説明

セルロース成形品の処理プロセス

本発明は、溶解していないキトサン粒子を含むアルカリ性分散液とセルロース成形品とを接触させることを特徴とする、セルロース成形品を処理する方法に関する。キトサン粒子は好ましくは0.1〜1500μm、さらに好ましくは1〜800μmの粒径で分散液中に存在するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロース成形品の処理プロセスに関する。
特に本発明は、キトサンを使用してセルロース成形品の特性を変性させるためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
キチン及びキトサンは、セルロースと似た構造をもつ、天然の、生分解可能な、非毒性の、非アレルギー性の、生物活性及び生体適合性ポリマーである。キチンは甲殻類動物の殻、カニ及びエビ業界の廃棄物から得られる。キチンの活用可能性における世界的関心は、キチンがセルロースに加えて天然の多糖類の第二に大きい資源とみなされているため、近年、非常に高まってきている。
【0003】
キトサンはポリ−(1,4)−2−アミノ−2−デスオキシ−ベータ−D−グルコースであり、キチン(ポリ−(1,4)−2−アセトアミド−2−デスオキシ−ベータ−D−グルコース)の脱アセチル化により生成する。溶解性の理由(キチンは水、有機溶媒、希酸及び希塩基に不溶性である)により、希酸、水性メタノール及びグリセロールに溶解性であるキトサンは、非常に重要である。
【0004】
キチン及びキトサンの適用分野としては、バイオテクノロジーでは細胞及び酵素の固定化、医薬においては創傷の治療、食品業界では栄養補助食品及び保存剤としての使用、農業においては種の保存、下水道では凝集剤及び重金属のキレート化剤としての使用がある。
【0005】
しかしながら、水性系での溶解性を改善するために、殆どの適用分野でキチン/キトサンの変性を実施しなければならない。
テキスタイル業界でのキトサンの使用は以下の三つの分野に分けられる。
・それぞれ100%キトサン繊維の製造及びキトサンを含む「合成繊維」の製造;
・テキスタイル繊維の仕上げ及びコーティング;
・テキスタイル業界用の補助加工剤。
【0006】
病原菌の成長におけるこれらの抗菌特性及び阻害作用のため、キトサン繊維は、創傷被覆材及び外科縫合材料などとして医薬分野で使用されている。キチン及びキトサンはそれぞれ、内因性酵素により酵素的にまたは加水分解的に分解され得るので、再吸収性の繊維である。創傷治癒におけるそのような天然ポリマーの効果は、N−アセチル−グルコサミンを徐々に放出すること、コラーゲンのムコ多糖類の組織化、並びに創傷治癒の間の組織成長における有益な効果にある(欧州特許第EP0077098号(特許文献1)、米国特許第US4309534号(特許文献2)、特開昭56−112937号(特許文献3)、特開昭59−116418号(特許文献4)、及びさらに多くの文献)。
【0007】
しかしながら100%キトサンで製造した繊維の欠点は、低い乾燥強度を示すこと(英国ウインスフォードのInnovative Technology社製のキトサン繊維は、0.25tex;繊維強度条件9cN/tex;繊維伸び条件12.4%;Messrs.Korea Chitosan Co.LTDのキトサン繊維:繊維強度条件15cN/tex;繊維伸び条件26%)、これらは非常に脆いこと及び、湿潤強度が乾燥強度の30%に過ぎないことにある。従って、キトサン繊維は他の合成繊維と混合するか、またはビスコース繊維などの製造プロセスの間に紡糸用混合物に添加している。
【0008】
キチン/キトサン含有ビスコース繊維(以下、「キトサン−含有ビスコース繊維」)は、商品名Crabyon(Omikenshi社製)及びChitopoly(富士紡社製)で市販されている。それらの繊維は、たとえば0.5〜2重量%の量で10μm未満の粒径の粉末形でキトサンまたはアセチル化キトサンを水中に分散させることにより、及びこれをビスコースドープに添加することにより製造される(米国特許第US5,320,903号(特許文献5))。その後繊維は、慣用のビスコースプロセスまたはポリノジックプロセスに従って製造される。
【0009】
キトサン−含有ビスコース繊維のさらなる製造プロセスは、米国特許第US−A5,756,111号(特許文献6)(ビスコース溶液に添加すべきアルカリ性キチン−キトサン溶液を得るために、低温での前溶解プロセス及び後溶解プロセスの併用)、米国特許第US−A5,622,666号(特許文献7)(分散液として、キトサンとイオン結合を形成し得るアルギン酸ナトリウムなどの水溶液、及び/または、アルカリ溶解性天然ポリマーと微結晶質キトサンとをビスコースドープに添加)、並びにそれぞれ国際特許出願第PCT/FI90/00292号(特許文献8)及びフィンランド特許第FI78127号(特許文献9)(微結晶質キトサンを紡糸用混合物に添加)に記載されている。
