セルロースナノファイバーの製造方法
【課題】異物が混入しておらず、幅10〜50nmという、植物細胞壁中の基本エレメントの状態まで解繊された、均一かつ損傷の少ないセルロースナノファイバーを、高効率で製造する技術の開発が求められており、セルロースナノファイバーの新規な製造方法を提供する。
【解決手段】リグニン含有量が0〜5重量%である植物由来の繊維集合体と液体物質との混合物を攪拌するセルロースナノファイバーの製造方法。10〜50nmという植物細胞壁中における基本エレメントまで解繊された、均一かつ損傷の少ないセルロースナノファイバーが効率的に得られる。
【解決手段】リグニン含有量が0〜5重量%である植物由来の繊維集合体と液体物質との混合物を攪拌するセルロースナノファイバーの製造方法。10〜50nmという植物細胞壁中における基本エレメントまで解繊された、均一かつ損傷の少ないセルロースナノファイバーが効率的に得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバーは、すべての植物の基本骨格物質(基本エレメント)であり、植物の細胞壁の中では、幅4nm程のセルロースミクロフィブリルが数本集まり束となった、幅10〜50nm程度のセルロースナノファイバーとして存在している。セルロースナノファイバーの幅は、植物によって分布が異なり、例えば、木材の場合は10〜20nm程度と比較的狭いが、シュガービートパルプ、ポテトパルプ、稲ワラ、オオカナダモ等の場合は、20〜50nm程度の範囲に分布する。
【0003】
セルロースナノファイバーは、軽量で、鋼鉄の5倍以上の強度、石英ガラス相当の低線熱膨張を有していることから、持続型植物資源から得られる高性能ナノファイバーとして、その製造と利用について多くの研究が行われている。
【0004】
植物の細胞壁は、繊維構造の違いから主に一次壁と二次壁に分けられ、細胞壁同士は最外層の中葉で接着している。一次壁は細胞が分裂してすぐにできる細胞壁であり、樹木の放射・接線方向に対する細胞のふくらみを制御するように形成され、細胞の拡大・成長に伴って細胞壁をある程度引き延ばすことができる。一次壁中ではセルロースナノファイバーはランダムに配向し、ファイバー同士の結合力が比較的弱い。一方、二次壁は、拡大・成長が終わった細胞において、一次壁の内側に形成される細胞壁である。一次壁に比べて層が非常に厚く、二次壁中層では細胞長軸に対してセルロースナノファイバーが配向し、ファイバー同士が同方向に密着して互いに水素結合するため、強固で可塑性が低く単繊維が分離しにくい構造を持つ。
【0005】
従来、麻、木材等の植物由来の繊維集合体からセルロースナノファイバーを抽出(取り出す)方法として、リグニンやヘミセルロースを除去した植物繊維パルプ、木材パルプをリファイナーで処理して細胞壁を横方向に数回切断した後、二軸混練機で混練処理して強固な二次壁を解繊する方法が存在する。しかしながら、この方法では、繊維の幅が10nm〜5μm程度のセルロース繊維の混合物が得られ、繊維幅が均一に揃ったセルロースナノファイバーを得ることはできない。
【0006】
また、パルプスラリーを狭い空隙に押し込み圧力の解放で解繊を進める高圧ホモジナイザーやマイクロフリュイダイザーといった方法も存在する(非特許文献1及び2)が、解繊を進めるためには、何回も処理を繰り返す必要がある。さらに、これらの方法では、狭い間隙にパルプスラリーを押し込み解繊するため、ナノファイバーが所々で折れて繊維が損傷したり、機械の間隙が詰まって連続的な製造が難しい等の欠点がある。
【0007】
さらに、パルプスラリーを高速で対向衝突させてナノファイバー化するカウンターコリジョン法がある。しかしながら、この方法によっても、幅10〜50nmという均一なセルロースナノファイバーは得られず、また、高圧ホモジナイザー法と同様に何度も繰り返し処理を行う必要があり、生産効率に劣る。
【0008】
一方、回転する砥石間でパルプを磨砕するグラインダー法は、木材から一次壁切断等の前処理を行うことなく、直接的に幅10〜20nmのセルロースナノファイバーが得られることが知られている(非特許文献3)。しかしながら、この方法では、砥石を接触させながら処理するために、削れた砥石成分が、ナノファイバースラリーに混ざってしまうことがあり、高純度のナノファイバーが得られにくい。また、グラインダー法による処理は、パルプ表面に強い外力を加えるため、セルロースナノファイバーが損傷を受けやすい。
【0009】
この様に、機械的な処理によって、不純物が無く、かつ、損傷が極めて少ないセルロースナノファイバーを高効率で製造する手法は未だ見出されていない。
【0010】
一方、セルロース表面にカルボキシル基を選択的に導入するTEMPO酸化により、セルロースナノファイバー間の相互作用を大きく低下させると、パルプスラリーをブレンダーで撹拌するだけで、4nm程度に幅の揃ったセルロースナノファイバーが得られる方法が存在する(非特許文献4)。しかしながら、本方法では、セルロース表面にカルボキシル基を導入する必要があり、化学変性していないセルロースナノファイバーを得ることはできない。さらに、パルプを高濃度の硫酸等の強酸で処理し、撹拌で解繊を行う方法があるが、強酸処理によってセルロースナノファイバーは著しい低分子化を生じ、繊維形態を保つことができない。
【0011】
この様なことから、異物が混入しておらず、幅10〜50nmという、植物細胞壁中の基本エレメントの状態まで解繊された、均一かつ損傷の少ないセルロースナノファイバーを、高効率で製造する技術の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Enzymatic Hydrolysis Combined with Mechanical Shearing and High-Pressure Homogenization for Nanoscale Cellulose Fibrils and Strong Gels: Biomacromolecules, 2007, 8 (6), 1934-1941
【非特許文献2】Cellulose Fibrils for Polymer Reinforcement: ADVANCED ENGINIEERING MATERIALS 2004, 6, No. 9, 755-761
【非特許文献3】Obtaining Cellulose Nanofibers with a Uniform Width of 15 nm from Wood: Biomacromolecules 2007, 8, 3276-3278
【非特許文献4】Homogeneous Suspensions of Individualized Microfibrils from TEMPO-Catalyzed Oxidation of Native Cellulose: Biomacromolecules, 2006, 7 (6), 1687-1691
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
セルロースナノファイバーの新規な製造方法を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、リグニンを全く含まない又は特定量のリグニンを含む植物由来の繊維集合体を、液体物質中で撹拌することにより、驚くべきことに、10〜50nmという植物細胞壁中における基本エレメントまで解繊された、均一かつ損傷の少ないセルロースナノファイバーが効率的に得られることを見出した。本発明は、この様な知見に基づき、さらに鋭意検討して完成されたものである。すなわち、本発明は下記項1〜12に示すセルロースナノファイバーの製造方法を提供する。
【0015】
項1. リグニン含有量が0〜5重量%である植物由来の繊維集合体と液体物質との混合物を攪拌するセルロースナノファイバーの製造方法。
項2. セルロースナノファイバーの幅が10〜50nmである項1に記載の製造方法。
項3. 攪拌装置の攪拌速度を1000〜50000rpmにして攪拌する項1又は2に記載の製造方法。
項4. 前記混合物中の植物由来の繊維集合体の濃度が0.1〜20重量%である項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
項5. 前記植物由来の繊維集合体の長径が1μm〜10mm、アスペクト比が1〜200である項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
項6. 前記植物由来の繊維集合体が、植物由来の繊維集合体の粉体及び/又はチップを酸で処理して得られたものである項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
項7. 液体物質が、水、炭素数2〜10のハロゲン化炭化水素、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜20の炭化水素、超臨界状態の二酸化炭素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
項8. 超音波処理を併用する項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
項9. 前記攪拌の後又は同時に、遠心分離及び/又はろ過工程を有する項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
項10. 前記植物由来の繊維集合体が酵素処理されたものである項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
項11. 前記植物由来の繊維集合体が化学処理されたものである項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
項12. (1)植物由来の繊維集合体の粉体及び/又はチップを酸で処理してリグニン含有量が0〜5重量%である植物由来の繊維集合体を得る工程、
(2)工程(1)で得られた植物由来の繊維集合体と液体物質の混合物を攪拌する工程
を有するセルロースナノファイバーの製造方法。
【0016】
以下、本願発明の製造方法について、詳述する。
【0017】
本発明のセルロースナノファイバーの製造方法は、リグニン含有量が0〜5重量%である植物由来の繊維集合体と液体物質の混合物を攪拌することを特徴とする。
【0018】
植物由来の繊維集合体
リグニン含有量が0〜5重量%である植物由来の繊維集合体は、麻、ジュート、木粉、木材チップ等の植物由来の繊維集合体を酸で処理する従来公知のリグニン除去工程により得られる。また、シュガービート、コットン、ポテトパルプ等のそもそもリグニンを含まない植物由来の繊維集合体については、リグニン除去工程を行わなくてもよい。
【0019】
本発明において、攪拌工程に供される前記リグニン含有量が0〜5重量%である植物由来の繊維の集合体は、該植物繊維の断片(植物細胞の一部が切断されたもの)を含んでいてもよい。
【0020】
植物由来の繊維集合体としては、竹、ケナフ、ヤシ、針葉樹、広葉樹等の粉末又はチップ(木粉、木材チップ等)を好適に使用できる。木粉、木材チップは、広葉樹、針葉樹の幹や枝から調達することが好ましい。本発明において、植物由来の繊維集合体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0021】
本発明の攪拌工程に供される植物由来の繊維集合体の大きさ、形状等は本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、該繊維集合体の原料は、通常、植物繊維細胞、植物繊維細胞断片又はそれらの集合体として、粉末状、繊維状、フレーク状、チップ状の集合形態で提供される。よって、本発明の攪拌工程に供される植物由来の繊維集合体の形状は例えば、長径が3mm以下、20μm以上のものが好適である。
【0022】
攪拌工程に供される植物由来の繊維集合体の長径が大きすぎると、その後の攪拌による解繊の効率が低下する可能性がある。また、植物由来の繊維集合体の長径が小さすぎると、攪拌のエネルギーが伝わりにくく、解繊自体が不十分になる可能性がある。植物由来の繊維集合体に含まれる繊維束の本数及び短径は特に限定されない。
【0023】
