配向軸を算出した。
【0131】
(引裂強度)
試料50mm×64mmを、23℃・相対湿度65%で2時間調湿し、軽荷重引裂強度試験器(東洋精機製作所)を用いてISO6383/2−1983に従って引裂に要する加重を測定し、MD,TD方向で平均化して評価した。
【0132】
(耐折強度)
試料120mm×120mmを、23℃・相対湿度65%で2時間調湿し、ISO8776−1988に従って折り曲げによって切断するまでの往復回数を測定した。
【0133】
(キシミ)
試料100mm×200mmおよび75mm×100mmを、23℃・相対湿度65%で2時間調湿し、テンシロン引張試験機(RTA−100,オリエンテック(株))を用いて、大きいフイルムを台の上に固定し、200gのおもりをつけた小さいフイルムを載せた。おもりを水平方向に引っ張り、動き出した時の力、動いているときの力を測定した。そして、静摩擦係数、動摩擦係数をそれぞれ次式に従い算出した。
F=μ×W (W:おもりの重さ(kgf))
(動摩擦(鋼球法))
試料35mm×100mmを、23℃・相対湿度65%で2時間調湿し、動摩擦係数測定器(東洋ボールドウィン)を用いて、測定面を上にして試料を台に固定し、鋼球を試料上におろし、台を送り測定した。
【0134】
(アルカリ加水分解性)
試料100mm×100mmを、自動アルカリケン化処理装置(新東科学(株))にて、60℃,
2mol/L水酸化ナトリウム水溶液にて3分間ケン化し、4分間水洗した後、30℃,0.01mol/L希硝酸にて4分間中和し、4分間水洗した。その後、100℃で3分間乾燥し、さらに自然乾燥を1時間行って、下記の目視基準とケン化処理前後のヘイズ値からアルカリ加水分解性を評価した(25℃・相対湿度60%)。
A: 白化は全く認められなかった。
B: 白化がわずかに認められた。
C: 白化がかなり認められた。
D: 白化が著しく認められた。
【0135】
(カール値)
試料35mm×3mmを、カール調湿槽(HEIDON(No.YG53−168)、新東科学(株))で相対湿度25%、55%、85%で24時間調湿し、曲率半径をカール板で測定した。またウェットでのカールは、水温25℃の水中に30分静置した後に、そのカール値を測定した。
【0136】
(耐湿熱性)
試料35mm×25mmを、85℃・相対湿度90%で200,500,1000時間それぞれ経時させて、プラチナスレインボー(PR−1G、タバイ エスペック(株))にて、2枚の試料を接着剤にて張り合わせて調湿し、試料の状態を目視で観察し、色の変化を測定して以下の基準で評価した。
A: 特に異常が認められない。
B: 分解臭または分解による形状変化が認められる。
【0137】
(含水率)
試料7mm×35mmを水分測定器と試料乾燥装置(CA−03、VA−05、共に三菱化学(株))を用いてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料重量(g)で除して算出した。
【0138】
(残留溶剤量)
ガスクロマトグラフィー(GC−18A、島津製作所(株))を用いて、試料7mm×35mmのベース残留溶剤量を測定した。
【0139】
(熱収縮率)
試料30mm×120mmを90℃・相対湿度5%で24時間、120時間経時させ、自動ピンゲージ(新東科学(株))にて、両端に6mmφの穴を100mm間隔に開けて、間隔の原寸(L1)を最小目盛り1/1000mmまで測定した。さらに90℃・相対湿度5%にて24時間、120時間熱処理してパンチ間隔の寸法(L2)を測定した。熱収縮率を{(L1−L2)/L1}×100により求めた。
【0140】
(透湿度、透湿係数)
試料70mmφを25℃・相対湿度90%および40℃・相対湿度90%でそれぞれ24時間調湿し、透湿試験装置(KK−709007、東洋精機(株))にて、JIS Z−0208に従って、単位面積あたりの水分量(g/m2)を算出した。そして、透湿度を調湿後重量−調湿前重量により求めた。更に強制的評価として、60℃・相対湿度95%にて24時間調室後に測定し、透湿係数とした。
【0141】
(異物検査)
試料の全幅×1mの範囲に反射光をあて、膜中異物を目視にて検出した後、偏光顕微鏡で異物(リント)を確認して評価した。
【0142】
(寸法安定性)
寸法安定性は熱収縮率で評価した。試料の縦方向および横方向より30mm幅×120mm長さの試験片を各3枚採取した。試験片の両端に6mmφの穴をパンチで100mm間隔に開けた。これを23±3℃、相対温度65±5%の室内で3時間以上調湿した。自動ピンゲージ(新東科学(株)製)を用いてパンチ間隔の原寸(L1)を最小目盛り/1000mmまで測定した。次に試験片を80℃±1℃の恒温器に吊して3時間熱処理し、23± 3℃、相対湿度65±5%の室内で3時間以上調湿した後、自動ピンゲージで熱処理後のパンチ間隔の寸法(L2)を測定した。そして以下の式により熱収縮率を算出した。
熱収縮率=(L1−L2/L1)×100
【0143】
(弾性率)
東洋ボールドウィン製万能引っ張り試験機STM T50BPを用いて、23℃、70%雰囲気中、引っ張り速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めた。
【0144】
(輝点異物の測定)
直交状態(クロスニコル)に二枚の偏光板を配置して透過光を遮断し、二枚の偏光板の間に各試料を置いた。偏光板はガラス製保護板のものを使用した。片側から光を照射し、反対側から光学顕微鏡(50倍)で1cm2当たりの直径0.01mm以上の輝点数をカウントした。
【0145】
(Tgの測定)
DSCの測定パンに試料を20mg入れた。これを窒素気流中で、10℃/分で30℃から250℃まで昇温した後、30℃まで−10℃/分で冷却した。この後、再度30℃から250℃まで昇温してベースラインが低温側から偏奇し始める温度をTgとした。
【実施例】
【0146】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0147】
(実施例1)
(1−1)セルロースエステル−Aの合成
広葉樹から採取したセルロースを原料として、セルロースエステル−Aを合成した。
セルロースエステル−Aは、アセチル置換度が1.00、ブチリル置換度が1.70、トータル置換度が2.70、粘度平均重合度が220、含水率が0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度が190mPa・s、平均粒子サイズが1.5mmであって標準偏差が0.5mmである粉体であった。また、残存酢酸量が0.1質量%以下、残留酪酸量が0.1質量%以下であり、Ca含有量が60ppm、Mg含有量が10ppm、Fe含有量が0.2ppmであり、さらに硫酸基としてのイオウ量を65ppm含むものであった。また6位アセチル基の置換度は0.32、6位ブチリル基の置換度は0.58であり全アセチル中の33%であった。また、メタノール抽出分は5質量%以下、重量平均分子量/数平均分子量比(DPCにより測定)は2.5であった。得られたセルロースエステル−Aを、メチレンクロライド/メタノール=90/10(質量比)を用いてガラス板上に溶液製膜し、80μmの厚さのフィルムを得た。このセルロースエステルAのみからなるフィルムのイエローインデックスは1.3であり、ヘイズは0.08、透明度は92.9%であり、Tg(ガラス転移温度;DSCにより測定)は133℃であった。
【0148】
(1−2)セルロースエステル溶液(ドープ)の作製
セルロースエステル溶液処方
セルロースエステル−A 100質量部
有機溶媒(表1に記載) 327.3質量部
可塑剤A(トリフェニルホスフェート) 0.7質量部
