説明

セルロース成形体の処理方法

本発明は、セルロース成形体を処理する方法であって、成形体をキトサンの酸溶液と接触させる方法に関する。本発明の方法は、キトサンが80%以上の脱アセチル化度、7w%以上、好ましくは7.5w%以上の窒素含量、10〜1000kDa、好ましくは10〜160kDaの重量平均分子量Mw(D)、及び1000mPas以下、好ましくは400mPas以下、特に好ましくは200mPas以下の粘度(1w%酢酸を用いた1w%溶液の25℃での粘度)を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース成形体、特に織物又は不織布に用いるセルロース繊維を処理する方法に関する。
【0002】
本発明は特にキトサンを用いてセルロース成形体の特性を修飾する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
キチン及びキトサンは、天然の、生分解性、非毒性、非アレルギー性、生物活性、且つ生体適合性の高分子であり、セルロースに類似の構造を有する。キチンは甲殻類の殻、即ちカニやエビの産業で生じる廃棄物から得られる。近年、キチンはセルロースに次ぐ第2の天然多糖資源と考えられており、世界的にキチンの利用範囲への関心が非常に高まっている。
【0004】
キトサンはポリ−(1,4)−2−アミノ−2−デオキシ−β−D−グルコースからなり、キチン(ポリ−(1,4)−2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコース)を脱アセチル化して製造される。キチンは水、有機溶媒、希酸、及び塩基に不溶であり、キトサンは希酸、水メタノール、及びグリセロールに可溶であるが、この溶解性の理由から、キトサンはより一層重要性がある。
【0005】
キチン及びキトサンの適用分野としては、生物工学における細胞や酵素の固定化、医学における創傷治療、食品産業での栄養補給剤や保存剤としての使用、農業における種子の保存、下水設備での重金属との凝集剤やキレート剤としての使用がある。
【0006】
しかしながら、多くの適用分野では、水性系中での溶解性を改善するため、キチン/キトサンを修飾する必要がある。
【0007】
繊維産業では、キトサンの用途は以下の3つの適用分野:
−100%キトサン繊維の製造及びキトサンを配合した「合成繊維」の製造;
−織物繊維の仕上げ及び被覆;
−繊維産業用の加工助剤(auxiliary process agents);
に分類される。
【0008】
キトサン繊維は抗菌特性及び病原菌増殖阻害作用を示すため、医療分野で、例えば創傷被覆や外科縫合に用いられる。キチン及びキトサンはそれぞれ内因性発酵によって酵素的又は加水分解的に分解され得るため、再吸収可能な繊維である。これら天然高分子の創傷治癒作用、並びに創傷治癒中の組織増殖に対する有益な作用は、N−アセチルグルコサミンの徐放やコラーゲンのムコ多糖組織によるものである(特許文献1〜4他多数)。
【0009】
しかしながら、100%キトサン繊維は、乾燥強度が低い(イノベイティブ・テクノロジー社(Innovative Technology Ltd.、英国ウィンズフォード)のキトサン繊維:繊度0.25tex;調整繊維強度9cN/tex;調整繊維伸度12.4%;コリア・キトサン社(Korea Chitosan Co. LTD)のキトサン繊維:調整繊維強度15cN/tex;調整繊維伸度26%)、非常に脆い、且つ湿潤強度が乾燥強度の僅か30%しかないという不都合がある。従って、キトサン繊維を他の合成繊維に混合するか、或いはキトサンをビスコース繊維等の製造中に予め紡糸塊に加える。
【0010】
キチン/キトサンを配合したビスコース繊維(以下、キトサン配合ビスコース繊維と称する)は、例えばクラビオン(オーミケンシ社)やキトポリィ(富士紡績社)等の商品名で市販されている。このような繊維は、例えば、0.5〜2重量%のキトサン又はアセチル化キトサン(粒径10μm未満の粉末状)を水中に分散させ、これをビスコースドープに加えて製造される(特許文献5)。その後、従来のビスコース法又はポリノジック法を用いて繊維を得る。
【0011】
他のキトサン配合ビスコース繊維の製造方法は、特許文献6(低温で複合的に前溶解及び後溶解を行い、ビスコース溶液に添加するアルカリ性キチン−キトサン溶液を調製)、特許文献7(微結晶キトサンと、水及び/又はアルカリに可溶な天然高分子(例えばキトサンにイオン結合可能なアルギン酸ナトリウム等)とを、ビスコースドープに分散物として添加)、並びに特許文献8及び9(微結晶キトサンを紡糸塊に添加)にそれぞれ記載されている。
