説明

セルロース分解促進剤及びその用途

【課題】セルラーゼの活性増強に有用な新規物質及びその用途等を提供することを課題とする。
【解決手段】セルロース分解促進活性を示すポリペプチドをリゾプス(Rhizopus)属及びムコール(Mucor)属微生物が産生することが判明した。当該ポリペプチドを含むセルロース分解促進剤が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロース分解促進剤及びその製造方法、並びにセルロース分解促進剤の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは地球上で最も存在料が多い有機物であり、グルコース分子がβ−1,4結合で直鎖状に重合した構造を有する。近年、バイオマスとしてセルロースが注目されている。特に、セルロースを原料としたエタノールの製造技術の開発が精力的に進められている。
【0003】
セルロースの分解法の一つではセルラーゼが利用されるが、木質系材料を用いた場合等ではセルラーゼ単独では分解効率が低いことから、分解活性の高いセルラーゼの探索や、セルラーゼの活性を高める工夫が行われてきた。その成果として、これまでにスウォレニンに代表されるセルロース分解促進物質が見出されている(例えば特許文献1〜3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−509546号公報
【特許文献2】特開2009−207368号公報
【特許文献3】特許第42610044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地球温暖化等の環境問題やエネルギーの安定供給に対する関心が高まりを見せる中、セルロース材料を有効活用する技術へのニーズは大きい。セルロース材料を有効活用するためには効率的にセルロースを分解することが必要となるが、過去に様々な研究グループによってセルラーゼの探索が行われていることから、これまでに報告されたセルラーゼよりも特性の優れたセルラーゼが見出される可能性は高いとはいえない。しかも、数多くのセルラーゼが利用可能な現在においては、これらのセルラーゼの活用を図るという意味においても、新規セルラーゼではなく、むしろセルラーゼの作用を増強する効果(相乗的効果)を発揮する物質の提供が望まれるところである。そこで本発明は、セルロースの分解促進に有用な新規物質及びその用途等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、セルラーゼの活性を増強し得る物質を見出すべく、膨大な数の微生物を対象としてスクリーニングを実施した。その際、既存の増強物質(例えば特許文献1〜3を参照)にはそれ自体がセルロース分解活性を有するものが多いことに注目し、セルロース分解促進活性という指標に加え、それ自体が有するセルロース分解活性を指標とし、各微生物が産生する物質を評価した。また、自然界におけるバイオマス分解が微生物による、いわゆる「固体培養」で行われていることから、バイオマス分解に必要な酵素や因子は液体培養した場合よりも固体培養した方が豊富に産生されると考え、固体培養による評価系を採用した。
【0007】
スクリーニングの結果、所望の特性の物質をリゾプス(Rhizopus)属及びムコール(Mucor)属の微生物が産生することが判明するとともに、特に活性の高い物質を産生する微生物株が特定された。更に検討を進めた結果、有用性が高いと期待される当該物質は既存の各種セルラーゼに対して相乗的効果を示し、汎用性に優れることが明らかとなった。以下に示す本発明は主としてこれらの成果に基づく。
[1]リゾプス(Rhizopus)属又はムコール(Mucor)属微生物が産生するポリペプチドであって、セルロース分解促進活性を示すポリペプチド、を含むセルロース分解促進剤。
[2]前記リゾプス属微生物がリゾプスオリゼ(Rhizopus oryzae)及びリゾプスミクロスポラス変種キネンシス(Rhizopus microsporus var. chinensis)からなる群より選択される種の微生物であり、前記ムコール属微生物がムコールプルムベウス(Mucor plumbeus)、ムコールサルシネロイデス品種サルシネロイデス(Mucor circinelloides f. circinelloides)、ムコールラセモサス(Mucor racemosus)、ムコールサブチリシムス(Mucor subtilissimus)及びムコールラマンニアヌス(Mucor ramannianus)からなる群より選択される種の微生物である、[1]に記載のセルロース分解促進剤。
[3]前記リゾプス属微生物が受領番号:NITE ABP−945で特定されるリゾプスオリゼであり、前記ムコール属微生物がムコールサルシネロイデス品種サルシネロイデスNBRC4570又は受領番号:NITE ABP−946で特定されるムコールラセモサスである、[1]に記載のセルロース分解促進剤。
[4]前記ポリペプチドが以下の性質を備える、[1]に記載のセルロース分解促進剤:
分子量: 約35kDa(SDS-PAGEによる)。
[5]前記ポリペプチドはセルロース分解活性が低い、[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロース分解促進剤。
[6]前記ポリペプチドがセルロース分解活性を実質的に有しない、[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロース分解促進剤。
