説明

セルロースエステル及びその製造方法

【課題】連続流延製膜時の金属支持体における汚れの付着(プレートアウト)が少ないセルロースアシレートを提供する
【解決手段】全構成糖におけるマンノースの比率が0.1mol%以上1.4mol%以下であるセルロースエステルにおいて、ヘキサン抽出物量が0.1ppm以上30ppm以下であるセルロースエステルとする。セルロースエステルのヘキサン抽出成分を30ppm以下とすることで、カルシウム量が多い場合でもプレートアウトを抑制できる。セルロースエステルのヘキサン抽出物量を減少させるためには、セルロースエステルの原料となるパルプを有機溶剤で洗浄処理した後、エステル化するセルロースエステルの製造方法を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置の偏光板保護膜として用いるのに好適であるセルロースエステルフイルムを形成するのに有用なセルロースエステルに関する。特には、セルロースアセテートフィルムを形成するのに有用なセルロースアセテートに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステル特にセルローストリアセテートは、光学的等方性が高く、しかも強靭性および難燃性に優れるため、各種の写真材料や光学フィルムとして用いられてきた。
【0003】
これらの用途の中でも近年特に液晶表示装置関係の光学材料、例えば、位相差フィルム、偏光板保護フィルム、光学補償フィルム、反射防止フィルムなどの光学フィルムとして用いられておりその重要性が高まっている。液晶表示装置用の光学フィルムの材料として用いられるセルロースエステルやセルローストリアセテートは、従来の写真フィルム用の光学フィルム材料として用いられるセルローストリアセテートと比較してより高度な光学的性能や品質を要求されている。
【0004】
すなわち、液晶表示装置は薄型テレビやパソコンなどの電子機器の液晶画像表示装置として用いられているが、近年、これらの液晶画像表示装置が発展し、より大画面化、より高細密化が求められ、それに伴い光学素子の一部として用いられるセルロースエステルフイルム(偏光板用保護フィルム、視野角拡大フィルム、位相差フィルム)などにはより高度の品質が求められるようになって来た。しかしながら、セルロースエステルフイルムには一つの品質上の問題点があった。
【0005】
すなわち、セルロースエステルフイルムは溶液製膜方法を用いて製膜される。溶液製膜方法は、周知の通り、セルロースエステルなどのポリマーを溶剤に溶解したドープとし、これを無限移行する無端の金属支持体上(金属バンドあるいは金属ロールとも称させることがある)に流延して流延膜を形成し、この流延膜を湿潤フィルムとして剥がして乾燥することにより、フィルムを製造する方法である。
光学用途に多く使われるセルロースエステルフイルムは、このような溶液製膜方法で製造されている。近年では、液晶ディスプレイの急速な市場拡大に伴い、液晶ディスプレイを構成する視野角拡大フィルムや偏光板保護フィルム等としてのセルロースアシレートフィルムの需要も急速に増加している。そこで、既存設備での製造量を大幅に増加させる必要がある。
【0006】
セルロースエステルフイルムは、この流延時において、流延後金属支持体から剥離する際、ウェブ(流延膜が金属支持体上で乾燥し始めた膜をいう)は非常に柔らかいため製膜中の外力に左右され易く、金属支持体からの剥離性が悪いと筋や横段(フィルムの長手方向に発生する波状のムラ)等の欠陥が発生し易い。このような欠陥が生じると、出来上がりのフィルムの品質は低下し光学上の欠点となって、液晶表示装置に悪影響を及ぼす虞があるばかりでなく、歩留まりが低下しコストを押し上げる原因となり易い。この問題を解決するために様々な提案がされている。
【0007】
例えば、特開2002−28943号公報(特許文献1)によれば、横断を発生する原因となるのは、金属支持体の汚れでありことが記載されている。そして金属支持体を清掃する方法が記載されている。更には、不用意に汚れた金属支持体を使用し、製膜を続けている間にウェブの剥離残りや微細なカスなどによる汚れが蓄積して、汚れのところの剥離が悪くなり不規則な横段を生じ易く、このような場合、生産を中止して清掃し直す必要があることが記載されている。(段落番号[0055])
特許文献1では横断の原因となる金属支持体の汚れは、清掃することでしか除去できないことが記載されている。しかしながら、清掃するためには製造を中断し、機械を停止して行なう必要があり生産性を向上させることができない。
【0008】
また特開2006−199029号公報(特許文献2)にはドラム流延方式では、製造時間が経過するにつれて、ドラムの表面に汚れ(プレートアウト)が発生することが記載されている。更に、ドラムの表面に汚れが発生すると、その程度によっては、製造するセルロースアシレートフィルムの品質を損なうおそれがあることが記載されている。したがって、このような現象が起きた場合には、例えば、製造を一旦停止するなどして、ドラムの表面の汚れを除去しなければならため生産性が低下してしまうことも記載されている。(発明が解決しようとする課題)
更には、ドラムの表面の汚れ物質は、主に、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アルコールなどの汚れ前駆体とカルシウムが結合した塩であることが記載されている。(段落番号[0009])そして、特定の抽出条件によりセルロースアシレートから抽出される化合物の濃度、さらには、セルロースアシレート溶液に含まれるカルシウム、マグネシウム、硫酸等の濃度が特定の範囲であることにより、ドラム上に生成する汚れの量を低減することができるセルロースアシレートフィルムの製造方法が開示されている。そして、セルロースアシレートを構成する糖のキシロースとマンノースの比率が特定の範囲内にあるセルロースアシレートであればドラムの表面汚れが抑制できることが記載されている。
【0009】
すなわち、前記の特許文献2には水と非相溶である液体と水との混合物により液体側に分液抽出される化合物の濃度C1が0.05%以下であるセルロースアシレートを溶剤に溶かしてセルロースアシレート溶液を調製することが記載されている。そして、この分液抽出される化合物は、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アルコールのうちすくなくともいずれかひとつであることが記載されている。しかしながら、特許文献2では、どのようにすれば分液抽出される化合物が少ないセルロースアシレートを得られるかについては何ら記載されていない。
なお特許文献2によれば、カルシウム、マグネシウム、硫酸が、セルロースアシレートに含まれるのは、セルロースアシレートを合成する過程には、触媒として硫酸を用いる工程と、この硫酸が存在することからアルカリ土類金属塩を用いてセルロースアシレートを洗浄する工程とがあるからである。アルカリ土類金属塩に代えて、あるいは加えてマグネシウム塩やアルカリ金属塩を用いると、セルロースアシレート中には、アルカリ土類金属に代えて、あるいは加えてマグネシウムやアルカリ土類金属類が存在することになる。
【0010】
上記の特許文献2には、カルシウムの濃度が低いセルロースアシレートを用いることにより、金属支持体への汚れの付着を防止することができることが記載されている。すなわち、プレートアウトは、流延溶液に溶解している脂肪酸塩が、冷却された支持体である例えばドラムの周面で、溶剤から析出することによる現象であることが記載されており、カルシウムの水酸化物及びその塩の使用量を従来よりも少なくすると、カルシウム以外のアルカリ土類金属の水酸化物及びその塩も用いる必要があるが、プレートアウトを抑制することができることが記載されている。そして、その理由として上記特許文献2には、(プレートアウトの成分の)溶剤への溶解性が、脂肪酸のカルシウム(Ca)塩である方が、同じ脂肪酸のマグネシウム(Mg)塩よりも低いためであると記載されている。
上記の通り、この金属支持体への汚れの付着(プレートアウト)は、セルロースアシレートの溶液の中に含まれる脂肪酸塩が、冷却された支持体である例えばドラムの周面で、溶剤から析出することによる現象である。特許文献2に記載されている通り、カルシウム水酸化物及びその塩の使用量を従来よりも少なくすると、金属支持体に対する汚れの付着を抑制することができる。しかしながら、特許文献2に記載されている通り、Caの濃度を抑制したセルロースアシレートからセルロースアシレートフィルムを製造すると、製造されたフィルムが着色するという問題点がある。
【0011】
尚、特許文献2に記載されているようなアルカリ土類金属やアルカリ金属の含有量を限定したセルロースアセテートは、特許文献2に記載されている技術課題とは異なるが、金属支持体との剥離性を改善する試みの中で行なわれてきた。この分野における先駆的な研究として特開平10−316701号公報(特許文献3)を挙げることができる。上記特許文献3には、セルロースエステルの一種類であるセルローストリアセテートにおいては、カルシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属が金属支持体との剥離性に影響を与えることが記載されている。また、前記特許文献3においては、セルローストリアセテートに結合したカルボキシル基の一部が酸型であるセルロースエステルが開示されている。
【0012】
前記特許文献3には、極端にアルカリ土類金属が少ないようなセルロースエステルは耐熱性に劣るため、セルロースエステルの製造過程や使用後の加水分解を抑制できず、変色などを生じるため実用的ではないことが記載されている。
国際公開公報WO2004/076490号公報(特許文献4)にはセルロースアセテートにその含有する硫酸量に相当する特定量のカルシウムを添加することにより湿熱安定性と金属への剥離性を同時に満足するセルロースエステルが開示されている。
【0013】
前記特許文献4においてはセルロースエステルのエステル化の工程で硫酸触媒を用いる限りにおいては、前記特許文献4でのセルロースエステルの態様に最も適している製造方法を用いてセルロースエステルを製造したとしても残存する硫酸基を皆無にすることはできないことも記載されている。(段落番号[0032])
同様な技術の開示として特開2005−82744号公報(特許文献5)があげることができる。前記特許文献5には、特定のマンノース含量とすることで耐熱処理をしても剥離性が維持されることが記載されているが、金属支持体の汚れが減少する方法については記載がない。そして、このようなマンノース含有量のセルロースエステルはセルロースエステルの原材料に制約を加える。
【0014】
