説明

セルロースエステルフィルムの製造方法

【課題】濾過速度が比較的高くても、フィルムへの泡や異物の混入を十分に防止でき、しかも比較的長い濾紙の交換サイクルを達成するセルロースエステルフィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】セルロースエステルを溶解したドープを濾過した後、該ドープを用いて溶液流延法によりセルロースエステルフィルムを製造する方法であって、該濾過を、空隙率60〜75%の濾紙を用いて行うことを特徴とするセルロースエステルフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶テレビ等の液晶表示装置の高画質化、高精細化が一段と加速している。それに伴って液晶表示装置に用いられる偏光板用保護フィルムや位相差フィルムなどの光学フィルムに対しても、フィルムに含まれる異物の低減に対する要求が強くなってきている。
【0003】
光学フィルムは様々な製造方法が知られているが、大部分は溶液流延法が用いられている。溶液流延法では、セルロースエステルを溶媒中に溶解したもの(ドープ)を支持体上に流延した後、溶媒を乾燥してフィルム状にする。セルロースエステルは半合成高分子であるため、エステル化工程の不均一反応による不溶成分の生成だけでなく、出発原料品質の影響を強く受ける。そのため、一般的な合成高分子に比べて、異物除去の必要性が高い。セルロースエステルフィルムから検出される異物には、用いる添加剤に起因するもの、製造工程において混入するゴミに起因するもの、及びセルロースエステル中に含まれる未酢化もしくは低酢化度のセルロースエステル繊維に起因するもの等が挙げられる。
【0004】
フィルムにおいて異物を低減するために、ドープを溶液流延法に供するに先立って濾過を行うことが知られており、そのようなドープの濾過や当該濾過に使用されるフィルターに関する種々の提案がなされている。
例えば、ドープを、空隙率76〜95%の濾紙を用い濾過、製膜する技術が開示されている(特許文献1等)。
【特許文献1】特開2004−323549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、液晶表示装置の普及およびその大画面化により、光学フィルの需要が急激な伸びを示している中で、生産速度を増大するために、濾過速度を上げると、ドープ中の泡がフィルターを抜け、フィルム中に泡が混入するという新たな問題が生じた。ドープは高粘度である為、樹脂を溶媒中に溶解する際に溶け込む微小の泡は抜けにくい。泡を除去する為に、溶解後のドープの停滞時間を長くしたり、釜を減圧したりする等の対応がとられてきたが、流量増大に伴い、除去しきれなくなってきている。またドープの濾過は、その後の溶液流延法によるフィルム製造工程への連続供給の観点から、一般に定速で行われ、濾紙に異物が捕捉・蓄積されるにつれ、濾過圧が上昇するが、濾過圧が上昇すると、フィルムへの泡の混入が顕著であった。そのため、濾過圧が比較的低い段階で濾紙を交換する必要が生じるので、濾紙を比較的短いサイクルで交換する必要が生じた。
【0006】
本発明は、濾過速度が比較的高くても、フィルムへの泡や異物の混入を十分に防止でき、しかも比較的長い濾紙の交換サイクルを達成するセルロースエステルフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、セルロースエステルを溶解したドープを濾過した後、該ドープを用いて溶液流延法によりセルロースエステルフィルムを製造する方法であって、該濾過を、空隙率60〜75%の濾紙を用いて行うことを特徴とするセルロースエステルフィルムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の光学フィルムの製造方法では、濾過速度が比較的高くても、濾紙による泡や異物の捕捉を有効に達成できるので、フィルムへの泡や異物の混入を十分に防止できる。また本発明では、次の濾紙交換までに比較的多量の総濾過量を達成できるので濾紙の交換サイクルを有効に延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明においてはまず、セルロースエステルを溶解したドープ(セルロースエステル溶液)を調製する。
【0010】
