説明

セルロース多孔質体の製造方法

【課題】セルロースを溶解させたセルロース水溶液をセルロース非溶媒に接触させ、かくして、得られたセルロース膨潤ゲルを常温常圧下に乾燥して、セルロース多孔質体を製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば、セルロースを溶解させたセルロース水溶液をセルロース非溶媒に接触させ、得られたセルロース膨潤ゲルを水溶性有機溶媒で溶媒置換処理し、かくして得られたセルロース膨潤ゲルが含む上記水溶性有機溶媒を脂肪族炭化水素溶媒と置換し、次いで、かくして得られたセルロース膨潤ゲルが含む上記脂肪族炭化水素溶媒を常温常圧下で乾燥することを特徴とするセルロース多孔質体の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担体、吸着材、断熱材、吸音材をはじめ、電池用電極材料やセパレータに好適に用いることができるセルロース多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース多孔質体は、一般的には、セルロースを溶解させたセルロース水溶液を調製し、これをセルロース非溶媒に接触させて、セルロース膨潤ゲルを形成させ、これを乾燥し、上記溶媒を除去することによって得ることができる(特許文献1〜3参照)。
【0003】
セルロース水溶液を調製する方法は、これまで、種々のものが知られている。例えば、古くから知られているビスコースを形成させる方法のほかにも、酸化銅アンモニア水溶液にセルロースを溶解させる方法(上記特許文献2参照)、含水N−メチルモルホリン−N−オキシド(NMMO)に溶解させる方法(特許文献4参照)、アルカリ/(チオ)尿素水溶液に溶解させる方法(上記特許文献3参照)等が知られている。
【0004】
しかし、従来、多くの場合、セルロース水溶液の調製の方法にかかわらず、得られたセルロース膨潤ゲルを乾燥するには、凍結乾燥のように、減圧と低温を必要とし、また、高温での溶媒乾燥のように、高温を必要としている。また、セルロース膨潤ゲルを二酸化炭素超臨界乾燥する方法、即ち、セルロース膨潤ゲル中の溶媒を水、次いで、エタノールで置換した後、二酸化炭素に浸漬し、又は二酸化炭素雰囲気下、例えば、温度40℃、圧力90kg/cm2の条件下に処理して、上記溶媒、エタノールを除去する方法も知られている(上記特許文献3参照)。
【0005】
従って、従来の方法によれば、セルロース膨潤ゲルを得た後、そのままの環境温度と圧力の常温常圧下でセルロース多孔質体を連続的に製造することはできず、また、製造費用の低減にも自ずから限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−256088号公報
【特許文献2】特開2007−25045号公報
【特許文献3】特開2008−231258号公報
【特許文献4】特開2006−188806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来のセルロース多孔質体の製造における上述した問題を解決するためになされたものであって、セルロース膨潤ゲルを乾燥して、セルロース多孔質体を製造するに際して、凍結乾燥のように減圧と低温を必要とせず、また、二酸化炭素超臨界乾燥のように高圧を必要とせず、勿論、溶媒の乾燥のために高温も必要とせず、セルロース膨潤ゲルを得た後、そのままの環境温度と圧力の常温常圧下で乾燥して、セルロース多孔質体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、セルロースを溶解させたセルロース水溶液をセルロース非溶媒に接触させ、得られたセルロース膨潤ゲルを水溶性有機溶媒で溶媒置換処理し、かくして得られたセルロース膨潤ゲルが含む上記水溶性有機溶媒を脂肪族炭化水素溶媒と置換し、次いで、かくして得られたセルロース膨潤ゲルが含む上記脂肪族炭化水素溶媒を常温常圧下で乾燥することを特徴とするセルロース多孔質体の製造方法が提供される。
【0009】
本発明において、上記セルロース水溶液は、好ましくは、尿素又はチオ尿素から選ばれる少なくとも1種と水酸化アルカリ金属を含む水溶液にセルロースを溶解させることによって得ることができる。
【0010】
