説明

セルロース系不織布及びその製造方法並びにセパレータ

【課題】ナノファイバーを用いても、透気性を向上できるセルロース系不織布を提供する。
【解決手段】セルロースナノファイバー7と、このセルロースナノファイバーよりも平均繊維径の大きいスペーサ繊維とを組み合わせて不織布を調製する。この不織布は、セルロースナノファイバー及びスペーサ繊維を含む水スラリーを、有機溶媒で置換することなく、湿式抄紙して得られる不織布であってもよい。前記スペーサ繊維は平均繊維径2μm以下のポリオレフィン繊維であってもよい。前記セルロースナノファイバーは植物由来であってもよい。前記セルロースナノファイバーの平均繊維径は100nm未満であり、かつ平均繊維径に対する平均繊維長の比は1500以上であってもよい。不織布は、厚みが20μm以下であってもよいし、不織布は、有機溶媒を含有しなくてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーを含み、かつ透気性が改良された不織布及びその製造方法並びにセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、セルロース繊維で構成された不織布は、サイズ剤や紙力増強剤などを添加し、紙として印刷用紙や書籍などに利用されてきたが、気体や液体などに対する透過性を利用して、フィルターや蓄電素子のセパレータなどにも利用されている。特に、セルロース繊維が耐熱性及び電解液の濡れ性に優れるため、電池、コンデンサ、キャパシタなどの蓄電素子のセパレータとしての利用も活発化している。さらに、近年では、電気・電子機器の小型化などにより、薄肉化が要求され、ナノメータサイズの繊維径を有するセルロース繊維(セルロースナノファイバー)が使用されている。しかし、セルロースナノファイバーで形成された不織布は、緻密となり、ろ過性能などが向上する反面、透気度(特定量の空気が通過するの要する時間)が大きくなる傾向がある。特に、水中でミクロフィブリル化されたセルロースナノファイバーは、叩解により水を介して水和性の高い繊維同士が絡み合い、近接するとともに、乾燥により繊維同士が水素結合を形成して密着する。そのため、ミクロフィブリル化セルロースナノファイバーを含む水スラリーを抄紙してシート化又は乾燥すると、強く収縮し、得られる不織布の透気性は小さくなる。
【0003】
セルロースナノファイバー不織布の透気性を向上させる方法として、特許第3805851号公報(特許文献1)には、繊維径1μm以下の微細なセルロースを原料とするセパレータの製造方法において、セルロース繊維間の空隙構造に保持された水を溶媒置換した後、乾燥することにより、湿紙に存在する空隙構造が保持され、多孔質で低密度であるとともに気密度が高いセパレータを得る方法が開示されている。この文献の実施例では、パルプをディスクリファイナーで叩解して、微細セルロースを調製している。
【0004】
また、特許第4628764号公報(特許文献2)には、最大繊維太さが1000nm以下であるセルロース繊維からなる蓄電デバイス用セパレータの製造方法として、微細セルロース繊維を水等の分散媒体へ高度に分散させた分散液を抄紙法や塗布法により製膜する方法や、静置培養により得られたバクテリアセルロースのゲルを乾燥させる方法において、乾燥の際に、水又は水が主体の分散媒体に対して、より疎水性の有機溶媒に置換した後に乾燥させる方法が開示されている。この文献の実施例では、超高圧ホモジナイザーを用いて、圧力175MPaで分散処理し、セルロースナノファイバーを調製している。
【0005】
さらに、特開2008−274525号公報(特許文献3)には、ナノメータサイズの微細セルロース繊維不織布の製造方法として、溶液中に微細セルロース繊維が分散した分散液を抄紙法により湿紙を製膜する抄紙工程と、脱水工程と、有機溶媒又は水と有機溶媒との混合溶媒で置換する置換工程と、乾燥工程とを経る方法が開示されている。
【0006】
しかし、これらの方法では、溶媒置換を行うために工程が複雑となり、大量のエネルギーが必要である。さらに、環境に対する負荷も大きい上に、特定の透気度を有するセルロースナノファイバーの抄紙体を工業的に量産できない。また、特許文献1では、セルロース原料をディスクリファイナーで叩解しているため、繊維が極細化の程度が低く、孔径の大きい部分が発生し、電池セパレータとして利用すると短絡し易い。さらに、特許文献2では、ミクロフィブリル化セルロースは、100MPaを超える高圧でホモジナイズしているため、生産性が低下するだけでなく、繊維のアスペクト比も小さくなり、セパレータの強度が低下する。
【0007】
特開2010−97700号公報(特許文献4)には、正極と金属リチウム又はリチウム合金からなる負極とがセパレータを介して対向配置された非水電解液二次電池であって、前記セパレータは最大繊維径が50nmより小さいセルロースナノ繊維から形成されている非水電解液二次電池が開示されている。この文献には、セルロースナノ繊維としては、バクテリアセルロース、N−オキシル化合物で酸化されたセルロースが記載されている。
【0008】
しかし、この文献のセパレータでも透気性は十分ではない。さらに、酸化触媒を用いたセルロースでは、生産性が低い上に、アスペクト比が小さく、密に充填され易くなるため、空隙の形成が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3805851号公報(特許請求の範囲、段落[0026]、実施例)
【特許文献2】特許第4628764号公報(請求項1、段落[0046]、実施例)
【特許文献3】特開2008−274525号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2010−97700号公報(請求項1、段落[0015]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、ナノファイバーを用いても、透気性を向上できるセルロース系不織布及びその製造方法並びにセパレータを提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、環境に対する影響及び生産性を向上でき、かつ透気性も向上できるセルロース系不織布及びその製造方法並びにセパレータを提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、薄肉であっても、透気性と機械的強度とを両立できるセルロース系不織布及びその製造方法並びにセパレータを提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、耐熱性が高く、かつ電気化学的に安定なセルロース系不織布及びその製造方法並びにセパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、セルロースナノファイバーと、このセルロースナノファイバーよりも平均繊維径の大きいスペーサ繊維とを組み合わせることにより、ナノファイバーを用いても、不織布の透気性を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明の不織布は、セルロースナノファイバー及びスペーサ繊維(又は繊維状スペーサ)を含む不織布であって、前記スペーサ繊維の平均繊維径が前記セルロースナノファイバーの平均繊維径よりも大きい。