説明

セルロース溶剤による溶解と加水分解の組合せによるバイオマス処理方法

【課題】単糖もしくはオリゴ糖、場合によっては多糖類を効率良くしかも簡易に製造する処理方法を提供する。
【解決手段】多糖類系バイオマスをセルロース溶剤に溶解する工程と、該溶剤中において、同バイオマスを加水分解する工程とを組合せることにより、単糖、オリゴ糖および多糖類などの水解物を製造する。上記セルロース溶剤は、アルデヒド系、SO-アミン系、NO-X系、LiCl系、含硫黄系、含窒素系、有機酸類、有機塩類、有機系溶媒である非水系溶剤のうち溶解工程において酸分解を伴なわない溶剤、もしくはアミンオキシド系、濃無機酸類、濃無機塩類、アルカリ系である含水系溶剤のうち溶解工程において酸加水分解を伴なわない溶剤の少なくとも1つである。多糖類系バイオマスは好ましくはリグノセルロースである。LiCl系溶剤は好ましくはLiCl/DMAc(塩化リチウム/ジメチルアセトアミド)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類系バイオマスから単糖、もしくはオリゴ糖、場合によっては多糖類などの水解物を製造するにあたり、効率的、かつ簡易な処理方法に関する。さらに詳しくは、多糖類系バイオマスをアルデヒド系、SO-アミン系、NO-X系、LiCl系、含硫黄系、含窒素系、有機酸類、有機塩類、有機系溶媒である非水系溶剤で溶解工程において酸分解を伴なわない溶剤、もしくはアミンオキシド系、濃無機酸類、濃無機塩類、アルカリ系である含水系溶剤に代表されるセルロース溶剤で溶解工程において酸加水分解を伴なわない溶剤のうち少なくとも1つへ溶解する工程と、亜臨界流体による処理、超臨界流体による処理、酸による処理、および酵素糖化法のうちの少なくとも1つからなる加水分解工程を組み合わせた処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多糖類系バイオマス資源を構成し地球上で最大量を誇るものはセルロースあり、そのセルロースの大部分はリグノセルロース(木質資源)の構成物として存在する。近年未利用のリグノセルロースの構成物であるセルロースおよびヘミセルロースから単糖もしくはオリゴ糖を製造し、エタノール発酵や乳酸への発酵、さらにポリ乳酸などの生分解性高分子への変換が注目されている。しかし、自然界に存在するリグノセルロースは結晶性であるセルロース、非晶性であるヘミセルロース、フェノール性の物質であるリグニンで複雑に構成されているもので、さらに、その構成比率は原料によって様々であるため、有用な成分を得ることは容易でない。リグノセルロースから単糖もしくはオリゴ糖を製造することは、六炭糖(C6糖)で構成されるセルロース、および五炭糖(C5糖)、C6糖で構成されるヘミセルロースを加水分解することに他ならないが、結晶性/非晶性の違いにより各々の加水分解反応速度が異なることに由来する種々の解決すべき課題がある。すなわち、非晶構造のヘミセルロースと結晶構造のセルロースとリグニンの混合物を同時に、すなわちリグノセルロースを加水分解に供した場合、加水分解を受けにくく反応速度の遅いセルロースの分解が進行する一方で、ヘミセルロースは比較的容易に加水分解されるため、ヘミセルロースの分解物、すなわち単糖もしくはオリゴ糖は一次反応でさらに分解が進行し過分解が起きる。これはすなわち目的とする糖類の収率を低下させることであり、さらに一般的にその過分解物、例えばフルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラールは後段に位置する種々の発酵に対しての阻害性を有する欠点がある。近年の技術において、上記課題を解決しつつリグノセルロースから有用な成分を効率的に製造するために数々の複雑な処理方法が考案されている。
【0003】
近年の技術においては、リグノセルロースからの単糖もしくはオリゴ糖の製造方法としては、酸加水分解法、酵素糖化法、および亜臨界流体もしくは超臨界流体による加溶媒分解(加水分解も含まれる)法の三つの方法が知られている。酸加水分解法に関して、商用ベースでは希硫酸法、濃硫酸法のいずれの場合も、2段階の加水分解とすることにより糖類の収率向上を図っている。これはすなわち第1段の加水分解で比較的分解が容易な非晶性のヘミセルロースの加水分解を行ない、C5糖とC6糖の混合物を過分解することなく分離回収し、第2段の加水分解で結晶性のセルロースをC6糖に変換する2段階加水分解法であり、ここに各段の条件は異なる。ただし、ヘミセルロースからの糖類の回収を無視することにより1段階の加水分解を行なう事例もある。
【0004】
