説明

セルロースナノファイバーの製造方法

【課題】セルロースナノファイバー分散液を低エネルギーで製造する方法を提供する。
【解決手段】(A)セルロース系原料を、(a1)N−オキシル化合物、及び(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、(a3)酸化剤を用いて酸化する工程、(B)前記工程Aで得た酸化されたセルロース系原料を、pH8〜14のアルカリ性溶液中で加水分解する工程、ならびに(C)前記工程Bで得たセルロース系原料を含む分散液を調製し、当該加水分解された酸化セルロース系原料を分散媒中に分散させながら解繊してナノファイバー化する工程、を含む方法でセルロースナノファイバーを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーを低エネルギーで製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系原料を2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(以下、TEMPOと称する)と安価な酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムとの共存下で処理すると、セルロースのミクロフィブリルの表面にカルボキシル基を効率よく導入することができる。このカルボキシル基を導入したセルロース系原料を水中にてミキサー等で処理すると、高粘度で透明なセルロースナノファイバー水分散液が得られることが知られている(非特許文献1、特許文献1及び2)。
【0003】
セルロースナノファイバーは、生分解性の水分散型新規素材である。またセルロースナノファイバーの表面には酸化反応によりカルボキシル基が導入されているため、セルロースナノファイバーを、カルボキシル基を基点として、自由に改質することができる。さらに、上記の方法により得られたセルロースナノファイバーは、分散液の形態であるため各種水溶性ポリマーとブレンド、あるいは有機及び/又は無機系顔料と複合化してさらに改質することもできる。さらにまた、セルロースナノファイバーをシート化または繊維化することも可能である。セルロースナノファイバーのこれらの特性を活かし、環境循環型素材として、高機能包装材料、透明有機基板部材、高機能繊維、分離膜、再生医療材料などに応用した高機能商品の開発が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−001728号公報
【特許文献2】特開2010−235679号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Saito,T.,et al.,Cellulose Commun.,14(2),62(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のセルロースナノファイバーを得る方法では、TEMPOを用いて酸化したセルロース系原料の分散液をミキサーを用いて処理し、酸化されたセルロース系原料を解繊する。しかし、当該処理中に分散液の粘度が著しく高くなり、効率のよい解繊処理が行ないにくいという問題があった。特に分散液の粘度が高すぎると、ミキサーの撹拌羽周辺のみで分散が進行するため、分散が不均一となってしまう問題があった。例えば、分散液中の酸化セルロース系原料の濃度が0.3〜0.5%(w/v)と低い場合であっても、B型粘度(60rpm、20℃)が800〜4000mPa・sといった高い値を示すことがあった。このため、本発明者らはミキサーよりも解繊及び分散力の高いホモジナイザーを用いて解繊処理を試みた。しかし、分散初期にセルロース系原料が顕著に増粘して流動性が悪化し、分散処理時に要する消費電力量が増大することが依然として見られた。さらに、装置内部にセルロースナノファイバー分散液が付着するので十分な分散が行なえない、装置から分散液を取り出すなどの操作が困難となり分散液の歩留りが低下することもあった。
【0007】
通常、セルロースナノファイバーは分散液の状態で種々の用途に適用される。特に分散液を塗布用の液として用いる場合には、塗布膜中のセルロースナノファイバー量を多くする観点から、セルロースナノファイバー分散液中のセルロースナノファイバー濃度は高いことが好ましい。例えば、セルロースナノファイバーの分散液を基材に塗布して基材上にフィルムを形成させる場合、セルロースナノファイバー濃度が低いと塗布回数を増やさなければならず、作業効率が低下する。このため、高濃度の分散液を与えるセルロースナノファイバーが望まれるが、前述のとおり高濃度の分散液を得ようとすると増粘がみられるため、高濃度のセルロースナノファイバー分散液の製造には多大なエネルギーを要する。
【0008】
上記を鑑み、本発明は、流動性に優れるセルロースナノファイバー分散液を低エネルギーで製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、酸化されたセルロース系原料を解繊する前に、pH8〜14のアルカリ性溶液中で加水分解することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、前記課題は以下の本発明により解決される。
(A)セルロース系原料を、(a1)N−オキシル化合物、及び(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、(a3)酸化剤を用いて酸化する工程、
