説明

セルロースエステルフィルムの製造方法

【課題】優れた光学的特性を有するセルロースエステルフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】流延、剥離されたセルロースエステルフィルムを搬送する工程D0、搬送されてきた前記フィルムの幅手端部を把持する工程A、幅手方向に引き延ばす工程B、乾燥を行う工程D1を経て、配向角が幅手方向の何れの測定点においても、平均配向角の角度から±2°以内で、フィルム面内のリターデーション(R)分布が5%以下あるセルロースエステルフィルムを製造するセルロースエステルの製造方法において、前記工程D0にテンションカットロールを設けて、フィルム雰囲気温度20℃〜70℃、幅手方向での当該温度の分布を±5℃以内とし、張力30N/m〜300N/mでフィルムを搬送して、工程D0終点での貧溶媒質量/(良溶媒質量+貧溶媒質量)×100(%)が95質量%〜15質量%に調整するセルロースエステルフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在では、パーソナルコンピュータのマルチメディア化が進み、ラップトップ型パーソナルコンピュータに於いても、カラー表示が一般的になってきた。前記のラップトップ型コンピュータやデスクトップモニターでは、STN液晶ディスプレイやTFT液晶ディスプレイが主に使用されている。また、近年、液晶ディスプレイは大型化と同時に表示品質に優れるTFT液晶が主流となり、視野角特性の高度な改善が求められている。
【0003】
その目的のためにTFT型液晶の表示モードとして、従来のTN型のみならず横電界方式(IPS)、垂直配向方式(VA)などが提案され実用化されている。一方、TN型TFT液晶は、製造コストが安く旋光モードであるために光利用効率の高い特徴があり、近年の光学補償シートの登場により視野角特性の改善が図られ、広く使用されている。
【0004】
例えば、視野角補償楕円偏光板は、積層された構成を有し、典型的な例としては、第一の透明支持体(通常、セルローストリアセテートフィルム)−偏光子−第二の透明支持体(通常、セルロースエステルフィルム)−液晶性化合物の配向を特定の方向に固定化し形成された光学異方層−光学的二軸性を有する透明支持体C(例えば、延伸したセルロースエステルフィルム)という形態をとり、第2の透明支持体の上に直接または、間接的に光学異方層を形成させた後、前記光学異方層上に光学的二軸性を有する透明支持体Cを配置して形成される。
【0005】
また、上記透明支持体Cの上に液晶性化合物の配向を特定の方向に固定化して光学異方性化合物を含有する光学異方層を設けることも出来る。
【0006】
第1の透明支持体、第2の透明支持体に、各々、流延法により作製した、40μm〜80μmの膜厚のセルローストリアセテートフィルムを使用、偏光子はヨウ素をドープしたポリビニルアルコールを延伸したものを使用し、偏光子を前記第1の透明支持体および第2の透明支持体によりラミネートして、偏光板が形成される。
【0007】
光学異方層として、ラビング等により配向能を付与した支持体上に重合性基を有する液晶性化合物を塗布などにより設置し、例えば紫外線により硬化させて固定化した層を作製する。支持体として、光学的二軸性を有する透明支持体、好ましくは、40μm〜150μmの膜厚の延伸したセルロースエステルフィルムを用いることができる。
【0008】
支持体の生産性の観点から、連続生産を行う場合には幅手方向に延伸したセルロースエステルフィルムは、本発明に係る光学的に二軸性を有する透明支持体として好ましく用いられる。この場合、液晶性化合物を長尺の第2の透明支持体の搬送(長手)方向に配向させることにより、本発明の視野角補償楕円偏光板をそのままロール・ツー・ロールで貼合して製造することができる。
【0009】
幅手方向に延伸する方法としては、テンター方式の幅手延伸機を用いる方法が一般的である。この方式では、テンターのクリップが等間隔で寸法的には変化はなく、幅手方向のみが延伸されるため、長手方向には分子の配向が起こらず寸法的にも変わらず、幅手方向にのみ分子が配向する。その結果、延伸された分だけ厚さが減少し、厚み方向のリターデーションが大きくなり過ぎる。長手方向の寸法が規制されているため長手方向への分子配向も規制される。従って幅手延伸することで、幅手方向に分子配向が進むと同時に、厚み方向に収縮力が働き分子の面配向が増大してしまい厚み方向のリターデーション(Rt)が大きくなり過ぎるという問題があった。
【0010】
上記テンターによる幅手延伸以外であっても、長手方向への意図しない延伸がフィルム面内のリターデーションに対しフィルム厚み方向のリターデーションを過剰にする問題があった。
【0011】
LCD表示部材用フィルムとして物理的な均一性のみならず、光学的な均一性も非常に重要な課題として上げられる。フィルムの持つ面内および厚み方法のリターデーションの均一性、フィルムの持つ光学的な遅相軸の分布(以下、配向角分布)の均一性が乱れることにより、フィルムをLCD部材として組み込んだ際、黒表示時に光漏れ等を起こす原因となり実用上甚大な欠陥をもたらしていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は優れた光学的特性を有するセルロースエステルフィルムの製造方法を提供することである。
【0013】
さらに、物理的、光学的に均一なセルロースエステルフィルムの製造方法の提供を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は下記の構成1〜11により達成された。
【0015】
1.支持体上に流延後、剥離されたセルロースエステルフィルムを搬送する工程D0、前記搬送工程D0から搬送されてきた前記フィルムの幅手端部を把持する工程A、前記フィルムを幅手方向に引き延ばす工程B、更に乾燥を行う工程D1を経て、配向角が幅手方向の何れの測定点においても、測定点すべての平均配向角の角度から±2°以内で、フィルム面内のリターデーション(R)分布が5%以下あるセルロースエステルフィルムを製造するセルロースエステルの製造方法において、
前記工程D0にテンションカットロールを設けて、フィルム雰囲気温度20℃〜70℃、幅手方向での当該温度の分布を±5℃以内とし、張力30N/m〜300N/mでフィルムを搬送して、
工程D0終点での貧溶媒質量/(良溶媒質量+貧溶媒質量)×100(%)が95質量%〜15質量%に調整することを特徴とするセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0016】
2.工程Aの直前にフィルム幅方向の端部を切り落とすことを特徴とする1に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0017】
3.工程Bの後、フィルムを把持緩和する工程Cを有し、工程A、B、Cの間にニュートラルゾーンを設けることを特徴とする1又は2に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0018】
4.工程A、B、Cにおける雰囲気の良溶媒濃度をそれぞれMa、Mb、Mcとして、Ma>2000ppm、Mb>2000ppm、Mc<飽和良溶媒蒸気濃度の60%であることを特徴とする3に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0019】
5.工程A、B、C終点でのフィルム温度をそれぞれTa、Tb、Tc℃として、Ta≦Tb−10且つ、Tc≦Tbであることを特徴とする3又は4に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0020】
6.幅手方向の引き裂き強度、長手方向の引き裂き強度をそれぞれHtd、Hmdとした時、Htd/Hmdが0.62〜1.0のフィルムとすることを特徴とする1乃至7の何れか1項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0021】
7.60℃、90%RHで24時間処理前後の幅手方向の寸法変化率、長手方向の寸法変化率をそれぞれStd%、Smd%とした時、Stdが−0.4〜0.4%の範囲であり、且つ、Smdが−0.4〜0.4%のフィルムとすることを特徴とする1乃至6の何れか1項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0022】
8.幅手方向での膜厚の最大値、最小値、平均値をそれぞれRmax、Rmin、Raveとした時、R(%)=(R(max)−R(min))/R(ave)×100で表される膜厚分布が0〜8%のフィルムとすることを特徴とする1乃至7の何れか1項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0023】
9.厚み方向のリターデーション(Rt)分布10%以下のフィルムとすることを特徴とする1乃至8の何れか1項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0024】
10.ヘイズ値が0〜2%のフィルムとすることを特徴とする1乃至9の何れか1項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0025】
11.セルロースエステルフィルムの総アシル基置換度が2.3〜2.85であり、アセチル基の置換度が1.4〜2.85であることを特徴とする1乃至10の何れか1項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、優れた光学的特性を有するセルロースエステルフィルムの製造方法、前記フィルムを有する位相差フィルム、楕円偏光板、光学補償シート及び表示装置を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】延伸工程での延伸角度を説明する図である。
【図2】本発明に用いられるテンター工程の1例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0029】
本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法について説明する。
【0030】
本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法としては、セルロースエステルを溶解調整したドープ液を支持体(ステンレスベルト等)上に流延、製膜し、得られたフィルムを支持体から剥ぎ取り(剥離ともいう)、その後、幅手方向に張力をかけて延伸し、乾燥ゾーン中を搬送させながら乾燥する、溶液流延製膜法が用いられる。下記に、本発明の製造方法に係る溶液流延製膜法について説明する。なお、長手方向(MDと略記する場合がある)とは、機械搬送方向、ドープ流延方向を表し、幅手方向(TD)とは、フィルム面内で長手方向と直交する方向を表す。
【0031】
《溶液流延製膜方法》
(a)溶解工程:セルロースエステル(フレーク状もしくはパウダー状もしくは顆粒状(好ましくは平均粒径100μm以上の粒子))に対する良溶媒を主とする有機溶媒に溶解釜中で該セルロースエステルや添加剤を攪拌しながら溶解し、ドープを形成する工程である。溶解には、常圧で行う方法、良溶媒の沸点以下で行う方法、良溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、冷却溶解法で行う方法、高圧で行う方法等種々の溶解方法がある。溶解後ドープを濾材で濾過し、脱泡してポンプで次工程に送る。
【0032】
上記のドープとは、セルロースエステルと後述する添加剤を有機溶媒に溶解した溶液である。
【0033】
(セルロースエステル)
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることが出来る。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することが出来る。
【0034】
本発明に係わるセルロースエステルは、セルロース原料のアシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いて反応が行われる。アシル化剤が酸クロライド(CH3COCl、C25COCl、C37COCl)の場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応が行われる。具体的には特開平10−45804号に記載の方法を参考にして合成することが出来る。セルロースエステルはアシル基がセルロース分子の水酸基に反応する。セルロース分子はグルコースユニットが多数連結したものからなっており、グルコースユニットに3個の水酸基がある。この3個の水酸基にアシル基が誘導された数を置換度という。例えば、セルローストリアセテートはグルコースユニットの3個の水酸基全てにアセチル基が結合している。
【0035】
本発明のセルロースエステルフィルムに用いることが出来るセルロースエステルには特に限定はないが、下記式(I)及び(II)を同時に満足するものが好ましい。
【0036】
(I) 2.3≦X+Y≦2.85
(II) 1.4≦X≦2.85
