説明

セルロースナノファイバーとその製造方法、複合樹脂組成物、成形体

【課題】補強効果に優れたセルロースナノファイバーと、前記セルロースナノファイバーの製造する方法、前記セルロースナノファイバーを含有する複合樹脂組成物、前記複合樹脂組成物を成形してなる成形体を提供する。
【解決手段】本発明のセルロースナノファイバーは、平均重合度が600以上30000以下であり、アスペクト比が20〜10000であり、平均直径が1〜800nmであり、X線回折パターンにおいて、Iβ型の結晶ピークを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーとその製造方法、複合樹脂組成物、成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファーバーは、従来から高分子複合材料の補強材として使用されている。前記セルロースナノファイバーは、パルプ等のセルロース繊維を機械的にせん断することにより得られるのが一般的である。例えば、特許文献1には、セルロースパルプの水懸濁液を高圧ホモジナイザー処理して得られる微小繊維状セルロースが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、バクテリアに生産させたセルロース超微細繊維をアセチル化させて得られるアセチルセルロース超微細繊維が開示されている。バクテリアに生産させたセルロース超微細繊維は質量平均重合度が1700以上であり、そのためヤング率や引張強度の点で優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−17592号公報
【特許文献2】特開平9−291102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法では、繊維に機械的せん断力を加えるため重合度が200前後になってしまい、結果的に十分な機械的強度を得ることができない。
【0006】
また、特許文献2記載のバクテリアに生産させて得られるセルロースファイバーはIα型結晶成分が多いので補強効果の弱いという点では改良の余地を残している。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、補強効果に優れたセルロースナノファイバーと、前記セルロースナノファイバーの製造する方法、前記セルロースナノファイバーを含有する複合樹脂組成物、前記複合樹脂組成物を成形してなる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明のセルロースナノファイバーは、平均重合度が600以上30000以下であり、アスペクト比が20〜10000であり、平均直径が1〜800nmであり、X線回折パターンにおいて、Iβ型の結晶ピークを有することを特徴とする。
(2)本発明のセルロースナノファイバーは、水酸基が修飾基により化学修飾されていることが好ましい。
(3)本発明のセルロースナノファイバーは、SP値8〜13の有機溶媒における飽和吸収率が300〜5000質量%であることが好ましい。
(4)本発明のセルロースナノファイバーは、前記有機溶媒が、非水溶性溶媒であることが好ましい。
(5)本発明のセルロースナノファイバーは、前記修飾基により、水酸基がエステル化またはエーテル化されていることが好ましい。
(6)本発明のセルロースナノファイバーは、θの範囲を0〜30とするX線回折パターンが、14≦θ≦18に1つ又は2つのピークと、21≦θ≦24に1つのピークとを有し、他にはピークを有さないことが好ましい。
(7)本発明のセルロースナノファイバーは、全体の水酸基のうち0.01%から50%、化学修飾されていることが好ましい。
(8)本発明の複合樹脂組成物は、前記セルロースナノファイバーを樹脂中に含有することを特徴とする。
(9)本発明の複合樹脂組成物は、400〜700nmにおける平均光線透過率が60%以上であることが好ましい。
(10)本発明の成形体は、前記複合樹脂組成物を成形してなることを特徴とする。
(11)本発明のセルロースナノファイバーの製造方法は、セルロース原料をイオン液体を含む溶液中で解繊処理及び化学修飾することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、補強効果に優れたセルロースナノファイバーを提供することができ、前記セルロースナノファイバーを製造する方法、前記セルロースナノファイバーを含有する複合樹脂組成物、前記複合樹脂組成物を成形してなる成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のセルロースナノファイバーのX線回折分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のセルロースナノファイバーの平均重合度は、600以上30000以下である。好ましくは、600以上5000以下であり、より好ましくは、800以上5000以下である。平均重合度が600以上の場合、十分な補強効果が得られる。
【0012】
