説明

セルロース系バイオマスの糖液製造方法および装置

【課題】セルロース系バイオマス原料から酵素糖化法により糖液を効率よく製造することができる糖液の製造装置および方法を提供する。
【解決手段】セルロース系バイオマス原料10の微粉を酵素糖化する第1酵素糖化装置21と、この第1酵素糖化装置21から排出される未糖化セルロース、ヘミセルロース、リグニン等を含む固体61と6炭糖を含む液体63とに分離する第1固液分離装置31と、第1固液分離装置31により分離された未糖化セルロース、ヘミセルロース、リグニン等を含む固体61を加圧熱水処理する熱水処理装置41と、この熱水処理装置41から排出される未溶解セルロースを含む固体62とリグニン、ヘミセルロースを溶解した液体64とに分離する第2固液分離装置32と、この第2固液分離装置32により分離された固体62中のセルロースを酵素糖化して6炭糖を含む糖液13に酵素分解する第2酵素分解装置22を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系バイオマス原料を用いた、例えばバイオアルコール類等製造の原料である糖液を効率よく製造することができる糖液の製造方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在アルコール原料として用いられているサトウキビ、トウモロコシ等は本来食用に供されるものであり、これら食用資源を工業用利用資源とすることは、食料不足を招き好ましくない。
【0003】
このため、将来的に有用な資源と考えられる草本系バイオマスや木質系バイオマスのようなセルロース系資源を有効活用することは、重要な課題である。
【0004】
セルロース系バイオマスの成分は、セルロース、ヘミセルロース、リグニン等である。セルロース、ヘミセルロースは糖化でき、セルロースからできる糖は、グルコースで酵母などで醗酵可能であってアルコール製造の原料となる。ヘミセルロースからの糖はキシロースであり、従来醗酵が困難とされていたが、近年ではキシロースを醗酵させる微生物学的技術が開発されている。
【0005】
上記の糖類を得る方法には、酸処理と酵素処理の二つの方法がある。酸処理法は、硫酸が使用されており、糖化速度が速い方法であるが、グルコース等単糖が過剰分解されて、グルコースの糖化収率を下げている。一方、酵素処理法は、環境にやさしく温和な条件での糖化が可能であるが、酵素がセルロースに接触し難く、長時間糖化しても糖化率ははなはだ悪い。
【0006】
その改善のために各種前処理が提唱されている。その中にはセルロース、ヘミセルロース、リグニン等への成分分離法があり、成分分離にはアルカリ、有機溶媒による抽出と希酸による加水分解などの組み合わせが提唱されている。しかし、酸による反応容器の腐食、中和処理の煩雑さから未だ大規模な商業化には到っていない。
【0007】
酵素糖化改善の前処理として、下記非特許文献1に開示されているように、セルロース系バイオマスを粉砕し、セルロースの結晶構造の劣化を図ることにより酵素が容易にセルロースに接触でき、糖化が促進されることが一般に知れている。しかし、均一に微粉砕することが困難であるという技術的問題に加え、より微粉砕にすることに費用がかかるので未だ商業化に到っていない。
【0008】
熱水処理は、蒸発潜熱が不要で比較的昇温速度が速く、熱水が加水分解能を有している。また、酸処理等反応容器腐食、中和処理が不要な点も有利である。この処理により成分分離が促進し、ヘミセルロースを分離できて、酵素糖化を促進できることが一般に知れている。しかし、通常のサイズ(数mm程度)では熱水処理温度が200℃以上の条件でないと十分な成分分離結果が得られず、その環境下ではフェノール化合物が抽出し、酵素活性を阻害するという難点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005―168335号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A.T.W.M. Hendriks, G. Zeeman: Bioresource Technology 100 (2009) 10-18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
