説明

セルロースエステルフィルムの製造方法、セルロースエステルフィルムおよびこれを用いた光学フィルム

【課題】 表面欠陥のない光学フィルムに適した表面を鹸化したセルロースエステルフィルムを提供する。
【解決手段】下記式(S−1)〜(S−3)で規定された要件をすべて満たすフィルム状のセルロースエステルの少なくとも一方の表面に強度10〜200keV、かつ、照射量10〜200kGyの電子線照射を行い、該電子線照射の後に前記フィルム状のセルロースエステルをアルカリ鹸化液で処理する工程を含む、セルロースエステルフィルムの製造方法。
式(S−1) 2.50≦A+B≦3.00
式(S−2) 0≦A≦2.5
式(S−3) 0.5≦B≦3.00
(式(S−1)〜(S−3)中、Aはアセチル基の置換度を、Bは炭素数3〜22の置換アシル基の置換度を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルフィルムの製造方法、セルロースエステルフィルムおよびこれを用いた光学フィルムに関する。特に本発明は、画像表示装置に有用な偏光、反射、光学補償等の機能を有する光学フィルムに関する。
【技術背景】
【0002】
パソコン、テレビ、携帯電話や各種計器類等に装着されている各種の画像表示装置は、その表面のガラスやプラスチック板等の透明保護基板を通して文字や図形等の視覚情報が観察されるようになっている。また、最近では機器類の画像表示装置の多くは液晶表示装置になってきている。液晶表示装置は、通常、液晶セル、偏光板、および光学補償シート(位相差板) からなる。透過型液晶表示装置では、通常、2枚の偏光板を液晶セルの両側に取り付け、1枚または2枚の光学補償シートを液晶セルと偏光板との間に配置する。反射型液晶表示装置では、通常、反射板、液晶セル、1枚の光学補償シート、そして1枚の偏光板からなる。
【0003】
液晶セルは、棒状液晶性分子、それを封入するための2枚の基板、および棒状液晶性分子に電圧を加える電極層からなり、液晶セルは、棒状液晶分子の配向状態の違いで、透過型については、TN(Twisted Nematic) 、IPS(In−Plane Switching) 、FLC(Ferro−electric Liquid Crystal) 、OCB(Optically Compensatory Bend) 、STN(Super Twisted Nematic) 、VA(Vertically Alligned) 、反射型については、HAN(Hybrid Alligned Nematic) のような様々な表示モードが提案されている。偏光板は、一般に、偏光膜とその両側に設けられた2枚の透明保護膜とからなる。偏光膜は、一般に、ポリビニルアルコールにヨウ素または2色性染料の水溶液を含浸させ、さらにこのフィルムを一軸延伸することより得られる。保護膜にセルロースエステルフィルムを用いた偏光板は、優れた光学特性を有し、広い波長範囲で高い透過率、偏光度を示し、明るさ、コントラストに優れていることから各種画像表示用の偏光板としても多用されている。
【0004】
光学補償シートは画像着色を解消したり、視野角を拡大するために、様々な液晶表示装置に用いられている。光学補償シートとしては、延伸複屈折フィルムが、従来より使用されていた。延伸複屈折フィルムからなる光学補償シートに代えて、透明支持体上に液晶性分子(特に円盤状液晶性分子)から形成された光学異方層を有する光学補償シートを使用することが提案されている。光学異方層は、液晶性分子を配向させ、その配向状態を固定化することにより形成する。光学補償シートに液晶性分子を用いることで、従来の延伸複屈折フィルムでは得ることのできなかった光学特性を実現することが可能となった。光学補償シートの光学的性質は、液晶セルの光学的性質、具体的には上記のような液晶セルの表示モードの違いに応じて設計する。光学補償シートには液晶性分子、特に円盤状液晶性分子を用いると、液晶セルの種々の表示モードに対応する様々な光学特性を有する光学補償シートを作りだすことができる。
【0005】
円盤状液晶性分子を用いた光学補償シートには、種々の表示モードに対応するものが提案されている。例えば、TNモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献1〜 4に記載がある。また、IPSモードまたは、FLCモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献5に記載がある。さらに、OCBモードまたは、HANモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献6および7に記載がある。さらにまた、STNモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献8に記載がある。そして、VAモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献9に記載がある。
【0006】
液晶性分子を用いた光学補償シートと偏光膜とを積層して楕円偏光板を形成すれば、光学補償シートを、偏光板の一方の透明保護膜としても機能させることができる。その様な楕円偏光板は、透明保護膜、偏光膜、透明支持体、そして液晶性分子から形成された光学異方層が、この順で積層された層構成を有する。液晶表示装置には薄型で軽量である特性を求められるため、構成要素の1つを兼用(偏光板の透明保護膜と光学補償シート)することによって削減できれば、装置をさらに薄く軽量にすることが可能となる。また、液晶表示装置の構成要素を1つ削減することによって、構成要素の貼り付け工程も1つ削減され、装置を組み立てる際に故障等が生じる可能性も低くなり好ましい。液晶性分子を用いた光学補償シートの透明支持体と偏光板の一方の保護膜を共通化した一体型楕円偏光板については、例えば、特許文献10〜12に記載がある。
【0007】
このような偏光板、光学補償シート等の光学的機能性を有するシート状材料は光学フィルムと呼ばれているが、光学フィルムの透明支持体として、優れた光透過性、光学的な無配向性で、優れた物理的、機械的性質を有し、且つ温湿度変化に対する寸法変化が少ない等の特性を有するセルロースアセテートフィルムに代表されるセルロースエステルフィルムが用いられている。
【0008】
透明支持体のセルロースエステルフィルムに偏光膜や光学補償層が接着層や配向膜(通常はポリビニルアルコール)を介して設けられるが、これら接着層や配向膜との密着性を持たせるための1つの手段として、セルロースエステルフィルムをアルカリ鹸化水溶液に浸漬処理してその表面を鹸化し親水化する方法(例えば、特許文献13の段落番号[0008]、特許文献14の段落番号[0033]、特許文献15の段落番号[0083]、特許文献16の段落番号[0042])が知られている。
【0009】
しかしながら、これらの処理液はアルカリ剤のみの水溶液で処理するため、疎水的なフィルム表面を均一に鹸化することが困難であった。一方、アルカリ鹸化水溶液に、ポリマーフィルムを溶解したり膨潤させたりしない有機溶媒を含有させたアルカリ鹸化水溶液を用いてその液に浸漬処理する方法(特許文献17の段落番号[0034])、アルカリ鹸化水溶液、または有機溶媒を含有させたアルカリ鹸化水溶液をフィルム面上に塗布して少なくとも片面を鹸化処理する方法(特許文献18)が提案されている。アルカリ鹸化水溶液中に有機溶媒を含ませることによって、アルカリ鹸化水溶液よりも鹸化反応活性を高められる。但し、その反面、反応活性が高められたことや有機溶媒の種類或いは含有量によっては処理するフィルム中に含有される添加物質やフィルム混在物質が多量に溶出したり、濃縮したアルカリ剤が付着して、フィルムのヘイズ上昇、密着不良、異物欠陥や配向欠陥の発生など光学フィルムとしての品質を低下させることが問題となる。さらに、最近の画像表示装置の大画面化、モバイル化等の急速な進展による生産量の増大と、製造コストの削減等のために、長尺状のフィルムを連続してより安定に生産することが望まれている。
【0010】
この改良として、コロナ放電処理などの電子線処理が記載されている(特許文献19)。しかし、この表面処理のみでは偏光板との接着性が不十分であった。またコロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理、紫外線処理により表面処理する楕円偏光板用セルロースエステルフィルムが開示されているが、これらの方法ではセルロースエステルフィルムの他層との接着を十分に達成することは困難であった。
また、ポリマーフィルム特にセルロースエステルフィルムにアルカリ溶液を塗布する工程およびアルカリ溶液をポリマーフィルムから洗い落とす工程が開示されている(特許文献20、特許文献21、特許文献22)。これらの方法により、従来のアルカリ鹸化方法よりも鹸化特性は改良される事が認められているが、表面処理性の不均一性や鹸化による副生成物(例えば、セルロース分解成分、可塑剤、光学特性コントロール剤、界面活性剤)がセルロースエステルフィルム表面に付着し、面状の悪化をもたらす事が大きな問題である。
さらに、これらの改良としてフィルムの少なくとも一方の表面を電子線照射処理することにより親水化させることを特徴とする偏光板保護フィルムの製造方法が開示されている(特許文献23)。しかし、特許文献23に記載のフィルムは、光学材料(例えばセルローストリアセテート)としてはその光学特性の湿度依存性が大きいこと、さらに膜強度が低下し偏光板との接着が悪化することが課題であった。
【0011】
【特許文献1】特開平6−214116号公報
【特許文献2】米国特許第5583679号公報
【特許文献3】米国特許第5646703号公報
【特許文献4】ドイツ特許第3911620A1号公報
【特許文献5】特開平10−54982号公報
【特許文献6】米国特許第5805253号公報
【特許文献7】国際公開WO96/37804号公報
【特許文献8】特開平9−26572号公報
【特許文献9】特許登録第2866372号公報
【特許文献10】特開平7−191217号公報
【特許文献11】特開平8−21996号公報
【特許文献12】特開平8−94838号公報
【特許文献13】特開平7−151914公報
【特許文献14】特開平8−94838号公報
【特許文献15】特開2001−166146号公報
【特許文献16】特開2001−188130号公報
【特許文献17】特開2002−82226公報
【特許文献18】国際公開WOO02/46809号公報
【特許文献19】特開2003−195044号公報
【特許文献20】特開2003−203964号公報
【特許文献21】特開2003−203965号公報
【特許文献22】特開2003−313326号公報
【特許文献23】特開2004−109713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記課題を解決することを目的としたものであって、表面処理特性に優れた、セルロースエステルフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題の下、本願発明者が鋭意検討した結果、下記手段により本願発明の目的が達成されることを見出した。
【0014】
(1)下記式(S−1)〜(S−3)で規定された要件をすべて満たすフィルム状のセルロースエステルの少なくとも一方の表面に強度10〜200keV、かつ、照射量10〜200kGyの電子線照射を行い、該電子線照射の後に前記フィルム状のセルロースエステルをアルカリ鹸化液で処理する工程を含む、セルロースエステルフィルムの製造方法。
式(S−1) 2.50≦A+B≦3.00
式(S−2) 0≦A≦2.5
式(S−3) 0.5≦B≦3.00
(式(S−1)〜(S−3)中、Aはアセチル基の置換度を、Bは炭素数3〜22の置換アシル基の置換度を表す。)
【0015】
(2)前記電子線照射は、不活性ガス雰囲気下で行なう、(1)に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0016】
(3)前記アルカリ鹸化液は、0.2〜5mol/Lの、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムの少なくとも一種類以上を含有する、(1)または(2)に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(3−2)前記アルカリ鹸化液は、0.2〜5mol/Lの、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムの少なくとも一種類以上ならびに0.005〜1質量%の界面活性剤を含有する、(1)または(2)に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(3−3)前記アルカリ鹸化液は、0.2〜5mol/Lの、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムの少なくとも一種類以上、0.005〜1質量%の界面活性剤ならびに0.005〜1質量%の消泡剤を含有する、(1)または(2)に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0017】
(4)前記アルカリ鹸化液は、炭酸イオン濃度が3500mg/L 以下である、(1)〜(3)のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(4−2)前記アルカリ鹸化液は、炭酸イオン濃度が3500mg/L 以下であり、多価金属イオン濃度が1000mg/L以下である、(1)〜(3)のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(4−3)前記アルカリ鹸化液は、炭酸イオン濃度が3500mg/L 以下であり、多価金属イオン濃度が1000mg/L以下であり、かつ、塩化物イオン濃度が1000mg/L 以下である、(1)〜(3)のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0018】
(5)前記アルカリ鹸化液は、表面張力が15〜65mN/m、粘度が0. 6〜20mPa・s、密度が0.9g/cm3〜1.4g/cm3、比導電率が20mS/cm〜2S/cmである、(1)〜(4)のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(6)10〜90℃のアルカリ鹸化液で、5秒〜600秒間アルカリ鹸化処理することを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(7)アルカリ鹸化処理後に、5〜90℃で、5秒〜1200秒間、少なくとも一回の水洗処理、および/または、少なくとも一回の酸処理することを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(8)前記フィルム状のセルロースエステルを予め室温以上に加熱し、該フィルム状のセルロースエステルにアルカリ鹸化水溶液を塗布してセルロースエステルを鹸化させた後除去する工程を含む、(1)〜(7)のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(9)前記フィルム状のセルロースエステルは、アルカリ鹸化液で処理された後の表面の接触角が、25℃、60%相対湿度において、45°以下である、(1)〜(8)のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0019】
(10) 前記フィルム状のセルロースエステルは、溶液流延または溶融流延することを特徴とする、(1)〜(9)のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(11)前記フィルム状のセルロースエステルは、ハロゲン系有機溶媒、炭素原子数が3〜12のエーテル類、炭素原子数が3〜12のケトン類および炭素原子数が3〜12のエステル類から選ばれる有機溶媒を用いて溶液流延することを特徴とする、(10)に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0020】
(12) 前記セルロースエステルフィルムは、該セルロースエステルの重合度が140〜400であり、可塑剤を0.5〜20質量%含有し、UV剤を0.1〜10質量%含有し、かつ、レターデーション上昇剤を0.5〜15質量%含有する、(1)〜(11)のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(13)(1)有機溶媒中に分散したセルロースエステルを−10〜55℃で膨潤し、該セルロースエステル分散溶液を0〜57℃に加温し、該加温した溶液にセルロースエステルを溶解する工程、(2)有機溶媒中に分散したセルロースエステルを−10〜55℃で膨潤した後、該セルロースエステル分散溶液を−100〜−10℃に冷却し、該冷却したセルロースエステル溶液を0〜57℃に加温し、該加温した溶媒にセルロースエステルを溶解する工程、または、(3)有機溶媒中に分散したセルロースエステルを−10〜55℃で膨潤し、該セルロースエステル分散溶液を0.2〜30MPa、60〜240℃で加熱し、該加熱したセルロースエステル溶液を0〜57℃に冷却し、該冷却した溶液にセルロースエステルを溶解する工程を含む、(1)〜(12)のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0021】
(14)セルロースエステルを支持体上に流延する工程を含み、かつ、該支持体から前記セルロースエステルを剥離する時の最大剥離荷重が1〜30g/cmであり、剥離可能となる時間が30〜600秒である、(1)〜(13)のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(15)前記フィルム状のセルロースエステルを搬送方向および/または幅方向の少なくとも一方向に1.03〜3倍に延伸する工程を含み、かつ、前記セルロースエステルフィルムの遅相軸が延伸方向に対して0±5°または90℃±5°である、(1)〜(14)に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
(16)前記セルロースエステルフィルムは、面内のレターデーション(Re)が0≦Re≦300nmであり、厚み方向のレターデーション(Rth)が−100≦Rth≦500nmであり、フィルム厚が20〜200μmである、(1)〜(15)のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0022】
(17)(1)〜(16)のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法により製造されたセルロースエステルフィルム。
(18)(17)に記載のセルロースエステルフィルムを用いた光学フィルム。
【発明の効果】
【0023】
本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法により、表面処理特性(ヘイズ、異物欠陥、接着性)に優れたセルロースエステルフィルムが容易に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0025】
(セルロースエステル)
本発明で用いられるセルロースエステルについて詳細に記載する。本発明で用いられるセルロースエステルは、下記の式(S−1)〜(S−3)で規定された要件をすべて満たすセルロースエステルである。
式(S−1) 2.50≦A+B≦3.00
式(S−2) 0≦A≦2.5
式(S−3) 0.5≦B≦3.00
(一般式(S−1)〜(S−3)中、Aはアセチル基の置換度を、Bは炭素数3〜22の置換アシル基の置換度を表す。)
【0026】
セルロースの構成成分であるグルコース単位は、ベータ−1,4結合しており、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースエステルは、これらの水酸基の一部または全部をエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル基の置換度は、2位、3位および6位のそれぞれについて、セルロースがエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)の合計を意味する。本発明では、A+Bは、好ましくは2.60≦A+B≦3.00であり、より好ましくは2.67≦A+B≦2.97である。また、Aは、好ましくは、0≦A≦2.20であり、より好ましくは0≦A≦2.0であり、Bは、好ましくは、0.80≦B≦2.97であり、より好ましくは1.25≦B≦2.97である。本発明においては、セルロースの2位、3位および6位のそれぞれの水酸基の置換度は特に限定されないが、セルロースエステルの6位の置換度は好ましくは0.7以上であり、より好ましくは0.8以上であり、さらに好ましくは0.85以上である。これらによりセルロースエステルの電子線照射による劣化だけでなく、溶解性および耐湿熱性を向上させることができる。
【0027】
次に本発明のセルロースエステルの置換基Bで表される炭素数3〜22のアシル基は、脂肪族アシル基でも芳香族アシル基のいずれであってもよい。
本発明のセルロースエステルのアシル基が脂肪族アシル基である場合、炭素数3〜18であることが好ましく、炭素数3〜12であることがより好ましく、炭素数3〜8であることがさらに好ましい。これらの脂肪族アシル基の例としては、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、またはアルキニルカルボニル基などを挙げることができる。
本発明のセルロースエステルのアシル基が芳香族アシル基である場合、炭素数6〜22であることが好ましく、炭素数6〜18であることがより好ましく、炭素数6〜12であることがさらに好ましい。
これらのアシル基は、それぞれさらに置換基を有していてもよい。
好ましいアシル基の例としては、プロピオニル基、ブチリル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブチリル基、t‐ブチリル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフタレンカルボニル基、フタロイル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、より好ましいものは、プロピオニル基、ブチリル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t‐ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などであり、さらに好ましいものはプロピオニル基、ブチリル基である。
【0028】
本発明のセルロースエステルの好ましい例として、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースプロパノエートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレート、セルロースアセテートヘキサノエート、セルロースアセテートオクタノエート、セルロースアセテートシクロヘキサノエート、セルロースアセテートデカノエート、セルロースアセテートアダマンタンカルボキシレート、セルロースアセテートサルフェート、セルロースアセテートカルバメート、セルロースプロピオネートサルフェート、セルロースアセテートプロピオネートサルフェート、セルロースアセテートフタレートなどを挙げることができる。より好ましくは、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートブチレート、セルロースプロパノエートブチレート、セルロースアセテートヘキサノエート、セルロースアセテートオクタノエートなどを挙げることができる。さらに好ましくは、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートを挙げることができる。この場合、アセチルと炭素数3以上のアシル基の置換度は、前述した範囲で作成されたものであり、その置換度によって所望の特性(特に光学特性)を得ることができる。
【0029】
本発明のセルロースエステルのさらに詳細な原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の7〜12頁に従って合成できる。
(セルロースエステルの原料および前処理) セルロース原料としては、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のものが好ましく用いられる。セルロース原料としては、α−セルロース含量が92質量%〜99.9質量%の高純度のものを用いることが好ましい。セルロース原料がシート状や塊状である場合は、あらかじめ解砕しておくことが好ましく、セルロースの形態はフラッフ状になるまで解砕が進行している。
【0030】
セルロース原料はアシル化に先立って、活性化剤と接触させる処理(活性化)を行うことが好ましい。活性化剤としては、カルボン酸または水を用いることができるが、水を用いた場合には、活性化の後に酸無水物を過剰に添加して脱水を行ったり、水を置換するためにカルボン酸で洗浄したり、アシル化の条件を調節したりするといった工程を含むことが好ましい。活性化剤はいかなる温度に調節して添加してもよく、添加方法としては噴霧、滴下、浸漬などの方法から選択することができる。
【0031】
本発明におけるセルロースエステルの製造においては、セルロースにカルボン酸の酸無水物を加え、ブレンステッド酸またはルイス酸を触媒として反応させることで、セルロースの水酸基をアシル化することが好ましい。本発明のセルロース混合アシレートを得る方法としては、アシル化剤として2種のカルボン酸無水物を混合または逐次添加により反応させる方法、2種のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を用いる方法、カルボン酸と別のカルボン酸の酸無水物(例えば、酢酸とプロピオン酸無水物)を原料として反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を合成してセルロースと反応させる方法、置換度が3に満たないセルロースエステルを一旦合成し、酸無水物や酸ハライドを用いて残存する水酸基をさらにアシル化する方法などを用いることができる。
【0032】
まず、本発明におけるセルロースエステルの製造に用いるアシル化の触媒には、ブレンステッド酸またはルイス酸を使用することが好ましい。ブレンステッド酸およびルイス酸の定義については、例えば、「理化学辞典」第五版(2000年)に記載されている。好ましいブレンステッド酸の例としては、硫酸、過塩素酸、リン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などを挙げることができる。好ましいルイス酸の例としては、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アンチモン、塩化マグネシウムなどを挙げることができる。触媒としては、硫酸または過塩素酸がより好ましく、硫酸が特に好ましい。触媒の添加量は、セルロースに対して、好ましくは0.1〜30質量%であり、より好ましくは1〜15質量%であり、さらに好ましくは3〜12質量%である。
【0033】
セルロースのアシル化は発熱反応であるが、本発明におけるセルロースエステルを製造においては、アシル化の際の最高到達温度が−50〜50℃であることが好ましく、−30〜45℃がより好ましく、−20〜40℃がさらに好ましく、−20〜35℃が最も好ましい。アシル化時間は、0.5〜24時間が好ましく、1〜12時間がより好ましく、1.5〜6時間が特に好ましい。