ドープに溶解されるセルロースエステルは光学フィルムの分野で従来より使用されているセルロースエステルであれば特に制限されず、例えば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、またはセルロースアセテートプロピオネートブチレートなどが使用可能である。セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートが好ましい。ドープ粘度をより有効に低減する観点からは、セルロースアセテートプロピオネートが特に好ましい。2種類以上のセルロースエステルを組み合わせて用いてもよい。
【0011】
セルロースエステルは、ドープ粘度を低減し、フィルムへの泡の混入をより有効に防止する観点から、アセチル基の置換度とプロピオニル基及び/またはブチリル基の置換度との合計が2.4以上3.0以下、特に2.4以上2.8以下であることが好ましい。
【0012】
セルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、ケナフなどを挙げることが出来る。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することが出来る。
【0013】
セルロースエステルは、セルロース原料をアシル化することによって得ることができる。例えば、アシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いて合成する。また例えば、アシル化剤が酸クロライド(CHCOCl、CCOCl、CCOCl)の場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応が行われる。具体的には特開平10−45804号公報に記載の方法で合成することが出来る。アシル基をセルロース分子の水酸基に反応させる。セルロース分子はグルコースユニットが多数連結したものからなっており、グルコースユニットに3個の水酸基がある。この3個の水酸基にアシル基が誘導された数を置換度という。例えば、セルローストリアセテートはグルコースユニットの3個の水酸基全てにアセチル基が結合している。
アシル基の置換度はASTM−D817−96に準じて測定することができる。
【0014】
セルロースエステルは、フィルムへの輝点異物の混入をより有効に防止する観点から、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)が1.8〜3.5、特に2.0〜3.0であることが好ましい。一般に、ポリマーは、その分解が進むにつれ、分子量分布が広くなってゆくので、セルロースエステルの場合にも、分解の度合いは通常用いられる重量平均分子量Mw/数平均分子量Mnの値で規定できる。すなわちセルロースエステルの酢化の過程で、余り長すぎて分解が進みすぎることがなく、かつ酢化には充分な時間酢化反応を行わせしめるための反応度合いのひとつの指標として重量平均分子量Mw/数平均分子量Mnの値をもちいることができ、本発明ではMw/Mnが上記範囲内のセルロースエステルを用いる。
【0015】
分子量分布の測定としては、高速液体クロマトグラフィーを用いることができ、これを用いて数平均分子量、重量平均分子量を算出し、その比を計算することができる。
測定条件の一例を以下に示す。
溶媒:メチレンクロライドカラム: Shodex K806,K805,K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した。)
カラム温度:25℃試料濃度: 0.1質量%検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用する。13サンプルは、ほぼ等間隔に得ることが好ましい。
【0016】
セルロースエステルのMnは通常、50000〜200000であり、Mwは通常、150000〜400000である。
【0017】
セルロースエステルは、溶媒等に溶解してドープとする。本発明で用いることのできる溶媒は良溶媒と貧溶媒を混合して使用することが、生産効率の点で好ましい。良溶媒と貧溶媒の混合比率は良溶媒70〜95質量%、貧溶媒は30〜5質量%が好ましい。又、セルロースエステルの濃度は10〜30質量%が好ましく、15〜25質量%がより好ましい。セルロースエステル濃度はドープ全体に対する割合である。
【0018】
