説明

セルロース微小繊維を付与した印刷物

【課題】 本発明の課題は、紙幣、パスポート、有価証券、印紙類、証明書又は入場券等の貴重印刷物に用いる印刷物に関し、特に、セルロース微小繊維を分散させた分散液を付与した印刷物に関する。
【解決手段】 本発明の構成は、基材の一部に、セルロース微小繊維を分散させた分散液を付与し、その付与した部分の上に、セルロース微小繊維の繊維幅より大きい粒子径を持つ少なくとも一種類の顔料を含有したインキにより印刷を施した印刷物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣、パスポート、有価証券、印紙類、証明書又は入場券等の貴重印刷物に用いる印刷物に関し、特に、セルロース微小繊維を分散させた分散液を付与した印刷物に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
紙幣、パスポート、有価証券、印紙類、証明書又は入場券等の貴重印刷物は、その性質上、偽造や不正な複写を防止する機能を有することが要求される。この防止策としては、用紙内に偽造防止機能を付与する技術と、印刷において偽造防止機能を付与する技術が挙げられる。用紙内に偽造防止機能を付与する技術としては、すき入れ、混抄又は多層紙等が挙げられ、印刷において偽造防止機能を付与する技術としては、微細な画線構成、凹版画線又は蛍光発光等が挙げられる。
【0003】
しかし、近年、高性能なスキャナ、パソコン又はプリンタ等が普及したため、第三者が容易に偽造品を作製できる傾向にある。さらに、高性能なスキャナ、パソコン又はプリンタ等で作製された偽造品は、視覚的な判断だけでは真正品と差別化することが困難になりつつある。このような状況下において、容易に偽造できないような細画線を用いた印刷物又は偽造されたとしても真正品との差別化ができるような印刷物が求められるようになってきている。
【0004】
一方、近年、テクノロジーの進歩が著しく、ナノスケール品の創製の際、合成材料に限らずセルロースのような天然材料にも応用が可能となってきた。その例として、セルロース系の原料を酸化し、該酸化セルロースを湿式微粒化処理してナノファイバー(以下、「セルロースナノファイバー」という。)を作製し、そのセルロースナノファイバーから成る製紙用添加剤を、紙に塗工又は含浸することで紙の透気抵抗度及び平滑度を向上させ、インキの着肉性や裏抜け防止に優れた印刷用紙が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、セルロースナノファイバーからなる製紙用添加剤を表面に塗布した紙に、1層以上の塗工層を設けることで、白紙光沢度及び印刷光沢度を向上させたオフセット印刷用塗工紙と、網点の欠落の少ないグラビア印刷用塗工紙が開示されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−263850
【特許文献2】特開2009−263853
【特許文献3】特開2009−263854
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、容易に偽造できないように、色濃度の異なる図柄、文字又は領域等、例えば、細画線又は微小文字等を印刷する場合、先に淡い色のインキで印刷を行った後、先に印刷したインキの色よりも濃い色のインキで印刷を行うなど、二度の印刷による重ね刷りを行う必要がある。その場合、重ね刷り印刷における刷り合わせに、高度な技術が要求される。
【0008】
また、多色印刷を行う場合、一色目を印刷した後に二色目の印刷を行い、更には三色目、四色目の印刷を行うことがあるが、その際、二色目の色が一色目の色に影響されてしまう等、後で印刷する色が先に印刷した色に影響されてしまう可能性があり、色調の面からの品質安定が課題である。
【0009】
さらに、使用する材料に関しては、リサイクル性や環境調和性が重要視されており、製品に使用する際には制限があった。また、これ以外にも、原価の高い材料の使用にも制限があった。
【0010】
なお、特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載の技術に関しては、いずれも、セルロースナノファイバーを用紙全面に塗工(又はダブル塗工)し、用紙の平滑性、インキ着肉性又は光沢度等を向上させることを目的とした技術であり、濃淡を有する印刷物及び多色を有する印刷物を目的とするものではない。