この不織布は、前記セルロースナノファイバー及び前記スペーサ繊維を含む水スラリーを、有機溶媒で置換することなく、湿式抄紙して得られる不織布であってもよい。前記スペーサ繊維は平均繊維径2μm以下のポリオレフィン繊維又は芳香族ポリアミド繊維であってもよい。前記セルロースナノファイバーの平均繊維径と前記スペーサ繊維の平均繊維径との比は、前者/後者=1/2〜1/50程度であってもよい。前記セルロースナノファイバーは植物由来であってもよい。前記セルロースナノファイバーの平均繊維径は100nm未満であり、かつ平均繊維径に対する平均繊維長の比は1500以上であってもよい。前記セルロースナノファイバーは、原料セルロース繊維を溶媒に分散させて分散液を調製する分散液調製工程、破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーで前記分散液を100MPa以下の圧力でホモジナイズ処理するホモジナイズ工程を含む製造方法で得られるファイバーであってもよい。前記セルロースナノファイバーと、前記スペーサ繊維との割合(重量比)は、セルロースナノファイバー/スペーサ繊維=99.9/0.1〜10/90程度である。本発明の不織布は、厚みが20μm以下であってもよい。本発明の不織布は、有機溶媒を含有しなくてもよい。
【0016】
本発明には、前記不織布で形成された蓄電素子用セパレータも含まれる。
【0017】
本発明には、セルロースナノファイバー及びスペーサ繊維を抄紙する抄紙工程を含む前記不織布の製造方法も含まれる。この製造方法において、前記抄紙工程は、セルロースナノファイバー及びスペーサ繊維を含む水スラリーを湿式抄紙する工程であり、かつ前記水スラリーの水を有機溶媒で置換する工程を含まない方法であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、セルロースナノファイバーと、このセルロースナノファイバーよりも平均繊維径の大きいスペーサ繊維とを組み合わせているためり、ナノファイバーを用いても、不織布の透気性を向上できる。また、セルロースナノファイバー及びスペーサ繊維を含む水スラリーを、有機溶媒で置換することなく、湿式抄紙することにより、環境に対する影響及び生産性を向上でき、かつ透気性も向上できる。さらに、得られる不織布は、薄肉であっても、透気性と機械的強度とを両立できるとともに、耐熱性が高く、かつ電気化学的にも安定である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、ホモジナイザーを用いて繊維を含む分散液をホモジナイズ処理する工程を示す概略断面図である。
【図2】図2は、破砕型ホモバルブシートとホモバルブとの対向部分の拡大断面図である。
【図3】図3は、破砕型ホモバルブシートの斜視図である。
【図4】図4は、非破砕型ホモバルブシートの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の不織布は、セルロースナノファイバーと、このセルロースナノファイバーよりも平均繊維径の大きいスペーサ繊維とを含む。そのため、前記スペーサ繊維が不織布に適度な空隙を形成できるため、セルロースナノファイバーを用いているにも拘わらず、不織布の透気性を向上できる。
【0021】
[セルロースナノファイバー]
セルロースナノファイバーとしては、β−1,4−グルカン構造を有する多糖類である限り、特に制限されず、高等植物由来のセルロース繊維[例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然セルロース繊維(パルプ繊維)など]、動物由来のセルロース繊維(ホヤセルロースなど)、バクテリア由来のセルロース繊維、化学的に合成されたセルロース繊維[セルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどの有機酸エステル;硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロースなどの無機酸エステル;硝酸酢酸セルロースなどの混酸エステル;ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロースなど);カルボキシアルキルセルロース(カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロースなど);アルキルセルロース(メチルセルロース、エチルセルロースなど);再生セルロース(レーヨン、セロファンなど)などのセルロース誘導体など]などが挙げられる。なお、天然の植物由来のセルロース繊維は、ミクロンオーダーであるため、通常、原料セルロース繊維をミクロフィブリル化することにより得られる。これらのセルロースナノファイバーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0022】
なお、前記セルロースナノファイバーは、用途に応じて、α−セルロース含有量の高い高純度セルロース、例えば、α−セルロース含有量70〜100重量%(例えば、95〜100重量%)、好ましくは98〜100重量%程度であってもよい。さらに、本発明では、リグニンやヘミセルロース含量の少ない高純度セルロースを使用することにより、木材繊維や種子毛繊維を使用しても、ナノメータサイズで、かつ均一な繊維径を有するセルロースナノファイバーを調製できる。リグニンやヘミセルロース含量の少ないセルロースは、特に、カッパー価(κ価)が30以下(例えば、0〜30)、好ましくは0〜20、さらに好ましくは0〜10(特に0〜5)程度のセルロースであってもよい。なお、カッパー価は、JIS P8211の「パルプ−カッパー価試験方法」に準拠した方法で測定できる。
【0023】
これらのセルロースナノファイバーのうち、生産性が高く、適度な繊維径及び繊維長を有する点から、植物由来のセルロース繊維、例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)や種子毛繊維(コットンリンターパルプなど)などのパルプ由来のセルロースナノファイバーが好ましい。前記パルプは、機械的方法で得られたパルプ(砕木パルプ、リファイナ・グランド・パルプ、サーモメカニカルパルプ、セミケミカルパルプ、ケミグランドパルプなど)、又は化学的方法で得られたパルプ(クラフトパルプ、亜硫酸パルプなど)などであってもよく、必要に応じて、後述するような叩解(予備叩解)処理された叩解繊維(叩解パルプなど)であってもよい。また、セルロースナノファイバーは、慣用の精製処理、例えば、脱脂処理などが施された繊維(例えば、脱脂綿など)であってもよい。本発明では、原料繊維同士の絡まりを抑制し、ホモジナイズ処理による効率的なミクロフィブリル化を実現し、均一なナノメータサイズの微小繊維を得る観点から、ネバードライパルプ、すなわち乾燥履歴のないパルプ(乾燥することなく、湿潤状態を保持したパルプ)が特に好ましい。ネバードライパルプは、木材繊維及び/又は種子毛繊維で構成されたパルプであり、かつカッパー価が30以下(特に0〜10程度)のパルプであってもよい。このようなパルプは、木材繊維及び/又は種子毛繊維を塩素で漂白処理することにより調製してもよい。