攪拌工程に供される植物由来の繊維集合体の長径の上限は、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下、最も好ましくは1.5mm以下である。また、該植物由来の繊維集合体の長径の下限は、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上、最も好ましくは100μm以上である。
【0024】
また、該植物由来の繊維集合体のアスペクト比(長径と短径の比)は、大き過ぎると攪拌中に適当な長さに切断されてからナノファイバーの解繊が始まるため、解繊効率が低下するのであまり好ましくない。アスペクト比は、通常1〜200程度、好ましくは10〜200程度、より好ましくは50〜200程度である。
【0025】
本発明において、木粉の長径、アスペクト比(長径/短径比)は、次のようにして求められる。
【0026】
長径は試料を顕微鏡観察することにより測定される。同様に短径を測定し、その結果から、長径/短径比を計算する。また、短径は所定の大きさのメッシュを通すことにより、測定することもできる。凝集により、木粉サイズの測定が困難な場合は、乾燥することにより対処することができる。
【0027】
リグニン除去工程
本発明において原料として使用される自然界から得られる植物由来の繊維集合体は、数多くの化学成分から成り立っているが、セルロース、ヘミセルロース、リグニンは主要化学成分と呼ばれ、例えば、樹木の幹成分ではこれらが全成分の約95%を占める。該植物由来の繊維集合体には、リグニンが通常0〜30重量%程度含まれており、骨格として存在しているセルロースナノファイバーを接着・補強している。
【0028】
本発明においては、自然界から得られる植物由来の繊維集合体を従来公知のリグニン除去工程に供することにより、植物由来の繊維集合体中のリグニン量を、通常0〜5重量%程度、好ましくは0〜3重量%程度、より好ましくは0〜1重量%程度とする。ただし、リグニン量が0〜5重量%程度と少量である植物由来の繊維集合体を攪拌処理に供する場合は、リグニン除去工程を行わなくとも解繊が可能である。なお、本発明において、使用される植物由来の繊維集合体中のリグニン量は、乾燥固形分量である。
【0029】
リグニン除去工程は、従来公知の方法を採用することができ、例えば、植物由来の繊維集合体を酸で処理する方法が挙げられる。リグニン除去に使用される酸としては、特に亜塩素酸ナトリウム水溶液が好適に用いられる。
【0030】
リグニン除去工程は、亜塩素酸ナトリウムと酢酸を用いるWise法が、操作が簡単で大量の植物由来の繊維集合体に対しても適応できるという利点があり好ましい。
【0031】
Wise法によるリグニンの除去は、脱脂した植物由来の繊維集合体1gを蒸留水60ml、亜塩素酸ナトリウム0.4g、氷酢酸0.08mlの溶液中に入れ、70〜80℃の湯浴中で時折撹拌しながら1時間、加温する。1時間後、冷却することなく亜塩素酸ナトリウム0.4g、氷酢酸0.08mlを加えて反復処理をする。この操作を針葉樹の場合は通常計4回以上、広葉樹の場合は通常計3回以上行う。
【0032】
なお、上記の各試薬濃度や添加量、処理濃度、処理時間は一例であって、何らこれに限定されない。
【0033】
その他のリグニン除去方法としては例えば、パルプ製造工程で採用される塩素処理とアルカリ抽出による多段処理や、二酸化塩素漂白、アルカリ存在下での酸素による漂白等がある。しかし、塩素処理はセルロースの重合度低下を引き起こすので避けることが望ましい。
【0034】
リグニン除去処理後に、植物由来の繊維集合体をそのまま後述の攪拌工程に供してもよいが、上記特定量のリグニンを含む(又はリグニンを全く含まない)植物由来の繊維集合体を冷水及びアセトン(アセトンの代りにエタノール、メタノールでも良い)で順次洗浄する洗浄工程を設けても良い。この洗浄により、水分や残留薬剤、残渣等を除去することができる。また、リグニン除去後に必要に応じて乾燥処理を施してもよい。
【0035】
本発明において、リグニン量は以下の方法により定量した。
【0036】
リグニンの定量方法
硫酸法により、次のようにして測定した。秤量びん及びガラスフィルターを秤量しておく(ガラスフィルター及び秤量びんの合計重量:Mg)。精秤した約1gの試料(試料重量:Mr)を100mlビーカーに移し、約20℃の72%硫酸15mlを加え、よく撹拌した後、20℃で4時間放置する。これを、1000ml三角フラスコに、蒸留水560mlを用いて洗い移し、還流冷却管をつけて、4時間沸騰させる。放冷後内容物をガラスフィルターで吸引ろ過後、500ml熱水で洗浄する。ガラスフィルターを秤量びんに移し、105℃で恒量になるまで乾燥し秤量する(測定重量:Mn)。リグニン含有量は下記式で求められる。
【0037】
リグニン含有量(重量%)=(Mn−Mg)/Mr ×100
本発明においては、攪拌処理に供される植物由来の繊維集合体中に含まれるヘミセルロースの含有量は特に限定されない。ヘミセルロースを植物由来の繊維集合体から除去する場合は、後述の攪拌工程の前に以下のヘミセルロース除去工程を設けても良い。
【0038】
ヘミセルロース除去工程
本発明の製造方法において、ヘミセルロース除去工程を有する場合は、植物由来の繊維集合体をアルカリに浸漬する工程であることが好ましく、このアルカリとしては、水酸化カリウム水溶液が好適に用いられる。
【0039】
ヘミセルロースの除去に用いるアルカリは強過ぎるとセルロースの結晶を溶解ないし変質させてしまい、弱すぎるとヘミセルロースの除去効果が得られないため、水酸化カリウム水溶液であれば3〜10重量%、特に5〜8重量%程度の濃度のものを用いるのが好ましい。
【0040】
なお、低濃度であれば水酸化ナトリウム水溶液も使用可能であるが、水酸化ナトリウムの方が水酸化カリウムよりもセルロース結晶を変質させ易いので、好ましくは水酸化カリウム水溶液を用いる。
【0041】
浸漬時間は、アルカリの濃度にもよるが、例えば5重量%の水酸化カリウム水溶液であれば、室温で1晩浸漬することによりヘミセルロースの除去が可能である。
【0042】
ヘミセルロース除去工程を有する場合、ヘミセルロース除去工程後に水洗工程を設けても良い。ヘミセルロース除去工程後の水洗工程は、例えば、アルカリに浸漬した植物由来の繊維集合体を吸引ろ過で回収し、吸引しながら水洗を行うことにより実施される。このときの水洗に使用される水の量は植物由来の繊維集合体が中和される量であれば良く、例えば10gの植物由来の繊維集合体に対して、2L以上の水が用いられる。
【0043】
本発明において、ヘミセルロース量は以下の方法により定量した。
【0044】
ヘミセルロースの定量方法
以下の手順で行った。精秤した試料約1gを200ml容ビーカーに入れ(試料重量:Mh)、20℃の17.5重量%水酸化ナトリウム溶液25mlを加え、試料を均一に湿潤させて4分間放置後、5分間ガラス棒で試料を押しつぶし、十分に解離させてアルカリ液の吸収を均一にする。ビーカーを時計皿で蓋をし、放置する。以上の操作は20℃の恒温水槽中で行う。
【0045】
水酸化ナトリウム水溶液を加えてから30分後、ガラス棒でかき混ぜながら20℃の蒸留水を注加する。引き続き1分間かき混ぜた後、20℃の恒温水槽中に5分間放置し、秤量したガラスフィルターで吸引ろ過する。ろ液は元に返して再ろ過(ろ過処理は5分以内に完了すること)し、ガラス棒で圧搾しながら5分以内に蒸留水で洗浄する。なお、洗浄の終点はフェノールフタレイン中性とする。洗浄した残渣に10重量%酢酸40mlを注ぎ、5分間放置後に吸引し、蒸留水1Lで洗浄する。105℃で恒量になるまで乾燥し秤量する(測定値:Mz)。ヘミセルロース含有量は下記式で求められる。
【0046】
ヘミセルロース含有量(重量%)=(Mh−Mz)/Mh ×100
攪拌工程
本発明の攪拌工程においては、上記のようにして特定量のリグニンを含む(又はリグニンを全く含まない)植物由来の繊維集合体と液体物質の混合物を攪拌する。
【0047】
液体物質は、植物由来の繊維集合体に化学変性を生じさせず、該繊維集合体と混合・攪拌することにより、懸濁液となるものであれば特に限定されない。すなわち、本発明において、液体物質は、植物由来の繊維集合体の攪拌による熱を吸収し、該繊維集合体が解れてセルロースナノファイバーが分散する場を提供する物質であれば特に限定されず、通常の攪拌環境であれば、−100℃〜200℃程度の間のいずれかの温度で液体状態となる物質であれば使用できる。
【0048】
植物由来の繊維集合体と共に攪拌される液体物質としては、例えば、水、炭素数2〜10のハロゲン化炭化水素、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜20の炭化水素、超臨界状態の二酸化炭素等が挙げられる。水は、水道水、純水、蒸留水、イオン交換水等が使用できる。
【0049】
炭素数2〜10のハロゲン化炭化水素としては、クロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、ジクロロエタン等が挙げられる。
【0050】
ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜20の炭化水素のヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子が挙げられる。ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜20の炭化水素としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラヒドロフラン、アセトン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ピリジン等が挙げられる。液体物質は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0051】
本発明の攪拌工程においては、攪拌装置の攪拌速度を通常1000〜50000rpm程度、好ましくは10000〜50000rpm程度、より好ましくは20000〜40000rpm程度とする。
【0052】
攪拌装置は、特に限定されず、市販のブレンダー、ミキサー等を使用することもできる。市販のブレンダーとしては、例えば、Vita-Mix(R)社製のABS-V等が使用でき、家庭用ミキサーも使用できる。
【0053】
攪拌時間は、植物由来の繊維集合体が目的とする程度にまで解繊されれば特に限定されないが、通常10秒間〜60時間程度、好ましくは30秒間〜10時間程度、より好ましくは1分間〜1時間程度である。攪拌速度が大きければ、短時間で植物由来の繊維集合体を解繊することができ、攪拌速度が小さくなると、植物由来の繊維集合体の解繊に必要な時間が長くなる。
【0054】
攪拌温度は、攪拌速度、液体物質の種類等によって変化し、−100℃〜200℃程度であればよい。
【0055】
植物由来の繊維集合体と液体物質の混合物(スラリー、懸濁液)中の該繊維集合体の量(濃度)は、通常0.1〜20重量%程度、好ましくは0.2〜10重量%程度、より好ましくは0.2〜5重量%程度である。
【0056】
0.1重量%を下回ると、攪拌による前記繊維集合体同士の衝突頻度が下がり、解繊がうまく進まず、20重量%を上回ると、粘度が上がりすぎて連続的な攪拌運動ができず効率よく解繊されない。
【0057】
本発明の攪拌工程においては、植物由来の繊維集合体と前記液体物質に加えて、適当な酸又はアルカリを加えてpHを調整してもよい。pHを調整する場合、植物由来の繊維集合体、前記液体物質の混合物のpHは通常2〜10程度、好ましくは3〜10程度、より好ましくは3〜8程度である。
【0058】
前記の通り、植物の細胞壁は、繊維構造の違いから主に一次壁と二次壁に分けられ、細胞壁同士は最外層の中葉で接着している。一次壁は細胞が分裂してすぐにできる細胞壁であり、樹木の放射・接線方向に対する細胞のふくらみを制御するように形成され、細胞の拡大・成長に伴って細胞壁をある程度引き延ばすことができる。一次壁中ではセルロースナノファイバーはランダムに配向し、ファイバー同士の接点が少ないため比較的結合力が弱い。一方、二次壁は、拡大・成長が終わった細胞において、一次壁の内側に形成される細胞壁である。一次壁に比べて層が非常に厚く、細胞長方向に対してセルロースナノファイバーの多くが配向し、ファイバー同士が同方向に密着して互いに水素結合するため、強固で可塑性が低く単繊維を分離しにくい構造を持つ。