[7]以下の計算式で算出される相乗効果比が、前記ポリペプチドでは1.2〜2.5である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロース分解促進剤:
相乗効果比=(セルラーゼと前記ポリペプチドの共存下でのセルロース分解活性)/{(前記ポリペプチド単独でのセルロース分解活性)+(セルラーゼ単独でのセルロース分解活性)}
[8]前記ポリペプチドはβ−グルコシダーゼ活性が低い、[1]〜[7]のいずれか一項に記載のセルロース分解促進剤。
[9]前記ポリペプチドがβ−グルコシダーゼ活性を実質的に有しない、[1]〜[7]のいずれか一項に記載のセルロース分解促進剤。
[10]前記微生物の培養産物又は培養抽出液からなる、[1]〜[9]のいずれか一項に記載のセルロース分解促進剤。
[11]セルラーゼを更に含有する、[1]〜[10]のいずれか一項に記載のセルロース分解促進剤。
[12]以下のステップ(1)及び(2)を含む、セルロース分解促進剤の製造法:
(1)セルロース分解促進活性を示すポリペプチドを産生するリゾプス(Rhizopus)属又はムコール(Mucor)属微生物を、該ポリペプチドが産生される条件下で培養するステップ;
(2)培養産物から前記ポリペプチドを回収するステップ。
[13]ステップ(1)に使用する培地がセルロース含有固体培地である、[12]に記載の製造法。
[14]ステップ(2)が、ステップ(1)後の培地に溶媒を添加した後、固体成分を除去することを含む、[13]に記載の製造法。
[15]固体成分を除去した後、前記ポリペプチドを精製する、[14]に記載の製造法。
[16]前記リゾプス属微生物がリゾプスオリゼ(Rhizopus oryzae)及びリゾプスミクロスポラス変種キネンシス(Rhizopus microsporus var. chinensis)からなる群より選択される種の微生物であり、前記ムコール属微生物がムコールプルムベウス(Mucor plumbeus)、ムコールサルシネロイデス品種サルシネロイデス(Mucor circinelloides f. circinelloides)、ムコールラセモサス(Mucor racemosus )、ムコールサブチリシムス(Mucor subtilissimus)及びムコールラマンニアヌス(Mucor ramannianus)からなる群より選択される種の微生物である、[12]〜[15]のいずれか一項に記載の製造法。
[17]前記リゾプス属微生物が受領番号:NITE ABP−945で特定されるリゾプスオリゼであり、前記ムコール属微生物がムコールサルシネロイデス品種サルシネロイデスNBRC4570又は受領番号:NITE ABP−946で特定されるムコールラセモサスである、[12]〜[15]のいずれか一項に記載の製造法。
[18][1]〜[11]のいずれか一項に記載のセルロース分解促進剤の存在下、セルロース材料をセルラーゼで処理することを特徴とする、セルロース分解法。
[19]セルラーゼがトリコデルマ属、アスペルギルス属又はアクレモニウム属由来のセルラーゼである、[18]に記載のセルロース分解法。
[20][18]又は[19]に記載のセルロース分解法により生成した糖をエタノール変換するステップを含む、エタノールの製造法。
[21]セルラーゼによる前記処理と前記エタノール変換を並行して行うことを特徴とする、[20]に記載のエタノールの製造法。
[22]受領番号:NITE ABP−945で特定されるリゾプスオリゼ又は受領番号:NITE ABP−946で特定されるムコールラセモサスである、セルロース分解促進活性を示すポリペプチドを産生する微生物。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】セルラーゼT「アマノ」4単独、被験サンプル単独及び両者共存下における還元糖濃度の平均値を示した図である。
【図2】セルラーゼT「アマノ」4によるセルロース分解活性を促進するリゾプスオリゼAPC3504株培養抽出液由来のフラクションについてSDS-PAGEを行い、CBBで染色したゲルを示す。レーン1:分子量マーカー、レーン2:相乗効果を示したフラクション。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(用語)
本明細書において用語「単離された」は「精製された」と交換可能に使用される。本発明のポリペプチドに関して使用する場合の「単離された」とは、本発明のポリペプチドが天然材料に由来する場合、当該天然材料の中で当該ポリペプチド以外の成分を実質的に含まない(特に夾雑タンパク質を実質的に含まない)状態をいう。具体的には例えば、本発明の単離されたポリペプチドでは、夾雑タンパク質の含有量は重量換算で全体の約20%未満、好ましくは約10%未満、更に好ましくは約5%未満、より一層好ましくは約1%未満である。
【0010】
「セルロース分解促進剤」とは、セルラーゼと併用した場合にセルラーゼの作用、即ちセルロース分解作用(活性)を促進する物質又は組成物をいう。本発明では微生物由来のポリペプチドがセルロース分解促進剤を構成する。特に言及しない限り、本明細書において単に「ポリペプチド」と表記した場合には、セルロース分解促進活性を示すポリペプチドのことを意味する。尚、本明細書においてセルロース分解促進剤の作用ないし効果を「セルロース分解促進活性」又は「相乗効果」と呼ぶ。
【0011】
1.セルロース分解促進剤