【0010】
キトサン−含有ビスコース繊維は高い染料親和性、高い保水値、殺菌及び匂い低下特性を示すが、ビスコース繊維の湿潤強度が低いことも公知である。キトサンは皮膚に有害な細菌の成長を阻害し、アレルギー作用を除去するので、たとえばキトポリー(Chitopoly)から製造した布帛は皮膚炎の患者に特に適している。
【0011】
記載された全ての方法の欠点は、キトサンが紡糸用混合物に溶解性でないため、このようにして得られた繊維が非常に微細なキトサン粒子を含むということにある。
【0012】
紡糸用混合物におけるキトサンの二次的な凝集や不均質分布はそれぞれ、紡糸特性を悪化させ、廉価の繊維紡糸が非常に困難になる。そのような理由により、キトサン含有量を増加させることも不可能である。なぜなら、キトサン量を増加させると、繊維データが即座に低下してしまうか、既に紡糸の間に多くの繊維破壊が起きてしまうだろうからである。さらに、キトサンは酸に溶解性であるため、キトサンが紡糸浴中に失われる。キトサンを含有させるためには、追加の複雑な段階が必須である。
【0013】
さらに、最終製品中にキトサンの効果を確保するために、少なくとも約10重量%の量のキトサンを繊維に配合すべきである。なぜなら、そうすることによってのみ、十分量のキトサンが繊維表面にあることになるからである。すなわち、繊維内部に取り込まれたキトサンには近づきにくいので、効果がないからである。
【0014】
続いて、アミド−オキシドプロセスに従って製造した溶媒−紡糸セルロース繊維(いわゆる「リヨセル繊維」)中にキトサンを配合することも試みられ、特にリヨセル繊維の高い湿潤及び乾燥強度のために試みられた。
【0015】
ドイツ特許第DE19544097号(特許文献10)では、多糖類混合物から成形品を製造するプロセスが記載されており、ここでは、セルロースと第二の多糖類を、第二の溶媒を含んでいてもよい、水と混和可能な有機多糖類溶媒(好ましくはNMMO)に溶解させている。
【0016】
さらに、韓国特許出願第KR−A9614022号(特許文献11)では、「キツロース(chitulose)」と称されるキチン−セルロース繊維の製造について記載されており、ここではキチンとセルロースをジメチルイミダゾリン/LiCl、ジクロロアセテート/塩素化炭化水素、ジメチルアセトアミド/LiCl、N−メチルピロリドン/LiClを含む群由来の溶媒に溶解し、湿潤紡糸プロセスに従ってヤーンを製造する。NMMOは請求の範囲に記載されていない。
【0017】
欧州特許出願第EP−A0883645号(特許文献12)では、中でも、食品用ラップの柔軟性を高めるために変性された化合物として、溶液にキトサンを添加することが請求されている。変性化合物は、セルロース/NMMO/水溶液に混和性でなければならない。
【0018】
韓国特許出願第KR−A2002036398号(特許文献13)は、四級アンモニウム基をもつキトサン誘導体を繊維に配合することについて記載しており、このキトサン誘導体は複雑な方法で生産される。
【0019】
ドイツ特許出願第DE−A10007794号(特許文献14)では、生分解性ポリマーと、海藻及び/または海洋動物の殻からなる材料を含むポリマー組成物の製造並びに、それらからの成形品の製造について記載されている。リヨセルプロセスに従って製造したセルロース溶液に、粉末形、粉末懸濁液の形状または液体形の海洋動物、海藻から製造した材料を添加することも請求されている。さらに乾燥セルロースの破砕段階後またはその間、並びに製造プロセスの任意の段階で材料を添加することができる。添加剤を加えるにもかかわらず、繊維は添加剤を含まないときと同じテキスタイル−機械的特性を示す。実施例では、茶色の藻類粉末を含有するリヨセル繊維だけが記載されており、ここでは紡糸用混合物の製造の間、茶色の藻類粉末、NMMO及びパルプ及び安定剤を混合し、94℃に加熱する。
【0020】
