説明

セルロースエーテルの製造方法

【課題】セルロースエーテルの水溶液として透明で水不溶性部分が少ないセルロースエーテルの製造方法を提供する。
【解決手段】 パルプとアルカリ金属水酸化物溶液を接触後、脱液して、組成の異なる少なくとも2種類のアルカリセルロースを準備する準備工程と、上記準備工程で得られた組成の異なる少なくとも2種類のアルカリセルロースを混合する混合工程とを少なくとも含んでなるアルカリセルロースの製造方法であって、上記準備工程で得られた組成の異なる少なくとも2種類のアルカリセルロースの各々が、上記混合工程における混合終了後のアルカリセルロースの中に含まれるアルカリ金属水酸化物とパルプ中の固体成分との質量比(アルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分)の0.4〜2.5倍の質量比を有するアルカリセルロースの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未溶解繊維分が少ない水溶性セルロースエーテルを効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエーテルの製造方法としては、高純度に精製されたパルプにアルカリ溶液を接触させてアルカリセルロースを調製し、エーテル化剤を用いてエーテル化反応することが知られている。得られた最終セルロースエーテルは、置換度を適当にコントロールすることにより水可溶性となるが、その中に水不溶部分が存在し、水溶液の透光度を下げたり、異物となってその商品価値を損ねる場合がある。この未溶解部分は、水に溶解するのに十分な置換基を有さない低置換度部分が存在するため生じるものであり、アルカリセルロース中のアルカリ分布が不均一であることが原因の一つとして挙げられる。
【0003】
このアルカリの働きは、セルロースを膨潤させてパルプ中の結晶構造を変えてエーテル化剤の浸透を助けること、アルキレンオキシドのエーテル化反応を触媒すること、ハロゲン化アルキルの反応剤であること等が挙げられる。従って、パルプとアルカリ水溶液が接触しない部分は、反応にあずからないために未溶解分となり、アルカリセルロースの均一性はそのまま未溶解分の多寡につながる。
【0004】
ここで、アルカリセルロースの製法として広く行われているのは、特許文献1や特許文献2に例示される、パルプを粉砕して得られた粉末状パルプにアルカリをエーテル化反応に必要な量だけ添加し機械的に混合する方法が挙げられる。しかし、この方法ではアルカリがパルプ全体に行き渡らないことからアルカリに未接触のパルプが存在し、その部分がセルロースエーテルとは成り得ないことから製品中に未反応物として混入し、セルロースエーテルの品質不良を引き起こす問題があった。
【0005】
このような問題を生じさせない方法として、特許文献3に示されるようにパルプ粉末とアルカリ水溶液を高速分散装置に同時に供給し、該パルプと該アルカリ水溶液を連続的に出会わせてアルカリセルロースを製造し、得られたアルカリセルロースを反応機に投入し、エーテル化剤を反応させる方法が考案されたが、なおもアルカリと未接触のパルプが残存し、セルロースエーテルの品質上満足のいく方法ではなかった。
【0006】
そこで、特許文献4に示されるようにパルプとアルカリ金属水酸化物溶液とを連続的に接触させ、得られた接触物を連続遠心分離機で脱液することによりアルカリセルロースを製造し得られたアルカリセルロースとエーテル化剤を反応させる方法が考案された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭60−50801号公報
【特許文献2】特開昭56−2302号公報
【特許文献3】特開2006−348117号公報
【特許文献4】特開2007−197682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、一定の置換度のセルロースエーテルを製造するためには、一定の組成のアルカリセルロースを製造し続けなければならず、連続的にアルカリセルロースを製造する該方法においては、現在製造されているアルカリセルロースの組成情報を知り、その情報を元にアルカリセルロースの組成調整条件を修正するまでの間に、予定外の組成のアルカリセルロースを大量に製造してしまうことが多く、歩留まりが低下するという問題があった。
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、かかるセルロースエーテルの水溶液として透明で水不溶性部分が少ないセルロースエーテルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、パルプとアルカリ金属水酸化物溶液を接触後、脱液して、組成の異なる少なくとも2種類のアルカリセルロースを準備する準備工程と、
