説明

セルロース系フィルムの製造方法

【課題】
本発明は、連続で走行する長尺かつ幅広なセルロース系フィルムに、エキシマ紫外線による表面処理を施すことで、ポリビニルアルコールからなる層との間の密着性の向上を図ることができるセルロース系フィルムの製造方法を提供することが求められていた。
【解決手段】
セルロース系フィルムの少なくとも一方の面上に、キセノン分子が励起した際に発生する172nmの波長のエキシマ紫外線で代表される490kJ/mol以上の高エネルギーな光もしくは活性種を照射する表面処理工程を有することを特徴とするセルロース系フィルムの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続で走行する長尺かつ幅広なセルロース系フィルムを支持体とした場合、該支持体とポリビニルアルコールからなる層との間の密着性の向上させるための表面改質をするセルロース系フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系フィルムを支持体とし、その表面に機能層を設けたり、該機能層の表面にさらに他の機能層を積層したりすることで作製される、いわゆる光学フィルムの製造において、該支持体にポリビニルアルコールからなる機能層を設ける際、または、ポリビニルアルコールを主成分とした接着層を介して、機能層を積層する際、セルロース系フィルムとポリビニルアルコールの密着性が悪いため、問題となることが多い。
【0003】
具体的には、液晶ディスプレイに使用される偏光板用の保護フィルムとして用いられるセルロース系フィルムに、ヨウ素や染料を吸着配向させたポリビニルアルコールフィルムを貼り合わせた偏光板の場合、保護フィルムとポリビニルアルコールフィルムとの密着性の向上が問題となる。
【0004】
そのため、従来から積層又は密着させる面を強アルカリ液に浸漬させ、鹸化処理することで表面を親水化させ、密着性を向上させることが図られてきた。例えば、特許文献1のように、セルロース系上に光学異方性層を積層する際、密着性を改良するために、セルロース系を鹸化処理することが効果的であることが知られており、一般的に用いられている。
【0005】
また、密着性を向上させる手法として、コロナ処理面あるいはUVオゾン処理がある。例えば、特許文献2のように、偏光子保護フィルムと偏光子フィルムとの密着性を向上させるために、コロナ処理あるいはUVオゾン処理を施すことが知られている。
【0006】
さらに、特許文献3のように、フッ素樹脂表面を低温プラズマ処理した後、エキシマレーザー光又はArFエキシマレーザー光照射処理に付すことを特徴とする表面改質法が知られている。
【特許文献1】特開平8−94838号公報
【特許文献2】特開2002−328224号公報
【特許文献3】特開平6−220228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、アルカリ処理に関しては、大量に薬液を使用するため、廃液等の環境負荷が大きく、高濃度のアルカリ溶液を使用することによる安全面での問題、独立した大型の設備が必要となるため、工程が複雑化するという欠点がある。
【0008】
また、特に光学フィルム用途においては、ウェット処理であるため、乾燥工程での水シミの発生や、アルカリ溶液で反応したNaや塩などの、パーティクル(不純物)が発生し、フィルムに異物が付着することによる外観不良の発生や高速化が困難である等の問題を抱えていた。
【0009】
一方、UVオゾン処理あるいはコロナ処理による表面処理は、アルカリ処理のような環境・安全面での問題や工程の複雑化といった問題は比較的少ない。しかしながら、UVオゾン処理に関しては処理時間が遅く、コロナ処理に関しては、高速走行処理は可能だが、効果が弱いという欠点がある。
【0010】
また、低温プラズマ処理した後エキシマレーザー光又はArFエキシマレーザー光照射処理減圧下での処理をする場合、低温プラズマ処理については真空雰囲気下で行うため大きい装置が必要となり、レーザー光による処理は、均一処理が難しい。また、どちらも連続して走行する長尺かつ幅広なフィルムを均一に処理するには不向きである。
【0011】