特許文献3でも開示されている通り、アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、セルロースエステルの耐熱性を確保し、加水分解を抑制し、着色などを防ぐ作用がある。そして、特許文献5にて開示されている通り、アルカリ土類金属及びアルカリ金属の中でも特にカルシウムにこの安定性の効果が高い。したがって、カルシウムの含有量を少なくするのではなく、前記特許文献3で記載されている有効量以上のアルカリ土類金属を添加し、金属支持体に対する汚れの付着を防止することができれば、セルロースエステルに対して十分な耐熱性を付与することができ有用である。
【0015】
このように、従来開示されている技術では、特許文献1及び2で問題となっている金属支持体への汚れを防止することはできたとしても、流延したセルロースエステルのフィルムに対して十分な耐熱性を付与することができなかった。
【特許文献1】特開2002−28943号公報
【特許文献2】特開2006−199029号公報
【特許文献3】特開平10−316701号公報(実施例、比較例3)
【特許文献4】国際公開公報WO2004/076490号公報
【特許文献5】特開2005−82744号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、カルシウム水酸化物及びその塩による通常の耐熱処理を行いながら、かつ連続流延製膜時の金属支持体における汚れの付着が少ないセルロースアシレートが存在しないことである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は上記課題を達成するために
(1)全構成糖におけるマンノースの比率が0.1mol%以上1.4mol%以下であるセルロースエステルにおいて、ヘキサン抽出物量が0.1ppm以上30ppm以下であるセルロースエステルを提供する。
(2)セルロースエステルの構成糖でのキシロースに対するマンノースのモル比率が1.0以上6.0以下である請求項1項に記載のセルロースエステルを提供する。
(3)ヘキサン抽出物量が0.1ppm以上20ppm以下である(2)に記載のセルロースエステルを提供する。
(4)カルシウムがセルロースエステルに対する量として50ppm以上150ppm以下である(2)に記載のセルロースエステルを提供する。
(5)カルシウムがセルロースエステルに対する量として80ppm以上150ppm以下である(3)に記載のセルロースエステルを提供する。
(6)セルロースエステルに含まれる珪素元素量がジメチルシリコン換算で5ppb以下である(1)から(5)何れかに記載のセルロースエステルを提供する。
(7)構成糖でのキシロースに対するマンノースのモル比率が1.0以上4.0以下でありかつ、
ジクロルメタン抽出物量が0.1ppm以上30ppm以下であるパルプをエステル化することにより得られるセルロースエステルを提供する。
【0018】
(8)溶解パルプを有機溶剤で洗浄処理した後、エステル化するセルロースエステルの製造方法を提供する。更に
(9)溶解パルプを
第1工程として水に浸漬し脱液後、
第2工程としてパラフィン炭化水素以外からなる有機溶剤に浸漬し脱液後、
第3工程としてパラフィン炭化水素に浸漬して脱液した後、
エステル化する(8)に記載のセルロースエステルの製造方法を提供する。さらに、
(10)
第二工程が更に
第2-A工程としてアルコール類を含む親水性有機溶媒に浸漬し脱液後、
第2-B工程としてケトン類を含む有機溶剤に浸漬し脱液する
二つの工程からなる(9)に記載のセルロースエステルの製造方法を提供する。
【0019】
本発明における第1の解決手段の作用は以下の通りである。
すなわちセルロースエステルの合成では、セルロースエステルを得るための出発物質(セルロース源)として工業的には純粋なセルロースを用いることはできない。一般的に工業的なセルロース源としてはコットンリンターや木材パルプなどが用いられる。コットンリンターはセルロース源としての純度が高く、糖分析においてもグルコース以外のヘミセルロース(マンノース、キシロース等)が少なく、セルロース源としては理想的ではあるが資源的な制約を生じ易い。したがって、セルロースエステル合成におけるセルロース源としては木材パルプが最も一般的に用いられている。
【0020】
なお、上記(1)におけるセルロースエステルの全構成糖におけるマンノースの比率は上限及び下限いずれもセルロースエステルの物質を特定するための定義式である。上記の通り、セルロース源においては純粋なセルロース、コットンなどを用いた場合にはヘミセルロース成分はほとんど含有されないが、木材から得られたパルプを原料としてセルロースエステルを製造する場合には、木材中に含まれるヘミセルロース成分を含んだ状態でエステル化される。このようなセルロースエステルには、原料に含まれるヘミセルロース成分よりマンノースやキシロースが含まれる。このため木材パルプを原料としたセルロースエステルは全構成糖におけるマンノースの比率が0.1mol%以上1.4mol%以下であるのが通常である。このマンノースの比率は木材パルプの原料木材の種類により異なり、またセルロースのエステル化の工程でどの程度ヘミセルロース成分を除去できるかにより異なるが、概ね原料木材の樹種が広葉樹である場合には0.1から0.7程度となり、針葉樹である場合には0.7から1.4程度となる。セルロースエステルのエステル化の工程において、特に光学フィルム用のセルロースエステルを得ようとする場合には、針葉樹を用いた場合でもマンノースの比率は0.8から1.2になることが多い。
【0021】
本発明者らはこのセルロースエステルの原料となるセルロース源特にはセルロース源が木材パルプであった場合に含まれているジクロルメタン抽出成分がセルロースエステルの合成の工程を経て、セルロースエステル中に含まれるヘキサン抽出成分となり、更にはセルロースエステル溶液流延時の金属支持体における汚れ付着物質となることを見出した。そして、セルロース源に含まれているジクロルメタン抽出成分を減少させる方法を検討した。
尚、セルロースエステル中に含まれるヘキサン抽出成分が金属支持体の汚れの付着(プレートアウト)と相関があることは、上記の特許文献2に開示されている。すなわち、上記の特許文献2においては、水と非相溶である液体と水との混合物により液体側に分液抽出される化合物の濃度C1が0.05%以下であるセルロースアシレートが開示されており、具体的な分液抽出される化合物量(汚れ前駆体の含有量)としては3.2mg(32ppm)から5.0mg(50ppm)のものが開示されている。しかしながら、分液抽出される化合物量を減少させる方法については開示も示唆もない。
特許文献2で開示されている技術は、カルシウム量を限定することで、既存のセルロースアシレートの中で分液抽出される化合物が少ないセルロースアシレートを選択することで、プレートアウトを抑制するというものである。
本発明の発明者らは、この分液抽出される化合物はセルロースエステルのセルロース源である木材パルプの中に含まれるジクロルメタン抽出成分が原因となっていることを見出した。
【0022】
すなわち、木材パルプの中に脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アルコール類などが存在している場合は、これらはジクロルメンタ抽出成分となる。そして、これらの木材パルプの中に含まれる脂肪酸、脂肪酸金属塩などがセルロースエステルの反応においてもセルロースエステルに付随して混入する。そしてセルロースエステルの、ヘキサン抽出成分となり、金属支持体の汚れ物質となることを見出した。木材パルプの中に、このような脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アルコール類などが含まれる理由としては、木材パルプの原料である木材チップに起因すると考えられる。
すなわち、溶解パルプ中の原料となる木材チップの中には、リグニン、ヘミセルロース、レジン(天然樹脂)、高級脂肪酸、などが含まれている。そして、これらの中で特に、木材チップの蒸解工程で一部分は分解されるものの脂肪酸あるいは脂肪酸エステルとして残存するものもある。特に、木材チップの蒸解工程でアルカリ土類金属、特にはカルシウムが存在していると、これらの高級脂肪酸及びそのエステルは塩型(カルシウム塩型)となる。
【0023】
そして、このような塩型の特定成分は以後のパルプの精製工程で不溶化してパルプ中に残存しやすくなる。そして、その特定成分はエステル化工程でもセルロース誘導体中に残存する。尚、エステル化の工程においてはエステル化剤の影響により長鎖脂肪酸及びそのエステルは酸型として存在していると考えられる。しかしながら、エステル化剤の溶媒(例えば酢酸)などに溶解することはなく、エステル化工程の終了後の沈殿工程では固体側(セルロースエステル側)に移行し、そして耐熱処理でも用いられるアルカリ金属、アルカリ土類金属の作用で再び塩型となり最終的にセルロース誘導体中に存在する。最終的に、セルロースエステルの溶解工程後及びろ過工程でも取り除かれず、流延溶液に含まれる。
特許文献2に記載されている通り、セルロースエステルに含まれるカルシウム量を限定すると、これらの長鎖脂肪酸及びそのエステルのカルシウム塩と他のアルカリ土類金属塩とのハロゲン溶媒に対する溶解性の差から金属支持体への析出を抑制することができる。しかし、上記の通りこのようにカルシウム量を限定することでフィルムの着色という新たな問題が生じる。そして、また金属支持体の汚れ防止効果も満足されるものではなかった。
【0024】
本発明における第1の解決手段のように、ヘキサン抽出物量が0.1ppm以上30ppm以下としてセルロースエステルでは、全構成糖におけるマンノースの比率が0.1mol%以上1.4mol%以下であるヘミセルロース成分が多いセルロース源を用いても金属支持体に対する汚れを減少させることができる。そして、このような解決手段を用いた場合には、針葉樹を原料とする木材パルプでも広葉樹を原料とする木材パルプでも何れでも、プレートアウトを減少させることを見出し、本発明に想到した。すなわち、セルロースエステルによるプレートアウトの現象は一義的にヘキサン抽出成分に依存し、セルロースエステルのヘキサン抽出成分を30ppm以下とすることで、木材パルプの樹脂によらず、プレートアウトを現象させることを見出し本発明に想到した。
【0025】
また、第2の解決手段による作用は、セルロースエステルでの糖分析でのキシロースに対するマンノースのモル比率が1.0以上6.0以下となるようなセルロース源を用いても金属支持体に対する汚れを減少させることができることである。すなわち、セルロースエステルでの糖分析でのキシロースに対するマンノースのモル比率が1.0以上6.0以下、特に好ましくは3.0以上5.0以下となるようなセルロース源は広葉樹の木材チップを原料として得ることができる。このキシロース/マンノースのモル比も使用樹脂により変わる。すなわち、広葉樹は針葉樹に比較して樹種が様々であり、また樹脂(天然樹脂)を多く含む樹種も存在する。本発明のヘキサン抽出物量が0.1ppm以上30ppm以下とすることで、このようなキシロースに対するマンノースのモル比率が1.5以上6.0以下、特に好ましくは3.0以上5.0以下となるようなセルロースエステルであっても金属支持体に対する汚れを減少させることができる。