可塑剤B(ビフェニルジフェニルホスフェイト) 0.3質量部
光学異方性コントロール剤
(特開2003−66230号公報の化1に記載の化合物) 3質量部
UV剤a(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−
(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチル
アニリノ)−1,3,5−トリアジン) 0.5質量部
UV剤b(2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−
tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾ
トリアゾール) 0.2質量部
UV剤c(2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−
tert−アミルフェニル)−5−クロロベンゾ
トリアゾール 0.1質量部
クエン酸モノエチルエステル/クエン酸ジエチルエステル
(モル比は1/1) 0.2質量部
微粒子
(二酸化ケイ素、一次粒子サイズ15nm、モース硬度約7) 0.05質量部
【0149】
攪拌羽根を有する500Lのステンレス性溶解タンクに、有機溶媒を混合して混合溶媒(表1に記載)としてよく攪拌・分散しつつ、セルロースエステル粉体(フレーク)を徐々に添加し、全体が250kgになるように調製した。なお、溶媒は、すべてその含水率が0.5質量%以下のものを使用した。まず、セルロースエステルの粉末は、分散タンクに紛体を投入して、攪拌剪断速度を最初は5m/sec(剪断応力5×104kgf/m/sec2)の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌軸および、中心軸にアンカー翼を有して周速1m/sec(剪断応力1×104kgf/m/sec2)で攪拌する条件下で30分間分散した。分散の開始温度は25℃であり、最終到達温度は40℃となった。分散終了後、高速攪拌は停止し、アンカー翼の周速を0.5m/secとしてさらに100分間攪拌し、セルロースエステルフレークを膨潤させた。膨潤終了までは窒素ガスでタンク内を0.12MPaになるように加圧した。この際のタンク内の酸素濃度は2vol%未満であり防爆上で問題のない状態を保った。またドープ中の水分量は0.5質量%以下であることを確認し、本実験では0.3質量%であった。
【0150】
(1−3)溶解・濾過
膨潤した溶液をタンクから、ジャケット付配管で50℃まで加熱し、さらに2MPaの加圧化で90℃まで加熱し、完全溶解した。加熱時間は15分であった。次に35℃まで温度を下げ、公称孔径8μmの濾材を通過させドープを得た。この際、濾過1次圧は1.5MPa、2次圧は1.2MPaとした。高温にさらされるフィルター、ハウジング、および配管はハステロイ合金製で耐食性の優れたものを利用し保温加熱用の熱媒を流通させるジャケットを有するものを使用した。
【0151】
(1−4)濃縮・濾過
このようにして得られた濃縮前ドープを110℃で常圧のタンク内でフラッシュさせて、蒸発した溶剤を凝縮器で回収分離した。フラッシュ後のドープの固形分濃度は、27.5質量%とした。なお、凝縮された溶剤は調製工程の溶剤として再利用すべく回収工程に回された(回収は蒸留工程と脱水工程などにより実施されるものである)。フラッシュタンクには中心軸にアンカー翼を有して周速0.5m/secで攪拌して脱泡を行った。タンク内のドープの温度は35℃であり、タンク内の平均滞留時間は50分であった。このドープを採集して25℃で測定した剪断粘度は剪断速度10(sec-1)で130(Pa・s)であった。
【0152】
つぎに、このドープに対して弱い超音波を照射し、1晩静置して泡抜きを実施した。その後、1.5MPaに加圧した状態で、公称口径45μmのセルロース系ろ紙でろ過し、さらにろ紙最初公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルターを通過させ、ついで同じく10μmの焼結繊維フィルターを通過させた。それぞれの一次圧は、0.4MPa、1.5MPaおよび1.2MPaであり、二次圧は0.3MPa、1.0MPaおよび0.8MPaであった。ろ過後のドープ温度は、35℃に調整して500Lのステンレス製のストックタンク内に貯蔵した。ストックタンクは中心軸にアンカー翼を有して周速0.3m/secで常時攪拌された。なお、濃縮前ドープからドープを調製する際に、ドープ接液部には、腐食などの問題は全く生じなかった。
【0153】
(1−5)流延
続いてストックタンク内のドープを1次増圧用のギアポンプで高精度ギアポンプの1次側圧力が0.8MPaになるようにインバーターモーターによりフィードバック制御を行い送液した。高精度ギアポンプは容積効率99.2%、吐出量の変動率0.5%以下の性能であった。また、吐出圧力は1.5MPaであった。流延ダイは、幅が1.8mであり、共流延用に調整したフィードブロックを装備して、主流のほかに両面にそれぞれ積層して3層構造のフィルムを成形できるようにした装置を用いた。以下の説明において、主流から形成される層を中間層と称し、支持体面側の層を支持体面と称し、反対側の面をエアー面と称する。なお、ドープの送液流路は、中間層用,支持体面用,エアー面用の3流路を用いた。最外層用の支持体側ドープとエアー面側ドープは、(1−2)で作製したドープを、混合有機溶媒(表1に記載)からなる溶媒を配管に設置したインラインでスタチックミキサーおよびスルーザミキサーを連結して希釈し用いた。希釈は元のドープを支持体側ドープは97%の濃度に、またエアー側ドープは元のドープに対して95%の濃度になるように実施した。
【0154】
完成したセルロースエステルフィルムのエアー面,中間層,支持体面の膜厚がそれぞれ4μm,92μm,4μmであり、厚みが100μmとなるように、流延幅を1500mmとしてそれぞれのダイ突出口のセルロースエステルドープ流量を調整して流延を行った。各ドープ温度を35℃に調整するため、流延ダイにジャケットを設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の入口温度を35℃とした。
【0155】
ダイ、フィードブロック、配管はすべて作業工程中は35℃に保温した。ダイはコートハンガータイプのダイであり、厚み調整ボルトが20mmピッチに設けられており、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を具備しているものを使用した。このヒートボルトは予め設定したプログラムにより高精度ギアポンプの送液量に応じたプロファイルを設定することもでき、製膜工程内に設置した赤外線厚み計のプロファイルに基づいた調整プログラムによってフィードバック制御も可能な性能を有するものである。流延エッジ部20mmを除いたフィルムで50mm離れた任意の2点の厚み差は1μm以内であり、幅方向厚みの最小値で最も大きな差が3μm/m以下となるように調整した。また、各層の平均厚み精度は両外層が±2%以下、主流が±1%以下となるように制御し、全体厚みは±1.5%以下に調整した。
【0156】
また、ダイの1次側には減圧するためのチャンバーを設置した。この減圧チャンバーの減圧度は流延ビードの前後で1Pa〜5000Paの圧力差を印加できるようになっていて、流延スピードに応じて調整が可能なものである。その際に、ビードの長さが2mm〜50mmになるような圧力差に設定した。またチャンバーの温度を流延部周囲のガスの凝縮温度よりも高く設定できる機構を具備したものであった。ビード前部、後部にラビリンスを設けた。又両端には開口部を設けた。さらに、そこから、ビード両縁の流れの乱れを調整するためにエッジ吸引装置が取り付けられているものを用いた。