上記準備工程で得られた組成の異なる少なくとも2種類のアルカリセルロースを混合する混合工程とを少なくとも含んでなるアルカリセルロースの製造方法であって、
上記準備工程で得られた組成の異なる少なくとも2種類のアルカリセルロースの各々が、上記混合工程における混合終了後のアルカリセルロースの中に含まれるアルカリ金属水酸化物とパルプ中の固体成分との質量比(アルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分)の0.4〜2.5倍の質量比を有するアルカリセルロースの製造方法を提供する。
また、本発明は、製造されたアルカリセルロースをエーテル化剤と反応させる工程を少なくとも含んでなるセルロースエーテルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、予め準備されたアルカリセルロースのアルカリ金属水酸化物とパルプ中の固体成分との質量比を調べ、計算値に基づき複数のストック品を混合して、必要な組成にしたアルカリセルロースを製造することができる。また、これによって得られるアルカリセルロースを原料にすることにより、透明で水不溶性部分が少ないセルロースエーテルを効率よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明では、組成の異なる2種類以上のアルカリセルロースを製造し、それらを混合することによりアルカリセルロースを得る。ここで、組成の異なるとは、各々のアルカリセルロースの中に含まれるアルカリ金属水酸化物と用いたパルプ中の固体成分の質量比率が異なることを意味する。
アルカリセルロースの中に含まれるアルカリ金属水酸化物と、該アルカリセルロースの生成に用いたパルプ中の固体成分との質量比率(アルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分)が所望の値より0.05以上変動した場合に、組成の異なる1種類以上のアルカリセルロースを添加することが好ましい。このとき、対象となるアルカリセルロースを含めた組成の少なくも2種類のアルカリセルロースを組合せることとなるが、各アルカリセルロースの中に含まれるアルカリ金属水酸化物と、該アルカリセルロースの生成に用いたパルプ中の固体成分との質量比率(アルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分)において少なくとも0.1相違するものを用いることが好ましい。
【0012】
本発明で製造する2種類以上のアルカリセルロースは、それらを混合した後のアルカリセルロースの中に含まれるアルカリ金属水酸化物と用いたパルプ中の固体成分の質量比率(アルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分)が、置換基分布の均一性の点から、0.4〜2.5倍、好ましくは0.5〜2.0倍、より好ましくは0.75〜1.5倍の範囲である。
【0013】
なお、アルカリセルロースの中に含まれるアルカリ金属水酸化物と用いたパルプ中の固体成分の質量比率の測定方法は、例えばアルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムの場合、以下の通りである。まず、ケーキ4.00gを採取し、中和滴定によりケーキ中のアルカリ金属水酸化物質量%を求める(0.5mol/L HSO、指示薬:フェノールフタレイン)。同様の方法で空試験を行う。
アルカリ金属水酸化物質量%
=規定度係数×(HSO滴下量ml−空試験でのHSO滴下量ml)
得られたケーキ中のアルカリ金属水酸化物質量%を用いて、次式に従いアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分を求める。
(アルカリ金属水酸化物の質量)/(パルプ中の固体成分の質量)
=(アルカリ金属水酸化物質量%)÷[{100−(アルカリ金属水酸化物質量%)/
(B/100)}×(S/100)]
ここで、Bは用いたアルカリ金属水酸化物溶液の濃度(質量%)であり、Sはパルプ中の固体成分の濃度(質量%)である。パルプ中の固体成分の濃度は、パルプ約2gを採取し105℃で2時間乾燥させた後の質量が、採取した質量に占める割合を質量%で表したものである。混合される各アルカリセルロースの製造段階で用いたパルプ中の固体成分を求めておくと、混合後のパルプ中の固体成分は計算によって求めることができる。
【0014】
