説明

セルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法及びセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルム及び非水二次電池用セパレータ

【課題】高い突刺し強度等を有するセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法、セルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルム及び非水二次電池用セパレータの提供。
【解決手段】セルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法は、少なくともセルロースナノファイバーとポリオレフィン樹脂を溶融混練して前記セルロースナノファイバーをポリオレフィンに分散させる第1工程、前記第1工程で得られた混練物から水分を除去する第2工程、前記セルロースナノファイバーとポリオレフィンに可塑剤を混合し溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る第3工程、前記ポリオレフィン樹脂組成物を押出成形する第4工程、前記第4工程で得られた押出成形体を延伸しフィルム化する第5工程、前記フィルム中から可塑剤を抽出する第5工程からなる方法によりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法及びセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルム及び非水二次電池用セパレータに関し、特に、ポリオレフィン樹脂にセルロースナノファイバーを分散させて微多孔延伸フィルムを得るための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、リチウムイオン電池用セパレータは大別すると湿式法と乾式法の2つのプロセスにより製造されて来た。このうち、本発明は湿式法に分類される。この湿式法の一般的製造プロセスは、まず高分子ポリエチレンに可塑剤であるパラフィンを約60〜80重量部混入して二軸押出機中で相溶化温度以上に加熱した後、シート形成用キャスティングロールで冷却することで相分離構造を有するシートを製作する。次いで、シートを融点以下で加熱しながら延伸することで通気性とシート強度を確保し、その後、有機溶剤を使用してパラフィンを除去・乾燥し、さらに最後に延伸温度より少し高い温度でアニールする事でシート残留応力を除去し、必要なセパレータ特性を発現させている。
【0003】
前述のセパレータにおいて、基本的なセパレータ特性のうち、強度と熱特性を改善するために提案されたものとして特許文献1の非水電解液電池並びに非水電解液電池用セパレータ及びその製造方法が例示される。該特許で例示されている無機粉体は酸化チタン、酸化アルミニウム、チタン酸カリウム等であり、無機繊維は平均繊維径0.1〜20μm、平均繊維長0.1〜数10mmのものが挙げられており、セパレータ特性向上効果が説明されている。また、同様に特許文献2のガラス繊維織物補強ポリオレフィン微多孔膜はガラス繊維を複合化した例であり、特許文献3のリチウムイオン二次電池用セパレータ及びこれを用いた電池は不織布に無機フィラーを応用した例、特許文献4の電池用セパレータその製造方法および電池はポリプロピレンとの複合化例であり、いずれも機械的特性と熱的特性を改善した例である。特許文献5のナノ繊維の製造方法、ナノ繊維、混合ナノ繊維、複合化方法、複合材料および成形品は本願特許に使用可能なセルロース製造プロセスと装置に関する特許である。
【0004】
尚、ここで従来のセパレータの基本的な機能について説明する。リチウムイオン電池用のセパレータは正負極間に位置し、連通微細孔に電解液を保持した状態で存在する。負荷をかけた時に正極のリチウムイオンは電子を残して電解液中に電離し、セパレータの微細孔を通過して負極に到達し、カーボン格子間に貯蔵される。この時、電子は回路を通って負荷へ運ばれるが、セパレータは正負極間で短絡しないように絶縁体であることが必要である。また、リチウムイオン電池で使用されるセパレータには、両極間のイオン伝導を妨げないこと、電解液を保持できること、電解液に対して耐性を有すること等が求められる。電極捲回時における巻き締まりや充放電時の電極の膨張・収縮による圧力、あるいは電池を落下させたときの衝撃などでのセパレータの破膜を防止するためにも、高い突刺し強度が求められている。また、高い突刺し強度は、経時的にリチウムイオン電池が劣化すると、炭素負極にリチウムが析出し針状結晶化するため、セパレータを突破り正極と接触することで短絡を起こし、さらに異常発熱による暴走を引起すことに対しても重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−50287号公報