【0012】
特許文献10には、キトサン又はキトサン塩が配合されており、且つ/或いはキトサン又はキトサン塩を表面に含むセルロース繊維の、不織布及び/又は吸収性トイレタリー用品での使用が記載されている。
【0013】
キトサン配合ビスコース繊維は高い染色性、高い保水値、殺菌特性、及び消臭特性を示し、また低湿潤強度のビスコース繊維も知られている。キトサンは皮膚に有害な細菌の増殖を防ぎ、アレルギー性作用を排除するため、例えばキトポリィからなる繊維は特に皮膚炎患者に適している。
【0014】
キトサンは紡糸塊に溶解しないため、上記方法はいずれも、得られる繊維が非常に微細なキトサン粒子を含有するという欠点を有する。
【0015】
紡糸塊中でキトサンの二次的凝集や不均一分布が生じると、紡糸特性が悪化し、低繊度繊維の紡糸が非常に困難になる。そのため、また、キトサンの配合量を増やすと、テキスタイルデータが即座に失われたり、紡糸中に既に多数の繊維が破断する恐れがあるため、キトサンの配合量を増やすこともできない。更に、キトサンは酸に可溶なため、紡糸浴中で漏出してしまう。キトサンを配合するためには付加的な複合工程が必要である。
【0016】
最終製品中でキトサンの効果を確実に得るためには、繊維に10w%以上のキトサンを配合する必要がある。このような場合にのみ、キトサンが繊維表面に十分に存在することになる。繊維の内部に配合されたキトサンは利用されず(inaccessible)、従って効果を示さない。
【0017】
その後、特にリヨセル繊維が高い湿潤強度及び乾燥強度を有するという理由で、アミンオキシド法による溶媒紡績セルロース繊維(いわゆるリヨセル(Lyocell)繊維)にキトサンを配合する取り組みも行われた。
【0018】
特許文献11には、多糖混合物からなる成形体を製造する方法が記載されている。この方法では、セルロースと第2の多糖とを、水と混合可能な有機多糖溶媒(好ましくはNMMOだが、第2の溶媒を含んでいてもよい)に溶解する。
【0019】
更に、特許文献12には、キツロース(chitulose)と称されるキチン−セルロース繊維の製造が記載されている。ここでは、キチン及びセルロースを、ジメチルイミダゾリン/LiCl、ジクロロアセテート/塩素化炭化水素、ジメチルアセトアミド/LiCl、及びN−メチルピロリドン/LiClを含む群から選ばれる溶媒に溶解し、湿式紡糸法により糸を製造する。この文献の請求項にはNMMOは記載されていない。
【0020】
特許文献13は、特に、食品用ラップの弾性を高めるための修飾化合物としてキトサンを溶液に添加することについて特許請求している。この修飾化合物はセルロース/NMMO/水の溶液に混和可能でなければならない。
【0021】
特許文献14には、繊維への四級アンモニウム基を有するキトサン誘導体の配合が記載されている。この誘導体は調製がやや難しい。
【0022】
特許文献15には、生分解性ポリマーと海藻及び/又は海洋動物の殻からなる材料とを含有するポリマー組成物の製造、並びにこの組成物からの成形体の製造について記載されている。また、海藻や海洋動物からなる材料を、粉末、粉末懸濁液、又は液体の状態で、リヨセル法で得たセルロース溶液に添加する方法も特許請求されている。さらにこの材料は、乾燥セルロースを細断する間又はその後に添加してよく、またこの製造方法のどの段階で添加してもよい。添加剤を加えるにもかかわらず、繊維は添加剤を用いない場合と同様の機械的繊維特性を示す。この文献の実施例では、褐藻粉末を配合したリヨセル繊維のみが記載されており、紡糸塊を製造するため、褐藻粉末、NMMO、及びパルプ、及び安定剤を混合し94℃に加熱している。
【0023】
更に、非特許文献1の最終報告書には、キトサンを希釈有機酸又は希釈無機酸に溶解し、その後NMMO水溶液中で沈殿させることが記載されている。このようにしてセルロース溶液中にキトサン微結晶が懸濁した液が得られ、これを紡糸する。この文献によると、セルロースが溶解した後でさえも、微結晶状のキトサンが溶液中に残る。そのため、繊維中に微細不均一2相系が形成される。この繊維は低強度である(10%のキトサンを使用した場合:調整繊維強度19.4cN/tex;調整繊維伸度11.5%)。
【0024】
特許文献16は、紡糸溶液に可溶なキトソニウムポリマー(キトサンの無機酸又は有機酸との塩)を該紡糸溶液又はその前駆体に添加することにより、リヨセル繊維に配合することを提案している。
【0025】
