説明

セルロースナノファイバーの製造方法およびセルロースの酸化触媒

【課題】透明性、耐熱退色性に優れたセルロースナノファイバーの製造方法を提供する。
【解決手段】特定のN−オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群から選択される化合物とを触媒として用いる方法により、セルロースナノファイバーを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロースナノファイバーの製造方法およびセルロースの酸化触媒に関する。より詳しくは、本発明は、特定のN−オキシル化合物を触媒として用いる、安価でかつ耐熱退色性に優れたセルロースナノファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系原料を、触媒量の2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(以下、TEMPOという。)と安価な酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムの共存下で処理するとセルロースミクロフィブリル表面にカルボキシル基を効率よく導入でき、わずかなエネルギーでこれを解繊してセルロースナノファイバー分散液が製造できることが知られている(非特許文献1)。この製造方法は、反応媒体として水を使用し、かつ副生成物が塩化ナトリウムのみであること等から環境調和性に優れた方法である(特許文献1)。しかしながらTEMPOが非常に高価であるため製造コストが高いという問題があった。
【0003】
TEMPOの4位にカルボニル基を導入した4−オキソTEMPOは、アセトンとアンモニアを原料として合成できるのでTEMPOより容易に合成でき、TEMPOに比べて安価である。また、4−オキソTEMPOを還元またはアミノ化して得られる4−ヒドロキシTEMPOや4−アミノTEMPOもTEMPOに比べて安価である。しかしながら、4−オキソTEMPO、4−ヒドロキシTEMPO、4−アミノTEMPOいずれもセルロース系原料のミクロフィブリル表面に効率良くカルボキシル基を導入することができないため、セルロースナノファイバーの製造には適さなかった。
【0004】
このため、セルロースナノファイバーの製造に適した安価なTEMPO誘導体が検討されている。例えば、4−ヒドロキシTEMPOの水酸基を炭素数4以下の直鎖もしくは分岐状炭素鎖を有するアルコールでエーテル化した4−ヒドロキシTEMPO誘導体、およびカルボン酸またはスルホン酸でエステル化した4−ヒドロキシTEMPO誘導体が提案されている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−001728号公報
【特許文献2】特開2009−173909号公報
【特許文献3】特開2010−209510号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Saito,T.,et al.,Cellulose Commun.,14(2),62(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
TEMPO、特許文献2および特許文献3に開示されているTEMPO誘導体はセルロース系原料のミクロフィブリル表面に効率良くカルボキシル基を導入できるため、セルロースナノファイバー製造の触媒としては優れている。しかしながら、これらにより得られたセルロースナノファイバーは熱によって着色しやすい(熱退色しやすい)という問題があった。熱退色しやすいセルロースナノファイバーは光学用途等への適用が困難となり、用途が限定される。
【0008】
上記事情を鑑み、本発明は耐熱退色性に優れたセルロースナノファイバーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、下記式1〜8のいずれかで表されるN−オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群から選択される化合物を含む触媒を用いることで、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、前記課題は以下の本発明により解決される。
(A)セルロース系原料を水中にて、(a1)下記式1〜8から選択されるN−オキシル化合物、および(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、(a3)酸化剤を用いて酸化する工程、
(B)前記工程Aで得た酸化されたセルロース系原料を含む分散液を調製し、当該酸化セルロース系原料を解繊して分散媒中に分散し、ナノファイバー化する工程、
を含む、セルロースナノファイバーの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱退色性に優れたセルロースナノファイバーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1で得たセルロースナノファイバー水溶液の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書において「〜」はその両端の値を含む。
1.セルロースナノファイバーの製造方法
本発明の製造方法は、(A)酸化工程と(B)ナノファイバー化する工程を含む。各工程について説明する。