式中、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基及び/またはブチリル基の置換度である。上記2式を満足するものは、本発明の目的に叶う優れた光学特性を示すセルロースエステルフィルムを製造するのに適しており、耐熱性に優れ、位相差フィルムとして、波長分散性が正となり良好なリターデーションのものが得られる。幅手延伸時に光学特性が均一、特にリターデーション分布のムラの少ないフィルムを得る観点から、さらに好ましくは2.5≦X+Y≦2.8が好ましく、2.6≦X+Y≦2.75がさらに好ましい。
【0037】
本発明に用いられるセルロースエステルとしては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、またはセルロースアセテートプロピオネートブチレートのようなアセチル基の他にプロピオネート基あるいはブチレート基が結合したセルロースエステルが好ましく用いられる。尚、ブチレートは、n−の他にiso−も含む。プロピオネート基の置換度が大きいセルロースアセテートプロピオネートは耐水性に優れるという特徴がある。
【0038】
アシル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96に準じて測定することが出来る。
【0039】
本発明に用いられるセルロースエステルの数平均分子量は、60,000〜300,000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。更に70,000〜200,000のものが好ましく用いられる。
【0040】
セルロースエステルの数平均分子量は下記のように測定出来る。
【0041】
高速液体クロマトグラフィにより下記条件で測定する。
【0042】
溶媒:アセトン
カラム:MPW×1(東ソー(株)製)
試料濃度:0.2(質量/容量)%
流量:1.0ml/分
試料注入量:300μl
標準試料:ポリメタクリル酸メチル(重量平均分子量Mw=188,200)
温度:23℃。
【0043】
(有機溶媒)
セルロースエステルを溶解するドープ形成に有用な有機溶媒としては、塩素系有機溶媒と非塩素系有機溶媒がある。塩素系の有機溶媒としてメチレンクロライド(塩化メチレン)を挙げることが出来、セルロースエステル、特にセルローストリアセテートの溶解に適している。昨今の環境問題から非塩素系有機溶媒の使用が検討されている。非塩素系有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることが出来る。これらの有機溶媒をセルローストリアセテートに対して使用する場合には、常温での溶解方法も使用可能であるが、高温溶解方法、冷却溶解方法、高圧溶解方法等の溶解方法を用いることにより不溶解物を少なくすることが出来るので好ましい。セルローストリアセテート以外のセルロースエステルに対しては、メチレンクロライドを用いることも出来るが、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンが好ましく使用される。特に酢酸メチルが好ましい。本発明において、上記セルロースエステルに対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主有機溶媒または主たる有機溶媒という。本発明における良溶媒とは、25℃において溶媒100gに5g以上のセルロースエステルを溶解する溶媒とする。
【0044】
本発明に用いられるドープには、上記有機溶媒の他に、1質量%〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。これらはドープを金属支持体に流延後溶媒が蒸発をし始めアルコールの比率が多くなるとウェブがゲル化し、ウェブを丈夫にし金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロースエステルの溶解を促進する役割もある。炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等を挙げることが出来る。これらのうちドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、且つ毒性がないこと等からエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は単独ではセルロースエステルに対して溶解性に乏しいため、貧溶媒の範疇に入る。本発明における貧溶媒とは、25℃において溶媒100gに5g未満のセルロースエステルを溶解する溶媒とする。
【0045】
フィルム面質の向上の観点からは、ドープ中のセルロースエステルの濃度は15質量%〜40質量%に調整し、ドープ粘度は10Pa・s〜50Pa・sの範囲に調整することが好ましい。
【0046】
本発明に用いられるドープには、下記のような種々の素材を用いても良い。
【0047】
〈添加剤〉
ドープ中には、可塑剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、染料、マット剤等も添加されることがある。これらの化合物は、セルロースエステル溶液の調製の際に、セルロースエステルや溶媒と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。液晶画面表示装置用には耐熱耐湿性を付与する可塑剤、酸化防止剤や紫外線防止剤などを添加することが好ましい。
【0048】
《可塑剤》
本発明に用いられるドープには、いわゆる可塑剤として知られる化合物を、機械的性質向上、柔軟性を付与、耐吸水性付与、水蒸気透過率低減、リターデーション調整等の目的で添加することが好ましく、例えばリン酸エステルやカルボン酸エステルが好ましく用いられる。また、特願2001−198450に記載の重量平均分子量が500以上10,000であるエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマー、芳香環を側鎖に有するアクリル系ポリマーまたはシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリル系ポリマーなども好ましく用いられる。リン酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、フェニルジフェニルホスフェート等を挙げることが出来る。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステル及びクエン酸エステル等、フタル酸エステルとしては、例えばジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート及びジエチルヘキシルフタレート等、またクエン酸エステルとしてはクエン酸アセチルトリエチル及びクエン酸アセチルトリブチルを挙げることが出来る。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバチン酸ジブチル、トリアセチン、トリメチロールプロパントリベンゾエート等も挙げられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートもこの目的で好ましく用いられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートのアルキルは炭素原子数1〜8のアルキル基である。アルキルフタリルアルキルグリコレートとしてはメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、プロピルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等を挙げることが出来、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレートが好ましく、特にエチルフタリルエチルグリコレートが好ましく用いられる。またこれらアルキルフタリルアルキルグリコレート等を2種以上混合して使用してもよい。
【0049】
これらの化合物の添加量は目的の効果の発現及びフィルムからのブリードアウト抑制などの観点から、セルロースエステルに対して1質量%〜20質量%が好ましい。また、延伸及び乾燥中の加熱温度が200℃程度まで上がるため、可塑剤としてはブリードアウトを抑制させるためには、200℃における蒸気圧が1333Pa以下のものであることが好ましい。
【0050】
《紫外線吸収剤》
本発明に用いられる紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることが出来るが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号、特開平8−337574号記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。
紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、且つ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0051】
本発明に有用なベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例として、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(何れもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を好ましく使用出来る。
【0052】
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。
【0053】
本発明で好ましく用いられる上記記載の紫外線吸収剤は、透明性が高く、偏光板や液晶素子の劣化を防ぐ効果に優れたベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく、不要な着色がより少ないベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が特に好ましく用いられる。紫外線吸収剤のドープへの添加方法は、ドープ中で紫外線吸収剤が溶解するようなものであれば制限なく使用できるが、本発明においては紫外線吸収剤をメチレンクロライド、酢酸メチル、ジオキソランなどのセルロースエステルに対する良溶媒、または良溶媒と低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)のような貧溶媒との混合有機溶媒に溶解し紫外線吸収剤溶液としてセルロースエステル溶液に混合してドープとする方法が好ましい。この場合出来るだけドープ溶媒組成と紫外線吸収剤溶液の溶媒組成とを同じとするか近づけるのが好ましい。紫外線吸収剤の含有量は0.01質量%〜5質量%、特に0.5質量%〜3質量%である。
【0054】
《酸化防止剤》
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等が挙げられる。特に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10ppm〜1000ppmが更に好ましい。
【0055】
《マット剤》
本発明において、マット剤をセルロースエステルフィルム中に含有させることによって、搬送や巻き取りをし易くすることが出来る。マット剤は出来るだけ微粒子のものが好ましく、微粒子としては、例えば二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機微粒子や架橋高分子微粒子を挙げることが出来る。中でも二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを小さく出来るので好ましい。
【0056】
二酸化ケイ素のような微粒子は有機物により表面処理されている場合が多いが、このようなものはフィルムのヘイズを低下出来るため好ましい。
【0057】
表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサンなどがあげられる。微粒子の平均粒径が大きい方が滑り性効果は大きく、反対に平均粒径の小さい方は透明性に優れる。また、微粒子の二次粒子の平均粒径は0.05μm〜1.0μmの範囲である。好ましい微粒子の二次粒子の平均粒径は5nm〜50nmが好ましく、更に好ましくは、7nm〜14nmである。これらの微粒子はセルロースエステルフィルム中では、セルロースエステルフィルム表面に0.01μm〜1.0μmの凹凸を生成させる為に好ましく用いられる。微粒子のセルロースエステル中の含有量はセルロースエステルに対して0.005質量%〜0.3質量%が好ましい。
【0058】
二酸化ケイ素の微粒子としては日本アエロジル(株)製のアエロジル(AEROSIL)200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、OX50、TT600等を挙げることが出来、好ましくはアエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812である。これらの微粒子は2種以上併用してもよい。2種以上併用する場合、任意の割合で混合して使用することが出来る。この場合、平均粒径や材質の異なる微粒子、例えばアエロジル200VとR972Vを質量比で0.1:99.9〜99.9:0.1の範囲で使用出来る。
【0059】