本発明の第1の局面はセルロース分解促進剤に関する。本発明のセルロース分解促進剤は、リゾプス(Rhizopus)属又はムコール(Mucor)属微生物が産生するポリペプチドを有効成分とする。当該ポリペプチドはセルロース分解促進活性を示す。後述の実施例に示す通り、本発明者らによる大規模なスクリーニングの結果、リゾプス(Rhizopus)属の微生物である、リゾプスオリゼ(Rhizopus oryzae)及びリゾプスミクロスポラス変種キネンシス(Rhizopus microsporus var. chinensis)がセルロース分解促進活性に優れたポリペプチドを産生することが明らかとなった。この知見に基づき本発明の好ましい一態様では、リゾプス(Rhizopus)属の微生物がこれらの中のいずれかである。一方、ムコール(Mucor)属の微生物である、ムコールプルムベウス(Mucor plumbeus)、ムコールサルシネロイデス品種サルシネロイデス(Mucor circinelloides f. circinelloides)、ムコールラセモサス(Mucor racemosus)、ムコールサブチリシムス(Mucor subtilissimus)及びムコールラマンニアヌス(Mucor ramannianus)がセルロース分解促進活性に優れたポリペプチドを産生することが明らかとなった。この知見に基づき本発明の好ましい一態様では、ムコール(Mucor)属の微生物がこれらの中のいずれかである。尚、リゾプスオリゼAPC3504及びムコールラセモサスAPC4090は以下の通り所定の寄託機関に寄託されており、容易に入手可能である。ムコールサルシネロイデス品種サルシネロイデス(Mucor circinelloides f. circinelloides)NBRC4570についてはNRBCカルチャーコレクション(独立行政法人 製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門、〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に保管された菌株であり、独立行政法人 製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門(NBRC)より、所定の手続きを経ることによってその分譲を受けることができる。
(リゾプスオリゼAPC3504)
寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)
寄託日(受領日):2010年5月21日
受領番号:NITE ABP−945
【0012】
(ムコールラセモサスAPC4090)
寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)
寄託日(受領日):2010年5月21日
受領番号:NITE ABP−946
【0013】
以下の通り本発明者らは、リゾプスオリゼAPC3504が産生するポリペプチドの分子量を明らかにした(詳細は後述の実施例の欄に記載する)。
分子量: 約35万Da(SDS-PAGEによる)
【0014】
本発明のセルロース分解促進剤を構成するポリペプチドはセルラーゼの作用を増強するという特徴を備える。即ち、本発明に係るポリペプチドはセルラーゼに関して相乗効果を示す。当該特徴を本明細書では「セルロース分解促進活性」と呼ぶ。セルロース分解促進活性の程度は以下の計算式で算出される相乗効果比によって表すことができる。尚、セルロース分解活性は後述の実施例に示す方法で求めることができる。
相乗効果比=(セルラーゼと被験ポリペプチドの共存下でのセルロース分解活性)/{(被験ポリペプチド単独でのセルロース分解活性)+(セルラーゼ単独でのセルロース分解活性)}
【0015】
本発明に係るポリペプチドの相乗効果比は好ましくは1.2〜3.0であり、更に好ましくは1.2〜2.5である。
【0016】
本発明のセルロース分解促進剤を構成するポリペプチドの特徴の一つはセルロース分解活性が低いことである。即ち、本発明に係るポリペプチドは、それ自体のセルロース分解活性は高くないが、セルラーゼと併用した場合に相乗的な効果を発揮し、セルロースの分解を促進する。好ましい態様では、本発明に係るポリペプチドはセルロース分解活性を実質的に有しない。尚、セルロース分解活性は後述の実施例に示した方法によって評価することができ、「セルロース分解活性が低い」とは、当該方法で算出した活性比が0.2以下の場合をいい、「セルロース分解活性を実質的に有しない」とは、同活性比が0〜0.1の場合(測定誤差によりマイナスの値を示す場合も想定される)をいう。
【0017】
本発明のセルロース分解促進剤を構成するポリペプチドは好ましくはβ−グルコシダーゼ活性が低い。好ましい態様では、本発明に係るポリペプチドはβ−グルコシダーゼ活性を実質的に有しない。尚、β−グルコシダーゼ活性は後述の実施例に示した方法によって評価することができ、「β−グルコシダーゼ活性が低い」とは、当該方法で算出したβ−グルコシダーゼ活性が1U/mL以下の場合をいい、「β−グルコシダーゼ活性を実質的に有しない」とは、同β−グルコシダーゼ活性が0〜0.2U/mLの場合(測定誤差によりマイナスの値を示す場合も想定される)をいう。
【0018】
本発明のセルロース分解促進剤を構成するポリペプチドとして、相乗効果比が高く且つそれ自体のセルロース分解活性が低いという点において、リゾプスオリゼAPC3504が産生するポリペプチドは特に有用であるといえる。同様に、β-グルコシダーゼ活性が低いという点において、ムコールラセモサスAPC4090が産生するポリペプチドは特に有用であるといえる。
【0019】