酵素糖化改善の前処理としてセルロース系バイオマスを粉砕し、セルロースの結晶構造の劣化を図ることで酵素が容易にセルロースに接触でき、糖化が促進されることが一般に知れている。しかし、経済性確保が可能な簡易な微粉砕技術では微粉砕バイオマスの粒径0.25乃至0.5mmとなり、図2に示すように実験結果によると酵素糖化において30%程度の糖化率に留まり、更なる高糖化率を得ることは困難である。
【0012】
上記特許文献1に開示されている発明においては、各種セルロース系バイオマスを熱水処理して、酵素法により糖化を行うものであるが、通常のサイズ(数mm程度)のセルロース系バイオマスでは、熱水処理条件が220℃以上の高温であり、リグニン成分等から酵素阻害物質が生成され、酵素糖化効率が低下する問題がある。
【0013】
本発明は、これらの問題点を解決のために考えられたものである。
すなわち、微粉砕したバイオマスの酵素糖化上の優位点、高糖化速度で酵素糖化できること、および、残存未糖化バイオマスを酵素阻害物質の生成抑制できる緩和条件で熱水処理することを利用してセルロース系バイオマスの高糖化率を効率的に達成することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、セルロース系バイオマス原料から、効率的な糖液の製造を行う製造方法及び装置を提供することを目的とする。
【0015】
セルロース系バイオマスを経済性確保が可能な、簡易な微粉砕技術により微粉砕し、一次酵素糖化行い容易に酵素糖化できる成分を糖化し、その糖化溶液を分離、残存未糖化固体を緩和条件下で熱水処理し、溶液を分離し、残存固体を二次酵素糖化することにより高糖化率が得られる生産方法および装置を提供することである。
【0016】
本発明の請求項1に係る発明は、セルロース系バイオマス原料の微粉を酵素糖化する第1酵素糖化工程と、この第1酵素糖化工程から排出される未糖化セルロース、ヘミセルロース、リグニン等を含む固体と6炭糖を含む液体とに分離する固液分離工程と、この固液分離工程において分離された未糖化セルロース、ヘミセルロース、リグニン等を含む固体を加圧熱水処理する熱水処理工程と、この熱水処理工程において排出される未溶解セルロースを含む固体、およびリグニン、ヘミセルロースを溶解した液体を酵素糖化して糖類を含む糖液に酵素分解する第2酵素糖化工程を経るセルロース系バイオマス原料を用いた糖液の製造方法である。
【0017】
本発明の請求項2に係る発明は、微粉のサイズが1mm以下であるセルロース系バイオマス原料を反応温度150〜180℃、滞留時間60分以下の条件で加圧熱水処理する熱水処理工程と、この熱水処理工程において排出される未溶解セルロースを含む固体、およびリグニン、ヘミセルロースを溶解した液体を酵素糖化して糖類を含む糖液に酵素分解する酵素糖化工程を経るセルロース系バイオマス原料を用いた糖液の製造方法である。
【0018】
本発明の請求項3に係る発明は、セルロース系バイオマス原料の微粉を酵素糖化する第1酵素糖化装置と、この第1酵素糖化装置から排出される未糖化セルロース、ヘミセルロース、リグニン等を含む固体と6炭糖を含む液体とに分離する第1固液分離装置と、この第1固液分離装置により分離された未糖化セルロース、ヘミセルロース、リグニン等を含む固体を加圧熱水処理する熱水処理装置と、この熱水処理装置から排出される未溶解セルロースを含む固体とリグニン、ヘミセルロースを溶解した液体とに分離する第2固液分離装置と、この第2固液分離装置によって分離した固体中のセルロースを酵素糖化して6炭糖を含む糖液に酵素分解する第2酵素分解装置を具備するセルロース系バイオマス原料を用いた糖液の製造装置にある。
【0019】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項3の発明において、第2の固液分離装置により分離のリグニン、ヘミセルロースを溶解した液体中のヘミセルロース成分を酵素処理して5炭糖を含む糖液に分解する第3酵素分解装置を具備するバイオマス原料を用いた糖液の製造装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、セルロース系バイオマスを簡易な粉砕装置により微粉砕、酵素糖化し、さらに未糖化バイオマスを150℃〜180℃で、10〜60分間、熱水処理した後、酵素糖化することにより、セルロース系バイオマス資源の種類にかかわらず、6炭糖の糖化率を安定的に向上させるができる。また、その糖液を既存のバイオエタノール製造プラントに供給することによりバイオエタノール製造に係わる原料の多様化、およびコスト低減の効果を奏することができる。
【0021】