【0026】
尚、このキシロース/マンノースのモル比の上限と下限はセルロースエステルの使用原料となる樹脂により定められる。一般的な広葉樹から得られるキシロース/マンノースのモル比は3.0以上で6.0以下である。
尚、セルロースエステルの原料となる木材パルプにおいては、広葉樹を原料とする木材パルプの方が一般に広く用いられている。光学フィルムに適したセルロースエステルを得るためには針葉樹パルプにおいては、特殊な針葉樹パルプを用いる必要がある。例えば特許公報 特開H10−130301号公報には、中性構成糖成分中のマンノース/キシロース=0.35〜3.0(モル比)、α−セルロース含有量90〜97重量%、マンノースおよびキシロースの総含有量2〜6モル%の低純度のパルプをアセチル化し、平均酢化度58〜62.5%のセルローストリアセテートを製造する技術が記載されており、 この技術で製造されたセルロースアセテートは金属支持板に対する剥離性が優れることが記載されている。このような針葉樹が本発明には好適である。そして、本発明をこのような針葉樹に適用した場合は金属支持体への剥離性のみならず、プレートアウト現象も抑制することができる。尚、特許文献2での開示によれば、キシロースに対するマンノースのモル比率が3を超えた場合(実施例12)には汚れ前駆体の量が4.0mg(40ppm)であってもドラム表面の汚れは認められたが、上記の通り本発明では、ヘキサン抽出成分を30ppm以下とすることキシロースに対するマンノースのモル比率が3を超えた場合、すなわち一般的な広葉樹を木材源とするセルロースアセテートでもドラム表面汚れ(金属支持体の汚れ)を抑制することができる。
【0027】
また、第3の解決手段による作用は、本発明のヘキサン抽出物量が0.1ppm以上20ppm以下とすること更にプレートアウト(金属指示体の汚れ)を減少させることができる。
また、第4及び第5の解決手段による作用は、カルシウム量を50ppm以上としても金属支持体の汚れを減少させることできるので、カルシウムを適量セルロースエステル中に存在させることで、セルロースエステルの耐熱安定性を向上させてフィルムの変色を防止することができる。
本発明においてはセルロースエステルのヘキサン抽出成分を30ppm以下とすることで、カルシウム量が多い場合でもプレートアウトを抑制することができるが、セルロースエステルの耐熱性を確保する以上のカルシウムを含有させる必要性はなく、また経済性の点から通常はカルシウム量の上限としては150ppmが適当である。これ以上のカルシウムの添加はセルロースエステルの安定性すなわち、耐加水分解性を向上させる効果はない。
【0028】
また第6の解決手段による作用は、本発明のヘキサン抽出物量を減少させたセルロースエステルは珪素元素量が少なくなる。そして、珪素元素量が少なくなるので、セルロースエステルを流延したフィルムの光学的な欠点が少なくなるという作用を示す。
また、第7の解決手段による作用は、本発明のセルロースエステルの原料であるパルプを特定の性質のものにすることにより、本発明の第1から第6までの解決手段のセルロースエステルが得えられるという作用を持つ。すなわち、上記の通りセルロースエステルのヘキサン抽出成分は、セルロースエステルの原料である溶解パルプ中に含まれる脂肪酸及びそのエステル、脂肪酸及びそのエステル塩である。セルロースエステルの原料である溶解パルプのジクロルメンタ抽出成分を測定することで、溶解パルプ中に含まれる脂肪酸及びそのエステル、脂肪酸及びそのエステル塩をしつことができる。そしてジクロルメタン抽出物量が0.1ppm以上50ppm以下であるパルプ(溶解パルプ)を原料としてエステル化を行なうことで本発明のヘキサン抽出物量が0.1ppm以上30ppm以下であるセルロースエステルを容易に得ることができる。
【0029】
また、第8から第10の解決手段は、本発明のジクロルメタン抽出物量が0.1ppm以上50ppm以下であるパルプ(溶解パルプ)を得るための製造方法である。すなわち、本発明の原料である溶解パルプを有機溶剤で洗浄処理することで、溶解パルプ中に含まれていた上記の、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アルコール類などが溶解パルプ中から除去(抽出)することができる。この処理において、有機溶剤の抽出に先立って水に浸漬して脱液することで、パルプ中のセルロースの水素結合が緩和され有機溶剤がパルプ中に浸透し易くなり、パルプ中の脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アルコール類などを除去し易くなる。
特には、第9の解決手段に記載している通り、水で浸漬した後脱液し、パラフィン炭化水素以外からなる有機溶剤、特に好ましくはアルコール類、ケトン類、に浸漬し脱液した後パラフィン系炭化水素で浸漬し脱液することで溶解パルプ中の脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アルコール類などをより減少させることができる。
【0030】
最も好ましいのは第10の解決手段に記載している通り、パラフィン炭化水素以外からなる有機溶剤で浸漬脱液する工程を2つの工程として、第2-A工程としてアルコール類を含む親水性有機溶媒に浸漬し脱液後、第2-B工程としてケトン類を含む有機溶剤に浸漬し脱液することである。このような工程とすることで水はアルコール類を含む親水性有機溶媒により容易に置換され、アルコール類はケトン類により容易に置換され、そしてケトン類はパラフィン炭化水素により容易に置換される。これによりより完全に脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アルコール類などが溶解パルプ中からより高い水準で除去される。
【0031】
本発明者らは、セルロースエステル中に含まれるヘキサン抽出物を減少させることにより、カルシウムを用いても金属支持体上の汚れが低減されることを見出し本発明に想到した。
言い換えれば、セルロースエステル中に含まれるヘキサン抽出分を30ppm以下とすることでカルシウムが存在していも金属支持体の汚れが抑制され、更にはキシロースに対するマンノースの比率が1.5以上であっても金属支持体の汚れが抑制されることを見出した。
【0032】
セルロースエステルには上記の通り耐熱処置としてアルカリ金属及びアルカリ土類金属の添加量が行われている。多くの場合にはアルカリ土類金属の方が耐熱性を向上できるので少なくともアルカリ土類金属を一成分として含有する耐熱処理が好ましく用いられている。これらのアルカリ土類金属類の中でも、前記特許文献6に記載されている通りカルシウムを総硫酸に対するカルシウムの化学当量比として0.3〜1.0含有することが湿熱安定性のために有効である。
【0033】
前記特許文献4にも記載されている通り、アルカリ金属、アルカリ土類金属は有効量以上存在していないとセルロースエステルの耐熱性を損なう。しかしながら、本発明者らは、セルロースエステル中に含有されるヘキサン抽出物の低減について検討し、このようにヘキサン抽出物が減少されたセルロースエステルのカルシウム量と流延時の金属支持体の汚染状況について詳細に検討した。
【0034】
その結果、セルロースエステル中に含まれるヘキサン抽出物の量として30ppm以下、より好ましくは20ppm以下とすることでカルシウム量に影響されずに金属支持体の汚れが減少できることを見出した。更には、このようなセルロースエステルのヘキサン抽出物の量とすることでキシロースに対するマンノースのモル比が1.5以上のものであっても、より好ましくは3.0以上で6.0以下のものであっても金属支持体の汚れが減少できることを見出した。このようなキシロースに対するマンノースのモル比が3.0以上かつ6.0以下のセルロースエステルは一般的な広葉樹を用いて製造することを可能にし原料面でのセルロースエステルの制約を外すことができる。
【0035】
さらにはセルロースエステルのフィルムの製膜工程での耐熱性を考慮して、カルシウムを、セルロースエステルに対する量として、50ppm、好ましくは60ppm、さらに好ましくは80ppmとすることで、十分に耐熱性が保持でき、それによる流延時の金属支持体の汚れの付着もないことを見出した。このように、セルロースエステル中に含まれるヘキサン抽出物の量として30ppm以下とすることで、カルシウム量に係わらず、製膜基板汚れの問題も大きく軽減できるセルロースエステルを提供できることを見出した。
【0036】
化学量論的な正確性を期すのであれば、アルカリ土類金属や硫酸量はセルロースエステルに対するモル量あるいは化学当量で示されるべきである。化学当量で示すと、カルシウム量としてはセルロースエステル1g当たりに対する量として2.5×10−6当量以上7.5×10-6当量以下である。
【0037】
本発明者らが検討したところ、セルロースエステルの一種類であるセルローストリアセテートの原料として純物質に近いセルロース(コットンなどから得られるセルロース)を用いた場合には金属支持体の汚れを最小にできること判った。そして、上記のセルロースではヘキサン抽出成分が非常に少ないことがわかった。しかしながら、このようなセルロース源は、原料の供給が困難である。
【0038】
これに対して、本発明では従来一般のセルロースエステル特にはセルロースアセテートの原材料として使用されてきた溶解パルプを用いて、原料パルプ中のジクロルメタン抽出分を少なくすることにより、得られたセルロースアセテートのヘキサン抽出成分を少なくすることができる。すなわち、本発明において、金属支持体の汚染の原因を排除するためにセルロースエステルの原料である溶解パルプを有機溶剤で洗浄する。有機溶剤としてはパラフィン炭化水素、特にはヘキサンが優れる。パラフィン炭化水素特にはヘキサンと他の有機溶剤を併用するのでも構わないが、金属支持体の汚染の原因を抽出する能力の点ではヘキサンが優れる。そしてカルシウムを耐熱処理剤として用いることで耐熱性を得ることができ、かつヘキサン抽出物を低減させることで金属指示体の汚れを減らすことができる。これらの有機溶剤による洗浄抽出工程は、セルロースエステルの合成の反応に先立って行なわれいればよく、溶解パルプの精製工程で行なうことでもよく、あるいは製造された溶解パルプに独立した工程として処理されるものでもよく、またセルロースエステルの合成のために解砕する工程に連続して処理することでも良い。
【0039】
また、ヘキサン抽出分を少なくするためには、上記の通り溶解パルプを洗浄する方法が最も効率的ではあるが、木材チップをグラインダーで粒状に粉砕した後に、有機溶剤で抽出することでレジンが少ない木材をえることができ、これを蒸解することでヘキサン抽出分が少ない溶解パルプをえることができる。
【0040】