本発明のセルロース分解促進剤は、有効成分(ポリペプチド)の他、賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水などを含有していてもよい。賦形剤としてはデンプン、デキストリン、マルトース、トレハロース、乳糖、D-グルコース、ソルビトール、D-マンニトール、白糖、グリセロール等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としてはエタノール、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
【0020】
一態様では、本発明のセルロース分解促進剤はセルラーゼを含有する。即ち、セルロース分解促進活性を示すポリペプチドに加えてセルラーゼを含有した組成物として提供される。セルラーゼは任意に選択可能である。ここで、「セルラーゼ」とはβ−1,4グルカンのグルコシド結合を加水分解する酵素である。使用するセルラーゼは特に限定されない。例えば、微生物由来のセルラーゼを用いることができる。微生物由来のセルラーゼとしてトリコデルマ属微生物由来のセルラーゼ(例えば明治製菓社製、ノボザイムズ社製、ジェネンコア社製、天野エンザイム社製)、アスペルギルス属微生物由来のセルラーゼ(例えばエイチビィアイ社製、天野エンザイム社製)、アクレモニウム属微生物由来のセルラーゼ(例えば明治製菓社製)等が知られている。天然の(野生型の)セルラーゼに限らず、組換え型のセルラーゼを用いることも可能である。また、二種以上のセルラーゼを併用してもよい。市販のセルラーゼないしセルラーゼ製剤を用いることにしてよい。市販のセルラーゼないしセルラーゼ製剤の例は、アクセルラーゼ(ジェネンコア社製)、NS22074(ノボザイムズ社製)、メイセラーゼ、アクレモザイム(明治製菓社製)、セルロシンAC(エッチビィアイ社製)、セルラーゼA、セルラーゼT(天野エンザイム社製)である。
【0021】
セルロース分解促進作用を示す物質(本発明に係るポリペプチド以外のセルロース分解促進剤)を更に含有させることもできる。当該物質として、スウォレニン、エクスパンシンを例示できる。
【0022】
一態様では、本発明のセルロース分解促進剤は、本発明に係るポリペプチドを産生する微生物の培養産物又は培養抽出液の形態で提供される。即ち、この態様においては、本発明に係るポリペプチド産生能を有する微生物を培養して得られる培養産物をそのまま或いは抽出工程(詳細はセルロース分解促進剤の製造法の欄を参照)に供した後、本発明のセルロース分解促進剤として利用する。精製工程(詳細はセルロース分解促進剤の製造法の欄を参照)を経たものを本発明のセルロース分解促進剤としてもよい。
【0023】
2.セルロース分解促進剤の製造法
本発明の更なる局面はセルロース分解促進剤の製造法を提供する。本発明の製造法ではセルロース分解促進活性を示すポリペプチドを産生するリゾプス(Rhizopus)属又はムコール(Mucor)属微生物を、該ポリペプチドが産生される条件下で培養するステップ(ステップ(1))及び培養産物から前記ポリペプチドを回収するステップ(ステップ(2))が行われる。
【0024】
ステップ(1)のリゾプス属微生物として、リゾプスオリゼ(Rhizopus oryzae)及びリゾプスミクロスポラス変種キネンシス(Rhizopus microsporus var. chinensis)からなる群より選択される種の微生物を用いると良い。好ましくはリゾプスオリゼAPC3504を用いる。一方、ムコール属微生物としては、ムコールプルムベウス(Mucor plumbeus)、ムコールサルシネロイデス品種サルシネロイデス(Mucor circinelloides f. circinelloides)、ムコールラセモサス(Mucor racemosus)、ムコールサブチリシムス(Mucor subtilissimus)及びムコールラマンニアヌス(Mucor ramannianus)からなる群より選択される種の微生物を用いると良い。好ましくは、ムコールラセモサスAPC4090を用いる。培養法及び培養条件は目的のポリペプチドが産生されるものである限り特に限定されない。即ち、セルロース分解促進活性を示すポリペプチドが産生されることを条件として、使用する微生物の培養に適合した方法や培養条件を適宜設定できる。以下、培養条件として培地、培養温度及び培養時間を例示する。
【0025】
培地としては、使用する微生物が生育可能な培地が採用される。例えば、グルコース、シュクロース、ゲンチオビオース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等の炭素源、更に硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、あるいは、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、肉エキス等の窒素源、更にカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩等の無機塩を添加したものを用いることができる。使用する微生物の生育を促進するためにビタミン、アミノ酸などを培地に添加してもよい。好ましくは、目的のポリペプチドの産生を誘導するため、セルロースを含有する培地を使用する。また、自然界におけるバイオマス分解の環境に近い環境にすることで目的のポリペプチドの産生効率を高めるため、固体培地を使用するとよい。培地のpHは例えば約3〜8、好ましくは約5〜7程度に調整し、培養温度は通常約10〜50℃、好ましくは約25〜35℃程度で、1〜15日間、好ましくは3〜7日間程度好気的条件下で培養する。培養法としては例えば静置培養、振盪培養法、ジャー・ファーメンターによる好気的深部培養法が利用できる。
【0026】