【特許文献2】特開2004−269579号公報
【特許文献3】特開2001−229908号公報
【特許文献4】特開平4−126352号公報
【特許文献5】特開2009−293167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、リチウムイオン電池は温度が130℃〜140℃に達した場合、暴走反応を引起す恐れがあるため、セパレータを無孔化させ、リチウムイオンの流れをシャットさせて、電池の暴走反応を防止する必要がある。しかしながら、セパレータを無孔化させる温度を低く設定するために、融点が低い原料を使用すると、微細孔の無孔化から収縮と溶融までの温度差が小さく、結局発熱暴走が収まらないうちにセパレータが溶融破膜し、正負極間の短絡(ショート)が起こることで暴走が進むことになる。このように、通常、シャットダウン特性と高温耐性はトレードオフの関係にあり、両立させることは極めて困難であった。
【0007】
これまでセパレータの耐熱性向上や強度向上には、前述した各特許文献1〜5に開示されているように、ポリエチレンとポリプロピレンのブレンドや積層を行う方法や、ガラス繊維やアラミド繊維等の強化繊維との複合化が提案されている。しかし、ポリエチレンとポリプロピレンのブレンドを原料とする場合は、それらを均一に混練することが困難で、特にポリエチレンの分子量を上げることが出来なかった。また、積層多孔フィルムはコストが高くなり実用的ではなかった。ガラス繊維やアラミド繊維は5μm以上の繊維径を有する一方、リチウムイオン電池用セパレータの厚さは5〜20μm程度しかないため、フィルムの製造工程でこれらの繊維が破断の原因や、あるいはフィルム表面凹凸の原因となることから上手く多孔フィルム化できず、従来の強化繊維を使用することは困難であった。また、一方、セパレータは絶縁性が必須であり強度向上に対して炭素繊維の使用はできないなどの問題点もあった。
【0008】
本発明は、前述の従来の課題を解決するためになされたもので、特に、ポリエチレンに代表されるポリオレフィンと微細なセルロースナノファイバーとを複合化することで、リチウムイオン電池用セパレータとして要求される機械的、熱的特性のうち、特に突刺し強度とショート温度の改善を、同時に行う事を目的としている。さらに、これまで特性向上のために行われてきた耐熱性物質の塗布や不織布の使用では製造工程が増えコストが嵩むため、今後自動車用やインフラ用に利用するために求められるコストダウンを可能とするもので、また、セルロースは廃棄時にも環境調和性が高く材料としても賦存量も多い事が利点である。
また、本発明は、高い突刺し強度を有し、シャットダウン特性、シャットダウン後の高温耐性の両方に優れた、リチウム電池用セパレータとしても好適な微多孔フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法は、少なくとも表面をモノエステル化処理したセルロースナノファイバーとポリオレフィン樹脂を溶融混練して前記セルロースナノファイバーとポリオレフィンに分散させる第1工程、前記第1工程で得られた混練物から水分を除去する第2工程、前記セルロースナノファイバーとポリオレフィンに可塑剤を混合し溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る第3工程、前記ポリオレフィン樹脂組成物を押出成形する第4工程、前記第4工程で得られた押出成形体を延伸しフィルム化する第5工程、前記フィルム中から可塑剤を抽出する第5工程からなる方法であり、また、前記セルロースナノファイバーとポリオレフィン樹脂は、スラリー状に水分散され、前記可塑剤を抽出後に前記ポリオレフィン樹脂の融点以下の温度で前記フィルムを延伸しつつ熱固定を行う方法であり、また、前記フィルムの膜厚は5μm以上50μm以下の範囲とした方法であり、また、前記フィルムは、単層又は多層よりなり、前記多層の場合は、少なくとも一層に前記セルロースナノファイバーを含むようにした方法であり、また、前記フィルムの透気度は、50秒/100cc以上1000秒/100cc以下の範囲とした方法であり、また、前記セルロースナノファイバーの配合比は、0.01wt%から5wt%とした方法であり、また、本発明によるセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムは、請求項1ないし6の何れかに記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法によって製造された