本発明でいう良溶媒、貧溶媒とは、使用するセルロースエステルを単独で溶解するものを良溶媒、単独で膨潤するかまたは溶解しないものを貧溶媒と定義している。そのため、セルロースエステルの結合酢酸量によって良溶媒、貧溶媒が変わり、例えばアセトンは結合酢酸量55%では良溶媒、結合酢酸量60%では貧溶媒となる。本発明に使用される良溶媒は、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類がある。本発明に使用される貧溶媒は例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサンが好ましい。使用される溶媒のうち、最も使用割合の大きい溶媒を主溶媒と呼ぶものとする。尚、結合酢酸量は酢化度とも表現され、セルロースアセテート中の酢酸の量(重量%)を示す。
【0019】
本発明では、フィルムへの泡の混入をより有効に防止する観点から、ドープ中のセルロースエステル不溶解物の含有量が少ないことが好ましい。不溶解物の含有量を少なくすることで、濾紙の目詰まりを少なくし、圧上昇速度を抑えることができる為、圧上昇による泡の発生を抑制することができる。セルロースエステルの不溶解物は、フィルム中において異物として認識される欠陥のひとつである「輝点」の原因となるものであり、アシル基の置換度が比較的低いセルロースエステル、セルロースエステルの単なる未溶解物などのようなドープ中で完全には溶解されていないセルロースエステルに由来するものである。そのようなセルロースエステル不溶解物の含有量がドープ中において少ないと、濾過圧の上昇を抑制できるので、濾過圧の上昇による泡の濾紙通過を有効に防止できるためである。しかも、濾紙の交換サイクルをより有効に延ばすこともできる。そのようなセルロースエステル不溶解物の含有量は0.01体積%以下、特に0.0001〜0.003体積%であることが好ましい。
【0020】
セルロースエステル不溶解物の含有量は以下の方法で測定したものとする。
セルロースエステル不溶解物を含有するドープを、乾燥後の厚みが100μmになるように平滑なガラス板上に製膜し、そのフィルムを輝点異物を観察する要領で30μm径以上のものをカウントし、異物を球体と仮定して、異物の体積/フィルム体積により算出する。
【0021】
本明細書中、異物とは、セルロースエステル不溶解物、セルロースエステル中に含まれる未酢化物、添加剤に混入される不純物、外部から混入されるゴミ、及び製造設備、例えば溶解釜、配管などの材質から混入する小片などに由来するものである。
【0022】
セルロースエステルの溶解方法は、一般的な方法を用いることができ、例えば、(1)セルロースエステルに対する良溶媒を主とする有機溶媒に、セルロースエステルを添加、攪拌しながら溶解する方法、(2)セルロースエステルを貧溶媒と混合し、湿潤あるいは膨潤させ、さらに良溶媒と混合して撹拌しながら溶解する方法である。
【0023】
溶解条件には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加行う高温溶解方法、冷却して溶解する冷却溶解方法、かなりの高圧で行う高圧溶解方法等種々の方法があり、いずれの方法を採用してもよい。ドープ中のセルロースエステル不溶解物の含有量をより有効に低減する観点から、高温溶解方法を採用することが好ましく、より好ましくは、加圧下で、主溶媒の常温での沸点以上でかつ主溶媒が沸騰しない範囲の温度で加熱し、攪拌しながら溶解する。
【0024】
ドープは、フィルムへの泡の混入をより有効に防止する観点から、40℃において10000〜25000mPa・sec、特に13000〜22000mPa・secの比較的低い粘度を有することが好ましい。
【0025】
本明細書中、粘度はエンジニアリング業界で通常に扱われる市販の振動式粘度計(例えばビスコメイトシリーズFVM−80A、FVM−80A−EX、FVM−80A−EXTH;シービーシー株式会社製)によって密閉配管内で0.03〜0.05m/secの流速下で下方から上方への流れ中に挿入したプローブにより測定された値であり、40℃における測定値に読みかえた値である。
【0026】
ドープには、セルロースエステルと溶媒の他に、必要に応じて、可塑剤、紫外線吸収剤、マット剤等の添加剤を含有させてもよい。添加剤は、予め溶媒と混合し、溶解または分散してから、セルロースエステル溶解前の溶媒に投入しても、セルロースエステル溶解後のドープへ投入しても良い。また添加剤はセルロースエステルと同時に使用してもよく、同時に使用することが調製コストの観点から好ましい。
【0027】
可塑剤としては特に限定しないが、リン酸エステル系では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等、グリコール酸エステル系では、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等を単独あるいは併用するのが好ましい。上記の可塑剤は必要に応じて、2種類以上を併用して用いてもよい。これらの可塑剤を含有することにより、寸法安定性、耐水性に優れたフィルムが得られるため、特に好ましい。
