説明

セルロースエステル膜の架橋方法

本発明は、多孔質架橋セルロース膜の製造方法、及びクロマトグラフィー用リガンドを架橋セルロース膜にカップリングさせる方法に関するものである。本発明は、本発明の方法で得ることができる膜を使用することにより、溶液中で、第一成分の第二成分からの分離を、第一成分と第二成分のサイズの違いにもとづいて行う方法、並びに標的分子を、溶液中の他の成分から分離する方法を提供するものである。こうした方法は、タンパク質を細胞溶解液や培養液から分離する際に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステル膜を架橋して、物理的強さと塩基による加水分解に対する抵抗性を向上する方法に関するものである。膜を活性化し、クロマトグラフィー用リガンドにカップリングする方法、並びに本発明の方法によって製造された膜を使用して、標的分子を溶液から分離する方法も記載する。
【背景技術】
【0002】
化学やバイオテクノロジーの現場、例えば、新規な生物薬剤や診断薬を大規模に生産する現場では、標的分子のクロマトグラフィーによる分離の商業的価値は高い。また、最近では、ヒトゲノムによって発現されるタンパク質の機能を調べるプロテオミクスの分野が進捗したため、タンパク質の精製も重要な意味をもつようになっている。
【0003】
一般に、タンパク質は、細胞培養によって生産され、この場合、タンパク質は、細胞内にとどまるか、周囲の培養液に分泌される。使用する株化細胞は、生きた生物であるため、白糖、アミノ酸、成長因子などを含む複雑な生育用培養液を与える必要がある。栄養分と細胞の副生物が入り混じった複雑な混合物から、所望のタンパク質を、治療に利用するうえで十分なレベルまで分離、精製する作業は、大変な作業である。
【0004】
多孔質ポリスルホン膜及びセルロース膜は、化学物質や生体物質が入り混じった混合物を濾過、分離する用途で、広く利用されている(欧州特許第0483143号参照)。こうした膜としては、限外濾過膜及び精密濾過膜を挙げることができ、こうした濾過の過程は、静水圧の差に基づいている。限外濾過膜は、分子量が500〜1,000,000ダルトンの高分子を保持できる孔径を持つことを特徴としており、精密濾過膜には、直径が0.01〜10μmの範囲の選択透過性の孔が設けられている。
【0005】
セルロースの水和物やエステル膜のは、膜を用いた濾過技術では周知であり、それぞれ、有利な利点をあわせ持っている。こうした利点としては、例えば、親水性であることを挙げることができ、界面活性剤を使わなくても膜を湿潤させることができる。また、この種の膜は、タンパク質の吸着も少なく、耐熱性が高く、柔軟性も高い。
【0006】
しかし、広く利用されているにも関わらず、セルロース膜にはいくつかの欠点があり、こうした欠点としては、例えば、強酸及び強塩基並びにセルラーゼ酵素の攻撃を受けやすい点を挙げることができる。塩基への感受性は、まず収縮と膨潤によって示され、最終的には、膜が分解する。高温では、化学的分解と収縮が進行し、低温では、特に、実質的な濃度のアルカリが存在する場合には、膨潤及び破裂が進行する。膜の孔構造は、容易に破壊され、膜を通過する流体の流量が劇的に低減する。セルロース膜のアルカリ感受性は、例えば、強アルカリ洗浄液を用いて膜を洗浄することによって濾過能を回復せねばならない場合には、大きく不利になる。
【0007】
セルラーゼは、醸造産業では日常的に見られ、セルロース膜を、非滅菌環境で長期にわたって貯蔵した際にセルロース膜に生育する微生物からも自然に発生する。セルラーゼは、セルロース多糖を分解して、より小型の化学物質の断片、例えばグルコースとすることによって、膜を攻撃する。セルロース水和物膜が分解すると、分解副生物の一部がいわゆる「疑似パイロジェン」又は発熱物質を生じるので、セルロース水和物膜は、製剤製品の濾過には利用しにくい。
【0008】
セルロース繊維は、架橋によって改質できることが、繊維産業での経験にもとづいて従来から知られている(Kirk−Othmer’s Encyclopedia of Chemical Technology,Vol.22,pp.770−790(3rd Ed.1983)参照)。こうした架橋は、セルロース膜の物理的強さと化学的抵抗性を改善するうえでも、極めて望ましい。また、例えば、タンパク質結合性リガンドをセルロースポリマーのヒドロキシル基にカップリングさせる等の目的で膜を化学的に誘導化することが望ましい場合も、塩基に対する感受性は、極めて重要である。
【0009】
欧州特許第0145127号には、ケトン脱ろう溶剤を、脱ろう油から分離する際に使用するための、再生セルロース水和物膜の架橋方法が開示されており、この方法では、セルロース水和物膜を、架橋剤溶液と接触させる。しかし、この架橋膜生成物は、もとの膜と比べて、親水性が相当低下おり、また、架橋度が上がると、この種の膜を通過する流体の流量は、非架橋セルロース水和物膜と比べて、一気に約80%も低減する。さらに、二官能性試薬と架橋させる場合には、二官能性試薬の水溶性が低いため、有機溶剤又は非プロトン性溶剤を用いなければならず、この方法は技術的に困難で、費用を要するものであった。
【0010】
欧州特許第0214346号には、脱ろう油中に存在する極性溶媒、例えばケトン脱ろう溶剤を分離する際に使用ために、酢酸セルロース膜を架橋して、有機溶液に対する抵抗性を改善する方法が記載されている。この方法では、架橋は、酢酸セルロース膜の構造中に存在するヒドロキシル基と反応する二官能性試薬を用いることによって、実現されている。なお、二官能性試薬は、酢酸セルロース膜中に存在する遊離ヒドロキシル基と直接反応するが、文献中には、塩基による加水分解によってアセテート基を除去することは、開示されていない。
【0011】
米国特許第5739316号には、セルロース水和物膜を、水溶性ジエポキシド(例えば、5−エチル−1,3−ジグリシジル−5−メチルヒダントイン)と、塩基の存在下で架橋する方法が教示されている。アルカリ性溶媒が、ジエポキシドとセルロースの反応の触媒として作用し、また、水がセルロースに対して及ぼす悪影響を失活させるうえでの触媒として作用する。膜の用途としては、水性/油性エマルションの分離と、バイオ技術で製造した水性溶媒及び飲料からのタンパク質の分離への利用が記載されている。
【0012】
米国特許出願公開第2004/0206694号には、架橋セルロース水和物膜の製造方法が開示されている。この方法では、再生セルロース水和物膜を、塩基性かつ還元性の条件下で、エピクロロヒドリンによって処理して、エポキシ化架橋生成物を得、この生成物を、アミン求核試薬(例えば、ジメチルエチレンジアミン)でさらに処理して、正に帯電した架橋セルロース膜を製造している。あるいは、エポキシ化架橋生成物を、クロロ酢酸ナトリウムと、塩基性の条件下で反応させることによって、負に帯電した膜を得ることもできる。
【0013】