【0034】
本発明におけるセルロースエステルの製造方法においては、アシル化反応の後に、反応停止剤を加えることが好ましい。反応停止剤としては、酸無水物を分解するものであればいかなるものでもよく、好ましい例として、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)またはこれらを含有する組成物などを挙げることができる。
【0035】
このようにして得られるセルロースエステルは、セルロース水酸基の全置換度がほぼ3に近いものであるが、所望の置換度のものを得る目的で、少量の触媒(一般には、残存する硫酸などのアシル化触媒)と水との存在下で、20〜90℃に数分〜数日間保つことによりエステル結合を部分的に加水分解し、所望のアシル置換度を有するセルロースエステルまで変化させること(いわゆる熟成)が一般的に行われる。部分加水分解の過程でセルロースの硫酸エステルも加水分解されることから、加水分解の条件を調節することにより、セルロースに結合した硫酸エステルの量を削減することができる。 所望のセルロースエステルが得られた時点で、系内に残存している触媒を、前記のような中和剤またはその溶液を用いて完全に中和し、部分加水分解を停止させることが好ましい。反応溶液に対して溶解性が低い塩を生成する中和剤(例えば、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなど)を添加することにより、溶液中あるいはセルロースに結合した触媒(例えば、硫酸エステル)を効果的に除去することも好ましい。
【0036】
セルロースエステル中の未反応物、難溶解性塩、その他の異物などを除去または削減する目的として、アシル化後の反応混合物の濾過を行なうことが好ましい。濾過は、エステル化の完了から再沈殿までの間のいかなる工程において行ってもよい。濾過圧や取り扱い性の制御の目的から、濾過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。濾過の際には、その濾材は特に限定されず、布、ガラスフィルター、セルロース系濾紙、セルロース系布フィルター、金属フィルター、ポリマー系フィルター(例えば、ポリプロピレン製フィルター、ポリエチレンフィルター、ポリアミド系フィルター、フッ素系フィルターなど)を挙げることができる。そのフィルター口径サイズは、0.1〜600μmが好ましく、2〜200μmがより好ましく、3〜60μmがさらに好ましい。
【0037】
温水処理による洗浄後のセルロースエステルは、安定性をさらに向上させたり、カルボン酸臭を低下させるために、弱アルカリ(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物など)の水溶液などで処理することも好ましい。残存不純物の量は、洗浄液の量、洗浄の温度、時間、攪拌方法、洗浄容器の形態、安定化剤の組成や濃度により制御できる。
【0038】
本発明においてセルロースエステルの含水率を好ましい量に調整するためには、セルロースエステルを乾燥することが好ましい。乾燥の方法については、目的とする含水率が得られるのであれば特に限定されないが、加熱、送風、減圧、攪拌などの手段を単独または組み合わせで用いることで効率的に行うことが好ましい。乾燥温度として好ましくは0〜200℃であり、より好ましくは40〜180℃であり、さらに好ましくは50〜160℃である。この時、セルロースエステルのガラス転移点(Tg)よりも低い温度で乾燥することが好ましく、Tgより10℃以下の乾燥温度であることがさらに好ましい。乾燥によって得られる本発明のセルロースエステルは、その含水率が2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
セルロースエステル原料は、粒子状または粉末状であることが好ましい。乾燥後のセルロースエステルは、粒子サイズの均一化や取り扱い性の改善のために、粉砕や篩がけを行ってもよい。セルロースエステルが粒子状であるとき、使用する粒子の90質量%以上は、0.5〜5mmの粒子サイズを有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が1〜4mmの粒子サイズを有することが好ましい。セルロースエステル粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。
本発明で用いられるセルロースエステルの重合度は、平均重合度で、好ましくは140〜400、より好ましくは150〜350である。溶液製膜法でセルロースエステルを作製する場合、平均重合度は250〜350が特に好ましく、溶融製膜法でセルロースエステルを作製する場合、平均重合度は150〜250が特に好ましい。
【0040】
なお、平均重合度は宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)、ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC)による分子量分布測定などの方法により測定できる。さらに特開平9−95538号公報に詳細に記載されている。これらのセルロースエステルは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合してもよい。また、セルロースエステル以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。混合される高分子成分はセルロースエステルとの相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上である。得られたセルロースエステルは、その保存は環境による影響を受けにくくするために、低温暗所で保存する事が好ましい。さらに、保管用としてアルミニウムなどの防止素材で作製された防湿袋や、SUS製ドラムまたはコンテナに保存する事がさらに好ましい。
【0041】
6位置換度の大きいセルロースエステルの合成については、特開平11−5851号、特開2002−212338号および特開2002−338601号の各公報に記載がある。セルロースエステルの他の合成法としては、塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、ピリジン、トリエチルアミン、tert−ブトキシカリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなど)の存在下に、カルボン酸無水物やカルボン酸ハライドと反応させる方法、アシル化剤として混合酸無水物(カルボン酸・トリフルオロ酢酸混合無水物、カルボン酸・メタンスルホン酸混合無水物など)を用いる方法も用いることができ、特に後者の方法は、炭素数の多いアシル基や、カルボン酸無水物−酢酸−硫酸触媒による液相アシル化法が困難なアシル基を導入する際には有効である。
【0042】
本発明においては、セルロースエステルフィルムは溶液製膜または溶融製膜によって作製することが好ましい。
まず、溶液製膜について記述する。本発明の溶液製膜で利用されるセルロースエステルに用いられる有機溶媒は、特に限定されないが、ハロゲン系有機溶媒、炭素原子数が3〜12のエーテル類、炭素原子数が3〜12のケトン類および炭素原子数が3〜12のエステル類から選ばれる有機溶媒が好ましい。さらに最近になりその環境に優しい有機溶媒としての非ハロゲン系有機溶媒でもよい。ハロゲン系有機溶媒は、炭素原子数が1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく、より好ましくはジクロロメタン、クロロホルムであり、特にジクロロメタンが好ましい。また、塩素系有機溶媒以外の有機溶媒を混合することも特に問題ない。
【0043】
その場合は、ジクロロメタンは少なくとも50質量%以上使用することが好ましく、70質量%〜100質量%であることがより好ましい。また塩素系有機溶媒と併用される溶媒としてはアルコールが好ましく、直鎖であっても分枝を有していても環状のアルコールであってもよく、その中でも飽和脂肪族炭化水素系アルコールであることが好ましい。アルコールの水酸基は、第一級〜第三級のいずれであってもよい。アルコールの例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノールおよびシクロヘキサノールが含まれる。
【0044】
なおアルコールとしては、フッ素系アルコールも用いられる。例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなども挙げられる。さらに炭化水素は、直鎖であっても分岐を有していても環状であってもよい。芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素のいずれも用いることができる。脂肪族炭化水素は、飽和であっても不飽和であってもよい。炭化水素の例には、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンが含まれる。さらにまた、酢酸メチル、酢酸エチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、アセトン、ジオキソラン、ジオキサン、炭素原子数が4〜7のケトン類またはアセト酢酸エステルも好ましい。好ましい併用される非塩素系有機溶媒は、酢酸メチル、アセトン、蟻酸メチル、蟻酸エチル、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチル酢酸メチル、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、およびシクロヘキサノール、シクロヘキサン、ヘキサンである。これらのハロゲン系有機溶媒以外の併用される有機溶媒は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは50〜10質量%であり、さらに好ましくは40〜10質量%である。
【0045】
本発明の好ましい主溶媒である塩素系有機溶媒の組み合わせとしては以下を挙げることができるが、これらに限定されるものではない(下記の括弧内の数字は質量部を示す)。
(HSV−1)ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール
(HSV−2)ジクロロメタン/アセトン/メタノール/プロパノール
(HSV−3)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール
(HSV−4)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール
(HSV−5)ジクロロメタン/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/イソプロパノール
(HSV−6)ジクロロメタン/シクロペンタノン/メタノール/イソプロパノール
(HSV−7)ジクロロメタン/酢酸メチル/ブタノール
(HSV−8)ジクロロメタン/シクロヘキサノン/メタノール/ヘキサン
【0046】
(HSV−9)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール
(HSV−10)ジクロロメタン/1、3ジオキソラン/メタノール/エタノール
(HSV−11)ジクロロメタン/ジオキサン/アセトン/メタノール/エタノール
(HSV−12)ジクロロメタン/アセトン/シクロペンタノン/エタノール/イソブタノール/シクロヘキサン
(HSV−13)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール
(HSV−14)ジクロロメタン/アセトン/酢酸エチル/エタノール/ブタノール/ヘキサン
(HSV−15)ジクロロメタン/アセト酢酸メチル/メタノール/エタノール
(HSV−16)ジクロロメタン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール
【0047】
次に、本発明のセルロースエステルに用いられる非ハロゲン系有機溶媒について記述する。好ましい非ハロゲン系有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトンまたはエーテルから選ばれる溶媒が好ましい。これらのエステル、ケトンおよびエーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、例えば、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する主溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0048】
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが挙げられる。炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが挙げられる。炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが挙げられる。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが挙げられる。
【0049】
本発明では好ましい非ハロゲン系溶媒は、互いに異なる3種類以上の混合溶媒であって、第1の溶媒が酢酸メチル、酢酸エチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、アセトン、ジオキソランおよびジオキサンから選ばれる少なくとも一種であり、第2の溶媒が炭素原子数4〜7のケトン類またはアセト酢酸エステルから選ばれ、第3の溶媒として炭素数が1〜10のアルコールまたは炭化水素から選ばれ、より好ましくは炭素数1〜8のアルコールである。なお、第1溶媒が2種類以上の溶媒混合液の場合は、第2の溶媒がなくてもよい。第1の溶媒は、さらに好ましくは酢酸メチル、アセトン、蟻酸メチル若しくは蟻酸エチルまたはこれらの混合物であり、第2の溶媒は、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチル酢酸メチルが好ましく、これらの混合液であってもよい。
【0050】
第3の溶媒であるアルコールの好ましくは、直鎖であっても分岐を有していても環状であってもよく、その中でも飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。アルコールの水酸基は、第一級〜第三級のいずれであってもよい。アルコールの例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノールおよびシクロヘキサノールが含まれる。なおアルコールとしては、フッ素系アルコールも用いられる。例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなども挙げられる。さらに炭化水素は、直鎖であっても分岐を有していても環状であってもよい。芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素のいずれも用いることができる。脂肪族炭化水素は、飽和であっても不飽和であってもよい。炭化水素の例には、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンが含まれる。これらの第3の溶媒であるアルコールおよび炭化水素は単独でもよいし2種類以上の混合物でもよく特に限定されない。第3の溶媒としては、好ましい具体的化合物は、アルコールとしてはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、およびシクロヘキサノール、シクロヘキサン、ヘキサンを挙げることができ、好ましくはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールである。
【0051】
以上の3種からなる混合溶媒は、第1の溶媒が20〜90質量%、第2の溶媒が5〜60質量%、第3の溶媒が10〜60質量%の比率で含まれることが好ましく、さらに第1の溶媒が30〜86質量%であり、第2の溶媒が10〜50質量%、さらに第3のアルコールが15〜60質量%含まれることが好ましい。また特に第1の溶媒が30〜80質量%であり、第2の溶媒が10〜50質量%、第3の溶媒がアルコールであり15〜60質量%含まれることが好ましい。なお、第1の溶媒が混合液で第2の溶媒を用いない場合は、第1の溶媒が40〜85質量%、第3の溶媒が15〜60質量%の比率で含まれることが好ましく、さらに第1の溶媒が45〜85質量%であり、さらに第3の溶媒が15〜55質量%含まれることが好ましい。
【0052】
本発明で好ましいこれらの溶媒組み合わせの具体例として、以下のものを挙げることができる。
(SL−1)酢酸メチル/シクロペンタノン/アセトン/メタノール/エタノール
(SL−2)酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール
(SL−3)酢酸メチル/シクロペンタノン/メタノール/エタノール
(SL−4)酢酸メチル/シクロペンタノン/メタノール/エタノール
(SL−5)酢酸メチル/シクロヘキサノン/メタノール/ヘキサン
(SL−6)酢酸メチル/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール
(SL−7)酢酸メチル/1、3ジオキソラン/メタノール/エタノール
(SL−8)酢酸メチル/ジオキサン/アセトン/メタノール/エタノール
(SL−9)ギ酸メチル/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール
【0053】
(SL−10)アセトン/アセト酢酸メチル/メタノール/エタノール
(SL−11)3ジオキソラン/シクロヘキサノン/メチルエチルケトン/メタノール/エタノール
(SL−12)アセトン/メタノール/ブタノール
(SL−13)アセトン/エタノール/イソプロパノール
(SL−14)アセトン/エタノール/ブタノール
(SL−14)アセトン/エタノール/ブタノール/ジクロロメタン
これらの中でも、特に酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノールの混合溶媒系が好ましくその使用比率はSL−2、SL−6、SL−10、SL−12などの溶媒系などが好ましい。
本発明に用いるドープには、上記本発明の有機溶媒以外に、メチレンクロライドを本発明の全有機溶媒量の10質量%以下含有させることもフィルムの透明性を向上させたり、溶解性を早めたりする上で使用してもよい。
【0054】
本発明に用いるセルロースエステル溶液(ドープ)の調製については、その溶解方法は特に限定されず、室温溶解法でもよく、冷却溶解法若しくは高温溶解方法、さらにはこれらの組み合わせで実施される。
好ましいセルロースエステルの有機溶媒への溶解方法を、以下に記述する。
(1)室温溶解法として、有機溶媒中に分散したセルロースエステルを−10〜55℃で膨潤し、該セルロースエステル分散溶液を0〜57℃に加温し、該加温した溶液にセルロースエステルを溶解させる方法が挙げられる。好ましくは、有機溶媒中に分散したセルロースエステルを10〜40℃で膨潤し、該セルロースエステル分散溶液を20〜57℃に加温する方法であり、更には有機溶媒中に分散したセルロースエステルを15〜40℃で膨潤し、該セルロースエステル分散溶液を20〜45℃に加温する方法が好ましい。
(2)冷却溶解法として、有機溶媒中に分散したセルロースエステルを−10〜55℃で膨潤した後、該セルロースエステル分散溶液を−100〜−10℃に冷却し、該冷却したセルロースエステル溶液を0〜57℃に加温し、該加温した溶媒にセルロースエステルを溶解させる方法が挙げられる。好ましくは、有機溶媒中に分散したセルロースエステルを10〜40℃で膨潤し、該セルロースエステル分散溶液を−85〜−30℃に冷却し20〜57℃に加温することであり、更には有機溶媒中に分散したセルロースエステルを15〜40℃で膨潤し、該セルロースエステル分散溶液を該セルロースエステル分散溶液を−85〜−50℃に冷却し15〜45℃に加温する方法が好ましい。
(3)高温溶解法として、有機溶媒中に分散したセルロースエステルを−10〜55℃で膨潤し、該セルロースエステル分散溶液を0.2〜30MPaで60〜240℃に高圧高温で加熱し、該加熱したセルロースエステル溶液を0〜57℃に冷却し、該冷却した溶液にセルロースエステルを溶解する方法が挙げられる。好ましくは、10〜40℃で膨潤し、該セルロースエステル分散溶液を0.5〜30MPaで90〜200℃に高圧高温で加熱し、0〜57℃に冷却することであり、更には15〜40℃で膨潤し、該セルロースエステル分散溶液を0.5〜10MPaで90〜150℃に高圧高温で加熱し、15〜45℃に冷却することが好ましい。
これらに関しては、例えば、特開平5−163301号、特開昭61−106628号、特開昭58−127737号、特開平9−95544号、特開平10−95854号、特開平10−45950号、特開2000−53784号、特開平11−322 946号の各公報、さらに特開平11−322947号、特開平2−276830号、特開2000−273239号、特開平11−71463号、特開平04−259511号、特開2000−273184号、特開平11−323017号、特開平11−302388号の各公報などにセルロースアシレート溶液の調製法が記載されている。以上に記載したこれらのセルロースエステルの有機溶媒への溶解方法は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、これらの技術を適用できる。さらに本発明のセルロースエステルのドープ溶液は、溶液の濃縮と濾過が通常実施され、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の25頁に詳細に記載されている。なお、高温度で溶解する場合は、使用する有機溶媒の沸点以上の場合がほとんどであり、その場合は加圧状態で用いられる。
【0055】
次に、セルロースエステル溶液を用いたフィルムの製造方法について述べる。本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法およびこれに用いられる設備としては、例えば、セルローストリアセテートフィルム製造に供するドラム方法若しくはバンド方法と称される、従来公知の溶液流延製膜方法および溶液流延製膜装置を採用することができる。バンド法を例として製膜の工程を説明すると、溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースエステル溶液)を貯蔵釜に一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。調製したドープをドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延し、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。これらの各製造工程(流延(共流延を含む)、金属支持体、乾燥、剥離、延伸などに分類)については、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の25頁〜30頁に詳細に記載された内容が挙げられる。流延工程では1種類のセルロースエステル溶液を単層流延してもよいし、2種類以上のセルロースエステル溶液を同時および/または逐次共流延してもよい。
特に本発明のセルロースエステルフィルムを溶液製膜方法で作製するに際して、そのフィルム面状を優れたものにするために、セルロースエステル溶液を剥ぎ取る時に剥ぎ取り荷重と剥ぎ取り時間を後述のようにすることが好ましい。すなわち、本発明のセルロースエステルからなるウェブを支持体から剥ぎ取る際には、その剥離荷重は小さいことが好ましく、支持体から剥離する時の最大剥離荷重が1〜30g/cmが好ましく、更には1〜25g/cmであり、特には1〜20g/cmが好ましい。またその際に、剥離可能となる時間が30〜600秒であることが好ましく、更には60〜420秒であることが好ましい。これらの剥離過程コントロールにより、優れた面状を有するセルロースエステルフィルムを得ることができる。
【0056】
次に本発明において溶融製膜で作製されるセルロースエステルについて以下に記述する。
(ペレット化)
溶融製膜をする場合、用いるセルロースエステルはペレット化してもよい。ペレット作製は次のようにして行う。初めに、セルロースエステルを充分に予備乾燥(例えば、80℃〜150℃で0.1時間〜24時間)させる。次に必要に応じて後述する充分に乾燥した各種添加剤(レターデーション上昇剤、可塑剤、劣化防止剤、紫外線防止剤、マット剤、波長分散調整剤、赤外吸収剤、界面活性剤など)を、セルロースエステルの必要の量を応じて添加した。得られた混合物を攪拌付きのホッパー内に投入し、窒素等の不活性ガスを置換封入することがより好ましい。二軸混練押出機を用い、好ましくは150〜240℃、より好ましくは160〜240℃、さらに好ましくは170〜235℃で、スクリュー回転数が、好ましくは100rpm〜800rpm、より好ましくは150rpm〜600rpm、さらに好ましくは200rpm〜400rpmで、滞留時間が、好ましくは5秒〜3分、より好ましくは10秒〜2分、さらに好ましくは20秒〜90秒でペレットを作製する。ペレット作製時は、劣化を抑制するため、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスは窒素であることが好ましい。窒素の純度は95%以上が好ましく、99%以上がさらに好ましく、99.5%以上が最も好ましい。
【0057】
二軸混練押出機の出口側にベントを設け、真空排気しながらペレットを作製することが好ましい。混合セルロースエステル粉体は親水的であるため、0.2質量%程度の残留水分が残り、低アセチル化体は水の存在で分解が促進されて架橋性の異物となり易いためである。ベント部の真空度は、好ましくは0.9気圧〜0.001気圧の範囲であり、より好ましくは0.8気圧〜0.01気圧であり、さらに好ましくは0.7気圧〜0.1気圧である。このような真空排気は、2軸混練押出し機のスクリューのケーシングに排気口をつけ、これを真空ポンプに配管することで達成できる。溶融後、好ましくは30℃〜90℃、より好ましくは35℃〜80℃、さらに好ましくは37℃〜60℃の温水中でストランド状に固化させた後、裁断、乾燥する。
【0058】
セルロースエステルのペレットの大きさは好ましくは1mm3〜10cm3であり、より好ましくは1mm3〜7cm3、さらに好ましくは2mm3〜5cm3である。この際、上記添加剤も一緒にペレット化するのが好ましい。この後、含水量を0.1%以下になるように乾燥する。
【0059】
(溶融押出)
上述のペレット化したセルロースエステルと、レターデーション上昇剤と必要に応じてその他の添加剤(可塑剤、劣化防止剤、紫外線防止剤、マット剤、波長分散調整剤、赤外吸収剤など)を、溶融押出機のホッパーに投入する。なお、前述のようにセルロースエステル合成段階およびペレット化工程で各添加剤を加えた場合は、溶融製膜工程中に添加しなくてもよい。ホッパーの温度を、好ましくは、用いられるセルロースエステルのTgより50℃低い温度以上で該Tgより30℃高い温度以下(以下、(Tg−50)〜(Tg+30℃)とも記載する。その他の温度範囲についても同様である。)、より好ましくは(Tg−40℃)〜(Tg+10℃)、さらに好ましくは(Tg−30℃)〜Tgにする。これによりホッパー内での水分の再吸着を抑制し、上記乾燥の効率をより発現し易くできる。