【0013】
1−1.工程A
工程Aではセルロース系原料を水中にて、(a1)下記式1〜8から選択されるN−オキシル化合物、および(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、(a3)酸化剤を用いて酸化する。
【0014】
(1)N−オキシル化合物(a1)
N−オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物である。本発明においては、下記式1〜8から選択されるN−オキシル化合物を用いる。
【0015】
【化1】

【0016】
式1および式2の化合物は、アセタールを用いて4−オキソTEMPOをアセタール化またはヘミアセタール化して合成できる。式3の化合物は、スルホン酸等を用いて4−アミノTEMPOをスルホン化して合成できる。式4および式5の化合物は、二級アミンまたは三級アミンを用いて4−オキソTEMPOをアミノ化して合成できる。式6の化合物は、酸化剤を用いて4−オキソTEMPOを酸化してカルボキシル基を生成した後、エステル化して合成できる。
【0017】
式7の化合物は、トリアセトアミンとグリニヤール試薬から4−エチル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンを経由して合成できる。式8の化合物は、塩化亜鉛または臭化亜鉛を用いて4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンをハロゲン置換して合成できる。
【0018】
上記式において、Rは炭素数4以下の直鎖あるいは分岐状炭化水素基であるが、R化合物の水への溶解性に影響を与える。炭素数が4以下である化合物は水へ溶解する。このようなRの例には、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、s−ブチル基、またはt−ブチル基が含まれる。また、Rの炭素数が少ないと化合物の水への溶解性は高くなるので、Rはメチル基またはエチル基が好ましい。Xはハロゲンであるが、同様の理由から塩素原子または臭素原子が好ましい。
【0019】
TEMPO誘導体の使用量は、セルロース系原料をナノファイバー化できる触媒量であればよい。通常の使用量は、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.01〜10mmolであり、好ましくは0.01〜1mmol、さらに好ましくは0.05〜0.5mmolである。
【0020】
(2)臭化物またはヨウ化物(a2)
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.1〜100mmolが好ましく、0.1〜10mmolがより好ましく、0.5〜5mmolがさらに好ましい。
【0021】
(3)酸化剤(a3)
セルロース系原料の酸化の際に用いる酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えばハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などが使用できる。中でも、コストの観点から、現在工業プロセスにおいて最も汎用されている安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが特に好ましい。酸化剤の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択でき、通常、絶乾1gの漂白済み木材パルプに対して、0.5〜500mmol、好ましくは0.5〜50mmol、さらに好ましくは2.5〜25mmol程度である。
【0022】
(4)セルロース系原料
セルロース系原料とは、木材由来のクラフトパルプまたはサルファイトパルプ、それらを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末セルロース、あるいはそれらを酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末等である。またこの他に、ケナフ、麻、イネ、バカス、竹等の植物由来のセルロース系原料もできる。しかしながら、セルロース系原料中に広葉樹由来のリグニンが多く残留してしまうと当該原料の酸化反応を阻害する恐れがあるので、本発明においては、漂白済みクラフトパルプまたは漂白済みサルファイトパルプを使用することが好ましい。
【0023】
漂白処理方法としては、塩素処理(C)、二酸化塩素漂白(D)、アルカリ抽出(E)、次亜塩素酸塩漂白(H)、過酸化水素漂白(P)、アルカリ性過酸化水素処理段(Ep)、アルカリ性過酸化水素・酸素処理段(Eop)、オゾン処理(Z)、キレート処理(Q)などを組合せて、例えば、C/D−E−H−D、Z−E−D−P、Z/D−Ep−D、Z/D−Ep−D−P、D−Ep−D、D−Ep−D−P、D−Ep−P−D、Z−Eop−D−D、Z/D−Eop−D、Z/D−Eop−D−E−Dなどのシーケンスで行なうことができる。シーケンス中の「/」は、「/」の前後の処理を洗浄なしで連続して行なうことを意味する。セルロース原料中のリグニン量は少ないことが好ましく、パルプ化処理および漂白処理を用いて得られたセルロース原料(漂白済みクラフトパルプ、漂白済みサルファイトパルプ)は、白色度(ISO 2470)が80%以上であることがより好ましい。
【0024】