構成であり、また、本発明による非水二次電池用セパレータは、請求項7記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィンフィルムからなる構成である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法及びセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルム及び非水二次電池用セパレータは、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、少なくとも表面をモノエステル化処理したセルロースナノファイバーとポリオレフィン樹脂を溶融混練して前記セルロースナノファイバーとポリオレフィンに分散させる第1工程、前記第1工程で得られた混練物から水分を除去する第2工程、前記セルロースナノファイバーとポリオレフィンに可塑剤を混合し溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る第3工程、前記ポリオレフィン樹脂組成物を押出成形する第4工程、前記第4工程で得られた押出成形体を延伸しフィルム化する第5工程、前記フィルム中から可塑剤を抽出する第5工程からなることを特徴とするセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法を用いるため、セルロースナノファイバーをポリオレフィンに混合して複合化することで、従来のセパレータと比較し機械強度及び熱特性が改善され、安全性が向上した製品とすることが可能となる。また、比較的低分子量で混練が容易な低分子量のポリオレフィンを使用することが可能で、製造が困難な高分子量の製品特性が得られるため、コスト低減も期待でき、かつ環境調和性が高く、工業的に大きな効果が期待される。
また、セルロースナノファイバーの混合により、高い突刺し強度の向上が得られる。また、低融点ポリマーを配合した場合には、シャットダウン特性(低温での無孔化)及び高温ポリマー溶解に対してはセルロースナノファイバーの混合により、シャットダウン後の高温耐性を得ることができる。
また、前記フィルムの膜厚は5μm以上50μm以下の範囲であることにより、機械的強度を十分に得ることができる。
また、前記フィルムは、単層又は多層よりなり、前記多層の場合は、少なくとも一層に前記セルロースナノファイバーが含まれていることにより、十分な機械的強度及び高い突刺し強度を得ることができる。
また、前記フィルムの透気度は、50秒/100cc以上1000秒/100cc以下の範囲であることにより、十分な充放電特性を得ることができる。
また、前記セルロースナノファイバーの配合比は、0.01wt%から5wt%であることにより、繊維同士が絡み易く、少ないセルロースナノファイバー量で絶縁の維持ができる。
また、請求項1ないし6の何れかに記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法によって製造されたことにより、前述の製造方法と同様の効果を有するフィルムを得ることができる。
また、請求項7記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィンフィルムを用いることにより、前述の製造方法と同様の効果を有するフィルムを用いた非水二次電池用セパレータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明におけるフィルムの延伸状況を示す構成図である。
【図2】本発明におけるセルロースナノファイバー(原料はアビセル)複合セパレータSEMイメージである。
【図3】本発明で試作したフィルムのDSCデータである。
【図4】本発明におけるフィルムのDSCによる熱固定効果の比較データである。
【図5】本発明で用いる孔閉塞温度と破膜温度を測定する測定装置の概略正面構成図である。
【図6】図5の側面図である。
【図7】比較例2と実施例5のTG−DTA計測データである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ポリオレフィン樹脂にセルロースナノファイバーを分散させて微多孔延伸フィルムを得ることを目的とする。
【実施例】
【0013】
以下、図面と共に本発明によるセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法及びセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルム及び非水二次電池用セパレータの好適な実施の形態について説明する。