【0060】
さらに低溶融粘度の樹脂組成、および短時間、高剪断力(高回転)、ステップ高温化のスクリュー温度パターンの溶融製膜条件を用いることにより、樹脂中に混在する微細偏光異物を十分に融解させ、しかも溶融熱履歴を最低限に抑えることで、製膜したセルロースエステルの微細偏光異物および黄色味(YI値)を少なくすることができる。具体的には、セルロースエステル樹脂は各種添加剤を添加することにより、セルロースエステルの溶融粘度を低下させる。また、溶融製膜する際に用いる単軸または2軸押し出し機のスクリューが高回転し、スクリューの温度パターンが上流供給部(ホッパー側)から、圧縮部(中間部)、下流計量部(T−ダイ側)までのスクリュー温度を段階的に上げる。これはスクリュー温度を分割して制御し、上流供給部から、下流計量部(T−ダイ側)までの温度を段階的に上げることにより、未溶微細異物を溶融促進し、また溶融必要とする最低限の熱履歴を抑えることにより、樹脂の熱劣化や黄色味着色を低減するものである。
【0061】
本発明ではスクリュー温度パターンが上流供給部から下流計量部までに従って、段階的に、好ましくは5℃〜50℃、より好ましくは5℃〜30℃、さらに好ましくは10℃〜20℃高くする設定が好ましく用いられる。上流供給部の温度は、好ましくは150〜190℃、より好ましくは160〜190℃、さらに好ましくは170〜190℃である。中間圧縮部の温度は、好ましくは170〜210℃、より好ましくは180〜210℃、さらに好ましくは190〜210℃である。下流ダイ側の温度は、好ましくは190〜240℃、より好ましくは200〜240℃、さらに好ましくは210〜240℃である。
本発明のスクリュー回転数は、好ましくは60〜400rpm、より好ましくは700〜300rpm、さらに好ましくは80〜280rpmで、滞留時間は好ましくは5秒〜10分、より好ましくは10秒〜8分、さらに好ましくは30秒〜7分でセルロースエステルを溶融押し出しする。溶融押出し機内を不活性(窒素等)気流中で実施するのも好ましい。不活性ガスは窒素であることが好ましい。窒素の純度は95%以上が好ましく、99%以上がさらに好ましく、99.5%以上が最も好ましい。
【0062】
また、本発明に用いるスクリュー圧縮比を調整することにより、十分に混練させることができ、微細偏光異物が発生するといった問題をより効果的に抑止できる。また圧縮比を調整することにより、発熱による樹脂の熱劣化や溶融製膜したフィルムの黄色味が大きくなるという問題をより効果的に抑止できる。また、L/D(スクリュー長さと直径比)を調整することにより、混練不足や滞留時間が長くなり過ぎることによる樹脂の劣化をより効果的に抑止できる。具体的には、圧縮比は2.5以上が好ましく、4.5以下がより好ましく、さらに好ましくは2.8〜4.2、特に好ましくは3〜4である。また、L/Dは20〜50が好ましく、より好ましくは22〜45、さらに好ましくは24〜40である。このように、高剪断力(高回転)、短時間、段階的に高温化のスクリュー温度パターンの溶融製膜条件を用いることにより、樹脂中に混在する未溶微細変更異物を十分に融解させ、しかも溶融熱履歴を最低限に抑えることで、製膜したセルロースエステルの微細偏光異物および黄色味(YI値)を両立できる。
【0063】
本発明のフィルムの黄色味(YI値)は、0〜8が好ましく、0〜6がさらに好ましく、0〜4が最も好ましい。本発明の溶融製膜したセルロースエステルフィルム中に微細偏光異物数は後述の測定により、0〜5個/5×10-2mm3が好ましく、0〜4個/5×10-2mm3がさらに好ましく、0〜3個/5×10-2mm3が最も好ましい。
【0064】
(濾過)
次に、溶融したセルロースエステルをギヤポンプに通し、押出機の脈動を除去した後、金属メッシュフィルターや焼結金属のリーフディスク等で濾過を行う。メッシュの目の大きさは2〜30μmが好ましく、より好ましくは2〜20μm、さらに好ましくは2〜10μmである。この時、加圧を行い、濾過に要する時間をできるだけ短縮することが好ましい。濾過圧は、0.5MPa〜15MPaが好ましく、2Pa〜15MPaがさらに好ましく、10Pa〜15MPaが最も好ましい。濾過圧は、高いほうが濾過時間を短くすることができるので好ましいが、フィルターの破損が起こらない範囲の高圧を用いることが好ましい。
【0065】
濾過の時の温度は180℃〜230℃が好ましく、180℃〜220℃がさらに好ましく、190〜220℃がさらに好ましい。濾過時の温度が該上限値以下であれば、熱劣化が進行するなどの問題が生じにくいので好ましく、該下限値以上であれば、濾過に時間がかかりすぎて熱劣化が進行するなどの不都合が生じにくいので好ましい。濾過に要する時間はできるだけ短くして、セルロースエステルフィルムの黄変を防止するのがよい。フィルター1cm2当たり1分間の濾過量は、0.05〜100cm3が好ましく、0.1〜100cm3がさらに好ましく、0.5〜100cm3が最も好ましい。
【0066】
(溶融流延キャスト)
濾過した溶融セルロースエステルは、フィルターの後ろに取り付けたT型のダイから押し出す。押出しは単層で行ってもよく、マルチマニホールドダイやフィードブロックダイを用いて複数層で押出てもよい。この時、ダイのリップの間隔を調整することで、幅方向の厚みむらを調整することができる。この後キャスティングドラム上に押出す。この時、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、タッチロール法等の方法を用い、キャスティングドラムと溶融押出ししたシートの密着を上げることが好ましい。このような密着向上法は、溶融押出しシートの全面に実施してもよく、一部に実施してもよい。
【0067】
溶融セルロースエステルをダイから押出する際も不活性ガス中で行うことが好ましい。不活性ガスは窒素であることが好ましい。窒素の純度は95%以上が好ましく、99%以上がさらに好ましく、99.5%以上が最も好ましい。
【0068】
好ましいダイのリップ間隔は製膜するフィルムの膜厚の1倍〜10倍が好ましく、より好ましくは2倍〜8倍、さらに好ましくは3倍〜7倍である。このように厚めにダイリップから押出したシートをCDの周速を調整することで所望の厚みに調整する。ダイリップの好ましい温度は180℃〜250℃、より好ましくは190℃〜240℃、さらに好ましくは200℃〜230℃である。この後、メルトをキャスティングドラム(CD)と呼ばれる金属流延支持体上に押出す。CDの温度は樹脂(セルロースエステルと添加物の混合体のTgを指す)の好ましくは(Tg−50℃)〜(Tg+10℃)、より好ましくは(Tg−30℃)〜(Tg+5℃)、さらに好ましくは(Tg−20℃)〜Tg℃である。CDは1本〜10本が好ましく、より好ましくは2本〜5本である。
【0069】
キャスティングドラム上でメルトを固化させたあと剥ぎ取り、さらにニップロールを経た後、巻き取る。巻き取り速度は10m/分〜100m/分が好ましく、より好ましくは15m/分〜80m/分、さらに好ましくは20m/分〜70m/分である。
製膜幅は好ましくは0.5m〜5m、より好ましくは0.7m〜4m、さらに好ましくは1m〜3mである。製膜後、両端をトリミングし、巻き取ることが好ましい。トリミングされた部分は、粉砕処理された後、または必要に応じて造粒処理や解重合・再重合等の処理を行った後、同じ品種のフィルム用原料としてまたは異なる品種のフィルム用原料として再利用してもよい。また、巻き取り前に、少なくとも片面にラミフィルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。
【0070】
このようにして得たセルロースエステルの弾性率は1.5kN/mm2〜2.9kN/mm2が好ましく、より好ましくは1.7kN/mm2〜2.8kN/mm2、さらに好ましくは1.8kN/mm2〜2.6kN/mm2である。Tg(フィルムのTg即ちセルロースエステルと添加物の混合体のTgを指す)は95℃〜145℃が好ましく、より好ましくは100℃〜140℃、さらに好ましくは105℃〜135℃である。以上の溶融製膜工程で得られたセルロースエステルフィルムはさらに後述する延伸処理を施すことで、所定の特性を発現させることができる。
【0071】
上述したように本発明のセルロースエステルには、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤、微粒子、光学特性調整剤など)を加えることができる。またその添加する時期は作製工程において何れでも添加しても良い。好ましく添加される可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルフォスフェートが含まれる。
【0072】
カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチルが含まれる。
【0073】
その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。グリコール酸エステルの例としては、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレートなどがある。さらにトリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ジトリメチロールプロパンテトラプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネート、イノシトールペンタアセテート、ソルビタンテトラブチレート等も好ましく利用される。
【0074】
中でもトリフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリブチルフォスフェート、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジエチルヘキシルフタレート、トリアセチン、エチルフタリルエチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネート等が好ましい。特にトリフェニルホスフェート、ジエチルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネートが好ましい。これらの可塑剤は1種でもよいし2種以上併用してもよい。可塑剤の添加量はセルロースエステルに対して0.5〜20質量%が好ましく、5〜16質量%がより好ましい。
【0075】
これらの可塑剤として、特開平11−124445号公報に記載の(ジ)ペンタエリスリトールエステル類、特開平11−246704号公報に記載のグリセロールエステル類、特開2000−63560号公報に記載のジグリセロールエステル類、特開平11−92574号公報に記載のクエン酸エステル類、特開平11−90946号公報に記載の置換フェニルリン酸エステル類などに記載されている。
【0076】
また光学異方性を調節するためのレターデーション上昇剤が、場合により添加される。セルロースエステルフィルムのレターデーションを調整するには、芳香族環を少なくとも二つ有する芳香族化合物をレターデーション上昇剤として使用することが好ましい。芳香族化合物は、セルロースエステル100質量部に対して、0.01〜 20質量部の範囲で使用することが好ましい。また、二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。例えば、欧州特許0911656A2号明細書、特開2000−111914号、同2000−275434号各公報等記載の化合物が挙げられる。その中でも1,3,5−トリアジン環を有するものが特に好ましい。
【0077】
本発明に用いるセルロースエステル溶液(セルロースエステルを溶媒に分散させた組成物)には、さらに、用途に応じさらに種々の添加剤(例えば、紫外線防止剤、劣化防止剤、微粒子、剥離剤、赤外吸収剤、帯電防止剤等) を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。また、セルロースエステルフィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。これらの詳細は、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月1 5日発行、発明協会)の16頁〜22頁に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。これらの添加剤の使用量は、添加した素材の機能が発現する限りにおいて特に限定されないが、セルロールアシレート全組成物中、0.001〜20質量%の範囲で適宜用いることが好ましい。
【0078】
(3)延伸
延伸は溶融押出し後オンライン実施してもよいが、溶融押出し後一旦巻き取って、オフライン実施してもよい。延伸温度がTg〜(Tg+50℃)で実施するのが好ましく、より好ましくは(Tg+3℃)〜(Tg+30℃)、さらに好ましくは(Tg+5℃)〜(Tg+20℃)である。好ましい延伸倍率は少なくとも一方に1.03〜3倍、より好ましくは1.05〜2.8倍、さらに好ましくは1.05〜2.5倍である。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。ここで云う延伸倍率は、以下の式を用いて求めたものである。
延伸倍率=延伸後の長さ/延伸前の長さ
このような延伸は出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸してもよく(縦延伸)、フィルムの両端をチャックで把持しこれを直交方向(長手方向と直角方向)に広げてもよい(横延伸)。また、特開2000−37772号、特開2001−113591号、特開2002−103445号の各公報に記載の同時2軸延伸法を用いてもよい。
【0079】
さらにRe、Rthの比を自由に制御するには、縦延伸の場合、ニップロール間をフィルム幅で割った値(縦横比)を制御することで達成できる。即ち縦横比を小さくすることで、Rth/Re比を大きくすることができる。横延伸の場合、直交方向に延伸すると同時に縦方向にも延伸したり、逆に緩和させることで制御することができる。即ち縦方向に延伸することでRth/Re比を大きくすることができ、逆に縦方向に緩和することでRth/Re比を小さくすることができる。さらに縦延伸と横延伸を組み合わせることで、Reを小さくしながら(縦と横の延伸倍率を近づける)、Rthを大きくする(面積倍率(縦倍率×横倍率)を上げる)ことで、Re、Rthを制御できる。本発明では縦、横の延伸倍率の差を好ましくは10%〜100%、より好ましくは20%〜80%、さらに好ましくは25%〜60%にし、縦横非対称に延伸するのがより好ましい。この時、横方向の延伸倍率を高くすることがさらに好ましい。このような延伸速度は10%/分〜10000%/分が好ましく、より好ましくは20%/分〜1000%/分、さらに好ましくは30%/分〜800%/分である。
【0080】
このような延伸に引き続き、縦または横方向に0%〜10%緩和することも好ましい。さらに、延伸に引き続き、100℃〜160℃で1秒〜2分熱固定することも好ましい。なお、溶融製膜で実施される上記の延伸方法は溶液制膜で得られたセルロースエステルフィルムに対しても全く同様に適用され、所望の優れた光学特性や物理特性を有するセルロースエステルフィルムを作製することができる。
【0081】
本発明のセルロースエステルフィルムの光学特性は、延伸または延伸後のセルロースエステルフィルムのRe、Rthは下式を満足するものであることが好ましい。
ここで光学特性評価は、セルロースエステルフィルムを25℃・相対湿度60%にて24時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃・相対湿度60%において、フィルム表面に対し垂直方向および遅相軸を回転軸としてフィルム面法線から傾斜させた複数の方向から波長590nmにおける位相差を測定し、面内レターデーション値(Re)と膜厚方向のレターデーション値(Rth)とを算出させて実施した。
【0082】
好ましいReは0≦Re≦300であり、さらに好ましくは0≦Re≦200、特に好ましくは0≦Re≦150である。また、好ましいReは−100≦Rth≦500であり、さらに好ましくは−100≦Rth≦350、特に好ましくは−100≦Rth≦300である。
【0083】
本発明のセルロースエステルフィルムの波長590nmにおける25℃10%相対湿度におけるReと25℃80%相対湿度におけるReの差は15nm以下が好ましく、10nm以下がさらに好ましい。
また、波長590nmにおける25℃10%相対湿度におけるRthと25℃80%相対湿度におけるRthの差は30nm以下が好ましく、20nm以下がさらに好ましい。また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。即ち、縦延伸の場合は0°に近いほど好ましく、0±5°がより好ましく、0±3°がさらに好ましく、0±2°がよりさらに好ましく、0±1°が最も好ましい。横延伸の場合は、90±5°が好ましく、90±3°または−90±3°がより好ましく、さらに好ましくは90±2°または−90±2°であり、よりさらに好ましくは90±1°または−90±1°である。
【0084】
本発明のセルロースエステルフィルムの厚みは20μm〜200μmが好ましく、より好ましくは30μm〜170μm、さらに好ましくは40μm〜140μmである。厚みむらは未延伸、延伸後とも、厚み方向、幅方向いずれも0%〜2%が好ましく、より好ましくは0%〜1.5%、さらに好ましくは0%〜1%である。
このようにして得たセルロースエステルの弾性率は1.5kN/mm2〜2.9kN/mm2が好ましく、より好ましくは1.7kN/mm2〜2.8kN/mm2、さらに好ましくは1.8kN/mm2〜2.6kN/mm2である。
【0085】
(セルロースエステルフィルムの電子線処理)
次に本発明のセルロースエステルフィルムを作製した後に、さらに電子線処理を実施し、しかる後にアルカリ鹸化処理を行われることを特徴とするものである。電子線処理とその後に続くアルカリ鹸化処理することで、本発明のセルロースエステルフィルムは表面活性化され一般には親水化される。本発明においては、膜表面の親水性の度合いとして、表面に水滴を垂らし、その水滴とセルロースエステルフィルム表面から形成される接触角の評価によって親水性の度合いを表す。本発明においては、電子線処理後のセルロースエステルフィルムの表面に、水による濡れによって親水性を測るために、純水を5マイクロリットル垂らし、測定装置(エルマ工業(株)製ゴニオメーター エルマーG1を用いた)により温度25℃において、水滴と保護フィルムとの接触角を測定する。親水性が高いほど、水による濡れが大きくなるので接触角は小さくなり、本発明においては、アルカリ鹸化液で処理された後の表面の接触角が、25℃、60%相対湿度において、45°以下であることが好ましく、40°以下であることがより好ましく、35°以下であることが最も好ましい。この表面処理により本発明のセルロースエステルフィルムと偏光子膜との接着強度を高めることができ、良好な偏光板を得ることができる。
【0086】
まず、本発明のセルロースエステルフィルムにおける電子線処理方法について記述する。
本発明では、フィルム状のセルロースエステルの少なくとも一方の面を電子線照射処理するものである。
電子線処理は、その電子線照射強度により処理深さをコントロールし、照射量で表面弾性率の大きさをコントロールする。電子線照射強度は、10〜200keV、好ましくは50〜150keVである。200keV以下とすることにより、素材を分解させるのをより効果的に抑止できる。照射量は、10〜200kGyであり、好ましくは50〜150kGyである。
また、電子線照射時の温度は0〜150℃が好ましく、さらに5〜120℃が好ましく、特には10〜100℃であることが好ましい。また照射時間は、2〜600秒が好ましく、さらには5〜240秒であり、特には10〜120秒が好ましい。
【0087】
なお電子線処理時の雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気でもよくさらに不活性ガス(例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、フッ素ガスなど)の雰囲気でもよい。さらにこれらの大気あるいは不活性ガス中に水、酸素、アンモニア、アルキルアミン類(例えばトリメチルアミン)、二酸化炭素などを少量(0.001〜5容量%)含有させてもよい。好ましくは、不活性ガス雰囲気下であり、より好ましくは、アルゴンまたは窒素雰囲気下である。
【0088】
次に、本発明ではフィルム状のセルロースエステルの電子線照射処理後、アルカリ鹸化処理を行うことによりアルカリ適性を向上させることが特徴である。その場合、アルカリ鹸化処理は電子線照射処理後のいずれかの時間に実施しても差し支えないが、好ましくは24時間以内、さらには12時間以内が好ましく、特には6時間以内が好ましく、最も好ましくは3時間以内である。これは、電子線照射から長時間が経過すると、活性化された表面特性(親水性など)が減衰することによる弊害を避けるためである。これらの電子線処理に関しては特開2002−318300号公報、同2003−248100号公報に記載されている方法を利用できる。
【0089】
[アルカリ鹸化水溶液]
次に、本発明のアルカリ鹸化処理工程について記述する。本発明のアルカリ鹸化水溶液のアルカリ剤は、無機アルカリ剤および有機アルカリ剤のいずれも使用でき、アルカリ鹸化特性を有するものであれば特に限定されるものではない。無機強アルカリ剤としては、アルカリ金属の水酸化物(例、NaOH、KOH、LiOH)、アルカリ土類金属の水酸化物、第3リン酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、第2リン酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、ほう酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウムが好ましい。
【0090】
また有機アルカリ剤としては、水酸化アンモニウム、アミン(例、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、エチレンイミン、エチレンジアミン、ピリジン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルブチルアンモニウムヒドロキシド、パーフルオロトリブチルアミン、トリエチルアミン)、および錯塩の遊離塩基(例、[Pt(NH36](OH)4) が好ましい。これらの中でも、低い濃度で鹸化反応をおこすためにアルカリ金属の水酸化物であるNaOH、KOH、LiOHがさらに好ましく、特にNaOH、KOHが好ましい。これらのアルカリ剤は単独もしくは二種以上を組み合わせて併用することもできる。
【0091】
アルカリ鹸化水溶液のアルカリ剤の濃度は、使用するアルカリ剤の種類、反応温度および反応時間に応じて決定される。短い時間で鹸化反応を完了するためには、高い濃度に溶液を調製することが好ましい。ただし、アルカリ濃度が高すぎるとアルカリ鹸化水溶液の安定性が損なわれ、長時間塗布において固形分として液中あるいは気液界面に析出する場合もある。アルカリ鹸化水溶液の濃度は0. 2 〜5mol/Lであることが好ましく、0. 5 〜5mol/Lであることがさらに好ましく、0. 5 〜3mol/Lであることが最も好ましい。
【0092】
[界面活性剤]
本発明のアルカリ鹸化水溶液において場合により用いられる界面活性剤は、アルカリ鹸化水溶液の表面張力を下げて塗布を容易にしたり、ハジキ故障を防止することができる他、濃縮されたアルカリ剤やフィルムとアルカリ剤との反応生成物をアルカリ鹸化水溶液中に安定に存在させ、後の水洗工程においても析出、固体化を防ぐことができる。界面活性剤の濃度は、これらの物質をアルカリ鹸化水溶液中に安定に分散できる濃度が好ましく、最大でも1質量%と見積もれるが、実際には界面活性剤の濃度は、この10倍である10質量%添加すれば、充分な分散特性が得られることが分かった。一方、界面活性剤の種類によっては、水洗工程で充分洗い落とされずに残留すると、後にセルロースエステルフィルム上に配向膜を塗布する際に、フィルムと配向膜との結合(密着)に支障をきたす場合がある。また、液晶性分子を塗布する際にも液晶性分子の配向を妨げることがあるため、必要以上に添加することは好ましくない。界面活性剤の添加濃度は、0.005〜1質量%が好ましく、0.02〜1質量%がさらに好ましい。
【0093】
本発明のアルカリ鹸化方法に好ましく用いられる界面活性剤については、本発明のアルカリ鹸化液に溶解または分散可能なものであれば特に制限はない。非イオン性界面活性剤(ノニオン界面活性剤、フッ素系界面活性剤)、イオン性界面活性剤(アニオン、カチオン、両性界面活性剤)等のいずれをも好適に用いることができる。界面活性剤の中でも、ノニオン界面活性剤とアニオン界面活性剤が溶解性と鹸化性能の観点から好ましく用いられる。これらの界面活性剤は、1種類を単独で添加してもよく、異なるイオン性界面活性剤同士や非イオン性界面活性剤同士を1種類以上組み合せてもよく、また、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤とを組み合わせて添加してもよい。
【0094】
以下、本発明に使用しうる界面活性剤について順次説明する。( アニオン界面活性剤)アニオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩類、α−オレフィンスルホン酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩、N−アルキルスルホ琥珀酸モノアミド二ナトリウム塩、石油スルホン酸塩類、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩類、スチレン/無水マレイン酸共重合物の部分鹸化物類、オレフィン/無水マレイン酸共重合物の部分鹸化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が好適に挙げられる。
【0095】
(カチオン界面活性剤)
カチオン界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩類、テトラブチルアンモニウムブロミド等の第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体等が挙げられる。
(両性界面活性剤)
両性界面活性剤としては、例えば、カルボキシベタイン類、アルキルアミノカルボン酸類、スルホベタイン類、アミノ硫酸エステル類、イミダゾリン類等が挙げられる。
【0096】
(ノニオン性界面活性剤)
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0097】