(B)前記工程Aで得た酸化セルロース系原料を、pH8〜14のアルカリ性溶液中で加水分解する工程、ならびに
(C)前記工程Bで得た加水分解された酸化セルロース系原料を含む分散液を調製し、当該加水分解された酸化セルロース系原料を分散媒中に分散させながら解繊してナノファイバー化する工程、を含む、セルロースナノファイバーの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、流動性に優れるセルロースナノファイバー分散液を低エネルギーで製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書において数値範囲を表す際に用いられる「〜」は両端の値を含む。
1.セルロースナノファイバーの製造方法
本発明の製造方法は、(A)セルロース系原料を、(a1)N−オキシル化合物、及び(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、(a3)酸化剤を用いて酸化する工程、(B)前記工程Aで得た酸化セルロース系原料を、pH8〜14のアルカリ性溶液中で加水分解する工程、ならびに(C)前記工程Bで得た加水分解された酸化セルロース系原料を含む分散液を調製し、当該加水分解された酸化セルロース系原料を分散媒中に分散させながら解繊してナノファイバー化する工程、を含む。
【0012】
1−1.工程A
工程Aでは、セルロース系原料を、(a1)N−オキシル化合物、及び(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、(a3)酸化剤を用いて酸化する。
【0013】
(1)N−オキシル化合物(a1)
N−オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。本発明で用いるN−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、本発明で使用されるN−オキシル化合物としては、下記一般式(式1)で示される化合物が挙げられる。
【0014】
【化1】

【0015】
式1中、R〜Rは、同一または異なって、炭素数1〜4程度のアルキル基を示す。
式1で表される物質のうち、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−オキシラジカル(以下TEMPOと称する)が好ましい。また、下記式2〜4のいずれかで表されるN−オキシル化合物、すなわち、4−ヒドロキシTEMPOの水酸基をアルコールでエーテル化、またはカルボン酸もしくはスルホン酸でエステル化し、適度な疎水性を付与した4−ヒドロキシTEMPO誘導体や、下記式5で表される4−アミノTEMPOのアミノ基をアセチル化し、適度な疎水性を付与した4−アセトアミドTEMPOは、安価であり、かつ均一な酸化セルロースを得ることができるため、とりわけ好ましい。
【0016】
【化2】

【0017】
式2〜4中、Rは炭素数4以下の直鎖または分岐状炭素鎖である。
さらに、下記式6で表されるN−オキシル化合物、すなわち、アザアダマンタン型ニトロキシラジカルは、短時間で効率よくセルロース系原料を酸化でき、重合度の高いセルロースナノファイバーを製造できるので好ましい。
【0018】
【化3】

【0019】
式6中、R及びRは、同一または異なって、水素またはC〜Cの直鎖もしくは分岐鎖アルキル基を示す。
N−オキシル化合物の使用量は、セルロース系原料をナノファイバー化できる程度に酸化反応を促進できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.01〜10mmolが好ましく、0.01〜1mmolがより好ましく、0.05〜0.5mmolがさらに好ましい。
【0020】
(2)臭化物またはヨウ化物(a2)
臭化物とは臭素を含む化合物をいい、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物をいい、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物及びヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.1〜100mmolが好ましく、0.1〜10mmolがより好ましく、0.5〜5mmolがさらに好ましい。
【0021】
(3)酸化剤(a3)
セルロース系原料の酸化の際に用いる酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、コストの観点から、現在工業プロセスにおいて最も汎用されている安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが特に好適である。酸化剤の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.5〜500mmol、好ましくは0.5〜50mmol、さらに好ましくは2.5〜25mmol程度を用いることができる。
【0022】
(4)セルロース系原料