酵素糖化法に関して、本法は反応速度が遅いため、リグノセルロースのアルカリ剤による膨潤化や、蒸煮・爆砕などの前処理を行なうことにより、酵素との反応性を高め、糖化速度の向上を図る。すなわち複雑に構成されたセルロース、およびヘミセルロースが酵素による加水分解を受けやすいように分解もしくは破壊する処理を行なう。前処理により酵素糖化速度の向上は図れるが、酵素の価格が高いことなどにより、工業的な生産技術としての課題が残る。
【0005】
亜臨界および超臨界水による加水分解に関して、秒単位あるいは分単位と処理に係る時間が短いこと、また、硫酸などの強酸を外部から添加する必要が無く石膏などの副産物も発生しないことから注目を浴びている。しかし、前述の酸加水分解法と同様、ヘミセルロースとセルロースの加水分解速度が異なることから、高収率で糖類を得ようとした場合にやはり酸加水分解法と同様に別条件の2段階にする必要があり、操作に煩雑性を帯びてしまう。
【0006】
上記加水分解における諸問題を解決すべく、結晶質であるセルロースを溶解工程においてリン酸などに代表される酸加水分解を伴う溶剤により予め溶解、非晶化することにより、元来非晶質であるヘミセルロースと同様の反応性とすることにより、後段の加水分解工程を簡易化する方法が提案されているが、溶解工程において酸加水分解を伴う溶剤による溶解は、セルロースだけでなく同時に、非晶であるヘミセルロースをも加水分解し、最終的には過分解を引き起こすために、結果的に目的とする単糖、もしくはオリゴ糖、場合によっては多糖類の収率の低下をまねく。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、こうした状況のもとになされたものであって、結晶性のセルロースと非晶性のヘミセルロースが混在する多糖類系バイオマスから、単糖、もしくはオリゴ糖、場合によっては多糖類を製造するにあたり、結晶性/非晶性成分の分解速度の違いに起因する単糖、オリゴ糖、多糖類の一部過分解による収率低下を防ぐ方法、またそれらの課題を解決するための装置および操作の煩雑さを回避する新規な方法を提供することを目的とする。詳しくは、結晶性のセルロースと非晶性のヘミセルロースが混在する多糖類系バイオマスから、単糖、もしくはオリゴ糖、場合によっては多糖類を製造するにあたり、溶解工程において、元来非晶であるヘミセルロースの過分解を防止しつつ溶解し、一方で結晶性のセルロースを非晶化、溶解させ、ヘミセルロースとセルロースの分解速度を同等にすることにより後段の加水分解工程を簡易で単一な加水分解方法とすることにより高効率に単糖、もしくはオリゴ糖、場合によっては多糖類を製造する方法を提供することを目的とする。さらに詳しくは、多糖類系バイオマスを、溶解工程において酸加水分解(溶媒が水以外の場合には加溶媒分解)を伴わないセルロース溶剤により元来非晶であるヘミセルロースの過分解を防止しつつ溶解し、一方で結晶性のセルロースを非晶化、溶解することと、後段加水分解工程を組み合わせることにより、単糖もしくはオリゴ糖、場合によっては多糖類を効率良くしかも簡易に製造する処理方法を提供することを目的とする。
【0008】
ここで、特開平8−299000号公報(植物系繊維材料からのグルコースを製造する方法)において、リン酸のオキソ酸を包含する溶媒を用いた植物系繊維材料からグルコースを製造する方法が申請されており、「リンのオキソ酸が、いわゆるプロトン供与体としての酸として作用するというよりも、セルロース等の溶媒として作用するものである。(中略)セルロースなどの植物系繊維材料は、実質的に分解を受けることなく本発明のリンのオキソ酸系溶媒に溶解しえる」という記述があるが、文献(セルロースの材料科学/磯貝明著)、(セルロースの科学/磯貝明著)や論文(リン酸を用いた低分子セルロース調製/磯貝明ら)によると、溶解工程におけるリン酸によるセルロースの溶解は酸加水分解によるもので全体分子量低下および糖類の過分解が起きることは明らかである。さらに付け加えると、リン酸に代表される酸加水分解を伴う溶剤によるリグノセルロースの溶解過程でセルロースは分子量低下を伴いながら溶解するが、同時に元来非晶質であるヘミセルロースも酸加水分解を受けて過分解し、最終的には単糖の過分解物(フルフラールや5−ヒドロキシメチルフルフラールなど)となり好ましくない。
【0009】
