説明

セルロースエステル改質用樹脂組成物及びそれを含むセルロースエステルフィルム

【課題】高レターデーションかつ低透湿性を維持し、かつセルロースエステルフィルムの製造工程での揮発成分を低減できるセルロースエステル改質用樹脂組成物及びそれを含むセルロースエステルフィルムの提供にある。
【解決手段】(A)芳香環を2個以上有するジオールにアルキレンオキサイドを2〜4モル付加したジオール、(B)芳香族一塩基酸またはその無水物、(C)芳香族二塩基酸、(D)グリコール、前記(A)と(B)、あるいは(A)〜(D)を反応して得られる水酸基価20以下、数平均分子量1500以下のエステル化合物を含むことを特徴とするセルロースエステル改質用樹脂組成物およびこれを含むセルロースエステルフィルムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルフィルムの製造工程での揮発成分を低減できるセルロースエステル改質用樹脂組成物及びそれを含むセルロースエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステルフィルムは透明性、光学的等方性、強靭性であることから、写真用フィルムとして使用されてきた。近年では、上記性質に加えてポリビニルアルコール(PVA)との接着性が良好なことから、テレビ、ノートパソコン等、液晶表示装置の偏光板を構成する偏光膜保護フィルムとしての需要が飛躍的に伸長している。
【0003】
一般に液晶表示装置用偏光板は、PVAフィルムに二色性分子を配向させた偏光膜の両側に偏光膜保護フィルムを貼付した構造となっており、液晶セルの両側にクロスニコルの状態で配置されている。偏光膜保護フィルムにはセルロースエステル、シクロオレフィン系等が使用されているが、セルロースエステルを使用する場合、透湿性が高く、外部からの湿気の透過による偏光膜保護フィルムと偏光膜が剥離するため、持続的な接着性を確保する必要がある。そこで、偏光膜保護用に使用されるセルロースエステルフィルムには、フィルムの透湿度を下げるためにトリフェニルホスフェート(TPP)等の燐酸エステル系可塑剤が添加されてきた。
【0004】
また、近年の要求の高まりから、液晶表示装置は斜め方向から見た場合の光漏れによるコントラスト低下を防止する視野角拡大機能と軽量化、薄型化の両立を実現するため、光源側の偏光膜保護フィルムに安息香酸フェニルエステルや、エステル重合体と液晶性化合物等のレターデーション調整剤を併用することで位相差機能を付与し、従来機能別に保護フィルム/位相差フィルムの構成で2枚使用してきたフィルムを1枚にする検討がなされている。(特許文献1、2)さらに、偏光膜保護フィルムの膜厚を薄くするために芳香族エステル樹脂を添加しフィルムの機械強度向上が検討されてきた。(特許文献3)
【0005】
一方、セルロースエステルフィルムは生産性を向上させる観点から、製造工程の加熱条件が従来よりも高温化しており、従来使用可能であった可塑剤およびエステル樹脂でも、残留低分子の揮発によって製造装置を汚染する頻度が高まっている。製造装置の汚染頻度が高まるとそれに比例して連続生産ラインのメンテナンス回数も増加するため、結果として生産効率が低下する問題がある。従って、セルロースエステルフィルム改質用樹脂は、厳しい温度条件下で揮発性を低減することが要求されている。
【0006】
従来から検討されてきたTPP等の燐酸エステル系可塑剤は、低透湿性であるが、分子量が低いため、揮発性が高く問題がある。
また、特許文献1、2に記載のエステル系可塑剤は、高レターデーションかつ低透湿性を達成できるが、残留グリコール、アルコール、モノカルボン酸が揮発成分となるため、厳しい温度条件下で揮発性を抑えることは困難である。
また、特許文献3に記載のエステル系可塑剤は、フィルム強度向上かつ低透湿性を達成できるが、残留グリコール、アルコール、モノカルボン酸が揮発成分となるため、厳しい温度条件下で揮発性を抑えることは困難である。
【0007】
【特許文献1】特開2006−96023
【特許文献2】特開2007−119737
【特許文献3】特開2007−3767
