説明

セルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、セルロース含有熱可塑性樹脂及びその成形体

【課題】セルロースを含有しているため機械特性が高く、成形体と成したときに反り、曲がりが発生しないうえ、射出成形、押出成形等に対応可能な流動特性をもったセルロース含有熱可塑性樹脂を作製できるセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、セルロース含有熱可塑性樹脂及びその成形体を提供する
【解決手段】乾式解繊機により解繊された繊維状セルロースと熱可塑性樹脂と酸無水物とをバッチ式密閉型混練装置を用いて高温高圧水蒸気環境下で溶融混練するセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法において、高温高圧水蒸気環境における温度範囲が150〜370℃であり、かつ圧力範囲が0.20MPa以上で飽和水蒸気圧までの間であることを特徴とするセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法及びその製造方法で作成したセルロース含有熱可塑性樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状セルロースを含有したセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、その製造方法で製造したセルロース含有熱可塑性樹脂及びその成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロース含有熱可塑性樹脂は、機械特性が向上すること、焼却しても残渣が残らないこと、その樹脂からなる成形体が軽量であることなどが利点として挙げられている。そして、繊維状セルロースと熱可塑性樹脂が外観上均一になるまで混合されたセルロース含有熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂そのものと同じように産業上利用可能であり、包装体、収容トレイ、パレット、パソコンや携帯電話の筺体、玩具、文具等に利用できる。
【0003】
しかし、親水性部位をもつ繊維状セルロースと親水性部位をもたない熱可塑性樹脂との親和性は必ずしも高くなく、繊維状セルロースと熱可塑性樹脂とを溶融混練しても、流動性が低いため、成形時に繊維状セルロースが熱で焦げて異臭を発生する不具合や、射出成形の際に、ウェルドライン、フローマーク、ショートショットなどの不具合が発生することがあった。また、繊維塊が解れきれないために、繊維塊がそのままセルロース含有熱可塑性樹脂中に存在し、成形体の強度が低下する不具合や外観を悪化させたりする不具合が発生することもある。さらに、繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との親和性が低いと成形体に応力がかかったときに、繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との界面で剥がれが発生し、機械特性向上効果が失われることもあった。
【0004】
そこで、溶融時の流動性を改良するため、プロピレン系樹脂と植物性繊維に有機過酸化物を配合して、均一性や流動性を改良した木質系材料を含有する樹脂組成物の提案がされている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この提案は、樹脂組成物の流動性を改良して低温での成形を可能とし、成形時の不具合を解消したものであり、特に射出成形において、細かな形状ではショートショットを引き起こすなど成形できる形状に制限があるうえ、有機過酸化物の配合割合が少ないため、混合方法によっては流動性の不均一が生じることがあった。
【0005】
一方、解繊された繊維状セルロースを使用し、回転羽根を有するミキサーに、解繊された繊維状セルロースと熱可塑性樹脂を入れて撹拌し、発生した摩擦熱により溶融混合してセルロース含有熱可塑性樹脂を製造する方法が提案されているが、この方法では、溶融混合に長時間がかかるうえ、セルロース含有熱可塑性樹脂の均一性や流動性が低いという問題は解決できていなかった(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
さらに、セルロースと熱可塑性樹脂とを、バッチ式密閉型混合装置が備える回転羽根により高速撹拌し、圧力0.20MPa以上の高圧力水蒸気雰囲気中で、高速撹拌に伴う摩擦熱により溶融混合してセルロース含有熱可塑性樹脂を製造する方法も提案されている。この方法では、従来の方法と比較して、短時間で溶融混合が終了し、得られるセルロース含有熱可塑性樹脂の均一性も良好なものであったが、成形時に繊維状セルロースが焦げる問題や流動性が不足して射出成形時に不具合が生じる問題を完全に解決することはできていなかった(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との親和性を向上させる手段として、例えば、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等の酸変性熱可塑性樹脂を添加する方法があるが、流動性や機械的強度の不足の問題は完全には解決できていない(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
一方、セルロースとして、木粉、木材チップ等を熱可塑性樹脂と溶融混合して、木材の風合いを有するセルロース含有熱可塑性樹脂も知られている。この分野でも、木粉等と熱可塑性樹脂との親和性が低いことが問題となっている。この親和性を高めるために、多塩基酸無水物でエステル化したセルロースを熱可塑性樹脂用の木質系充填剤とすることが提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、予め多塩基酸無水物でエステル化したセルロースが必要であり、製造工程が多くなるという問題があった。また、木粉等と熱可塑性樹脂と多塩基酸無水物とをブレンダー、ニーダー、ミキシングロール、バンバリーミキサー、一軸又は二軸の押出機等によって、加熱混練して得られたセルロース含有樹脂組成物も提案されている(例えば、特許文献6参照)。しかしながら、この方法で得られるセルロース含有熱可塑性樹脂は、木材の風合いをもつにとどまり、流動性、均一性、機械特性にも劣っているため、熱可塑性樹脂のように、包装体や筺体等への利用はできなかった。また、未反応の酸無水物が多く残存し、セルロース含有熱可塑性樹脂の流動性、均一性、機械特性、外観性に悪影響を及ぼしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−155436号公報
【特許文献2】特開2009−001597号公報
【特許文献3】国際公開2004/076044号パンフレット
【特許文献4】特開2009−227806号公報
【特許文献5】特開平10−329109号公報
【特許文献6】特開2002−348416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、均一性が高く、機械特性が高く、成形体と成したときに、反りや曲がりが発生しないうえ、射出成形、押出成形等に対応可能な流動性をもったセルロース含有熱可塑性樹脂を簡便に製造できるセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法及び該製造方法で製造されたセルロース含有熱可塑性樹脂とその成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討をした結果、下記に示す本発明により上記課題を解決できることを見出した。
[1]回転羽根が配設されてなる回転軸が備えられた撹拌室を有するバッチ式密閉型混練装置で、原料として熱可塑性樹脂とセルロースとを溶融混合するセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法において、セルロースが乾式解繊機により解繊された繊維状セルロースであり、溶融混合時の撹拌室内部の温度が150〜370℃で、撹拌室内部の圧力が0.20MPa以上で飽和水蒸気圧までの間にあり、かつ、原料として酸無水物が添加されていることを特徴とするセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、