可塑剤の添加量は特に制限されず、通常はセルロースエステルに対して12重量%以下が好適である。可塑剤を2種類以上併用する場合には、これらの可塑剤の合計量が上記範囲内であれば良い。
【0028】
紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ波長400nm以上の可視光の吸収が可及的に少ないものが好ましく用いられる。具体例として、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などがあげられるが、これらに限定されない。
【0029】
マット剤としては、無機化合物が使用可能であり、具体例として、例えば二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。
【0030】
ドープを調製した後は、ドープの濾過を行う。詳しくは、調製されたドープを収容するドープ調製タンク(例えば、密閉釜)に連結した配管を経て濾過装置であるフィルタープレスに、加圧型ポンプによりドープを送液し濾過を行う。工業的には一般に定速で濾過を行う。
【0031】
濾過に使用される濾紙は空隙率60〜75%、好ましくは65〜75%のものである。濾紙は、濾紙の原料を、叩解工程で細かくした後に水と混合した溶液状にし、水を浸透する布上に溶液を流し、水を乾燥させることで製造される。この工程で空隙率を調整するには、叩解度を高くしてより細かい繊維にする事、布上に溶液を流し抄紙する際に溶液の供給量を少なくして乾燥後の濾紙厚みを薄くすることで空隙率を低くすることができる。一方、透気度や濾水時間という指標が用いられるが、これらは、一定の体積の空気や水を定圧で供給した際に濾紙を通過する時間を示す。濾紙厚みが薄いと、これら透気度や濾水時間は短くなる為、粘度がかなり低い液体や流量が遅い濾過では、透気度等を高くして異物捕捉性能を高める方法が考えられるが、本発明では通過流速が早い濾過での泡の流出防止性能や異物の捕捉性能を高める為、空隙率の低い濾紙を用いる事が重要であり、透気度や濾水時間は特に限定されない。濾紙厚みが厚かったり、空隙率が高すぎる濾紙を用いると、交換した濾紙にドープを充填する際、濾紙内部の空気が多量にあるため、濾紙繊維に付着して残る気泡も多く、濾圧が上昇してきた際の泡の発生が多くなる。そこで本発明のように空隙率が適度に小さい濾紙を用いると、その気泡がドープ充填時にほとんど抜けてしまう為、圧上昇に伴う泡の発生を抑えることができる。ただし空隙率が小さすぎると比較的早期に濾過圧が上昇するので、濾過工程より上流から来る泡を通してしまう為、フィルムへの泡の混入が顕著になり、また濾紙の交換サイクルが短くなる。
【0032】
濾紙の空隙率は、濾紙の総体積に対する、空気によって占められている体積の割合であり、次式により定義される。
空隙率(%)={1−濾紙の坪量(g/cm)/繊維の比重(g/cm)/濾紙厚み(cm)}×100
【0033】
濾紙の坪量は濾紙の重量をその面積で除することにより算出可能である。
繊維の比重は、用いられている原料の一般的な数値を用いても良いが、濾紙を一定の水が入った容器に挿入し、完全に泡を抜いた後で、増量した重量と体積から、その比重を求める方法がより実際の系に近いので好ましい。
濾紙の厚みは、JIS P 8118−1998に準拠して測定する。
【0034】
本発明において使用する濾紙は、例えば木材パルプ、綿花リンターなどの天然繊維、レーヨンなどの再生繊維、およびポリエステル繊維などの合繊繊維からなる群から選択される1種類またはそれ以上の繊維を原料として形成されたものである。
【0035】
濾紙を形成する繊維の平均繊維径および濾紙の厚さは、濾紙が上記空隙率を有する限り特に制限されるものではなく、泡の除去効果を得る観点からは、以下の範囲内であることが好ましい;
平均繊維径;5〜15μm;
厚さ;0.5〜2mm。
【0036】
前記空隙率を有する濾紙は市販品として入手可能である。濾紙の市販品として、例えば、東洋濾紙(株)社製のNo.63、No.63F、No.63G、No.462、安積濾紙(株)社製の#24、#260等が使用可能である。
【0037】
濾紙は1枚または複数枚重ね合わせて使用される。複数枚の濾紙を重ね合わせて使用する場合、個々の濾紙が上記空隙率を有していればよい。本発明においては、濾過速度の増大による濾紙破損の防止、濾紙の交換サイクルのさらなる延長及び異物除去効果の観点から、通常は1〜5枚、好ましくは2〜4枚の濾紙を重ね合わせて使用される。