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、高レターデーションかつ低透湿性を維持し、かつセルロースエステルフィルムの製造工程での揮発成分を低減できるセルロースエステル改質用樹脂組成物及びそれを含むセルロースエステルフィルムの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、高レターデーションかつ低透湿性を維持し、セルロースエステルフィルムからの揮発性成分の低減について、鋭意研究の結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、(A)芳香環を2個以上有するジオールにアルキレンオキサイドを2〜4モル付加したジオール、(B)芳香族一塩基酸またはその無水物、(C)芳香族二塩基酸、(D)グリコール、前記(A)と(B)、あるいは(A)〜(D)を反応して得られる水酸基価20以下、数平均分子量1500以下のエステル化合物を含むことを特徴とするセルロースエステル改質用樹脂組成物およびこれを含むセルロースエステルフィルムを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセルロースエステル改質用樹脂組成物の添加により、高レターデーションかつ低透湿性を維持しつつ、かつセルロースエステルフィルムの製造工程での揮発成分を低減できるので、光学フィルムに使用できる優れたセルロースエステルフィルムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で使用する芳香環を2個以上有するジオールにアルキレンオキサイドを2〜4モル付加したジオール(A)とは、例えば芳香環を2個有するジオールである、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールAF等ビスフェノール系化合物にアルキレンオキサイド、例えばエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを2〜4モル付加して得られるものが好ましく挙げられる。例えば、ビスフェノールAのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド2モル付加ジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド3モル付加ジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド4モル付加ジオール、ビスフェノールFのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド2モル付加ジオール等が挙げられる。好ましくは ビスフェノールAのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド2モル付加ジオールを使用することが、製造工程での揮発成分の低減に効果的であり、本発明の組成物の低粘度化が可能となることにより、ハンドリング性に優れるものとなる。
【0013】
本発明で使用する芳香族一塩基酸(B)とは、例えば安息香酸、ジメチル安息香酸、トリメチル安息香酸、テトラメチル安息香酸、エチル安息香酸、プロピル安息香酸、ブチル安息香酸、クミン酸、t−ブチル安息香酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、エトキシ安息香酸、プロポキシ安息香酸、ナフトエ酸、ニコチン酸、フロ酸、アニス酸、1−ナフタレンカルボン酸、2−ナフタレンカルボン酸等や、これらのメチルエステル及び酸塩化物等を単独で使用又は2種以上併用することができる。前記芳香族一塩基酸(B)としては、安息香酸を使用するのが、セルロースエステル樹脂に優れた耐透湿性を付与でき、且つ高レターデーションのセルロースエステルフィルムを得られるため好ましい。
【0014】
本発明で使用する芳香族二塩基酸(C)とは、例えばオルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸等や、これらのエステル化物、及び酸塩化物、1,8−ナフタレンジカルボン酸の酸無水物等を使用することができ、これらを単独で使用又は2種以上併用できる。
【0015】
前記芳香族二塩基酸(C)としては、無水フタル酸、オルソフタル酸、イソフタル酸、及びテレフタル酸ジメチルからなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。無水フタル酸、オルソフタル酸、イソフタル酸及びテレフタル酸ジメチルからなる群より選ばれる少なくとも1種を使用して得られるエステル化合物からなるセルロースエステル改質用樹脂組成物は、セルロースエステルに優れた耐透湿性を付与でき、且つ高レターデーションのセルロースエステルフィルムが得られるので好ましい。
【0016】
前記グリコール(D)とは、芳香環を有さないグリコールで、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチルプロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−シクロペンタンジオール、1,3−シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等を使用することができ、これらを単独で使用又は2種以上併用することができる。前記グリコール(D)としては、プロピレングリコール、2−メチルプロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールを使用することが、セルロースエステルとの相溶性に優れ、また耐透湿性を向上させることが可能なセルロースエステル改質用樹脂組成物を得ることができる