本発明の酸化工程(工程A)で用いる「セルロース系原料」は特に限定されず、各種木材由来のクラフトパルプまたはサルファイトパルプ、それらを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末セルロース、あるいはそれらを酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末等を使用できる。この他、ケナフ、麻、イネ、バカス、竹等の植物由来のセルロース系原料も使用できる。量産化やコストの観点から、粉末セルロース、微結晶セルロース粉末、あるいは白色度(ISO 2470)が80%以上の漂白済みクラフトパルプまたは漂白済みサルファイトパルプを用いることが好ましい。特に、粉末セルロースまたは微結晶セルロース粉末を用いると、高濃度であってもより低い粘度を有する分散液を与えるセルロースナノファイバーを製造できるので好ましい。また、広葉樹由来のセルロース系原料も、低い消費電力量で低粘度の分散液を与えるセルロースナノファイバーを製造できるので、好ましい。
【0023】
粉末セルロースとは、木材パルプの非結晶部分を酸加水分解処理で除去した後、粉砕及び篩い分けすることで得られる微結晶性セルロースからなる棒軸状粒子である。粉末セルロースにおけるセルロースの重合度は100〜500程度であり、X線回折法による粉末セルロースの結晶化度は70〜90%であり、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積平均粒子径は好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。体積平均粒子径が100μm以下であると、流動性に優れるセルロースナノファイバー分散液を得ることができる。本発明で用いる粉末セルロースとしては、例えば、精選パルプを酸加水分解した後に得られる未分解残渣を精製して乾燥し、粉砕及び篩い分けして得られる、一定の粒径分布を有する棒軸状の結晶性セルロース粉末を用いることができる。あるいは、KCフロック(登録商標)(日本製紙ケミカル株式会社製)、セオラス(商標)(旭化成ケミカルズ株式会社製)、アビセル(登録商標)(FMC社製)などの市販品を用いてもよい。
【0024】
(5)セルロース系原料の酸化反応の条件
酸化工程(工程A)では、副反応を抑制するために、反応媒体として水を用いることが好ましい。工程Aは、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。そのため、反応温度は15〜30℃程度の室温であってもよい。なお、反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して反応液のpHを9〜12、好ましくは10〜11程度に維持することが好ましい。酸化反応における反応時間は、適宜設定することができ、例えば0.5〜4時間程度が好ましい。
【0025】
次の工程Bでの副反応を避ける等の観点から、工程Aで得られた酸化セルロース系原料は、工程Bに供する前に、洗浄することが好ましい。
1−2.工程B
工程Bでは、工程Aで得た酸化されたセルロース系原料(以下単に「酸化セルロース系原料」ともいう)をpH8〜14のアルカリ性溶液中で加水分解する。
工程Bでは、副反応を抑制するために、反応媒体として水を用いることが好ましい。
工程Bでは助剤として酸化剤または還元剤を用いることが好ましい。酸化剤または還元剤としては、pH8〜14のアルカリ性領域で活性を有するものを使用できる。酸化剤の例には、酸素、オゾン、過酸化水素、次亜塩素酸塩が含まれ、これらの2種以上を組み合わせて使用してもよい。ただし、オゾンのようなラジカルを発生する酸化剤を使用した場合には、発生するラジカルにより加水分解後の酸化セルロース系原料が着色する問題が生じうる。したがって、本発明に用いる酸化剤としては、ラジカルを発生しにくい酸素、過酸化水素、次亜塩素酸塩などが好ましく、特に、着色防止の観点から、過酸化水素が好ましい。これらは、オゾンのようなラジカルを発生する酸化剤と併用しないことがさらに好ましく、過酸化水素を単独で用いることがより好ましい。本発明に用いる還元剤の例には、水素化ホウ素ナトリウム、ハイドロサルファイト、亜硫酸塩が含まれ、これらの2種以上を併用して使用してもよい。反応効率の観点から、助剤の添加量は絶乾した酸化セルロース系原料に対して0.1〜10質量%が好ましく、0.3〜5質量%がより好ましく、0.5〜2質量%がさらに好ましい。
【0026】
加水分解反応における反応液のpHは、8〜14が好ましく、9〜13がより好ましく、10〜12がさらに好ましい。pHが8未満であると十分な加水分解が起こらず、工程Cに要するエネルギーの低減につながらないことがある。また、pHが14を超えると、加水分解は進行するが、加水分解後の酸化セルロース系原料が着色するという問題が生じうる。pHの調整に用いるアルカリは水溶性であればよいが、製造コストの観点から、水酸化ナトリウムが最適である。また反応効率の観点から、温度は40〜120℃が好ましくは、50〜100℃がより好ましく、60〜90℃がさらに好ましい。温度が低いと十分な加水分解が起こらず、工程Cに要するエネルギーの低減につながらないことがある。一方、温度が高いと加水分解は進行するが、加水分解後の酸化セルロース系原料が着色するという問題が生じうる。加水分解の反応時間は0.5〜24時間が好ましく、1〜10時間がより好ましく、2〜6時間がさらに好ましい。反応効率の観点から、反応液中の酸化されたセルロース系原料の濃度は、1〜20質量%が好ましく、3〜15質量%がより好ましく、5〜10質量%がさらに好ましい。
【0027】