これらの具体例を示すと、例えば、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンベヘニルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド、ポリオキシエチレンオレイン酸アミド、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレンエチレンアビエチルエーテル、ポリオキシエチレンノニンエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレングリセリルモノオレート、ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート、ポリオキシエチレンプロピレングリコールモノステアレート、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、ジスチレン化フェノールポリエチレンオキシド付加物、トリベンジルフェノールポリエチレンオキシド付加物、オクチルフェノールポリオキシエチレンポリオキシプロピレン付加物、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられる。これらのノニオン性界面活性剤の重量平均分子量は、300〜50,000が好ましく、500〜5,000がより好ましい。
【0098】
本発明において、前記ノニオン性界面活性剤の中でも、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
一般式(1)
1−O(CH2CHR2O)l−(CH2CHR3O)m−(CH2CHR4O)n−R5
一般式(1)中、R1 〜R5 は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、カルボニル基、カルボキシレート基、スルホニル基、スルホネート基を表す。前記アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、ヘキシル基等が挙げられ、前記アルケニル基の具体例としては、ビニル基、プロペニル基等が挙げられ、前記アルキニル基の具体例としては、アセチル基、プロピニル基等が挙げられ、前記アリール基の具体例としては、フェニル基、4−ヒドロキシフェニル基等が挙げられる。l、m、nは、それぞれ、0以上の整数を表す。但し、l、m、nの総てが0であることはない。一般式(1)で表される化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のホモポリマー、エチレングリコール、プロピレングリコールの共重合体等が挙げられる。前記共重合体の比率は、10/90〜90/10がアルカリ鹸化水溶液への溶解性の点から好ましい。また、共重合体の中でもグラフトポリマー、ブロックポリマーが、アルカリ鹸化水溶液に対する溶解性とアルカリ鹸化処理の容易性の点から好ましい。
【0099】
(フッ素系界面活性剤)
フッ素系界面活性剤は、分子内にパーフルオロアルキル基を含有する界面活性剤を指す。このようなフッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル等のアニオン型、パーフルオロアルキルベタイン等の両性型、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン型、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキル基および親水性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基および親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基、親水性基および親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基および親油性基含有ウレタン等の非イオン型が挙げられる。以上の界面活性剤のうち、「ポリオキシエチレン」とあるものは、ポリオキシメチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン等のポリオキシアルキレンに読み替えることもでき、それらもまた前記界面活性剤に包含される。前記界面活性剤は、一種単独で使用してもよいし、併用により効果を損なわない限りにおいては、2種以上を併用してもよい。
【0100】
以上の界面活性剤の中で、カチオン性界面活性剤としての前記第4級アンモニウム塩類、ノニオン性界面活性剤としての前記各種のポリエチレングリコール誘導体類、前記各種のポリエチレンオキサイド付加物類等のポリエチレンオキサイド誘導体類、両性界面活性剤としてのベタイン型化合物類も好ましく用いられる。アルカリ鹸化水溶液には、ノニオン活性剤とアニオン活性剤またはノニオン活性剤とカチオン活性剤を共存させて用いることも本発明の効果が高められて好ましい。
【0101】
アルカリ鹸化水溶液によってセルロースエステルフィルムを処理するとアルカリ剤が濃縮される他、鹸化処理によって生ずる脂肪酸塩やフィルム添加物質などがアルカリ鹸化水溶液に生成、抽出されるようになる。この生成、抽出成分をフィルム表面に沈殿付着させない為には、このアルカリ鹸化水溶液の炭酸イオン濃度を3500mg/L以下とすることが効果的である。より好ましくは1000mg/L以下とすることであり、特に好ましくは100mg/L以下とすることである。炭酸イオン濃度を3500mg/Lとすることによって、鹸化処理したセルロースエステルフィルムに配向膜を塗設し、ラビング処理を行った後、液晶性分子による光学異方層を設置する際に異物欠陥や配向欠陥を低減することができる。高濃度のアルカリ鹸化水溶液は環境雰囲気のCO2 を吸収しやすく、pHを下げるとともに、沈殿物を発生させる原因となる。環境雰囲気のCO2 の吸収を抑制するために、アルカリ鹸化水溶液の塗布コーターを半密閉構造としたり、乾燥空気、不活性ガスやアルカリ鹸化水溶液の有機溶剤飽和蒸気で覆うようにすることがより好ましい。
【0102】
また、アルカリ鹸化水溶液中の塩化物イオン(好ましくは塩素イオン)およびカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの多価金属イオンをそれぞれ1000mg/L以下とすることにより、濃縮したアルカリ剤や脂肪酸塩やフィルム添加物質などの抽出物質をフィルム表面に析出させず、鹸化処理したセルロースエステルフィルムに配向膜を塗設し、ラビング処理を行った後、液晶性分子による光学異方層を設置した際の光学異方層の密着不良を低減することができる。アルカリ鹸化水溶液の主溶媒は水であるが、用いる水は純水が好ましく、純水としては、液中のカルシウム濃度は、0.001〜100mg/Lであることが好ましく、0.001 〜50mg/Lであるのがさらに好ましく、0.001〜10mg/Lであるのが特に好ましい。マグネシウム濃度は、0.001〜50mg/Lであることが好ましく、0.001〜30mg/Lであるのがさらに好ましく、0.001〜10mg/Lであるのが特に好ましい。
【0103】
カルシウムやマグネシウム以外の多価の金属イオン、例えばB、Sr、Ba、Al、Sn、Pb、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu(II)、 Co、Znも含まれないことが好ましい。多価金属イオンの濃度は0.002〜150mg/Lであることが好ましい。一方、アルカリ鹸化溶液に塩化物イオンや炭酸イオンなどのアニオンも含まないことが好ましい。塩化物イオン濃度は0.001〜100mg/Lであることが好ましく、0.001〜50mg/Lであるのがさらに好ましく、0.001〜10mg/Lであるのが特に好ましい。また、炭酸イオンも含まれないことが好ましい。炭酸イオン濃度は0.001〜500mg/Lであることが好ましく、0.001〜100mg/Lであるのがさらに好ましく、0.001〜20mg/Lであるのが特に好ましい。以上の各イオン種とも濃度が低いほど好ましく、下限の0.001mg/Lとは、測定限界以下であることを意味している。これらの濃度範囲において、溶液中の不溶解物の生成が抑えられる。これらの濃度範囲において、溶液中の不溶解物の生成が抑えられる。
【0104】
本発明のアルカリ鹸化水溶液の表面張力は15〜65mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは15〜60mN/mであり、特に好ましくは15〜50mN/mである。本発明のアルカリ鹸化水溶液の粘度は0.6〜20mPa・sであることが好ましく、より好ましくは1〜15mPa・sである。且つ、アルカリ鹸化水溶液の表面張力は前述した通りとすることが好ましく、この範囲において、フィルム表面への濡れ性、フィルム表面に塗布した溶液の保持性、鹸化処理後のフィルム表面からのアルカリ液の除去性が充分に行われ、安定した塗布操作が実現できる。
【0105】
また、本発明のアルカリ鹸化方法のアルカリ鹸化水溶液の密度は、0.9〜1.4g/cm3 であることが好ましく、0.95〜1.3g/cm3であることがより好ましく、1.0〜1.2g/cm3 であることが特に好ましい。0.9g/cm3 以下では搬送による風圧による風ムラが生じ、処理の均一性が損なわれる。また、1.4g/cm3 以上では、自重により搬送方向に平行な塗布スジが発生しこれもまた処理の均一性が損なわれ、配向膜の厚みムラの原因となる。さらに、本発明のアルカリ鹸化方法のアルカリ鹸化水溶液の比導電率は後述する洗浄工程での負荷を最小限にするために20mS/cm〜2S/cmであることが好ましく、50mS/cm〜1.5S/cmであることがより好ましく、100mS/cm〜1S/cmであることが特に好ましい。
比導電率を2S/cm以下とすることにより、輝点故障(異物欠陥)の原因となる塩が発生しにくくなり、光学補償層の密着不良が生じにくくなる。
【0106】
また、アルカリ鹸化水溶液の液特性として、測定波長400nmにおける液の吸光度は2. 0未満であることが好ましい。吸光度の高い液を用いると液中に溶け出したセルロースエステルフィルムとの反応生成物やフィルム添加剤がセルロースエステルフィルム上に付着して輝点故障(異物欠陥)の発生原因となる。アルカリ鹸化水溶液の吸光度の制御には活性炭を用い、溶出成分を吸着、除去する方法が利用できる。活性炭は、鹸化溶液中の着色成分を除去する機能を有すればよく、その形態、材質等に制限はない。活性炭を直接アルカリ鹸化水溶液槽に入れる方法であったり、鹸化水溶液槽と活性炭を充填した浄化装置間に鹸化水溶液を循環させる方法であっても構わない。
【0107】
鹸化反応に必要なアルカリ塗布量は、セルロースエステルフィルムの単位面積当りの鹸化反応サイト数に配向膜との密着を発現させるために必要な鹸化深さを乗じた総鹸化サイト数(=理論アルカリ塗布量)が目安となる。鹸化反応の進行にともなってアルカリが消費され反応速度が低下するため、実際には上述の理論アルカリ塗布量の数倍を塗布することが好ましい。具体的には、理論アルカリ塗布量の2〜20倍であることが好ましく、2〜5倍であることがさらに好ましい。
【0108】
[消泡剤]
アルカリ鹸化水溶液およびアルカリ希釈液には消泡剤を含有してもよい。その添加剤は、アルカリ鹸化水溶液中には、好ましくは0.005〜1質量%、より好ましくは0 .005〜3質量%の濃度で含有させることができる。一方、アルカリ希釈液中には、好ましくは0.001〜2質量%、特に好ましくは0.00 5〜0.5質量%の濃度で含有させることができる。この範囲において、フィルム表面への微小な気泡の付着も無くなり、アルカリ処理による鹸化がムラ無く均一に進行する。
【0109】
消泡剤としては、ヒマシ油、亜麻仁油等の油脂系、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸系、天然ワックス等の脂肪酸エステル系、ポリオキシアルキレンモノハイドリックアルコール等のアルコール系、ジ−tert−アミルフェノキシエタノール、ヘプチルセロソルブ、ノニルセロソルブ、3−ヘプチルカルビトール等のエーテル系、トリブチルフォスフェート、トリス(ブトキシエチル)フォスフェート等の燐酸エステル系、ジアミルアミン等のアミン系、ポリアルキレンアミド、アシレートポリアミド等のアミド系、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸カリウム、羊毛オレイン酸のカルシウム塩等の金属石鹸系、ラウリル硫酸エステルナトリウム等の硫酸エステル系、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチル水素ポリシロキサン、フロロポリシロキサン、ジメチルポリシロキサンとポリアルキレンオキサイドとの共重合体等のシリコーンオイル、およびその溶液型、エマルジョン型、ペースト型シリコーンオイル等のシリコーン系の消泡剤が挙げられる。
【0110】
本発明のアルカリ鹸化水溶液には、アルカリ鹸化水溶液への界面活性剤、消泡剤の溶解助剤として、上記した有機溶剤以外の有機溶媒を添加することができる。好ましくは水への溶解度を持つ溶媒であれば特に制限はない。例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、ジエチレンクリコールモノエチルエーテル、エチレンクリコールモノブチルエーテル、ベンジルアルコール、フッ化アルコール(例えば、CnF2n+1(CH2kOH(nは3〜8の整数、kは1または2の整数)、1,2,2,3,3−ヘプタフロロプロパノール、ヘキサフロロブタンジオール、パーフロロシクロヘキサノール等)等を挙げることができる。これらの有機溶剤の含有量は使用液の総重量に対して0.1〜5質量%が好ましい。
【0111】
[防黴剤/防菌剤]
本発明のアルカリ鹸化水溶液には、さらに、防黴剤および/または防菌剤を含有いてもよい。本発明において使用される防黴剤および防菌剤は、アルカリ鹸化に悪影響を及ぼさないものであれば何でもよいが、具体的にはチアゾリルベンズイミダゾール系化合物、イソチアゾロン系化合物、クロロフェノール系化合物、ブロモフェノール系化合物、チオシアン酸やイソチアン酸系化合物、酸アジド系化合物、ダイアジンやトリアジン系化合物、チオ尿素系化合物、アルキルグアニジン化合物、4級アンモニウム塩、有機スズや有機亜鉛化合物、シクロヘキシルフェノール系化合物、イミダゾールおよびベンズイミダゾール系化合物、スルファミド系化合物、塩素化イソシアヌル酸ナトリウムなどの活性ハロゲン系化合物、キレート剤、亜硫酸化合物、ペニシリンに代表される抗生物質など種々の防バクテリア剤や防黴剤などがある。
【0112】
その他L.E.West,"Water Quality Criteria"Phot.Sci.and Eng.,Vol9 No.6(1965)記載の殺菌剤、特開昭57−8542号、同58−105145号、同59−126533号、同55−111942号、同57−157244号公報記載の各種防黴剤、「防菌防黴の化学」堀口博著・三共出版(昭57)、「防菌防黴技術ハンドブック」日本防菌防黴学会・技報堂(昭61)に記載されているような化学物などを用いることができ、以下に具体例を示すが、これらに限定されるものではない。上記した防黴剤および/または防菌剤の添加量は、アルカリ鹸化水溶液中に0.01〜50g/Lであることが好ましく、より好ましくは0.05〜20g/Lである。
【0113】
本発明に用いるアルカリ鹸化水溶液には場合により有機溶剤を添加することができる。水への溶解度を持つ溶媒であれば特に制限はない。例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、ジエチレンクリコールモノエチルエーテル、エチレンクリコールモノブチルエーテル、ベンジルアルコール、3−フェニル−1−プロパノール、4−フェニル−1−ブタノール、4−フェニル−2−ブタノール、2−フェニル−1−ブタノール、2−フェノキシエタノール、2−ベンジルオキシエタノール、o−メトキシベンジルアルコール、m−メトキシベンジルアルコール、p−メトキシベンジルアルコール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール、フッ化アルコール(例えば1,2,2,3,3−ヘプタフロロプロパノール、ヘキサフロロブタンジオール、パーフロロシクロヘキサノール等)等を挙げることができる。有機溶剤の含有量は使用液の総重量に対して0.1〜5質量%が好ましい。その使用量は界面活性剤の使用量と密接な関係があり、有機溶剤の量が増すにつれ、界面活性剤の量は増加させることが好ましい。これは界面活性剤の量が少なく、有機溶剤の量を多く用いると有機溶剤が完全に溶解せず、従って、良好な鹸化処理の確保が期待できなくなるからである。
【0114】
本発明のアルカリ鹸化水溶液は、アルカリ剤との組み合わせにおいてpH 緩衝作用があることから、非還元糖から選ばれる少なくとも一つの化合物を含有することが好ましい。かかる非還元糖とは、遊離のアルデヒド基やケトン基を持たず、還元性を示さない糖類であり、還元基同士の結合したトレハロース型少糖類、糖類の還元基と非糖類が結合した配糖体および糖類に水素添加して還元した糖アルコールに分類され、何れも本発明に好適に用いられる。トレハロース型少糖類には、サッカロースやトレハロースがあり、配糖体としては、アルキル配糖体、フェノール配糖体、カラシ油配糖体などが挙げられる。また糖アルコールとしてはD,L−アラビット、リビット、キシリット、D,L−ソルビット、D, L−マンニット、D,L−イジット、D,L−タリット、ズリシットおよびアロズルシットなどが挙げられる。さらに二糖類の水素添加で得られるマルチビットおよびオリゴ糖の水素添加で得られる還元体(還元水あめ)が好適に用いられる。これらの中で本発明に好ましい非還元糖は糖アルコールとサッカロースであり、特にD−ソルビット、サッカロース、還元水あめが適度なpH領域に緩衝作用があることと、低価格であることで好ましい。これらの非還元糖は、単独もしくは二種以上を組み合わせて使用でき、それらの現像液中に占める割合は0.1〜30質量%が好ましく、さらに好ましくは、1〜20質量%である。
【0115】
[アルカリ鹸化液への他の添加剤]
尚、本発明のアルカリ鹸化液には、他の添加剤を併用しても良い。例えば、アルカリ液安定化剤(酸化防止剤等)、公知のpH緩衝剤等が挙げられる。尚、本発明においてアルカリ鹸化水溶液の添加剤は、これらに限定されるものではない。アルカリ鹸化水溶液の温度は、反応温度(=セルロースエステルフィルムの温度)に等しいことが望ましい。安定な塗布を行うためには、水の沸点よりも低い温度であることが必要であり、10℃〜90℃であることが好ましく、15〜80℃であることがさらに好ましく、特には25〜70℃であることが好ましい。
また、処理時間は5秒〜600秒であることが好ましい。
【0116】
[アルカリ鹸化処理方法]
本発明のセルロースエステルフィルムの表面処理方法はアルカリ鹸化水溶液を用いてセルロースエステルフィルムの表面が室温以上の温度でアルカリ鹸化水溶液を用いて鹸化処理する工程、そしてアルカリ鹸化水溶液をセルロースエステルフィルムから洗い落とす工程、さらに酸性水溶液でアルカリ性水溶液を中和する工程、および水洗する工程によりアルカリ鹸化処理を実施することが好ましい。
アルカリ鹸化水溶液を用いてセルロースエステルフィルムを処理する工程は従来公知のいずれの方法を用いても良く、浸漬方法、吹き付け方法、塗布方法等が挙げられる。
【0117】
一般的に実施される鹸化処理液浴にセルロースエステルフィルムを浸漬する方法を記述する。処理浴のサイズは特に限定されないが、所定の温度および処理時間が可能となる容器であればよい。処理工程の配置としては、送り出し部−電子線処理部−アルカリ鹸化処理槽−水洗槽−酸性中和槽−水洗槽−乾燥工程部−巻き取り部の工程配置が一般的である。各槽の温度は5〜90℃、処理時間5秒〜1200秒でコントロールされれば特に限定されない。鹸化処理浴としては15〜80℃であることがさらに好ましく、25〜70℃であることが特に好ましい。また処理時間が10秒〜600秒であることがさらに好ましく、10〜300秒が特に好ましい。また酸性中和槽としては5〜80℃であることがさらに好ましく、10〜50℃であることが特に好ましい。また処理時間が10秒〜600秒であることがさらに好ましく、10〜300秒が特に好ましい。水洗槽については、5〜80℃であることがさらに好ましく、特には10〜50℃であることがより好ましい。また処理時間が10秒〜600秒であることがさらに好ましく、10〜300秒が特に好ましい。
【0118】
また、乾燥工程の温度は、25〜150℃が好ましく、30〜140℃がより好ましく、40〜130℃がさらに好ましい。また、乾燥時間は5〜1500秒が好ましく、20〜1200秒がより好ましく、60〜1200秒がさらに好ましい。処理方法は、ロール状で搬送されてもよいし、シート状で処理されてもよい。ロール状セルロースエステルフィルムの場合は、送り出しから乾燥までを一貫してハンドリングしてもよいし、場合により工程のいずれかの時点で切断してさらに一定の長さのロール状態でハンドリングしてもよいし、シート状態として後処理工程をしてもよい。搬送速度としては、1〜200m/分が好ましく、3〜150m/分がより好ましく、10〜150m/分がさらに好ましい。
【0119】
次に、本発明の電子線処理しセルロースエステルフィルムの鹸化処理方法として用いられる、鹸化処理液の塗布方式について記述する。アルカリ鹸化処理液の塗布方法としては、下記に述べるように従来公知の塗布方法を用いることができる。セルロースエステルフィルムをその表面が室温以上の温度でアルカリ鹸化水溶液により鹸化処理には、塗布する前に予め室温以上に加熱する工程、アルカリ液を予め加温しておく工程、またはこれらを組み合わせた工程等が挙げられる。塗布する前に予め室温以上に加熱する工程と組み合わせることが好ましい。
【0120】
まずセルロースエステルフィルムを予め室温以上に加熱する工程では、熱風の衝突(吹き付けによる直接加熱)、加熱ロールによる接触伝熱、マイクロ波による誘導加熱、または赤外線ヒーターによる輻射熱加熱等が好ましく利用できる。特に加熱ロールによる接触伝熱は、熱伝達効率が高く小さな設置面積で行える点、搬送開始時のフィルム温度の立ち上がりが速い点で好ましい。一般の2重ジャケットロールや電磁誘導ロール(トクデン社製)が利用できる。加熱後のフィルム表面温度は、25〜150℃であることが好ましく、25〜1 00℃がさらに好ましく、40〜80℃が最も好ましい。
【0121】
前記の電子線処理したセルロースエステルフィルムにアルカリ鹸化水溶液を塗布する工程では、ダイコーター(エクストルージョンコーター、スライドコーター)、ロールコーター(順転ロールコーター、逆転ロールコーター、グラビアコーター)、ロッドコーター(細い金属線を巻いたロッド)が好ましく利用できる。塗布方式に関しては、各種文献(例えば、Modern Coating and Drying Technology,Edward Cohen and Edgar B. Gutoff, Edits., VCH Publishers , Inc, 1992) に記載されている。アルカリ鹸化水溶液の塗布量は、その後、水洗除去するため廃液処理を考慮して、極力抑制することが望ましく、1〜100cc/m2 が好ましく、1〜50cc/m2がより好ましい。少ない塗布量域でも安定に操作できるロッドコーター、グラビアコーター、ブレードコーターが特に好ましい。また、アルカリ鹸化水溶液を塗布し、セルロースエステルフィルムを鹸化処理したのち、アルカリ鹸化水溶液をセルロースエステルフィルムから容易に洗い落とすために、アルカリ鹸化水溶液はセルロースエステルフィルムの下面に塗布することが好ましい。単位時間当たりの水吹き付け量の変動は、搬送されるセルロースエステルフィルムの長手方向および幅方向とも30%未満に制御することが好ましい。また、連続塗布方式を採用することもできる。
【0122】
本発明の塗布型アルカリ鹸化方法はアルカリ鹸化水溶液を塗布した後、鹸化反応が終了するまで、電子線処理したセルロースエステルフィルムの温度を室温(20℃)以上に保つことが推奨される。加熱する手段は、セルロースエステルフィルムの片面がアルカリ鹸化水溶液により濡れている状態であることを考慮して選択する。塗布の反対面への熱風の衝突(吹付け)、加熱ロールによる接触伝熱、マイクロ波による誘導加熱、赤外線ヒーターによる輻射熱加熱等が好ましく利用できる。赤外線ヒーターは、非接触、かつ空気の流れを伴わずに加熱できるため、アルカリ鹸化水溶液塗布面への影響を最小にできるため好ましい。赤外線ヒーターは、電気式、ガス式、オイル式あるいはスチーム式の遠赤外セラミックヒーターが利用できる。市販の赤外線ヒーター(例えば(株)ノリタケカンパニーリミテド製)を用いてもよい。熱媒体が、オイルまたはスチームを用いるオイル式またはスチーム式の赤外ヒーターは、有機溶剤が共存する雰囲気における防爆の観点で好ましい。
【0123】
セルロースエステルフィルムの温度は、アルカリ鹸化水溶液塗布前に加熱した温度と同じでも異なっていてもよい。また、鹸化反応中に温度を連続的、または段階的に変更してもよい。フィルム温度は、好ましくは20℃〜150℃、より好ましくは25℃〜100℃、さらに好ましくは35℃〜80℃である。フィルム温度の検出には、一般に市販されている非接触の赤外線温度計が利用でき、上記温度範囲に制御するために、加熱手段に対してフィードバック制御を行ってもよい。アルカリ鹸化水溶液を塗布して、洗い落とすまでに上記温度範囲に保持する時間は、後述する搬送速度にもよるが、1秒〜5分に保つことが好ましく、2〜100秒間保つことがより好ましく、3〜50秒間保つことが特に好ましい。
【0124】
セルロースエステルフィルムを搬送しながら各工程処理を実施し、アルカリ鹸化処理を行うことが好ましいが、セルロースエステルフィルムの搬送速度は、上記アルカリ鹸化水溶液の組成と塗布方式の組み合わせによって決定する。一般に、10〜500m/分が好ましく、20〜300m/分がさらに好ましい。
【0125】
また、電子線処理したセルロースエステルフィルムを予め室温以上に加熱する工程、または、セルロースエステルフィルムにアルカリ鹸化水溶液を塗布する工程の前に、粉塵を除去するため、並びに膜表面の濡れ性をより均一にするために除電処理、除塵処理あるいは、ウエット処理を実施することもできるこれらの方法は一般に知られている方法を用いることができ、除電方法としては、特開昭62−131500号公報に記載の方法や除塵方法としては特開平2−43157号公報に記載の方法を挙げることができる。
【0126】
セルロースエステルフィルムの温度を室温以上に維持して、鹸化反応を進行させた後、アルカリ鹸化水溶液とセルロースエステルフィルムとの鹸化反応を減速あるいは停止するには、大きく3つの方法がある。一つ目は、塗布されたアルカリ鹸化水溶液を希釈してアルカリ濃度を下げ、反応速度を低下させる方法であり、二つ目は、アルカリ鹸化水溶液が塗布されたセルロースエステルフィルムの温度を下げ、反応速度を低下させる方法であり、三つ目は、酸性の液によって中和する方法である。
【0127】
塗布されたアルカリ鹸化水溶液を希釈するためには、希釈液を塗布する方法、希釈液を吹き付ける方法、希釈液の入った容器にセルロースエステルフィルムごと浸漬する方法が採用できる。希釈液を塗布する方法と吹き付ける方法がセルロースエステルフィルムを連続搬送しながら実施する上で好ましい方法である。希釈液を塗布する方法は、必要最小限の希釈液量を用いて実施できるために最も好ましい。
【0128】
希釈液の塗布は、既にアルカリ鹸化水溶液が塗布されたセルロースエステルフィルム上に希釈液を再度適用できる連続塗布可能な方式であることが望ましい。塗布は、ダイコーター(エクストルージョンコーター、スライドコーター)、ロールコーター(順転ロールコーター、逆転ロールコーター、グラビアコーター)、ロッドコーター(細い金属線を巻いたロッド)が好ましく利用できる。塗布方式に関しては、各種文献(例えば、Modern Coa ting and Drying Technology, Edward Cohen and Edgar B. Gutoff, Edits., VCH Publis hers, Inc, 1992) に記載されている。アルカリ鹸化水溶液と希釈液とを速やかに混合してアルカリ濃度を低下させるためには、希釈液が塗布される微小領域(塗布ビードと呼ぶこともある)において、流れが層流であるダイコーターよりも、流れが一様とならないロールコーターやロッドコーターが好ましい。