【0011】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、基材の一部に、セルロース微小繊維を分散させた分散液を付与し、その付与した部分の上に、セルロース微小繊維の繊維幅より大きい粒子径を持つ少なくとも一種類の顔料を含有したインキにより印刷を施した印刷物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明におけるセルロース微小繊維を付与した印刷物は、基材の少なくとも一部に、着色領域を有し、着色領域は、セルロース微小繊維を分散させたセルロース微小繊維分散液が付与された付与部と、セルロース微小繊維分散液が付与されていない非付与部を有し、着色領域に、セルロース微小繊維の繊維幅より大きい粒子径を持つ少なくとも一種類の顔料を含有したインキにより印刷を施して成り、付与部と非付与部を目視で視認した場合、付与部と非付与部において色濃度差及び/又は色相差が生じて、可視光下における目視での視認が可能であることを特徴とする。
【0013】
本発明におけるセルロース微小繊維を付与した印刷物は、インキが、更にセルロース微小繊維の繊維幅より小さい又はほぼ同等の粒子径を持つ少なくとも一種類の顔料を有して成ることを特徴とする。
【0014】
本発明におけるセルロース微小繊維を付与した印刷物は、インキが、更に少なくとも一種類の染料を有して成ることを特徴とする。
【0015】
本発明におけるセルロース微小繊維を付与した印刷物は、付与部におけるセルロース微小繊維の乾燥後の固形分量は、0.01〜30g/mであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
セルロース微小繊維を分散させた分散液を付与した部分と付与していない部分に、一度の印刷を行うだけで、色濃度及び/又は色相の異なる図柄や文字、領域を再現できるため、二度刷りの際の重ね刷り印刷における高度な刷り合わせの必要がない。
【0017】
セルロース微小繊維を分散させた分散液を付与した部分と付与していない部分に、一度の印刷を行うだけで、多色印刷のような色調の異なる図柄や文字、領域を再現できるため、色調の面からの品質安定が可能となる。
【0018】
セルロースといった天然繊維を使用するため、リサイクル性や環境調和性の向上、製品コストの低減を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明におけるセルロース微小繊維を付与した印刷物の平面図を示す。
【図2】用紙に単色印刷を行った平面図とその断面図を示す。
【図3】印刷を行う領域の平面図を示す。
【図4】用紙に多色印刷を行った平面図とその断面図を示す。
【図5】実施例1におけるセルロース微小繊維を付与した印刷物の平面図を示す。
【図6】実施例1における印刷物への単色印刷を行った結果を示す。
【図7】実施例2におけるセルロース微小繊維を付与した印刷物の平面図を示す。
【図8】実施例3におけるセルロース微小繊維を付与した印刷物の平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0021】
図1に、本発明における印刷物の平面図を示す。本発明における印刷物(1)は、基材(2)の少なくとも一部に、着色領域(3)を有し、その着色領域(3)には、セルロース微小繊維を分散させた分散液(以下、「セルロース微小繊維分散液」という。)が付与されて成る。以下、着色領域(3)内において、セルロース微小繊維分散液を付与した部分のことを「付与部」といい、セルロース微小繊維分散液を付与していない部分のことを「非付与部」という。
【0022】
また、着色領域(3)における付与部の形状は、図1(a)に示すように有意味情報を持った図柄形状による領域でもよく、図1(b)に示すように基材(2)に対して帯状による領域としてもよい。
【0023】
本発明における基材(2)とは、木材や非木材パルプから成る紙、合成繊維からなる合成繊維紙、不織布又はフィルム等、吸水性を有する材料から形成されるシート状のものであれば、特に限定はない。ただし、紙、合成繊維紙又は不織布等の、繊維状の材料から形成される基材の方が好ましい。フィルム等の場合、セルロース微小繊維分散液を多く付与した場合には付与部が可視光下において視認できる可能性や、その基材のインキ吸収性が低い場合には、要求される色濃度変化や色変化の効果を得ることが難しくなる可能性がある。