熱水処理条件が緩和なために、ヘミセルロース成分の過分解が抑制され、結果的に5炭糖成分を効率よく回収することができ、5炭糖の有効活用に資するという効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のセルロース系バイオマス原料を用いた糖液の製造装置および方法の実施形態を示す概念図である。
【図2】微粉の酵素糖化反応時間とグルコース生成量との関係に係わる実験の結果を示す図である。
【図3】熱水処理をした微粉の酵素糖化反応時間とグルコース生成量との関係に係わる実験の結果を示す図である。
【図4】熱水処理条件(温度と滞留時間)とグルコース生成量との関係に係わる実験の結果を示す図である。
【図5】微粉の酵素糖化のpH条件と糖類生成量との関係に係わる実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
本発明の実施形態に係るセルロース系バイオマス原料を用いた糖液製造装置は、図1に示すように、微粉砕バイオマス原料10(この実施形態では、例えば、EMPLTY FRUIT BUNCH(EFB)等)を水11と混合し、第1酵素分解装置21において酵素糖化し、第1固液分離装置31に移し、未糖化セルロース、ヘミセルロース、リグニン等を含む固体61と6炭糖を含む液体63に分離する。固体61を水11に混合し、熱水処理装置41に移して加圧熱水処理をする。熱水処理後、第2固液分離装置32に移し、未溶解セルロースを含む固体62とリグニン、ヘミセルロースを溶解した液体64に分離する。固体62は、第2酵素分解装置22によって酵素糖化し、6炭糖類13を得る。液体64は、第3酵素分解装置51における酵素糖化により5炭糖類14を得る。
【0025】
ここで、この実施形態においては、図3に示すように、6炭糖類13の溶媒中のグルコース(6炭糖)含有比率は、90%以上である。また、図2に示すように、液体63の溶媒中のグルコース(6炭糖)含有比率は65%以上であるが、その液体63を6炭糖類12として得ても良いが、この液体を6炭糖を含む酵素溶液、液体65とし第2の酵素分解装置22に注入しても良い。
【0026】
上記セルロース系バイオマス原料10としては、粒径は特に限定されるものではないが、0.5mm以下に粉砕することが好ましい。この実施形態においては、EFBを市販のカッターにより数mm程度に一次粉砕し、さらに気流式粉砕機により0.5mm以下に微粉砕した。0.5mm以下に微粉砕できればいかなる粉砕形式の粉砕装置でも採用できる。
【0027】
図4に示すように、熱水処理装置41における、反応温度は150〜180℃の範囲とするのが好ましく、さらに好ましくは160〜175℃とすることがよい。これは、150℃未満の低温では、熱水分解速度が小さく、長い分解時間が必要となり、装置の大型化につながり、好ましくないからである。一方200℃を超える温度では、分解速度が過大となり、セルロース成分が溶解し、固体から液体側への移行量が増大するとともに、ヘミセルロース系糖類の過分解が促進されて、好ましくないからである。また、ヘミセルロース、およびリグニン成分は、約140℃付近から、セルロースは約230℃付近から溶解するが、セルロースを固形分側に残し、かつヘミセルロース成分およびリグニン成分が十分な分解速度を持つ165℃〜175℃の範囲とするのがよいからである。
【0028】
反応圧力は、本体内部が加圧熱水の状態となる、各温度の水の飽和蒸気圧にさらに0.1〜0.3MPa高い圧力とするのが好ましい。また、図4に示すように、反応時間は20〜30分間とするのが好ましい。これはあまり長く反応を行うと過分解物の割合が増大し、好ましくないからである。
【0029】
上記第1酵素分解装置21においては、図2に示すように、酵素分解時間は24時間以下、好ましくは6〜8時間にすることが望ましい。
【0030】
上記第2酵素分解装置22においては、図3に示すように、酵素分解時間は48〜96時間が望ましい。
【0031】
上記第1酵素分解装置21および第2の酵素分解装置22においては、図5に示すように、酵素活性化の最適pHはpH4.5〜6.5が望ましい。
【0032】
ここで、供給するバイオマス原料と加圧熱水との重量比は、この実施形態においてはEFBを1、加圧熱水5であるが、好ましくは1:1〜1:5とするのが好ましい。
【0033】