本発明では、溶解工程におけるリン酸に見られるような過分解に起因する大幅な全体分子量低下および糖類の過分解を伴う酸加水分解によるセルロース溶解ではなく、溶解工程において全体の分子量を大幅に、または場合によってはほとんど低下させることなく、かつ糖類の過分解もすることなく溶解することを特徴とし、非晶質であるヘミセルロースを保護しながら、最終的に得られる単糖、オリゴ糖、多糖類の収率を向上させるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成すべくなされたもので、多糖類系バイオマスからの単糖類、オリゴ糖、場合によっては多糖類などの水解物を製造するにあたり、同バイオマスを溶剤に溶解する工程と、該溶剤中において同バイオマスを加水分解する工程を組み合わせることにより単糖、オリゴ糖および多糖類などの水解物を製造する方法において、上記セルロース溶剤が、溶解工程において酸加水分解を伴わない特定の溶剤である処理方法に関するものである。
【0011】
本発明で対象となる多糖類系バイオマスは、セルロースおよび/またはヘミセルロースからなる多糖類がリグニンにより木化したものであり、針葉樹、広葉樹、ササ、タケ、稲わら、もみ殻、麦わら、その他農林産物資源およびそれらの廃棄物、これらに由来する木材繊維、木材チップ、単板くず、パルプ類、古紙類などであり、さらにはさとうきび、てんさいなどの糖質資源、ばれいしょ、かんしょ、さといもなどのでんぷん資源などリグニン含量が少ないもしくは含まないバイオマスであってもよく、キチン・キトサン等の多糖類を含むバイオマス及びそれらの廃棄物をも含む。これらのバイオマス資源は2以上の組み合わせであっても良い。
【0012】
好ましい多糖類系バイオマスはリグノセルロース、例えばスギ木粉である。
【0013】
本発明で用いるセルロース溶剤は、アルデヒド系、SO-アミン系、NO-X系、LiCl系、含硫黄系、含窒素系、有機酸類、有機塩類、有機系溶媒などの非水系溶剤のうち溶解工程において酸分解を伴なわない溶剤、もしくはアミンオキシド系、濃無機酸類、濃無機塩類、アルカリ系などの含水系溶剤のうち溶解工程において酸加水分解を伴なわない溶剤のいずれでも良く、2以上の組み合わせであっても良い。
【0014】
セルロース溶剤は、具体例として下記のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
非水系溶媒
アルデヒド系:パラホルムアルデヒド+〔DMSO等〕、ホルムアルデヒド+〔DMSO等〕、クロラール+ピリジン+〔DMSO,DMF等〕
SO2-アミン系:SO2+ジエチルアミン+〔DMSO等〕、SO2+トリエチルアミン+〔DMSO等〕
NO-X系:N2O4+〔DMF,DMSO等〕、NOCl+〔DMF,DMSO等〕
LiCl系:LiCl+〔DMAc(ジメチルアセトアミド)、DMI等〕
含硫黄系:SO3+〔DMSO〕、SOCl+アミン+〔DMSO〕、SOCl+アミン+〔DMSO〕、CS+〔DMSO〕
含窒素系:CH3NH2(メチルアミン)+〔DMSO〕、N+〔DMSO〕、N−エチルピリジニウム塩+〔DMSO〕
その他:CFCOOH+〔CHCl等〕
有機酸類:ジクロロ酢酸
含水系溶媒
アミンオキシド系:N-メチルモルフォリン-N-オキシドの含水塩、N-メチルピペリジン-N-オキシドの含水塩、N-メチルピロリジン-N-オキシドの含水塩
濃無機酸類:濃硫酸、例えば72%硫酸、濃リン酸、例えば85%リン酸
濃無機塩類:ZnCl2水溶液、例えば64%ZnCl2水溶液、Ca(SCN)水溶液、例えば58%Ca(SCN)水溶液、チオシアン酸ナトリウム塩水溶液
アルカリ系:Cu(エチレンジアミン)(OH)2+〔水〕、Cd(エチレンジアミン)(OH)2+〔水〕、Co(エチレンジアミン)(OH)2+〔水〕、Ni(エチレンジアミン)(OH)2+〔水〕、Zn(エチレンジアミン)(OH)2+〔水〕、Cu(NH3)4(OH)2+〔水〕、(C4H3O6)FeNa6+〔水〕、NaOH+CS2+〔水〕、NaOH+〔水〕
なお、〔 〕内のものは主溶剤でである。〔主溶剤〕の前に記載されたものは添加剤である。
【0016】
セルロース溶剤に関して、例えば特開平7-189019号公報にも開示されているとおり、溶剤を用いた再生セルロース紡糸の製造方法に関するものがある。特にN-メチルモルフォリン−N−オキシドなどセルロース溶剤を用いた再生セルロースの製造法に関して、数種類のパルプをN-メチルモルフォリン−N−オキシドにより溶解させた後紡糸した繊維は既にコートルズ社などにより商品化されている。しかし、N-メチルモルフォリン−N−オキシドはその危険性から実用化の際に厳密な温度管理が必要であるため容易に扱うことのできる溶剤を選定することが重要であり、例えばLiCl/DMAc(塩化リチウム/ジメチルアセトアミド)が好ましい。溶解工程における本溶剤によるセルロースの非晶化は、溶剤の双極子とセルロース中のOH基の相互作用によりセルロース分子の分子内および分子間の水素結合が切断されるために生じ、セルロースは過分解、つまり全体の分子量が低下することなく誘導体として存在することができるものと考えられている。ヘミセルロースについても同様に本溶剤により可溶化が可能であり、なおかつ酸加水分解を伴わない溶解であるために過分解することもない。