従って、本発明は、連続で走行する長尺かつ幅広なセルロース系フィルムに、エキシマ紫外線による表面処理を施すことで、ポリビニルアルコールからなる層との間の密着性の向上を図ることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記課題を鑑みてなされたものであって、走行する長尺かつ幅広なセルロース系フィルムとポリビニルアルコールを主成分からなる機能層、又は、ポリビニルアルコールからなる接着層を介して貼り合せた機能層との間の密着性を向上させるために、より簡略化された設備で、かつ連続して均一な表面改質を高速で行うことを目的とするものである。
【0013】
請求項1記載の発明は、セルロース系フィルムの少なくとも一方の面上に、490kJ/mol以上の高エネルギーな光を照射、および前記光の照射により発生した活性種を照射する表面処理工程を有することを特徴とするセルロース系フィルムの製造方法である。
【0014】
この場合の活性種とは、反応性の高い分子や原子、具体的にはラジカルやイオンなどのことを示し、酸素などの反応性気体に高エネルギーな光を照射し、電離や励起などにより発生するものである。
【0015】
なお、高エネルギーな光の他に、高エネルギーな熱や電気の使用が可能であるが、フィルムダメージが発生するため、セルロース系フィルムの製造には不向きである。
【0016】
請求項2記載の発明は、前記表面処理工程における490kJ/mol以上の高エネルギーな光が、キセノン分子が励起した際に発生する172nmの波長のエキシマ紫外線であることを特徴とする請求項1に記載のセルロース系フィルムの製造方法である。
【0017】
請求項3記載の発明は、前記表面処理工程が、
窒素90%以上であり、かつ、窒素に対する酸素およびオゾン、水蒸気からなるガスを少なくとも1種類以上含んだ反応性ガスの混合比が0.5%以上10%以下である雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロース系フィルムの製造方法である。
【0018】
請求項4記載の発明は、前記表面処理工程が、
窒素97%以上ある雰囲気下で行われた後、窒素に対する酸素およびオゾン、水蒸気からなるガスを少なくとも1種類以上含んだ反応性ガスの混合比が5%以上の雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセルロース系フィルムの製造方法である。
【0019】
請求項5記載の発明は、前記表面処理工程を行った後、該セルロース系フィルムの表面
処理を行った面上にポリビニルアルコールを主成分とする化合物を積層する工程を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のセルロース系フィルムの製造方法である。
【0020】
請求項6記載の発明は、前記ポリビニルアルコールを主成分とする化合物が、シート状、あるいは、水やアルコール等からなる溶媒に溶融させた状態のポリビニルアルコール単体、あるいは、色素、架橋を促進するための添加物を含んだものであることを特徴とする請求項5に記載のセルロース系フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法を用いることにより、490kJ/mol以上の高エネルギーな光を照射、および前記光の照射により発生した活性種を照射することにより、結合状態の切断や、酸素などの反応性気体をラジカルやオゾン等のより反応性の高い状態に分解して表面に官能基を付与するものである。
【0022】
従って、走行する長尺かつ幅広なセルロース系フィルムとポリビニルアルコールを主成分とした偏光板層、あるいは、ポリビニルアルコールからなる接着層を介して貼り合せた機能層との間の密着性を、より簡略化された設備で、かつ連続して均一な表面改質を高速で行うことで向上させるという効果を発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
走行する長尺かつ幅広なセルロース系フィルムとポリビニルアルコールからなる偏光板層、あるいは、ポリビニルアルコールからなる偏光板フィルムとの接着層との間の密着性を向上させるためには、次のような実施形態で表面処理を行うのがよい。
【0024】
処理基材1としてはセルロース系フィルムを使用する。セルロース系フィルムの種類としては多様であるが、具体的には、偏光板の保護フィルムとして用いられるトリアセチルセルロースフィルムなどが挙げられる。このセルロース系フィルムには、可塑剤や紫外線吸収剤、劣化防止剤等の添加物が含まれても良く、また、このフィルムの酢化度は問わない。
【0025】
また、このセルロース系フィルム1の処理面の裏面には、ハードコート層や反射防止層、防眩層、帯電防止層、防汚層などの機能層を設けても良い。