正又は負に帯電した膜の1工程での製造方法も記載されており、この方法では、エポキシド基及び、電荷を持ちうる基を持つグリシジル試薬(例えば、グリシジル第四級化合物又はグリシジル酸)を、塩基性の条件下で、直接、ヒドロキシルポリマーと反応させることができる。
【0014】
したがって、本発明の目的は、高い流量に対しても、また、タンパク質が吸着しにくく、柔軟だという特性に対しても悪影響を及ぼすことなく、セルロースエステル膜を架橋させて、この膜の塩基に対する抵抗性を向上させ、クロマトグラフィー用リガンドによる化学的修飾を可能とすることにある。本発明のもう一つの目的は、クロマトグラフィー用リガンドを、架橋膜のヒドロキシル基に、直接、又は化学的修飾を行ってからカップリングさせる方法を提供することにある。本発明の別の目的は、上述の方法によって調製した膜を提供することにある。こうした膜は、溶液の成分を、サイズと形状にもとづいて分離する際に使用することができる。本発明のさらに別の目的は、この膜を使用して、標的分子を、標的分子の結合アフィニティにもとづいて、溶液中の他の成分から分離する方法を提供することにある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第一の観点では、多孔質架橋セルロース膜の製造方法を提供する。この方法は、複数のセルロースエステル基を含む膜に、塩基を、二官能性試薬の水溶液の存在下で、上記エステル基のヒドロキシル基への加水分解並びに上記ヒドロキシル基の上記二官能性試薬との架橋が生じうるような条件で加える工程を含んでおり、上記の加水分解と架橋とが、実質的に同時に生じることを特徴としている。当業者であれば、セルロース膜が、当初、複数のエステル基に加えて、遊離ヒドロキシル基を含んでいてもよいことを理解できるはずである。これらの遊離ヒドロキシル基が、二官能性試薬との架橋反応に関与してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、三リン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、炭酸カリウム、ケイ酸カリウム、三リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウムからなる群から選ぶのが適当である。塩基は、好ましくは、水酸化ナトリウムである。
【0017】
セルロースエステルは、酢酸セルロース、硝酸セルロース、キサントゲン酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、安息香酸セルロース、及びそれらの混合物からなる群から選ぶのが適当である。エステルは、好ましくは、酢酸セルロースである。
【0018】
二官能性試薬は、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、ジイソシアネート、ジメチル尿素、ジメチルエチレン尿素、ジメチルクロロシラン、ビス(2−ヒドロキシエチルスルホン)、グリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ジビニルスルホン、アルキレンジハロゲン、ヒドロキシアルキレンジハロゲンからなる群から選ばのが適当である。
【0019】
グリシジルエーテルは、ブタンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルからなる群から選ぶのが適当である。
【0020】
二官能性試薬は、エピクロロヒドリン(ECH)とするのが好ましい。エピクロロヒドリンは、3−クロロプロピレンオキシド、クロロメチロキシラン、1−クロロ−2,3−エポキシプロパンとしても知られている。
【0021】
必要に応じて、二官能性試薬の混合物を使用する。
【0022】
この過程は、無機塩の存在下で行うことが好ましい。塩は、硫酸ナトリウムとするのがさらに好ましい。
【0023】
この方法は、水混和性溶剤を加えて、二官能性試薬の溶解度を上昇させる工程をさらに含むものとするのが適当である。なお、溶剤の濃度は、セルロースエステル膜が溶解したり、膨潤しはじめたりするレベルより低いものとする必要があることを理解されたい。
【0024】
溶剤は、アルコール、ケトン、エーテルからなる群から選ぶのが適当である。溶剤は、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセロール、プロピレングリコール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグリムからなる群から選ぶのが好ましい。
【0025】
水混和性溶剤は、最終濃度が50%(v/v)となるまで加えるのが適当であり、最終濃度が25%(v/v)程度となるまで加えるのが好適である。
【0026】
この方法は、20℃〜70℃の温度で30分〜48時間にわたってに実施するのが適当であり、好ましくは、25℃〜60℃の温度で、より好ましくは、45℃〜55℃の温度で30分〜48時間にわたって実施するのが好ましい。25℃〜60℃の温度で2〜24時間にわたって実施するのが好ましく、45℃〜55℃の温度で2〜24時間にわたって実施するのがさらに好ましい。
【0027】
膜は、複数の酢酸セルロース基を含んでいるのが好ましい。
【0028】
より好ましくは、膜は、複数の酢酸セルロース基を含んでおり、塩基は水酸化ナトリウムであり、二官能性試薬はエピクロロヒドリンである。
【0029】
特に好ましくは、この方法は、45℃〜55℃の温度で、少なくとも1時間にわたって実施し、好ましくは、この方法は、47℃の温度で実施する。
【0030】
二官能性試薬がエピクロロヒドリンである場合は、上記方法が、さらなるエピクロロヒドリン水溶液と塩基を、エステル基のヒドロキシル基への加水分解と、ヒドロキシル基のエピクロロヒドリンによる活性化が生じうるような条件で加えて、エポキシ活性化架橋セルロース膜を生成する工程をさらに含むものとするのが適当である。
【0031】
一形態では、この方法は、さらに、クロマトグラフィーリガンドを、架橋セルロース膜のヒドロキシル基に結合させる工程を含んでいる。このクロマトグラフィーリガンドの結合は、官能化としても、また場合によっては、誘導化としても知られており、この工程は、帯電ずみ又は帯電可能な基を結合させて、イオン交換マトリックスを調製することにより、生物学的アフィニティを示す基を結合させて、アフィニティマトリックスを調製することにより、キレート基を結合させて、固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(IMAC)マトリックスを調製することにより、あるいは、疎水基を結合させて、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)マトリックスを調製することによって行う。具体的な形態では、官能基は、第四級アンモニウム(Q)及びジエチルアミノアチル(DEAE)基からなる群から選択されるイオン交換リガンドである。他のイオン交換基の例としては、ジエチルアミノプロピル、スルフォプロピル(SP)、カルボキシメチル(CM)基がある。