本発明によると、容易に酵素糖化できる部分を酵素糖化し、残存する未糖化セルロースを含むバイオマスを緩和な条件で熱水分解装置を用いることにより、セルロース(酵素糖化により6炭糖液となる)以外の反応物(リグニン成分、ヘミセルロース成分)を溶解させ、加圧熱水中に移行させることにより分離し、セルロース主体のバイオマス固形分を得ることができる。その結果、容易に酵素糖化したセルロースを含めセルロースを効率よく糖化させて、溶媒中のグルコース(6炭糖)含有比率が90%以上である6炭糖の糖液を効率よく製造することができる。
【0034】
本発明によると、緩和な条件で熱水分解装置を用いることにより、ヘミセルロース成分の過分解が抑制され、結果的に5炭糖成分が効率よく回収することができる。
【0035】
ここで、糖液を基点とした化成品としては、各種有機原料、例えばアルコール類、石油製品、またはアミノ酸類等を挙げることができる。よって、バイオマス由来の糖液が枯渇燃料である原油由来の化成品の代替品製造の原料となる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上で説明したように、本発明に係る方法および装置によると、セルロース系バイオマス原料から効率的な糖液の製造を行うとともに、当該糖液を基点として、各種有機原料(例えばアルコール類、石油代替品類、またはアミノ酸類等)を効率よく製造することができる。
【符号の説明】
【0037】
10 微粉砕バイオマス原料
11 水
12、13 6炭糖類
14 5炭糖類
21、22 酵素分解装置
31、32 固液分離装置
41 熱水処理装置
51 酵素分解装置
61、62 固体
63〜65 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系バイオマス原料の微粉を酵素糖化する第1酵素糖化工程と、
該第1酵素糖化工程において排出される未糖化セルロース、ヘミセルロース、リグニン等を含む固体と6炭糖を含む液体とに分離する固液分離工程と、
該固液分離工程において分離された未糖化セルロース、ヘミセルロース、リグニン等を含む固体を加圧熱水処理する熱水処理工程と、
該熱水処理工程において排出される未溶解セルロースを含む固体、およびリグニン、ヘミセルロースを溶解した液体を酵素糖化して糖類を含む糖液に酵素分解する第2酵素糖化工程を経ることを特徴とするセルロース系バイオマス原料を用いた糖液の製造方法。
【請求項2】
微粉のサイズが1mm以下であるセルロース系バイオマス原料を反応温度150〜180℃、滞留時間60分以内の条件で加圧熱水処理する熱水処理工程と、
該熱水処理工程において排出される未溶解セルロースを含む固体、およびリグニン、ヘミセルロースを溶解した液体を酵素糖化して糖類を含む糖液に酵素分解する酵素分解工程を経ることを特徴とするセルロース系バイオマス原料を用いた糖液の製造方法。
【請求項3】
セルロース系バイオマス原料の微粉を酵素糖化する第1酵素糖化装置と、
該第1酵素糖化装置から排出される未糖化セルロース、ヘミセルロース、リグニン等を含む固体と6炭糖を含む液体とに分離する第1固液分離装置と、
該第1固液分離装置において分離した固体を加圧熱水処理する熱水処理装置と、
該熱水処理装置から排出される未溶解セルロースを含む固体とリグニン、ヘミセルロースを溶解した液体とに分離する第2固液分離装置と、
該第2固液分離装置により分離された固体中のセルロースを酵素糖化して6炭糖を含む糖液に酵素分解する第2酵素分解装置を具備することを特徴とするバイオマス原料を用いた糖液の製造装置。
【請求項4】
第2の固液分離装置により分離されたリグニン、ヘミセルロースを溶解した液体中のヘミセルロース成分を酵素処理して5炭糖を含む糖液に分解する第3酵素分解装置を具備することを特徴とする請求項3に記載のバイオマス原料を用いた糖液の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−95576(P2012−95576A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244868(P2010−244868)
【出願日】平成22年10月31日(2010.10.31)
【出願人】(510291242)バダン プンカジアン ダン プヌラパン テクノロジ (1)
【氏名又は名称原語表記】Badan Pengkajian dan Penerapan Teknologi
【住所又は居所原語表記】BPPT Building 2, 16th Floor, Jalan M.H.Thamrin No.8, Jakarta 10340, Indonesia
【出願人】(509297989)
【Fターム(参考)】