説明

セルロースエステル誘導体およびその製造方法

【課題】熱可塑性でフィルムや成形体への成形性、機械的特性に優れた、セルロースエステル誘導体及びその簡便かつ安価な製造方法を提供する。
【解決手段】未置換水酸基を有し、アセチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ベンゾイル基などのアシル基を有するアシル化セルロース誘導体を用い、これを二塩基酸無水物と反応させて生成するカルボキシル基を、更にエステル化剤で処理することにより製造される熱可塑性セルロースエステル誘導体およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のアシル基と特定の二塩基酸エステルを有する、成形性、機械的特性に優れた熱可塑性セルロース誘導体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース、セルロースエステル、セルロースエーテル等のセルロース系材料は古くから知られている材料であり、地球上で最も大量に生産される材木や綿花などのバイオマスを原料としている点と、生分解可能な材料である点から石油高騰や地球温暖化の深刻な問題を背景に、環境適合性材料として注目を集めつつある。
セルロース誘導体の中で最も安価で工業生産量が多いものはセルロースエステルに分類されるセルロースアセテートであり、繊維、プラスチック、フィルター、フィルムなど幅広い分野に利用されている。しかし、セルロースアセテートの融点は約250℃と高く、熱分解温度領域に入るため、熱可塑性が十分でないためそのまま加熱成形すると熱分解で着色する問題がある。
そのため融点を下げて熱可塑性を改善するために適切な外部可塑剤を使用しなければならない。例えば、市販品の「アセチ」(ダイセルファインケム製造)にはセルロースアセテートに可塑剤としてフタル酸ジエチルが22〜37重量%含有されて、ドライバーの柄やめがねフレームの射出成形用ペレットにして使用されている。この外部可塑化法は簡便な可塑化方法ではあるが、可塑剤自体が生体に有害な環境ホルモンであるだけでなく、ペレットの乾燥時及び成形時の可塑剤揮散、可塑剤の経時的移行による成形体の劣化などの問題がある。
【0003】
この問題を解消する他の可塑化方法として、セルロースアセテートの残存水酸基に特定の置換基を化学反応によって導入し可塑性を付与する内部可塑化法がある。
セルロース誘導体への置換基導入の従来技術として種々の方法が提案されている。
まず、セルロースアセテートにラジカル連鎖移動反応によって、スチレン、メタクリル酸のようなモノマーをグラフトする方法、レドックス反応を利用して、セルロースアセテートに、アクリル酸エステルをグラフトする方法などが示されている(非特許文献1)しかし、これらのグラフト率は、非常に低く実用化には至っていない。
実用性に向けた内部可塑化方法として、ε−カプロラクトンをグラフト鎖としたセルロースアセテートおよびその製造方法が知られている(特許文献1〜4)。これらのポリマーは可塑剤のブリードアウトの懸念がないものの、グラフト側鎖のポリマーの融点が低いことにより用途が制限されるなどの問題があった。
また、乳酸の二量体であるラクチドをグラフトさせたセルロース誘導体の製造方法が開示されている(特許文献5)。グラフト側鎖のポリ乳酸自身は熱安定性が高いポリマーであるため、用途範囲が広がるものの、結晶性が高いため、得られるポリマーは脆性が高く機械的特性が不良となる問題があった。
【0004】
一方、簡便な内部可塑化方法として、二塩基酸無水物を反応させ、セルロース材料に存在する水酸基をエステル化することによりカルボキシル基含有セルロース材料の製造方法(特許文献6)が開示されている。しかし、この材料は高温下や高湿下で不安定で、エステル結合が切断される欠点があった。
この解決策として、カルボキシル基をモノエポキシド化合物と反応させることで安定化する方法すなわち、セルロースやセルロース誘導体の未置換水酸基に、二塩基酸の無水物と、モノエポキシド化合物とを反応させてオリゴエステルをグラフトさせ熱可塑性セルロース誘導体を製造する技術が開示されている(特許文献7〜10)。しかし、この方法では、交互付加エステル化によりグラフト鎖が長くなり側鎖オリゴエステルの特性が顕著になり、セルロース固有の性質、例えばドライな風合い、適度な吸湿性、良好な寸法安定性などが消失してしまうという問題があった。
【特許文献1】特許1555484
【特許文献2】特許1712368
【特許文献3】特許3124988
【特許文献4】特開平11−255801
【特許文献5】特開平6−287279
【特許文献6】特許1543361
【特許文献7】特許1780924
【特許文献8】特開2003−96101
【特許文献9】特許3349536
【特許文献10】特許3363246
【非特許文献1】「高分子実験学、第6巻、高分子反応」147〜192頁(共立出版、1978年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記の問題点を解決し、特定のアシル基と特定の二塩基酸エステル基を有する成形性、機械的特性に優れた熱可塑性セルロース誘導体およびその簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記問題点に鑑み鋭意検討した結果、未置換水酸基を有するアシル化セルロースエステル誘導体を用い、これを二塩基酸無水物と反応させて生成するカルボキシル基をエステル化剤で処理することにより成形性、機械的特性に優れた熱可塑性セルロース誘導体およびその簡便な製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち
、本発明は、次の(1)〜(4)である。
・ 下記一般式[1]:
【0007】
【化4】