【0024】
セルロースナノファイバーの繊維径は、ナノメータサイズであり、例えば、平均繊維径が4〜1000nm(例えば、5〜500nm)程度の範囲から選択できるが、薄肉化し易い点から、平均繊維径は100nm未満であってもよく、例えば、10〜90nm、好ましくは15〜80nm、さらに好ましくは20〜60nm(特に25〜50nm)程度である。
【0025】
なお、本発明において、前記平均繊維径、繊維径分布の標準偏差、最大繊維径は、電子顕微鏡写真に基づいて測定した繊維径(n=20程度)から算出した値である。
【0026】
セルロースナノファイバーの平均繊維長は10〜3000μm程度の範囲から選択できるが、不織布の機械的特性を向上できる点から、例えば、100〜1000μm、好ましくは110〜500μm、さらに好ましくは120〜300μm(特に130〜200μm)程度であってもよい。さらに、平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)(平均アスペクト比)は1000以上であってもよく、例えば、1500以上(例えば、1500〜15000)、好ましくは2000〜10000、さらに好ましくは2500〜8000(特に3000〜7000)程度である。本発明では、このように、ナノサイズの平均径を有するにも拘わらず、比較的長い繊維長及びアスペクト比を有するセルロースナノファイバーを用いることにより、繊維同士が適度に絡み合うためか、寸法安定性や強度などの機械的特性に優れた樹脂組成物及びシートが得られる。
【0027】
セルロースナノファイバーの横断面形状(繊維の長手方向に垂直な断面形状)は、バクテリアセルロースのような異方形状(扁平形状)であってもよいが、植物由来のナノファイバーの場合、略等方形状が好ましい。略等方形状としては、例えば、真円形状、正多角形状などであり、略円形状の場合、断面の短径に対する長径の比(平均アスペクト比)は、例えば、1〜2、好ましくは1〜1.5、さらに好ましくは1〜1.3(特に1〜1.2)程度である。
【0028】
セルロースナノファイバーの脱水時間は、API規格の脱水量に関する試験方法に準拠して、0.5重量%濃度の繊維スラリーを用いて測定したとき、例えば、1000秒以上であり、好ましくは1200〜10000秒、さらに好ましくは1500〜8000秒(特に1800〜7000秒)程度である。脱水時間が大きいほど、平均繊維長/平均繊維径比の高い繊維形状となり、保水力が高く、少量で機械的特性を向上できる。
【0029】
セルロースナノファイバーは、水に対する分散性が高く、安定な分散液(又は懸濁液)を形成することができる。例えば、セルロース繊維を水に懸濁させて、2重量%濃度にした懸濁液の粘度は、3000mPa・s以上であり、好ましくは4000〜15000mPa・s、さらに好ましくは5000〜10000mPa・s程度である。粘度は、B型粘度計を用いて、ロータNo.4を使用し、60rpmの回転数で、25℃における見かけ粘度として測定される値である。なお、フィブリル化の程度が小さかったり、繊維径が大きいと、水への分散性が低下し、均一な懸濁液が得られず、粘度を測定することができない。
【0030】
[セルロースナノファイバーの製造方法]
セルロースナノファイバーの製造方法としては、特に限定されず、慣用の方法、例えば、原料繊維をミクロフィブリル化する方法、バクテリアを用いる方法などを利用できる。これらの方法のうち、生産性などの点から、原料繊維(特に植物由来の原料繊維)をミクロフィブリル化する方法が好ましい。
【0031】
原料繊維をミクロフィブリル化する方法としては、原料繊維を溶媒に分散させて分散液を調製する分散液調製工程、破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーで前記分散液をホモジナイズ処理するホモジナイズ工程を含む製造方法が挙げられる。本発明では、特に、以下に示す製造方法により原料セルロース繊維をミクロフィブリル化することにより、前述の細くて均一な繊維径を有し、かつ適度な平均アスペクト比を有するセルロース繊維を調製できる。
【0032】
(分散液調製工程)
原料繊維の平均繊維長は、例えば、0.01〜5mm、好ましくは0.03〜4mm、さらに好ましくは0.06〜3mm(特に、0.1〜2mm)程度であり、通常0.1〜5mm程度である。また、原料繊維の平均繊維径は、0.01〜500μm、好ましくは0.05〜400μm、さらに好ましくは0.1〜300μm(特に0.2〜250μm)程度である。
【0033】
溶媒としては、原料繊維に化学的又は物理的損傷を与えない限り特に制限されず、例えば、水、有機溶媒[アルコール類(メタノール、エタノール、2−プロパノール、イソプロパノールなどC1−4アルカノールなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジC1−4アルキルエーテル、テトラヒドロフランなどの環状エーテル(環状C4−6エーテルなど))、エステル類(酢酸エチルなどアルカン酸エステル)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトンなどのジC1−5アルキルケトン、シクロヘキサノンなどのC4−10シクロアルカノンなど)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン系炭化水素類(塩化メチル、フッ化メチルなど)など]などが挙げられる。
【0034】
これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。また、これらの溶媒のうち、生産性、コストの点から、水が好適であり、必要により、水と水性有機溶媒(C1−4アルカノール、アセトンなど)との混合溶媒を用いてもよい。特に、溶媒として水を用いるとともに、有機溶媒で置換する工程を経ずに製造することにより、生産性が高く、有機溶媒の使用により環境に負荷を与えることなく、不織布を製造できる。
【0035】
ホモジナイズ処理に供する原料繊維は、溶媒中に少なくとも共存した状態であればよく、ホモジナイズ処理に先だって、原料繊維を溶媒中に分散(又は懸濁)させてもよい。分散は、例えば、慣用の分散機(超音波分散機、ホモディスパー、スリーワンモーターなど)などを用いて行ってもよい。なお、前記分散機は、機械的撹拌手段(撹拌棒、撹拌子など)を備えていてもよい。
【0036】
原料繊維の溶媒中における濃度は、例えば、0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜10重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%(特に0.5〜3重量%)程度であってもよい。
【0037】
(ホモジナイズ工程)