【0157】
(1−6)流延ダイ
ここで、ダイの材質は析出硬化型のステンレス鋼であり、熱膨張率が2×10-5(℃-1)以下の素材であり、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有する素材を使用した。また、酢酸メチル、アセトン、メタノール、ブタノール、水に3ヶ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有する素材を使用した。さらに、鋳造後1ヶ月以上経時したものを研削加工することとし、セルロースエステル溶液の面状を一定に保った。流延ダイおよびフィードブロックの接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であり、スリットのクリアランスは自動調整により0.5mm〜3.5mmまで調整可能であった。本実施例では、1.5mmで実施した。ダイリップ先端の接液部の角部分について、Rはスリット全巾に亘り50μm以下になるように加工した。ダイ内部での剪断速度は1(1/sec)〜5000(1/sec)の範囲であった。
【0158】
また、流延ダイのリップ先端には、硬化膜が設けられているものを用いた。硬膜を設ける手段としては、セラミックスコーティング,ハードクロムメッキ,窒化処理などがある。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削でき気孔率が低く脆くなく耐腐食性がよく、かつダイと密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC),Al23,TiN,Cr23などがあり、特に好ましくはWCである。なお、本発明では、溶射法によりWCコーティングを形成したものを用いた。
【0159】
さらにダイのスリット端には流出するドープが、局所的に乾燥固化することを防止するために、ドープを可溶化する溶剤である混合溶媒(例えば、酢酸メチル280.9質量部、メタノール32.7質量部および1−ブタノール13.1質量部からなる溶媒)をビード端部とスリットの気液界面に片側で0.5ml/分で供給した。この液を供給するポンプの脈動率は5%以下であった。また、減圧チャンバーによりビード背面の圧力を150Pa低くした。また、減圧チャンバーの温度を一定にするために、ジャケットを取り付けた。そのジャケット内に35℃に調整された伝熱媒体を供給した。エッジ吸引風量は、1L/分〜100L/分の範囲で調整可能なものを用い、本実施例では30L/分〜40L/分の範囲で適宜調整した。
【0160】
(1−7)金属支持体
支持体として幅2.1mで長さが70mのステンレス製のエンドレスバンドを利用した。そして、バンドの厚みは1.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下になるように研磨したものを使用した。材質はSUS316製であり、十分な耐腐食性と強度を有するものとした。バンドの全体の厚みムラは0.5%以下であった。バンドは2個のドラムにより駆動するタイプを用い、その際のバンドのテンションは1.5×104kg/mに調整し、バンドとドラムとの相対速度差を0.01m/分以下とした。また、バンド駆動の速度変動は0.5%以下であった。また1回転の巾方向の蛇行は1.5mm以下に制限するようにバンドに両端位置を検出して制御した。また、流延ダイ直下における支持体表面のドラム回転に伴う上下方向の位置変動は200μm以下にした。支持体は、風圧振動抑制手段を有したケーシング内に設置されている。この支持体上にダイから3層のドープを共流延した。
【0161】
流延部のドラムは支持体を冷却するように内部に伝熱媒体(冷媒)を循環させる設備を有しているものを用いた。また、他方のドラムが乾燥のための熱を供給するために伝熱媒体が通水できるものである。それぞれの伝熱媒体の温度は5℃(流延ダイ側)と35℃とした。流延直前の支持体中央部の表面温度は15℃であった。両端の温度差は6℃以下であった。なお、ドラムを直接流延支持体とすることも可能なものであり、この場合には回転ムラが0.2mm以下の精度で回転させた。ドラムにおいても表面の平均粗さは0.01μm以下であり、クロム鍍金処理により十分な硬度と耐久性を有したものである。ドラム、バンドのいずれにおいても表面欠陥はあってはならないものであり、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm〜30μmのピンホールは1個/m2以下、10μm以下のピンホールは2個/m2以下である支持体を使用した。
【0162】
(1−8)流延乾燥
前記流延ダイおよび支持体などが設けられている流延室の温度は、35℃に保った。バンド上に流延されたドープは、最初に平行流の乾燥風を送り乾燥した。乾燥する際の乾燥風からのドープへの総括伝熱係数は24kcal/m2・hr・℃であった。乾燥風の温度はバンド上部の上流側を135℃とし、下流側を140℃とした。また、バンド下部は、65℃とした。それぞれのガスの飽和温度は、いずれも−8℃付近であった。支持体上での乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、酸素濃度を5vol%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。また、流延室内の溶媒を凝縮回収するために、凝縮器(コンデンサー)を設け、その出口温度は、−10℃に設定した。
【0163】
流延後5秒間は遮風装置により乾燥風が直接ドープに当たらないようにして、流延ダイ直近の静圧変動を±1Pa以下に抑制した。ドープ中の溶剤比率が乾量基準で50質量%になった時点で、流延支持体からフィルムとして剥離した。この時の剥離テンションは10kgf/mであり、支持体速度に対して剥離速度(剥取りロールドロー)は100.1%〜110%の範囲で適切に剥ぎ取れるように設定した。また、剥ぎ取ったフィルムの表面温度は15℃であった。支持体上での乾燥速度は平均60質量%乾量基準溶剤/分であった。乾燥して発生した溶剤ガスは凝縮装置に導かれ、−10℃で液化し、回収して仕込み用の溶剤として再利用した。溶剤を除去された乾燥風は再度加熱して乾燥風として再利用された。その際に、溶剤に含まれる水分量を0.5%以下に調整して再使用した。
【0164】
剥ぎ取ったフィルムを多数のローラーが設けられている渡り部で搬送した。渡り部には、3本のローラーを備え、また渡り部の温度は、40℃に保持した。渡り部のローラーで搬送している際に、フィルムに16N/m〜160N/mのテンションを付与した。
【0165】
(1−9)テンター搬送・乾燥
剥ぎ取られたフィルムは、クリップを有したテンターで両端を固定されながらテンターの乾燥ゾーン内を搬送され、乾燥風により乾燥した。クリップには、20℃の伝熱媒体を供給して冷却した。テンターの駆動はチェーンで行い、そのスプロケットの速度変動は0.5%以下であった。また、テンター内を3ゾーンに分け、それぞれのゾーンの乾燥風温度を上流側から90℃,100℃,110℃とした。乾燥風のガス組成は−10℃の飽和ガス濃度とした。テンター内での平均乾燥速度は120質量%(乾量基準溶剤)/分であった。テンターの出口ではフィルム内の残留溶剤の量は10質量%以下となるように調整し、本実験では7質量%となるように乾燥ゾーンの条件を調整した。テンター内では搬送しつつ幅方向に延伸も行った。なお、テンターに搬送された際の幅を100%としたときの拡幅量を103%とした。剥ぎ取りローラーからテンター入口に至る延伸率(テンター駆動ドロー)は、102%とした。テンター内の延伸率はテンター噛み込み部から10mm以上離れた部分における実質延伸率の差異が10%以下であり、かつ20mm離れた任意の2点における延伸率の差異は5%以下であった。ベース端のうちテンターで固定している長さの比率は90%とした。また、テンタークリップの温度は50℃を超えないように冷却しつつ搬送した。テンター部分で蒸発した溶剤は−10℃の温度で凝縮させ液化して回収した。凝縮回収用に凝縮器(コンデンサー)を設け、その出口温度は−8℃に設定した。溶剤に含まれる水分量を0.5質量%以下に調整して再使用した。