[式中、R1は、置換基を含んでいても良い炭素数1〜16の1価の炭化水素基、
は、置換基を含んでいても良い炭素数3〜16の2価の炭化水素基、Rは、炭素数1〜12の1価の炭化水素基、CELは、セルロース骨格を表す。R、Rが複数ある場合、それぞれ同一でも異なっていても良い。pは、1.0〜2.9で、qは、0.1〜2.0である。nは、10以上の整数を表す。]で表されるセルロースエステル誘導体。
(2)
1が、アセチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ベンゾイル基であり、
が、エチレン基、アルケニルエチレン基(アルケニル基が炭素数5〜30)、フェニレン基であり、
が、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基である前記請求項1記載のセルロースエステル誘導体。
(3)
下記一般式[2]:
【0008】
【化5】

[式中、R1、R、p、q、nは、上記と同じ。]
で表されるセルロース誘導体にエステル化剤を反応させることを特徴とする上記(1)記載のセルロースエステル誘導体の製造方法。
(4)
下記一般式[3]:
【0009】
【化6】

[式中、R1、p、q、nは、上記と同じ。]で表されるセルロース誘導体とエステル化剤の混合物に二塩基酸無水物を反応させることを特徴とする請求項1記載のセルロースエステル誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
熱可塑性でフィルムや成形体への成形性に優れた、セルロースエステル誘導体及びその簡便かつ安価な製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
一般式[1]、[2]、[3]において、R1は、置換基を含んでいても良い炭素数1〜16の1価の炭化水素基であり、R1の具体的なものとしては、アセチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ベンゾイル基が挙げられる。
は、置換基を含んでいても良い炭素数3〜16の2価の炭化水素基であり、具体的には、エチレン基、アルケニルエチレン基、フェニレン基が挙げられる。
【0012】
は、炭素数1〜12の1価の炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基である。
、Rが複数ある場合、それぞれ同一でも異なっていても良い。CELは、セルロース骨格を表す。
pは、1.0〜2.9で好ましくは1.8〜2.5で、qは、0.1〜2.0、好ましくは0.2〜1.5である。nは、10以上の整数を表す。]
次に一般式[1]で表されるセルロースエステル誘導体の製造方法(2ポット法および1ポット法)を説明する。
2ポット法:
下記一般式[3]:
【0013】
【化7】