ホモジナイズ工程について、図面を参照して説明する。図1は、破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーで前記分散液をホモジナイズ処理する工程を示す概略図であり、図2は、破砕型ホモバルブシートとホモバルブとの対向部分の拡大断面図であり、図3は、破砕型ホモバルブシートの斜視図である。一方、図4は、非破砕型ホモバルブシートの斜視図である。
【0038】
ホモジナイザーは、中空円筒状インパクトリング6と、このインパクトリング6の上流側に挿入して配設されたホモバルブシート2の中空円筒状凸部2bと、前記インパクトリング6の下流側に、前記中空円筒状凸部2bと対向して挿入された円柱状ホモバルブ5とを備えており、前記中空円筒状凸部2bと前記円柱状ホモバルブ5とは同じ外径を有している。また、中空円筒状凸部2bの下流側の内壁は、下流方向に向かって拡がるテーパー部(傾斜面)2dを有し、中空円筒状凸部2bの下流端は、内径d及び端面の厚みtを有する薄肉のリング状端面2cを形成している。さらに、このリング状端面2cと前記ホモバルブ5と前記インパクトリング6とで小径オリフィス(間隙)4を形成している。
【0039】
本発明では、破砕型ホモバルブシート2を使用することが大きな特徴である。破砕型ホモバルブシート2は、内部に円筒状流路3を有する中空部材であり、流入口3aを有する中空円盤状本体部2aと、この円盤状本体部2aの内壁から下流方向に延出し、かつ流出口3bを有する中空円筒状凸部2bとで構成されている。さらに、破砕型ホモバルブシート2は、前述のように、内径が拡大するテーパー部2dを形成することにより、図4に示す一般的な(通常の)非破砕型ホモバルブシート12と比べて、流出口3bを形成するリング状端面2cの厚みを薄く形成している。
【0040】
このようなホモジナイザーによるホモジナイズ処理では、図1に示すように、原料繊維1を含む分散液は、破砕型ホモバルブシート2の流入口3aからホモバルブシート内の流路3に流入し、流路3を通過した後、小径オリフィス4を通過して、微小繊維7を含む分散液となる。詳しくは、ホモジナイザーによる処理では、高圧でホモジナイザー内を圧送される原料繊維1が、狭い間隙である小径オリフィス4を通過する際に、小径オリフィス4の壁面(特にインパクトリング6の壁面)と衝突することにより、剪断応力又は切断作用を受けて分割され、均一なナノメータサイズの微小繊維7となる。特に、ホモバルブシート内の流路3を通過した分散液がホモバルブシート2とホモバルブ5とで形成された間隙を通過する際に、分散液の流速が急激に上昇するのに伴って、流速の上昇に反比例して分散液の圧送圧力が急激に低下する。そのため、分散液の圧力差を大きくでき、前記間隙を通過した分散液のキャビテーションが激しくなり、小径オリフィス4内での壁面との衝突力の上昇や気泡の崩壊により原料繊維1の均一なミクロフィブリル化を実現していると推測できる。
【0041】
このようなミクロフィブリル化を効果的に行うために、破砕型ホモバルブシートの流出口を形成する壁部の端面の厚み(中空円筒状凸部の下流端のリング状端面)を薄くすることが重要であるが、具体的には、破砕型ホモバルブシートにおける中空円筒状凸部の下流端の内径dと、下流端のリング状端面の厚みtとの比を、前者/後者=100/1〜5/1、好ましくは80/1〜6/1(例えば、50/1〜8/1)、さらに好ましくは30/1〜10/1(特に20/1〜12/1)程度に調整する。両者の比率がこの範囲にあると、ホモバルブシートとホモバルブとの間隙を通過する分散液の圧力の急激な低下を実現でき、原料繊維をナノメータサイズで均一な繊維径に分割できる。流出口を形成する壁部の端面の厚みは、流出口の口径に応じて選択できるが、通常、0.01〜2mm、好ましくは0.05〜1.5mm、さらに好ましくは0.1〜1mm(特に0.2〜0.8mm)程度である。
【0042】
小径オリフィスの間隔又はクリアランス(特に、ホモバルブシート凸部の端面とホモバルブとの間隔)は、例えば、5〜50μm、好ましくは10〜40μm、さらに好ましくは15〜35μm(特に20〜30μm)程度である。
【0043】
このようなホモジナイザーにおいて、小径オリフィスを通過させるための圧力(又はホモジナイザーへ分散液を圧送する圧力(又は処理圧力))は、例えば、10〜200MPa程度の範囲から選択できるが、適度なアスペクト比を有するナノファイバーを形成できる点から、100MPa以下が好ましく、例えば、10〜100MPa、好ましくは20〜80MPa、さらに好ましくは30〜70MPa(特に40〜60MPa)程度であってもよい。本発明では、破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーに対して、このような圧力(特に、100MPa以下)で分散液を圧送することにより、適度な繊維長を有するナノメータサイズの繊維径に分割できる。
【0044】
また、小径オリフィスへの通過と壁面への衝突とを繰り返して行うことにより、前記原料繊維の微小化の程度を適宜調整することができる。小径オリフィスを通過させる処理回数(又はパス回数)は、例えば、5〜100回程度の範囲から選択でき、好ましくは、10〜80回、さらに好ましくは12〜60回程度であってもよい。
【0045】
一般的にホモジナイズ処理において、処理圧力が高すぎたり、処理回数が多すぎると、繊維が大きな剪断力を受け、繊維の切断、ねじれなどが生じ、繊維の特性が失われたり、フィブリル化が進行し、繊維同士の強固な絡み合いが生じるため、繊維の分散性が低下し易い。これに対して、本発明では、破砕型ホモバルブシートを用いることにより、これらの問題を解消できる。特に、原料繊維として、ネバードライパルプを用いると効果的である。
【0046】
ホモジナイズ工程では、非破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーを用いたホモジナイズ処理を組み合わせてもよい。特に、前記破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーによるホモジナイズ処理(特に60MPa以上の高圧処理)の前工程(予備工程)として、非破砕型ホモジナイザーを備えたホモジナイザーを用いてホモジナイズ処理してもよい。ホモジナイズ工程において、非破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーで前処理することにより、破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーでの処理効率を向上できる。
【0047】
非破砕型ホモバルブシートでは、図4に示されるように、通常、ホモバルブシート12の中空円盤状本体部12aから延出する中空円筒状凸部12bの内壁にはテーパ部が形成されておらず、ホモバルブシートにおける中空円筒状凸部の下流端の内径と、下流端のリング状端面の厚みとの比は、通常、前者/後者=3/1〜1/1(特に2.5/1〜1.5/1)程度である。
【0048】