配合するのではなく、繊維製品を調製及び製造する過程で該製品にキトサンを加える可能性がある。以下、既に調製した繊維又はこれを含む繊維製品上にキトサンを付与する場合、この工程を「含浸」とも表す。しかしながら、このように付与したキトサンは固定されず、比較的早く洗い落とされてプラス効果が失われるという根本的な問題がある。
【0026】
この問題を解決するために、特許文献17は、キトサンナノ粒子を繊維、糸、編物、及び織物の製造に用いることを提案している。ナノキトサンは10〜300nmの平均径を有するほぼ球状の堅固な物体であり、粒径が小さいためフィブリル間に配置される。ナノキトサンは噴霧乾燥、蒸発技術、又は超臨界溶液の減圧によって製造できる。
【0027】
特許文献18には、化粧品及び医薬品の調製に用いられる粒径10〜1000nmのナノキトサン粒子を製造する方法が記載されている。この方法では、界面活性剤を含む酸性キトサン水溶液のpHをキトサンが沈殿するまで上げる。更に、特許文献19には、微結晶キトサンの分散物及び粉末(粒径0.1〜50μm)の調製について記載されている。ここでは、酸性キトサン水溶液のpHをキトサンが沈殿するまで上げる。
【0028】
特許文献20には、0.5%キトサン酢酸(acetic chitosan)溶液によるリヨセル繊維の処理について記載されている。
【0029】
特許文献16には、キトソニウムポリマーをリヨセル繊維に配合することに加えて、非乾燥リヨセル繊維をキトソニウムポリマーの溶液又は懸濁液で処理することも記載されている。この方法は、非乾燥リヨセル繊維の処理のみに適していることが示されている。
【0030】
「非乾燥」という語は、乾燥処理を施していない新たに紡績した繊維の、そのままの状態(status-quo)を示す。
【0031】
特許文献16の方法では、非乾燥リヨセル繊維以外の種類の繊維(例えば、モダール(Modal)繊維、ビスコース繊維等)を処理することはできない。
【0032】
オーストリア特許出願A82/2008号(未公開)には、セルロース成形体を、非溶解キトサン粒子を含有するアルカリ性分散液に接触させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】EP0077098
【特許文献2】US4309534
【特許文献3】JP81/112937
【特許文献4】JP84/116418
【特許文献5】US5,320,903
【特許文献6】US−A5,756,111
【特許文献7】US−A5,622,666
【特許文献8】PCT/FI90/00292
【特許文献9】FI78127
【特許文献10】AT8388U
【特許文献11】DE19544097
【特許文献12】KR−A9614022
【特許文献13】EP−A0883645
【特許文献14】KR−A−2002036398
【特許文献15】DE−A10007794
【特許文献16】WO04/007818
【特許文献17】EP1243688
【特許文献18】WO01/32751
【特許文献19】WO91/00298
【特許文献20】WO97/07266
【非特許文献】
【0034】
【非特許文献1】“Erzeugnisse aus Polysaccharidverbunden” (Taeger, E.; Kramer, H.; Meister, F.; Vorwerg, W.; Radosta, S; TITK -Thuringisches Institut fur Textil- und Kunststoff-Forschung, 1997, pp. 1-47, report no. FKZ 95/NR 036 F)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
本発明の目的は、繊維中にキトサンを配合する際に生じる上記問題が存在せず、乾燥状態や非乾燥状態の様々な種類のセルロース繊維に適した、セルロース成形体の処理方法を提供することである。キトサンは、好ましくは製造中に、特に再生セルロース繊維(リヨセル繊維、モダール繊維、ビスコース繊維、ポリノジック繊維)の繊維表面に固定され、家庭内で洗濯を重ねた後であっても最終製品に存在することになる。
【課題を解決するための手段】
【0036】
上記目的は、セルロース成形体を処理する方法であって、ここで、成形体をキトサンの酸溶液に接触させ、該キトサンが80%以上の脱アセチル化度、7w%以上、好ましくは7.5w%以上の窒素含量、10〜1000kDa、好ましくは10〜160kDaの重量平均分子量Mw(D)、及び1000mPas以下、好ましくは400mPas以下、特に好ましくは200mPas以下の粘度(1w%酢酸を用いた1w%溶液の25℃での粘度)を有することを特徴とする方法によって達成される。