[式中、R1、p、q、nは、上記と同じ。]で表されるセルロース誘導体を下記一般式[4]:
【0014】
【化8】

[式中、R2は、上記と同じ。]で表される二塩基酸無水物と反応させ、下記一般式[2]:
【0015】
【化9】

[式中、R1、R、p、q、nは、上記と同じ。]
で表されるセルロース誘導体とし、これにエステル化剤を反応させ一般式[1]で表されるセルロースエステル誘導体が製造される。
使用される二塩基酸無水物は、脂肪族、芳香族、脂環式脂肪族のいずれでも良く、例えば、コハク酸無水物、アルキルコハク酸無水物、グルタル酸無水物、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、ナフタレンジカルボン酸無水物、フタル酸無水物などのジカルボン酸無水物が挙げられ、アルケニルコハク酸無水物、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物など不飽和結合を有するものでも構わない。本発明でいう二塩基酸無水物とは、以上のようなジカルボン酸無水物のほかに、トリメット酸無水物やメチルシクロヘキセントリカルボン酸無水物の様な1分子中に1個の無水ジカルボン酸構造と1個のフリーのカルボキシル基を併せ持つものや、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸−1,2−無水物の様に1個の無水ジカルボン酸構造と2個のフリーのカルボキシル基を併せ持つもの等を示し、基本的に無水ジカルボン酸構造は1個だけ有するものを示す。当該酸無水物は、1種を単独で用いても良いし、2種以上の混合物として用いても良い。その使用量は、セルロースグルコース単位中水酸基数に対して1〜4倍モルであり、好ましくは1.5〜2倍モルである。
本発明におけるセルロース誘導体と二塩基酸無水物との反応には、公知の方法(三級アミン類を触媒とした均一系反応)が適用できる。
溶媒としては、反応物および生成するセルロース誘導体を溶解し得るものであれば良い。例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの有機溶媒単独もしくはそれらの混合溶媒が挙げられる。
三級アミン類である触媒としては、トリエチルアミン、4−ジメチルアミノピリジンやイミダゾール、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、N−メチルピロリジン、N−メチルピラゾール、N−メチルピロール、N−メチルピペラジン、N−メチルモルホリン、N−メチルイミダゾール、N、N−ジメチルピペラジン、トリアジンなどが挙げられ、.より好ましくは、トリエチルアミン、4−ジメチルアミノピリジン、ピリジンが挙げられる。その使用量は、セルロースグルコース単位中水酸基数に対して3〜20モル%使用することが好ましく、より好ましくは5〜10モル%使用する。
【0016】
上記反応の反応温度は、20〜100℃、好ましくは50〜90℃であり、反応時間は、1〜24時間、好ましくは2〜20時間である。
【0017】
反応終了後、一般式[2]で表されるセルロース誘導体を得ることができる。
【0018】
当該セルロース誘導体は、例えば、反応溶液をメタノール、アセトン、水などの単独またはこれらの混合溶媒に投入してポリマーを析出させ、濾過、洗浄、必要に応じて再沈殿精製を繰り返して得られた固体分を室温〜70℃で2〜24時間程度減圧乾燥して、精製することができるが、この精製工程を省略して次のエステル化を実施することもできる。
次に一般式[2]で表されるセルロース誘導体をエステル化剤と反応させて本発明の一般式[1]で表されるセルロースエステル誘導体が製造される。
【0019】
エステル化剤としては、(1)オルソ酢酸メチル、オルソ酢酸エチル、オルソプロピオン酸メチル、オルソプロピオン酸エチル、オルソ−n−酪酸メチルなどのオルソエステル類、(2)炭酸ジメチル/トリエチルアミン、(3)水酸化テトラ−アルキルアンモニウム(例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ−n−ブチルアンモニウムなど)/ハロゲン化アルキル(例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化イソプロピル、ヨウ化ブチルなど)などが用いられ、オルソ酢酸メチルまたは水酸化テトラ−n−ブチルアンモニウム/ヨウ化アルキルが反応性とコストの点から好ましい。オルソエステル類、炭酸ジメチルの使用量は、セルロース誘導体のカルボキシル基数に対して1〜4倍モルであり、好ましくは1.5〜2倍モルである。炭酸ジメチルの場合に添加するトリエチルアミンの使用量は、セルロース誘導体のカルボキシル基数に対して0.02〜0.1倍モル、好ましくは0.05〜0.08倍モルである。水酸化テトラアルキルアンモニウムの使用量は、セルロース誘導体のカルボキシル基数に対して1〜1.3倍モル、好ましくは1.05〜1.15倍モルである。
【0020】
上記反応の反応温度は、オルソエステル類、炭酸ジメチル/トリエチルアミンの場合は、50〜120℃、好ましくは70〜100℃であり、水酸化テトラアルキルアンモニウム/ハロゲン化アルキルの場合は、0〜50℃、好ましくは20〜30℃である。反応時間は、いずれの場合も1〜5時間、好ましくは2〜4時間である。
【0021】
反応終了後、反応溶液をメタノール、アセトン、水などの単独またはこれらの混合溶媒に投入してポリマーを析出させ、濾過、洗浄、必要に応じて再沈殿精製を繰り返して得られた固体分を室温〜70℃で2〜24時間程度減圧乾燥して、精製することができる。
1ポット法
下記一般式[3]:

【0022】
【化10】

[式中、R1、p、q、nは、上記と同じ。]で表されるセルロース誘導体、エステル化剤、三級アミン触媒および溶媒の混合物に二塩基酸無水物を添加することで一般式[1]で表されるセルロースエステル誘導体が製造される。前記2ポット法の場合、セルロースに付加した二塩基酸無水物がエステル化工程において脱離し、最終生成物の置換度が低下することがあるため、この1ポット法はこの問題解決のためにも有用である。
使用される三級アミン触媒と溶媒、反応後の処理方法も前記2ポット法の場合と同様である。ただし、使用できるエステル化剤は、(1)オルソ酢酸メチル、オルソ酢酸エチル、オルソプロピオン酸メチル、オルソプロピオン酸エチル、オルソ−n−酪酸メチルなどのオルソエステル類、(2)炭酸ジメチル/トリエチルアミンである。

次に本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。

(実施例1)
セルロース−アセテート2.45−フタル酸エチル0.2の合成(1ポット法)
メカニカルスターラーを装着した4口フラスコ(窒素ガス置換済み)にセルロースアセテート(置換度2.45、6.60g)、乾燥ジメチルホルムアミド(50ml)を入れ80℃で攪拌しながら溶解させた。同一温度において、4−ジメチルアミノピリジン(0.17g)、オルト酢酸エチル6.68gを加え、次いで、無水フタル酸(5.09g)を加え2時間反応させた。反応溶液をメタノールに投入し、生成物を析出させ、濾過、メタノールで洗浄後、真空乾燥して生成物を得た(収率90%)。
【0023】
そのプロトンNMRにより目的物であることを確認した。
【0024】
プロトンNMRプロトン(溶媒:重ジメチルスルホキシド)
1.18; CH

1.50−2.20; −OCO−CH
3.10−5.90; −O−CH−CH−O−
−CH−、−CH−
7.60、8.00; −C


(実施例2)
セルロース−アセテート2.45−フタル酸エチル0.3の合成(1ポット法)
セルロースアセテート(置換度2.45、26.40g)、乾燥ジメチルホルムアミド(200ml)、4−ジメチルアミノピリジン(0.67g)、オルト酢酸エチル(12.25g)、無水フタル酸(32.56g)を用いて実施例1と同様にして生成物を得た(収率95%)。
【0025】
そのプロトンNMRにより目的物であることを確認した。


(実施例3)
セルロース−アセテート2.45−フタル酸エチル0.4の合成(1ポット法)
セルロースアセテート(置換度2.45、13.40g)、乾燥ジメチルホルムアミド(115ml)、4−ジメチルアミノピリジン(0.34g)、オルト酢酸エチル(27.14g)、無水フタル酸(5.10g)を用いて実施例1と同様にして生成物を得た(収率88%)。
【0026】
そのプロトンNMRにより目的物であることを確認した。