【0038】
本発明において濾過は上記濾紙を用いるので、濾過速度が比較的高くても、濾過圧が2000kPaになるまで継続して濾過を行うことができ、比較的多量のドープを処理できる。例えば、濾過面積50mのときで、250m以上、特に280〜500mのドープ総濾過量を達成できる。その結果、濾紙の交換サイクルを有効に延ばすことができる。濾過を継続して行うとは、濾過圧が上記値に達するまで、濾紙を交換することなく濾過をし続けるという意味である。よって濾過圧が上記値に達したとき、濾過を一時停止して、濾紙を新しいものに交換し、濾過を再開すればよい。現実には濾紙交換のタイミングを、濾過圧が上記値に達したときに厳密に合わせるのは困難であるので、本発明においては濾過圧が1500〜2000kPaの範囲内になることを目安に濾過を一時停止して、濾紙の交換を行えばよい。濾過圧がそのような範囲内のときに濾紙の交換を行えば、本発明の効果を十分に享受できる。本発明では、濾紙交換をするために濾過を終了(一時停止)する直前の上記範囲内の濾過圧を終期圧と呼ぶものとする。終期圧が上記範囲より小さいと、交換サイクルが短くなる。終期圧が上記範囲より大きいと、フィルムへの泡や異物の混入が顕著になる。
濾紙を交換する場合、濾過を一時停止しなければならないが、その場合は濾過後のドープをストックする釜に濾紙を交換する時間分のドープがあれば、製膜を止めることなく濾紙の交換が可能である。ただし粘度の高いドープでは、交換に時間がかかるのと、ドープストック釜の内容量の上下により流延部での粘度変動が生じ、泡の発生等の故障の原因となるため、通常は濾過器を2基以上設け、予め交換した濾紙をセットしドープを充填したフィルタープレス系列を準備し、濾紙交換のタイミングで切り替えることで、ドープストック釜の内容量を変動させることなく濾紙を交換する方法を用いる。またフィルタープレスの系列を切り替えるときも、新たに切り替えるフィルタープレスから出てくるドープの温度とそれまでのドープの温度との差が大きいと、流延部での膜厚の変動や泡の発生の原因となる為、切り替える前のフィルタープレスは、その直前にフィルタープレス容量の3〜5倍のドープを循環した後に、自動制御弁で徐々に切り替えるのが好ましい。また、新品の濾紙にドープを充填する際の残気泡対策として、予め溶剤を充填した後にドープを充填する方法も、有効である。
【0039】
一方、上記濾紙を用いて濾過を行ったとき、濾過開始直後の濾過圧は通常、濾過面積20〜80m、ドープ固形分12〜20重量%の場合で100〜1200kPa、特に300〜1000kPaである。そのような濾過開始直後の濾過圧を初期圧と呼ぶものとする。
【0040】
濾過圧は詳しくは、フィルタープレス入り側での送液圧であり、エンジニアリング業界で通常に扱われる市販の圧力計によって測定可能である。
【0041】
濾過は、本発明では、5.0×10−6m/sec〜3.0×10−5m/sec、特に1.0×10−5m/sec〜2.8×10−5m/secの濾過速度で行われることが好ましい。良好な生産効率を維持しながらも、フィルムへの泡や異物の混入を十分に防止でき、しかも比較的長い濾紙の交換サイクルを達成できるためである。
濾過速度はドープの濾紙通過速度であり、ドープの流量(m/sec)を濾過面積(m)で除することによって算出可能である。
【0042】
濾過面積は特に制限されるものではないが、後述の光学フィルム製造工程へ連続的かつ円滑に濾過したドープを供給する観点から、通常は10〜100m、特に20〜80mに設定される。
【0043】
濾過温度、すなわち濾過時のドープ温度は特に制限されるものではないが、ドープ溶解性、送液性、製造するフィルム品質の観点から、通常は35〜50℃、特に40〜45℃に設定される。そのようなドープの濾過温度は通常、前記ドープの調製工程におけるドープ調製タンク内で達成される。より正確にドープ温度をコントロールする場合には、濾過工程直前に熱交換器を設置する方法も有効である。
【0044】
本発明において以上のような濾過を行った後は、さらに同様の濾過を繰り返し行ってもよいし、または別の濾過を行ってもよい。別の濾過として、金属焼結フィルターによる濾過が挙げられる。好ましくは金属焼結フィルターによる濾過を行う。あらゆる異物の除去の観点から、異なる種類や孔径のフィルターを用いて濾過を行うことが好ましいためである。
【0045】