【0166】
そして、テンター出口から30秒以内に両端の耳切りを行った。NT型カッターにより両側50mmの耳をカットし、カットした耳はカッターブロワーによりクラッシャーに風送されて平均80mm2程度のチップに粉砕した(このチップは再度調製用原料としてセルロースエステルフレークと共に仕込み工程で原料として利用できるものであった)。テンター部の乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、酸素濃度を5vol%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。後述するローラー搬送ゾーンで高温乾燥させる前に、100℃の乾燥風が供給されている予備乾燥ゾーンでフィルムを予備加熱した。
【0167】
(1−10)後乾燥
前述した方法で得られた耳切り後のセルロースエステルフィルムをローラー搬送ゾーンで高温乾燥した。ローラー搬送ゾーンを4区画に分割して、上流側から100℃,105℃,105℃,110℃の乾燥風を給気した。このとき、フィルムのローラー搬送テンションは100N/巾として、最終的に残留溶剤量が0.3質量%になるまでの約30分間乾燥した。該ローラーのラップ角度は、90度および180度を用いた。該ローラーの材質はアルミ製もしくは炭素鋼製であり、表面にはハードクロム鍍金を施した。ローラーの表面形状はフラットなものとブラストによりマット化加工したものとを用いた。ローラーの回転による振れは全て50μm以下であった。また、テンション100N/巾でのローラー撓みは0.5mm以下となるように選定した。
【0168】
搬送中のフィルム帯電圧は、常時−3kV〜3kVの範囲となるように工程中に強制除電装置(除電バー)を設置した。又巻き取り部では、帯電が−1.5kV〜1.5kVになるように、除電バーだけでなく、イオン風除電も設置した。乾燥風に含まれる溶剤ガスは吸着剤を用いて吸着回収除去した。吸着剤は活性炭であり、脱着は乾燥窒素を用いて行った。回収した溶剤は水分量0.3質量%以下に調整して仕込み溶剤として再利用した。乾燥風には溶剤ガスの他、可塑剤、UV吸収剤、その他の高沸点物が含まれるので冷却除去する冷却器およびプレアドソーバーでこれらを除去して再製循環使用した。そして、最終的に屋外排出ガス中のVOCは10ppm以下となるよう、吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶剤の内凝縮法で回収する溶剤量は90質量%であり、残りの大部分は吸着回収により回収した。
【0169】
乾燥されたフィルムを第1調湿室に搬送した。ローラー搬送ゾーンと第1調湿室との間の渡り部には、105℃の乾燥風を給気した。第1調湿室には、温度50℃,露点が20℃の空気を給気した。さらに、フィルムのカールの発生を抑制する第2調湿室にフィルムを搬送した。第2調湿室では、フィルムに直接90℃,湿度80%の空気をあてた。
【0170】
(1−11)後処理、巻き取り
乾燥後のセルロースエステルフィルムは、30℃以下に冷却して両端耳切りを行いさらにフィルムの両端にナーリングを行った。ナーリングは片側からエンボス加工を行なうことで付与し、ナーリングする幅は10mmであり、最大高さは平均厚みよりも平均12μm高くなるように押し圧を設定した。
【0171】
そして、得られたフィルムを巻き取り室に搬送した。巻き取り室は、室内温度28℃,湿度70%に保持した。このようにして得られたセルロースエステルフィルム(厚さ100μm)の幅は、1475mmとなった。巻き芯の径は169mm巻き始めテンションは360N/巾であり、巻き終わりが250N/巾になるようなテンションパターンとした。巻き取り全長は300mであった。また、巻き取りロールにプレスロールを押し圧50N/巾に設定した。巻き取り時のフィルムの温度は25℃、含水量は1.4質量%、残留溶剤量は0.1質量%以下であった。また巻き緩み、シワもなく、巻きずれが生じなかった。ロール外観も良好であった。以上の工程を経て、表1に示すセルロースエステルフィルム試料を製膜した。
【0172】
【表1】

【0173】
これらの中でフィルム試料1−3の一部を25℃・相対湿度55%の貯蔵ラックに1ヶ月間保管して、さらに上記と同様に各種の検査を実施した結果、外観や特性上の有意な変化は認められなかった。さらにロール内においても接着も認められなかった。また、フィルム試料1−3を製膜した後に、金属支持体であるエンドレスベルト上にはドープから形成された流延膜の剥げ残りなどは全く見られなかった。
【0174】
(1−12)評価と結果
得られた各試料の評価方法について下記に示す。
(1)溶液の安定性
(1−3)で得られたろ過,濃縮後のドープを採取し、30℃で静置保存したまま観察し以下のA〜Dの4段階で評価した。
A: 20日間経時でも透明性と液均一性を示した。
B: 10日間経時まで透明性と液均一性を保持しているが、20日で少し白濁が
見られた。
C: 液作製終了時では透明性と均一な液であるが、一日経時するとゲル化し不均
一な液となった。
D: 液は膨潤・溶解が見られず不透明性で不均一な溶液状態であった。
【0175】
(2)最大剥離荷重の測定
最大剥離荷重は、25℃・相対湿度60%の雰囲気下で、15℃に保温したステンレス板(SUS板)上にセルロースエステル溶液を流延し、経時により溶媒を蒸発させてSUS板上にセルロースエステルフィルムを形成した後、幅2cmのウェブを200mm/秒の速度でセルロースエステルフィルムをSUS板から剥ぎ取る際の荷重をロードセルで測定した。得られた最大の剥離荷重を求め、g/cmで表した。また、この際にセルロースエステルフィルムの残存溶剤量を、剥離時のフィルムの質量と、そのフィルムを120℃にて3時間乾燥した後の質量から計算して求めた。
【0176】
(3)剥ぎ段ムラ
剥ぎ段ムラの有無は、剥離フィルムの片面を、例えば黒インク等にてムラ無く均等に塗りつぶし、塗布した面とは反対側の面から透過光の反射像を、角度を変えて目視にて観察し、直線状のスジやムラが観察されるか否かで判断し、以下のA〜Dの4段階で評価した。
A: 剥ぎ段ムラは全く認められなかった。
B: 剥ぎ段ムラが微かに認められたが実害はなかった。
C: 剥ぎ段ムラが弱く認められ、問題が顕在するレベルである。
D: 剥ぎ段ムラが全面に強く認められ、問題である。
【0177】
(4)フィルム面状
フィルムを目視で観察し、その面状を以下のA〜Dの4段階で評価した。
A: フィルム表面は平滑であった。
B: フィルム表面は平滑であるが、少し異物が見られた。
C: フィルム表面に弱い凹凸が見られ、異物の存在がはっきり観察された。
D: フィルムに凹凸が見られ、異物が多数見られた。
【0178】
(5)フィルムの耐湿熱性
試料1gを折り畳んで15ml容量のガラス瓶に入れ、温度90℃、相対湿度100%条件下で調湿した後、密閉した。これを90℃で経時して10日後に取り出した。フィルムの状態を目視で確認し、以下のA〜Dの4段階で評価した。
A: 特に異常が認められなかった。
B: かすかな分解臭が認められた。
C: かなりな分解臭が認められた。