まず、本発明におけるポリオレフィン樹脂は、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形等に使用するポリオレフィン樹脂をいい、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のホモ重合体及び共重合体、多段重合体等を使用することができる。また、これらのホモ重合体及び共重合体、多段重合体の群から選んだポリオレフィンを単独、もしくは混合して使用することもできる。前記重合体の代表例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。本発明の微多孔膜を電池セパレータとして使用する場合、低融点であり、かつ高強度の要求性能から、特に高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂を使用することが好ましく、シャットダウン性等の点から、樹脂成分の50重量%以上をポリエチレン樹脂が占めることが好ましい。またポリオレフィンの分子量が100万以上の超高分子量ポリオレフィンが10重量部を超すと均一に混練することが困難となることから10重量部以下であることが好ましい。
また、本発明に使用するセルロースナノファイバーは繊維径がナノオーダーで、繊維表面に存在する水酸基の一部が多塩基酸モノエステル化されたセルロースナノファイバーを使用する事で、ポリオレフィンとの均一分散性が高く、混練とシート化が容易で且つ、従来のセパレータ特性より優れた機械的、熱的特性を有するセパレータを提供できるものである。
【0014】
以下、本発明の各実施例について説明する。しかし、本発明はこれらの実施例等により何ら限定されるものではない。尚、本発明の微多孔延伸フィルムについての諸特性は次の試験方法により評価した。
(A)膜厚と空孔率:膜厚はサンプルを50×50mm角に切出し、マイクロゲージを用いてシートの各部25点を計測し、平均値を膜厚とした。空孔率はシートの実測重量と密度と体積から算出した理論重量より算出した。
(B)ガーレ値:ガーレ値の測定には、ガーレー式自動計測機(TESTING MACHINES INC社製:58-03-01キット)を用いて測定した。本測定は、JIS P8177に規定されているとおり、100ccの空気がシートを通過するまでに要する時間をガーレ値とした。
(C)突刺し強度:突刺強度の測定には、自動化突刺し強度計(カトーテック社製:KES-FB3-AUTO)を用いて計測を行った。作製したシートを50mm四角形に切り出し、5mm間隔で各位置の突刺強度を算出して各シートの平均値を求めた。
(D)DSC(Differential Scanning Calorimeter):DSC(エスアイアイ・ナノテクノロジー(SII)社製220C)を用いてシートを10mgに切出し、計測を行った。
(E)ヒューズ(SD)温度、ショート(MD)温度:図5及び図6にSD温度、MD温度の測定装置概略図を示す。微多孔フィルム(1)には規定の電解液が含浸されており、(B)に示すようにNi箔上に固定されている。微多孔フィルムを挟むような形でNi箔を重ね合わせ、さらにその両側からガラス板によって挟み込み、熱電対をガラス板に固定する。25℃から200℃まで2℃/minの速度にて昇温させ、連続的に温度と電気抵抗値を測定する。電気抵抗値は、1kHzの交流にて測定する。シャットダウン温度及び破膜温度とは電気抵抗値が103Ωに達する時の温度と定義して求めた。
(F)FE−SEM観察:作製したシートはイオンスパッタ装置(エリオクス社製ESC-101)を使用し、約3mmの厚さでプラチナ蒸着を行い、FE−SEM(JEOL社製JSM-7000F)を使用して表面をミクロ観察した。
(G)熱天秤計測:TG−DTA(エスアイアイ・ナノテクノロジー(SII)社製220u)を用いてシートを10mgに切出し、計測を行った。尚、リファレンスはアルミナを使用し、昇温速度10℃/minで30℃〜500℃までの範囲で計測した。
【0015】
(実施例1)
まず、セルロースナノファイバー原料としてセルロース微粉末(日本ケミカル(株)製KCフロックW400G)100重量部を反応装置として500mL容加圧ニーダを用い、無水コハク酸を5部加えて、140℃で40min反応させ、セルロースモノエステル化物を調整した(表1、原料No1)。次いで、得られたモノエステル化セルロースを水に溶解して5%の水スラリーを作製し、スターバーストミニラボ機((株)スギノマシン製)を用いて超高圧対抗衝突処理して0.5%の水スラリーとした。これとHDPE(プライムポリマー社7000F)を混合して蒸気ベント付き二軸押出機で溶融混練後、ストランドダイで押し出しペレタイズ化したセルロースナノファイバー複合ポリオレフィンプリブレンド材を製作した。その後、同プリブレンド材とパラフィンを重量比40%:60%になるように混合したものを小型ニーダーを使用し、表2の条件でパラフィンとの複合化を行ったのち、金型(100mmφ×1mmH)で冷却成型することでスピノーダル分解を誘起し、金型と同型の円形シートを作製した。次いで、同シートを小型延伸機で、延伸温度110℃、延伸速度8000mm/min、5×5倍に容易に同時二軸延伸を行いサンプルシートを作製した。延伸状況を図1に示した。作製したシートは塩化メチレンにて簡易脱脂及び乾燥を行ない、各種観察を行った。