本発明によれば、組成の異なる2種類以上のアルカリセルロースを製造し、それらを混合することにより得られたアルカリ金属水酸化物成分の質量と上記パルプ中の固体成分の質量の比(アルカリ金属水酸化物成分/パルプ中の固体成分)が0.3〜1.5、好ましくは0.65〜1.30、更に好ましくは0.90〜1.30である。
【0015】
出発原料のパルプは、通常、セルロースと水からなるため、パルプ中の固体成分はセルロースである。上記質量比率が0.3〜1.5の場合、得られるセルロースエーテルの透明性が高くなる。なお、パルプ中の固体成分には、主成分のセルロースの他、ヘミセルロース、リグニン、樹脂分等の有機物、Si分、Fe分等の無機物が含まれる。
本発明におけるパルプは、木材パルプ、コットンリンターパルプ等が挙げられる。木材の樹種は、マツ、トウヒ、ツガ等の針葉樹及びユーカリ、カエデ等の広葉樹を用いることができる。
【0016】
使用されるアルカリ金属水酸化物溶液は、アルカリセルロースが得られれば特に限定されないが、好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液、特に好ましくは経済的観点から水酸化ナトリウムである。アルカリ水酸化物を溶かす溶媒としては、水が通常用いられるが、低級アルコール(好ましくは炭素数1〜4のアルコール)やその他の不活性溶媒を使用したり、これらを組み合わせてもよい。
また、アルカリ金属水酸化物溶液の濃度は23〜60質量%、特に35〜55質量%が好ましい。23質量%未満だと、次工程でセルロースエーテルを得る際に、エーテル化反応剤が水と副反応するため経済的に不利であり、かつ所望の置換度のセルロースエーテルを得ることができず、製造されるセルロースエーテルの水溶液の透明性が劣る場合がある。一方、60質量%を超えると、粘性が高くなるため取り扱いが困難な場合がある。なお、パルプとの接触に供されるアルカリ金属水酸化物溶液の濃度は、アルカリセルロースの組成を安定させ、セルロースエーテルの透明性を確保するために、一定の濃度に保たれることが好ましい。
【0017】
本発明のアルカリセルロースの製造方法は、公知の方法を用いることができる。粉末化したパルプを撹拌可能な容器に入れ、撹拌しながらアルカリ金属水酸化物溶液をスプレー又は滴下してアルカリセルロースを製造する方法、シート状パルプをシート状のまま又はチップ形態とした後、過剰のアルカリ金属水酸化物と接触させ、次に余剰のアルカリ金属水酸化物を除去する方法等が挙げられる。例えば、過剰のアルカリ金属水酸化物の溶液に浸漬された後に脱液することによって、余分なアルカリ金属水酸化物溶液を除去することができる。この方法としては、シート状パルプをアルカリ金属水酸化物溶液の入ったバスに浸漬させた後、ローラーその他の装置で加圧圧搾する方法や、チップ状のパルプをアルカリ金属水酸化物溶液の入ったバスに浸漬させた後遠心分離や他の機械的方法により圧搾する方法が挙げられる。ここで、特に好ましいのは、シート状パルプをシート状のまま又はチップ形態とした後、過剰のアルカリ金属水酸化物と接触させ、次に余剰のアルカリ金属水酸化物を除去する方法である。
【0018】
また、本発明の混合に用いるためのアルカリセルロースの製造は、バッチ式でも連続式でもよいが、連続式に行われるものが好ましい。粉末化したパルプを撹拌可能な容器に入れ、撹拌しながらアルカリ金属水酸化物溶液をスプレー又は滴下してアルカリセルロースを連続的に製造する方法は、例えば特開2006−348177号公報に開示されているようにパルプ粉末とアルカリ水溶液を高速分散装置に同時に供給し、該パルプと該アルカリ水溶液を連続的に出会わせてアルカリセルロースを製造する方法が挙げられる。あるいは特開2007−197682号公報に開示されているように、チップ状パルプとアルカリ金属水酸化物溶液とを連続的に接触させ、得られた接触物を連続遠心分離機で脱液することによりアルカリセルロースを製造する方法である。
【0019】
脱液装置としては、遠心分離機、ろ過式固液分離装置等が挙げられるが、好ましくは遠心分離機である。
遠心分離機は、遠心力を利用して液と固形分を分離する分離機である。バッチ式でも連続式でも構わないが、生産性の観点から連続式が好ましい。連続遠心分離機には、デカンターのように孔のない回転体を有するものと、回転バスケットのように孔のある回転体を有するものがある。孔のない回転体を有するものは、遠心沈降操作に重点をおいた装置である。一方、孔のある回転体を有するものは沈降操作に加え遠心濾過、遠心脱水操作を利用する装置である。脱液の容易さから孔のある回転体を有する連続遠心分離機が好ましい。なぜなら、セルロースの真密度と苛性ソーダ水溶液の密度が比較的近接しており、遠心沈降操作だけに頼るよりも、遠心沈降操作に加えて遠心濾過、遠心脱水操作を利用した方が処理能力においてより有利だからである。孔のある回転体を有する連続遠心分離機の例としては、自動排出型遠心脱水機、スクリュー排出型遠心脱水機、振動排出型遠心脱水機、押し出し板型遠心脱水機が挙げられる。なお、脱水機による脱水は、所謂「水」だけではなく、液体一般を指す。