以上の条件で培養した後、培養産物から目的のポリペプチドを回収する(ステップ(2))。固体培養を採用した場合には、例えば、培養後の培地に溶媒(水、生理食塩水、緩衝液など)を添加した後、必要に応じて攪拌する。そして、所定時間経過後、固体成分を除去し、培養抽出液とする。固体成分の除去にはフィルターろ過、遠心処理などを利用できる。このようにして得られた培養抽出液はそのまま(即ち、特別の処理を施すことなく)、又は追加の処理を経た後、本発明のセルロース分解促進剤として利用される。ここでの「追加の処理」の例は、菌体の破砕(加圧処理、超音波処理など)、濃縮(限外ろ過膜による濃縮など)、精製(塩析、各種クロマトグラフィーなど)、他の成分の添加、希釈及び乾燥である。追加の処理として、二以上の処理を行うことにしてもよい。最終的な形態は液体状であっても固体状(粉体状を含む)であってもよい。
【0027】
3.セルロース分解促進剤の用途
本発明の更なる局面は上記セルロース分解促進剤の用途を提供する。本発明が提供する用途の一つはセルロース分解法である。本発明のセルロース分解法では、上記セルロース分解促進剤の存在下、セルロース材料をセルラーゼで処理するステップを行う。この際の処理条件は原則、使用するセルラーゼが良好に作用する条件(好ましくは至適条件)とすればよい。但し、セルロース分解促進剤の効果が高まる条件を考慮して処理条件を調整するとよい。このような調整は処理対象のセルロース材料と、使用するセルラーゼとを用いた予備実験を通して容易に特定することができる。尚、処理条件の例を示せば、温度が30℃以上70℃以下、pHが2以上6以下程度、処理時間が1時間以上24時間以下程度である。処理条件は特に限定されない。
【0028】
使用するセルラーゼは特に限定されない。例えば、微生物由来のセルラーゼを用いることができる。微生物由来のセルラーゼとしてトリコデルマ属微生物由来のセルラーゼ(例えば明治製菓社製、ノボザイムズ社製、ジェネンコア社製、天野エンザイム社製)、アスペルギルス属微生物由来のセルラーゼ(例えばエイチビィアイ社製、天野エンザイム社製)、アクレモニウム属微生物由来のセルラーゼ(例えば明治製菓社製)等が知られている。天然の(野生型の)セルラーゼに限らず、組換え型のセルラーゼを用いることも可能である。また、二種以上のセルラーゼを併用してもよい。市販のセルラーゼないしセルラーゼ製剤を用いることにしてよい。市販のセルラーゼないしセルラーゼ製剤の例はアクセルラーゼ(ジェネンコア社製)、NS22074(ノボザイムズ社製)、メイセラーゼ、アクレモザイム(明治製菓社製)、セルロシンAC(エッチビィアイ社製)、セルラーゼA、セルラーゼT(天野エンザイム社製)である。
【0029】
セルロース材料とは、構成成分の一つとしてセルロースを含む材料のことをいう。好ましくは、セルロースを主成分とする材料をセルロース材料として用いる。セルロースを含有する限り、木材に限らず、各種植物又はその加工・処理物(例えばトウモロコシ繊維、イネ藁、バガス、紙)、或いは一部の微生物が産生するセルロース(バクテリアセルロース)等をセルロース材料として採用することもできる。
【0030】
セルロース材料は必要に応じて前処理に供される。前処理の例は破砕、粉砕、蒸煮、熱処理、各種処理剤(アルカリ、有機溶媒、含水有機溶媒、二酸化硫黄など)による化学的処理、リグニン分解生物による処理である。
【0031】
本発明のセルロース分解促進剤を併用した処理の際に更に他のセルロース分解促進剤も使用することにしてもよい。他のセルロース分解促進剤として例えばスウォレニン、エクスパンシンを挙げることができる。
【0032】
一方、他のセルロース分解促進剤に加えて或いはこれとは別に、他の酵素又は酵素剤を併用することにしてもよい。ここでの他の酵素としてヘミセルラーゼ、エンドグルカナーゼ、ペクチナーゼ、プロテアーゼ、ラッカーゼ、エステラーゼを例示することができる。また、酵素剤としてはこれらの酵素を一種又は複数種含有する酵素剤を例示することができる。
【0033】
本発明のセルロース分解法は様々な分野(例えばエネルギー分野、バイオマス処理分野、食品加工分野)で利用可能である。具体的な適用例を示すと、いわゆるバイオエタノールの生産、廃材の処理、野菜・果実類の加工、オリゴ糖の製造、セルロース繊維の加工・改質、製パン、洗剤である。本発明のセルロース分解法の代表的な用途として、バイオエタノールの製造法の一例を以下に示す。この製造法は大別して前処理、糖化、発酵及び回収の4工程からなる。前処理ではセルロース材料中のセルロースが糖化されやすい状態になるように破砕、粉砕、蒸煮、化学処理などを行う。糖化工程には本発明のセルロース分解法が適用される。典型的には、糖化は発酵タンク(攪拌機能を備えたものが好ましい)内で行われる。糖化工程に続く発酵工程では糸状菌や酵母等を添加し、糖化工程で生成した糖をエタノールに変換する(エタノール発酵)。この糖化工程を発酵工程と並行して行うようにしてもよい。糖化工程後の発酵液より、蒸留、脱水などの処理によってエタノールを回収する(回収工程)。
【実施例】
【0034】
1.セルロース分解促進物質を産生する微生物の探索
セルラーゼの活性を増強する新規物質を見出すために、リゾプス(Rhizopus)属、ムコール(Mucor)属、フサリウム(Fusarium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属に分類されるカビ(1000株以上)を対象として以下の方法でスクリーニングを実施した。尚、自然界におけるバイオマス分解が微生物による、いわゆる「固体培養」で行われていることから、バイオマス分解に必要な酵素や因子は液体培養した場合よりも固体培養した方が豊富に産生されると考え、固体培養による評価系を採用した。