[2]原料として、多価アルコールがさらに添加されている上記[1]記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、
[3]セルロース含有熱可塑性樹脂に対するセルロースの含有率が5〜70質量%である上記[1]又は[2]記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、
[4]セルロースの水分含有率が5〜30質量%である上記[1]〜[3]のいずれかに記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、
[5]後工程として、再加熱混合を行う上記[1]〜[4]のいずれかに記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、
[6]上記[1]〜[5]のいずれか1項に記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法で製造されてなるセルロース含有熱可塑性樹脂、
[7]上記[6]記載のセルロース含有熱可塑性樹脂を含有してなる成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法によれば、均一性が高く、機械特性が高く、成形体と成したときに、反りや曲がりが発生しないうえ、射出成形、押出成形等に対応可能な流動性をもったセルロース含有熱可塑性樹脂を1工程で簡便に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法で用いる乾式解繊機とは、パルプシート、古紙などのセルロース集合体を、物理的な力で、繊維(ファイバー)を残しながら綿毛のようなふわふわした状態にまで解す装置をいう。その方法としては、シリンダーの表面に多数の爪が配設され、そのシリンダーが高速回転して、パルプシート表面などを爪が引っ掻くようにして繊維を解すもの、回転軸の配設された複数の回転羽根が高速回転することにより繊維状セルロース集合体を打撃し解すもの、表面に溝が形成された円形ディスク同士を、溝が形成された面同士が対抗するように、わずかな距離を開けて配置し、お互いが逆方向に回転してその間に投入される繊維状セルロース集合体を摩擦力により解すものなど様々な方法を用いることができることができ、その解繊の方式は特に制限されない。
【0014】
乾式解繊機としては、例えば、(株)瑞光製解繊機、池上機械(株)製解繊機、石川県創造化開発協同組合製古紙解砕機、西日本技術開発(有)製乾式解繊機、ターボ工業(株)製解繊機などを挙げることができるが、本発明で用いることができる乾式解繊機はこれらに限られない。
【0015】
本発明で用いるセルロースは、化学パルプを乾式解繊機で解繊した繊維状セルロースであることが好ましい。化学パルプは、その色の均質性が高いため、成形体と成したときに色相が均一となるうえ、成形時、マスターバッチや顔料を混合して成形体を着色しても均一な色の外観をもった成形体を得ることができる。化学パルプとは、例えば、木材(針葉樹、広葉樹)、コットンリンター、ケナフ、マニラ麻(アバカ)、サイザル麻、ジュート、サバイグラス、エスパルト草、バガス、稲わら、麦わら、葦、竹などの天然セルロースを化学的に処理したパルプ(クラフトパルプ、亜硫酸パルプなど)である。地が白い方が成形体の色の調製がしやすいことより、化学的に漂白されて色が白いクラフトパルプ(N−BKP、L−BKP等)を用いることがより好ましい。
【0016】
本発明で用いるセルロースは、乾式解繊機により繊維一本々々まで解されてあれば、その後、繊維塊(例えば、綿状)となっていてもよい。解繊された繊維状セルロースの寸法は、特に制限はないが、繊維長は、成形時の作業性より0.5〜10mmが好ましく、1〜8mmがより好ましく、1〜5mmがさらに好ましい。繊維径は、10〜100μmが好ましく、10〜70μmがより好ましく、15〜50μmがさらに好ましい。なお、解繊された繊維状セルロースの寸法においては、成形体の強度を維持するために、特に、アスペクト比(長さ/直径)が重要となる。本発明における解繊された繊維状セルロースのアスペクト比は、10〜1000が好ましく、30〜500がより好ましく、50〜100がさらに好ましい。
【0017】
本発明で用いるセルロースは、水分含有率が5〜30質量%であることが好ましい。セルロースの水分含有率がこの範囲にあると、溶融混合時間が短くなり、生産性が良好となる。一方、水分含有率が5質量%未満であると、時間をかけても撹拌室内部の圧力が上がらないことがある。また、圧力が上がり溶融混練を行っても、セルロースあるいは繊維間相互作用が増大して、セルロースの分散性が悪化し、その結果、繊維塊が増えるため、成形体の強度が低下したり、成形性が低下したりすることがある。また、水分含有率が30質量%を超えた場合、セルロースの脱水に時間がかかるため、溶融混練時間が長くなり、セルロースが分解されやすくなることがある。水分含有率は、8〜25質量%がより好ましく、10〜20質量%がさらに好ましい。なお、本発明における水分含有率とは、乾燥温度を120℃±2℃として、JIS P8203に則った操作方法で求めた絶乾率を、100質量%から除した数値をいう。
【0018】
本発明における熱可塑性樹脂とは、ガラス転移温度又は融点まで加熱することによって軟化し、目的の形に成形できる樹脂のことであり、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンからなるポリエチレン類、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等からなるポリエステル樹脂類等を挙げることができるが、熱可塑性樹脂であれば特に制限されない。好ましくはポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類が用いられる。
【0019】
さらに、熱可塑性樹脂として、生分解性樹脂を用いることもできる。生分解性樹脂を用いることにより、廃棄の際、成形品を土中に埋設等することにより該成形品が分解されることが期待される。生分解性樹脂としては、環境的に分解される樹脂、特に微生物の作用により分解される樹脂であれば特に制限されない。例えば、具体的には、高分子多糖類、微生物ポリエステル、脂肪族ポリエステル等が挙げられ、より具体的には、ポリ乳酸樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリブチレンサクシネートアジペート樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂、ポリエチレンサクシネートカーボネート樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂、ポリヒドロキシアルカノート(例えば、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)(PHB)、ポリ(3−ヒドロキシ吉草酸)(PHV))、ラクトン樹脂、低分子量脂肪族ジカルボン酸と低分子量脂肪族ジオールから得られるポリエステル樹脂、酢酸セルロース系等の複合体、変性デンプン−変性ポリビニルアルコール複合体、その他の複合体を挙げることができる。
【0020】
本発明の熱可塑性樹脂として生分解性樹脂を用いる場合、その汎用性よりポリ乳酸樹脂を用いるのが好ましい。ポリ乳酸樹脂には、ポリ乳酸ホモポリマーの他、乳酸コポリマー及びブレンドポリマー等の乳酸系ポリマーが含まれる。乳酸系ポリマーの質量平均分子量は、一般に5〜50万である。また、ポリ乳酸樹脂におけるL−乳酸単位とD−乳酸単位の構成モル比L/Dは、100/0〜0/100のいずれであってもよく、特に制限されない。
【0021】
本発明における酸無水物としては、オキソ酸2分子が脱水縮合した化合物であれば、有機酸からなる酸無水物だけではなく、硫酸、硝酸、リン酸といった無機酸からなる酸無水物でもよい。同じ種類の酸が脱水縮合した構造の酸無水物でもよいし、異なる種類の酸が脱水縮合した構造の混合酸無水物でもよい。
【0022】