粉末セルロースまたは微結晶セルロース粉末をセルロース系原料として用いると、高濃度であってより低粘度の分散液を与えるセルロースナノファイバーを製造できるので好ましい。粉末セルロースとは、木材パルプの非結晶部分を酸加水分解処理で除去した後、粉砕・篩い分けすることで得られる微結晶性セルロースからなる棒軸状粒子である。粉末セルロースにおけるセルロースの重合度は100〜500程度であり、X線回折法による粉末セルロースの結晶化度は70〜90%であり、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積平均粒子径は好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。体積平均粒子径が100μm以下であると、流動性に優れるセルロースナノファイバー分散液を得ることができる。粉末セルロースとしては、例えば、精選パルプを酸加水分解した後に得られる未分解残渣を精製・乾燥し、粉砕・篩い分けして得られる、棒軸状であって一定の粒径分布を有する結晶性セルロース粉末を使用できる。あるいは、KCフロック(登録商標)(日本製紙ケミカル株式会社製)、セオラス(商標)(旭化成ケミカルズ株式会社製)、アビセル(登録商標)(FMC社製)などの市販品を用いてもよい。
【0025】
(5)酸化条件
本工程では、温和な条件であっても酸化反応を円滑に進行させることができる。そのため、反応温度は15〜30℃程度の室温であってよい。反応の進行に伴ってセルロースにカルボキシル基が生成し、反応液のpH低下が認められるが、酸化反応を効率良く進行させるためには、反応液のpHを9〜12に維持することが好ましく、10〜11に維持することがより好ましい。
【0026】
(6)機序
本発明において、式1〜8のTEMPO誘導体がセルロースナノファイバーの製造における優れた触媒となる理由は、次のように推察される。4位に水酸基、一級アミノ基、またはカルボニル基が導入されたTEMPO誘導体は、反応系がアルカリ性の場合、系内の水酸化物イオンによってTEMPOの3位の水素が引き抜かれる反応が進行し、ヘテロ環が開裂する。この開裂によって触媒活性が消失すると考えられる。このことは、4位に水酸基、一級アミノ基、またはカルボニル基が導入されたTEMPO誘導体の触媒活性が非常に低いという事実からも裏付けられる。一方、本発明で用いるTEMPO誘導体は、水酸基、一級アミノ基、およびカルボニル基を有さないので上記開裂反応が起こらないと考えられる。
【0027】
また、このようなTEMPO誘導体を用いて製造されたセルロースナノファイバーが耐熱退色性に優れる理由は以下のように推察される。従来のTEMPO誘導体による酸化反応は速やかに進行するため、セルロースの6位の1級水酸基が酸化されてカルボキシル基が生成するのみならず、2、3位の2級水酸基も一部酸化されカルボニル基が生成すると考えられる。反応機構は定かでないが、このカルボニル基は酸化されやすいので、従来のTEMPO誘導体で酸化されたパルプおよびこれらから得られたセルロースナノファイバーは熱退色しやすいと考えられる。一方、本発明で用いるTEMPO誘導体は、後述するとおり、従来のTEMPO誘導体に比べて酸化反応に多くの時間を必要とする。つまり、本発明で用いるTEMPO誘導体は、酸化反応を穏やかに進行させるので、2、3位の2級水酸基は酸化せず、6位の1級水酸基のみを極めて高い精度で選択的に酸化する。このため、耐熱退色性に優れたセルロースナノファイバーが製造できると考えられる。
【0028】
1−2.工程B
工程Bでは、前記工程Aで得た酸化されたセルロース系原料を含む分散液を調製し、当該酸化セルロース系原料を解繊して分散媒中に分散し、ナノファイバー化する。「ナノファイバー化する」とは、セルロース系原料を、幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルであるセルロースナノファイバーへと加工することを意味する。分散液とは前記酸化セルロース系原料が分散媒に分散している液である。取扱い性から、分散媒は水であることが好ましい。処理に供する分散液中の酸化セルロース系原料濃度は、0.3%(w/v)以上であることが好ましく、1〜2%(w/v)がより好ましく、3〜5%(w/v)がさらに好ましい。
【0029】
工程Bは、例えば、酸化されたセルロース系原料を十分に水洗した後、水に分散させて水分散液を調製し、当該水分散液を高速せん断ミキサーや高圧ホモジナイザーなど公知の混合・撹拌、乳化・分散装置を用いて処理することで実施できる。使用できる装置としては、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などが挙げられ、これらの装置は併用してもよい。工程Bにおいて水分散液に印加されるせん断力のせん断速度は1000sec−1以上であればよい。
【0030】
2.本発明で製造されたセルロースナノファイバー
本発明により製造されたセルロースナノファイバーは、幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースシングルミクロフィブリルである。このセルロースナノファイバーは、耐熱退色性に優れる。具体的には、セルロースナノファイバーの水分散液を加熱して乾燥させても、セルロースナノファイバーにはほとんど着色が認められない。このため、本発明により製造されたセルロースナノファイバーは、高い透明性が要求される光学用途等に有用である。本発明において、透明度は660nmの光線透過率で評価され、具体的には、紫外・可視分光光度計を用いて、濃度0.1%(w/v)の水分散液を透過する光の量を測定することで求められる。当該透明度は80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましく、99%以上が特に好ましい。