配向層や液晶層を塗設する場合、マット剤の凸凹により配向が阻害される場合は、一方の面の表層のみにマット剤を含有させることが出来る。あるいは、これらのマット剤とセルロースエステルを含む(ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートなど)塗布液を塗設して摩擦係数を低減し、滑り性を改善することも出来る。
【0060】
《その他の添加剤》
この他カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ等の無機微粒子、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属の塩などの熱安定剤を加えてもよい。更に帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤等も加える場合がある。
【0061】
(b)流延工程:ドープを加圧型定量ギヤポンプを通して加圧ダイに送液し、無限に移送する無端の金属ベルト、例えばステンレスベルト、あるいは回転する金属ドラム等の金属支持体上の流延位置に、加圧ダイからドープを流延する工程である。金属支持体の表面は鏡面となっている。その他の流延する方法は流延されたドープ膜をブレードで膜厚を調節するドクターブレード法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、口金部分のスリット形状を調製出来、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があるが、何れも好ましく用いられる。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。
【0062】
(c)溶媒蒸発工程:ウェブ(金属支持体上にドープを流延した以降のドープ膜の呼び方をウェブとする)を金属支持体上で加熱し金属支持体からウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる工程である。溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/または金属支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱の方法が乾燥効率の点で好ましい。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。
【0063】
製膜速度を上げるため、金属支持体上でのウェブ温度を上げる方法が有効である。但し、過剰な熱供給はウェブに含まれる溶媒によりウェブ内部からの発泡を引き起こすため、ウェブの組成により好ましい乾燥速度が規定される。また、製膜速度を上げるためベルト状の金属支持体の上に流延を行う方法も好ましく用いられる。ベルト状の支持体を用いて流延を行う場合、ベルト長を長くすることにより流延速度を増加させることが出来る。但し、ベルト長の拡大はベルト自重によるたわみを助長する。このたわみは製膜の際に振動を引き起こし、流延時の膜厚を不均一にさせるため、ベルト長さとしては、40m〜120mであることが好ましい。
【0064】
(d)剥離工程:金属支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。剥離されたウェブは次工程に送られる。剥離する時点でのウェブの残留溶媒量があまり大き過ぎると剥離し難かったり、逆に金属支持体上で充分に乾燥させてから剥離すると、途中でウェブの一部が剥がれたりする。
【0065】
製膜速度を上げる方法(残留溶媒量が出来るだけ多いうちに剥離するため製膜速度を上げることが出来る)としてゲル流延法(ゲルキャスティング)がある。
【0066】
それは、ドープ中にセルロースエステルに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、金属支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。金属支持体上でゲル化させ剥離時の膜の強度を上げておくことによって、剥離を早め製膜速度を上げることが出来るのである。
【0067】
本発明においては、該金属支持体上の剥離位置における温度を10℃〜40℃に調整することが好ましく、更に好ましくは、15℃〜30℃に調整することである。また、剥離位置におけるウェブの残留溶媒量を5質量%〜120質量%とすることが好ましい。本発明においては、残留溶媒量は前記一般式(1)で表すことが出来る。
【0068】
ベルト状支持体上に製膜する場合、速度の上昇は上述のベルト振動を助長する。剥離時の残留溶媒量およびベルト長さなどを考慮すると、製膜速度としては、10m/分〜120m/分が好ましく、15m/分から60m/分がさらに好ましい。
【0069】
本発明において、ウェブ全幅に対する残留溶媒量を平均残留溶媒量、あるいは中央部の残留溶媒量ということがあり、またウェブの両端部の残留溶媒量というように局部的な残留溶媒量をいう場合もある。
【0070】
(e)乾燥工程:剥離後、一般には、ウェブを千鳥状に配置したロールに交互に通して搬送する乾燥装置及び/またはクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター装置を用いてウェブを乾燥する。乾燥の手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウエーブを当てて加熱する手段もある。あまり急激な乾燥は出来上がりのフィルムの平面性を損ね易い。全体を通して、通常乾燥温度は30〜250℃の範囲で行われる。使用する溶媒によって、乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて乾燥条件を適宜選べばよい。
【0071】
本発明において、工程D0とは、流延されたフィルムを剥離したのち、テンター部分まで搬送を行う工程をあらわす。工程D0では、延伸時のフィルム残留溶媒量をコントロールする目的で、温度をコントロールすることが好ましい。工程D0でのフィルム残留溶媒量にもよるが、搬送方向(以下、長手方向)への延伸が起こりにくく残留溶媒量を調整する意図で、20℃〜70℃が好ましく、更に好ましくは、20℃〜68℃であり、特に好ましくは、20℃〜40℃である。
【0072】
工程D0において、フィルム面内でありフィルム搬送に対して垂直な方向(以下、幅手方向)でフィルム雰囲気温度分布が少ない事は、フィルムの均一性を高める観点から好ましい範囲が存在する。工程D0での温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好まく、±1℃以内が最も好ましい。
【0073】
工程D0でのフィルム搬送張力としては、支持体からの剥離条件及び工程D0での搬送方向の伸びを防止する観点から、下記に示すような好ましい条件が存在する。
【0074】
(工程D0でのフィルム搬送張力)
工程D0でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時及び工程D0での残留溶媒量、工程D0での温度などに影響を受けるが、30N/m〜300N/mが好ましく、更に好ましくは、57N/m〜284N/mであり、特に好ましくは、57N/m〜170N/mである。
【0075】
工程D0での搬送方向へフィルムの伸びを防止する目的で、テンションカットロールをもうけることが好ましい。
【0076】
工程D0での良溶媒及び貧溶媒の比率はフィルム搬送に対しての伸びを防止する意味で好ましい範囲が規定される。工程D0終点での貧溶媒質量/(良溶媒質量+貧溶媒質量)×100(%)としては、95質量%〜15質量%の範囲が好ましく、更に好ましくは、95質量%〜25質量%であり、特に好ましくは、95質量%〜30質量%である。
【0077】
(f)延伸工程(テンター工程ともいう)
本発明に係る延伸工程(テンター工程ともいう)を図2を用いて説明する。
【0078】
図2において、工程Aでは、図示されていないフィルム搬送工程D0から搬送されてきたフィルムを把持する工程であり、次の工程Bにおいて、後述する図1に示すような延伸角度でフイルムが幅手方向(フィルムの進行方向と直交する方向)に延伸され、工程Cにおいては、延伸が終了し、フィルムが把持されたまま搬送される工程である。
【0079】
フィルム剥離後から工程B開始前及び/又は工程Cの直後に、フィルム幅方向の端部を切り落とすスリッターを設けることが好ましい。特に、A工程開始直前にフィルム端部を切り落とすスリッターを設けることが好ましい。幅手方向に同一の延伸を行った際、特に工程B開始前にフィルム端部を切除した場合とフィルム端部を切除しない条件とを比較すると、前者がより配向角分布を改良する効果が得られる。
【0080】
これは、残留溶媒量の比較的多い剥離から幅手延伸工程Bまでの間での長手方向の意図しない延伸を抑制した効果であると考えられる。
【0081】
テンター工程において、配向角分布を改善するため意図的に異なる温度をもつ区画を作ることも好ましい。また、異なる温度区画の間にそれぞれの区画が干渉を起こさないように、ニュートラルゾーンを設ける事も好ましい。
【0082】
(工程Bでの延伸開始時の残留溶媒量)
請求項1に記載の製造方法においては、フィルム面内のリターデーション(R0(nm))と厚み方向のリターデーション値(Rt(nm))との比、Rt/R0が0.8〜3.5の範囲になるようにするためには、工程B開始時の残留溶媒量としては、90質量%〜5質量%に調整することが好ましく、さらに好ましくは、40質量%〜10質量%であり、最も好ましくは、35質量%〜10質量%が最も好ましい。
【0083】
また、請求項4、請求項6に製造方法においては、上記工程Bにおいて、フィルム面内のリターデーションをR0(nm)と厚み方向のリターデーション値をRt(nm)との比、Rt/R0が0.8〜3.5の範囲になるように調整することが必須であるが、上記の範囲の数値を得るためには、工程B開始時の残留溶媒量としては、90質量%〜10質量%に調整することが必要であり、好ましくは、40質量%〜10質量%であり、更に好ましくは、35質量%〜10質量%が最も好ましい。
【0084】
また、テンター工程で、上記のRt/R0の比を目的の範囲内で得るためには、工程A、B、Cで好ましい雰囲気良溶媒濃度の相対関係が存在する。工程A、B、Cでの良溶媒濃度をそれぞれMa、Mb、Mcとすると、Ma>Mcの関係を満たす事が好ましく。また、Mb>Mcの関係を満たすことが好ましい。
【0085】
フィルムを搬送方向に対して垂直方向に延伸する工程で、フィルムの幅手方向で光学遅相軸の分布(以下、配向角分布)が悪くなることは、よく知られている。RtとR0のバランスを良好なものにし、且つ、配向角分布を良好な状態になるように延伸を行うためには、工程A、B、Cで好ましい雰囲気良溶媒濃度の範囲が存在する。工程A、B、Cでの良溶媒濃度をそれぞれMa、Mb、Mcとすると、Ma>2000ppmが好ましく、Ma>3000ppmがさらに好ましく、Ma>飽和良溶媒蒸気濃度の60%が最も好ましい。また、Mb>2000ppmが好ましく、Mb>3000ppmがさらに好ましく、Mb>飽和良溶媒蒸気濃度の60%が最も好ましい。また、Mc<飽和良溶媒蒸気濃度の60%が好ましく、Mc<3000ppmがさらに好ましく、Mc<2500ppmが最も好ましい。
【0086】
tとR0のバランスを良好なものにし、且つ、配向角分布を良好な状態で幅手延伸を行うため、工程A、B、Cで好ましいフィルム弾性率の相対関係の範囲が存在する。工程A、B、Cでのフィルム弾性率をそれぞれDa、Db、Dcとすると、100<|Da−Db|<2000N/mm2が好ましく、100<|Da−Db|<1000N/mm2がさらに好ましく、100<|Da−Db|<700N/mm2が最も好ましい。
【0087】
テンター工程で、上記のRt/R0の比を目的の範囲内で得るために、工程A、B、Cで好ましいフィルム弾性率の範囲が存在する。工程A、B、Cでのフィルム弾性率をそれぞれDa、Db、Dcとすると、500<Db<2000N/mm2が好ましく、500<Db<1500N/mm2がさらに好ましく、500<Db<1000N/mm2が最も好ましい。
【0088】
(フィルム中の残留溶媒における貧溶媒含有量(%))
テンター工程で、上記のRt/R0の比を目的の範囲内で得るために、工程A、B、C各終点時点でのフィルム中の残留溶媒について好ましい良溶媒及び貧溶媒の比率が存在する。工程A、B、C終了時点でのそれぞれの残留貧溶媒質量/(残留良溶媒質量+残留貧溶媒質量)×100(%)が95質量%〜15質量%の範囲が好ましい。更に、95質量%〜25質量%が好ましく、95質量%〜30質量%の範囲が最も好ましい。また、工程A、B、C終了時点でのそれぞれの残留貧溶媒質量/(残留良溶媒質量+残留貧溶媒質量)×100(%)は同一であっても、異なっていても良い。
【0089】
(工程A、B、Cでのフィルムの温度設定と残留溶媒量)
フィルムを幅手方向に延伸する工程で、フィルムの幅手方向で光学遅相軸の分布(以下、配向角分布)が悪くなることは、よく知られている。RtとR0のバランスを良好なものにし、且つ、配向角分布を良好な状態で幅手延伸を行うため、工程A、B、Cで好ましいフィルム温度の相対関係が存在する。工程A、B、C終点でのフィルム温度をそれぞれTa、Tb、Tc℃とすると、Ta≦Tb−10であることが好ましい。また、Tc≦Tbであることが好ましい。Ta≦Tb−10且つ、Tc≦Tbであることがさらに好ましい。