【0026】
上記のセルロース系フィルム1からなるプラスチックフィルム面上に、490kJ/mol以上の高エネルギーな光や活性種を照射することにより、基材表面の表面改質を行う。この表面改質は、主に次の2つの反応による。結合状態を切断する工程、および酸素などの反応性気体をラジカルやオゾン等のより反応性の高い状態に分解して、表面に官能基を付与する工程の少なくとも2つの工程を含む表面改質方法であり、ポリビニルアルコールを主成分とした化合物との密着性を強くすることができる。
【0027】
この490kJ/mol以上のエネルギーを持つ処理をセルロース系フィルムに施すことにより、セルロース系フィルムの表面に、水酸基やカルボキシル基、ケトン基、アルデヒド基などの、親水性の官能基が付与する表面処理層2が形成されることで、ポリビニルアルコールを主成分とした化合物との密着性を強くすることができる。特に、好ましい官能基としては、水酸基である。
【0028】
この490kJ/mol以上の処理としては、紫外線処理や大気圧プラズマ処理等が挙げられるが、物理的かつ熱的にフィルムダメージが少なく、より効率的に酸素を処理表面に導入することができるため、エキシマ紫外線を用いることが好ましい。エキシマ紫外線
の波長は172nmであり、酸素から効率よく酸素ラジカルを生成するため、効率的に処理表面の酸素含有率を高めることが可能となる。
【0029】
さらに効率よく酸素ラジカルを生成させるために、窒素、不活性ガス、酸素、オゾン、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、過酸化水素のうち1種又は2種以上のガスを入れるとよい。好ましくは、紫外線吸収の少ない窒素を90%以上含んだ雰囲気下と、改質効果の高い酸素を含んだ雰囲気がよい。
【0030】
更には、第一工程として、主に、被処理表面の結合を切断する工程として、窒素97%以上の雰囲気下で処理をした後に、第二工程として、結合を切断する工程と表面に官能基を付与する工程の二工程を含む処理である、窒素に対する酸素およびオゾン、水蒸気からなるガスを少なくとも1種類以上含んだ反応性ガスの混合比が5%以上の雰囲気下で紫外線照射処理を施すことで、より高速な表面改質を望むことが可能である。
【0031】
これらの処理は、ドライ雰囲気下で物理的なフィルムダメージの極めて少ない処理を行えるため、ウェット工程や放電処理で発生するような、水シミや放電痕のような外観不良がなく、薬液の分解成分や塩、処理基材起因のパーティクルからなる異物の発生も抑えて、更には、熱収縮や浸食することない極めてクリーンで平滑性に優れた処理を可能にする。
【0032】
これらの処理したセルロース系フィルムは、ポリビニルアルコールを主成分とする化合物と貼り合わされる。このポリビニルアルコールからなる層3は、フィルム状で貼り合せても、溶液状で塗布して貼り合せても良い。また、フィルム状と溶液状の積層でも良く、更に、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ素、二色性染料などの色素、ホウ酸などの架橋剤や接着剤などの添加剤を含んでも良い。
【0033】
これらのポリビニルアルコール層3の両面に保護層としてセルロース系フィルム1を貼り合せることで、偏光フィルムは形成される。
【0034】
続いて、実施例を交えて、処理手順を説明する。
【実施例1】
【0035】
透明基材フィルムに厚さ80μmのトリアセチルセルロース(富士写真フィルム社製:FT−TD80UZ)を用い、ポリビニルアルコール層との密着層側表面に、窒素濃度95%、酸素濃度5%の雰囲気下でエキシマ紫外線を照射させた。
【0036】
エキシマ紫外線処理は、UEEX503(岩崎電気(株)社製)を用い、大気中でランプ照射面とフィルムとの距離を2mmに設定した。また、フィルムの搬送速度を1.5m/minとした。
【0037】
処理後のフィルムの間に、ポリビニルアルコール(クラレ社製:PVA−117)を濃度5%の水溶液を介して、色素を吸着させ延伸させたポリビニルアルコール(クラレ製 KL−318)層とラミネートし、100℃で加熱乾燥させた。
【実施例2】
【0038】
窒素雰囲気98%以上の雰囲気で紫外線照射を行い、その後、大気雰囲気下において、紫外線照射を行った以外は、実施例1と同様の処理を施した。それぞれの処理時のフィルムの搬送速度は3.0m/minとした。
【実施例3】
【0039】
(比較例1)