ため好ましい。
【0017】
本発明のエステル化合物の製造は、前記(A)と前記(B)とのエステル化反応、あるいは前記(A)〜(D)を常法にて行われる。必要に応じてエステル化触媒の存在下に180℃〜250℃の温度範囲で10〜25時間のエステル化反応をすることで製造される。また、前記(A)〜(D)を反応する際には、前記(A)、(C)、(D)の混合物を反応して、前記(B)を添加しエステル化反応する2段法が好ましい。前記(A)と(B)との仕込量は、モル比で(A)/(B)=1/1.8〜2.0であることが好ましい。さらに、(A)〜(D)を反応する際には、(A)、(C)、(D)の合計1モルに(B)を1.8〜2.0モルとなるように仕込み反応させるのが好ましい。
【0018】
本発明のセルロースエステル改質用樹脂組成物は、前記のモル比で反応することで、前記(B)−(A)−(B)を80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上有するものであるが、残りは20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以上は(A)−(B)からなるものである。同様に前記(A)、(C)、(D)を反応して(B)を反応した際には、(B)−[(D)−(C)]m−(A)−[(C)−(D)]n−(B)<但し、m、nは各々独立して0〜5である>が80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上有するものであるが、残りは20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であり、それらは、例えば
(A)−(B)、
(B)−(A)−(B)、
[(D)−(C)]m−(A)−[(C)−(D)]n−(B)、
(C)−[(D)−(C)]m−(A)−[(C)−(D)]n−(B)、
(C)−(A)−[(C)−(D)]m−(B)、
<但し、m、nは各々独立して0〜5である>等の混合物である。
【0019】
本発明のエステル化合物の水酸基価は、20mgKOH/g以下、好ましくは10mgKOH/g以下で、数平均分子量1500以下、好ましくは1000以下のものである。数平均分子量の値(Mn)は、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用し、ポリスチレン換算によるゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)により測定した値である。
【0020】
前記エステル化触媒としては、例えばテトライソプロピルチタネート、テトラブチルチ
タネート、p−トルエンスルホン酸、ジブチル錫オキサイド、モノブチル錫オキサイド等を使用することができる。前記エステル化触媒は、前記(A)、前記(B)もしくは前記(A)、前記(B)、前記(C)、前記(D)の全量100質量部に対して0.01〜0.1質量部使用することが好ましい。
【0021】
本発明のセルロースエステル改質用樹脂組成物を構成するエステル化合物は、20以下の水酸基価を有し、かつ1.0以下の酸価を有することが好ましく、10以下の水酸基価を有し、かつ0.5以下の酸価を有することがより好ましい。
【0022】
酸価は、前記(A)及び(B)、あるいは前記(A)、前記(B)、前記(C)、前記(D)が反応した際に生成しうる、末端にカルボキシル基を有するポリエステルに由来するものである。フィルムに優れた耐透湿性を付与し、かつ該セルロースエステル改質用樹脂組成物自身の安定性を維持するうえで、前記セルロースエステル改質用樹脂組成物中に含まれる前記末端に有するカルボキシル基を有するポリエステルの含有量は、できる限り少ないことが好ましく、目安として酸価が前記範囲内であることが好ましい。
【0023】
また、水酸基価は、前記(A)と前記(B)、あるいは前記(A)、前記(B)、前記(C)、前記(D)が反応した際に生成しうるポリエステルの末端に存在する水酸基うち、前記芳香族一塩基酸(B)によって封鎖されていない水酸基に由来するもの、または前記(A)と前記(B)が反応した際に生成しうる、末端に水酸基を1個有するエステル化合物に由来するものである。水酸基は水との親和性が高いため、得られるフィルムの耐透湿性を維持するうえで、水酸基価は前記範囲内であることが好ましい。
【0024】
前記セルロースエステル改質用樹脂組成物は、構成するエステル化合物の数平均分子量及び組成によって異なるが、常温(25℃)で液体状又は固体状である。