【0035】
(1)培養抽出液の調製
固体培地に各微生物を植菌し、30℃で3日間静置培養した。培養終了後、培地に90mLの水道水を添加して4℃で一晩静置し、固体成分を除去した培養抽出液を調製した。固体培地の組成は、フスマ 4.5g セルロースパウダー 0.5g 脱イオン水 1.5mLとした。尚、セルロース分解促進物質の産生誘導が生ずることを期待してセルロースパウダーを添加することにした。
【0036】
(2)培養抽出液の相乗効果比及びセルロース分解活性の比較
1.5 mLプラスチックチューブ内に50 mM クエン酸緩衝液(pH 4.8) 100μLを添加し、縦2.6 cm横0.3 cmのろ紙を投入したものを評価領域とした。この評価領域に被験培養抽出液25μLおよびセルラーゼT「アマノ」4(天野エンザイム株式会社製)を50 mM クエン酸緩衝液(pH 4.8)に溶解して2mg/mLに調整した溶液25μLを混合し、50℃、1時間、被験培養抽出液およびセルラーゼT「アマノ」4共存下におけるろ紙糖化反応を行った。同時に、被験培養抽出液単独およびセルラーゼT「アマノ」4単独のろ紙糖化反応として、それぞれセルラーゼT「アマノ」4溶液、被験培養抽出液の代わりに50 mM クエン酸緩衝液(pH 4.8)を25μL添加して行った。評価領域にろ紙を投入せずに被験培養抽出液、セルラーゼT「アマノ」4を添加し、50℃、1時間静置したそれぞれの溶液をブランクとして使用した。反応液およびそのブランクに3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)試薬(DNS 0.5g、2N水酸化ナトリウム溶液 20mL、ロッシェル塩30gを蒸留水に溶解して液量を100mLとしたもの)300μLを添加し、5分間沸騰させた後、540nmにおける吸光度を測定した。それぞれのΔA540(サンプルのA540の値からブランクのA540の値を減じたもの)から、被験培養抽出液の相乗効果比及びセルロース分解活性比を算出した。被験培養抽出液の相乗効果比は、以下の計算式で表されるように、被験培養抽出液単独およびセルラーゼT「アマノ」4単独で得られたΔA540の合計に対する両者共存で得られたΔA540の比とした。相乗効果比の高い被験培養抽出物ほど、セルラーゼT「アマノ」4との相乗効果によってセルロース分解活性を促進していることになる。
相乗効果比=(セルラーゼ*1と被験培養抽出液の共存下でのΔA540*2)/{(被験培養抽出液単独でのΔA540*2)+(セルラーゼ*1単独でのΔA540*2)}
*1:このスクリーニングにおいてはセルラーゼT「アマノ」を使用した。
*2:セルロース分解活性を示すパラメーターとなる。
【0037】
一方、被験培養抽出液のセルロース分解活性比は、以下の計算式で表されるように、セルラーゼT「アマノ」4単独で得られたΔA540に対する被験培養抽出液単独で得られたΔA540の比とした。セルロース分解活性比は、被験培養抽出液のセルロース分解活性の強さをセルラーゼT「アマノ」4の活性との比で示した値であり、低いセルラーゼ分解活性比は、被験培養抽出液のセルロース分解活性が低いことを示すことになる。
【0038】
セルロース分解活性比=(被験培養抽出液単独でのΔA540*2)/(セルラーゼ*1単独でのΔA540*2
*1:このスクリーニングにおいてはセルラーゼT「アマノ」を使用した。
*2:セルロース分解活性を示すパラメーターとなる。
【0039】
各被験培養抽出液の相乗効果比及びセルロース分解活性を比較した結果、高い相乗効果比を示し且つセルロース分解活性比が低い培養抽出液として、リゾプス属13種類およびムコール属7種類の計20種類の糸状菌由来のものが見出された(表1)。
【0040】
【表1】

【0041】
2.培養抽出液のβ−グルコシダーゼ活性の比較
表1に示した培養抽出液の中から特に有用と思われる5種を選択し、50 mM クエン酸緩衝液(pH 4.8)中におけるp-ニトロフェニル‐β‐D-グルコピラノシドの反応温度50℃における分解反応を指標として各培養抽出液のβ-グルコシダーゼ活性を測定した。各培養抽出液のβ-グルコシダーゼ活性を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
3.相乗効果の再現性確認
上記5種の培養抽出液の中から、セルロース分解活性及びβ-グルコシダーゼ活性が低く且つセルラーゼT「アマノ」4との相乗効果に優れたリゾプスオリゼ(Rhizopus oryzae)APC3504株の培養抽出液を選択し、再現性試験を行った。まず、抽出液を再度調製した。詳しくは、3個の固体培地を用意し各々にリゾプスオリゼAPC3504株を植菌し、30℃で3日間静置培養した。培養終了後、各培地に90mLの水道水を添加して4℃で一晩静置し、固体成分を除去した培養抽出液を調製した。得られた三つの培養抽出液を同量混合し、被験サンプルとした。被験サンプル単独、セルラーゼT「アマノ」4単独及び両者共存下においてろ紙糖化反応を行い、グルコース検量線と反応液のΔA540に基づき、セルロースから評価領域内に遊離した還元糖の濃度を測定した。同様の測定を3回行った。結果、被験サンプル単独では3回ともセルロースからの還元糖の遊離は検出できなかった。また、それぞれの還元糖濃度の平均値から、還元糖による相乗効果比として、セルラーゼT「アマノ」4単独、被験サンプル単独における還元糖濃度の合計に対するセルラーゼT「アマノ」4、被験サンプル共存下における還元糖濃度の割合も算出した。このようにして算出した相乗効果比は2.14±0.34を示し、リゾプスオリゼAPC3504株由来の培養抽出液が相乗効果によってセルロースの分解を促進することが確認された。尚、セルラーゼT「アマノ」4単独、被験サンプル単独及び両者共存下における還元糖濃度の平均値を図1に示す。