本発明における酸無水物としては次のようなものが挙げられる。例えば、無機酸からなる酸無水物としては、二硫酸(ピロ硫酸)、五酸化二窒素、ピロリン酸(二リン酸)、五酸化二リン(十酸化四リン)、三酸化二リン、五酸化二ヒ素、三酸化二ヒ素などを挙げることができる。有機酸からなる酸無水物としては、例えば、無水酪酸、マレイン酸無水物、コハク酸無水物、フタル酸無水物、メチルコハク酸無水物、オクテニルコハク酸無水物、シトラコン酸無水物、グルタル酸無水物、スチレン無水マレイン酸、2,4−ジエチルグルタル酸無水物、イタコン酸無水物、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルナジック酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、ジクロロマレイン酸無水物、無水マレイン酸変性ロジン、テトラブロモフタル酸無水物、ヘット酸無水物、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、ガリク酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物などが挙げられる。本発明における酸無水物は上記記載のものに限らず用いることができる。
【0023】
本発明における酸無水物としては、好ましくは、コハク酸無水物、4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、2,4−ジエチルグルタル酸無水物、4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物を用いることができる。これらの酸無水物を用いることで繊維状セルロース表面がより効率的にエステル化され、添加量が他の酸無水物と比べ少量とすることができる。
【0024】
酸無水物の添加量は、セルロースを100質量部としたときに、0.1〜10質量部が好ましく、0.2〜8質量部がより好ましく、0.2〜4質量部がさらに好ましい。
【0025】
酸無水物がセルロースの末端にある水酸基とエステル化反応を起こして、セルロースが疎水性を示すようになり、その結果、熱可塑性樹脂との親和性が向上することは知られていた。セルロースと酸無水物と熱可塑性樹脂とを一度に溶融混練した場合、セルロースと酸無水物とのエステル化反応の反応率が低くなってしまうため、セルロースと熱可塑性樹脂との親和性は十分なものとはならない。そのため、従来は、セルロースのエステル化工程を予め行い、その後に熱可塑性樹脂とエステル化セルロースとの混練工程を行うという2段階で処理しなければならなかった。
【0026】
しかし、本発明におけるセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法では、回転羽根が配設されてなる回転軸が備えられた撹拌室を有するバッチ式密閉型混練装置で、溶融混合時の撹拌室内部の温度が150〜370℃で、撹拌室内部の圧力が0.20MPa以上で飽和水蒸気圧までの間という高温高圧水蒸気環境下で溶融混練を行うことにより、高温の水蒸気がエステル化反応に影響を与えているため、セルロースと熱可塑性樹脂と酸無水物とを同時に溶融混練しても、セルロース表面が酸無水物により選択的かつ効率的にエステル化され、セルロースと熱可塑性樹脂との親和性が向上し、それがセルロース含有熱可塑性樹脂の溶融時の流動性や均一性を良好とし、射出成形、押出成形等の成形性や外観を向上させることができる。
【0027】
本発明で用いるバッチ式密閉型混練装置とは、内部に回転羽根を備えた密閉された撹拌室を備えた高速撹拌装置をいう。具体的には、国際公開第2004/076044号パンフレット記載の装置を挙げることができる。撹拌室内部には、駆動源であるモーターに連結した回転自在の回転軸に撹拌用の回転羽根が複数配置されている。回転羽根の形状は特に制限されることはなく、矩形、ナイフ形、のこぎり形など、どのような形状のものを用いてもよいが、好ましくは矩形の回転羽根である。また、回転軸への回転羽根の配置数も特に制限がなく、回転羽根の回転軸への取り付け角度も特に制限されない。本発明におけるセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法においては、回転羽根の高速撹拌によって撹拌室内部の温度が急速に上昇し、水が水蒸気化して撹拌室内部に充満して、撹拌室内部を高圧力状態に保つ必要があるので、回転する回転羽根によって、撹拌室内にある被混練物に高剪断力をかけることができるようにすればよい。
【0028】
本発明で用いるバッチ式密閉型混練装置の撹拌室には、撹拌室内部で発生した水蒸気を適宜外部に解放する水蒸気の解放機構を備えていることが好ましい。水蒸気の解放機構としては、一般的なメカニカルシール、ラビリンスシール、あるいは単なる開閉可能な窓などを用いることができるが、これらに限られることなく適宜用いることができる。特に、メカニカルシール、ラビリンスシールを水蒸気の解放機構として設置した場合、該解放機構部で撹拌室内部から流出しようとする水蒸気と撹拌室内部へ流入しようとする空気との均衡を保った状態で溶融混練することができるので好ましい。
【0029】
回転羽根が配置された回転軸は駆動源であるモーターに連結されているが、本発明で用いるバッチ式密閉型混練装置においては、該モーターにかかる回転トルクを計測するトルクメーターが設置されていることが好ましい。本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法においては、該トルクメーターから計測される回転羽根が配設された回転軸の回転トルクの変化を計測し、溶融混練の終了時点を判断する。回転トルクの計測値に応じた終了操作の措置は、初めて扱う素材のときには必須であるものの、同じ素材を定常的に用いる場合は、必ずしも毎回計測する必要はなく、実績より溶融混練の必要時間を決定しておき、その決められた溶融混練時間により終了時点を決めてもよい。
【0030】
本発明の製造方法においては、セルロースが水分含有率5〜30質量%の水分を含んでいる場合、回転羽根の高速回転による被混練物への剪断力、打撃力により密閉された撹拌室内の温度は急激に上昇して高温状態となると共に、水分は高温で気化して水蒸気状態となり、高温高圧水蒸気環境が実現し易くなる。本発明における高温高圧水蒸気環境としては、高温の範囲が150〜370℃であり、かつ、高圧の範囲が0.20MPa以上で飽和水蒸気圧までの間であることが好ましい。この高温高圧水蒸気環境下で被混練物の溶融混練を行うことで、酸無水物がより選択的にセルロースの表面でエステル化反応を起こし、反応効率がより一層向上するため、成形体の耐クリープ性が向上する。
【0031】
本発明の製造方法においては、セルロースと熱可塑性樹脂と酸無水物とを、予備混合したうえでバッチ式密閉型混練装置に投入してもよいし、バッチ式密閉型混練装置にそれぞれを順次投入してもよい。順次投入する場合は、回転羽根を低速で回転させながら投入することが好ましい。
【0032】
本発明においては、多価アルコールをさらに加えると、多価アルコールの水酸基とセルロースの水酸基で競争反応が起き、セルロース表面に化学結合する分子量が増大することによって、熱可塑性樹脂との親和性が増し、セルロースの分散性が向上して、溶融時の流動性がより改善される。さらに、本発明においては、多価アルコールの添加量を調整することで、セルロース含有熱可塑性樹脂の溶融時の流動性を制御することができる。多価アルコールの添加量を調整することにより、押出成形から射出成形まで、様々な成形方法にあった流動特性をもったセルロース含有熱可塑性樹脂とすることができる。
【0033】
本発明における多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ペンタジオール、2,3−ジメチルプロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、シクロヘキサンジメタノール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ジグリセリン、ジペンタエリスリトール、ソルビトールなどを挙げることができる。
【0034】
多価アルコールの添加量は特に制限されないが、セルロースを100質量部としたときに、0.01〜10質量部添加することが好ましい。しかし、過剰に導入すると、水と置換し、吸水特性を悪化させることがあり、また、成形後に表面ににじみ出すなどの問題があるので使用目的に併せる必要がある。さらに、酸無水物との反応性を促進させるために、アミン類を添加しても構わない。