【0090】
テンター工程において、フィルムを搬送方向に対して垂直に延伸する際、配向角分布を小さくしかつRt/R0を良好な範囲にするために、工程Bでは、ベースが比較的柔らかい状態で延伸を行い、工程A、Cでは工程Bに比較してベースが硬い状態であることが好ましい。上記条件は、具体的にはフィルム温度およびフィルム残留溶媒量をコントロールすることにより達成出来る。各工程での雰囲気温度としてはフィルム残留溶媒量にも影響されるが、工程Aで30〜40℃、工程B、Cでは30〜140℃であることが好ましい。具体的には、工程B終了時のフィルム残留溶媒量が工程B開始時のフィルム残留溶媒量の0.4〜0.8の範囲にある時、工程Bの雰囲気温度は110〜140℃であることが好ましい。工程B終了時のフィルム残留溶媒量が工程B開始時のフィルム残留溶媒量の0.4〜0.8の範囲にある時、工程B開始時のフィルム温度は30〜140℃であり工程B終了時のフィルム温度は70〜140℃の範囲であることが好ましい。また、工程B終了時のフィルム残留溶媒量が工程B開始時のフィルム残留溶媒量を基準に0.8〜0.99の範囲にある時、工程Bの雰囲気温度は30〜130℃であることが好ましい。工程B終了時のフィルム残留溶媒量が工程B開始時のフィルム残留溶媒量を基準に0.8〜0.99の範囲にある時、工程B開始時のフィルム温度は30〜130℃であり工程B終了時のフィルム温度は60〜130℃の範囲であることが好ましい。
【0091】
工程Bでのフィルム昇温速度は、配向角分布を良好にし、且つ、Rt/R0を好ましい範囲にするために、0.5〜10℃/sの範囲が好ましい。
【0092】
工程Bでの延伸時間は、Rt/R0を好ましい範囲にするためには、短時間である方が好ましい。但し、フィルムの均一性の観点から、最低限必要な延伸時間の範囲が規定される。具体的には1〜10秒の範囲であることが好ましく、4〜10秒がより好ましい。
【0093】
上記テンター工程において、熱伝達係数は一定でもよいし、変化させても良い。熱伝達係数としては、41.9〜419×103J/m2・hrの範囲の熱伝達係数を持つことが好ましい。さらに好ましくは、41.9〜209.5×103J/m2・hrの範囲であり、41.9〜126×103J/m2・hrの範囲が最も好ましい。
【0094】
tとR0の値を目的の範囲内で得るために、上記工程Bでの幅手方向への延伸速度は、一定で行っても良いし、変化させても良い。延伸速度としては、50%/min〜500%/minが好ましく、さらに、好ましくは100%/min〜400%/min、200%/min〜300%/minが最も好ましい。
【0095】
テンター工程において、フィルム雰囲気温度分布が少ない事は、フィルムの均一性を高める観点から好ましい範囲が存在する。テンター工程での温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。上記、温度分布を少なくすることにより、フィルムの巾手での温度分布も小さくなることが期待できる。
【0096】
(セルロースエステルフィルム製造時の延伸角度)
本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法の工程Bにおいて、支持体上に流延後のセルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸するが、ここで、図1を用いて延伸工程の一態様を説明する。
【0097】
工程Bにおいて、図1に示される延伸角度としては、2°〜10°が好ましく、3°〜7°がさらに好ましく、3°〜5°が最も好ましい。
【0098】
本発明での好ましいリターデーションを得るため、セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際の延伸倍率は、1.1〜2.5倍が好ましく、1.3〜1.8がさらに好ましく、1.3〜1.6が最も好ましい。
【0099】
工程Bでセルロースエステルフィルムを延伸する際、1軸延伸機を用いても良いし、2軸延伸機を用いても良い。
【0100】
工程Cに於いて、寸法変化を抑えるためフィルム搬送方向に対して垂直な方向に緩和する事が好ましい。具体的には、前工程のフィルム幅に対して95〜99.5%の範囲になるようにフィルム幅を調整する事が好ましい。
【0101】
テンター工程で処理した後、更に乾燥工程(以下、工程D1)を設けるのが好ましい。テンター工程でセルロースエステルフィルムに付与された光学特性を洗練し、且つ、乾燥を行う目的で50℃〜140℃の温度範囲で熱処理を行うのが好ましい。更に好ましくは、80℃〜140℃の範囲であり、最も好ましくは80℃〜130℃の範囲である。
【0102】
テンター工程でセルロースエステルフィルムに付与された光学特性を洗練し、且つ、乾燥を行う目的で熱伝達係数20.9J/m2hr〜126×103J/m2hrで熱処理を行うのが好ましい。更に好ましくは、41.9J/m2hr〜129×103J/m2hrの範囲であり、最も好ましくは41.9J/m2hr〜83.7×103J/m2hrの範囲である。
【0103】
(工程D1でのフィルム温度分布)
工程D1で、幅手フィルム面内でありフィルム搬送に対して垂直な方向でフィルム雰囲気温度分布が少ない事は、フィルムの均一性を高める観点から好ましい範囲が存在する。テンター工程での温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。
【0104】
(工程D1でのフィルム搬送張力)
工程D1でのフィルム搬送張力としては、搬送方向のフィルム伸びを防止するために、好ましい条件が存在する。工程D1でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時及び工程D0での残留溶媒量、工程D1での温度などに影響を受けるが、120N/m〜200N/mが好ましく、140N/m〜200N/mがさらに好ましい。140N/m〜160N/mがもっとも好ましい。
【0105】
工程D1での搬送方向へフィルムの伸びを防止する目的で、テンションカットロールを設けることが好ましい。乾燥終了後、巻き取り前にスリッターを設けて端部を切り落とすことが良好な巻姿を得るため好ましい。
【0106】
(セルロースエステルフィルムの幅手方向、長手方向の引き裂き強度)
セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際に、機械搬送方向(以下、MD方向)と機械搬送方向と垂直な方向(以下、TD方向)のフィルム引き裂き強度の比をある範囲に制御する条件で延伸する事が好ましい。TD、MD方向の引き裂き強度をそれぞれHtd、Hmdとしたとき、0.6<Htd/Hmd<1が好ましく、0.783<Htd/Hmd<1がさらに好ましく、0.83<Htd/Hmd<1がもっとも好ましい。
【0107】
(セルロースエステルフィルムの幅手方向、長手方向の寸法変化率)
セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際に、寸法変化率をある範囲に制御する条件で延伸する事が好ましい。TD、MD方向の寸法変化率をそれぞれStd、Smdとしたとき、−0.4%<Std、Smd<0.4%が好ましく、−0.25%<Std、Smd<0.25%がさらに好ましく、−0.2%<Std、Smd<0.2%がもっとも好ましい。
【0108】
セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際に、ドープ作製時の可塑剤量、紫外線吸収剤量と延伸終了後のフィルムに含有される可塑剤量、紫外線吸収剤量の変化率をある範囲に制御する条件で延伸する事が好ましい。可塑剤量、紫外線吸収剤量の変化率は、10%以内が好ましく、7%以内がさらに好ましく、5%以内がもっとも好ましい。
【0109】
セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際に、延伸終了後のフィルムの結晶化度をある範囲に制御する条件で延伸する事が好ましい。
【0110】
セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際に、可塑剤分布をある範囲に制御する条件で延伸する事が好ましい。
【0111】
上記の製造方法で製造されたセルロースエステルフィルムについて説明する。
【0112】
(セルロースエステルフィルムのリターデーション(R0、Rt)特性)
本発明の位相差フィルム、光学補償シート、楕円偏光板等に組み込まれ視野角表示効果の高い、液晶表示装置を得る観点から、セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸して、結果的に、セルロースエステルフィルムのRt/R0の比を0.8≦Rt/R0≦3.5になるように調整する必要があるが、好ましくは、0.8≦Rt/R0≦3.0であり、更に好ましくは、0.8≦Rt/R0≦2.5である。
【0113】
本発明のセルロースエステルフィルムのフィルムの面内方向のリターデーション(R0)としては30nm〜1000nmの範囲が好ましく、更に好ましくは、30nm〜500nmの範囲であり、特に好ましくは、30nm〜150nmがであり、最も好ましくは、30nm〜75nmの範囲である。
【0114】
また、同上の理由で、本発明にセルロースエステルフィルムのフィルムの厚み方向のリターデーション(Rt)としては、30nm〜1000nmの範囲が好ましく、更に好ましくは、30nm〜500nmの範囲であり、特に好ましくは、30nm〜250nmの範囲である。
【0115】
また、セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際に、幅手方向での配向角分布をある範囲に制御しながら延伸する事が特に好ましい。配向角が幅手方向の何れの測定点においても、測定点すべての平均配向角の角度から±2°以内が好ましく、±1°がより好ましく、±0.5°がもっとも好ましい。
【0116】
(配向角)
本発明において、配向角とはセルロースエステルフィルム面内における遅相軸の方向(流延製膜時の幅手方向に対する角度)を表し、また、配向角の測定は、自動複屈折計KOBURA−21ADHを用いて行った。
【0117】
幅手延伸したセルロースエステルフィルムの配向角が乱れることは、フィルムの長手方向に意図しない延伸が起こったことが原因の一つであると考えられる。長手方向に意図しない延伸が行われると、長手方向に遅相軸を持つ面内リターデーションを持ち、さらにフィルムの厚み方向のリターデーションをも上昇させ、配向角分布を劣化させる。このフィルムを幅手方向に遅相軸を持つ面内リターデーションを持たせるには、前述の長手方向に遅相軸をもつ面内リターデーションをキャンセルする必要が生ずるため、更なるフィルム厚み方向のリターデーション上昇を引き起こす。従って、配向角を均一に制御することにより面内、および厚み方向のリターデーションを均一にし、さらにRt/R0を低く保つことができる。
【0118】
(セルロースエステルフィルムのリターデーション分布)
本発明においては、セルロースエステルフィルムの面内方向のリターデーション(R0)分布を好ましくは5%以下に調整し、更に好ましくは、2%以下であり、特に好ましくは、1.5%以下である。また、フィルムの厚み方向のリターデーション(Rt)分布を好ましくは10%以下に調整し、更に好ましくは、2%以下であり、特に好ましくは、1.5%以下である。
【0119】
上記、リターデーション分布の数値は、得られたフィルムの幅手方向に1cm間隔でリターデーションを測定し、得られたリターデーションの変動係数(CV)で表したものである。リターデーション、その分布の数値の測定方法については後述する。
【0120】
(測定波長違いによるリターデーション特性変化)
セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸した際、波長違いによるリターデーション変化が小さい方がLCDパネルに組み込んだ際の色ムラを防止する意味で好ましい。
【0121】
好ましくは、0.7<R450/R0<1.0、1.0<R650/R0<1.5である。さらに好ましくは0.7<R450/R0<0.95、1.01<R650/R0<1.2であり、特に好ましくは0.8<R450/R0<0.93、1.02<R650/R0<1.1である。
【0122】
(セルロースエステルフィルムの透過率)
LCD表示装置の部材としては高い透過率と紫外線吸収性能が求められ、上述の添加剤を組み合わせて添加し、製造されたセルロースエステルフィルムの500nm透過率は、85%から100%が好ましく、90%から100%がさらに好ましく、92%から100%が最も好ましい。また、400nm透過率は40%から100%が好ましく、50%から100%がさらに好ましく、60%から100%がもっとも好ましい。また、380nm透過率は0%から10%が好ましく、0%から5%がさらに好ましく、0%から3%が最も好ましい。
【0123】
(セルロースエステルフィルムの幅手方向の膜厚分布)
セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際に、幅手方向での膜厚分布R(%)を0≦R(%)≦8%に調整することが好ましく、更に好ましくは、0≦R(%)≦5%であり、特に好ましくは、0≦R(%)≦4%である。