従来のセルロースナノファイバーは、セルロース繊維原料にホモジナイズ処理等の機械的せん断を施すことにより得られていたため、重合度が低く、このようなセルロースナノファイバーからは十分な補強効果を得ることができなかった。また、前記機械的せん断は、繊維に大きなダメージを与え、得られたセルロースナノファイバーの強度やアスペクト比が低下していた。後述する本発明のセルロースナノファイバーの製造方法によれば、繊維にダメージを与えないため、600以上の重合度を有するセルロースナノファイバーを容易に得ることができる。
【0013】
補強効果の観点から、本発明のセルロースナノファイバーのアスペクト比は、20〜10000であり、より好ましくは、20〜2000である。本明細書および特許請求の範囲において、「アスペクト比」とは、セルロースナノファイバーにおける平均繊維長と平均直径の比(平均繊維長/平均直径)を意味する。上述した様に、本発明のセルロースナノファイバーの製造方法によれば、セルロースナノファイバーにダメージを与えないため、平均繊維長の長いものを得ることができ、前記アスペクト比を20以上にすることができる。また、アスペクト比がアスペクト比が10000以下の場合、成形性が良い。
【0014】
本発明のセルロースナノファイバーの平均直径は、1〜800nmである。前記平均直径は、1〜300nmであることが好ましく、1〜100nmであることがより好ましい。平均直径が1nm以上の場合、製造コストがかからず、平均直径が800nm以下の場合、前記アスペクト比が低下しにくい。その結果、安価で十分な補強効果が得られる。
【0015】
本発明のセルロースナノファイバーは、X線回折パターンにおいて、Iβ型の結晶ピークを有する。セルロースI型はIα型結晶とIβ型結晶の複合結晶であり、木綿などの高等植物由来セルロースはIβ型結晶成分が多いが、バクテリアセルロースの場合はIα型結晶成分が多い。本発明のセルロースナノファイバーは、木材等を用いて得られるものであるため、Iβ型結晶を主成分とする。
従って、本発明のセルロースナノファイバーは、図1に示されるようにθの範囲を0〜30とするX線回折パターンが、Iβ型結晶特有のパターンを示す。具体的には、14≦θ≦18に1つ又は2つのピークと、21≦θ≦24に1つのピークとを有し、他にはピークを有さない。
また、本発明のセルロースナノファイバーはIβ型結晶を主成分としているので、Iα型結晶成分の多いバクテリアセルロースに比べて補強効果に優れる。
【0016】
本発明のセルロースナノファーバーは、機能性を高めるため化学修飾されてもよい。セルロースナノファーバーを複合材料に使用するためには、前記セルロースナノファーバー表面の水酸基を修飾基により化学修飾し、前記水酸基を減じることが好ましい。セルロースナノファイバー間の水素結合による強い密着を防ぐことで高分子材料に容易に分散し、良好な界面結合を形成させることができる。また、本発明のセルロースナノファーバーは、化学修飾されることにより耐熱性を有するため、他の材料に混入させることで、他の材料に耐熱性を付与することができる。
前記セルロースナノファーバー中の全体の水酸基のうち、修飾基により化学修飾される割合は、0.01%〜50%であることが好ましく、10%〜20%であることがより好ましい。
【0017】
前記化学修飾は水酸基と反応するものであれば良いが、化学修飾によりエーテル化、エステル化したセルロースナノファイバーが、簡便に効率よく修飾できるので好ましい。
エーテル化剤としては、メチルクロライド、エチルクロライド等のハロゲン化アルキル;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等の炭酸ジアルキル;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル等の硫酸ジアルキル;エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド等も好ましい。また、アルキルエーテル化に限定されるものではなく、ベンジルブロマイド等によるエーテル化やシリルエーテル化等も好ましい。例えばシリルエーテル化としては、アルコキシシランが挙げられ、より具体的にはn−ブトキシトリメチルシラン、tert−ブトキシトリメチルシラン、sec−ブトキシトリメチルシラン、イソブトキシトリメチルシラン、エトキシトリエチルシラン、オクチルジメチルエトキシシラン又はシクロヘキシルオキシトリメチルシランのようなアルコキシシラン、ブトキシポリジメチルシロキサンのようなアルコキシシロキサン、ヘキサメチルジシラザンやテトラメチルジシラザン、ジフェニルテトラメチルジシラザンのようなシラザンが挙げられる。また、トリメチルシリルクロライドや、ジフェニルブチルクロライド等のシリルハライドや、t−ブチルジメチルシリルトリフルオロメタンスルホネート等のシリルトリフルオロメタンスルホネートも使用できる。
エステル化剤としては、ヘテロ原子を含んでも良いカルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸ハロゲン化物が挙げられ、酢酸、プロピオン酸、酪酸、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体が好ましく、酢酸、無水酢酸、無水酪酸がより好ましい。
エーテル化、エステル化の中でも、アルキルエーテル化、アルキルシリル化、アルキルエステル化が、樹脂への分散性を向上させるために好ましい。
【0018】