【0037】
驚いたことに、上記特定のキトサンを含有する酸性溶液でセルロース成形体を処理すると、持続的にキトサンをセルロース成形体表面に付与できることが示された。特に、酸性溶液中のキトサンの粘度と成形体処理による塗布量との間には、意外な相関があることを発見した。即ち、酸性溶液中のキトサンの粘度が低いほど、成形体上に塗布できる量が(有意に)増加する。
【0038】
このように、比較的少ない労力で十分な塗布量が得られる。
【0039】
「キトサンの溶液」という語は、キトサンが完全に溶解したかたちで存在することを意味する。しかしながら、この語は、処理液中の更に任意の不溶成分の存在を排除するものではない。
【0040】
本発明の方法で使用するためには、キトサンとしては、1w%酢酸中に1w%のキトサンを含む溶液の25℃での粘度(ブルックフィールド(Brookfield)粘度計を用いて30rpmで測定)が1000mPas以下、好ましくは400mPas以下、特に好ましくは200mPas以下であるものが好適である。
【0041】
更に、キトサンの脱アセチル化度も重要である。即ち、脱アセチル化度が高いほど、キトサンは本発明の方法での使用に適している。
【0042】
特に、適当なキトサンは2〜4の多分散性(重量平均分子量と数平均分子量との比率)を有してよい。
【0043】
文献においては、キチンとキトサンとを区別するための統一した定義は示されていない。
【0044】
本発明の目的に関して、「キチン」という語は、脱アセチル化度が0%の2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコースのβ−1,4−結合ポリマーを意味する。また、本発明の目的に関して、「キトサン」という語は、2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコースのβ−1,4−結合ポリマーを、少なくとも部分的に脱アセチル化したものを示す。
【0045】
成形体内部に配合されたキトサンが利用できない、公知のキトサン配合法と比較して、本発明の方法は有利である。成形体表面のキトサンのみが皮膚に接触し、このようにしてプラス効能を示す。配合法の場合、含浸する場合と同程度の量のキトサンを成形体表面に得るためには、著しく多量のキトサンを使用する必要がある。
【0046】
ナノキトサンの使用に比較して、ナノキトサンの製造コストの高さが特に有利である。
【0047】
WO2004/007818に記載の方法については、後の蒸気処理を伴う非乾燥ビスコース繊維、モダール繊維、又はポリノジック繊維の処理において、上記キトソニウムポリマーの酸性溶液を含浸させた効果が得られず、本発明の方法が有利である。この文献の方法では非常に少量しかキトサンを塗布できず、その上、既存のプラントを改造しなければ実行できない。
【0048】
加えて、本発明の方法では安価なタイプのキトサン(下記参照)を好適に使用できるため、WO2004/007818に記載の方法よりも安価である。
【0049】
本発明の方法の好ましい実施態様に従うと、上記溶液のキトサン粒子含有量は0.1〜10w%、特に好ましくは1〜4w%である。
【0050】
本発明に従って処理される成形体は繊維の形態であることが好ましい。この繊維は特にリヨセル繊維、モダール繊維、ポリノジック繊維、及び/又はビスコース繊維であってよい。
【0051】
一般名「リヨセル」は、BISFA(The International Bureau for the Standardisation of Man Made Fibres)により発表されたものであり、有機溶媒を用いたセルロース溶液から調製されたセルロース繊維を表す。溶媒としては三級アミンオキシド、特にN−メチルモルホリン−N−オキシド(NMMO)を用いるのが好ましい。リヨセル繊維の製造方法は、例えばUS−A4,246,221に記載されている。
【0052】
ビスコース繊維は、キサントゲン酸セルロース(ビスコース)のアルカリ性溶液から、セルロースの沈殿及び再生により得られる繊維である。
【0053】
モダール繊維は、BISFAの定義によれば、高い湿潤強度及び湿潤係数(wet modulus、湿潤状態の繊維を5%広げるのに要する力)を特徴とするセルロース繊維である。
【0054】