【0059】
本発明の製造方法によれば、特定量のリグニンを含む(又はリグニンを全く含まない)植物由来の繊維集合体を液体物質中で攪拌することにより、比較的解れやすい一次壁だけでなく、グラインダー等で強い外力を与える方法、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル)酸化等で化学変性を起こす等して解繊していた、強固な二次壁をも効率的に解することができ、10〜50nm(例えば、木材であれば、10〜20nm程度、稲ワラやポテトパルプであれば、20〜50nm程度)という植物細胞壁中における基本エレメントサイズまで解繊された、均一かつ損傷の少ない無変性のセルロースナノファイバーを得ることができる。
【0060】
本発明においては、リファイナー処理等の前処理を行ってもよいが、このような処理を行わなくても、一次壁だけでなく二次壁をも効率的に解すことができる。また、前記の通り、本発明の製造方法においては、グラインダー等による処理、TEMPO酸化のような解繊促進のための化学処理を施す必要がないため、繊維の損傷が極めて小さく、非特許文献4に開示されているような化学変性したセルロースナノファイバーとは異なる無変性のセルロースナノファイバーを得ることができる。
【0061】
本発明においては、攪拌工程の前に、リグニン量が前記特定量である(又はリグニンを全く含まない)植物由来の繊維集合体に酵素処理を施してもよい。酵素処理を行うことにより、セルロース間の相互作用が低下し、攪拌による解繊がより効率的に進行する。
【0062】
植物由来の繊維集合体の酵素処理は、従来公知の方法で処理すればよい。例えば、M. Paakko et al. Biomacromolecules 2007, 8, 1934-1941に記載の方法で酵素処理を行えばよい。具体例としては、エンドグルカナーゼを有するセルラーゼ全般やヘミセルロースを切断するヘミセルラーゼ全般を用いることが可能で、植物由来の繊維集合体と液体物質のスラリーに酵素を適当な濃度に混合して最適pHと温度を制御し、時折かき混ぜながら数時間処理することにより、ファイバー間結合力が弱められ解繊の補助的効果が得られる。
【0063】
また、本発明においては、攪拌工程の前に、リグニン量が前記特定量である(又はリグニンを全く含まない)植物由来の繊維集合体に化学処理を施してもよい。植物由来の繊維集合体に化学処理を行うことにより、セルロースナノファイバーに耐朽性、疎水性等の機能を効率的に付与できる。
【0064】
前記繊維集合体の化学処理は、従来種々の方法が知られており、例えば、アセチル化、プロピオニル化、ブチリル化、ラウロイル化、ステアロイル化、ベンゾイル化等のアシル化やシアノエチル化、オリゴエステル化、ベンジル化、シランカップリング処理等が挙げられる。これらの化学処理を単独、あるいは複数組み合わせて処理しても良い。また、化学処理と酵素処理は併用しても良い。該化学処理は、例えば、「セルロースの事典」(セルロース学会編、朝倉書店)に記載の方法を採用することができる。すなわち、本発明においては、このような人工的な化学処理を施された植物由来の繊維集合体を使用することができ、これらに前記攪拌処理を施した場合にも、新しい機能を付与した均一なセルロースナノファイバーを効率的に得ることができる。
【0065】
なお、セルロースナノファイバーの損傷を最小限に止めるためには、攪拌処理に供する植物由来の繊維集合体に化学処理を施さないことが好ましいが、化学処理を施した場合にも、前記攪拌処理による本発明の優れた解繊効果が奏される。
【0066】
さらに、本発明においては、攪拌処理と超音波処理とを併用しても良い。すなわち、攪拌工程の前、攪拌と同時に、又は攪拌の後の任意のタイミングで、植物由来の繊維集合体と液体物質の混合物に超音波処理を施しても良い。超音波処理を施すことにより、植物由来の繊維集合体が攪拌によってより解れやすくなる。
【0067】
本発明の攪拌工程を行った後及び/又は同時に、得られた懸濁液をろ過、遠心分離等の処理に供してもよい。これらの操作を施すことにより、繊維幅の均一性のより高いセルロースナノファイバーを得ることができる。例えば、ろ過を行う場合、市販の金属メッシュ等を使用することができる。本発明によれば、攪拌工程を行った後及び/又は同時に、得られた懸濁液をそのままろ過、遠心分離等の処理に供することができるので、繊維幅の均一性の極めて高いセルロースナノファイバーを連続的に得ることができ、工業的にも非常に優れている。
【0068】
本発明の製造方法は、グラインダーや他の技術のような極端に大きな外力を植物由来の繊維集合体に加えていない。従って、本発明によれば、損傷が非常に少なく、解繊を行っていないパルプとほぼ同程度の相対結晶化度を有するセルロースナノファイバーを得ることができる。相対結晶化度は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0069】
また、本発明の製造方法によれば、植物細胞壁中における基本エレメントであるセルロースナノファイバーを、繊維幅の均一性が極めて高く(幅10〜50nm程度)、かつ、損傷が少ないものとして得ることができる。よって、得られるセルロースナノファイバーに樹脂等を含浸させた場合、非常に透明性の高い材料を得ることができる。本発明の製造方法によって得られるセルロースナノファイバーの性状は、例えば後述の実施例のように、樹脂含浸シートや水懸濁液の透明性によって評価することが可能である。
【発明の効果】
【0070】
本発明の製造方法によれば、特定量のリグニンを有する(又はリグニンを全く含まない)植物由来の繊維集合体を液体物質中で攪拌することにより、繊維幅の均一性が高いセルロースナノファイバーを効率的に得ることができる。本発明の製造方法は、グラインダー処理のように植物由来の繊維集合体に大きな外力を加えないので、得られるセルロースナノファイバーの損傷が非常に少ない。また、TEMPO酸化処理のように、セルロースナノファイバーを化学変性させることは必須ではないので、無変性のセルロースナノファイバーを得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例1及び比較例1におけるセルロースナノファイバーのFE−SEM画像
【図2】実施例1におけるセルロースナノファイバーのFE−SEM画像(図1におけるブレンダー1分間の拡大図)
【図3】実施例2及び比較例2における各水懸濁液の透過率を示すグラフ
【図4】実施例3及び比較例3における各シートの平行光線透過率を示すグラフ
【図5】実施例4及び比較例4における各シートのX線回折、相対結晶化度測定結果
【図6】実施例5におけるセルロースナノファイバー(酵素処理)のFE−SEM画像
【図7】実施例8における各シートの平行光線透過率を示すグラフ
【図8】実施例9におけるセルロースナノファイバー(メッシュ上)のFE−SEM画像
【図9】実施例9におけるセルロースナノファイバー(ろ液中)のFE−SEM画像
【図10】実施例10におけるシートの平行光線透過率を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
実施例1(セルロースナノファイバーの調製)
スギ由来の木粉(JIS・Z8801-1標準ふるいにおける30mesh(500μm)〜60mesh(250μm)、アスペクト比1〜100の粒径)50gを、蒸留水1500ml、亜塩素酸ナトリウム15g、酢酸3mlの溶液中に入れ、80-90℃の湯浴中で時折攪拌しながら1時間加温した。一時間後、冷却することなく亜塩素酸ナトリウム15g、酢酸3mlを加えさらに1時間加温した。これら一連の処理を5〜8回反復して行った。その後、冷水約5Lで洗浄した。この操作で木粉中のリグニンを除去した精製木粉(ホロセルロースパルプ リグニン量0.1%)を製造した。次に、得られた精製木粉を以下の条件でブレンダー攪拌処理に供した。
【0074】
<ブレンダー攪拌処理>
使用モーター機種名: Vita Mix(R) Corp. ABS-BU
使用ボトル名:WARING(R) CAC90B X-TREME用2Lステンレス容器
使用タンパー:Vita Mix(R) Corp. ABS-V用プラスチック製タンパー PN-D2
※タンパーとは、ミキシング中に泡が発生するのを防ぎ適正回転を維持するために、ボトルのふたの中央から差し込む、プラスチック製の円筒型攪拌補助棒である。高速攪拌中に起きる溶媒の激しい対流が空気を取り込み、攪拌が連続しなくなることを防ぐ。
攪拌回転数:37000rpm
攪拌容量:1L
温度:30〜80℃
ブレンダー攪拌処理に供する精製木粉の最低水分含有量は、100重量%以上に保った。精製木粉を0.7重量%のパルプ水懸濁液に調整した。懸濁液1Lをブレンダー容器に投入し、タンパーを挿入し、上記の条件で攪拌処理を行った。攪拌時間は、それぞれ、0分、1分、3分、5分、10分、30分、60分間の7条件とした。
【0075】
各時間の攪拌を経た懸濁液を、エタノールに溶媒置換した後、105℃オーブン中で全乾し、オートファインコーター(JFC-1600)によりPtをコーティングし、FE-SEM(JEOL 6700F)で観察した。
【0076】
ブレンダーによる攪拌処理を経て得られたセルロースナノファイバーのFE−SEM画像を図1に示す。また、ブレンダーで1分間攪拌して得られたセルロースナノファイバーのFE−SEM画像の拡大図を図2に示す。
【0077】
FE−SEM画像から、攪拌時間が長くなるにつれて、パルプがより均一に解れたセルロースナノファイバーが得られることが分かる。驚くべきことに、パルプを水中において僅か1分間ブレンダーで攪拌するだけでも、パルプがかなり均一に解れており、幅約15nmのセルロースナノファイバーが得られた。また、ブレンダー攪拌によって得られたセルロースナノファイバーには、高圧ホモジナイザー処理やマイクロフリュイダイザー処理に見られるような部分的に毛羽だった状態のパルプ繊維が少なかった。
【0078】
比較例1(グラインダー処理)
実施例1で得られた精製木粉を水と混合し、0.7重量%のパルプ水懸濁液を調製し、これにグラインダー処理を1回施して懸濁液を得た。グラインダー処理の方法は以下の通りである。
【0079】
<グラインダー処理>
使用機種名:(株)増幸産業「セレンディピター」型式MKCA6−3
砥石のグレード:MKG−C 80#
砥石直径:15cm
砥石間距離:砥石を十分に押し付けたところから、200μm砥石を浮かせた。砥石表面の凹凸を平均した面間の間隔は200μmであった。
回転速度:1500rpm
1回の滞留時間:繊維含有率1%の懸濁液1Lで15分
温度:50〜60℃
実施例1と同様にして、グラインダー処理を施して得られた懸濁液を、エタノールに溶媒置換した後、105℃オーブン中で全乾し、オートファインコーター(JFC-1600)によりPtをコーティングし、FE-SEM(JEOL 6700F)で観察した。
【0080】
グラインダーによる解繊処理を経て得られたセルロースナノファイバーのFE−SEM画像を図1に示す。
【0081】
実施例2(水懸濁液の透明性評価)
実施例1で得られた各水懸濁液に蒸留水を加えて、セルロースナノファイバーの含有量が0.1重量%となるように調整した。これらの水懸濁液の透明性を、セル長10mmのPPセルを用いて計測した。
【0082】
<水懸濁液の透明性の測定条件>
日立ハイテクノロジーズ社製「UV−2910形分光光度計」(液体試料測定システム)を使用。
6mm×6mmの光源マスク使用
光源:ヨウ素タングステンランプ
測定波長:600nm
セル長:10mm
セル材質:ポリプロピレン製
リファレンスサンプル;セルに蒸留水を満たしたものを対照試料とした。
【0083】
測定結果を図3に示す。図3から、水中でのブレンダー攪拌時間が長くなるにつれて、セルロースナノファイバー水懸濁液の透明性が上昇することが分かる。
【0084】
比較例2(水懸濁液の透明性評価)
比較例1のグラインダー処理により得られた懸濁液に蒸留水を加えて、実施例2と同様にして水懸濁液の透明性を評価した。測定結果を図3に示す。図3から、グラインダーで強力に機械解繊して得られたセルロースナノファイバーを使用した場合と、実施例2のようにブレンダーで60分間攪拌して得られたセルロースナノファイバーを使用した場合とでは、同等の透明性が得られることが分かる。