ドープの濾過を行った後は、溶液流延法により光学フィルムを製造する。濾過されたドープは、フィルムの製造効率の観点から、連続的に溶液流延法による光学フィルム製造工程に送液することが好ましいが、一旦、ストックタンクで静置して脱泡した後で、ストックタンクに連結した配管を経て加圧型ポンプにより光学フィルム製造工程に送液してもよい。
【0046】
本発明において光学フィルム製造工程は特に制限されるものではなく、光学フィルムの分野で一般に採用されている溶液流延法を採用した光学フィルム製造工程であればよい。例えば、ドープを支持体上に流延(キャスト工程)し、加熱して溶剤の一部を除去(支持体上乾燥工程)した後、支持体から剥離し、剥離したフィルムを乾燥(フィルム乾燥工程)して、光学フィルムを得る。光学フィルムの製造工程では、例えば、米国特許第2,492,978号、同2,739,070号、同2,739,069号、同2,492,977号、同2,336,310号、同2,367,603号、同2,607,704号、英国特許64,071号、同735,892号、特公昭45−9074号、同49−4554号、同49−5614号、同60−27562号、同61−39890号、同62−4208号に記載の方法を参照して製膜できる。
【0047】
キャスト工程における支持体は、ベルト状もしくはドラム状のステンレスを鏡面仕上げした支持体が好ましく用いられる。キャスト工程の支持体の温度は一般的な温度範囲0℃〜溶剤の沸点未満の温度で、流延することができるが、0〜30℃の支持体上に流延するほうが、ドープをゲル化させ剥離限界時間をあげられるため好ましく、5〜15℃の支持体上に流延することがさらに好ましい。剥離限界時間とは透明で平面性の良好なフィルムを連続的に得られる流延速度の限界において、流延されたドープが支持体上にある時間をいう。剥離限界時間は短い方が生産性に優れていて好ましい。
【0048】
支持体上での乾燥は残留溶媒量60〜150%で支持体から剥離することが、支持体からの剥離強度が小さくなるため好ましく、80〜120%がより好ましい。剥離するときのドープの温度は0〜30℃にすることが剥離時のベース強度をあげることができ、剥離時のベース破断を防止できるため好ましく、5〜20℃がより好ましい。残留溶媒量は次式の様に固形分に対する残留溶媒量の重量割合で示される。
残留溶媒量=残存揮発分重量/加熱処理後フィルム重量×100%
なお残存揮発分重量はフィルムを115℃で1時間加熱処理したとき、加熱処理前のフィルム重量から加熱処理後のフィルム重量を引いた値である。この様な剥離時の残留溶媒量にする為には、支持体上で温風による乾燥をするのが一般的であるが、支持体上でのドープの発泡や支持体の振動等を調整する為、複数の工程で温度や静圧を変えた風で乾燥するのが好ましい。
【0049】
フィルム乾燥工程においては支持体より剥離したフィルムをさらに乾燥し、残留溶媒量を3質量%以下、好ましくは0.5質量%以下にする。フィルム乾燥工程では一般にロール懸垂方式か、テンター方式でフィルムを搬送しながら乾燥する方式が採られる。テンター方式はピンテンター方式でもクリップテンター方式でも構わないが、テンターにはいるフィルムの残留溶媒量やフィルム端のカール状態により最適な方法を選択するのが好ましい。液晶表示部材用としては、テンター方式で巾を保持したり、巾方向に延伸しながら乾燥させる工程を設けることが、光学特性やフィルム表面の平面性を向上させるために好ましい。フィルムを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行う。簡便さの点で熱風で行うのが好ましい。乾燥温度は40〜150℃の範囲で3〜5段階の温度に分けて、段々高くしていくことが好ましく、80〜140℃の範囲で行うことが寸法安定性を良くするためさらに好ましい。
【0050】
本発明の光学フィルムの厚さは特に制限されないが、10〜100μmであることが液晶表示部材用として好ましい。本発明では厚みは30〜80μmがより好ましい。
【0051】
本発明の光学フィルムは液晶表示用部材として有用である。液晶表示用部材とは液晶表示装置に使用される部材のことで、例えば、偏光板用保護フィルム、位相差板、反射板、視野角向上フィルム、防眩フィルム、無反射フィルム、帯電防止フィルムなどがあげられる。
【0052】
本発明の光学フィルムを用いて偏光板を一般的な方法で作製することができる。例えば、光学フィルム(セルロースエステルフィルム)をアルカリ処理し、これを、沃素溶液中で浸漬延伸して作製した偏光膜の両面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号、特開平6−118232号に記載されているような接着性を高める方法を使用しても良い。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<濾紙の製造>