【0129】
アルカリ希釈液は、アルカリ濃度を低下させること、フィルム添加物質などの抽出素材をフィルムに付着させないことが目的であるため、アルカリ鹸化水溶液中のアルカリ剤を溶解する溶媒でなければならない。よって、水または水と有機溶剤との混合液を用いることが好ましく、二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。後述するアルカリ鹸化水溶液に用いた有機溶剤が優位に用いることができる。好ましい溶剤は水である。また、アルカリ希釈液には、フィルム添加物質などの抽出素材をフィルムに付着させないために界面活性剤を含ませることが好ましい。界面活性剤としては特に限定はないが、後述するアルカリ鹸化水溶液に用いる界面活性剤を有利に利用できる。さらに、アルカリ希釈液には、後述する消泡剤を含ませることがフィルム表面への微小な気泡の付着を無くし、アルカリ鹸化水溶液およびアルカリ希釈液の洗浄がムラ無く均一に行うことができるため、好ましい。
【0130】
希釈液の塗布量は、アルカリ鹸化水溶液の濃度に応じて決定する。塗布ビードにおける流れが層流であるダイコーターの場合、塗布量は、元のアルカリ濃度を1.5 〜10倍に希釈することが好ましく、2〜5倍に希釈することがさらに好ましい。ロールコーターやロッドコーターの場合は、塗布ビード内の流動が一様でないため、アルカリ鹸化水溶液と希釈液との混合が発生し、この混合した液が再塗布される。したがって、この場合は希釈液の塗布量によって希釈率を特定することができないため、希釈液塗布後のアルカリ濃度を測定する必要がある。ロールコーターやロッドコーターにおいても、塗布量は、元のアルカリ濃度を1.5 〜10倍に希釈することが好ましく、2〜5倍に希釈することがさらに好ましい。
【0131】
アルカリによる鹸化反応を迅速に停止するため、酸を用いることもできる。少ない量で中和するため、強酸を用いることが好ましい。さらに、水洗の容易さを考慮すると、アルカリと中和反応後に生成する塩が水に対する溶解度が高い酸を選定することが好ましい。塩酸、硝酸、リン酸、クロム酸、スルホン酸、メタンスルホン酸が特に好ましい。また、アルカリ鹸化液中の炭酸イオン濃度や塩化物イオン濃度が高い場合には、急激な中和反応により沈殿が生じることあり、その場合にはアルカリ中和液中に緩衝性の弱酸を添加することが好ましい。このような弱酸としてはPergamonPress社発行のIO NISATION CONSTANTS OF ORGANIC ASIDS IN A QUEOUS SOLUTIONに記載のソルビットやサッカロース、グルコース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、フラクトース、リボース、マンノースおよびL−アスコルビン酸などの糖類の他、アルコール類、アルデヒド類、フェノール性水酸基を有する化合物やオキシム類、核酸関連物質などが挙げられる。
【0132】
塗布されたアルカリ鹸化水溶液を酸で中和するためには、酸性溶液(アルカリ中和液)を塗布する方法、酸性溶液を吹き付ける方法、あるいは酸性溶液の入った容器にセルロースエステルフィルムごと浸漬する方法が採用できる。酸性溶液を塗布する方法と吹き付ける方法がセルロースエステルフィルムを連続搬送しながら実施する上で好ましい。酸性溶液を塗布する方法は、必要最小限の酸性溶液を用いて実施できるために最も好ましい。
【0133】
アルカリ中和液の塗布は、既にアルカリ鹸化水溶液が塗布されたセルロースエステルフィルム上に酸性溶液を再度適用できる連続塗布可能な方式であることが望ましい。塗布は、ダイコーター(エクストルージョンコーター、スライドコーター)、ロールコーター(順転ロールコーター、逆転ロールコーター、グラビアコーター)、ロッドコーター(細い金属線を巻いたロッド)が好ましく利用できる。塗布方式に関しては、各種文献(例えば、Mo dern Coating and Drying Technology, Edward Cohen and Edgar B. Gutoff, Edits., VCH Publishers, Inc, 1992) に記載されている。アルカリ鹸化水溶液と中和液とを速やかに混合してアルカリ性を低下させるためには、中和液が塗布される微小領域(塗布ビードと呼ぶこともある)において、流れが層流であるダイコーターよりも、流れが一様とならないロールコーターやロッドコーターが好ましい。
【0134】
アルカリ中和液の塗布量は、アルカリの種類とアルカリ鹸化水溶液の濃度に応じて決定する。塗布ビードにおける流れが層流であるダイコーターの場合、中和液の塗布量は、元のアルカリ塗布量の0.1 〜5倍であることが好ましく、0.5 〜2倍であることがさらに好ましい。ロールコーターやロッドコーターの場合は、塗布ビード内の流動が一様でないため、アルカリ鹸化水溶液と中和液との混合が発生し、混合した液が再塗布される。したがって、この場合は中和液の塗布量によって中和率を特定することができないため、中和液塗布後のアルカリ濃度を測定する必要がある。ロールコーターやロッドコーターにおいては、酸性溶液塗布後のpHが4〜9になる様に酸性溶液の塗布量を決定することが好ましく、6〜8になるように決定することがさらに好ましい。
【0135】
アルカリ中和液は、アルカリ性を低下させること、フィルム添加物質などの抽出素材をフィルムに付着させないことが目的であるため、中和反応で生じる塩アルカリ鹸化水溶液中のアルカリ剤を溶解する溶媒でなければならない。よって、水または水と有機溶剤との混合液を用いることが好ましく、二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。後述するアルカリ鹸化水溶液に用いた有機溶剤が有意に用いることができる。好ましい溶剤は水である。また、アルカリ中和液には、フィルム添加物質などの抽出素材をフィルムに付着させないために界面活性剤を含ませることが好ましい。界面活性剤としては特に限定はないが、後述するアルカリ鹸化水溶液に用いる界面活性剤を有利に利用できる。さらに、アルカリ中和液には、後述する緩衝剤を含ませることが洗浄効率を高めるために好ましい。
【0136】
セルロースエステルフィルムの温度を降下させて、鹸化反応を停止することもできる。反応を促進させるために室温以上に保たれた状態から、充分に温度低下させることによって実質的に鹸化反応を停止させる。セルロースエステルフィルムの温度を低下させる手段は、セルロースエステルフィルムの片面が濡れていることを考慮して決定する。塗布の反対面への冷風の衝突、あるいは、冷却ロールによる接触伝熱等が好ましく採用できる。冷却後のフィルム温度は、5℃〜60℃であることが好ましく、10℃〜50℃であることがさらに好ましく、15℃〜30℃であることが最も好ましい。フィルム温度は、非接触式の赤外線温度計で測定することが好ましい。冷却手段に対してフィーッドバック制御を行い、冷却温度を調節することもできる。
【0137】
[洗浄工程]
洗浄工程は、アルカリ鹸化水溶液、アルカリ希釈液またはアルカリ中和液を除去するために実施する。これらの中のアルカリ剤、酸、塩、フィルム添加物質などの抽出素材が残っていると、鹸化反応が進行したり、後に塗布する配向膜ならびに液晶性分子層の塗膜形成や液晶分子の配向に影響を及ぼす。洗浄は、洗浄水を塗布する方法、洗浄水を吹き付ける方法、または、洗浄水の入った容器にセルロースエステルフィルムごと浸漬する方法で実施できる。洗浄水を塗布する方法と吹き付ける方法が、セルロースエステルフィルムを連続搬送しながら実施するために好ましい。洗浄水を吹き付ける方法では、噴流によってセルロースエステルフィルム上の洗浄水とアルカリ性塗布液との乱流混合が得られるため、特に好ましい。
【0138】
水の吹きつけ方法は、塗布ヘッド(例えば、ファウンテンコーター、フロッグマウスコーター) を用いる方法、あるいは、空気の加湿や塗装、タンクの自動洗浄に利用されるスプレーノズルを用いる方法で実施できる。塗布方式に関しては、「コーティングのすべて」荒木正義編集、(株)加工技術研究会(1999年)に記載がある。円錐状あるいは扇状のスプレーノズルをセルロースエステルフィルムの幅方向に配列して、全幅に水流が衝突するように配置することができる。市販のスプレーノズル(例えば、(株)いけうち製、スプレーイングシステムズ社製)を用いてもよい。水の吹き付け速度は、大きい方が高い乱流混合が得られる。ただし、速度が大きいと、連続搬送するセルロースエステルフィルムの搬送安定性を損なう場合もある。吹き付けの衝突速度は、50〜1000cm/秒が好ましく、100〜700cm/秒がさらに好ましく、100〜500cm/秒が最も好ましい。
【0139】
単位時間当たりの水吹き付け量の変動は、搬送されるセルロースエステルフィルムの長手方向および幅方向とも30%未満に制御することが好ましい。ただし、セルロースエステルフィルムの幅方向の両端では、アルカリ鹸化水溶液の塗布量や中和に使用した酸性溶液の塗布量が多いことがしばしば発生する。塗布量が多い部分の洗浄性を確保するために、幅方向両端の水吹き付け量を増やすこともできる。塗布ヘッドを用いる場合は、両端の流量が多くなるように水が吐出するスリットのクリアランスを広く設定する。また、局所的に両端に水膜を供給するために幅が狭いコーターを別途、設置してもよい。幅が狭いコーターは、複数設置することもできる。スプレーノズルを用いる場合も、両端に局所的に水吹き付けるためのノズルを設置することができる。
【0140】
水洗で一定量の水を用いる場合、一度に全量適用するよりも数回に分割して適用する回分式洗浄方法が好ましい。すなわち、水の量を幾つかに分けて、セルロースエステルフィルムの搬送方向に順次に設置した複数の水洗手段に供給する。一つの水洗手段と次の水洗手段との間には適当な時間(距離)を設けて、拡散によるアルカリ性塗布液の希釈を進行させる。さらに好ましくは、搬送されるセルロースエステルフィルムに傾斜を設けるなどして、フィルム上の水がフィルム面に沿って流れる様にすれば、拡散に加えて、流動による混合希釈が得られる。最も好ましい方法としては、水洗手段と水洗手段の間にセルロースエステルフィルム上の水膜を除去する水切り手段を設けることで、さらに水洗希釈効率を高められる。具体的な水切り手段としては、ブレードコーターに用いられるブレード、エアナイフコーターに用いられるエアナイフ、ロッドコーターに用いられるロッド、ロールコーターに用いられるロールが挙げられる。順次に配置された水洗手段の数は、多いほうが有利である。ただし、設置スペースならびに設備コストの観点から、好ましくは2〜10段、より好ましくは2〜5段が使用される。水切り手段後の水膜厚みは、薄い方が好ましいが、用いる水切り手段の種類によって最低水膜厚みが制限される。ブレード、ロッド、ロールなど、物理的に固体をセルロースエステルフィルムに接触させる方法においては、例え固体がゴムなどの硬度の低い弾性体であったとしても、フィルム表面にキズを付けたり、弾性体が磨り減ったりするので有限の水膜を潤滑流体として残す必要がある。通常は、好ましくは数μm以上、より好ましくは10μm以上の水膜を潤滑流体として残存させる。
【0141】
極限まで水膜厚みを減少させられる水切り手段としては、エアナイフが好ましい。充分な風量と風圧を設定することにより、水膜厚みをゼロに近づけることができる。ただし、エアの吹出し量が大きすぎると、搬送フィルムのばたつきや一方への片寄りなど、セルロースエステルフィルムの搬送安定性に影響を及ぼすことがあるので、好ましい範囲が存在する。セルロースエステルフィルム上の元の水膜厚み、フィルムの搬送速度にもよるが、好ましくは10〜500m/秒、より好ましくは20〜300m/秒、より好ましくは30〜200m /秒の風速を使用する。また、均一に水膜除去を行うためには、セルロースエステルフィルムの幅方向の風速分布を、通常は10%以内、好ましくは5%以内になるように、エアナイフの吹出し口やエアナイフへの給気方法を調整する。搬送するセルロースエステルフィルム表面とエアナイフ吹出し口の間隙は、狭い方が水切り能が増すが、セルロースエステルフィルムと接触して傷付ける可能性が高くなるため、適当な範囲がある。好ましくは、10μm〜10cm、より好ましくは100μm〜5cm、さらに好ましくは500μm〜1cmの間隙をもって、エアナイフを設置する。さらに、エアナイフと対向するように、セルロースエステルフィルムの水洗面と反対側にバックアップロールを設置することで、間隙の設定が安定するとともに、フィルムのバタツキやシワ、変形などの影響を緩和することができるので好ましい。
【0142】
洗浄水には、純水を用いることが好ましい。本発明に用いられる純水とは、比電気抵抗が少なくとも0.1MΩ以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンは1mg/L未満、クロルイオン、硝酸イオンなどのアニオンは0.1 mg/L未満であることが好ましい。純水は、逆浸透膜、イオン交換樹脂、蒸留などの単体、またはそれらの組み合わせによって得ることができる。
洗浄水は高温であるほど、洗浄能力は上がる。しかし、搬送されるセルロースエステルフィルム上に水を吹き付ける方法においては、空気と接触する水の面積が大きく、高温ほど蒸発が著しくなるため、周囲の湿度が増し、結露する危険性が高くなる。このため、洗浄水の温度は、好ましくは5〜90℃、より好ましくは20℃〜80℃、さらに好ましくは25℃〜60℃の範囲で設定する。
【0143】
アルカリ鹸化水溶液の成分、または鹸化反応の生成物が水に容易に溶けない場合、水洗工程の前または後に水に不溶な成分を除去するための溶剤洗浄工程を付加しても良い。溶剤洗浄工程は、上に述べた水洗方法、水切り手段を利用することができる。用いる有機溶剤については、後述のアルカリ鹸化水溶液に使用できる溶剤のほか、新版溶剤ポケットブック(オーム社、1994年刊)に記載の溶剤を使用することができる。
【0144】
洗浄工程の次に乾燥工程を実施することもできる。通常は、エアナイフなどの水切り手段で充分に水膜を除去できることが多く、乾燥工程は必要でないことあるが、セルロースエステルフィルムをロール状に巻き取る前に、好ましい含水率に調整するために加熱乾燥してもよい。逆に、設定された湿度を有する風で調湿することもできる。乾燥風の温度は30〜200℃が好ましく、40〜150℃がより好ましく、50〜120℃が特に好ましい。本発明の電子線処理しアルカリ鹸化処理したセルロースエステルフィルムは、上述したアルカリ鹸化処理工程の後に連続して機能層の塗設を行うことができる。塗布により片面に鹸化処理を実施し、その上に機能層の塗設を行うことにより、機能層を設けた後にフィルムをロール状に巻き取っても、機能層面とフィルムの反対面との間で貼りついたりすることを防止することができる。
【0145】
次に本発明のセルロースエステルフィルムは各種光学用フィルムとして応用される。以下にその代表的な応用例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
[光学補償シート]
本発明の電子線処理された後にさらにアルカリ鹸化処理した本発明のセルロースエステルフィルムは、光学補償シートの透明支持体として好ましく用いられる。光学補償シートは、電子線処理しアルカリ鹸化処理したセルロースエステルフィルム、配向膜形成用樹脂層および液晶性分子の配向を固定化した光学異方層がこの順に積層された層構成を有する。配向膜の形成においては、セルロースエステルフィルムを加熱する工程、セルロースエステルフィルムの配向膜側の表面に電子線処理しアルカリ鹸化水溶液を塗布する工程、アルカリ鹸化水溶液塗布面の温度を維持する工程、反応を停止する工程、アルカリ鹸化水溶液を洗浄してフィルムの表面から除去する工程に次いで、配向膜を塗布して乾燥する工程を付加することもできる。さらに、配向膜を塗布、乾燥後に配向膜表面をラビング処理し、液晶性分子層を塗布、乾燥して、最終的な光学補償シートまで完成することもできる。セルロースエステルフィルムの電子線処理しアルカリ鹸化処理のみならず、配向膜、液晶性分子層を一貫して形成することにより、高い生産性が得られる。一貫して形成すれば、電子線処理しアルカリ鹸化処理から配向膜塗布までの時間経過がないこと、活性化した鹸化面の劣化が少ないこと、鹸化処理の水洗工程が湿式の除塵と兼ねられることおよび複数回の送り出し、巻き取りに伴うロール末端部のロスが発生しないことが、さらなる利点として挙げられる。
【0146】
光学補償シートは、電子線処理された後にさらにアルカリ鹸化処理したセルロースエステルフィルムからなる透明支持体、その上に設けられた配向膜および配向膜上に形成された円盤状構造単位を有する光学異方層からなる。配向膜は架橋されたポリマーからなるラビング処理された膜であることが好ましい。光学異方層に用いられる円盤状構造単位を有する化合物としては、低分子量の円盤状液晶性化合物(モノマー)または重合性円盤状液晶性化合物の重合により得られるポリマーを用いることができる。円盤状化合物(ディスコティック化合物)は、一般に、ディスコティック液晶相(即ち、ディスコティックネマティック相)を有する化合物とディスコティック液晶相を持たない化合物に大別することができる。円盤状化合物は、一般に負の複屈折を有し、本発明に係る光学異方層は、円盤状化合物のこの負の複屈折性を有する。光学異方層は、円盤状化合物の負の複屈折性を利用したものである。
【0147】
[配向膜]
光学異方層の配向膜は、架橋されたポリマーからなる膜をラビング処理して形成することが好ましい。配向膜は、架橋された2種のポリマーからなることがさらに好ましい。2種のポリマーの一方は、それ自体架橋可能なポリマーまたは、架橋剤により架橋されるポリマーである。配向膜は、官能基を有するポリマーあるいはポリマーに官能基を導入したものを、光、熱またはpH変化により、ポリマー間で反応させて形成するか、あるいは、反応活性の高い化合物である架橋剤を用いてポリマー間に架橋剤に由来する結合基を導入して、ポリマー間を架橋することにより形成することができる。
【0148】
ポリマーの架橋は、ポリマーまたはポリマーと架橋剤の混合物を含む塗布液を透明支持体上に塗布した後、加熱することにより実施できる。配向膜を透明支持体上に塗設した後から、光学補償シートを得るまでのいずれかの段階で架橋させる処理を行ってもよい。配向膜上に形成される円盤状構造を有する化合物(光学異方層)の配向を考慮すると、円盤状構造を有する化合物を配向させた後に最終の架橋を行うことも好ましい。すなわち、透明支持体上にポリマーおよびポリマーを架橋することができる架橋剤を含む塗布液を塗布した場合、加熱乾燥した後、ラビング処理を行って配向膜を形成し、次いでこの配向膜上に円盤状構造単位を有する化合物を含む塗布液を塗布し、ディスコティックネマティック相形成温度以上に加熱した後、冷却して光学異方層を形成する。
【0149】
配向膜に使用されるポリマーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができし、これらの組み合わせを複数使用することができる。ポリマーの例には、ポリメチルメタクリレート、アクリル酸/メタクリル酸共重合体、スチレン/マレインイミド共重合体、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、スチレン/ビニルトルエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体、エチレン/ 酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリカーボネート等のポリマーおよびシランカップリング剤等の化合物を挙げることができる。好ましいポリマーの例としては、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーであり、さらにゼラチン、ポリビルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが好ましく、ポリビルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが特に好ましましく、重合度の異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。
【0150】
ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましく、85〜95%が最も好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜3000であることが好ましい。変性ポリビニルアルコールの変性基は、共重合変性、連鎖移動変性またはブロック重合変性により導入できる。共重合変性の場合の導入基の例には、COONa、Si(OX)3、N(CH33・Cl、C919C OO、SO3 、Na 、C1225が含まれる。(Xは、プロトンまたはカチオンである)。連鎖移動変性基の場合の導入基の例には、COONa、SH、C1225が含まれる。ブロック重合変性の場合の導入基の例には、COOH、CONH2、COOR、C65が含まれる(Rは、アルキル基である)。これらの中でも鹸化度が85〜95%である未変性ポリビニルアルコールまたはアルキルチオ変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。
【0151】
変性ポリビニルアルコールは、下記一般式(2)で表される化合物とポリビニルアルコールとの反応性生物であることが好ましい。
一般式(2)
【0152】
【化1】

【0153】
一般式(2)において、R11 は、無置換のアルキル基、アクリロリル置換アルキル基、メタクリロイル置換アルキル基またはエポキシ基置換アルキル基であり、Wは、ハロゲン原子、アルキル基またはアルコキシ基であり、Xは、活性エステル、酸無水物または酸ハロゲン化物を形成するために必要な原子群であり、pは、0または1であり、nは0〜4の整数である。
変性ポリビニールアルコールは、下記一般式(3)で表される化合物とポリビニルアルコールとの反応生成物であることがさらに好ましい。
一般式(3)
【0154】
【化2】

【0155】
一般式(3)において、X1は活性エステル、酸無水物または酸ハロゲン化物を形成するために必要な原子群であり、そして、mは2〜24の整数である。
一般式(2)および一般式(3)で表される化合物と反応させるポリビニルアルコールは、変性ポリビニルアルコール(共重合変性、連鎖移動変性、ブロック重合変性)であってもよい。ポリビニルアルコールの合成方法、可視吸収スペクトル測定および変性基の導入率の決定方法は、特開平8−33891号公報に詳しく記載がある。
ポリマー(好ましくは水溶性ポリマー、さらに好ましくはポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコール)の架橋剤の例には、アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド、グリオキザール、グルタルアルデヒド)、N−メチロール化合物(例えば、ジメチロール尿素、メチロールジメチルヒダントイン)、ジオキサン誘導体(例えば、2,3−ジヒドロキシジオキサン)、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物(例えば、カルベニウム、2−ナフタレンスルホナート、1,1−ビスピロリジノ−1−クロロピリジニウム、1−モルホリノカルボニル−3−(スルホナトアミノメチル))、活性ビニル化合物(例えば、1、3 、5−トリアクロイル−ヘキサヒドロ−s−トリアジン、ビス(ビニルスルホン)メタン、N'−メチレンビス−[β−(ビニルスルホニル)プロピオンアミド])、活性ハロゲン化合物(例えば、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−S−トリアジン)、イソオキサゾール類およびジアルデヒド澱粉が含まれる。二種類以上の架橋剤を併用してもよい。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
【0156】
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がより好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。配向膜中に1.0質量%を超える量で架橋剤が残存していると、充分な耐久性が得られない。そのような配向膜を液晶表示装置に使用すると、長期使用、あるいは高温高湿の雰囲気下に長期間放置した場合にレチキュレーションが発生することがある。
配向膜は、基本的に、配向膜形成材料である架橋剤を含む上記ポリマーを透明支持体上に塗布した後、加熱乾燥(架橋させ)し、ラビング処理することにより形成することができる。架橋反応は、前記のように、透明支持体上に塗布した後、任意の時期に行ってよい。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例えば、メタノール)と水の混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で水:メタノールが0:100〜99:1が好ましく、0:100 〜91:9であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、さらには光学異方層の表面の欠陥が著しく減少する。
【0157】
配向膜の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0. 1〜10μmが好ましい。加熱乾燥は20℃〜110℃で行うことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、80℃〜100℃がより好ましい。乾燥時間は1分〜36時間で行うことができるが、好ましくは1分〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5が好ましく、pH5がさらに好ましい。
【0158】
配向膜は、透明支持体上に設けられる。配向膜は、上記のようにポリマー層を架橋したのち、表面をラビング処理することにより得ることができる。配向膜は、その上に設けられる円盤状化合物の配向方向を規定するために設けられる。
前記ラビング処理は、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を適用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムまたはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さおよび太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
【0159】
[光学異方層]
光学補償シートの光学異方層は、配向膜上に形成される。光学異方層は、円盤状構造単位を有する化合物からなる層であることが好ましく、低分子量の液晶性円盤状化合物(モノマー)の層または重合性の液晶性円盤状化合物の重合(硬化)により得られるポリマーの層であることがより好ましい。円盤状化合物の例としては、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1 981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mo l.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physicslett,A , 78巻、82頁(1990年)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体およびJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1 794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc. 116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