【0085】
実施例3(シートの透明性評価)
実施例1で得られた各懸濁液を繊維含有率0.2重量%の懸濁液に調整し、ろ過して水分を除去し、シート状とした。さらに2kg/cm2で15分、110℃にてホットプレスして水を完全に除去し、厚さ50μm、空隙率4-20%の乾燥シートを得た。得られた各乾燥シートを、減圧下、光開始剤入りアクリル樹脂(TCDDMA:トリシクロデカンジメタクリレート)に浸漬させ4時間静置した。その後、ベルトコンベアー型のUV照射装置(フュージョンシステムズ製、Fusion F300 and LC6Bベンチトップコンベアー)を用い、樹脂を含浸させたシートに紫外線を照射して硬化させた。このときの総照射エネルギー量は20J/cm2であった。得られた各樹脂含浸シートの平行光線透過率を以下の条件にてそれぞれ測定した。なお、それぞれの樹脂含浸シートにおける樹脂の含浸率は、40〜50重量%、樹脂含浸前のシート厚さは54±3μm、樹脂含浸後のシート厚さは74±3μmであった。
【0086】
<平行光線透過率>
[測定装置]
日立ハイテクノロジーズ社製「UV−4100形分光度計」(固体試料測定システム)
を使用。
[測定条件]
・6mm×6mmの光源マスク使用。
・測定サンプルを積分球開口より22cm離れた位置において測光した。サンプルをこの位置に置くことで、拡散透過光は除去され、積分球内部の受光部に直線透過光のみが届く。
・リファレンスサンプルなし。リファレンス(試料と空気との屈折率差によって生じる反射。フレネル反射が生じる場合は、平行光線透過率100%ということはあり得ない。)がないため、フレネル反射による透過率のロスが生じている。
・光源:ヨウ素タングステンランプ
・試料厚さ:100μm
・測定波長:600nm
測定結果を図4に示す。図4から、精製木粉を水中で僅か1分間ブレンダー攪拌しただけでも、透明性の高いシートが得られることが分かる。また、ブレンダー攪拌時間が長くなるにつれて、セルロースナノファイバーを含浸させた樹脂シートの透明性が上昇することが分かる。
【0087】
比較例3(シートの透明性評価)
実施例3と同様にして、前記精製木粉、比較例1のグライダー処理により得られたセルロースナノファイバーをそれぞれシート状に成形し、樹脂(TCDDMA)を含浸させて樹脂含浸シートを得た。得られた各樹脂含浸シートの平行光線透過率を実施例3と同様の条件にてそれぞれ測定した。結果を図4に示す。
【0088】
図4から、グラインダーで強力に機械解繊して得られたセルロースナノファイバーを使用した場合と、ブレンダーで30分間又は60分間攪拌して得られたセルロースナノファイバーを使用した場合とでは、同等の透明性が得られることが分かる。
【0089】
実施例4(シートの相対結晶化度測定)
各シートのX線回折から、以下の条件により繊維の結晶化度、相対結晶化度を求めた。
【0090】
[繊維の結晶化度]
株式会社リガク製Ultra X 18HFを使用
ターゲット:Cu
加速電圧:30kV
電流:100mA
試料:実施例3で得られた乾燥シートを8〜10枚積層させ、若干含水させたのち再度ホットプレスをして密着させ、厚さを300〜400μmとした乾燥シートを試料とした。
測定角2θ:5〜40°
測定法:反射法
[相対結晶化度の測定]
繊維の結晶化度測定により得られた回折グラフから空気散乱を除去したのち、回折角10-30°の範囲において回折ピークをガウス関数でフィッティングして結晶領域と非晶領域を暫定的に分離して、その面積の積分値を算出して比率を求めた。また、チャートを複写した紙面において部分の重量を計測することで比率を求めた(文永堂出版、日本木材学会編、“木質科学実験マニュアル”参照)。測定結果を図5に示す。
【0091】
比較例4(シートの相対結晶化度測定)
実施例4と同様にして、精製木粉及び比較例3で得られた各シートのX線回折から、繊維の結晶化度、相対結晶化度を求めた。測定結果を図5に示す。
【0092】
図5の結果から、ブレンダーで攪拌して得られた各セルロースナノファイバーは、相対結晶化度がそれほど低下していないことが分かる。また、ブレンダーで攪拌して得られた各セルロースナノファイバーは、グラインダーによる解繊処理に比して繊維の損傷が少ないことも分かる。
【0093】
実施例5(酵素処理及びシートの作製)
実施例1における脱リグニン処理の後に、精製木粉に酵素処理(ノボザイム処理)を施し、ブレンダーによる攪拌時間を5分間としたこと以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバーの水懸濁液を得た。酵素処理は以下の条件で行った。
【0094】
<酵素処理>
実施例1で使用した前記精製木粉(ホロセルロースパルプ)を0.7重量%のパルプ水懸濁液1.5Lとし、酢酸及び酢酸ナトリウムの緩衝溶液を0.1Mol/Lになるよう加えpHを5.5に調整した。ノボザイム社製の酵素NS50013(cellulase complex)をパルプ乾燥重量に対して1重量%添加し、50℃の湯浴中で時折攪拌しながら3時間加温した。加温処理後、ろ過してパルプを回収し、90℃の熱湯に浸漬して酵素を失活させた。その後、冷水5Lで洗浄した。この操作で酵素処理を施した精製木粉を作製した。
【0095】
なお、セルラーゼはセルロースの分解特性の差異によって、エンド型グルカナーゼ(EG)とエキソ型グルカナーゼ(CBH)に大別できる。前者はセルロース鎖をランダムに切断する能力を有し、後者はセルロース鎖の末端からグルコースあるいはセロビオース単位で切断する。後者は厳密に処理するとセルロースを完全に分解し溶媒に可溶化してしまうため、エンド型グルカナーゼ(EG)が好ましい。
【0096】
次に、酵素処理を施した精製木粉を、実施例1と同様の条件でブレンダー攪拌処理(10分間)に供した。得られた水懸濁液を、エタノールに溶媒置換した後、105℃オーブン中で全乾し、オートファインコーター(JFC-1600)でPtをコーティングしFE-SEM(JEOL 6700F)により観察した。FE−SEM画像を図6に示す。図6から、酵素処理を行った場合にも、高圧ホモジナイザー処理やマイクロフリュイダイザー処理に見られるような部分的な解繊が生じたと思われる毛羽立った状態のパルプ繊維は少ないことがわかる。
【0097】
さらに、実施例5で得られたセルロースナノファイバーを実施例3と同様にして樹脂含浸シートとした。
【0098】
実施例6(シートの作製)
実施例1におけるスギ木粉(アスペクト比1〜100程度、直径250〜500μm程度 30〜60mesh)の代わりに、スギ5mm角チップを使用し、ブレンダーによる解繊時間を6分間としたこと以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバーを得た。得られたセルロースナノファイバーを実施例3と同様にして樹脂含浸シートとした。
【0099】
実施例7(シートの作製)
実施例1におけるスギ木粉(アスペクト比1〜100程度、直径250〜500μm程度 30〜60mesh)の代わりに、スギ木粉(アスペクト比1〜10程度、直径20〜40μm程度 200〜390mesh)を使用し、水懸濁液中のパルプの量を0.8重量%とし、ブレンダーによる攪拌時間を10分間としたこと以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバーを得た。得られたセルロースナノファイバーを実施例3と同様にして樹脂含浸シートとした。
【0100】
実施例8(平行光線透過率の測定)
実施例5〜7で得られた樹脂含浸シートの平行光線透過率を実施例3と同様にして測定した。結果を図7に示す。図7には、実施例3における5分間の攪拌処理を施して得られた樹脂含浸シートの平行光線透過率も併記した。図7から、ブレンダーで攪拌する前に酵素処理を行った場合、酵素処理を行わない場合に比してより透過率の高い樹脂含浸シートが得られた。これは、酵素処理を施した方が、より早く解繊が進んだからであると考えられる。また、木粉だけでなく、角チップを使用した場合にも、ブレンダーによる攪拌によって均一なセルロースナノファイバーが得られ、透明性の高い樹脂含浸シートが得られることが分かる。
【0101】
実施例9(水懸濁液のろ過)
実施例1において撹拌処理を10分間経た懸濁液を蒸留水で0.1%濃度に希釈し、JIS規格100メッシュ及び300メッシュの金属製網で懸濁液をろ過して、網上の残渣と網下の懸濁液(ろ液)を得た。具体的には、100メッシュでのろ過を5回行った後、300メッシュでのろ過を1回行った。
【0102】
ろ液と網上残渣について、実施例1と同様にしてエタノールに溶媒置換し、105℃のオーブンで全乾したのち、PtをコーティングしFE-SEMで観察した。
【0103】
FE-SEM写真を図8、9に示す。図8から、金属メッシュを通過したセルロースナノファイバーは極めて均一性が高いことが分かる。また、図9より、メッシュサイズに相当した解繊残りが除去されていることがわかる。このことからブレンダーにより解繊したナノファイバーはパルプから完全に分離されていることが示唆され、解繊途中でもナノファイバーだけを精製することが可能である。
【0104】
実施例10(シートの作製及び平行光線透過率の測定)
実施例9で得られた網下懸濁液(ろ液)から、実施例3と同様にして樹脂含浸シートを作製し、平行光線透過率を測定した。ろ過処理を経て得られた樹脂含浸シートとろ過処理を行わなかった樹脂含浸シートの平行透過率の比較を図10に示す。図10から、金属網でろ過した後のスラリーから作製した樹脂含浸シートの透過率は、ろ過を行わなかった場合に比して上昇した。本発明における攪拌過程で生じた解繊残りのマイクロエレメントは、適宜除去することができ、セルロースナノファイバーの幅均一性をさらに上昇させることが可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバーは、すべての植物の基本骨格物質(基本エレメント)であり、植物の細胞壁の中では、幅4nm程のセルロースミクロフィブリルが数本集まり束となった、幅10〜50nm程度のセルロースナノファイバーとして存在している。セルロースナノファイバーの幅は、植物によって分布が異なり、例えば、木材の場合は10〜20nm程度と比較的狭いが、シュガービートパルプ、ポテトパルプ、稲ワラ、オオカナダモ等の場合は、20〜50nm程度の範囲に分布する。
【0003】
セルロースナノファイバーは、軽量で、鋼鉄の5倍以上の強度、石英ガラス相当の低線熱膨張を有していることから、持続型植物資源から得られる高性能ナノファイバーとして、その製造と利用について多くの研究が行われている。
【0004】
植物の細胞壁は、繊維構造の違いから主に一次壁と二次壁に分けられ、細胞壁同士は最外層の中葉で接着している。一次壁は細胞が分裂してすぐにできる細胞壁であり、樹木の放射・接線方向に対する細胞のふくらみを制御するように形成され、細胞の拡大・成長に伴って細胞壁をある程度引き延ばすことができる。一次壁中ではセルロースナノファイバーはランダムに配向し、ファイバー同士の結合力が比較的弱い。一方、二次壁は、拡大・成長が終わった細胞において、一次壁の内側に形成される細胞壁である。一次壁に比べて層が非常に厚く、二次壁中層では細胞長軸に対してセルロースナノファイバーが配向し、ファイバー同士が同方向に密着して互いに水素結合するため、強固で可塑性が低く単繊維が分離しにくい構造を持つ。
【0005】
従来、麻、木材等の植物由来の繊維集合体からセルロースナノファイバーを抽出(取り出す)方法として、リグニンやヘミセルロースを除去した植物繊維パルプ、木材パルプをリファイナーで処理して細胞壁を横方向に数回切断した後、二軸混練機で混練処理して強固な二次壁を解繊する方法が存在する。しかしながら、この方法では、繊維の幅が10nm〜5μm程度のセルロース繊維の混合物が得られ、繊維幅が均一に揃ったセルロースナノファイバーを得ることはできない。
【0006】
また、パルプスラリーを狭い空隙に押し込み圧力の解放で解繊を進める高圧ホモジナイザーやマイクロフリュイダイザーといった方法も存在する(非特許文献1及び2)が、解繊を進めるためには、何回も処理を繰り返す必要がある。さらに、これらの方法では、狭い間隙にパルプスラリーを押し込み解繊するため、ナノファイバーが所々で折れて繊維が損傷したり、機械の間隙が詰まって連続的な製造が難しい等の欠点がある。