pH8〜14のアルカリ性溶液中で加水分解することにより、工程Cにおける解繊に要するエネルギーを低減できる。この理由は次のように推察される。N−オキシル化合物を用いて酸化されたセルロース系原料の非晶質領域にはカルボキシル基が散在しており、当該カルボキシル基が存在しているC6位の水素は、カルボキシル基により電子が吸引されているので電荷が欠乏している状態にある。そのため、pH8〜14のアルカリ性条件下では当該水素は水酸化物イオンで容易に引き抜かれる。するとβ脱離によるグルコシド結合の開裂反応が進行して、酸化されたセルロース系原料は短繊維化される。このように、酸化されたセルロース系原料の繊維長を短くすることで、当該原料を含む分散液の粘度を低下できる。その結果、工程Cにおいて解繊に要するエネルギーが低減される。ただし、単にアルカリ性条件下で加水分解すると、セルロース系原料は黄色に着色しやすい。この原因は、β脱離の際に二重結合が生成するためと考えられる。そこで、pH8〜14のアルカリ性条件下での加水分解において、酸化剤や還元剤を用いるとこの二重結合を酸化または還元して除去できるので着色を抑制できる。特に、ラジカルを発生しにくい過酸化水素などを酸化剤として用いると、着色が起こりにくい。
【0028】
1−3.工程C
工程Cでは、前記工程Bで得た、加水分解された酸化セルロース系原料(以下、「工程Bで得たセルロース系原料」ともいう)を分散した分散液を調製し、当該加水分解された酸化セルロース系原料を分散媒中に分散させながら解繊してナノファイバー化する。「ナノファイバー化する」とは、セルロース系原料を、幅2〜5nm、長さ1000〜5000nm程度、好ましくは長さ1〜5μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルであるセルロースナノファイバーへと加工することを意味する。取扱いの容易性から、分散媒は水が好ましい。工程Bで得たセルロース系原料を分散媒中に分散させながら解繊するには、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置を用いて前記分散液に強力なせん断力を印加することが好ましい。特に、前記分散液に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。この処理により、工程Bで得たセルロース系原料が解繊してセルロースナノファイバーが形成され、かつセルロースナノファイバーが分散媒中に分散する。
【0029】
解繊に供する分散液中の工程Bで得たセルロース系原料の濃度は1〜50%(w/v)が好ましく、2〜10%(w/v)がより好ましい。本発明では前記工程Bにおいて加水分解処理を施しているので、工程Bで得たセルロース系原料の濃度をこのように高くしても、解繊処理中に系の粘度が上昇しない。
【0030】
1−4.低粘度化処理
解繊に要するエネルギーをより低減させるために、工程Aと工程Bとの間または工程Bと工程Cとの間に、工程Aで得た酸化セルロース系原料または工程Bで得た加水分解された酸化セルロース系原料(以下、まとめて「工程AまたはBで得たセルロース系原料」とよぶ)を、工程Bの方法とは別の方法で低粘度化処理してもよい。低粘度化処理とは、工程AまたはBで得たセルロース系原料のセルロース鎖をさらに適度に切断(セルロース鎖を短繊維化)することである。このように処理された原料は分散液としたときの粘度が低くなるので、低粘度化処理とは、低粘度の分散液を与えるセルロース系原料を得る処理ともいえる。低粘度化処理は、工程AまたはBで得たセルロース系原料の粘度が低下するような処理であればよく、例えば、工程AまたはBで得たセルロース系原料に紫外線を照射する処理、同原料を過酸化水素及びオゾンで酸化分解する処理、同原料を酸で加水分解する処理、ならびにこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0031】
(1)紫外線照射
工程AまたはBで得たセルロース系原料に紫外線を照射して低粘度化処理を行なう場合、紫外線の波長は、好ましくは100〜400nmであり、より好ましくは100〜300nmである。このうち、波長135〜260nmの紫外線は、直接セルロースやヘミセルロースに作用して低分子化を引き起こし、工程AまたはBで得たセルロース系原料を短繊維化することができるので特に好ましい。
【0032】
紫外線を照射する光源としては、100〜400nmの波長領域の光を照射できるものを使用すればよい。その具体例には、キセノンショートアークランプ、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ等が含まれ、これらの1種あるいは2種以上を任意に組合せて使用できる。特に波長特性の異なる複数の光源を組合せて使用すると、異なる波長の紫外線を同時に照射してセルロース鎖やヘミセルロース鎖の切断箇所を増加させられるので短繊維化を促進できる。
【0033】
工程AまたはBで得たセルロース系原料を収容する容器としては、例えば、300nmより長波長の紫外線を用いる場合は、硬質ガラス製容器を用いることができるが、それより短波長の紫外線を用いる場合は、紫外線をより透過させる石英ガラス製容器を用いることが好ましい。容器における紫外線による反応に関与しない部分の材質は、紫外線の波長に対して劣化の少ない材質を適宜選択してよい。
【0034】
反応を効率よく行なうために、工程AまたはBで得たセルロース系原料は分散媒に分散させて分散液とし、当該分散液に紫外線を照射することが好ましい。分散媒は、副反応を抑制する観点等から水が好ましい。エネルギー効率を高める観点から、分散液中の酸化セルロース系原料の濃度は0.1質量%以上が好ましい。また紫外線照射装置内での工程AまたはBで得たセルロース系原料の流動性を良好に保って反応効率を高めるために、当該濃度は12質量%以下が好ましい。従って、分散液中の酸化セルロース系原料の濃度は0.1〜12質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましく、1〜3質量%がさらに好ましい。