【0035】
本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂においては、セルロース含有熱可塑性樹脂に対するセルロースの含有率が5〜70質量%であることが好ましい。含有率が5質量%より低いと、セルロースを含有することによる成形体の機械特性向上効果が顕著に出ないことがある。また、70質量%を超えると、成形法によっては成形条件が限られてしまうことがある。
【0036】
本発明において、セルロース、熱可塑性樹脂、酸無水物、多価アルコール以外に各種添加剤を適宜加えることができる。添加剤としては、相溶化剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、離型剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料、帯電防止剤、導電性付与剤、分散剤、透明核剤、抗菌剤、防黴剤、難燃剤等の添加剤を、単独又は2種類以上併せて使用することができるが、これらに限定されるわけではない。
【0037】
特に、酸変性ポリオレフィン樹脂を添加すると、成形体の靭性が増して好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂とは、ポリエチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂を、不飽和カルボン酸及びその誘導体(単量体)の一種又は二種以上の混合物によって変性したものをいう。不飽和カルボン酸及びその誘導体としては、アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸などの不飽和カルボン酸、又はその誘導体、例えば、具体的には、無水物、アミド、イミド、エステルなどが挙げられる。これらの中でも、特に無水マレイン酸変性ポリオレフィンが好ましい。無水マレイン酸変性ポリオレフィンのセルロース含有熱可塑性樹脂への添加量は、セルロース含有熱可塑性樹脂に対する含有率で0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜7質量%がより好ましく、1〜5質量%がさらに好ましい。
【0038】
本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を用いて、各種成形方法により成形体を製造することができる。成形方法としては、一般的な成形方法を用いることができ、特に制限されない。例えば、具体的には、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、回転成形法、中空成形法(ブロー成形法)、T−ダイ成形法、インフレーション成形法、カレンダー成形法などを挙げることができるが、これらの方法に制限されることはない。また、成形体の形状も特に制限されず、任意の形状のものを任意の成形方法で製造することができる。
【0039】
本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の優れた成形性を具現するためには、射出成形法を用いて精密な形状の成形体を得ることが好ましい。本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂は、成形時の樹脂の流動性が良好であることはもちろん、均一な性能を保持しているためか、フローマーク、ウェルドライン、反り、ネジレといった成形不良を発生することがない。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例によって、さらに細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
セルロース集合体として、広葉樹の晒クラフトパルプ(L−BKP)のパルプシート(温度を80℃に設定した乾燥器に24時間保持して水分を乾燥させたもの)を用意し、粉砕機((株)ホーライ製、商品名:BO−2572、30mmスクリーン装着)で粗粉砕した。次に、解繊機(ターボ工業(株)製、商品名:ターボミルT−250)に粗粉砕物を投入し、該パルプシートを解繊し、解繊された繊維状セルロースを得た。なお、該セルロースの水分含有率は5質量%であった。
【0042】
セルロース(以下、絶乾質量に換算した値を記す)8質量部、熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V、MFR=30g/10min.)92質量部に、セルロース100質量部に対して1.5質量部の酸無水物(1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)TH)とセルロース100質量部に対して0.5質量部の多価アルコール(1,4−ブタンジオール)を添加して予備混合した後に、バッチ式密閉型混練装置として国際公開2004/076044号パンフレット記載の高速撹拌装置((株)エムアンドエフ・テクノロジー製)の混練室に投入した。その後、回転数2000rpmで回転羽根を回転させた。回転開始と同時に、水蒸気の解放機構部から水蒸気が漏れだしたが、1分後に漏れは停止し、水蒸気の解放機構部にて均衡が保たれた状態で溶融混合が進行した。水蒸気の漏れが停止してから1分後に、モーターのスイッチを切り、回転羽根の回転を止め、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を取り出した。なお、水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間、混練室内部の温度は150℃、圧力は0.2MPaを示していた。
【0043】
(実施例2)
質量比で、セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V、MFR=30g/10min.)/酸無水物(1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)TH)/多価アルコール(1,4−ブタンジオール)=10/89.7/0.2/0.1となるように調製した以外は実施例1と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間、混練室内部の温度は150℃、圧力は0.2MPaを示していた。
【0044】
(実施例3)
質量比で、セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V、MFR=30g/10min.)/酸無水物(1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)TH)/多価アルコール(1,4−ブタンジオール)=70/29/0.7/0.3となるように調製した以外は実施例1と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間、混練室内部の温度は150℃、圧力は0.2MPaを示していた。
【0045】
(実施例4)
質量比で、セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V、MFR=30g/10min.)/酸無水物(1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)TH)/多価アルコール(1,4−ブタンジオール)=75/24/0.7/0.3となるように調製した以外は実施例1と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間、混練室内部の温度は150℃、圧力は0.2MPaを示していた。
【0046】
(実施例5)
水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間の混練室内部の温度が150℃を示し、圧力が0.49MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例1と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、圧力0.49MPaは150℃における飽和水蒸気圧に相当する。
【0047】
(実施例6)