【0031】
また、本発明により製造されたセルロースナノファイバーはバリヤー性にも優れるので、包装材料等の様々な用途に適用できる。例えば、セルロースナノファイバーを紙基材に塗布または含浸して含有させた紙シートは、バリヤー性、耐熱性に優れた包装材料として使用することができる。
【0032】
本発明により得られたセルロースナノファイバーのカルボキシル基量は1.2mmol/g以上が好ましい。カルボキシル基量は、セルロースナノファイバーの0.5質量%スラリー60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
【0033】
カルボキシル基量〔mmol/gパルプ〕=a〔ml〕×0.05/酸化パルプ質量〔g〕
【0034】
3.セルロース系原料の酸化触媒。
本発明の、セルロース系原料の酸化触媒は、(a1)前記式1〜8から選択されるN−オキシル化合物、および(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物を含む。各成分の詳細、および配合量(使用量)については前述のとおりである。N−オキシル化合物として複数の化合物を併用してもよい。
【0035】
本発明の触媒においては、入手容易性等の観点から、(a1)N−オキシル化合物は前記式7または8から選択されることが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
[実施例1]
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(日本製紙株式会社製)5g(絶乾)を4,4−ジメトキシTEMPO108mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム755mg(5mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)を18ml添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応した後、ガラスフィルターで濾過し、濾物を十分に水洗して酸化パルプを得た。
【0037】
次に酸化パルプの濃度0.3%(w/v)水分散液を調製し、当該分散液をエクセルオートホモジナイザー(型番ED−4、日本精機製作所製)を用いて、12,000rpmで10分撹拌して透明なゲル状水溶液を得た。この水溶液を透過型電子顕微鏡で観察し、原料がナノファイバー化していることを確認した(図1)。
【0038】
セルロースナノファイバーの濃度が0.1%(w/v)の水分散液を調製し、UV−VIS分光光度計 UV−265FS(株式会社島津製作所社)を用いて当該水分散液の透明度(660nm光の透過率)を測定した。透明度は84.2%であった。セルロースナノファイバーのカルボキシル基量は1.21mmol/gであった。
【0039】
セルロースナノファイバーの耐熱退色性を次のように評価したところ、○であった。
1)濃度0.25%(w/v)の水分散液を調製し、当該水分散液20gをアルミカップ上に展開して、およそ0.01mmの展開膜を得た。
2)送風乾燥機を用いて当該膜を120℃で2.5時間乾燥させ、シートを得た。
3)次の基準に基づき熱乾燥後のシートの色変化を目視で評価した。
【0040】
○:ほとんど着色が認められない
×:着色が認められる
[実施例2]
4−エチル−4−ヒドロキシTEMPOを用いた以外、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバーを製造し、評価した。カルボキシル基量は1.20mmol/g、透明度は82.2%、耐熱退色性は○であった。
【0041】
[実施例3]
4−メタンスルホニルアミノTEMPOを用いた以外、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバーを製造し、評価した。カルボキシル基量は1.25mmol/g、透明度は82.0%、耐熱退色性は○であった。
【0042】
[実施例4]
4−モノエチルアミノTEMPOを用いた以外、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバーを製造し、評価した。カルボキシル基量は1.53mmol/g、透明度は90.2%、耐熱退色性は○であった。
【0043】
[実施例5]
4−ジメチルアミノTEMPOを用いた以外、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバーを製造し、評価した。カルボキシル基量は1.23mmol/g、透明度は85.4%、耐熱退色性は○であった。
【0044】
[実施例6]
4−カルボキシルTEMPOのメチルエステルを用いた以外、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバーを製造し、評価した。カルボキシル基量は1.21mmol/g、透明度は85.2%、耐熱退色性は○であった。
【0045】
[実施例7]