【0035】
反応効率の観点から、反応温度は20℃以上が好ましい。一方、温度が高すぎると工程AまたはBで得たセルロース系原料の劣化や、反応装置内の圧力が大気圧を超えるおそれが生じるので、反応温度は95℃以下が好ましい。従って、反応温度は20〜95℃が好ましく、20〜80℃がより好ましく、20〜50℃がさらに好ましい。さらに反応温度がこの範囲であると、耐圧性を考慮した装置設計を行なう必要性がないという利点もある。当該反応における系のpHは限定されないが、プロセスの簡素化を考えると中性領域、例えばpH6.0〜8.0程度が好ましい。
【0036】
紫外線照射の程度は、照射反応装置内での工程AまたはBで得たセルロース系原料の滞留時間や照射光源のエネルギー量を調節すること等により、任意に設定できる。例えば、照射装置内の工程AまたはBで得たセルロース系原料分散液の濃度を水等によって希釈する、あるいは空気や窒素等の不活性気体を吹き込んで希釈することにより、工程AまたはBで得たセルロース系原料が受ける紫外線の照射量を調整できる。これらの条件は、処理後の原料の品質(繊維長やセルロース重合度等)を所望の値とするために適宜選択される。
【0037】
紫外線照射処理は、酸素、オゾン、または、過酸化物(過酸化水素、過酢酸、過炭酸Na、過ホウ酸Na等)などの助剤の存在下で行なうと、光酸化反応の効率をより高めることができるので好ましい。特に135〜242nmの波長領域の紫外線を照射する場合、光源周辺の気相部に通常存在する空気中の酸素からオゾンが生成するが、このオゾンを助剤として用いることが好ましい。本発明においては、この光源周辺部に連続的に空気を供給して生成するオゾンを連続的に抜き出し、この抜き出したオゾンを工程AまたはBで得たセルロース系原料へと注入することにより、系外からオゾンを供給すること無しに、光酸化反応の助剤としてオゾンを利用することができる。さらに、光源周辺の気相部に酸素を供給することにより、より大量のオゾンを系内に発生させることもできる。このように、本発明においては、紫外線照射反応装置で副次的に発生するオゾンを利用することができる。
【0038】
紫外線照射処理は、複数回繰り返すことができる。繰り返しの回数は、処理後の原料の品質や、漂白などの後処理などとの関係に応じて適宜設定できる。例えば、100〜400nm、好ましくは135〜260nmの紫外線を、1〜10回、好ましくは2〜5回程度照射することができる。この際、1回あたりの照射時間は0.5〜10時間が好ましく、0.5〜3時間が好ましい。
【0039】
(2)過酸化水素及びオゾンによる酸化分解
当該処理で使用するオゾンは、空気あるいは酸素を原料としてオゾン発生装置にて公知の方法で発生させることができる。前述のとおり、酸化反応を効率よく行なうためには工程AまたはBで得たセルロース系原料を水等の分散媒に分散させた分散液を反応に用いることが好ましい。本発明におけるオゾンの使用量(質量)は、工程AまたはBで得たセルロース系原料の絶乾質量の0.1〜3倍が好ましい。オゾンの使用量が工程AまたはBで得たセルロース系原料の絶乾質量の0.1倍以上であればセルロースの非晶部を十分に分解することができ、工程Cでの解繊及び分散処理に要するエネルギーを大幅に削減できる。一方、オゾンの使用量が過度に多くなるとセルロースの過度の分解が起こりうるが、当該使用量が工程AまたはBで得たセルロース系原料の絶乾質量の3倍以下であると、過度の分解を抑制できる。よって、オゾン使用量は、工程AまたはBで得たセルロース系原料の絶乾質量の0.3〜2.5倍がより好ましく、0.5〜1.5倍がさらに好ましい。
【0040】
過酸化水素の使用量(質量)は、工程AまたはBで得たセルロース系原料の絶乾質量の0.001〜1.5倍が好ましい。工程AまたはBで得たセルロース系原料の0.001倍以上の量で過酸化水素を使用すると、オゾンと過酸化水素との相乗作用が生じ、効率のよい反応が可能となる。一方、工程AまたはBで得たセルロース系原料の分解には、工程AまたはBで得たセルロース系原料の1.5倍以下程度の量の過酸化水素を使用すれば十分であり、それより多い使用量はコストアップにつながる。よって、過酸化水素の使用量は、工程AまたはBで得たセルロース系原料の絶乾質量の0.1〜1.0倍がより好ましい。
【0041】
反応効率の観点から、オゾン及び過酸化水素による酸化分解処理における系のpHは2〜12が好ましく、pH4〜10がより好ましく、pH6〜8がさらに好ましい。温度は10〜90℃が好ましく、20〜70℃がより好ましく、30〜50℃がさらに好ましい。処理時間は、1〜20時間が好ましく、2〜10時間がより好ましく、3〜6時間がさらに好ましい。
【0042】
オゾン及び過酸化水素による処理を行なうための装置は、通常使用される装置を用いることができる。その例には、反応室、撹拌機、薬品注入装置、加熱器、及びpH電極を備えた通常の反応器が含まれる。
【0043】
オゾン及び過酸化水素による処理を工程Cの直前に行う場合、水溶液中に残留するオゾンや過酸化水素は次の工程Cにおける解繊処理でも有効に作用するので、より低粘度の分散液を与えるセルロースナノファイバーを製造でき、好ましい。
【0044】