【0044】
4.各種セルラーゼに対する相乗効果
上記実施例で調製した、リゾプスオリゼAPC3504株由来の被験サンプルについて、セルラーゼT「アマノ」4以外のセルラーゼとの相乗効果を調べた。上記1.に記載した評価方法を採用し、評価領域にセルラーゼT「アマノ」4を添加する代わりに1000倍希釈したアクセルラーゼ1500(GENENCOR製)、1000倍希釈したNS22074(Novozymes製)、0.2 mg/mL メイセラーゼ(明治製菓株式会社製)または0.25 mg/mL アクレモザイム(明治製菓株式会社製)を添加した。各セルラーゼの希釈及び溶液の調製には50 mM クエン酸緩衝液(pH 4.8)を使用した。被験セルラーゼ単独および被験サンプルとの共存下における還元糖濃度を測定した。それぞれの被験セルラーゼについて被験サンプルの相乗効果比はいずれも1.2以上であり、被験サンプルがいずれのセルラーゼに対しても相乗的効果を示すことが明らかとなった。尚、被験セルラーゼ単独および被験サンプルとの共存下における還元糖濃度及び相乗効果比を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
5.セルロース分解促進因子の精製
リゾプスオリゼAPC3504株由来の培養抽出液に含まれるセルロース分解促進因子(相乗効果付与因子)を精製した。まず、フスマ 1800g、セルロースパウダー 200g、脱イオン水600mLで構成される固体培地にリゾプスオリゼAPC3504株を植菌し、30℃で4日間培養した。培養終了後、12Lの水道水で抽出を行い、9Lの培養抽出液を回収した。限外ろ過膜で9Lの培養抽出液を1Lに濃縮し、224mLの濃縮液に80%飽和となるように125.7g硫酸アンモニウムを添加して得た沈殿物を10 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)に溶解して、Q Sepharose Fast Flow (Pharmacia Biotech)を充填した陰イオン交換カラムに通した。0から0.5Mまでの塩化ナトリウムの直線濃度勾配による溶出によって分画した。セルラーゼT「アマノ」4のセルロース分解活性を促進したフラクションについて、バッファーを50 mMリン酸ナトリウム-150 mM 塩化ナトリウム緩衝液(pH 7.2)に置換して、HiLoad 16/60 Superdex 200 prep grade (Amersham Biosciences) によるゲルろ過クロマトグラフィーで分画した。各フラクションの中から、セルラーゼT「アマノ」4のセルロース分解活性を促進したフラクションを得た。このフラクションを用いた相乗効果比は1.29となり、且つフラクション単独ではろ紙から遊離した還元糖を検出できなかった。このフラクションについてSDS-PAGEを行い、CBB染色を行ったゲルを図2に示す。SDS-PAGEの結果は、このフラクションに出現した約35 kDaのタンパク質がセルラーゼT「アマノ」4とのろ紙糖化反応の相乗効果を付与することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のセルロース分解促進剤によれば、セルラーゼによるセルロース材料の分解を促進・効率化することができる。本発明のセルロース分解促進剤を構成するポリペプチドは各種セルラーゼに対して増強活性を示した。この事実は、本発明のセルロース分解促進剤が汎用性に優れることを裏付ける。一方、本ポリペプチドが、過去に見出されたセルロース分解促進物質とは異なる作用によってセルラーゼ活性を増強することが示唆された。従って、既存のセルロース分解促進物質を併用することによって、セルラーゼ活性を更に増強することが可能といえる。この点においても本発明の産業的利用価値は高い。本発明のセルロース分解促進剤は、セルラーゼによる分解を利用する各種用途、例えばバイオエタノールの製造、廃材の処理、野菜・果実類の加工、オリゴ糖の製造、セルロース繊維の加工・改質、製パン、洗剤等に適用可能である。
【0048】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リゾプス(Rhizopus)属又はムコール(Mucor)属微生物が産生するポリペプチドであって、セルロース分解促進活性を示すポリペプチド、を含むセルロース分解促進剤。
【請求項2】
前記リゾプス属微生物がリゾプスオリゼ(Rhizopus oryzae)及びリゾプスミクロスポラス変種キネンシス(Rhizopus microsporus var. chinensis)からなる群より選択される種の微生物であり、前記ムコール属微生物がムコールプルムベウス(Mucor plumbeus)、ムコールサルシネロイデス品種サルシネロイデス(Mucor circinelloides f. circinelloides)、ムコールラセモサス(Mucor racemosus)、ムコールサブチリシムス(Mucor subtilissimus)及びムコールラマンニアヌス(Mucor ramannianus)からなる群より選択される種の微生物である、請求項1に記載のセルロース分解促進剤。
【請求項3】
前記リゾプス属微生物が受領番号:NITE ABP−945で特定されるリゾプスオリゼであり、前記ムコール属微生物がムコールサルシネロイデス品種サルシネロイデスNBRC4570又は受領番号:NITE ABP−946で特定されるムコールラセモサスである、請求項1に記載のセルロース分解促進剤。