特に好ましい原料パルプ中のジクロルメタン抽出分の洗浄方法としては溶解パルプを第1工程として水に浸漬し脱液後、第2工程としてパラフィン炭化水素以外からなる有機溶剤に浸漬し脱液後、第3工程としてパラフィン炭化水素に浸漬して脱液する洗浄方法である。そしてこの洗浄方法において第2-A工程としてアルコール類を含む親水性有機溶媒に浸漬し脱液後、第2-B工程としてケトン類を含む有機溶剤に浸漬し脱液する工程を含む洗浄方法が最も好ましい。
【発明の効果】
【0041】
セルロースエステル特にはセルローストリアセテートの連続流延製膜時の金属支持体における汚れの付着が少なく、また流延製膜時の金属支持体からの剥離性も高い。このセルロースエステル、特にはセルローストリアセテートは湿熱安定性や耐熱性も共に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
[溶解パルプ]
セルロース誘導体は、通常、木材パルプ(例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなど)、リンターパルプ(例えば、コットンリンターパルプなど)などの種々のパルプを原料として用いることにより得ることができる。これらのパルプのうち、本発明では木材由来のパルプを用いることが好ましい。セルロースエステルの合成に用いられるパルプのことを一般的には溶解パルプと称している。本明細書においては、パルプと称しているものは特に断られていない限り「溶解パルプ」を示す。
本発明ではヘキサン抽出分を減少させたパルプと通常の溶解パルプを混合して使用することでも、得られたセルロースエステルのヘキサン抽出物の量として30ppm以下であるならば本発明の目的を満たす。
【0043】
パルプ中のα−セルロース含量(重量基準)は、例えば、94%以上、好ましくは96〜100%、さらに好ましくは98〜100%(特に99〜100%)程度である。また、前記パルプは、通常、ヘミセルロースなどの異成分を含有している。従って、本願明細書において、「セルロース」という語は、ヘミセルロースなどの異成分も含有する意味で用いる。さらに、セルロースは、通常、セルロース分子及び/又はヘミセルロース分子に結合した状態などで多少のカルボキシル基を含有していてもよい。
【0044】
本発明のセルロースエステルにおいては、その構成糖中のマンノース含量は、全構成糖に対して0.1mol%以上1.4mol%以下である。
また、本発明のセルロースエステルにおいては、キシロースとマンノースのモル比率は1.5以上6.0以下、好ましくは3.0以上6.0以下、より好ましくは3.5以上6.0以下である。キシロースとマンノースのモル比が1.5以上という場合はパルプの原料として広葉樹の木材を用いることができ、特に3.5以上6.0以下である場合パルプの原料として使用できる樹種が多くなる。
【0045】
[セルロースエステルの構成糖分析法]
セルロースエステルの構成糖分析としてマンノース含量及びキシロース含量は、特開平10−130301号公報の段落番号[0008][0009]に記載の方法で定量できる。すなわち、乾燥した試料200mgを精秤量し、72%硫酸3mlを加え、氷水で冷却しながら超音波を用い、2時間以上かけて試料を完全に溶解させる。
得られた溶液に蒸留水39mlを加えて十分に振とうし、窒素気流下、110℃で3時間環流した後、30分間放置する。次いで、炭酸バリウム14gを加え、氷水で冷却しつつ超音波を作用させ中和する。30分後、さらに炭酸バリウム10gを加え、pH5.5〜6.5程度になるまで中和し、濾過する。
濾液を超純水で100重量倍に稀釈し、試料を調製する。試料を、以下の条件でクロマトグラフィにより分析する。
【0046】
高速液体クロマトグラフィ(HPLC,ダイオネクス社製DX−AQ型)
検出器:パルスドアンペロメトリー検出器(金電極)
カラム:ダイオネクス社製,CarboPacPA−1(250×4mm)
溶離液:2mM NaOH
流量:1.0ml/分
ポストカラム:ダイオネクス社製、AMMS−II型
なお、マンノース、キシロース、グルコースのモル比は、予め、マンノース、キシロース、グルコース標品を用いて作成した検量線から求めることができる。これらの3成分の合計を「100」として各構成糖成分の含量をモル%で表す。
尚、この構成糖分析の方法は、試料が溶解パルプ(セルロース)とである場合でも全く同じ様に適用することができる。
【0047】
[溶解パルプのジクロルメタン抽出分測定法]
溶解パルプのジクロルメタン抽出分は以下方法により求める。すなわち、溶解パルプを適量(例えば15gを1cm平方に裁断する。この中から一部(5g程度)を用いて含水率を0.1%単位で測定する。残りの試料は0.01g単位で精秤する。ソックスレー抽出器に溶剤としてジクロルメタン150mlを入れ、冷却管にミスを流し、溶剤が10分間に1回程度還流する速度になるように温度を調節し、5時間抽出する。抽出後、抽出液をガラスフィルターで濾過して、残渣を秤量皿に集める。秤量皿を蒸発固化させたのと、105±3℃で1時間乾燥し、デシケーター中で放冷し、0.1g単位で秤量する。この抽出とは別にブランクテスト用としてジクロルメタンのみを150ml蒸発固化させその残渣を同様に、0.1グラム単位で秤量する。
【0048】
次式により抽出分の含有量を求める。
抽出分(%)=(We-Wb)/Wp×100
ここに、 We=抽出分の乾燥重量(g)
Wb=ブランクテストの残渣の乾燥重量(g)
Wp=パルプサンプルの絶乾重量(g)
【0049】
[溶解パルプの洗浄方法]
本発明においては上記の通り、セルロースエステルの原料である溶解パルプ中のジクロルメタン抽出成分を減少させ特定の範囲内にすることによって、セルロースエステル中のヘキサン抽出物量を減少させることができる。溶解パルプ中のジクロルメンタ抽出成分を減少させるためには、最も簡便な方法は溶解パルプを有機溶剤で抽出することである。抽出する有機溶剤(抽出溶剤)としては、パラフィン炭化水素を用いるのが最も好ましい。抽出時においては、パルプは少なくとも1cm平方程度の砕片にされていることが好ましい。
【0050】
より好ましくは、セルロースエステルの前処理に供される程度に解砕されていることが好ましく、この位の程度に解砕されていれば抽出が効率的にお行なうことができ、また抽出した後のセルロースエステルをそのままセルロースエステルの前処理工程に供することができ好適である。
溶解パルプの洗浄の程度は使用する有機溶剤、セルロースと有機溶剤の比率(固液比)、還流させる場合には還流速度、抽出時間、パルプの砕片の大きささにより相違するが、溶解パルプ中のジクロメタン抽出物量を50ppm以下となるようにこれらの抽出時間を適宜調整すれば良い。
【0051】
例えば、有機溶剤としてジクロルメタンをもちいて、固液比を0.05(セルロース重量[g]/有機溶剤重量[g])とした場合には溶解パルプの砕片が1cm程度であっても還流速度が150ml/10minで4時間程度の抽出でジクロルメタン抽出物量は0.01ppm以下とすることができる。
【0052】
ハロゲン化アルキルを溶媒としてソックスレーのような抽出器を用いると、還流された溶媒はジクロルメタン抽出物を含んでいないので、少量の溶媒を用いて抽出することができる。しかしながら、ジクロルメタンやクロロホルムなどのハロゲン化アルキルは環境負荷と人への毒性が懸念される物質でもある。このため、還流装置を用いないでジクロルメタン抽出物量を減少させる溶解パルプの洗浄方法が好ましい。一方、溶解パルプ中の脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アルコール類などをより減少させるためには、最も好ましい有機溶媒はハロゲン化アルキルを除けば、パラフィン炭化水素である。しかしながら、パラフィン炭化水素は疎水性が高い。一方、溶解パルプであるセルロースはグルコース環に3個の水酸基があるのでこれを利用して水素結合を形成している。この水素結合を切断して、非結晶領域の部分に溶媒が十分に浸透するためには、親水性が高い溶媒が有利である。この点で最も好ましいのは水である。
【0053】
このため、好ましい溶解パルプの洗浄方法としては、第一段階において極性溶媒で浸漬することである。極性溶媒としては、最も浸漬効果が高いものは水である。水で浸漬する場合には浸漬時間は60分から240分程度でよい。水と溶解パルプの固液比は0.03程度であってもよい。水あるいは極性溶媒に浸漬したパルプは、攪拌膨潤させる。攪拌は任意の適当な攪拌装置により、スラリー状に攪拌させることでよい。攪拌回転数としては20rpmから100rpm程度であってもよい。浸漬したパルプの脱液はブフナー漏斗などを用い、濾過液側をアスピレーターで減圧することでもよい。減圧の負圧としては0.5から0.7気圧であればよい。含水パルプ(水を含んでいる溶解パルプ)の含水量は、100〜600%程度、例えば500%であってもよい。尚、水は純水乃至はイオン交換水であることが望ましい。
【0054】
次に第2工程として、含水パルプに含まれている水を有機溶媒により置換することである。用いられる有機溶媒としては、パラフィン炭化水素以外の溶媒であることが望ましい。すなわち、疎水性が高すぎる有機溶媒を用いた場合には、含水パルプに含まれている水分を置換できないためである。この第2工程としては、例えばエチルアルコール、メチルアルコールなどの低級アルコールなどの極性溶媒、或いはイソプロパノールなどの両親媒性を示す溶媒が好ましい。
尚、第1工程で水以外の極性溶媒を用いた場合には、第2工程としては、両親媒性溶媒を用いるのが好ましく、アセトンなどの低分子量のケトンを用いるのがよい。浸漬時間は60分から240分程度でよい。極性溶媒あるいは両親媒性溶媒と含水パルプの固液比は0.3程度であってもよい。脱液した後の含溶媒パルプの極性溶媒含量あるいは両親媒性溶媒含量は100〜600%程度、例えば500%であってもよい。
【0055】
第3工程としてこれらの含溶媒パルプをパラフィン炭化水素に浸漬して脱液することである。この場合パラフィン炭化水素に浸漬する意味は、パルプ中のジクロルメンタ抽出成分をパラフィン炭化水素に抽出させて、ジクロルメンタ抽出成分を減少させることである。したがって、パラフィン炭化水素で攪拌膨潤させる時間は、ジクロルメンタ抽出成分をどの程度まで減少させるかというに大きく影響する。また、固液比にも当然影響する。しかしながら、本発明者らの実験によれば、本発明の第1工程、及び第2工程を採用した場合には、浸漬時間は60分から240分程度でよい。パラフィン炭化水素と含溶媒パルプの固液比は0.3程度であってもジクロルメンタ抽出成分を30ppm以下にすることができる。
【0056】
これは恐らく、水乃至極性溶媒で膨潤攪拌させることにより溶解パルプ中の水素結合が緩み、パラフィン炭化水素が溶解パルプの非結晶領域に拡散する効果が高くなり、溶解パルプ中の脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アルコール類などのジクロルメンタ抽出成分を抽出し易くなったためと思われる。脱液した後のパラフィン炭化水素含有パルプの溶媒含量は100〜600%程度、例えば500%であってもよい。浸漬したパルプの脱液は上記の工程2、3と同様にブフナー漏斗などを用い、濾過液側をアスピレーターで減圧することでもよい。