過酸化水素及びオゾンにより、工程AまたはBで得たセルロース系原料の低粘度化処理を効率よく実施できる理由は以下のように推察される。N−オキシル化合物を用いて酸化されたセルロース系原料の表面にはカルボキシル基が局在しており、水和層が形成されている。そのため、当該原料同士は近接して存在しネットワークを形成しているので当該原料を含む分散液の粘度は高い。しかし、原料同士の間にはカルボキシル基同士の電荷反発力の作用で通常のパルプでは見られない微視的隙間が存在しており、当該原料をオゾン及び過酸化水素で処理すると、オゾン及び過酸化水素から酸化力に優れるヒドロキシラジカルが発生し、微視的隙間に浸透して当該原料中のセルロース鎖を効率よく酸化分解して原料を短繊維化する。
【0045】
(3)酸による加水分解
本処理では、工程AまたはBで得たセルロース系原料に酸を添加してセルロース鎖の加水分解(酸加水分解処理)を行なう。酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、またはリン酸のような鉱酸を使用することが好ましい。前述のとおり、反応を効率よく行なうために、工程AまたはBで得たセルロース系原料を水等の分散媒に分散させた分散液を用いることが好ましい。酸加水分解処理の条件としては、酸がセルロースの非晶部に作用するような条件であればよい。例えば、酸の添加量としては、工程AまたはBで得たセルロース系原料の絶乾質量に対して0.01〜0.5質量%が好ましく、0.1〜0.5質量%がさらに好ましい。酸の添加量が0.01質量%以上であると、セルロースの加水分解が進行し、工程Cでの処理効率が向上するので好ましい。また、当該添加量が0.5質量%以下であるとセルロースの過度の加水分解を防ぐことができ、セルロースナノファイバーの収率の低下を防止することができる。酸加水分解時の系のpHは、2.0〜4.0が好ましく、2.0以上3.0未満がより好ましい。ただし、工程Bで得たセルロース系原料の分散媒中に工程Bで使用したアルカリが残存している場合は、酸の添加量を適宜増やして系のpHを前記範囲に調整することが好ましい。反応効率の観点から、反応は温度70〜120℃で、1〜10時間行なうことが好ましい。
【0046】
次の工程BまたはCの処理を効率よく行なうために、酸加水分解処理後は水酸化ナトリウム等のアルカリを添加して中和することが好ましい。
酸加水分解処理により、工程AまたはBで得たセルロース系原料の低粘度化処理を効率よく実施できる理由は以下のように推察される。前述のとおり、N−オキシル化合物を用いて酸化されたセルロース系原料の表面にはカルボキシル基が局在しており、水和層が形成され、当該原料同士は近接して存在しネットワークを形成している。当該原料に、酸を添加して加水分解を行なうと、ネットワーク中の電荷のバランスが崩れてセルロース分子の強固なネットワークが崩れ、当該原料の比表面積が増大し、原料の短繊維化が促進され、セルロース系原料が低粘度化する。
【0047】
2.本発明で製造されるセルロースナノファイバー
本発明により製造されるセルロースナノファイバーは、幅2〜5nm、長さ100〜5000nm程度、好ましくは長さ1〜5μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルである。本発明により得られたセルロースナノファイバーは、濃度1.0%(w/v)の水分散液におけるB型粘度(60rpm、20℃)が500mPa・s以下、好ましくは300mPa・s以下、さらに好ましくは100mPa・s以下である。また濃度2%(w/v)の水分散液におけるB型粘度は、2000mPa・s以下が好ましく、1000mPa・s以下がより好ましい。濃度2%(w/v)の水分散液におけるB型粘度が2000mPa・s以下であると種々の顔料やバインダー樹脂などと優れた混和性を有し、さらに1000mPa・s以下であると一定以上の膜厚及び優れた表面性を有する塗工層を効率よく得ることができる。B型粘度の下限値は特に限定されないが、通常、1mPa・s以上、または5mPa・s以上程度である。B型粘度は、通常のB型粘度計を用いて測定することができ、例えば、東機産業株式会社製のTV−10型粘度計を用いて、20℃、60rpmの条件で測定できる。
【0048】
本発明の製造方法によれば、セルロースナノファイバーを分散媒中に良好に分散できるので光の拡散が生じにくく、得られるセルロースナノファイバーの分散液の透明度は高い。本発明により得られたセルロースナノファイバーは、濃度0.1%(w/v)水分散液における光透過率(波長660nm)が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。前記透明度が95%以上であるとセルロースナノファイバーをフィルム用途などにも問題なく使用することができ、99%以上であるとディスプレイやタッチパネルのような高い光学特性(透明度)を求められるフィルム用途などにも問題なく使用できる。具体的には、紫外・可視分光光度計を用いて、石英セル(光路10mm)に0.1%分散液を入れた試験体を透過する光の量を測定することで求められる。
【0049】
本発明により製造されるセルロースナノファイバーとしては、着色の少ないものが好ましい。着色したセルロースナノファイバーは強度が低いことがある。また、例えば、着色の少ないセルロースナノファイバーを含む塗料を透明フィルム上に塗工して乾燥させた場合、乾燥時の熱によって変色(着色)しにくいため、外観不良の少ない透明フィルムが得られるという利点がある。そのようなセルロースナノファイバーは、工程Bにおいて酸化剤または還元剤を用いることにより、特に、ラジカルを発生しにくい過酸化水素を酸化剤として用いることにより、得ることができる。