【0017】
加水分解工程における多糖類系バイオマスの処理方法は、亜臨界状態、または超臨界状態の水(流体)による加水分解処理、酸による加水分解処理、および酵素糖化法のうちの1つであってもよいし、これらの2つ以上の組み合わせであってもよい。加水分解装置は、バッチ式、固定床反応式、連続式などであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来であれば多糖類系バイオマスから単糖、もしくはオリゴ糖、場合によっては多糖類を高収率に製造するためには結晶性のセルロースと非晶性のヘミセルロースを、別工程、別条件にて加水分解処理する2段階の加水分解法を取らざるを得なかったのに対し、多糖類系バイオマスをセルロース溶剤により溶解する工程と、該溶剤中において、同バイオマスを加水分解する工程を組合せることにより、非晶化されたセルロースと非晶のヘミセルロースを同条件に扱うことができる。
【0019】
その溶解工程において、リン酸に代表される酸加水分解による溶解に見られるような全体の大幅な分子量低下および糖類の過分解を行なわない溶剤系、つまりアルデヒド系、SO-アミン系、NO-X系、LiCl系、含硫黄系、含窒素系、有機酸類、有機塩類、有機系溶媒である非水系溶剤のうち溶解工程において酸分解を伴なわない溶剤、もしくはアミンオキシド系、濃無機酸類、濃無機塩類、アルカリ系である含水系溶剤のうち溶解工程において酸加水分解を伴なわない溶剤を用いることにより、セルロースのみならず、ヘミセルロースの低分子化を抑え、それによってヘミセルロースの過分解を抑えることができ、目的とする単糖、もしくはオリゴ糖、場合によっては多糖類を高収率に製造しうる。
【0020】
さらに、セルロース、ヘミセルロースを非晶化することにより、後段の加水分解工程における装置および操作の簡易化、単一化が可能となる。加えて、非晶化されたセルロースと非晶のヘミセルロースの加水分解反応速度が同等であることから適切な加水分解条件を選択することにより、各々の過分解物、例えばフルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラールなどの発酵阻害物質の生成を抑制することが可能となる。過分解を抑制することはすなわち単糖、もしくはオリゴ糖、場合によっては多糖類を高収率に製造することに他ならない。
【0021】
本発明によれば、例えば加水分解工程が酸加水分解法である場合、溶解工程でセルロース溶剤を用いて予めセルロース成分が非晶化されることにより、加水分解反応速度が同等となることから2段の加水分解工程を必要としない。また、非晶化することにより酸による加水分解を受けやすい状態となるため、濃酸を必要とせず希酸により十分な加水分解が可能となる。すなわち希酸、例えば希硫酸をもちいた1段階の加水分解だけでC5糖およびC6糖を高収率に製造可能となる。加えて、加水分解における圧力、温度を下げることが可能となるために、過分解を抑制でき、例えばフルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラールなどの発酵阻害物質の生成を抑制することが可能となる。ならびに、加水分解条件を緩やかにできることから装置および材質の低廉化が図れる。
【0022】
本発明によれば、例えば加水分解工程が酵素糖化法である場合、本来酵素糖化は上述の酸加水分解とは異なり2段階の加水分解を必要としないが、溶解工程においてセルロース溶剤を用いて予めセルロース成分が非晶化されることにより、セルロースが酵素により糖化を受けやすい状態となるため、酵素糖化速度を向上することが可能となる。
【0023】
本発明によれば、例えば加水分解工程が亜臨界、もしくは超臨界状態の水(流体)による処理である場合、溶解工程においてセルロース溶剤を用いて予めセルロース成分が非晶化されることにより加水分解反応速度がヘミセルロースと同等となることから2段の加水分解工程を必要としない。また、非晶化することにより亜臨界状態もしくは超臨界状態の水(流体)により加水分解を受けやすい状態となる。加えて、加水分解における圧力、温度を下げることが可能となるために、過分解を抑制でき、例えばフルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラールなどの発酵阻害物質の生成を抑制することが可能となる。ならびに、加水分解条件を緩やかにできることから装置および材質の低廉化が図れる。特にこの場合、亜臨界状態もしくは超臨界状態での水(流体)の水素結合が解裂しており誘電率が小さくなっていることからイオン性の溶剤の溶解度が小さくなり、単糖、もしくはオリゴ糖、場合によっては多糖類と溶剤の分離が可能となる。