【0032】
官能基を固相支持体、例えば分離用マトリックスに結合する方法は、当業者には周知であり、前もって、置換基をアリル化しておく工程を実施し、標準的な試薬及び条件を用いることができる(例えば、『Immobilized Affinity Ligand Techniques』,Hermansonら(Greg T.Hermanson, A.Krishna Mallia、及びPaul K.Smith),Academic Press,INC,1992参照)。本発明の架橋セルロース膜には、官能化を行う前に、エキステンダー(可撓性アーム、テンタクル、又はフラフとしても公知)を設けておいてもよい。周知のエキステンダーとしては、デキストランを挙げることができる。例えば、米国特許第6,537,793号を参照のこと。この特許では、多糖マトリックスにエキステンダーを加えることが詳述されている。
【0033】
この方法は、クロマトグラフィー用リガンドを、上記のエポキシ活性化架橋セルロース膜とカップリングさせる工程をさら含むものとするのが好ましい。リガンドは、アミン又はチオール基を含むものとするのが好ましく、アミンがアンモニアであるのがさらに好ましい。
【0034】
上記の方法は、クロマトグラフィー用リガンドを、上記のエポキシ活性化架橋セルロース膜とカップリングさせる工程をさら含むものとするのが適当である。
【0035】
カップリングは、第一の酸化工程と、第二の還元アミノ化工程を含むものとするのが適当である。第一の酸化工程は、膜の過ヨウ素酸塩溶液による処理を含むものとするのが好ましい。第二の還元アミノ化工程が、膜の水素化ホウ素ナトリウ(NaBH4)による処理を含むものとするのが好ましい。
【0036】
リガンドは、アミン基を含むものとするのが適当であり、アミンは、第二級アミンとするのが好ましい。第二級アミンは、より好ましくは、ビス(3−アミノプロピル)アミンである。
【0037】
リガンドは、グリシジル第四級アンモニウム化合物、例えば塩化グリシジルトリメチルアンモニウム(GMAC)を含むものとするのが適当である。このグリシジル第四級アンモニウム化合物のカップリングでは、還元剤の存在下で、塩基を使用するのが適当である。還元剤は、水素化ホウ素ナトリウとするのが好ましい。塩基は、水酸化ナトリウムとするのが好ましい。
【0038】
本発明の第二の観点では、多孔質架橋セルロース膜を提供するものであり、この多孔質架橋セルロース膜は、複数のセルロースエステル基を含む膜に、塩基を、二官能性試薬の水溶液の存在下で、上記エステル基のヒドロキシル基への加水分解並びに上記ヒドロキシル基の上記二官能性試薬との架橋が生じうるような条件で加える工程を含み、上記の加水分解と架橋とが、実質的に同時に生じることを特徴とする多孔質架橋セルロース膜の製造方法によって製造された多孔質架橋セルロース膜である。
【0039】
本発明の第三の観点では、溶液又は懸濁液中で、第一成分の第二成分からの分離を、第一成分と第二成分のサイズの違いにもとづいて行う方法を提供する。この方法は、上述の膜を利用した精密濾過法又は限外濾過法である。
【0040】
精密濾過は、一般に直径0.1μmを超える懸濁した固形物やコロイドを除去する低圧での膜濾過法であるとして定義される。こうした方法は、顕微鏡を用いれば見ることのできる粒子や微生物、例えば、細胞、マクロファージ、大型のウイルス粒子、及び細胞の細片を分離する際に使用することができる。
【0041】
限外濾過は、粒径0.1μm以下の溶質を分離する低圧での膜濾過法であるとして定義される。したがって、例えば、分子のサイズが、溶剤分子より有意に大きい溶質は、適当な膜(通常は、孔径範囲が0.001〜0.1μmの膜)を通して溶剤のみを通過させるような水圧をを加えることによって、溶剤から除去できる。限外濾過を用いると、溶液から細菌やウイルスを除去することができる。
【0042】
本発明の膜は、標的化合物、特に生体分子を単離する際にも使用できる。こうした生体分子としては、タンパク質、モノクローナル又はポリクローナル抗体、ペプチド(例えば、ジペプチド又はオリゴペプチド)、核酸(例えば、DNA、RNA)、ペプチド核酸、ウイルス及び細胞(例えば、細菌細胞、プリオンなど)を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。一方、この膜は、有機分子、例えば代謝生成物及び薬剤候補物質を単離する際にも、有用である。別の形態では、本発明の膜は、診断目的などで、上述の標的化合物の任意のものを識別するうえでも有用である。したがって、本発明の膜を利用して精製する生成物としては、薬剤又は薬剤の標的;治療用ベクター、例えば遺伝子治療用のプラスミド又はウイルス;サプリメンツ、例えば機能性食品;診断薬などを挙げることができる。また、本発明にしたがって精製した生体分子の具体的用途としては、テイラーメード医療用の薬剤を挙げることができる。本発明の膜は、不要な標的化合物、例えば、上述のような化合物から、所望の液体を精製する際にも利用できる。
【0043】
したがって、本発明の第四の観点では、標的分子を、溶液中の他の成分から分離する方法であって、この方法が、上述の膜を使用するようなクロマトグラフィーである方法を提供する。
【0044】
クロマトグラフィーという用語は、一連の似通った方法をまとめて称する名称であり、クロマトグラフィーに含まれる各種の方法には、いずれも、共通の特徴として、2つの互いに非混和性の相を接触させ、一方の相が静止相で、もう一方の相が移動相であるという特徴がある。本発明では、膜が静止相を、溶液が移動相を構成する。クロマトグラフィーは、混入した化合物から液体を精製する際にも、液体から、1以上の特定の化合物を回収する際にも、使用できる。
【0045】
これまで、細胞及び/又は細胞の細片は、濾過によって除去されてきた。目的タンパク質を含む透明な溶液が得られたら、この目的タンパク質の、溶液の他の成分からの分離は、通常、各種のクロマトグラフィー技術を組み合わせて実施される。こうした技術では、タンパク質を、電荷、疎水性の程度、アフィニティ特性、サイズなどにもとづいて分離する。これらの各技術に用いるいくつもの異なったクロマトグラフィー用のマトリックスが市販されているので、目的とする特定のタンパク質に応じた精製スキームを自在に組むことができる。本発明の文脈では、タンパク質は、主に、電荷及び/又はアフィニティ特性にもとづいて分離することができる。
【0046】
標的分子は、膜中に存在するクロマトグラフィー用リガンドと結合する結合性部分を含んでいるものとするのが適当である。
【0047】
標的分子は、タンパク質とするのが適当である。標的分子は、ポリヌクレオチド又は天然生成物とすることができる。標的分子は、タンパク質とするのが好ましい。
【0048】