【0007】
さらに、パルプスラリーを高速で対向衝突させてナノファイバー化するカウンターコリジョン法がある。しかしながら、この方法によっても、幅10〜50nmという均一なセルロースナノファイバーは得られず、また、高圧ホモジナイザー法と同様に何度も繰り返し処理を行う必要があり、生産効率に劣る。
【0008】
一方、回転する砥石間でパルプを磨砕するグラインダー法は、木材から一次壁切断等の前処理を行うことなく、直接的に幅10〜20nmのセルロースナノファイバーが得られることが知られている(非特許文献3)。しかしながら、この方法では、砥石を接触させながら処理するために、削れた砥石成分が、ナノファイバースラリーに混ざってしまうことがあり、高純度のナノファイバーが得られにくい。また、グラインダー法による処理は、パルプ表面に強い外力を加えるため、セルロースナノファイバーが損傷を受けやすい。
【0009】
この様に、機械的な処理によって、不純物が無く、かつ、損傷が極めて少ないセルロースナノファイバーを高効率で製造する手法は未だ見出されていない。
【0010】
一方、セルロース表面にカルボキシル基を選択的に導入するTEMPO酸化により、セルロースナノファイバー間の相互作用を大きく低下させると、パルプスラリーをブレンダーで撹拌するだけで、4nm程度に幅の揃ったセルロースナノファイバーが得られる方法が存在する(非特許文献4)。しかしながら、本方法では、セルロース表面にカルボキシル基を導入する必要があり、化学変性していないセルロースナノファイバーを得ることはできない。さらに、パルプを高濃度の硫酸等の強酸で処理し、撹拌で解繊を行う方法があるが、強酸処理によってセルロースナノファイバーは著しい低分子化を生じ、繊維形態を保つことができない。
【0011】
この様なことから、異物が混入しておらず、幅10〜50nmという、植物細胞壁中の基本エレメントの状態まで解繊された、均一かつ損傷の少ないセルロースナノファイバーを、高効率で製造する技術の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Enzymatic Hydrolysis Combined with Mechanical Shearing and High-Pressure Homogenization for Nanoscale Cellulose Fibrils and Strong Gels: Biomacromolecules, 2007, 8 (6), 1934-1941
【非特許文献2】Cellulose Fibrils for Polymer Reinforcement: ADVANCED ENGINIEERING MATERIALS 2004, 6, No. 9, 755-761
【非特許文献3】Obtaining Cellulose Nanofibers with a Uniform Width of 15 nm from Wood: Biomacromolecules 2007, 8, 3276-3278
【非特許文献4】Homogeneous Suspensions of Individualized Microfibrils from TEMPO-Catalyzed Oxidation of Native Cellulose: Biomacromolecules, 2006, 7 (6), 1687-1691
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
セルロースナノファイバーの新規な製造方法を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、リグニンを全く含まない又は特定量のリグニンを含む植物由来の繊維集合体を、液体物質中で撹拌することにより、驚くべきことに、10〜50nmという植物細胞壁中における基本エレメントまで解繊された、均一かつ損傷の少ないセルロースナノファイバーが効率的に得られることを見出した。本発明は、この様な知見に基づき、さらに鋭意検討して完成されたものである。すなわち、本発明は下記項1〜12に示すセルロースナノファイバーの製造方法を提供する。
【0015】
項1. リグニン含有量が0〜5重量%である植物由来の繊維集合体と液体物質との混合物を攪拌するセルロースナノファイバーの製造方法。
項2. セルロースナノファイバーの幅が10〜50nmである項1に記載の製造方法。
項3. 攪拌装置の攪拌速度を1000〜50000rpmにして攪拌する項1又は2に記載の製造方法。
項4. 前記混合物中の植物由来の繊維集合体の濃度が0.1〜20重量%である項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
項5. 前記植物由来の繊維集合体の長径が1μm〜10mm、アスペクト比が1〜200である項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
項6. 前記植物由来の繊維集合体が、植物由来の繊維集合体の粉体及び/又はチップを酸で処理して得られたものである項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
項7. 液体物質が、水、炭素数2〜10のハロゲン化炭化水素、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜20の炭化水素、超臨界状態の二酸化炭素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
項8. 超音波処理を併用する項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
項9. 前記攪拌の後又は同時に、遠心分離及び/又はろ過工程を有する項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
項10. 前記植物由来の繊維集合体が酵素処理されたものである項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
項11. 前記植物由来の繊維集合体が化学処理されたものである項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
項12. (1)植物由来の繊維集合体の粉体及び/又はチップを酸で処理してリグニン含有量が0〜5重量%である植物由来の繊維集合体を得る工程、
(2)工程(1)で得られた植物由来の繊維集合体と液体物質の混合物を攪拌する工程
を有するセルロースナノファイバーの製造方法。
【0016】
以下、本願発明の製造方法について、詳述する。
【0017】
本発明のセルロースナノファイバーの製造方法は、リグニン含有量が0〜5重量%である植物由来の繊維集合体と液体物質の混合物を攪拌することを特徴とする。
【0018】
植物由来の繊維集合体
リグニン含有量が0〜5重量%である植物由来の繊維集合体は、麻、ジュート、木粉、木材チップ等の植物由来の繊維集合体を酸で処理する従来公知のリグニン除去工程により得られる。また、シュガービート、コットン、ポテトパルプ等のそもそもリグニンを含まない植物由来の繊維集合体については、リグニン除去工程を行わなくてもよい。
【0019】
本発明において、攪拌工程に供される前記リグニン含有量が0〜5重量%である植物由来の繊維の集合体は、該植物繊維の断片(植物細胞の一部が切断されたもの)を含んでいてもよい。
【0020】
植物由来の繊維集合体としては、竹、ケナフ、ヤシ、針葉樹、広葉樹等の粉末又はチップ(木粉、木材チップ等)を好適に使用できる。木粉、木材チップは、広葉樹、針葉樹の幹や枝から調達することが好ましい。本発明において、植物由来の繊維集合体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0021】
本発明の攪拌工程に供される植物由来の繊維集合体の大きさ、形状等は本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、該繊維集合体の原料は、通常、植物繊維細胞、植物繊維細胞断片又はそれらの集合体として、粉末状、繊維状、フレーク状、チップ状の集合形態で提供される。よって、本発明の攪拌工程に供される植物由来の繊維集合体の形状は例えば、長径が3mm以下、20μm以上のものが好適である。
【0022】
攪拌工程に供される植物由来の繊維集合体の長径が大きすぎると、その後の攪拌による解繊の効率が低下する可能性がある。また、植物由来の繊維集合体の長径が小さすぎると、攪拌のエネルギーが伝わりにくく、解繊自体が不十分になる可能性がある。植物由来の繊維集合体に含まれる繊維束の本数及び短径は特に限定されない。
【0023】
攪拌工程に供される植物由来の繊維集合体の長径の上限は、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下、最も好ましくは1.5mm以下である。また、該植物由来の繊維集合体の長径の下限は、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上、最も好ましくは100μm以上である。
【0024】
また、該植物由来の繊維集合体のアスペクト比(長径と短径の比)は、大き過ぎると攪拌中に適当な長さに切断されてからナノファイバーの解繊が始まるため、解繊効率が低下するのであまり好ましくない。アスペクト比は、通常1〜200程度、好ましくは10〜200程度、より好ましくは50〜200程度である。
【0025】
本発明において、木粉の長径、アスペクト比(長径/短径比)は、次のようにして求められる。
【0026】
長径は試料を顕微鏡観察することにより測定される。同様に短径を測定し、その結果から、長径/短径比を計算する。また、短径は所定の大きさのメッシュを通すことにより、測定することもできる。凝集により、木粉サイズの測定が困難な場合は、乾燥することにより対処することができる。
【0027】
リグニン除去工程
本発明において原料として使用される自然界から得られる植物由来の繊維集合体は、数多くの化学成分から成り立っているが、セルロース、ヘミセルロース、リグニンは主要化学成分と呼ばれ、例えば、樹木の幹成分ではこれらが全成分の約95%を占める。該植物由来の繊維集合体には、リグニンが通常0〜30重量%程度含まれており、骨格として存在しているセルロースナノファイバーを接着・補強している。
【0028】
本発明においては、自然界から得られる植物由来の繊維集合体を従来公知のリグニン除去工程に供することにより、植物由来の繊維集合体中のリグニン量を、通常0〜5重量%程度、好ましくは0〜3重量%程度、より好ましくは0〜1重量%程度とする。ただし、リグニン量が0〜5重量%程度と少量である植物由来の繊維集合体を攪拌処理に供する場合は、リグニン除去工程を行わなくとも解繊が可能である。なお、本発明において、使用される植物由来の繊維集合体中のリグニン量は、乾燥固形分量である。
【0029】
リグニン除去工程は、従来公知の方法を採用することができ、例えば、植物由来の繊維集合体を酸で処理する方法が挙げられる。リグニン除去に使用される酸としては、特に亜塩素酸ナトリウム水溶液が好適に用いられる。
【0030】
リグニン除去工程は、亜塩素酸ナトリウムと酢酸を用いるWise法が、操作が簡単で大量の植物由来の繊維集合体に対しても適応できるという利点があり好ましい。
【0031】
Wise法によるリグニンの除去は、脱脂した植物由来の繊維集合体1gを蒸留水60ml、亜塩素酸ナトリウム0.4g、氷酢酸0.08mlの溶液中に入れ、70〜80℃の湯浴中で時折撹拌しながら1時間、加温する。1時間後、冷却することなく亜塩素酸ナトリウム0.4g、氷酢酸0.08mlを加えて反復処理をする。この操作を針葉樹の場合は通常計4回以上、広葉樹の場合は通常計3回以上行う。
【0032】
なお、上記の各試薬濃度や添加量、処理濃度、処理時間は一例であって、何らこれに限定されない。
【0033】