尚、これらの各工程での脱液は遠心脱水機(デカンター)すなわち、家庭用洗濯機の脱水機と同様に、毎分数千回転する円筒内の遠心力で固液分離する方法であってもよい。そして、水や各溶媒含量は固液分離の方法による、少なくできるのであればなるべく低い方がよい。
【0057】
本発明の最も好ましい溶解パルプの洗浄方法は第1工程で水を溶媒として使用し、第2工程では第2-A工程としてアルコール類を含む親水性有機溶媒に浸漬し脱液後、第2-B工程としてケトン類を含む有機溶剤に浸漬し脱液することである。すなわち、第2-A工程としては極性溶媒であり、アルコールを含む溶媒で構成されるのが好ましい。特に好ましいのはエチルアルコール、メチルアルコールなどの低級アルコールである。第2-B工程として両親媒性溶媒を用いるものであり少なくともアセトンなどの低分子量のケトンを含む溶媒で構成するのがよい。
【0058】
[セルロースエステル]
液晶表示装置において液晶の表示方法としてOCB法やVA法が存在する。このようなOCB用やVA用の光学フィルムおいては、所望の光学適性を得るために延伸する場合もある。このような延伸性は、セルローストリアセテートは不足する。したがって、延伸する必要に応じて、セルロースエステルプロピオネート、セルロースエステルブチレートなどのセルロース混合脂肪酸エステルを本発明に用いても良い。またセルロースエステルの延伸性を改良するために、セルロースをエーテル化した後、エステル化したようなセルロース誘導体も本発明には好ましく用いることができる。更には、セルロースエステルに環状ラクトンなどを作用させたセルロース誘導体も場合により用いることができる。
【0059】
本発明において、セルロースエステルと称する物は、これらのセルロースエステル、エーテル化したセルロースのエステル化物を含む。 好ましくはセルロースの脂肪族カルボン酸エステルであり、より好ましくはセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートである。特に好ましいのはセルローストリアセテートである。
セルロースエステルの置換度は2.80〜2.965(特に2.85〜2.965)程度である。酢化度で表記した場合は、55.0〜62.0%、である。セルローストリアセテートの場合は酢化度で60〜62.0、(置換度で2.79〜2.96、さらに好ましくは61.0〜62.0%(特に61.1〜61.4%)程度であってもよい。
【0060】
[セルロースエステルの製造方法]
本発明のセルロースエステルの製造方法は、慣用の製造方法を利用できる。尚、セルロースエステルに BR>c留する硫酸量を低減できる点で特開2006−089574号公報に記載されている中和方法を用いるのが好ましい。
またセルロースアシレートなどのセルロースエステルの場合、「繊維素系樹脂」(宇多田和夫、丸澤廣著、日刊工業新聞社発行)に記載の方法などにより製造でき、例えば、原料パルプ(セルロース)を活性化する活性化工程と、活性化されたセルロースをエステル化剤(アシル化剤)でアシル化するアシル化工程と、アシル化反応の終了後、アシル化剤を失活させる失活工程と、生成したセルロースアシレートを熟成(ケン化、加水分解)する熟成工程を経て製造できる。
【0061】
(活性化工程)
前記活性化工程において、原料パルプ(溶解パルプ)は、通常、乾式などで解砕処理される。解砕処理されたパルプを活性化処理する方法としては、例えば、有機カルボン酸や含水有機カルボン酸(酢酸や含水酢酸)の噴霧や、有機カルボン酸や含水有機カルボン酸への浸漬などによリ、パルプ(セルロース)を処理することにより行なうことができる。有機カルボン酸(酢酸など)の使用量は、セルロース100重量部に対して10〜100重量部、好ましくは20〜80重量部、さらに好ましくは30〜60重量部程度であってもよい。
【0062】
(アシル化工程)
前記アシル化工程では、活性化されたセルロースをアシル化触媒(特に、硫酸などの強酸)の存在下、アシル化剤でアシル化する。
【0063】
アシル化触媒としての硫酸の使用量は、通常、原料セルロース100重量部に対して、1〜15重量部程度の範囲から選択でき、通常、5〜15重量部(例えば、5〜12重量部)、好ましくは7〜13重量部、さらに好ましくは5〜10重量部程度である。
アシル化剤としては、酢酸クロライドなどの有機酸ハライドであってもよいが、通常、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などのC2-6アルカンカルボン酸無水物などが使用できる。これらのアシル化剤(酸無水物など)は単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。好ましいアシル化剤は、C2-4アルカンカルボン酸無水物、特に少なくとも無水酢酸を含む。好ましい態様において、アシル化工程では、無水酢酸と反応させてセルロースをアセチル化する。
アシル化工程(アセチル化工程などのエステル化工程)でのアシル化剤(無水酢酸など)の使用量は、前記アシル化度に応じて選択でき、例えば、セルロース100重量部に対して230〜300重量部、好ましくは240〜290重量部、さらに好ましくは250〜280重量部程度である。
【0064】
アシル化工程において、通常、溶媒又は稀釈剤として有機カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸などのC2-6アルカンカルボン酸など)が使用される。有機カルボン酸(酢酸など)の使用量は、例えば、セルロース100重量部に対して200〜700重量部、好ましくは300〜600重量部、さらに好ましくは350〜500重量部程度である。なお、アシル化反応は、慣用の条件、例えば、0〜50℃(例えば、5〜40℃)程度の温度で行なうことができる。
【0065】
アシル化反応によりセルロースエステル(特に、セルローストリアセテートなどのセルローストリアシレート)を生成させることができる。
【0066】
そして、所定のアシル化度(特に、アセチル化度)に到達した後、アシル化反応を停止し、硫酸(残存硫酸)を熟成触媒(又は脱アシル化触媒)として利用して、所定量の塩基(特に無機塩基)を添加して残存硫酸成分を部分中和しつつ、熟成(又は加水分解)する。
【0067】
なお、アシル化反応を停止するため、前記のように、水および酸水溶液[例えば、水とカルボン酸類(特にアシル化剤に対応するカルボン酸など)との混合溶媒]を反応系に添加したり、前記塩基(通常、塩基の水溶液)を添加したりして、アシル化剤を失活させるとともに、反応系に水を存在させる場合が多い。水および酸水溶液を添加した場合は、アシル化触媒として添加された硫酸触媒は中和されない。一方、前記前記を添加した場合は、少なくとも部分的に硫酸触媒は中和される。水の添加量は、アシル化剤の残存量に応じて選択でき、例えば、アシル化剤の残存量1モルに対して1.2〜3モル、好ましくは1.5〜2.5モル程度である。なお、高置換度のセルロースエステルを得るためには、前記混合溶媒(例えば、酢酸水溶液)を用いるのが有利である。混合溶媒中のカルボン酸類の含有量は、例えば、20〜80重量%、好ましくは30〜70重量%程度であってもよい。
【0068】
常用の技術では前記塩基としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、遷移金属化合物、アンモニアなどが例示できる。アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなど)、有機酸塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどの酢酸塩など)などが例示できる。アルカリ土類金属化合物としては、例えば、水酸化物(水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなど)、炭酸塩(炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウムなど)、有機酸塩(酢酸マグネシウム、酢酸カルシウムなどの酢酸塩など)などが例示される。
【0069】
(熟成工程)
熟成工程とは加水分解工程である。すなわち、アシル化工程でその含有する全ての水酸基をエステル化されたセルロースエステルは熟成工程により加水分解され所望する平均置換度のセルロースエステルとして得られる。熟成反応は、その加水分解速度を調整するため必要であれば、他の酸触媒(プロトン酸、ルイス酸)を使用してもよい。しかしながら、置換度が高い場合は、残存硫酸(アシル化触媒の硫酸が部分中和された残りの硫酸)を熟成反応の触媒として使用する場合が多い。熟成工程での反応(熟成反応)は、20〜90℃程度の範囲で行ってもよいが、アシル基の置換度を高いレベルに維持するためには温和な条件で行なうのが好ましい。そのため、熟成工程での反応(熟成反応)は、例えば、温度20〜60℃、好ましくは30〜55℃程度で行なってもよい。
【0070】
本発明では、熟成工程において、反応系に所定量の塩基を連続的に添加するか又は複数回に分けて間欠的(又は段階的)に添加して部分中和し、連続的に又は複数回に亘り熟成反応(脱アシル化および脱硫酸エステル反応)を行っても良い。本発明では、連続的又は間欠的な添加(又は添加方法)により反応系の硫酸量を低減し、セルロースエステル結合の形態で導入された硫酸(硫酸エステル基)を脱離させることができる。
【0071】
熟成反応において、連続的又は間欠的な塩基の添加により、残存硫酸成分(結合硫酸など)の脱離効率を選択的に高めることができ、生成した硫酸金属塩を硫酸成分として除去できる。特にアルカリ土類金属化合物を添加すると、反応系で不溶性硫酸金属塩(特に、アルカリ土類金属硫酸塩)が生成し、析出とともに硫酸成分を反応系から除去できる。そして、本発明においては、このような熟成工程で連続的または間欠的に添加される前記塩基にカルシウムからなる塩基を用いる。
【0072】
多段中和(熟成工程での塩基の添加)のための塩基の量は、反応系中の硫酸触媒1当量
に対して、部分中和(又は中和操作)1回あたり0.1〜0.9当量、好ましくは0.2〜0.8当量、さらに好ましくは0.3〜0.7当量(例えば、0.3〜0.6当量)程度の範囲から選択できる。さらに、熟成工程では、このような硫酸触媒の部分中和を繰り返すことができる。
そしてアシル化工程での触媒硫酸量を低減することなく、生成したセルロースエステル中の残存硫酸量(特に結合硫酸量)を大きく低減できるとともに残存硫酸量をコントロールできる。
【0073】