非破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーにおいて、小径オリフィスを通過させるための圧力(又はホモジナイザーへ分散液を圧送する圧力(又は処理圧力))は、例えば、30〜100MPa、好ましくは35〜80MPa、さらに好ましくは40〜70MPa程度であってもよい。パス回数は、例えば、10〜40回、好ましくは12〜30回、さらに好ましくは15〜25回程度であってもよい。
【0049】
(リファイナー工程)
本発明では、前記ホモジナイズ工程の前工程(予備工程)として、分散液をリファイナー処理してもよい。
【0050】
リファイナー処理では、ディスクリファイナー(シングルディスクリファイナー、ダブルディスクリファイナーなど)を使用することができる。前記ディスクリファイナーのディスククリアランスは、0.1〜0.3mm、好ましくは0.12〜0.28mm、さらに好ましくは0.13〜0.25mm(例えば、0.14〜0.23mm)程度であってもよい。
【0051】
ディスクの回転数は、特に制限されず、1,000〜10,000rpmの広い範囲から選択でき、例えば、1,000〜8,000rpm、好ましくは1,300〜6,000rpm、さらに好ましくは1,600〜4,000rpm程度であってもよい。
【0052】
前記リファイナー処理では、処理回数(パス回数)は、1〜20回、好ましくは、2〜15回、さらに好ましくは3〜10回(例えば、4〜9回)程度であってもよい。
【0053】
原料繊維の叩解処理の度合いは、ディスククリアランス及びリファイナー処理回数で調節することができる。ディスククリアランスが狭すぎたり、処理回数が多すぎると、原料繊維が大きな剪断力を受け、フィブリル化が進行し、ねじれや表面の荒れが生じ、繊維同士が絡まりやすくなり、リファイナー処理して得られたフィブリル化繊維の分散性が低下する。また、ディスククリアランスが広すぎると、原料繊維に加わる剪断力が小さくなり、未分割部分が残存する。
【0054】
[スペーサ繊維]
スペーサ繊維は、前記セルロースナノファイバーよりも繊維径が大きく、スペーサとして機能して不織布の透気性を向上できればよく、有機繊維、無機繊維のいずれであってもよいが、取り扱い性などの点から、有機繊維が汎用される。有機繊維には、天然繊維(セルロース繊維など)、合成繊維、半合成繊維(アセテート繊維、レーヨン繊維など)などが含まれる。これらのうち、セルロースナノファイバーとの間に適度な空隙を形成し易い点などから、合成繊維が好ましい。合成繊維には、熱硬化性樹脂繊維、熱可塑性樹脂繊維が含まれる。
【0055】
熱硬化性樹脂繊維としては、例えば、フェノール系繊維、ポリイミド系繊維、ポリアミドイミド系繊維、ポリベンゾイミダゾール系繊維、ポリウレタン系繊維などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0056】
熱可塑性樹脂繊維としては、例えば、ポリオレフィン繊維、アクリル系繊維、ビニル系繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリカーボネート繊維、ポリフェニレンオキシド系繊維、ポリフェニレンスルフィド系繊維などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0057】
これらの合成繊維のうち、フィブリル化が進み易い点から、ポリオレフィン繊維、アクリル系繊維、ポリアルキレンアリレート系繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリフェニレンスルフィド系繊維などの熱可塑性樹脂繊維が好ましい。なかでも、バインダー繊維としての役割も発現でき、透気性及び機械的特性を向上できる点から、ポリオレフィン繊維が特に好ましく、高強度、高耐熱性で、ミクロフィブリル化繊維のアスペクト比を向上できる点から、芳香族ポリアミド繊維が特に好ましい。
【0058】
ポリオレフィン繊維を構成するポリオレフィンは、エチレンやプロピレンなどのC2−6オレフィン単位を含む重合体であればよい。ポリオレフィンとしては、例えば、C2−6オレフィンの単独又は共重合体(ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体などのポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体などのポリプロピレン系樹脂、ポリ(メチルペンテン−1)、プロピレン−メチルペンテン共重合体など)、C2−6オレフィンと共重合性単量体との共重合体(エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体又はその塩(例えば、アイオノマー樹脂)、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などの共重合体が挙げられる。これらのポリオレフィンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリオレフィンのうち、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などが汎用される。ポリエチレン系樹脂を用いることにより、電池やコンデンサのセパレータとして利用した場合にシャットダウン機能を付与してもよい。
【0059】
芳香族ポリアミド繊維には、ジアミンとジカルボン酸とを重合成分とするポリアミドであって、ジアミン成分およびジカルボン酸成分のうち、少なくとも一方の成分が芳香族化合物であるポリアミドや、芳香族アミノカルボン酸を主な重合成分とするポリアミドなどが含まれる。芳香族ポリアミド繊維としては、芳香族ジアミン[例えば、フェニレンジアミン、ジアミノトルエン、キシリレンジアミン、ビフェニレンジアミン、ビス(4−アミノフェニル)エーテル、ビス(4−アミノフェニル)ケトン、ビス(4−アミノフェニル)スルホン、1,4−ナフタレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ビス(4−アミノ−3−エチル)ジフェニルメタン、ビス(4−アミノ−3−メチルフェニル)メタン、2,2′−ビス(4−アミノフェニル)プロパンなど]と、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸など)とから得られる全芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)などが好ましい。アラミド繊維としては、ノメクス繊維、ケブラー繊維、テクノーラ繊維などが上市されている。
【0060】
スペーサ繊維(特にミクロフィブリル化合成繊維)の平均繊維径は2μm以下(例えば、10〜2000nm)程度であり、例えば、10〜1800nm、好ましくは100〜1500nm、さらに好ましくは300〜1200nm(特に500〜1000nm)程度である。
【0061】
セルロースナノファイバーの平均繊維径とスペーサ繊維の平均繊維径との比は、スペーサ繊維の平均繊維径の方が大きければよく、例えば、セルロースナノファイバー/スペーサ繊維=1/1.1〜1/1000程度の範囲から選択でき、例えば、1/1.5〜1/100、好ましくは1/2〜1/50、さらに好ましくは1/3〜1/30(特に1/5〜1/20)程度であってもよい。この比が小さすぎると、薄肉化が困難となり、ピンホールが発生し易くなる。一方、この比が大きすぎると、透気性が低下する。