【0024】
いずれの加水分解工程を後段に設置するにせよ、溶解工程において酸加水分解を伴わない溶剤による溶解をおこなうことにより、溶解時のセルロース、ヘミセルロースの過分解に起因する単糖、もしくはオリゴ糖、場合によっては多糖類の収率低下を抑制することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明において、多糖類系バイオマスを加水分解し、単糖もしくはオリゴ糖、場合によっては多糖類を生成するにあたり、その方法および装置は特に制限はなく、公知の方法や装置が適応できる。多糖類系バイオマスの加水分解法には、酸加水分解、酵素糖化法、亜臨界による加水分解法、および超臨界による加水分解法が適用でき、これらの1つであってもよいし、これらの2以上の組み合わせであってもよい。加水分解装置は、バッチ式、固定床反応式、連続式などであってもよい。
【0026】
次に、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例およびこれとの比較を示すための比較例をあげるが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0027】
実施例1
図1に、破砕部、セルロース溶解部、加水分解部からなる基本的なシステムを示す。多糖類系バイオマスとしてスギを破砕部にて破砕処理し、セルロース溶解部にてLiCl/DMAcを用いて溶解し、セルロース成分、ヘミセルロース成分を非晶化させる。溶解液は加水分解部にて亜臨界水による加水分解を行なう。
【0028】
処理液はC5糖、C6糖からなる単糖、もしくはオリゴ糖、場合によっては多糖類を含む液体である。これら糖類の回収された残液には、硫酸のような後処理の必要なものは含まれず、その処理が容易である。
【0029】
比較例1
図2に、従来の方法である破砕部、加水分解部I、分離部、加水分解部IIからなる基本的なシステムを示す。多糖類系バイオマスとしてスギを破砕部にて破砕処理したあと、加水分解部Iにて濃硫酸加水分解を行いヘミセルロース成分を加水分解する。加水分解部Iを通過した処理物は分離部にて固液分離される。分離部にて分離された液はヘミセルロース由来のC5糖、C6糖からなる単糖、もしくはオリゴ糖、場合によっては多糖類、並びに過分解を受けた水解物を含む液体である。分離部にて分離された固体は加水分解部IIにて希硫酸加水分解を行ないセルロース成分を加水分解する。処理液はセルロース由来のC6糖からなる単糖、もしくはオリゴ糖、場合によっては多糖類並びに過分解を受けた水解物を含む液体である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1の操作を示すフローシートである。
【図2】比較例1の操作を示すフローシートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類系バイオマスをセルロース溶剤に溶解する工程と、該溶剤中において、同バイオマスを加水分解する工程とを組合せることにより、単糖、オリゴ糖および多糖類などの水解物を製造する方法において、上記セルロース溶剤が、アルデヒド系、SO-アミン系、NO-X系、LiCl系、含硫黄系、含窒素系、有機酸類、有機塩類、有機系溶媒である非水系溶剤のうち溶解工程において酸分解を伴なわない溶剤、もしくはアミンオキシド系、濃無機酸類、濃無機塩類、アルカリ系である含水系溶剤のうち溶解工程において酸加水分解を伴なわない溶剤の少なくとも1つであることを特徴とするバイオマス処理方法。
【請求項2】
多糖類系バイオマスがリグノセルロースである、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
LiCl系溶剤がLiCl/DMAc(塩化リチウム/ジメチルアセトアミド)である請求項1に記載の処理方法。
【請求項4】
加水分解工程が、亜臨界流体による処理、超臨界流体による処理、酸による処理、および酵素糖化法のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−223152(P2006−223152A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39456(P2005−39456)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【出願人】(599006203)
【Fターム(参考)】