【0025】
次に、セルロースエステル及び前記セルロースエステル改質用樹脂組成物を含有するフィルムについて説明する。
【0026】
本発明のフィルムは、セルロースエステル、前記セルロースエステル改質用樹脂組成物、及び必要に応じてその他の各種添加剤等を含有してなるフィルムである。
【0027】
本発明のフィルムは、使用される用途によって異なるが、一般に10〜200μm程度の膜厚を有するものである。前記フィルムは、光学異方性や光学等方性等の特性を有していても良く、該フィルムを偏光板用保護フィルムに使用する場合には、光の透過を阻害しない、光学等方性のフィルムを使用することが好ましい。
【0028】
本発明のフィルム中に含まれるセルロースエステルは、綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等から得られるセルロースの有する水酸基の一部又は全部がエステル化された樹脂状物である。なかでも、綿花リンターから得られるセルロースをエステル化して得られるセルロースエステルを使用して得られるフィルムは、フィルムの製造装置を構成する金属支持体から剥離しやすく、フィルムの生産効率を向上させることが可能となるため好ましい。
【0029】
前記セルロースエステルとしては、例えばセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート及び硝酸セルロース等を使用することができ、これらを単独で使用又は2種以上を併用することが可能である。本発明のフィルムを偏光板用保護フィルムとして使用する場合には、セルロースアセテートを使用することが、機械的物性及び透明性に優れたフィルムを得ることができるため好ましい。
【0030】
前記セルロースアセテートとしては、重合度が250〜400、酢化度が55.0質量%〜62.5質量%を有するものを使用することが好ましく、酢化度が58.0質量%〜62.5質量%の範囲である、いわゆるセルローストリアセテートを使用することがより好ましい。前記範囲内の重合度及び酢化度を有するセルロースアセテートを使用することによって、得られるフィルムの機械的物性を向上させることができる。なお、酢化度は、セルロースアセテートの全量に対する、該セルロースアセテートをケン化することによって生成する酢酸の質量割合である。
【0031】
本発明のフィルムは、前記セルロースエステル、前記セルロースエステル改質用樹脂組成物、及び必要に応じてその他の各種添加剤等を含有してなるセルロースエステル樹脂組成物をフィルム状に成形することにより得ることができる。
【0032】
本発明のフィルムは、例えば前記セルロースエステル樹脂組成物に、必要に応じてその他の各種添加剤等を押出機等で溶融混練し、Tダイ等を用いることでフィルム状に成形することによって得られる。
【0033】
また、本発明のフィルムは、前記成形方法の他に、例えば前記セルロースエステルと前記セルロースエステル改質用樹脂組成物を有機溶剤中に均一に溶解、混合して得られた溶液を、金属支持体上に流延し乾燥させる、いわゆるソルベントキャスト法で成形することによって得ることができる。ソルベントキャスト法によれば、成形途中でのフィルム中における前記セルロースエステルの配向を抑制することができるため、得られるフィルムは、実質的に光学等方性を示す。前記光学等方性を示すフィルムは、例えば液晶ディスプレイなどの光学材料に使用することができ、なかでも偏光板の保護フィルムに使用することができる。また、前記方法によって得られたフィルムは、その表面に凹凸が形成されにくく、表面平滑性に優れる。
【0034】
前記ソルベントキャスト法は、主に前記セルロースエステルと前記セルロースエステル改質用樹脂組成物とを有機溶剤中に溶解させ、得られた樹脂溶液を金属支持体上に流延させる第1の工程、流延させた前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤を乾燥させフィルムを形成する第2の工程、及び金属支持体上に形成されたフィルムを金属支持体から剥離し加熱乾燥させる第3の工程からなる。
【0035】
第1の工程で使用する金属支持体としては、無端ベルト状又はドラム状の金属、例えばステンレス製で、その表面が鏡面仕上げの施されたものを使用することができる。
【0036】
前記金属支持体上に、前記樹脂溶液を流延させる際には、得られるフィルムに異物が混入することを防止するために、フィルターで濾過した樹脂溶液を使用することが好ましい。
【0037】
第2の工程における乾燥方法としては、例えば30〜50℃の温度範囲の風を前記金属支持体の上面及び下面に当てることで、流延した前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤のおよそ50質量%〜80質量%程度を蒸発させ、前記金属支持体上にフィルムを形成させる方法がある。