標的分子をタンパク質とし、溶液を細胞抽出物、細胞溶解物、又は細胞培養液とするのが好ましい。
【0049】
リガンドは、正又は負に帯電しているのが適当である。
【0050】
リガンドと結合部分は、それぞれ、特異的結合ペアの片方とし、各成分が、もう一方の成分に対して、特異的結合アフィニティを有するものするのが好適である。リガンドと結合部分は、ビオチン/ストレプトアビジン、ビオチン/アビジン、ビオチンビオチン/ニュートラアビジン、ビオチン/キャプトアビジン、エピトープ/抗体、GST/グルタチオン、His−tag/ニッケル、抗原/抗体、FLAG/M1抗体、マルトース結合性タンパク質/マルトース、キチン結合性タンパク質/キチン、カルモジュリン結合性タンパク質/カルモジュリン(Terpe、2003、Appl Microbiol Biotechnol、60、523−533)、Lumio(登録商標)試薬/Lumio(登録商標)認識配列からなる群から選ぶのが好ましい。Lumio(登録商標)試薬と認識配列(Cys−Cys−Pro−Gly−Cys−Cys)は、のInvitrogen Life社(米国カールスバッド)より入手可能である。
【0051】
リガンド/結合部分の他の例としては、酵素阻害物質/酵素(例えば、ベンズアミジン又はアルギニンと、セリンプロテアーゼ、例えばカタラーゼ)、ヘパリン/凝固因子、リジン残基/プラスミノーゲン又はリボソームRNA、プロシオンレッド/NADP+依存性酵素、Cibacron Blue/血清アルブミン、コンカナバリンA/グルコピラノシル及びマンノピラノシル基、並びにプロテインA又はプロテインC/IgGのFc領域を挙げることができる。
定義
「架橋」という用語は、本発明の文脈において使用する場合には、ポリマー(すなわち、セルロースポリマー)の別々の鎖の間、又は単一の鎖の一部の間に結合が存在し、その結果、ポリマーの剛性及び/又は保存性が増大することを意味すると理解されたい。
【0052】
「膜」という用語は、本発明で使用する場合には、通常、その性質上積層が可能であり、複数の孔を含み、その両側に位置する溶液に対してフィルターとして機能する薄いシート又は層を意味すると理解されたい。
【0053】
「塩基」という用語は、プロトンを獲得する傾向のある物質という従来通りの化学的意味として理解されたい。したがって、塩基は、例えば、水溶液中で酸と反応して塩と水のみを形成する物質、したがって、ヒドロキシルイオンを生じる物質である。
【0054】
「二官能性試薬」という用語は、本明細書で用いる場合には、反応性官能基を2つ有する化合物であって、1分子の2つの基、又は2つの異なった分子のそれぞれに含まれる1つの基と相互作用を生じうる化合物のことを意味している。
【0055】
「実質的に同時」という表現は、加水分解によって反応しうる状態となったヒドロキシル基の一部が、架橋反応に関与するかたちで、加水分解及び架橋が、本質的に並行して生じることを意味すると理解されたい。
【0056】
「標的分子」という用語は、本発明の方法によって、吸着によって標的とされる任意の化合物又は実体のことをいう。
【実施例】
【0057】
実施例1:酢酸セルロース膜の架橋
Sartorius社から販売されている0.65μmの酢酸セルロース(CA)膜を、全実験で使用した。酢酸セルロース膜を、エピクロロヒドリン(以下ECHと称する。P.O.Box 606, 3190 AN Hoogvliet Rt, The NetherlandsのResolution Sverige社から入手)及びNaOHと架橋した。膜は、架橋工程の間はピンセットで所定の場所に保持し、架橋完了後、水洗した。
【0058】
架橋膜はいずれも蒸留水で洗浄した(0.6Lで4回)。1Lの水を用い、後述する方法で、流れ時間を測定した(「流れ時間の測定」参照)。膜について行った実験の要旨については、表1及び2を参照されたい。
【0059】
基準/対照膜
膜を秤量し、蒸留水中に3.5週間浸漬した。流れ時間は、88秒及び88秒(p≒−0.88バール)であった。0.65μmのCA膜の流れ時間は、蒸留水中で保存することによって、65〜70秒から85〜90秒に伸びるようである。膜を真空室で48時間にわたって乾燥したところ、新しい膜が79.77mgであるのに対し、78.79mgとなった。この重量の減少幅は、水洗後真空乾燥を行った場合の正常な範囲内である。流れ時間を再度測定し、未処理の膜の正常値に戻るかどうかを観察した。流れ時間は92秒及び93秒(p≒−0.89)であった。膜を蒸留水中で一晩保存し、流れ時間を2回測定したところ、両回とも70秒であった(p≒−0.89バール)。
【0060】
サンプルK2C
255μLのECH(エピクロロヒドリン)を、100mLの蒸留水に4℃で溶解した。0.65μmの酢酸セルロース膜を、この溶液中に浸漬し、ピンセットで、その位置に保持した。5mLの1.0MのNaOHを加え、膜を45℃で2時間保持した。
【0061】
サンプルK7C:
湿潤させた膜(K7)を、10gのNa2SO4と2.50mLのECHの100mLの水への溶液の入った100mLのデュランフラスコに浸漬した。ECHの一部が蒸発したかどうかは不明である。膜(K7)は、溶液と接触することで、やや硬化したように見えた。1.688mLの50%NaOHを、0.028mL/分で加えた。膜を一晩そのままの状態で載置し、pHを測定したところ、pHは13〜14であった。
【0062】
サンプルK8C:
湿潤させた膜(K8)を、2.50mLのECHの100mLの水への溶液の入った100mLのデュランフラスコに浸漬した。1.688mLの50%NaOHを、0.028mL/分で加えた。膜を一晩そのままの状態で載置し、pHを測定したところ、pHは12であった。
【0063】
サンプルK9C:
1.00mLのECHを100mLの水に加え、室温で撹拌することによって溶解させた。ECHが溶解した時点で、10gのNa2SO4を加えた。溶液の入ったデュランフラスコを水浴に入れ、47℃に加熱した。湿潤させた膜(K9)を、デュランフラスコに浸漬した。0.674mLの50%NaOHを34分にわたって加えた(0.020mL/分)。塩基の全量を加えた後も、膜を溶液中に4時間そのまま保持した。
【0064】
サンプルK10C
10gのNa2SO4を、100mLの水に溶解した。ゆっくり撹拌しながら、1.00mLのECHを加え、デュランフラスコを、撹拌せずに2.75時間静置した。ECHがすべて溶解した時点で、フラスコを水浴(47℃)に入れた。0.674mLの50%NaOHを0.020mL/分で、34分にわたって加えた。塩基の全量を加えた後も、膜を溶液中に1時間そのまま保持した。pHは13〜14であった。
【0065】
サンプルL1C:
1.00mLのECHを、100mLの水に加え、室温で撹拌することによって溶解させた。ECHが溶解した時点で、10gのNa2SO4を加えた。溶液の入ったデュランフラスコを水浴に入れ、25℃(pH6〜7)に加熱した。湿潤させた膜(L1、78.99mg)を、デュランフラスコに浸漬した。0.674mLの50%NaOHを34分にわたって加えた(0.020mL/分)(pH13〜14)。塩基の全量を加えた後も、膜を、溶液中に25℃で18時間そのまま保持した(pH12〜13)。
【0066】
サンプルL2C:
0.50mLのECHを100mLの水に加え、室温で撹拌することによって溶解させた。ECHが溶解した時点で、10gのNa2SO4を加えた。溶液の入ったデュランフラスコを水浴に入れ、47℃に加熱した。湿潤させた膜(L2、78.74mg)を、デュランフラスコに浸漬し、0.336mLの50%NaOHを、0.020mL/分で17分間にわたって加えた。膜を、溶液中に17℃で18時間そのまま保持した(pH11〜12)。
【0067】
サンプルL3C:
1.00mLのECHを100mLの水に加え、室温で撹拌することによって溶解させた。ECHが溶解した時点で、10gのNa2SO4を加えた。溶液の入ったデュランフラスコを水浴に入れ、30℃に加熱した。湿潤させた膜(L3、78.77mg)を、デュランフラスコに浸漬した。0.674mLの50%NaOHを34分間にわたって加えた(0.020mL/分)(pH≒14)。膜を30℃で一晩静置した。膜は、塩基の添加終了後、合計で17.25時間浸漬した。膜を洗浄し、流れを測定した。
【0068】
サンプルL4C:
サンプルを、サンプルK9Cと同様に処理した(表1を参照のこと)。反応後のpHは、12〜13であった。
【0069】
サンプルM1C:
このサンプルは、Na2SO4の添加量を5gのみとした以外は、サンプルL4Cと同様に調製した(表1を参照のこと)。
【0070】
サンプルM3C:
このサンプルは、サンプルを反応混合物中に4.5時間浸漬した以外は、サンプルL4Cと同様に調製した(表1)。反応後のpHは、12〜13であった。
【0071】
M5C:
2.5mLのECHを100mLの水に加え、室温で撹拌することによって溶解させた。ECHが溶解した時点で、10gのNa2SO4を加えた。溶液の入ったデュランフラスコを水浴に入れ、47℃に加熱した。湿潤させた膜(M5、79.20mg)を、デュランフラスコに浸漬した。1.688mLの50%NaOHを、0.020mL/分で加えた(84分)。塩基を加え終わった後も、膜を、47℃で21時間にわたって浸漬させ、その後、洗浄を行った(pH13〜14)。p≒−0.91バールでの流れ時間は、57秒及び57秒であった。
【0072】
流れ時間の測定
膜を通過する水の流れを、架橋した膜の孔の構造のちがいを近似する手段として測定した。流れの変化が生じていれば、孔の構造に変化があったことが示唆される。水をメスシリンダーで計測し、真空フラスコに接続したメンブレンフィルターの漏斗に加えた。真空フラスコは、真空中央値(約−0.9バール)に接続し、圧力計を使用して圧力を測定した。流れ時間は、1リットルについて測定した。メンブレンフィルターの漏斗に水を加え(約0.25L)、残りの水は、水が膜を通過するにしたがって、徐々に加えた。流量及び圧力についての観察結果を、表1及び2に示す。
【0073】
流れ特性
流れ特性は、1Lの水が膜を通過するのに要した時間を測定することによって決定した。以下では、この時間のことを、「流れ時間」と称する。未処理の0.65μmのCA膜の流れ時間は、通常、65〜70秒程度であった。しかし、未処理膜の流れ時間は、水中に保存すると、徐々に上昇した(上述の「参照/対照膜」を参照のこと)。一例を挙げると、蒸留水中に3.5週間保存しておいた膜の流れ時間は、85〜90秒であった。乾燥後、再度一晩湿潤させたところ、流れ時間は70秒となった。したがって、膜を一度乾燥させ、その後再度湿潤させることによっても、効果を復元することが可能なようであった。
【0074】
架橋膜の流れ時間は、未反応のCA膜でも、ほぼ同じであった。また、流れ時間は、未反応膜の方が、水中に約2週間保存してあった膜(流れ時間は、85〜90秒と長かった)より短かった。測定された流れ時間(表1及び表2を参照のこと)は、65〜90秒の範囲であった。このことによって、架橋によって膜の孔構造に有意な変化が生じないことが示唆された。各実験で、架橋剤の量と架橋条件の双方を変化させた。硫酸ナトリウムの存在下で架橋を行った場合(例えば、表1のサンプルK7C及びK8C)、架橋膜の流れ特性が改善することが観察された。
【0075】
架橋酢酸セルロース膜の塩基に対する抵抗性
架橋について調べるために、膜K2C及びL1Cを、1.0MのNaOHで2時間にわたって処理した(K2Cは、約20mLに、L1Cは25mLに浸漬した)。この塩基処理によって流れ時間が変化しなければ、架橋が生じ、膜は、その結果として、塩基処理による構造の変化から保護されたことが示唆されたものと理解した。一方、流量が低下していれば、膜の孔構造に何らかの構造の変化が生じたことが示唆されたものと理解することができる。
【0076】
流量は、架橋が最も少ない膜(K2CH)についてのみ、有意に減少した。表3を参照のこと。この膜は、有意な程度に重量が減少した唯一の膜でもあった。他の膜は、塩基による処理の前の流れ時間及び重量を維持していた。こうした結果から、架橋が成功していたことが示された。膜K2CHも、同様の処理の後には、未架橋膜より優れた流れ特性を示したので、架橋していたものと考えられる。未架橋膜の流れは、1.0MのNaOHで2.5分間処理すると、劇的に低減した。膜L1CHが有意な重量変化を示さなかったことからは、酢酸塩基の大半が脱離し、その結果、膜が、主に、架橋酢酸セルロースではなく、架橋セルロースから構成されていたことが示唆される。
【0077】
実施例2: CA膜のエポキシ活性化
エポキシ活性化膜(K10CE)を、表1に記載したようにして調製した。膜を、まず、K10Cについて上述のしたようにしてECHで47℃にて架橋し、次に、温度を25℃まで下げ、ECHとNaOHをさらに加えた(表1を参照のこと)。
【0078】
エポキシ活性化の工程では、(架橋反応と比べて)反応温度を下げ、過剰なECHを使用した。目標は、反応後に膜に残るエポキシ基の量を増やすことであった。反応後に膜上に残っているエポキシ基の量は、相当多いはずである。
【0079】
表1(K10CEを参照のこと)の結果からは、架橋後も膜が流れ特性を維持していることが明らかである。
【0080】
エポキシ活性化には、酸化及び還元アミノ化を行う後述の方法より反応工程の数が少なくてすむという利点がある。
【0081】
実施例3:酸化及びアミノ化による、アミン官能基を用いたリガンドの架橋膜とのカップリング
リガンドの結合のモデル物質として、アミンビス(3−アミノプロピル)アミンを使用した。酸化及び還元アミノ化によって、アミンを架橋膜にカップリングさせた。
【0082】
第一段階:過ヨウ素酸ナトリウムによる酸化