【0024】
なお、図1(a)及び図1(b)において、付与部が着色され視認できる状態で図示されているが、説明上、着色して図示しているのであって、実際は、可視光による反射光下及び透過光下では目視で視認できない。
【0025】
本発明におけるセルロース微小繊維とは、主としてセルロースから成る繊維であり、特に植物由来の天然セルロースを原料として用いたものが好ましく、繊維幅2nm〜10μm未満の微小なセルロース繊維に解繊されたものをいう。
【0026】
ここでいう解繊とは、セルロース系の繊維をミクロ又はナノフィブリル数本単位まで解きほぐすことである。通常、植物から得られるセルロース系の繊維は、セルロース分子30〜50本から成り、繊維幅が約2〜5nmのセルロースナノフィブリルの集合体である。セルロースミクロフィブリルは無数の水素結合により強固に結合されているが、物理的又は化学的な処理を施すことで、繊維状のままセルロースミクロ又はナノフィブリル数本単位に解きほぐすことが可能である。
【0027】
解繊する方法として、物理的方法では、高圧ホモジナイザーによる機械的せん断力でミクロフィブリル化する方法又は乾式ボールミルによる機械的粉砕に有機溶媒を添加することで微粒化処理する方法等がある。また、化学処理による方法では、硫酸処理によりセルロース繊維の非結晶部分を除く方法又は酸化処理により結晶性セルロースミクロフィブリル表面のみにカルボキシル基を導入して高分散させる方法等がある。これらの方法は、すべて公知の手法であり、本発明において用紙を作製するために行う解繊も公知の手法で行うこととする。
【0028】
セルロース繊維の繊維幅が10μm以上になると、一般的なパルプ繊維の繊維幅である10〜30μmと同じオーダーとなり、微小繊維特有の特性を得られない。よって、ここでいう微小繊維とは、セルロースナノフィブリル単位の約2nmから10μm未満の繊維をいい、特に2nm〜1μm未満の繊維の使用が好ましく、更に好ましくは2nm〜100nm未満の繊維である。
【0029】
セルロース微小繊維は、主としてセルロースから成る繊維で構成されているが、そのセルロースから成る繊維については、特に限定されるものではなく、各種木材を原料とするKP又はSP等の化学パルプ、GP、TMP又はCTMP等の機械パルプ、古紙再生パルプ等のパルプを適宜選択して使用でき、それらを粉砕した粉末状セルロース、化学処理により精製した微結晶化セルロース等も使用できる。また、ケナフ、麻、イネ、バガス、アバカ、木綿、ミツマタ又は竹等の非木材を使用することもできる。
【0030】
セルロース微小繊維は、水に分散させて、セルロース微小繊維分散液を調製する。これに、セルロース微小繊維の分散状態をあまり阻害しない粉末、微粒子、又は水性液体、例えば、分散剤、サイズ剤、定着剤又は水溶性高分子樹脂等を加えることが可能である。
【0031】
また、セルロース微小繊維分散液は、解繊された微小繊維同士が、すぐに水素結合で再結合しない程度の濃度である必要があり、固形分濃度1〜3%程度での使用が望ましい。ただし、分散液を強撹拌又は分散剤を添加することで、微小繊維同士を再分離させることができれば、3〜35%程度でも問題はない。
【0032】
これは、固形分濃度が35%以上の高濃度になると、撹拌又は分散剤を加えるのみでは、微小繊維同士の再結合を抑止できず、再解繊処理が必要となる可能性があるためであり、逆に、固形分濃度が1%以下の低濃度では、用紙への付与および乾燥段階において、水分過多による用紙の膨潤等を促進する可能性があるためである。ただし、それらの問題が他の手段で回避できれば特に制限はない。
【0033】
基材(2)の少なくとも一部にセルロース微小繊維分散液を付与する方式は、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷又はインクジェット印刷等の方式で印刷するか、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ブレードコーター又はバーコーター等の塗工機により塗工する、あるいは含浸させればよい。
【0034】