さらに、最終レポート“Erzeugnisse aus Polysaccharidverbunden”(Taeger,E,;Kramer,H.;Meister,F.;Vorwerg,W.;Radosta,S;TITK−Thuringisches Institut fur Textil und Kunstsoff−Forschung,1997,1〜47頁、レポート番号FKZ95/NR036F)(非特許文献1)では、キトサンを希釈した有機または無機酸に溶解し、次いで水性NMMO溶液中で沈殿させることが記載されている。かくして、微細キトサン結晶の懸濁液がセルロース溶液中で得られ、次いでこれを紡糸する。前記文献に従って、キトサンはセルロースを溶解させた後でさえも、微細結晶の形態で溶液中に残存している。このことにより、繊維中にミクロ非均質二相系が形成する。繊維の強度は低い(10%キトサンでは、繊維強度条件19.4cN/tex;繊維伸び条件11.5%)。
【0021】
WO04/007818号(特許文献15)では、紡糸ドープに溶解性のキトソニウム(chitosonium)ポリマー(キトサンの無機または有機酸との塩)を、ドープまたはその前駆体に添加することによってリヨセル繊維に配合することを提案している。
【0022】
配合の代案として、製造過程においてキトサンでテキスタイルアセンブリを仕上げする可能性もある。既に製造した繊維上に、またはこれらの繊維を含んでいるテキスタイル製品上にキトサンを適用することは、「含浸」とも称される。しかしながら、これに伴う基本的な問題は、このようにして適用したキトサンは固定されず、比較的迅速に洗い流されてしまい、プラス効果が失われてしまうということである。
【0023】
この問題を避けるため、繊維、ヤーン、織り布帛及びテキスタイルアセンブリを製造するためにキトサンナノ粒子を使用することが欧州特許第EP1243688号(特許文献16)に記載されている。「ナノキトサン」は、平均粒径10〜300nmのおおよそ球形の固体であると理解されており、小さな粒径であるため、繊維間に組み込まれる。ナノキトサンの製造は、スプレー乾燥、蒸発法、または超臨界溶液の緩和により実施される。
【0024】
WO01/32751号(特許文献17)では、10〜1000nmの粒径をもつ化粧品及び医薬製剤用のナノ粒子キトサンの製造プロセスが記載されており、ここでは酸性キトサン水溶液のpH値は、キトサンが沈殿するまでに表面変性剤の存在下で高められている。さらに、WO91/00298号(特許文献18)では、0.1〜50μmの粒径の粉末と微結晶質キトサン分散液および粉末の製造について記載されており、ここではキトサンが沈殿するまで酸性キトサン水溶液のpH値が高められている。
【0025】
WO97/07266号(特許文献19)は、酢酸を含む0.5%キトサン溶液でリヨセル繊維を処理することを記載する。
【0026】
WO2004/007818号(特許文献15)は、キトソニウムポリマーをリヨセル繊維に配合することに加えて、乾燥したことがないリヨセル繊維とキトソニウムポリマーの溶液または懸濁液との処理についても記載している。前記プロセスは、乾燥したことがないリヨセル繊維の処理に関してのみ適していることが判明した。
【0027】
「乾燥したことがない」なる用語は、乾燥段階にいまだ暴露されていない新しく紡糸された繊維の状態を記述する。
【0028】
乾燥したことがない状態のリヨセル以外の繊維種の処理は、WO2004/007818号(特許文献15)に従ったプロセスでは可能ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】欧州特許第EP0077098号
【特許文献2】米国特許第US4309534号
【特許文献3】特開昭56−112937号
【特許文献4】特開昭59−116418号
【特許文献5】米国特許第US5,320,903号
【特許文献6】米国特許第US−A5,756,111号
【特許文献7】米国特許第US−A5,622,666号
【特許文献8】国際特許出願第PCT/FI90/00292号
【特許文献9】フィンランド特許第FI78127号
【特許文献10】ドイツ特許第DE19544097号
【特許文献11】韓国特許出願第KR−A9614022号
【特許文献12】欧州特許出願第EP−A0883645号
【特許文献13】韓国特許出願第KR−A2002036398号
【特許文献14】ドイツ特許出願第DE−A10007794号
【特許文献15】WO04/007818号
【特許文献16】欧州特許第EP1243688号
【特許文献17】WO01/32751号
【特許文献18】WO91/00298号
【特許文献19】WO97/07266号
【非特許文献】
【0030】
【非特許文献1】“Erzeugnisse aus Polysaccharidverbunden”(Taeger,E,;Kramer,H.;Meister,F.;Vorwerg,W.;Radosta,S;TITK−Thuringisches Institut fur Textil und Kunstsoff−Forschung,1997,1〜47頁、レポート番号FKZ95/NR036F)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