(実施例4)
セルロース−アセテート2.45−アルケニルコハク酸エチル0.2の合成(1ポット法)
セルロースアセテート(置換度2.45、8.00g)、乾燥ジメチルホルムアミド(160ml)、4−ジメチルアミノピリジン(0.61g)、オルト酢酸エチル(21.60g)、アルケニル無水コハク酸(13.20g)を用いて温度を100℃とした以外は実施例1と同様にして生成物を得た(収率92%)。
【0027】
そのプロトンNMRにより目的物であることを確認した。
プロトンNMRプロトン(溶媒:重ジメチルスルホキシド)
0.95; CH
1.20−1.50; −OCO−CHCH
1.80−2.20;−OCO−CH
3.10−5.90; −O−CH−CH−O−
−CH−、−CH−
4.18; −OCO−CHCH



(実施例5)
セルロース−アセテート2.45−フタル酸エチル0.2の合成(2ポット法)
メカニカルスターラーを装着した4口フラスコ(窒素ガス置換済み)にセルロースアセテート(置換度2.45、13.20g)、4−ジメチルアミノピリジン(0.34g)、乾燥ジメチルホルムアミド(100ml)を入れ130℃で攪拌しながら溶解させた。同一温度において、無水フタル酸(12.21g)を加え4時間反応させた。反応溶液をメタノールに投入し、生成物を析出させ、濾過、メタノールで洗浄後、真空乾燥して生成物を得た(収率83%)。
【0028】
そのプロトンNMRによりセルロースアセテートフタル酸(フタル酸置換度0.4)であることを確認した。
【0029】
メカニカルスターラーを装着した4口フラスコ(窒素ガス置換済み)に上記のセルロースアセテートフタル酸(10.00g)、オルト酢酸エチル(19.17g)、乾燥ジメチルホルムアミド(90ml)を入れ80℃で攪拌しながら溶解させた。同一温度において2時間反応させ、反応溶液をメタノールに投入し、生成物を析出させ、濾過、メタノールで洗浄後、真空乾燥して生成物を得た(収率95%)。
そのプロトンNMRにより目的物であることを確認した。ただし、フタル酸エチル置換度は0.2であり、フタル酸置換度0.4から低下していた。

(実施例6)
セルロース−アセテート2.45−フタル酸メチル0.2の合成(2ポット法、炭酸ジメチル使用)
メカニカルスターラーを装着した4口フラスコ(窒素ガス置換済み)にセルロースアセテート(置換度2.45、6.70g)、トリエチルアミン(0.34g)、乾燥ジメチルホルムアミド(60ml)を入れ80℃で攪拌しながら溶解させた。同一温度において、無水フタル酸(12.21g)を加え2時間反応させた。反応溶液を少量採取し、メタノールに投入し、生成物を析出させ、濾過、メタノールで洗浄後、真空乾燥し、そのプロトンNMRを測定したところ、フタル酸置換度は0.4であった。
この反応溶液をマグネチックスターラーを装着したステンレス製オートクレーブ(窒素ガス置換済み)に移し、炭酸ジメチル(12.57g)入れ160℃において1.5時間反応させた。反応溶液をメタノールに投入し、生成物を析出させ、濾過、メタノールで洗浄後、真空乾燥して生成物を得た(収率90%)。
そのプロトンNMRによりフタル酸エチル置換度は0.2であり、フタル酸置換度0.4から低下していた。

(実施例7)
セルロース−アセテート2.45−フタル酸エチル0.4の合成(2ポット法、水酸化テトラ-n-ブチルアンモニウム/ヨウ化エチル使用)


メカニカルスターラーを装着した4口フラスコ(窒素ガス置換済み)に実施例5で得られたセルロースアセテートフタル酸(フタル酸置換度0.4、10.00g)、ヨウ化エチル(2.01g)、乾燥ジメチルホルムアミド(90ml)を入れ、20℃で攪拌しながら溶解させた。同一温度において、水酸化テトラ-n-ブチルアンモニウム(37%メタノール溶液、8.69g)を添加し同一温度で4時間反応させた。反応溶液をメタノールに投入し、生成物を析出させ、濾過、メタノールで洗浄後、真空乾燥して生成物を得た(収率95%)。
【0030】
そのプロトンNMRによりフタル酸エチル置換度は0.4であり、フタル酸置換度 と同じであった。