【0160】
円盤状化合物は、一般的にこれらを分子中心の母核とし、直鎖のアルキル基やアルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基がその直鎖として放射線状に置換された構造である。円盤状化合物には、液晶性を示す円盤状液晶性化合物が含まれる。円盤状化合物から形成した光学異方層には、熱や光で反応する基を有する低分子円盤状液晶性化合物を反応させて重合または架橋することにより、高分子量化して液晶性を失ったものも含まれる。円盤状化合物については、特開平8−50206号公報に記載がある。
【0161】
光学異方層は、円盤状構造単位を有する化合物からなる負の複屈折を有する層であって、そして円盤状構造単位の面が、透明支持体面に対して傾き、且つ該円盤状構造単位の面と透明支持体面とのなす角度が、光学異方層の深さ方向に変化していることが好ましい。
【0162】
円盤状構造単位の面の角度(傾斜角)は、一般に、光学異方層の深さ方向でかつ光学異方層の配向膜底面からの距離の増加と共に増加または減少している。上記傾斜角は、距離の増加と共に増加することが好ましい。さらに、傾斜角の変化としては、連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化、および増加および減少を含む間欠的変化等を挙げることができる。間欠的変化は、厚み方向の途中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。傾斜角は、変化しない領域を含んでいても、全体として増加または減少していることが好ましい。さらに、傾斜角は全体として増加していることが好ましく、特に連続的に変化することが好ましい。
【0163】
上記光学異方層は、一般に円盤状化合物および他の化合物を溶剤に溶解した溶液を配向膜上に塗布し、乾燥し、次いでディスコティックネマティック相形成温度まで加熱し、その後配向状態(ディスコティックネマティック相)を維持して冷却することにより得られる。あるいは、上記光学異方層は、円盤状化合物および他の化合物(さらに、例えば重合性モノマー、光重合開始剤)を溶剤に溶解した溶液を配向膜上に塗布し、乾燥し、次いでディスコティックネマティック相形成温度まで加熱したのち重合させ(UV光の照射等により)、さらに冷却することにより得られる。本発明に用いる円盤状液晶性化合物のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度としては、70〜3 00℃が好ましく、70〜170℃がより好ましい。
【0164】
支持体側の円盤状単位の傾斜角は、一般に円盤状化合物あるいは配向膜の材料を選択することにより、またはラビング処理方法を選択することにより、調整することができる。また、表面側(空気側)の円盤状単位の傾斜角は、一般に円盤状化合物あるいは円盤状化合物と共に使用する他の化合物(例えば、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマーおよびポリマー)を選択することにより調整することができる。さらに、傾斜角の変化の程度も上記選択により調整することができる。
可塑剤、界面活性剤および重合性モノマーとしては、円盤状化合物と適度の相溶性を有し、液晶性円盤状化合物の傾斜角の変化を与えられるか、または配向を阻害しない限り、どのような化合物も使用することができる。これらの中で、重合性モノマー(例えば、ビニル基、ビニルオキシ基、アクリロイル基およびメタクリロイル基を有する化合物)が好ましい。上記化合物は、円盤状化合物に対し、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは5〜30質量%の量にて使用される。
【0165】
ポリマーとしては、円盤状化合物と相溶性を有し、液晶性円盤状化合物に傾斜角の変化を与えられる限り、どのようなポリマーも使用することができる。ポリマーの例としては、セルロースエステルを挙げることができる。セルロースエステルの好ましい例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ヒドロキシプロピルセルロースおよびセルロースアセテートブチレートを挙げることができる。上記ポリマーは、円盤状液晶性化合物の配向を阻害しないように、円盤状化合物に対し、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.1〜8質量%、さらに好ましくは0.1〜5質量%の量にて使用される。
【0166】
[偏光板]
偏光板は、ポリマーフィルム上に配向膜および液晶性分子の配向を固定化した光学異方層を設けた光学補償シート、偏光膜、透明保護膜がこの順に積層された層構成を有する。透明保護膜には、通常のセルロースアセテートフィルムを用いてもよい。偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、2色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。ヨウ素系偏光膜および染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。ポリマーフィルムの遅相軸と偏光膜の透過軸の関係は、適用される液晶表示装置の種類により異なる。TN、MVA、およびOCBの各モードの場合は、実質的に平行になるように配置する。反射型液晶表示装置の場合は、実質的に45度となるように配置することが好ましい。
【0167】
[液晶表示装置]
光学補償シートまたは偏光板は、液晶表示装置に有利に用いられる。TN、VA、MVA、およびOCBモードの液晶表示装置は、液晶セルおよびその両側に配置された2枚の偏光板からなる。液晶セルは、2枚の電極基板の間に液晶を担持している。光学補償シートは、液晶セルと一方の偏光板との間に、1枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に2枚配置する。OCBモードの液晶表示装置の場合、光学補償シートは、ポリマーフィルム上に円盤状化合物、もしくは棒状液晶化合物を含む光学異方層を有していても良い。光学異方層は、円盤状化合物(もしくは棒状液晶化合物)を配向させ、その配向状態を固定することにより形成する。円盤状化合物は、一般に大きな複屈折率を有する。また、円盤状化合物には、多様な配向形態がある。従って、円盤状化合物を用いることで、従来の延伸複屈折フィルムでは得ることができない光学的性質を有する光学補償シートを製造することができる。円盤状化合物を用いた光学補償シートについては、特開平6−214116号公報、米国特許第5583679号明細書、同5646703号明細書、西独特許第3911620A1号公報に記載がある。
【0168】
偏光板では、液晶セルと偏光膜との間に配置される透明保護膜として、前記のポリマーフィルムを用いることができる。一方の偏光板の(液晶セルと偏光膜との間の)透明保護膜のみ上記のポリマーフィルムを用いるか、または双方の偏光板の(液晶セルと偏光膜との間の)2枚の透明保護膜に、上記のポリマーフィルムを用いる。液晶セルはOCBモード、またはTNモードであることが好ましい。OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置であり、米国特許第4583825号、同第5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend)液晶モードとも呼ばれる。ベンド配向モードの液晶表示装置は、応答速度が速い利点がある。TNモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に水平配向し、さらに60〜120゜にねじれ配向している。TNモードの液晶セルは、カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。
【実施例】
【0169】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0170】
(実施例1)
(1−1)セルロースエステル−Aの合成
綿から採取したセルロースを原料としてセルロースエステル−Aを合成した。
セルロースエステル−Aは、アセチル基の置換度が1.00、ブチリル基の置換度が1.70、全アシル基の置換度が2.70、粘度平均重合度が220、含水率が0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度が190mPa・s、平均粒子径が1.5mm、標準偏差0.5mmである粉体であった。また、残存酢酸量が0.1質量%以下、残留ブタン酸量が0.1質量%以下であり、Ca含有量が80ppm、Mg含有量が22ppm、Fe含有量が0.5ppmであり、さらに硫酸基としてのイオウ量を105ppm含むものであった。また6位のアセチル基の置換度は0.33、6位のブチリル基の置換度は0.57であり全アシル基中の33%であった。また、メタノール抽出量は5質量%以下、重量平均分子量/数平均分子量比(GPCにより測定)は2.8であり、Tg(ガラス転移温度;DSCにより測定)は128℃であった。また、セルロースエステル−Aをメチレンクロライド/メタノール(質量比9/1)溶液を用いて20質量%溶液としガラス板上に流延して厚さ100μmのフィルムとした。得られたセルロースエステル−Aのフィルムは、イエローインデックスは1.6であり、ヘイズは0.07、透明度は93.9%であった。
【0171】
(1−2)セルロースエステル溶液(ドープ)の作製
セルロースエステル溶液処方として以下を用いた。
・セルロースエステル−A 100質量部
・メチレンクロライド 267質量部
・メタノール 48.5質量部
・1−ブタノール 11.8質量部
・可塑剤A(トリフェニルホスフェート) 1.7質量部
・可塑剤B(ビフェニルジフェニルホスフェ−ト) 1.3質量部
・下記光学異方性コントロール剤 3質量部
【化3】

【0172】
・UV剤a(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン) 0.5質量部
・UV剤b(2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール) 0.2質量部
・UV剤c:2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール) 0.1質量部
・クエン酸モノエチルエステル/ジエチルエステル混合物(混合比1/1質量比) 0.2質量%
・微粒子(二酸化ケイ素、一次粒子径15nm、モース硬度約7) 0.05質量部
【0173】
攪拌羽根を有する500Lのステンレス性溶解タンクに、前記セルロースエステル溶液処方の溶媒を混合し、攪拌・分散しつつ、セルロースエステル−A粉体(フレーク)を徐々に添加し、全体が250kgになるように調製した。ここで、溶媒は、すべてその含水率が0.5質量%以下のものを使用した。まず、セルロースエステル−Aの粉末は、分散タンクに紛体を投入して、攪拌剪断速度を最初は5m/sec(剪断応力5×104kgf/m/sec2 )の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌軸および、中心軸にアンカー翼を有して周速1m/sec(剪断応力1×104kgf/m/sec2 )で攪拌する条件下で30分間分散した。分散の開始温度は25℃であり、最終到達温度は34℃であった。分散終了後、高速攪拌を停止し、アンカー翼の周速を0.5m/secとしてさらに100分間攪拌し、セルロースエステル−Aフレークを膨潤させた。膨潤終了までは、窒素ガスを用いてタンク内を0.12MPaになるように加圧した。このときのタンク内の酸素濃度は、2容量%未満とし、防爆上で問題のない状態を保った。またドープ中の水分量は0.3質量%以下であることを確認した。
【0174】
(1−3)溶解・濾過
膨潤した溶液をタンクから、ジャケット付配管で50℃まで加熱し、さらに2MPaの加圧下で90℃まで加熱し、完全に溶解した。加熱時間は15分であった。次に36℃まで温度を下げ、孔径40μmのセルロースろ紙で粗濾過を行った。さらに濾材孔径8μmの濾材を通過させドープを得た。この際、濾過1次圧は1.5MPa、2次圧は1.2MPaとした。高温にさらされるフィルター、ハウジング、および配管はハステロイ合金製で耐食性の優れたものを利用し保温加熱用の熱媒を流通させるジャケットを有するものを使用した。
【0175】
(1−4)濃縮・濾過
このようにして得られた濃縮前ドープを80℃で常圧のタンク内でフラッシュさせて、蒸発した溶剤を凝縮器で回収分離した。フラッシュ後のドープの固形分濃度は、28.8質量%であった。なお、凝縮された溶剤は調製工程の溶剤として再利用すべく回収工程に回された。フラッシュタンクは、その中心軸がアンカー翼を有しおり、これを用いて周速0.5m/secで攪拌して脱泡を行った。タンク内のドープの温度は25℃であり、タンク内の平均滞留時間は50分であった。このドープを採集して25℃で測定した剪断粘度は、剪断速度10(sec-1)で130(Pa・s)であった。
【0176】
つぎに、このドープに対して弱い超音波照射することで泡抜きを行った。その後、1.5MPaに加圧した状態で、孔径10μmの焼結繊維金属フィルターを通過させ、ついで孔径10μmの焼結繊維フィルターを通過させた。それぞれの一次圧は、1.5MPaおよび1.2MPaとし、二次圧は1.0MPaおよび0.8MPaとした。濾過後のドープ温度は36℃に調整し、500Lのステンレス製のストックタンク内にて貯蔵した。ストックタンクは、その中心軸にアンカー翼を有しており、それによって周速0.3m/secで常時攪拌される。なお、濃縮前ドープからドープを調製する際に、ドープ接液部には、腐食などの問題は全く生じなかった。
【0177】
(1−5)流延
続いてストックタンク内のドープを1次増圧用のギアポンプで高精度ギアポンプの1次側圧力が0.8MPaになるようにインバーターモーターによりフィードバック制御を行い送液した。高精度ギアポンプは、容積効率99.2%、吐出量の変動率が0.5%以下の性能であった。また、吐出圧力は1.5MPaであった。流延ダイは、幅が1.8mであり共流延用に調整したフィードブロックを装備し、主流のほかに両面にそれぞれ積層して3層構造のフィルムを成形できるようにした装置を用いた。以下の説明において、主流から形成される層を中間層と称し、支持体面側の層を支持体面と称し、反対側の面をエアー面と称する。なお、ドープの送液流路は、中間層用、支持体面用、エアー面用の3流路を用いた。最外層用の支持体側ドープとエアー面側ドープは、(1−2)で作製したドープを、メチレンクロライド267質量部/メタノール48.5質量部/1−ブタノール11.8質量部からなる溶媒を配管に設置したインラインでスタチックミキサーおよびスルーザミキサーを連結して希釈し用いた。希釈は元のドープを支持体側ドープは97%の濃度に、またエアー側ドープは元のドープに対して95%の濃度になるようにして行った。
【0178】
完成したセルロースエステルフィルム試料のエアー面、中間層、支持体面の膜厚はそれぞれ4μm、92μm、4μmであり、厚みが100μmとなるように、流延幅を1500mmとしてそれぞれのダイ突出口のセルロースエステルドープ流量を調整して流延を行った。各ドープの温度を36℃に調整するため、流延ダイにジャケットを設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の入口温度を36℃とした。
【0179】
ダイ、フィードブロック、配管はすべて作業工程中に36℃に保温した。ダイはコートハンガータイプのダイであり、厚み調整ボルトが20mmピッチに設けられており、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を具備しているものを使用した。このヒートボルトは予め設定したプログラムにより高精度ギアポンプの送液量に応じたプロファイルを設定することもでき、製膜工程内に設置した赤外線厚み計のプロファイルに基づいた調整プログラムによってフィードバック制御も可能な性能を有するものである。流延エッジ部20mmを除いたフィルムで50mm離れた任意の2点の厚み差は1μm以内であり、幅方向厚みの最小値で最も大きな差が3μm/m以下となるように調整した。また、各層の平均厚み精度は両外層が±2%以下、主流が±1%以下に制御され、全体厚みは±1.5%以下に調整した。
【0180】
また、ダイの1次側には減圧するためのチャンバーを設置した。この減圧チャバーの減圧度は流延ビードの前後で1Pa〜5000Paの圧力差を印加できるようになっていて、流延スピードに応じて調整が可能なものである。その際に、ビードの長さが2mm〜50mmになるような圧力差に設定した。またチャンバーの温度は流延部周囲のガスの凝縮温度よりも高く設定できる機構を具備したものであった。さらに、前部にビートを、後部にラビリンスを設けた。また両端には開口部を設けた。さらに、そこから、ビード両縁の流れの乱れを調整するためにエッジ吸引装置が取り付けられているものを用いた。
【0181】
(1−6)流延ダイ
ここで、ダイの材質は析出硬化型のステンレス鋼であり、熱膨張率が2×10-5( ℃-1)以下の素材であり、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有する素材を使用した。また、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヶ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有する素材を使用した。さらに、鋳造後1ヶ月以上経時したものを研削加工することとし、セルロースエステル溶液の面状を一定に保った。流延ダイおよびフィードブロックの接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であり、スリットのクリアランスは自動調整により1.5mmに調整した。ダイリップ先端の接液部の角部分について、Rはスリット全巾に亘り50μm以下になるように加工した。ダイ内部での剪断速度は1(1/sec)〜5000(1/sec)の範囲とした。
【0182】
また、流延ダイのリップ先端には、硬化膜が設けられているものを用いた。硬膜を設ける手段としては、溶射法によりタングステン・カーバイド(WC)コーティングを形成したものを用いた。さらにダイのスリット端には流出するドープが、局所的に乾燥固化することを防止するために、ドープを可溶化する溶剤である混合溶媒(試料070)をビード端部とスリットの気液界面に片側で0.5ml/分で供給した。この液を供給するポンプの脈動率は5%以下であった。また、減圧チャンバーによりビード背面の圧力を150Pa低くした。また、減圧チャンバーの温度を一定にするために、ジャケットを取り付けた。そのジャケット内に35℃に調整された伝熱媒体を供給した。エッジ吸引風量は、1L/分〜100L/分の範囲で調整可能なものを用い、本実施例では30L/分〜40L/分の範囲で適宜調整した。
【0183】
(1−7)金属支持体
支持体として幅2.1mで長さが70mのステンレス製のエンドレスバンドを利用した。そして、バンドの厚みは1.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下になるように研磨したものを使用した。材質はSUS316製であり、十分な耐腐食性と強度を有するものとした。バンドの全体の厚みムラは0.5%以下であった。バンドは2個のドラムにより駆動するタイプを用い、その際のバンドのテンションは1.5×104kg/mに調整し、バンドとドラムとの相対速度差が0.01m/分以下となるものであった。また、バンド駆動の速度変動は0.5%以下であった。また1回転の巾方向の蛇行は1.5mm以下に制限するようにバンドに両端位置を検出して制御した。また、流延ダイ直下における支持体表面のドラム回転に伴う上下方向の位置変動は200μm以下にした。支持体は、風圧振動抑制手段を有したケーシング内に設置されるようにした。この支持体上にダイから3層のドープを共流延した。
【0184】
流延部のドラムは支持体を冷却するように内部に伝熱媒体(冷媒)を循環させる設備を有しているものを用いた。また、他方のドラムが乾燥のための熱を供給するために伝熱媒体が通水できるものである。それぞれの伝熱媒体の温度は5℃(流延ダイ側)と40℃とした。流延直前の支持体中央部の表面温度は15℃であった。両端の温度差は6℃以下であった。なお、ドラムを直接流延支持体とすることも可能なものであり、この場合の回転ムラが0.2mm以下の精度となるよう回転させた。ドラムにおいても表面の平均粗さは0.01μm以下であり、クロム鍍金処理により十分な硬度と耐久性を有したものである。ドラム、バンドのいずれにおいても表面欠陥はあってはならないものであり、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm〜30μmのピンホールは1個/m2以下、10μm以下のピンホールは2個/m2 以下である支持体を使用した。
【0185】
(1−8)流延乾燥
前記流延ダイおよび支持体などが設けられている流延室の温度は、35℃に保った。バンド上に流延されたドープは、最初に平行流の乾燥風を送り乾燥した。乾燥する際の乾燥風からのドープへの総括伝熱係数は24kcal/m2・hr・℃であった。乾燥風の温度はバンド上部の上流側を135℃とし、下流側を140℃とした。また、バンド下部は、65℃とした。それぞれのガスの飽和温度は、いずれも−8℃付近であった。支持体上での乾燥雰囲気における酸素濃度は5容量%に保持した。なお、酸素濃度を5容量%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。また、流延室内の溶媒を凝縮回収するために、凝縮器(コンデンサ)を設け、その出口温度は、−10℃に設定した。
【0186】
流延後5秒間は遮風装置により乾燥風が直接ドープに当たらないようにして流延ダイ直近の静圧変動を±1Pa以下に抑制した。ドープ中の溶剤比率が乾量基準で50質量%になった時点で流延支持体からフィルムとして剥離した。この時の剥離テンションは10kgf/mであり、支持体速度に対して剥ぎ取り速度(剥取りロールドロー)は100.1%〜110%の範囲で適切に剥ぎ取れるように設定した。また、剥ぎ取ったフィルムの表面温度は15℃であった。支持体上での乾燥速度は平均60質量%乾量基準溶剤/分であった。乾燥して発生した溶剤ガスは凝縮装置に導かれ、−10℃で液化し、回収して仕込み用の溶剤として再利用した。溶剤を除去された乾燥風は再度加熱して乾燥風として再利用された。その際に、溶剤に含まれる水分量を0.5%以下に調整して再使用した。
【0187】
剥ぎ取ったフィルムを多数のローラーが設けられている渡り部で搬送した。渡り部には、3本のローラーを備え、また渡り部の温度は、40℃に保持した。渡り部のローラーで搬送している際に、フィルムに16N〜160Nのテンションを付与した。
【0188】
(1−9)テンター搬送・乾燥
剥ぎ取られたフィルムは、クリップを有したテンターで両端を固定しながら、テンターの乾燥ゾーン内を搬送し、乾燥風により乾燥した。クリップは20℃の伝熱媒体を供給して冷却した。テンターの駆動はチェーンで行い、そのスプロケットの速度変動は0.5%以下であった。また、テンター内を3ゾーンに分け、それぞれのゾーンの乾燥風温度を上流側から90℃、100℃、110℃とした。乾燥風のガス組成は−10℃の飽和ガス濃度とした。テンター内での平均乾燥速度は120質量%(乾量基準溶剤)/分であった。テンターの出口ではフィルム内の残留溶剤の量は10質量%以下となるように調整し、本実験では7質量%となるように乾燥ゾーンの条件を調整した。テンター内では搬送しつつ幅方向にも延伸を行った。
【0189】
なお、テンターに搬送された際の幅を100%としたときの拡幅量を103%とした。剥ぎ取りローラーからテンター入口に至る延伸率(テンター駆動ドロー)は、102%とした。テンター内の延伸率はテンター噛み込み部から10mm以上離れた部分における実質延伸率の差異が10%以下であり、かつ20mm離れた任意の2点における延伸率の差異は5%以下であった。ベース端のうちテンターで固定している長さの比率は90%とした。また、テンタークリップの温度は50℃を超えないように冷却しつつ搬送した。テンター部分で蒸発した溶剤は−10℃の温度で凝縮させ液化して回収した。凝縮回収用に凝縮器(コンデンサー)を設け、その出口温度は−8℃に設定した。溶剤に含まれる水分量を0.5質量%以下に調整して再使用した。
【0190】
そして、テンター出口から30秒以内に両端の耳切りを行った。NT型カッターにより両側50mmの耳をカットし、カットした耳はカッターブロワ−によりクラッシャーに風送されて平均80mm2程度のチップに粉砕した。このチップは再度調製用原料としてセルロースエステルフレークと共に仕込み工程で原料として利用できるものであった。テンター部の乾燥雰囲気における酸素濃度は5容量%に保持した。なお、酸素濃度を5容量%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。後述するローラー搬送ゾーンで高温乾燥させる前に、100℃の乾燥風が供給されている予備乾燥ゾーンでフィルムを予備加熱した。
【0191】
(1−10)後乾燥
前述した方法で得られた耳切り後のセルロースエステルフィルムをローラー搬送ゾーンで高温乾燥した。ローラー搬送ゾーンを4区画に分割して、上流側から100℃、105℃、105℃、110℃の乾燥風を給気した。このとき、フィルムのローラー搬送テンションは100N/巾とし、最終的に残留溶剤量が0.3質量%になるまで(約20分間)乾燥した。このローラーのラップ角度は、90度および180度を用いた。このローラーの材質はアルミ製もしくは炭素鋼製であり、表面にはハードクロム鍍金を施した。ローラーの表面形状はフラットなものとブラストによりマット化加工したものとを用いた。ローラーの回転による振れは全て50μm以下であった。また、テンション100N/巾でのローラー撓みは0.5mm以下となるように選定した。
【0192】
搬送中のフィルム帯電圧は、常時−3kV〜3kVの範囲となるように工程中に強制除電装置(除電バー)を設置した。また、巻き取り部では、帯電が−1.5kV〜1.5kVになるように、除電バーだけでなく、イオン風除電も設置した。乾燥風に含まれる溶剤ガスは吸着剤を用いて吸着回収除去した。吸着剤は活性炭であり、脱着は乾燥窒素を用いて行った。回収した溶剤は水分量0.3質量%以下に調整して仕込み溶剤として再利用した。乾燥風には溶剤ガスの他、可塑剤、UV吸収剤、その他の高沸点物が含まれるので冷却除去する冷却器およびプレアドソーバーでこれらを除去して再製循環使用した。そして、最終的に屋外排出ガス中のVOCは10ppm以下となるよう、吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶剤の内凝縮法で回収する溶剤量は90質量%であり、残りの大部分は吸着回収により回収した。
【0193】