【0050】
本発明により製造されるセルロースナノファイバーは、流動性と透明性に優れ、さらにバリヤー性及び耐熱性にも優れるので、上記以外にも、包装材料等の様々な用途に使用することが可能である。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されない。
[実施例1]
工程A:針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(日本製紙株式会社製、白色度84%)5g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム755mg(7mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応液に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)18mlを添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は反応液のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応させた後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで、酸化されたセルロース系原料を得た。
【0052】
工程B:酸化されたセルロース系原料の5%(w/v)水分散液を調製し、当該分散液に、酸化されたセルロース系原料に対して1%(w/v)の過酸化水素を添加し、1M水酸化ナトリウムでpHを12に調整した。この水分散液を80℃で2時間加熱して酸化されたセルロース系原料を加水分解した後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗した。
【0053】
得られた酸化セルロース系原料の分散液の着色を、下記の基準で目視評価した:
3 全く着色していない
2 ほとんど着色していない
1 着色している。
【0054】
工程C:工程Bで得たセルロース系原料濃度が2%(w/v)である水分散液を調整し、超高圧ホモジナイザー(処理圧140MPa)で10回処理して透明なゲル状分散液を得た。
【0055】
得られた2%(w/v)のセルロースナノファイバー水分散液のB型粘度(60rpm、20℃)をTV−10型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて測定した。また、得られた2%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液を水で希釈して0.1%(w/v)のセルロースナノファイバー水分散液を調整し、UV−VIS分光光度計 UV−265FS(株式会社島津製作所社)を用いて660nm光の透過率を測定した。さらに、解繊及び分散処理に要した消費電力を(処理時における電力)×(処理時間)/(処理したサンプル量)により求めた。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例2]
工程Bにおいて、過酸化水素の代わりに次亜塩素酸ナトリウムを酸化セルロース系原料に対して1%(w/v)添加した以外、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得て評価した。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例3]
工程Bにおいて、0.6MPaの酸素加圧条件で処理した以外、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得て評価した。結果を表1に示す。
【0058】
[実施例4]
工程Bにおいて、さらに酸化セルロース系原料に対して2%(w/v)のオゾンを添加した以外、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得て評価した。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例5]
工程Bにおいて、過酸化水素を添加しなかった以外、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得て評価した。結果を表1に示す。
【0060】
[実施例6〜8]
工程Bにおいて、過酸化水素を添加する際に、1M水酸化ナトリウムでpHをそれぞれ8、10、及び14に調整した以外、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得て評価した。結果を表1に示す。
【0061】
[実施例9〜12]
工程Bにおいて、温度をそれぞれ50℃、60℃、90℃、及び100℃とした以外、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得て評価した。結果を表1に示す。
【0062】
[実施例13]
工程Cの前に、工程Bで得たセルロース系原料を2%(w/v)含む水分散液を調製し、当該水分散液を流動させながら、20W低圧紫外線ランプを用いて254nmの紫外線を6時間照射する工程を実施した以外は、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得て評価した。結果を表1に示す。
【0063】
[実施例14]