その他のリグニン除去方法としては例えば、パルプ製造工程で採用される塩素処理とアルカリ抽出による多段処理や、二酸化塩素漂白、アルカリ存在下での酸素による漂白等がある。しかし、塩素処理はセルロースの重合度低下を引き起こすので避けることが望ましい。
【0034】
リグニン除去処理後に、植物由来の繊維集合体をそのまま後述の攪拌工程に供してもよいが、上記特定量のリグニンを含む(又はリグニンを全く含まない)植物由来の繊維集合体を冷水及びアセトン(アセトンの代りにエタノール、メタノールでも良い)で順次洗浄する洗浄工程を設けても良い。この洗浄により、水分や残留薬剤、残渣等を除去することができる。また、リグニン除去後に必要に応じて乾燥処理を施してもよい。
【0035】
本発明において、リグニン量は以下の方法により定量した。
【0036】
リグニンの定量方法
硫酸法により、次のようにして測定した。秤量びん及びガラスフィルターを秤量しておく(ガラスフィルター及び秤量びんの合計重量:Mg)。精秤した約1gの試料(試料重量:Mr)を100mlビーカーに移し、約20℃の72%硫酸15mlを加え、よく撹拌した後、20℃で4時間放置する。これを、1000ml三角フラスコに、蒸留水560mlを用いて洗い移し、還流冷却管をつけて、4時間沸騰させる。放冷後内容物をガラスフィルターで吸引ろ過後、500ml熱水で洗浄する。ガラスフィルターを秤量びんに移し、105℃で恒量になるまで乾燥し秤量する(測定重量:Mn)。リグニン含有量は下記式で求められる。
【0037】
リグニン含有量(重量%)=(Mn−Mg)/Mr ×100
本発明においては、攪拌処理に供される植物由来の繊維集合体中に含まれるヘミセルロースの含有量は特に限定されない。ヘミセルロースを植物由来の繊維集合体から除去する場合は、後述の攪拌工程の前に以下のヘミセルロース除去工程を設けても良い。
【0038】
ヘミセルロース除去工程
本発明の製造方法において、ヘミセルロース除去工程を有する場合は、植物由来の繊維集合体をアルカリに浸漬する工程であることが好ましく、このアルカリとしては、水酸化カリウム水溶液が好適に用いられる。
【0039】
ヘミセルロースの除去に用いるアルカリは強過ぎるとセルロースの結晶を溶解ないし変質させてしまい、弱すぎるとヘミセルロースの除去効果が得られないため、水酸化カリウム水溶液であれば3〜10重量%、特に5〜8重量%程度の濃度のものを用いるのが好ましい。
【0040】
なお、低濃度であれば水酸化ナトリウム水溶液も使用可能であるが、水酸化ナトリウムの方が水酸化カリウムよりもセルロース結晶を変質させ易いので、好ましくは水酸化カリウム水溶液を用いる。
【0041】
浸漬時間は、アルカリの濃度にもよるが、例えば5重量%の水酸化カリウム水溶液であれば、室温で1晩浸漬することによりヘミセルロースの除去が可能である。
【0042】
ヘミセルロース除去工程を有する場合、ヘミセルロース除去工程後に水洗工程を設けても良い。ヘミセルロース除去工程後の水洗工程は、例えば、アルカリに浸漬した植物由来の繊維集合体を吸引ろ過で回収し、吸引しながら水洗を行うことにより実施される。このときの水洗に使用される水の量は植物由来の繊維集合体が中和される量であれば良く、例えば10gの植物由来の繊維集合体に対して、2L以上の水が用いられる。
【0043】
本発明において、ヘミセルロース量は以下の方法により定量した。
【0044】
ヘミセルロースの定量方法
以下の手順で行った。精秤した試料約1gを200ml容ビーカーに入れ(試料重量:Mh)、20℃の17.5重量%水酸化ナトリウム溶液25mlを加え、試料を均一に湿潤させて4分間放置後、5分間ガラス棒で試料を押しつぶし、十分に解離させてアルカリ液の吸収を均一にする。ビーカーを時計皿で蓋をし、放置する。以上の操作は20℃の恒温水槽中で行う。
【0045】
水酸化ナトリウム水溶液を加えてから30分後、ガラス棒でかき混ぜながら20℃の蒸留水を注加する。引き続き1分間かき混ぜた後、20℃の恒温水槽中に5分間放置し、秤量したガラスフィルターで吸引ろ過する。ろ液は元に返して再ろ過(ろ過処理は5分以内に完了すること)し、ガラス棒で圧搾しながら5分以内に蒸留水で洗浄する。なお、洗浄の終点はフェノールフタレイン中性とする。洗浄した残渣に10重量%酢酸40mlを注ぎ、5分間放置後に吸引し、蒸留水1Lで洗浄する。105℃で恒量になるまで乾燥し秤量する(測定値:Mz)。ヘミセルロース含有量は下記式で求められる。
【0046】
ヘミセルロース含有量(重量%)=(Mh−Mz)/Mh ×100
攪拌工程
本発明の攪拌工程においては、上記のようにして特定量のリグニンを含む(又はリグニンを全く含まない)植物由来の繊維集合体と液体物質の混合物を攪拌する。
【0047】
液体物質は、植物由来の繊維集合体に化学変性を生じさせず、該繊維集合体と混合・攪拌することにより、懸濁液となるものであれば特に限定されない。すなわち、本発明において、液体物質は、植物由来の繊維集合体の攪拌による熱を吸収し、該繊維集合体が解れてセルロースナノファイバーが分散する場を提供する物質であれば特に限定されず、通常の攪拌環境であれば、−100℃〜200℃程度の間のいずれかの温度で液体状態となる物質であれば使用できる。
【0048】
植物由来の繊維集合体と共に攪拌される液体物質としては、例えば、水、炭素数2〜10のハロゲン化炭化水素、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜20の炭化水素、超臨界状態の二酸化炭素等が挙げられる。水は、水道水、純水、蒸留水、イオン交換水等が使用できる。
【0049】
炭素数2〜10のハロゲン化炭化水素としては、クロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、ジクロロエタン等が挙げられる。
【0050】
ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜20の炭化水素のヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子が挙げられる。ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜20の炭化水素としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラヒドロフラン、アセトン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ピリジン等が挙げられる。液体物質は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0051】
本発明の攪拌工程においては、攪拌装置の攪拌速度を通常1000〜50000rpm程度、好ましくは10000〜50000rpm程度、より好ましくは20000〜40000rpm程度とする。
【0052】
攪拌装置は、特に限定されず、市販のブレンダー、ミキサー等を使用することもできる。市販のブレンダーとしては、例えば、Vita-Mix(R)社製のABS-V等が使用でき、家庭用ミキサーも使用できる。
【0053】
攪拌時間は、植物由来の繊維集合体が目的とする程度にまで解繊されれば特に限定されないが、通常10秒間〜60時間程度、好ましくは30秒間〜10時間程度、より好ましくは1分間〜1時間程度である。攪拌速度が大きければ、短時間で植物由来の繊維集合体を解繊することができ、攪拌速度が小さくなると、植物由来の繊維集合体の解繊に必要な時間が長くなる。
【0054】
攪拌温度は、攪拌速度、液体物質の種類等によって変化し、−100℃〜200℃程度であればよい。
【0055】
植物由来の繊維集合体と液体物質の混合物(スラリー、懸濁液)中の該繊維集合体の量(濃度)は、通常0.1〜20重量%程度、好ましくは0.2〜10重量%程度、より好ましくは0.2〜5重量%程度である。
【0056】
0.1重量%を下回ると、攪拌による前記繊維集合体同士の衝突頻度が下がり、解繊がうまく進まず、20重量%を上回ると、粘度が上がりすぎて連続的な攪拌運動ができず効率よく解繊されない。
【0057】
本発明の攪拌工程においては、植物由来の繊維集合体と前記液体物質に加えて、適当な酸又はアルカリを加えてpHを調整してもよい。pHを調整する場合、植物由来の繊維集合体、前記液体物質の混合物のpHは通常2〜10程度、好ましくは3〜10程度、より好ましくは3〜8程度である。
【0058】
前記の通り、植物の細胞壁は、繊維構造の違いから主に一次壁と二次壁に分けられ、細胞壁同士は最外層の中葉で接着している。一次壁は細胞が分裂してすぐにできる細胞壁であり、樹木の放射・接線方向に対する細胞のふくらみを制御するように形成され、細胞の拡大・成長に伴って細胞壁をある程度引き延ばすことができる。一次壁中ではセルロースナノファイバーはランダムに配向し、ファイバー同士の接点が少ないため比較的結合力が弱い。一方、二次壁は、拡大・成長が終わった細胞において、一次壁の内側に形成される細胞壁である。一次壁に比べて層が非常に厚く、細胞長方向に対してセルロースナノファイバーの多くが配向し、ファイバー同士が同方向に密着して互いに水素結合するため、強固で可塑性が低く単繊維を分離しにくい構造を持つ。
【0059】
本発明の製造方法によれば、特定量のリグニンを含む(又はリグニンを全く含まない)植物由来の繊維集合体を液体物質中で攪拌することにより、比較的解れやすい一次壁だけでなく、グラインダー等で強い外力を与える方法、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル)酸化等で化学変性を起こす等して解繊していた、強固な二次壁をも効率的に解することができ、10〜50nm(例えば、木材であれば、10〜20nm程度、稲ワラやポテトパルプであれば、20〜50nm程度)という植物細胞壁中における基本エレメントサイズまで解繊された、均一かつ損傷の少ない無変性のセルロースナノファイバーを得ることができる。
【0060】
本発明においては、リファイナー処理等の前処理を行ってもよいが、このような処理を行わなくても、一次壁だけでなく二次壁をも効率的に解すことができる。また、前記の通り、本発明の製造方法においては、グラインダー等による処理、TEMPO酸化のような解繊促進のための化学処理を施す必要がないため、繊維の損傷が極めて小さく、非特許文献4に開示されているような化学変性したセルロースナノファイバーとは異なる無変性のセルロースナノファイバーを得ることができる。
【0061】
本発明においては、攪拌工程の前に、リグニン量が前記特定量である(又はリグニンを全く含まない)植物由来の繊維集合体に酵素処理を施してもよい。酵素処理を行うことにより、セルロース間の相互作用が低下し、攪拌による解繊がより効率的に進行する。
【0062】
植物由来の繊維集合体の酵素処理は、従来公知の方法で処理すればよい。例えば、M. Paakko et al. Biomacromolecules 2007, 8, 1934-1941に記載の方法で酵素処理を行えばよい。具体例としては、エンドグルカナーゼを有するセルラーゼ全般やヘミセルロースを切断するヘミセルラーゼ全般を用いることが可能で、植物由来の繊維集合体と液体物質のスラリーに酵素を適当な濃度に混合して最適pHと温度を制御し、時折かき混ぜながら数時間処理することにより、ファイバー間結合力が弱められ解繊の補助的効果が得られる。
【0063】
また、本発明においては、攪拌工程の前に、リグニン量が前記特定量である(又はリグニンを全く含まない)植物由来の繊維集合体に化学処理を施してもよい。植物由来の繊維集合体に化学処理を行うことにより、セルロースナノファイバーに耐朽性、疎水性等の機能を効率的に付与できる。
【0064】
前記繊維集合体の化学処理は、従来種々の方法が知られており、例えば、アセチル化、プロピオニル化、ブチリル化、ラウロイル化、ステアロイル化、ベンゾイル化等のアシル化やシアノエチル化、オリゴエステル化、ベンジル化、シランカップリング処理等が挙げられる。これらの化学処理を単独、あるいは複数組み合わせて処理しても良い。また、化学処理と酵素処理は併用しても良い。該化学処理は、例えば、「セルロースの事典」(セルロース学会編、朝倉書店)に記載の方法を採用することができる。すなわち、本発明においては、このような人工的な化学処理を施された植物由来の繊維集合体を使用することができ、これらに前記攪拌処理を施した場合にも、新しい機能を付与した均一なセルロースナノファイバーを効率的に得ることができる。