【0124】
(セルロースエステルフィルムのヘイズ値)
幅手方向に延伸したセルロースエステルフィルムのヘイズ値が上昇することは、フィルムの長手方向に意図しない延伸が起こったことが原因の一つであると考えられる。ヘイズ値を低く制御する条件で延伸することにより面内、および厚み方向のリターデーションを均一にし、さらにRt/R0を低く保つことができる。
【0125】
セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際に、延伸終了後のフィルムヘイズ値をある範囲に制御する条件で延伸する事が好ましい。フィルムヘイズ値が、2%以内が好ましく、1.5%がより好ましく、1%以内がもっとも好ましい。
【0126】
(セルロースエステルフィルムの弾性率)
セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際に、延伸終了後のフィルムの引っ張り強度をある範囲に制御する条件で延伸する事が好ましい。
【0127】
セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際に、延伸終了後のフィルムの弾性率をある範囲に制御する条件で延伸する事が好ましい。幅手方向(TD)、長手方向(MD)の弾性率は同じであっても異なっていても良い。幅手方向に延伸したセルロースエステルフィルムに長手方向に意図しない延伸が起こった場合弾性率を変化させる結果となる。弾性率をある範囲に制御する条件で延伸することにより面内、および厚み方向のリターデーションを均一にし、さらにRt/R0を低く保つことができる。
【0128】
具体的には、弾性率が1.5GPa〜5GPaの範囲が好ましく、更に好ましくは、1.8GPa〜4GPaであり、特に好ましくは、1.9GPa〜3GPaの範囲である。
【0129】
幅手方向に延伸したセルロースエステルフィルムに長手方向に意図しない延伸が起こった場合延伸終了後のフィルムの破断点応力を変化させる結果となる。破断点応力をある範囲に制御する条件で延伸することにより面内、および厚み方向のリターデーションを均一にし、さらにRt/R0を低く保つことができる。幅手方向(TD)、長手方向(MD)の破断点応力は同じであっても異なっていても良い。
【0130】
具体的には、破断点応力が50から200MPaの範囲で制御することが好ましく、70から150MPaの範囲で制御する事がさらに好ましく、80から100MPaの範囲に制御することが最も好ましい。
【0131】
幅手方向に延伸したセルロースエステルフィルムに長手方向に意図しない延伸が起こった場合延伸終了後のフィルムの破断点伸度を変化させる結果となる。破断点伸度をある範囲に制御する条件で延伸することにより面内、および厚み方向のリターデーションを均一にし、さらにRt/R0を低く保つことができる。幅手方向(TD)、長手方向(MD)の 破断点伸度は同じであっても異なっていても良い。
【0132】
具体的には、23℃、55%RHでの破断点伸度が20から80%の範囲で制御することが好ましく、30から60%の範囲で制御する事がさらに好ましく、40から50%の範囲に制御することが最も好ましい。
【0133】
幅手方向に延伸したセルロースエステルフィルムに長手方向に意図しない延伸が起こった場合延伸終了後のフィルムの吸湿膨張率を変化させる結果となる。セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際に、延伸終了後のフィルムの吸湿膨張率をある範囲に制御する条件で延伸する事が好ましい。幅手方向(TD)、長手方向(MD)の吸湿膨張率は同じであっても異なっていても良い。
【0134】
具体的には、吸湿膨張率が−1から1%の範囲が好ましく、−0.5から0.5%の範囲が更に好ましく、0から0.2%以下が最も好ましい。
【0135】
幅手方向に延伸したセルロースエステルフィルムに長手方向に意図しない延伸が起こった場合輝点異物の発生をうながす。延伸終了後のフィルム中での輝点異物の発生を抑える条件で延伸することにより面内、および厚み方向のリターデーションを均一にし、さらにRt/R0を低く保つことができる。
【0136】
具体的には、輝点異物が0から80個/cm2の範囲で制御することが好ましく、0から60個/cm2の範囲で制御する事がさらに好ましく、0から30個/cm2の範囲に制御することが最も好ましい。
【0137】
一般的にセルロースエステルフィルムを偏光板保護フィルムとして使用する場合、偏光子との接着性を良好なものにするため、アルカリ鹸化処理を行うことがある。アルカリ鹸化処理後のフィルムと偏光子とをポリビニルアルコール水溶液を接着剤として接着するため、セルロースエステルフィルムのアルカリ鹸化処理後の水との接触角が高いとポリビニルアルコールでの接着ができず偏光板保護フィルムとしては問題となる。
【0138】
このため、アルカリ鹸化処理後のセルロースエステルフィルムの接触角は0から60°が好ましく、5から55°がさらに好ましく、10から30°がもっとも好ましい。
【0139】
(セルロースエステルフィルムの中心線平均粗さ(Ra))
セルロースエステルフィルムをLCD用部材として使用する際、フィルムの光漏れを低減するため高い平面性が要求される。中心線平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601に規定された数値であり、測定方法としては、例えば、触針法もしくは光学的方法等が挙げられる。
【0140】
本発明のセルロースエステルフィルムの中心線平均粗さ(Ra)としては、20nm以下が好ましく、更に好ましくは、10nm以下であり、特に好ましくは、3nm以下である。
【0141】
以下に、本発明のセルロースエステルフィルムに係る測定値の測定方法及び後述する実施例において用いられる測定方法の概要を説明する。
【0142】
(残留溶媒量中での貧溶媒量)
残留溶媒を含んだサンプルから、残留溶媒を減圧捕集し、ガスクロマトグラフィー測定により各溶媒の定量を行った。
【0143】
(フィルム弾性率、破断点伸度、破断点応力)
任意の残留溶媒を含むフィルムを試料幅を10mm、長さ130mmに切り出し、任意温度、メチクロ飽和雰囲気下でチャック間距離100mmにして引っ張り速度100mm/分で引っ張り試験を行い求めた。
【0144】
残留溶媒を含まないフィルムの場合、JIS K 7127に記載の方法に従い23℃ 55% RHの環境下で測定を行った。試料幅を10mm、長さ130mmに切り出し、任意温度でチャック間距離100mmにし、引っ張り速度100mm/分で引っ張り試験を行い求めた。
【0145】
(遅相軸方向(幅手方向)の屈折率、進相軸方向(長手方向)の屈折率、厚さ方向(厚み方向)の屈折率及び遅相軸の方向の測定)
アッベの屈折率計より試料の平均屈折率を求めた。さらに、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が590nmにおいて、3次元屈折率測定を行い、得られた位相差の測定値と平均屈折率から計算により屈折率Nx、Ny、Nzを求めた。
【0146】
(リターデーション(R0、Rt)値、及び各々の分布)
自動複屈折計KOBURA・21ADH(王子計測器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が590nmにおいて、試料の幅手方向に1cm間隔で3次元複屈折率測定を行った。得られた面内および厚み方向のリターデーションをそれぞれ(n−1)法による標準偏差をもとめた。リターデーション分布は以下で示される変動係数(CV)を求め、指標とした。実際の測定にあたっては、nとしては、130〜140に設定した。
【0147】
変動係数(CV)=標準偏差/リターデーション平均値
(波長分散特性)
自動複屈折計KOBURA−21ADH(王子計測器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が450、650nmにおいて、3次元複屈折率測定を行った。それぞれ得られた値をR450、R650とした。
【0148】
波長分散特性は、R450/R0およびR650/R0をそれぞれ評価した。
【0149】
(乾燥フィルム引き裂き強度)
フィルムを、温度23℃、相対湿度55%に調湿された部屋で4時間調湿した後、試料寸法試料幅50mm×64mmに切り出し、ISO 6383/2−1983に従い測定して求めた。
【0150】
(寸法変化率)
フィルムを、温度23℃、相対湿度55%に調湿された部屋で4時間調湿した後、幅手、長手それぞれに約10cm間隔にカッターにより目印をつけ、距離(L1)を測定した。次に、60℃90%に調湿された恒温槽中でフィルムを24h保管。再度、フィルムを温度23℃、相対湿度55%に調湿された部屋で4時間調湿した後、目印の距離(L2)を測定した。寸法変化率は、以下の式により評価を行った。
【0151】
寸法変化率(%)={(L2−L1)/L1}×100
(吸湿膨張率)
フィルムを、温度23℃、相対湿度55%に調湿された部屋で4時間調湿した後、幅手、長手それぞれに約20cm間隔にカッターにより目印をつけ、距離(L3)を測定した。次に、60℃90%に調湿された恒温槽中でフィルムを24h保管。フィルムを恒温槽から出した後、2分以内に目印の距離(L4)を測定した。吸湿膨張率は、以下の式により評価を行った。
【0152】
吸湿膨張率(%)={(L4−L3)/L3}×100
(膜厚分布)
試料フィルムを温度23℃、相対湿度55%に調湿された部屋で4時間調湿した後、幅手方向に10mm間隔で、膜厚を測定を行った。得られた膜厚分布データから、以下の式に従って膜厚分布R(%)を算出した。
【0153】
R(%)={R(max)−R(min)}×100/R(ave)
ここで、R(max):最大膜厚、R(min):最小膜厚、R(ave):平均膜厚
(ヘイズ値)
JIS K−6714に従って、ヘイズメーター(1001DP型、日本電色工業(株)製)を用いて測定し、透明性の指標とした。
【0154】
(透過率の測定)
透過率Tは、分光高度計U−3400(日立製作所(株))を用い、各試料を350〜700nmの波長領域で10nmおきに求めた分光透過率τ(λ)から、380、400、500nmの透過率を算出した。
【0155】
(カール)
当該フィルム試料を25℃55%RH環境下で3日間放置後、該フィルムを巾手方向50mm、長手方向2mmに裁断した。さらに、そのフィルム小片を23℃±2℃55%RH環境下で24時間調湿し、曲率スケールを用いて該フィルムのカール値を測定する。カール度の測定はJIS−K7619−1988のA法に準じて行った。
【0156】
カール値は1/Rで表され、Rは曲率半径で単位はmを用いる。
【0157】
(輝点異物)
試料を2枚の偏光子を直交状態(クロスニコル状態)で挟み、一方の偏光板の外側から光を当て、他方の偏光板の外側から顕微鏡(透過光源で倍率30倍)で25mm2当たりに見られる白く光って見える異物の数を測定した。測定は、10箇所にわたって行い計250mm2当たりの個数から輝点異物を個/cm2を求め評価した。本発明では、輝点異物の大きさは5から50μm2であり、それ以上のものは観測されなかった。
【0158】
(ケン化処理後接触角)
試料を2.5N NaOHに50℃、2.5分処理、続いて純水により2.5分洗浄を行った。処理後の試料を温度23℃、相対湿度55%条件で24H調湿し、共和界面科学株式会社製接触角計CA−D型を用いて測定した。
【0159】
(中心線平均粗さRa)
非接触表面微細形状計測装置WYKO NT−2000を用いて、中心線平均粗さ(Ra)を測定した。
【0160】
(像鮮明度)
JIS K−7105で定義される。1mmスリットで測定した時、90%以上が好ましく、95%以上が好ましく、99%以上が好ましい。
【0161】
(吸水率の測定方法)
試料を、10cm×10cmの大きさに裁断し、23℃の水中に24時間浸漬し、取り出した直後に回りの水滴を濾紙でふき取り、その質量を測定し、W1とした。次にこのフィルムを、23℃−55%RHの雰囲気下で24時間調湿した後、その質量を測定しW0とした。それぞれの測定値から下記式により計算して、23℃の水中に24時間浸漬した時の吸水率が得られる。
【0162】
吸水率(%)={(W1−W0)/W0}×100
(水分率の測定方法)
試料を10cm×10cmの大きさに裁断し、23℃−80%RHの雰囲気下で48時間調湿した後、その質量を測定しW3とした。次にこのフィルムを120℃−45分間乾燥した後の質量を測定し、W2とした。それぞれの測定値から下記式により計算し、23℃−80%RHにおける水分率が得られる。
【0163】
水分率(%)={(W3−W2)/W2}×100
(透湿度の測定方法)
JIS Z 0208に記載の方法で測定する事が出来る値で定義する。本発明のセルロースエステルフィルムの透湿度は、25℃、90%RH環境下で10〜250g/m2・24時間であることが好ましく、20〜200g/m2・24時間であることがさらに好ましく、50〜180g/m2・24時間であることが最も好ましい。
【0164】
本発明の位相差フィルム(位相差板ともいう)について説明する。
【0165】
本発明のセルロースエステルフィルムは、それ自身で液晶表示装置の視野角を拡大する位相差フィルム(位相差板ともいう)として使用することが出来る。