残存する硫酸量は、硫酸の使用量などにより調整でき、セルロースエステル1g中に残存する総硫酸は、例えば、0.1×10−7〜300×10−7mol程度、好ましくは1×10−7〜250×10−7mol(例えば、1×10−7〜150×10−7mol)程度、さらに好ましくは2×10−7〜50×10−7mol(例えば、5×10−7〜15×10−7mol)程度であってもよい。これらの硫酸量をppmで表示した場合には、0.1〜2940ppm程度、好ましくは1〜2451ppm(例えば、49〜1471ppm)程度、さらに好ましくは19〜490ppm(例えば、49〜147ppm)程度であってもよい。
上記の通り、セルロースエステルのエステル化の工程で硫酸触媒を用いる限りにおいては、本発明でのセルロースエステルの態様に最も適している製造方法を用いてセルロースエステルを製造したとしても残存する硫酸基を皆無にすることはできない。硫酸基としては最低でもセルロースエステル1g当たり10ppm程度は残留するものである。
【0074】
残存硫酸量(又は総硫酸量)は、乾燥したセルロースエステルを1300℃の電気炉で焼き、昇華した亜硫酸ガスを10%過酸化水素水にトラップし、規定水酸化ナトリウム水溶液にて滴定し、SO42-換算の量として測定する。測定値は絶乾状態のセルロースエステル1g中の硫酸含有量としてppm単位で表される。
(沈殿工程)
前記の熟成工程での反応生成物は、通常、洗浄、沈析などの操作による精製工程に供される。代表的には、反応生成物を水又は酢酸水溶液などに投入し、生成したセルロースエステル(沈澱物)を分離し、水洗などにより遊離の金属成分や硫酸成分などを除去する場合が多い。特に、前記熟成反応の後(完全中和の後)、セルロースエステルの耐熱安定性を高めるため、必要に応じてさらに、前記塩基[アルカリ金属化合物及び/又はカルシウムを含まないアルカリ土類金属化合物、特に少なくともマグネシウム化合物(水酸化マグネシウムなど)]を添加してもよい。また、反応生成物を水又は酢酸水溶液などに投入して生成したセルロースエステルを分離し、水洗などにより遊離の金属成分や硫酸成分などを除去してもよい。
【0075】
(耐熱処理)
このようなセルロースアシレートの製造工程(例えば、製造工程の最終段階)においては、耐熱処理を行なうのが望ましい。すなわち、セルロースエステルの合成では、エステル化剤として、カルボン酸及びカルボン酸無水物の存在下、酢酸などの溶媒と触媒を用いてセルロースをエステル化することで行われる。触媒としては、工業的に一般的に触媒として使用されるものは硫酸である。このようにセルロースエステルの合成反応において、セルロースを硫酸触媒の存在下でエステル化して3置換のセルロースエステルを得た後、この一次セルロースエステルを加水分解して、所望の置換度のセルロースエステルを得るのが通常の合成反応である。
【0076】
このようなセルロースエステルの合成の副反応として、硫酸エステル基がセルロースに導入される。導入された硫酸エステルの一部は加水分解され水酸基になるが、一部のものは加水分解工程が終了した段階でも硫酸エステルとして存在し続ける、そして最終的に製品中に残留する。以上の経過をとってセルロースエステル製品に残留した硫酸エステル基は、時間の経過や温度により容易に加水分解し、硫酸を遊離する。このようにして硫酸が遊離するとセルロースエステルの加水分解を促進し、セルロースエステルやその成型物の分解の原因となる。
【0077】
このような製品に残留する硫酸(残存硫酸)による分解の問題を軽減するには、アルカリ土類金属の水酸化物や塩でセルロースエステルを洗浄し、製品中に少量のアルカリ土金属を残留させることが提案された。この、安定化処理と呼ばれるアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物や塩の添加が通常のセルロースエステルの製造においては行われている。上記の通り、エステル化反応終了時の触媒の中和(部分中和または全中和)及び耐熱処理により、セルロースエステル中には、アルカリ金属類及びまたはアルカリ土類金属類が存在する。
【0078】
耐熱処理、すなわちセルロースエステルの耐加水分解性を向上させるために使用するアルカリ土類金属は、少なく過ぎると残存硫酸の問題を軽減する効果が不十分である。このため一般的には過剰量のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属が耐熱処理として添加されている。中和剤及び耐熱処理剤としてカルシウムを含む水酸化物あるいは塩で処理することにより、セルロースエステル特にはセルロースエステルは耐熱性を有するので、カルシウムは耐熱処理剤として最も好ましい。
【0079】
セルロースエステルの耐熱性においては、カルシウムと硫酸基の比率が問題となり、硫酸基のモル数に対して0.5倍のモル数のカルシウムが存在していることが好ましい。
硫酸基のモル数に対して0.5倍を超えるモル数のカルシウム量が存在すれば必要な湿熱安定性を得ることができる。より好ましい範囲としては硫酸基のモル数に対して0.6倍を超えるモル数のカルシウム量である。さらに溶液流延製膜法での金属支持体からの剥離性のため硫酸基のモル数に対して1.5倍未満のモル数のカルシウム量である必要がある。より好ましくは1.0倍未満のモル数のカルシウム量である。
【0080】
[セルロースエステルのヘキサン抽出物量の測定法]
本発明におけるセルロースエステルのヘキサン抽出物量の測定方法は、特開2006-199029号公報の段落番号[0021]に記載されている〔汚れ前駆体の測定方法(分液抽出方法)〕と一部の差違を除きほぼ同一である。すなわち。
(1)セルロースエステルを粉砕し、50.0g秤量する。次に、この試料を容量10リットルの試薬容器に入れ、酢酸水溶液濃度を95重量%の酢酸水溶液2.5リットルを加えた後、攪拌により試料を完全に溶解させて試料Aを作製する。
(2)試料A中に、n−ヘキサンを1.0リットル添加し、これを試料A中に加え攪拌して試料Bとする。攪拌時間は20分とした。
(3)次に、試料Bを静置して水層とn−ヘキサン層とに分離させる。そして、試料Bが分離した後、上層であるn−ヘキサン層を抽出する。続けて、分液漏斗により分離したn−ヘキサン層を取り出してから、この分液漏斗を用いて、n−へキサン溶液を、蒸留水により1回洗浄した後、重曹飽和水溶液を用いて2回洗浄し、さらに、蒸留水により2回洗浄する。このとき、得られた液を抽出液Cとする。洗浄液である蒸留水と重曹飽和水溶液とは1回の洗浄につき500mlを用い、分液漏斗は容量が2リットルのものを用いる。
(4)抽出液Cをガラスフィルタにより濾過し、濃縮手段としてロータリーエバポレーターを用い濃縮液Dを得る。
【0081】
(5)濃縮液Dを重量既知のアルミカップに入れた後、オーブンで100℃以上110℃以下で3時間乾燥する。更にデシケーター中で約40分放冷する。濃縮液Dの固化物入りアルミカップを秤量し、更に事前に測定したアルミカップ重量を差し引き、抽出物量 X(mg)を求める。
(6)ブランク試験を行なう。尚、ブランク試験として、特開2006−199029号公報は「汚れ前駆体が含有していないセルロースアシレートを試料とし、(1)〜(5)の手順を同様に行なう。」と記載しているが、ブランク試験として必要な汚れ前駆体が含有していないセルロースアシレートを得る手段が特開2006−199029号公報には記載がない。
【0082】
一般的に、このような測定方法の場合のブランク試験はセルロースエステル(アシレート)以外に起因する抽出物を求めることが目的であり、(1)の操作で50.0gの秤量したセルロースエステルを加えることを止める以外は(1)と同様にして、ブランク試料を作成する。このブランク試料について(2)から(5)までの操作を行い、ブランクでの抽出物重量Y(mg)を求める。
下記の式により、ヘキサン抽出物量(セルロースエステルにおける汚れ前駆体の量)算出する
ヘキサン抽出物量(ppm)={(X−Y)×1000}/50

【0083】
[セルロースエステル中のカルシウム量測定法]
本発明においてセルロースエステル中のカルシウム量は以下のようにして求める。
試料3.0gをルツボに採り、電熱器上で炭化した後、電気炉に入れて800±10℃で約2時間灰化する。蓋をして放冷後、0.07%塩酸溶液25mlを添加し、ホットプレート上で加温溶解する。放冷後、200mlナルゲルフラスコに溶液を移す。蒸留水でルツボを洗浄し、その液もナルゲルフラスコに移し、蒸留水を標線まで注ぐ。
これを検液として、原子吸光光度計を用いて吸光度を測定し、試料中のCaを求める。
【0084】
[総硫酸量]
セルロースエステルの総硫酸量(残存硫酸量)以下の方法により求める。すなわち乾燥したセルロースエステルを1300℃の電気炉で焼き、昇華した亜硫酸ガスを10%過酸化水素水にトラップし、規定水酸化ナトリウム水溶液にて滴定し、SO42-換算の量として測定する。測定値は絶乾状態のセルロースエステル1g中の硫酸含有量としてppm単位で表される。
具体的な測定方法としては、1重量%過酸化水素にメチルレッド・メチレンブルー混合指示薬を加え、0.01モル/リットルのNaOH溶液で赤紫色から若干赤味が残る程度まで中和した溶液を吸収液とする。
一方、酸素導入口と吸収瓶とをセットした管状炉を1250〜1350℃に加熱する。加熱された吸収瓶に前記吸収液80mlを入れ、乾燥したセルロースエステル1.0gを燃焼ボートに採取し、管状炉の入口付近にセットする。酸素を2〜2.5リットル/分の流量で供給しながら、燃焼ボートを石英棒で徐々に管状炉に押し込み、炭化させる。試料が炭化した後、管状炉中心部まで押し込み、完全に灰化させる。酸素の供給を停止し、吸収液をビーカに移した後、吸収瓶を蒸留水で洗浄し、洗液を吸収液に合わせる。洗液を加えた吸収液を70〜80ml程度になるまで電熱器上で濃縮する。濃縮した吸収液にメチルレッド・メチレンブルー混合指示薬を加え、0.01モル/リットルのNaOH溶液で滴定し、わずかに橙色を有する薄黄色となった時点を終点とする(Aml)。この滴定量(Aml)と、同様に行ったブランク試験の滴定量(Bml)とに基づいて、以下の式によって残存硫酸を算出する。
【0085】
残存硫酸量={[(A−B)×F×0.048]/W} × [100/(100−M)]

[式中、Wは試料重量(g)を、Mは試料水分(%)を、Fは0.01モル/リットル(mol/l)のNaOH滴定液のファクターを示す]。
【0086】
[珪素元素量]
本発明のように溶解パルプを有機溶剤で洗浄することにより、セルロースエステル中に含まれる珪素元素量が低減できることが判った。この作用機構は明確には明らかではないが、有機溶剤で洗浄する工程で、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アルコール類など随伴して抽出されているものを思われる。珪素元素はクラーク数が第2位の元素であり、様々な経路でセルロースエステル中に混入してくる。珪素元素が無機物の形態でセルロースエステルに混入している場合は特に問題が無いものと思われるが、ジメチルシリコンなどの有機珪素化合物として存在している場合には、セルロースエステルフィルムの用途によっては問題が生じる。すなわち、セルロースエステルフィルムは視野角拡大フィルムのベースフィルムとして用いられることがある。