本発明の目的は、キトサンを繊維に配合することに関して上記のような問題を示さず、且つ乾燥状態並びに乾燥したことがない状態の様々なタイプのセルロース繊維に好適であるセルロース成形品の処理プロセスを提供する。キトサンは、何回もの家庭での洗濯の後でさえも最終製品に存在するような方法で、好ましくは製造プロセスの間に、再生セルロース繊維(リヨセル繊維、モダール繊維、ビスコース繊維、ポリノジック繊維)の特に繊維表面に固定される。
【課題を解決するための手段】
【0032】
前記目的は、溶解していないキトサン粒子を含有するアルカリ性分散液と成形品とを接触させることを特徴とするセルロース成形品の処理プロセスによって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明に従って製造したリヨセル繊維表面におけるキトサン粒子の分布を示す。
【図2】図2は、WO2004/007818号(キトソニウムポリマーの酸性溶液の適用)に記載のプロセスに従って製造したリヨセル繊維表面におけるキトサンの分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
意外にも、溶解していないキトサン粒子を含有するアルカリ性分散液と成形品とを接触させると、セルロース成形品の表面にキトサンを持続的に適用可能であることが判明した。キトサン粒子は好ましくは粒径0.1〜1500μm、特に好ましくは粒径1〜800μmで分散液中に存在する。分散液のpHは好ましくは7を超え、特に好ましくは9〜11である。
現在のところ、キチンとキトサンの境界に関しては統一の定義はない。
【0035】
本発明の目的に関しては、「キチン」なる用語は、脱アセチル化度0パーセントの2−アセトアミド−2−デスオキシ−D−グルコースのβ−1,4−結合ポリマーを示すものとする。また本発明の目的に関しては、「キトサン」なる用語は、2−アセトアミド−2−デスオキシ−D−グルコースの少なくとも部分的に脱アセチル化されたβ−1,4−結合ポリマーを意味する。
【0036】
キトサンを配合する公知方法と比較して、本発明のプロセスは、成形品の内部に含まれたキトサンにアクセスできないという好都合な点がある。成形品の表面のキトサンだけが皮膚と接触することができるので、その良い効果がもたらされる。含浸と同様に成形品の表面に同量のキトサンを得るためには、かなり多量のキトサンを配合に使用しなければならない。
ナノ−キトサンの利用と比較して、ナノ−キトサンの高い製造コストに関し、特に好都合な点がある。
【0037】
WO2004/007818号に記載のキトソニウムポリマーの酸性溶液で含浸させることが、乾燥したことがないビスコース、モダールやポリノジック繊維の続く蒸気処理の間に機能しないという点で、本発明に従ったプロセスは、WO2004/007818号に記載のプロセスよりも好都合な点をもつ。そうすることで、ほんのごく少量のキトサン含有量が達成されるが、前記プロセスの実施は、既存の設備を再構築せずには不可能である。
【0038】
さらに本発明のプロセスは、より安価なキトサン種を好ましくは使用することができるため(下記参照)、WO2004/007818号に記載のプロセスよりももっと経費を節約する。
【0039】
本発明のプロセスの好ましい態様に従って、分散液中のキトサン粒子の含有量は0.001〜10重量%、好ましくは0.1〜2重量%の範囲である。
【0040】
酸(たとえば乳酸)に溶解性であり、且つアルカリで沈殿する場合、0.1〜1500μmの粒径をもつキトサン粒子の分散液となる、全ての市販のキトサン種が本発明に従ったプロセスの実施に好適である。酸におけるキトサン種の溶解性は、本質的にキトサンの脱アセチル化度に依存する。脱アセチル化度が少なすぎると、溶解性は悪化する。
【0041】
高分子量キトサン種(20〜25℃、ブルックフィールド粘度計、30rpmで測定して、1%酢酸中1%溶液が200mPa.s以上の粘度をもつ)は、本発明に従ったプロセスの実施に特に好適である。高分子量キトサン類は、通常安価である。
【0042】
本発明に従って処理した成形品は好ましくは、繊維の形状である。特に繊維は、リヨセル繊維、モダール繊維、ポリノジック繊維及び/またはビスコース繊維である。
【0043】