なお、前記シート中から可塑剤を抽出後に、ポリオレフィン樹脂の融点以下の温度でシートを多少延伸しつつ収縮性を抑えるための熱固定を行うことができる。
また、前記小型延伸機は図1に示されている周知の延伸機または周知の特開2001−138394号等に開示されている構成を用いることができる。
【0016】
(実施例2)
実施例1の方法で、原料としてセルロース微粉末(KCフロックW400G)に相溶化材として無水マレイン酸変成ポリプロピレンを3%加え、計100重量とした(表1、原料No2)。得られたモノエステル化セルロースと水のスラリーは実施例1と同様の0.5%とした。
【0017】
(実施例3)
実施例1の方法で、原料としてセルロース微粉末(KCフロックW400G)100重量部とした(表1、原料No3)。得られたモノエステル化セルロースと水のスラリーを5%とした以外は、実施例1と同様である。
【0018】
(実施例4)
実施例1の方法で、原料としてセルロース微粉末(MERCK社製アビセル)100重量部を原料とした(表1、原料No4)。得られたモノエステル化セルロースと水のスラリーは実施例1同様0.5%とし、その他の条件も実施例1と同様とした。
【0019】
(実施例5)
実施例1の方法で、原料としてセルロース微粉末(KCフロックW400G)に高分子分散剤としてBYK−P4101(ビックケミー・ジャパン(株)製)を1%加え、計100重量部を原料とした(表1、原料No5)。得られたモノエステル化セルロースと水のスラリーは実施例1同様0.5%とし、その他の条件も実施例1と同様とした。
【0020】
(実施例6)
実施例1の方法で、原料としてセルロース微粉末(KCフロックW400G)に高分子分散剤としてBYK−P4101(ビックケミー・ジャパン(株)製)を1%加え、計100重量部を原料とした(表1、原料No6)。得られたモノエステル化セルロースと水のスラリーは実施例3と同様5%とし、その他の条件は実施例1と同様とした。
【0021】
(比較例1)
実施例の方法でセルロースを添加しないHDPEのみをパラフィンと混合して製作した原反はテーブルテンタで上手くシート化できなかった。そのため、比較材として三井ハイゼックスミリオン030S(分子量:50万)と145M(分子量:115万)をブレンドして、合計の分子量を57万とした原料と酸化防止剤(イルガフォス168)の混合して30重量部にし、パラフィン(モレスコ社製P350P)70重量部にしたものをTEX65((株)日本製鋼所製)の二軸押出機を使用して混練後、Tダイを通して原反を作製した。作製したシートを図1の小型延伸機で5×5倍に延伸後、パラフィンを塩化メチレンで簡易的に抽出し、特性を評価した。
【0022】
(比較例2)
一般的に製品として使用されている分子量100万程度の標準セパレータ特性を上記同様評価した。
【0023】
図2に実施例4のSEMイメージを示した。延伸条件の最適化が成されていないことから延伸ムラが見られるが、微細孔とセルロース繊維が観察される。また、セルロース繊維を核にポリエチレンが結晶化した様に見える部分も観察される。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
表3に6種の原料で製作したセパレータ特性を示した。延伸の最適化と熱固定がなされていないため、脱脂後に収縮が起こり原料1を除いてガーレ値が高く、空孔度が低い。しかし、延伸と熱固定の最適化条件を探索する必要はあるが、特にセルロースナノファイバーサンプルは比較のために分子量56万で延伸倍率MD5×TD5としたコントロールA材より強度が高いことが分かった。同様に、ポリエチレン平均分子量が100万程度のA社製の標準サンプルと比較しても突刺し強度が高いことが分かる。一般的に機械強度は分子量などの原料種類に対する依存性が大きく、また最適延伸されていない低分子量の該サンプル突刺し強度はコントロール材やA社標準サンプルより低いと予想されるが、該サンプルは全てコントロール材より強度が高い。これはセルロースナノファイバーの効果によるものであると考えられる。
【0027】
【表3】

【0028】