D: 分解臭と分解による形状の変化が認められた。
【0179】
本発明のセルロースエステルフィルム試料1−1〜試料1−8は、溶液の安定性が良好であり、剥ぎ段ムラ、フィルム面状、フィルム耐湿熱性の全ての点で優れたものであった。これに対して、本発明の脂肪族アルコールの量が少ない比較試料1−9〜試料1−14は最大剥離荷重が大きく、剥ぎ段ムラやフィルム面状も著しく悪いものであった。
さらに、本発明の脂肪族アルコールが本発明の含有量の領域外である比較試料1−15、1−16は溶解せず、また本発明の炭素数4以下の脂肪族アルコールを用いない比較試料1−17,1−18も溶解しないものであった。
以上から、本発明にしたがって炭素数4以下の脂肪族アルコールを所定割合で含む混合溶媒を使用することで、優れたセルロースエステルフィルムを作製することができた。
【0180】
なお、本発明の試料1−1〜試料1−8の残存酢酸量は0.01質量%未満であり、Caの含有量は0.1質量%未満であり、Mgの含有量は0.1質量%未満であった。また、セルロースエステルフィルムの厚さは全領域に渡り100μm±1.5μmであった。この時、長さ方向のトップ、中間部とラストのそれぞれについて、さらにその幅方向の両端部と中央部の評価を実施し、その誤差が0.2%以下であることを確認した。また、フィルムの縦横平均熱収縮(80℃/相対湿度90%/48時間)は−0.1%以下であり、熱収縮が生じ難いフィルムが得られた。また、テンター出口での残留溶媒量は6質量%であり、そのときの耳サイロLELは25%未満と良好であった。
【0181】
ここで本発明のフィルム試料の代表として試料1−3は、ヘイズが0.3%、透明度(透明性)が93.5%、傾斜幅は18.6nm、限界波長は392.5nm、吸収端は374.3nm、380nmの吸収は1.9%であり、Reは5.6nm、Rthは172nmであり、分子配向軸は0.1°、弾性率は長手方向が3.57GPa,幅方向が3.31GPa、抗張力は長手方向が136MPa,幅方向が128MPa、伸長率は長手方向が66%,幅方向が60%であり、キシミ値(静止摩擦係数)は0.65、キシミ値(動摩擦係数)は0.55、アルカリ加水分解性はAであり、カール値は相対湿度25%で−0.5,ウェットでは1.4であった。また、含水率は1.8質量%であり、残留溶媒量は0.25質量%であり、熱収縮率は長手方向が−0.11%であり幅方向が−0.15%であった。異物はリントが4個/m未満であった。また、輝点は、0.02mm〜0.05mmが10個/3m未満、0.05〜0.1mmが4個/3m未満、0.1mm以上はなかった。これらは、光学用途に対しては優れた特性を有するものであった。また、塗布後の接着も見られず(○)、透湿度も良好(○)であった。光学特性は、Reは12nm(流延方向)、Rthは115nmであった。その他の本発明の試料も試料1−3とほぼ同等の特性値を示すものであった。
【0182】
(実施例2)
次に、厚みが40μmのセルロースエステルフィルム試料2−1を製膜した。すなわち、実施例1の試料1−1における(1−1)セルロースエステル溶液処方において、光学異方性コントロール剤(特開2003−66230の化1に記載の化合物)3質量部を使用せず、(1−5)流延工程において厚みが40μmとなるように、エアー面,中間層,支持体面の膜厚をそれぞれ3μm,34μm,3μmとする以外は、実施例1と全く同様にして、本発明の試料2−1を作成した。得られた本発明の試料は表1に記載したとおり、最大剥離荷重は小さくかつ面状、フィルム耐湿熱性も良好であり、Reは0.6nmであり、Rthは−4nmであった。なお、この時の剥離可能時間は135秒と極めて短時間で剥離が可能となり、本発明の有機溶媒組成の効果が大きいことが証明された(ここで、試料2−1の製造工程中、SL−1を比較溶媒である比較−Aに代えてドープを調製し、厚さ40μmの膜状物を作成したところ、剥離可能時間は270秒にまで遅くなることが確認された)。
【0183】
またフィルム試料2−1は、ヘイズが0.2%、透明度(透明性)が93.9%であった。キシミ値(静止摩擦係数)は0.48、キシミ値(動摩擦係数)は0.39、アルカリ加水分解性はAであり、カール値は相対湿度25%で−0.4,ウェットでは2.1であった。また、含水率は1.82質量%であり、残留溶媒量は0.03質量%であり、熱収縮率は長手方向が−0.05%であり幅方向が−0.03%であった。異物はリントが4個/m未満であった。また、輝点は、0.02mm〜0.05mmが5個/3m未満、0.05〜0.1mmが2個/3m未満、0.1mm以上はなかった。これらは、光学用途に対しては優れた特性を有するものであった。また、塗布後の接着も見られず、透湿度はトリアセチルセルロースフィルムに比べ若干高めであったが実用上問題の無いレベルであった。
【0184】
(実施例3)
次に、厚みが80μmで、OCB用フィルムに好ましく用いられるセルロースエステルフィルム試料3−1を、実施例1の試料1−1と同様にして製膜した。完成したセルロースエステルフィルム試料3−1のエアー側層、内層、支持体層の厚みがそれぞれ10μm,60μm,10μmであり、製品厚みが80μmとなるように、流延速度(ライン速度)を50m/minとした。流延室の温度は、35℃に保ち、乾燥風の温度はバンド上部の上流側を30℃とし、下流側を100℃とした。また、バンド下部は、80℃とした。支持体からフィルムを剥離、渡り部を搬送させてテンターへ送り込んだ。渡り部のローラーで搬送している際に、フィルムに13N〜130Nのテンションを付与した。テンターで乾燥を進行させながら、所望の拡幅を行った。テンター内を3ゾーンに分け、それぞれのゾーンの乾燥温度を上流側から100℃,105℃,110℃とし、テンターに搬送された際の幅を100%としたときの拡幅量を115%とした。
【0185】
ここで、剥取ローラーからテンター入口に至る延伸率(テンター駆動ドロー)は、102%とした。そして、両端の耳切りを行い、予備乾燥ゾーンでフィルムを予備加熱して、ローラー搬送ゾーンで乾燥した。また、工程中に強制除電装置(除電バー)を設置し、−3kV〜3kVとした。ローラー搬送ゾーンから第1調湿室までの渡り部に95℃の乾燥風を給気した。乾燥されたフィルムを調湿室に搬送した。また、第2調湿室の空気の給気温度を95℃とした。そして、フィルムを巻き取り室に搬送した。巻き取り室は、室内温度35℃,湿度60%に保持した。巻き始めテンションは190Nであり、巻き終わりが130Nになるようなテンションパターンとした。巻き取り全長は250mであった。得られた試料3−1のロールを25℃・相対湿度55%の貯蔵ラックに1ヶ月間保管して、さらに上記と同様に検査した結果、いずれも有意な変化は認められなかった。
【0186】
得られたセルロースエステルフィルム試料3−1は、フィルム面状はA、フィルム引裂試験の結果は22gであり、フィルムの耐折試験は69回であり、耐湿熱性はAであり、すべて優れたものであった。また、残存酢酸量は、0.01質量%未満であり、Caを0.065質量%、Mgを0.056質量%含有し、セルロースエステルフィルムの厚さは全領域に渡り80μm±1.6μmであった。この時、長さ方向のトップ、中間部、ラストのそれぞれと、さらにその幅方向の両端部と中央部の評価を実施し、そのデータは変動幅が0.2%以下であることを確認した。
【0187】