乾燥されたフィルムを第1調湿室に搬送した。ローラー搬送ゾーンと第1調湿室との間の渡り部には、105℃の乾燥風を給気した。第1調湿室には、温度50℃、露点が20℃の空気を給気した。さらに、フィルムのカールの発生を抑制する第2調湿室にフィルムを搬送した。第2調湿室では、フィルムに直接90℃、湿度70%の空気をあてた。
【0194】
(1−11)後処理、巻き取り
乾燥後のセルロースエステルフィルムは、30℃以下に冷却して両端耳切りを行いさらにフィルムの両端にナーリングを行った。ナーリングは片側からエンボス加工を行うことで付与し、ナーリングする幅は10mmであり、最大高さは平均厚みよりも平均12μm高くなるように押し圧を設定した。
【0195】
そして、得られたフィルムを巻き取り室に搬送した。巻き取り室は、室内温度28℃、湿度70%に保持した。このようにして得られたセルロースエステルフィルム試料−1(厚さ100μm)の幅は、1475mmであった。テンションパターンは、巻き始めは360N/巾であり、巻き終わりは250N/巾になるようにした。巻き取り全長は300mであった。また、巻き取りロールにプレスロールを押し圧50N/巾に設定した。巻き取り時のフィルムの温度は25℃、含水量は1.4質量%、残留溶剤量は0.3質量%以下であった。また巻き緩み、シワもなく、巻きずれが生じなかった。ロール外観も良好であった。
【0196】
なお、本発明のセルロースエステルフィルム試料−1は、残存酢酸量は0.15質量%、ブタン酸は0.03質量%、Caを66ppm、Mgを8.3ppm含有した。また本発明のセルロースエステルフィルムの厚さは、全領域に渡り100μm±1.5μmとなることを確認した。この時、長さ方向のトップ、中間部とラストのそれぞれについて、さらにその幅方向の両端部と中央部の評価を実施し、その誤差が実質0.2%以下であることを確認した。また、フィルムの縦横平均熱収縮(80℃/相対湿度90%/48時間)は、−0.3%以内であった。
【0197】
また本発明の前記セルロースエステルフィルム試料−1は、ヘイズが0.2%、透明度(透明性)が93.4%、傾斜幅は19.6nm、限界波長は392.6nm、吸収端は374.3nm、380nmの吸収は1.9%であり、Reは1.2nm、Rthは80nmであり、軸ズレ(分子配向軸)は0.3°、弾性率は長手方向が2.51GPa、幅方向が2.46GPa、抗張力は長手方向が128MPa、幅方向が115MPa、伸長率は長手方向が60%、幅方向が56%であり、キシミ値(静止摩擦係数)は0.75、キシミ値(動摩擦係数)は0.51、カール値は相対湿度25%で−0.3、ウェットでは1.1であった。また、含水率は1.5質量%(25℃/60%相対湿度)であり、残留溶剤量は0.15質量%であり、熱収縮率は長手方向が−0.19%であり幅方向が−0.18%であった。異物はリントが5個/m未満であった。また、輝点は、0.02mm〜0.05mmが10個/3m未満、0.05〜0.1mmが4個/3m未満、0.1mm以上はなかった。以上の工程を経て、セルロースエステルフィルム試料−1を製膜した。
【0198】
(1−12)電子線処理およびアルカリ鹸化処理
次に上記で得られたセルロースエステルフィルム試料−1を、表1に従って表面処理を実施した。
(1−12−1)電子線方法
電子線処理は、表1の照射条件で実施した。ここで電子線処理は幅1.5mの照射窓口を有する装置を用いた。この装置は、フィルムを搬送すべく搬送入り口と出口を有するものである。照射工程にはガス導入部とガス排出部を付与しており、照射部はボックスで大気と隔離するように設計されている。他の不活性ガスに置換した試料については、その度合いは酸素濃度計で管理し、電子線照射は、大気中に酸素が0.2容量%以下になった時点で行った。
【0199】
(1−12−2)アルカリ鹸化処理方法
次に(1−12−1)で電子線処理し以下のアルカリ鹸化方法に従って、アルカリ鹸化処理したセルロースエステルフィルム試料1−1〜1−19を作製した。
(イ) アルカリ鹸化溶液(S−1)の調整)
下記処方のアルカリ鹸化溶液(1.0mol/L)およびアルカリ希釈液を調整した。
【0200】
・アルカリ鹸化水溶液(S−1)処方
・KOH 560質量部
・C1429−O−(CH2CH2O)−H 100質量部
・消泡剤サーフィノールDF110D(日信化学工業(株)製) 2質量部
・水 9338質量部
【0201】
(鹸化処理フィルムの作製)
表1に従い電子線処理したセルロースエステルフィルム試料を、60℃に加熱した誘電式加熱ロールを通過させ40℃まで昇温した後に、40℃に保温したアルカリ鹸化水溶液(S−1)をロッドコーターを用いて20ml/m2塗布した。110℃に加熱した(株)ノリタケカンパニーリミテッド製のスチーム式遠赤外ヒーターの下に7秒滞留させた後に(フィルムの表面温度は40〜50℃となるようにした)、同じくロッドコーターを用いて純水を20ml/m2 塗布し、アルカリ液を洗い落とした。この時、フィルム温度は40〜45℃に維持しており、純水塗布後の塗膜のKOH濃度は0.5mol/Lであった。次いで、ファウンテンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを3回繰り返し、アルカリを洗い落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理フィルムを作製した。
【0202】
ここで、アルカリ鹸化水溶液S−1の表面張力は、64mN/mであり、液の粘度は1.8mPa・s、液の密度は1.07、電気伝導度は180mS/cmであった。アルカリ鹸化水溶液中の炭酸イオン濃度は1090mg/Lであり、カルシウム、マグネシウムを含む多価金属イオン濃度の総和は190mg/Lであり、塩化物イオン濃度は133mg/Lであった。
【0203】
(アルカリ鹸化処理フィルムの評価方法)
電子線処理し、かつ、アルカリ鹸化処理したセルロースエステルフィルムについて、日本電色(株)社製NDH−3 00A型光学試験機を用いてヘイズの測定を行った。結果を表1に示した。
【0204】
(配向膜の形成)
上記電子線処理し、かつ、アルカリ鹸化処理したフィルムのアルカリ鹸化処理面に下記の配向膜塗布液をロッドコーターで30ml/m2塗布し、60℃の温風で60秒、さらに90℃の熱風で150秒間、乾燥した後に搬送方向に垂直に配置したベルベット布ラビングロールを用いて、ラビング処理を行って配向膜を形成した。
【0205】
(配向膜塗布液組成)
・変性ポリビニルアルコール 100質量部
・水 1800質量部
・メタノール 600質量部
・グルタルアルデヒド 2.5質量部
【0206】
【化4】

【0207】
(光学異方層の形成)
上記にて形成した配向膜の上に、下記処方の円盤状化合物溶液を#4のワイヤーバーで塗布した。続けて連結する130℃の熱風ゾーンで2分間加熱し、円盤状化合物を配向させた。最後に80℃の雰囲気下のもと、膜面温度が約100 ℃の状態で120W/cm高圧水銀灯を用いて、0.4秒間UV照射し円盤状化合物を重合させ、光学異方層を形成し、光学補償シートを作製した。
【0208】
(円盤状化合物溶液組成)
・下記の円盤状化合物 2735質量部
・エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)製) 80質量部
・多官能アクリレートモノマー( NKエステル A−TMMT 新中村化学工業製) 190質量部
・セルロースアセテートブチレート( CAB551−0.2、イーストマンケミカル社製) 60質量部
・セルロースアセテートブチレート( CAB531−1、イーストマンケミカル社製) 15質量部
・光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製) 90質量部
・増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 30質量部
・メチルエチルケトン 6800質量部
【0209】
ここで、本発明の電子線処理を実施した代表的な試料1−13は、光学補償フィルムの波長633nmで測定した光学異方層のレターデーション値(Re)は39nmであった。また、円盤面と第1透明支持体(上記支持体KF−1)面との間の角度(傾斜角)は平均で36°であった。
【0210】
【化5】

【0211】
(光学補償シートの評価方法)
(異物欠陥)
得られた光学補償シートを、クロスニコルス配置した2枚の偏光板の間に挟み、透過光が異物によりムラとなる異物欠陥を目視で観察した。17インチ画面内に何箇所、輝点があるかをカウントした。表1に評価結果を示す。
【0212】
(密着性)
また、各光学補償シートを30cm×25cmに裁断し、温度が25℃で相対湿度が25% の条件下で1日放置した後、得られたセルロースエステルフィルム付の光学異方層側にカッターナイフで45°の角度で深さ200μmの碁盤目状の切り傷を11本ずつ直角に付与した。この傷跡部にニチバン製セロテープNo.405および日東テープ(PETテープ)を全面に強く付着し30分放置して、その端部を直角に勢いよく剥離しフィルムと配向膜の間で剥離する状態を観察して、はがれた碁盤目の数を表記した。多いほど接着性が悪いことを示す。
【0213】
【表1】

【0214】
表1に示されるように本発明の電子線処理を実施した後にアルカリ鹸化処理した本発明の試料1−8〜1−19は電子線処理後のセルロースエステルフィルムの接触角が低く、光学補償シート化した後のフィルムにおいても優れたヘイズ、異物欠陥と接着性を有するものであった。特に電子線処理時の雰囲気を不活性ガスとした光学補償シート化した後の本発明の光学補償シート試料1−12〜1−19はヘイズ、異物欠陥が著しく改善されていることが判明した。
これに対して、電子線処理を全く実施しない試料1−1やその照射強度あるいは照射量が不足した試料1−2〜1−5は異物欠陥と接着性が著しく悪いものであった。また照射強度あるいは照射量が強い試料1−6、1−7も異物欠陥は改良されるものの接着性が著しく悪いものであった。
【0215】
なお、本発明のフィルム試料1−8〜1−19は、25℃/相対湿度60%、−10℃/相対湿度10%、40℃/相対湿度95%、および80℃/乾燥(Dry)条件下で、それぞれ1ケ月保存し、25℃/相対湿度60%に1日放置した後の接着性を調べたが、強制条件下での接着性悪化は全く見られなかった。
以上から本発明における電子線処理とアルカリ鹸化処理を実施することで、優れたセルロースエステルフィルムの表面処理が可能となり、優れた光学補償シートを作製することが可能となった。
【0216】
[実施例2]
(アルカリ鹸化水溶液S−2の調整)
下記処方の1.7mol/Lアルカリ鹸化水溶液(S−2)を調整した。
・NaOH 680質量部
・トリ(オキシエチレン)デシルエーテルの硫酸エステルのナトリウム塩 110質量部
・消泡剤:プルロニックTR701(旭電化工業(株) 1質量部
・純水 9209質量部
【0217】
(鹸化セルローストリアセテートフィルムの作成)
実施例1で作製した電子線処理済みの本発明の試料1−13に100℃の熱風を衝突させ、55℃まで加熱した後、35℃に保温したアルカリ鹸化溶液(S−2)をロッドコーターにて、8ml/m2塗布し10秒間経過後、再びロッドコーターを用いて純水を15ml/m2塗布した。この時のフィルム維持温度は45 ℃であった。次いで、エクストルージョン型コーターを用いて1000ml/m2 の純水を塗布し、水洗を行い、5秒間経過後に100m/秒の風をエアナイフより水塗布面に衝突させた。このエクストルージョンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを2回繰り返した後に80℃の乾燥ゾーンに10秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理フィルムKF −2を作製した。この鹸化処理フィルムに対する水の接触角は27°、この鹸化フィルムの表面自由エネルギーは36mN/mであった。
【0218】
このアルカリ鹸化液S−2の表面張力は、60mN/mであり、液の粘度は1.6mPa・s、液の密度は1.05、比導電率は300mS/cmであった。アルカリ鹸化水溶液中の炭酸イオン濃度は70mg/Lであり、カルシウム、マグネシウムを含む多価金属イオン濃度の総和は0.3mg/Lであり、塩化物イオン濃度は0.1mg/Lであった。
【0219】
(アルカリ鹸化水溶液S−3〜S−6の調整)
アルカリ鹸化水溶液S−2の純水を半導体デバイス工場レベルの超純水、および、これと、市水若しくは井水とを混合した水に変え、表2に示すようにアルカリ鹸化水溶液のイオン量を変えた以外はアルカリ鹸化水溶液S−2と同様にアルカリ鹸化水溶液S−3〜S−6を調整した。
アルカリ鹸化液S−3の表面張力は59mN/mであり、液の粘度は1.6mPa・s、液の密度は1.05、比導電率は360mS/cmであった。アルカリ鹸化水溶液中の炭酸イオン濃度は280mg/Lであり、カルシウム、マグネシウムを含む多価金属イオン濃度の総和は2.3mg/Lであり、塩化物イオン濃度は1.5mg/Lであった。
アルカリ鹸化液S−4の表面張力は、58mN/mであり、液の粘度は1.7mPa・s、液の密度は1.03、比導電率は400mS/cmであった。アルカリ鹸化水溶液中の炭酸イオン濃度は850mg/Lであり、カルシウム、マグネシウムを含む多価金属イオン濃度の総和は18mg/Lであり、塩化物イオン濃度は11mg/Lであった。
アルカリ鹸化液S−5の表面張力は、56mN/mであり、液の粘度は1.7mPa・s、液の密度は1.06、比導電率は410mS/cmであった。アルカリ鹸化水溶液中の炭酸イオン濃度は1260mg/Lであり、カルシウム、マグネシウムを含む多価金属イオン濃度の総和は92mg/Lであり、塩化物イオン濃度は73mg/Lであった。
アルカリ鹸化液S−6の表面張力は、55mN/mであり、液の粘度は1.8mPa・s、液の密度は1.06、比導電率は420mS/cmであった。アルカリ鹸化水溶液中の炭酸イオン濃度は3410mg/Lであり、カルシウム、マグネシウムを含む多価金属イオン濃度の総和は470mg/Lであり、塩化物イオン濃度は263mg/Lであった。
電子線処理済みの本発明の試料1−13と同様にしてアルカリ鹸化処理フィルムを作製して、さらに光学補償フィルムシート2−1〜2−5を作製した。性能評価した結果を表1に示した。
【0220】
表1に示されるように本発明の好ましいアルカリ鹸化液を用いてアルカリ鹸化処理を実施した光学補償シートは異物欠陥や密着不良が見られない良好なものであった。アルカリ鹸化処理液の炭酸イオン濃度が3500mg/L 以下、多価金属イオン濃度が1000mg/L以下、塩素イオン濃度が1000mg/L 以下とすることにより、ヘイズが上昇するのをより効果的に抑止できる、より使用に適する範囲のものである。
【0221】
[実施例3]
実施例1−13において、セルロースエステル−Aをセルローストリアセテート−X(アセチル基の置換度が2.70、6位の置換度が0.90、重合度が305、Fe分1.1ppm、Ca分78ppm、Mg分7.2ppm)、セルローストリアセテート−Y(アセチル基の置換度が2.92、6位の置換度が0.95、重合度が323、Fe分0.3ppm、Ca分29ppm、Mg分7.2ppm))、セルロースエステル−PX(アセチル基の置換度が2.50、プロピオニル基の置換度が0.21、全アシル基の置換度が2.71、6位の置換度が0.85、重合度280、Fe分2.3ppm、Ca分62ppm、Mg分14.6ppm)、セルローストリアセテート−BY(全アシル基の置換度が2.82、ブタノイル基の置換度が0.42、アセチル基の置換度が2.40、6位置換度が0.90、重合度293、Fe分 0.05ppm、Ca分 26ppm、Mg分 0.8ppm)に変更する以外は、実施例1−13と全く同様にして、本発明外である比較試料3−1〜3−4を作製した。
これらの試料について、実施例1と全く同様にしてその特性評価を実施し表1に記載した。
【0222】
置換基がアセチルのみからなる比較試料3−1、3−2はともに本発明の電子線処理およびアルカリ鹸化処理を実施したにもかかわらず、ヘイズ、異物欠陥および接着性が著しく悪いものであった。また、本発明の式とは異なるセルロースエステルを使用した比較試料3−3および3−4は、ヘイズ、異物欠陥および接着性は若干改善されるものの使用し耐えない問題となるレベルであった。
したがって、本発明の式(S−1)〜(S−3)で規定される要件をすべて満たす、セルロースエステルを利用し本発明の表面処理をすることが有効であることが確認された。
【0223】
[実施例4]
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光膜を作製し、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、実施例1および2で作製した光学補償シート(本発明の光学補償シート試料1−8、1−13、1−17、2−1〜2−5、および比較の光学補償シート試料1−1、1−6)を偏光膜の片側に、もう一方には市販のセルローストリアセテートフィルム(フジタックTD80UF、富士写真フイルム(株)製)に従来の方法で鹸化処理(特に界面活性剤を含まない)を行い貼り付けた後、80℃で10分間乾燥させた。偏光膜の透過軸と光学補償シートの遅相軸とが平行になるように配置した。偏光膜の透過軸と市販のセルローストリアセテートフィルムの遅相軸とは、直交するように配置した。このようにして本発明の偏光板試料HB1−8、HB1−13、HB1−17、HB2−1〜HB2−5、および比較の光学補償シートシート試料HB1−1、HB1−6)を作製した。
【0224】
TN型液晶セルを使用した液晶表示装置(6E−A3、シャープ(株)製)に設けられている一対の偏光板を剥がし、代わりに上記に作製した偏光板を、光学補償シートが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側およびバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸と、バックライト側の偏光板の透過軸とは、Oモードとなるように配置し液晶表示装置を作製した。
【0225】
作製した液晶表示装置について、測定機(EZ−Contrast 160D 、ELDIM 社製)を用いて、黒表示(L1)時の描画ムラを目視で観察した。本発明の電子線処理をすることなくアルカリ鹸化処理のみした光学補償シートを用いた偏光板HB1−1を用いた液晶表示装置では液晶画面の全面が曇って、輝度が低下した。また電子線処理が本発明の範囲である比較用偏向板試料1−6も同様に液晶画面の全面が曇って、輝度が低下した。これに対して、本発明の偏光板試料HB1−8、HB1−13、HB1−17、HB2−1〜HB2−5においては、高い輝度が得られた。
【0226】
[実施例5]
垂直配向型液晶セルを使用した液晶表示装置(VL−1530S、富士通(株)製)に設けられている一対の偏光板を剥がし、代わりに上記実施例4で作製した偏光板(本発明の偏光板試料HB1−8、HB1−13、HB1−17、HB2−1〜HB2−5、および比較の光学補償シートシート試料HB1−1、HB1−6))を、光学補償シートが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側およびバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸が上下方向に、バックライト側の偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロス二コル配置として液晶表示装置を組み上げた。
【0227】
作製した液晶表示装置について、測定機(EZ−Contrast 160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)時の描画ムラを目視で観察した。
本発明の電子線処理をすることなくアルカリ鹸化処理のみした光学補償シートを用いた偏光板HB1−1を用いた液晶表示装置では液晶画面の全面が曇って、輝度が低下した。また電子線処理が本発明の範囲である比較用偏向板試料1−6も同様に液晶画面は輝度が低下し、描画ムラの目立つ液晶表示装置となった。
本発明の電子線処理しアルカリ鹸化処理を実施した偏光板を用いた液晶表示装置においては、高い輝度を有していた。
【0228】
[実施例6]
ベンド配向型液晶セルを作製し、作製したベンド配向セルを挟むように、上記実施例1、2で作製した偏光板(本発明の偏光板試料HB1−8、HB1−13、HB1−17、HB2−1〜HB2−5)を、光学補償シートが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側およびバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。液晶セルのラビング方向とそれに対面する光学異方性層のラビング方向とが反平行になるように配置した。
作製した液晶表示装置について、測定機(EZ−Contrast 160D、ELDIM 社製)を用いて、黒表示(L1)時の描画ムラを目視で観察した。本発明の電子線処理しアルカリ鹸化処理を実施した偏光板を用いた液晶表示装置においては、高い輝度を有し、描画ムラのない良好な液晶表示装置が得られた。
【0229】
(実施例7)
(8−1)延伸
実施例1で得られた本発明のセルロースエステルフィルム試料1−17の電子線処理前のフィルムを用いて、セルロースエステルフィルムのTg(110℃)より10℃高い温度(120℃)で、100%/秒の割合で縦方向延伸(MD延伸)、20%/秒の割合で横方向延伸(TD延伸)した。延伸は、縦延伸後、横延伸を行う逐次延伸(試料EA−1−17)、縦横同時に延伸する同時2軸延伸(EB−1−17)を実施した。
【0230】
(8−2)延伸フィルムの特性評価
得られた延伸フィルムのRe、Rthは偏光板として必要とされている光学特性値を有するものであった。このようにして延伸した本発明のセルロースエステルフィルム試料EA−1−17、EB−1−17試料を表2に従って、表面処理を実施した。得られた試料を実施例1の試料1−17と全く同様にしたその特性を評価し、優れた接触角、ヘイズ、異物欠陥および接着性を有することを確認した。このことから、本発明においては延伸フィルムの表面処理でもその各種特性を発現させることが確証された。
また、表面処理後の光学特性は表面処理前に比べてRe、Rth共に1%以下の変化率であり、本発明の表面処理方法が問題ないことが判った。
さらに、上記のような製膜乾燥後に延伸する方法以外にも、製膜中の未乾燥状態(剥ぎ取り後の除昇温終了直後)に延伸することも行い、同等の光学特性を有する試料を作製し、その表面処理を実施し同様の優れた結果が得られた。
【0231】
【表2】

【0232】
特定のセルロースエステルを使用し、電子線処理およびそれに続くアルカリ鹸化処理により、優れた表面処理性を有するセルロースエステルフィルムを作製することができた。これにより、作製されたセルロースエステルフィルムは、表示欠陥のない大きい面積の液晶表示装置用光学補償シートなどの光学フィルムに容易に組み込むことが可能となった。また、光学補償フィルムの透明支持体と配向膜との密着性に優れた透明支持体用セルロースエステルフィルムが得られた。
【0233】
(実施例8)
実施例1において作製した本発明のセルロースエステルフィルム試料1−17を用いて、表2に従って作製した本発明の延伸セルロースエステルフィルムEA−1−17を特開2002−265636号公報記載の実施例13において、セルローストリアセテートフィルム試料1301の代わりに用いた。そして、特開2002−265636号公報記載の実施例13と全く同様にして、光学異方性層、偏光板試料の作製によりベンド配向液晶セルを作製した。得られた液晶セルは、優れた視野角特性を有するものであった。
【0234】
(実施例9)
(9−1)未延伸セルロースエステルフィルムの製膜
(1)セルロースエステルペレットの調製
セルロースエステルとして、上記セルロースエステル−Aを用いた。
このセルロースエステルAを120℃、3時間乾燥し、含水率を0.1質量%以下にした後に、セルロースエステルに対し、二酸化珪素部粒子(アエロジルR972V)0.05質量%、およびN,N’,N’’−トリ−m−トルイル−1,3,5ートリアジン−2,4,6−トリアミン4質量%添加した。これらを混合して2軸混練押出機のホッパーに投入し、さらに200℃でスクリュー回転数200rpm、滞留時間20秒で混練して融解した。さらに、水浴中で直径3mmのストランド状に押し出し、1分間浸漬した後(ストランド固化)、10℃の水中を30秒間通過させて温度を下げ、長さ5mmに裁断してペレットを得た。得られたセルロースエステルーAからなるペレットを、100℃で10分間乾燥した後にアルミニウムを有するラミネートフィルムからなる防湿袋に袋詰めして保管した。
【0235】
(2)濾過
上記セルロースエステルを直径3mm長さ5mmの円柱状のペレットに成形したものを、110℃の真空乾燥機で3時間乾燥した。これをホッパーに投入し200℃で溶融した後、口径5μmの焼結金属フィルターを用いて、10MPaで速度0.1cm/分にて加圧ろ過した。得られた濾過物は、透明かつ均質な組成であることが確認された。
【0236】
(3)溶融製膜
上記(2)で得られた濾過物を118℃(すなわち、Tg−10℃)になるように調整したホッパーに投入し、上流側溶融温度180℃、中間溶融温度180℃、下流側溶融温度180℃、圧縮比14、T−ダイ温度が−7℃、T−ダイとキャスティングドラム間距離8cm、固化速度30℃/秒、キャスティングドラム温度は第一ロール(上流)(Tg−10)℃で第ニロール(上流)(Tg−11)℃でかつ第三ロール(上流)(Tg−12)℃であり、冷却速度は−15℃であった。そして10分間かけてメルトを溶融押出した。この時、各水準静電印加法(10kVのワイヤーをメルトのキャスティングドラムへの着地点から10cmのところに設置)を用いた。固化したメルトを剥ぎ取り、ニップロールを介して、巻き取り張力6kg/cm2で巻き取った。なお、巻き取り直前に両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をし、巻き取った。各水準とも、30m/分の速度で、幅1.5m、長さ500mで巻き取った。得られたフィルムの膜厚は、100μmであった。得られた溶融製膜した本発明のセルロースエステル試料9−1を、実施例1の本発明のセルロースエステル試料1−17と全く同様にして、電子線処理しさらにアルカリ鹸化処理した。その特性を表1に記載した。表からわかるように、溶融製膜したセルロースエステルフィルムに対しても優れた、表面特性を有することが判った。
【0237】
(実施例10)
(10−1)セルロースエステルの作製
実施例1における(1−1)セルロースエステル−Aを用いた。
【0238】
(10−2)セルロースエステル溶液(ドープ)の作製
セルロースエステル溶液処方
セルロースエステル−A 100質量部
酢酸メチル 280.9質量部
メタノール 32.7質量部
1−ブタノール 13.1質量部
可塑剤A(トリフェニルホスフェート) 0.7質量部
可塑剤B(ビフェニル、ジフェニルホスフェイト) 0.3質量部
光学異方性コントロール剤(実施例1に同じ) 3質量部
【0239】
UV剤a(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン) 0.5質量部
UV剤b(2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール) 0.2質量部
UV剤c:2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tertert−アミルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール) 0.1質量部