特に、本発明の好ましい態様によれば、セルロースを溶解させたセルロース水溶液をセルロース非溶媒に接触させ、得られたセルロース膨潤ゲルが含む水性溶媒を水、次いで、水溶性有機溶媒と置換し、かくして得られたセルロース膨潤ゲルが含む上記水溶性有機溶媒を脂肪族炭化水素溶媒と置換し、次いで、かくして得られたセルロース膨潤ゲルをそのままの環境温度と圧力の常温常圧下で乾燥することによってセルロース多孔質体を得る。
本発明において、上記水溶性有機溶媒は、好ましくは、炭素原子数1〜3の脂肪族低級アルコールである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、セルロースを溶解させたセルロース水溶液をセルロース非溶媒に接触させ、得られたセルロース膨潤ゲルを水溶性有機溶媒で溶媒置換処理し、かくして得られたセルロース膨潤ゲルが含む上記水溶性有機溶媒を脂肪族炭化水素溶媒と置換し、次いで、かくして得られたセルロース膨潤ゲルが含む上記脂肪族炭化水素溶媒を常温常圧下で乾燥することによってセルロース多孔質体を得ることができる。
【0012】
従って、このような本発明の方法によれば、セルロースの膨潤ゲルを乾燥するに際して、凍結乾燥のように減圧と低温を必要とせず、また、二酸化炭素超臨界乾燥のように高圧を必要とせず、勿論、高温も必要とせず、セルロース膨潤ゲルを得た環境温度と圧力のままの常温常圧下に連続的に製造することができ、従って、従来の方法と相違して、温度や圧力の変化のためのエネルギーや装置や費用も必要とせずに、セルロース多孔質体を効率よく、しかも、少ない製造費用にて製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】脂肪族炭化水素溶媒の炭素原子数と、得られたセルロース多孔質体の空孔率と通気度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
セルロース水溶液を得る方法は、前述したように、従来、種々のものが知られている。即ち、セルロース水溶液を得る方法としては、例えば、亜硫酸パルプを苛性アルカリ水溶液に浸漬してアルカリセルロースを得、これを圧搾し、過剰のアルカリを除き、粉砕し、更に、これに二硫化炭素を反応させてザンテートとし、これに希薄苛性アルカリ水溶液を加えて、ビスコースを形成させる方法によることができる。これ以外にも、例えば、木材パルプを銅アンモニア溶液に溶解させる方法、含水NMMOに溶解させる方法、アルカリ/(チオ)尿素水溶液に溶解させる方法等が知られている。
【0015】
本発明においては、セルロース水溶液を得る方法は、特に限定されるものではなく、上述したように、従来、知られている方法のいずれでも用いることができるが、例えば、アルカリ/(チオ)尿素水溶液に溶解させる方法は、本発明において、好ましく用いることができる方法の1つである。
【0016】
このようなセルロース水溶液をセルロース非溶媒に接触させることによって、セルロース膨潤ゲルを得ることができる。上記セルロース非溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びブタノールのような炭素原子数1〜4の低級脂肪族アルコールとその水溶液、エチレングリコール等の多価アルコールとその水溶液、ポリエチレングリコール等のポリエーテルアルコールとその水溶液、アセトンのような炭素原子数3又は4の低級脂肪族ケトンとその水溶液、酢酸エチルのような低級脂肪族カルボン酸エステルとその水溶液、希硫酸や希塩酸のような無機酸水溶液、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム等の無機塩類の希薄水溶液及びこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。
【0017】
上述したセルロース非溶媒のなかでも、特に好ましいものとして、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、5重量%濃度塩酸、5重量%濃度硫酸等を挙げることができ、また、無機塩類を含むセルロース非溶媒として、10重量%濃度塩化ナトリウム水溶液、5重量%濃度塩化ナトリウムのメタノール溶液、5重量%濃度塩化カルシウムのメタノール/水(1/1体積比)溶液、5重量%濃度塩化ナトリウムのメタノール/水(1/1体積比)溶液、5重量%濃度塩化ナトリウムのイソプロパノール/水(1/1体積比)溶液等を挙げることができる。しかし、本発明においては、セルロース非溶媒は、上記例示したものに限定されるものではない。