また、フィルム試料3−1は、ヘイズが0.4%、透明度(透明性)が92.8%であった。Reは40nm、Rthは182nmであり、分子配向軸は1.2°、弾性率は長手方向が3.02GPa,幅方向が3.12GPa、抗張力は流延方向が135MPa,幅方向が129MPa、伸長率は流延方向が81%,幅方向が64%であり、キシミ値(静止摩擦係数)は0.50、キシミ値(動摩擦係数)は0.48、アルカリ加水分解性はAであり、カール値は相対湿度25%で−0.5,ウェットでは1.26であった。また、含水率は1.75質量%であり、残留溶媒量は0.12質量%であり、熱収縮率は長手方向が−0.08%であり幅方向が−0.06%であった。異物はリントが4個/m未満であった。また、輝点は、0.02mm〜0.05mmが5個/3m未満,0.05〜0.1mmが2個/3m未満,0.1mm以上はなかった。これらは、光学用途に対しては優れた特性を有するものであった。また、塗布後の接着も見られず、透湿度も良好であった。
【0188】
(実施例4)
実施例1の本発明の試料1−4における(1−2)セルロースエステル溶液処方において、セルロースエステル−AをセルロースエステルB(アセチル置換度0.65、ブチリル置換度2.30、トータル置換度2.95、粘度平均重合度180、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度80mPa・s、平均粒子サイズ1.5mmであって標準偏差0.5mmである粉体)に変更する以外は、実施例1の試料1−4と全く同様にして本発明の試料4−1を作製した。さらに、セルロースエステル−AをセルロースエステルC(アセチル置換度1.58、ブチリル置換度1.30、トータル置換度2.88、粘度平均重合度365、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度290mPa・s、平均粒子サイズ1.4mmであって標準偏差0.6mmである粉体)に変更する以外は、実施例1の試料1−4と全く同様にして本発明の試料4−2を作製した。それぞれ得られたドープおよびフィルム特性を表1に記載した。本発明の好ましいセルロースエステルの重合度が少し低目のセルロースエステルBでは、最大剥離荷重が19g/cmと少し高めであったが実用上では使用できるものであった。また、重合度が高めであるセルロースエステルCを用いた本発明の試料4−2は、面状と溶液安定性が少し劣るものであったが、大きな問題を有するものではなかった。以上から本発明においてはセルロースエステルの重合度は、その許容幅は広い事を確認した。
【0189】
(実施例5)
実施例1において作製した本発明の試料1−6に対して、下記の条件でアルカリケン化処理を実施した。3mol/LのNaOH水溶液を60℃に加温した液中でフィルムを2分間浸漬した後、25℃の水で30秒間洗浄し、しかる後に0.5mol/Lの硫酸水溶液(25℃)で1分間処理し、再度25℃の水で水洗した。得られたアルカリケン化済みフィルムの接触角(対純水)を測定したところ、27°であり濡れ性は良好のものであった。なお、アルカリケン化処理前の接触角は60°であり、本発明の試料は優れた表面処理性を有することが判る。これらのフィルム上にPVA/グルタルアルデヒド(5質量%/0.2質量%))水溶液を10ml/m2塗布し、さらに市販の偏光膜(サンリッツ社製、HLC2−5618)を貼り付けて、70℃/1時間処理し、さらに30℃で6日放置した。得られたセルロースエステルフィルム付の偏光膜をセルロースエステルフィルム側にカッターナイフで45°の角度で深さ200μmの碁盤目状の切り傷を11本ずつ直角に付与した。この傷跡部にニチバン製セロテープNo.405(セロテーブ:登録商標)および日東テープ(PETテープ)を全面に強く付着し30分放置して、その端部を直角に勢いよく剥離した。その結果、未ケン化処理セルロースエステルフィルムは、すべての碁盤目状セルロースエステルフィルムが剥離したが、ケン化処理したセルロースエステルフィルムを付与した偏光膜は、セルロースエステルフィルムの剥離はいずれのテープに対しても全く見られなかった。以上から、本発明のセルロースエステルフィルムは優れた偏光膜特性を有する事がわかる。
【0190】
(実施例6)
実施例1における本発明の試料1−6の製造工程において、光学異方性コントロール剤(特開2003−66230号公報の化1に記載の化合物の代わりに、1,4−テトラブチレングリコールのビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェニルカルボニル)エステルおよび下記PR1の混合物(1:1重量比)を用いること以外は、実施例1と全く同じようにして、本発明の試料6−1を作製した。得られた試料について表1にその特性を示すが、優れた溶液安定性、剥離性、剥ぎ段ムラ特性、フィルム面状および耐熱耐久性を有するものであった。
【化1】

【0191】
(実施例7)
実施例1における本発明の試料1−6の製造工程において、可塑剤A(トリフェニルホスフェート)(0.7質量部)/可塑剤B(ビフェニル、ジフェニルホスフェイト)(0.3質量部)の代わりに、ソルビトールヘキサプロピオネート(0.4質量部)/トリメチロールプロパントリベンゾエート(0.4質量部)/エチルフタリルエチルグリコレート(0.2質量部)を用いること以外は、実施例1と全く同じようにして、本発明の試料7−1を作製した。得られた試料について表1にその特性を示す。
また、得られたReは1.2nmであり、Rthは−53.6nmであった。特定の可塑剤とを本発明のセルロースエステルと組み合わせ、かつ本発明の溶媒を組み合わせることにより、優れた光学特性と面状を付与したセルロースエステルフィルムを得ることが可能となったものである。
【0192】
(実施例8)
(8−1)延伸
実施例1で得られた本発明のセルロースエステルフィルム試料1−7を用いて、セルロースエステルフィルムのTg(110℃)より10℃高い温度(120℃)で100%/秒でMD延伸、20%/秒でTD延伸した。なおTgは下記の方法で測定した。延伸は、縦延伸の後横延伸を行なう逐次延伸、縦横同時に延伸する同時2軸延伸から選択し、表2に記載した(試料8−1〜8−3)。
【0193】
(8−2)延伸フィルムの特性評価
得られた延伸フィルムのRe、Rthおよびこれらの湿度依存性、光弾性を測定し、表2に記載した。本発明は良好な特性を示した。さらに、上記のような製膜乾燥後に延伸する方法以外にも、製膜中の未乾燥状態(剥離後の除昇温終了直後)に延伸する方法も行ったが、同様の結果が得られた。
一方、実施例1で用いたセルロースエステルAの代わりに、セルローストリアセテートA(置換度2.80、粘度平均重合度300、6位アセチル基置換度0.91、アセトン抽出分は7質量%、重量平均分子量/数平均分子量比(DPCにより測定)2.3、Tg160℃、結晶化発熱量6.2J/g、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度305mPa・s、残存酢酸量が0.1質量%以下、Ca含有量65ppm、Mg26ppm、鉄0.8ppm、硫酸イオン18ppm、イエローインデックス1.9、遊離酢酸47ppm、平均粒子サイズ1.5mmであって標準偏差0.5mmである粉体)100質量部を使用すること以外は、実施例1と全く同様にして、未延伸の原反フィルムを作製し、しかる後に表2に従って延伸して、比較試料8−4を得た。得られた比較試料8−4はRe、Rthの湿度変化が著しく大きいのに対して、本発明のセルロースエステルフィルムを延伸した試料8−1〜8−3は小さいRe,Rth湿度変化を有するものであり、本発明が優れたものであることがわかる。
【0194】
(比較例9)