フッ素原子を有する重合体(および比較物質) 表1に記載
微粒子(二酸化ケイ素、一次粒子サイズ15nm、モース硬度約7)
0.05質量部
【0240】
攪拌羽根を有する500Lのステンレス性溶解タンクに、前記複数の溶媒を混合し、混合溶媒としてよく攪拌・分散しつつ、セルロースエステル粉体(フレーク)を徐々に添加し、全体が250kgになるように調製した。なお、溶媒は、すべてその含水率が0.5質量%以下のものを使用した。まず、セルロースエステル−Aの粉末は、分散タンクに紛体を投入して、攪拌剪断速度を最初は5m/sec(剪断応力5×104kgf/m/sec2 )の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌軸および、中心軸にアンカー翼を有して周速1m/sec(剪断応力1×104kgf/m/sec2 )で攪拌する条件下で30分間分散した。分散の開始温度は25℃であり、最終到達温度は45℃となった。分散終了後、高速攪拌は停止し、アンカー翼の周速を0.5m/secとしてさらに100分間攪拌し、セルロースエステルフレークを膨潤させた。膨潤終了までは窒素ガスでタンク内を0.13MPaになるように加圧した。この際のタンク内の酸素濃度は2容量%未満であり防爆上で問題のない状態を保っていた。またドープ中の水分量は0.2質量%であった。
【0241】
(10−3)溶解・濾過
膨潤した溶液をタンクから、ジャケット付配管で50℃まで加熱し完全溶解した。加熱時間は30分であった。次に45℃まで温度を下げ、孔径8μmの濾材を通過させドープを得た。この際、濾過1次圧は1.9MPa、2次圧は1.5MPaとした。高温にさらされるフィルター、ハウジング、および配管はハステロイ合金製で耐食性の優れたものを利用し保温加熱用の熱媒を流通させるジャケットを有する物を使用した。
【0242】
(10−4)濃縮・濾過
このようにして得られた濃縮前ドープを110℃で常圧のタンク内でフラッシュさせて、蒸発した溶剤を凝縮器で回収分離した。フラッシュ後のドープの固形分濃度は、28.9質量%となった。なお、凝縮された溶剤は調製工程の溶剤として再利用すべく回収工程に回された(回収は蒸留工程と脱水工程などにより実施されるものである)。フラッシュタンクには中心軸にアンカー翼を有して周速0.5m/secで攪拌して脱泡を行った。タンク内のドープの温度は40℃であり、タンク内の平均滞留時間は50分であった。このドープを採集して25℃で測定した剪断粘度は剪断速度10(sec-1)で93(Pa・s)であった。
【0243】
つぎに、このドープは弱い超音波照射することで泡抜きを実施した。その後、1.5MPaに加圧した状態で、孔径10μmの焼結繊維金属フィルターを通過させた後、10μmの焼結繊維フィルターを通過させた。それぞれの一次圧は、1.5および1.2MPaであり、二次圧は1.0および0.8MPaで実施した。濾過後のドープ温度は、40℃に調整して500Lのステンレス製のストックタンク内に貯蔵した。ストックタンクは、中心軸にアンカー翼を有しており、これによって周速0.3m/secで常時攪拌された。なお、濃縮前ドープからドープを調製する際に、ドープ接液部には、腐食などの問題は全く生じなかった。
【0244】
(10−5)流延
続いてストックタンク内のドープを1次増圧用のギアポンプで高精度ギアポンプの1次側圧力が0.8MPaになるようにインバーターモーターによりフィードバック制御を行い送液した。高精度ギアポンプは、容積効率99.2%、吐出量の変動率が0.5%以下の性能であった。また、吐出圧力は1.5MPaであった。流延ダイは、幅が1.8mであり共流延用に調整したフィードブロックを装備し、主流のほかに両面にそれぞれ積層して3層構造のフィルムを成形できるようにした装置を用いた。以下の説明において、主流から形成される層を中間層と称し、支持体面側の層を支持体面と称し、反対側の面をエアー面と称する。なお、ドープの送液流路は、中間層用、支持体面用、エアー面用の3流路を用いた。最外層用の支持体側ドープとエアー面側ドープは、(1−2)で作製したドープを、メチレンクロライド267質量部/メタノール48.5質量部/1−ブタノール11.8質量部からなる溶媒を配管に設置したインラインでスタチックミキサーおよびスルーザミキサーを連結して希釈し用いた。希釈は元のドープを支持体側ドープは97%の濃度に、またエアー側ドープは元のドープに対して95%の濃度になるようにして行った。
【0245】
完成したセルロースエステルフィルム試料のエアー面、中間層、支持体面の膜厚はそれぞれ4μm、92μm、4μmであり、厚みが100μmとなるように、流延幅を1500mmとしてそれぞれのダイ突出口のセルロースエステルドープ流量を調整して流延を行った。ドープ温度を40℃に調整するため、流延ダイにジャケットを設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の入口温度を43℃とした。
【0246】
ダイ、フィードブロック、配管をすべて作業工程中は40℃に保温した。ダイはコートハンガータイプのダイであり、厚み調整ボルトが20mmピッチに設けられており、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を具備しているものを使用した。このヒートボルトは予め設定したプログラムにより高精度ギアポンプの送液量に応じたプロファイルを設定することもでき、製膜工程内に設置した赤外線厚み計のプロファイルに基づいた調整プログラムによってフィードバック制御も可能な性能を有するものである。流延エッジ部20mmを除いたフィルムで50mm離れた任意の2点の厚み差は1μm以内であり、幅方向厚みの最小値で最も大きな差が3μm/m以下となるように調整した。また、各層の平均厚み精度は両外層が±2%以下、主流が±1%以下に制御され、全体厚みは±1.5%以下に調整した。
【0247】
また、ダイの1次側には減圧するためのチャンバーを設置した。この減圧チャバーの減圧度は流延ビードの前後で1Pa〜5000Paの圧力差を印加できるようになっていて、流延スピードに応じて調整が可能なものである。その際に、ビードの長さが2mm〜50mmになるような圧力差に設定した。またチャンバーの温度は流延部周囲のガスの凝縮温度よりも高く設定できる機構を具備したものであった。さらに、全部にビードを、後部にラビリンスを設けた。又両端には開口部を設けた。さらに、そこから、ビード両縁の流れの乱れを調整するためにエッジ吸引装置が取り付けられているものを用いた。
【0248】
(10−6)流延ダイ
ここで、ダイの材質は析出硬化型のステンレス鋼であり、熱膨張率が2×10-5(℃-1)以下の素材であり、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有する素材を使用した。また、酢酸メチル、アセトン、メタノール、ブタノール、水に3ヶ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有する素材を使用した。さらに、鋳造後1ヶ月以上経時したものを研削加工することとし、セルロースエステル溶液の面状を一定に保った。流延ダイおよびフィードブロックの接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であり、スリットのクリアランスは自動調整により1.5mmに調整した。ダイリップ先端の接液部の角部分について、Rはスリット全巾に亘り50μm以下になるように加工した。ダイ内部での剪断速度は1(1/sec)〜5000(1/sec)の範囲とした。
【0249】
また、流延ダイのリップ先端には、硬化膜が設けられているものを用いた。硬膜を設ける手段としては、溶射法によりタングステン・カーバイド(WC)コーティングを形成したものを用いた。
【0250】
さらにダイのスリット端には流出するドープが、局所的に乾燥固化することを防止するために、ドープを可溶化する溶剤である混合溶媒(例えば、酢酸メチル280.9質量部、メタノール32.7質量部および1−ブタノール13.1質量部からなる溶媒)をビード端部とスリットの気液界面に片側で0.5ml/分で供給した。この液を供給するポンプの脈動率は5%以下であった。また、減圧チャンバーによりビード背面の圧力を150Pa低くした。また、減圧チャンバーの温度を一定にするために、ジャケットを取り付けた。そのジャケット内に35℃に調整された伝熱媒体を供給した。エッジ吸引風量は、1L/分〜100L/分の範囲で調整可能なものを用い、本実施例では30L/分〜40L/分の範囲で適宜調整した。
【0251】
(10−7)金属支持体
支持体として幅2.1mで長さが70mのステンレス製のエンドレスバンドを利用した。そして、バンドの厚みは1.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下になるように研磨したものを使用した。材質はSUS316製であり、十分な耐腐食性と強度を有するものとした。バンドの全体の厚みムラは0.5%以下であった。バンドは2個のドラムにより駆動するタイプを用い、その際のバンドのテンションは1.5×104kg/mに調整し、バンドとドラムとの相対速度差が0.01m/分以下となるものであった。また、バンド駆動の速度変動は0.5%以下であった。また1回転の巾方向の蛇行は1.5mm以下に制限するようにバンドに両端位置を検出して制御した。また、流延ダイ直下における支持体表面のドラム回転に伴う上下方向の位置変動は200μm以下にした。支持体は、風圧振動抑制手段を有したケーシング内に設置されるようにした。この支持体上にダイから3層のドープを共流延した。
【0252】
流延部のドラムは支持体を冷却するように内部に伝熱媒体(冷媒)を循環させる設備を有しているものを用いた。また、他方のドラムが乾燥のための熱を供給するために伝熱媒体が通水できるものである。それぞれの伝熱媒体の温度は5℃(流延ダイ側)と35℃とした。流延直前の支持体中央部の表面温度は15℃であった。両端の温度差は6℃以下であった。なお、ドラムを直接流延支持体とすることも可能なものであり、この場合の回転ムラが0.2mm以下の精度となるよう回転させた。ドラムにおいても表面の平均粗さは0.01μm以下であり、クロム鍍金処理により十分な硬度と耐久性を有したものである。ドラム、バンドのいずれにおいても表面欠陥はあってはならないものであり、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm〜30μmのピンホールは1個/m2以下、10μm以下のピンホールは2個/m2 以下である支持体を使用した。
【0253】
(10−8)流延乾燥
前記流延ダイおよび支持体などが設けられている流延室の温度は、40℃に保った。バンド上に流延されたドープは、最初に平行流の乾燥風を送り乾燥した。乾燥する際の乾燥風からのドープへの総括伝熱係数は24kcal/m2・hr・℃であった。乾燥風の温度はバンド上部の上流側を135℃とし、下流側を140℃とした。また、バンド下部は、65℃とした。それぞれのガスの飽和温度は、いずれも−8℃付近であった。支持体上での乾燥雰囲気における酸素濃度は5容量%に保持した。なお、酸素濃度を5容量%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。また、流延室内の溶媒を凝縮回収するために、凝縮器(コンデンサー)を設け、その出口温度は、−10℃に設定した。
【0254】
流延後5秒間は遮風装置により乾燥風が直接ドープに当たらないようにして、流延ダイ直近の静圧変動を±1Pa以下に抑制した。ドープ中の溶剤比率が乾量基準で50質量%になった時点で、流延支持体からフィルムとして剥離した。この時の剥離テンションは10kgf/mであり、支持体速度に対して剥ぎ取り速度(剥取りロールドロー)は100.1%〜110%の範囲で適切に剥ぎ取れるように設定した。また、剥ぎ取ったフィルムの表面温度は15℃であった。支持体上での乾燥速度は平均60質量%乾量基準溶剤/分であった。乾燥して発生した溶剤ガスは凝縮装置に導かれ、−10℃で液化し、回収して仕込み用の溶剤として再利用した。溶剤を除去された乾燥風は再度加熱して乾燥風として再利用された。その際に、溶剤に含まれる水分量を0.5%以下に調整して再使用した。
【0255】
剥ぎ取ったフィルムを多数のローラーが設けられている渡り部で搬送した。渡り部には、3本のローラーを備え、また渡り部の温度は、40℃に保持した。渡り部のローラーで搬送している際に、フィルムに16N/m〜160N/mのテンションを付与した。
【0256】
(10−9)テンター搬送・乾燥
剥ぎ取られたフィルムは、クリップを有したテンターで両端を固定されながらテンターの乾燥ゾーン内を搬送し、乾燥風により乾燥した。クリップは、20℃の伝熱媒体を供給して冷却した。テンターの駆動はチェーンで行い、そのスプロケットの速度変動は0.5%以下であった。また、テンター内を3ゾーンに分け、それぞれのゾーンの乾燥風温度を上流側から90℃、100℃、110℃とした。乾燥風のガス組成は−10℃の飽和ガス濃度とした。テンター内での平均乾燥速度は120質量%(乾量基準溶剤)/分であった。テンターの出口ではフィルム内の残留溶剤の量は10質量%以下となるように調整し、本実験では7質量%となるように乾燥ゾーンの条件を調整した。テンター内では搬送しつつ幅方向に延伸も行った。なお、テンターに搬送された際の幅を100%としたときの拡幅量を103%とした。剥ぎ取りローラーからテンター入口に至る延伸率(テンター駆動ドロー)は、102%とした。
【0257】
テンター内の延伸率はテンター噛み込み部から10mm以上離れた部分における実質延伸率の差異が10%以下であり、かつ20mm離れた任意の2点における延伸率の差異は5%以下であった。ベース端のうちテンターで固定している長さの比率は90%とした。また、テンタークリップの温度は50℃を超えないように冷却しつつ搬送した。テンター部分で蒸発した溶剤は−10℃の温度で凝縮させ液化して回収した。凝縮回収用に凝縮器(コンデンサー)を設け、その出口温度は−8℃に設定した。溶剤に含まれる水分量を0.5質量%以下に調整して再使用した。
【0258】
そして、テンター出口から30秒以内に両端の耳切りを行った。NT型カッターにより両側50mmの耳をカットし、カットした耳はカッターブロワ−によりクラッシャーに風送されて平均80mm2程度のチップに粉砕した(このチップは再度調製用原料としてセルロースエステルフレークと共に仕込み工程で原料として利用できるものであった)。テンター部の乾燥雰囲気における酸素濃度は5容量%に保持した。なお、酸素濃度を5容量%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。後述するローラー搬送ゾーンで高温乾燥させる前に、100℃の乾燥風が供給されている予備乾燥ゾーンでフィルムを予備加熱した。
【0259】
(10−10)後乾燥
前述した方法で得られた耳切り後のセルロースエステルフィルムをローラー搬送ゾーンで高温乾燥した。ローラー搬送ゾーンを4区画に分割して、上流側から100℃、105℃、105℃、110℃の乾燥風を給気した。このとき、フィルムのローラー搬送テンションは100N/巾として、最終的に残留溶剤量が0.3質量%になるまでの約30分間乾燥した。該ローラーのラップ角度は、90度および180度を用いた。該ローラーの材質はアルミ製もしくは炭素鋼製であり、表面にはハードクロム鍍金を施した。ローラーの表面形状はフラットなものとブラストによりマット化加工したものとを用いた。ローラーの回転による振れは全て50μm以下であった。また、テンション100N/巾でのローラー撓みは0.5mm以下となるように選定した。
【0260】
搬送中のフィルム帯電圧は、常時−3kV〜3kVの範囲となるように工程中に強制除電装置(除電バー)を設置した。また、巻き取り部では、帯電が−1.5kV〜1.5kVになるように、除電バーだけでなく、イオン風除電も設置した。乾燥風に含まれる溶剤ガスは吸着剤を用いて吸着回収除去した。吸着剤は活性炭であり、脱着は乾燥窒素を用いて行った。回収した溶剤は水分量0.3質量%以下に調整して仕込み溶剤として再利用した。乾燥風には溶剤ガスの他、可塑剤、UV吸収剤、その他の高沸点物が含まれるので冷却除去する冷却器およびプレアドソーバーでこれらを除去して再製循環使用した。そして、最終的に屋外排出ガス中のVOCは10ppm以下となるよう、吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶剤の内凝縮法で回収する溶剤量は90質量%であり、残りの大部分は吸着回収により回収した。
【0261】
乾燥されたフィルムを第1調湿室に搬送した。ローラー搬送ゾーンと第1調湿室との間の渡り部には、105℃の乾燥風を給気した。第1調湿室には、温度50℃、露点が20℃の空気を給気した。さらに、フィルムのカールの発生を抑制する第2調湿室にフィルムを搬送した。第2調湿室では、フィルムに直接90℃、湿度80%の空気をあてた。
【0262】
(10−11)後処理、巻き取り
乾燥後のセルロースエステルフィルムは、30℃以下に冷却して両端耳切りを行いさらにフィルムの両端にナーリングを行った。ナーリングは片側からエンボス加工を行うことで付与し、ナーリングする幅は10mmであり、最大高さは平均厚みよりも平均12μm高くなるように押し圧を設定した。
【0263】
そして、得られたフィルムを巻き取り室に搬送した。巻き取り室は、室内温度28℃、湿度70%に保持した。このようにして得られたセルロースエステルフィルム(厚さ100μm)の幅は、1475mmとなった。巻き芯の径は169mm巻き始めテンションは360N/巾であり、巻き終わりが250N/巾になるようなテンションパターンとした。巻き取り全長は300mであった。また、巻き取りロールにプレスロールを押し圧50N/巾に設定した。巻き取り時のフィルムの温度は25℃、含水量は1.4質量%、残留溶剤量は0.1質量%以下であった。また巻き緩み、シワもなく、巻きずれが生じなかった。ロール外観も良好であった。以上の工程を経て、表1に示すセルロースエステルフィルム試料10−1を製膜した。
【0264】
(10−12)表面処理、特性評価
上記で得られた本発明のセルロースエステル試料10−1を、実施例1の本発明のセルロースエステル試料1−17と全く同様にして、電子線処理しさらにアルカリ鹸化処理した。その特性を表1に記載した。表からわかるように、非ハロゲン系有機溶媒で溶液制膜した本発明のセルロースエステルフィルムに対しても優れた、表面特性を有することが判った。
【0265】
(実施例11)
実施例1において作製した本発明のセルロースエステルフィルム試料1−17において、その膜厚を40μ(内層3μm、中間層34μm、外層3μm)以外は、実施例1−17と全く同様にして本発明の試料11−1を作製した。作製したセルロースエステルフィルム試料11−1は、Reが1.1nm、Rthは82nmであった。このフィルムの表面処理したセルロースエステルフィルムを特開2002−265636号公報記載の実施例14において、セルローストリアセテートフィルム試料1401の代わりに用いた。そして、特開2002−265636号公報記載の実施例14と全く同様にして、光学異方性層、偏光板試料の作製によりTN型液晶セルを作製した。得られた液晶セルは、優れた視野角特性を有するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0266】
本発明のセルロースエステルフィルムは、その上に配向膜を形成し、次いで配向膜の上に液晶性分子を塗布し、液晶性分子の配向を固定化して光学異方層を形成することにより光学補償シートを製造できる。また、偏光膜およびその両面に配置された2枚の透明保護膜からなる偏光板であって、透明保護膜の一方が、セルロースエステルフィルム上に、配向膜、および液晶性分子の配向を固定した光学異方層がこの順に設けられている光学補償シートからなる場合、セルロースエステルフィルムとして、その配向膜を形成する側の表面をアルカリ鹸化したセルロースエステルフィルムを有利に用いることができる。すなわち、配向膜を担持した光学フィルム、さらに光学異方層を配した光学フィルム、偏光板、光学補償シートなどの光学フィルムは、本発明のセルロースエステルフィルムを用いて作製することにより層間密着性に優れ、また、異物欠陥や配向欠陥のない均一で良好な面状を有するものとすることができて、種々の液晶表示装置や画像表示装置に用いることができる。
【0267】
また、本発明のアルカリ鹸化水溶液は、アルカリ剤および界面活性剤を少なくとも含有し、アルカリ鹸化水溶液の炭酸イオン濃度および多価金属イオン濃度と塩化物イオン濃度を所定の範囲とすることにより、アルカリ剤や鹸化処理によって生じる塩(脂肪酸塩など)を溶解、分散し、フィルムのヘイズ上昇、密着不良、異物欠陥や配向欠陥の発生などを伴わないより均一なアルカリ鹸化処理が実現できる。
【0268】
本発明のセルロースエステルフィルムを用いた光学フィルムを付設することにより、鮮明な画像表示を可能とする画像表示装置を提供することができる。さらに、表示欠陥のない大きい面積の液晶表示装置用光学補償シートなどの光学フィルムに容易に組み込むことができる。また、光学補償フィルムの透明支持体と配向膜との接着性に優れた透明支持体用セルロースエステルフィルムとすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(S−1)〜(S−3)で規定された要件をすべて満たすフィルム状のセルロースエステルの少なくとも一方の表面に強度10〜200keV、かつ、照射量10〜200kGyの電子線照射を行い、該電子線照射の後に前記フィルム状のセルロースエステルをアルカリ鹸化液で処理する工程を含む、セルロースエステルフィルムの製造方法。
式(S−1) 2.50≦A+B≦3.00
式(S−2) 0≦A≦2.5
式(S−3) 0.5≦B≦3.00
(式(S−1)〜(S−3)中、Aはアセチル基の置換度を、Bは炭素数3〜22の置換アシル基の置換度を表す。)
【請求項2】
前記電子線照射は、不活性ガス雰囲気下で行なう、請求項1に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ鹸化液は、0.2〜5mol/Lの、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムの少なくとも一種類以上を含有する、請求項1または2に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ鹸化液は、炭酸イオン濃度が3500mg/L 以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ鹸化液は、表面張力が15〜65mN/m、粘度が0. 6〜20mPa・s、密度が0.9g/cm3〜1.4g/cm3、比導電率が20mS/cm〜2S/cmである、請求項1〜4のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
10〜90℃のアルカリ鹸化液で、5〜600秒間アルカリ鹸化処理することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
アルカリ鹸化処理後に、5〜90℃で、5〜1200秒間、少なくとも一回の水洗処理、および/または、少なくとも一回の酸処理することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記フィルム状のセルロースエステルを予め室温以上に加熱し、該フィルム状のセルロースエステルにアルカリ鹸化水溶液を塗布してセルロースエステルを鹸化させた後除去する工程を含む、請求項1〜7のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記フィルム状のセルロースエステルは、アルカリ鹸化液で処理された後の表面の接触角が、25℃、60%相対湿度において、45°以下である、請求項1〜8のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記フィルム状のセルロースエステルは、溶液流延または溶融流延することを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記フィルム状のセルロースエステルは、ハロゲン系有機溶媒、炭素原子数が3〜12のエーテル類、炭素原子数が3〜12のケトン類および炭素原子数が3〜12のエステル類から選ばれる有機溶媒を用いて溶液流延することを特徴とする、請求項10に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記セルロースエステルフィルムは、該セルロースエステルの重合度が140〜400であり、可塑剤を0.5〜20質量%含有し、UV剤を0.1〜10質量%含有し、かつ、レターデーション上昇剤を0.5〜15質量%含有する、請求項1〜11のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項13】
(1)有機溶媒中に分散したセルロースエステルを−10〜55℃で膨潤し、該セルロースエステル分散溶液を0〜57℃に加温し、該加温した溶液にセルロースエステルを溶解する工程、(2)有機溶媒中に分散したセルロースエステルを−10〜55℃で膨潤した後、該セルロースエステル分散溶液を−100〜−10℃に冷却し、該冷却したセルロースエステル溶液を0〜57℃に加温し、該加温した溶媒にセルロースエステルを溶解する工程、または、(3)有機溶媒中に分散したセルロースエステルを−10〜55℃で膨潤し、該セルロースエステル分散溶液を0.2〜30MPa、60〜240℃で加熱し、該加熱したセルロースエステル溶液を0〜57℃に冷却し、該冷却した溶液にセルロースエステルを溶解する工程を含む、請求項1〜12のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項14】
セルロースエステルを支持体上に流延する工程を含み、かつ、該支持体から前記セルロースエステルを剥離する時の最大剥離荷重が1〜30g/cmであり、剥離可能となる時間が30〜600秒である、請求項1〜13のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項15】
前記フィルム状のセルロースエステルを搬送方向および/または幅方向の少なくとも一方向に1.03〜3倍に延伸する工程を含み、かつ、前記セルロースエステルフィルムの遅相軸が延伸方向に対して0±5°または90℃±5°である、請求項1〜14に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項16】
前記セルロースエステルフィルムは、面内のレターデーション(Re)が0≦Re≦300nmであり、厚み方向のレターデーション(Rth)が−100≦Rth≦500nmであり、フィルム厚が20〜200μmである、請求項1〜15のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載のセルロースエステルフィルムの製造方法により製造されたセルロースエステルフィルム。
【請求項18】
請求項17に記載のセルロースエステルフィルムを用いた光学フィルム。

【公開番号】特開2006−232892(P2006−232892A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−45998(P2005−45998)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】