【0020】
本発明の異なる組成の2種類以上のアルカリセルロースを混合する手段は、連続式でもバッチ式でも構わない。例としては、内部に撹拌機構をもった容器に各々のアルカリセルロースを投入し混合する方法、タンブリング式のミキサーに投入し混合する方法が挙げられる。好ましくはアルカリセルロースにエーテル化剤を加えて加熱することによりセルロースエーテルを得るための反応装置にて混合する方法である。この場合特別な混合装置が不要となるので投資コストが有利である。
混合する時間は撹拌の状況にもよるが、異なる組成の2種類以上のアルカリセルロースが均質化されていればよく、通常1分間以上、このましくは5分間以上である。
【0021】
上記の製造方法で得られたアルカリセルロースを原料として公知の方法でセルロースエーテルを製造する事ができる。
反応方法としては、バッチ式と連続式が挙げられ、本発明のアルカリセルロースの製造方法が連続式であることから連続反応方式が好ましいが、バッチ式でも問題はない。
バッチ式の場合は、脱液装置より排出されたアルカリセルロースをバッファータンクに貯蔵するか又は直接エーテル化反応容器に仕込んでも良いが、エーテル化反応容器の占有時間を短くするためバッファータンクに貯蔵後、短時間で反応釜に仕込む方が生産性は高い。バッファータンクは、重合度低下を抑制するため、真空又は窒素置換による酸素フリーの雰囲気が望ましい。
【0022】
得られたアルカリセルロースを出発原料として得られるセルロースエーテルとしては、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。
【0023】
アルキルセルロースとしては、メトキシ基(DS)が1.0〜2.2のメチルセルロース、エトキシ基(DS)が2.0〜2.6のエチルセルロース等が挙げられる。なお、DSは、置換度(degree of substitution)を表し、セルロースのグルコース環単位当たり、メトキシル基で置換された水酸基の平均個数であり、MSは、置換モル数(molar substitution)を表し、セルロースのグルコース環単位当たりに付加したヒドロキシプロポキシル基あるいはヒドロキシエトキシル基の平均モル数である。
【0024】
ヒドロキシアルキルセルロースとしては、ヒドロキシエトキシ基(MS)が0.05〜3.0のヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロポキシ基(MS)が0.0 5〜3.3のヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0025】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの例としては、メトキシ基 (DS)が1.0〜2.2、ヒドロキシエトキシ基(MS)が0.1〜0.6のヒドロキシエチルメチルセルロース、メトキシ基(DS)が1.0〜2.2、ヒドロキシプロポキシ基(MS)が0.1〜0.6のヒドロキシプロピルメチルセルロース、エトキシ基(DS)が1.0〜2.2、ヒドロキシエトキシ基(MS)が0.1〜0.6のヒドロキシエチルエチルセルロースが挙げられる。
【0026】
また、カルボキシメトキシ基(DS)が0.2〜2.0のカルボキシメチルセルロースも挙げられる。
【0027】
エーテル化剤としては、塩化メチル、塩化エチル等のハロゲン化アルキル、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド、モノクロル酢酸等が挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を示し本発明を説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。
[実施例1]
粉末状パルプを高速分散装置内で49質量%水酸化ナトリウム水溶液と同時に出くわせながら混合する方法でアルカリセルロースA及びアルカリセルロースBを得た。中和滴定法で求めたアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率は、アルカリセルロースAが0.50、アルカリセルロースBが3.13だった。アルカリセルロースAとアルカリセルロースBを質量比率A/B=0.62で内部撹拌装置付きの耐圧容器に入れ、5分間混合した。混合後のアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率は1.25だった。アルカリセルロースAのアルカリ金属水酸化物と用いたパルプ中の固体成分の質量比率は混合後のそれに対し、0.50/1.25=0.40、アルカリセルロースBは同様に3.13/1.25=2.50だった。真空引き後、塩化メチル、プロピレンオキサイドを加えて反応させ、洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。