実施例1の本発明の試料1−5における(1−2)セルロースエステル溶液処方において、セルロースエステル−AをセルロースエステルD(アセチル置換度2.0、ブチリル置換度0.7、トータル置換度2.70、粘度平均重合度250、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度230mPa・s、平均粒子サイズ1.5mmであって標準偏差0.4mmである粉体)に変更する以外は、実施例1の試料1−8と全く同様にして試料9−1を作製した。得られたセルロースエステルフィルム試料9−1のTg(128℃)より10℃高い温度(138℃)で100%/秒でMD延伸、20%/秒でTD延伸し、その評価結果を表2に記載した。セルロースエステルフィルム9−1を延伸したフィルム9−11はRe変化、Rth変化が大きく、環境条件依存性が大きく問題であることが確認できた。すなわち、本発明のセルロースエステルの置換度と異なる領域のセルロースエステルでは、本発明の優れた環境条件依存性の小さい光学特性を発現する事は困難である。
【0195】
(実施例10)
次に、セルロースエステルフィルムの応用例として偏光板の実施例を記載する。
(10−1)偏光板の作成
(1)セルロースエステルフィルムのケン化
未延伸セルロースエステルフィルム試料1−7、および延伸セルロースエステルフィルム試料8−1を以下の方法でケン化した。すなわち、iso−プロパノール80質量部に水20質量部を加え、これにKOHを1.5mol/Lとなるように溶解した後に、60℃に調温したものをケン化液として用いた。そして、60℃のセルロースエステルフィルム上に10g/m2塗布し、1分間ケン化した。この後、50℃の温水をスプレーにより、10リットル/m2・分で1分間吹きかけ洗浄した。その後、110℃の乾燥風を風速15m/秒で送り、5分間で乾燥した。これらのケン化は、ロール状のフィルムを速度45m/分で実施した。
【0196】
(2)偏光膜の作成
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光膜を調製した。
【0197】
(3)貼り合わせ
このようにして得た偏光膜と、上記ケン化処理した未延伸セルロースエステルフィルム1−7、および延伸セルロースエステルフィルム8−1を、これらで上記偏光膜を挟んだ後、PVA((株)クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とセルロースエステルフィルムの長手方向が90度となるように張り合わせた。このうち未延伸、延伸セルロースエステルフィルムを特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置液晶表示装置に25℃・相対湿度60%下で取り付けた後、これを25℃・相対湿度10%の中に持ち込み、目視で色調変化の大小を10段階評価(大きいものほど変化が大きい)で評価し、表示ムラの発生している領域を目視で評価し、それが発生している割合(%)を求めたところ、本発明のセルロースエステルフィルムの色調変化は1であり、非常に優れたものであった。
また、特開2002−86554号公報の実施例1に従い、テンターを用い延伸軸が吸収軸に対して45度となるように延伸した偏光板についても同様に本発明のセルロースエステルフィルムを用い作製したが、上記同様良好な結果が得られた。
【0198】
(10−2)光学補償フィルムの作成
特開平11−316378号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムの代わりに、本発明のケン化済みの延伸セルロースエステルフィルム試料8−2を使用し、これを、特開2002−62431号公報の実施例9に記載のベンド配向液晶セルに25℃・相対湿度60%下で取り付けた後、これを25℃・相対湿度10%の中に持ち込み、コントラストの変化を目視評価し、色変化の大小を10段階評価(大きいものほど変化が大きい)し2のマークを得、本発明を実施したことにより良好な性能が得られた。
【0199】
(10−3)低反射フィルムの作成
発明協会公開技報(公技番号2001−1745)の実施例47に従って、本発明の延伸、未延伸セルロースエステルフィルムを用いて低反射フィルムを作成したところ、良好な光学性能が得られた。
【0200】
(実施例11)
実施例1において作製した本発明のセルロースエステルフィルム試料1−7を用いて、表2に従って本発明の延伸フィルム11−1を作製した。このフィルムを特開2002−265636号公報記載の実施例13において、セルローストリアセテートフィルム試料1301の代わりに用いた。そして、特開2002−265636号公報記載の実施例13と全く同様にして、光学異方性層、偏光板試料の作製によりベンド配向液晶セルを作製した。得られた液晶セルは、優れた視野角特性を有するものであった。
【0201】
【表2】

【0202】
(実施例12)
実施例1において作製した本発明のセルロースエステルフィルム試料1−8を用いて、作製したフィルムはReが5nm、Rthは79nmであった。このフィルムを特開2002−265636号公報記載の実施例14において、セルローストリアセテートフィルム試料1401の代わりに用いた。そして、特開2002−265636号公報記載の実施例14と全く同様にして、光学異方性層、偏光板試料の作製によりTN型液晶セルを作製した。得られた液晶セルは、優れた視野角特性を有するものであった。
【0203】
(実施例13)
実施例1の本発明の試料1−6における(1−2)セルロースエステル溶液処方において、セルロースエステル−Aの代わりに、セルロースエステルE(アセチル置換度1.00、プロピオニル置換度1.85、トータル置換度2.85、粘度平均重合度280、含水率0.19質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度105mPa・s、平均粒子サイズ1.5mmであって標準偏差0.4mmである粉体)を使用すること以外は、実施例1の試料1−6と全く同様にして本発明の試料13−1を作製した。さらに、セルロースエステル−Aの代わりに、セルロースエステルF(アセチル置換度0.25、プロピオニル置換度2.65、トータル置換度2.90、粘度平均重合度305、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度220mPa・s、平均粒子サイズ1.3mmであって標準偏差0.5mmである粉体)を使用すること以外は、実施例1の試料1−3と全く同様にして本発明の試料13−2を作製した。それぞれ得られたドープおよびフィルム特性を表1に記載した。セルロースエステルがセルロースアセテートプロピオネートであっても問題ないことが確認された。
【0204】
(実施例14)
(1)VAパネルへの実装
本発明の試料8−1で作製した偏光板を、26’’ワイドのサイズで偏光子の吸収軸が長辺となるように長方形に打抜いて視認側偏光板とし、また、偏光子の吸収軸が短辺となるように長方形に打抜いてバックライト側偏光板とした。VAモードの液晶TV(ソニー(株)製、KDL−L26RX2)の、表裏の偏光板および位相差板を剥し、表と裏側に本発明の試料8−1で作製した偏光板を組合せで貼り付け、液晶表示装置を作製した。偏光板貼り付け後、50℃、5kg/cm2で20分間保持し、接着させた。この際、視認側の偏光板の吸収軸をパネル水平方向に、バックライト側の偏光板の吸収軸をパネル鉛直方向となり、粘着材面が液晶セル側となるように配置した。プロテクトフィルムを剥した後、測定機(ELDIM社製、EZ−Contrast 160D)を用いて、黒表示および白表示の輝度測定から視野角(コントラスト比が10以上の範囲)を算出した。いずれの偏光板を使用した場合も、全方位で極角80°以上の良好な視野角特性が得られた。さらに、耐久試験による光漏れおよび偏光板剥がれテストを実施し問題ないことを確認した。耐久性テスト条件は以下の通りである。