一般名「リヨセル」は、BISFA(The International Bureau for the Standardisation of Man Made Fibres:国際化繊協会)により割り当てられ、有機溶媒中のセルロース溶液から製造したセルロース繊維を意味する。好ましくは、三級アミンオキシド、特にN−メチル−モルホリン−N−オキシド(NMMO)を溶媒として使用する。リヨセル繊維の製造プロセスは、たとえば米国特許US−A4,246,221号に記載されている。
【0044】
ビスコース繊維は、セルロースを沈殿及び再生することによってキサントゲン酸セルロース(ビスコース)のアルカリ溶液から得られる繊維である。
【0045】
モダール繊維は、BISFAによる定義に従って、高湿潤引張強度と高湿潤弾性率(湿潤状態で繊維を5%まで引っ張るために必要な力)を特徴とするセルロース繊維である。
【0046】
キトサン分散液との処理の間、繊維は既に乾燥された状態で、特にテキスタイル製品として好ましくはヤーン、布帛、織り布帛またはこれらから製造した衣料品の構成成分として存在してもよい。
【0047】
「既に乾燥された」繊維は、その製造プロセスの過程で少なくとも一回乾燥段階に既に暴露された繊維であると理解される。
【0048】
既に乾燥されたセルロース繊維またはこれらを含むテキスタイル製品を、溶解していない形のキトサンで効率的に処理することは、今まで記載されてこなかった。
【0049】
あるいは、繊維はまだ乾燥されたことがない形態で存在してもよい。特に繊維は、繊維フリース(繊維ウェブ)の形態で存在してもよく、これはリヨセル、ビスコース、モダール及びポリノジックステープル繊維の製造プロセスの過程で中間体として発生する。
【0050】
前記変形は、装置に変更を加える必要なく、リヨセル、ビスコース、モダールまたはポリノジック繊維製造用の既存の装置で処理を実施することができるという好都合な点をもつ。乾燥したことのないビスコース、モダールまたはポリノジック繊維のキトサンとの処理は、今まで記載されたことがない。
処理前に、繊維は50%〜500%の残存水分を有することができる。
【0051】
キトサン粒子を含有する分散液との処理後、成形品を過熱蒸気との処理に暴露することができる。これによって、成形品表面でキトサンをさらに固定化することができる。
【0052】
キトサン分散液の製造に関しては、キトサンは好ましくは無機または有機酸(たとえば乳酸)に溶解し、続いてキトサンを沈殿させるためにアルカリを添加する。キトサンが完全に溶解した後、特に好ましくはNaOHなどのアルカリの水酸化物水溶液を計量して、キトサン溶液を攪拌しながら、pH値を>7に高める。最終pH値は好ましくは9〜11の範囲である。
【0053】
連続処理に関しては、このようにして得られたキトサン分散液を、たとえば絞ることによって50%〜500%の規定水分に調整された初期湿潤再生セルロース繊維フリースと接触させることができる。フリースはたとえば、噴霧により含浸させることができる。ビスコース繊維及びモダール繊維の製造用装置では、既存の製造プラントを再構築する必要なく、いわゆる漂白領域を使用することができる。
【0054】
含浸後、フリースを50%〜500%の規定水分に絞ることができ、搾り出された処理液は含浸サイクルに戻すことができる。
【0055】
その後、フリースは過熱蒸気で処理し、その後中性洗浄するか、または過熱蒸気処理なしに中性洗浄、仕上げ及び乾燥する。
【0056】
さらに好ましいプロセス変形は、酸性キトサン溶液をアルカリ処理液、たとえば仕上げ浴中にその場で計量することにより製造し、成形品を処理液及びその場で製造した分散液で同時に処理することからなる。
【0057】
酸性キトサン溶液を、pH値>7の繊維仕上げ浴中などに計量する場合、キトサン分散液はその場で生成し、かくして繊維は同時にキトサンで含浸し、仕上げされる。続いて繊維は洗浄することなく乾燥することができる。
さらに好ましい態様では、乾燥前後に成形品を架橋剤との処理にかける。
【0058】
好適な架橋剤はたとえばWO99/19555号に記載されている。そのような架橋剤をアルカリ環境中で繊維に適用する。典型的なアプローチでは、繊維をアルカリ環境中で架橋剤と接触させると、架橋剤は、場合により過熱蒸気により固定され、酸性キトサン溶液が続いて繊維に適用され、繊維表面のアルカリ度のため、アルカリ性キトサン分散液のその場での形成がその中でもおきる。
【0059】
かくして本発明に従って、アルカリ性キトサン分散液は通常、アルカリ前処理の結果としてアルカリ性である、それぞれ単数または複数の繊維表面に、酸性キトサン溶液を適用することによりその場で製造することができる。
さらに、本発明は本発明に従ったプロセスによって得ることが可能な成形品に関する。