【0062】
スペーサ繊維(特にミクロフィブリル化合成繊維)の平均繊維長は1〜2000μm程度の範囲から選択できるが、不織布の機械的特性を向上できる点から、例えば、10〜1500μm、好ましくは50〜1000μm、さらに好ましくは100〜800μm(特に150〜600μm)程度であってもよい。
【0063】
セルロースナノファイバーの平均繊維長とスペーサ繊維の平均繊維長との比は、セルロースナノファイバー/スペーサ繊維=10/1〜1/100程度の範囲から選択でき、例えば、5/1〜1/50、好ましくは3/1〜1/10、さらに好ましくは2/1〜1/8(特に1/1〜1/5)程度であってもよい。この比が小さすぎたり、大きすぎると、繊維の絡み合いが弱くなり、不織布の機械的特性が低下する。
【0064】
スペーサ繊維(特にミクロフィブリル化合成繊維)の平均アスペクト比は10以上であり、例えば、10〜10000、好ましくは50〜5000、さらに好ましくは100〜3000(特に200〜1000)程度である。本発明では、このよう繊維長及びアスペクト比を有するため、セルロースナノファイバーとスペーサ繊維又はスペーサ繊維同士が適度に絡み合うためか、不織布の強度を向上できる。
【0065】
なお、本発明において、前記平均繊維径、繊維径分布の標準偏差は、電子顕微鏡写真に基づいて測定した繊維径(n=20程度)から算出した値である。
【0066】
スペーサ繊維の横断面形状(繊維の長手方向に垂直な断面形状)は、等方形状(例えば、真円形状、正多角形状など)であってもよく、異方形状(扁平形状、楕円形状など)であってもよい。略等方形状の場合、断面の短径に対する長径の比(平均アスペクト比)は、例えば、1〜2、好ましくは1〜1.5、さらに好ましくは1〜1.3(特に1〜1.2)程度であってもよい。
【0067】
スペーサ繊維のカナダ標準濾水度(CSF)は、例えば、100〜1000ml、好ましくは150〜900ml、さらに好ましくは200〜800ml程度であってもよい。
【0068】
[スペーサ繊維の製造方法]
スペーサ繊維の製造方法としては、特に限定されず、慣用の方法を利用できるが、原料スペーサ繊維をミクロフィブリル化する方法が好ましい。原料スペーサ繊維の平均繊維長は、0.01〜5mm、好ましくは0.03〜4mm、さらに好ましくは0.05〜3mm(特に、0.1〜2mm)程度であり、通常0.1〜5mm程度である。また、原料スペーサ繊維の平均繊維径は、0.01〜50μm、好ましくは0.05〜40μm、さらに好ましくは0.1〜30μm(例えば、0.2〜25μm)程度である。
【0069】
ミクロフィブリル化の方法は、詳細には、原料繊維を溶媒に分散させて分散液を調製する分散液調製工程、ホモジナイザーで前記分散液をホモジナイズ処理するホモジナイズ工程を含む製造方法により得られる。本発明では、特に、以下に示す製造方法により原料繊維をミクロフィブリル化することにより、平均繊維径2μm以下のスペーサ繊維を調製できる。
【0070】
分散液調製工程は、前記セルロースナノファイバーと同様の方法で分散液を調製できる。
【0071】
ホモジナイズ工程は、前記セルロースナノファイバーと同様の方法でミクロフィブリル化繊維を調製してもよいが、通常、前記セルロースナノファイバーのホモジナイズ処理よりもマイルドな条件でホモジナイズ処理される。
【0072】
具体的には、破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーを用いてミクロフィブリル化する場合、小径オリフィスを通過させる処理回数は、例えば、1〜50回、好ましくは2〜30回、さらに好ましくは3〜20回(特に5〜10回)程度であってもよい。
【0073】
さらに、前記セルロースナノファイバーのホモジナイズ処理において、破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーに代えて、非破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーを用いてもよい。この場合も、小径オリフィスを通過させる処理回数は、例えば、1〜30回、好ましくは2〜20回、さらに好ましくは3〜10回程度であってもよい。
【0074】
他の条件は、通常、前記セルロースナノファイバーのホモジナイズ工程の項で記載された条件で処理できる。
【0075】
スペーサ繊維の製造方法においても、前記ホモジナイズ工程の前工程(予備工程)として、分散液をリファイナー処理してもよい。リファイナー処理としては、前記セルロースナノファイバーの製造方法と同様のリファイナー処理を行ってもよい。
【0076】
なお、セルロースナノファイバー及びスペーサ繊維のいずれもミクロフィブリル化を行う場合、両繊維のミクロフィブリル化はそれぞれ別個に処理する方法、同時に処理する方法のいずれの方法であってもよい。
【0077】
[不織布の特性]
本発明の不織布において、セルロースナノファイバーとスペーサ繊維との割合(重量比)は、前者/後者=99.9/0.1〜1/99程度の範囲から選択でき、例えば、99/1〜10/90、好ましくは98/2〜15/85、さらに好ましくは97/3〜20/80程度である。
【0078】
さらに、両者の割合は用途に応じて適宜選択でき、シャットダウン機能が必要な蓄電素子用セパレータ(特に、電池、コンデンサのセパレータ)では、セルロースナノファイバーとスペーサ繊維(特にポリエチレン系繊維)との割合(重量比)が、前者/後者=70/30〜1/99、好ましくは50/50〜5/95、さらに好ましくは40/60〜10/90(特に30/70〜15/85)程度である。このような割合では、高温で溶融したスペーサ繊維がセパレータの孔を塞ぐことによりシャットダウン機能が発現する。
【0079】
一方、親水性が必要な用途(例えば、水系フィルターなど)では、前者/後者=99.9/0.1〜50/50、好ましくは99.5/0.5〜70/30、さらに好ましくは99/1〜80/20(特に97/3〜90/10)程度である。
【0080】
本発明の不織布は、用途に応じて、慣用の添加剤、例えば、サイズ剤、ワックス、無機充填剤、着色剤、安定化剤(酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤など)、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤などを含有していてもよい。
【0081】
本発明の不織布は、後述するように、水スラリーの水を有機溶媒で置換する工程を含まない方法で製造することにより、実質的に有機溶媒を含有しない不織布であってもよい。
【0082】
本発明の不織布は、機械的特性に優れ、薄肉であっても強度が高く、坪量10g/mにおける引張強度が5N/15mm以上であり、例えば、5〜30N/15mm、好ましくは5.5〜20N/15mm、さらに好ましくは6〜15N/15mm(特に7〜12N/15mm)程度である。