キトサン溶液で処理するためには、繊維は既に乾燥した形態であってよく、特に繊維製品の一体部分(integral part)、好ましくは糸、編物、これらを用いて製造した布、又は不織布であってよい。
【0055】
「既に乾燥した」繊維とは、該繊維の製造中に既に少なくとも一回乾燥工程に供された繊維を指す。
【0056】
しかし、好ましくは、繊維は非乾燥状態であってもよい。繊維の製造中に該繊維を乾燥工程に供しない場合、その繊維は「非乾燥」であるとする。特に、繊維は繊維フリース(fiber fleece)の形態であってもよい。繊維フリースは、リヨセル、モダール、及びポリノジックのステープル繊維の製造中に、中間物として製造される。
【0057】
この変形例は、リヨセル、ビスコース、モダール、又はポリノジック繊維の製造に用いられる既存プラント中の装置で、変更又は修飾することなく処理できるという利点を有する。従来、非乾燥のビスコース、モダール、又はポリノジック繊維の製造中に、該繊維をキトサン処理することは不可能であった。
【0058】
処理前の繊維は50〜500%の残留水分を有してよい。
【0059】
キトサン溶液で処理した後、成形体を熱蒸気で処理してもよい。この場合、キトサンを成形体表面に更に固定できる。
【0060】
溶液を製造するため、キトサンを無機酸又は有機酸に溶解するのが好ましい。
【0061】
酸は、炭素原子数1〜30のモノ−、ジ−、又はトリ−カルボン酸、好ましくは乳酸、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、グリコール酸、クエン酸、シュウ酸、及びこれらの混合物からなる群から選ぶのが好ましい。
【0062】
キトサンを溶解するのに必要な酸の量は、その脱アセチル化度に依ることが分かっている。
【0063】
キトサンを溶解するのに必要な酸の量は、使用するキトサンの脱アセチル化度に応じて、以下のとおり算出される。
【0064】
【表1】

【0065】
キトサン溶液を調製するために、上記必要量の酸と水を各所定量のキトサンに攪拌しながら添加し、これら成分を透明溶液が形成されるまで攪拌する。
【0066】
このようにして得られるキトサン溶液を初期湿潤状態の再生セルロース繊維フリースに接触させてよく、ここで、繊維フリースは加圧して規定の水分50〜500%に調整する。例えば、噴霧法により繊維フリースを浸してよい。従って、既存の製造プラントを再構築する必要はなく、ビスコース繊維やモダール繊維の製造プラントにおいていわゆるブリーチフィールド(bleach field)を用いてよい。
【0067】
含浸後、繊維フリースを規定の水分50〜500%となるまで加圧してよい。その後、加圧処理の処理液(liquor)を含浸サイクルに戻してもよい。
【0068】
その後、繊維フリースを熱蒸気で処理し、続いて中性条件で(neutrally)洗浄してよい。或いは、繊維フリースを熱蒸気処理せずに中性条件で洗浄し、潤滑化し(lubricated)、乾燥してもよい。
【0069】
キトサン塗布量は、試料を燃焼し、LECO−FP−328窒素分析計を用いて窒素含量を測定することにより決定する。繊維をFITC(フルオレセインイソチオシアネート)染色し、続いて蛍光顕微鏡で検査することによって、繊維表面上のキトサン分布を観察してもよい。
【0070】
他の好ましい実施態様においては、乾燥の前又は後に成形体を架橋剤で処理する。
【0071】
更に、本発明は上記本発明の方法によって得られる成形体に関する。
【0072】
本発明の成形体は上記特定のキトサン含量を有し、キトサンは基本的には完全に成形体表面に分布している(成形体内部に必要量分布する必要はない)。
【0073】
特に、本発明の成形体は繊維の形、好ましくはリヨセル繊維、モダール繊維、ポリノジック繊維、及び/又はビスコース繊維の形であってよい。
【0074】
本発明の方法によって得られる成形体は、成形体表面にキトサンがフィルム状に分布しているという特徴を有する。
【0075】
本発明の成形体のキトサン含量は、好ましくは0.1w%以上、好ましくは0.2〜1w%、特に好ましくは0.4〜0.6w%である。特に、塗布量が0.1w%以上という少量であっても、本発明の成形体は良好な抗菌作用を得ることが示された。
【0076】