水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間の混練室内部の温度が150℃を示し、圧力が0.49MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例2と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、圧力0.49MPaは150℃における飽和水蒸気圧に相当する。
【0048】
(実施例7)
水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間の混練室内部の温度が150℃を示し、圧力が0.49MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例3と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、圧力0.49MPaは150℃における飽和水蒸気圧に相当する。
【0049】
(実施例8)
水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間の混練室内部の温度が150℃を示し、圧力が0.49MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例4と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、圧力0.49MPaは150℃における飽和水蒸気圧に相当する。
【0050】
(実施例9)
回転羽根の回転数を3200rpmに変更して混練室内の温度が370℃まで上昇するようにし、かつ、水蒸気の解放機構部を調節して混練室内の圧力が0.2MPaを保持するようにした以外は実施例1と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0051】
(実施例10)
回転羽根の回転数を3200rpmに変更して混練室内の温度が370℃まで上昇するようにし、かつ、水蒸気の解放機構部を調節して混練室内の圧力が0.2MPaを保持するようにした以外は実施例2と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0052】
(実施例11)
回転羽根の回転数を3200rpmに変更して混練室内の温度が370℃まで上昇するようにし、かつ、水蒸気の解放機構部を調節して混練室内の圧力が0.2MPaを保持するようにした以外は実施例3と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0053】
(実施例12)
回転羽根の回転数を3200rpmに変更して混練室内の温度が370℃まで上昇するようにし、かつ、水蒸気の解放機構部を調節して混練室内の圧力が0.2MPaを保持するようにした以外は実施例4と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0054】
(実施例13)
水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間の混練室内部の温度が320℃を示し、圧力が22MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例9と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、圧力22MPaは320℃における飽和水蒸気圧に相当する。
【0055】
(実施例14)
水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間の混練室内部の温度が320℃を示し、圧力が22MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例10と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、圧力22MPaは320℃における飽和水蒸気圧に相当する。
【0056】
(実施例15)
水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間の混練室内部の温度が320℃を示し、圧力が22MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例11と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、圧力22MPaは320℃における飽和水蒸気圧に相当する。
【0057】
(実施例16)
水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間の混練室内部の温度が320℃を示し、圧力が22MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例12と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、圧力22MPaは320℃における飽和水蒸気圧に相当する。
【0058】
(実施例17)
セルロース集合体として、広葉樹の晒クラフトパルプ(L−BKP)のパルプシートを用意し、粉砕機((株)ホーライ製、商品名:BO−2572、30mmスクリーン装着)で粗粉砕した。次に、解繊機(ターボ工業(株)製、商品名:ターボミルT−250)に粗粉砕物を投入し、該パルプシートを解繊し、解繊された繊維状セルロースを得た。なお、該セルロースの水分含有率は15質量%であった。
【0059】
質量比で、セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V、MFR=30g/10min.)/酸無水物(1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)TH)/多価アルコール(1,4−ブタンジオール)=8/91.7/0.2/0.1となるように調製し、予備混合した後にバッチ式密閉型混練装置として国際公開2004/076044号パンフレット記載の高速撹拌装置((株)エムアンドエフ・テクノロジー製)の混練室に投入した。その後、回転数2700rpmで回転羽根を回転させた。回転開始と同時に水蒸気の解放機構部から水蒸気が漏れだしたが、1分後に漏れは停止し、水蒸気の解放機構部にて均衡が保たれた状態で溶融混合が進行した。水蒸気の漏れが停止してから1分後に、モーターのスイッチを切り、回転羽根の回転を止め、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を取り出した。なお、水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間、混練室内部の温度は250℃、圧力は2.0MPaを示していた。
【0060】
(実施例18)
質量比で、セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V、MFR=30g/10min.)/酸無水物(1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)TH)/多価アルコール(1,4−ブタンジオール)=10/89/0.7/0.3となるように調製した以外は実施例17と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間、混練室内部の温度は250℃、圧力は2.0MPaを示していた。
【0061】
(実施例19)
質量比で、セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V、MFR=30g/10min.)/酸無水物(1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)TH)/多価アルコール(1,4−ブタンジオール)=60/39/0.7/0.3となるように調製した以外は実施例17と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間、混練室内部の温度は250℃、圧力は2.0MPaを示していた。
【0062】
(実施例20)