(濾紙A)安積濾紙(株)社製 #24を製造する過程で厚みを0.67mmにしたものを3枚重ねて使用した。
(濾紙B)安積濾紙(株)社製 #24を製造する過程で厚みを0.70mmにしたものを3枚重ねて使用した。
(濾紙C)安積濾紙(株)社製 #260を3枚重ねて使用した。1枚の厚みは1.27mmであった。
(濾紙D)東洋濾紙(株)社製 No.63Fを3枚重ねて使用した。1枚の厚みは1.35mmであった。
(濾紙E)東洋濾紙(株)社製 No.462を3枚重ねて使用した。1枚の厚みは0.53mmであった。
(濾紙F)東洋濾紙(株)社製 No.60を3枚重ねて使用した。1枚の厚みは0.56mmであった。
【0054】
<ドープの調製>
(ドープ1−1)
セルローストリアセテート 100重量部
(Mn=148000、Mw=310000、Mw/Mn=2.1)
トリフェニルフォスフェート 8重量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2重量部
メチレンクロライド 440重量部
エタノール 40重量部
チヌビン109(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.5重量部
チヌビン171(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.5重量部
アエロジル972V(日本アエロジル(株)製) 0.2重量部
【0055】
全ての上記成分を密閉容器に投入し、80℃まで昇温し80℃で1時間攪拌しながら、セルロースエステルを完全溶解した。その後、攪拌を停止し、ドープ温度を45℃まで低下させて、40℃に保温したドープストックタンクに貯めて静置し泡を抜いたあと、ギヤポンプにより濾過装置であるフィルタープレスに送液した。ドープの温度は40℃換算で10000mPa・secであった。フィルタープレスにはいる前のドープをサンプリングしてセルロースエステル不溶解物の観察をしたところ、含有量は固形分比で0.001体積%であった。
【0056】
(ドープ1−2)
メチレンクロライドを450重量部、エタノールを30重量部用いたこと以外は、ドープ1−1と同様の方法によりドープを調製し、送液した。ドープの粘度は40℃換算で8000mPa・secであった。フィルタープレスにはいる前のドープをサンプリングしてセルロースエステル不溶解物の観察をしたところ、含有量は固形分比で0.0005体積%であった。
【0057】
(ドープ2)
セルロースアセテートプロピオネート 100重量部
(アセチル基置換度+プロピオニル基置換度=2.70)
(Mn=70000、Mw=220000、Mw/Mn=3.14)
トリフェニルフォスフェート 8重量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2重量部
メチレンクロライド 300重量部
エタノール 60重量部
チヌビン109(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5重量部
チヌビン171(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5重量部
アエロジル972V(日本アエロジル(株)製) 0.2重量部
【0058】
上記成分を用いたこと以外は、ドープ1−1と同様の方法によりドープを調製し、送液した。ドープの粘度は40℃換算で15000mPa・secであった。フィルタープレスにはいる前のドープをサンプリングしてセルロースエステル不溶解物の観察をしたところ、含有量は固形分比で0.0005体積%であった。
【0059】
(ドープ3)
セルロースアセテートプロピオネート 100重量部
(アセチル基置換度+プロピオニル基置換度=2.45)
(Mn=60000、Mw=180000、Mw/Mn=3.00)
トリフェニルフォスフェート 8重量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2重量部
メチレンクロライド 360重量部
エタノール 60重量部
チヌビン109(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5重量部
チヌビン171(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5重量部