以下の製造例1で合成した4−エチルTEMPOを用いた以外、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバーを製造し、評価した。カルボキシル基量は1.32mmol/g、透明度は87.0%、耐熱退色性は○であった。
【0046】
[製造例1]
1)撹拌装置を備えた3つ口フラスコに、トリアセトンアミン 7.76g(MW=155.24、50mmol)をTHFに溶解した溶液100mlを装入し、フラスコ内を不活性ガスでパージした。
2)フラスコ内に、150mmolのグリニャール試薬EtMgBr(東京化成株式会社製ca.1mol/l)を滴下してゆっくり加えた。
3)グリニャール試薬を全量滴下した後、室温で一晩反応させた。
4)ビーカーに氷水を入れ、撹拌しながら、フラスコ内容物を氷水にゆっくり注ぎ、反応物を全量注いだ後、室温で1時間撹拌し、反応を停止した。
5)ビーカー内に10質量%の硫酸水溶液を加え、水相のpHを弱酸性にした。
6)次いで、ビーカー内に48質量%のNaOH水溶液を加え、水相のpHがアルカリ性を示すようにした。
7)分液ロートを用いてビーカー内容物を油水分離し、分液後の水相をエーテル抽出した。
8)分液した油相および水相から抽出したエーテル相を硫酸ナトリウムを用いて乾燥し、続いて有機溶媒を除去した。
9)残った油相を減圧蒸留して、4−エチル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン約4gを得た。沸点は70torrで80℃付近であった。
【0047】
10)得られた4−エチル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの全量をメカニカルスターラーおよびディーンスターク脱水装置を取り付けた3つ口フラスコに装入し、トルエン100mlと濃硫酸10gを加えてトルエンの還流温度で激しく撹拌した。この状態で反応を3日実施した。
11)反応完了後、フラスコ内の温度を室温に冷却し、フラスコ内容物を油水分離した。水相をエーテルで数回抽出し、エーテル相を先に分離した油相に混合し、硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。
12)常圧でエーテルを除去した後、残った油相を減圧蒸留して、4−エチル−1,3−ジヒドロ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンを約3g得た。沸点は70torrで80℃付近であった。
【0048】
13)マグネチックスターラーバーの入ったガラス製の試験管を収納した筒型の耐圧容器に、4−エチル−1,3−ジヒドロ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 2.5gを入れ、さらに触媒量(約50mg)のパラジウムカーボン(5%)と過剰のメタノールを加えて、耐圧容器を密閉した。
14)配管を通して、耐圧容器内に水素ガスを注入し、最終的に約500kPaの水素圧で加圧して密閉し、室温にてマグネチックスターラーを用いて試験管内を撹拌し、4日間反応を行なった。
15)撹拌を停止して内容物を取り出し、触媒をろ別し、ろ液を硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後の液をエバポレーターで濃縮し、4−エチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン約2gを得た。
【0049】
16)4−エチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 2gを100mlのマグネチックスターラーバーの入った栓付マイエルフラスコに装入し、水100ml、過酸化水素水20gおよびタングステン酸ナトリウム1.5gを加え室温で1週間撹拌を行い、反応を実施した。
17)撹拌を停止し、内容物にKOH粒を過剰に加えた後、クロロホルムで数回抽出を行った。
18)硫酸マグネシウムを用いてクロロホルム相を乾燥した後、エバポレーターで濃縮した。
19)シリカゲルのカラムクロマトを用いて濃縮物を分離した。展開溶媒は酢酸エチル:n−ヘキサン=1:5とした。以上により、4−Et−TEMPOを約1.5g得た。
【0050】
[実施例8]
下記の製造例2で得た4−クロロTEMPOを用いた以外、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバーを製造し、評価した。カルボキシル基量は1.47mmol/g、透明度は93.2%、耐熱退色性は○であった。
【0051】
[製造例2]
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 11.8g、無水塩化亜鉛 41g、濃塩酸24mlの混合物を140℃で2時間加熱した。冷却後、混合物を200gのクラッシュアイスに注ぎ、水酸化カリウムを用いてアルカリ性にした。当該混合物にエーテルを添加して分液を行った。エーテル相を無水炭酸カリウムで乾燥させた後、エーテルを蒸発させて除去した。残渣を乾燥させて4−クロロ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 7.8g(59%)を得た。
【0052】