次に、セルロースナノファイバー複合材の熱特性改善効果を確認するために、DSCによる融点の比較を行ったものを図3に示した。図3のDSCピーク値温度を融点として表3に併記したが、ほとんどの試料は融点が130℃前後を示している中、原料4は融点が約140℃で他より高い結果となった。突刺し強度と同様にコントロール材と比較すると、融点はほぼ同じとなっている。シートの延伸を最適化し結晶化度を上げることでショート温度の改善につながると予想される。図4に簡易熱固定ありと無しのDSCデータを示した。簡易熱固定は小型延伸機でシート端部を拘束し120℃に加熱することで、延伸により生じた残留応力による収縮を緩和する効果がある。簡易的に熱固定を行った場合は熱固定無しに比べて融点温度が上がり、熱量ピーク位置が下がっていることが分かる。これは簡易熱固定により熱収縮を抑えたために、結果的にシートが延伸し結晶化が促進され、かつ残留応力の除去で熱収縮性が改善された事を示している。比較のために、原料4の原反のDSCパターンも併記したが、延伸前には融点およびピーク位置が低く、結晶性が低いことを示している。このように、延伸により結晶化が促進され耐熱性向上効果が認められることは既知であり、セルロースナノファイバー複合材で延伸条件の最適化を行えば耐熱性向上が十分期待される。また、同様に、通常セパレータに使用される、より高分子量のポリエチレンを使用した場合は、従来のものよりさらに耐熱性向上効果が期待され、熱収縮性の改善も期待される。
【0029】
図5及び図6にはシャットダウン温度、破膜温度の測定装置概略図を示す。微多孔フィルム10には規定の電解液が含浸されており、Ni箔11上に固定されている。微多孔フィルム10を挟むような形でNi箔11を重ね合わせ、さらにその両側からガラス板12によって挟み込み、熱電対13をガラス板に固定する。加熱炉14中で25℃から200℃まで2℃/minの速度にて昇温させ、連続的に温度と電気抵抗値を測定する。電気抵抗値は、1kHzの交流にて測定する。シャットダウン温度及び破膜温度とは電気抵抗値が103Ωに達する時の温度と定義して求めた。
計測結果を表4に示した。結果を見ると実施例1のシャットダウン温度は124.3℃、ショート温度は200℃以上となり、他より優れた特性を示した。表4で原料1はガーレ値と突刺し強度も分子量56万のコントロール材と同等以上の特性を示しており、特性バランスがとれた優れたセパレータと言える。その他も実施例6もショート温度は高いが、ガーレ値が高くバランスが悪い。ただ、ガーレ値を延伸および熱固定の最適化により改善すれば、セルロース複合化により熱的特性と機械特性が向上したセパレータを提供することが可能となる。
尚、図5中、15は記録計、16は電気抵抗測定装置、17は熱計測計である。
【0030】
【表4】

【0031】
尚、フィルム状のシート中のセルロース含有量を特定するために、実施例5と比較例2のシートをTG−DTAで計測した結果を図7に示した。DTAデータから、比較例2の標準サンプルは144℃付近で吸熱ピークが見られるが、実施例5では132℃付近にピークが見られる。このときTGデータを見ると重量減少は観察されないことから、融解による吸熱であると考えられ、両者に共通している。また、DTAデータで実施例5、比較例2それぞれに対して、490℃、500℃付近で吸熱が見られる。この時のTGデータは重量減少が見られるため、蒸発による現象であると考えられ、これも両者共通したものである。特異的なことは、実施例5ではTG−DTAデータ共に230℃付近から緩やかな重量減少と吸熱が観察された。これは添加剤の分解などによるものと推定される。最終的に、比較例は全ての物質が気化したが、実施例5は約2%の残渣が観察されたことから、セパレータ中の含有セルロースであると考えられる。
【0032】
また、セルロース特定方法としては上記とは別に、大過剰の熱トルエンに所定量の微多孔フィルムを添加し、攪拌、静置して、含まれていたセルロースナノファイバーのみを容器の底に沈降させた。デカンステーションで上澄み液(HDPE等のトルエン溶液)を廃棄し、新たな熱トルエンを添加、攪拌、静置という操作を数回繰り返し、最終的にろ過(または、遠心分離)によりセルロースナノファイバーを分離し、乾燥重量を測定したところ微多孔膜には0.05wt%のセルロースナノファイバーが含まれていることが知られた。(ただし、マトリックス樹脂に無水マレイン酸変性PPが添加されている組成の場合、該変性PPは、セルロースナノファイバーに化学的に結合しており、それは溶剤に溶かし出されないので、溶け残ったものの重量から、該変性樹脂の重量を差し引く必要がある。)
【0033】