40℃の1.5N−NaOH溶液にフィルムを5分間浸漬し、その後、水洗し乾燥したトリアセチルセルロースフィルムに、実施例1と同様にポリビニルアルコール層をラミネートした。
【実施例4】
【0040】
(比較例2)
トリアセチルセルロースフィルムに、コロナ放電処理を施した後に、実施例1と同様に実施例1と同様にポリビニルアルコール層をラミネートした。
【実施例5】
【0041】
(比較例3)
未処理のトリアセチルセルロースフィルムに、実施例1と同様にポリビニルアルコール層をラミネートした。
【0042】
実施例及び比較例で作製したラミネートフィルムの評価方法としては以下の方法を用いた。
【0043】
作成したラミネートフィルムの、外観不良の有無を調べた。更に、耐久試験として、高温高湿雰囲気である、温度60°湿度90%Rh環境下で500h放置した後の剥離状態を調べた。
【0044】
なお、この場合の外観不良の有無は、○がなし、△が少ない、×が多いことを表し、耐久試験の結果は、○が剥がれない、△が剥がれにくい、×が簡単に剥がれることを示す。
【0045】
【表1】

以上の結果から、セルロース系からなるフィルムのポリビニルアルコール層を積層する表面に、エキシマ紫外線処理を行うことで、該機能層に積層する他の機能層との密着性が向上することを見出した。また、アルカリ処理と同程度の密着性を得られることから、アルカリ処理のもつ環境負荷や安全面での問題を解消でき、より簡略化された設備でかつ連続して均一な表面改質を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】光学フィルムの一例である。
【符号の説明】
【0047】
1…セルロース系フィルム
2…表面処理層
3…ポリビニルアルコール層
4…光学フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系フィルムの少なくとも一方の面上に、490kJ/mol以上の高エネルギーな光を照射、および前記光の照射により発生した活性種を照射する表面処理工程を有することを特徴とするセルロース系フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記表面処理工程における490kJ/mol以上の高エネルギーな光が、キセノン分子が励起した際に発生する172nmの波長のエキシマ紫外線であることを特徴とする請求項1に記載のセルロース系フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記表面処理工程が、
窒素90%以上であり、かつ、窒素に対する酸素およびオゾン、水蒸気からなるガスを少なくとも1種類以上含んだ反応性ガスの混合比が0.5%以上10%以下である雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロース系フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記表面処理工程が、
窒素97%以上ある雰囲気下で行われた後、窒素に対する酸素およびオゾン、水蒸気からなるガスを少なくとも1種類以上含んだ反応性ガスの混合比が5%以上の雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセルロース系フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記表面処理工程を行った後、該セルロース系フィルムの表面処理を行った面上にポリビニルアルコールを主成分とする化合物を積層する工程を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のセルロース系フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコールを主成分とする化合物が、シート状、あるいは、水やアルコール等からなる溶媒に溶融させた状態のポリビニルアルコール単体、あるいは、色素、架橋を促進するための添加物を含んだものであることを特徴とする請求項5に記載のセルロース系フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−50429(P2008−50429A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226306(P2006−226306)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】