(実施例8)
セルロース−アセテート2.45−アルケニルフタル酸メチル0.2の合成(1ポット法)
セルロースアセテート(置換度2.45、6.70g)、乾燥ジメチルホルムアミド(60ml)、4−ジメチルアミノピリジン(0.17g)、オルト酢酸トリメチル(10.05g)、無水フタル酸(12.40g)を用いて実施例1と同様にして生成物を得た(収率89%)。
【0031】
そのプロトンNMRにより目的物であることを確認した。
プロトンNMRプロトン(溶媒:重ジメチルスルホキシド)
1.18; CH
1.50−2.20;−OCO−CH
3.10−5.90; −O−CH−CH−O−
−CH−、−CH−
7.60、8.00; −C
表1において比較例1には、上記実施例で使用したセルロースアセテート(置換度2.45)を用い、比較例2には市販の「アセチ」(ダイセルファインケム製造、置換度約2.7のセルロースアセテートに可塑剤フタル酸ジエチルが22重量%含有されている)を用いた。
<プレスフィルムの作製>
熱加圧成形機で実施例1〜4で得られた各種セルロース誘導体のプレスフィルムを作成した。スペーサーの厚みは0.3mm、作製条件の温度は185℃、圧力は8MPa、時間は5分であった。

<各サンプルの評価>
評価方法
・ 融点:TGA装置(JUSCO製)を用いて、昇温速度5℃/分で測定した。
・ 破断時引張り強度、破断時伸び:実施例で得られた各種セルロース誘導体のプレスフィルムから巾1cm、長さ10cmのサンプルを3点切り出した。オートグラフ(東洋精機製)を用いて引張り試験を行い(チャック間距離、50mm、50mm/分)、3点の平均から破断時引張り強度、破断時伸びを求めた。

結果を表1に示す。
【0032】
【表1】




以上の結果から、本発明のセルロースエステル誘導体は、融点に関しては比較例1よりも低く、比較例2に近い値を有し、優れた熱可塑性を有していることが示された。またそのプレスフィルムの伸びは比較例2に及ばないものの同等以上の引張強度を有していることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]:
【化1】

[式中、R1は、置換基を含んでいても良い炭素数1〜16の1価の炭化水素基、
は、置換基を含んでいても良い炭素数3〜16の2価の炭化水素基、Rは、炭素数1〜12の1価の炭化水素基、CELは、セルロース骨格を表す。R、RおよびRが複数ある場合、それぞれ同一でも異なっていても良い。pは、1.0〜2.9で、qは、0.1〜2.0である。nは、10以上の整数を表す。
]で表されるセルロースエステル誘導体。
【請求項2】
1が、アセチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ベンゾイル基、
が、エチレン基、アルケニルエチレン基、フェニレン基、
が、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基である請求項1記載のセルロースエステル誘導体。
【請求項3】
下記一般式[2]:
【化2】

[式中、R1、R、p、q、nは、上記と同じ。]
で表されるセルロース誘導体にエステル化剤を反応させることを特徴とする請求項1記載のセルロースエステル誘導体の製造方法。
【請求項4】
下記一般式[3]:
【化3】

[式中、R1、p、q、nは、上記と同じ。]で表されるセルロース誘導体とエステル化剤の混合物に二塩基酸無水物を反応させることを特徴とする請求項1記載のセルロースエステル誘導体の製造方法。
【請求項5】
1が、アセチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ベンゾイル基、Rが、エチレン基、アルケニルエチレン基、フェニレン基、Rが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基であり、エステル化剤が、オルソエステル類、炭酸ジメチル/トリエチルアミン、水酸化テトラ−アルキルアンモニウム/ハロゲン化アルキル)である請求項3、4のいずれかに記載のセルロースエステル誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2009−40868(P2009−40868A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206886(P2007−206886)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】