得られたセルロースエーテルの置換度、2質量%水溶液の20℃における粘度及び透光度を表1に示す。なお、2質量%水溶液の20℃における透光度は、光電比色計PC-50型、波長650nmにて、セル長20mm、波長720nmにおいて測定した。
【0029】
[実施例2]
チップ状パルプをパイプ型接触装置内で49質量%水酸化ナトリウム水溶液と接触させた後V型ディスクプレスで脱液する方法でアルカリセルロースC及びアルカリセルロースDを得た。中和滴定法で求めたアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率は、アルカリセルロースCが0.70、アルカリセルロースDが2.30だった。アルカリセルロースCとアルカリセルロースDを質量比率C/D=0.83で内部撹拌装置付きの耐圧容器に入れ、5分間混合した。混合後のアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率は1.25だった。アルカリセルロースCのアルカリ金属水酸化物と用いたパルプ中の固体成分の質量比率は混合後のそれに対し、0.70/1.25=0.56、アルカリセルロースDは同様に2.30/1.25=1.84だった。真空引き後、塩化メチル、プロピレンオキサイドを加えて反応させ、洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。得られたセルロースエーテルの物性について実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
【0030】
[実施例3]
チップ状パルプをスクリューコンベア型接触装置内で49質量%水酸化ナトリウム水溶液と接触させた遠心分離機で脱液する方法でアルカリセルロースE及びアルカリセルロースFを得た。中和滴定法で求めたアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率は、アルカリセルロースEが1.00、アルカリセルロースFが1.50だった。アルカリセルロースEとアルカリセルロースFを質量比率E/F=0.75で内部撹拌装置付きの耐圧容器に入れ、5分間混合した。混合後のアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率は1.25だった。
アルカリセルロースEのアルカリ金属水酸化物と用いたパルプ中の固体成分の質量比率は混合後のそれに対し、1.00/1.25=0.80、アルカリセルロースFは同様に1.50/1.25=1.20だった。真空引き後、塩化メチル、プロピレンオキサイドを加えて反応させ、洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。得られたセルロースエーテルの物性について実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
【0031】
[実施例4]
チップ状パルプをスクリューコンベア型接触装置内で49質量%水酸化ナトリウム水溶液と接触させた遠心分離機で脱液する方法でアルカリセルロースG及びアルカリセルロースHを得た。中和滴定法で求めたアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率は、アルカリセルロースGが1.20、アルカリセルロースHが1.30だった。アルカリセルロースGとアルカリセルロースHを質量比率G/H=0.95で内部撹拌装置付きの耐圧容器に入れ、5分間混合した。混合後のアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率は1.25だった。アルカリセルロースGのアルカリ金属水酸化物と用いたパルプ中の固体成分の質量比率は混合後のそれに対し、1.20/1.25=0.96、アルカリセルロースHは同様に1.30/1.25=1.04だった。真空引き後、塩化メチル、プロピレンオキサイドを加えて反応させ、洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。得られたセルロースエーテルの物性について実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