【0087】
視野角拡大フィルムは、液晶部分の基板に近い上部及び下部の部分が電圧を印加された状態でも斜めに傾いたままである性質を有することに着目して、円盤状のディスコティック液晶を連続的に傾けて配向させた状態の層を形成することで、透過光の配向を補正して視野角を拡大するシートである。この場合、ディスコティック液晶を配向させるために配向層が必要である。配向層は、無機蒸着膜であってもよく、有機高分子をラビングした配向膜であってもよい。
有機高分子膜をラビンクした配向膜としては、例えば、アルキル鎖変性ポバール(例えば、クラレ(株)製、商品名「MP−203」、同「R1130」など)などを用いてもよい。一方、ディスコティック液晶を塗布する基材(支持体)は、正面での光学特性が等方性に近いことが要求されるため、固有複屈折率が小さい素材から形成された支持体が好ましい。このような支持体の素材としては、セルローストリアセテートも挙げられる。セルローストリアセテートの面方向のレタデーション(Re)は極めて小さく、製膜条件によっては0近くにすることができる。
【0088】
このような視野角拡大フィルムにおいて、セルローストリアセテート支持体上に形成されたディスコティック液晶の塗布層は、表面が均一で平滑であることが要求されているが、塗布層にクレータ状の凹凸部(クレータ状欠点)が生じることがある。視野角拡大フィルムの表面にこのようなクレータ状欠点が存在すると、その部分での光の偏光度合いに変化が生じるため光学欠点として認識され、液晶表示装置に用いた場合には大きな問題となる。
【0089】
このような凹凸部が発生する原因は、セルローストリアセテート支持体に由来すると推定できるが、そのような原因としては、例えば、二枚の偏光板をクロスニコルにした状態で光漏れが生じる輝点異物や、セルローストリアセテート溶液に溶解しない不溶解物に起因する黒点異物などがある。しかし、ディスコティック液晶層を塗布する前にセルローストリアセテートフィルムの輝点異物や黒点異物を厳密に観察して、これらの影響がないように調整したサンプルを用いた場合でも、前記クレータ状欠点が生じる。すなわち、このようなクレータ状欠点は、ディスコティック液晶層を塗布する前の品質検査では確認できない。
【0090】
有機珪素化合物はその表面張力は他の高分子物質と比較してかなり異なる。したがって、セルロースエステル中の脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アルコール類の中に有機珪素化合物が含まれていた場合には微量でも、フィルムのその部分の表面張力を大きく変える。特に、フィルムの流延装置の金属支持体にこれらの脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アルコール類が堆積するのがプレートアウト現象(ドラム汚れ現象)である。これらの、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アルコール類の中に有機珪素化合物が含まれた場合には、金属支持体は流延されたフィルムの表面が接触する部分であり、この接触で有機珪素化合物がフィルムに転写された場合には、後の工程でのディスコティック液晶層の弾きの原因となる。本発明においては本発明のように溶解パルプを有機溶剤で洗浄することにより、セルロースエステル中に含まれる珪素元素量が低減でき流延したフィルムを視野角拡大フィルムに供した場合でもクレータ状欠点の発生を抑制できる。
【0091】
[珪素元素量測定方法]
本発明での珪素元素量測定方法は、n-ヘキサンでセルロースエステルを超音波洗浄し、洗浄液をロータリーエバポレーターにより濃縮し、その濃縮液をナスフラスコに移し蒸発固化させる。この固化物を原子吸光分析で分析する。標準試料としてはロジウム-エタノール液を標準液として、濃度既知のジメチルシリコンを用いて検量線を作成しておけばよい。
【0092】
具体的な測定手順としては
1)セルロースエステル未乾試料300.0gを採取する。このビーカに蒸留n-ヘキサン約300mlを入れ、超音波洗浄器で10分間洗浄する。この試料を26G2のガラスフィルタで吸引ろ過し、濾過残渣を再度、n−ヘキサン約300mlにて洗浄する。そして、ガラスフィルタで吸引ろ過し、濾過残渣を更に、n-ヘキサン約300mlにて洗浄し、ガラスフィルタで吸引ろ過する。
2)得られた洗浄液900mlをナスフラスコに入れ、ロータリーエバポレーターで約5mlになるまで濃縮する。
3)濃縮したナスフラスコの内壁に付着している抽出物を少量のn−ヘキサンで溶かしながら50mlのナスフラスコに移し、このナスフラスコをロータリーエバポレーターに取り付け蒸発乾固させる。
4)上記3)の蒸発乾固物の中の珪素元素の量を原子吸光分析装置で測定してppb単位で小数点以下第2位を四捨五入して小数点第1位までを表示する。
尚、本測定における検量線の作成については原子吸光法での定量分析の公知の手法に従えば良いが、一例として挙げるのであればジメチルシリコン250ppb、500ppb、1000ppb程度で検量線を作成すれば良い。
【0093】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。
原料パルプ(溶解パルプ)の物性については以下の様にして評価した。
【0094】
[構成糖の測定]
前記の「構成糖分析」の項目で記載した通りの方法で原料パルプの構成糖を分析した。
【0095】
[ジクロルメタン抽出分の測定]
上記のジクロルメタン抽出分の項目に記載された測定方法に従って、セルロースエステルの原料である溶解パルプのジクロルメタン抽出分量を測定した。
[セルロースエステルの分析]
次に、合成したセルロースエステルについては以下の項目ついて評価した。
【0096】
[構成糖の測定]
前記の「構成糖分析」の項目で記載した通りの方法でセルロースエステルの構成糖を分析した。結果を表2に記載する。
【0097】
[酢化度]
酢化度は、単位重量当たりの結合酢酸の重量百分率を意味し、以下の通り測定した。乾燥したセルロースアセテート1.9gを精秤し、アセトンとジメチルスルホキシドとの混合溶液(容量比4:1)150mlに溶解した後、1N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを添加し、25℃で2時間ケン化する。フェノールフタレインを指示薬として添加し、1N−硫酸(濃度ファクター:F)で過剰の水酸化ナトリウムを滴定する。また、同様の方法でブランク試験を行い、下記式に従って酢化度を計算する。
【0098】
酢化度(%)={6.5×(B−A)×F}/W
(式中、Aは試料の1N−硫酸の滴定量(mL)を、Bはブランク試験の1N−硫酸の滴
定量(mL)を、Fは1N−硫酸の濃度ファクターを、Wは試料の重量を示す)
本発明の実施例のセルロースエステル(セルロースアセテート)は何れの実施例及び比較例の物も酢化度が60.8%となるように合成した。
【0099】
[カルシウム量]
上記の「カルシウム量」の項目に記載した方法によりカルシウム量を測定した。
【0100】
[イエローインデックス]
色味が異なるフレーク試料を数種類準備して、これのYI値を測定して、標準試料とする。
YI値10のものを、5級とし、以下同様にYI値22のものを6級とし、YI値26の
ものを7級とし、YI値31のものを8級とし、YI値36のものを9級とし標準試料とする。粉砕乾燥試料約3gをパイレックス(登録商標)試験管に固く詰めて、240±1℃のソルトバス中で試料の上端が液面下に隠れるように浸漬し、10分間加熱後取出し、水に浸けて冷却後、限度見本と比較して等級を判定した。 [安定度]
安定度は熱水中で加熱浸漬された場合のセルロースエステルの加水分解の程度を示すものであり、安定度が高いということはより加水分解されやすいセルロースエステルであることを示す。本発明では安定度は次のようにして測定した。
【0101】
乾燥したセルロースエステルを粉砕し約2.0gをパイレックス(登録商標)試験管に秤取し、2mlの蒸留水を加えたのち、密栓して沸騰水浴中に7時間浸漬する。冷却後、内容物を沸騰水で濾紙上に洗い出し、濾液を合わせて150mlとする。この液についてフェノールフタレインを指示薬として0.01N−NaOH溶液で滴定する。同時に使用水のみを用いたブランクテストを行い、次式により湿熱安定性を算出する。
【0102】
湿熱安定性(%)=(A−B)×F×0.06÷試料重量(g)
(但し、A:0.01N−NaOH溶液の滴定量(ml)、B:ブランクテストにおける0.01N−NaOH溶液の滴定量(ml)、F:0.01N−NaOH溶液のファクター)。
【0103】
[流延金属支持体汚れ評価法]
下記の方法で製膜することに流延金属支持体の汚れについて確認した。流延装置としては特開2002−254451号公報に記載されているのと同様な装置を用いて行った。すなわち、特開2002−254451号公報の図16に示されている流延支持体として冷却ドラムを用い、また、テンタ−を用いたものにより製膜試験を行った。使用したドープ(流延液)の組成は以下の通りである。
【0104】
セルローストリアセテート 20.4質量部
トリフェニルフォスフェート 3.1質量部
ジクロロメタン 65.0質量部
n−ブタノール 5.4質量部
メタノール 9.1質量部
このドープを用い流延速度80m/min、剥ぎ取り角度75度、残留溶媒濃度が300wt%、フィルム厚みが80μmとなるように流延製膜を行った。フィルム製造後120時間経過後に冷却ドラム(金属支持体)の表面の汚れを確認した。汚れが確認できる場合及び120時間の連続流延製膜の間にドラムの表面の汚れにより流延フィルムの破断が生じる場合には×とし、金属ドラムの表面で汚れが確認できない場合は○として評価を行なった。また、ドラムのフィルム走行部とフィルムが走行しないドラム端部の表面状態を比較観察して、差が認められない場合は更に◎の評価とした。
【0105】
以下の方法により市販のセルロースアセテート用パルプ(溶解パルプ)を洗浄して使用することにより本発明に好適なヘキサン抽出分の少ないパルプを得た。
【0106】
[洗浄例1]
広葉樹クラフト法パルプA(α−セルロース含量98.0重量%、含水率8.5%)を用いた。このパルプの構成糖分析でのマンノース含有量は0.4モル%、キシロース含有量は1.3モル%であった。従ってキシロース/マンノースのモル比は、3.3であった。また、このパルプのジクロルメタン抽出物量は97ppmであった。

このパルプAを溶解パルプの砕片が1cm程度に裁断し、ソックスレー抽出にセットして有機溶剤としてジクロルメタンをもちいて、固液比を0.05(セルロース重量[g]/有機溶剤重量[g]、還流速度が150ml/10minで4時間程度の抽出した。抽出後のジクロルメタン抽出分の値は0.1ppmであった。
【0107】
[洗浄例2]