本発明は、上記本発明の成形体を、抗菌製品として、消臭製品として、創傷治癒、止血および血液凝固を促進する製品として、不織布製品中に、及び/又は充填繊維(filling fibre)としての使用にも関する。本発明のキトサン含有再生セルロース繊維は穏やかな抗菌性、消臭性、及び皮膚に優しい特性を有するため、下着や靴下といった皮膚付近に着用する繊維製品、敏感肌(皮膚炎)の人のための繊維製品、ベッドの内張り、及び家庭着等の分野に好適に使用又は応用できる。本発明の繊維を、単独で又は他の繊維(例えば、綿繊維、ポリエステル繊維、リヨセル繊維のような無修飾セルロース繊維等)との混合物の形態で、充填繊維として使用することもできる。
【0077】
特に、本発明の再生セルロース繊維は、キトサン塗布量が0.1%であっても、既に振とうフラスコ試験(Shake Flask Test)において有意な抗菌作用を示し、且つ生体外ブタ創傷治癒モデルでの試験において再生表皮中の細胞増殖を促進することが分かった。
【0078】
従って、本発明は、その他の態様において、本発明の成形体、特にキトサン含量が0.2〜1w%であり、創傷治癒製品(特に再生表皮中の細胞増殖を促進する製品)としての特定用途に用いられる成形体に関する。
【0079】
以下、実施例及び図面により本発明を更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の方法を用いて様々なセルロース繊維上に付与したキトサンの量を、使用したキトサンの粘度に依存して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0081】
実施例
実施例1
以下の種類のキトサンをセルロース繊維の処理に用いた。
【0082】
【表2】

【0083】
これらキトサンから、それぞれ、1w%のキトサンを含む水性乳酸溶液を調製した。使用した乳酸の量は、使用したキトサンの脱アセチル化度に応じて、上記表1に従って規定した。
【0084】
用いた繊維試料:
1.3dtexリヨセル繊維(無NMMO洗浄、非乾燥)
1.3dtexモダール繊維(未漂白、非乾燥)
1.3dtexビスコース繊維(未漂白、非乾燥)
【0085】
繊維処理方法:
室温下、浴比(liquor ratio)1:10で非乾燥繊維に各キトサン溶液を5分間含浸させ、1barで加圧し、100℃/100%相対湿度の条件で5分間蒸気処理し、洗浄し、60℃で乾燥した。
【0086】
この試験の結果を以下の表にまとめて示す。
【0087】
【表3】

【0088】
このように調製した全ての繊維試料を、90℃で40分間、浴比1:20で熱水処理した。キトサン被膜は変化しなかった。
【0089】
繊維上のキトサン塗布量は、試料を燃焼し、窒素分析計LECO−FP−328でN含量を測定することによって決定する。
【0090】
繊維表面のキトサン分布を分析するため、繊維をFITC(フルオレセインイソチオシアネート)染色し、続いて蛍光顕微鏡で検査した。
【0091】
以下の表より、キトサン濃度w%が同じ場合、3種の繊維全てにおいて、溶液の粘度が低いほどキトサン塗布量が増加することが明らかである。また、リヨセル繊維は初期湿潤状態で利用しやすい細孔系を明らかに有するため、リヨセル繊維を用いた場合にキトサン塗布量が最大となる。
【0092】
【表4】

【0093】
この相関関係を図1のグラフに示す。
【0094】
実施例2
−製造試験におけるリヨセル繊維の調製
繊度1.3dtex及び裁断長38mmのリヨセル繊維をキトサンで処理した。
【0095】
WO93/19230の教示に従って調製した非乾燥リヨセル繊維に、実施例1に記載の方法に従い、キトサン塗布量が0.4w%となるように、浴比1:20で、1w%キトサン乳酸溶液(キトサン種:TM2875、表1参照)を含浸させ、蒸気処理し、潤滑化し、乾燥した。このように調製した繊維から50番手(n°)の糸を紡績し、織物(シングルジャージ編み布(Single jersey knitted fabric))へと加工した。この織物のキトサン塗布量は0.45%であった。
【0096】
ハンブルクエッペンドルフ大学病院細胞生物学研究所(University Hospital Hamburg Eppendorf, Cell-Biological Laboratories)において、生体外ブタ創傷治癒モデルを用い、再生表皮中の創傷端の増殖細胞部分上及び関連の無い表皮部分上で上記編物試料を試験し、キトサン処理していない漂白綿及びリヨセル繊維と比較した。未処理のリヨセル繊維及び綿と比較して、キトサン含有繊維の場合は創傷端において有意に多い増殖細胞が見られ、また再生表皮中にも多くの増殖細胞が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース成形体を処理する方法であって、前記成形体をキトサンの酸性溶液に接触させ、キトサンが80%以上の脱アセチル化度、7w%以上、好ましくは7.5w%以上の窒素含量、10〜1000kDa、好ましくは10〜160kDaの重量平均分子量Mw(D)、及び1000mPas以下、好ましくは400mPas以下、特に好ましくは200mPas以下の粘度(1w%酢酸を用いた1w%溶液の25℃での粘度)を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