【0032】
[比較例1]
チップ状パルプをパイプ型接触装置内で49質量%水酸化ナトリウム水溶液と接触させた後、V型ディスクプレスで脱液する方法でアルカリセルロースIを得た。中和滴定法で求めたアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率は1.25だった。但し、質量比率は1.25のアルカリセルロースを得るために、接触時間と接触温度を試行錯誤で決めたため、使用したチップ状パルプ量、苛性ソーダ量及びアルカリセルロースの製造に要した時間は、実施例2のおよそ5倍量を要した。質量比率1.25のアルカリセルロースを得るまでに製造した不合格のアルカリセルロースは廃棄し、廃棄のために産業廃棄物処理に係わるコストが発生した。合格したアルカリセルロースを内部撹拌装置付きの耐圧容器に入れ、真空引き後、塩化メチル、プロピレンオキサイドを加えて反応させ、洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。得られたセルロースエーテルの物性について実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
【0033】
[比較例2]
チップ状パルプをパイプ型接触装置内で49質量%水酸化ナトリウム水溶液と接触させた後V型ディスクプレスで脱液する方法でアルカリセルロースJ及びアルカリセルロースKを得た。中和滴定法で求めたアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率は、アルカリセルロースJが0.45、アルカリセルロースKが3.30だった。アルカリセルロースJとアルカリセルロースKを質量比率J/K=2.57で内部撹拌装置付きの耐圧容器に入れ、5分間混合した。混合後のアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分の質量比率は1.25だった。アルカリセルロースJのアルカリ金属水酸化物と用いたパルプ中の固体成分の質量比率は混合後のそれに対し、0.45/1.25=0.36、アルカリセルロースKは同様に3.30/1.25=2.64だった。真空引き後、塩化メチル、プロピレンオキサイドを加えて反応させ、洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。得られたセルロースエーテルの物性について実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
【0034】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプとアルカリ金属水酸化物溶液を接触後、脱液して、組成の異なる少なくとも2種類のアルカリセルロースを準備する準備工程と、
上記準備工程で得られた組成の異なる少なくとも2種類のアルカリセルロースを混合する混合工程とを少なくとも含んでなるアルカリセルロースの製造方法であって、
上記準備工程で得られた組成の異なる少なくとも2種類のアルカリセルロースの各々が、上記混合工程における混合終了後のアルカリセルロースの中に含まれるアルカリ金属水酸化物とパルプ中の固体成分との質量比率(アルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分)の0.4〜2.5倍の質量比率を有するアルカリセルロースの製造方法。
【請求項2】
上記混合工程における混合終了後のアルカリセルロースの中に含まれるアルカリ金属水酸化物とパルプ中の固体成分との質量比率が、0.3〜1.5である請求項1に記載のアルカリセルロースの製造方法。
【請求項3】
上記組成の異なる少なくとも2種類のアルカリセルロースが、各アルカリセルロースの中に含まれるアルカリ金属水酸化物と、該アルカリセルロースの生成に用いたパルプ中の固体成分との質量比率(アルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分)において少なくとも0.1相違する請求項1又は請求項2に記載のアルカリセルロースの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により製造されたアルカリセルロースをエーテル化剤と反応させる工程を少なくとも含んでなるセルロースエーテルの製造方法。

【公開番号】特開2012−172036(P2012−172036A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34469(P2011−34469)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】