次いで、4−クロロ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 5.6gをメタノール50ml、水25mlの混合溶媒に溶解した後、少量のTrilon B(キレート剤)、0.5Mタングステン酸ナトリウム3.2ml、30%過酸化水素8.5mlを加えた。混合物を室温4日間放置した後、混合物を300mlの水中に注いだ。結晶をろ過し、水洗、乾燥した後、ヘキサンで再結晶させて4−クロロ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル 5.0g(82%)を得た。
【0053】
[実施例9]
無水塩化亜鉛の代わりに無水臭化亜鉛を用いて製造例2の方法に準じて4−ブロモTEMPOを用いた合成した。4−ブロモTEMPOを用いた以外、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバーを製造し、評価した。カルボキシル基量は1.36mmol/g、透明度は91.4%、耐熱退色性は○であった。
【0054】
[比較例1]
4,4−ジペントキシTEMPOを用いて実施例1と同様の酸化反応を試みたが、当該化合物は水に溶解せず、酸化反応はほとんど進行しなかった。
【0055】
[比較例2]
4−ペンチル−4−ヒドロキシTEMPOを用いて実施例1と同様の酸化反応を試みたが、当該化合物は水に溶解せず、酸化反応はほとんど進行しなかった。
【0056】
[比較例3]
4−ペンタンスルホニルアミノTEMPOを用いて実施例1と同様の酸化反応を試みたが、当該化合物は水に溶解せず、酸化反応はほとんど進行しなかった。
【0057】
[比較例4]
4−モノペンチルアミノTEMPOを用いて実施例1と同様の酸化反応を試みたが、当該化合物は水に溶解せず、酸化反応はほとんど進行しなかった。
【0058】
[比較例5]
4−ジペンチルアミノTEMPOを用いて実施例1と同様の酸化反応を試みたが、当該化合物は水に溶解せず、酸化反応はほとんど進行しなかった。
【0059】
[比較例6]
4−カルボキシルTEMPOのペンチルエステルを用いて実施例1と同様の酸化反応を試みたが、当該化合物は水に溶解せず、酸化反応はほとんど進行しなかった。
【0060】
[比較例7]
4−ペンチルTEMPOを用いて実施例1と同様の酸化反応を試みたが、当該化合物は水に溶解せず、酸化反応はほとんど進行しなかった。
【0061】
[比較例8]
メトキシTEMPOを用いた以外、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバーを製造し、評価した。カルボキシル基量は1.52mmol/g、透明度は94.1%、耐熱退色性は×であった。
【0062】
これらの結果を表1および2に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
表1には酸化パルプのカルボキシル基量が示してあるが、解繊によりカルボキシル基は変化しないため、このカルボキシル基量はセルロースナノファイバーのカルボキシル基量と同じである。また表1に記載の反応時間とは、一定量の次亜塩素酸ナトリウム(酸化剤)を完全に消費するのに要する時間であり、酸化反応時間の目安である。セルロースの酸化反応においては、次亜塩素酸ナトリウムがTEMPOを酸化し、当該酸化されたTEMPOがセルロースを酸化する。酸化TEMPOは還元され再び酸化されるというサイクルを繰り返すため消費されないが、次亜塩素酸ナトリウムは消費される。よって、次亜塩素酸ナトリウムの消費時間は、セルロースの酸化に要する時間の目安となる。
【0066】
実施例1〜8のTEMPO誘導体を用いることで、透明性に優れかつ耐熱退色性も優れる高品質のナノファイバーが得られることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セルロース系原料を水中にて、(a1)下記式1〜8から選択されるN−オキシル化合物、および(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、(a3)酸化剤を用いて酸化する工程、
【化1】

(ただし、Rは炭素数4以下の直鎖あるいは分岐状炭化水素基であり、Xはハロゲンである)、ならびに
(B)前記工程Aで得た酸化されたセルロース系原料を含む分散液を調製し、当該酸化セルロース系原料を解繊して分散媒中に分散し、ナノファイバー化する工程、
を含む、セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
前記セルロース系原料が漂白済みクラフトパルプまたは漂白済みサルファイトパルプである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法により製造されるセルロースナノファイバー。
【請求項4】
(a1)下記式7または式8で表されるN−オキシル化合物、
【化2】

(ただし、Rは炭素数4以下の直鎖あるいは分岐状炭化水素基であり、Xはハロゲンである)、および
(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物を含む、
セルロース系原料の酸化触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2012−201740(P2012−201740A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65893(P2011−65893)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】