上記の様に化学修飾された本発明のセルロースナノファイバーは、溶解性パラメータ(以下、SP値)8〜13の有機溶媒における飽和吸収率が300〜5000質量%であることが好ましい。前記SP値の有機溶媒に分散させたセルロースナノファイバーは、親油性樹脂との親和性が高く、補強効果が高い。
SP値が8〜13の有機溶媒としては、酢酸、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、キシレン、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン、ジブチルフタレート、アセトン、イソプロパノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、エタノール、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、二硫化炭素、ピリジン、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、n−ブタノール、ニトロメタン等が挙げられる。
【0019】
前記有機溶媒としては、非水溶性溶媒(25℃の水と任意の割合で混合しない溶媒)であるものがさらに好ましく、キシレン、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン、ジクロロメタン、シクロヘキサン、四塩化炭素、塩化メチレン、酢酸エチル、二硫化炭素、シクロヘキサノール、ニトロメタン等が挙げられる。よって、上記の様に化学修飾された本発明のセルロースナノファイバーは、非水溶性溶媒中においても分散し、従来セルロースナノファイバーで困難であった親油性樹脂に容易に分散し得る。
【0020】
親油性樹脂の例としては、水に難溶であればよく、耐水性が必要とされる工業用材料として広く使われているものが好ましい。親油性樹脂としては、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であっても良い。植物性由来樹脂、二酸化炭素を原料とした樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のアルキレン樹脂、スチレン樹脂、ビニル樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂、アセタール樹脂、カーボネート樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、イミド樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エステル樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂、フッ素樹脂、スチロール樹脂、エンジニアリングプラスチックなどを例示できる。また、エンジニアリングプラスチックとしては、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、変性ポリフェニレンオキサイド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、ポリアリルエーテルニトリルなどが好適に用いられる。また、これらの樹脂を2種類以上混合しても良い。これらの中でもポリカーボネートは衝撃強度が強いため、特に良い。
【0021】
ポリカーボネートとしては、通常用いられるものを使用できる。例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体との反応により製造される芳香族ポリカーボネートを好ましく用いることができる。
【0022】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(「ビスフェノールA」)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンが挙げられる。
【0023】
カーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハライド、カルボニルエステル、ハロホルメートが挙げられる。具体的には、ホスゲン、2価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどが挙げられる。
【0024】
また、本発明に用いられるポリカーボネートとしては、芳香族を含まないポリカーボネートであってもよい。芳香族を含まないポリカーボネートとしては、脂環式ポリカーボネートや脂肪族ポリカーボネートなどが例示できる。ポリカーボネート樹脂は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。また、前記芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体を重合して得られる重合体と他の重合体との共重合体であってもよい。
前記ポリカーボネート樹脂は、従来公知の方法で製造できる。例えば、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法などの種々の方法が挙げられる。
【0025】