【0018】
本発明によれば、セルロース水溶液をセルロース非溶媒に接触させることによって得られるセルロース膨潤ゲルを乾燥することによって、セルロース多孔質体を得ることができる。本発明によれば、セルロース膨潤ゲルを水溶性有機溶媒で溶媒置換処理し、即ち、セルロース膨潤ゲルが含む水性溶媒を水溶性有機溶媒と置換し、かくして、得られたセルロース膨潤ゲルの含む上記水溶性有機溶媒を更に脂肪族炭化水素溶媒と置換し、次いで、上記脂肪族炭化水素溶媒を含むセルロース膨潤ゲルをそのセルロースの細孔構造を維持させながら、常温常圧下に乾燥して、セルロース多孔質体を得ることができる。従って、本発明によれば、セルロース膨潤ゲルを得た際の環境温度と圧力の常温常圧下にセルロース膨潤ゲルの含む脂肪族炭化水素溶媒を乾燥させることができる。
【0019】
本発明において、上記水溶性有機溶媒は、セルロース水溶液をセルロース非溶媒と接触させて得られたセルロース膨潤ゲルの含む水性溶媒と混和すると共に、脂肪族炭化水素溶媒と混和する水溶性有機溶媒であり、従って、このような水溶性有機溶媒としては、例えば、アセトン、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール等が好ましく用いられる。
【0020】
特に、本発明によれば、セルロース水溶液をセルロース非溶媒と接触させて得られたセルロース膨潤ゲルの含む水性溶媒を最初、水と置換し、次いで、例えば、エタノールのような水溶性有機溶媒と置換した後、この水溶性有機溶媒を脂肪族炭化水素溶媒にて置換することが好ましい。
【0021】
脂肪族炭化水素溶媒は、セルロースとの親和性が低く、セルロースを濡らし難いので、セルロース膨潤ゲルの含む水性溶媒を最終的にこのような脂肪族炭化水素溶媒と置換し、この脂肪族炭化水素溶媒を常温常圧下に乾燥することによって、この乾燥に際しても、セルロースの細孔構造を維持させることができ、よって、空孔率の高いセルロース多孔質体を得ることができる。
【0022】
特に、本発明によれば、上記脂肪族炭化水素溶媒は、炭素原子数5〜12のものが好ましく、特に、7〜10のものが好ましい。従って、本発明において、特に好ましい上記脂肪族炭化水素溶媒の具体例として、例えば、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン等を挙げることができる。
【0023】
これらの脂肪族炭化水素溶媒のうち、直鎖状の脂肪族炭化水素溶媒を用いるとき、炭素原子数が多いほど、高通気度のセルロース多孔質体を得ることができる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はそれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0025】
以下において、得られたセルロース多孔質体の空孔率と坪強度は以下のようにして求めた。
【0026】
(密度法によるセルロース多孔質体の空孔率)
セルロース多孔質体の比重はアモルファスセルロースの比重(1.436)と等しいとし、セルロース多孔質体の厚みd(g/cm3)と重量W(g)多孔質体の(片面の)面積S(cm2)に基づいて、下記式から空孔率を算出した。即ち、
空孔率={1−(W/1.436)/dS}x100(%)
【0027】
(セルロース多孔質体の針刺し強度)
セルロース多孔質体に直径1mmの針を突き刺し、その際の抵抗(gf)をもって針刺し強度とした。
【0028】
実施例1
水酸化リチウム1水和物と尿素を水に溶解させて、水酸化リチウム濃度6.5重量%、尿素濃度12重量%の水溶液を調製した。この水溶液を−17℃付近まで冷却した後、直ちにこの水溶液にセルロースを3重量%濃度となるように投入し、次いで、冷却しながら、10分間攪拌して、均一なセルロース水溶液を得た。
【0029】
このセルロース水溶液を遠心分離により脱泡した後、ガラス基板に厚み300μmとなるように塗布し、これをセルロース非溶媒である5重量%濃度塩化ナトリウムの水/イソプロパノール(1/1体積比)に浸漬して、セルロース湿潤ゲルを得た。このセルロース膨潤ゲルを水、次いで、エタノールを用いて、順次に溶媒置換し、次いで、最終的にデカンに浸漬して、エタノールと十分に溶媒置換した後、得られたセルロースのシートを常温常圧下で乾燥させ、デカンを除去して、膜厚15μmのセルロース多孔質体を得た。