膜中のアセテート基の大半は、架橋反応の過程で脱離したので、架橋膜を直接酸化することが可能であった。150mL入りのビーカー中で、NaIO4を蒸留水に溶解した。ビーカーを、振盪版上に載置して、加水分解して洗浄した膜を加えた。膜を室温で2時間おき、蒸留水で洗浄した。下記の各実験では、各種の量のNaIO4を、使用した。
【0083】
サンプルK9CO:
膜K9Cを湿潤させ、NaIO4溶液(2.0g、20mLの蒸留水への溶液)に加えた。20mLの蒸留水を加えた。膜を2時間浸漬したままとし、0.6Lの水で6回洗浄した。真空下で膜を一晩乾燥し、その後秤量した(48.57mg)。少量のサンプルを取り出し、膜を再度秤量した(48.49mg)。膜のこのサンプルは、シッフ試薬(Sigma−Aldrich社より入手)で処理すると、濃紫色(ほぼ黒色)となった。この色から、膜が、アルデヒド基を含むことが示され、色が濃いほど、アルデヒドの量が多い。
【0084】
サンプルL2CO:
膜L2Cを、NaIO4溶液(1.0gの20mLの蒸留水への溶液)に加え、2時間浸漬した後、洗浄した。流れ時間は80秒及び85秒(p≒−0.93バール)であった。
【0085】
サンプルK7CO:
99.8mgのNaIO4を、20mLの蒸留水に溶解した。膜K7Cを、この溶液に加えた。膜を2時間にわたって酸化し、洗浄した(p≒−0.91バールでの流れ時間、70秒及び71秒)。この膜を、真空で一晩乾燥させた。膜を秤量し(50.30mg)、その後、小片を切り取り、再度秤量した(50.93mg)。なお、この重量は、当初の重量より少なかった。シッフ試薬で処理したところ、膜から回収したサンプルは、濃紫色になった。
【0086】
サンプルL4CO:
100.7mgのNaIO4を、20mLの蒸留水に溶解した。この溶液に膜L4Cを加えた。膜を2時間にわたって酸化し、その後洗浄した。その後、流れ時間を測定した(p≒−0.92バールでの流れ時間、73秒及び73秒)。膜を、真空下で一晩乾燥した。膜を乾燥し、シッフ試薬との反応用の小片を取り出す前に秤量し(50.19mg)、取り出した後も秤量した(50.20mg)。シッフ試薬で処理したところ、このサンプル小片は、濃紫色となった。
【0087】
サンプルM3CO:
336.1mgのNaIO4を、20mLの蒸留水に溶解した。この溶液に膜M3Cを加えた。膜を2時間にわたって酸化し、その後洗浄した。その後、流れ時間を測定した(p≒−0.91バールでの流れ時間、72秒及び75秒)。
【0088】
第二段階:還元アミノ化
ビス(3−アミノプロピル)アミン(Labchem社より入手)を、150mLのビーカーで、蒸留水又はメタノールで溶解した。酸化膜(すなわち、サンプルK9CO、L2CO、K7CO、L4CO)を加え、所定時間後(通常2時間後)、水素化ホウ素ナトリウ(NaBH4、95%、Sigma−Aldrich社)を加えた。還元剤で2時間以上処理した後、膜を洗浄した。
【0089】
サンプルK9COA:
5.9mLのビス(3−アミノプロピル)アミンを20mLのメタノールに加えた。膜K9COをメタノール中で湿潤させ、アミン溶液に加えた。2時間後、0.5gのNaBH4を反応に加え、さらに2時間後に、0.5gのNaBH4を加えた。膜を、還元剤の存在下で合計3.25時間インキュベートした。膜を、メンブレンフィルター用漏斗に載置し、0.6Lの蒸留水を6回、さらに1Lの蒸留水を通過させることによって洗浄した。膜を、真空下で一晩乾燥した。サンプル小片を、シッフ試薬に加えたところ、濃い紫色を呈した。これとは別に、膜のサンプル小片を切り出して、窒素分析に供した。
【0090】
サンプルL2COA:
5.9mLのビス(3−アミノプロピル)アミンを20mLのメタノールに加えた。膜L2COAをアミン溶液に加えた。10mLのメタノールを加えた。膜を、3時間以上静置してから、NaBH4溶液を加えた。NaBH4溶液(0.39gの10mLの冷却メタノールへの溶液)は、少量ずつ、30分にわたって加えた。最後にNaBH4を加えた後、膜を1時間洗浄し、流れ時間を測定した(p≒−0.91で91秒及び96秒)。この膜を乾燥し、秤量した(49.82mg。シッフ試薬用サンプル採取後は、49.70mg)。シッフ試薬では、この膜のサンプルは、極めて濃い紫色となった。
【0091】
サンプルK7COA:
5.9mLのビス(3−アミノプロピル)アミンを20mLのメタノールに加えた。膜K7COAを、アミン溶液に加えた。膜を3.5時間静置してから、氷浴で冷却しておいたNaBH4溶液を加えた。NaBH4溶液(0.39gの10mLのメタノールへの溶液)を少量ずつ加えたところ、膜が白色となった。最後にNaBH4溶液を加えた時点では、最初にNaBH4溶液を加えてから、約45分が経過していた。最後にNaBH4溶液を加えてから約15分後に、反応系を氷浴から取り出した。膜を、最後にNaBH4溶液を加えてから2.5時間にわたって乾燥した。膜を乾燥し、秤量した(53.32mg。シッフ試薬用サンプル採取後は、53.16mg)。窒素分析用のサンプルを切り出した(重量、53.34〜43.31mg)。シッフ試薬では、サンプル膜は濃紫色となった。
【0092】
サンプルL4COA:
5.9mLのビス(3−アミノプロピル)アミンを20mLのメタノールに加えた。膜L4COAを水で湿潤させ、アミン溶液に加えた。2.5時間時間後、混合物に、NaBH4の結晶をいくつか加えた。0.39gのNaBH4を、最初にNaBH4を加えてから約1.5時間をかけて、少量ずつ加えた。反応系を一晩静置した。0.20gのNaBH4を加えたところ、膜は、再度、白亜色となった。6時間後に膜を洗浄した。p≒−0.93バールでの流れ時間は、74秒及び76秒であった。
【0093】
リガンドのアミン官能基とのカップリングの結果
アミノ化した膜のサンプル小片は、MIKRO KEMI社(Seminariegatan 29、752 28 UPPSALA、Sweden)に送って、窒素分析を行った。未架橋膜(U791069_I6A〜J8A)及び架橋膜(U791075_K9COA及びU791076_K7COA)についての窒素分析の結果は、表4に示してある。リガンドの含量は、窒素含量から計算した。2種の架橋膜K9COA及びK7COAは、他の未架橋膜より、リガンド濃度の計算値が高かった(表4参照)。未架橋膜についてのリガンド濃度の計算値は、いずれも、0.05〜0.18mmol/g(乾燥膜)であった(表4参照)。これらの値は、処理膜の面積及び容積が、未処理膜と同じだと仮定して計算したものである。未処理膜の面積及び容積は、スライドキャリパスで膜を10枚積層したものを測定することによって計算した。膜の容積は、乾燥膜が0.19mL、湿潤膜が0.21mLであった。
【0094】
この単位は、リガンド濃度を示す単位としては一般的ではないので、より一般的な単位を以下に示す。
・K9COA:0.96mmol/g(乾燥重量)は、ほぼ240μmol/mL及び3.4μmol/cm2に相当
U791076−K7COA:0.32mmol/g(乾燥重量)は、ほぼ80μmol/mL及び1.1μmol/cm2に相当。