【0060】
本発明に従った成形品は特に、繊維、好ましくはリヨセル繊維、モダール繊維、ポリノジック繊維及び/またはビスコース繊維の形態で存在することができる。
【0061】
本発明のプロセスに従って得ることが可能な成形品のひとつの特徴は、成形品の表面が点状に分散したキトサン粒子を示すということである。対照的に、たとえばWO04/007818号のプロセスに従って製造した成形品では、表面上にフィルム状に分散したキトサン粒子が特定できる。
【0062】
また本発明は、不織製品中で抗菌製品として、匂いを減らす製品として及び/または充填繊維としての本発明に従った成形品の使用にも関する。穏やかな抗菌性、匂いを減らす、肌に優しい特性のため、本発明に従ったキトサン含有再生セルロース繊維の好ましい適用領域は、肌着類若しくはソックス、敏感肌(神経皮膚炎)の人のためのテキスタイル、ベッドリネン及び家庭用テキスタイルなど身体の近くで着用されるテキスタイルを含む。充填繊維としては、本発明に従った繊維は、たとえば綿、ポリエステル繊維及び未変性セルロース繊維(たとえばリヨセル繊維)などの他の繊維との混合物中で及び単独の両方で使用することができる。
以下において、本発明を実施例及び図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0063】
キトサン分散液(キトサン0.4重量%)の含浸
キトサン溶液の処方:
0.4%キトサン溶液500mlの製造に関しては、キトサン2gを蒸留水で満たして497.6gとし、乳酸2.4gと混合し(81.2%)、キトサンが完全に溶解するまで攪拌し、次いで攪拌しながら5%NaOH溶液でpH値11.0に調整する。約0.4%キトサン分散液が形成する。
【0064】
繊維含浸の手順:
乾燥したことのない繊維を室温で液体比1:10の分散液で5分間含浸し、次いで1バール(bar)で絞る。その後、
−変形a):繊維を水道水で10回洗浄し、蒸留水で10回洗浄し、乾燥し、カーディングする。
−変形b):繊維を100℃/100%相対湿度で5分間蒸し、洗浄し、乾燥し、サンプルをカーディングする。
【0065】
使用した繊維サンプル:
NMMOを除くために洗浄した、乾燥したことのない1.3dtexリヨセル繊維。
未漂白、乾燥したことのない1.3dtexモダール繊維。
未漂白、乾燥したことのない1.3dtexビスコース繊維。
【0066】
使用される市販のキトサン種:
Heppe社製、タイプ85/200/A1(脱アセチル化度85及び、1%酢酸中1%溶液で200mPa.sの粘度を示す)、分散液中のキトサン粒径:90%<675μm。
Primex社製、タイプChitoclear fg 95ULV TM 2284、分散液中のキトサン粒径:90%<15μm。
【0067】
測定方法:
分散液中のキトサン粒径は、レーザー回折により測定する(測定装置:Sympatec社製Helos Quixel、湿潤分散液系)。
【0068】
繊維上のキトサン含有量は、サンプルを燃焼させることによりN−含有量(LECO FP328 窒素分析機)を測定することにより決定する。
【0069】
繊維のFITC(蛍光イソチオシアネート)染色及び続く蛍光顕微鏡を使用する繊維の検査を実施して、繊維表面上のキトサン分布を分析する。
【0070】
実験サンプルのキトサン含有量の永続性を確認するために、熱水との処理を実施する。キトサン−含浸繊維のカードスライバーをビーカー中80〜90℃で沸騰させる(液体比1:20、80〜90℃で20分後、水で置換、温度到達後、さらに沸騰20分)。
実験結果を以下の表1に列記する:
【0071】
【表1】

【実施例2】
【0072】
キトサン分散液の含浸(キトサン0.2重量%)
0.2%キトサン溶液500mlの製造に関しては、キトサン1gを蒸留水で満たして498.8gとし、乳酸1.2gと混合し(81.2%)、キトサンが完全に溶解するまで攪拌し、次いで攪拌しながら5%NaOHでpH値10.0に調整する。約0.2%キトサン分散液が形成する。
【0073】
繊維の含浸手順:
実施例1と同様のアプローチをとる(変形a)及びb))。
【0074】
使用した繊維サンプル:
NMMOを除くために洗浄した、乾燥したことのない1.3dtexリヨセル繊維。
【0075】
使用される市販のキトサン種:
Heppe社製、タイプ85/400/A1(1%酢酸中1%溶液で400mPa.sの粘度を示す)、懸濁液中のキトサン粒径:90%<305μm。
【0076】
編みストッキングを繊維から製造し、キトサン含有量の永続性を高温ポリエステル染色条件下で確認した(HAT永続性)。