溶液のキトサン含量が0.1〜10w%、好ましくは1〜4w%であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
成形体が繊維の形態で存在することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
繊維がリヨセル繊維、モダール繊維、ポリノジック繊維、及び/又はビスコース繊維であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
処理をする繊維が既に乾燥した形態で提供され、特に繊維製品の一体部分、好ましくは糸、織物、編物、これらを用いて製造した衣料、又は不織布であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
処理の間、繊維が非乾燥形態で存在することを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項7】
繊維が繊維フリース形態で存在することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
処理前の繊維の残留水分が50〜500%であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
成形体を溶液での処理の後、熱蒸気での処理に供することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
溶液を調製するため、キトサンを無機酸又は有機酸に溶解することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
酸が炭素原子数1〜30のモノ−、ジ−、又はトリ−カルボン酸、好ましくは乳酸、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、グリコール酸、クエン酸、シュウ酸、及びこれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法によって得られる成形体。
【請求項13】
繊維の形態、好ましくはリヨセル繊維、モダール繊維、ポリノジック繊維、及び/又はビスコース繊維の形態であることを特徴とする、請求項12に記載の成形体。
【請求項14】
キトサン含量が0.1w%以上、好ましくは0.2〜1w%、特に好ましくは0.4〜0.6w%であることを特徴とする、請求項12または13に記載の成形体。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれか一項に記載の成形体の、抗菌製品としての、消臭製品としての、創傷治癒、止血および血液凝固を促進する製品としての、不織布製品中での、及び/又は充填繊維としての使用。
【請求項16】
特にキトサン含量が0.2〜1w%であり、創傷治癒製品として、特に再生表皮中の細胞増殖を促進する製品としての特定用途に用いられることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか一項に記載の成形体。

【図1】
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【公表番号】特表2012−503104(P2012−503104A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527145(P2011−527145)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際出願番号】PCT/AT2009/000334
【国際公開番号】WO2010/031091
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(500077889)レンツィング アクチェンゲゼルシャフト (20)
【Fターム(参考)】