熱可塑性樹脂をMFR=5g/10min.の熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)J113G、MFR=3.0g/min.)に変更した以外は実施例19と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0063】
(実施例21)
実施例20で作製した本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂をベント付2軸押出機(ホットカット装置付)((株)池貝製、商品名:PCM−30)に投入し、スクリュー回転数150rpm、樹脂温度200℃で溶融混合し、ペレット形状にした本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0064】
(実施例22)
質量比で、セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V、MFR=30g/10min.)/酸無水物(1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)TH)/多価アルコール(1,4−ブタンジオール)=60/39/0.06/0.94となるように調製した以外は実施例17と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間、混練室内部の温度は250℃、圧力は2.0MPaを示していた。
【0065】
(実施例23)
質量比で、セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V、MFR=30g/10min.)/酸無水物(1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)TH)/多価アルコール(1,4−ブタンジオール)=8/91/0.8/0.2となるように調製した以外は実施例17と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間、混練室内部の温度は250℃、圧力は2.0MPaを示していた。
【0066】
(実施例24)
酸無水物をコハク酸無水物(新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)SA)に変更した以外は実施例19と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0067】
(実施例25)
酸無水物をマレイン酸無水物(日本触媒(株)製)に変更した以外は実施例19と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0068】
(実施例26)
酸無水物をマレイン酸無水物(日本触媒(株)製)に、多価アルコールをグリセリンに変更した以外は実施例19と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0069】
(実施例27)
酸無水物を2,4−ジエチルグルタル酸無水物(ジャパンエポキシレジン(株)、商品名:YH1120)に変更した以外は実施例19と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0070】
(実施例28)
酸無水物を4−メチルヘキサヒドロフタル酸無水物(新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)MH)に変更した以外は実施例19と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0071】
(実施例29)
酸無水物を無水酪酸に変更した以外は実施例19と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0072】
(実施例30)
酸無水物を、無水マレイン酸変性ロジン(無水マレイン酸変性ロジンは、重合ロジン(ハリマ化成(株)製、2量体60%含有)500部、無水マレイン酸12.5部を、攪拌機、還流冷却管、温度計付きフラスコに仕込み、窒素ガスを吹き込みながら昇温加熱し、180℃で1時間反応させて合成した。)に変更した以外は実施例19と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0073】
(実施例31)
酸無水物をスチレン無水マレイン酸(ノバケミカル製、商品名:ダイラークD332)に変更した以外は実施例19と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0074】
(実施例32)
酸無水物をオクテルコハク酸無水物(新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)OSA)に変更した以外は実施例19と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0075】
(実施例33)
セルロースと熱可塑性樹脂と酸無水物とを質量比で60/39/1となるように調製した以外は実施例19と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0076】
(実施例34)
質量比で、セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V、MFR=30g/10min.)/酸無水物(1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)TH)/多価アルコール(1,4−ブタンジオール)=70/29/0.7/0.3となるように調製した以外は実施例19と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間、混練室内部の温度は250℃、圧力は2.0MPaを示していた。
【0077】
(実施例35)
質量比で、セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V、MFR=30g/10min.)/酸無水物(1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)TH)/多価アルコール(1,4−ブタンジオール)=75/24/0.7/0.3となるように調製した以外は実施例19と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間、混練室内部の温度は250℃、圧力は2.0MPaを示していた。
【0078】
(実施例36)
セルロース集合体として、広葉樹の晒クラフトパルプ(L−BKP)のウェットパルプシートを用意し、粉砕機((株)ホーライ製、商品名:BO−2572、30mmスクリーン装着)で粗粉砕した。次に、解繊機(ターボ工業(株)製、商品名:ターボミルT−250)に粗粉砕物を投入し、該パルプシートを解繊し、解繊された繊維状セルロースを得た。なお、該セルロースの水分含有率は30質量%であった。
【0079】
質量比で、セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V、MFR=30g/10min.)/酸無水物(1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)TH)/多価アルコール(1,4−ブタンジオール)=8/91.7/0.2/0.1となるように調製し、予備混合した後にバッチ式密閉型混練装置として国際公開2004/076044号パンフレット記載の高速撹拌装置((株)エムアンドエフ・テクノロジー製)の混練室に投入した。その後、回転数2100rpmで回転羽根を回転させた。回転開始と同時に水蒸気の解放機構部より水蒸気が漏れだしたが、1分後に漏れは停止し、水蒸気の解放機構部にて均衡が保たれた状態で溶融混合が進行した。水蒸気の漏れが停止してから1分後に、モーターのスイッチを切り、回転羽根の回転を止め、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を取り出した。なお、水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間、混練室内部の温度は150℃、圧力は0.2MPaを示していた。
【0080】
(実施例37)