【0030】
セルロースの密度を1.436g/cm3として、密度法により得られた上記セルロース多孔質体の空孔率、通気度及び針刺し強度はそれぞれ46.0%、662秒/dL及び171gfであった。
【0031】
実施例2
実施例1において、セルロース非溶媒として、メタノールを用いた以外は、実施例1と同様にして、膜厚8.9μm、空孔率14.7 %、通気度1247秒/dL及び針刺し強度201gfのセルロース多孔質体を得た。
【0032】
実施例3
実施例1において、脂肪族炭化水素溶媒として、デカンに代えて、ヘプタンを用いた以外は、実施例1と同様にして、膜厚16.3μm、空孔率41.9 %、通気度1053秒/dL及び針刺し強度222gfのセルロース多孔質体を得た。
【0033】
実施例4
実施例1において、脂肪族炭化水素溶媒として、デカンに代えて、オクタンを用いた以外は、実施例1と同様にして、膜厚16.2μm、空孔率44.8 %、通気度1012秒/dL及び針刺し強度196gfのセルロース多孔質体を得た。
【0034】
実施例5
実施例1において、脂肪族炭化水素溶媒として、デカンに代えて、イソオクタンを用いた以外は、実施例1と同様にして、膜厚15.2μm、空孔率36.1 %、通気度1442秒/dL及び針刺し強度220gfのセルロース多孔質体を得た。
【0035】
実施例6
実施例1において、脂肪族炭化水素溶媒として、デカンに代えて、ノナンを用いた以外は、実施例1と同様にして、膜厚14.7μm、空孔率41.6 %、通気度944秒/dL及び針刺し強度176gfのセルロース多孔質体を得た。
【0036】
比較例1
実施例1において、脂肪族炭化水素溶媒として、デカンに代えて、イソプロパノールを用いた以外は、実施例1と同様にしたところ、膜厚7.6μm、空孔率8.4%で、通気性のないセルロース体を得た。
【0037】
比較例2
実施例1において、脂肪族炭化水素溶媒として、デカンに代えて、ジクロロメタンを用いた以外は、実施例1と同様にしたところ、膜厚8.0μm、空孔率6.9%で、通気性のないセルロース体を得た。
【0038】
上記実施例において得られたセルロース多孔質体について、用いた脂肪族炭化水素溶媒の炭素原子数と得られたセルロース多孔質体の空孔率と通気度との関係を図1に示す。
【0039】
図1において、黒く塗りつぶした円と四角はそれぞれ直鎖状脂肪族炭化水素溶媒を用いて得られたセルロース多孔質体の空孔率と通気度を示し、塗りつぶしていない円と四角はそれぞれ分岐鎖状のイソオクタン溶媒を用いて得られたセルロース多孔質体の空孔率と通気度を示す。
【0040】
直鎖状の脂肪族炭化水素溶媒の炭素原子数が増えるにつれて、得られるセルロース多孔質体の通気度が低減することが認められる。また、炭素原子数が同じ脂肪族炭化水素溶媒を用いる場合は、直鎖状の脂肪族炭化水素溶媒を用いるとき、分岐鎖状の脂肪族炭化水素溶媒を用いるときよりも、空孔率の高いセルロース多孔質体を得ることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを溶解させたセルロース水溶液をセルロース非溶媒に接触させ、得られたセルロース膨潤ゲルを水溶性有機溶媒で溶媒置換処理し、かくして得られたセルロース膨潤ゲルが含む上記水溶性有機溶媒を脂肪族炭化水素溶媒と置換し、次いで、かくして得られたセルロース膨潤ゲルが含む上記脂肪族炭化水素溶媒を常温常圧下で乾燥することを特徴とするセルロース多孔質体の製造方法。
【請求項2】
尿素又はチオ尿素から選ばれる少なくとも1種と水酸化アルカリ金属を含む水溶液にセルロースを溶解させてセルロース水溶液を得る請求項1に記載のセルロース多孔質体の製造方法。
【請求項3】
脂肪族炭化水素溶媒が炭素原子数5〜12を有するものである請求項1に記載のセルロース多孔質体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法によって得られるセルロース多孔質体。





【図1】
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