【0166】
本発明に光学補償シートについて説明する。
【0167】
本発明のセルロースエステルフィルム上に直接またはその他の層を介して、光学異方性化合物を含む光学異方性を設け、光学補償シートが得られる。
【0168】
幅手方向に延伸したセルロースエステルフィルム上に光学異方性化合物を含有する光学異方層を設ける場合、セルロースエステルフイルム流延時、支持体に面する側に光学異方層を設ける方がフィルムの平滑性の観点から好ましい。
【0169】
幅手方向に延伸したセルロースエステルフィルム上に液晶性化合物を塗布し光学異方層を設ける場合、セルロースエステルフィルム流延時、支持体に面しない側に光学異方層を設ける方が、液晶の配向性の観点から好ましい。
【0170】
本発明の偏光板、それを用いた本発明の液晶表示装置について説明する。
【0171】
本発明の偏光板に用いる偏光子としては、従来公知のものを用いることができる。例えば、ポリビニルアルコールの如き親水性ポリマーからなるフィルムを、ヨウ素の如き二色性染料で処理して延伸したものや、塩化ビニルの如きプラスチックフィルムを処理して配向させたものを用いる。こうして得られた偏光子を、セルロースエステルフィルムによりラミネートする。
【0172】
そして、偏光板は、本発明の光学補償フィルムを偏光子の少なくとも片側に積層したものとして構成され、片側のみの場合は、他面に液晶層を塗設しない本発明のセルロースエステルフィルム支持体やその他の透明支持体もしくはTAC(トリアセテート)フィルムを使用してもよい。
【0173】
本発明のセルロースエステルフィルムは偏光板保護フィルムとしても好ましく用いることが出来る。例えば、直接または配向層を介して、液晶を塗布して配向、固定化した光学異方層(例えばハイブリッド配向で固定化した層)を設け、これを偏光板保護フィルムとして視野角拡大効果を有する偏光板を作製することが出来る。
【0174】
例えば、反射防止層/防眩層/偏光板保護フィルム(TAC)/偏光子/本発明のセルロースエステルフィルム/配向層/光学異方層という構成の偏光板とすることが出来る。
【0175】
セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際に、延伸終了後のフィルムの表面エネルギーをある範囲に制御する条件で延伸する事が好ましい。
【0176】
セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際に、延伸終了後のフィルムの導電性をある範囲に制御する条件で延伸する事が好ましい。
【0177】
セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際に、延伸終了後のフィルムのカールをある範囲に制御する条件で延伸する事が好ましい。
【0178】
具体的には、温度23℃、相対湿度55%でのカール値が−20(l/m)〜20(1/m)の範囲が好ましく、更に好ましくは、−15(1/m)〜15(1/m)の範囲であり、特に好ましくは、−10(1/m)〜10(1/m)の範囲である。
【0179】
また、セルロースエステルフィルムを偏光板保護フィルムとして使用する場合、偏光板の耐久性及び、偏光板作製時のおける吸水率が4.5%を越えると、偏光板の耐久性として問題があり、また、1.0%未満の場合は偏光板作製時に偏光子と保護フィルムを貼合し乾燥する際の乾燥性が劣化してくる。
【0180】
セルロースエステルフィルムの水分率としては、0.5%〜4.5%の範囲が好ましく、1.5%〜3.5%の範囲がさらに好ましく、1.5%〜3.0%の範囲であることが最も好ましい。
【0181】
この様にして得られた偏光板が、液晶セルのセル側一面に設けても良く、両面側に設けてもよい。いずれの場合においても、本発明の光学補償フィルムは偏光子に対して液晶セルに近い方に貼りつけて、本発明の液晶表示装置が得ることが出来る。
【0182】
液晶表示装置に本発明の光学補償フィルムを設置する場合、駆動用液晶セルの両側に位置する一対の基板の上下に配置された上側偏光子と下側偏光子が通常構成されるが、このとき該基板と上側もしくは下側偏光子のどちらか一方の間、または該基板と上側および下側偏光子のそれぞれ間に本発明の光学補償フィルムを少なくとも1枚設置されるが、低コスト化の観点と本発明の目的を効果的に発現させるためには、表示装置とした場合の観察者側の偏光子と駆動セル側との基板の間に本発明の光学補償フィルムを1枚設置することが好ましい。
【0183】
液晶表示装置が特にツイステッドネマティック型(TN型)液晶表示装置である場合、TN型液晶セルに最も近い基板に前記光学補償フィルムのセルロースエステルフィルム支持体面が接触する方向に光学補償フィルムを貼合し、かつ光学補償フィルムのセルロースエステルフィルム支持体面内の最大屈折率方向が前記液晶セルに最も近い基板のネマティック液晶の配向方向と実質的に直交した方向に貼合することが本発明の目的を効果的に発現できる。実質的に直交とは、90°±5°であるが、90°にすることが好ましい。
【実施例】
【0184】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0185】
実施例1
《セルロースエステルフィルム1の作製》
下記に記載のように、ドープ液の調製、紫外線吸収剤溶液の調製を行い、それらを用いてセルロースエステルフィルム1を作製した。
【0186】
(ドープの調製)
アセチル基の置換度2.00、プロピオニル基の置換度0.80、粘度平均重合度350のセルロースアセテートプロピオネート100質量部、エチルフタリルエチルグリコレート2質量部、トリフェニルフォスフェイト8.5質量部、塩化メチレン290質量部、エタノール60質量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり攪拌しながら徐々に昇温し、60分かけて45℃まで上げ溶解した。容器内は1.2気圧となった。このドープを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した後、24時間静置しドープ中の泡を除いた。
【0187】
(紫外線吸収剤溶液の調製)
また、これとは別に、上記セルロースアセテートプロピオネート5質量部、チヌビン326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)6質量部、チヌビン109(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)4質量部、チヌビン171(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)5質量部、を塩化メチレン94質量部とエタノール8質量部を混合し撹拌溶解し、紫外線吸収剤溶液を調製した。
【0188】
ドープ100質量部に対して前記紫外線吸収剤溶液を2質量部の割合で加え、スタチックミキサーにより十分混合した後、ダイからステンレスベルト上にドープ温度30℃で、幅1.6mで流延した。ステンレスベルトの裏面から25℃の温度の温水を接触させて温度制御されたステンレスベルト上で1分間乾燥した後、更にステンレスベルトの裏面に、15℃の冷水を接触させて15秒間把持した後、ステンレスベルトから剥離した。
【0189】
剥離時のウェブ中の残留溶媒量は80質量%であった。ついで、D0ゾーンでのフィルム搬送張力を100N/mで搬送を行った。D0終点でのエタノール/(塩化メチレン+エタノール)質量は70%であった。
【0190】
次いで一軸延伸テンターを用いて工程Aで剥離したウェブの両端をクリップで把持し、工程Bでクリップ間隔を幅手方向に延伸速度250%/minで変化させた。この時、フィルム雰囲気温度は120℃、延伸倍率は1.5倍であった。
【0191】
延伸開始時のフィルム温度は80℃、残留溶媒量は25質量%、延伸終了時、フィルム温度は120℃、残留溶媒量は延伸開始時の60%であり、エタノール/(エタノール+塩化メチレン)質量は93%であった。
【0192】
次に、工程Cでフィルムを把持したまま搬送を行った。工程Cでは工程Bでの巾に対して98%となるように緩和を行った。工程A、Bでの塩化メチレン雰囲気濃度は4000ppmであった。又、工程Cでの塩化メチレン雰囲気濃度は飽和濃度の60%以下であった。続いて、雰囲気温度を100℃に設定した工程D1でフィルムの乾燥を行い、セルロースエステルフィルム1を得た。
【0193】
工程B終了時でのフィルム弾性率は600N/mm2であり、工程D1開始時でのフィルム弾性率は2000N/mm2であった。
【0194】
得られたセルロースエステルフィルムを、コア径200mmのガラス繊維強化樹脂製のコアに巾1m、長さ1000mのフィルムロール状にテーパーテンション法で巻き取った。この際、フィルム端部に温度250℃のエンボスリングを押し当て、厚みだし加工を施して、フィルム同士の密着を防止した。
【0195】
得られたフィルムロールから取り出したフィルムの中央部を用いてサンプリングし、幅手、長手、膜厚方向の屈折率をそれぞれNx、Ny、Nzを測定したところ、各々1.47783、1.47703、1.47613であった。また、膜厚は80μmであった。
【0196】
次いで、下記に示すような光学特性を測定した。
【0197】
Nx−Ny=0.0008
(Nx+Ny)/2−Nz=0.0013
0=64nm
t=104nm
t/R0=1.63
0分布=1.4%
t分布=1.6%
また、得られたフィルムロールからフィルム中央部をサンプリングし、ヘイズ値を測定したところ0.1%であった。
【0198】
以上から、本発明のセルロースエステルフィルム1は位相差フィルム、光学補償シート等の用途に適して優れた光学的特性を有することが判る。
【0199】
実施例2
《セルロースエステルフィルム2の作製》
セルロースエステルフィルム1の作製と同様にして、ドープを作製し、ベルト上に流延剥離を行った。剥離時のウェブ中の残留溶媒量は90質量%であった。ついで、D0ゾーンでのフィルム搬送張力を100N/mで搬送を行った。D0終点でのエタノール/(塩化メチレン+エタノール)質量は62%であった。
【0200】
次いで一軸延伸テンターを用いて工程Aで剥離したウェブの両端をクリップで把持し、工程Bでクリップ間隔を巾方向に延伸速度250%/minで広げた。この時、フィルム雰囲気温度は170℃、延伸倍率は1.5倍であった。
【0201】
延伸開始時のフィルム温度は80℃、残留溶媒量は30質量%、延伸終了時、フィルム温度は100℃、残留溶媒量は延伸開始時の90%であり、エタノール/(エタノール+塩化メチレン)質量は66%であった。
【0202】
次の工程Cでは工程Bでの巾に対して98%となるように緩和を行った。工程A、Bでの塩化メチレン雰囲気濃度は4000ppmであった。又、工程Cでの塩化メチレン雰囲気濃度は飽和濃度の60%以下であった。
【0203】
続いて、雰囲気温度を100℃に設定した工程D1でフィルムの乾燥を行い、セルロースエステルフィルム2を得た。
【0204】
工程B終了時のフィルム弾性率は500N/mm2であり、工程D1開始時でのフィルム弾性率は1800N/mm2であった。
【0205】
得られたフィルムは、コア径200mmのガラス繊維強化樹脂製のコアに巾1m、長さ1000mのフィルムロール状にテーパーテンション法で巻き取った。この際、フィルム端部に温度250℃のエンボスリングを押し当て、高さ10μm程度の厚みだし加工を施して、フィルム同士の密着を防止した。
【0206】
得られたフィルムロールからフィルムの中央部からサンプリングし幅手、長手、膜厚方向の屈折率を、各々Nx、Ny、Nzを上記により測定した。それぞれは、1.47790、1.47710、1.47600であり、膜厚は80μmであった。
【0207】
次いで、下記に示すような光学特性を測定した。
【0208】
Nx−Ny=0.0008
(Nx+Ny)/2−Nz=0.0015
0=64nm
t=120nm
t/R0=1.88
0分布=1.3%
t分布=1.4%
また、遅相軸の方向は、各サンプル共、フィルムの巾方向に対し±0.4度の範囲に収まっていた。得られたフィルムロールからフィルム中央部をサンプリングし、ヘイズ値を測定したところ0.1%であった。
【0209】
以上から、本発明のセルロースエステルフィルム2は位相差フィルム、光学補償シート等の用途に適した優れた光学的特性を有することが判る。
【0210】
実施例3
《セルロースエステルフィルム3(比較例)の作製》
セルロースエステルフィルム1の作製と同様にして、ドープを作製し、ベルト上に流延剥離を行った。剥離時のウェブ中の残留溶媒量は90質量%であった。ついで、D0ゾーンでのフィルム搬送張力を100N/mで搬送を行った。D0終点でのエタノール/(塩化メチレン+エタノール)質量は95%であった。
【0211】
次いで一軸延伸テンターを用いて工程Aで剥離したウェブの両端をクリップで把持した。工程Bでクリップ間隔を巾方向に延伸速度250%/min変化させた。この時、フィルム雰囲気温度は170℃、延伸倍率は1.5倍であった。
【0212】
延伸開始時のフィルム温度は150℃、残留溶媒量は4質量%、延伸終了時、フィルム温度は170℃、残留溶媒量は延伸開始時の30%であり、エタノール/(エタノール+塩化メチレン)質量は98%であった。
【0213】
次に、工程Cでフィルムを把持したまま搬送を行った。工程A、Bでの塩化メチレン媒雰囲気濃度は4000ppmであった。