【0038】
第3の工程は、前記第2の工程で形成されたフィルムを金属支持体上から剥離し、前記第2の工程よりも高温で加熱乾燥させる工程である。前記加熱乾燥方法としては、例えば100〜160℃の温度範囲で段階的に温度を上昇させる方法が好ましい。前記温度範囲で加熱乾燥することによって、前記第2の工程で得られたフィルム中に残存する有機溶剤をほぼ完全に除去することができる。
【0039】
前記セルロースエステルと前記セルロースエステル改質用樹脂組成物とを有機溶剤に混合、溶解する際に使用できる有機溶剤としては、それらを溶解できるものであれば限定されないが、例えば、セルロースエステルとしてセルロースアセテートを使用する場合は、セルロースアセテートの良溶媒として、例えばメチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類を使用することができる。また、前記良溶媒に対して、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等の貧溶媒を併用することが、フィルムの生産効率を向上させるうえで好ましい。良溶媒と貧溶媒とを混合して使用する場合の質量割合は、良溶媒/貧溶媒=75/25〜95/5の範囲であることがより好ましい。
【0040】
前記フィルム中に含まれる前記セルロースエステル改質用樹脂組成物は、前記セルロースエステル100質量部に対して、3〜30質量部の範囲内であることが好ましく、5〜20質量部の範囲内であることがより好ましい。前記範囲の前記セルロースエステル改質用樹脂組成物を使用することによって、耐透湿性、及び高温多湿下におけるセルロースエステルフィルムの製造工程での揮発成分を低減できるセルロースエステル改質用樹脂組成物及びそれを用いたセルロースエステルフィルムを得ることができる。
【0041】
本発明のフィルムには、本発明の目的を損なわない範囲内で、各種添加剤を使用することができる。
【0042】
前記添加剤としては、例えば本発明のセルロースエステル改質用樹脂組成物以外のその他の改質剤、紫外線吸収剤、熱可塑性樹脂、マット剤等や、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤等)、染料などを使用することができる。これらは、前記有機溶剤中に前記セルロースエステル樹脂及び前記セルロースエステル改質用樹脂組成物を溶解、混合する際に、併せて使用することができる。
【0043】
前記セルロースエステル改質用樹脂組成物以外のその他の改質剤としては、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル、エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラアセテート等を使用することができる。
【0044】
前記紫外線吸収剤としては、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を使用することができる。前記紫外線吸収剤は、前記セルロースエステル100質量部に対して0.01〜2質量部の範囲内であることが好ましい。
【0045】
前記熱可塑性樹脂としては、例えばポリエステル、ポリエステルエーテル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、トルエンスルホンアミド樹脂等を使用することができる。
【0046】
前記マット剤としては、例えば酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク等を使用することができる。前記マット剤は、前記セルロースエステル100質量部に対して、0.1〜0.3質量部の範囲内で使用することが好ましい。
【0047】
前記染料としては、通常使用されている公知慣用のものを用いることができ、その配合量は本発明の目的を阻害しない範囲であれば、特に限定しない。
【0048】
本発明のフィルムは、耐透湿性、透明性、セルロースエステルフィルムの製造工程での揮発成分を低減できることから、例えば液晶表示装置の光学フィルムやハロゲン化銀写真感光材料の支持体等に使用できる。なかでも前記したような優れた特性に加えて、光学特性に優れたフィルムは、偏光板用保護フィルムとして使用することが可能である。
【0049】
前記液晶表示装置の光学フィルムとは、例えば、偏光板用保護フィルム、位相差板、反射板、視野角向上フィルム、防眩フィルム、無反射フィルム、帯電防止フィルム、カラーフィルター等である。
【0050】
本発明のフィルムは、10〜100μmの膜厚を有することが好ましく、15〜80μmの膜厚を有することがより好ましい。かかるフィルムを偏光板用保護フィルムとして使用する場合には、15〜80μm程度の膜厚を有するフィルムであれば、液晶表示装置の薄型化を図ることが可能で、かつ優れた耐透湿性を維持することができる。