【請求項4】
前記ポリペプチドが以下の性質を備える、請求項1に記載のセルロース分解促進剤:
分子量: 約35kDa(SDS-PAGEによる)。
【請求項5】
前記ポリペプチドはセルロース分解活性が低い、請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロース分解促進剤。
【請求項6】
前記ポリペプチドがセルロース分解活性を実質的に有しない、請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロース分解促進剤。
【請求項7】
以下の計算式で算出される相乗効果比が、前記ポリペプチドでは1.2〜2.5である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロース分解促進剤:
相乗効果比=(セルラーゼと前記ポリペプチドの共存下でのセルロース分解活性)/{(前記ポリペプチド単独でのセルロース分解活性)+(セルラーゼ単独でのセルロース分解活性)}
【請求項8】
前記ポリペプチドはβ−グルコシダーゼ活性が低い、請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロース分解促進剤。
【請求項9】
前記ポリペプチドがβ−グルコシダーゼ活性を実質的に有しない、請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロース分解促進剤。
【請求項10】
前記微生物の培養産物又は培養抽出液からなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載のセルロース分解促進剤。
【請求項11】
セルラーゼを更に含有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載のセルロース分解促進剤。
【請求項12】
以下のステップ(1)及び(2)を含む、セルロース分解促進剤の製造法:
(1)セルロース分解促進活性を示すポリペプチドを産生するリゾプス(Rhizopus)属又はムコール(Mucor)属微生物を、該ポリペプチドが産生される条件下で培養するステップ;
(2)培養産物から前記ポリペプチドを回収するステップ。
【請求項13】
ステップ(1)に使用する培地がセルロース含有固体培地である、請求項12に記載の製造法。
【請求項14】
ステップ(2)が、ステップ(1)後の培地に溶媒を添加した後、固体成分を除去することを含む、請求項13に記載の製造法。
【請求項15】
固体成分を除去した後、前記ポリペプチドを精製する、請求項14に記載の製造法。
【請求項16】
前記リゾプス属微生物がリゾプスオリゼ(Rhizopus oryzae)及びリゾプスミクロスポラス変種キネンシス(Rhizopus microsporus var. chinensis)からなる群より選択される種の微生物であり、前記ムコール属微生物がムコールプルムベウス(Mucor plumbeus)、ムコールサルシネロイデス品種サルシネロイデス(Mucor circinelloides f. circinelloides)、ムコールラセモサス(Mucor racemosus )、ムコールサブチリシムス(Mucor subtilissimus)及びムコールラマンニアヌス(Mucor ramannianus)からなる群より選択される種の微生物である、請求項12〜15のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項17】
前記リゾプス属微生物が受領番号:NITE ABP−945で特定されるリゾプスオリゼであり、前記ムコール属微生物がムコールサルシネロイデス品種サルシネロイデスNBRC4570又は受領番号:NITE ABP−946で特定されるムコールラセモサスである、請求項12〜15のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項18】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のセルロース分解促進剤の存在下、セルロース材料をセルラーゼで処理することを特徴とする、セルロース分解法。
【請求項19】
セルラーゼがトリコデルマ属、アスペルギルス属又はアクレモニウム属由来のセルラーゼである、請求項18に記載のセルロース分解法。
【請求項20】
請求項18又は19に記載のセルロース分解法により生成した糖をエタノール変換するステップを含む、エタノールの製造法。
【請求項21】
セルラーゼによる前記処理と前記エタノール変換を並行して行うことを特徴とする、請求項20に記載のエタノールの製造法。
【請求項22】
受領番号:NITE ABP−945で特定されるリゾプスオリゼ又は受領番号:NITE ABP−946で特定されるムコールラセモサスである、セルロース分解促進活性を示すポリペプチドを産生する微生物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−244756(P2011−244756A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122388(P2010−122388)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000216162)天野エンザイム株式会社 (26)
【Fターム(参考)】