本発明の複合樹脂組成物における樹脂の種類としては、前記に上げた親油性の樹脂の他、親水性の樹脂も用いることが出来る。親水性の樹脂に対しては、未修飾セルロースナノファイバーや、スルホン酸基、カルボン酸基、またはこれらの塩などの親水性の官能基で化学修飾したセルロースナノファイバーが親水性の樹脂への分散性が良く好適に使用できる。親水性の樹脂としては、ポリビニルアルコールや、親水化処理した樹脂が例示できる。この中でもポリビニルアルコールは安価である上、セルロースナノファイバーの分散性が良く特に好ましい。
【0026】
また、本発明の複合樹脂組成物は、その他、フィラー、難燃助剤、難燃剤、酸化防止剤、離形剤、着色剤、分散剤等の添加剤を加えても良い。
フィラーとしては、例えばカーボン繊維、ガラスファイバー、クレー、酸化チタン、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、マイカ、モンモリロナイト、硫酸バリウム、バルーンフィラー、ビーズフィラー、カーボンナノチューブなどを使用できる。
難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、窒素系難燃剤、金属水酸化物、リン系難燃剤、有機アルカリ金属塩、有機アルカリ土類金属塩、シリコーン系難燃剤、膨張性黒鉛などを使用できる。
難燃助剤としては、ポリフルオロオレフィン、酸化アンチモンなどを使用できる。
酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤やフェノール系酸化防止剤などを使用できる。
離型剤としては、高級アルコール、カルボン酸エステル、ポリオレフィンワックス及びポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
着色剤としては、カーボンブラックやフタロシアニンブルーなど、任意の着色剤を使用できる。
分散剤としては、セルロースナノファイバーが樹脂に分散できるものであればよく、アニオン性、カチオン性、ノニオン性および両性の界面活性剤、高分子型分散剤、およびこれらの併用が挙げられる。
【0027】
本発明のセルロースナノファイバーは、樹脂中での分散性に優れているため、前記セルロースナノファイバーを含有する本発明の複合樹脂組成物は透明性に優れている。セルロースナノファイバーを2質量%含有する厚さ20μmの複合樹脂組成物において、400〜700nmにおける平均光線透過率が60%以上であることが好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が特に好ましい。前記平均光線透過率が60%以上の場合、透明性が保たれ、透明性が要求される用途に好適に使用される。
また、前記化学修飾されたセルロースナノファイバーを含有する複合樹脂組成物は、光線透過率を低下させることなく、吸水性の低下、耐熱性の向上を図ることができる。
このとき、本発明の複合樹脂組成物に他の添加物が含有される場合は、透明性に影響の少ないものを選択するのが良い。
【0028】
本発明の成形体は前記複合樹脂組成物を成形してなる。本発明の成形体もセルロースナノファイバーを含有するため、強度や耐熱性において優れている。前記成形体としては特に限定されないが、医療機器、音響機器等に用いられる。特に強度が求められるカメラ用成形体、鏡枠に好適に用いられる。
【0029】
本発明のセルロースナノファーバーの製造方法においては、セルロース原料を、イオン液体を含む溶液中で解繊処理及び化学修飾することにより、前記セルロースナノファイバーを製造する。
【0030】
前記セルロース原料としては、特に限定されないが、綿、麻などの天然セルロース原料、クラフトパルプ、サルファイトパルプなどの木材化学処理パルプ、セミケミカルパルプ、古紙またはその再生パルプ等が挙げられ、コスト面、品質面、環境面から、木材化学処理パルプが好ましい。
前記セルロース原料の形状としては、特に限定されないが、処理の容易さ及び溶媒の浸透促進の観点から、適宜粉砕してから用いることが好ましい。
【0031】
前記イオン液体を含む溶液(以下、処理液)とは、下記化学式で表されるイオン液体と有機溶媒を含有する溶媒である。
【0032】
【化1】

[式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはアリル基である。Xはハロゲン、擬ハロゲン、炭素数1〜4のカルボキシレート、またはチオシアネートである。]
【0033】
前記イオン液体としては、塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、臭化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、塩化1−アリル−3−メチルイミダゾリウム、臭化1−アリル−3−メチルイミダゾリウム、臭化1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムが挙げられる。
イオン液体のみで繊維原料を解繊処理することも出来るが、溶解力が高すぎで微細繊維まで溶解してしまう恐れがある場合、有機溶媒を添加して使用することが好ましい。
添加する有機溶媒種はイオン液体との相溶性、セルロースまたはキチン材料との親和性、混合溶媒の溶解性、粘度などを考慮し適宜選択すればよいが、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルフォキサイド、アセトニトリル、メタノール、エタノールの内のいずれかの一つ以上を使用することが好ましい。これらの有機溶媒の共存によりイオン液体はセルロースの微細繊維間への浸透が促進され、またイオン液体による微細繊維の結晶構造の破壊を防ぐことが出来る。