セルロース微小繊維分散液を付与する量は、付与する方式によって異なるが、乾燥後のセルロース微小繊維の固形分量が、0.01〜10g/m程度と成るように調製する必要がある。ただし、セルロース微小繊維分散液の付与部が可視光下において視認できなければ、10〜30g/m程度を付与しても問題はない。
【0035】
これは、固形分量が0.01g/m以下では、インキ顔料を表面に留める効果が十分でなく、印刷による色濃度変化や色変化の効果を得ることが難しくなるためである。
【0036】
また、付与方式によっては、一回での付与限界量が当該量以下の場合もあるが、この場合は数回付与を繰り返し、目標の固形分量を得ればよい。
【0037】
セルロース微小繊維の長さは、木材パルプの繊維長さが通常0.5〜3mm程度であることから、調製しうる最大限界長さはこれ以下の長さとなるが、この最大限界長さは付与方式により異なる。例えば、スクリーン印刷方式ではスクリーンの網目を通過できる長さ以下、フレキソ印刷方式ではロールのセルに転写されうる長さ以下、インクジェット印刷方式では噴射口から噴射されうる長さ以下である必要がある。
【0038】
以上のように、基材(2)の少なくとも一部に、セルロース微小繊維分散液を付与した後、基材を乾燥させることによって用紙が作製される。
【0039】
その後、作製した用紙に対して、単色印刷又は多色印刷を行う。
【0040】
まず、図2を用いて、単色印刷を行う場合について説明する。図2(a)に示すように、基材(2)の一部にセルロース微小繊維を付与した用紙において、セルロース微小繊維を付与した側の基材(2)の全面又は一部に、一種類の顔料を含有したインキにより印刷を行う。
【0041】
その際の、インキに含有されている顔料と基材(2)の関係を図2(b)に示す。図2(b)は、図2(a)におけるX−X´断面図である。付与部(4)は、密度が高く空隙が少ないため、インキ中の顔料がセルロース微小繊維の表面に溜まり、逆に、非付与部(5)は、インキ中の顔料が基材(2)の内部にまで浸透する。そのため、印刷物(1)を反射光で目視した場合、付与部(4)は、印刷面側の色濃度が高くなるため濃い色で視認され、非付与部(5)は、印刷面側の色濃度が下がるため淡い色で視認される。
【0042】
さらに、もう一つの効果として、印刷物(1)を透過光で目視した場合、付与部(4)と非付与部(5)の色濃度差が視認しにくくなり、ほぼ同じ色濃度で視認される。これは、付与部(4)と非付与部(5)へのインキ転移量が同じ場合、インキ中の顔料の厚さ方向の分布が異なるだけであり、存在量は同じであるためである。
【0043】
印刷を行うインキの顔料としては、セルロース微小繊維の繊維幅より大きい粒子径を持つ顔料とする。可視光による色濃度変化を得たい場合は、可視光下で有色の顔料が良いが、紫外光や赤外光下での機械読み取りを目的とする場合には、紫外光や赤外光下で蛍光発光する無色蛍光顔料等を使用できる。インキは用紙に浸透しやすい水性の方が、色濃度に差が出やすいが、油性や溶剤系のインキでも問題はない。
【0044】
また、粒子径の異なる二種類の顔料の組み合わせとしては、二種類の顔料の粒子径に差があれば、印刷物の色変化の効果は得られる。しかし、最も効果がある組み合わせとしては、一方がセルロース微小繊維の繊維幅より大きい粒子径を持つ顔料であり、他方がセルロース微小繊維の繊維幅より小さい又はほぼ同等の粒子径を持つ顔料とする場合である。
【0045】
また、印刷を行う領域としては、図3(a)に示すように、基材(2)全面に印刷を行ってもよく、図3(b)に示すように、セルロース微小繊維を付与した領域全面と付与していない領域の一部にかかるように印刷を行ってもよく、図3(c)に示すように、セルロース微小繊維を付与した領域の一部と付与していない領域の一部にかかるように印刷を行ってもよい。
【0046】
この印刷領域については、印刷物(1)の図柄模様によって適宜決定することとする。つまり、図柄に悪影響を及ぼさない範囲において印刷を行う必要がある。
【0047】
次に、図4を用いて、多色印刷を施す場合について説明する。図4(a)に示すように、基材(2)の一部にセルロース微小繊維を付与した用紙において、セルロース微小繊維を付与した側の基材(2)の全面又は一部に、粒子径及び色相の異なる二種類の顔料を含有したインキにより印刷を行う。
【0048】