質量比で、セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V、MFR=30g/10min.)/酸無水物(1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)TH)/多価アルコール(1,4−ブタンジオール)=10/89/0.7/0.3となるように調製した以外は実施例36と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間、混練室内部の温度は150℃、圧力は0.2MPaを示していた。
【0081】
(実施例38)
質量比で、セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V、MFR=30g/10min.)/酸無水物(1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)TH)/多価アルコール(1,4−ブタンジオール)=70/29/0.7/0.3となるように調製した以外は実施例36と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間、混練室内部の温度は150℃、圧力は0.2MPaを示していた。
【0082】
(実施例39)
質量比で、セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V、MFR=30g/10min.)/酸無水物(1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、新日本理化(株)製、商品名:リカシッド(登録商標)TH)/多価アルコール(1,4−ブタンジオール)=75/24/0.7/0.3となるように調製した以外は実施例36と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間、混練室内部の温度は150℃、圧力は0.2MPaを示していた。
【0083】
(実施例40)
水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間の混練室内部の温度が150℃を示し、圧力が0.49MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例36と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、圧力0.49MPaは150℃における飽和水蒸気圧に相当する。
【0084】
(実施例41)
水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間の混練室内部の温度が150℃を示し、圧力が0.49MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例37と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、圧力0.49MPaは150℃における飽和水蒸気圧に相当する。
【0085】
(実施例42)
水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間の混練室内部の温度が150℃を示し、圧力が0.49MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例38と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、圧力0.49MPaは150℃における飽和水蒸気圧に相当する。
【0086】
(実施例43)
水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間の混練室内部の温度が150℃を示し、圧力が0.49MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例39と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、圧力0.49MPaは150℃における飽和水蒸気圧に相当する。
【0087】
(実施例44)
回転羽根の回転数を3300rpmに変更して混練室内の温度が370℃まで上昇するようにし、かつ、水蒸気の解放機構部を調節して混練室内の圧力が0.2MPaを保持するようにした以外は実施例36と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0088】
(実施例45)
回転羽根の回転数を3300rpmに変更して混練室内の温度が370℃まで上昇するようにし、かつ、水蒸気の解放機構部を調節して混練室内の圧力が0.2MPaを保持するようにした以外は実施例37と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0089】
(実施例46)
回転羽根の回転数を3300rpmに変更して混練室内の温度が370℃まで上昇するようにし、かつ、水蒸気の解放機構部を調節して混練室内の圧力が0.2MPaを保持するようにした以外は実施例38と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0090】
(実施例47)
回転羽根の回転数を3300rpmに変更して混練室内の温度が370℃まで上昇するようにし、かつ、水蒸気の解放機構部を調節して混練室内の圧力が0.2MPaを保持するようにした以外は実施例39と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0091】
(実施例48)
水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間の混練室内部の温度が320℃を示し、圧力が22MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例44と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、圧力22MPaは320℃における飽和水蒸気圧に相当する。
【0092】
(実施例49)
水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間の混練室内部の温度が320℃を示し、圧力が22MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例45と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、圧力22MPaは320℃における飽和水蒸気圧に相当する。
【0093】
(実施例50)
水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間の混練室内部の温度が320℃を示し、圧力が22MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例46と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、圧力22MPaは320℃における飽和水蒸気圧に相当する。
【0094】
(実施例51)
水蒸気の漏れが停止してからモーターのスイッチを切るまでの間の混練室内部の温度が320℃を示し、圧力が22MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例47と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、圧力22MPaは320℃における飽和水蒸気圧に相当する。
【0095】
(実施例52)
セルロース集合体として、広葉樹の晒クラフトパルプ(L−BKP)のパルプシート(温度を90℃に設定した乾燥器に24時間保持して水分を乾燥させたもの)を用意し、解繊された繊維状セルロースの水分含有率が4質量%であった以外は実施例19と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0096】
(実施例53)
セルロース集合体として、広葉樹の晒クラフトパルプ(L−BKP)のウェットパルプシートを用意し、解繊された繊維状セルロースの水分含有率が33質量%であった以外は実施例19と同様にして、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0097】