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプの代わりに広葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(日本製紙株式会社製、白色度85%)を用いた以外、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得て評価した。結果を表2に示す。
【0064】
[実施例15]
工程Bにおいて、過酸化水素の代わりに次亜塩素酸ナトリウムを酸化パルプに対して1%(w/v)添加した以外、実施例14と同様にしてナノファイバー分散液を得て評価した。結果を表2に示す。
【0065】
[実施例16]
工程Bにおいて、0.6MPaの酸素加圧条件で処理した以外、実施例14と同様にしてナノファイバー分散液を得て評価した。結果を表2に示す。
【0066】
[実施例17]
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプの代わりに広葉樹由来の漂白済み未叩解サルファイトパルプ(白色度86%を)を用いた以外、実施例1と同様にしてナノファイバー分散液を得て評価した。結果を表2に示す。
【0067】
[比較例1]
実施例1の工程Aで得た酸化されたセルロース系原料を用いて濃度2%(w/v)の水分散液を調製した。工程Bを実施せずに、当該水分散液を流動させながら、20W低圧紫外線ランプを用いて254nmの紫外線を6時間照射する低粘度化処理を実施した。この処理で得た水分散液を用いて実施例1の工程Cを実施し、ナノファイバー分散液を得て評価した。結果を表1に示す。
【0068】
[比較例2]
実施例1の工程Aで得た酸化されたセルロース系原料を用いて濃度2%(w/v)の水分散液を調製した。工程Bを実施せずに、当該水分散液に市販のセルラーゼ(ノボザイムズジャパン社製、Novozyme 476)を、酸化されたセルロース系原料に対して2質量%添加して50℃で保持した。この処理で得た水分散液を用いて実施例1の工程Cを実施し、ナノファイバー分散液を得て評価した。結果を表1に示す。
【0069】
[比較例3]
実施例1の工程Aで得た酸化されたセルロース系原料を用いて濃度2%(w/v)の水分散液を調製した。工程Bを実施せずに、当該水分散液にオゾン及び過酸化水素を添加して室温で6時間撹拌して、低粘度化処理を行った。オゾン及び過酸化水素の使用量は、それぞれ、オゾン濃度6g/L(酸化されたセルロース系原料の絶乾質量の0.6倍に相当)、過酸化水素濃度3g/L(酸化されたセルロース系原料の絶乾質量の0.3倍に相当)とした。この処理で得た水分散液を用いて実施例1の工程Cを実施し、ナノファイバー分散液を得て評価した。結果を表1に示す。
【0070】
[比較例4]
実施例1の工程Aで得た酸化されたセルロース系原料に、0.1Nの塩酸水溶液を加えてpH2.8の5%(w/v)水分散液を調製した。工程Bを実施せずに、当該水分散液を90℃で2時間撹拌して酸加水分解処理した。塩酸の添加量は、酸化されたセルロース系原料に対して0.1質量%となるようにした。この処理で得た水分散液を用いて実施例1の工程Cを実施し、ナノファイバー分散液を得て評価した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
表1及び2の結果より、酸化されたセルロース系原料をアルカリ性溶液中で加水分解する工程Bを実施した実施例1〜17では、工程Bを実施しない比較例1〜4に比べて、低粘度で透明度が高い水分散液を与えるセルロースナノファイバーを、低い消費電力で製造できることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セルロース系原料を、(a1)N−オキシル化合物、及び(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、(a3)酸化剤を用いて酸化する工程、
(B)前記工程Aで得た酸化セルロース系原料を、pH8〜14のアルカリ性溶液中で加水分解する工程、ならびに
(C)前記工程Bで得た加水分解された酸化セルロース系原料を含む分散液を調製し、当該加水分解された酸化セルロース系原料を分散媒中に分散させながら解繊してナノファイバー化する工程、
を含む、セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
前記工程Bにおいて、前記アルカリ性溶液中に酸化剤または還元剤を添加する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程Bにおける加水分解を、温度40〜120℃の条件下で、0.5〜24時間行なう、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程Bで用いる分散液中の前記酸化セルロース系原料の濃度が1〜50%(w/v)である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記セルロース系原料が、広葉樹由来のセルロース系原料である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2012−214717(P2012−214717A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−58148(P2012−58148)
【出願日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】