【実施例】
【0051】
次に、本発明を実施例、比較例等を挙げ、詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。尚、実施例および比較例の中で記載される「部」、「%」は「質量部」、「質量%」を意味するものとする。
【0052】
[揮発性測定法]
TG−DTA(示差熱熱重量同時測定装置):セイコーインスツルメンツ社製DMS6100を使用して、25℃→130℃(10℃/min)昇温後、130℃×60分ホールド中の加熱減量を質量%で算出。
【0053】
[耐透湿性]
JIS Z 0208に記載の方法に従い、セルロースエステルフィルムの透湿度を測定した。測定条件は、温度40℃、相対湿度90%である。
【0054】
[レターデーション測定法]
位相差測定装置(大塚電子株式会社製RETS−100)を用いて検光子回転法により、面内レターデーション(Re)、厚み方向レターデーション(Rth)を自動測定した。
【0055】
[ヘイズ]
500mm×500mmサイズのセルロースエステルフィルムを濁度計(日本電色株式会社製NDH−300A)にセットし、JIS K 7105に準拠し測定した。
【0056】
[実施例1]
2L四つ口フラスコ中でビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物967gと安息香酸696gに触媒テトラブチルチタネート0.1gを加えて220℃で24時間脱水縮合し、エステルエーテル樹脂A(酸価0.4、水酸基価15、平均分子量520)を得た。エステルエーテル樹脂AをTG−DTAで130℃×60分加熱時の質量変化を記録し、揮発性試験を行った。130℃加熱前後の質量減量は0.09%であった。
【0057】
次にトリアセチルセルロース(製品名L−35、ダイセル化学工業製)10質量部、エーテルエステル樹脂Aを1質量部に対し、メチレンクロライド81質量部、メタノール9質量部を加えて溶解し、ドープAを得た。ドープAをガラス板上に厚み0.9mmとなるように流延し、室温で16時間放置後、50℃で30分、100℃で30分乾燥し、膜厚80μmのフィルムを得た。透湿度(40℃×90%RH、JIS Z 0208)は750g/m2/24hrs、面内レターデーションReは0.5nm、厚み方向レターデーションRthは68nm、ヘイズ0.1であった。
【0058】
[実施例2]
2L四つ口フラスコ中でビスフェノールAのプロピレンオキサイド2付加物1015gと安息香酸696gに触媒テトライソプロピルチタネート0.1gを加えて220℃で40時間脱水縮合し、エーテルエステル樹脂B(酸価1.0、水酸基価13、平均分子量540)を得た。エーテルエステル樹脂BをTG−DTAで130℃×60分加熱時の質量変化を記録し、揮発性試験を行った。130℃加熱前後の質量減量は0.10%であった。
【0059】
次に実施例1と同様の方法でエーテルエステル樹脂Bを添加したドープBから膜厚80μmのフィルムを得た。透湿度(40℃×90%RH、JIS Z 0208)は730g/m2/24hrs、面内レターデーションReは0.5nm、厚み方向レターデーションRthは60nm、ヘイズ0.1であった。
【0060】
[実施例3]
2L四つ口フラスコ中でビスフェノールAのエチレンオキサイド2付加物645g、3−メチル−1,5−ペンタンジオール236gとテレフタル酸332gに触媒テトラブチルチタネート0.1gを加えて220℃で12時間脱水縮合した後、安息香酸464gを追加しさらに220℃で20時間脱水縮合し、エーテルエステル樹脂C(酸価0.7、水酸基価13、平均分子量770)を得た。エーテルエステル樹脂CをTG−DTAで130℃×60分加熱時の質量変化を記録し、揮発性試験を行った。130℃加熱前後の質量減量は0.23%であった。
【0061】
次に実施例1と同様の方法でエーテルエステル樹脂Cを添加したドープCから膜厚80μmのフィルムを得た。透湿度(40℃×90%RH、JIS Z 0208)は720g/m2/24hrs、面内レターデーションReは0.5nm、厚み方向レターデーションRthは127nm、ヘイズ0.1であった。
【0062】
[実施例4]
2L四つ口フラスコ中でビスフェノールAのエチレンオキサイド4付加物821g、1,4−ブチレングリコール180gと無水フタル酸296gに触媒テトラブチルチタネート0.1gを加えて220℃で12時間脱水縮合した後、トルイル酸517gを追加しさらに220℃で20時間脱水縮合し、エーテルエステルD(酸価0.4、水酸基価15、平均分子量880)を得た。エーテルエステルDをTG−DTAで130℃×60分加熱時の質量変化を記録し、揮発性試験を行った。130℃加熱前後の質量減量は0.19%であった。