【0095】
表5は、上記実験の過程で観察された架橋膜の重量変化をまとめたものである。
【0096】
実施例4:アミンリガンドのエポキシ活性化膜との直接カップリング
膜K10CEを、5.0mLの水とともにビーカーに入れ、その後、5.0mLのアンモニア水(24%)を加えた。ビーカーを、室温で3時間振盪してから、蒸留水(5×50mL)で3回洗浄した。得られた膜K10CEAを、真空下で乾燥してから、元素分析に送った。
【0097】
K10CEAの元素分析結果:Nが0.19%。
【0098】
実施例5:リガンドの架橋膜との直接カップリング
0.65μmのCA膜を、NaOH及びECHで処理することによって上述のようにして架橋した。
【0099】
1.0mLのECHを100mLの蒸留水に溶解した。10gの硫酸ナトリウムを、ECH溶液に溶解した。0.65μmの酢酸セルロース膜を湿潤させ、流れ時間を測定した。p≒−0.93バールでの流れ時間は、64秒及び64秒であった。ECH溶液を、47℃の水浴中に載置した。0.674mLのNaOH(50%w/w)を、0.020mL/分で、34分間にわたって加えた。次に、1.00mLのECHを、0.030mL/分で、0.674mLのNaOH(0.020mL/分)と並行して加えた。添加後、反応系を、47℃で一晩静置し、19時間後に、0.674mLのNaOHを、2mL/分の流量で加えた。0.5時間後、膜を、蒸留水で何度も洗浄した。その後、p≒−0.93バールでの流れ時間を測定したところ、71秒、77秒、76秒及び75秒であった。
【0100】
次に、膜を、GMAC(グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、Degussa社(Postfach 13 45、D−63403 Hanau))、5mLのNaOH(50%w/w)、及び0.3gのNaBH4の水溶液75mLの入った100mL入りデュランフラスコに入れた。フラスコを、温度29℃に保った氷浴中で一晩回転させた。次に、膜を取り出し、蒸留水で洗浄した。
【0101】
リガンドをカップリングさせた膜の結合能力を、メタニルイエロー(Aldrich社、カタログ番号20,202−9)及びDNA結合アッセイを用いて測定した。
【0102】
メタニルイエロー法は、膜が、この染料の25ppmの溶液から色を除去する能力にもとづいて開発された方法である。この方法では、膜の円形小片を、AKTAクロマトグラフィー装置(GE Healthcare社)に付属しているHR16カラムの2つのカラムアダプターの間に挿入する。能力は、メタニルイエローの25ppm溶液を、能力の急変が観察されるまで膜に加えつづけることによって調べた。
【0103】
能力は、以下のようにして計算した。
【0104】
分析対象面積:1.5cm2(直径:1.4cm)
メタニルの分子量:375.4g/mol
溶液の濃度:25ppm
能力(μmol/cm2)=吸着容積(mL)×25
375.4×1.5

DNA結合アッセイでは、AKTAクロマトグラフィー装置に付属のHR16カラムに挿入した膜について、流量0.5mL/分で、DNAのQb50%を測定する。DNA溶液の濃度は、DNA0.1mg/mLとした。DNA溶液は、第一緩衝液(緩衝液A:25mMTris−6MHClを加えてpHを8.0に調整)中の膜に適用し、第二緩衝液(緩衝液B:25mMのTris、1MNaCl−6MHClを加えてpHを8.0に調整)で溶出させた。
【0105】
検出は、UV−センサーを用いて、280nmで行った。
【0106】
DNA結合能力は、以下のようにして計算した。
【0107】
分析対象面積:1.5cm2(直径:1.4cm)
溶液の濃度:0.1mg/mL
DNA結合能力(mg DNA/cm2)=吸着量(mL)×0.1
1.5

この膜は、動的流量が5.7μmol/cm2 、DNA結合能力が0.52mg/cm2であり、これらの結果は、動的流量が1.20μmol/cm2、DNA結合能力が0.45mg/cm2である標準として使用したMustangQ膜(Pall社)より優れていた。
【0108】
【表1】

【0109】
【表2】

【0110】
【表3】

【0111】
【表4】

【0112】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質架橋セルロース膜の製造方法であって、
複数のセルロースエステル基を含む膜に、塩基を、二官能性試薬の水溶液の存在下で、上記エステル基のヒドロキシル基への加水分解並びに上記ヒドロキシル基の上記二官能性試薬との架橋が生じうるような条件で加える工程を含み、上記の加水分解と架橋とが、実質的に同時に生じることを特徴とする方法。
【請求項2】
塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、三リン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、炭酸カリウム、ケイ酸カリウム、三リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウムからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
セルロースエステルが、酢酸セルロース、硝酸セルロース、キサントゲン酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、安息香酸セルロース、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
二官能性試薬が、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、ジイソシアネート、ジメチル尿素、ジメチルエチレン尿素、ジメチルクロロシラン、ビス(2−ヒドロキシエチルスルホン)、グリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ジビニルスルホン、アルキレンジハロゲン、ヒドロキシアルキレンジハロゲンからなる群から選択される、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
グリシジルエーテルが、ブタンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルからなる群から選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
二官能性試薬がエピクロロヒドリンである、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
二官能性試薬の混合物を使用する、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