(比較例1)
質量比で、セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V、MFR=30g/10min.)/多価アルコール(1,4−ブタンジオール)=60/39/1となるように調製した以外は実施例19と同様にして、セルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0098】
(比較例2)
回転羽根の回転数を2300rpmに変更して混練室内の温度が135℃まで上昇するようにし、かつ、水蒸気の解放機構部を調節して混練室内の圧力が0.18MPaを保持するようにした以外は実施例19と同様にして、セルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0099】
(比較例3)
回転羽根の回転数を2700rpmに変更して混練室内の温度が150℃まで上昇するようにし、かつ、水蒸気の解放機構部を調節して混練室内の圧力が0.18MPaを保持するようにした以外は実施例19と同様にして、セルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0100】
(比較例4)
回転羽根の回転数を3300rpmに変更して混練室内の温度が370℃まで上昇するようにし、かつ、水蒸気の解放機構部を調節して混練室内の圧力が0.18MPaを保持するようにした以外は実施例19と同様にして、セルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0101】
(比較例5)
回転羽根の回転数を3700rpmに変更して混練室内の温度が400℃まで上昇するようにし、かつ、水蒸気の解放機構部を調節して混練室内の圧力が35MPaを保持するように調製した以外は実施例19と同様にして、セルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、400℃における飽和水蒸気圧は31MPaである。
【0102】
(比較例6)
回転羽根の回転数を2300rpmに変更して混練室内の温度が135℃まで上昇するようにし、かつ、水蒸気の解放機構部を調節して混練室内の圧力が0.20MPaを保持するようにした以外は実施例19と同様にして、セルロース含有熱可塑性樹脂を得た。
【0103】
(比較例7)
回転羽根の回転数を3700rpmに変更して混練室内の温度が400℃まで上昇するようにし、かつ、水蒸気の解放機構部を調節して混練室内の圧力が31MPaを保持するようにした以外は実施例19と同様にして、セルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、31MPaは400℃における飽和水蒸気圧に相当する。
【0104】
<MFR>
JIS K7210に則って、メルトマスフローレイト(MFR)を測定した。試験条件はポリプロピレンの試験条件(試験温度:230℃、公称荷重:2.16kg)とした。ただし、流動性が低いため、前記試験条件でMFRの測定が不能であったものは、試験温度は230℃で、公称荷重を10kgとしてMFRを測定した。公称荷重10kgでMFRの測定が可能であれば実用上問題なく成形処理が可能である。
【0105】
<反り>
実施例及び比較例で作製したセルロース含有熱可塑性樹脂を用いて、射出成形機((株)日本製鋼所製、商品名:J55ELIII)で板(150mm×80mm×1mm)を射出成形した。成形の際、射出時間を0.3秒に設定した。作製した板を平らな台の上に置き持ち上がり量を測定した。測定は、四隅のうち1点を台と密着させた際に持ち上がり量が最も高い隅の持ち上がり量を測定した。熱可塑性樹脂中のセルロースの分散性が均一なほど成形体の反りの発生が少ないと考えられることより、持ち上がり量は小さい方が良好で、樹脂特性が均一であると判断される。
【0106】
<曲げ弾性率>
実施例及び比較例で作製したセルロース含有熱可塑性樹脂を用いて、JIS K7171に則り曲げ弾性率を測定した。ただし、試験片の数を20個とし、20回測定し、その平均値をもって曲げ弾性率とした。数値の大きい方が、曲げ弾性率が高く、良好である。なお、試験片は、JIS K7139に則り作製した多目的試験片A形より切り出した。
【0107】
<曲げ弾性率のばらつき>
曲げ弾性率の20点の測定結果から標準偏差を算出し、曲げ弾性率のばらつきの尺度とした。標準偏差が小さいほどばらつきが小さく、均一性が高く良好である。なお、前記均一性の高さは、熱可塑性樹脂中のセルロースにおける分散状態の均一性の高さを反映したものである。
【0108】
<水分率>
曲げ弾性率測定に使用するのと同じ試験片を10枚用意し、23℃、50%RHに静置して調湿した後、10枚全体の質量(W1)を測定する。質量測定後、120℃に設定した熱風乾燥機に6時間保持して乾燥した後、乾燥機から取り出し直後の1枚全体の質量(W2)を測定する。(W1−W2)/W1をもって、成形体の水分率とした。
【0109】
評価結果を表1〜3に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
【表2】

【0112】
【表3】

【0113】
表1、2に示す通り、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂は、MFRが大きいため、成形性に優れていることがわかる。また、本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂からなる成形体は反りの発生がなく、反りの発生がないことは、併せて測定した成形体の含有水分率が低いことに符合している。さらに、曲げ弾性率も高いことがわかる。一方、表3に示す比較例ではこれら特性は劣ったものとなっている。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、セルロース含有熱可塑性樹脂及びその成形体は、包装材料、収容トレイ、パレット、保護用部材、パーティション部材等に利用可能である。また、パソコン、携帯電話の筺体、自動車用材料、建材、家具、遊具、玩具、文具等に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転羽根が配設されてなる回転軸が備えられた撹拌室を有するバッチ式密閉型混練装置で、原料として熱可塑性樹脂とセルロースとを溶融混合するセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法において、セルロースが乾式解繊機により解繊された繊維状セルロースであり、溶融混合時の撹拌室内部の温度が150〜370℃で、撹拌室内部の圧力が0.20MPa以上で飽和水蒸気圧までの間にあり、かつ、原料として酸無水物が添加されていることを特徴とするセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項2】
原料として、多価アルコールがさらに添加されている請求項1記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項3】
セルロース含有熱可塑性樹脂に対するセルロースの含有率が5〜70質量%である請求項1又は2記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項4】
セルロースの水分含有率が5〜30質量%である請求項1〜3のいずれかに記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項5】
後工程として、再加熱混合を行う請求項1〜4のいずれかに記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法で製造されてなるセルロース含有熱可塑性樹脂。
【請求項7】
請求項6記載のセルロース含有熱可塑性樹脂を含有してなる成形体。

【公開番号】特開2011−219571(P2011−219571A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88555(P2010−88555)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】