実験結果を以下の表2に列記する。
【0077】
【表2】

【実施例3】
【0078】
仕上げ浴中での含浸
0.2%キトサン溶液500mlの製造に関しては、キトサン1gを蒸留水で満たして498.8gとし、乳酸1.2gと混合し(81.2%)、キトサンが完全に溶解するまで攪拌し、次いで攪拌しながら5%NaOHでpH値10.0に調整する。約0.2%キトサン分散液が形成する。
【0079】
使用した繊維サンプル:
NMMOを除くために洗浄した、乾燥したことのない1.3dtexリヨセル繊維、水分100%。
未漂白、乾燥したことのない1.3dtexモダール、水分100%。
【0080】
使用される市販のキトサン種:
Heppe社製、タイプ85/400/A1、懸濁液中のキトサン粒径:90%<305μm。
Primex社製、タイプChitoclear fg 95ULV TM 2284、懸濁液中のキトサン粒径:90%<15μm。
【0081】
PH値8及び活性物質15g/lの仕上げ浴を60℃で調製した。0.2%キトサン分散液を仕上げ浴中にキトサン分散液比1:1で添加すると、仕上げ浴中のキトサン濃度は0.1%になった。
【0082】
含浸手順:
乾燥したことのない繊維を液体比1:10で5分間、60℃で含浸し、次いで3バールで絞り、乾燥した。
【0083】
編みストッキングを繊維から製造し、キトサン含有量の永続性を高温ポリエステル染色条件下で確認した(HAT永続性)。
実験結果を以下の表3に列記する。
【0084】
【表3】

【実施例4】
【0085】
キトサンとシリコーンを用いる6.7dtex60mm再生セルロース繊維の製造
キトサン溶液の処方:
0.6%キトサン溶液500mlの製造に関しては、キトサン3gを蒸留水で満たして496.4gとし、乳酸3.6gと混合し(81.2%)、キトサンが完全に溶解するまで攪拌し、次いで攪拌しながら5%NaOHでpH値11.0に調整する。約0.6%キトサン分散液が形成する。
【0086】
含浸手順:
乾燥したことのない繊維を室温で液体比1:10で5分間含浸させ、次いで1バールで絞った。その後、これを蒸留水で10回洗浄し、続いて繊維を活性成分13g/lのシリコーン浴に室温で液体比1:12で5分間入れ、これを1バールで絞り、乾燥し、カーディングする。
【0087】
使用した市販の繊維サンプル:
Primix社製、Chitoclear fg95 ULV TM2284、懸濁液中のキトサン粒径:90%<15μm。
【0088】
使用した繊維サンプル:
NMMOを除くために洗浄した、乾燥したことのない6.7dtexリヨセル繊維。
未漂白、乾燥したことのない6.7dtexモダールトリローバル(WO2006/060835号に従う)。
【0089】
繊維を洗濯機で家庭での洗濯にかけた(60℃、弱回転、市販の液体洗剤、製造業者の使用説明書に従った量。繊維は洗濯バッグに入れ、家庭での洗濯が完了後、再び手で洗浄し、乾燥する)。三回洗濯を実施した。
実験結果を以下の表4に列記する。
【0090】
【表4】

【実施例5】
【0091】
製造実験−キトサンを使用する1.7dtex38mmリヨセル繊維の製造
WO93/19230号に記載のプロセスに従って、1.7dtex38mmのリヨセル種繊維を連続製造プロセスで製造し、本発明に従って、乾燥したことのない状態でキトサン分散液(アルカリ性で沈殿させた、タイプTM2284(0.2重量%))で、液体比1:20で所望のキトサン含有量0.6重量%になるまで含浸し、水蒸気処理し、洗浄し、仕上げ、乾燥した。ヤーンNm50をこのようにして製造したキトサン含有量0.5重量%を含む繊維から紡糸した。前記ヤーンを0.4重量%のキトサン含有量を示すテキスタイルアセンブリ(シングルジャージー・ニットウエア)に加工した。10回家庭での洗濯後、キトサン含有量はいまだ0.3重量%であった。
【0092】
図1は、実施例5に従って製造し、蛍光イソチオシアネートで染色した繊維の共焦点顕微鏡写真を示す。キトサンの点状分布(明るい点)がはっきりと視認できる。
【0093】
図2は、WO2004/007818号(キトソニウムポリマーの酸性溶液の適用)に記載されたプロセスに従って製造したリヨセル繊維表面上のキトサンの分布を示す。キトサン(明るい領域)は、フィルム状に表面に分布している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解していないキトサン粒子を含有するアルカリ性分散液とセルロース成形品とを接触させることを特徴とする、セルロース成形品の処理プロセス。
【請求項2】