(1)60℃・相対湿度90%の環境に200時間保持し、25℃・相対湿度60%環境に取り出し24時間後に液晶表示装置を黒表示させ、光漏れ強度および偏光板の液晶パネルからの剥がれの有無を評価した。
(2)80℃dryの環境に200時間保持し、25℃・相対湿度60%環境に取り出し1時間後に液晶表示装置を黒表示させ、光漏れ強度および偏光板の液晶パネルからの剥がれの有無を評価した。
【0205】
(実施例15)
本発明の試料を所望の光学特性を示す光学異方性性フィルムに作製し、以下の異なる液晶モードの市販モニターあるいはテレビの位相差膜を剥離、本発明の位相差膜を貼り付けてその視野角特性を調べたところ、優れた広い視野角特性と色味を得て、本発明のセルロースエステルが有用であることを確認した。
【0206】
(TNモード)
視認側偏光板、バックライト側偏光板共に、17’’のサイズで打抜き後の偏光板の長辺に対して吸収軸が45°長辺となるように、長方形に打抜いた。TNモードの液晶モニター(サムソン社製、SyncMaster 172X)の表裏の偏光板および位相差板を剥し、表と裏側に、本発明のセルロースエステルからなる偏光板を組合せで貼り付け、液晶表示装置を作製した。偏光板貼り付け後、50℃、5kg/cm2で20分間保持し、接着させた。この際、偏光板の光学異方性層がセル基板に対面し、液晶セルのラビング方向とそれに対面する光学異方性層のラビング方向とが反平行となるように配置した。
【0207】
(IPSパネル)
本発明の偏光板を、32’’ワイドのサイズで偏光子の吸収軸が長辺となるように長方形に打抜いて視認側偏光板とし、偏光子の吸収軸が短辺となるように長方形に打抜いてバックライト側偏光板とした。IPSモードの液晶TV(日立製作所(株)製、W32−L5000)の表裏の偏光板および位相差板を剥し、表と裏側に本発明のセルロースエステルから作製された偏光板を組合せで貼り付け、液晶表示装置を作製した。偏光板貼り付け後、50℃、5kg/cm2で20分間保持し、接着させた。この際、視認側の偏光板の吸収軸をパネル水平方向に、バックライト側の偏光板の吸収軸をパネル鉛直方向となり、粘着層表面が液晶セル側となるように配置した。
【産業上の利用可能性】
【0208】
本発明の製造方法によれば、セルロースエステルが有機溶媒に安定な状態で溶解している溶液を用いて、優れた性質を有するセルロースエステルフィルムを提供することができる。特に、本発明の製造方法によれば、溶液製膜する際に支持体上に流延されたセルロースエステルウェブを短時間で剥離することができ、また剥離した時に良好なウェブ面状を有するセルロースエステルウェブを得ることができる。また本発明のセルロースエステルフィルムは、環境条件の変動による光学特性の変化が小さくて、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム等の製造に有効に使用することができる。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数4以下の脂肪族アルコールを45〜80質量%含有する有機溶媒混合物に下記式(S−1)〜(S−3)を満足するセルロースエステルを溶解したセルロースエステル溶液を支持体上に流延し、支持体上に形成されたセルロースエステルフィルムを支持体から剥離する工程を含むことを特徴とする、セルロースエステルフィルムの製造方法。
式(S−1) 2.50≦A+B≦3.00
式(S−2) 0≦A≦2.20
式(S−3) 0.80≦B≦3.00
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度を表す。)
【請求項2】
炭素数4以下の脂肪族アルコールが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールおよびn−ブタノールからなる群より選択される1以上のアルコールであることを特徴とする請求項1に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
有機溶媒混合物が、炭素数4以下の脂肪族アルコール以外に、ハロゲン系有機溶媒を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
有機溶媒混合物が、炭素数4以下の脂肪族アルコール以外に、炭素数3〜12のエーテル類、炭素原子数3〜12のケトン類および炭素数3〜12のエステル類からなる群より選択される1以上の有機溶媒を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
セルロースエステルが下記式(S−4)〜(S−6)を満足し、重合度が180〜400であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
式(S−4) 2.65≦A+B’≦3.00
式(S−5) 0≦A≦2.00
式(S−6) 1.25≦B’≦3.00
(式中、Aはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に対するプロピオニル基とブチリル基の置換度の総和を表す。)
【請求項6】
セルロースエステル溶液を、下記(a)〜(c)からなる群より選択される1以上の方法で調製することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(a)−10〜40℃にてセルロースエステルを有機溶媒混合物で膨潤する工程、得
られた混合物を0〜40℃に加温して有機溶媒混合物中にセルロースエステル
を溶解する工程からなるセルロースエステル溶液の調製方法。
(b)−10〜40℃にてセルロースエステルを有機溶媒混合物で膨潤する工程、得
られた混合物を−100〜−10℃に冷却する工程、および冷却した混合物を
0〜40℃に加温して有機溶媒混合物中にセルロースエステルを溶解する工程
からなるセルロースエステル溶液の調製方法。
(c)−10〜40℃にてセルロースエステルを有機溶媒混合物で膨潤する工程、得
られた混合物を0.2〜30MPaで60〜240℃に加熱する工程、および
加熱した混合物を0〜40℃に冷却して有機溶媒混合物中にセルロースエステ
ルを溶解する工程からなるセルロースエステル溶液の調製方法。
【請求項7】
セルロースエステルフィルムを支持体から剥離する時の最大剥離荷重が1〜30g/cmであり、支持体に流延してから剥離を開始するまでの時間が30〜600秒であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
セルロースエステルフィルムを支持体から剥離して乾燥する過程で、セルロースエステルフィルム少なくとも一方向に1.03〜3倍に延伸することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法により製造したセルロースエステルフィルム。
【請求項10】
面内のレターデーション(Re)が0≦Re≦200nmであり、厚み方向のレターデーション(Rth)が0≦Rth≦500nmであることを特徴とする請求項9に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項11】
フィルム表面の水の接触角が45°以下(25℃/相対湿度60%)であることを特徴とする請求項9または10に記載のセルロースエステルフィルム。

【公開番号】特開2006−205474(P2006−205474A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18927(P2005−18927)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】