【0063】
次に実施例1と同様の方法でエーテルエステルDを添加したドープDから膜厚80μmのフィルムを得た。透湿度(40℃×90%RH、JIS Z 0208)は740g/m2/24hrs、面内レターデーションReは0.7nm、厚み方向レターデーションRthは84nm、ヘイズ0.1であった。
【0064】
[比較例1]
2L四つ口フラスコ中でエチレングリコール518gとアジピン酸982gに触媒テトラブチルチタネート0.1gを加えて220℃で16時間重縮合し、ポリオールE(酸価0.3、水酸基価112、平均分子量1000)を得た。ポリオールE をTG−DTAで130℃×60分加熱時の重量変化を記録し、揮発性試験を行った。130℃加熱前後の重量減量は0.48%であった。
次に実施例1と同様の方法でポリオールEを添加したドープEから膜厚80μmのフィルムを得た。透湿度(40℃×90%RH、JIS Z 0208)は810g/m2/24hrs、面内レターデーションReは1.2nm、厚み方向レターデーションRthは24nm、ヘイズ0.1であった。
【0065】
[比較例2]
2L四つ口フラスコ中で3−メチル−1,5−ペンタンジオール733gとテレフタル酸647gに触媒テトラブチルチタネート0.1gを加えて220℃で10時間重縮合した後に安息香酸464gを加えさらに220℃で20時間重縮合し、エステル樹脂F(酸価0.3、水酸基価13、平均分子量800)を得た。エステル樹脂FをTG−DTAで130℃×60分加熱時の重量変化を記録し、揮発性試験を行った。130℃加熱前後の重量減量は0.75%であった。
次に実施例1と同様の方法でエステル樹脂Fを添加したドープFから膜厚80μmのフィルムを得た。透湿度(40℃×90%RH、JIS Z 0208)は730g/m2/24hrs、面内レターデーションReは0.9nm、厚み方向レターデーションRthは122nm、ヘイズ0.1であった。
【0066】
[比較例3]
2L四つ口フラスコ中でエチレングリコール240g、2−メチル−1,3−プロパンジオール342gと無水フタル酸397gとアジピン酸391gに触媒テトライソプロピルチタネート0.1gを加えて220℃で10時間重縮合した後に安息香酸464gを加えさらに220℃で20時間重縮合し、エステル樹脂G(酸価0.3、水酸基価15、平均分子量800)を得た。エステル樹脂GをTG−DTAで130℃×60分加熱時の重量変化を記録し、揮発性試験を行った。130℃加熱前後の重量減量は0.54%であった。
次に実施例1と同様の方法でエステル樹脂Gを添加したドープGから膜厚80μmのフィルムを得た。透湿度(40℃×90%RH、JIS Z 0208)は720g/m2/24hrs、面内レターデーションReは0.6nm、厚み方向レターデーションRthは61nm、ヘイズ0.2であった。
【0067】
[比較例4]
トリフェニルホスフェート(TPP)をTG−DTAで130℃×60分加熱時の重量変化を記録し、揮発性試験を行った。130℃加熱前後の重量減量は1.3%であった。
次に実施例1と同様の方法でTPPを添加したドープHから膜厚80μmのフィルムを得た。透湿度(40℃×90%RH、JIS Z 0208)は650g/m2/24hrs、面内レターデーションReは1.1nm、厚み方向レターデーションRthは68nm、ヘイズ0.3であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香環を2個以上有するジオールにアルキレンオキサイドを2〜4モル付加したジオール、
(B)芳香族一塩基酸またはその無水物
(C)芳香族二塩基酸
(D)グリコール
前記(A)と(B)、あるいは(A)〜(D)を反応して得られる水酸基価20以下、和平均分子量1500以下のエステル化合物を含むことを特徴とするセルロースエステル改質用樹脂組成物。
【請求項2】
芳香族一塩基酸またはその無水物(B)が、安息香酸またはその無水物である請求項1記載のセルロースエステル改質用樹脂組成物。
【請求項3】
前記ジオール(A)の芳香環を2個以上有するジオールが、ビスフェノールAである請求項1記載のセルロースエステル改質用樹脂組成物。
【請求項4】
前記エステル化合物が、芳香族一塩基酸またはその無水物(B)を片末端にのみ付加する化合物を1〜20重量%含有する請求項1記載のセルロースエステル改質用樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−47705(P2010−47705A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213939(P2008−213939)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】