アエロジル972V(日本アエロジル(株)製) 0.2重量部
【0060】
上記成分を用いたこと以外は、ドープ1−1と同様の方法によりドープを調製し、送液した。ドープの粘度は40℃換算で10000mPa・secであった。フィルタープレスにはいる前のドープをサンプリングしてセルロースエステル不溶解物の観察をしたところ、含有量は固形分比で0.0003体積%であった。
【0061】
実施例/比較例
<ドープの濾過>
濾過は、フィルタープレス(濾過面積50m)を用いて、表1に示す濾過条件で定速濾過を行った後、金属焼結フィルター(捕捉粒子径=10μm)を通過させた。濾過開始直後の濾過圧を測定し、初期圧として表1に示した。
【0062】
<フィルムの作製>
濾過したドープを連続的に溶液流延法に供してフィルムを作製した。詳しくは、ベルト流延装置を用い、濾過したドープを温度35℃、1800mm幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。その後、ステンレスバンド支持体で、残留溶剤量が100%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体上から剥離した。剥離したフィルムを残留溶媒量が0.1%になるまで乾燥し、セルロースエステルフィルムを得た。
【0063】
<評価>
・総濾過量
上記のようなドープの調製、ドープの濾過およびフィルムの作製からなる連続工程を、濾過圧が2000kPa(終期圧)になるまで実施し、濾過圧が初期圧から終期圧になるまでの総濾過量を求めた。
○;250m以上であった;
×;120m以上250m未満であり、実用上問題があった;
××;120m未満であった。
【0064】
・泡の発生個数
濾過圧が初期圧のときに濾過されたドープから作製されたフィルム部分X、および濾過圧が終期圧のときに濾過されたドープから作製されたフィルム部分Xを追跡し、これらのフィルム部分における泡の個数を測定した。
(測定方法)
フィルム部分Xおよびフィルム部分Xを複数のCCDカメラで撮影し、その画像により直径1mm以上の泡の数をカウントし、長手方向長さ100mあたりの平均値(A,A)を求めた。
○;A(A)≦0.20個/100m;
×;0.20個/100m<A(A)≦1.00個/100m(実用上問題があった);
××;1.00個/100m<A(A)。
【0065】
・異物数
濾過圧が初期圧のときに濾過されたドープから作製されたフィルム部分X、および濾過圧が終期圧のときに濾過されたドープから作製されたフィルム部分Xを追跡し、これらのフィルム部分における異物の個数(B,B)を測定した。
(測定方法)
直交状態(クロスニコル)で配置した2枚の偏光板の間に、サンプルを置き、一方の偏光板の外側から光を当てて、他方の偏光板の外側を透過型顕微鏡にて50倍の倍率で観察し、25cmの面積で光って見える異物(輝点異物)の数をカウントし1cmあたりに換算した。上記観察を、1サンプル当り10箇所測定し、その平均値とした。
○;B(B)≦0.25;
×;0.25<B(B)≦0.35(実用上問題があった);
××;0.35<B(B)。
【0066】
【表1】

【0067】
比較例1,2,4で総濾過量250mまで使用した場合、濾過圧が、濾紙を3枚重ねて使用した場合の破裂強度である4000kPaを超えてしまう為、泡、異物が、全く捕捉されずに流出してしまう。比較例1では、泡の発生個数は、670個/100m、比較例2では、720個/100m、比較例4では750個/100mとなり製品としては使用できないレベルであった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の方法は、液晶表示装置に使用される偏光板用保護フィルム、位相差板、反射板、視野角向上フィルム、防眩フィルム、無反射フィルム、帯電防止フィルム等の光学フィルムの製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステルを溶解したドープを濾過した後、該ドープを用いて溶液流延法によりセルロースエステルフィルムを製造する方法であって、該濾過を、空隙率60〜75%の濾紙を用いて行うことを特徴とするセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
濾過速度が5.0×10−6m/sec〜3.0×10−5m/secであることを特徴とする請求項1に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。