【0065】
なお、セルロースナノファイバーの損傷を最小限に止めるためには、攪拌処理に供する植物由来の繊維集合体に化学処理を施さないことが好ましいが、化学処理を施した場合にも、前記攪拌処理による本発明の優れた解繊効果が奏される。
【0066】
さらに、本発明においては、攪拌処理と超音波処理とを併用しても良い。すなわち、攪拌工程の前、攪拌と同時に、又は攪拌の後の任意のタイミングで、植物由来の繊維集合体と液体物質の混合物に超音波処理を施しても良い。超音波処理を施すことにより、植物由来の繊維集合体が攪拌によってより解れやすくなる。
【0067】
本発明の攪拌工程を行った後及び/又は同時に、得られた懸濁液をろ過、遠心分離等の処理に供してもよい。これらの操作を施すことにより、繊維幅の均一性のより高いセルロースナノファイバーを得ることができる。例えば、ろ過を行う場合、市販の金属メッシュ等を使用することができる。本発明によれば、攪拌工程を行った後及び/又は同時に、得られた懸濁液をそのままろ過、遠心分離等の処理に供することができるので、繊維幅の均一性の極めて高いセルロースナノファイバーを連続的に得ることができ、工業的にも非常に優れている。
【0068】
本発明の製造方法は、グラインダーや他の技術のような極端に大きな外力を植物由来の繊維集合体に加えていない。従って、本発明によれば、損傷が非常に少なく、解繊を行っていないパルプとほぼ同程度の相対結晶化度を有するセルロースナノファイバーを得ることができる。相対結晶化度は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0069】
また、本発明の製造方法によれば、植物細胞壁中における基本エレメントであるセルロースナノファイバーを、繊維幅の均一性が極めて高く(幅10〜50nm程度)、かつ、損傷が少ないものとして得ることができる。よって、得られるセルロースナノファイバーに樹脂等を含浸させた場合、非常に透明性の高い材料を得ることができる。本発明の製造方法によって得られるセルロースナノファイバーの性状は、例えば後述の実施例のように、樹脂含浸シートや水懸濁液の透明性によって評価することが可能である。
【発明の効果】
【0070】
本発明の製造方法によれば、特定量のリグニンを有する(又はリグニンを全く含まない)植物由来の繊維集合体を液体物質中で攪拌することにより、繊維幅の均一性が高いセルロースナノファイバーを効率的に得ることができる。本発明の製造方法は、グラインダー処理のように植物由来の繊維集合体に大きな外力を加えないので、得られるセルロースナノファイバーの損傷が非常に少ない。また、TEMPO酸化処理のように、セルロースナノファイバーを化学変性させることは必須ではないので、無変性のセルロースナノファイバーを得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例1及び比較例1におけるセルロースナノファイバーのFE−SEM画像
【図2】実施例1におけるセルロースナノファイバーのFE−SEM画像(図1におけるブレンダー1分間の拡大図)
【図3】実施例2及び比較例2における各水懸濁液の透過率を示すグラフ
【図4】実施例3及び比較例3における各シートの平行光線透過率を示すグラフ
【図5】実施例4及び比較例4における各シートのX線回折、相対結晶化度測定結果
【図6】実施例5におけるセルロースナノファイバー(酵素処理)のFE−SEM画像
【図7】実施例8における各シートの平行光線透過率を示すグラフ
【図8】実施例9におけるセルロースナノファイバー(メッシュ上)のFE−SEM画像
【図9】実施例9におけるセルロースナノファイバー(ろ液中)のFE−SEM画像
【図10】実施例10におけるシートの平行光線透過率を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
実施例1(セルロースナノファイバーの調製)
スギ由来の木粉(JIS・Z8801-1標準ふるいにおける30mesh(500μm)〜60mesh(250μm)、アスペクト比1〜100の粒径)50gを、蒸留水1500ml、亜塩素酸ナトリウム15g、酢酸3mlの溶液中に入れ、80-90℃の湯浴中で時折攪拌しながら1時間加温した。一時間後、冷却することなく亜塩素酸ナトリウム15g、酢酸3mlを加えさらに1時間加温した。これら一連の処理を5〜8回反復して行った。その後、冷水約5Lで洗浄した。この操作で木粉中のリグニンを除去した精製木粉(ホロセルロースパルプ リグニン量0.1%)を製造した。次に、得られた精製木粉を以下の条件でブレンダー攪拌処理に供した。
【0074】
<ブレンダー攪拌処理>
使用モーター機種名: Vita Mix(R) Corp. ABS-BU
使用ボトル名:WARING(R) CAC90B X-TREME用2Lステンレス容器
使用タンパー:Vita Mix(R) Corp. ABS-V用プラスチック製タンパー PN-D2
※タンパーとは、ミキシング中に泡が発生するのを防ぎ適正回転を維持するために、ボトルのふたの中央から差し込む、プラスチック製の円筒型攪拌補助棒である。高速攪拌中に起きる溶媒の激しい対流が空気を取り込み、攪拌が連続しなくなることを防ぐ。
攪拌回転数:37000rpm
攪拌容量:1L
温度:30〜80℃
ブレンダー攪拌処理に供する精製木粉の最低水分含有量は、100重量%以上に保った。精製木粉を0.7重量%のパルプ水懸濁液に調整した。懸濁液1Lをブレンダー容器に投入し、タンパーを挿入し、上記の条件で攪拌処理を行った。攪拌時間は、それぞれ、0分、1分、3分、5分、10分、30分、60分間の7条件とした。
【0075】
各時間の攪拌を経た懸濁液を、エタノールに溶媒置換した後、105℃オーブン中で全乾し、オートファインコーター(JFC-1600)によりPtをコーティングし、FE-SEM(JEOL 6700F)で観察した。
【0076】
ブレンダーによる攪拌処理を経て得られたセルロースナノファイバーのFE−SEM画像を図1に示す。また、ブレンダーで1分間攪拌して得られたセルロースナノファイバーのFE−SEM画像の拡大図を図2に示す。
【0077】
FE−SEM画像から、攪拌時間が長くなるにつれて、パルプがより均一に解れたセルロースナノファイバーが得られることが分かる。驚くべきことに、パルプを水中において僅か1分間ブレンダーで攪拌するだけでも、パルプがかなり均一に解れており、幅約15nmのセルロースナノファイバーが得られた。また、ブレンダー攪拌によって得られたセルロースナノファイバーには、高圧ホモジナイザー処理やマイクロフリュイダイザー処理に見られるような部分的に毛羽だった状態のパルプ繊維が少なかった。
【0078】
比較例1(グラインダー処理)
実施例1で得られた精製木粉を水と混合し、0.7重量%のパルプ水懸濁液を調製し、これにグラインダー処理を1回施して懸濁液を得た。グラインダー処理の方法は以下の通りである。
【0079】
<グラインダー処理>
使用機種名:(株)増幸産業「セレンディピター」型式MKCA6−3
砥石のグレード:MKG−C 80#
砥石直径:15cm
砥石間距離:砥石を十分に押し付けたところから、200μm砥石を浮かせた。砥石表面の凹凸を平均した面間の間隔は200μmであった。
回転速度:1500rpm
1回の滞留時間:繊維含有率1%の懸濁液1Lで15分
温度:50〜60℃
実施例1と同様にして、グラインダー処理を施して得られた懸濁液を、エタノールに溶媒置換した後、105℃オーブン中で全乾し、オートファインコーター(JFC-1600)によりPtをコーティングし、FE-SEM(JEOL 6700F)で観察した。
【0080】
グラインダーによる解繊処理を経て得られたセルロースナノファイバーのFE−SEM画像を図1に示す。
【0081】
実施例2(水懸濁液の透明性評価)
実施例1で得られた各水懸濁液に蒸留水を加えて、セルロースナノファイバーの含有量が0.1重量%となるように調整した。これらの水懸濁液の透明性を、セル長10mmのPPセルを用いて計測した。
【0082】
<水懸濁液の透明性の測定条件>
日立ハイテクノロジーズ社製「UV−2910形分光光度計」(液体試料測定システム)を使用。
6mm×6mmの光源マスク使用
光源:ヨウ素タングステンランプ
測定波長:600nm
セル長:10mm
セル材質:ポリプロピレン製
リファレンスサンプル;セルに蒸留水を満たしたものを対照試料とした。
【0083】
測定結果を図3に示す。図3から、水中でのブレンダー攪拌時間が長くなるにつれて、セルロースナノファイバー水懸濁液の透明性が上昇することが分かる。
【0084】
比較例2(水懸濁液の透明性評価)
比較例1のグラインダー処理により得られた懸濁液に蒸留水を加えて、実施例2と同様にして水懸濁液の透明性を評価した。測定結果を図3に示す。図3から、グラインダーで強力に機械解繊して得られたセルロースナノファイバーを使用した場合と、実施例2のようにブレンダーで60分間攪拌して得られたセルロースナノファイバーを使用した場合とでは、同等の透明性が得られることが分かる。
【0085】
実施例3(シートの透明性評価)
実施例1で得られた各懸濁液を繊維含有率0.2重量%の懸濁液に調整し、ろ過して水分を除去し、シート状とした。さらに2kg/cm2で15分、110℃にてホットプレスして水を完全に除去し、厚さ50μm、空隙率4-20%の乾燥シートを得た。得られた各乾燥シートを、減圧下、光開始剤入りアクリル樹脂(TCDDMA:トリシクロデカンジメタクリレート)に浸漬させ4時間静置した。その後、ベルトコンベアー型のUV照射装置(フュージョンシステムズ製、Fusion F300 and LC6Bベンチトップコンベアー)を用い、樹脂を含浸させたシートに紫外線を照射して硬化させた。このときの総照射エネルギー量は20J/cm2であった。得られた各樹脂含浸シートの平行光線透過率を以下の条件にてそれぞれ測定した。なお、それぞれの樹脂含浸シートにおける樹脂の含浸率は、40〜50重量%、樹脂含浸前のシート厚さは54±3μm、樹脂含浸後のシート厚さは74±3μmであった。
【0086】
<平行光線透過率>
[測定装置]
日立ハイテクノロジーズ社製「UV−4100形分光度計」(固体試料測定システム)
を使用。
[測定条件]
・6mm×6mmの光源マスク使用。
・測定サンプルを積分球開口より22cm離れた位置において測光した。サンプルをこの位置に置くことで、拡散透過光は除去され、積分球内部の受光部に直線透過光のみが届く。
・リファレンスサンプルなし。リファレンス(試料と空気との屈折率差によって生じる反射。フレネル反射が生じる場合は、平行光線透過率100%ということはあり得ない。)がないため、フレネル反射による透過率のロスが生じている。
・光源:ヨウ素タングステンランプ
・試料厚さ:100μm
・測定波長:600nm
測定結果を図4に示す。図4から、精製木粉を水中で僅か1分間ブレンダー攪拌しただけでも、透明性の高いシートが得られることが分かる。また、ブレンダー攪拌時間が長くなるにつれて、セルロースナノファイバーを含浸させた樹脂シートの透明性が上昇することが分かる。
【0087】
比較例3(シートの透明性評価)
実施例3と同様にして、前記精製木粉、比較例1のグライダー処理により得られたセルロースナノファイバーをそれぞれシート状に成形し、樹脂(TCDDMA)を含浸させて樹脂含浸シートを得た。得られた各樹脂含浸シートの平行光線透過率を実施例3と同様の条件にてそれぞれ測定した。結果を図4に示す。
【0088】
図4から、グラインダーで強力に機械解繊して得られたセルロースナノファイバーを使用した場合と、ブレンダーで30分間又は60分間攪拌して得られたセルロースナノファイバーを使用した場合とでは、同等の透明性が得られることが分かる。
【0089】
実施例4(シートの相対結晶化度測定)
各シートのX線回折から、以下の条件により繊維の結晶化度、相対結晶化度を求めた。
【0090】
[繊維の結晶化度]
株式会社リガク製Ultra X 18HFを使用
ターゲット:Cu
加速電圧:30kV
電流:100mA
試料:実施例3で得られた乾燥シートを8〜10枚積層させ、若干含水させたのち再度ホットプレスをして密着させ、厚さを300〜400μmとした乾燥シートを試料とした。