この発明は繊維径が従来より微細なナノオーダーのセルロースファイバーを、セパレータとして一般的に使用されているポリエチレンなどのポリオレフィンと複合化することで、機械的特性と熱特性を改善し、かつシート化が容易で延伸条件の幅が広く、コスト低減につながるリチウムイオン電池用セパレータを提供することを可能としたものである。
【0034】
本発明の多孔フィルムは単層であっても多層であってもよく、多層フィルムの場合構成する少なくとも一層にセルロースナノファイバーが含まれていればよい。最終的な膜厚は5μm以上50μm以下の範囲が好ましい。膜厚が5μm以上であれば機械強度が十分であり、また、50μm以下であればセパレータの占有体積が減るため、電池の高容量化の点において有利となる傾向がある。本発明の多孔フィルムの透気度は50秒/100cc以上1000秒/100cc以下の範囲が好ましい。電池用セパレータとして使用した際に透気度が50秒/100cc以上では自己放電が少なく、1000秒/100cc以下では良好な充放電特性が得られる。
【0035】
前述の特許文献1(無機繊維の混合によるシャットダウン特性と高温耐性の効果の先例)との対比として、
特許文献1では配合した無機繊維によってポリマー溶融後の絶縁の維持するためには、繊維の配合比が少なくも20wt%必要だとしている。
本発明で用いるN−CeFはこれらの無機繊維よりさらに細くまた柔軟性があるので繊維同士が絡み易く、0.05wt%という無機繊維とN−CeFの比重差(4倍程度)を考慮しても格段に低い配合比でポリマー溶融後の絶縁の維持を実現している。また、添加繊維が少量で済むことのメリットとして、混練機スケールダウンやシステムコストを抑えることができる。尚、前記セルロースナノファイバーの含有量としては、TG−DTAの結果は2wt%程度の残渣であり、熱トルエンに溶解させる手法では、0.05wt%程度であることから、0.01wt%から5wt%程度可能であるが、好適な範囲としては0.05wt%から2wt%である。
また、原料自体のコストとして、現時点ではN−CeFは安価ではないが、将来の市場形成があればマスプロによる安値供給が期待できる。
【0036】
また、N−CeFの樹脂への直接混合に対して、
セパレータへの配合比として、より細い絶縁性の繊維を選択すべきことは既知であったが、N−CeFについては、セパレータ用の樹脂であるポリオレフィン系樹脂とN−CeFとをセパレータ作成工程に適合、すなわち、N−CeFが凝集しないように均質分散させ、かつ、延伸時の繊維と樹脂が分離しないこと、またセパレータの微細孔の形成を阻害しないこと等の要件を満たす混合条件が見出されていなかった。
この度、N−CeF表面をモノエステル化処理することによりこれらの要件を満たして、N−CeFを混合したセパレータの作成に成功し、期待されたN−CeF配合による突刺し強度の改善とポリマー溶融後の絶縁性の維持の実現を確認できた。
【0037】
前述の各実施例1から6の形態をまとめると、次の通りである。
表面をモノエステル化処理したセルロースナノファイバーとポリオレフィン樹脂を溶融混練して前記セルロースナノファイバーとポリオレフィンに分散させる第1工程、前記第1工程で得られた混練物から水分を除去する第2工程、前記セルロースナノファイバーとポリオレフィンに可塑剤を混合し溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る第3工程、前記ポリオレフィン樹脂組成物を押出成形する第4工程、前記第4工程で得られた押出成形体を延伸しフィルム化する第5工程、前記フィルム中から可塑剤を抽出する第5工程からなることを特徴とするセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法。
また、前記セルロースナノファイバーとポリオレフィン樹脂は、スラリー状に水分散され、前記可塑剤を抽出後に前記ポリオレフィン樹脂の融点以下の温度で前記フィルムを延伸しつつ熱固定を行うことを特徴とするセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法。
また、前記フィルムの膜厚は5μm以上50μm以下の範囲であることを特徴とするセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法。
また、前記フィルムは、単層又は多層よりなり、前記多層の場合は、少なくとも一層に前記セルロースナノファイバーを含まれていることを特徴とするセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法。
また、前記フィルムの透気度は、50秒/100cc以上1000秒/100cc以下の範囲であることを特徴とするセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法。