その結果、図4(a)におけるX−X´断面を示す図4(b)のように、セルロース微小繊維を付与した部分は、密度が高く空隙が少ないため、粒子径の大きい顔料のみがセルロース微小繊維の表面に溜まり、小さい顔料はセルロース微小繊維の内部と基材の内部に浸透する。逆に、付与していない部分は、粒子径の大きい顔料も粒子径の小さい顔料も、ともに基材(2)の内部にまで浸透する。そのため、印刷物(1)を反射光で目視した場合、セルロース微小繊維を付与した部分は、印刷面側の粒子径の大きい顔料の色濃度が高くなるため、粒子径の大きい顔料の色で視認され、付与していない部分は、印刷面側の粒子径の大きい顔料の色濃度が下がるため、二種類の顔料の色の混色として視認される。
【0049】
さらに、もう一つの効果として、印刷物(1)を透過光で目視した場合、付与部(4)と非付与部(5)の色相差が視認しにくくなり、ほぼ同じ色相で視認される。これは、付与部(4)と非付与部(5)へのインキ転移量が同じ場合、インキ中の顔料の厚さ方向の分布が異なるだけであり、存在量は同じであるためである。
【0050】
また、インキに含有する二種類の顔料の組み合わせとしては、前述したとおり粒子径及び色相の異なる二種類の顔料の組み合わせでもよく、色相の異なる顔料と染料とを組み合わせてインキに含有してもよい。
【0051】
この場合、染料は溶解するため、粒子として残存する顔料がセルロース微小繊維の表面に溜まり、染料がセルロース微小繊維及び基材の内部に浸透する。そのため、印刷物(1)を反射光で目視した場合、セルロース微小繊維を付与した部分は、印刷面側の顔料の色濃度が高くなるため顔料の色で視認され、付与していない部分は印刷面側の顔料の色濃度が下がるため、顔料の色と染料の色の混色として視認される。
【0052】
さらに、もう一つの効果として、印刷物(1)を透過光で目視した場合、付与部(4)と非付与部(5)の色相差が視認しにくくなり、ほぼ同じ色相で視認される。これは、付与部(4)と非付与部(5)へのインキ転移量が同じ場合、インキ中の顔料と染料の厚さ方向の分布が異なるだけであり、存在量は同じであるためである。
【0053】
印刷を行うインキの顔料としては、セルロース微小繊維の繊維幅より大きい粒子径を持つ顔料とする。可視光による色変化を得たい場合は、可視光下で有色の顔料が良いが、紫外光や赤外光下での機械読み取りを目的とする場合には、紫外光や赤外光下で蛍光発光する無色蛍光顔料等を使用できる。インキは用紙に浸透しやすい水性の方が、色変化に差が出やすいが、油性や溶剤系のインキでも問題ない。
【0054】
印刷を行うインキの染料としては、色や濃度に特に限定はないが、可視光による色変化を得たい場合は、可視光下で有色の染料が良いが、紫外光や赤外光下での機械読み取りを目的とする場合には、紫外光や赤外光下で蛍光発光する無色蛍光染料等を使用できる。
【0055】
また、顔料と染料を組み合わせる場合、色や濃度に特に限定はないが、インキを調合する際の親和性の点から、水性同士、油性や溶剤系同士を組み合わせることが好ましい。しかし、溶媒の調整で顔料と染料が分離せずに調合できるようであれば、異なる液性の組み合わせでも問題ない。
【0056】
また、印刷を行う領域としては、前述した図3(a)、図3(b)及び図3(c)において説明したとおりである。ただし、この印刷領域についても、印刷物(1)の図柄模様によって適宜決定することとする。つまり、図柄に悪影響を及ぼさない範囲において印刷を行う必要がある。
【実施例1】
【0057】
本発明の実施例1について、図5を用いて説明する。本実施例1では、基材の一部にセルロース微小繊維分散液を付与した用紙に対し、付与部の全面と非付与部の一部に、一種類の顔料を含有したインキにより単色印刷を行った例を示す。
【0058】
図5(a)は、セルロース微小繊維を付与した用紙の平面図を示す。用紙は、基材(2−1)の少なくとも一部に、着色領域(3−1)を有し、その着色領域(3−1)には、セルロース微小繊維分散液が付与されて成る。本実施例1において、セルロース微小繊維分散液を付与する形状は、図面左下に図示している「重円」の形状とした。「重円」の部分が付与部(4−1)、着色領域(3−1)内において、付与部(4−1)以外の領域が非付与部(5−1)である。
【0059】
セルロース微小繊維は、ダイセル化学工業株式会社製「セリッシュ100G(商品名)」を使用した。これを強撹拌して希釈し、固形分2%の水分散液を調整し、スクリーン印刷方式により、80線のメッシュ(オープニング247μm、版厚119μm)を用いて、セルロース微小繊維分散液の付与を行った。