【0034】
前記処理液中のイオン液体の含有量は、セルロース原料、イオン液体、有機溶媒の種類に依存するため適宜調整すればよいが、膨潤、溶解能力の観点から20質量%以上が好ましく、溶解力の高い有機溶媒を用いる場合には30質量%以上がより好ましく、メタノール等の溶解力の低い有機溶媒を用いる場合には50質量%以上が特に好ましい。
【0035】
前記処理液に対するセルロース原料の添加量は、0.5〜30質量%の範囲にあることが好ましい。経済的な効率の観点から0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。解繊度の均一性の観点から30質量%以下が好ましく、20質量%がより好ましい。
【0036】
処理温度は特に限定するものではなく、セルロース原料を膨潤し微細繊維間の結合物を軟化・溶解できるための適切な温度を選択すればよいが、通常は20〜120℃がよい。
20℃以上の場合、処理速度及び処理液の粘度の観点から、解繊効果が低くならず、120℃以下の場合、過度の溶解の恐れがなく、セルロースナノファーバーの収率を保つことができる。
【0037】
本発明のセルロースナノファイバーの製造方法においては、前記処理液中で解繊処理に続いて、化学修飾を行う。化学修飾としては上述したような、エーテル化、エステル化、シリル化によるものが好ましい。
【0038】
本発明のセルロースナノファイバーの製造方法によれば、繊維にダメージを与えないため、従来存在しなかった600以上の重合度を有するセルロースナノファイバーを得ることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
ろ紙をハサミで3mm角に切断したもの2gを200mlのフラスコに入れ、さらにN,N−ジメチルアセトアミド50mlとイオン液体塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム60gを加え、攪拌後、ろ過し、セルロースナノファイバーを得た。さらに、得られたセルロースナノファイバーを洗浄後、蒸留水に分散させ、ポリビニルアルコール水溶液と混合した。これをフィルムに成形し、乾燥させ、セルロースナノファイバーを含有するポリビニルアルコール複合樹脂組成物を得た。このとき得られたセルロースナノファイバーの修飾率は0%であった。
【0041】
(実施例2)
実施例1で得られたセルロースナノファイバーをエステル化剤として無水酢酸を用いてアセチル化し、アセチル化セルロースナノファイバーを得た。このとき得られたセルロースナノファイバーの修飾率は10%であった。次に、予めジクロロメタンに溶解させたポリカーボネートと、このアセチル化セルロースナノファイバーとをジクロロメタン中に混合し、乾燥させ、セルロースナノファイバーを含有するポリカーボネート複合樹脂組成物を得た。
【0042】
(実施例3)
無水酢酸を実施例2の2倍量とした以外は、実施例2と同様の手順でセルロースナノファイバーを含有するポリカーボネート複合樹脂組成物を得た。このとき得られたセルロースナノファイバーの修飾率は18%であった。
【0043】
(実施例4)
無水酢酸の代わりに、シリルエーテル化剤としてヘキサメチルジシラザンを加えた以外は、実施例2と同様の手順でセルロースナノファイバーを含有するポリカーボネート複合樹脂組成物を得た。このとき得られたセルロースナノファイバーの修飾率は15%であった。
【0044】
(比較例1)
ナタデココ(株式会社フジッコ製、平均重合度:3000以上、平均アスペクト比:1000以上、平均直径:70nm)を乾燥して得られたバクテリアセルロースを使用した以外は、実施例2と同様の手順でセルロースナノファイバーを含有するポリカーボネート複合樹脂組成物を得た。
【0045】
(比較例2)
微結晶セルロース(メルク株式会社製、平均重合度:250、平均アスペクト比:10、直径:1〜10μmが混在)を使用した以外は、実施例2と同様の手順でセルロースナノファイバーを含有するポリカーボネート複合樹脂組成物を得た。
【0046】
各実施例及び各比較例の成形体を、以下の試験方法で測定し、結果を表1に示した。
(1) 平均重合度の測定
高分子学会編「高分子材料試験法2」、p.267 、共立出版(1965)に記載の銅エチレンジアミン法により測定した。
【0047】
(2) アスペクト比、平均直径
セルロースナノファイバーの数平均繊維径と数平均長さについてはSEM解析により評価した。
詳細には、セルロースナノファイバー分散液をウェーハ上にキャストしてSEM観察し、得られた1枚の画像当たり20本以上の繊維について繊維径と長さの値を読み取り、これを少なくとも3枚の重複しない領域の画像について行い、最低30本の繊維径と長さの情報を得た。
以上により得られた繊維径と長さのデータから、数平均繊維径と数平均長さを算出することができ、数平均長さと数平均繊維径との比からアスペクト比を算出した。アスペクト比が20以上10000以下の場合には○、そうでない場合には×と判定した。
【0048】
(3) 結晶構造解析(XRD)