前記キトサン粒子は、0.1〜1500μm、好ましくは1〜800μmの粒径で前記分散液中に存在することを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記アルカリ性分散液のpH値が7を超え、好ましくは9〜11の範囲であることを特徴とする、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記分散液中のキトサン粒子含有量は、0.001〜10重量%、好ましくは0.1〜2重量%の範囲であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のプロセス。
【請求項5】
前記分散液の製造に使用される前記キトサンは20〜25℃において1%酢酸中1%溶液中で200mPa.s以上の粘度をもつことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のプロセス。
【請求項6】
前記成形品が繊維の形態で存在することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のプロセス。
【請求項7】
前記繊維がリヨセル繊維、モダール繊維、ポリノジック繊維及び/またはビスコース繊維であることを特徴とする、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記繊維が既に乾燥された形態、特にテキスタイル製品の構成成分、好ましくはヤーン、布帛、織り布帛またはそれらから製造した衣料品の構成成分として存在することを特徴とする、請求項6または7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記繊維が乾燥したことがないことを特徴とする、請求項6または7に記載のプロセス。
【請求項10】
前記繊維が繊維フリースの形態で存在することを特徴とする、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記繊維が処理前に50%〜500%の残存水分を有することを特徴とする、請求項9または10に記載のプロセス。
【請求項12】
分散液との処理後に、前記成形品を過熱水蒸気との処理に暴露することを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載のプロセス。
【請求項13】
分散液の製造のために、キトサンを無機または有機酸に溶解し、続いてキトサンを沈殿させるためにアルカリを添加することを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載のプロセス。
【請求項14】
前記分散液は、酸性キトサン溶液をアルカリ性処理液、好ましくは仕上げ浴中に計量し、前記成形品をその場で製造した前記処理液と前記分散液とで同時に処理することを特徴とする、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記分散液は、アルカリ予備処理の結果としてアルカリ性である繊維表面に、酸性キトサン溶液を適用することによってその場で製造することを特徴とする、請求項13に記載のプロセス。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載のプロセスによって得ることが可能な成形品。
【請求項17】
繊維、好ましくはリヨセル繊維、モダール繊維、ポリノジック繊維及び/またはビスコース繊維の形態の請求項16に記載の成形品。
【請求項18】
前記成形品の表面が点状に分散されているキトサン粒子を示すことを特徴とする、請求項16または17に記載の成形品。
【請求項19】
不織製品中の抗菌製品として、匂いを減らす製品として、及び/または充填繊維としての請求項16〜18のいずれかに記載の成形品の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−510183(P2011−510183A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543343(P2010−543343)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【国際出願番号】PCT/AT2009/000015
【国際公開番号】WO2009/092121
【国際公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(500077889)レンツィング アクチェンゲゼルシャフト (20)
【Fターム(参考)】