【0214】
続いて、フィルムは、雰囲気温度を100℃に設定した工程D1に搬送され、更に乾燥されセルロースエステルフィルム3を得た。工程Bでのフィルム弾性率は1500N/mm2であり、工程D1でのフィルム弾性率は2000N/mm2であった。
【0215】
得られたセルロースエステルフィルムは、コア径200mmのガラス繊維強化樹脂製のコアに巾1m、長さ1000mのフィルムロール状にテーパーテンション法で巻き取った。この際、フィルム端部に温度250℃のエンボスリングを押し当て、厚みだし加工を施して、フィルム同士の密着を防止した。
【0216】
得られたフィルムロールからフィルムの中央部からサンプリングし幅手、長手、膜厚方向の屈折率をそれぞれNx、Ny、Nzを下記により測定した。それぞれは、1.47792、1.47742、1.47567であり、膜厚は80μmであった。これらから、Nx−Ny、(Nx+Ny)/2−Nz、R0、Rtのそれぞれを算出したところ、順に0.0005、0.002、40.0nm、160.0nmであった。
【0217】
0に比較しRtが非常に高く視野角改善用位相差フィルムとして問題が残る。また、遅相軸の方向は、フィルム巾方向に対して±2度を超えていた。
【0218】
得られたフィルムについて、その他評価結果を以下にまとめて示す。
【0219】
面内方向(R0)のリターデーション分布 5.1%
厚み方向のリターデーション(Rt)分布 11.2%
膜厚R(ave) 80μm
最大膜厚R(max) 83.4μm
最小膜厚R(min) 76.1μm
膜厚分布R(%) 9.1%
透過率(500nm) 80%
透過率(400nm) 78%
透過率(380nm) 12%
ヘイズ 2.1%
中心線平均粗さ(Ra) 21.1nm
寸法変化率(Smd) −0.41%
寸法変化率(Std) −0.51%
吸湿膨張率(MD) 1.2%
吸湿膨張率(TD) 2.3%
引き裂き強度(MD) 2.2N/μm
引き裂き強度(TD) 1.2N/μm
Htd/Hmd 0.6
破断点応力(MD) 45MPa
破断点応力(TD) 32MPa
破断点伸度(MD) 15%
破断点伸度(TD) 12%
弾性率(MD) 1.4GPa
弾性率(TD) 1.3GPa
カール(23℃、55%RH) 45m-1
輝点異物 85個/cm2
可塑剤含有比(G2/G1) 0.88
ケン化処理後接触角 65°
透湿度 260g/m2・24h
実施例4
《セルロースエステルフィルム4〜9の作製》
セルロースエステルフィルム1の作製において、アセチル置換度が1.9であること以外は同一のドープを用い、幅手、長手方向の引き裂き強度比(Htd/Hmd)を、各々表1に記載のようになるように調整した以外は同様にして、セルロースエステルフィルム4〜9を各々作製した。
【0220】
得られたフィルムの各々について、フィルムの面内方向のリターデーション(R0)、フィルムの厚み方向のリターデーション(Rt)を求め、リターデーション比(Rt/R0)を、を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0221】
【表1】

【0222】
表1から、引き裂き強度比(Htd/Hmd)が0.62〜1.0になるように製造したセルロースエステルフィルム5〜8は、位相差フィルム、光学補償シート等に用いるのに適した光学特性を示すことが判る。
【0223】
実施例5
《セルロースエステルフィルム10〜18の作製》
セルロースエステルフィルム1の作製に用いたセルロースアセテートプロピオネートのプロピオニル置換度が0.7であること以外は同一のドープを用い、幅手、長手方向の寸法変化をそれぞれStd(%)、Smd(%)とした時、Std(%)、Smd(%)が以下の表2に記載の条件になるように幅手方向に延伸し、セルロースエステルフィルム10〜18を各々作製した。
【0224】
また、それぞれのフィルムについて得られたリターデーションの比(Rt/R0)を示す。
【0225】
【表2】

【0226】
表2から、Stdが−0.4〜0.4%の範囲であり、且つ、Smdが−0.4〜0.4%に設定された条件で延伸されたセルロースエステルフィルム10〜16は、位相差フィルム、光学補償シート等に用いるのに適した光学特性を示すことが判る。
【0227】
実施例6
《セルロースエステルフィルム19〜23の作製》
セルロースエステルフィルム1の作製に用いたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル置換度が1.9、プロピオニル置換度が0.7であること以外は同一のドープを用い、幅手方向の上記の膜厚分布R(%)が以下の表3に記載の条件となるように幅手方向に延伸し、セルロースエステルフィルム19〜23を各々作製した。また、それぞれのフィルムについて得られたリターデーションの比(Rt/R0)を示す。
【0228】
【表3】

【0229】
表3から、膜厚分布が0〜8%の条件で延伸されたセルロースエステルフィルム19〜22は、位相差フィルム、光学補償シート等に用いるのに適した光学特性を示すことが判る。
【0230】
実施例7
《偏光板の作製》
(視野角補償楕円偏光板Aの作製)
トリアセチルセルロース支持体(コニカ(株)製、膜厚=80μm)を、60℃、2mol/lの濃度の水酸化ナトリウム水溶液中に2分間浸漬し水洗した後、100℃で10分間乾燥しアルカリ鹸化処理トリアセチルセルロース支持体を得た。
【0231】
また、厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを沃素1質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し、50℃で4倍に延伸して偏光膜(偏光子1)を作った。
【0232】
上記偏光子1の両面にアルカリ鹸化処理したトリアセチルセルロース支持体を、完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として用いて各々貼り合わせ偏光板1を作製した。
【0233】
続いて、上記偏光板1の片面にゼラチン薄膜(0.1μm)を塗設し、下記に示す構造を有するアルキル変性ポリビニルアルコールをメタノール/水=1:3の1.5%溶液をワイヤーバー#3により塗布した。これを65℃温風にて乾燥させた後、支持体の面内において、アルキル変性ポリビニルアルコール塗布面に、偏光板の吸収軸と平行になる方向にラビング処理を行い、配向層を形成した。これらを偏光板1aとする。
【0234】
【化1】

【0235】
上記で作製した偏光板1aの配向層上に、下記溶液LC−1をワイヤバー#6を用いて塗設した。更に、これを55℃の無風状態で30秒乾燥、次いで100度、30秒熱処理を行った後、徐々に降温し、98kPaで60秒間窒素パージした後、酸素濃度0.1%条件下で450mJ/cm2の紫外線により硬化させた膜を作製した。このようにして、液晶性化合物の配向を固定化した、1層の光学異方層を有する偏光板1bを得た。
【0236】
更に上記で得られた偏光板1bの光学異方層面と実施例1に記載のセルロースエステルフィルム1とを、接着剤としてSKダイン20を用いて、偏光子の透過軸がセルロースエステルフィルム1の最大屈折率を与える方向と一致するようにして貼合し、視野角補償楕円偏光板Aを得た。
【0237】
(溶液LC−1の組成)
MEK 86部
化合物2 3部
化合物3 2部
化合物4 3部
化合物5 3部
イルガキュアー369(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製) 1部
【0238】
【化2】

【0239】
《視野角補償楕円偏光板の評価》
上記で得られた本発明の視野角補償楕円偏光板を、NEC製15型液晶ディスプレイMulti Sync LCD1525Jのあらかじめ貼合されていた光学補償フィルムおよび偏光板を剥がし、本発明の視野角補償楕円偏光板の吸収軸を予め貼合されていた偏光板の吸収軸と同じ方向になるよう貼合した。
【0240】
視野角評価は、上記で得られた本発明の視野角補償楕円偏光板を貼合した液晶パネルを、ELDIM社製EZ−contrastを用いて視野角を測定した。
【0241】
視野角の評価としては、液晶パネルの白表示と黒表示時のコントラスト比が10以上、および反転を起こす領域を示すパネル面に対する法線方向からの傾き角の範囲を評価した。結果、本発明の試料は、極めて高い視野角改善特性を有していた。
【0242】
実施例8
《セルロースエステルフィルム24の作製》
セルロースエステルフィルム1の作製と同様の方法でドープを作製し、ベルト上に流延剥離を行った。剥離時のウェブ中の残留溶媒量は90質量%であった。ついで、D0ゾーンでのフィルム搬送張力を150N/mで搬送を行った。D0終点でのエタノール/(塩化メチレン+エタノール)含有量は、30質量%であった。
【0243】
次いで、スリッターによりフィルム両端部10cmづつ切り落とした後、一軸延伸テンターを用いて工程Aで剥離したウェブの両端をクリップで把持した。
【0244】
工程Bでクリップ間隔を巾方向に延伸速度130%/min変化させた。この時、フィルム雰囲気温度は110℃、延伸倍率は1.4倍であった。延伸開始時のフィルム温度は60℃、残留溶媒量は20質量%、延伸終了時、フィルム温度は100℃、残留溶媒量は延伸開始時の90%であり、エタノール/(エタノール+塩化メチレン)質量は93%であった。
【0245】
次に、工程Cでフィルムを把持し搬送を行った。工程Cでは工程Bでの巾に対して97%となるように緩和を行った。工程A、Bでの塩化メチレン雰囲気濃度は2000ppmであった。又、工程Cでの塩化メチレン雰囲気濃度は飽和濃度の60%以下であった。
【0246】
また、A、B、C工程それぞれのゾーン間に温度干渉を防止するためのニュートラルゾーンを設けた。
【0247】
続いて、雰囲気温度を100℃に設定した工程D1でフィルムの乾燥を行ない、セルロースエステルフィルム24を得た。
【0248】
工程B終了時のフィルム弾性率は550N/mm2であり、工程D1開始時でのフィルム弾性率は1800N/mm2であった。
【0249】
セルロースエステルフィルム24は、コア径200mmのガラス繊維強化樹脂製のコアに巾1m、長さ1000mのフィルムロール状にテーパーテンション法で巻き取った。この際、フィルム端部に温度250℃のエンボスリングを押し当て、高さ10μm程度の厚みだし加工を施し、フィルム同士の密着を防止した。
【0250】
得られたフィルムの物性について、以下にまとめて示した。
【0251】
Nx 1.4778
Ny 1.4772
Nz 1.4760
0 50nm
t 120nm
t/R0 2.4
450/R0 0.88
650/R0 1.03
配向角分布 ±0.5°以内
リターデーション分布(R0) 1%
リターデーション分布(Rt) 1.4%
膜厚R(ave) 80.0μm
最大膜厚R(max) 80.5μm
最小膜厚R(min) 79.5μm
膜厚分布R(%) 1.3%
透過率(500nm) 92.2%
透過率(400nm) 58.2%
透過率(380nm) 2.3%
ヘイズ 0.1%
中心線平均粗さ(Ra) 1.65nm
寸法変化率(Smd) −0.05%
寸法変化率(Std) −0.03%
吸湿膨張率(MD) 0.1%
吸湿膨張率(TD) 0.07%
引き裂き強度(MD) 2.3N/μm
引き裂き強度(TD) 2.0N/μm
破断点応力(MD) 93MPa
破断点応力(TD) 87MPa
破断点伸度(MD) 40%
破断点伸度(TD) 45%
弾性率(MD) 2.8GPa
弾性率(TD) 3.0GPa
カール(23℃、55%RH) 8m-1
輝点異物 21個/cm2
可塑剤含有比(G2/G1) 0.99
ケン化処理後接触角 17°
透湿度 245g/m2・24h
本発明のセルロースエステルフィルム24は、位相差フィルム、光学補償シート等に用いるのに適した光学特性を示すことが判る。
【0252】
また、実施例7の視野角補償楕円偏光板Aの作製において、セルロースエステルフィルム1の代わりに、上記のセルロースエステルフィルム24を用いた以外は同様にして、視野角補償楕円偏光板を作製し、実施例7に記載と同様にして視野角特性を評価した。結果、Multi Sync LCD1525Jにあらかじめ貼合されていた光学補償フィルムおよび偏光板を用いた場合と比較して、極めて高い視野角改善特性を示すことがわかった。
【0253】
実施例9
実施例7に記載と同様の方法で、偏光子1を作製した。また、実施例8で得られたセルロースエステルフィルム24を、60℃、2mol/lの濃度の水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬し水洗した後、100℃で10分間乾燥し、アルカリ鹸化処理透明支持体Bを得た。
【0254】
透明支持体Bの流延時にベルト支持体に接触した反対側の面にゼラチン薄膜(0.1μm)を塗設し、前記記載のアルキル変性ポリビニルアルコールをメタノール/水=1:3の1.5%溶液をワイヤーバー#3により塗布した。これを65℃温風にて乾燥させた後、支持体の面内において、アルキル変性ポリビニルアルコール塗布面に、フィルム製膜時の長手方向と平行にラビング処理を行い、配向層を形成した。
【0255】