測定角2θ:5〜40°
測定法:反射法
[相対結晶化度の測定]
繊維の結晶化度測定により得られた回折グラフから空気散乱を除去したのち、回折角10-30°の範囲において回折ピークをガウス関数でフィッティングして結晶領域と非晶領域を暫定的に分離して、その面積の積分値を算出して比率を求めた。また、チャートを複写した紙面において部分の重量を計測することで比率を求めた(文永堂出版、日本木材学会編、“木質科学実験マニュアル”参照)。測定結果を図5に示す。
【0091】
比較例4(シートの相対結晶化度測定)
実施例4と同様にして、精製木粉及び比較例3で得られた各シートのX線回折から、繊維の結晶化度、相対結晶化度を求めた。測定結果を図5に示す。
【0092】
図5の結果から、ブレンダーで攪拌して得られた各セルロースナノファイバーは、相対結晶化度がそれほど低下していないことが分かる。また、ブレンダーで攪拌して得られた各セルロースナノファイバーは、グラインダーによる解繊処理に比して繊維の損傷が少ないことも分かる。
【0093】
実施例5(酵素処理及びシートの作製)
実施例1における脱リグニン処理の後に、精製木粉に酵素処理(ノボザイム処理)を施し、ブレンダーによる攪拌時間を5分間としたこと以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバーの水懸濁液を得た。酵素処理は以下の条件で行った。
【0094】
<酵素処理>
実施例1で使用した前記精製木粉(ホロセルロースパルプ)を0.7重量%のパルプ水懸濁液1.5Lとし、酢酸及び酢酸ナトリウムの緩衝溶液を0.1Mol/Lになるよう加えpHを5.5に調整した。ノボザイム社製の酵素NS50013(cellulase complex)をパルプ乾燥重量に対して1重量%添加し、50℃の湯浴中で時折攪拌しながら3時間加温した。加温処理後、ろ過してパルプを回収し、90℃の熱湯に浸漬して酵素を失活させた。その後、冷水5Lで洗浄した。この操作で酵素処理を施した精製木粉を作製した。
【0095】
なお、セルラーゼはセルロースの分解特性の差異によって、エンド型グルカナーゼ(EG)とエキソ型グルカナーゼ(CBH)に大別できる。前者はセルロース鎖をランダムに切断する能力を有し、後者はセルロース鎖の末端からグルコースあるいはセロビオース単位で切断する。後者は厳密に処理するとセルロースを完全に分解し溶媒に可溶化してしまうため、エンド型グルカナーゼ(EG)が好ましい。
【0096】
次に、酵素処理を施した精製木粉を、実施例1と同様の条件でブレンダー攪拌処理(10分間)に供した。得られた水懸濁液を、エタノールに溶媒置換した後、105℃オーブン中で全乾し、オートファインコーター(JFC-1600)でPtをコーティングしFE-SEM(JEOL 6700F)により観察した。FE−SEM画像を図6に示す。図6から、酵素処理を行った場合にも、高圧ホモジナイザー処理やマイクロフリュイダイザー処理に見られるような部分的な解繊が生じたと思われる毛羽立った状態のパルプ繊維は少ないことがわかる。
【0097】
さらに、実施例5で得られたセルロースナノファイバーを実施例3と同様にして樹脂含浸シートとした。
【0098】
実施例6(シートの作製)
実施例1におけるスギ木粉(アスペクト比1〜100程度、直径250〜500μm程度 30〜60mesh)の代わりに、スギ5mm角チップを使用し、ブレンダーによる解繊時間を6分間としたこと以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバーを得た。得られたセルロースナノファイバーを実施例3と同様にして樹脂含浸シートとした。
【0099】
実施例7(シートの作製)
実施例1におけるスギ木粉(アスペクト比1〜100程度、直径250〜500μm程度 30〜60mesh)の代わりに、スギ木粉(アスペクト比1〜10程度、直径20〜40μm程度 200〜390mesh)を使用し、水懸濁液中のパルプの量を0.8重量%とし、ブレンダーによる攪拌時間を10分間としたこと以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバーを得た。得られたセルロースナノファイバーを実施例3と同様にして樹脂含浸シートとした。
【0100】
実施例8(平行光線透過率の測定)
実施例5〜7で得られた樹脂含浸シートの平行光線透過率を実施例3と同様にして測定した。結果を図7に示す。図7には、実施例3における5分間の攪拌処理を施して得られた樹脂含浸シートの平行光線透過率も併記した。図7から、ブレンダーで攪拌する前に酵素処理を行った場合、酵素処理を行わない場合に比してより透過率の高い樹脂含浸シートが得られた。これは、酵素処理を施した方が、より早く解繊が進んだからであると考えられる。また、木粉だけでなく、角チップを使用した場合にも、ブレンダーによる攪拌によって均一なセルロースナノファイバーが得られ、透明性の高い樹脂含浸シートが得られることが分かる。
【0101】
実施例9(水懸濁液のろ過)
実施例1において撹拌処理を10分間経た懸濁液を蒸留水で0.1%濃度に希釈し、JIS規格100メッシュ及び300メッシュの金属製網で懸濁液をろ過して、網上の残渣と網下の懸濁液(ろ液)を得た。具体的には、100メッシュでのろ過を5回行った後、300メッシュでのろ過を1回行った。
【0102】
ろ液と網上残渣について、実施例1と同様にしてエタノールに溶媒置換し、105℃のオーブンで全乾したのち、PtをコーティングしFE-SEMで観察した。
【0103】
FE-SEM写真を図8、9に示す。図8から、金属メッシュを通過したセルロースナノファイバーは極めて均一性が高いことが分かる。また、図9より、メッシュサイズに相当した解繊残りが除去されていることがわかる。このことからブレンダーにより解繊したナノファイバーはパルプから完全に分離されていることが示唆され、解繊途中でもナノファイバーだけを精製することが可能である。
【0104】
実施例10(シートの作製及び平行光線透過率の測定)
実施例9で得られた網下懸濁液(ろ液)から、実施例3と同様にして樹脂含浸シートを作製し、平行光線透過率を測定した。ろ過処理を経て得られた樹脂含浸シートとろ過処理を行わなかった樹脂含浸シートの平行透過率の比較を図10に示す。図10から、金属網でろ過した後のスラリーから作製した樹脂含浸シートの透過率は、ろ過を行わなかった場合に比して上昇した。本発明における攪拌過程で生じた解繊残りのマイクロエレメントは、適宜除去することができ、セルロースナノファイバーの幅均一性をさらに上昇させることが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン含有量が0〜5重量%である植物由来の繊維集合体と液体物質との混合物を攪拌するセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
セルロースナノファイバーの幅が10〜50nmである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
攪拌装置の攪拌速度を1000〜50000rpmにして攪拌する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記混合物中の植物由来の繊維集合体の濃度が0.1〜20重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記植物由来の繊維集合体の長径が1μm〜10mm、アスペクト比が1〜200である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記植物由来の繊維集合体が、植物由来の繊維集合体の粉体及び/又はチップを酸で処理して得られたものである請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
液体物質が、水、炭素数2〜10のハロゲン化炭化水素、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜20の炭化水素、超臨界状態の二酸化炭素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
超音波処理を併用する請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記攪拌の後又は同時に、遠心分離及び/又はろ過工程を有する請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記植物由来の繊維集合体が酵素処理されたものである請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記植物由来の繊維集合体が化学処理されたものである請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
(1)植物由来の繊維集合体の粉体及び/又はチップを酸で処理してリグニン含有量が0〜5重量%である植物由来の繊維集合体を得る工程、
(2)工程(1)で得られた植物由来の繊維集合体と液体物質の混合物を攪拌する工程
を有するセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項1】
リグニン含有量が0〜5重量%である植物由来の繊維集合体と液体物質との混合物を攪拌するセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
セルロースナノファイバーの幅が10〜50nmである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
攪拌装置の攪拌速度を1000〜50000rpmにして攪拌する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記混合物中の植物由来の繊維集合体の濃度が0.1〜20重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記植物由来の繊維集合体の長径が1μm〜10mm、アスペクト比が1〜200である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記植物由来の繊維集合体が、植物由来の繊維集合体の粉体及び/又はチップを酸で処理して得られたものである請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
液体物質が、水、炭素数2〜10のハロゲン化炭化水素、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3〜20の炭化水素、超臨界状態の二酸化炭素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
超音波処理を併用する請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記攪拌の後又は同時に、遠心分離及び/又はろ過工程を有する請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記植物由来の繊維集合体が酵素処理されたものである請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記植物由来の繊維集合体が化学処理されたものである請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
(1)植物由来の繊維集合体の粉体及び/又はチップを酸で処理してリグニン含有量が0〜5重量%である植物由来の繊維集合体を得る工程、
(2)工程(1)で得られた植物由来の繊維集合体と液体物質の混合物を攪拌する工程
を有するセルロースナノファイバーの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−216021(P2010−216021A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61404(P2009−61404)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]