【0083】
本発明の不織布は、前記引張強度を有しているにも拘わらず、透気性にも優れており、坪量1g/mにおける透気度が100秒/100ml以下であり、例えば、1〜50秒/100ml、好ましくは3〜30秒/100ml、さらに好ましくは5〜20秒/100ml(特に8〜18秒/100ml)程度である。
【0084】
本発明の不織布の厚みは20μm以下の薄肉であり、例えば、5〜20μm、好ましくは10〜19μm、さらに好ましくは13〜18μm(特に15〜17μm)程度であってもよい。不織布は、目的に応じて複数の不織布を積層してもよい。
【0085】
本発明の不織布の平均孔径は0.01〜5μmであり、例えば、0.02〜3μm、好ましくは0.05〜2μm、さらに好ましくは0.07〜1.5μm(特に0.1〜1μm)程度である。
【0086】
不織布の坪量は、例えば、0.1〜50g/m、好ましくは1〜30g/m、さらに好ましくは3〜20g/m(特に5〜15g/m)程度であってもよい。不織布の空隙率は40%以上であってもよく、好ましくは40〜90%、さらに好ましくは50〜80%程度であってもよい。
【0087】
[不織布の製造方法]
本発明の不織布の製造方法は、特に限定されず、慣用の方法、例えば、セルロースナノファイバー及びスペーサ繊維を抄紙する抄紙工程を含む方法で製造できる。抄紙方法は、特に限定されず、慣用の方法、例えば、湿式抄紙又は乾式抄紙などの抄紙により製造できる。湿式抄紙は、慣用の方法で行うことができ、例えば、手抄き抄紙器や多孔板などを備えた湿式抄紙機などを用いて抄紙してもよい。乾式抄紙も、慣用の方法、例えば、エアレイド製法、カード製法などを用いて抄紙することができる。
【0088】
これらのうち、湿式抄紙による抄紙工程を含む製造方法が好ましく、さらに有機溶媒を使用せず、生産性が高く、環境に対する負荷も小さい点から、セルロースナノファイバー及びスペーサ繊維を含む水スラリーを湿式抄紙する抄紙工程を含む製造方法が好ましい。
【0089】
湿式抄紙において、スラリー中における固形分の濃度は、例えば、0.01〜10重量%、好ましくは0.03〜5重量%、さらに好ましくは0.05〜1重量%(特に0.1〜0.5重量%)程度である。
【0090】
得られた抄紙体は、抄紙後、さらに圧縮工程に供してもよい。圧縮工程では、吸引ろ過及び圧縮を行ってシート状に調製してもよい。平滑なシートを成形できる点から、プレス成形が好ましい。さらに、圧縮工程でプレス成形することにより、水スラリーを湿式抄紙する抄紙工程を含む方法であっても、有機溶媒による置換工程を設けることなく、簡便な方法で、湿式抄紙で得られる不織布の透気性を向上できる。水スラリーの水を有機溶媒で置換する工程を含まない方法では、溶媒として水を用いるとともに、有機溶媒で置換する工程を経ずに製造するため、生産性が高く、有機溶媒の使用により環境に負荷を与えることもない。
【0091】
プレス成形において負荷する圧力は、例えば、0.01〜10MPa程度の範囲から選択できるが、例えば、0.03〜5MPa、好ましくは0.05〜1MPa、さらに好ましくは0.1〜0.5MPa程度である。プレス時間は、特に限定されず、例えば、0.1〜100分、好ましくは0.3〜10分、さらに好ましくは0.5〜5分程度である。
【0092】
抄紙体又は圧縮されたシート状成形体は、さらに乾燥工程に供してもよい。乾燥工程では、加熱により乾燥してもよく、スペーサ繊維の種類に応じて、例えば、スペーサ繊維が合成繊維である場合、合成繊維の融点(又は軟化点)以上の温度(例えば、融点よりも0〜50℃高い温度、好ましくは融点よりも0〜30℃高い温度、さらに好ましくは0〜20℃高い温度)で加熱して、合成繊維を融着してもよい。
【実施例】
【0093】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。セルロースナノファイバー及び実施例及び比較例で得られた不織布の評価は以下の方法で測定した。
【0094】
[繊維径]
セルロースナノファイバーについて50000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、撮影した写真上において、写真を横切る任意の位置に2本の線を引き、線と交差する全ての繊維径をカウントして平均繊維径(n=20以上)を算出した。線の引き方は、線と交差する繊維の数が20以上となれば、特に限定されない。
【0095】
[繊維長]
繊維長は、繊維長測定器(カヤーニ社製「FS−200」)を用いて測定した。
【0096】
[シートの平均厚み]
JIS L1085に準拠し、厚み測定器((株)尾崎製作所製「FFA−12」、測定子16mmφ)を用いて、シートの任意の箇所10点を測定し、その平均値を求めた。
【0097】
[空隙率]
厚み、坪量及び真比重に基づいて、空隙率を算出した。
【0098】
[透気度]
JIS P8117に準拠して、ガーレー法で空気100mlが透気する時間を測定した。
【0099】
[引張強度]
JIS P8113に準じて、得られた不織布を幅15mm、長さ250mmの短冊状に裁断してサンプルとし、可変速引張試験機((株)東洋精機製作所製)により、チャック間隔100mm、引張速度20mm/分で、引張強度を測定した。引張強度の測定は、長さ方向(又は縦方向)について行った。
【0100】
実施例1
NBKPパルプ(丸住製紙(株)製、固形分約50重量%、カッパー価約0.3)を用いて、パルプを1重量%の割合で含有するスラリー液を100リットル調製した。次いで、このスラリー液を、ダブルディスクリファイナー(長谷川鉄工(株)製、SUPERFIBRATER 400−TFS)を用いて、クリアランス0.15mm、ディスク回転数1750rpmとして10回叩解処理し、リファイナー処理品を得た。このリファイナー処理品を、破砕型ホモバルブシート(中空円筒状凸部の下流端の内径/リング状端面の厚み=16.8/1)を備えたホモジナイザー(ゴーリン社製、15M8AT)を用いて、処理圧50MPaで50回処理した。得られたセルロースナノファイバーは、平均繊維径48.3nm、平均繊維長172μm、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)3561であった。
【0101】
ポリエチレンパルプ(三井化学(株)製「SWP E620」、平均繊維長1.2mm、CSF360ml、融点135℃)を用いて、固形分が2重量%となるようにスラリー液を100リットル調製した。このスラリー液を、ダブルディスクリファイナー(SUPERFIBRATER 400−TFS)を用いて、クリアランス0.15mm、ディスク回転数1750rpmとして5回叩解処理し、リファイナー処理品を得た。このリファイナー処理品を、破砕型ホモバルブシート(中空円筒状凸部の下流端の内径/リング状端面の厚み=16.8/1)を備えたホモジナイザー(ゴーリン社製、15M8AT)を用いて、処理圧50MPaで20回処理した。得られたミクロフィブリル化ポリエチレン繊維(MF化PE繊維)は、平均繊維径0.7μm、平均繊維長210μm、アスペクト比300であった。