さらに、上記溶液LC−1をワイヤバー#6を用いて塗設した。これを55℃の無風状態で30秒乾燥、次いで100度、30秒熱処理を行った後、徐々に降温し、98kPaで60秒間窒素パージした後、酸素濃度0.1%条件下で450mJ/cm2の紫外線により硬化させた膜を作製することにより、液晶性化合物の配向を固定化した光学異方性化合物を含む光学異方層を有する光学補償シートCを得た。
【0256】
上記で得られた偏光子1と光学補償シートCの光学異方層を有する面とを、SKダイン20を接着剤とし、偏光板1の透過軸と透明支持体Bの遅相軸とが一致するように貼合し、視野角補償楕円偏光板Dを得た。
【0257】
得られた視野角補償楕円偏光板Dを実施例7に記載と同様にして、視野角の評価をした結果、極めて極めて高い視野角特性を示すことが判った。
【0258】
実施例10
実施例9の配向層の作製において、透明支持体Bの流延時にベルト支持体に接触した側の面にゼラチン薄膜(0.1μm)を塗設した以外は、全て同様にして、配向層、光学補償シートを作製し、視野角補償楕円偏光板Eを得た。得られた視野角補償楕円偏光板Eを実施例7に記載と同様にして、視野角の評価をした結果、極めて極めて高い視野角特性を示すことが判った。
【0259】
実施例11
《セルロースエステルフィルム25の作製》
セルロースエステルフィルム1の作製に用いたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル基の置換度が1.9プロピオニル基の置換度が0.75のセルロースエステルを用いた以外は、実施例8のセルロースエステルフィルム24の作製と同様にして、セルロースエステルフィルム25を得た。得られたフィルムの物性について、以下にまとめて示した。
【0260】
Nx 1.4781
Ny 1.4772
Nz 1.4758
0 70nm
t 150nm
t/R0 2.1
450/R0 0.91
650/R0 1.04
配向角分布 ±0.5°以内
リターデーション分布(R0) 1.2%
リターデーション分布(Rt) 1.5%
膜厚R(ave) 80.0μm
最大膜厚R(max) 80.6μm
最小膜厚R(min) 79.4μm
膜厚分布R(%) 1.5%
透過率(500nm) 92.1%
透過率(400nm) 58.4%
透過率(380nm) 2.3%
ヘイズ 0.1%
中心線平均粗さ(Ra) 1.66nm
寸法変化率(Smd) −0.05%
寸法変化率(Std) −0.08%
吸湿膨張率(MD) 0.1%
吸湿膨張率(TD) 0.07%
引き裂き強度(MD) 2.3N/μm
引き裂き強度(TD) 2.0N/μm
破断点応力(MD) 91MPa
破断点応力(TD) 87MPa
破断点伸度(MD) 39%
破断点伸度(TD) 45%
弾性率(MD) 2.8GPa
弾性率(TD) 3.0GPa
カール(23℃55%RH) 8m-1
輝点異物 23個/cm2
可塑剤含有比(G2/G1) 0.99
ケン化処理後接触角 18°
透湿度 248g/m2・24h
以上から、本発明のセルロースエステルフィルム25は、位相差フィルム、光学補償シート等の用途に適した優れた光学的特性を有することが判る。
【0261】
実施例12
《視野角補償楕円偏光板F(比較例)の作製》
実施例7に記載の視野角補償円偏光板Aの作製において、セルロースエステルフィルム1の代わりに、実施例3に記載のセルロースエステルフィルム3を使用する以外は同様にして、視野角補償円偏光板Fを作製した。
【0262】
得られた視野角補償楕円偏光板Fを用いて、実施例7に記載と同様にして視野角特性を評価した。その結果、視野角特性は改善されず、また、視野角のむらを生じ実用上問題が残った。
【0263】
実施例13
《視野角補償楕円偏光板G(比較例)の作製》
(アルカリ鹸化処理透明支持体Gの作製)
実施例9に記載のアルカリ鹸化処理透明支持体Bを得る過程で、セルロースエステルフィルム24の代わりに、実施例3(比較例)で得られたセルロースエステルフィルム3を使用し、アルカリ鹸化処理透明支持体Gを得た。
【0264】
(視野角補償楕円偏光板Gの作製)
実施例9に記載の視野角補償楕円偏光板Dの作製において、アルカリ鹸化処理透明支持体Bの代わりに、上記で得たアルカリ鹸化処理透明支持体Gを用いた以外は同様にして視野角補償楕円偏光板Gを作製した。
【0265】
得られた視野角補償楕円偏光板Gを用いて、実施例7に記載と同様にして視野角特性を評価した。その結果、視野角特性は改善されずまた視野角のむらを生じ実用上問題が残った。
【0266】
実施例14
《セルロースエステルフィルム26の作製》
セルロースエステルフィルム1の作製に用いたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル基の置換度が1.9、プロピオニル基の置換度が0.75のセルロースエステルを用い、セルロースエステルフィルム26を得た。流延は実施例1に類似する形で行った。
【0267】
流延時の条件についての詳細を以下にまとめて記載する。
【0268】
剥離時残留溶媒量 80質量%
D0ゾーン張力 100N/m
D0ゾーンエタノール/(塩化メチレン+エタノール) 70質量%
工程Bでの延伸速度 200%/min
工程Bフィルム雰囲気温度 110℃
工程B延伸倍率 1.2倍
延伸開始時フィルム温度 65℃
延伸開始時フィルム残留溶媒量 22%
延伸終了時フィルム温度 80℃
延伸終了時残留溶媒量/延伸開始時残留溶媒量 72%
延伸終了時(エタノール)/(エタノール+塩化メチレン) 94質量%
工程C緩和率 97%
工程A塩化メチレン雰囲気濃度 4000ppm
工程B塩化メチレン雰囲気濃度 4000ppm
工程C塩化メチレン雰囲気濃度 飽和量の60%以下
工程B終了時でのフィルム弾性率 800N/mm2
工程D1開始時でのフィルム弾性率 2200N/mm2
得られたフィルムの物性を以下に示す。
【0269】
Nx 1.4776
Ny 1.4773
Nz 1.4761
0 30nm
t 105nm
t/R0 3.5
450/R0 0.91
650/R0 1.04
配向角分布 ±0.5°以内
リターデーション分布(R0) 1.3%
リターデーション分布(Rt) 1.6%
膜厚R(ave) 80.0μm
最大膜厚R(max) 80.4μm
最小膜厚R(min) 79.4μm
膜厚分布R(%) 1.3%
透過率(500nm) 92.1%
透過率(400nm) 58.4%
透過率(380nm) 2.3%
ヘイズ 0.1%
中心線平均粗さ(Ra) 1.54nm
寸法変化率(Smd) −0.05%
寸法変化率(Std) −0.08%
吸湿膨張率(MD) 0.12%
吸湿膨張率(TD) 0.07%
引き裂き強度(MD) 2.1N/μm
引き裂き強度(TD) 2.0N/μm
破断点応力(MD) 91MPa
破断点応力(TD) 87MPa
破断点伸度(MD) 40%
破断点伸度(TD) 45%
弾性率(MD) 2.8GPa
弾性率(TD) 2.9GPa
カール(23℃、55%RH) 6m-1
輝点異物 21個/cm2
可塑剤含有比(G2/G1) 0.99
ケン化処理後接触角 19°
透湿度 247g/m2・24h
以上から、本発明のセルロースエステルフィルム26は、位相差フィルム、光学補償シート等の用途に適した優れた光学的特性を有することが判る。
【0270】
実施例15
《視野角補償楕円偏光板H(本発明)の作製》
(アルカリ鹸化処理トリアセチルセルロース支持体の作製)
実施例7の記載と同様にして、アルカリ鹸化処理トリアセチルセルロース支持体を得た。
【0271】
(セルロースエステルフィルム27の作製)
実施例14で作製されたセルロースエステルフィルム26と同様にアルカリ処理し、アルカリ鹸化処理セルロースエステルフィルム27を作製した。アルカリ鹸化処理セルロースエステルフィルム27の光学特性はセルロースエステルフィルム26と比較し、変化が見られなかった。
【0272】
(偏光子1の作製)
実施例7に記載と同様にして、偏光子1を作製した。
【0273】
(視野角補償楕円偏光板Hの作製)
上記、偏光子1の片面にアルカリ鹸化処理したトリアセチルセルロース支持体を、もう一方の面にはアルカリ鹸化処理セルロースエステルフィルム27を、完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として用いて各々張り合わせ視野角補償楕円偏光板Hを作製した。
【0274】
得られた視野角補償楕円偏光板Hについて、実施例7と同様に視野角特性の評価を行った。尚、セルロースエステルフィルム27側が液晶パネルのセル側に接するように貼号し評価を行った。その結果、本発明の試料は、極めて高い視野角改善特性を有していた。
【0275】
実施例16
《視野角補償楕円偏光板Iの作製》
視野角補償楕円偏光板Iの作製において、セルロースエステルフィルム26の代わりに、実施例3に記載の、比較のセルロースエステルフィルム3を用いた以外は同様にして視野角補償楕円偏光板Iを作製した。
【0276】
得られた視野角補償楕円偏光板Iについては、実施例7と同様にして視野角特性の評価を行った。その結果、視野角特性は不十分で実用上問題があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に流延後、剥離されたセルロースエステルフィルムを搬送する工程D0、前記搬送工程D0から搬送されてきた前記フィルムの幅手端部を把持する工程A、前記フィルムを幅手方向に引き延ばす工程B、更に乾燥を行う工程D1を経て、配向角が幅手方向の何れの測定点においても、測定点すべての平均配向角の角度から±2°以内で、フィルム面内のリターデーション(R)分布が5%以下あるセルロースエステルフィルムを製造するセルロースエステルの製造方法において、
前記工程D0にテンションカットロールを設けて、フィルム雰囲気温度20℃〜70℃、幅手方向での当該温度の分布を±5℃以内とし、張力30N/m〜300N/mでフィルムを搬送して、
工程D0終点での貧溶媒質量/(良溶媒質量+貧溶媒質量)×100(%)が95質量%〜15質量%に調整することを特徴とするセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
工程Aの直前にフィルム幅方向の端部を切り落とすことを特徴とする請求項1に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
工程Bの後、フィルムを把持緩和する工程Cを有し、工程A、B、Cの間にニュートラルゾーンを設けることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
工程A、B、Cにおける雰囲気の良溶媒濃度をそれぞれMa、Mb、Mcとして、Ma>2000ppm、Mb>2000ppm、Mc<飽和良溶媒蒸気濃度の60%であることを特徴とする請求項3に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
工程A、B、C終点でのフィルム温度をそれぞれTa、Tb、Tc℃として、Ta≦Tb−10且つ、Tc≦Tbであることを特徴とする請求項3又は4に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
幅手方向の引き裂き強度、長手方向の引き裂き強度をそれぞれHtd、Hmdとした時、Htd/Hmdが0.62〜1.0のフィルムとすることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
60℃、90%RHで24時間処理前後の幅手方向の寸法変化率、長手方向の寸法変化率をそれぞれStd%、Smd%とした時、Stdが−0.4〜0.4%の範囲であり、且つ、Smdが−0.4〜0.4%のフィルムとすることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
幅手方向での膜厚の最大値、最小値、平均値をそれぞれRmax、Rmin、Raveとした時、R(%)=(R(max)−R(min))/R(ave)×100で表される膜厚分布が0〜8%のフィルムとすることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項9】
厚み方向のリターデーション(Rt)分布10%以下のフィルムとすることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項10】
ヘイズ値が0〜2%のフィルムとすることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項11】
セルロースエステルフィルムの総アシル基置換度が2.3〜2.85であり、アセチル基の置換度が1.4〜2.85であることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−253953(P2010−253953A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118114(P2010−118114)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【分割の表示】特願2007−122640(P2007−122640)の分割
【原出願日】平成14年5月29日(2002.5.29)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】