また、前記セルロースナノファイバーの配合比は、0.05wt%であることを特徴とするセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法。
また、請求項1ないし6の何れかに記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とするセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルム。
また、請求項7記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィンフィルムからなることを特徴とする非水二次電池用セパレータである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、ポリオレフィン樹脂にセルロースナノファイバーを分散させることにより、セルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法及びセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルム及び非水二次電池用セパレータを得ることができる。
【符号の説明】
【0039】
10 微多孔フィルム
11 Ni箔
12 ガラス板
13 熱電対
14 加熱炉
15 記録計
16 電気抵抗測定装置
17 熱計測計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面をモノエステル化処理したセルロースナノファイバーとポリオレフィン樹脂を溶融混練して前記セルロースナノファイバーとポリオレフィンに分散させる第1工程、前記第1工程で得られた混練物から水分を除去する第2工程、前記セルロースナノファイバーとポリオレフィンに可塑剤を混合し溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る第3工程、前記ポリオレフィン樹脂組成物を押出成形する第4工程、前記第4工程で得られた押出成形体を延伸しフィルム化する第5工程、前記フィルム中から可塑剤を抽出する第5工程からなることを特徴とするセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーとポリオレフィン樹脂は、スラリー状に水分散され、前記可塑剤を抽出後に前記ポリオレフィン樹脂の融点以下の温度で前記フィルムを延伸しつつ熱固定を行うことを特徴とする請求項1記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記フィルムの膜厚は5μm以上50μm以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記フィルムは、単層又は多層よりなり、前記多層の場合は、少なくとも一層に前記セルロースナノファイバーを含まれていることを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記フィルムの透気度は、50秒/100cc以上1000秒/100cc以下の範囲であることを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記セルロースナノファイバーの配合比は、0.01wt%から5wt%であることを特徴とする請求項1ないし5の何れかに記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れかに記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とするセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルム。
【請求項8】
請求項7記載のセルロースナノファイバー入りポリオレフィン微多孔延伸フィルムからなることを特徴とする非水二次電池用セパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−56958(P2013−56958A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194754(P2011−194754)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度 独立行政法人科学技術振興機構研究成果最適展開支援事業フィージビリティスタディステージ探索タイプ、「セルロースナノファイバー複合化ポリオレフィンのリチウムイオン電池用セパレータへの適用検討」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】