【0060】
図5(b)に、図5(a)に示した用紙を用いた印刷物を示す。本実施例1における印刷物(1−1)として、商品券とした例を示す。商品券は、前述の方法で作製した用紙に対し、その他の情報を付与することによって作製される。その他の情報としては、商品券の額面及び図柄とし、グラビア印刷方式により図柄の印刷を行った。
【0061】
同時に、着色領域(3−1)に対し、一種類の顔料を含有したインキにより印刷を行う。
【0062】
印刷は、インクジェットプリンタ(EPSON社製 PM−890C)を用いてインクジェット印刷を行った。当該プリンタ専用の、顔料型マゼンタインク(顔料粒子径数十nm)を印刷した。
【0063】
図6(a)に示すように、インクジェット印刷前の用紙では、付与部(4−1)は何も視認できないが、図6(b)に示すように、インクジェット印刷後の印刷物(1−1)では、付与部(4−1)のみ色濃度が濃く現れた。
【0064】
これは、付与部(4−1)ではインク中のマゼンタ顔料がセルロース微小繊維の表面に溜まり、非付与部(5−1)ではマゼンタ顔料が基材の内部にまで浸透したため、付与部(4−1)で印刷面側の色濃度が高くなり、非付与部(5−1)で印刷面側の色濃度が下がったためである。このようにして、多色印刷を行わず、一度の印刷で色濃度の異なる図柄を再現できた。
【実施例2】
【0065】
本発明の実施例2について、図7を用いて説明する。本実施例2では、基材の一部にセルロース微小繊維分散液を付与した用紙に対し、付与部の全面と非付与部の一部に、二種類の顔料を含有したインキにより多色印刷を行った例を示す。
【0066】
図7(a)は、本発明におけるセルロース微小繊維を付与した用紙の平面図を示す。本発明における印刷物(1−2)は、基材(2−2)の少なくとも一部に、着色領域(3−2)を有し、その着色領域(3−2)には、セルロース微小繊維分散液が付与されて成る。本実施例2において、セルロース微小繊維分散液を付与する形状は、図面左下に図示している「ギザギザした輪郭を有する形状」の形状とした。「ギザギザした輪郭を有する形状」の部分が付与部(4−2)、着色領域(3−2)内において、付与部(4−2)以外の領域が非付与部(5−2)である。
【0067】
セルロース微小繊維は、ダイセル化学工業株式会社製「セリッシュ100G(商品名)」を使用した。これを強撹拌して希釈し、固形分2%の水分散液を調整し、スクリーン印刷方式により、80線のメッシュ(オープニング247μm、版厚119μm)を用いて、セルロース微小繊維の付与を行った。
【0068】
図7(b)に、図7(a)に示した用紙を用いた印刷物(1−2)を示す。本実施例2における印刷物(1−2)として、商品券とした例を示す。商品券は、前述の方法で作製した用紙に対し、その他の情報を付与することによって作製される。その他の情報としては、商品券の額面及び図柄とし、グラビア印刷により図柄の印刷を行った。
【0069】
同時に、セルロース微小繊維分散液が付与されて成る付与部(4−2)の全面と、非付与部(5−2)の一部に対し、粒子径及び色相の異なる二種類の顔料を含有したインキにより印刷を行う。
【0070】
グラビア印刷方式により、印刷を行った。顔料二種類を各々5%ずつ、水性ワニス90%を配合して、グラビア印刷用インキを調製し、印刷に用いた。
【0071】
二種類の顔料のうち、粒子径の大きい顔料は、赤顔料(ベンズイミダゾロンカーミンHF4C、粒子径約200nm)を使用した。
【0072】
二種類の顔料のうち、粒子径の小さい顔料は、青顔料(フタロシアニンブルー、粒子径約80nm)を使用した。
【0073】
グラビア印刷後の印刷物(1−2)では、付与部(4−2)は赤紫色で色濃度が高く、非付与部(5−2)は紫色で色濃度が低く視認された。これは、付与部(4−2)ではインキ中の粒子径の大きい赤顔料がセルロース微小繊維の表面に溜まり、印刷面側の色濃度と赤味が高くなったのに対して、非付与部(4−2)では赤顔料、青顔料共に基材の内部にまで浸透したため、色濃度が下がり混色で視認されたためである。このようにして、多色印刷を行わず、一度の印刷で色味の異なる図柄を再現できた。
【実施例3】
【0074】
本発明の実施例3について、図8を用いて説明する。本実施例3では、基材の一部にセルロース微小繊維分散液を付与した用紙に対し、付与部の全面と非付与部の一部に、顔料と染料を含有したインキにより多色印刷を行った例を示す。