洗浄例1で使用した通常の広葉樹クラフト法パルプAを、通常のセルロースアセテートの解砕機で解砕した。解砕したセルロース100重量部に対して3000重量部水に浸漬して室温で90分攪拌膨潤させた。その後、ブフナー漏斗上でアスピレーターを用いて吸引脱液し、含水パルプ(含水セルロース)530重量部を得た。得られた含水パルプを1500重量部のメチルアルコールに浸漬し、室温で30分攪拌した。メチルアルコールを含んだパルプをブフナー漏斗上でアスピレーターを用いて吸引脱液し、含極性溶媒パルプ450重量部を得た。この含極性溶媒パルプをアセトン1500重量部に浸漬し、室温で30分攪拌した。アセトンを含んだパルプをブフナー漏斗上でアスピレーターを用いて吸引脱液し、含両親媒性溶媒パルプ420重量部を得た。
【0108】
得られた含両親媒性溶媒パルプをn-ヘキサン1500重量部に浸漬し、120分攪拌した。その後、ブフナー漏斗上でアスピレーターを用いて吸引脱液した。得られたパラフィン炭化水素含有パルプを粉砕しながら、乾燥することで、解砕されたジクロルメタン抽出分が低減されたパルプを得た。抽出後のジクロルメタン抽出分の値は2.0ppmであった。
【0109】
[洗浄例3]
洗浄例1で使用した通常の広葉樹クラフト法パルプAを、通常のセルロースアセテートの解砕機で解砕した。解砕したセルロース100重量部をn-ヘキサン1500重量部に浸漬し、120分攪拌した。その後、ブフナー漏斗上でアスピレーターを用いて吸引脱液した。得られたパラフィン炭化水素含有パルプを粉砕しながら、乾燥することで、解砕されたジクロルメタン抽出分が低減されたパルプを得た。抽出後のジクロルメタン抽出分の値は28.0ppmであった。
【0110】
[洗浄例4]
洗浄例1で使用した通常の広葉樹クラフト法パルプAを、通常のセルロースアセテートの解砕機で解砕した。解砕したセルロース100重量部に対して3000重量部水に浸漬して室温で90分攪拌膨潤させた。その後、ブフナー漏斗上でアスピレーターを用いて吸引脱液し、含水パルプ(含水セルロース)530重量部を得た。得られた含水パルプを1500重量部のメチルアルコールに浸漬し、室温で30分攪拌した。メチルアルコールを含んだパルプをブフナー漏斗上でアスピレーターを用いて吸引脱液し、含極性溶媒パルプ450重量部を得た。この含極性溶媒パルプをn-ヘキサン1500重量部に浸漬し、120分攪拌した。その後、ブフナー漏斗上でアスピレーターを用いて吸引脱液した。得られたパラフィン炭化水素含有パルプを粉砕しながら、乾燥することで、解砕されたジクロルメタン抽出分が低減されたパルプを得た。抽出後のジクロルメタン抽出分の値は7.0ppmであった。
【0111】
[洗浄例5]
上記の洗浄例4で得られたジクロルメタン抽出分が低減されたパルプ50重量部と洗浄例3で得られたジクロルメタン抽出分が低減されたパルプ50重量部を混合することにより、ジクロルメタン抽出分が低減されたパルプを得た。このパルプのジクロルメタン抽出分の値は17.5ppmであった。
【0112】
[洗浄例6]
市販の針葉樹パルプC(α−セルロース含量97.0重量%、含水率8.5%)を用いた。このパルプの構成糖分析でのマンノース含有量は1.5モル%、キシロース含有量は1.6モル%であった。従ってキシロース/マンノースのモル比は、1.1であった。ジクロルメタン抽出分の値は110ppmであった。
【0113】
このパルプを用いて洗浄例2と同様に洗浄した。洗浄後のジクロルメタン抽出分の値は2.1ppmであった。[洗浄例7]
市販の広葉樹クラフト法パルプB(α−セルロース含量98.5重量%、含水率8.5%)を用いた。このパルプの構成糖分析でのマンノース含有量は0.3モル%、キシロース含有量は1.1モル%であった。従ってキシロース/マンノースのモル比は、3.7であった。また、このパルプのジクロルメタン抽出物量は104ppmであった。
このパルプを用いて洗浄例1と同様にして洗浄した。洗浄後のジクロルメタン抽出分の値は0.1ppmであった。
【0114】
[洗浄例8]
洗浄例7で用いた市販の広葉樹クラフト法パルプB(α−セルロース含量98.5重量%、含水率8.5%)を用いて、洗浄例3と同様にして洗浄した。洗浄後のジクロルメンタ抽出分の値は29ppmであった。
【0115】
[洗浄例9]
洗浄例6と同じ市販の針葉樹パルプCを用いて、洗浄例3と同様にして洗浄した。洗浄後のジクロルメンタ抽出分の値は29ppmであった。
【0116】
[洗浄例10]
市販の針葉樹パルプD(α−セルロース含量96.5重量%、含水率8.5%)を用いた。このパルプの構成糖分析でのマンノース含有量は1.1モル%、キシロース含有量は2.1モル%であった。従ってキシロース/マンノースのモル比は、1.9であった。ジクロルメタン抽出分の値は100ppmであった。
【0117】
このパルプを用いて洗浄例2と同様に洗浄した。洗浄後のジクロルメタン抽出分の値は0.2ppmであった。
【0118】
[洗浄例11]
洗浄例10と同じ市販の針葉樹パルプDを用いて、洗浄例3と同様にして洗浄した。洗浄後のジクロルメンタ抽出分の値は25ppmであった。
【0119】
[洗浄例12]
上記の洗浄例7で得られたジクロルメタン抽出分が低減されたパルプ50重量部と洗浄例8で得られたジクロルメタン抽出分が低減されたパルプ50重量部を混合することにより、ジクロルメタン抽出分が低減されたパルプを得た。このパルプのジクロルメタン抽出分の値は14.5ppmであった。
【0120】
[洗浄例13]
上記の洗浄例6で得られたジクロルメタン抽出分が低減されたパルプ50重量部と洗浄例9で得られたジクロルメタン抽出分が低減されたパルプ50重量部を混合することにより、ジクロルメタン抽出分が低減されたパルプを得た。ジクロルメタン抽出分の値は14.6ppmであった。
【0121】
[洗浄例14]
上記の洗浄例10で得られたジクロルメタン抽出分が低減されたパルプ50重量部と洗浄例11で得られたジクロルメタン抽出分が低減されたパルプ50重量部を混合することにより、ジクロルメタン抽出分が低減されたパルプを得た。ジクロルメタン抽出分の値は12.6ppmであった。
【0122】
[セルロースアセテートの合成]
上記の洗浄例1から14で得られたパルプを単独または混合して、下記の操作によるセルロースアセテートを合成し実施例1から23のセルロースアセテートを得た。また、上記の洗浄例1から9を得るために使用した市販の溶解パルプ(未洗浄品)を単独または洗浄品と混合して使用し、実施例と同様に下記の操作によりセルロースアセテートを合成することにより、比較例1から12のセルロースアセテートを得た。
比較例に用いた使用パルプの組成については表2に記載した。
【0123】
上記のパルプ100重量部に氷酢酸51重量部を散布して前処理活性化させた後、氷酢酸384重量部、無水酢酸241重量部、および硫酸7.7重量部の混合物を添加し、43℃以下の温度で撹拌混合しながらエステル化を行った。なお、繊維片がなくなったときをエステル化反応の終点とした。そして、エステル化反応終了時に反応系に18.5重量部の24重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、過剰の無水酢酸を分解させ、硫酸量を3.6重量部まで中和し、さらに水を添加して反応浴の酢酸に対する水の割合を13モル%に調整し、65度で30分間保持して熟成を行った。その後、5分間かけて12.6重量部の15重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、硫酸量が1.8重量部になるまで中和し、さらに65度で10分間保持し、第2の熟成反応を行った。すなわち、熟成工程において、中和操作(多段中和操作)を1回繰り返した。その後、過剰量の15重量%酢酸マグネシウム水溶液を添加し、残存硫酸を完全に中和して熟成反応を停止した。
セルロースの反応溶液(ドープ)として得られた溶液に10重量%酢酸水溶液中に加え、攪拌することでセルロースアセテートの沈殿を得た。得られたセルロースアセテートの沈殿物を、異なる濃度の酢酸カルシウム溶液に浸漬して脱液することにより耐熱処理(安定化させるためのカルシウムの添加)をおこなった。その後、得られた沈澱を濾別した後、純水の温水にて各々流水洗浄、脱液を行って、実施例および比較例に用いるセルロースアセテートを得た。
【0124】
上記の実施例1から23及び比較例1から12で得られたセルロースアセテート(酢綿とも省略して記載される場合にもある)ついて、ヘキサン抽出物量、全構成糖比におけるキシロースモル比(mol%)、全構成糖比におけるマンノースモル比(mol%)、キシロースに対するマンノースのモル比(キシロース/マンノース比)を測定した。結果を表3及び4に記載する。また、セルロースエステル中のカルシウム量、総硫酸量、珪素量、イエローインデックス、安定度(wt%)流延金属支持体汚れ評価、を測定した。結果を表3及び4に記載する。
表3から明らかな通り酢酸セルロースのヘキサン抽出物が30ppmより少ない場合には糖構成比やカルシウム量に無関係にプレートアウトの現象が改善している。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
全構成糖におけるマンノースの比率が0.1mol%以上1.4mol%以下であるセルロースエステルにおいて、ヘキサン抽出物量が0.1ppm以上30ppm以下であるセルロースエステル。
【請求項2】
セルロースエステルの構成糖でのキシロースに対するマンノースのモル比率が1.0以上6.0以下である請求項1項に記載のセルロースエステル。
【請求項3】
ヘキサン抽出物量が0.1ppm以上20ppm以下である請求項2に記載のセルロースエステル。
【請求項4】
カルシウムがセルロースエステルに対する量として50ppm以上150ppm以下である請求項2に記載のセルロースエステル。
【請求項5】
カルシウムがセルロースエステルに対する量として80ppm以上150ppm以下である請求項3に記載のセルロースエステル。
【請求項6】
セルロースエステルに含まれる珪素元素量がジメチルシリコン換算で5ppb以下である請求項1から5何れかに記載のセルロースエステル。
【請求項7】
構成糖でのキシロースに対するマンノースのモル比率が1.0以上4.0以下でありかつ、
ジクロルメタン抽出物量が0.1ppm以上30ppm以下であるパルプをエステル化することにより得られるセルロースエステル。
【請求項8】
溶解パルプを有機溶剤で洗浄処理した後、エステル化するセルロースエステルの製造方法。
【請求項9】
溶解パルプを
第1工程として水に浸漬し脱液後、
第2工程としてパラフィン炭化水素以外からなる有機溶剤に浸漬し脱液後、
第3工程としてパラフィン炭化水素に浸漬して脱液した後、
エステル化する請求項8に記載のセルロースエステルの製造方法。
【請求項10】
第二工程が更に
第2-A工程としてアルコール類を含む親水性有機溶媒に浸漬し脱液後、
第2-B工程としてケトン類を含む有機溶剤に浸漬し脱液する
二つの工程からなる請求項9に記載のセルロースエステルの製造方法。