当該方法が無機塩の存在下で実施される、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
上記の塩が硫酸ナトリウムである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
水混和性溶剤を加えて、二官能性試薬の溶解度を上昇させる工程をさらに含む、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
水混和性溶剤がアルコール、ケトン、エーテルからなる群から選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
水混和性溶剤を最終濃度が50%(v/v)となるまで加える、請求項10又は請求項11記載の方法。
【請求項13】
膜が複数の酢酸セルロース基を含んでいる、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
膜が、複数の酢酸セルロース基を含んでおり、塩基が水酸化ナトリウムであり、二官能性試薬がエピクロロヒドリンである、請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
当該方法が45℃〜55℃の温度で1時間以上実施される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
二官能性試薬がエピクロロヒドリンである場合に、当該方法が、さらなるエピクロロヒドリン水溶液と塩基を、エステル基のヒドロキシル基への加水分解と、ヒドロキシル基のエピクロロヒドリンによる活性化が生じうるような条件で加えて、エポキシ活性化架橋セルロース膜を生成する工程をさらに含む、請求項1乃至請求項15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
クロマトグラフィー用リガンドを上記のエポキシ活性化架橋セルロース膜とカップリングさせる工程をさら含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
上記リガンドがアミン又はチオール基を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
上記アミンがアンモニアである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
クロマトグラフィー用リガンドを架橋セルロース膜とカップリングさせる工程をさらに含む、請求項1乃至請求項15のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
カップリングが第一の酸化工程と第二の還元アミノ化工程を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
上記の第一の酸化工程が膜の過ヨウ素酸塩溶液による処理を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
第二の還元アミノ化工程が膜の水素化ホウ素ナトリウ(NaBH4)による処理を含む、請求項21又は請求項22記載の方法。
【請求項24】
上記リガンドがアミンを含む、請求項20乃至請求項23記載の方法。
【請求項25】
上記アミンが第二級アミンである、請求項24記載の方法。
【請求項26】
上記第二級アミンがビス(3−アミノプロピル)アミンである、請求項25記載の方法。
【請求項27】
上記リガンドがグリシジル第四級アンモニウム化合物を含む、請求項20記載の方法。
【請求項28】
カップリングが還元剤の存在下での塩基の使用を含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
還元剤が水素化ホウ素ナトリウである、請求項28の方法。
【請求項30】
塩基が水酸化ナトリウムである、請求項28又は請求項29記載の方法。
【請求項31】
グリシジル第四級アンモニウム化合物が塩化グリシジルトリメチルアンモニウム(GMAC)である、請求項27乃至請求項30記載の方法。
【請求項32】
複数のセルロースエステル基を含む膜に、塩基を、二官能性試薬の水溶液の存在下で、上記エステル基のヒドロキシル基への加水分解並びに上記ヒドロキシル基の上記二官能性試薬との架橋が生じうるような条件で加える工程を含み、上記の加水分解と架橋とが、実質的に同時に生じることを特徴とする多孔質架橋セルロース膜の製造方法によって製造された多孔質架橋セルロース膜。
【請求項33】
溶液又は懸濁液中で、第一成分の第二成分からの分離を、第一成分と第二成分のサイズの違いにもとづいて行う方法であって、当該方法が、請求項32記載の膜を利用した精密濾過又は限外濾過である方法。
【請求項34】
標的分子を、溶液中の他の成分から分離する方法であって、当該方法が、請求項32記載の膜を使用するクロマトグラフィーである方法。
【請求項35】
標的分子が膜中に存在するクロマトグラフィー用リガンドと結合する結合性部分を含む、請求項34記載の方法。
【請求項36】
標的分子がタンパク質である、請求項34又は請求項35記載の方法。
【請求項37】
標的分子がポリヌクレオチドである、請求項34又は請求項35記載の方法。
【請求項38】
上記溶液が細胞抽出液、細胞溶解液又は細胞培養液である、請求項33乃至請求項37のいずれか1項記載の方法。
【請求項39】
リガンドが正又は負に帯電している、請求項34乃至請求項38のいずれか1項記載の方法。
【請求項40】
リガンドと結合部分が、それぞれ、特異的結合ペアの片方である、請求項35乃至請求項38のいずれか1項記載の方法。
【請求項41】
リガンドと結合部分が、ビオチン/ストレプトアビジン、ビオチン/アビジン、ビオチンビオチン/ニュートラアビジン、ビオチン/キャプトアビジン、エピトープ/抗体、GST/グルタチオン、His−tag/ニッケル、抗原/抗体、FLAG/M1抗体、マルトース結合性タンパク質/マルトース、キチン結合性タンパク質/キチン、カルモジュリン結合性タンパク質/カルモジュリン、Lumio(登録商標)試薬/Lumio(登録商標)認識配列からなる群から選択される請求項40記載の方法。

【公表番号】特表2009−503160(P2009−503160A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523204(P2008−523204)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【国際出願番号】PCT/EP2006/007256
【国際公開番号】WO2007/017085
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(597064713)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ (109)
【Fターム(参考)】