セルロースナノファイバーの結晶構造を粉末X線回折装置Rigaku Ultima IVを用いて分析した。X線回折パターンが、14≦θ≦18に1つ又は2つのピークと、21≦θ≦24に1つのピークとを有し、他にはピークを有さない場合には○、そうでない場合には△と判定した。また、実施例及び比較例においてIβ型の結晶型であるものについては○、そうでない場合には×と表記した。
【0049】
(4) 水酸基の修飾率A1の評価法
水酸基の修飾率は元素分析により得られた炭素、水素、酸素の元素割合から、修飾率を算出した。
【0050】
(5) 飽和吸収率Rの評価
重さ(W1)のセルロースナノファイバーをジクロロメタン(SP値9.7)に分散させ、2wt%の分散液を調製し、遠心分離瓶に入れてから4500Gで30分処理した後、上部透明な溶剤層を除いてから下部ゲル層の重さ(W2)を量り、飽和吸収率を下記式により算出した。
R=W2/W1×100%
実施例3については、酢酸エチル(SP値9.1)、ジクロロメタン(SP値9.7)の2つの溶媒で評価を行った。このとき、酢酸エチルは1200質量%、ジクロロメタンは1500質量%であった。
飽和吸収率が300以上5000質量%以下の場合には○、そうでない場合には△と判定した。
【0051】
(6) 飽和平均光線透過率
厚さ20μm、セルロースナノファイバー2wt%含有の樹脂フィルムを作製し、株式会社島津製作所製のUV3600を用いて600nmにおける透過率を測定した。セルロースナノファイバーと樹脂が目視で混合していないものを×と判定した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すとおり、本発明の成形体は、平均光線透過率において優れていた。さらに、本発明のセルロースナノファイバーの水酸基が化学修飾された実施例2〜4は、比較例1〜2と比べて、飽和吸収率において優れていた。
【0054】
各実施例及び各比較例の成形体を、以下の試験方法で測定し、結果を表2に示した。
(1) 成形性
得られたセルロースナノファイバー含有複合樹脂組成物を熱溶融させ成形し、成形状態を目視で判断した。成形性が良い場合には○、成形性が悪い場合には×と判定した。
【0055】
(2) 熱線膨張率
100℃〜180℃間の熱線膨張率を株式会社リガク製Thermo plus TMA8310を用いて5℃/分の加熱速度、空気雰囲気で測定した。テストサンプルのサイズを20mm(長)×5mm(幅)とした。まず室温〜Tgの温度範囲内でファーストランを行ない、その後室温まで冷却し、セカンドランを行なった。その結果から、次式により線膨張率を計算した。
熱線膨張率=(180℃時点の長さ−40℃時点の長さ)/40℃時点の長さx100−100
熱線膨張率が5%以上の場合には○、5%未満の場合には×と判定した。
【0056】
【表2】

【0057】
表2に示すとおり、実施例で得られた本発明の成形体は、比較例と比べて、優れた成形性及び熱線膨張率を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均重合度が600以上30000以下であり、アスペクト比が20〜10000であり、平均直径が1〜800nmであり、X線回折パターンにおいて、Iβ型の結晶ピークを有することを特徴とするセルロースナノファイバー。
【請求項2】
水酸基が修飾基により化学修飾されている請求項1に記載のセルロースナノファイバー。
【請求項3】
SP値8〜13の有機溶媒における飽和吸収率が300〜5000質量%である請求項2に記載のセルロースナノファイバー。
【請求項4】
前記有機溶媒は、非水溶性溶媒である請求項3に記載のセルロースナノファイバー。
【請求項5】
前記修飾基により、水酸基がエステル化またはエーテル化されている請求項2〜4のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー。
【請求項6】
全体の水酸基のうち0.01%から50%が修飾基により化学修飾されている請求項2〜5のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー。
【請求項7】
θの範囲を0〜30とするX線回折パターンが、14≦θ≦18に1つ又は2つのピークと、21≦θ≦24に1つのピークとを有し、他にはピークを有さない請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバーを樹脂中に含有することを特徴とする複合樹脂組成物。
【請求項9】
400〜700nmにおける平均光線透過率が60%以上である請求項8に記載の複合樹脂組成物。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の複合樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。
【請求項11】
セルロース原料を、イオン液体を含む溶液中で解繊処理及び化学修飾することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−184816(P2011−184816A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49565(P2010−49565)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】