【0075】
図8(a)は、本発明におけるセルロース微小繊維を付与した用紙の平面図を示す。本発明における印刷物(1−3)は、基材(2−3)の少なくとも一部に、着色領域(3−3)を有し、その着色領域(3−3)には、セルロース微小繊維分散液が付与されて成る。本実施例3において、セルロース微小繊維分散液を付与する形状は、図面下に図示している「帯状」の形状とした。「帯状」の部分が付与部(4−3)、着色領域(3−3)内において、付与部(4−3)以外の領域が非付与部(5−3)である。
【0076】
セルロース微小繊維は、ダイセル化学工業株式会社製「セリッシュ100G(商品名)」を使用した。これを強撹拌して希釈し、固形分2%の水分散液を調整し、乾燥後のセルロース微小繊維の固形分量が3g/mになるように、バーコーターにより帯状に付与を行った。
【0077】
図8(b)に、図8(a)に示した用紙を用いた印刷物(1−3)を示す。本実施例3における印刷物(1−3)として、商品券とした例を示す。商品券は、前述の方法で作製した用紙に対し、その他の情報を付与することによって作製される。その他の情報としては、商品券の額面及び図柄とし、グラビア印刷により図柄の印刷を行った。
【0078】
同時に、セルロース微小繊維分散液が付与されて成る付与部(4−3)の全面と、非付与部(5−3)の一部に対し、顔料と染料を含有したインキにより印刷を行った。
【0079】
グラビア印刷方式により、印刷を行った。顔料8.5%、染料1.5%、水性ワニス90%を配合して、グラビア印刷用インキを調製し、印刷に用いた。
【0080】
顔料は、赤顔料(ベンズイミダゾロンカーミンHF4C、粒子径約200nm)を使用した。
【0081】
染料は、黒染料(オイルブラックDA−411)を使用した。
【0082】
グラビア印刷後の印刷物(1−3)では、付与部(4−3)は赤味の強い赤黒色で色濃度が高く、非付与部(5−3)は赤黒色で色濃度が低く視認された。これは、付与部(4−3)ではインキ中の赤顔料がセルロース微小繊維の表面に溜まり、印刷面側の色濃度と赤味が高くなったのに対して、非付与部(5−3)では赤顔料、黒染料共に基材の内部にまで浸透したため、色濃度が下がり混色で視認されたためである。このようにして、多色印刷を行わず、一度の印刷で色味の異なる領域を再現できた。
【符号の説明】
【0083】
1、1−1、1−2、1−3 印刷物
2、2−1、2−2、2−3 基材
3、3−1、3−2、3−3 着色領域
4、4−1、4−2、4−3 付与部
5、5−1、5−2、5−3 非付与部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一部に、着色領域を有し、
前記着色領域は、セルロース微小繊維が付与された付与部と、前記セルロース微小繊維が付与されていない非付与部を有し、
前記着色領域に、前記セルロース微小繊維の繊維幅より大きい粒子径を持つ少なくとも一種類の顔料を含有したインキにより印刷を施して成り、
前記付与部と前記非付与部を目視で視認した場合、前記付与部と前記非付与部において色濃度差及び/又は色相差が生じて、可視光下における目視での視認が可能であることを特徴とするセルロース微小繊維を付与した印刷物。
【請求項2】
前記インキは、更に前記セルロース微小繊維の繊維幅より小さい又はほぼ同等の粒子径を持つ少なくとも一種類の顔料を有して成ることを特徴とする請求項1記載のセルロース微小繊維を付与した印刷物。
【請求項3】
前記インキは、更に少なくとも一種類の染料を有して成ることを特徴とする請求項1又は2記載のセルロース微小繊維を付与した印刷物。
【請求項4】
前記付与部における前記セルロース微小繊維の乾燥後の固形分量は、0.01〜30g/mであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のセルロース微小繊維を付与した印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−20403(P2012−20403A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157495(P2010−157495)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】