【0102】
得られたセルロースナノファイバー80重量部に対して、得られたMF化PE繊維20重量部を混合したスラリー液を、固形分が0.5重量%となるように希釈し、減圧装置付き抄紙マシーン((株)東洋精機製作所製「標準角型抄紙マシン」、サイズ250mm×20mm)を用いて、No.5C濾紙を濾布として抄紙を行った。得られた湿潤状態の湿紙の両面に、吸い取り紙としてNo.5C濾紙を重ね、0.2MPaの圧力で1分間プレスし、表面温度が135℃に設定されたドラムドライヤ(熊谷理機工業(株)製)に貼り付けて120秒間乾燥及び融着し、不織布を得た。
【0103】
実施例2
セルロースナノファイバーとMF化PE繊維との混合割合を、セルロースナノファイバー50重量部に対して、MF化PE繊維50重量部に変更する以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0104】
実施例3
セルロースナノファイバーとMF化PE繊維との混合割合を、セルロースナノファイバー20重量部に対して、MF化PE繊維80重量部に変更する以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0105】
実施例4
ポリエチレンパルプのミクロフィブリル化処理を、ダブルディスクリファイナーで叩解することなく、通常の非破砕型ホモバルブシート(中空円筒状凸部の下流端の内径/リング状端面の厚み=1.9/1)を備えたホモジナイザー(15M8AT)を用いて、処理圧50MPaで5回処理する以外は実施例1と同様にして不織布を得た。なお、得られたMF化PE繊維は、平均繊維径0.9μm、平均繊維長420μm、アスペクト比467であった。
【0106】
実施例5
ポリエチレンパルプの代わりにポリプロピレンパルプ(三井化学(株)製「SWP Y600」、平均繊維長1.0mm、CSF720ml、融点165℃)を用いて、ディスクリファイナーを用いて、クリアランス0.15mm、ディスク回転数1750rpmとして5回叩解処理した後、通常の非破砕型ホモバルブシート(中空円筒状凸部の下流端の内径/リング状端面の厚み=1.9/1)を備えたホモジナイザー(15M8AT)を用いて、処理圧50MPaで20回処理するとともに、ドラムドライヤの乾燥温度を165℃とする以外は実施例1と同様にして不織布を得た。なお、得られたミクロフィブリルポリプロピレン繊維(MF化PP繊維)は、平均繊維径0.7μm、平均繊維長174μm、アスペクト比249であった。
【0107】
実施例6
ポリエチレンパルプの代わりに原料アラミド繊維(東レ・デュポン(株)製「ケブラーWETタイプ」、繊維長3mm)を用いて、ディスクリファイナーを用いて、クリアランス0.15mm、ディスク回転数1750rpmとして5回叩解処理した後、通常の非破砕型ホモバルブシート(中空円筒状凸部の下流端の内径/リング状端面の厚み=1.9/1)を備えたホモジナイザー(15M8AT)を用いて、処理圧50MPaで10回処理するとともに、ドラムドライヤによる加熱処理を行わない以外は実施例1と同様にして不織布を得た。なお、得られたミクロフィブリルアラミド繊維(MF化アラミド繊維)は、平均繊維径0.6μm、平均繊維長520μm、アスペクト比867であった。
【0108】
比較例1
MF化PE繊維を用いることなく、セルロースナノファイバーのみを抄紙する以外は実施例1と同様にして不織布を得た。
【0109】
比較例2
セルロースナノファイバーを用いることなく、MF化PE繊維のみを抄紙する以外は実施例1と同様にして不織布を得た。
【0110】
実施例及び比較例で得られた不織布の坪量、厚み、透気度を表1に示す。
【0111】
【表1】

【0112】
得られた実施例の不織布が低い透気度を有するのに対して、比較例1の不織布は透気度が高い。さらに、比較例2の不織布は、引張強度が小さく、厚みも大きい。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の不織布は、緻密で、かつ高い透気性を有しているため、各種のセパレータやフィルターなどに利用できるが、薄肉のシート形態において、緻密性と透気性とを両立できるため、電池(リチウム電池、リチウム二次電池、燃料電池、アルカリ二次電池、ニッケル水素二次電池、ニッケル−カドミウム電池、鉛蓄電池など)、コンデンサー、キャパシタなどの蓄電素子のセパレータに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバー及びスペーサ繊維を含む不織布であって、前記スペーサ繊維の平均繊維径が前記セルロースナノファイバーの平均繊維径よりも大きい不織布。
【請求項2】
セルロースナノファイバー及びスペーサ繊維を含む水スラリーを、有機溶媒で置換することなく、湿式抄紙して得られる請求項1記載の不織布。
【請求項3】
スペーサ繊維が平均繊維径2μm以下のポリオレフィン繊維又は芳香族ポリアミド繊維である請求項1又は2記載の不織布。
【請求項4】
セルロースナノファイバーの平均繊維径とスペーサ繊維の平均繊維径との比が、前者/後者=1/2〜1/50である請求項1〜3のいずれかに記載の不織布。
【請求項5】
セルロースナノファイバーが植物由来であり、かつセルロースナノファイバーの平均繊維径が100nm未満であり、平均繊維径に対する平均繊維長の比が1500以上である1〜4のいずれかに記載の不織布。
【請求項6】
セルロースナノファイバーが、原料セルロース繊維を溶媒に分散させて分散液を調製する分散液調製工程、破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーで前記分散液を100MPa以下の圧力でホモジナイズ処理するホモジナイズ工程を含む製造方法で得られる請求項1〜5のいずれかに記載の不織布。
【請求項7】
セルロースナノファイバーと、スペーサ繊維との割合(重量比)が、セルロースナノファイバー/スペーサ繊維=99.9/0.1〜10/90である請求項1〜6のいずれかに記載の不織布。
【請求項8】
厚みが20μm以下である請求項1〜7のいずれかに記載の不織布。
【請求項9】
有機溶媒を含有しない請求項1〜8のいずれかに記載の不織布。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の不織布で形成された蓄電素子用セパレータ。
【請求項11】
セルロースナノファイバー及びスペーサ繊維を抄紙する抄紙工程を含む請求項1〜9のいずれかに記載の不織布の製造方法。
【請求項12】
抄紙工程が、セルロースナノファイバー及びスペーサ繊維を含む水スラリーを湿式抄紙する工程であり、水スラリーの水を有機溶媒で置換する工程を含まない請求項11記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−104142(P2013−104142A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247595(P2011−247595)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】